JP4594605B2 - 正極活物質およびこれを含む非水電解質二次電池 - Google Patents

正極活物質およびこれを含む非水電解質二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、正極活物質、特に非水電解質二次電池に用いる正極活物質に関する。さらに本発明は、特定の正極活物質を含む正極を有し、高容量で安価な非水電解質二次電池に関する。
近年、コードレスおよびポータブルなAV機器およびパソコンなどの普及にともない、それらの駆動用電源である電池についても、小型、軽量および高エネルギー密度の電池への要望が強まっている。特に、リチウム二次電池は、高エネルギー密度を有する電池であることから、次世代の主力電池として期待され、その潜在的市場規模も大きい。現在市販されているリチウム二次電池の大半においては、正極活物質として4Vの高電圧を有するLiCoO2が用いられているが、Coが高価であることから、LiCoO2に代わる様々な正極活物質が研究されている。なかでも、リチウム含有遷移金属酸化物が精力的に研究され、LiNiaCob2(a+b≒1)が有望であり、また、スピネル構造を有するLiMn24の商品化がされている。
また、高価なコバルトの代替材料として、ニッケルおよびマンガンについての研究が盛んに行われており、例えば層構造を有するLiNiO2は大きな放電容量を発揮することが期待されるが、充放電にともなって結晶構造が変化することから劣化の程度が大きい。そこで、充放電時の結晶構造を安定化し、劣化を抑制することのできる元素をLiNiO2に添加することが提案されている。具体的には、コバルト、マンガン、チタンおよびアルミニウムなどの元素が挙げられている。ここで、リチウム二次電池用の正極活物質として使用されるNiおよびMnの複合酸化物の組成に関しては、表1に示されるものが従来技術として挙げられる。
上述のような米国特許公報および日本特許出願公開公報に記載された複合酸化物は、全てLiNiO2のサイクル特性などの電気化学的特性を改善するために、LiNiO2の特徴を残しつつ、LiNiO2に微量の元素を添加して得られる。したがって、添加後に得られる活物質に含まれるNiの量がMnの量を常に上回っており、Ni:Mn=0.8:0.2の比が好ましいとされる。また、最もMn量が多い比としては、Ni:Mn=0.55:0.45が開示されている。しかし、これら従来技術においては、LiNiO2がLiMnO2と分離してしまうため、単一相の結晶構造を有する複合酸化物を得るのは困難である。これは、共沈の際に別々の領域で酸化されるニッケルおよびマンガンの性質から均質な酸化物を形成しにくいからであると考えられる。
そこで、現在市販されている4Vの高電圧を有するLiCoO2の代替材料として、同様の層構造を有しつつ高容量で低コストの正極活物質であるLiNiO2およびLiMnO2の研究開発がなされている。しかし、LiNiO2の放電カーブの形状は平坦でなく、かつそのサイクル寿命も短い。さらに、耐熱性も低く、LiNiO2をLiCoO2の代替材料として使用するには大きな問題がある。LiNiO2に様々な元素を添加して改良することが試みられているが、その改良は未だ不充分である。また、LiMnO2では3Vの電圧しか得られないことから、層構造を有さず、容量の低いスピネル構造をもつLiMn24が研究されはじめている。すなわち、LiCoO2と同等の4Vの電圧を有し、平坦な放電カーブを示し、さらにLiCoO2より高容量で低価格の正極活物質が求められていた。
これに対して、特願2000−227858号明細書(特開2002−42813号公報)では、LiNiO2が持つ特性やLiMnO2が持つ特性を新たな添加元素を入れることで改良する技術ではなく、ニッケル化合物とマンガン化合物を原子レベルで均質に分散させて固溶体を形成することで、新たな機能を発現するニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質が提案されている。このように、従来技術においては、多くの添加元素が提案されているが、そのなかでどの元素が具体的に好ましいかが技術的に明確にはされていなかったのに対し、ニッケルおよびマンガンをほぼ同比率で組合せることにより新たな機能を発現し得る正極活物質が提供されている。
つぎに、複合酸化物の結晶構造および粒子の形態に関しては、以下のような従来技術がある。
以上のように、正極活物質を構成する複合酸化物の粒子に関し、粒径、細孔、比表面積、一次粒子、二次粒子およびこれらの集合体などに関する記載はあるものの、本発明の主眼とする一次粒子内の詳細な組織および結晶構造は一切開示されていない。すなわち、正極活物質を構成する複合酸化物の一次粒子の組織および結晶構造については詳細な研究がなされていなかった。
そこで、本発明は、ニッケルおよびマンガン元素の組成を制御し固溶させ、結晶構造および超格子構造を制御し、さらに一次粒子内の組織配列を同時に制御することにより、高容量でレート特性およびサイクル寿命の優れたリチウム含有複合酸化物からなる活物質を提供することを目的とする。
本発明は、少なくともニッケル元素およびマンガン元素を含むリチウム含有複合酸化物からなり、ツイニング部分を有する前記複合酸化物の一次粒子を含み、前記ツイニング部分は塑性変形により結晶の向きが変わる部分であり、複合酸化物が層状の結晶構造を有し、酸素の配列が立方最密充填構造であり、複合酸化物の結晶内で、ニッケル元素およびマンガン元素がナノレベルで均一に分散されていることを特徴とする正極活物質に関する。
前記複合酸化物が欠陥部分または歪み部分を有するのが好ましい。
前記複合酸化物が、R3mを仮定した場合に[√3×√3]R30°の超格子配列を含むのが好ましい。
前記複合酸化物がニッケル元素とマンガン元素を実質的に同比率で含むのが好ましい。
前記複合酸化物が、R3mを仮定して帰属したX線回折ピークにおいて、積分強度比(003)/(104)≦1.2の関係を満たすのが好ましい。
前記複合酸化物が、R3mを仮定した電子線回折において、実質的にすべてのパターンでエクストラスポットまたはストリークスを有するのが好ましい。
前記一次粒子が、球および長方形の平行6面体の少なくとも一種の形状を有するのが好ましい。
前記一次粒子が0.1〜2μmの粒径を有し、さらに2〜20μmの粒径を有する前記複合酸化物の二次粒子を含むのが好ましい。
また、本発明は、リチウムを吸蔵・放出する材料および/または金属リチウムを負極活物質として含む負極と、前記正極活物質を含む正極と、電解質とを具備することを特徴とする非水電解質二次電池に関する
本発明によれば、安価なニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として有効に利用でき、高容量でレート特性、サイクル寿命の優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
本発明は、少なくともニッケル元素およびマンガン元素を含むリチウム含有複合酸化物からなり、ツイニング(twining)部分を有する前記複合酸化物の一次粒子を含むことを特徴とする正極活物質に関する。ここで、ツイニング部分とは、組織(grain)および領域(domain)の界面をいう。
また、本発明においては、前記複合酸化物が層状の結晶構造を有し、酸素の配列が立方最密充填構造であること、および前記複合酸化物が欠陥(defect)部分または歪み(disorder)部分を有することを特徴とする。なお、本明細書においては、正極活物質のことを単に材料という場合もある。
本発明者らは、ニッケルおよびマンガン元素を含む一連のリチウム含有複合酸化物に関して鋭意研究・開発を進め、非水電解質二次電池用の正極活物質として優れた機能を発現するものを見出してきた。さらに、これらの従来技術をベースに、組成および結晶構造の制御に加え、粒子の形態を制御することで、より優れた機能を出現することを見出し、本発明を完成するに至った。
