JP4615831B2 - ビスフェノールaの製造におけるフェノールの回収方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕の製造におけるフェノールの回収方法に関し、詳しくは、ビスフェノールAの工業的製造工程において、強酸性イオン交換樹脂を洗浄した後のフェノール溶液から、ビスフェノールAの品質に悪影響を与えることなく、再利用可能なフェノールを回収する方法に関する。また、回収したフェノールを再利用するフェノールのリサイクル方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂などのエンジニアリングプラスチック、あるいはエポキシ樹脂などの原料として重要な化合物であることが知られており、近年その需要はますます増大する傾向にある。
このビスフェノールAの製造には、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂が触媒として用いられており、このような触媒を用いたビスフェノールAの製造例としては、ピリジンアルカンチオールにより部分的に変性されたスルホン酸系陽イオン交換樹脂の存在下にフェノール類とケトンを縮合させる方法が開示されており、好ましい変性率は2〜20%であるとされている(例えば、特許文献1参照)。また、含イオウアミン化合物としてピリジンアルカンチオール類を用い、アセトンを少なくとも2つの反応帯域に分割することにより、良好な選択率でビスフェノールAを製造する方法が開示されており、変性率は2〜40%、好ましくは3〜30%であることも開示されている(例えば、特許文献2参照)。
含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂から、イオウあるいは窒素を含む不純物が流出すると、製品の品質が悪化するため、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂をフェノールで洗浄した後に反応を開始するが、洗浄に使用したフェノールを回収する方法は、これまで提案されていない。
【0003】
【特許文献1】
特開昭57−35533号公報
【特許文献2】
特開平11−246458号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、強酸性イオン交換樹脂を洗浄した後のフェノール溶液から、ビスフェノールAの品質に悪影響を与えることなく、再利用可能なフェノールを回収する方法、及び回収したフェノールを再利用するフェノールのリサイクル方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ビスフェノールAの製造において、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂をフェノールで洗浄して得られたフェノール溶液を蒸留処理することにより、上記目的が達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂をフェノールで洗浄した後に触媒とし、該触媒の存在下でフェノールとアセトンを縮合反応させ、その反応生成液を減圧蒸留することにより塔頂留分とビスフェノールAを含む塔底留分に分離させ、該塔底留分を濃縮した液を晶析し、該晶析物からビスフェノールAを回収するビスフェノールAの製造において、上記含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂を洗浄後のフェノール溶液中の窒素濃度が0.01〜5質量ppmとなるまで洗浄した後、洗浄後のフェノール溶液を蒸留処理してフェノールを回収することを特徴とするフェノールの回収方法を提供するものである。また、本発明は、回収したフェノールを上記縮合反応の原料としてあるいは上記晶析の際の結晶洗浄液として使用する、フェノールのリサイクル方法を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明において、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂における含イオウアミン化合物としては、3−メルカプトアミノピリジン等のメルカプトアミノピリジン類、2−メルカプトエチルアミン等のメルカプトアルキルアミン類、2,2−ジメチルチアゾリジン等のチアゾリジン類、4−アミノチオフェノール等のアミノチオフェノール類、4−ピリジンエタンチオール等のピリジンアルカンチオール類などが挙げられる。このなかで、4−ピリジンエタンチオール、2,2−ジメチルチアゾリジン及び2−メルカプトエチルアミンが好ましい。
