JP4593307B2 - 袋織エアバッグ用基布の製織方法 - Google Patents

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本発明は自動車の安全装置のうち、運転席や助手席、サイドカーテンなどに用いられるポリヘキサメチレンアジパミド繊維を用いた袋織エアバッグ用基布の製織方法に関する。
近年、自動車の乗員保護のため、衝突時に展開するエアバッグは必須の備品となっており、ポリエステルやポリアミド繊維を用いたエアバッグが装備されるの一般的となっている。エアバッグは当初、まず運転者の保護のため取り付けられ、その後、助手席や、サイドバッグ、ニーバッグなどが実用化され、自動車の中には複数のエアバッグが装着されるのが通常となってきている。これらのエアバッグは通常は合成繊維の平織りの織布を裁断して縫製する、いわゆるカットアンドソー方式で製造される。
これに対して、最初から二重織り技術でもってエアバッグ用基布を製織する、袋織エアバッグ用基布も生産されている。
これは、縫製工程を必要としないため、縫製不良による欠点はないが、一度にある一定の形状に最初から製織するため、生産コストが高く、また、平織り状に比較して袋織の場合、経糸本数は2倍となり、かつ複雑な形状のエアバッグ用基布を製織する場合には毛羽発生等の問題があり、製織効率が悪い欠点があった。
また、このような袋織エアバッグ用基布はコーティングされることも多く、コーティング時には、表面毛羽や織欠点にともなうコーティング斑が発生したり、厚み斑が生じたりする問題もあった。これらの欠点は基礎となる合成繊維の毛羽や油剤の付着量や繊維としての交絡状態により生じる場合もあり、欠点の少ない袋織エアバッグ用基布を生産性良く、高速で製織することが難しいのが現状であり、欠点の少ない袋織製織方法が求められてきた。
特許文献1には高密度織物の製織法において繊維充填率をある特定値とすることで必要な機械的特性を保持しつつ、生産効率を向上させる製織法が開示されている。しかしながら特許文献1には袋織エアバッグ用基布を製織する方法についてはなんら記載されておらず、さらに袋織エアバッグを工業的に同時に幅方向に2袋以上製織する方法についても全く開示されておらず、高速製織が可能な高密度の袋織エアバッグ用基布に適合した新しい製織方法が求められていた。
特開2002−220760号公報
本発明は、上記の従来の方法では困難であった、経毛羽欠点がなく、停台率が低く、高速で袋織エアバッグ用基布を同時に幅方向に複数袋製織する新規な製織法を提供することにある。
本発明者は、前記課題を解決するため織機を用いた新規な袋織エアバッグ用基布の製織法を鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、
(1)製織時の筬の繊維占有率%(A)を100〜250とし、100〜500dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を用いて同時に幅方向に2袋以上の袋織基布を製織する事を特徴とする袋織エアバッグ用基布の製織方法。
繊維占有率(%)(A)=0.106×n×√(D)/(P−T)

n:筬1羽に入れる糸本数
D:ポリヘキサメチレンアジパミドの繊度(dtex)
P:筬羽ピッチ(cm)
T:筬羽厚(cm)

