次に、発明の実施の形態を説明する。本発明に係る油圧式無段変速装置(HST)は、トラクタ等の農作業用の作業車両やローダ作業機を備える作業車両等に用いられるものである。以下においては、HSTがローダ作業機を備える作業車両に搭載される場合について説明する。
まず、本発明に係るHST1の全体構成について、図1〜図4を用いて説明する。図1及び図2に示すように、HSTにおいては、いずれも可変容積型に構成される油圧ポンプ10及び油圧モータ11をハウジング12内に内包している。ハウジング12には、油圧ポンプ10及び油圧モータ11の他に、これらの可動斜板10a・11aの斜板角度を調整して、油圧ポンプ10及び油圧モータ11それぞれの出力回転を制御する機構としての油圧サーボ機構2・102、中立位置保持機構3(最大斜板位置保持機構103)及び負荷制御機構4・104等が設けられている。すなわち、油圧ポンプ10に対しては、油圧サーボ機構2、中立位置保持機構3及び負荷制御機構4が設けられ、油圧モータ11に対しては、油圧サーボ機構102、最大斜板位置保持機構103及び負荷制御機構104が設けられている。
以下、特に断りのない場合には、油圧ポンプ10側の油圧サーボ機構2及び中立位置保持機構3等について説明する。すなわち、本実施例においては、油圧ポンプ10及び油圧モータ11に対してそれぞれ設けられるこれらの構成(油圧サーボ機構2・102、中立位置保持機構3(最大斜板位置保持機構103))は略同一となっている。また、本実施例においては、油圧ポンプ10及び油圧モータ11がいずれも可変容積型に構成されている場合について説明するが、これに限定されず、油圧ポンプ10及び油圧モータ11のうち一方が可変容積型であり他方が固定容積型であってもよい。
図2に示すように、油圧ポンプ10及び油圧モータ11は、前記のとおりハウジング12に内包されるとともに、油路板5の同一面において上下に略平行に並設されている。油路板5には、閉回路を構成する一対のメイン油路13a・13b(以下、これらを総称してあるいはいずれか一方を指して「メイン油路13」ともいう。)が形成されており(図3参照)、このメイン油路13を介して油圧ポンプ10と油圧モータ11とが流体的に接続されている。
可変容積型の油圧ポンプ10は、可動斜板10aを備え、駆動軸10b、シリンダブロック10c及び複数のプランジャ10d等により構成される。駆動軸10bは、HST1の入力軸となり、油路板5に挿嵌されるとともにハウジング12に支承され、エンジン15(図10参照)からの動力が入力される。シリンダブロック10cは、駆動軸10bに相対回転不能に嵌設され該駆動軸10bと共に回動する。プランジャ10dは、シリンダブロック10cに穿設される複数のシリンダ孔に気密的に付勢バネを介して摺接可能に収容される。可動斜板10aは、ハウジング12に傾動可能に支持されてプランジャ10dを往復駆動させる斜板カムとして作用し、プランジャ10dの摺動量を規制する。また、シリンダブロック10cと油路板5との間には、駆動軸10bが挿嵌される弁板10eが介装されている。
このような構成の油圧ポンプ10において、シリンダブロック10c内の複数のプランジャ10dが可動斜板10aに当接しながら回転することにより、油路板5内に形成されるメイン油路13を介して圧油が油圧モータ11へ搬送される。可動斜板10aは、その板面の、駆動軸10bの軸線方向に対する角度を変更可能に構成されている。そして、可動斜板10aの板面が駆動軸10bの軸線方向に対して垂直であるときは、駆動軸10bが回転駆動されても油圧モータ11に圧油が搬送されることがない中立位置状態である。同じく可動斜板10aの板面が駆動軸10bの軸線方向に対して垂直の状態から傾動することにより、駆動軸10bの回転駆動に連動して油圧モータ11に圧油が搬送される。ここで、可動斜板10aの傾動角度が調節されることにより、駆動軸10bが一回転する間に搬送される圧油の量が調節され、油圧ポンプ10の作動油の吐出量が調節可能に構成されている。これにより、後述する油圧モータ11の駆動軸11bの回転数及び回転方向が調節される。
可変容積型の油圧モータ11は、油圧ポンプ10と同様に、可動斜板11aを備え、駆動軸11b、シリンダブロック11c及び複数のプランジャ11d等により構成される。駆動軸11bはHST1の出力軸となり、該HST1を介したエンジン15の動力が駆動軸11bから出力される。ここで、可動斜板11a、シリンダブロック11c、プランジャ11d及び弁板11eについては、油圧ポンプ10と略同一の構成であるため、その説明を省略する。すなわち、油圧モータ11においては、可動斜板11aの傾動角度が調整されることにより、該油圧モータ11への圧油の吸入量が調節可能に構成されている。ただし、油圧モータ11の可動斜板11aは、油圧ポンプ10の可動斜板10aが最大傾斜位置に到達しないか、到達してもそれ以上の増速操作をしない限りは、最大傾斜位置(油圧モータ11の最大容量状態)で保持される構成となっている。
このような構成により、エンジン15の駆動力が油圧ポンプ10の駆動軸10bに入力されることで該油圧ポンプ10が駆動される。この油圧ポンプ10の駆動により吐出される作動油が、油路板5内のメイン油路13を介して油圧モータ11へ供給される。この作動油の給排により油圧モータ11が駆動され、油圧モータ11の駆動力がその駆動軸11bに伝達される。そして、HST1の変速(増速)に際しては、油圧ポンプ10の最大容量状態到達後、即ち可動斜板10aの最大傾斜状態到達後に、最大傾斜位置にある油圧モータ11の可動斜板11aが油圧モータ11の容量減少側(中立位置側)へと傾動される。
次に、油圧サーボ機構2について説明する。図1、図2、図4及び図6に示すように、HST1においては、油圧ポンプ10と油圧モータ11とが上下(左右であってもよい)に並設されており、油圧ポンプ10の一側方には油圧ポンプ10用の油圧サーボ機構2が設けられ、油圧モータ11の一側方であって油圧ポンプ10用の油圧サーボ機構2の下方には、油圧モータ11用の油圧サーボ機構102が設けられる。