組成に関しては、ニッケルとマンガンを同時に含むことが前提となるが、その比率は1:1(同比率)であることが重要である。また、これら元素は酸化物中で相互に電子の状態の干渉を行い超格子の挙動を示す。これらは結晶内でニッケルおよびマンガン元素がナノレベルで均一に分散されていることが重要であると考えられる。結晶構造の観点からは、層構造を有し、酸素配列はABCABCスタッキングを持つ立方最密充填構造である。X線回折図形は層構造であるにも拘わらずR3mで帰属されるX線回折パターンの積分強度比が(003)/(104)≦1.2を満たすことが特徴的である。
形態に関しては、さらに一歩進んだところに踏み込み、一次粒子内の組織および粒界にいたるまで好ましい形態に制御することで、より優れた活物質を得る。
さらに、本発明者らは、異種元素を固溶させることで、さまざまな付加機能をさらに加え得ることも見出した。例えば、アルミニウム元素をドープすることで結晶粒子の耐熱性を向上させたり、電位を少し上げたり、充放電カーブの形状をフラットにすることが可能である。コバルト元素をドープすることで分極特性を改良することが可能である。また、マグネシウムドープすることで前記結晶粒子の電子伝導性を上げることができる。また、前記異種元素の種類を変えることにより、高温での前記結晶粒子の表面と電解液との反応によるガス発生量を少なくしたり、逆に多くしたりすることも可能である。
以下において、これらの第3元素としたコバルト、アルミニウム、マグネシウムに代表させて記載することがあるが、これに他の機能を付加することは容易に推測され実施も可能である。
(1) 本発明の活物質の粒子形態および結晶構造
以下に、本発明を、LiNi1/2Mn1/22およびLiNi1/3Mn1/3Co1/32に代表させて説明する。
図1および図2に本発明のリチウム含有複合酸化物のTEM(透過型電子顕微鏡:transmission electron microscope)写真を示す。図1はLiNi1/2Mn1/22のTEM写真であり、図2はLiNi1/3Mn1/3Co1/32のTEM写真である。これらの写真から、それぞれの複合酸化物の一次粒子径は100nm〜500nmおよび200nm〜1000nmであることがわかる。写真には代表的な部分のみが写っているが、観察したほぼ全ての部分において粒子径としてはこの範囲にあった。したがって、実際の粉末としては100nm〜2000nmの一次粒子から構成されているものと考えられる。
つぎに、一次粒子内の組織に関して説明する。図3はLiNi1/2Mn1/22の典型的な一次粒子のTEM写真である。この写真に示されるように、本発明に係る複合酸化物の粒子は球状(a)または長方形の平行六面体形状(b)を有する。また、図4はLiNi1/2Mn1/22の一次粒子内の組織の形態を示したTEM写真である。この写真から、粒子内にツイニング(twining)部分が存在することがわかる。
以上のように、本発明に係る正極活物質を構成する複合酸化物は、1)一次粒子の大部分が球状あるいは長方形の平行六面体形状であること、および2)一次粒子内にツイニング部分が存在することの2点を満たすことにより、優れた効果を奏する。
現在使用されているLiCoO2などの層構造を有する正極活物質では、リチウムイオンの挿入・脱離で充放電反応が成立しているが、リチウムイオンは層面に平行な方向から出入りするものと考えられる。したがって、六角柱の粒子形態をしたこのような材料においては、粒子の全面からではなく、層面に平行な方向のみからリチウムイオンが出入りするものと考えられる。また、このような従来の材料に関しては、粒子内の組織の方向に関する研究は詳細にはなされておらず、先行技術文献にもかかる記載は一切ない。
本発明に係る正極活物質も同様の層構造を有するが、前述の1)または2)、好ましくは両者を満たすことで粒子のあらゆる方向からリチウムイオンが出入りできることとなる。このことでリチウムイオンの物質移動に関わる分極抵抗が大幅に軽減され、結果として、レート特性の優れた活物質を実現することが可能である
図5はLiNi1/3Mn1/3Co1/32の一次粒子内の組織の形態を示したTEM写真である。LiNi1/2Mn1/22と同様の粒子形態が認められ(a)、多くのツイニング部分が認められることがわかる(b)。
また、図6はLiNi1/2Mn1/22の酸素配列を示すTEM写真である。図6中の枠内において白い部分が酸素で、層方向にABCABCの立方最密充填をしていることがわかる。図7はLiNi1/3Mn1/3Co1/32の酸素配列を示すTEM写真であり、同様にABCABCのように酸素が配列していることがわかる。
つぎに、図8の(a)および(b)はLiNi1/2Mn1/22の格子欠陥を示すTEM写真である。(b)は(a)を拡大したものである。図8の(b)からわかるように、右上の領域と左下の領域で組織は同一であるが、矢印で示した部分で格子の欠陥(defect)が観測される。また、図9は、LiNi1/2Mn1/22中に含まれる格子の歪み(disorder)を示すTEM写真である。
これらの欠陥および歪みは、本発明に係る良好な活物質を得るためには重要である。これらの欠陥および歪みを有する活物質は、充放電に伴って格子が膨張・収縮を繰り返す。この膨張・収縮によるストレスは、格子を破壊し、サイクル寿命を低下する原因の一つとなる。本発明においては、この格子の膨張・収縮によるストレスを、これらの欠陥および歪みが緩和することが可能であり、結果としてサイクル寿命が改良されるものと考えられる。
つぎに、本発明に係る正極活物質における超格子配列に関して説明する。図10はLiNi1/2Mn1/22の電子線回折写真である。図10には電子線回折の一部を示したが、R3mを仮定したほとんどすべての電子線回折パターンにおいてエクストラスポット(a)またはストリークス(b)が観測される。これは、C2/mを仮定したLi[Li1/3Mn2/3]O2の電子線回折パターンにおいて観測されるものに良く似ている。また、これらのエクストラスポットまたはストリークスの強度は、粒子によって異なり、さらに、前述のツイニング部分、欠陥または歪みの度合いなどによって異なるものと考えられる。
これらのエクストラスポットは[√3×√3]R30°の超格子配列に起因するものと考えられる。図11および図12に、TEM像からショートレンジでの超格子規則性を見出すために、フーリエ変換技法を用いて解析した像の写真を示す。図11および図12の(a)が元のTEM像を示す写真であり、図11および図12の(b)が変換後のTEM像の写真である。図11および図12の(b)の像は、図11および図12の(a)の像を一度フーリエ変換し、基本的なスポットを除きエクストラスポットのみを残した像を得た後、再度フーリエ変換を行って得た像の写真である。したがって、図11および図12の(b)の像に映し出されたものは、ショートレンジではあるが、超格子配列による規則性のみを示している。図11および12の(b)から明らかなように、周期性を示す像が観測される。
以上のような粒子形態および結晶構造を得るためには、ニッケルおよびマンガンを1:1に比率で含有することが重要である。代表的な例としてLiNi1/2Mn1/22およびLiNi1/3Mn1/3Co1/32について示したが、LiNi1/2Mn1/22に対するCoの添加量が0≦Co/(Ni+Mn)≦2を満たす範囲で同様の傾向が認められる。また、好ましくは、Co/(Ni+Mn)≦1を満たすのが好ましい。さらに、好ましくは、式(2):
LiCox/3Ni((3-x)/6)Mn((3-x)/6)2 (2)
(式中、0≦x≦1)で示される領域で上記の特徴が強く現れた。
つぎに、図13の(b)に、LiNi1/2Mn1/22のX線回折パターンを示した。六方晶を仮定したミラー指数において(104)と(003)の特徴的なピークの積分強度を注意深く測定し、それぞれの値で積分強度比を計算すると(003)/(104)=0.847となる。なお、図13の(a)には、比較のためにLiNiO2の場合も示した((003)/(104)=1.34)。一般的に層構造を有するLiCoO2およびLiNiO2のX線回折パターンにおいては、(003)面のピーク強度が最も強くなる。したがって、(003)/(104)の値は常に1以上の値である。
