図1、図2は中継装置における遅延波キャンセラ10a,10bを、図3、図4は受信装置における遅延波キャンセラ10c,10dを示すブロック図である。これら遅延波キャンセラ10a,10b,10c,10dは、いずれも、本線信号(受信アンテナ28から送信アンテナ30またはOFDM復調部32に至るまでの本線を通過する信号;図の例ではOFDM受信信号)から遅延波キャンセル信号を生成し、これを本線に入力する(本線信号に加える)ことで、不要な遅延波成分の相殺を図るものである。この種の遅延波キャンセラ10a,10b,10c,10dでは、いずれも複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)12が用いられており、遅延波キャンセル信号は、そのフィルタタップ係数値を本線信号に応じて適切に調節することで生成される。具体的な構成例(図1〜図4)について説明すると、図1〜図4の例では、いずれも、本線信号をA/D変換部16によってA/D変換しさらに直交復調部18によって直交復調した信号が複素トランスバーサルフィルタ12に入力される。複素トランスバーサルフィルタ12から出力された信号は、直交変調部20において直交変調される。この信号が遅延波キャンセル信号として本線信号に加えられる。なお、遅延波キャンセル信号は、本線信号に加えられる前または後の段階で、D/A変換部22においてD/A変換される。
フィルタタップ係数値は、フィルタタップ係数値算出部14において、本線信号の複素インパルス応答に基づいて算出される。複素トランスバーサルフィルタ12を用いる遅延波キャンセラ10a,10b,10c,10dの遅延波除去性能は、フィルタタップ係数値の算出精度によって大きく左右される。フィルタタップ係数値の算出方法は、その元となる複素インパルス応答の算出法によって以下の4つに大別される。
1.パイロット信号を利用する方法
2.スペクトルを利用する方法
3.相関を利用する方法
4.サンプリングデータを利用する方法
ここで、これら4つのフィルタタップ係数値の算出方法について説明する。
<1.パイロット信号を利用する方法> 図41に複素インパルス応答の算出にパイロット信号を利用する場合の複素インパルス応答算出部34a(フィルタタップ係数値算出部14に含まれる)のブロック図を示す。
図41のパイロット信号を利用した方法では、シンボル同期により得られた適切な時間位置より有効シンボル長の受信(もしくは再送信)OFDM時間信号を切り出し、有効シンボル長のデータを離散フーリエ変換し(すなわち、一定数のサンプリングデータをひとまとめにして離散フーリエ変換している。)、得られたスペクトルからパイロット信号(スキャッタードパイロット信号、コンティニュアルパイロット信号)を抽出し、保持しているパイロット信号を除算し伝達関数を求め、その伝達関数の逆数(または伝達関数)を逆離散フーリエ変換することで複素インパルス応答を得る。パイロット信号を利用する場合、時間信号をサンプリングする際のサンプリング周波数(ISDB−Tでは512/63[MHz])を送信側と同一、もしくは逓倍にする必要があることは勿論、ISDB−Tにおけるモード、サブキャリアの変調方式、ガードインターバル長などの伝送フォーマットを識別する必要がある。このためシンボル同期などのOFDM復調が必要となる。したがって、伝送フォーマットの識別動作等が確立された上で、複素インパルス応答の算出、およびキャンセル動作が開始されるため、実際のキャンセル動作開始までの遅延が大きくなる。
また、サブキャリアの変調方式にDQPSKなどの差動変調方式が採用されている場合には、非特許文献1の4.3項「差動変調方式における回り込み推定法」に記載の方法を複素インパルス応答算出に用いる必要があるため、階層伝送が行われた場合には各階層ごとに複素インパルス応答(正確には逆離散フーリエ変換する前の伝達関数(周波数特性))の算出方法を変える必要がある。
<2.スペクトルを利用する方法> 図42、および図43に複素インパルス応答の算出にスペクトルを利用する方法を使用した場合の複素インパルス応答算出部34b,34c(フィルタタップ係数値算出部14に含まれる)のブロック図を示す。
複素インパルス応答を求める方法として、パイロット信号を用いるのではなく、スペクトルを利用する方法がある。この方法は、本発明者らの発明に係る特許文献1、2、3および特願2002−241519に記載されている。本発明者らによるこれらの発明においては、一定数のサンプリングデータをひとまとめにして離散フーリエ変換し、得られたスペクトルからエネルギースペクトル(もしくは振幅スペクトル)を得て、得られたエネルギースペクトル(もしくは振幅スペクトル)の平均値の逆数(もしくは、エネルギースペクトル)に対し、逆離散フーリエ変換することで複素インパルス応答を得る(ただし、図43に与えた特願2002−241519の発明では、他の処理が補足され、より厳密な複素インパルス応答が算出される方法となっている。)。これら発明においては、スペクトルさえ得られていれば良いことから、ISDB−Tにおけるモード、サブキャリアの変調方式、ガードインターバル長を識別する必要がなく、このためシンボル同期などのOFDM復調が不要となり、更にはサンプリングレートが必ずしも送信側と同一、もしくは逓倍とする必要がないという利点がある(すなわち、対象とするOFDM信号はISDB−Tに限定されない)。したがって、伝送フォーマットの識別動作が必要でないため、パイロット信号を用いた<1.>の方法よりも、複素インパルス応答の算出、およびキャンセル動作までの遅延が小さい手法となっている。