油圧サーボ機構2は、ピストン21と、該ピストン21の内部に配置される摺動部材としてのスプール22を備える斜板角度制御バルブ23等とから構成される。これらはHSTのハウジング12内部に一体的に収納されている。斜板角度制御バルブ23の構成は、具体的には、ハウジング12内であって油圧ポンプ10の可動斜板10aの側部にシリンダ室24が形成されており、このシリンダ室24内にピストン21が摺動自在に収納されている。ピストン21の側面には、可動斜板10aの側部より突設されるピン軸25が嵌合されている。ピストン21の軸心部には貫通孔21cが開口されており、この貫通孔21c内にスプール22が摺動自在に嵌装されている。
ピストン21には、シリンダ室24におけるピストン21上方に形成される受圧室20aに連通する油路21dとピストン21下方に形成される受圧室20bに連通する油路21eとが形成されている(図11及び図13参照)。このピストン21に形成される油路同士が、摺動するスプール22によって連通又は遮断されて、連通時に、ピストン21の上下の受圧室20a・20b(シリンダ室24)間を圧油が送油され、ピストン21が上下方向に摺動するように構成されている。また、ピストン21の貫通孔21cの両端開口部には、キャップ部材86が嵌合されており、一方(本実施例では上方)のキャップ部材86とスプール22との間にバネ87が介装されている。このバネ87により、受圧室20a・20bからの油圧を含めたスプール22とピストン21との相対的な位置関係が調整される。スプール22の下部外周には嵌合溝26が設けられており、この嵌合溝26に油圧サーボ機構2(のスプール22)の変速駆動部材としてのピン27の一端部27aが嵌合されている。ピン27の他端部27bは、後述する中立位置保持機構3等を構成する捩じりバネ28により挟持されている。ピン27の一端部27aは、ハウジング12及びピストン21の側面に形成される開口12a及び開口21aからハウジング12内部に挿入され、上述したように嵌合溝26に嵌合する。
図4及び図5に示すように、ピン27は、ハウジング12内において、該ハウジング12の一側に付設される負荷制御機構4・104(後述)を構成するシリンダ40に支承される回動軸38に対して支持アーム38aを介して回動自在に支持されている。つまり、ピン27は、その一端部27a側が、該ピン27と略平行に支承される回動軸38に固設される支持アーム38aに支持され、該回動軸38を軸として回転自在に支持される。ピン27には、油圧サーボ機構2の変速操作レバー29が連動連結されており、該変速操作レバー29が操作されることにより、ピン27が捩じりバネ28の付勢力に抗して上下方向(図1及び図6において上下方向)に移動し、これに伴ってスプール22が上下方向に移動するように構成されている。このように、斜板角度制御バルブ23のスプール22が摺動操作されることによる油路の変更でピストン21が摺動させられ、これにより油圧ポンプ10の可動斜板10aが傾動され、HST1が変速される構成となっている。
続いて、中立位置保持機構3等について説明する。図1、図4及び図6等に示すように、中立位置保持機構3は、油圧サーボ機構2から負荷制御機構4を介した位置に設けられ、油圧ポンプ10の可動斜板10aの中立位置を保持するためのものである。中立位置保持機構3は、ケーシング30に内設されており、このケーシング30の内部空間に、デテントロッド31がその長手方向(図1及び図6において上下方向)へ摺動自在に設けられている。
デテントロッド31は、その一端がケーシング30あるいは該ケーシング30に螺嵌されるキャップ部材により構成される支持凹部30bに支持されるとともに、他端が同じくケーシング30に螺嵌されるキャップ32により支持されている。デテントロッド31のキャップ32側端部には、キャップ32に螺挿されるアジャストボルト33が一体的に形成されている。そして、デテントロッド31は、アジャストボルト33を回転させることで長手方向(軸心方向)へ摺動可能に構成されており、通常はロックナット34により位置固定されている。デテントロッド31の略中央部には、固定部31aが形成されており、前記ピン27の他端部27bがケーシング30の内部空間内に固定部31aと位置を合わせて挿入されている。ここで、ピン27の他端部27bの径と、固定部31aの幅(デテントロッド31の軸心方向の長さ)とは略同一に構成されている。
ケーシング30の内部空間においては、デテントロッド31の固定部31aの両側に、バネ受け35・35がデテントロッド31の軸心方向へ摺動自在に設けられている。バネ受け35・35は、ケーシング30あるいは前記キャップ部材またはキャップ32とバネ受け35・35との間に介装されるバネ36・36により固定部31a方向へ付勢されている。つまり、バネ受け35・35により、デテントロッド31の固定部31a及びピン27の他端部27bが、共に両側から挟み込まれる構成となっている。
図4に示すように、変速操作レバー29は、ケーシング30により回動軸37を中心に回動自在に支持されている。回動軸37には捩じりバネ28が回動自在に外嵌されており、該捩じりバネ28によりピン27の他端部27bが挟持されている。また、回動軸37には、この回動軸37と一体的に回動する連動アーム39が固設されている。連動アーム39は、捩じりバネ28により挟持されている。
変速操作レバー29が回動操作されると、回動軸37に固設される連動アーム39及び連動アーム39を挟持する捩じりバネ28が一体的に回動されると共に、捩じりバネ28に挟持されるピン27が該捩じりバネ28と一体的に回動される。すなわち、変速操作レバー29が回動操作されると、ピン27が連動アーム39及び捩じりバネ28を介して一体的に回動され、油圧サーボ機構2のスプール22が摺動操作される構成となっている。このようにして、変速操作レバー29、回動軸37、連動アーム39及び捩じりバネ28等により変速操作レバー部が構成されている。