積分強度はピークの高さではなくピークの面積で示される。図13の(b)に示したX線回折パターンにおいては、(104)面の積分強度が最高であり、従来までの知見では、このようなピークを有する材料にはリチウムサイトに遷移金属が落ち込んだ岩塩型構造が含まれ、容量の小さい、分極の大きい好ましくない活物質であると判断されていた。
これに対し、本発明におけるLiNi1/2Mn1/22にのX線回折パターンにおいては、(003)/(104)が1以下の値を示し、この意味からも、本発明に係る正極活物質は、その組成は従来の材料の組成と似ていると言えるが、全く異なるものであると言える。なお、図14に、図13の(a)および(b)のピーク強度を示した。
図15にLiNi1/3Mn1/3Co1/32のX線回折パターンを示した。Coの添加により層構造が強く観測され、(003)/(104)=1.15と1以上の値を示した。また、図16に、R3mを仮定したミラー指数と、測定または計算から得られたd値と、強度比を示した。
なお、本発明者らは、以前からこれら一連の材料において、ニッケル元素は2価、マンガン元素は4価、コバルト元素は3価に制御することが重要であることを、理論的計算(第1原理計算)およびX線吸収微細構造測定(X-ray Absorption Fine Structure, XAFS)による解析結果から見出しており、本発明の活物質においてもこれらの解析結果が当てはまることを確認している。
(2) 本発明に係る正極活物質の電気化学特性
現在リチウム二次電池用の正極活物質として最も広く使用されているLiCoO2はリチウム金属に対して4.3V充電で140〜145mAh/gの電気容量を有する。負極に炭素材料を使用した実電池に用いた場合も、ほぼこの数値と同様の利用率を発揮する。したがって、この電位領域で同等以上の容量が確保できないようであれば、LiCoO2は魅力に欠ける材料となる。
上記(1)において説明した粒子形態および結晶構造を具備する本発明に係る正極活物質の電気化学特性を、コイン型電池を作製することにより評価した。コイン型電池は以下の手順で作製した。正極活物質、導電材であるアセチレンブラック、結着剤であるポリフッ化ビニリデン樹脂(以下、「PVDF」という。)を80:10:10の重量比で混合し、シート状成形物を得た。そしてこの成形物を円盤状に打ち抜き、真空中で80℃の温度で約15時間乾燥させ、正極を得た。また、シート状に成形されたリチウム金属を円盤状に打ち抜いて負極とした。セパレータとしてはポリエチレンの微多孔膜を用い、電解液は、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)の1:3(体積比)の混合溶媒に、1モルのLiPF6を溶解して調製した。そして、これらを用いて常法により、2016サイズ(径が20ミリ、厚み1.6ミリ)のコイン型電池を作製した。
図17に、リチウム金属に対して4.3V充電(定電圧定電流充電)を行った場合の、LiNi1/2Mn1/22の充放電カーブを示した。また、図18に充放電サイクル数に対するLiNi1/2Mn1/22の放電容量を示した。図18から約150mAh/gの充放電容量を得ることができ、かつ4V級で一段の放電電圧が得られることがわかる。さらに、LiCoO2およびLiNiO2などでは、結晶構造の安定性および電解液との反応性を考慮すると実質的には不可能と考えられる4.6Vまでの充電を行った。図19に、4.6Vまで充電を行った場合の充放電カーブを示した。また、図20に、充放電サイクル数に対する放電容量を示した。図20から、約195mAh/gの充放電容量を得ることができ、かつ、サイクル寿命も極めて良好であることがわかる。
同様にLiNi1/3Mn1/3Co1/32について、図21および図22にそれぞれ4.6V充電時の充放電カーブおよびサイクル寿命を示した。図より約200mAh/gの充放電容量を得ることができ、かつ、サイクル寿命も極めて良好であることがわかる。
以上より、本発明は、従来の材料に比較し、高容量でサイクル寿命に優れた活物質を提供できる。
(3)本発明に係る正極活物質の製造方法
つぎに、本発明の正極活物質の具体的な製造方法に関して説明する。ここでは、代表的な製造方法を説明するが、上述したように、本発明においては粒子形態が重要であるため、かかる粒子形態を実現できるのであれば、以下に説明する方法に限られるものではない。
本発明に係る正極活物質の製造方法は、2種以上の遷移金属塩を含む水溶液または異なる遷移金属塩の2種以上の水溶液と、アルカリ溶液とを同時に反応槽に投入し、還元剤を共存させながらまたは不活性ガスを通気しながら共沈させることにより前駆体である水酸化物を得る工程(ア)、前記前駆体を300〜500℃で乾燥して乾燥前駆体を得る工程(イ)、ならびに前記前駆体とリチウム化合物との混合物を焼成及び冷却してリチウム含有遷移金属酸化物を得る工程(ウ)を含む。
まず、共沈法による工程(ア)について、共沈法は、水溶液中で中和反応を利用して主として複数元素を同時に沈殿させて複合水酸化物を得る方法である。ニッケル、マンガンおよびコバルトの場合を例にとると、マンガンは非常に酸化され易く、水溶液中に微量に存在する溶存酸素でも充分に酸化されてマンガン3価のイオンが混在することとなる。そのため、原子レベルの固溶が不完全になってしまう。この工程におけるポイントは、同じ構造の層状水酸化物の中にニッケル、マンガンおよびコバルト元素が分離することなく存在させ、ダブルハイドロオキサイドまたはトイリプルハイドロオキサイドを生成させることである。従来、このような事態を抑制するため、水溶液中に不活性ガスである窒素またはアルゴンなどをバブリングして溶存酸素を除去するか、またはヒドラジンなどの還元剤をあらかじめ水溶液中に添加するなどの方法がとられてきた。本発明においてもこのことは重要でる。
さらに、本発明では遷移金属塩を含む水溶液としては硫酸塩を用いた。硝酸塩はニッケルイオン存在下でマンガンを酸化し得るため、使用するのは好ましくない。本発明者らは、1.2モル/リットルのNiSO4水溶液とMnSO4水溶液とCoSO4水溶液の混合溶液、4.8モル/リットルのNaOH水溶液、および4.8モル/リットルのNH3溶液を、0.5ミリリットル/minの速度で反応槽に同時に供給した。さらに、本発明に係る正極活物質の組成のようにニッケルおよびマンガンを1:1の比率にする場合は、組成比に関しても厳密に1:1とする方がよい。
図23に、比較のために、ニッケルとマンガンの組成比が1:1からずれた組成比を有する材料のX線回折パターンを示した。図23の(a)が、Ni:Mn=1.02:0.98の場合、図23の(b)がNi:Mn=1.005:0.995の場合である。また、図24に、これらの材料を用いた場合の充放電カーブを示した。図24から、Ni:Mn=1.02:0.98のものに比較しNi:Mn=1.005:0.995のものの方が、初期容量およびサイクル寿命に優れていることがわかる。このとき、X線回折パターンは全くと言って良いほど同一で区別できない。従来から、組成およびX線回折パターンのみで材料の出来不出来が論じられてきたが、これらのみで材料の評価をすることは不充分であることがわかる。コバルトが添加された場合に関してもNi:Mnの比率は厳密に1:1にする方が好ましい。
つぎに、工程(ア)において得た前駆体である水酸化物を加熱焼成および乾燥して、乾燥前駆体を得る。このときの加熱温度は、含有される水が過熱により脱水されるが、この脱水がほぼ完了し、重量が一定となる温度であるという理由から、300〜500℃であるのが好ましい。500℃を超えると前駆体の結晶性が上がり過ぎるため、リチウムとの反応性が低下し、好ましくない。また、加熱時間は、乾燥する粉末状の前駆体の充填量などによって影響されるが、脱水を完了させるという意味合いから1〜10時間であればよい。
ついで、工程(ウ)において、前記乾燥前駆体およびリチウム化合物を混合し、得られる混合物を焼成する。このときのリチウム化合物としては、炭酸リチウムおよび/または水酸化リチウムを用いるのが好ましい。なかでも、水酸化リチウムを用いるのが好ましい。炭酸リチウムを用いた場合も、目的とする単一相のリチウム含有複合酸化物からなる正極活物質を得ることは可能であるが、粒子形状の制御および結晶性などの面で水酸化リチウムを用いる方が有利である。ニッケルマンガンコバルト水酸化物または酸化物と水酸化リチウムとを乾式で充分に混合する。
