JP4582099B2 - ロールイン用可塑性油中水型乳化物 - Google Patents

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本発明はロールイン用可塑性油中水型乳化物に関する。
クロワッサン、パイ、デニッシュなどペーストリー食品の製造において、生地に折り込んで焼成されるロールイン用可塑性油中水型乳化物は、生地と共に何回も折り畳まれ伸ばされて、薄い多層構造を作る必要があるため、それに耐えられる広い温度域における十分な可塑性・伸展性が求められるのであるが、この特性を得るために、従来より好んで硬化油が配合されてきた。しかしながら、近年の健康意識の高まりとともに、トランス脂肪酸を含有する硬化油は次第に敬遠されつつある。水素添加により硬化した硬化油は、完全に水素添加した、すなわち極度硬化した油脂を別としてトランス脂肪酸(以下、トランス酸という。)を油脂の構成脂肪酸として含有するのである。
トランス酸を排除するためには、硬化油を用いずに、固体脂成分として、例えばパーム油、ヤシ油、パーム核油、これらの分別脂、極度硬化油などトランス酸を含まない固体脂を用いれば良いが、単にこれらを混合しただけでは可塑性範囲が狭くなる上に、ワキシー感が生じたり、パーム油を用いた場合は粗大結晶が発生するなどの問題がある。そこで、これらの油脂又は液体油成分とのエステル交換を行うことが広く行われている。例えば、特許文献1(特開2001-262181)は、パーム油起源の固体脂とラウリン系油脂をエステル交換した油脂を用いることにより実質的にトランス酸を含まない可塑性油脂を開示している。しかし、エステル交換油を多く使用し可塑性を良くするため低温での硬さを硬くすると口溶けが悪くなりジューシー感が失われパサパサした食感になってしまう。ジューシー感は、ペストリー食品を食した際に、口中で液体油が染み出すようなしっとりとした食感を意味し、近年市場において重視されているものである。一方、口溶けを良くしようとすると生地に油脂の一部が溶け出し、展延性やパイ・クロワッサン・デニッシュペーストリーなどペストリー食品の層が均一でなくなり、浮きが悪くなる。
エステル交換を行わない方法として、特許文献2(特開平9-143490)は、魚油の極度硬化油を用いることを開示している。しかし、極度硬化油を配合するため口溶けの悪いものになってしまう。特許文献3(特開昭57-21498)は、硬化油もエステル交換油も使用しない脂肪組成物を開示するが、ペーストリー食品の製造用として使用することは想定されておらず、ロールイン用可塑性油中水型乳化物として使用できるだけの十分な可塑性・伸展性を有していない。
なお、マーガリンの原料油としてパーム核油などのラウリン系油脂を使用することは従来からよく知られており、特に欧州製品はラウリン系油脂を主体とするものである(特許文献3、非特許文献1、非特許文献2)。一方、わが国においては、ラウリン系油脂から遊離する脂肪酸に起因するソーピー臭に消費者が敏感なこともあり、ソーピー臭発生の虞のあるラウリン系油脂の使用は控えられてきたのが実情である。しかし、ソーピー臭は、カビ等に由来するリパーゼによる油脂の加水分解によるものがほとんどであり、製造工程、流通過程における品質管理を十分に行えば特に問題になることはない。
特開2001−262181号公報 特開平9−143490号公報 特開昭57−21498号公報 「マーガリン ショートニング ラード 可塑性油脂のすべて」p331 中澤君敏著、(株)光琳 油化学,第9巻4号(1960)p201〜207
本発明は、クロワッサン、パイ、デニッシュなどのペーストリー食品の製造に使用するのに適した広い温度域における可塑性・伸展性を有し、かつ、得られるペーストリー食品の浮きが良好かつ、口溶け等食感も良好な実質的にトランス酸を含有しないロールイン用可塑性油中水型乳化物及び当該ロールイン用可塑性油中水型乳化物を用いたペーストリー食品を提供することを目的とした。