この<2.>の方法では、スペクトルさえ得られていれば複素インパルス応答の算出が可能なため、サブキャリアの変調方式にDQPSKなどの差動変調方式が採用されている場合であっても複素インパルス応答の算出方法を変更する必要がない。したがって、階層伝送が行われた場合であっても複素インパルス応答(正確には逆離散フーリエ変換する前の伝達関数(周波数特性))の算出方法を変える必要がない。
<3.相関を利用する方法> また、上記<2.>の方法と同様にスキャッタードパイロット信号を利用しないで複素インパルス応答を求める方法として相関を利用した特許文献4がある。この方法でも一定数のサンプリングデータを用いる。ただし、特許文献4で与えられている構成では、複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)をフィードバック型ではなくフィードフォワード型で挿入した構成であるため、遅延波をキャンセルするには無限長の複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)を必要としてしまう。複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)をフィードバック型に挿入して特許文献4で与えられた相関による複素インパルス応答の算出方法を用いて、主に回り込み波を除去したいのであれば、本発明の発明者らの発明である特許文献3の方法を用いる必要がある。この<3.>の方法でも、<2.>の方法と同様、パイロット信号を用いないことから、ISDB−Tにおけるモード、サブキャリアの変調方式、ガードインターバル長を識別する必要がなく、更にサンプリングレートも送信側と同一、もしくは同一とする必要がない、このためシンボル同期などのOFDM復調が不要となる利点がある。したがって、伝送フォーマットの識別動作が必要でないため、スキャッタードパイロット信号を用いた<1.>の方法と違って、複素インパルス応答の算出、およびキャンセル動作を開始するまでの遅延が小さい手法となっている。
この<3.>の方法でも、サブキャリア変動方式等の伝送フォーマットに関わらず複素インパルス応答の算出が可能なため、サブキャリアの変調方式にDQPSKなどの差動変調方式が採用されている場合であっても複素インパルス応答の算出方法を変更する必要がない。したがって、階層伝送が行われた場合であっても複素インパルス応答(正確には逆離散フーリエ変換する前の伝達関数(周波数特性))の算出方法を変える必要がない。
<4.サンプリングデータを利用する方法> 一方、一定数のサンプリングデータをひとまとめにしてから複素インパルス応答を求める前述の<1.>〜<3.>の三つの方法と違い、サンプリング毎に複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値を逐次更新する特許文献5の方法がある。この特許文献5の方法では、OFDM復調装置、もしくはスペクトル(周波数特性)算出装置を必要としないため装置の簡素化はなされるものの、キャンセル量が不十分であることを、特許文献5の発明者らが同内容に関して記した発表論文(非特許文献2および3)において明らかにしており、また別の発表論文(非特許文献4)においてもこれを明言している。本発明においては、キャンセル量を十分に確保することが可能である上記<1.>〜<3.>の三つの方法を議論の対象とする。
ここで、従来のフィルタタップ係数値算出部14a(14)を図44に示す。<1.>〜<3.>の各方法で、時点iにおいて複素インパルス応答算出部34において得られた複素インパルス応答値を
とすると(ただし、Nは離散フーリエ変換のポイント数を表し、複素インパルス応答値e
i(n)は複素数で得られているものとする。)、遅延波キャンセラの複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値は、現在の時点iでのn番目のフィルタタップ係数値をh
i(n)、1時点前のn番目のフィルタタップ係数値をh
i-1(n)とすると、図44に示すフィルタタップ係数値算出部14により、
により更新され、遅延波の変動に対応できるように構成されている。ここに、μはフィルタタップ係数値の更新係数(0<μ≦1なる実数)であり、Lは複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)のフィルタタップ長を表し、L≦Nを満たし、タップ係数h
i(n)は複素数とする。なお、複素インパルス応答を特願2002−174917の方法により式(1)の複素インパルス応答の時間分解能を向上させてから、式(2)にてフィルタタップ係数値を更新しても良い。ただし、この場合には、新たに得た複素インパルス応答の時間分解能に、複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)の遅延器の遅延時間を揃える必要がある。
特開2001−28562号公報
特開2002−271295号公報
特開2002−290370号公報
特開2001−7750号公報
特開2003−60616号公報
特開2001−237749号公報
今村,他,「地上デジタル放送SFNにおける放送波中継用回り込みキャンセラの基礎検討」,映像情報メディア学会誌,Vol.54,No.11,2000年,p.1568−1575
荒関,「地上デジタル放送用適応型回り込みキャンセラの基本検討」,映像情報メディア学会誌,Vol.56,No.2,2002年,p.290−296