このとき、水酸化リチウムとニッケル、マンガンおよびコバルト複合酸化物とは、得ようとする正極活物質の組成に応じて混合すればよいが、Li、Ni、MnおよびCoの原子比がLi/(Ni+Mn+Co)=1を満たすように混合するのが理想的である。しかし、物性の制御のために、上記原子比を若干増やしたり減らしたりすることもできる。例えば、焼成温度が高温のときや、焼成後の一次粒子を大きくしたり、より結晶の安定化を図りたいときは、リチウムを多少多めに混合する。この場合、約3%程度の増減が好ましい。
前記乾燥前駆体とリチウム化合物との混合物の焼成の雰囲気は、酸化雰囲気であればよい。したがって、通常の大気雰囲気でよい。共沈で得られた水酸化物または酸化物と水酸化リチウムを乾式で混合し、ニッケル、マンガンおよびコバルトなどの好ましい元素の酸化反応が同時に起こるほうが均一な複合酸化物となり易いという理由から、900〜1200℃の温度で焼成するのが好ましい。
ここで、図25にLiNi1/2Mn1/22の焼成温度による充放電挙動を示した。図25の(a)は750℃で焼成した場合、図25の(b)は1000℃で焼成した場合のX線回折パターンである。また、図26の(a)は750℃で焼成した場合、図26の(b)は1000℃で焼成した場合の充放電カーブである。図25および図26から、電気容量およびサイクル寿命ともに1000℃焼成のほうが好ましいことがわかる。焼成時間としては設定温度に達してから1〜10時間焼成することが好ましい。
本発明に係る正極活物質の製造方法においては、焼成時および冷却時に、従来にない制御を行う。基本的な考え方として、本発明においては急速加熱および急冷を行う。7℃/分以上の昇温速度での急速加熱、および5℃/分以上の冷却速度で急冷を行うことが好ましい。これにより、得られる一次粒子内の組織が前述のように制御することができる。また、急冷を行った場合は、酸素が欠損することが考えられるため、700〜750℃で再度空気中で加熱処理を1〜5時間施すのが好ましい。
以上をまとめると、本発明の材料を合成するために従来の共沈法をベースに、主として、1) 溶存酸素の除去、硝酸イオンの除去、および還元剤の投入による徹底したMnイオンの酸化防止、2) ニッケルおよびマンガン元素の1:1比率の精度アップ、ならびに3) 焼成工程での急速加熱および急冷を行う。
なお、本発明に係る正極活物質は、実質的にニッケル、マンガンおよびコバルトなどの遷移金属を含むが、前記正極活物質を構成する結晶粒子に新たな異種元素(添加元素またはドーパント)を添加することによって付加価値が得られることは容易に予測可能である。
したがって、本発明の正極活物質にはその他の新たな異種元素が含まれていてもよい。特に、前記正極活物質を構成するリチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質の結晶粒子は粒状であるため、その表面近傍にそのような添加元素を含めるのが実際的である。このような添加元素による付加機能を有する正極活物質もすべて本発明に含まれる。
かかる異種元素としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ジルコニウム、イットリウムおよびイッテルビウムなどがあげられる。アルミニウムをドープすることで正極活物質の電位が多少増加すると同時に熱的な安定性が向上する。この場合、前述した工程(ア)および(イ)で得られた前駆体を水酸化リチウムと混合して焼成するが、このときに適量の水酸化アルミニウムなどのアルミニウム源を同時に混合する。これにより、アルミニウムは共晶した酸化物粒子の内部まで全体にわたって均一にドープされることはなく、表面近傍のみにドープされたアルミニウムの濃度が高くなる。
このことは、結晶粒子の特性X線分析などで確認できる。したがって、ドープによると正極活物質を構成する結晶粒子の母体は遷移金属元素の結晶構造の効果を保ち、結晶粒子の表面の状態だけが変わることにより上述した効果を付加することができる。
なお、アルミニウムなどの添加量が増加するに伴って結晶構造の効果が減少してくるので、表面に多少偏在させる方が効果的である。ストロンチウム、ジルコニウム、イットリウム、カルシウム、およびイッテルビウムなども耐熱性を向上させる効果を付与することができる。また、マグネシウムを添加することで正極活物質の電子伝導性を約1〜2桁向上させることができる。この場合も同様に水酸化マグネシウムを前記前駆体と水酸化リチウムと混合して焼成すればよい。焼成も前述した方法で行えばよい。こうして得られた正極活物質を電池に用いる場合、電子伝導性が極めて高いので導電剤の量を減らして容量アップなどが期待できる。これらの異種元素の添加量は、前記3種の遷移金属の合計の0.05〜20原子%の範囲であるのが有効である。0.05原子%未満では充分な効果が得られず、20原子%を超えると容量が低下するという不具合が生じるからである
(4) 非水電解質二次電池
以下、本発明の正極活物質を用いた非水電解質(リチウム)二次電池を作製する場合に使用可能な他の構成材料に関して説明する。
本発明における正極を作製するために用いる正極合剤中の導電剤は、構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)および人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維および金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀などの金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ならびにポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などをあげることができる。これらは、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に混合して用いることができる。 これらのなかでも、人造黒鉛、アセチレンブラック、ニッケル粉末が特に好ましい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、1〜50重量%が好ましく、特に1〜30重量%が好ましい。カーボンやグラファイトでは、2〜15重量%が特に好ましい。
本発明における正極合剤中の好ましい結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびフッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などをあげることができる。これらは、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に混合して用いることができる。
特に、このなかで最も好ましいのはポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
正極の集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限はない。集電体を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、種々の合金および炭素などの他、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させた複合体なども用いることができる。
特に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が好ましい。これらの材料の表面を酸化しておくこともできる。また、表面処理により集電体表面に凹凸を付けてもよい。形状としては、電池の分野において採用されているものであってよく、例えば箔、フィルム、シート、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群および不織布などがあげられる。厚さは、特に限定されないが、1〜500μmのものが好ましく用いられる。
