次に、発明の実施の形態を説明する。本発明に係る油圧式無段変速装置(HST)は、トラクタ等の農作業用の作業車両やローダ作業機を備える作業車両等に用いられるものである。以下においては、HSTがローダ作業機を備える作業車両に搭載される場合について説明する。
まず、本発明に係るHST1の全体構成について、図1〜図5を用いて説明する。図1及び図2に示すように、HSTにおいては、いずれも可変容積型に構成される油圧ポンプ10及び油圧モータ11をハウジング12内に内包している。ハウジング12には、油圧ポンプ10及び油圧モータ11の他に、これらの可動斜板10a・11aの斜板角度を調整して、油圧ポンプ10及び油圧モータ11それぞれの出力回転を制御する機構としての油圧サーボ機構2・102、中立位置保持機構3(最大斜板位置保持機構103)及び負荷制御機構4・104等が設けられている。すなわち、油圧ポンプ10に対しては、油圧サーボ機構2、中立位置保持機構3及び負荷制御機構4が設けられ、油圧モータ11に対しては、油圧サーボ機構102、最大斜板位置保持機構103及び負荷制御機構104が設けられている。
以下、特に断りのない場合には、油圧ポンプ10側の油圧サーボ機構2及び中立位置保持機構3等について説明する。すなわち、本実施例においては、油圧ポンプ10及び油圧モータ11に対してそれぞれ設けられるこれらの構成(油圧サーボ機構2・102、中立位置保持機構3(最大斜板位置保持機構103))は略同一となっている。
図2に示すように、油圧ポンプ10及び油圧モータ11は、前記のとおりハウジング12に内包されるとともに、油路板5の同一面において上下に略平行に並設されている。油路板5には、閉回路を構成する一対のメイン油路13a・13b(以下、これらを総称してあるいはいずれか一方を指して「メイン油路13」ともいう。)が形成されており(図3参照)、このメイン油路13を介して油圧ポンプ10と油圧モータ11とが流体的に接続されている。
可変容積型の油圧ポンプ10は、可動斜板10aを備え、駆動軸10b、シリンダブロック10c及び複数のプランジャ10d等により構成される。駆動軸10bは、HST1の入力軸となり、油路板5に挿嵌されるとともにハウジング12に支承され、エンジン15(図11参照)からの動力が入力される。シリンダブロック10cは、駆動軸10bに相対回転不能に嵌設され該駆動軸10bとともに回動する。プランジャ10dは、シリンダブロック10cに穿設される複数のシリンダ孔に気密的に付勢バネを介して摺接可能に収容される。可動斜板10aは、ハウジング12に傾動可能に支持されてプランジャ10dを往復駆動させる斜板カムとして作用し、プランジャ10dの摺動量を規制する。また、シリンダブロック10cと油路板5との間には、駆動軸10bが挿嵌される弁板10eが介装されている。
このような構成の油圧ポンプ10において、シリンダブロック10c内の複数のプランジャ10dが可動斜板10aに当接しながら回転することにより、油路板5内に形成されるメイン油路13を介して圧油が油圧モータ11へ搬送される。可動斜板10aは、その板面の、駆動軸10bの軸線方向に対する角度を変更可能に構成されている。そして、可動斜板10aの板面が駆動軸10bの軸線方向に対して垂直であるときは、駆動軸10bが回転駆動されても油圧モータ11に圧油が搬送されることがない中立位置状態である。同じく可動斜板10aの板面が駆動軸10bの軸線方向に対して垂直の状態から傾動することにより、駆動軸10bの回転駆動に連動して油圧モータ11に圧油が搬送される。ここで、可動斜板10aの傾動角度が調節されることにより、駆動軸10bが一回転する間に搬送される圧油の量が調節され、油圧ポンプ10の作動油の吐出量が調節可能に構成されている。これにより、後述する油圧モータ11の駆動軸11bの回転数及び回転方向が調節される。
可変容積型の油圧モータ11は、油圧ポンプ10と同様に、可動斜板11aを備え、駆動軸11b、シリンダブロック11c及び複数のプランジャ11d等により構成される。駆動軸11bはHST1の出力軸となり、該HST1を介したエンジン15の動力が駆動軸11bから出力される。ここで、可動斜板11a、シリンダブロック11c、プランジャ11d及び弁板11eについては、油圧ポンプ10と略同一の構成であるため、その説明を省略する。すなわち、油圧モータ11においては、可動斜板11aの傾動角度が調整されることにより、該油圧モータ11への圧油の吸入量が調節可能に構成されている。ただし、油圧モータ11の可動斜板11aは、油圧ポンプ10の可動斜板10aが最大傾斜位置に到達しないか、到達してもそれ以上の増速操作をしない限りは、最大傾斜位置(油圧モータ11の最大容量状態)で保持される構成となっている。
このような構成により、エンジン15の駆動力が油圧ポンプ10の駆動軸10bに入力されることで該油圧ポンプ10が駆動される。この油圧ポンプ10の駆動により吐出される作動油が、油路板5内のメイン油路13を介して油圧モータ11へ供給される。この作動油の給排により油圧モータ11が駆動され、油圧モータ11の駆動力がその駆動軸11bに伝達される。そして、HST1の変速(増速)に際しては、油圧ポンプ10の最大容量状態到達後、即ち可動斜板10aの最大傾斜状態到達後に、最大傾斜位置にある油圧モータ11の可動斜板11aが油圧モータ11の容量減少側(中立位置側)へと傾動される。
次に、油圧サーボ機構2について説明する。図1、図2、図5及び図7に示すように、HST1においては、油圧ポンプ10と油圧モータ11とが上下(左右であってもよい)に並設されており、油圧ポンプ10の一側方には油圧ポンプ10用の油圧サーボ機構2が設けられ、油圧モータ11の一側方であって油圧ポンプ10用の油圧サーボ機構2の下方には、油圧モータ11用の油圧サーボ機構102が設けられる。
油圧サーボ機構2は、ピストン21と、該ピストン21の内部に配置されるスプール22を備える斜板角度制御バルブ23等とから構成される。これらはHSTのハウジング12内部に一体的に収納されている。斜板角度制御バルブ23の構成は、具体的には、ハウジング12内であって油圧ポンプ10の可動斜板10aの側部にシリンダ室24が形成されており、このシリンダ室24内にピストン21が摺動自在に収納されている。ピストン21の側面には、可動斜板10aの側部より突設されるピン軸25が嵌合されている。ピストン21の軸心部には貫通孔が開口されており、この貫通孔内にスプール22が摺動自在に嵌装されている。
ピストン21には、シリンダ室24におけるピストン21上方の油室に連通する油路とピストン21下方の油室に連通する油路とが形成されている。このピストン21に形成される油路同士が、摺動するスプール22によって連通又は遮断されて、連通時に、ピストン21の上下の油室(シリンダ室24)間を圧油が送油され、ピストン21が上下方向に摺動するように構成されている。スプール22の下部外周には嵌合溝26が設けられており、この嵌合溝26に油圧サーボ機構2(のスプール22)の変速駆動部材としてのピン27の一端部27aが嵌合されている。ピン27の他端部27bは、後述する中立位置保持機構3等を構成する捩じりバネ28により挟持されている。ピン27の一端部27aは、ハウジング12及びピストン21の側面に形成される開口12a及び開口21aからハウジング12内部に挿入され、上述したように嵌合溝26に嵌合する。
図5及び図6等に示すように、ピン27は、ハウジング12内において、該ハウジング12の一側に付設される負荷制御機構4・104(後述)を構成するシリンダ40に支承される回動軸38に対して支持アーム38aを介して回動自在に支持されている。つまり、ピン27は、その一端部27a側が、該ピン27と略平行に支承される回動軸38に固設される支持アーム38aに支持され、該回動軸38を軸として回転自在に支持される。 ピン27には、油圧サーボ機構2の変速操作レバー29が連動連結されており、該変速操作レバー29が操作されることにより、ピン27が捩じりバネ28の付勢力に抗して上下方向(図1及び図7において上下方向)に移動し、これに伴ってスプール22が上下方向に移動するように構成されている。このように、斜板角度制御バルブ23のスプール22が摺動操作されることによる油路の変更でピストン21が摺動させられ、これにより油圧ポンプ10の可動斜板10aが傾動され、HST1が変速される構成となっている。
続いて、中立位置保持機構3等について説明する。図1、図5及び図7等に示すように、中立位置保持機構3は、油圧サーボ機構2から負荷制御機構4を介した位置に設けられ、油圧ポンプ10の可動斜板10aの中立位置を保持するためのものである。中立位置保持機構3は、ケーシング30に内設されており、このケーシング30の内部空間に、デテントロッド31がその長手方向(図1及び図7において上下方向)へ摺動自在に設けられている。
デテントロッド31は、その一端がケーシング30あるいは該ケーシング30に螺嵌されるキャップ部材により構成される支持凹部30bに支持されるとともに、他端が同じくケーシング30に螺嵌されるキャップ32により支持されている。デテントロッド31のキャップ32側端部には、キャップ32に螺挿されるアジャストボルト33が一体的に形成されている。そして、デテントロッド31は、アジャストボルト33を回転させることで長手方向(軸心方向)へ摺動可能に構成されており、通常はロックナット34により位置固定されている。デテントロッド31の略中央部には、固定部31aが形成されており、前記ピン27の他端部27bがケーシング30の内部空間内に固定部31aと位置を合わせて挿入されている。ここで、ピン27の他端部27bの径と、固定部31aの幅(デテントロッド31の軸心方向の長さ)とは略同一に構成されている。
ケーシング30の内部空間においては、デテントロッド31の固定部31aの両側に、バネ受け35・35がデテントロッド31の軸心方向へ摺動自在に設けられている。バネ受け35・35は、ケーシング30あるいは前記キャップ部材またはキャップ32とバネ受け35・35との間に介装されるバネ36・36により固定部31a方向へ付勢されている。つまり、バネ受け35・35により、デテントロッド31の固定部31a及びピン27の他端部27bが、ともに両側から挟み込まれる構成となっている。
図5に示すように、変速操作レバー29は、ケーシング30により回動軸37を中心に回動自在に支持されている。回動軸37には捩じりバネ28が回動自在に外嵌されており、該捩じりバネ28によりピン27の他端部27bが挟持されている。また、回動軸37には、この回動軸37と一体的に回動する連動アーム39が固設されている。連動アーム39は、捩じりバネ28により挟持されている。
変速操作レバー29が回動操作されると、回動軸37に固設される連動アーム39及び連動アーム39を挟持する捩じりバネ28が一体的に回動されるとともに、捩じりバネ28に挟持されるピン27が該捩じりバネ28と一体的に回動される。すなわち、変速操作レバー29が回動操作されると、ピン27が連動アーム39及び捩じりバネ28を介して一体的に回動され、油圧サーボ機構2のスプール22が摺動操作される構成となっている。このようにして、変速操作レバー29、回動軸37、連動アーム39及び捩じりバネ28等により変速操作レバー部が構成されている。
また、変速操作レバー29が回動操作されていない状態では、ピン27の他端部27bがデテントロッド31の固定部31aとともにバネ受け35・35により挟み込まれているので、ピン27は、固定部31aの位置でその回動位置が保持される。そして、本実施例におけるHST1においては、変速操作レバー29に操作力がかかっておらず、ピン27がその他端部27bの位置でバネ受け35・35により保持されている状態では、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置状態となるように調節されている。このように、中立位置保持機構3は、デテントロッド31、バネ36・36及びバネ受け35・35によって、ピン27及び油圧サーボ機構2を通じて、油圧ポンプ10の可動斜板10aを中立位置に保持するように構成されている。