荒関,他,「IF帯で動作する逐次適応フィルタを用いたOFDM用中継装置」,映像情報メディア学会誌,Vol.56,No.2,2002年,p.229−236
荒関,「周波数領域処理を用いた地上デジタル放送用逐次適応型回り込みキャンセラ」,Vol.56,No.8,2002年,p.1342−1348
以下に添付図面を参照し、発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
<実施形態1> 本発明の実施形態1を図5に与える。図5のフィルタタップ係数値算出部14bは、図1〜図4のフィルタタップ係数値算出部14として用いられるものである。図44に示した従来のフィルタタップ係数値算出方法で最高の変動追従性能を確保するには更新係数をμ=1とすれば良いが、この場合には雑音レベルが高くなってしまう。逆に雑音レベルを低く抑えるためには更新係数を1より小さくすれば良いが、あまり小さな値にしてしまうと変動追従性能が確保できなくなってしまう。すなわち、従来のタップ係数算出法では変動追従性能の確保と雑音レベルの抑圧の関係はトレードオフの関係にある。また、例え更新係数をμ=1として追従性能を確保したとしても、回り込みの振幅、および位相が変動している場合には十分追従できない(キャンセル量が十分に確保できない)ことは図45を用いた上述の説明のとおりである。
そこで、図5に与えた実施形態1では、振幅、および位相が変動する遅延波の遅延時間に対応する複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)12(図1〜図4)のフィルタタップ係数値の変動追従性能を向上させ、かつ定常状態にあるフィルタタップ係数値における雑音レベルを低下させるために、以上の従来のタップ係数算出法における更新係数をタップ係数毎に変更し、
としている。ここで、添字iはタイムステップを示す。すなわち、h
i-1(n)は遅延回路36を介して取得した前の時点(i−1)におけるフィルタタップ係数値である。またμ(n)はn番目のフィルタタップ係数値の更新係数であり、0≦μ(n)≦1である。この実施形態1では、振幅または位相の変動が速い遅延波の遅延時間に対応するnのフィルタタップ係数値の更新では更新係数μを1として変動追従性能を確保し、振幅または位相の変動が無い遅延波に対応するnのフィルタタップ係数値の更新では更新係数μを1より小さな値として変動追従性能をある程度確保しつつも雑音の影響を抑え、遅延波が存在しない遅延時間に対応するnのフィルタタップ係数値の更新では更新係数をμ=0とすることで雑音の影響を低減することが可能である。このように、フィルタタップ係数値毎に更新係数μ(n)を設定することで、遅延波除去性能の更なる向上を図ることができる。なお、図5において、38は乗算器、40は加算器である。そして、取得されたh
i(n)が図8に例示するような複素トランスバーサルフィルタ12のフィルタタップ係数値として用いられる。図8において、48は遅延要素、50は乗算器、52は加算器である。なお、図8の複素トランスバーサルフィルタ12は、後の実施形態2の場合にも用いることができる。
さて、上記実施形態1にかかる手法は、変動する遅延波の遅延時間に対応するnが予めある程度把握できている場合には有効に機能するが、それが把握できていない場合には遅延波除去性能がやや低下することも想定される。また、遅延波の遅延時間は中継装置の設置場所、設置状況によって変化し、さらに同じ設置場所、設置状況であっても季節、天候等により変化することがあるので、こうした要因が重なったような状況では、本実施形態1を有効に動作させることが困難となる可能性も全く無いとは言えない。
<実施形態2> そこで実施形態1をさらに改善させた方法として、本発明の実施形態2を図6に与える。遅延波キャンセラがキャンセル動作中に得る複素インパルス応答値は、遅延波の振幅、および位相の変動が高速な場合には大きくなり、変動が低速な場合には小さくなることから、時点i毎に得られた複素インパルス応答値e
i(n)の値に応じて更新係数を変更する方法を考えると
となる。ただし、更新係数μ
i(e
i(n))はe
i(n)の関数であり、0≦μ
i(e
i(n))≦1である。ここで、μ
i(e
i(n))はe
i(n)のレベルが大きいときには大きい値を、小さいときには小さい値を出力する関数であり、例えば図7に示すような関数を用いる。ここで、図7におけるLoとHiはLo<Hiなる関係にある。なお、図6において、更新係数μ
i(e
i(n))は更新係数算出回路42によって取得される。また遅延回路44は、更新係数の算出に要する時間の調整のために設けられている。38は乗算器である。
<実施形態3〜5> ここまでに与えた実施形態1、2は、従来の手法を基礎としつつ可能な限り変動追従性能を確保し、また雑音レベルを抑圧しようとするものである。この実施形態1、2を踏まえ、追従性能の更なる向上を図ることができる実施形態3〜5を以下に示す。
実施形態3〜5では、追従性能を更に向上させるためにフィルタタップ係数値の予測を行う。フィルタタップ係数値を予測するにあたり、フィルタタップ係数値の関係をモデル化する。まず、予測フィルタタップ係数値h
i(n)は過去M個のフィルタタップ係数値の線形結合(1次結合)で表されるものとする。ただし、M≧2とする。すなわち、
により、フィルタタップ係数値h
i(n)が表される。ただし、a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)は全て複素数とする。このとき、重み付け係数a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)が適切に得られているのであれば
