JP4631481B2 - ポリエステル芯鞘複合繊維 - Google Patents

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本発明は、芯鞘断面構造を有したポリエステル複合繊維に関するものであり、発色性、布帛のソフト性に優れ、且つ高強度なポリエステル芯鞘複合繊維に関するものである。
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルと、トリメチレンテレフタレートを重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート(以下、3GTと称する)は、低弾性率、ソフトな風合い、易染性といった特徴が注目され、近年、その需要が大きく拡大している。しかし、3GT単独の糸では強度の弱い布帛しか得られず、製織編の際、糸に張力が加わると簡単に切れてしまうといった欠点があった。また高強度な糸を得るためには延伸倍率を高くすれば良いことは一般に知られているが、高延伸倍率では伸度が低下するため、発色性が悪くなってしまう。このように3GT単独では、発色性、ソフト性良好且つ高強度なものは得られなかった。そこでポリトリメチレンテレフタレート単独糸の欠点を補うために、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)と、3GTとの芯鞘型複合繊維の開発が進められており、公知技術として知られている。例えば芯部にPETを配し、鞘部に3GTを配することによる、強度及び弾性率の補強について開示している(特許文献1参照)。しかしながら、これでは強度の補強と共に弾性率もPETライクとなってしまい、このため発色性、ソフト感がPET同等のものとなり、3GT特有の発色性及びソフト性を両立しながら強度(タフネス)を後加工に良好な領域まで高めることが出来なかった。更に遮光性良好な繊維を得るために芯部に高濃度の金属酸化物を添加したPETを使用することを開示している(特許文献2参照)。しかしこれも同様に、3GTの特性を半減させてしまい、発色性ではもの足りなくなってしまう。また、公知技術のようにPETと3GTの極限粘度差が小さい場合、布帛のソフト性が失われやすいという欠点があった。
特開平11−93021号公報(特許請求の範囲) 特開平11−81048号公報(特許請求の範囲)
本発明は、布帛の発色性、ソフト性に優れ、且つ高強度なポリエステル芯鞘複合繊維を提供するものである。
本発明は上述した従来技術では解決できなかった課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、
(1)テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分とするポリエステルAを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分とし、エチレングリコールをグリコール成分とするポリエステルBを鞘部に配した、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有し、芯部に配するポリエチレンテレフタレートの極限粘度が0.40〜0.68の複合繊維であって、芯部に配するポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、鞘部に配するポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度が高く、且つその差が0.4〜1.0であることを特徴とするポリエステル芯鞘複合繊維である。
(2)初期引張抵抗度が20〜40cN/dtexであり、強伸度積が5.0〜6.0cN/dtexであることを特徴とする(1)記載のポリエステル芯鞘複合繊維である。
本発明により、従来成し得なかった、発色性、布帛のソフト性に優れ、且つ高強度なポリエステル芯鞘複合繊維を提供できる。
本発明のポリエステル芯鞘複合繊維は同心円芯鞘断面形状を有しており、芯部に配するPETは90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、たとえばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
また鞘部に配する3GTは90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリトリメチレンテレフタレートである。ポリトリメチレンテレフタレートとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、たとえばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
芯部に配するPETの極限粘度に対し、鞘部に配する3GTの極限粘度を高くし、その極限粘度差は0.4〜1.0である必要がある。極限粘度差が規定の範囲以下では、PETの粘度を高くした場合、一般に粘度に合わせ紡糸温度も高く設定する必要があり、高い紡糸温度では3GTの熱劣化が進み、紡糸糸切れの発生はもちろん、低強度糸や更には3GT熱劣化による発色性、ソフト性の低下が起こるため好ましくない。また3GTの粘度を低くした場合は、発色性、ソフト性といった3GTの特性が発揮されないため好ましくない。極限粘度差の範囲として好ましくは0.5以上である。一方、極限粘度差が規定の範囲以上では、PETの粘度を低くした場合、PETの強度補強効果が失われ、低強度糸となるため好ましくなく、また3GTの粘度を高くした場合には、製糸そのものが困難となるため好ましくない。極限粘度差の範囲として好ましくは0.8以下である。