本発明者らは、鋭意研究の結果、ハードストックとしてラウリン系ハードバターを用いることを基本とし、これにパーム油起源の非選択的エステル交換油脂および液体油を配合して調製したシート状マーガリンは、上記課題を解決し得るばかりか、口溶けが良いためにジューシー感があり、これに乳脂肪を配合するとバター風味の豊かなものが得られるという知見を得、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は、1)可塑性油中水型乳化物中、ラウリン系ハードバターを5〜50重量%、パーム油起源の非選択的エステル交換油脂3〜50重量%、乳脂肪を1%以上含有し、油相のSFCが10℃で40%以上、35℃で10%以下で実質的にトランス酸を含まないことを特徴とするロールイン用可塑性油中水型乳化物。2)ラウリン系ハードバターがパーム核油の分別高融点部及び/又はその極度硬化油である1記載のロールイン用可塑性油中水型乳化物。3)ロールイン用可塑性油中水型乳化物中の油脂成分を60℃で1時間置いた後、25℃にて12時間置いたときの固体脂含量が20.0%以下である1乃至2の何れか1に記載のロールイン用可塑性油中水型乳化物。4)1乃至3の何れか1に記載のロールイン用可塑性油中水型乳化物を使用したペーストリー食品。を骨子とする。
本発明のロールイン用可塑性油中水型乳化物は、生地に折り込んで使用するのに必要な広い温度域における可塑性・伸展性を有し、実質的にトランス酸を含まない。また、これを用いることにより、ジューシー感、バター感の風味が良く実質的にトランス酸を含まないパイ・デニッシュなどのペーストリー食品を製造することができる。
本発明のロールイン用可塑性油中水型乳化物は、可塑性油中水型乳化物中ラウリン系ハードバターを5〜50重量%、パーム油起源の非選択的エステル交換油脂を3重量%以上、乳脂肪を1%以上含有し、油相のSFCが10℃で40%以上、35℃で10%以下で実質的にトランス酸を含まないものである。
本発明において、実質的にトランス酸を含まないとは、油脂中に含まれるトランス酸の量が、天然油脂中のトランス酸量と同等以下であることを意味する。従って、例えば乳脂など微量ながらトランス酸を含む天然油脂を用いる場合には、当該トランス酸量は考慮しない趣旨である。
本発明のロールイン用可塑性油中水型乳化物は、一般的な油中水型乳化物の製造方法により製造することができる。すなわち、油相と水相を調製した後にこれらを混合、乳化して油中水型乳化物を製造することができる。先ず、油相を構成する油脂から説明する。
本発明において、ラウリン系ハードバターとは、当該油脂中の構成脂肪酸としてラウリン酸が45重量%以上且つオレイン酸が10重量%以下のものを指し、具体的には、パーム核油の極度硬化油、パーム核油の分別高融点部、パーム核油の分別油の極度硬化油(以上を、「パーム核油起源固体脂」ということがある。)、これらパーム核油起源固体脂若しくはヤシ油とハイエルシン菜種極度硬化油などラウリン酸主体でない極度硬化油とのエステル交換油を例示することができ、これらのいずれか1種又は2種以上を用いることができる。特にパーム核油起源固体脂は、粘りのある物性・結晶性を有しているため、ロールイン用として好適に用いることができる。
パーム核油の分別高融点部は、パーム核油を分別により融点の高い部分と低い部分に分けた高い部分であって融点としては25℃〜40℃の範囲の物が好ましい。油脂を分別する方法としては、乾式法、乳化分別法、溶剤分別法の何れの方法も採用することができる。
パーム核油の高融点画分はパーム核ステアリン画分とも言われ、本発明において、沃素化は8以下が望ましい。実質的なトランス酸は含まれない。
また、パーム核油の分別油の極度硬化油とは、パーム核油を分別により融点の高い部分と低い部分に分けたいずれかに水素添加をおこない、実質的に不飽和脂肪酸を完全に飽和することによって得られ、実質的にトランス酸を含まない。
このラウリン系ハードバターを、ロールイン用可塑性油中水型乳化物に対し、5〜50重量%含有するように配合する。10〜40重量%が好ましく、20〜30重量%が最も好ましい。
5重量%未満では口溶けが悪く、ジューシー感、バター感の劣る品質となる。50重量%を超えると、展延性のあるシート状可塑性油脂組成物の製造が困難となる。
本発明において、パーム油起源の非選択的エステル交換油脂とは、パーム油又はその分別油を60重量%以上含有する油脂をナトリウムメチラート等の触媒もしくは脂肪酸の位置に特異性を有さないエステル交換のある酵素を用い、トリグリセリドの脂肪酸位置について非選択的にエステル交換した油脂をいい、実質的にトランス酸を含有しない。エステル交換に供する油脂のパーム油又はその分別油の含有量は多い程好ましい。含有量が60重量%未満であると、ロールイン用可塑性油中水型乳化物にした場合の可塑性、展延性が不足する。パーム油起源の非選択的エステル交換油脂は、ロールイン用可塑性油中水型乳化物に対し、3重量%以上含有させることが必要であり、3〜50重量%が好ましく、5〜30重量%が最も好ましい。3重量%未満であると、展延性のあるシート状可塑性油脂組成物の製造が困難となる。