本発明で用いられる負極材料としては、リチウム、リチウム合金、合金、金属間化合物、炭素、有機化合物、無機化合物、金属錯体および有機高分子化合物など、リチウムイオンを吸蔵・放出できる化合物であればよい。これらはそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
リチウム合金としては、Li−Al系合金、Li−Al−Mn系合金、Li−Al−Mg系合金、Li−Al−Sn系合金、Li−Al−In系合金、Li−Al−Cd系合金、Li−Al−Te系合金、Li−Ga系合金、Li−Cd系合金、Li−In系合金、Li−Pb系合金、Li−Bi系合金およびLi−Mg系合金などがあげられる。この場合、リチウムの含有量は10重量%以上であることが好ましい。
合金、金属間化合物としては遷移金属と珪素の化合物や遷移金属とスズの化合物などがあげられ、特にニッケルと珪素の化合物が好ましい。
炭素質材料としては、コークス、熱分解炭素類、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズ小球体、気相成長炭素、ガラス状炭素類、炭素繊維(ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、気相成長炭素系)、不定形炭素および有機物の焼成された炭素などがあげられる。これらはそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いてもよい。なかでも、メソフェーズ小球体を黒鉛化したもの、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛材料が好ましい。
なお、炭素質材料には、炭素以外にも、O、B、P、N、S、SiCおよびB4Cなどの異種化合物を含んでもよい。含有量としては0〜10重量%が好ましい。
無機化合物としては、例えばスズ化合物および珪素化合物などがあげられ、無機酸化物としては、例えばチタン酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、ニオブ酸化物、バナジウム酸化物および鉄酸化物などがあげられる。
また、無機カルコゲナイドとしては、例えば硫化鉄、硫化モリブデンおよび硫化チタンなどがあげられる。
有機高分子化合物としては、例えばポリチオフェンおよびポリアセチレンなどの高分子化合物があげられ、窒化物としては、例えばコバルト窒化物、銅窒化物、ニッケル窒化物、鉄窒化物およびマンガン窒化物などがあげられる。
これらの負極材料は、組み合わせて用いてもよく、例えば炭素と合金の組合せ、または炭素と無機化合物の組合せなどが考えられる。
本発明で用いられる炭素材料の平均粒径は0.1〜60μmが好ましい。より好ましくは0.5〜30μmである。比表面積は1〜10m2/gであるのが好ましい。また、結晶構造上は、炭素六角平面の間隔(d002)が3.35〜3.40Åでc軸方向の結晶子の大きさ(LC)が100Å以上の黒鉛が好ましい。
本発明においては、正極活物質にLiが含有されているため、Liを含有しない負極材料(炭素など)を用いることができる。また、そのようなLiを含有しない負極材に、少量(負極材料100重量部に対し、0.01〜10重量部程度)のLiを含有させておくと、一部のLiが電解質などと反応したりして不活性となっても、上記負極材料に含有させたLiで補充することができるので好ましい。
上記のように、負極材料にLiを含有させるには、例えば、負極材料を圧着した集電体上に加熱・溶融したリチウム金属を塗布して負極材にLiを含浸させたり、あるいは予め電極群中に圧着などによりリチウム金属を貼付し、電解液中で電気化学的に負極材料中にLiをドープさせたりすればよい。
負極合剤中の導電剤は、正極合剤中の導電剤と同様に、構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に制限はない。また、負極材料に炭素質材料を用いる場合は炭素質材料自体が電子伝導性を有するので導電剤を含有してもしなくてもよい。
負極合剤中の結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、好ましい結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーである。 例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびフッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などあげることができる。より好ましくは、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデンである。なかでも最も好ましいのは、スチレンブタジエンゴムである。
負極の集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限はない。集電体を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンおよび炭素などの他、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンまたは銀で処理したもの、Al−Cd合金などが用いられる。特に、銅または銅合金が好ましい。これらの材料の表面を酸化してもよい。また、表面処理により集電体表面に凹凸を付けてもよい。
形状は、上記正極の場合と同様に、例えば箔、フィルム、シート、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体および繊維群の成形体などが用いられる。厚みは、特に限定されないが、1〜500μmのものが好ましく用いられる。
電極合剤には、導電剤や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤およびその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、0〜30重量%が好ましい。
本発明における正極および負極は、正極活物質または負極材料を含む合剤層の他に、集電体と合剤層の密着性、導電性、サイクル特性および充放電効率の改良などの目的で導入する下塗り層や合剤層の機械的保護や化学的保護の目的で導入する保護層などを有してもよい。この下塗り層や保護層は、結着剤や導電剤粒子、導電性を持たない粒子などを含むことができる。
セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の微多孔性薄膜が用いられる。また、80℃以上で孔を閉塞し、抵抗をあげる機能を持つことが好ましい。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレン、ポリエチレンなどの単独又は組み合わせたオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維などからつくられたシートや不織布が用いられる。
セパレータの孔径は、電極シートより脱離した活物質、結着剤および導電剤などが透過しない範囲であることが望ましく、例えば、0.1〜1μmであるのが望ましい。セパレータの厚みは、一般的には、10〜300μmが好ましく用いられる。また、空孔率は、電子やイオンの透過性と素材や膜圧に応じて決定されるが、一般的には30〜80%であることが望ましい。また、ガラスや金属酸化物フィルムなどの難燃材、不燃材を用いればより電池の安全性は向上する。
本発明における非水電解液は、溶媒とその溶媒に溶解したリチウム塩とから構成されている。好ましい溶媒は、エステル単独、または混合したエステルである。なかでも、環状カーボネート、環状カルボン酸エステル、非環状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステルなどが好ましい。さらには、環状カーボネートと非環状カーボネートとを含む混合溶媒、環状カルボン酸エステルを含む混合溶媒、環状カルボン酸エステルと環状カーボネートとを含む混合溶媒が好ましい。
