JP4587092B2 - 加工澱粉及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、糊化(α化)の進行及び澱粉粒子の損傷がほとんどなく、フライ、から揚げ、天ぷらなどの揚げ物製造時に用いる衣材として好適な加工澱粉及びその製造方法、更には該加工澱粉を用いた揚げ物用衣材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、揚げ物用衣材としては、グルテンの少ない小麦粉を主体とし、食感を改善する目的で、各種の蛋白質類、澱粉質類、乳化剤、卵及び重曹等を添加し、また必要に応じて適当量の水を加えた組成物が用いられていた。
しかし小麦粉を主体とした従来の衣材では、揚げた後に種と衣との結着性が悪いために衣が剥がれ易く、見た目が悪くなり、商品価値を著しく損なう等の問題が生じていた。また食感面においてはサクッとしたクリスピーな食感が好まれ、このクリスピー感を経時的に保つことが商業的には望まれているが、小麦粉主体の衣材では、揚げた後に衣がべとつきやすく、十分なクリスピー感が得られないという問題もあった。
従来、これらの問題点を解決するため種々の改良方法が提案されている。例えば、40重量%濃度のスラリー粘度が200cps以上である油脂加工澱粉を用いる方法(特公平5−21542号)、歩留まりを向上させるために油脂加工澱粉とα化澱粉、α化穀粉を添加した方法(特開昭62−143663号)、油脂加工澱粉のα化品を用いた方法(特開昭62−195259号)、粳種澱粉と糯種澱粉との混合物又は糯種澱粉に食用油脂を添加する方法(特開昭62−14756)等が知られている。しかし、これらの油脂加工澱粉を用いる方法は、種と衣の結着改善効果はあるものの、 疎水性が強いために、バッター液の調製時に泡立ちが激しいなど作業性に問題がある。
【0003】
また、生大豆粉と澱粉を混合し加工した澱粉を用いる方法(特開昭62−87062号、特開昭64−71432号、特開平2−39865号、特開平4-51854号)や、澱粉に食用蛋白素材と食用油脂を添加混合し加水して乾燥させた加工澱粉を用いる方法(特開平1−320962号)、澱粉に酸沈澱大豆蛋白質を含有せしめる方法(特開平2−409)等が知られている。しかし、例えば、澱粉に食用蛋白素材と食用油脂を添加混合して乾燥させた加工澱粉(特開平1−320962)を用いる方法では、乾燥・加熱する工程の前に混合物の水分を20〜40重量%に加水する工程を必要とするため、加水後の加熱による部分的な糊化(α化)が進んだり、過加熱によって澱粉が損傷し、この糊化澱粉若しくは損傷澱粉によって、衣材が糊っぽい食感となってしまう問題点があるなど、いずれも一長一短があり、衣材として充分満足すべきものは未だ開発されていないのが実情である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、衣材における上記の問題点を解決し、衣材として揚げ物調理に使用した場合、作業性及び種と衣の結着性が共に良好で、しかも揚げ物にソフトでクリスピーな食感を付与し得る加工殿粉及びその製造法を提供せんとするものである。。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、 澱粉に油脂と蛋白質を所定の割合で混合して加工澱粉を製造するに当り、予め混合物の水分を保ったまま加熱することによって、衣材として使用すると、作業性が良好で、結着性の問題を改善し、さらに食感においてソフトでクリスピーな食感を与える加工澱粉を製造することができることを見いだし本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、澱粉100重量部に対して、油脂0.05〜10重量部及び蛋白質0.5〜10重量部を加水することなく配合してなる混合物を加熱する際に、該混合物の加熱開始時の水分含量W0重量%及び加熱終了時の水分含量WE重量%が下記(1)、(2)式を満たすように加熱することを特徴とする加工澱粉の製造方法である。
20>W0>5 (1)
4≧W0−WE (2)
また、本発明は、当該方法で製造した加工澱粉及びその加工澱粉を用いてなる揚げ物用衣材である。
【0006】
本発明において、油脂と蛋白質を混合した澱粉を加熱熟成することにより、澱粉に均一に混合された油脂が部分的に酸化することで、澱粉粒子との結合力が高まり、また、蛋白質が熱変成することで、澱粉分子に油脂及び蛋白質が強固に付着した状態に変化すると考えられる。
ここで、澱粉に混合した油脂及び蛋白を加熱変性により吸着せしめる際に、水分を所定量に保つことにより、澱粉の部分糊化や澱粉の損傷を起こさずに加工澱粉を調製することができる。その結果、澱粉の部分糊化・澱粉の損傷に起因する糊っぽさをなくすことができ、かつ、油脂の吸着による衣と種の結着性の向上、さらに、蛋白質の吸着による泡立ちの抑制といった、揚げ物用途において好適な特性を有する加工澱粉が得られる。