初期引張抵抗度は20〜40cN/dtexであることが好ましい。初期引張抵抗度が20cN/dtex以上であると、PETによる強度補強がより効果的になるため好ましい。より好ましくは25cN/dtex以上である。また初期引張抵抗度が40cN/dtex以下であると、3GT特有の発色性、ソフト性がより発揮されるため好ましい。より好ましくは38cN/dtex以下である。
強伸度積は5.0〜6.0cN/dtexであることが好ましい。強伸度積が5.0cN/dtex以上であると、PETによる強度補強がより効果的になるため好ましい。より好ましくは5.1cN/dtex以上である。また強伸度積が6.0cN/dtex以下であると、3GT特有の発色性、ソフト性がより発揮されるため好ましい。より好ましくは5.8cN/dtex以下である
本発明のポリエステル芯鞘複合繊維において、3GT特有の発色性及びソフト性を損なわないためには、芯部と鞘部の重量比が20:80〜55:453GTの極限粘度が0.80〜1.68の範囲が適当であり、PETの極限粘度は0.40〜0.68とする必要がある。また本発明のポリエステル芯鞘複合繊維の収縮特性においては、沸騰水収縮率で7〜20%、160℃乾熱収縮率で10〜20%、熱収縮応力ピーク値で0.1〜0.4cN/dtexの範囲が適当である。
本発明のポリエステル芯鞘複合繊維は、いずれの公知の方法においても製造されるが、複合構造の安定性、生産性を考慮すると、溶融紡糸法が最も優れている。該複合繊維を溶融紡糸する上では、芯部となるPETは、260〜300℃にて溶融されるのが好ましい。溶融するに際し、プレッシャーメルター法およびエクストルーダー法が挙げられるが、均一溶融と滞留防止の観点からエクストルーダーによる溶融が好ましい。
また、鞘部となる3GTは、PETと同様にエクストルーダーを用い、240〜280℃での溶融が好ましい。別々に溶融されたポリマーは別々の配管を通り、計量された後、口金パックへ流入する。この際、熱劣化を抑制する観点から、配管通過時間が5〜30分であることが好ましい。パックへ流入したポリマーは口金により合流され、公知の技術により同心円芯鞘型の形態に複合され口金より吐出される。この際のポリマー温度は、263〜280℃が適当である。この範囲であれば、生産性の低下や熱劣化による発色性やソフト感の低下を防止できる。
口金から吐出されたポリマーは冷却、固化され、油剤が付与された後、引き取られる。引き取り速度は500〜6000m/分のいずれの速度においても可能である。2工程法と呼ばれる未延伸糸を一旦巻き取って後、延伸を行う方法においては、引き取り速度は500〜2000m/分で行うのが定法である。また、4000m/分までの領域で引き取り、部分配向糸を一旦巻き取って後、延伸を行っても良い。部分配向糸を得る際には巻き取る前に、熱処理を行い、熱による結晶化を促進させたのち巻き取る方法が均一な諸物性を得るうえで好ましい。一方、1工程法では、4000〜6000m/分の速度で一気に延伸糸を得る方法が挙げられる。この際も、巻取り前に熱処理を行うことが効果的である。さらに、直接紡糸延伸法と呼ばれる方法も挙げられる。この方法は、500〜4000m/分の未延伸糸または部分配向糸領域において引き取り、一旦巻き取ることなく、予熱、延伸、熱処理を行い延伸糸とした後巻き取る方法である。以上挙げた紡糸、延伸方法においては、延伸倍率は延伸糸伸度が目標とした値となるように適宜設定するのが良い。また、紡糸、延伸いずれかの工程において、巻取りまでで公知の交絡装置を用い、交絡を施すことも可能である。必要であれば複数回付与することで交絡数を上げることが可能となる。さらには、巻取直前に、追加で油剤を付与するのも良い。
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
極限粘度[η]は、次の定義式に基づいて求められる値である。
Figure 0004631481
定義式のηrは、純度98%以上のO−クロロフェノールで溶解した3GTの希釈溶液の25℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶剤自体の粘度で割った値であり、相対粘度と定義されているものである。また、cは上記溶液100ml中のグラム単位による溶質重量値である。
(2)溶融粘度
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下において温度280℃、剪断速度6080(1/sec)での測定を3回行い、その平均値を溶融粘度とした。
(3)初期引張抵抗度、強度、伸度
JIS L1013(1999)に従い測定した。
(4)強伸度積
強伸度積(cN/dtex)=強度(cN/dtex)×(1+(伸度(%)/100))
(5)沸騰水収縮率
沸騰水収縮率(%)=((L0−L1)/L0)×100
L0:原糸をかせ取りし、測定荷重0.029cN/dtexでのかせ長
L1:原糸を無荷重の状態で100℃の沸騰水にて15分間処理し、風乾後、測定荷重0.029cN/dtexを掛けたときのかせ長
(6)発色性