前記溶媒の具体例、および本発明において用いられるその他の溶媒を以下に例示する。
非水溶媒に用いるエステルには、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)などの非環状カーボネート、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(MA)などの脂肪族カルボン酸エステル、γ−ブチロラクトン(GBL)などの環状カルボン酸エステルなどがあげられる。
環状カーボネートとしてはEC、PC、VCなどが特に好ましく、環状カルボン酸エステルとしてはGBLなどが特に好ましく、非環状カーボネートとしてはDMC、DEC、EMCなどが好ましい。また、必要に応じて、脂肪族カルボン酸エステルを含むものも好ましい。脂肪族カルボン酸エステルは溶媒重量全体の30%以下、より好ましくは20%以下の範囲で含むことが好ましい。
また、本発明の電解液の溶媒は上記エステルを80%以上含む以外に、公知の非プロトン性有機溶媒を含んでもよい。
これらの溶媒に溶解するリチウム塩としては、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiN(CF3SO2)(C25SO2)、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)などのイミド類をあげることができる。これらは、使用する電解液などに、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて使用することができる。なかでも、特にLiPF6を含ませることがより好ましい。
本発明において特に好ましい非水電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを少なくとも含み、リチウム塩としてLiPF6を含む電解液である。また、GBLを主溶媒として含む電解液も好ましく、この場合には、VCなどの添加剤を数%添加し、リチウム塩としてLiPF6以外のLiBF4とLiN(C25SO22の混合塩を用いることが好ましい。
これら電解液を電池内に添加する量は、特に限定されないが、正極活物質や負極材料の量や電池のサイズによって必要量用いればよい。リチウム塩の非水溶媒に対する溶解量は、特に限定されないが、0.2〜2mol/リットルが好ましい。特に、0.5〜1.5mol/リットルであるのがより好ましい。
この電解液は、通常、多孔性ポリマー、ガラスフィルタ、不織布などのセパレータに含浸または充填させて使用される。また、電解液を不燃性にするために、含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化塩化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性をもたせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
また、液の他に、つぎのような固体電解質も用いることができる。固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質に分けられる。
無機固体電解質には、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物などが有効である。
有機固体電解質では、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体、混合物、複合体などのポリマー材料が有効である。
また、有機固体電解質に上記非水電解液を含有させたゲル電解質を用いることもできる。上記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体、混合物、複合体などの高分子マトリックス材料が有効である。特に、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体やポリフッ化ビニリデンとポリエチレンオキサイドの混合物が好ましい。
電池の形状としては、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型などいずれにも適用できる。電池の形状がコイン型やボタン型のときは、正極活物質や負極材料の合剤は主としてペレットの形状に圧縮されて用いられる。そのペレットの厚みや直径は電池の大きさにより決定すればよい。
また、電池の形状がシート型、円筒型、角型のとき、正極活物質または負極材料を含む合剤は、主として集電体の上に塗布(コート)、乾燥、圧縮されて用いられる。塗布方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、キャスティング法、ディップ法およびスクイーズ法などあげることができる。そのなかでもブレード法、ナイフ法およびエクストルージョン法が好ましい。
塗布は、0.1〜100m/分の速度で実施されることが好ましい。この際、合剤の溶液物性、乾燥性に合わせて、上記塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。集電体への合剤の塗布は、集電体の片面ごとに行ってもよいが、両面同時に行ってもよい。また、塗布層を集電体の両側に設けるのが好ましく、一方の面の塗布層が合剤層を含む複数層から構成されていてもよい。合剤層は、正極活物質または負極材料のようにリチウムイオンの挿入および放出に関わる物質の他に、結着剤や導電材料などを含む。合剤層の他に、活物質を含まない保護層、集電体上に設けられる下塗り層、合剤層間に設けられる中間層などを設けてもよい。これらの活物質を含まない層は、導電性粒子絶縁性粒子および結着剤などを含むのが好ましい。
また、塗布方法は連続でも間欠でもストライプでもよい。その塗布層の厚み、長さおよび幅は、電池の大きさにより決められるが、片面の塗布層の厚みは、ドライ後の圧縮された状態で、1〜2000μmが特に好ましい。
合剤のペレットまたはシートの乾燥または脱水方法としては、一般に採用されている方法を利用することができる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低湿風を、単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。
温度は80〜350℃の範囲が好ましく、特に100〜250℃の範囲が好ましい。電池全体の含水量は2000ppm以下が好ましく、正極合剤、負極合剤および電解質それぞれの含水量は500ppm以下にすることがサイクル性の点で好ましい。
シートのプレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法またはカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、0.2〜3t/cm2が好ましい。カレンダープレス法のプレス速度は、0.1〜50m/分が好ましい。
プレス温度は、室温〜200℃が好ましい。負極シートに対する正極シートの幅の比率は、0.9〜1.1が好ましい。特に、0.95〜1.0が好ましい。正極活物質と負極材料の含有量比は、化合物種類や合剤処方により異なるため限定できないが、容量、サイクル性および安全性の観点から当業者であれば最適な値を設定できる。
なお、本発明における電極の巻回体は、必ずしも真円筒形である必要はなく、その断面が楕円である長円筒形または長方形などの角柱状の形状であっても構わない。