本発明は、通常、まず処理すべき澱粉100重量部に油脂を0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部添加し、均一になるよう混合する。次に蛋白質を、0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部加える。 その後、混合物を密閉タンク等に詰め、水分をできるだけ変化させない状態で40〜120℃、好ましくは50〜80℃で1〜30日間加熱させる。その際、40〜120℃で相対湿度5〜18%の恒温恒湿庫にて、1〜30日間加熱させる方法をとっても良い。
【0007】
本発明において、添加する油脂の量が、澱粉100重量部に対して10重量部を越えると、粉体の流動性がきわめて悪く均一な処理が困難となるのみならず、加熱処理時に油分が分離し処理品は固結してしまう。また油脂の量が0.05重量部未満では、油脂加工澱粉本来の効果を得ることができない。
一方、添加する蛋白質の量が、澱粉100重量部に対して0.5重量部未満では、衣液調製時のダマが多く、10重量部を越えると、結着不良等の問題が生じ、いずれも好ましくない。
【0008】
さらに本発明においては、油脂及び蛋白質を澱粉に効率的に吸着し、部分糊化を抑制するために、澱粉と油脂、蛋白質の混合物の水分含量を5重量%を越えて20重量%未満の範囲に調整し、かつ、加熱開始時と加熱終了後の差が4重量%以下になるように該混合物の水分含量を一定に保ちつつ加熱処理することが必要不可欠な構成要件である。上記混合物の水分含量が20重量%を越えると、澱粉の部分糊化が起こり、一方5重量%以下では、加熱による澱粉への吸着が不充分になり、いずれも衣材としては、不適当な状態となる。また加熱期間中に水分を保たない状態で加熱し、加熱開始時と加熱終了後の水分含量の差が4重量%を越えると、澱粉の損傷が起こり、やはり、衣材に使用した場合には糊っぽさを感じ不適当となる。
【0009】
本発明における加工澱粉に使用する原料澱粉としては、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、エンドウ豆澱粉およびこれらにアセチル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、酸化処理、湿熱処理等の化学的または物理的処理を単一で或いは組み合わせて施した加工澱粉があり、これらを単独で又は併用して使用できる。
【0010】
本発明に用いる油脂としては、大豆油、とうもろこし油、菜種油、パーム油、サフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックとうもろこし油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、綿実油、やし油、米糠油、ごま油、落花生油、オリーブ油、つばき油、茶油、からし油、カポック油、かや油、くるみ油、けし油などの植物油脂や、牛脂、魚油、鯨油、豚油、羊油などの動物油脂、さらにこれらの油脂に分別、水素添加、エステル交換の物理的または化学的処理を施したものが使用できる。
このうち、ヨウ素価が125以下である油脂が酸化臭が少なく、加工に適している。
さらには、モノグリセリド、ジグリセリド等の油脂類縁物質、油脂の構成成分である脂肪酸およびその誘導体も本発明の油脂に代えて使用できる。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0011】
本発明に使用する蛋白質としては、特に制限されるものではなく、植物蛋白質、動物蛋白質等を高含有する天然蛋白質素材、天然蛋白質素材に由来する粗精製蛋白質、精製蛋白質等いずれも用いられる。植物蛋白質としては、小麦蛋白質、大豆蛋白質、トウモロコシ蛋白質等の種子蛋白質等があげられる。動物蛋白質としては、卵白蛋白質、卵黄蛋白質等の卵蛋白質、ホエー蛋白質、カゼイン等の乳蛋白質、血漿蛋白質、血球蛋白質等の血液蛋白質、食肉蛋白質、魚肉蛋白質等の筋肉蛋白質等があげられる。
なお、本発明においては、蛋白質としては単純蛋白質、複合蛋白質、誘導蛋白質のいずれも用いられる。また、該蛋白質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属等と塩を形成してもよい。 単純蛋白質としては、アルブミン、グロブリン、グルテリン、プロラミン、ヒストン、プロタミン等があげられる。複合蛋白質としては、カゼイン等のリン蛋白質、ヘモグロビン等のヘム蛋白質、血漿リポ蛋白質等のリポ蛋白質、コラーゲン、フィブリノーゲン等の糖蛋白質等があげられる。 誘導蛋白質とは、天然蛋白質を化学処理、酵素処理、物理処理等により、加水分解、アシル化、アルキル化、エステル化、リン酸化、グリコシル化、水酸化、メチル化、酸化、還元等の処理が施された蛋白質であり、例えばゼラチン、プラクアルブミン、メタプロテイン、プロテオース、ペプトン等があげられる。