により1時点先のフィルタタップ係数値h
i+1(n)が予測されることとなる。ここで、重み付け係数a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)を適切に得ることが重要となってくる。
ai,1(n),ai,2(n),・・・,ai,M(n)の与え方としては、特許文献6に与えられているように状況に合わせて経験的に適当と思われる固定値を与えることが考えられる。特許文献6の場合、ai,1(n),ai,2(n),・・・,ai,M(n)は全てのタップ係数(n=0,1,・・・,L)に対して等しく(すなわち、n≠mのときai,1(n)=ai,1(m)、ai,2(n)=ai,2(m)),・・・,ai,M(n)=ai,M(m)。)、かつ全ての時点(i=0,1,・・・)においても等しい(すなわち、i≠jのときai,1(n)=aj,1(n),ai,2(n)=aj,2(n),・・・,ai,M(n)=aj,M(n)。)。しかし、遅延波の各波毎に振幅、および位相の変動は異なり、遅延波の振幅、および位相の変動は、気候、季節、地形等の周辺環境の状況により左右されるものであり時々刻々と変化しており、固定値で対応できる状況は限られてくる。したがって、重み付け係数値も変動の状況により適切な値に常に更新することが望ましい。そこで重み付け係数ai,1(n),ai,2(n),・・・,ai,M(n)の算出方法として最小2乗誤差(Minimum Mean Square Error:MMSE)アルゴリズムの適用が考えられる。MMSEアルゴリズムとしては、直接解法(Sample Matrix Inversion:SMIアルゴリズム)、最急降下法(Least Mean Square:LMSアルゴリズム)、および再帰形最小2乗法(Recursive Least Squares:RLSアルゴリズム)の適用が良く知られているが、MMSE基準の適応制御アルゴリズムはすべて参照信号を必要とする。このため、参照信号が無い、この状況においては、MMSEアルゴリズムをそのまま適用することができない。なお、最小2乗誤差アルゴリズムおよび参照信号等については、下記参考文献1,2を参照のこと。参考文献1:Simon Haykin著(武部幹 訳),「適応フィルタ入門」,現代工学社,1987年、参考文献2:Simon Haykin著(鈴木博 他 訳),「適応フィルタ」,科学技術出版,2000年。
そこで、従来の手法、本発明の実施形態1、および実施形態2を用いて得られるそれぞれのフィルタタップ係数値
、
、または
のうちいずれかのh
i(n)を参照信号として用いる。ここに、
を1時点前に複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)に与えた予測フィルタタップ係数値とする。得られた最新のフィルタタップ係数値(仮のフィルタタップ係数値)h
i(n)を参照信号とし、過去のフィルタタップ係数値(過去に得られた仮のフィルタタップ係数値)h
i-1(n),h
i-2(n),・・・,h
i-M(n)を入力信号とする。ただし、式(7),(8),(9)で得たh
i(n)と、ここで複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値として与える
とは異なることに注意。このときに、重み付け係数a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)を逐次更新し、フィルタタップ係数値の予測を行う以下の実施形態3、4、および5を与える。
<実施形態3:SMIアルゴリズムを利用した実施形態> 本発明にかかる実施形態3を図9に与える。なお、図9の予測タップ係数算出部54aは図12、図13または図14の予測タップ係数算出部54として用いることができる。また、図12、図13、図14のフィルタタップ係数値算出部14d,14e,14fは、いずれも、図1、図2、図3、図4のフィルタタップ係数値算出部14として用いることができる。さて、図9では、初期値を
、
、
、
とし、次に述べる式(20)から式(25)の計算をi=0,1,2,・・・において逐次的に行う。ただし、δは小さな正の定数、IはM行M列の単位行列、Tは転置行列を表し、*は複素共役を表し、以下の説明で用いる三つのM次元ベクトルと一つのM行M列の相関逆行列はそれぞれ
、
、
、
で表されるものとする。
まず、
を求める。ただし、β(n)は忘却係数であり0<β(n)≦1を満たす。次に
を計算し(ただし、Hは複素共役転置を表す。)、相関逆行列を
により算出し、その時点iにおける最適な重み付け係数値を
により算出する。
ここで、新たに得られた重み付け係数値a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)を用いて予測フィルタタップ係数値
を求める。ここで式(24)で得られた予測フィルタタップ係数値をフィルタタップ係数値h
i(n)の代わりに図15に示す複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)の時点iのフィルタタップ係数値
として与える。ここで、i+1をiとして(すなわちiをインクリメントして)、式(20)に戻る。