本発明のポリエステル芯鞘複合繊維(サンプルA)とPET単独糸(サンプルB)のサンプルを筒編みし、染料としてテトラシールネイビーブルーSGL0.275%owf、助剤としてテトロシンPE−C5.0%owf、分散剤としてニッカサンソルト#12001.0%owfを用い、浴比1:100にて50℃15分、さらに90℃20分にて染色を行った。染色後の、サンプルA、B間の染色差を総合的に官能検査し3段階評価した。尚、○以上を合格とした。PET単独糸は84dtex−48fフィラメント(フィラメント(以下fと略す))のものを使用した。
○○:非常に優れている
○ :優れている
× :PET同等(発色性向上は無し)
(7)ソフト性
本発明のポリエステル芯鞘複合繊維を布帛にし、10人のパネラーに触らせ、ソフト性良好か否かを評価した。なお、評価基準は下記の通りとした。尚、○以上を合格とした。布帛は本発明のポリエステル芯鞘複合繊維(84dtex−48f)を緯糸とし、PET単独糸(33dtex−12f)を経糸として、緯織密度95本/インチ、経織密度138本/インチのものを使用した。
○○ :非常に良好
○ :良好
× :PET同等
(8)布帛毛羽評価
(6)記載の布帛を検反し、100疋中毛羽の存在する布帛数を下記評価基準にて3段階評価とした。尚、○以上を合格とした。
○○ :0〜3疋
○ :4〜6疋
× :7疋以上
実施例1
極限粘度0.51のPETと極限粘度1.13の3GTをそれぞれエクストルーダーを用い、それぞれ285℃、260℃にて溶融後、ポンプによる計量を行い、ポリマー温度270℃にて同心円芯鞘断面形状を形成すべく公知の口金に流入させた。複合比はPET:3GT=30:70の割合とした。各ポリマーの配管通過時間は、PETが12分、3GTは5分であった。口金から吐出された糸条は、冷却、油剤付与後、1600m/分の速度で55℃に加熱された第1ホットローラーに引き取られ、一旦巻き取ることなく、4050m/分の速度で155℃に加熱された第2ホットローラーに引き回し、延伸、熱セットを行った。さらに、4000m/分にて2個のゴデットローラーを引き回した後、3970m/分にて巻き取り、84dtex―48fのポリエステル芯鞘複合糸を得た。巻取機入口での張力は0.15cN/dtexであった。物性および風合い評価の結果は表1の通りであり、発色性、ソフト性に優れたものであり、布帛の毛羽評価も良好であった。
実施例2
複合比はPET:3GT=50:50の割合とした以外は、実施例1と同様の条件にて製糸し、84dtex―48fのポリエステル芯鞘複合糸を得た。物性および風合い評価の結果は表1の通りであり、実施例1にはやや劣るものの発色性、ソフト性に優れたものであり、布帛の毛羽評価も良好であった。
実施例3
極限粘度0.62のPETを用い、極限粘度差を0.51とし、ポリマー温度を275℃とした以外は、実施例1と同様の条件にて製糸し、84dtex―48fのポリエステル芯鞘複合糸を得た。物性および風合い評価の結果は表1の通りであり、実施例1にはやや劣るものの、発色性、ソフト性に優れたものであり、布帛の毛羽評価も良好であった。
比較例1
極限粘度0.62のPET、極限粘度0.75の3GTを用い、ポリマー温度を275℃とした以外は、実施例2と同様の条件にて製糸し、84dtex―48fのポリエステル芯鞘複合糸を得た。物性および風合い評価の結果は表1の通りであり、布帛の毛羽評価は良好であったものの、ソフト感、染色均一性、発色性何れも満足できるものではなかった。
比較例2
極限粘度1.13の3GTを単独で紡出した以外は実施例1と同様の条件にて製糸し84dtex―48fの3GT単独糸を得た。物性および風合い評価の結果は表1の通りであり、初期引張抵抗度が低く、ソフト性に優れていた他、発色性にも優れていたが、強度が低く満足できるものではなく、布帛の毛羽評価においても芯鞘型に対し劣位であった。
Figure 0004631481
本発明にて得られたポリエステル芯鞘複合繊維は高強度であるため、衣料用の他、産業用にも好適であり、特有のソフト感や発色性、均一な染色性が生み出す均一な表面感が得られる。
適用できる用途はこれに限ったことではなく、綿などの天然繊維との交織、交編が可能であり、各種織編物のほか、資材用途にも適用可能である。また本発明は、細繊度多フィラメントに限らず太繊度寡フィラメントやモノフィラメントにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。

Claims (2)

  1. テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配した、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有し、芯部に配するポリエチレンテレフタレートの極限粘度が0.40〜0.68の複合繊維であって、芯部に配するポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、鞘部に配するポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度が高く、且つその差が0.4〜1.0であることを特徴とするポリエステル芯鞘複合繊維。
  2. 初期引張抵抗度が20〜40cN/dtexであり、強伸度積が5.0〜6.0cN/dtexであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル芯鞘複合繊維。
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