JP4613654B2 - モータ、およびその製造方法 - Google Patents
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Description
また、磁石支持部材の周面に凹部または小開口を形成し、この凹部または小開口にも接着剤を充填することにより、永久磁石と磁石支持部材との接着強度を高めたロータがある(例えば、特許文献2参照)。
低温においては、線膨張係数が最も大きい接着剤が大きく収縮するとともに、次に線膨張係数が大きい鋼製ヨークも収縮するために、線膨張係数が最も小さい永久磁石の接着界面には大きな引張り応力が加わり、上記接着部にはがれを生じやすい。また、高温においては、線膨張係数が最も大きい接着剤が大きく膨張するとともに、次に線膨張係数が大きい鋼製ヨークも膨張するために、高温でも硬い接着剤を用いる場合は、接着部において、永久磁石の円周方向に大きな引張り応力が生じ、引張りに弱い永久磁石の軸方向にクラックが生じやすい。さらに、軸方向の熱応力は線膨張係数の差によって永久磁石の端部で最も大きくなるため、温度変化の激しい環境においては、上記永久磁石内周面での接着のはがれや、端部でのクラックが生じやすくなる。今後、モータの高速化、高出力化、小型化に伴うモータ発熱量の増加や、モータの使用環境の拡大に伴う低温域および高温域の拡大が進むと、熱応力による接着箇所の剥離や磁石の割れへの対策が大きな課題となり、これらに対応したモータの信頼性向上が望まれている。
図1は、本発明の実施の形態1のモータに用いられるインナーロータの平面図{図1(a)}と、図1(a)におけるA−A線断面図{図1(b)}である。
つまり、ロータのヨーク1の外周面1aに円筒状の永久磁石2が接着剤層3により接着されており、接着剤層3は永久磁石の端部領域2aを除いて設けられている。
一般的に、永久磁石ロータにおいては、金属製のヨーク、永久磁石および接着剤はそれぞれ線膨張係数が異なるため、温度変化により生じる軸方向の熱応力は永久磁石の端部で最も大きくなり、永久磁石の端部の接着ではがれやクラックが生じやすい。そこで、永久磁石の軸方向の端まで接着剤が塗布されたり、さらに端を超えて端面2bまで接着剤が塗布されると上記永久磁石端部の接着でのはがれやクラックが一層生じやすい。
それに対して、本実施の形態のモータにおいては、図1に示すように、インナーロータの永久磁石2の端部領域2aに接着剤層を設けていないので、永久磁石の端部でのクラック発生や永久磁石内面での接着のはがれを防止することができる。
なお、接着剤層3が設けられていない永久磁石2の端部領域2aは、上記永久磁石の両端からそれぞれ周方向の帯状の領域であるが、上記帯領域の幅は上記永久磁石の円筒長さの5〜10%の幅であるのが好ましい。つまり、幅が5%以上であると上記効果が得られるが、10%を越えると接着面積が減少するため接着剤層3による接着強度が低下する。
一方、永久磁石の長さ方向全面に接着剤層を設けたロータに同様のヒートサイクルを行ったところ26サイクルで剥離が発生した。
また、例えば上記アウターロータを用いて、ステータと組み合わせてファンモータなどを得ることができるが、上記ステータは公知のものを用いることができる。また、上記モータは、ロータの永久磁石の端部でのクラック発生や永久磁石内面での接着のはがれを防止できるので、発熱量の大きなモータや低温から高温まで温度域が広い環境で使用されるモータでも優れた信頼性が得られるという効果がある。
図2は本発明の実施の形態2のモータに用いるロータにおいて、ヨーク1の外周面1aと永久磁石2の内周面を接着する接着剤層を設ける方法の説明図で、(a)はインナーロータ、(b)はアウターロータの場合で、以下インナーロータの場合について説明するが、アウターロータの場合も同様である。
ロータのヨーク1には、ヨークの端面1bから外周面1aへ貫通する接着剤注入用の貫通孔4が設けられ、ヨーク外周面1aの貫通孔の出口4aは、図1に示すように、永久磁石2が所定の位置に接着された状態で、永久磁石の端面2bより上記磁石の内部方向にずれた位置になるように設けてある。
まず、図2(a)に示すように、円筒状の永久磁石2の一方の端面を、貫通孔の入り口方向からヨーク外周面1aの貫通孔の出口4aより少し奥まで挿入する。次に、貫通孔の入口4bから接着剤3aを注入しながら永久磁石2を回転させるとともに、軸方向にヨーク1を押し込んでゆき、上記貫通孔の出口4aが永久磁石2の他方の端面より所定距離だけ奥の位置まで押し込まれたところで接着剤の注入をやめる。