(2)糸引き込み本数を4〜10本とすることを特徴とする(1)記載の袋織エアバッグ用基布の製織方法。
(3)繊維占有率を115〜160とすることを特徴とする(1)または(2)記載の袋織エアバッグ用基布の製織方法
である。
本発明の袋織製織法は、経毛羽発生が少なく、経糸因に起因する停台が少なく、生産効率の良好な、高品位な袋織エアバッグ用基布を提供することができ、特に、織密度が均一となるため、2袋以上の複数の袋織基布を同時に製袋する際に糸タルミがなく、コーティング時の凹凸が少ない袋織エアバッグ用基布の製織法を提供することができる。
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に用いるポリヘキサメチレンアジパミド繊維は90モル%以上がヘキサメチレンアジパミドを構成単位とするポリヘキサメチレンアジパミドである。好ましくは95%以上、もっとも好ましくは99%以上がヘキサメチレンアジパミドを構成単位とするものである。残りの10%未満、好ましくは5%未満、もっとも好ましくは1%未満は他のポリアミドであってもよい。融点が220℃以上であるナイロン66長繊維であることが望ましく、ポリマーの90重量%以上がヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩からなるポリアミド繊維である。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリアミド6、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリアミド6I、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリアミド610等)繊維、および、ポリアミド系ポリマー(ポリアミド6、ポリアミド610等)をブレンドしたポリアミド繊維であっても良い。また、これらの繊維には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは製品の特性改善のために通常使用されている各種の添加剤を含んでもよい。
例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有あるいは付着していてもよい。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の分子量の目安である蟻酸相対粘度は60〜100が高強力糸を得るためには好ましい。特にポリヘキサメチレンアジパミド繊維の長期強度保持のためにハロゲン化アルカリやハロゲン化銅を10〜1000ppm添加するのが好ましい。
本発明に好適なポリヘキサメチレンアジパミド繊維は繊度が100〜500dtexである事が必要である。
繊度は袋織時の製織条件に大きく依存するが、コーティングするためにはこの繊度範囲が必要であり、100dtex未満でありば、エアバッグ用基布としての布帛強力が劣り、また500dtexを超えると、エアバッグ用基布そのものが厚みが大きくなりすぎ、コンパクトなエアバッグ用基布が得られず好ましくない。用いるポリヘキサメチレンアジパミド繊維の単糸繊度は0.1〜10dtexまで可能であるが、好ましくは1〜4dtexである。この範囲であると、エアバッグ用基布とした時に柔軟であり、かつ、展開速度が大きいものが得られる。
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維は通常のコンベ法や高速紡糸方法で得ることもできるが、紡糸工程と延伸工程を直結した紡糸−延伸法(直延法)により高強力の繊維が得られるため好ましい。さらに、重合工程と紡糸延伸工程とを直結した、直接重合紡糸法でポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得る方法がポリヘキサメチレンアジパミド樹脂に特有のポリマーゲルを減少させることができもっとも好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の毛羽は、紡糸条件にもよるが、0〜500 ヶ/10mが好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維としての引張強度は6〜10cN/dtexが好ましく、更に好ましくは、6.5〜9cN/texである。引張強度が6cN/dtex未満だと、袋織エアバッグ用基布とした時に展開時に破袋することがあり好ましくない。引張強度が10cN/dtexを超えると、延伸倍率が大きすぎるため、毛羽が500ヶ/10m以下にはならないことがあり好ましくない。この時繊維としての引張伸度は20〜40%程度である。延伸されたポリヘキサメチレンアジパミド繊維には通常の紡糸仕上剤を付与するのが好ましい。
本発明はポリヘキサメチレンアジパミド繊維を織機にて袋織エアバッグ用基布を製織する方法に特徴がある。
本発明に用いる織機としては、レピア織機やグリッパー織機が好適に用いることができる。ウォータージェットルーム織機は水を用いるため、ジャガード用ハーネスに用いるスプリングにさびが発生するため好ましくない。高密度袋織基布を例えばレピア織機で製織する場合、経糸はジャガード装置により制御されるが、本発明はそのジャガード装置を用いた経糸の筬入れ方法に特徴がある。
本発明での袋織エアバッグ基布は一重織部のカバーファクターは3600〜5000である。
カバーファクターが3600未満であれば、気密性に優れる袋織エアバッグ用基布が得られず、好ましくない。カバーファクターが5000を超えると、経糸及び緯糸に製織時に毛羽が生じることがあり、好ましくない。
カバーファクターは次式により計算される値である。

CF=(2.54cmあたりの経糸本数)×√(経糸総繊度(dtex))
+(2.54cmあたりの緯糸本数)×√(緯糸総繊度(dtex))
本発明における織機の通し幅は1.4〜2.8mが生産性を上げる意味で好ましい。通し幅は織機により決まるが、通し幅が1.4m未満であると幅当たり同時に生産できる袋織エアバッグ用基布の個数は1個程度であり、複数個を同時に製織できず、生産性が低く好ましくない。通し幅が2.8mを超えるとレピア織機の緯入れ性が不安定となり易く、織機停台が増加すると共に生機欠点が発生し易くなるため、好ましくない。
本発明の製織法は筬に入れる繊維の繊維占有率を100〜250とすることに特徴がある。繊維占有率は次式で計算される値である。

