JP2004149510A - ビスフェノールaの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】色相の良好な高品質のビスフェノールAの製造方法を提供すること。
【解決手段】酸性触媒の存在下、過剰のフェノールとアセトンを縮合させて得られた反応混合液の後処理工程において、(A)酸性触媒の存在下、過剰のフェノールとアセトンを縮合させて得られた反応混合液を得る工程と、(B)反応混合液を濃縮する工程との間にフィルターによるろ過工程を設け、かつビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程と、この溶液から当該付加物を晶析・分離する工程の間の少なくとも一つに、フィルターによるろ過工程を設ける。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕の製造方法の改良に関し、さらに詳しくは、色相の良好な高品質のビスフェノールAを効率良く製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂などのエンジニアリングプラスチック、あるいはエポキシ樹脂などの原料として重要な化合物であることが知られており、近年その需要はますます増大する傾向にある。
このビスフェノールAは、酸性触媒及び場合により用いられる硫黄化合物などの助触媒の存在下に、過剰のフェノールとアセトンとを縮合させることにより製造される。
この反応において用いられる酸触媒としては、従来、硫酸や塩化水素などの無機鉱酸が用いられていたが、近年、陽イオン交換樹脂が注目され、工業的に用いられるようになった。
【0003】
一方、助触媒として用いられる硫黄化合物としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、チオグリコール酸などの置換基を有する若しくは有しないアルキルメルカプタン類が有効であることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。このメルカプタン類は、反応速度を上げるとともに、選択率を向上させる作用を有している。例えば、ビスフェノールAの製造において、反応副生物として、主に2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(o,p′−体)が生成し、その他トリスフェノール、ポリフェノールなどが生成する。特に、ポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂などの原料として用いる場合、これらの副生物の含有量が少なく、着色のない高純度のビスフェノールAが要求される。このため、反応速度を上げるとともに、上記副生物の生成を抑え、選択率を高めるために、助触媒としてメルカプタン類が用いられる。
【0004】
ところで、酸は、高温条件下においてビスフェノールAをフェノールとイソプロペニルフェノールに分解するなど、触媒作用を有していることが知られている。この代表的な酸としては、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いたビスフェノールAの製造におけるスルホン酸が挙げられる。このスルホン酸は、120℃以上の高温下で、鉄とビスフェノールAと反応することにより、黒色固形のスルホン酸含有重質物(以下、夾雑物と称すことがある。)を生成する。特に水の存在下では、この夾雑物の生成が加速される。製品ビスフェノールAの色相を良好なものにするためには、この夾雑物を効果的に取り除くことが必要である。特に近年、光学用途の需要が増大しているポリカーボネート樹脂の原料としては、従来以上に無色で高純度のビスフェノールAが要求されている。
【0005】
上記夾雑物を取り除くためには、フィルターを設置することが有効である。この夾雑物は、フェノールとアセトンを縮合させたのち、反応液処理の後工程として施される低沸点物除去工程及び濃縮工程で生成することが多く、したがって、フィルター設置は夾雑物生成後の工程に行うことが肝要であるが、生成後の流体温度の高い工程に設置すると夾雑物を取り除く前に、ビスフェノールAの分解が起こるために好ましくない。また、流体温度が高い工程では、流体の融点が高くて凝固しやすいため、ハンドリング面において煩雑な操作が必要となる。したがって、流体温度が低い工程にフィルターを設置することが肝要であり、また、可及的速やかに夾雑物を取り除くことにより、製造プロセス内への夾雑物の拡散防止を図ることができ、製品ビスフェノールAの色相を向上させることができる。
【0006】