この実施形態3では、hi(n)を求めるフィルタタップ係数値算出法として式(7)、式(8)、式(9)を用いた場合、それぞれ図12、図13、図14に示す構成となる。なお、上記予測タップ係数値を算出する予測タップ係数算出部54aは、図9に示すように、タップ係数値保持回路56、ui-1(n)算出回路58、遅延回路60、相関逆行列算出更新回路62、遅延回路64、ri(n)算出回路66、重み付け係数算出回路68、および予測タップ係数値算出回路70を含む。
従来のSMIアルゴリズムの使用方法では、サンプリング信号をサンプリング信号毎に直接的に適応等化することを目的にSMIアルゴリズムを用いているのに対し、本実施形態においてはサンプリング信号ではなく適応等化のフィルタタップ係数値の予測にSMIアルゴリズムを用いている点が異なる。すなわち、適応等化の際、タップ係数の持つ次元が1次元増えることとなる。
<実施形態4:LMSアルゴリズムを利用した実施形態> 本発明にかかる実施形態4を図10に与える。図10の予測タップ係数算出部54bは図12、図13または図14の予測タップ係数算出部54として用いることができる。そして、図12、図13または図14のフィルタタップ係数値算出部14d,14e,14fは、いずれも、図1、図2、図3、図4のフィルタタップ係数値算出部14として用いることができる。さて、図10では、初期値を
、
とし、次に述べる式(28)から式(31)の計算をi=0,1,2,・・・において逐次的に行う。まず、
を求める。次に、重み付け係数値a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)を
により更新する。ただし、γは更新係数であり、0<γ≦1を満たす。
ここで、新たに得られた重み付け係数a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)を用いて予測フィルタタップ係数値
を求める。
得られた予測フィルタタップ係数値をフィルタタップ係数値h
i(n)の代わりに図15に示す複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値
として与える。ここで、i+1をiとして(すなわちiをインクリメントして)、式(28)に戻る。
ここで、hi(n)を求めるタップ係数算出法として式(7)、式(8)、式(9)を用いた場合、それぞれ図12、図13、図14に示す構成となる。なお、上記予測タップ係数値を算出する予測タップ係数算出部54bは、図10に示すように、タップ係数値保持回路56、誤差算出回路72、重み付け係数算出更新回路74、遅延回路76、および予測タップ係数値算出回路78を含む。
従来のLMSアルゴリズムの使用方法では、サンプリング信号を直接的に適応等化することを目的にLMSアルゴリズムを用いているのに対し、本発明においてはサンプリング信号ではなく適応等化のフィルタタップ係数値の予測にLMSアルゴリズムを用いている点が異なる。すなわち、適応等化の際、タップ係数の次元が1次元増えることとなる。
<実施形態5:RLSアルゴリズムを利用した実施形態> 本発明にかかる実施形態5を図11に与える。図11の予測タップ係数算出部54cは図12、図13または図14の予測タップ係数算出部54として用いることができる。そして、図12、図13または図14のフィルタタップ係数値算出部14d,14e,14fは、いずれも、図1、図2、図3、図4のフィルタタップ係数値算出部14として用いることができる。さて、図11では、初期値を
、
とし、次に述べる式(34)から式(39)の計算をi=0,1,2,・・・において逐次的に行う。ただし、δは小さな正の定数、IはM行M列の単位行列とする。まず、カルマンゲインベクトル
を求める。ただし、λは忘却係数であり0<λ≦1を満たす実数とする。
次に1時点前までに得られている重み付け係数値
によりフィルタタップ係数値を予測し、事前推定誤差
を得る。そして、
により重み係数値を更新する。また、
により相関行列P
i(n)を更新しておく。
ここで、新たに得られた重み付け係数a
i,1(n),a
i,2(n),・・・,a
i,M(n)を用いて予測フィルタタップ係数値
を求める。ここで、i+1をiとして(すなわちインクリメントして)、式(34)に戻る。
得られた予測フィルタタップ係数値をフィルタタップ係数値h
i(n)の代わりに図15に示す複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値
として与える。
ここで、hi(n)を求めるタップ係数算出法として式(7)、式(8)、式(9)を用いた場合、それぞれ図12、図13、図14に示す構成となる。なお、上記予測タップ係数値を算出する予測タップ係数算出部54cは、図11に示すように、タップ係数値保持回路56、相関逆行列算出更新回路80、遅延回路82、カルマンゲイン算出回路84、事前推定誤差算出回路86、重み付け係数算出更新回路88、遅延回路90、および予測タップ係数値算出回路92を含む。
従来のRLSアルゴリズムの使用方法では、サンプリング信号をサンプリング信号毎に直接的に適応等化することを目的にRLSアルゴリズムを用いているのに対し、本発明においてはサンプリング信号ではなく適応等化のフィルタタップ係数値の予測にRLSアルゴリズムを用いている点が異なる。すなわち、適応等化の際、タップ係数の次元が1次元増えることとなる。
ここで、上述した実施形態3、4、および5の特徴を明確にすると、以下の4点となる。
1.参照信号として現時点のフィルタタップ係数値を用いる。
2.入力値として1時点過去からM時点過去のフィルタタップ係数値を用いる。
3.重み付け係数が逐次更新される。