また、変速操作レバー29が回動操作されていない状態では、ピン27の他端部27bがデテントロッド31の固定部31aと共にバネ受け35・35により挟み込まれているので、ピン27は、固定部31aの位置でその回動位置が保持される。そして、本実施例におけるHST1においては、変速操作レバー29に操作力がかかっておらず、ピン27がその他端部27bの位置でバネ受け35・35により保持されている状態では、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置状態となるように調節されている。このように、中立位置保持機構3は、デテントロッド31、バネ36・36及びバネ受け35・35によって、ピン27及び油圧サーボ機構2を通じて、油圧ポンプ10の可動斜板10aを中立位置に保持するように構成されている。
すなわち、中立位置保持機構3は、油圧サーボ機構2を介して油圧ポンプ10の可動斜板10aと連動連結するピン27を捩じりバネ28等により付勢支持しており、可動斜板10aの中立位置を保持する。そして、スプール22を摺動させるピン27の中途部に、連動アーム39及び捩じりバネ28を介して変速操作レバー29の回動軸37を係合し、変速操作レバー29の回動操作によりピン27が一体的に操作される構成となっている。このピン27の回動軸37との係合部の一側に延出されるピン27の一端部27aにてスプール22が駆動される一方、同じく係合部の他側に延出されるピン27の他端部27bにてデテントロッド31が係合され、中立位置が位置決めされるように構成されている。
このように構成される中立位置保持機構3においては、中立位置の微調整を行うアジャスト機構(中立位置調整機構)が具備されている。すなわち、前記のとおりデテントロッド31は、キャップ32に螺装されるアジャストボルト33が回転されることにより軸心方向に移動可能となっている。そして、固定部31aの位置でピン27が保持された状態で、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置からずれている場合、アジャストボルト33が回転されてデテントロッド31の固定部31aの位置が調節される。これにより、固定部31aの位置でピン27が保持された状態で、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置状態となるように調整可能となっている。
一方、油圧モータ11側には、前記のとおり最大斜板位置保持機構103が構成されている。最大斜板位置保持機構103は、前述した中立位置保持機構3と略同様にして構成されている。ただし、最大斜板位置保持機構103においては、油圧モータ11の可動斜板11aが最大斜板位置で保持される構成となっている。また、最大斜板位置保持機構103には、中立位置保持機構3における中立位置調整機構と同様にして0度位置調整機構が構成されている。0度位置調整機構においては、油圧モータ11の可動斜板11aが0度位置からずれている場合に、アジャストボルト33を回転することにより可動斜板11aが0度位置に位置するように調整することが可能となっている。
このような構成により、図7に示すように、油圧ポンプ10側の変速操作レバー29は、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置にある場合は略水平方向となるように位置し、該変速操作レバー29が回動軸37を軸として上下に回動操作されると、油圧ポンプ10の可動斜板10aが油圧サーボ機構2を介して傾動される。また、油圧モータ11側の変速操作レバー29は、油圧モータ11の可動斜板11aが最大傾斜位置にある場合は下斜め方向となるように位置し、該変速操作レバー29が回動軸37を軸として上方に回動操作されると、油圧モータ11の可動斜板11aが中立位置となる方向に移動される。そして、両変速操作レバー29・29が車両運転部の(前後進切換操作可能な)変速操作具(変速ペダル、変速レバー等)に連動連係されていて、該変速操作具の、車速0から一定速までの変速操作で油圧ポンプ10側の変速操作レバー29を、該一定速以上の変速操作で油圧モータ11側の変速操作レバー29を回動するものとしている。
次に、負荷制御機構4・104について、図5、図6、図8及び図9を用いて説明する。まず、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4の構成について説明する。負荷制御機構4は、前記メイン油路13の圧油が給排されるシリンダ40と、該シリンダ40に摺動自在に内挿されるとともに変速駆動部材としてのピン27と係合するスプール41とを備えている。そして、シリンダ40内におけるスプール41の一側にメイン油路13が連通され、負荷制御時には、メイン油路13からの圧油力によりスプール41が押圧され、このスプール41によりピン27を係合しながら移動させる。これにより、負荷制御機構4は、車両運転部に設けた変速操作具の操作に基づく変速操作レバー29による傾動操作(油圧サーボ機構2等による油圧ポンプ10の可動斜板10aの制御)とは独立に、該可動斜板10aの斜板角度の制御を行う。
シリンダ40は、ハウジング12の略平面である側壁面に沿って縦長状に形成され、このハウジング12の側壁面に付設されて油圧サーボ機構2と中立位置保持機構3との間に介設される。シリンダ40には、上方に開口するシリンダ孔42が上下方向に穿設されており、このシリンダ孔42に略円柱状のスプール41が摺動自在に内挿される。シリンダ孔42の開口端(上端)部には、メイン油路13から供給される圧油の油路が接続される管継部材43が螺着されており、該管継部材43を介してメイン油路13内の圧油がシリンダ40内に供給される。シリンダ40の上下中途部には、左右方向に開口して前記ピン27が貫通される開口部40aが貫設されている。
管継部材43は、シリンダ孔42の内側面と油密的に密着して螺着されている。管継部材43の内部には、油給排ポート43aが設けられている。この油給排ポート43aにメイン油路13から圧油が導かれ、油圧が検知される。管継部材43には、スプール41側に開口するピン孔43bが穿設されている。このピン孔43bにピン44が摺動自在に挿入されている。ピン44の一端側は、スプール41の上側面に当接している。