強酸性イオン交換樹脂としては、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノールホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼンホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂等のスルホン酸型イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0007】
上記含イオウアミン化合物を用いて、強酸性イオン交換樹脂を部分変性する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば適当な溶媒、好ましくは水などの水性溶媒中において、強酸性イオン交換樹脂と含イオウアミン化合物を、所望の変性率になるように反応させることによって、変性することができる。反応は常温で行ってもよく、必要ならば加温して行ってもよい。この反応により、イオン交換基(スルホン酸型イオン交換樹脂においてはスルホン酸基)と含イオウアミン化合物の中のアミノ基とが反応し、イオン交換基の一部にイオウ含有基が導入され、変性される。
ここで、強酸性イオン交換樹脂の「変性率」とは、強酸性イオン交換樹脂の強酸性イオン交換基の含イオウアミン化合物によるモル変性率を意味する。本発明において、含イオウアミン化合物による強酸性イオン交換樹脂の変性率は5〜50%が好ましく、8〜35%がより好ましい。この変性率が5%未満あるいは50%を超えると、ビスフェノールAの収率が低下するおそれがある。
【0008】
本発明のフェノールの回収方法においては、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂(以下、単にイオン交換樹脂ということがある。)を、反応開始前にフェノールで洗浄する。洗浄は、連続式あるいは回分式で行い、洗浄後のフェノール溶液中の窒素濃度が0.01〜5質量ppmとなるまで行うことが好ましい。洗浄後のフェノール溶液中の窒素濃度が高すぎると、ビスフェノールAの品質が悪化する。また、低すぎる窒素濃度となるような多量のフェノールを用いると、洗浄に要する時間が増加し、また、経済的にも不利になる。
連続式で洗浄を行う場合、LHSV(液空間速度)は、通常0.02〜10hr-1、好ましくは0.05〜5hr-1である。LHSVが0.02hr-1未満であると、時間がかかり効率が悪くなるおそれがあり、10hr-1を超えると、多量のフェノールが必要となるおそれがある。洗浄温度は45〜110℃が好ましく、55〜85℃がより好ましい。洗浄温度が高すぎるとイオン交換樹脂の分解が進んでしまい、洗浄温度が低すぎるとフェノールが固化するおそれがある。
【0009】
本発明に係るビスフェノールAの製造においては、上述のようにフェノールで洗浄された、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂を触媒として用い、この触媒の存在下で、フェノールとアセトンを反応塔内で縮合反応させて反応生成液を得る。反応方法は特に限定されないが、固定床連続反応や回分反応が好ましい。固定床連続反応では原料混合物のLHSV(液空間速度)は、通常0.2〜30hr-1、好ましくは0.5〜20hr-1の範囲である。反応温度は50〜100℃、好ましくは60〜90℃、フェノール/アセトン比は4〜30(モル比)、好ましくは6〜20(モル比)である。
上記縮合反応により得られた反応生成液を減圧蒸留することにより、反応塔の塔頂から、未反応アセトン、副生水及び一部フェノールが除去された塔頂留分が得られ、反応塔の塔底から、ビスフェノールAとフェノールを含む塔底留分が得られる。反応生成液の減圧蒸留条件は、圧力6.7〜80.0kPa、温度70〜180℃が好ましい。
【0010】
ビスフェノールAとフェノールを含む上記塔底留分は、これを濃縮することによりビスフェノールAの濃度を高くした濃縮液とし、この濃縮液からビスフェノールAを晶析させる。塔底留分の濃縮は、蒸留によって過剰のフェノールを留去することにより行うことができ、ビスフェノールAの濃度が20〜50質量%となるように濃縮することが好ましい。この濃度が20質量%よりも低いとビスフェノールAの回収率が低くなり、また、この濃度が50質量%よりも高いと、晶析後のスラリーの移送が困難となる。晶析は、上記濃縮液を40〜70℃に冷却することにより行うことができる。晶析によりビスフェノールAとフェノールとの付加物が結晶として得られ、ろ過又は遠心ろ過などの方法によりこの付加物が上記濃縮液から分離される。
分離されたビスフェノールAとフェノールとの付加物を、100〜200℃で加熱溶融し、減圧蒸留することにより、この付加物からフェノールを除去する。蒸留は、圧力1.3〜13.3kPa、温度150〜190℃で行うことが好ましい。また、スチームトリッピングにより、ビスフェノールAとフェノールとの付加物からフェノールを除去してもよい。
フェノールが除去された溶融状態のビスフェノールAは、一般的な造粒装置により液滴にされ、冷却固化されて製品となる。
【0011】