ビスフェノールAの製造において、フィルターを設ける技術としては、例えばビスフェノールAの製造プロセス中に焼結金属製フィルターを設置することにより、不純物微粒子を微量しか含まないビスフェノールAの製造方法(例えば、特許文献3参照)、フッ素樹脂製メンブレンフィルターを採用し、不純物微粒子を低減させたビスフェノールAの製造方法(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、これらの方法においては、フィルターの設置場所が、前記で説明したような理由により好ましい場所とはいえず、製品ビスフェノールAの色相については、必ずしも満足し得るものではない。
【0007】
さらに、反応工程出口、低沸点物除去工程出口及び加熱溶融工程出口の少なくとも1箇所にグラスファイバー製フィルターを設置することにより、フェノール含有量の少ないビスフェノールAを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、このフィルター設置場所について、反応工程出口及び低沸点物除去工程出口では、スルホン酸含有物質を完全に捕捉することが不可能であり、捕捉できなかったスルホン酸含有物質は、120℃以上の高温下で、鉄とビスフェノールAと反応し、スルホン酸含有重質物を生成する。このスルホン酸含有重質物は、後工程での高温条件下でビスフェノールAを分解する触媒となり、製品ビスフェノールAの色相を悪化させる。したがって、加熱溶融工程出口では溶融操作において高温条件となっているため、一部が分解されると考えられる。また、流体温度が高く、ハンドリングの面において、フィルター清掃作業などが困難であり、フィルターの仕様においても耐熱性が要求される。以上より、上記3箇所については、最適なフィルター設置場所とは考えにくい。
【0008】
【特許文献1】
米国特許第2359242号明細書(第1−5頁)
【特許文献2】
米国特許第2775620号明細書(第1−8頁)
【特許文献3】
特開平11−180920号公報(第1−12頁)
【特許文献4】
特開平8−325184号公報(第1−6頁)
【特許文献5】
特開2000−327614号公報(第1−6頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況下で、色相の良好な高品質のビスフェノールAを効率良く製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、酸触媒の存在下、フェノールとアセトンを縮合させて得られた反応混合液をろ過する工程を設けるとともに、その後処理工程において、ビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程と、この溶液から当該付加物を晶析・分離する工程の間の少なくとも一つに、フィルターによるろ過工程を設けることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)酸性触媒の存在下、過剰のフェノールとアセトンを縮合させてビスフェノールAを生成させ、反応混合液を得る工程、(B)反応混合液を濃縮する工程、(C)上記(B)工程で得られた濃縮残液からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析・分離する工程、(D)上記(C)工程で晶析・分離されたビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程、(E)上記(D)工程で得られた溶液からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析・分離し、場合により、さらに当該付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解したのち、晶析・分離する操作を1回以上繰り返す工程及び(F)上記(E)工程で晶析・分離されたビスフェノールAとフェノールとの付加物を加熱溶融後、フェノールを留去させる工程を必須工程として行うビスフェノールAの製造方法において、(A)工程と(B)工程のとの間にフィルターによるろ過工程を設け、かつ上記ビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程と、この溶液から当該付加物を晶析・分離する工程の間の少なくとも一つに、フィルターによるろ過工程を設けることを特徴とするビスフェノールAの製造方法を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のビスフェノールAの製造方法の(A)工程においては、酸性触媒の存在下、過剰のフェノールとアセトンを縮合させて、ビスフェノールAを生成させる。上記酸性触媒としては、酸型イオン交換樹脂を用いることができる。この酸型イオン交換樹脂としては、特に制限はなく、従来ビスフェノールAの触媒として慣用されているものを用いることができるが、特に触媒活性などの点から、スルホン酸型陽イオン交換樹脂が好適である。