また、ピン孔43bは、オリフィス43cを介して管継部材43内の油給排ポート43aに連通している。つまり、油給排ポート43a内の圧油は、オリフィス43cを介してピン孔43b内に充填され、メイン油路13内の油圧に応じてピン44が摺動される。例えば、メイン油路13の油圧が高くなると、ピン孔43bからピン44が押し出され、該ピン44によってスプール41が押圧されて下方向に摺動する。
スプール41は、その長手方向の略中央部に上下方向に長い長孔状の貫通孔41aが貫設されており、該貫通孔41aにピン27が挿通される。この貫通孔41aは、シリンダ孔42にスプール41を内挿した状態で、シリンダ40の開口部40aに連通する。つまり、ハウジング12及びケーシング30の間にシリンダ40が介設されることから、開口部40aは、その一方がハウジング12及びピストン21の側面に形成される開口12a及び開口21aに連通し、他方がケーシング30の側面に形成される開口部30cと連通する。そして、このシリンダ40の開口部40aやスプール41の貫通孔41a等により構成される連通空間内に前記ピン27が配され、ピン27が負荷制御機構4(シリンダ40、スプール41等)を短手方向に貫通した状態となる。
また、スプール41においては、貫通孔41aの開口縁部に、該貫通孔41aを拡げる切欠き部41bが形成されている。一方、棒状のピン27において切欠き部41bに対応する位置に拡径部27cが形成されている。これにより、スプール41がシリンダ40の長手方向(上下方向)に摺動することで、その切欠き部41bがピン27の拡径部27cに当接するように構成されている。つまり、ピン27における拡径部27cの拡径度合いは、切欠き部41bの貫通孔41aに対する拡がり度合いよりも大きいため、ピン27と貫通孔41aの側壁とが当接することはないが、ピン27の拡径部27cと切欠き部41bとは当接する。また、スプール41の貫通孔41a及び切欠き部41bは、ピン27の移動範囲よりも大きく形成されているため、ピン27が上下に平行移動することによってピン27側からスプール41に当接することはないが、スプール41が摺動することによってその切欠き部41bとピン27の拡径部27cとが当接する構成となっている。つまり、スプール41が摺動されることにより、該スプール41とピン27とが係合して一体的に摺動可能に構成されている。
また、シリンダ孔42におけるスプール41の他側(メイン油路13が連通される側と反対側)には背圧室42aが設けられており、この背圧室42aにはバネ45が内装されている。このバネ45は、シリンダ孔42の底面とスプール41の下側面との間に介装され、該スプール41を押圧付勢している。また、背圧室42aには、後述するようにメイン油路13からの圧油力に対向してスプール41を押圧するためのHST1のチャージ圧油が導入される構成となっている。つまり、スプール41は、シリンダ孔42内において、ピストン44によって下方に押圧される一方、これに対向してバネ45及びチャージ圧油によって上方に押圧された状態となっている。
次に、油圧モータ11用の負荷制御機構104の構成について説明する。負荷制御機構104は、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4においてシリンダ孔42を構成するシリンダ40が共用され構成されている。すなわち、前記のとおりハウジング12の一側に付設されるシリンダ40は、油圧モータ11側における油圧サーボ機構102と最大斜板位置保持機構103との間に位置し、該シリンダ40には、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4を構成するスプール41等が設けられるとともに、油圧モータ11用の負荷制御機構104を構成するスプール141等が設けられる。そして、HSTのメイン油路13からシリンダ40に供給される圧油によってスプール141が押動される構成となっている。これにより、負荷制御機構104は、車両運転部の変速操作具の操作に基づく油圧サーボ機構102等による油圧モータ11の可動斜板11aの制御とは独立に、該可動斜板11aの斜板角度の制御を行う。
シリンダ40には、下方に開口するシリンダ孔142が上下方向に穿設されており、このシリンダ孔142に略円柱状のスプール141が摺動自在に内挿される。シリンダ40の負荷制御機構104部分における上下中途部には、左右方向に開口して前記ピン27が貫通される開口部140aが貫設されている。シリンダ孔142の開口端(下端)部には、スローリターンバルブ60が構成されるボルト体49が螺挿されている。
シリンダ40においては、スプール141がシリンダ孔142に挿入された状態で該スプール141の上側となる位置に、シリンダ孔142と連通するピン孔40bが穿設されている。このピン孔40bにピン144が摺動自在に挿入されている。ピン144の一端側は、スプール141の上側面に当接している。
前記ピン孔40bは、シリンダ40に形成される油路40cを介して前記負荷制御機構4において管継部材43内に形成される油給排ポート43aと連通しており、該ピン孔40b内にメイン油路13からの圧油が導かれる構成となっている。つまり、図5、図8及び図9等に示すように、負荷制御機構4においては、管継部材43に形成される外周溝により、該管継部材43とシリンダ孔42との間に、油孔43dを介して油給排ポート43aと連通する油溜り46が構成される。一方、負荷制御機構104においては、ピン孔40bにおけるピン144のスプール141と当接する側と反対側に油溜り146が形成されている。そして、これら油溜り46・146が油路40cを介して連通接続されている。これにより、油給排ポート43a内の圧油は、油路40cを介してピン孔40b内に導かれ、メイン油路13内の油圧に応じてピン144が摺動される。例えば、メイン油路13の油圧が高くなると、ピン孔40bからピン144が押し出され、該ピン144によってスプール141が押圧されて下方向に摺動する。