この場合、ヨーク外周面の貫通孔の出口4aは永久磁石の端面2bより内側にあるため、永久磁石の端部領域には接着剤は塗布されないのである。
上記のようにして、温度変化により生じる熱応力が最も高くなる永久磁石の端面領域を除いて、容易に接着剤層3を設けることができ、本実施の形態のモータでは、従来の構造に比べて、永久磁石の端部でのクラック発生や永久磁石内面での接着のはがれを防止できる。
図3は、本発明の実施の形態3のモータに用いるロータの断面図で、実施の形態2のモータに係わるロータにおける貫通孔の形状を、貫通孔の入口4bと出口4aを直線状に直結した形状としたものであり、この構成によれば、実施の形態2に比べて孔加工の工程数が低減できるとともに、接着剤注入時の抵抗が低減されるので、粘度の高い接着剤も使用しやすくなる。
図4は、本発明の実施の形態4のモータに用いるロータの側面図であり、実施の形態2のモータに係わるロータにおける貫通孔を2個設け、2個の貫通孔41、42からそれぞれ異なる特性の接着剤31、32を注入し、永久磁石を常に同じ方向に回転させながら軸方向に押し込んだ場合の接着剤の塗布状態である。
つまり、例えば室温で短時間に硬化する接着剤31と加熱硬化型の高性能接着剤32を組み合わせることにより、加熱硬化中の位置決め治工具が不要となり、製造工程の簡素化が可能となる。
また、硬化後の硬さが硬く高温強度に優れた接着剤31と、硬化後の硬さが柔らかくて熱応力が少ない接着剤32を組み合わせた場合には、高温接着強度の確保、熱応力の低減による接着のはがれや永久磁石のクラック防止、トルクによる永久磁石とロータ軸との回転のズレ角度の低減を同時に達成することができる。
図5は本発明の実施の形態5のモータに用いるロータの平面図と断面図であり、実施の形態4の複数個の貫通孔4の入口4bを連結させてリング状の溝5としたものである。
接着剤をリング状の溝5から注入し、永久磁石を軸方向に押し込むことにより、複数本の線状に接着剤を容易に塗布することができ、独立した多数の貫通孔を設けるより加工工程数が低減できる。もちろん永久磁石を回転させながら押し込んでも良い。
図6は本発明の実施の形態6のモータに用いるロータの平面図と断面図であり、実施の形態5におけるリング状の溝を2個設け、2個のリング状の溝51、52からそれぞれ異なる特性の接着剤31、32を注入したものである。
室温で短時間に硬化する接着剤と加熱硬化型の高性能接着剤を組み合わせることにより、加熱硬化中の位置決め治工具が不要となり、製造工程の簡素化が可能となる。
硬化後の硬さが硬く高温強度に優れた接着剤と、硬化後の硬さが柔らかくて熱応力が少ない接着剤を組み合わせた場合には、高温接着強度の確保、熱応力の低減による接着はがれや永久磁石のクラック防止、トルクによる永久磁石とロータ軸との回転のズレ角度の低減を同時に達成することができる。
本発明の実施の形態7のモータでは、実施の形態4または実施の形態6におけるロータを、接着剤として2液室温硬化型変性アクリル系接着剤を用い、酸化剤を含む第1主剤と、還元剤を含む第2主剤をそれぞれ独立した貫通孔またはリング状溝から注入することにより得たものを用いたものである。
つまり、上記第1、第2主剤を注入しながら永久磁石を所定の位置まで押し込んだ後に、永久磁石を回転させることにより、酸化剤を含む第1主剤と還元剤を含む第2主剤を混合する。この混合方法では完全に混合することは困難であるが、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤は2液が接触する程度の混合でラジカル反応により硬化するため、本実施の形態における混合で十分に硬化する。
つまり、本実施の形態における混合によれば、硬化速度が速い接着剤を用いても混合後の可使時間により作業が拘束されることが防止され作業性が向上できる。
図7は、本発明の実施の形態8のモータに用いられるインナーロータの断面図である。
つまり、ロータのヨーク1の外周面1aに円筒状の永久磁石2が接着剤層3により接着されており、上記永久磁石2の両端部領域の接着剤層3G1のガラス転移温度(Tg1)が、上記永久磁石の上記両端部領域以外の領域の接着剤層3G2のガラス転移温度(Tg2)より低いものである。
上記のように、永久磁石ロータにおいては、温度変化により生じる軸方向の熱応力は永久磁石の端部で最も大きくなり、永久磁石の端部の接着のはがれやクラックが生じやすいが、本実施の形態のモータにおいては、インナーロータの永久磁石2の端部領域の接着剤層3G1のガラス転移温度(Tg1)が、上記永久磁石の上記両端部領域以外の領域の接着剤層3G2のガラス転移温度(Tg2)より低いので、永久磁石の端部でのクラック発生かつ永久磁石内面での接着のはがれを防止することができる。