乳脂肪は、ロールイン用可塑性油中水型乳化物中1重量%以上となるように配合する。油相に乳脂肪自体をそのまま配合しても良いし、牛乳など乳製品を起源とし水相に配合できるものは水相に配合しても良い。また、乳脂肪は、乳脂肪の極度硬化、乳脂肪を分別した分別乳脂高融点部や分別乳脂中融点部や分別乳脂低融点部を使用してもよい。
乳脂肪が1重量%未満であると、バター風味が豊かであるという本発明の特徴に乏しくなる。上限は、以下の述べる油相となる油脂のSFCの条件(10℃で40%以上、35℃で10%以下)および、併用する他の油脂の特性によって左右されるが、ロールイン用可塑性油中水型乳化物中60重量%が目安となる。
ロールイン用可塑性油中水型乳化物の油相として、ラウリン系ハードバター、非選択的エステル交換油脂、乳脂肪の他に併用する油脂としては、実質的にトランス酸を含まない油脂であれば特に限定されないが、これらを混合した油相となる油脂のSFCは、10℃で40%以上、35℃で10%以下となることが必要である。SFCが10℃で40%未満であると、ロールイン用として使用するのに必要な可塑性を得ることが困難となり、35℃で10%を超えると口溶けが悪くなってしまうのである。このため、併用する油脂としては、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油など室温(20℃)で液状の油脂を、当該液状油の他に配合する油脂の種類・性質によっても左右されるが、ロールイン用可塑性油中水型乳化物中10〜50重量%となるよう配合する必要がある。この量は、15〜40重量%が好ましく、20〜35重量%がさらに好ましい。
以上説明した油相を構成する油脂について、発明者は、これにより得られるロールイン用可塑性油中水型乳化物を用いて製品(ペーストリー食品)を製造した場合の品質を予測し得る新規な評価法を導入した。すなわち、油脂を60℃で1時間置いた後、25℃の雰囲気下にて12時間置いたときの固体脂含量(以下、ID25という。)を指標とするものである。60℃で1時間置くことは、ペーストリー食品焼成直後のペーストリー生地中の融解した油脂の状態を表し、25℃にて12時間置くことは、半日後のペーストリー食品中の油脂の状態を表すと考えられるので、これにより製品の品質を予測し得る。
これによると、油相を構成する油脂のID25は、20.0%以下の場合ソフトな食感となり好ましく、18.0%以下が更に好ましく、15.0%以下が最も好ましい。20.0%を超える場合は得られる焼成品のジューシー感が無くなり好ましくない。
従来の可塑性油脂組成物では最適な折り込み適性を持たせるために、融解後いかなる冷却条件においても冷却時に結晶析出が早く、固化し易い原料油脂を用いることが通例で、原料油脂をID25が20.0%以下となる特性を有する可塑性油脂組成物はほとんど使用されていなかった。
いうまでもないが、ID25は、公定法(AOCS Official Method第5版Cd16−81・・・60℃に60分置いた後、0℃に移し60分置いた後、各測定温度に移し30分後に測定)とは相違する温度処理をした後、公定法と同じ測定装置で測定した固体脂含量である。紛れぬよう、本明細書では、公定法による値をSFCと記載して区別する。
水相には、油中水型乳化組成物を製造する場合に通常用いられるもの、例えば、脱脂粉乳、全脂粉乳、発酵乳、食塩、呈味剤、乳化剤などを用いることができる。
本発明のロールイン用可塑性油中水型乳化物は、例えば40〜60℃に加温調整した油相と水相とをプロペラ或いはホモミキサー等にて攪拌して乳化した後、殺菌工程を経、ボテーター或いはコンビネーター等の従来公知の混捏機を使用して冷却可塑化し、シート状に成形することによって得ることができる。
本発明のロールイン用可塑性油中水型乳化物を製造するに際しては、従来より使用されてきた、大豆レシチン、卵黄レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび酢酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリド、酢酸酒石酸混合モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、リンゴ酸モノグリセリド等各種有機酸モノグリセリドのような乳化剤を使用しても、使用しなくてもどちらでも良い。これらの乳化剤を使用した場合は、油中水型乳化物を容易に得ることができる。
本発明における、油中水型乳化物は、以上の他に、所望により食塩、粉乳、糖類、香料や色素などを使用することができる。