スプール141は、その長手方向の略中央部に上下方向に長い長孔状の貫通孔141aが貫設されており、該貫通孔141aにピン27が挿通される。この貫通孔141aは、シリンダ孔142にスプール141を内挿した状態で、シリンダ40の開口部140aに連通する。前記のとおりシリンダ40はハウジング12及びケーシング30の間に介設されることから、開口部140aは、その一方がハウジング12及びピストン21の側面に形成される開口12a及び開口21aに連通し、他方がケーシング30の側面に形成される開口部30cと連通する。そして、このシリンダ40の開口部140aやスプール141の貫通孔141a等により構成される連通空間内に前記ピン27が配され、負荷制御機構104(シリンダ40、スプール141等)を短手方向に貫通した状態となる。
また、スプール141においては、貫通孔141aの開口縁部に、該貫通孔141aを拡げる切欠き部141bが形成されている。この切欠き部141bは、前述した負荷制御機構4と同様、棒状のピン27の拡径部27cと当接するように構成され、スプール141が摺動されることにより、該スプール141とピン27とが一体的に摺動する。
また、シリンダ孔142におけるスプール141の下方、即ちシリンダ孔142内のスプール141と前記ボルト体49との間には背圧室142aが設けられている。背圧室142aには、後述するようにメイン油路13からの圧油力に対向してスプール141を押圧するためのHST1のチャージ圧油が導入される構成となっている。つまり、スプール141は、シリンダ孔142内において、ピン144によって下方に押圧される一方、これに対向してチャージ圧油によって上方に押圧された状態となっている。
ここで、油圧モータ11用の負荷制御機構104においては、該負荷制御機構104が作動していない状態、即ちピン144がピン孔40bに押し込まれている状態(図10等に示す状態)で、かつ、可動斜板11aの斜板角度が最大に傾動された状態では、切欠き部141bの下側にピン27の拡径部27cが略当接した状態となる。このような構成において、負荷制御機構104によって、油圧モータ11の可動斜板11aの斜板角度が小さくなる方向(容量が増大する方向)に傾動制御されるとともに、かかる斜板角度が制御されることによりトルクが制御される。
以上のように構成されるHST1は、エンジン15に負荷トルクが生じた場合には、HST1の油圧ポンプ10及び油圧モータ11の可動斜板10a・11aの斜板角度が、変速操作レバー29による制御とは別に負荷制御機構4・104によって制御され、エンジン15のエンストが防止される。ここで、本実施例のHST1は、変速(増速)に際しては、前記のとおり油圧ポンプ10の最大容量状態到達後に、最大傾斜位置にある油圧モータ11の可動斜板11aが油圧モータ11の容量減少側へと傾動される構成であるところ、負荷制御機構4・104による負荷制御については、油圧モータ11の可動斜板11aが傾動されている場合は、まず、油圧モータ11が減速側(容量増大側)に制御され、次いで油圧ポンプ10が減速側(容量減少側)に制御される。このため、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4においては、前記のとおり背圧室42aにバネ45が内装されており、該バネ45により、スプール41に対するメイン油路13からの圧油力に対向する押圧力が調整される。
すなわち、負荷制御機構4・104は、低速領域(例えば、全車速範囲における低速側1/3の領域)では、主に油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度を制御し、中・高速領域(例えば、全車速範囲における高速側2/3の領域)では、主に油圧モータ11の可動斜板11aを制御する。低速領域では、油圧ポンプ10の可動斜板10aは傾動自在である一方で、油圧モータ11の可動斜板11aは斜板角度が最大となる位置で固定されている。そして、低速領域から中・高速領域に入る際、油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度が最大となると略同時に、該可動斜板10aが位置固定されて、油圧モータ11の可動斜板11aの斜板角度が小さくなる方向に傾動される。
以上の構成を有するHST1について、その回路構成を図10に示す油圧回路図を参照して説明する。メイン油路13(13a・13b)に作動油を供給するチャージポンプ(油圧ポンプ)50は、エンジン15によりポンプ軸51を介して駆動され、オイルタンク52から油を吸入する。チャージポンプ50の吐出側には、HST1内へとフィルタ53を介した作動油を供給するチャージ油路16が接続されている。すなわち、チャージ油路16からの作動油はHST1内で分岐され、油圧サーボ機構2・102(のシリンダ室24)や、メイン油路13a・13b等に導かれる。
チャージ油路16からメイン油路13a・13bに接続される油路においては、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57がそれぞれ設けられる。また、チャージ油路16においては、チャージリリーフバルブ54が設けられており(図2及び図4参照)、チャージ油路16内の圧力が所定圧を越えると、このチャージリリーフバルブ54が開弁してチャージ油路16内の作動油がハウジング12内に形成される油溜り56内にリリーフされて油量が調整される。
可変容積型の油圧ポンプ10は、駆動軸10bを介してエンジン15からの駆動が伝達され、かかる駆動力によって油圧ポンプ10のシリンダブロック10c等が回転駆動される。油圧ポンプ10は、メイン油路13a・13bを介して可変容積型の油圧モータ11と流体的に接続されており、油圧ポンプ10から吐出される圧油が油圧モータ11に給排される。油圧ポンプ10の可動斜板10aは、前述したように油圧サーボ機構2、中立位置保持機構3及び負荷制御機構4によってその斜板角度が制御される。チャージ油路16から油圧サーボ機構2に供給される圧油は、最終的にはハウジング12内に形成される油溜り56に排出される。油圧ポンプ10用の負荷制御機構4には、メイン油路13から負荷制御用油路14を介して圧油が導かれ、この圧油を受けてシリンダ40に内挿されるスプール41が摺動される。