ここで、図27に、後述する実施例において作製した円筒型電池の一部を断面にした正面図を示す。正極板および負極板をセパレータを介して複数回渦巻状に巻回された極板群4が電池ケース1内に収納されている。そして、正極板からは正極リード5が引き出されて封口板2に接続され、負極板からは負極リード6が引き出されて電池ケース1の底部に接続されている。電池ケースやリード板は、耐有機電解液性の電子伝導性をもつ金属や合金を用いることができる。例えば、鉄、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、銅、アルミニウムなどの金属またはそれらの合金が用いられる。特に、電池ケースはステンレス鋼板、Al−Mn合金板を加工したもの、正極リードはアルミニウム、負極リードはニッケルが最も好ましい。また、電池ケースには、軽量化を図るため各種エンジニアリングプラスチックスおよびこれと金属の併用したものを用いることも可能である。
極板群4の上下部にはそれぞれ絶縁リング7が設けられている。そして、電解液を注入し、封口板を用いて電池ケースを密封する。このとき、安全弁を封口板に設けることができる。安全弁の他、従来から知られている種々の安全素子を備えつけてもよい。例えば、過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC素子などが用いられる。また、安全弁のほかに電池ケースの内圧上昇の対策として、電池ケースに切込を入れる方法、ガスケット亀裂方法、封口板亀裂方法またはリード板との切断方法を利用することができる。また、充電器に過充電や過放電対策を組み込んだ保護回路を具備させるか、あるいは、独立に接続させてもよい。
また、過充電対策として、電池内圧の上昇により電流を遮断する方式を採用することができる。このとき、内圧を上げる化合物を合剤の中あるいは電解質の中に含ませることができる。内圧を上げる化合物としてはLi2CO3、LiHCO3、Na2CO3、NaHCO3、CaCO3およびMgCO3などの炭酸塩などがあげられる。キャップ、電池ケース、シート、リード板の溶接法は、公知の方法(例、直流または交流の電気溶接、レーザー溶接または超音波溶接など)を用いることができる。また、封口用シール剤は、アスファルトなどの従来から知られている化合物や混合物を用いることができる。
以下に、実施例に代表させて本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
図27に示す構造の円筒型電池を作製した。
まず、正極板は、以下のように作製した。本発明の正極活物質粉末85重量部に対し、導電剤の炭素粉末10重量部と結着剤のポリフッ化ビニリデン樹脂5重量部を混合した。これらを脱水N−メチルピロリジノンに分散させてスラリーを得、アルミニウム箔からなる正極集電体上に塗布し、乾燥・圧延した後、所定の大きさに切断した。
負極板は、炭素質材料を主材料とし、これとスチレンブタジエンゴム系結着剤とを重量比で100:5の割合で混合したものを銅箔の両面に塗着、乾燥、圧延した後所定の大きさに切断して得た。
セパレータとしてはポリエチレン製の微多孔フィルムを用いた。また、有機電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に、LiPF6を1.5モル/リットル溶解したものを使用した。作製した円筒型電池は直径18mm、高さ650mmであった。
正極活物質としては、本発明に係るLi[Li0.03(Ni1/2Mn1/20.97]O2(実施例1−1)またはLi[Li0.03(Ni1/3Mn1/3Co1/30.97]O2(実施例1−2)を用いた。これらの材料は、前述のようにTEM像および電子線回折により、粒子内のツイニング部分および超格子配列を示すシグナルを有することが確認された。
また、比較のために、本発明に係る正極活物質の製造方法ではなく、水酸化リチウム、水酸化ニッケルおよびオキシ水酸化マンガンの粉末を用いて、実施例1と同様の組成比になるように混合した。焼成以降の工程はすべて本発明の方法で行った。このようにして得られた材料を用いて、実施例1と同様にして円筒型電池を作製した(比較例1)。この材料のTEM像および電子線回折からは前述のようなツイニング部分および超格子を示すシグナルは確認されなかった。
さらに比較のために、正極活物質としてLiCoO2を用いて同様の方法で円筒型電池を作製した(比較例2)。
また、急冷工程を行わずに、1000℃での焼成を行った後、48時間で段階的に室温まで徐冷して得たLi[Li0.03(Ni1/2Mn1/20.97]O2参考例1)およびLi[Li0.03(Ni1/3Mn1/3Co1/30.97]O2参考例2)を用い、実施例1と同様にして円筒型電池を作製して評価を行った。
[評価]
これらの電池の電気容量、レート特性およびサイクル寿命を評価した。
1)電気容量
電池を100mAの定電流で、まず4.2Vになるまで充電した後、100mAの定電流で2.0Vになるまで放電する充放電を行った。この充放電を数サイクル繰り返し、ほぼ電池容量が一定になったところで容量を確認した。
容量は以下のようにして確認した。まず、充電は、4.2Vの定電圧充電で最大電流は1Aとした。充電は電流値が50mAに達したときに終了した。放電は300mAの定電流放電で2.5Vまで放電した。このとき得られた放電容量を、電池の電気容量とした。表4に示した電気容量の値は、比較例2の従来のLiCoO2を用いた場合の電気容量を100としたときの比率で示した。なお、充放電の雰囲気は25℃で行った。
2)レート特性
1000mAの定電流で2.5Vまで放電した容量を測定し、(1000mA放電での容量)/(300mA放電での容量)の比率(%)を算出してレート特性値を求めた。したがって、この値が大きいほどレート特性の良好な電池であることを示す。
3)サイクル寿命
この充放電を1サイクルとして500サイクルの試験を行った。実施例1、参考例1および2、比較例1および2の電池の容量が異なるので、表4にはサイクル寿命試験を行う前に確認した各電池の容量を100とし、500サイクル後の電池の容量を比率で示した。したがって、この値がサイクル劣化率を表す数字となり、数値が大きいほどサイクル寿命が良好である。
表4の結果より、本発明に係る正極活物質を用いた電池が、電気容量、レート特性およびサイクル寿命に優れていることがわかる。急冷工程を行うことにより、参考例1および2の電池に比較して、実施例1および2の電池の特性はすべて改良されていることがわかる。以上より、本発明に係る正極活物質をリチウム二次電池に適用することにより、従来から主として用いられていたLiCoO2を用いた電池よりも優れた電池を提供することができる。
(材料の安定性)
充電によりLiNiO2からLiが抜けるとLiNiO2は非常に不安定になり、比較的低温で酸素を離してNiOに還元される。このことは、電池の正極活物質として使用する場合は致命的で、発生する酸素が要因で電池の熱暴走、つまり、発火や破裂に導かれることが予想される。
本発明者らは、このような不都合も、ニッケル:マンガンを1:1、ニッケル:マンガン:コバルトを1:1:1の比率で固溶させた酸化物を用いることで改善できることを提案してきた。さらに、Li[Li0.03(Ni1/2Mn1/20.97]O2や、Li[Li0.03(Ni1/3Mn1/3Co1/30.97]O2にアルミニウムをドープした正極活物質を用いた電池についても同様に提案してきた。
本発明の緻密に制御した粒子形態を有する複合酸化物の表面近傍にアルミニウムなどをドープすることにより、耐熱性向上が可能であることが明らかとなった。アルミニウムなどをドープした材料の粒子形態も、TEMや電子線回折により上述の本発明の特徴を有することを確認した。添加元素はニッケル、マンガンの総量に対して、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、ジルコニウム、イットリウムおよびイッテルビウムの量を5原子%とした。
これらの材料を使用して、図27に示す電池を作製し、4.8Vまで過充電し、その後、電池を分解して正極合剤を取り出した。この正極合剤をそのままDSC(示差走査熱量計)測定にかけ、このとき最も低い温度で観測される発熱ピーク(1stピーク)を表5に示した。実施例1および2の電池も同様に評価した。