反応開始前に、含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂フェノールで洗浄して得られたフェノール溶液を減圧蒸留することにより、フェノールを回収することができる。減圧蒸留条件は、圧力5.3〜66.7kPa、温度100〜170℃が好ましく、圧力7〜50kPa、温度120〜150℃がより好ましい。
この減圧蒸留は、1本の蒸留塔を使用して、条件を変えて各成分を分けてもよく、数本の蒸留塔を使用して、各成分を分けてもよい。フェノール溶液の蒸留は、上記反応生成液を減圧蒸留することにより得られた塔頂留分とともに蒸留することが、蒸留塔の有効利用の点から好ましい。
洗浄後のフェノール溶液の蒸留を、上記塔頂留分とともに行う場合、このフェノール溶液と塔頂留分との混合は連続で行ってもよく、非連続で行ってもよい。洗浄後のフェノール溶液と塔頂留分との混合比は、特に限定されるものではない。また、フェノール溶液と塔頂留分との混合物を蒸留処理する前に、この混合物を40〜80℃、好ましくは50〜70℃に加熱してアセトンを除去することが、アセトンの回収及び有効利用の点から好ましい。
洗浄後のフェノール溶液から、あるいはこのフェノール溶液と塔頂留分との混合物から回収されたフェノールは、蒸留により水分を除去するかあるいは蒸留により精製することが好ましい。これの操作の後、さらにイオン交換樹脂により精製してもよい。この場合、イオン交換樹脂としては、酸型イオン交換樹脂を用いることができる。
回収されたフェノールは、フェノールのアセトンとの縮合反応の原料として用いることができる。また、晶析の際に結晶として得られるフェノールAとフェノールとの付加物の洗浄液として使用することができる。
【0012】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
内径13mm、高さ900mmの充填層式反応器に、水膨潤の4−ピリジンエタンチオールで17%変性した強酸性イオン交換樹脂74ミリリットルを充填した。このイオン交換樹脂を、温度60℃に保ちながら300ミリリットルの水で洗浄した後、フェノール300ミリリットルで洗浄し、洗浄後のフェノール溶液をフラスコに回収した。このフェノール溶液中には、水11質量%、イオウ分3.5質量ppm、窒素分0.8質量ppmが含まれていた。このフェノール溶液を常圧で加熱して水を除去した。
次に、170℃、減圧(66kPa)にてフェノール溶液中のフェノールを回収した。回収したフェノール中には水が1000質量ppm含まれていたが、イオウ分及び窒素分は全く含まれていなかった。
上記充填層式反応器の入口より、フェノール/アセトン比14(モル比)、液空間速度6h-1の条件で80℃で反応を行った。アセトンの転化率は95%であった。
170℃、減圧にて、反応生成液から未反応アセトン、生成水及び一部フェノールを留去し、塔頂留分と塔底留分とに分離した。塔底留分を、154℃で減圧蒸留することにより、過剰フェノールを留去し、ビスフェノールAの濃度を40質量%とし、この濃縮液を43℃で冷却し、晶析してビスフェノールAとフェノールとの付加物を得た。ビスフェノールAの色相評価は、空気雰囲気下に、260℃で10分間放置した後の色相を判定した。色相の判定は、APHA標準液を用いて目視で行った。色相は10(APHA)であった。
【0013】
実施例2
実施例1における洗浄後のフェノール溶液から回収したフェノールと、アセトンを反応原料として用いた以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は10(APHA)であった。
【0014】
実施例3
実施例1において得られた塔頂留分と、実施例1における洗浄後のフェノール溶液を質量比1:1で混合し、常圧で110℃に加熱することにより、この混合物からセアセトン及び水を除去した。次に、170℃、減圧にてフェノールを回収し、スルホン酸型陽イオン交換樹脂により精製した。精製したフェノールと、アセトンを反応原料として用いた以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は10(APHA)であった。
【0015】
比較例1
実施例1おける洗浄後のフェノール溶液から水分だけを除去したフェノールと、アセトンを反応原料として用いた以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は25(APHA)であった。
【0016】
比較例2
実施例1における反応生成液と、実施例1における洗浄後のフェノール溶液を質量比1:1で混合し、170℃、減圧にて未反応アセトン、水及び一部フェノールを留去し、塔頂留分と塔底留分とに分離した。この塔底留分を実施例1と同様に処理してビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は35(APHA)であった。
【0017】
実施例4