また、油圧モータ11の可動斜板11aを傾動制御するための手段として、油圧ポンプ10と同様に、油圧サーボ機構102、最大斜板位置保持機構103及び負荷制御機構104等が接続されている。メイン油路13a・13bを介して油圧ポンプ10と接続される油圧モータ11は、油圧ポンプ10より吐出される圧油によってシリンダブロック11c等が回転駆動されて駆動軸11bが回転駆動する。油圧モータ11の駆動軸11bは、車軸駆動用の走行軸や作業機駆動用の駆動軸などに連動連結され、これらの軸に該駆動軸11bの回転駆動が伝達される。油圧モータ11用の負荷制御機構104には、メイン油路13から負荷制御用油路14を介して圧油が導かれ、この圧油を受けてシリンダ40に内挿されるスプール141が摺動される。
そして、各負荷制御機構4・104のシリンダ孔42・142内におけるスプール41・141のピン44・144と反対側の空間、即ち、負荷制御機構4における背圧室42aと、負荷制御機構104における背圧室142aとは、背圧油路17によって連通接続されている。背圧油路17は、チャージ油路16と連通接続されており、背圧油路17とチャージ油路16との間には、チェックバルブ47及び背圧バルブ(リリーフバルブ)48が並列に介装されている。具体的には、チャージ油路16から分岐される油路18と背圧油路17間においてチェックバルブ47及び背圧バルブ48が並列に接続構成される(図3参照)。また、背圧油路17においては、負荷制御機構4の近傍にオリフィス61が設けられ、負荷制御機構104の近傍にスローリターンバルブ60が設けられている。
このような構成により、チェックバルブ47によって、背圧油路17からチャージ油路16側への逆流が防止され、背圧バルブ48によって、背圧油路17内の圧力が所定圧を越えると、背圧バルブ48が開弁して背圧油路17内の作動油が油路18にリリーフされて油量が調整される構成となっている。このように、チャージ油路16と負荷制御機構4・104間を接続する背圧油路17との間に、チェックバルブ47及び背圧バルブ48が介装されることにより、チャージ油路16からの圧油脈動によるハンチングが防止される。
以上のように、本発明に係るHST1は、可変容積型とした油圧ポンプ10及び油圧モータ11に、該油圧ポンプ10及び油圧モータ11の可動斜板10a・11aの斜板角度を制御する油圧サーボ機構2・102であって、該可動斜板10a・11aに連動連結した変速駆動部材としてのピン27を変速操作レバー29の操作により移動させる構成のものを付設するとともに、該ピン27を減速側に移動させるアクチュエータ(シリンダ40、スプール41・141等)を有し、油圧ポンプ10と油圧モータ11とを接続する閉回路のメイン油路13の圧油を負荷検出要素かつ作動油として前記アクチュエータに導き作動させる負荷制御機構4・104を付設している。そして、前記閉回路の、前進時(油圧モータ11を前進回転させるとき)に高圧側となるメイン油路(以下、「メイン油路13a」ともいう。)及び後進時(油圧モータ11を後進回転させるとき)に高圧側となるメイン油路(以下、「メイン油路13b」ともいう。)の各油路に流れる圧油を、それぞれチェックバルブ58を介して前記アクチュエータに導く構成としている(図10参照)。
すなわち、前述したように、負荷制御機構4・104には、メイン油路13からの圧油が、負荷検出要素及び負荷制御機構4・104のアクチュエータ作動油として、負荷制御用油路14を介して導かれるところ、図10に示すように、前進時に高圧側となるメイン油路13aから分岐される油路14a及び後進時に高圧側となるメイン油路13bから分岐される油路14bそれぞれにチェックバルブ58が設けられ、各メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104に圧油が導かれる。
このような構成により、HST1が前進時であるときは、高圧側となるメイン油路13a内の圧油が、油路14aのチェックバルブ58を介して負荷制御用油路14により負荷制御機構4・104へと導かれ、負荷制御機構4・104においてメイン油路13a内の油圧変化がエンジン15の負荷変化を示すものとして用いられる。一方、HST1が後進時であるときは、高圧側となるメイン油路13b内の圧油が、油路14bのチェックバルブ58を介して負負荷制御用油路14により負荷制御機構4・104へと導かれ、負荷制御機構4・104においてメイン油路13b内の油圧変化がエンジン15の負荷変化を示すものとして用いられる。
以上説明したHST1においては、可変容積型の油圧ポンプ10及び油圧モータ11が備えられており、これらの可動斜板10a・11aの斜板角度を制御する機構として、シリンダ室24に摺動可能に収納されるピストン21にスプール22を内装して斜板角度制御バルブ23を構成する油圧サーボ機構2・102が備えられている。各油圧サーボ機構2・102は、スプール22のピストン21との相対位置変更により、シリンダ室24内におけるピストン21の摺動方向両側に形成される受圧室20a・20bのいずれかに圧油を供給してピストン21を摺動させることで、該ピストン21にピン軸25を介して連結される可動斜板10a・11aを傾動させて油圧ポンプ10あるいは油圧モータ11の容積を変更する構成となっている。
油圧サーボ機構2・102において、受圧室20a・20bに供給される圧油には、前述したようにエンジン15により駆動されるチャージポンプ50によりHST1に供給されるチャージ圧油が用いられる。この際、チャージ油路16を介して供給される作動油は、定流量バルブ55により流量が制限される。定流量バルブ55は、油圧ポンプ10側の油圧サーボ機構2及び油圧モータ11側の油圧サーボ機構102それぞれに対して設けられ、各油圧サーボ機構2・102の斜板角度制御バルブ23に供給される圧油の流量が独立に制限される(図10参照)。定流量バルブ55は、図4に示すように、HST1のハウジング12の一端部において形成される孔部12bに螺挿されて埋設されるボルト部材90内に構成され、チャージ油路16から油路19を介して油圧サーボ機構2・102のピストン21内(シリンダ室24内)に導かれる作動油の油量を制限する。定流量バルブ55を介した作動油は、孔部12bと連通する油路21bを介して油圧サーボ機構2・102のシリンダ室24内へと導かれる。