すなわち、中立位置保持機構3は、油圧サーボ機構2を介して油圧ポンプ10の可動斜板10aと連動連結するピン27を捩じりバネ28等により付勢支持しており、可動斜板10aの中立位置を保持する。そして、スプール22を摺動させるピン27の中途部に、連動アーム39及び捩じりバネ28を介して変速操作レバー29の回動軸37を係合し、変速操作レバー29の回動操作によりピン27が一体的に操作される構成となっている。このピン27の回動軸37との係合部の一側に延出されるピン27の一端部27aにてスプール22が駆動される一方、同じく係合部の他側に延出されるピン27の他端部27bにてデテントロッド31が係合され、中立位置が位置決めされるように構成されている。
このように構成される中立位置保持機構3においては、中立位置の微調整を行うアジャスト機構(中立位置調整機構)が具備されている。すなわち、前記のとおりデテントロッド31は、キャップ32に螺装されるアジャストボルト33が回転されることにより軸心方向に移動可能となっている。そして、固定部31aの位置でピン27が保持された状態で、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置からずれている場合、アジャストボルト33が回転されてデテントロッド31の固定部31aの位置が調節される。これにより、固定部31aの位置でピン27が保持された状態で、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置状態となるように調整可能となっている。
一方、油圧モータ11側には、前記のとおり最大斜板位置保持機構103が構成されている。最大斜板位置保持機構103は、前述した中立位置保持機構3と略同様にして構成されている。ただし、最大斜板位置保持機構103においては、油圧モータ11の可動斜板11aが最大斜板位置で保持される構成となっている。また、最大斜板位置保持機構103には、中立位置保持機構3における中立位置調整機構と同様にして0度位置調整機構が構成されている。0度位置調整機構においては、油圧モータ11の可動斜板11aが0度位置からずれている場合に、アジャストボルト33を回転することにより可動斜板11aが0度位置に位置するように調整することが可能となっている。
このような構成により、図8に示すように、油圧ポンプ10側の変速操作レバー29は、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置にある場合は略水平方向となるように位置し、該変速操作レバー29が回動軸37を軸として上下に回動操作されると、油圧ポンプ10の可動斜板10aが油圧サーボ機構2を介して傾動される。また、油圧モータ11側の変速操作レバー29は、油圧モータ11の可動斜板11aが最大傾斜位置にある場合は下斜め方向となるように位置し、該変速操作レバー29が回動軸37を軸として上方に回動操作されると、油圧モータ11の可動斜板11aが中立位置となる方向に移動される。そして、両変速操作レバー29・29が車両運転部の(前後進切換操作可能な)変速操作具(変速ペダル、変速レバー等)に連動連係されていて、該変速操作具の、車速0から一定速までの変速操作で油圧ポンプ10側の変速操作レバー29を、該一定速以上の変速操作で油圧モータ11側の変速操作レバー29を回動するものとしている。
次に、負荷制御機構4・104について、図6、図7、図9及び図10を用いて説明する。まず、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4の構成について説明する。負荷制御機構4は、前記メイン油路13の圧油が給排されるシリンダ40と、該シリンダ40に摺動自在に内挿されるとともに変速駆動部材としてのピン27と係合するスプール41とを備えている。そして、シリンダ40内におけるスプール41の一側にメイン油路13が連通され、負荷制御時には、メイン油路13からの圧油力によりスプール41が押圧され、このスプール41によりピン27を係合しながら移動させる。これにより、負荷制御機構4は、車両運転部に設けた変速操作具の操作に基づく変速操作レバー29による傾動操作(油圧サーボ機構2等による油圧ポンプ10の可動斜板10aの制御)とは独立に、該可動斜板10aの斜板角度の制御を行う。
シリンダ40は、ハウジング12の略平面である側壁面に沿って縦長状に形成され、このハウジング12の側壁面に付設されて油圧サーボ機構2と中立位置保持機構3との間に介設される。シリンダ40には、上方に開口するシリンダ孔42が上下方向に穿設されており、このシリンダ孔42に略円柱状のスプール41が摺動自在に内挿される。シリンダ孔42の開口端(上端)部には、メイン油路13から供給される圧油の油路が接続される管継部材43が螺着されており、該管継部材43を介してメイン油路13内の圧油がシリンダ40内に供給される。シリンダ40の上下中途部には、左右方向に開口して前記ピン27が貫通される開口部40aが貫設されている。
管継部材43は、シリンダ孔42の内側面と油密的に密着して螺着されている。管継部材43の内部には、油給排ポート43aが設けられている。この油給排ポート43aにメイン油路13から圧油が導かれ、油圧が検知される。管継部材43には、スプール41側に開口するピン孔43bが穿設されている。このピン孔43bにピン44が摺動自在に挿入されている。ピン44の一端側は、スプール41の上側面に当接している。
また、ピン孔43bは、オリフィス43cを介して管継部材43内の油給排ポート43aに連通している。つまり、油給排ポート43a内の圧油は、オリフィス43cを介してピン孔43b内に充填され、メイン油路13内の油圧に応じてピン44が摺動される。例えば、メイン油路13の油圧が高くなると、ピン孔43bからピン44が押し出され、該ピン44によってスプール41が押圧されて下方向に摺動する。
スプール41は、その長手方向の略中央部に上下方向に長い長孔状の貫通孔41aが貫設されており、該貫通孔41aにピン27が挿通される。この貫通孔41aは、シリンダ孔42にスプール41を内挿した状態で、シリンダ40の開口部40aに連通する。つまり、ハウジング12及びケーシング30の間にシリンダ40が介設されることから、開口部40aは、その一方がハウジング12及びピストン21の側面に形成される開口12a及び開口21aに連通し、他方がケーシング30の側面に形成される開口部30cと連通する。そして、このシリンダ40の開口部40aやスプール41の貫通孔41a等により構成される連通空間内に前記ピン27が配され、ピン27が負荷制御機構4(シリンダ40、スプール41等)を短手方向に貫通した状態となる。
また、スプール41においては、貫通孔41aの開口縁部に、該貫通孔41aを拡げる切欠き部41bが形成されている。一方、棒状のピン27において切欠き部41bに対応する位置に拡径部27cが形成されている。これにより、スプール41がシリンダ40の長手方向(上下方向)に摺動することで、その切欠き部41bがピン27の拡径部27cに当接するように構成されている。つまり、ピン27における拡径部27cの拡径度合いは、切欠き部41bの貫通孔41aに対する拡がり度合いよりも大きいため、ピン27と貫通孔41aの側壁とが当接することはないが、ピン27の拡径部27cと切欠き部41bとは当接する。また、スプール41の貫通孔41a及び切欠き部41bは、ピン27の移動範囲よりも大きく形成されているため、ピン27が上下に平行移動することによってピン27側からスプール41に当接することはないが、スプール41が摺動することによってその切欠き部41bとピン27の拡径部27cとが当接する構成となっている。つまり、スプール41が摺動されることにより、該スプール41とピン27とが係合して一体的に摺動可能に構成されている。
また、シリンダ孔42におけるスプール41の他側(メイン油路13が連通される側と反対側)には背圧室42aが設けられており、この背圧室42aにはバネ45が内装されている。このバネ45は、シリンダ孔42の底面とスプール41の下側面との間に介装され、該スプール41を押圧付勢している。また、背圧室42aには、後述するようにメイン油路13からの圧油力に対向してスプール41を押圧するためのHST1のチャージ圧油が導入される構成となっている。つまり、スプール41は、シリンダ孔42内において、ピストン44によって下方に押圧される一方、これに対向してバネ45及びチャージ圧油によって上方に押圧された状態となっている。
次に、油圧モータ11用の負荷制御機構104の構成について説明する。負荷制御機構104は、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4においてシリンダ孔42を構成するシリンダ40が共用され構成されている。すなわち、前記のとおりハウジング12の一側に付設されるシリンダ40は、油圧モータ11側における油圧サーボ機構102と最大斜板位置保持機構103との間に位置し、該シリンダ40には、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4を構成するスプール41等が設けられるとともに、油圧モータ11用の負荷制御機構104を構成するスプール141等が設けられる。そして、HSTのメイン油路13からシリンダ40に供給される圧油によってスプール141が押動される構成となっている。これにより、負荷制御機構104は、車両運転部の変速操作具の操作に基づく油圧サーボ機構102等による油圧モータ11の可動斜板11aの制御とは独立に、該可動斜板11aの斜板角度の制御を行う。
シリンダ40には、下方に開口するシリンダ孔142が上下方向に穿設されており、このシリンダ孔142に略円柱状のスプール141が摺動自在に内挿される。シリンダ40の負荷制御機構104部分における上下中途部には、左右方向に開口して前記ピン27が貫通される開口部140aが貫設されている。シリンダ孔142の開口端(下端)部には、後述するスローリターンバルブ60が構成されるボルト体49が螺挿されている。
シリンダ40においては、スプール141がシリンダ孔142に挿入された状態で該スプール141の上側となる位置に、シリンダ孔142と連通するピン孔40bが穿設されている。このピン孔40bにピン144が摺動自在に挿入されている。ピン144の一端側は、スプール141の上側面に当接している。
前記ピン孔40bは、シリンダ40に形成される油路40cを介して前記負荷制御機構4において管継部材43内に形成される油給排ポート43aと連通しており、該ピン孔40b内にメイン油路13からの圧油が導かれる構成となっている。つまり、図6、図9及び図10等に示すように、負荷制御機構4においては、管継部材43に形成される外周溝により、該管継部材43とシリンダ孔42との間に、油孔43dを介して油給排ポート43aと連通する油溜り46が構成される。一方、負荷制御機構104においては、ピン孔40bにおけるピン144のスプール141と当接する側と反対側に油溜り146が形成されている。そして、これら油溜り46・146が油路40cを介して連通接続されている。これにより、油給排ポート43a内の圧油は、油路40cを介してピン孔40b内に導かれ、メイン油路13内の油圧に応じてピン144が摺動される。例えば、メイン油路13の油圧が高くなると、ピン孔40bからピン144が押し出され、該ピン144によってスプール141が押圧されて下方向に摺動する。