4.最新の重み付け係数値を用いて1時点、および2時点未来のフィルタタップ係数値を予測する。
<実施の形態6〜8:予測内挿法> 次に、本発明の実施形態6、7、および8をそれぞれ図16、図17、および図18に与える。図16、図17および図18の予測タップ係数算出部100a,100b,100cは図20、図21または図22の予測タップ係数算出部100として用いることができる。そして、図20、図21または図22のフィルタタップ係数値算出部14g,14h,14iは、いずれも、図1、図2、図3、図4のフィルタタップ係数値算出部14として用いることができる。実施形態6、7、および8を適用することで、実施形態3、4、および5とそれぞれを比較して、更なる変動追従性能の向上が可能となる。
まず、重み付け係数値と1時点先の予測フィルタタップ係数値(予測値)と過去のフィルタタップ係数値を用いて更に1時点先(すなわち、現在から2時点先)のフィルタタップ係数値(予測値)を
により求める。そして、
とする。
P個の予測フィルタタップ係数値
を用いて図19に示す内挿予測タップ係数算出回路102において
により、
と
との間を補間し、i+t
j/Tにおける予測内挿フィルタタップ係数値
を得る。ただし、iの更新間隔時間(周期)をTとしたとき、t
jはT以下とする。また、関数yは座標(i+1),i,・・・,(i−(P−2))において、それぞれ
となる(P−1)次の関数であり、良く知られたLagrange補間、Newton補間、Neville補間等の補間方法を用いて求める(図19ではLagrange補間を用いた一例を示した。)。得られた予測フィルタタップ係数値を図23に示す複素トランスバーサルフィルタ(複素FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値
として与える。このように、従来法でタップ係数を更新する間隔に加え、より短い間隔においてもフィルタタップ係数値を更新する場合、計算に要する時間は従来法のタップ係数を計算する計算時間と、補間したタップ係数を計算する計算時間は異なるため、補間する値を求めるのに要する時間に対応したフィルタタップ係数値を計算する。内挿を行った場合、通常間隔における仮フィルタタップ係数値の更新は、直前の内挿時間の値をJとしたとき、
とした場合、図20に示す構成となり、
とした場合、図21に示す構成となり、
とした場合、図22に示す構成となる。時間間隔設定回路104は、iの時間間隔Tよりも小さな時間間隔t
j/Tおよびt
j/Tを出力した順番を示すjを出力する。また、切替回路106はj=Jのとき、フィルタタップ係数値を出力する。このとき、t
jは各jにおけるフィルタタップ係数値算出に要する時間であり予め測定し設定しておく。またJも予め決めておく。t
j/Tとしては、測定した最大のフィルタタップ係数値算出に要する時間に基づいて決定した最大分割数Jにより、等間隔(t
j/T=j/J)に設定してもよい。なお、図16〜図18に示すように、実施形態6〜8にかかる予測タップ係数算出部100a,100b,100cは、実施形態3〜5にかかる予測タップ係数算出部54a,54b,54cに対し、予測タップ係数値算出回路94,96,98をそれぞれ付加した回路構成となっている。
ここで特許文献6に示されている内挿手法と本実施形態にかかる内挿手法とで大きく異なる点について明示する。特許文献6の内挿手法では、
1.内挿に使用するフィルタタップ係数値の数が2
2.内挿フィルタタップ係数値の計算の際、内挿点に対して過去のフィルタタップ係数値のみを用いている
3.内挿フィルタタップ係数値の計算手法は単純な直線予測
4.内挿間隔が一定間隔
であるのに対し、上記実施形態では
1.内挿に使用しているフィルタタップ係数値の数はP個(P≧2)
2.内挿フィルタタップ係数値の計算の際、内挿点に対して過去のフィルタタップ係数値だけでなく、線形結合(1次結合)により予測したフィルタタップ係数値も用いる
3.内挿フィルタタップ係数値の計算手法は様々な補間アルゴリズム
4.内挿間隔は任意間隔
となり、より一般的かつ精度の高い予測内挿が可能となる。
ここで、内挿間隔を任意間隔とした理由について説明しておく。予測内挿フィルタタップ係数値を求める際、補間関数を求めることとなるが、補間関数を求めるのは内挿時点j=1のときのみで良く、j=1以外のjにおいてはj=1のときに求めた補間関数を使用すれば良いのであらためて求める必要はない。また、補間関数を求める際には、過去のフィルタタップ係数値をメモリ等の記憶装置から読み出す時間もかかる。仮に各jにおいて補間関数を求めてからフィルタタップ係数値を求めるのではなく、補間関数を求めることなく、補間関数のjにおけるフィルタタップ係数値を求める方法を適用したとしても、最初(j=1のとき)に過去のフィルタタップ係数値を記憶装置から読み出す必要がある。すなわち、j=1のときには補間関数を求める時間、もしくはフィルタタップ係数値の読み出し時間だけ他のjよりも多くの計算時間を要することとなる。一方、予測が適切に行われた場合、内挿点をより多くした方がキャンセル残差が少なくなることは後の図29から図40での比較からも明らかである。したがって、本発明の予測内挿法は、内挿間隔を任意間隔とすることで、従来の特許文献6よりも多くの内挿を行うことを可能にしてキャンセル残差の低減が可能な方法となっている。