なお、ガラス転移温度がTg1である接着剤層が設けられている永久磁石の端部領域は、上記永久磁石の両端からそれぞれ周方向の帯状の領域であるが、上記帯領域の幅は上記永久磁石の円筒長さの5〜10%の幅であるのが好ましい。つまり、幅が5%以上であると上記効果が得られるが、10%を越えると接着強度が低下する。
図7に示すように、ロータのヨーク1には、ヨークの端面1bから外周面1aへ貫通する接着剤注入用の2個の貫通孔41、42が設けられ、接着剤としてアクリルモノマーと酸化剤とを含有する第1主剤、およびアクリルモノマーと還元剤とを含有する第2の主剤からなる2液室温硬化型変性アクリル系接着剤を用い、一方の貫通孔41から上記第1の主剤を、他方の貫通孔42から上記第2主剤を注入し、永久磁石を回転させながら軸方向に押し込むことにより混合して硬化させる。
まず、2種類の2液室温硬化型変性アクリル系接着剤として、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤A{商品名:ハードロックG671,電気化学工業(株)製}と、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤B{商品名:ハードロックG672,電気化学工業(株)製}を用意する。
なお、上記2液室温硬化型変性アクリル系接着剤Aは、アクリルモノマーAと酸化剤を含むA1剤と、アクリルモノマーAと還元剤を含むA2剤とからなり、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤Bは、アクリルモノマーBと酸化剤を含むB1剤と、アクリルモノマーBと還元剤を含むB2剤とからなり、上記A1剤とA2剤、B1剤とB2剤を各々1:1で混合することにより、各々ガラス転移温度が113℃および163℃の硬化物を得ることができるものである。
本実施の形態においては、上記一方の貫通孔41から注入する、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の第1主剤として、上記2液室温硬化型変性アクリル系接着剤Aの酸化剤を含有するA1剤を用い、他方の貫通孔42から注入する第2主剤として、上記2液室温硬化型変性アクリル系接着剤Bの還元剤を含有するB2剤を用いる。
なお、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤は2液が接触する程度の混合でラジカル反応により硬化するので、上記第1、第2の主剤の配合比が1:3〜3:1程度に変化しても十分に硬化するため、本実施の形態における混合比で十分に硬化する。
上記のようにして得られた、本実施の形態に係わるロータに対して、−5℃と120℃間でのヒートサイクルを行ったところ、300サイクルまでは、永久磁石端部の接着での剥離やクラック、磁石内面での剥離は起らなかった。
以上のように、本実施の形態において、永久磁石の軸方向で接着剤層のガラス転移温度を変化させることにより、温度変化の激しい環境においても温度変化により生じる熱応力を低減し、低温における永久磁石内周面での接着のはがれや高温時における磁石端部でのクラックの発生が防止できる。
Claims (10)
- ロータのヨークと、このヨークの外周に配置された円筒状の永久磁石と、上記ヨークの外周面と上記永久磁石の内周面とを接着する接着剤層とを備えたインナーロータを用いたモータにおいて、上記インナーロータの永久磁石の両端部領域の接着剤層のガラス転移温度(Tg1)が、上記永久磁石の上記両端部領域以外の領域の接着剤層のガラス転移温度(Tg2)より低いことを特徴とするモータ。
- ロータのヨークと、このヨークの内周に配置された円筒状の永久磁石と、上記ヨークの内周面と上記永久磁石の外周面とを接着する接着剤層とを備えたアウターロータを用いたモータにおいて、上記アウターロータの永久磁石の両端部領域の接着剤層のガラス転移温度(Tg1)が、上記永久磁石の上記両端部領域以外の領域の接着剤層のガラス転移温度(Tg2)より低いことを特徴とするモータ。
- ガラス転移温度がTg1である接着剤層の領域は、上記永久磁石の両端からそれぞれ上記永久磁石の円筒長さの5〜10%の幅の、上記永久磁石の周方向の帯領域であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ。