スプール141は、その長手方向の略中央部に上下方向に長い長孔状の貫通孔141aが貫設されており、該貫通孔141aにピン27が挿通される。この貫通孔141aは、シリンダ孔142にスプール141を内挿した状態で、シリンダ40の開口部140aに連通する。前記のとおりシリンダ40はハウジング12及びケーシング30の間に介設されることから、開口部140aは、その一方がハウジング12及びピストン21の側面に形成される開口12a及び開口21aに連通し、他方がケーシング30の側面に形成される開口部30cと連通する。そして、このシリンダ40の開口部140aやスプール141の貫通孔141a等により構成される連通空間内に前記ピン27が配され、負荷制御機構104(シリンダ40、スプール141等)を短手方向に貫通した状態となる。
また、スプール141においては、貫通孔141aの開口縁部に、該貫通孔141aを拡げる切欠き部141bが形成されている。この切欠き部141bは、前述した負荷制御機構4と同様、棒状のピン27の拡径部27cと当接するように構成され、スプール141が摺動されることにより、該スプール141とピン27とが一体的に摺動する。
また、シリンダ孔142におけるスプール141の下方、即ちシリンダ孔142内のスプール141と前記ボルト体49との間には背圧室142aが設けられている。背圧室142aには、後述するようにメイン油路13からの圧油力に対向してスプール141を押圧するためのHST1のチャージ圧油が導入される構成となっている。つまり、スプール141は、シリンダ孔142内において、ピン144によって下方に押圧される一方、これに対向してチャージ圧油によって上方に押圧された状態となっている。
ここで、油圧モータ11用の負荷制御機構104においては、該負荷制御機構104が作動していない状態、即ちピン144がピン孔40bに押し込まれている状態(図10等に示す状態)で、かつ、可動斜板11aの斜板角度が最大に傾動された状態では、切欠き部141bの下側にピン27の拡径部27cが略当接した状態となる。このような構成において、負荷制御機構104によって、油圧モータ11の可動斜板11aの斜板角度が小さくなる方向(容量が増大する方向)に傾動制御されるとともに、かかる斜板角度が制御されることによりトルクが制御される。
以上のように構成されるHST1は、エンジン15に負荷トルクが生じた場合には、HST1の油圧ポンプ10及び油圧モータ11の可動斜板10a・11aの斜板角度が、変速操作レバー29による制御とは別に負荷制御機構4・104によって制御され、エンジン15のエンストが防止される。ここで、本実施例のHST1は、変速(増速)に際しては、前記のとおり油圧ポンプ10の最大容量状態到達後に、最大傾斜位置にある油圧モータ11の可動斜板11aが油圧モータ11の容量減少側へと傾動される構成であるところ、負荷制御機構4・104による負荷制御については、油圧モータ11の可動斜板11aが傾動されている場合は、まず、油圧モータ11が減速側(容量増大側)に制御され、次いで油圧ポンプ10が減速側(容量減少側)に制御される。このため、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4においては、前記のとおり背圧室42aにバネ45が内装されており、該バネ45により、スプール41に対するメイン油路13からの圧油力に対向する押圧力が調整される。
すなわち、負荷制御機構4・104は、低速領域(例えば、全車速範囲における低速側1/3の領域)では、主に油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度を制御し、中・高速領域(例えば、全車速範囲における高速側2/3の領域)では、主に油圧モータ11の可動斜板11aを制御する。低速領域では、油圧ポンプ10の可動斜板10aは傾動自在である一方で、油圧モータ11の可動斜板11aは斜板角度が最大となる位置で固定されている。そして、低速領域から中・高速領域に入る際、油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度が最大となると略同時に、該可動斜板10aが位置固定されて、油圧モータ11の可動斜板11aの斜板角度が小さくなる方向に傾動される。
まず、低速領域において主に行われる油圧ポンプ10の負荷制御機構4による負荷制御について説明する。油圧ポンプ10の負荷制御機構4においては、スプール41が、エンジン15に負荷がかかることによるメイン油路13内の油圧の上昇、即ちシリンダ40内(油給排ポート43a内)の圧油の上昇によってピン44を介して押圧されることで、捩じりバネ28の付勢力に抗してピン27を係合しながら移動させる。これにより、油圧サーボ機構2等による傾動操作とは独立に、油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度が減速側に制御される。通常、ピン44は、バネ45の付勢力及びチャージ圧によりスプール41を介してピン孔43bに押し込まれている。
HST1を備える作業車両が走行する際に、変速操作レバー29が図示せぬリンク機構を介して回動操作されると、ピン27が変速操作レバー29と一体的に移動する。これにより、油圧サーボ機構2において、スプール22がピン27と連動して摺動され、このスプール22の摺動により油路が切り換えられてピストン21が摺動する。そして、ピストン21に係合する油圧ポンプ10の可動斜板10aが傾動される。本実施例のHST1では、変速操作レバー29が、停止している作業車両を前進走行させるために回動された場合にはピン27が上方向に移動し、後進走行させるために回動された場合にはピン27が下方向に移動する。このピン27の移動に連動して可動斜板10aが徐々に傾動されて斜板角度が大きくなるように制御される。この可動斜板10aの傾動操作は、油圧サーボ機構2や中立位置保持機構3によって制御される。
このような状態で、低速走行の作業時においてエンジン15にかかる負荷が高くなると、メイン油路13内の油圧が上昇して油給排ポート43a内の油圧が高まる。ここで、油給排ポート43a内の油圧を受けてピン44がスプール41を押圧する力が、バネ45の不勢力と背圧室42a内に導かれるチャージ圧とによりスプール41が押圧される力を上回ると、スプール41が下方に摺動される。これにより、スプール41が、その切欠き部41bをピン27の拡径部27cに当接させることによりピン27と係合し、捩じりバネ28がピン27を挟持する付勢力、バネ45がスプール41を押圧する付勢力及び背圧室42a内のチャージ圧に抗してピン27を下方に移動させる。つまり、スプール41によりピン27が減速側へ移動されて油圧ポンプ10の可動斜板10aが低速側に傾動され、HST1が減速されることにより牽引力が高められる。このとき、車両運転部の変速操作具の増速側への操作により変速操作レバー29が回動されても、連動アーム39により捩じりバネ28が回動されるだけで、可動斜板10aが増速側に傾動されることはなく、過負荷がかかることによるエンストが起きることもない。
そして、負荷が軽減され、メイン油路13内の油圧が低減して油給排ポート43a内の油圧が低くなり、ピン44がスプール41を押圧する力が、バネ45の付勢力とチャージ圧によりスプール41が押圧される力を下回ると、スプール41は、バネ45の付勢力及びチャージ圧によって上方に摺動される。これにより、ピン44がピン孔43b内に押し込まれるとともに、ピン27は、捩じりバネ28の付勢力によって変速操作レバー29により設定されている位置に戻される。そして、油圧ポンプ10の可動斜板10aは、変速操作レバー29等による所定位置に戻り再び位置決めされる。
すなわち、作業車両が通常走行している場合は、HST1の出力回転数は変速操作レバー29の回動操作によって増減されるところ、低速で作業機によるローダ作業を行う場合等は大きな牽引力が必要とされるために駆動軸11bに負荷トルクがかかり、これによるエンジン15にかかる負荷がエンジン馬力を越えるとエンストしてしまう。そこで、負荷によりメイン油路13内の油圧が増加すると、該メイン油路13からの圧油を受けてシリンダ40内のスプール41が摺動されるように構成し、油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度が小さくなるように制御する。つまり、過剰な負荷がかかった場合に、変速操作レバー29による操作に係わらず油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度を小さくすることで油圧ポンプ10からの圧油の吐出量を減少させ、車速が低減するように制御することで、エンジン15のストールを防止する。
このように、負荷制御機構4においては、エンジン15に過剰な負荷がかかると、油圧ポンプ10の可動斜板10aの斜板角度が、変速操作レバー29による傾動操作に拠らずに自動的に傾動するように制御される。
次に、中・高速領域において主に行われる油圧モータ11の負荷制御機構104による負荷制御について説明する。油圧モータ11の負荷制御機構104も、油圧ポンプ10の負荷制御機構4と同様、油圧モータ11の可動斜板11aを自動的に傾動させてその斜板角度を制御するように構成されている。ただし、油圧モータ11においては、前述したとおり、可動斜板11aの斜板角度が停止時において最大となるように調整されており、作業車両が増速するにつれて斜板角度が小さくなるように制御されているため次のような態様となる。
すなわち、負荷制御機構104においても、まず変速操作レバー29が操作されると、これと一体的に移動するピン27が捩じりバネ28により所定の位置で位置決めされる。これにより、油圧サーボ機構102に油圧モータ11の可動斜板11aが最大傾斜位置から斜板角度が小さくなる方向に移動される。
このような状態で、中・高速走行の作業時においてエンジン15にかかる負荷が高くなると、メイン油路13内の油圧が上昇して油溜り146内の油圧が高まる。ここで、油溜り146内の油圧を受けてピン144がスプール141を押圧する力が、背圧室142a内に導かれるチャージ圧によりスプール141が押圧される力を上回ると、スプール141が下方に摺動される。これにより、スプール141が、その切欠き部141bをピン27の拡径部27cに当接させることによりピン27と係合し、捩じりバネ28の付勢力及び背圧室142a内のチャージ圧に抗してピン27を下方に移動させる。つまり、スプール141によりピン27が減速側へ移動されて油圧モータ11の可動斜板11aが低速側に傾動され、HST1が減速されることにより牽引力が高められる。このように中・高速領域において油圧モータ11側で負荷制御が行われるときには、油圧ポンプ10側の負荷制御機構4においては、メイン油路13からの油圧に対向してスプール41を押圧する力としてチャージ圧にバネ45による付勢力が加わるため、スプール41は下方に摺動されることがなく、油圧ポンプ10の可動斜板10aは高速側に保持されることとなる。
そして、負荷が軽減されると、負荷制御機構4の場合と同様、ピン144がスプール141を押圧する力が、チャージ圧によりスプール141が押圧される力を下回ると、スプール141は上方に摺動される。これにより、ピン27は変速操作レバー19により設定されている位置に戻されるとともに、油圧モータ11の可動斜板11aは、変速操作レバー29等による所定位置に戻り再び位置決めされる。
すなわち、油圧モータ11用の負荷制御機構104は、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4と同様、メイン油路13の油圧が高まると、車速を低減するように油圧モータ11の可動斜板11aの斜板角度が大きくなるように制御する。
このように、本発明に係るHST1においては、負荷制御機構4・104により、全ての車速範囲においてHSTの牽引力がエンジン15の馬力を越えることのないように、油圧ポンプ10及び油圧モータ11それぞれの可動斜板10a・11aの斜板角度が制御されるという負荷制御が行われる。なお、負荷制御機構4・104は、油圧ポンプ10又は油圧モータ11のいずれかのみに設けられる構成であってもよい。