【0013】
該スルホン酸型陽イオン交換樹脂については、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂であればよく特に制限されず、例えばスルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノールホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼンホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の方法においては、上記酸型イオン交換樹脂と共に、通常助触媒として、メルカプタン類が併用される。このメルカプタン類は、分子内にSH基を遊離の形で有する化合物を指し、このようなものとしては、アルキルメルカプタンや、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基などの置換基一種以上を有するアルキルメルカプタン類、例えばメルカプトカルボン酸、アミノアルカンチオール、メルカプトアルコールなどを用いることができる。このようなメルカプタン類の例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸などのチオカルボン酸、2−アミノエタンチオールなどのアミノアルカンチオール、メルカプトエタノールなどのメルカプトアルコールなどが挙げられるが、これらの中で、アルキルメルカプタンが助触媒としての効果の点で、特に好ましい。また、これらのメルカプタン類は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのメルカプタン類は、前記酸型イオン交換樹脂上に固定化させ、助触媒として機能させることもできる。
【0015】
前記メルカプタン類の使用量は、一般に原料のアセトンに対して、0.1〜20モル%、好ましくは、1〜10モル%の範囲で選定される。
また、フェノールとアセトンとの使用割合については特に制限はないが、生成するビスフェノールAの精製の容易さや経済性などの点から、未反応のアセトンの量はできるだけ少ないことが望ましく、したがって、フェノールを化学量論的量よりも過剰に用いるのが有利である。通常、アセトン1モル当たり、3〜30モル、好ましくは5〜15モルのフェノールが用いられる。また、このビスフェノールAの製造においては、反応溶媒は、反応液の粘度が高すぎたり、凝固して運転が困難になるような低温で反応させる以外は、一般に必要ではない。
【0016】
本発明におけるフェノールとアセトンとの縮合反応は、回分式及び連続式のいずれであってもよいが、酸型イオン交換樹脂を充填した反応塔に、フェノールとアセトンとメルカプタン類(メルカプタン類が酸型イオン交換樹脂に固定化されない場合)を連続的に供給して反応させる固定床連続反応方式を用いるのが有利である。この際、反応塔は1基でもよく、また2基以上を直列に配置してもよいが、工業的には、酸型イオン交換樹脂を充填した反応塔を2基以上直列に連結し、固定床多段連続反応方式を採用するのが、特に有利である。
【0017】
この固定床連続反応方式における反応条件について説明する。
まず、アセトン/フェノールモル比は、通常1/30〜1/3、好ましくは1/15〜1/5の範囲で選ばれる。このモル比が1/30より小さい場合、反応速度が遅くなりすぎるおそれがあり、1/3より大きいと不純物の生成が多くなり、ビスフェノールAの選択率が低下する傾向がある。一方、メルカプタン類が酸型イオン交換樹脂に固定化されない場合、メルカプタン類/アセトンモル比は、通常0.1/100〜20/100、好ましくは1/100〜10/100の範囲で選ばれる。このモル比が0.1/100より小さい場合、反応速度やビスフェノールAの選択率の向上効果が十分に発揮されないおそれがあり、20/100より大きいとその量の割りには効果の向上はあまり認められない。
【0018】
また、反応温度は、通常40〜150℃、好ましくは60〜110℃の範囲で選ばれる。該温度が40℃未満では反応速度が遅い上、反応液の粘度が極めて高く、場合により、固化するおそれがあり、150℃を超えると反応制御が困難となり、かつビスフェノールA(p,p′−体)の選択率が低下する上、触媒の酸型イオン交換樹脂が分解又は劣化することがある。さらに、原料混合物のLHSV(液空間速度)は、通常0.2〜30hr−1、好ましくは0.5〜10hr−1の範囲で選ばれる。
【0019】
本発明においては、このようにして得られた反応混合液を、まず、フィルターによりろ過する。(A)工程と(B)工程との間に設けるフィルターとしては、フィルターであれば制限はないが、例えば、デブスタイプフィルターとして、ガラス繊維フィルター、セラミックスフィルター及びポリプロピレン製フィルターなどが挙げられ、スクリーンタイプフィルターとして、焼成金属フィルター、メンブレンフィルター及び巻線フィルターなどが挙げられる。