内径13mm、高さ900mmの充填層式反応器に、2,2−ジメチルチアゾリジンで23%変性した強酸性イオン交換樹脂74ミリリットルを充填した。このイオン交換樹脂を、温度60℃に保ちながら300ミリリットルの水で洗浄した後、フェノール300ミリリットルで洗浄し、洗浄後のフェノール溶液をフラスコに回収した。このフェノール溶液中には、水11質量%、イオウ分3.6質量ppm、窒素分0.7質量ppmが含まれていた。このフェノール溶液を常圧で加熱して水を除去した。
次に、170℃、減圧(66kPa)にてフェノール溶液中のフェノールを回収した。回収したフェノール中には水が1000質量ppm、イオウ分0.2質量ppm及び窒素分0.1質量ppmが含まれていた。
上記充填層式反応器の入口より、フェノール/アセトン比10(モル比)、液空間速度6h-1の条件で80℃で反応を行った。アセトンの転化率は65%であった。次いで、実施例1と同様に反応生成液を処理してビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は10(APHA)であった。
【0018】
実施例5
実施例4における洗浄後のフェノール溶液から回収したフェノールと、アセトンを反応原料として用いた以外は、実施例4と同様にしてビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は10(APHA)であった。
【0019】
実施例6
実施例4において得られた塔頂留分と、実施例4における洗浄後のフェノール溶液を質量比1:1で混合し、常圧で110℃に加熱することにより、この混合物からアセトン及び水を除去した。次に、170℃、減圧にてフェノールを回収し、スルホン酸型陽イオン交換樹脂により精製した。精製したフェノールと、アセトンを反応原料として用いた以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は10(APHA)であった。
【0020】
比較例3
実施例4おける洗浄後のフェノール溶液から水分だけを除去したフェノールと、アセトンを反応原料として用いた以外は、実施例4と同様にしてビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は25(APHA)であった。
【0021】
比較例4
実施例4における反応生成液と、実施例4における洗浄後のフェノール溶液を質量比1:1で混合し、170℃、減圧にて未反応アセトン、水及び一部フェノールを留去し、塔頂留分と塔底留分とに分離した。この塔底留分を実施例4と同様に処理してビスフェノールAを製造した。得られたビスフェノールAの色相は35(APHA)であった。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、ビスフェノールAの工業的製造工程において、強酸性イオン交換樹脂を洗浄した後のフェノール溶液から、ビスフェノールAの品質に悪影響を与えることなくフェノールを回収することができる。
Claims (6)
- 含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂をフェノールで洗浄した後に触媒とし、該触媒の存在下でフェノールとアセトンを縮合反応させ、その反応生成液を減圧蒸留することにより塔頂留分とビスフェノールAを含む塔底留分に分離させ、該塔底留分を濃縮した液を晶析し、該晶析物からビスフェノールAを回収するビスフェノールAの製造において、上記含イオウアミン化合物で部分的に変性された強酸性イオン交換樹脂を洗浄後のフェノール溶液中の窒素濃度が0.01〜5質量ppmとなるまで洗浄した後、洗浄後のフェノール溶液を蒸留処理してフェノールを回収することを特徴とするフェノールの回収方法。
- 洗浄後のフェノール溶液の蒸留処理を、反応生成液を減圧蒸留することにより得られた塔頂成分とともに行ってフェノールを回収する請求項1に記載の回収方法。
- 蒸留処理の前に、洗浄後のフェノール溶液と、反応生成液を減圧蒸留することにより得られた塔頂成分とを加熱してアセトンと水を除去する請求項2に記載の回収方法。
- 含イオウアミン化合物が、2,2−ジメチルチアゾリジン、2−アミノエタンチオール及び4−ピリジンエタンチオールから選ばれる一種又は二種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方法により回収したフェノールを、請求項1〜4のいずれかに記載の縮合反応の原料として使用するフェノールのリサイクル方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方法により回収したフェノールを、請求項1〜4のいずれかに記載の晶析の際の結晶洗浄液として使用するフェノールのリサイクル方法。
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