以上のようにして得られた本発明の本発明のロールイン用可塑性油中水型乳化物は、パイ・デニッシュなどペーストリー食品生地に折り込んで使用するのに必要な広い温度域における可塑性・伸展性を有し、実質的にトランス酸を含まない。また、これを薄く延ばした生地にのせておりたたみ、再び薄く延ばすことを繰り返した生地を成形後焼成する事により、ジューシー感、バター感の風味が良く実質的にトランス酸を含まないパイ・デニッシュなどのペーストリー食品を得ることができる。
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
(実施例1〜5)
表1に示す配合に従って、実施例1〜5について、それぞれ油中水型乳化物を調製し、コンビネーターで急冷混捏、シート状に押し出して成形し、厚さ10mmのロールイン用可塑性油中水型乳化物を得た。いずれも、なめらかな組織で良好な可塑性を有していた。いうまでも無いが、いずれも実質的なトランス酸の含有量は0であった。なお、表中の「パーム油のエステル交換油」は、パーム油をナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換した、非選択的エステル交換油脂である。
次に、各ロールイン用可塑性油中水型乳化物を使用し、表3に示す配合、表4に示す製法によりクロワッサンを製造した。すなわち、表3の配合において、ロールイン用可塑性油中水型乳化物以外の原料を練り上げ、28℃、湿度75%の庫内にて60分発酵させた後、−18℃のフリーザーで60分間リタードをとった。次に、ロールイン用可塑性油中水型乳化物を折り込み、リバースシーターで3つ折りを1回行った後、−7℃のフリーザーで45分間リタードをとった。そして、リバースシーターで生地厚4mmまで延ばし、55gを成型し、32℃、湿度75%の庫内で60分間発酵させた後、庫内温度210℃のオーブンで17分間焼成しクロワッサンを得た。これを室温で12時間放置して、口溶けのジューシー感、風味のバター感の評価を行った。実施例1〜6はいずれも良好であったが、特に実施例2が良好であった。以上を表5に纏めた。
(比較例1〜5)
表2に示す配合に従って、比較例1〜5について、実施例と同様にして、それぞれ油中水型乳化物を調製し、コンビネーターで急冷混捏、シート状に押し出して成形し、厚さ10mmのロールイン用可塑性油中水型乳化物を得た。但し、比較例4は、可塑性が無くシート状にならなかった。比較例5は、シート状に成型できたが、硬い組織で可塑性がなく、使用できなかった。比較例1〜3のロールイン用可塑性油中水型乳化物は、なめらかな組織で良好な可塑性を有していたので、これを使用し、実施例と同様にして、クロワッサンを焼成し、実施例と同様に評価した。ジューシー感と風味のバター感は、比較例1は良好だが比較例2と3は不良であった。以上を表5に纏めた。なお、比較例1のトランス酸含量は10%であった。
(比較例6)
ヒマワリ油(20%)、パーム油(55%)、パーム核分別高融点部(15%)、ヤシ油(10%)の混合油を用いた他は、実施例1〜4と同様の配合(油脂58.7、バター30、食塩1.0、ランオウレシチン0.3、水10)、方法により水中油型乳化物を調製、コンビネーターで急冷混捏したが、柔らかすぎて可塑性がなくシート状に成形することが困難であった。なお、油相を構成する油脂のSFCは、10℃で41、35℃で1、ID25は10であった。
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Claims (4)

  1. 可塑性油中水型乳化物中、ラウリン系ハードバターを5〜50重量%、パーム油起源の非選択的エステル交換油脂3〜50重量%、乳脂肪を1%以上含有し、油相のSFCが10℃で40%以上、35℃で10%以下で実質的にトランス酸を含まないことを特徴とするロールイン用可塑性油中水型乳化物。
  2. ラウリン系ハードバターがパーム核油の分別高融点部及び/又はその極度硬化油である請求項1記載のロールイン用可塑性油中水型乳化物。
  3. ロールイン用可塑性油中水型乳化物中の油脂成分を60℃で1時間置いた後、25℃にて12時間置いたときの固体脂含量が20.0%以下である請求項1乃至2の何れか1項に記載のロールイン用可塑性油中水型乳化物。
  4. 請求項1乃至3の何れか1項に記載のロールイン用可塑性油中水型乳化物を使用したペーストリー食品。
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