ガラス繊維フィルターとしては、ガラス繊維を規則正しく渦巻き状に巻いたカートリッジフィルターが挙げられ、焼成金属フィルターとしては、ステンレス鋼(SUS)等の金属を用いたものが挙げられ、メンブレンフィルターとしては、フッ素樹脂製のものが挙げられ、巻線フィルターとしては、波打ち多角管にワイヤをワインディングしたフィルターエレメントからなる、ステンレス鋼製のものが挙げられる。セラミックスフィルターとしては、不定型粒子で形成されたものが挙げられ、ポリプロピレン製フィルターとしては、深層ろ過方式の糸巻き型のものが挙げられる。
ろ過精度(フィルターによっては孔径を示す)は、ガラス繊維フィルター、焼成金属フィルター、セラミックスフィルター及びポリプロピレン製フィルターでは20μm以下、好ましくは10μm以下であり、メンブレンフィルター及び巻線フィルターでは30μm以下、好ましくは20μm以下である。
このようなろ過により、触媒残渣や触媒破砕物を除去する。触媒残渣や触媒破砕物は、製品のビスフェノールAの分解を助長し、色相を悪化させるからである。
上記ろ過に引き続いて行われる後処理としては、本発明の方法では、以下に示す(B)工程〜(F)工程を必須工程とすると共に、ビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程と、この溶液から当該付加物を晶析・分離する工程の間の少なくとも一つに、フィルターによるろ過工程を施すことが行われる。
【0020】
次に、(B)工程〜(F)工程について説明する。
(B)工程
この(B)工程は、前記の実質上酸型イオン交換樹脂を含まない反応混合液を濃縮する工程である。この濃縮工程においては、通常、まず、蒸留塔を用いた減圧蒸留により、未反応アセトン、副生水及びアルキルメルカプタンなどの低沸点物質を除去することが行われる。
この減圧蒸留は、一般に圧力6.5〜80kPa程度及び温度70〜180℃程度の条件で実施される。この際、未反応フェノールが共沸し、その一部が上記低沸点物質と共に、蒸留塔の塔頂より系外へ除かれる。この蒸留においては、ビスフェノールAの熱分解を防止するために、使用する加熱源の温度は190℃以下とすることが望ましい。また、機器の材料としては、一般にSUS304、SUS316及びSUS316Lが用いられる。
【0021】
次に、反応混合物から低沸点物質を除いた、ビスフェノールA及びフェノールなどを含む塔底液に減圧蒸留を施してフェノールを留去させ、ビスフェノールAを濃縮する。この濃縮条件については特に制限はないが、通常温度100〜170℃程度及び圧力5〜70kPa程度の条件が採用される。この温度が100℃よい低いと高真空が必要となり、170℃より高いと次の晶析工程で余分の除熱が必要となり、好ましくない。また、濃縮残液中のビスフェノールAの濃度は、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%の範囲である。この濃度が20質量%未満ではビスフェノールAの回収率が低く、50質量%を超えると晶析後のスラリー移送が困難となるおそれがある。
【0022】
(C)工程
この(C)工程は、上記(B)工程で得られた濃縮残液からビスフェノールAとフェノールとの1:1付加物(以下、フェノールアダクト称することがある。)を晶析・分離する工程である。この工程においては、まず、上記濃縮残液を40〜70℃程度に冷却し、フェノールアダクトを晶析させ、スラリーとする。この際の冷却は、外部熱交換器を用いて行ってもよく、また、濃縮残液に水を加え、減圧下での水の蒸発潜熱を利用して冷却する真空冷却晶析法によって行ってもよい。この真空冷却晶析法においては、該濃縮残液に、水を3〜20質量%程度添加し、通常温度40〜70℃、圧力3〜13kPaの条件で晶析処理が行われる。上記水の添加量が3質量%未満では除熱能力が十分ではなく、20質量%を超えるとビスフェノールAの溶解ロスが大きくなり、好ましくない。このような晶析操作において、晶析温度が40℃未満では晶析液の粘度の増大や固化をもたらすおそれがあり、70℃を超えるとビスフェノールAの溶解ロスが大きくなり、好ましくない。
次に、このようにして晶析されたフェノールアダクトを含むスラリーを、ろ過や遠心分離などの公知の手段により、フェノールアダクトと、反応副生物を含む晶析母液とに分離する。この晶析母液はそのまま一部を反応器へリサイクルしたり、一部又は全部をアルカリ分解処理して、フェノールとイソプロペニルフェノールとして回収してもよい。また、一部又は全部を異性化して、晶析原料にリサイクルすることもできる。
【0023】
(D)工程