また、フィルタタップ係数値の予測内挿を行うに際し、サンプリング中には予測フィルタタップ係数値の内挿および更新を行わない場合と、サンプリング中でも予測フィルタタップ係数の内挿および更新を行う場合とでは、複素インパルス応答値の算出方法が異なってくる。サンプリング中に内挿を行わない場合は、特許文献6に述べられているように単純に複素インパルス応答を求め、式(50)、式(51)、または式(52)により仮フィルタタップ係数値を算出しても問題は無い。
<実施形態9〜11> しかし、サンプリング中でも予測タップ係数の内挿および更新を行う場合では、複素インパルス応答値に誤差を生じさせてしまうことから、仮フィルタタップ係数値の算出も誤差が大きくなってしまう問題がある。このことを図27と図28とを用いて説明する。遅延波の振幅(または位相)が変動している際、サンプリング中に予測フィルタタップ係数値の内挿およびフィルタタップ係数値の更新を行わない場合は算出された複素インパルス応答値は、図27の斜線の面積を求めて時間平均していることと等価である。しかし、サンプリング中に予測フィルタタップ係数値の内挿および更新を行う場合、図28のように斜線部の面積が黒塗部gi(n)だけ減少した面積の時間平均値が複素インパルス応答値として得られることとなる。この複素インパルス応答値をgi(n)を用いて補正しないと誤差が大きなものとなってしまう。
そこで、本発明の実施形態9、10および11を図24、図25、および図26に与える。図24、図25、および図26のフィルタタップ係数値算出部14j,14k,14lは、いずれも、図1、図2、図3、図4のフィルタタップ係数値算出部14として用いることができる。実施形態9、10および11ではサンプリング中でも予測タップ係数の内挿および更新を行うために図20、図21、および図22のそれぞれに補正値算出回路108および加算器110を加え図24、図25、および図26の構成とし、複素インパルス応答値の誤差g
i(n)を補正する補正処理を付加する。サンプリング中でも予測タップ係数の内挿および更新を行った場合、内挿を行った時間からサンプリング終了時間までの時間がサンプリング時間に占める割合と、内挿フィルタタップ係数値と仮フィルタタップ係数値の差を加味し、補正値g
i(n)を求める。補正値g
i(n)は、上述したように面積の時間平均値となるので
により得られる。ただし、ここでのvはv≦Jかつサンプリング時間内にある最後尾のjであり、Dはサンプリング時間であり、d
jはフィルタタップ係数値がh
i,j(n)で維持されている時間を表す。この補正値g
i(n)をサンプリング中に内挿を行った場合に求まる複素インパルス応答値f
i(n)に加え、サンプリング中には内挿を行わない場合の複素インパルス応答値e
i(n)を得る。
この式(54)で得られたe
i(n)を式(50)、式(51)、または式(52)に用いて仮フィルタタップ係数値を算出する。この補正処理を導入することで、サンプリング中でも内挿を行うことが可能となり、誤差の少ない予測内挿が実現可能となる。したがって、遅延波キャンセラにおいて、サンプリング時間以下(パイロット信号を用いる場合は1シンボル期間以下)でタップ係数を更新する場合であっても予測誤差を大幅に減らすことが可能となる。
上記実施形態3〜8は、従来の方法、実施形態1または実施形態2によってフィルタタップ係数値さえ算出されていれば、あらゆるシステムに組み込むことが可能な手法である。したがって、上記実施形態としてはOFDM信号の中継装置におけるマルチパス、および回り込みを除去する遅延波キャンセラ、並びに受信装置における遅延波キャンセラの複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値の予測方法、予測内挿方法について与えたが、中継もしくは受信の対象とする信号はOFDM信号に限定せず、タップ係数を求めてマルチパス(エコー)や回り込み波(ハウリング)をキャンセルする装置の変動追従性能を向上させる手法としても使用が可能である。
<各実施形態の効果> 次に上記各実施形態の変動追従特性を評価するために、シミュレーション結果から作成した図29から図40までのグラフを用いて特性を比較する。ここでは、従来法、特許文献1の方法、および各実施形態による方法の変動追従特性の違いを明確にするため、係数計算のための遅延時間は特許文献6の第12図から第14図の説明で設定されている遅延時間と同じ15[ms]とし、回り込み波の振幅の変動周波数は10[Hz]で正弦波状に変化するものとした。
更新係数μを1とした場合の従来法でのフィルタタップ係数値の変化の様子を図29に与える。図中、横軸は時間であり、縦軸はそれぞれの特性の振幅値であり、5[ms]間隔で測定を行った。図29より、回り込み変動特性に対し、複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)のフィルタタップ係数値が15[ms]間隔で更新されることから、複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)出力の逆相値(複素トランスバーサルフィルタ(FIRフィルタ)出力は回り込み変動の逆相値を出力することから、その逆相値により比較する)は15[ms]間隔で階段状になることに加え、遅延を生じ、キャンセル残差が発生することが理解できる。図29に対応するキャンセル残差の変化の様子を図30に与える。