以上の構成を有するHST1について、その回路構成を図11に示す油圧回路図を参照して説明する。メイン油路13(13a・13b)に作動油を供給するチャージポンプ(油圧ポンプ)50は、エンジン15によりポンプ軸51を介して駆動され、オイルタンク52から油を吸入する。チャージポンプ50の吐出側には、HST1内へとフィルタ53を介した作動油を供給するチャージ油路16が接続されている。すなわち、チャージ油路16からの作動油はHST1内で分岐され、油圧サーボ機構2・102(のシリンダ室24)や、メイン油路13a・13b等に導かれる。
チャージ油路16からメイン油路13a・13bに接続される油路においては、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57がそれぞれ設けられる。なお、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57については後述する。また、チャージ油路16においては、チャージリリーフバルブ54が設けられており(図2及び図5参照)、チャージ油路16内の圧力が所定圧を越えると、このチャージリリーフバルブ54が開弁してチャージ油路16内の作動油がハウジング12内に形成される油溜り56内にリリーフされて油量が調整される。
可変容積型の油圧ポンプ10は、駆動軸10bを介してエンジン15からの駆動が伝達され、かかる駆動力によって油圧ポンプ10のシリンダブロック10c等が回転駆動される。油圧ポンプ10は、メイン油路13a・13bを介して可変容積型の油圧モータ11と流体的に接続されており、油圧ポンプ10から吐出される圧油が油圧モータ11に給排される。油圧ポンプ10の可動斜板10aは、前述したように油圧サーボ機構2、中立位置保持機構3及び負荷制御機構4によってその斜板角度が制御される。チャージ油路16から油圧サーボ機構2に供給される圧油は、最終的にはハウジング12内に形成される油溜り56に排出される。油圧ポンプ10用の負荷制御機構4には、メイン油路13から負荷制御用油路14を介して圧油が導かれ、この圧油を受けてシリンダ40に内挿されるスプール41が摺動される。
また、油圧モータ11の可動斜板11aを傾動制御するための手段として、油圧ポンプ10と同様に、油圧サーボ機構102、最大斜板位置保持機構103及び負荷制御機構104等が接続されている。メイン油路13a・13bを介して油圧ポンプ10と接続される油圧モータ11は、油圧ポンプ10より吐出される圧油によってシリンダブロック11c等が回転駆動されて駆動軸11bが回転駆動する。油圧モータ11の駆動軸11bは、車軸駆動用の走行軸や作業機駆動用の駆動軸などに連動連結され、これらの軸に該駆動軸11bの回転駆動が伝達される。油圧モータ11用の負荷制御機構104には、メイン油路13から負荷制御用油路14を介して圧油が導かれ、この圧油を受けてシリンダ40に内挿されるスプール141が摺動される。
そして、各負荷制御機構4・104のシリンダ孔42・142内におけるスプール41・141のピン44・144と反対側の空間、即ち、負荷制御機構4における背圧室42aと、負荷制御機構104における背圧室142aとは、背圧油路17によって連通接続されている。背圧油路17は、チャージ油路16と連通接続されており、背圧油路17とチャージ油路16との間には、チェックバルブ47及び背圧バルブ(リリーフバルブ)48が並列に介装されている。具体的には、チャージ油路16から分岐される油路18と背圧油路17間においてチェックバルブ47及び背圧バルブ48が並列に接続構成される(図3参照)。
このような構成により、チェックバルブ47によって、背圧油路17からチャージ油路16側への逆流が防止され、背圧バルブ48によって、背圧油路17内の圧力が所定圧を越えると、背圧バルブ48が開弁して背圧油路17内の作動油が油路18にリリーフされて油量が調整される構成となっている。このように、チャージ油路16と負荷制御機構4・104間を接続する背圧油路17との間に、チェックバルブ47及び背圧バルブ48が介装されることにより、チャージ油路16からの圧油脈動によるハンチングが防止される。
以上のように、本発明に係るHST1は、少なくともいずれか一方を可変容積型とした油圧ポンプ10及び油圧モータ11に、該油圧ポンプ10及び/又は油圧モータ11の可動斜板10a・11aの斜板角度を制御する油圧サーボ機構2・102であって、該可動斜板10a・11aに連動連結した変速駆動部材としてのピン27を変速操作レバー29の操作により移動させる構成のものを付設するとともに、該ピン27を減速側に移動させるアクチュエータ(シリンダ40、スプール41・141等)を有し、油圧ポンプ10と油圧モータ11とを接続する閉回路のメイン油路13の圧油を負荷検出要素かつ作動油として前記アクチュエータに導き作動させる負荷制御機構4・104を付設している。そして、前記閉回路の、前進時(油圧モータ11を前進回転させるとき)に高圧側となるメイン油路(以下、「メイン油路13a」ともいう。)及び後進時(油圧モータ11を後進回転させるとき)に高圧側となるメイン油路(以下、「メイン油路13b」ともいう。)の各油路に流れる圧油を、それぞれチェックバルブ58を介して前記アクチュエータに導く構成としている(図11参照)。
すなわち、前述したように、負荷制御機構4・104には、メイン油路13からの圧油が、負荷検出要素及び負荷制御機構4・104のアクチュエータ作動油として、負荷制御用油路14を介して導かれるところ、図11に示すように、前進時に高圧側となるメイン油路13aから分岐される油路14a及び後進時に高圧側となるメイン油路13bから分岐される油路14bそれぞれにチェックバルブ58が設けられ、各メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104に圧油が導かれる。
このような構成により、HST1が前進時であるときは、高圧側となるメイン油路13a内の圧油が、油路14aのチェックバルブ58を介して負荷制御用油路14により負荷制御機構4・104へと導かれ、負荷制御機構4・104においてメイン油路13a内の油圧変化がエンジン15の負荷変化を示すものとして用いられる。一方、HST1が後進時であるときは、高圧側となるメイン油路13b内の圧油が、油路14bのチェックバルブ58を介して負負荷制御用油路14により負荷制御機構4・104へと導かれ、負荷制御機構4・104においてメイン油路13b内の油圧変化がエンジン15の負荷変化を示すものとして用いられる。
このように、前進時に高圧側となるメイン油路13a及び後進時に高圧側となるメイン油路13bの両方を負荷制御機構4・104に接続される負荷制御用油路14に接続し、各メイン油路13a・13b内の圧油を負荷制御機構4・104に導く構成とすることにより、前進時及び後進時いずれの場合においても負荷制御機構4・104による負荷制御を行うことができる。これにより、前進時及び後進時において負荷制御によるエンスト防止が図れるので、作業車両などにおいて円滑な作業や走行を行うことができる。また、各メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104へと圧油を導くに際し、チェックバルブ58をそれぞれ介在させることにより、メイン油路13a・13b側への圧油の逆流や高圧側のメイン油路13と低圧側のメイン油路13との連通が回避されるので、メイン油路13内の油圧の不安定化を防止でき、HST1の効率を低下させることなく、精度良く負荷制御を行うことが可能となる。
次に、前記各メイン油路13a・13bとチャージ油路16との間にそれぞれ介設される前記ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57について説明する。メイン油路13の作動油が不足した場合には、チャージ油路16から低圧側のメイン油路13(13a又は13b)に対して、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57を介して作動油が補給される。ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57・57は、メイン油路13の圧力が一定値よりも高くなる(負荷制御を必要とする圧力になる)と、高くなった側のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57が開弁し、作動油をチャージ油路16へ逃がすように構成されている。また、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57は、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置付近に位置している際に、その斜板位置を中立状態に保つように構成される。すなわち、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57は、メイン油路13へのチャージ圧油供給用のチェックバルブの機能を有するバルブに、負荷制御圧調整用のリリーフバルブの機能とニュートラルゾーン拡張用のリリーフバルブ(ニュートラルバルブ)の機能とを有するバルブ構造が一体的に加えられたバルブである。
ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57の具体的な構成について説明する。図3及び図5に示すように、油路板5において、上下方向に略平行に配されるメイン油路13a・13bに対して、これらの間に配されるチャージ油路16を構成する油路16aが略水平方向に連通している。この油路16aの延長上(左右)には、メイン油路13a・13bと連通するとともに左右方向に外部に開口するバルブ孔5aが油路板5に形成されている。バルブ孔5aの開口部は、該開口部に螺挿されるプラグ部材59により塞がれており、このバルブ孔5a内にニュートラル・チェック・リリーフバルブ57が構成される。つまり、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57は、チャージ油路板5に形成されるチャージ油路16と各メイン油路13a・13bとの接続部においてバルブ孔5a内に構成され、対向した状態で配設される。
各ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57・57の構造は略同一であるため、一方(メイン油路13a側)のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57について、図12を用いて説明する。ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57は、前記バルブ孔5aに摺動自在に内挿されるバルブボディ62と、該バルブボディ62に摺動自在に内挿されるスプール63と、該スプール63のバルブボディ62内における摺動を付勢するリリーフバネ64と、バルブボディ62の端部(前記プラグ部材59側)に螺嵌される支持ピース65と、該支持ピース65に摺動自在に内挿されるフィードバックピン66と、バルブボディ62を付勢するチェックバネ67とを備えている。
バルブボディ62は、略筒状に構成されてその一端部にバルブ部62aを有し、該バルブ部62aによりメイン油路13とチャージ油路16との連通部の開閉を行う。すなわち、チャージ油路16を構成する油路16aのメイン油路13との連通部(油路16aの端部)には、バルブボディ62のバルブ部62aの形状に合わせたシート部16bが形成されており、バルブボディ62の摺動により該シート部16bに対してバルブ部62aが当接・離間することにより、メイン油路13とチャージ油路16との連通部の開閉が行われる。