この(D)工程は、上記(C)工程で晶析・分離されたフェノールアダクトを、フェノール含有溶液を用いて溶解する工程である。この工程において用いられるフェノール含有溶液としては特に制限はなく、例えば前記(B)工程の濃縮工程で得られた回収フェノール、(C)工程の晶析・分離工程で生成するフェノールアダクトの洗浄液、本(D)工程以降の工程で生成する、晶析したフェノールアダクトの固液分離における母液や該フェノールアダクトの洗浄液などを挙げることができる。
【0024】
この工程においては、(C)工程で得られたフェノールアダクトに上記フェノール含有溶液を加え、80〜110℃程度に加熱し、該フェノールアダクトを加熱溶解させ、次工程の晶析操作に好ましいビスフェノールA濃度を有するビスフェノールA含有溶液を調製する。このようにして調製されたビスフェノールA含有溶液は、比較的低い温度でも粘度が低くて取扱いが比較的容易であり、次工程において晶析したフェノールアダクトの固液分離をフィルターで行うのに適している。
【0025】
(E)工程
この(E)工程は、上記(D)工程で得られたビスフェノールA含有溶液から、フェノールアダクトを晶析・分離し、場合により高純度の製品を得るために、さらに当該フェノールアダクトをフェノール含有溶液を用いて溶解したのち、晶析・分離する操作を1回以上繰り返す工程である。この工程におけるフェノールアダクトの晶析・分離操作及びフェノールアダクトのフェノール含有溶液による溶解操作は、それぞれ前記の(C)工程及び(D)工程と同じである。
【0026】
(F)工程
この(F)工程は、上記(E)工程で晶析・分離されたフェノールアダクトを加熱溶融後、フェノールを留去させる工程である。この工程においては、まず、フェノールアダクトを100〜160℃程度に加熱・溶融して液状混合物となし、次いで減圧蒸留によってフェノールを留去し、溶融状態のビスフェノールAを回収する。上記減圧蒸留は、一般に圧力1〜11kPa、温度150〜190℃の範囲の条件で実施される。残存フェノールは、さらにスチームストリッピングにより除去することができる。
このようにして得られた溶融状態のビスフェノールAは、スプレードライヤーなどの造粒装置により、液滴にされ、冷却固化されて製品となる。該液滴は噴霧、散布などにより形成され、窒素や空気などによって冷却される。
【0027】
本発明のビスフェノールAの製造方法における特徴は、前記の(A)〜(F)工程において、(A)工程と(B)工程との間にフィルターを設けるとともに、フェノールアダクトをフェノール含有溶液を用いて溶解する工程と、この溶液から当該フェノールアダクトを晶析・分離する工程の間の少なくとも一つにフィルターによるろ過工程を設けることである。
すなわち、前記(D)工程と(E)工程の間、あるいは該(E)工程で晶析・分離−溶解−晶析・分離操作を、さらに一回以上行う場合には、この溶解操作と晶析・分離操作の間に、フィルターによるろ過工程を少なくとも一つ設ける。このように、ビスフェノールA含有溶解液をフィルターでろ過することにより、該溶解液中に含まれる夾雑物を取り除くことができ、後工程の高温条件下におけるビスフェノールAの分解を防止することができる。その結果、着色物質の生成が抑制され、色相の向上した製品ビスフェノールAが得られる。
この際、用いられるフィルターとしては、上述したフィルターと同様のものを用いることができる。この中で一般的に使用されているガラス繊維フィルターが取扱いが容易で好適である。
また、(A)工程と(B)工程の間のフィルター(前段フィルター)とその後の工程で設けるフィルター(後段フィルター)との組合せには、特に制限はなく、上述したフィルターを適宜組合わせて使用すればよい。例えば、前段フィルター−後段フィルターとして、巻線フィルター−ガラス繊維フィルター、ガラス繊維フィルター−ガラス繊維フィルター、ポリプロピレン製フィルター−ガラス繊維フィルター、焼成金属フィルター−ガラス繊維フィルター、メンブレンフィルター−ガラス繊維フィルター、セラミックスフィルター−ガラス繊維フィルターの組合せを使用することができる。
【0028】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
陽イオン交換樹脂〔三菱化学(株)製、「ダイヤイオンSK103H」〕を充填した固定床反応塔に、モル比10:1のフェノールとアセトンを、エチルメルカプタンと共に、連続的にLHSV3hr−1で通液し、75℃で反応を行った。得られた反応混合液を巻線フィルター(東京特殊電線(株)製,MSフィルター,ろ過精度10μm)でろ過したのち、塔底温度170℃、圧力67kPaの条件で減圧蒸留によりアセトン、水、エチルメルカプタンなどを除去したのち、さらに温度130℃、圧力14kPaの条件で減圧蒸留し、フェノールを留去させ、ビスフェノールA濃度が40質量%になるまで濃縮し、フェノール・ビスフェノールA溶液を得た。
【0029】