繊維占有率(%)(A)=0.106×n×√(D)/(P−T)
ここで
n:筬1羽に入れる糸本数
D:ポリヘキサメチレンアジパミドの繊度(dtex)
P:筬羽ピッチ(cm)
T:筬羽厚(cm)
この繊維占有率が100未満であると、袋織エアバッグ用基布とした時に筬羽の厚みが薄くなりすぎ、筬羽のブレが生じて経糸/緯糸にダメージを与えて毛羽が発生するため好ましくない。また、同時に筬羽のブレにより袋織基布を構成する繊維の物性低下が生じて、基布強力が低下する場合もあり、袋織基布の気密性に優れた袋織エアバッグ用基布が得られないこともあり好ましくない。エアバッグの場合、安全装置であるので気密性、すなわち展開時の空気保持性が重要であり、フラジール法で測定される通気性は1.0cc/cm・秒以下、特に好ましくは通気性は0.5cc/cm・秒以下である。
ここで規定している繊維占有率は、ポリヘキサメチレンアジパミドフィラメント繊維をひとまとめの見かけの円柱状と想定して計算される直径を1本とし、筬1羽への引き込み本数を筬羽内に並べた値と筬羽間の隙間値との比率を表している。繊維占有率を115〜160とすることがさらに好ましく、袋織エアバッグ用基布としてリードマークがなく、かつ、毛羽が非常に少なく、生産性が高い製織を可能とするものである。
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の直径(d;cm)は下式によって求められるものである。
d=(1/(0.785×10×1.14))×√(D)
本発明に用いる筬は羽厚が0.02〜0.1cmが好ましい。0.02cm未満であると筬羽が歪む場合があり、毛羽発生、基布物性低下が起こり易く、好ましくない。筬羽の
羽厚を0.1cmを超えると、そのような問題はないが、筬羽間の隙間が小さくなりすぎ、経糸を通す隙間が狭く、糸同士のこすれ・筬羽のしごきによる毛羽が発生することもあるため好ましくない。
筬羽ピッチは0.07〜0.3cmが好ましく、毛羽の少ないエアバッグ用基布が得られる。筬羽ピッチは基布の経糸密度、筬1羽に入れる経糸本数と関係するが、筬羽ピッチを0.07cm未満にセットした場合、筬羽の厚みが薄くなりすぎ、筬羽のブレが生じて経糸/緯糸にダメージを与えて毛羽が発生するため好ましくない。また、同時に筬羽のブレにより袋織基布を構成する繊維の物性低下が生じて、基布強力/伸度が低下する場合もあり、袋織基布の気密性に優れた袋織エアバッグ用基布が得られないこともあり好ましくない。筬羽ピッチが0.3cmを超えると、高密度袋織エアバッグ用基布を気密性に優れた製織が難しくなる場合があり好ましくない。
本発明においては経糸は1羽当たり4〜10本とする事が好ましい。筬1羽当たりの挿入本数は自由に変更できるが、気密性に優れた袋織エアバッグ用基布を得るためにはこの範囲が好ましく、4本未満では経糸毛羽発生等による気密性に優れる高密度袋織エアバッグ用基布を得ることが難しい場合があり好ましくない。10本を超える場合には、筬羽間に挿入した経糸要因による毛羽発生や、リードマークが生じる場合があり、好ましくない。
本発明における緯入れ量が650〜1700m/分とすることが好ましい。緯入れ量とは1分間に緯糸を入れる糸量を意味する。すなわち緯入れ量は織機の通し幅と織機回転数の積である。この緯入れ量が650m/分未満であれば、生産性が低いため好ましくなく、1700m/分を超えると、緯糸の緯入れが不安定になり、織機停台が発生する場合があり、好ましくない。
本発明の袋織エアバッグ用基布は袋織部の膨張二重織部と非膨張部とからなる。膨張二重織部と非膨張袋織部との境界部は斜子組織とすることが好ましい。二重織部は平織組織であり、二重織部から連続する非膨張袋織部は4〜12本の正則斜子組織又は変則斜子組織とし、さらに前記以外の部分は部分接結二重織が好ましい。正則斜子組織は2/2斜子組織、3/3斜子組織があるが、気密性の面からは2/2斜子が好ましく、2/2斜子組織に連続して4〜12本の二重織袋織組織とするのが更に気密性が向上するため好ましい。変則斜子組織は2/1斜子組織、1/2斜子組織或いは前記組織の組み合わせが好ましい。
本発明の袋織基布の製造は同時に通し幅方向に2袋以上のエアバッグ用基布を製造することに特徴がある。幅方向に2袋以上製造するには、ジャガード装置を用いて同時に2本以上の吊り方式をとることで可能となる。