バルブボディ62の他端側には前記支持ピース65が螺嵌されており、該支持ピース65とバルブボディ62とが一体的にバルブ孔5a内を摺動可能に構成されている。そして、この支持ピース65が螺嵌されたバルブボディ62が、そのバルブ部62aが前記シート部16bに当接する方向にチェックバネ67により付勢されている。すなわち、前記のとおりバルブ孔5aの開口部を塞ぐプラグ部材59は、バルブ孔5a内に挿入される略筒状の挿嵌部59aを有しており、該挿嵌部59a内に支持ピース65を含むバルブボディ62の一側部分が挿入される。そして、この挿嵌部59a内においてプラグ部材59及び支持ピース65間にチェックバネ67が介装され、該チェックバネ67によって支持ピース65を介してバルブボディ62が前記方向に付勢される。
バルブボディ62に内挿されるスプール63は、略筒状に構成され、支持ピース65のバルブボディ62内部側に形成される当接面65aに当接する当接面63aを有する。また、スプール63の当接面63aと反対側においては、該スプール63とバルブボディ62の内部空間とによってバネ室68が構成され、該バネ室68においてバルブボディ62との間にリリーフバネ64が介装されている。該リリーフバネ64により、スプール63がその当接面63aを支持ピース65の当接面65aに当接させる方向に付勢されている。
支持ピース65に摺動自在に内挿されるフィードバックピン66は、摺動することにより支持ピース65の当接面65aから突出可能とされており、該フィードバックピン66の突出によりスプール63がリリーフバネ64の付勢力に抗して摺動される。
このように構成される一対のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57・57が、チャージ油路16を構成する油路16aの両端部に設けられ、互いのバルブボディ62のバルブ部62aを対向させた状態で構成されている。
ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57のチェックバルブ(チャージチェックバルブ)としての機能について説明すると、通常時は、チェックバネ67の付勢力によりバルブボディ62のバルブ部62aがシート部16bに当接した状態(バルブ部62aが閉じた状態)であり、メイン油路13とチャージ油路16とは分断されている。そして、メイン油路13内の作動油の不足が生じてメイン油路13の圧力が低下すると、チャージ油路16の圧力によりバルブボディ62がチェックバネ67の付勢力に抗して摺動し、バルブ部62aがシート部16bから離間した状態(バルブ部62aが開いた状態)となり、チャージ油路16とメイン油路13とが連通する。これにより、作動油がチャージ油路16からメイン油路13内へと流出する。ここで、バルブ部62aが開いた際には、チャージ油路16とメイン油路13とは、シート部16bの外縁部に形成される切欠き部16cにより連通される。
このような構成のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57・57により、メイン油路13aとメイン油路13bとの圧力差が一定以上となると、一方の(高圧側の)メイン油路13とチャージ油路16とは分断され、他方の(低圧側の)メイン油路13とチャージ油路16とは連通される。すなわち、前進時には、前記のとおりメイン油路13aが高圧側となり、該メイン油路13a側のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57におけるバルブ部62aは閉じ、チャージ油路16とメイン油路13aとは分断される(図13参照)。一方、この場合のメイン油路13aに対して低圧側となるメイン油路13b側のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57におけるバルブ部62aは開き、チャージ油路16とメイン油路13bとは連通される(図12参照)。後進時においても同様にして、高圧側となるメイン油路13bとチャージ油路16とは分断され、低圧側となるメイン油路13aとチャージ油路16とは連通される。
次に、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57のニュートラルバルブの機能について説明する。油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置付近にあり、メイン油路13a・13b間の圧力差が小さいとき、即ちメイン油路13からニュートラル・チェック・リリーフバルブ57にかかる圧力が小さいときには、作動油がメイン油路13からチャージ油路16へ若干量流れる。このため、油圧モータ11が回転されず、HST1の中立状態が保持される。
具体的には、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57においては、油圧が0に近い状態では、スプール63がリリーフバネ64の付勢力により支持ピース65に当接している。この状態では、バルブボディ62に形成されるニュートラル用孔62bとスプール63に形成されるオリフィス63bとが連通しており、これらニュートラル用孔62bとオリフィス63bにより、メイン油路13と連通しているバルブボディ62の外周部とバネ室68内とが連通されている(図12及び図13(a)参照)。バネ室68内とチャージ油路16内とは、バルブボディ62のバルブ部62a側先端部に形成される連通孔62dにより連通しているので、メイン油路13内の作動油が、ニュートラル用孔62b、オリフィス63b、バネ室68及び連通孔62dを通じてチャージ油路16へ流出する。
オリフィス63bを通じてチャージ油路16へ流れ出す作動油は、該オリフィス63bにて絞られているため、スプール63の一側に位置するバネ室68内の圧力と、スプール63に形成される案内路63cを通じてニュートラル用孔62bと連通するスプール63の他側の圧力(メイン油路13内の圧力)との間に差圧が生じ、バネ室68内の圧力の方が低くなる。このため、スプール63には、リリーフバネ64の付勢力に抗してバネ室68側へ摺動する方向への力が働く。つまり、油圧が0に近い状態からメイン油路13内の圧力が上昇すると、作動油の流量が増加し、スプール63に働く差圧による力が大きくなり、該スプール63がバネ室68側へ摺動するように構成されている。
また、メイン油路13内の圧力は、フィードバックピン66の後端(図12における左側端)にかかっており、このフィードバックピン66がリリーフバネ64の付勢力に抗してスプール63をチャージ油路16側へ押圧する。このフィードバックピン66による押圧力と前記差圧による力とにより、スプール63がバネ室68側へ摺動される。そして、差圧による力及びフィードバックピン66による押圧力とリリーフバネ64の付勢力とが釣り合った箇所でスプール63が停止する。その後、メイン油路13内の圧力が所定値に達すると、スプール63の摺動によりニュートラル用孔62bとオリフィス63bとが分断され、メイン油路13からチャージ油路16への作動油の流れが途絶える。
このように、ニュートラル用孔62bとオリフィス63bとが連通する状態が、油圧が0から所定圧力に達するまでの低圧領域の間継続する。この圧力範囲では、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置から若干ずれていたとしても、HST1の中立状態が保持される。つまり、この低圧領域においては、前記リリーフ用孔62cとオリフィス63bとが連通することによりメイン油路13とチャージ油路16とが連通した状態となり、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57によるニュートラルバルブ機能が発揮されてHST1の中立拡張が行われる。
続いて、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57の負荷制御圧調整リリーフバルブの機能について説明する。前記低圧領域から圧力が上昇すると、スプール63はさらにチャージ油路16側(図12において右側)へ摺動する。ここで、前記のとおりニュートラル用孔62bとオリフィス63bとが分断されてから、圧力がさらに上昇してバルブボディ62に形成されるリリーフ用孔62cとスプール63に形成されるリリーフ口63dとが連通した状態(図13(c)参照)となるまでは、メイン油路13とチャージ油路16とが分断された状態となる(図13(b)参照)。つまり、油圧が低圧領域を上回ってニュートラル用孔62bとオリフィス63bとが分断されてから、圧力の上昇によりリリーフ用孔62c及びリリーフ口63dを介してメイン油路13とチャージ油路16とが連通されるまでの間が、中圧領域に設定され、この圧力範囲では、メイン油路13とチャージ油路16とが分断され、メイン油路13からチャージ油路16へ作動油の流れない状態が継続され、HSTをフル効率で作動させる。
そして、圧力が上昇して所定の高圧領域に達すると、前記のとおりリリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが連通してメイン油路13とチャージ油路16とが連通し、メイン油路13内の作動油がチャージ油路16へとリリーフされる。ここで、メイン油路13内の油圧が高まることによるスプール63のリリーフバネ64の付勢力に抗する方向への摺動は、バネ室68内においてバルブボディ62に形成される段差部62eにより規制される。つまり、負荷制御が行われるメイン油路13内の油圧の高圧領域においては、スプール63が段差部62eに当接した状態が保持される。
このように構成されるニュートラル・チェック・リリーフバルブ57・57において、前述したように負荷制御機構4・104により負荷制御が行われる際は、メイン油路13の油圧が高まり高圧領域となり、リリーフバルブの機能が発揮される。つまり、負荷制御が行われる際に高圧側となるメイン油路13とチャージ油路16との間のニュートラル・チェック・リリーフバルブ57においては、バルブボディ62のバルブ部62aは閉じた状態となり、メイン油路13からの油圧によってスプール63はリリーフバネ64の付勢力に抗する方向に摺動され、バルブボディ62のリリーフ用孔62cとスプール63のリリーフ口63dとが連通してリリーフバルブ機能を発揮する状態となる。
このリリーフバルブ機能が発揮される状態では、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57は、メイン油路13からチャージ油路16へリリーフされる流量を制限する絞り(オリフィス)69(図11参照)として機能する。つまり、スプール63が前記段差部62eに当接した状態でのリリーフ用孔62cとリリーフ口63dとの連通部が絞り69を構成する。すなわち、HST1においては、負荷制御機構4・104による負荷制御が行われる際に、閉回路を構成するメイン油路13のうちの、高圧側となるメイン油路13を流れる圧油の一部が、絞り69(リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとの連通部)を介して低圧側となるチャージ油路16に排出される構成となっている。
ここで、スプール63のリリーフ口63dの外周部には、斜めに切り欠かれテーパ形状とされるテーパ部63eが形成され、バルブボディ62のリリーフ用孔62c近傍であって該バルブボディ62の内周面には、溝状のチャンバ62fが形成されている。該チャンバ62fは、リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが連通している状態で、リリーフ口63dと連通するように形成される。つまり、リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが連通している状態で、メイン油路13からリリーフ用孔62cへ浸入する作動油は、リリーフ口63dのテーパ部63eによりチャンバ62fへと案内され、該チャンバ62f内でその流れの方向が反転された(チャンバ62fの形状に沿って折り返された)後に、リリーフ口63dを通じてバネ室68へ導かれる。これにより、リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが、連通して開く場合と分断されて閉じる場合とで流量にヒステリシスが生じる(同じ圧力での流量が異なる)ことを防止することができ、良好なリリーフ特性が得られる構成となっている。