このような構成において、油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度を制御する油圧サーボ機構2には、受圧室20a・20bの少なくとも一方に、エンジン15の停止時に、可動斜板10aの中立位置に対応する位置にあるスプール22に対して、ピストン21を受圧室20a・20bへの圧油の供給が停止される中立位置とする位置決め手段89が設けられている。
本実施例においては、図11等に示すように、シリンダ室24内においてピストン21の下側(後進側)に形成される受圧室20bに位置決め手段89が設けられている。位置決め手段89は、エンジン15の停止によるチャージポンプ50の駆動の停止に伴ってシリンダ室24内へのチャージ圧油の供給が停止された状態において、ピストン21を中立位置に移動させて保持する。つまり、ピストン21は、シリンダ室24内において、スプール22の摺動により受圧室20a・20bへのチャージ圧油が供給されてスプール22との相対位置関係により摺動するところ、シリンダ室24内へのチャージ圧油の供給が停止されるエンジン15の停止時には、ピストン21はスプール22の摺動による油圧変化の影響を受けないかあるいはわずかしか受けないこととなる。また、エンジン15の停止時には、車両運転部の変速操作具の操作により変速操作レバー29及びピン27を介して、スプール22は油圧ポンプ10の可動斜板10aの中立位置に対応する位置にある。そこで、この状態でのピストン21を位置決め手段89により受圧室20a・20bへの圧油の供給が停止される中立位置に保持した状態とする。
図11に示すように、位置決め手段89は、弾性部材としてのバネ91と、バネ受け92と、バネ受け92とピストン21とを係止させる止め輪93とを備える。ピストン21の位置決め手段89が設けられる側(図11における下側)端部には、該ピストン21の周縁部が略筒状に突設されるとともに受圧室20bに含まれる空間を内包する筒状突部21fが形成されている。バネ受け92は、筒状体の端部に鍔部92aを有する略ハット状に形成され、その鍔部92aをスプール22側(図11における上側)にした状態で、該鍔部92aを介して前記筒状突部21f内にピストン21と相対摺動可能に設けられる。止め輪93は、ピストン21の筒状突部21fの先端部には内嵌されている。この止め輪93に対してバネ受け92の鍔部92aが筒状突部21f内空間の内側から係止する構成となっている。
そして、ピストン21の筒状突部21f内において、ピストン21とバネ受け92との間にバネ91が介装されており、該バネ91はその一端側(図11において上側)がピストン21の底面21gに当接するとともに、その他端側(同図において下側)はバネ受け92により受けられている。このバネ91によりバネ受け92の鍔部92aと止め輪93とが互いに係止する方向に付勢されている。バネ受け92は、その鍔部92aを止め輪93に当接させた状態で、ピストン21の筒状突部21fの先端よりも突出した状態となる。このバネ受け92の突出する部分における底部92bがシリンダ室24の底面24aに当接可能となっている。また、シリンダ室24の底面24aには、穴状の油溜り24bが形成されており、バネ受け92の底部92bには、逃がし孔92cが形成されている。これにより、バネ受け92の底部92bがシリンダ室24の底面24aに当接した状態で、逃がし孔92cを介して筒状突部21f内と油溜り24bとが連通した状態となる。
このような構成の位置決め手段89においては、ピストン21が最下端にある状態(筒状突部21fの先端がシリンダ室24の底面24aに当接している状態)から、筒状突部21fの先端とシリンダ室24の底面24aとの間隔が、筒状突部21fよりもバネ受け92が突出する部分の長さより離れるまで、ピストン21が受圧室20a側に摺動すると、バネ受け92の底部92bがシリンダ室24の底面24aから離れ、ピストン21の摺動に伴い該ピストン21とバネ受け92とが一体的に移動する。逆に、バネ受け92の底部92bがシリンダ室24の底面24aから離れた状態から、ピストン21が受圧室20b側に摺動する際は、まず、筒状突部21fの先端よりも突出しているバネ受け92の底部92bがシリンダ室24の底面24aに当接する。さらに、ピストン21がバネ91の付勢力に抗して摺動することにより、止め輪93とバネ受け92の鍔部92aとの係止は解除され、ピストン21はその筒状突部21fの先端がシリンダ室24の底面24aに当接するまで摺動する。
そして、位置決め手段89において、バネ受け92の底部92bがシリンダ室24の底面24aに当接し、かつ、バネ受け92の鍔部92aと止め輪93とが係止した状態のピストン21の位置が、油圧ポンプ10の可動斜板10aの中立位置に対応する位置(以下、単に「中立位置」ともいう。)付近となる。言い換えると、ピストン21が、中立位置付近よりも後進側(図11において下側)にある場合は、バネ受け92の底部92bがシリンダ室24の底面24aに当接し、かつ、ピストン21がバネ91の付勢力に抗して摺動している状態となる。
このように、受圧室20bに位置決め手段89を設けることにより、エンジン15が停止された際、斜板角度制御バルブ23にチャージ圧がかからなくなった時点で、ピストン21の位置が可動斜板10aの中立位置付近に対応する位置となる。つまり、斜板角度制御バルブ23にチャージ圧がかからなくなった際に、ピストン21が中立位置よりも後進側にある場合に、位置決め手段89のバネ91の付勢力により摺動されるとともに止め輪93とバネ受け92の鍔部92aとが係止することで、ピストン21が中立位置付近に移動され位置決めされる。