本発明の袋織エアバッグ基布は製織後、樹脂コーティングを行うことが好ましい。樹脂コーティングにより袋織エアバッグ基布の気密性を更に高めることができ、30〜150g/m2の樹脂コーティングにより気密性に富んだ100kPa加圧後、10秒間の圧力保持率を50%以上、好ましくは70%以上とすることができる。この時、樹脂コーティングに用いる樹脂としてはシリコーン系やポリウレタン系のコーティング、難燃性の熱可塑性樹脂等を用いた熱ラミネーションという方法を採用することができるが、エアバッグの展開性から見て表面摩擦を低減させるか、表面にタルク塗布を行って表面摩擦を低減させたシリコーンコーティングが好ましい。本発明に用いる樹脂としては公知のものを使用することができる。
本発明を実施例を用いて説明する。なお、測定方法、評価方法は以下の通りである。
(1)製織性(経糸因停台回数)
評価はレピア織機と電子ジャガードを組み合わせて用いた。織機としてスルザー社製レピア織機G6200又はストーブリ社電子ジャガードLX320を用い、ジャガード装置としてストーブリ社製電子ジャガードCX960(4096口)を用い、500〜550rpmの速度で製織を実施して調べた。経糸切れ、経糸毛羽発生等、経糸因について停台回数をカウントした。この経糸因による停台回数が1.0回/100m・台以下の場合を合格とした。更に経糸因による停台数が0.5回/100m・台以下の場合を製織性優秀とした。経糸因による停台数が1.5回/100m・台以上の場合を問題ありとした。
(2)毛羽発生個数(個/m2
製織後の生機を50m検反機を使用して表裏両面検査を行い、毛羽発生個数をカウントし、単位面積当たりに換算した。毛羽発生個数が0.1個/m2以内を合格とした。更に0.05個/m2以下の場合を優秀とした。0.2個/m2以上を問題ありとする。
(3)繊度
JIS L 1073により測定する。
[実施例1〜3、参考例4、参考例5、比較例1〜3]
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維として旭化成せんい社製の原糸を用いた。経糸には無撚の235dtex/72f(単糸繊度3.3dtex)、沸水収縮率5.0%の原糸にアクリル系の糊剤を用いてサイジングを行い、糊剤付着率が2.5%の経糸を使用した。緯糸には同じくポリヘキサメチレンアジパミド繊維の235dtex/72fを無糊の状態で使用し、幅方向に同時に2袋製造した。製織性評価に記載したレピア織機と電子ジャガードを組合せ、筬羽に入れる本数、並びに筬羽厚を変更して製織した。結果を表1に示す。
[実施例6、7、参考例8、9、比較例4〜5]
ポリヘキサメチレンアジパミド繊維として旭化成せんい社製の原糸を用いた。経糸には無撚の470dtex/144f(単糸繊度3.3dtex)、沸水収縮率5.0%の原糸にアクリル系の糊剤を用いてサイジングを行い、糊剤付着率が2.5%の経糸を使用した。緯糸には同じくポリヘキサメチレンアジパミド繊維の470dtex/144fを無糊の状態で使用した。スルザー社製レピア織機G6200(幅2.8m)、通し幅2.70mを用い、ジャガード装置としてストーブリ社電子ジャガードLX320(8192口)を用い、550rpmの速度で幅方向に同時に3袋製織を実施した。筬羽に入れる本数、並びに筬羽厚を変更して製織した。結果を表2に示す。
本発明の実施例による袋織エアバッグ基布は毛羽発生が少なく、製織性に優れているこ
とがわかる。
Figure 0004593307
Figure 0004593307
本発明の袋織エアバッグ用基布は自動車安全部品であるエアバッグ、特にサイドカーテン用途に好適に利用できる。

Claims (1)

  1. 製織時の筬の下記式により求められる繊維占有率%(A)を127.1〜250とし、100〜500dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を用い、かつ、羽厚Tが0.02〜0.1cmの筬羽を用いて、同時に製織幅方向に2袋以上の袋織基布を製織することを特徴とする袋織エアバッグ用基布の製織方法:
    繊維占有率(%)(A)=0.106×n×√(D)/(P−T)
    {式中、n:筬1羽に入れる糸本数であって、6〜10本のいずれかの本数、
    D:ポリヘキサメチレンアジパミドの繊度(dtex)、
    P:筬羽ピッチ(cm)、そして
    T:筬羽厚(cm)である。}。
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