このように、負荷制御時において、高圧側となるメイン油路13内の圧油を、低圧側となるチャージ油路16内へと絞り69を介して排出する構成とすることにより、負荷制御時に影響するメイン油路13内における脈動を抑制することができ、負荷制御の精度を向上することができる。つまり、負荷制御時において、高圧側となるメイン油路13と該メイン油路13に対して低圧側となるチャージ油路16との連通が断たれると、メイン油路13から負荷制御機構4・104への作動油の流れが安定せずに脈動が生じることとなる。このメイン油路13内における脈動は、該メイン油路13内の油圧を用いて負荷制御機構4・104を作動させる構成においてその作動の正確性に影響を及ぼすこととなる。そこで、前記のとおり、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57にて構成される絞り69により、負荷制御時における高圧側となるメイン油路13内の圧油を低圧側に排出させることにより、メイン油路13内の脈動を抑制することができ、HST1における負荷制御を精度良く行うことが可能となる。
また、絞り69としては、バルブボディ62内において摺動するスプール63の位置に係わらず、メイン油路13とチャージ油路16とを常時連通させるような構成であってもよい。すなわち、バルブボディ62においてスプール63の摺動により影響を受けない位置に孔部を設け(例えば図12中69a参照)、これを絞り69として用いる。この場合、メイン油路13内の圧力に係わらず、メイン油路13とチャージ油路16とは絞り69(69a)を介して連通されることとなる。このため、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置付近にありメイン油路13a・13b間の圧力差が小さい場合においては、HST1の中立範囲を拡張することができ、負荷制御時においては、該負荷制御に影響するメイン油路13内の脈動を抑制することが可能となる。
また、絞り69は、メイン油路13とチャージ油路16とを開閉するチャージチェックバルブとしての機能を有するニュートラル・チェック・リリーフバルブ57において貫通状に設けられている。つまり、前記のとおり、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57においてリリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが連通することにより構成される絞り69は、バルブボディ62内に形成されバネ室68内に連通するように構成され、バルブ部62aによりチャージチェックバルブを構成するバルブボディ62に貫通状に設けられている。
このように、絞り69をチャージチェックバルブを構成するバルブボディ62に貫通状に設けることにより、例えばメイン油路13内などに別途絞り部を構成する必要もなく、部品点数を増加させることなく絞り69を構成することができる。また、高圧側となるメイン油路13から絞り69を介してリリーフされる低圧側がチャージ油路16であるので、別途作動油を供給する必要もなく負荷制御の円滑化が図れる。
また、絞り69は、メイン油路13内の油圧が負荷制御機構4・104による負荷制御が行われる油圧に上昇するまで封鎖される。すなわち、前述したように、油圧ポンプ10の可動斜板10aが中立位置付近にある低圧領域では、スプール63はその当接面63aを支持ピース65の当接面65aに当接させた状態となり、ニュートラル用孔62bとオリフィス63bとは連通した状態となる(図13(a)参照)。この状態では、リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとは連通しておらず、絞り69は封鎖された状態である。この状態からメイン油路13内の油圧が高まり中圧領域になると、フィードバックピン66が当接面65aから突出してスプール63を移動させる。これにより、ニュートラル用孔62bとオリフィス63bとが分断される(図13(b)参照)。この状態は、メイン油路13内の油圧が高まって高圧領域となり、リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが連通して絞り69が構成されるまで継続することとなる。
つまり、高圧側となるメイン油路13内の油圧の上昇過程において、ニュートラル用孔62bとオリフィス63bとの連通が分断されてから、リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとが連通して絞り69が構成されるまでは、メイン油路13とチャージ油路16とは封鎖された状態となる。言い換えると、絞り69は、高圧側のメイン油路13内の油圧が高圧領域となるまで、即ち負荷制御機構4・104による負荷制御が行われる油圧に上昇するまで封鎖されることとなる。
このように、絞り69を負荷制御が行われるまで封鎖することにより、HST1の容積効率を高めることができる。つまり、負荷制御が行われる際は、絞り69によりメイン油路13内における脈動を防止するとともに、中立拡張から負荷制御が行われるまでの間、絞り69を封鎖する(リリーフ用孔62cとリリーフ口63dとを連通させない)ことにより、メイン油路13からチャージ油路16へ圧油を逃さないようにする。これにより、メイン油路13を介する油圧ポンプ10から油圧モータ11への油圧の伝達率が向上し、HST1の容積効率を高めることができる。
ここで、前述したように、メイン油路13から負荷制御機構4・104に圧油を導くに際して介されるチェックバルブ58の構成について、図12を用いて説明する。チェックバルブ58は、各メイン油路13a・13bに対して備えられ各メイン油路13a・13bの最高圧力を規定するリリーフバルブ(ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57)を構成するプラグ部材59に内設されている。そして、このプラグ部材59から、前記アクチュエータに導く圧油が取り出される構成となっている。つまり、各メイン油路13a・13bに対しては、リリーフバルブの機構を有するニュートラル・チェック・リリーフバルブ57がそれぞれ備えられ、該ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57は、メイン油路13と連通するように油路板5に形成されるバルブ孔5a内に構成される。このバルブ孔5aの外部に開口する部分に、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57を構成するプラブ部材59が挿嵌されている。すなわち、プラグ部材59は、ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57において、その挿嵌部59a内に支持ピース65を含むバルブボディ62の一側部分が挿入されるとともに、支持ピース65との間に介装されるチェックバネ67を受けるバネ受けプラグとなる。このプラブ部材59に、チェックバルブ58が構成され、該プラグ部材59から、負荷制御機構4・104へ導かれる圧油が取り出される。
プラグ部材59は、ナット状の基部59bを備え、該基部59bの一側から前記挿嵌部59aが突設される。また、基部59bの他側には、プラグ部材59に接続される継手部材を螺装するネジ部が形成される継手部59cが突設されている。プラグ部材59において、挿嵌部59a内の底面(チェックバネ67の一端側が支持される面)から、基部59b及び継手部59cの中途部にかけて該継手部59cの突設方向にバルブ穴59dが穿設されている。また、継手部59cの先端面には、オリフィス59fを介してバルブ穴59dと連通する凹部59eが形成されている。つまり、バルブ穴59dは、オリフィス59f及び凹部59eを介して継手部59cの突出方向に外部と連通している。
一方、バルブ穴59dの挿嵌部59a側には、弁座部材70が螺嵌されている。弁座部材70は、支持ピース65の前記当接面65aと反対側の端面が当接する当接面70aを有するとともにバルブ穴59dに螺挿される螺挿部70bを有している。また、弁座部材70には、そのバルブ穴59dに対する螺挿方向に、チェック孔70cを有する孔部70dが穿設されている。つまり、弁座部材70は、その螺挿部70bがバルブ穴59dの一端部に螺挿されることによりプラブ部材59に固着され、孔部70dを介してプラグ部材59の挿嵌部59a内(バルブ孔5a内)とバルブ穴59d内とを連通させる。弁座部材70の孔部70dは、その当接面70aに支持ピース65が当接することにより塞がれる構成となっている。
そして、プラグ部材59のバルブ穴59d内においては、該バルブ穴59dの穴径と略同一径である弁球71が、チェックバルブ58における開弁圧設定用の弾性部材としてのチェックバネ72により前記チェック孔70cを塞ぐ方向に付勢された状態で摺動可能に内装されている。つまり、チェック孔70c及び弁球71は、該弁球71が弁座部材70に当接することでチェック孔70cが塞がるように構成されており、バルブ穴59d内における弁球71のチェック孔70cと反対側に、前記のとおり弁球71を付勢するチェックバネ72が介装されている。
このような構成により、高圧側のメイン油路13から、チェックバルブ58を介してプラグ部材59から負荷制御機構4・104へと圧油が導出されることとなる。すなわち、高圧側のメイン油路13においては、チェックバネ67の付勢力によりバルブボディ62のバルブ部62aは閉じ、メイン油路13とチャージ油路16との連通は断たれる。この状態では、弁座部材70と支持ピース65とは離間し、弁座部材70の孔部70dは当接面70aにおいて開口された状態(図13(a)〜(c)に示す状態)となる。
そして、高圧側のメイン油路13内の圧油は、バルブボディ62及び支持ピース65の外側からプラグ部材59の挿嵌部59a内に流入し、弁座部材70の孔部70dにおいて縮径するチェック孔70cにより油圧が高められて弁球71をチェックバネ72の付勢力に抗して押圧し、孔部70dとバルブ穴59dとを連通させる。これにより、メイン油路13からバルブ穴59d内に流入する作動油は、オリフィス59f及び凹部59eを介してプラグ部材59外へと導出される。このような構成により、高圧側のメイン油路13内の圧油は、チェックバルブ58を介してプラグ部材59から導出される。
プラグ部材59から取り出される圧油は、次のような油路構成により負荷制御機構4・104へと導かれる。メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104への具体的な油路構成について、図4及び図6等を用いて説明する。まず、前進時に高圧側となるメイン油路13aから負荷制御機構4・104への油路構成(前記油路14aの構成)について説明すると、メイン油路13a内の圧油は、前記のとおりチェックバルブ58のプラグ部材59から導出される。プラグ部材59においては、その継手部59cに螺着される継手部材73aを介して送油管74aの一端が接続される。送油管74aの他端は、油圧ポンプ10用の負荷制御機構4において、管継部材43の上方開口部に螺挿される継手部材75aに、接合部材76aを介して接続される。つまり、油路14aは、継手部材73a、送油管74a、接合部材76a及び継手部材75a等により構成され、この油路14aにより、メイン油路13a内からの圧油が、負荷制御機構4の油給排ポート43a内に導かれて該負荷制御機構4を作動させる。また、油給排ポート43a内に流入する圧油の一部は、該油給排ポート43aと油孔43dを介して連通する油溜り46から、シリンダ40に形成される前記油路40cを介して油圧モータ11側の負荷制御機構104における油溜り146へと導かれ、該負荷制御機構104を作動させる。