次に、更新係数μを1とし、予測重み付け係数μp=0.8とした場合の特許文献6で与えられた手法でのフィルタタップ係数値の変化の様子を図31に与える。図31に対応するキャンセル残差の変化の様子を図32に与える。図30と図32との比較により、遅延波キャンセラのタップ係数の更新間隔の15[ms]に対し、回り込み波の振幅の変動周波数が10[Hz]と高い場合、特許文献6の予測方法を適用した方が従来法よりも却ってキャンセル残差が増加してしまい、変動追従特性が劣化してしまうことがわかる。これは、特許文献6の図17から図19の比較では、遅延波キャンセラのフィルタタップ係数の更新間隔15[ms]に対して、回り込みの変動周波数が2[Hz]と低いため明らかにならなかった問題である。このことから、特許文献6の予測手法はフィルタタップ係数の更新間隔の15[ms]に対し変動周波数が2[Hz]程度と低い場合には有効な手法であるものの、変動周波数が10[Hz]程度と高い場合には却って回り込みキャンセラの変動追従特性を劣化させてしまうことが理解できる。
次に、更新係数μを1とし、予測重み付け係数μp=0.8、予測内挿重み付け係数をμpi=1とした場合の特許文献6で与えられた予測内挿手法でのフィルタタップ係数値の変化の様子を図33に与える。図33に対応するキャンセル残差の変化の様子を図34に与える。図30と図34の比較により、特許文献6の予測内挿方法を適用した方が従来法よりも却ってキャンセル残差が増加してしまい、変動追従特性が劣化してしまうことがわかる。これは、特許文献6で行われていた図17から図19の比較では、遅延波キャンセラのフィルタタップ係数の更新間隔15[ms]に対して、回り込みの変動周波数が2[Hz]と低いため明らかにならなかった問題である。このことから、特許文献6の予測内挿手法はフィルタタップ係数値の更新間隔が15[ms]に対して、変動周波数が2[Hz]程度と低い場合には有効な手法であるものの、変動周波数が10[Hz]程度と高い場合には却って回り込みキャンセラの変動追従特性を劣化させてしまうことが理解できる。
次に、本発明の予測手法においてM=4、忘却係数λを0.8とした場合のフィルタタップ係数値の変動の様子を図35に与える。図35に対応するキャンセル残差の変化の様子を図36に与える。図30と図36との比較により、本発明の予測手法により遅れが改善され、キャンセル残差が改善されていることがわかる。しかし、遅延波キャンセラのフィルタタップ係数の更新間隔が15[ms]なので、キャンセル残差がまだ大きい。
次に、本発明の予測手法においてM=4、忘却係数λを0.8とし、特許文献6の予測内挿法を用いた場合のフィルタタップ係数値の変動の様子を図37に与える。図37に対応するキャンセル残差の変化の様子を図38に与える。図30と図38の比較により、本発明の予測手法により、遅れが改善され、キャンセル残差が改善されていることがわかる。
しかし、図36と図38との比較により、本発明の予測手法に加え、特許文献6の予測内挿法を用いたことで、フィルタタップ係数の更新間隔が5[ms]と短くなったにもかかわらず、キャンセル残差はほとんど改善されていないことがわかる。これは、特許文献6の予測内挿法では、現時点のフィルタタップ係数値と予測した1時点先の予測フィルタタップ係数値を直線で結び、1時点先の予測フィルタタップ係数値よりも先のフィルタタップ係数値を用いて予測内挿を行っているため、誤差を大きくしているためと考えられる。
最後に、本発明の予測内挿法においてM=4、忘却係数λを0.8とした場合のフィルタタップ係数値の変動の様子を図39に与える。図39に対応するキャンセル残差の変化の様子を図40に与える。図30と図40の比較により、本発明の予測内挿法により、遅れが改善され、キャンセル残差が改善されていることがわかる。
更に、図36と図40との比較により、本発明の予測内挿法を用いたことで、タップ係数の更新間隔が5[ms]と短くなり、キャンセル残差が改善されていることがわかる。これは、特許文献6の予測内挿法では、過去のフィルタタップ係数値のみを用いて予測内挿を行っているので誤差が大きくなるのに対し、本発明の予測内挿法では1時点先のフィルタタップ係数値に加え更に1時点先の(すなわち2時点先の)フィルタタップ係数値を予測し、その間の補間を行っているためであると考えられる。
図29から図40において、回り込み波の振幅変動時に対する遅延波キャンセラの変動追従性能の比較を行ったが、マルチパスの振幅変動時においてもほぼ同様の結果を得る。また、回り込み波、およびマルチパス等の遅延波の位相が変動している場合であっても同様の効果が得られる。
10a,10b,10c,10d 遅延波キャンセラ、12 複素トランスバーサルフィルタ、14,14a〜14l フィルタタップ係数値算出部、16 A/D変換部、18 直交復調部、20 直交変調部、22 D/A変換部、26 アンプ、28 受信アンテナ、30 送信アンテナ、32 OFDM復調部、34,34a,34b,34c 複素インパルス応答算出部、36 遅延回路、38 乗算器、40 加算器、42 更新係数算出回路、44 遅延回路、48 タップ、50 乗算器、52 加算器、54,54a,54b,54c 予測タップ係数算出部、56 タップ係数値保持回路、58 ui-1(n)算出回路、60 遅延回路、62 相関逆行列算出更新回路、64 遅延回路、66 ri(n)算出回路、68 重み付け係数算出回路、70,78,92,94,96,98 予測タップ係数値算出回路、72 誤差算出回路、74 重み付け係数算出更新回路、76 遅延回路、80 相関逆行列算出更新回路、82 遅延回路、84 カルマンゲイン算出回路、86 事前推定誤差算出回路、88 重み付け係数算出更新回路、90 遅延回路、100,100a,100b,100c 予測タップ係数算出部、102 内挿予測フィルタタップ係数算出回路、104 時間間隔設定回路、106 切替回路、108 補正値算出回路、110 加算器。