【0012】
本発明の加工澱粉は、加水して揚げ物用衣材として用いた際に、種と称される畜肉類 魚介類 野菜類、コロッケ等の被揚げ物と衣との結着がきわめて良好で、かつ調理時に使用する加熱された油脂による異味もなく、食感面でも優れている揚げ物を製造することができる。
即ち、油脂及び蛋白質を一定水分に保った状態で加熱し、澱粉表面に結合させた加工澱粉は、澱粉表面の濡れ性等が変化し、加水してバッターとしたとき滑らかなスラリーとなる。 そしてフライ時にバッター液、種中の水分が澱粉表面に接触しにくく保水力が弱まり、水分はフライ中に効率よく蒸気となって出て行く。その結果、余分な水分が衣、種、またはその接触面に残らないために、種と衣がよく結着する。
また水分が一定に保たれた状態で加熱しているため、澱粉の部分糊化が起こらず、また、過加熱による澱粉の損傷が抑えられ、衣層に糊っぽさを感じず、サクッとしたクリスピー感を与えるとともにソフトな食感が得られ、かつその食感が長時間保たれると言う効果が発現するのである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例に限られるものではない。
【実施例】
表1に示す条件で澱粉に対して所定量の油脂、蛋白質を添加し、高速攪拌混合機で3分混合した後、密閉タンクに詰めて所定時間、所定温度で加熱処理した。その後、室温まで冷却を行い本発明の加工澱粉を製造した。
なお、使用した蛋白質は、各々、大豆蛋白(日華油脂製:ニッカミート202)、小麦蛋白(片山化学工業製:グルビタール21000)、乳蛋白(森永乳業製:ミラクテール)、卵白(松田産業製:乾燥卵白HG)である。
油脂と蛋白質の添加量は澱粉100重量部に対して添加した重量部を表す。
実際には、各々原料の澱粉100Kgを使用した。
尚、澱粉損傷度合いは、フェノール硫酸法による可溶性糖分量を比較することで評価した。 可溶性糖分量は、澱粉0.5gに蒸留水10gを加え、30分振盪したあと、遠心分離し上清画分0.5mlに、5%フェノール溶液を0.5mlと硫酸2.5mlを加え、静置(40℃、20分)後、490nmの吸光度を測定する事によって測定した。 予め標準グルコース溶液により検量線を作成しておき、可溶性糖分量を算出した。数値が大きいほど澱粉の損傷の程度が大きいことを表している。
【比較例】
澱粉に対して所定量の油脂、蛋白質を添加し、表1に示す条件で比較例の加工澱粉を製造した。
【0014】
【表1】
【0015】
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた加工澱粉を用いて、各々9種の衣液を作成した。衣液は、各々加工澱粉1000gに水1800gを添加混合して調製した。
これらの衣液を冷凍豚肉に付けてパン粉付けし170℃に加熱したサラダ油中にて3分フライして豚カツを作成した。調製した各衣材の性状と豚カツについての種と衣の結着性、風味・食感を調べた。
その結果を表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
以上の結果より、本発明の方法により製造した加工澱粉は、加熱処理しているにも拘わらず、澱粉が損傷を受けておらず、揚げ物の衣材として使用すると、作業性が良好であると同時に、種と衣の結着性、風味・食感共に優れた揚げ物ができることが判る。
【0018】
【発明の効果】
衣材として揚げ物調理に使用した場合、作業性及び種と衣の結着性が共に良好で、しかも揚げ物にソフトでクリスピーな食感を付与し得る加工殿粉が得られる。
Claims (3)
- 澱粉100重量部に対して、油脂0.05〜10重量部及び蛋白質0.5〜10重量部を加水することなく配合してなる混合物を加熱する際に、該混合物の加熱開始時の水分含量W0重量%及び加熱終了時の水分含量WE重量%が下記(1)、(2)式を満たすように加熱し、加熱温度が40〜80℃、加熱時間が3〜10日であることを特徴とする加工澱粉の製造方法。
20>W0>5 (1)
4≧W0−WE≧1 (2) - 澱粉100重量部に対して、油脂0.05〜10重量部及び蛋白質0.5〜10重量部を加水することなく配合した混合物を加熱し、加熱温度が40〜80℃、加熱時間が3〜10日である加工澱粉であって、該混合物の加熱開始時の水分含量W0重量%及び加熱終了時の水分含量WE重量%が下記(1)、(2)式を満たすように加熱されてなる加工澱粉。
20>W0>5 (1)
4≧W0−WE≧1 (2) - 請求項2に記載の加工澱粉を用いてなる揚げ物用衣材。
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