一方、後進時に高圧側となるメイン油路13bから負荷制御機構4・104への油路構成(前記油路14bの構成)について説明すると、メイン油路13b内の圧油は、メイン油路13aの場合と同様、チェックバルブ58のプラグ部材59から導出される。プラグ部材59においては、その継手部59cに螺着される継手部材73bを介して送油管74bの一端が接続される。送油管74bの他端は、図6に示すように、シリンダ40において油溜り46の近傍に形成される油給排ポート77の上方開口部に螺挿される継手部材75bに、接合部材76bを介して接続される。油給排ポート77は、シリンダ40に形成される油路40dを介して油溜り46と連通している。つまり、油路14bは、継手部材73b、送油管74b、接合部材76b、継手部材75b、油給排ポート77及び油路40d等により構成され、この油路14bにより、メイン油路13b内からの圧油が、負荷制御機構4の油給排ポート43a内に導かれて該負荷制御機構4を作動させる。また、油給排ポート43a内に流入する圧油の一部は、前記と同様、油溜り46及び油路40cを介して負荷制御機構104に導かれ、該負荷制御機構104を作動させる。なお、油路14a・14bを構成する送油管74a・74bは、例えば図1や図4に示すように、支持部材78によりハウジング12等に適宜支持固定される。
このような油路構成により、メイン油路13aが高圧側である場合、該メイン油路13a内の圧油は、メイン油路13a側のチェックバルブ58のプラグ部材59から取り出され、油路14aを介して負荷制御機構4・104へと導かれる。一方、メイン油路13bが高圧側である場合、該メイン油路13b内の圧油は、メイン油路13b側のチェックバルブ58のプラグ部材59から取り出され、油路14bを介して負荷制御機構4・104へと導かれる。
このように、チェックバルブ58をプラグ部材59に内設し、該プラグ部材59からメイン油路内の圧油を取り出す構成とすることにより、各メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104へと圧油を導くに際し、簡単な構造・低コストにより、HST1の効率を低下させることなく安定して負荷制御を行うことができるとともに、配管同士の干渉を回避して容易に配管用空間を確保することができる。すなわち、各メイン油路13a・13bに対して備えられるリリーフバルブ(ニュートラル・チェック・リリーフバルブ57)の構成部材であるプラグ部材59をチェックバルブ58の構成部材として兼用することができる。これにより、メイン油路13から負荷制御機構4・104へと圧油を導くに際し、簡単な構造・低コストにより、HST1の効率を低下させることなく安定して負荷制御を行うためのチェックバルブ58を構成することができる。また、メイン油路13から負荷制御機構4・104へと導く圧油を、メイン油路13が形成される油路板5から取り出すに際し、別途新たに取出部を設ける必要がないので、HST1における他の配管との干渉を回避して配管用空間の確保が容易となる。例えば本実施例のように、プラグ部材59が、メイン油路13が形成される油路板5の反対側の面から突出する構成においては、負荷制御機構4・104への油路14a・14bを互いに干渉させることなく容易に配管することができる。
ところで、各メイン油路13a・13b内の圧油を負荷制御機構4・104に導くに際し、外部配管を施すことなくHST1の内部に油路を構成することもできる。この場合、図14に示すように、油路板5において各メイン油路13a・13bに連通する油路79a・79bを形成し、該油路79a・79bをハウジング12内に形成される油路及びシリンダ40内に形成される油路を介して該シリンダ40に形成される油溜り46・146(図6参照)に連通させる。そして、チェックバルブ58・58は、例えば、油路板5のハウジング12内に面する端面において、油路79a・79bの開口部に前記プラグ部材59と同様のプラグ部材を設け、該プラグ部材にチェックバルブ58を内設することにより、負荷制御機構4・104への油路において介設する。このように、外部配管を行うことなくHST1の内部に油路を構成することによっても、メイン油路13内の圧油を負荷制御機構4・104に導くことができる。この場合、HST1の外部に配管空間を確保する必要がなく、外観的によりシンプルな構造とすることができる。
各メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104への油路において介設されるチェックバルブ58・58においては、各チェックバルブ58の開弁圧に差が設けられる。チェックバルブ58・58の開弁圧に差を設けることにより、前進時と後進時とで負荷制御が開始されるタイミングを異なるものとすることが可能となる。これにより、HST1が、例えばHMT等のように前進時と後進時とで可動斜板の同じ角度における出力トルク(牽引力)が異なる構成に用いられる場合に容易に対応することができ、前進時及び後進時いずれにおいても十分な牽引力を得ることができる。
すなわち、前進時と後進時とでHST1の出力トルクが異なる構成においては、両方のチェックバルブ58・58における開弁圧が同じであると、前進時又は後進時いずれか(同じ斜板角度で牽引力が小さくなる方)においてエンジンの馬力が有効利用できないこととなる。例えば、前記HMTにおいては、後進時の方が前進時に比べて出力トルクが小さくなるので、後進時においてエンジンの馬力が十分に発揮されないこととなる。そこで、チェックバルブ58・58の開弁圧に差を設けることにより、前進時・後進時それぞれに適したタイミングで負荷制御を効かせることが可能となり、前進時及び後進時いずれにおいてもエンジンの馬力を有効利用することができて十分な牽引力を得ることができる。
チェックバルブ58・58の開弁圧に差を設けるに際しては次のような構成を用いる。前述したように、各メイン油路13a・13bから負荷制御機構4・104への油路において介設される両チェックバルブ58・58においては、開弁圧設定用の弾性部材としてのチェックバネ72が設けられるところ、このチェックバネ72は少なくとも一方のチェックバルブ58に設けられればよい。チェックバルブ58においては、チェックバネ72は圧油が流出する側(二次側)に備えられ、圧油が流入する側(一次側)の圧力がチェックバネ72により設定される所定圧を越えると、チェックバルブ58が開弁することとなる。そこで、チェックバルブ58・58の開弁圧に差を設けるには、一方のチェックバルブ58のみにチェックバネ72を設ける方法と、両方のチェックバルブ58・58にチェックバネ72を設ける方法がある。
一方のチェックバルブ58のみにチェックバネ72を設ける構成とする場合、チェックバネ72が設けられた方のチェックバルブ58においては、チェックバネ72が設けられない方と比較して、該チェックバネ72により弁球71が付勢される分、開弁圧が高くなる。つまり、チェックバネ72が設けられることにより開弁圧が高くなる分、負荷制御が開始される際のメイン油路13内の油圧が上昇することとなる。これにより、前述したHMT等のように、後進時に牽引力が小さくなる構成においては、後進時に高圧側となるメイン油路13b側のチェックバルブ58にのみチェックバネ72を設けることで、メイン油路13内の油圧が十分に上昇した状態で負荷制御が行われることとなるので、後進時においてもエンジンの馬力を有効利用することができて十分な牽引力を得ることができる。
また、両方のチェックバルブ58・58にチェックバネ72を設ける構成とする場合、各チェックバルブ58におけるチェックバネ72による付勢力(バネ定数)を異なるもととすることにより、各チェックバルブ58・58における開弁圧に差を設けることができる。つまりこの場合、他方のチェックバルブ58と比較して高い付勢力を有するチェックバネ72を備えるチェックバルブ58においては開弁圧が高くなり、その分、負荷制御が開始される際のメイン油路13内の油圧が上昇することとなる。
このように、チェックバルブ58・58の少なくとも一方に開弁圧設定用のチェックバネ72を設けることで、各チェックバルブ58・58における開弁圧に差を設けることにより、負荷制御が開始される基準となる高圧側のメイン油路13内の油圧を容易に設定することが可能となる。
また、HST1においては、負荷制御機構4・104に設けられてメイン油路13からの圧油力に対向してスプール41を押圧するための圧油が導入される背圧室42a・142aの近傍に、該背圧室42a・142aと連通する絞りが設けられている。すなわち、図11に示すように、油圧ポンプ10側の負荷制御機構4における背圧室42aの近傍に設けられる絞り部としてはオリフィス61が設けられる。また、油圧モータ11側の負荷制御機構104における背圧室142aの近傍に設けられる絞り部としてはスローリターンバルブ60が設けられる。
オリフィス61は、図3及び図6に示すように、シリンダ40に形成され負荷制御機構4の背圧室42aと連通する背圧油路17において、該シリンダ40に埋設されるボルト状の部材により構成され、背圧室42aに対して給排される油量を制御する。
また、スローリターンバルブ60は、前記のとおりシリンダ孔142の開口端部に螺挿されるボルト体49内において構成され、背圧室142aと背圧油路17との間に介装される。スローリターンバルブ60は、背圧室142a側から背圧油路17側への作動油の流れを規制するチェックバルブ機能を有するとともに、同じく背圧室142a側から背圧油路17側へと排出される作動油の流量を制限するオリフィス機能を有している。具体的には次のような構成となっている。
すなわち、図15に示すように、ボルト体49の外周部には、その螺挿方向略中央部にネジ部49aが形成されており、該ネジ部49aによりボルト体49がシリンダ孔142に形成されるネジ部に対して螺合される。ボルト体49は、その先端側に開口するバルブ穴49bを有している。バルブ穴49bの底側には、該バルブ穴49bが縮径されて形成される油給排ポート49cが設けられている。該油給排ポート49cは、ボルト体49に形成される油路49dを介して背圧油路17に連通される。また、ボルト体49の外周部には溝部49eが形成されており、該溝部49eによりシリンダ40のシリンダ孔142との間に背圧油路17と連通する油溜り85が形成される。つまり、前記油路49dは油溜り85に開口する。
前記バルブ穴49bには、スプール80がその先端より摺動自在に内挿されている。スプール80は摺動方向に長い略筒状に形成され、その先端部には該スプール80の摺動により前記油給排ポート49cを開閉するバルブ部80aが形成されている。該バルブ部80aがバルブ穴49bと油給排ポート49cとの段差部(油給排ポート49cの開口部)に形成されるシート面に当接することにより、油給排ポート49cが閉じられる(バルブ穴49bと油給排ポート49cとが分断される)。スプール80は、その後端部に当接するバネ81により油給排ポート49cを閉じる方向に付勢されている。バネ81は、バルブ穴49bの開口部に嵌合されてサークリップ83により固定される台座82により受けられる。つまり、バネ81はスプール80の後端部と台座82との間に介装されスプール80を押圧付勢する。
スプール80の内部には、その摺動方向に長く後端側に向けて開口する油路穴80bが形成されている。油路穴80bは、スプール80のバルブ部80aの先端部において先端側に開口するオリフィス80cと連通している。また、スプール80には、油路穴80bと連通するとともに該スプール80において側方に向けて開口する連通孔80dが形成されている。つまり、油路穴80b内は連通孔80dを介してバルブ穴49b内と連通している。また、前記台座82には、バルブ穴49b内と背圧室142a内とを連通させる孔部82aが形成されている。