表5から、いずれの場合においても発熱温度がLiCoO2に比較して上昇していることがわかる。このことは、以下のように考えることができる。LiCoO2の場合は、過充電によってLiCoO2の格子全体が膨張する。このことで、結晶構造が不安定となり酸素を放出しやすくなる。この状態で温度を上昇させることで、この放出された酸素が要因と考えられる発熱反応が観測される。一方、本発明の実施例の材料では明らかではないが、材料表面での有機物(電解液)との酸化還元反応が抑えられた事、格子膨張による酸素の放出が押さえられたことなどが組み合わさったものと考えられる。さらに、アルミニウムなどを添加した場合はこの効果が増し、温度の上昇が大きく正極活物質の熱的な安定性が飛躍的に向上していることがわかる。添加量を検討したところ、遷移金属元素の合計の0.05〜20原子%の範囲で好ましい結果が得られる。0.05原子%未満では充分な効果が得られず、20原子%を超えると容量が低下するからである。
(材料の電子伝導性)
本発明のLi[Li0.03(Ni1/2Mn1/20.97]O2に異種元素をドープすることで付加機能を発現させることができるが、マグネシウムを添加することにより電子伝導性を飛躍的に向上させることができることはすでに提案してきた。本発明の、粒子形態を緻密に制御したものに関しても表面近傍にマグネシウムをドープすることにより電子伝導性向上が可能であることが明らかとなった。
このことで正極板中に添加する導電剤の添加量を減らすことが可能で、その分だけ活物質を多く充填することができ、結果として容量アップが可能である。
本実施例では、正極活物質粉末93重量部に対し、導電剤の炭素粉末3重量部と結着剤のポリフッ化ビニリデン樹脂4重量部を混合した。このようにして得られた極板の電子伝導性を測定した。測定は極板断面方向での抵抗値を測定し断面積あたりの電子導電率に換算した。測定結果を、Li[Li0.03(Ni1/2Mn1/20.97]O2を用いた極板の電子伝導率を100とした場合の比率として表6に示した。マグネシウムを添加した正極活物質を用い、種々の添加量の導電剤を含む極板の電子伝導率の測定を行った。なお、マグネシウムの添加量は2原子%とした。
表6から、マグネシウムをドープした場合、導電剤を2重量%添加した極板が、従来の3重量%導電剤を添加した極板と同等の電子伝導性を示すことがわかる。なお、添加量に関してはアルミニウムの場合とほぼ同様の傾向を示したが、添加量が増すとドープされないマグネシウムが不純物として検出されるので、0.05〜10原子%が好ましい。
なお、実施例では正極の性能を評価するために負極の活物質として炭素質材料を用いたが、これに限定されるものではなく、合金、リチウム金属、その他比較的電位の低い酸化物、窒化物なども採用できる。また、電解液に関しても実施例では、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に、LiPF6を1.5モル/リットル溶解したものを使用したが、これに限定されるものではなく、有機あるいは無機の固体電解質なども採用できる。
本発明のリチウム含有複合酸化物であるLiNi1/2Mn1/22のTEM写真である。 本発明のリチウム含有複合酸化物であるLiNi1/3Mn1/3Co1/32のTEM写真である。 LiNi1/2Mn1/22の典型的な一次粒子のTEM写真である。 LiNi1/2Mn1/22の一次粒子内の組織の形態を示したTEM写真である。 LiNi1/3Mn1/3Co1/32の一次粒子内の組織の形態を示したTEM写真である。 LiNi1/2Mn1/22の酸素配列を示すTEM写真である。 LiNi1/3Mn1/3Co1/32の酸素配列を示すTEM写真である。 LiNi1/2Mn1/22の格子欠陥を示すTEM写真である。 LiNi1/2Mn1/22中に含まれる格子の歪み(disorder)を示すTEM写真である LiNi1/2Mn1/22の電子線回折写真である。 TEM像からショートレンジでの超格子規則性を見出すためにフーリエ変換技法を用いて解析した像の写真である。 TEM像からショートレンジでの超格子規則性を見出すためにフーリエ変換技法を用いて解析した像の写真である。 LiNiO2およびLiNi1/2Mn1/22のX線回折パターンである。 図13の(a)および(b)のピーク強度である。 LiNi1/3Mn1/3Co1/32のX線回折パターンである。 図15のX線回折パターンのミラー指数と、d値と、強度比の測定値および計算値とを示す表である。 リチウム金属に対して4.3V充電(定電圧定電流充電)を行った場合の、LiNi1/2Mn1/22の充放電カーブである。 サイクル数に対するLiNi1/2Mn1/22の放電容量を示す図である。 リチウム金属に対して4.6V充電を行った場合の、LiNi1/2Mn1/22の充放電カーブである。 サイクル数に対するLiNi1/2Mn1/22の放電容量を示す図である。 LiNi1/3Mn1/3Co1/32についての、4.6V充電時の充放電カーブである。 LiNi1/3Mn1/3Co1/32についての、4.6V充電時のサイクル寿命を示す図である。 ニッケルとマンガンの組成比が1:1からずれた組成比を有する材料のX線回折パターンである。 図23に示す組成比の材料を用いた場合の充放電カーブである。 LiNi1/2Mn1/22の焼成温度によるX線回折パターンである。 LiNi1/2Mn1/22の焼成温度による充放電カーブである。 実施例において作製した円筒型電池の一部を断面にした正面図である。
符号の説明
1 電池ケース
2 封口板
3 絶縁パッキング
4 極板群
5 正極リード
6 負極リード
7 絶縁リング

Claims (10)

  1. 少なくともニッケル元素およびマンガン元素を含むリチウム含有複合酸化物からなり、ツイニング部分を有する前記複合酸化物の一次粒子を含み、
    前記ツイニング部分は塑性変形により結晶の向きが変わる部分であり、
    前記複合酸化物が層状の結晶構造を有し、酸素の配列が立方最密充填構造であり、
    前記複合酸化物の結晶内で、前記ニッケル元素および前記マンガン元素がナノレベルで均一に分散されていることを特徴とする正極活物質。
  2. 前記複合酸化物が欠陥部分または歪み部分を有することを特徴とする請求項1記載の正極活物質。
  3. 前記複合酸化物が、R3mを仮定した場合に[√3×√3]R30°の超格子配列を含むことを特徴とする請求項1または2記載の正極活物質。
  4. 前記複合酸化物がニッケル元素とマンガン元素を実質的に同比率で含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質。
  5. 前記複合酸化物が、R3mを仮定して帰属したX線回折ピークにおいて、積分強度比(003)/(104)≦1.2の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の正極活物質。
  6. 前記複合酸化物が、遷移金属元素として、ニッケル元素およびマンガン元素のみを含む場合には、前記積分強度比が(003)/(104)<1.15の関係を満たすことを特徴とする請求項5記載の正極活物質。
  7. 前記複合酸化物が、R3mを仮定した電子線回折において、実質的にすべてのパターンでエクストラスポットまたはストリークスを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の正極活物質。
  8. 前記一次粒子が、球および長方形の平行6面体の少なくとも一種の形状を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の正極活物質。
  9. 前記一次粒子が0.1〜2μmの粒径を有し、さらに2〜20μmの粒径を有する前記複合酸化物の二次粒子を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の正極活物質。
  10. リチウムを吸蔵・放出する材料および/または金属リチウムを負極活物質として含む負極と、請求項1〜9のいずれかに記載の正極活物質を含む正極と、電解質とを具備することを特徴とする非水電解質二次電池。
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