これにより、エンジン15の再始動時における作業車両の微速発進を防止することができるとともに、坂道などにおける停車を確実にすることができる。すなわち、エンジン15の停止時に、ピストン21が中立位置付近に位置することから、エンジン15のクランキング時に油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置付近に位置することとなるので、HST1の駆動トルクも極めて小さくなり、わずかなブレーキ作用(例えば、エンジン15からの動力伝達系における抵抗力)が得られれば、エンジン15始動時における意図しない作業車両の微速発進を防止できる。また、HST1がHMTを構成して用いられる場合など、ピストン21が、油圧ポンプ10の可動斜板10aが空転する角度となる位置で留まることを回避することができるので、作業車両の坂道などでの確実な停止を行うことができる。
また、油圧ポンプ10側の油圧サーボ機構2においては、シリンダ室24内におけるピストン21の摺動方向両側に形成される受圧室20a・20b両方に位置決め手段89を設けることもできる。この場合、図12に示すように、ピストン21の上側(前進側)においても筒状突部21fが形成され、前記と同様、バネ91と、バネ受け92と、止め輪93とを備える位置決め手段89が設けられる。この場合、ピストン21は、両側の受圧室20a・20bに設けられる位置決め手段89・89により両側から位置決めされてエンジン15の停止時に中立位置付近に位置することとなる。
すなわち、受圧室20a側の位置決め手段89においては、バネ受け92の底部92aがシリンダ室24の上面24cに当接し、かつ、バネ受け92の鍔部92aと止め輪93とが係止した状態となり、また、受圧室20b側の位置決め手段89においては、バネ受け92の底部92aがシリンダ室24の底面24aに当接し、かつ、バネ受け92の鍔部92aと止め輪93とが係止した状態となるピストン21の位置が、油圧ポンプ10の可動斜板10aの中立位置付近に対応する位置となる。そして、シリンダ室24内において摺動するピストン21は、その中立位置から、前進側(受圧室20a側)に摺動する場合は、受圧室20aに設けられる位置決め手段89のバネ91の付勢力に抗して移動し、後進側(受圧室20b側)に摺動する場合は、受圧室20bに設けられる位置決め手段89のバネ91の付勢力に抗して移動することとなる。
このように、受圧室20a・20bの両方に位置決め手段89を設けることにより、エンジン15が停止されて斜板角度制御バルブ23にチャージ圧が供給されなくなった際に、ピストン21が中立位置付近よりも前進側・後進側いずれに位置していた場合であっても、確実にピストン21を中立位置付近に位置決めすることが可能となる。これにより、作業車両の前進・後進いずれの方向についても、エンジン15の再始動時における作業車両の微速発進を防止することができるとともに、坂道などにおける停車を確実にすることができる。
一方、図13に示すように、油圧モータ11の可動斜板11aの斜板角度を制御する油圧サーボ機構102には、可動斜板11aを中立位置とするピストン21の摺動方向側の受圧室20aに、エンジン15の停止時に、可動斜板11aの最大斜板位置に対応する位置にあるスプール22に対して、ピストン21を受圧室20a・20bへの圧油の供給が停止される最大斜板位置とする付勢手段95が設けられている。
付勢手段95は、エンジン15の停止によるチャージポンプ50の駆動の停止に伴ってシリンダ室24内へのチャージ圧油の供給が停止された状態において、ピストン21を最大斜板位置に移動させて保持する。つまり、ピストン21は、前記のとおり、シリンダ室24内へのチャージ圧油の供給が停止されるエンジン15の停止時には、ピストン21はスプール22の摺動による油圧変化の影響を受けないかあるいはわずかしか受けないこととなる。また、エンジン15の停止時には、車両運転部の変速操作具の操作により変速操作レバー29及びピン27を介して、スプール22は油圧モータ11の可動斜板11aの最大斜板位置に対応する位置にある。そこで、この状態でのピストン21を付勢手段95により受圧室20a・20bへの圧油の供給が停止される最大斜板位置に保持した状態とする。
図13に示すように、本実施例においては、付勢手段95として弾性部材としてのバネが用いられている。付勢手段95は、ピストン21の端部とシリンダ室24の上面24dとの間に介装され、ピストン21を最大斜板位置側へと押圧付勢する。ここで、ピストン21の端部には、周縁部が略筒状に突設されるとともに受圧室20aに含まれる空間を内包する凹部21hが形成されており、該凹部21hに付勢手段95の一側が挿嵌される。また、シリンダ室24の上面24dには、窪み状の油溜り24eが形成されている。
このようにして、受圧室20aに付勢手段95を設ける構成においては、該付勢手段95により、ピストン21は、スプール22の摺動によるチャージ圧がかからない状態で最大斜板位置となるように付勢されることとなる。つまり、油圧モータ11が作動される際、ピストン21が最大斜板位置にある状態から、変速操作レバー29及びピン27を介するスプール22の摺動により斜板角低減(増速)側へと操作された場合は、ピストン21は付勢手段95の付勢力に抗して斜板角低減(増速)側へと摺動されることとなる。
このように、付勢手段95を設けることにより、エンジン15が停止された際、斜板角度制御バルブ23にチャージ圧がかからなくなった時点で、ピストン21の位置が可動斜板11aの最大斜板位置に対応する位置となる。つまり、斜板角度制御バルブ23にチャージ圧がかからなくなった際に、付勢手段95の付勢力によりシリンダ21が押圧されて摺動し最大斜板位置(図13において最下端位置)に位置決めされる。
これにより、エンジンブレーキを確実に効かせることができ、坂道などにおける停車を確実にすることができる。すなわち、エンジン15の停止時において、ピストン21が最大斜板位置で保持されることにより、油圧モータ11の容量が最大の状態となり、油圧モータ11においてその駆動軸11bを回転させるための作動油の吸入・吐出量が多くなる。このため、油圧モータ11の駆動軸11bに対する回転トルクが大きくなり、該駆動軸11bのブレーキ作用が向上する。従って、作業車両が坂道などで停車された場合に、作業車両の車軸から油圧モータ11の駆動軸11bに伝達される負荷に対するエンジンブレーキが十分に効くこととなる。