このような構成を有するスローリターンバルブ60の動作態様について、図16を用いて説明する。図16(a)に示すように、スローリターンバルブ60の一次側(背圧油路17側)と二次側(背圧室142a側)との圧力差がない状態(自然状態)では、背圧室142aと背圧油路17との間での作動油の行き来は無く、バネ81の付勢力によりスプール80のバルブ部80aが油給排ポート49cのシート面に当接し、油給排ポート49cが閉じられた状態となる。図16(b)に示すように、背圧室142a側の油圧が背圧油路17側の油圧より高い状態では、油圧及びバネ81の付勢力によりスプール80が押圧されて油給排ポート49cが閉じられた状態となる。この状態で、作動油は背圧室142aからスプール80に形成されるオリフィス80cを介して背圧油路17側へと流出する。このオリフィス80cにより、背圧油路17側へ流出する作動油の流量が制限される。図16(c)に示すように、背圧室142a側の油圧が背圧油路17側の油圧より低い状態では、この差圧によりスプール80を摺動させる力が、バネ81の押圧力によりスプール80を付勢する力を上回った場合、スプール80がバネ81の付勢力に抗して摺動される。これにより、油給排ポート49cは開いた状態(バルブ部80aが前記シート面から離間した状態)となり、作動油は背圧油路17から油給排ポート49cバルブ穴49bを介して背圧室142a側へと流れる。この際、作動油の流量はオリフィス80cにより制限されない。
このように、各負荷制御機構4・104における背圧室42a・142aの近傍に、絞りとしてのオリフィス61及びスローリターンバルブ60を設けることにより、各負荷制御機構4・104において十分な背圧効果を得ることができるので、負荷制御が行われる際のスプール41・141の動きを緩慢にすることができる。これにより、負荷制御機構4・104におけるハンチングが抑制され、負荷制御をスムーズに安定して行うことができる。
すなわち、油圧ポンプ10側の負荷制御機構4において負荷制御が行われる際には、ピン44によるスプール41の摺動により背圧室42a内の作動油が背圧油路17に排出されるところ、オリフィス61において流量が制限されるので、背圧室42a内の油圧を高めることができる。従って、メイン油路13からの油圧に対向する背圧としてバネ45による押圧力にオリフィス61により高められた油圧が加わるので、スプール41の減速側への摺動を緩慢にすることができる。これにより、急激な負荷制御を防止することができる。
また、油圧モータ11側の負荷制御機構104において負荷制御が行われる際には、ピン144によるスプール141の摺動により背圧室142a内の作動油が背圧油路17に排出されるところ、前述したように、スローリターンバルブ60のオリフィス80cにより流量が制限されるので、背圧室142a内の油圧を高めることができる。これにより、スプール141の減速側への摺動を緩慢にすることができ、急激な負荷制御を防止することができる。特に、本実施例においては、斜板角度の微妙な変化が作業車両の速度に影響する中・高速領域において作動する油圧モータ11側の負荷制御機構104に対し、その背圧を制御するためのスローリターンバルブ60が設けられている。
また、同じく油圧モータ11側の負荷制御機構104においては、負荷制御がスムーズに行われるようにするため、次のような構造が施されている。すなわち、図10に示すように、油圧モータ11側の負荷制御機構104におけるスプール141と変速駆動部材であるピン27との係合位置にて、該スプール141と、最高速位置のピン27との間に間隔sが設けられている。
具体的には、スプール141とピン27の係合位置とは、前述したように、スプール141の貫通孔141aにおける切欠き部141bとピン27の拡径部27cとが係合する位置である。この係合位置において、ピン27が最高速位置にあるとき(油圧モータ11の可動斜板11aが中立位置にあるとき)には、拡径部27cと切欠き部141bとが、減速側に摺動するスプール141に対して最も接近した状態となる。この状態のピン27(図10において二点鎖線で示す)に対し、その拡径部27c(の上端)とスプール141の切欠き部141bとの間に間隔sを設ける。つまり、間隔sは、負荷制御時にスプール141が摺動を開始してからピン27と係合するまでの摺動量となる。
このように、スプール141とピン27との係合位置において間隔sを設けることにより、メイン油路13内の油圧が高まりピン144により押圧されるスプール141を、所定量(間隔s分)摺動した後にピン27と係合させることができる。これにより、負荷制御機構時におけるスプール141の摺動をより緩慢にすることができ、負荷制御をよりスムーズに安定して行うことができる。つまり、油圧モータ11側の負荷制御機構104においては、前記のとおりスローリターンバルブ60が設けられることにより、スプール141が減速側に摺動するに伴い背圧室142a内の油圧が高まって該スプール141の動きが緩慢になるところ、スプール141がピン27と係合するまでに所定量摺動させることにより、スプール141の動きがより緩慢になった状態でピン27に係合させることができる。
さらに、油圧モータ11側の負荷制御機構104においては、負荷制御がスムーズに行われるようにするため、次のような構造が施されている。すなわち、図10に示すように、スプール141に、該スプール141とシリンダ40との間を液密に保持するシール部材としてのOリング84が設けられている。具体的には、Oリング84は、スプール141の背圧室142a側端部において、該スプール141に形成される外周溝に装着される。これにより、スプール141が、そのOリング84部分においてシリンダ40のシリンダ孔142の内壁と密着することとなり、スプール141の背圧室142aに対する液密性が保持される。
このように、スプール141にシール部材としてのOリング84を設けることにより、スプール141が減速側に摺動することによって背圧室142a内の作動油を漏れなくスローリターンバルブ60へと導くことができる。従って、スローリターンバルブ60を設けることによる背圧効果を向上させることができ、負荷制御時におけるスプール141の動きを確実に緩慢にすることができる。これにより、負荷制御をよりスムーズかつ安定して行うことができる。
また、HST1においては、図11に示すように、チャージ油路16から油圧ポンプ10側の油圧サーボ機構2及び油圧モータ11側の油圧サーボ機構102それぞれにチャージ圧油を導く油路19の、負荷制御機構4・104に背圧を供給するチャージ圧油の油量を制限しない位置に、各油圧サーボ機構2・102に構成される斜板角度制御バルブへ導入される油量を制限する定流量バルブ55が設けられている。
すなわち、チャージ油路16から各油圧サーボ機構2・102に対して分岐する油路19・19それぞれに定流量バルブ55が設けられ、該定流量バルブ55により、チャージ油路16から油路19を介して油圧サーボ機構2・102の斜板角度制御バルブ23に供給される圧油の流量が独立に制限されることとなる。ここで、定流量バルブ55は、チャージ油路16から分岐して各油圧サーボ機構2・102に接続される油路19・19において、負荷制御機構4・104における背圧として用いられるチャージ圧を制限することのない位置に設けられる。つまり、定流量バルブ55は、チャージ油路16から分岐してチャージ圧油を各負荷制御機構4・104の背圧油路17に供給する油路18内のチャージ圧油の流量を制限することのない位置に設けられる(図11参照)。
定流量バルブ55は、図5に示すように、HST1のハウジング12の一端部において形成される孔部12bに螺挿されて埋設されるボルト部材90内に構成され、チャージ油路16から油路19を介して油圧サーボ機構2・102のピストン21内(シリンダ室24内)に導かれる作動油の油量を制限する。つまり、チャージ油路16から油路19を介する作動油は、定流量バルブ55により流量が制限され、孔部12bと連通する油路21bを介して油圧サーボ機構2・102のシリンダ室24内へと導かれる。
図17に示すように、ボルト部材90内には、その螺挿方向の先端側に開口するバルブ穴90aが形成されており、該バルブ穴90a内に筒状に構成されるスプール91が摺動自在に内挿される。スプール91は、バルブ穴90aの開口部に嵌合されサークリップ93により固定されるバネ受け92との間にバネ94を介装し、該バネ94により押圧付勢されている。バネ受け92には連通孔92aが形成されており、該バネ受け92を介してバルブ穴90aと前記油路21bとが連通される。ボルト部材90の外周部には溝部90bが形成されており、該溝部90bによりボルト部材90と孔部12bとの間に、前記油路19と連通する油溜り95が形成される。この油溜り95は、ボルト部材90に形成される側孔90cを介してバルブ穴90a内と連通する。
スプール91には、バルブ穴90aに内挿された状態で該バルブ穴90aの奥側(図17において上側)に開口する孔部である油給排ポート91aが形成されている。また、スプール91のバネ94側には、該バネ94を受けるバネ室91bが形成されている。これら油給排ポート91aとバネ室91bとは、スプール91の摺動方向中途部に形成されるオリフィス91cを介して連通される。また、油給排ポート91aは、前記側孔90cと略同径の連通孔91dを介してスプール91側方に開口される。そして、スプール91がバネ94による付勢力によりバルブ穴90aの底面に当接した状態で、該スプール91の連通孔91dとボルト部材90の側孔90cとが互いの中心位置を合わせて連通した状態となる。つまり、スプール91がバネ94により押圧されてバルブ穴90aの底面に当接した状態が、連通孔91dと側孔90cとの連通面積が最大の状態となる。また、バルブ穴90aの底面には、窪み状の油溜り90dが形成されている。
このような構成において、スプール91がバルブ穴90aの底面に当接した状態では、チャージ油路16から油路19を介するチャージ圧油は、油溜り95、側孔90c及び連通孔91dを介して油給排ポート91a内に流入する。油給排ポート91a内の圧油は、オリフィス91cを介してバネ室91b側(二次側)へと流出し、バネ受け92の連通孔92aを介してピストン21の油路21bへと流出する。ここで、オリフィス91cにより流量が絞られることから、二次側の油圧が低減する一方、一次側(バルブ穴90aにおけるオリフィス91cより奥側)の油圧は上昇する。この上昇する油圧により、スプール91はバネ94の付勢力に抗してバネ受け92側(図17において下側)へと摺動される。このスプール91の摺動により、連通孔91dと側孔90cとの連通面積は減少することとなる。これにより、油溜り95から側孔90cを介してバルブ穴90a内に流入するチャージ圧油の流量は減少し、定流量バルブ55の一次側の油圧は低減する。そして、二次側の油圧が一次側の油圧を上回ると、スプール91はバルブ穴90a内における奥側に摺動する。
つまり、定流量バルブ55は、該定流量バルブ55に流入するチャージ圧油の流量が所定量よりも増加すると、スプール91の摺動によりボルト部材90の側孔90cとスプール91の連通孔91dとの連通面積が減少されて流量が絞られ、逆に流量が所定量よりも減少すると、前記連通面積が増加されて流量が増やされるという可変オリフィスに構成されている。
このように、定流量バルブ55を、各油圧サーボ機構2・102にチャージ圧油を導く油路19・19それぞれに設けることにより、油圧サーボ機構2・102による可動斜板の制御の安定化を図ることができるとともに、負荷制御機構4・104による負荷制御を精度良く行うことができる。つまり、定流量バルブ55によって油圧サーボ機構2・102に導かれる油量を制限することにより、油圧サーボ機構2・102の動作を緩慢にすることができるとともに、斜板角度制御バルブ23への供給油圧が安定して脈動が抑制され、油圧サーボ機構2・102おける制御を安定させることができる。また、負荷制御機構4・104に背圧を供給するチャージ圧油の流量が制限されることがないので、メイン油路13からの油圧に対向する背圧を十分に得ることができ、負荷制御を精度良く行うことができる。