次に、このビスフェノールA濃度が40質量%のフェノール・ビスフェノールA溶液に水を加え、減圧下で50℃に冷却保持することにより、ビスフェノールA・フェノールアダクトを晶析させてスラリー溶液を得た。
次いで、得られたスラリー溶液を固液分離することにより、ビスフェノールA・フェノールアダクトを得た。このアダクトにフェノールを加え、90℃に加熱してフェノール60質量%及びビスフェノールA40質量%を含む溶液を調製した。次いで、この溶液をガラス繊維フィルター[ロキテクノ(株)製ガラス繊維フィルター、ろ過精度10μm]で濾過したのち、同様の真空冷却晶析及び固液分離を行い、ビスフェノールA・フェノールアダクトを得た。次いでこのアダクトを精製フェノールにより洗浄を行い、ビスフェノールA・フェノールアダクト結晶を得た。このアダクト結晶を130℃にて加熱溶融したのち、脱フェノールしてビスフェノールAを得た。
上記ビスフェノールAを空気雰囲気下で220℃、40分間加熱し、APHA標準色を用い、目視にて色相評価した結果、APHA10であった。
【0030】
実施例2
実施例1において、巻線フィルターの代わりにガラス繊維フィルター(ロキテクノ(株)製,ろ過精度10μm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを得た。APHAは10であった。
【0031】
比較例1
実施例1において、反応混合液をガラス繊維フィルター(前出)で濾過したこと及び晶析・分離したビスフェノールA・フェノールアダクトにフェノールを加えて該アダクトを溶解した溶液のフィルターによる濾過を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを得た。このビスフェノールAの色相はAPHA40であった。
【0032】
比較例2
実施例1において、アセトン、水などを除去し、濃縮して得られたフェノール・ビスフェノールA溶液(ビスフェノールA濃度が40質量%)でのガラス繊維フィルター(前出)による濾過を追加し、かつ晶析・分離したフェノールアダクトにフェノールを加えて該アダクトを溶解した溶液のフィルターによる濾過を省略した以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを得た。このビスフェノールAの色相はAPHA30であった。
【0033】
比較例3
実施例1において、反応混合液のろ過を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールAを得た。APHAは15であった。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、色相の向上した高品質のビスフェノールAを効率良く製造することができる。

Claims (3)

  1. (A)酸性触媒の存在下、過剰のフェノールとアセトンを縮合させてビスフェノールAを生成させ、反応混合液を得る工程、(B)反応混合液を濃縮する工程、(C)上記(B)工程で得られた濃縮残液からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析・分離する工程、(D)上記(C)工程で晶析・分離されたビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程、(E)上記(D)工程で得られた溶液からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析・分離し、場合により、さらに当該付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解したのち、晶析・分離する操作を1回以上繰り返す工程及び(F)上記(E)工程で晶析・分離されたビスフェノールAとフェノールとの付加物を加熱溶融後、フェノールを留去させる工程を必須工程として行うビスフェノールAの製造方法において、(A)工程と(B)工程のとの間にフィルターによるろ過工程を設け、かつ上記ビスフェノールAとフェノールとの付加物をフェノール含有溶液を用いて溶解する工程と、この溶液から当該付加物を晶析・分離する工程の間の少なくとも一つに、フィルターによるろ過工程を設けることを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
  2. フィルターが、巻線フィルター、ガラス繊維フィルター、焼成金属フィルター、メンブレンフィルター、セラミックスフィルター又はポリプロピレン製フィルターである請求項1記載のビスフェノールAの製造方法。
  3. 酸性触媒がスルホン酸型陽イオン交換樹脂である請求項1又は2記載のビスフェノールAの製造方法。
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