- インナーロータのヨーク端面から上記ヨークの外周面へ貫通する貫通孔を備え、上記貫通孔の上記ヨーク端面側から注入された接着剤により接着剤層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
- アウターロータのヨークを上記ヨークの内周面ヘ貫通する貫通孔を備え、上記貫通孔へ注入された接着剤により接着剤層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のモータ。
- 貫通孔が複数設けられていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のモータ。
- 異なる特性の接着剤が、異なる貫通孔から注入されていることを特徴とする請求項6に記載のモータ。
- 接着剤層は、貫通孔から注入された2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の酸化剤を含む第1主剤と、別の貫通孔から注入された、上記2液室温硬化型変性アクリル系接着剤とガラス転移温度が異なる別の2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の還元剤を含む第2主剤とを、混合して硬化させて形成されたことを特徴とする請求項6記載のモータ。
- ロータのヨークと、このヨークの外周に配置された円筒状の永久磁石と、上記ヨークの外周面と上記永久磁石の内周面とを接着する接着剤層とを備えたインナーロータを用いたモータの製造方法であって、
所定の配合比となるように、上記ヨークの端面から上記ヨークの外周面へ貫通する一方の貫通孔から、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の酸化剤を含む第1主剤を注入すると共に、上記貫通する他方の貫通孔から、上記2液室温硬化型変性アクリル系接着剤とガラス転移温度が異なる別の2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の還元剤を含む第2主剤を注入し、上記永久磁石を回転させながら軸方向に押し込むことにより混合して硬化させて、上記永久磁石の両端部領域の一方にガラス転移温度がTg 1 の上記接着剤層を形成する工程と、
別の所定の配合比となるように、上記一方の貫通孔から上記第1主剤を注入すると共に、上記他方の貫通孔から上記第2主剤を注入し、上記永久磁石を回転させながら軸方向に押し込むことにより混合して硬化させて、上記両端部領域以外の領域に、ガラス転移温度が上記Tg 1 より高いTg 2 の上記接着剤層を形成する工程と、
上記所定の配合比となるように、上記一方の貫通孔から上記第1主剤を注入すると共に、上記他方の貫通孔から上記第2主剤を注入し、上記両端部領域の他方にガラス転移温度が上記Tg 1 の上記接着剤層を形成する工程とを備えたことを特徴とするモータの製造方法。 - ロータのヨークと、このヨークの内周に配置された円筒状の永久磁石と、上記ヨークの内周面と上記永久磁石の外周面とを接着する接着剤層とを備えたアウターロータを用いたモータの製造方法であって、
所定の配合比となるように、上記ヨークを上記ヨークの外周面から内周面ヘ貫通する一方の貫通孔から、2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の酸化剤を含む第1主剤を注入すると共に、上記貫通する他方の貫通孔から、上記2液室温硬化型変性アクリル系接着剤とガラス転移温度が異なる別の2液室温硬化型変性アクリル系接着剤の還元剤を含む第2主剤を注入し、上記永久磁石を回転させながら軸方向に押し込むことにより混合して硬化させて、上記永久磁石の両端部領域の一方にガラス転移温度がTg 1 の上記接着剤層を形成する工程と、
別の所定の配合比となるように、上記一方の貫通孔から上記第1主剤を注入すると共に、上記他方の貫通孔から上記第2主剤を注入し、上記永久磁石を回転させながら軸方向に押し込むことにより混合して硬化させて、上記両端部領域以外の領域に、ガラス転移温度が上記Tg 1 より高いTg 2 の上記接着剤層を形成する工程と、
上記所定の配合比となるように、上記一方の貫通孔から上記第1主剤を注入すると共に、上記他方の貫通孔から上記第2主剤を注入し、上記両端部領域の他方にガラス転移温度が上記Tg 1 の上記接着剤層を形成する工程とを備えたことを特徴とするモータの製造方法。
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