JP4565582B2 - 新規カルボン酸誘導体を成分化合物とする分子化合物 - Google Patents
新規カルボン酸誘導体を成分化合物とする分子化合物 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規カルボン酸誘導体、該カルボン酸誘導体を成分化合物とする分子化合物等に関し、より詳しくは、新規なテトラキスフェニル骨格を有するカルボン酸誘導体及び該カルボン酸誘導体の製造方法、該カルボン酸誘導体を成分化合物とする分子化合物及びその製造方法、並びに該カルボン酸誘導体を配位子とする配位化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
分子化合物は、二種以上の化合物が水素結合やファンデルワールス力などに代表される、共有結合以外の比較的弱い相互作用によって結合した化合物であり、簡単な操作によってもとの各成分化合物に解離する性質を有することから、近年、有用物質の選択分離、化学的安定化、不揮発化、徐放化、粉末化などの技術分野における応用が期待されている。
【0003】
具体的な分子化合物の一例として包接化合物が挙げられ、例えば特開昭61−53201号公報には、1,1,6,6,−テトラフェニル−2,4−ヘキサジイン−1,6−ジオール又は1,1−ジ(2,4−ジメチルフェニル)−2−プロピン−1−オール、特開昭62−22701号公報には、1,1′−ビス−2−ナフトールとそれぞれ、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等との包接化合物が記載されている。また、特開平3−279373号公報には、ビスフェノール系化合物とイソチアゾロン系化合物との包接化合物が報告されている。更に、特開平6−166646号公報にはテトラキスフェノール類と種々の有機化合物との包接化合物が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の技術では熱やpHなどの外的要因の変化により壊れやすい、溶液中では容易に解離してしまうなどの問題点から、選択分離、化学的安定化、不揮発化、徐放化、粉末化等において十分満足できる性能を持った分子化合物は未だ見い出されていない。
【0005】
本発明の課題は、有用物質の選択分離、化学的安定化、不揮発化、徐放化、粉末化などの技術分野において優れた性能を示す、テトラキスフェニル骨格を有するカルボン酸誘導体を成分化合物とする新規な分子化合物や、個体触媒として有用な新規配位化合物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の問題点を解決すべく鋭意研究をした結果、二点相互作用により剛直な水素結合を形成するカルボキシル基が発散的に配置された特定のテトラキスフェニル骨格を有するカルボン酸誘導体を成分化合物とする分子化合物が有用物質の選択分離、化学的安定化、不揮発化、徐放化、粉末化等の技術分野において極めて優れた性能を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、次の一般式(I)又は一般式(II)[式(I)及び(II)中、Xは、(CH2)n 又はp−フェニレン基を表し、nは、0、1、2又は3であり、R1〜R8及びR13〜R20は、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C4のアルケニル基、C1〜C6のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子またはC1〜C6のアルコキシ基を示し、R9〜R12及びR21〜R24は、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C4のアルケニル基、C7〜C12のアラルキル基、アルカリ金属を示す。]で表されるカルボン酸誘導体に関する。
【0008】
【化5】
【0009】
【化6】
【0010】
また本発明は、次の一般式(III)又は一般式(IV)[式(III)及び(IV)中、R25〜R32及びR35〜R42は、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C4のアルケニル基、C1〜C6のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、ハロゲン原子またはC1〜C6のアルコキシ基を示し、R33、R34、R43及びR44は、それぞれ水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C4のアルケニル基、C7〜C12のアラルキル基、アルカリ金属を示す。]で表される上記のカルボン酸誘導体に関する。
【0011】
【化7】
【0012】
【化8】
【0013】
また本発明は、1,1−ビス(3−カルボキシフェニル)ケトン誘導体又は1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ケトン誘導体を使用することを特徴とする上記一般式(I)又は一般式(II)、特に一般式(III)又は一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体の製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、上記一般式(I)又は一般式(II)、特に一般式(III)又は一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体を成分化合物とする包接化合物等の分子化合物や、該カルボン酸誘導体と、該カルボン酸誘導体と反応して分子化合物を形成する抗菌剤、抗カビ剤、殺虫剤、害虫忌避剤、香料、脱臭・消臭剤、防汚剤、塗料・樹脂・接着剤用硬化剤及び硬化促進剤、天然精油、酸化防止剤、加硫促進剤又は有機溶媒とを成分化合物とする上記包接化合物等の分子化合物や、これら上記いずれかの分子化合物の製造方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、上記一般式(I)又は一般式(II)で表され、それら式中のR9〜R12及びR21〜R24が水素原子又はアルカリ金属であるカルボン酸誘導体を配位子とする配位化合物に関する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明における分子化合物とは、単独で安定に存在することのできる化合物の二種以上の成分化合物が水素結合やファンデルワールス力などに代表される共有結合以外の比較的弱い相互作用によって結合した化合物であり、水化物、溶媒化物、付加化合物、包接化合物などが含まれる。
【0017】
本発明の一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体において、R1〜R8、R13〜R20、R25〜R32及びR35〜R42で表される置換基としては、例えば、水素原子、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のC1〜C6のアルキル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基等のC2〜C4のアルケニル基、フェニル基、p−メチルフェニル等のC1〜C6のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、t−ブトキシ基等のC1〜C6のアルコキシ基などを具体的に挙げることができる。
【0018】
また本発明の一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体において、R9〜R12、R21〜R24、R33、R34、R43及びR44で表される置換基としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等のC1〜C6のアルキル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基等のC2〜C4のアルケニル基、ベンジル基等のアラルキル基、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属原子を具体的に挙げることができる。
【0019】
そして、本発明の一般式(I)又は一般式(II)で表されるカルボン酸誘導体のうち、有用物質の選択分離、化学的安定化、不揮発化、徐放化、粉末化などの性能の点から、特に一般式(III)又一般式(IV)で表されるテトラキスカルボキシフェニルエタン及びその誘導体が好ましい。
【0020】
本発明のテトラキスフェニルカルボキシレート類としては、例えば、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラメチルエステル、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラエチルエステル、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラn-プロピルエステル、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラベンジルエステル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル)エタン、テトラキス(3,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル)エタンテトラメチルエステル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル)エタンテトラエチルエステル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル)エタンテトラn-プロピルエステル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル)エタンテトラベンジルエステル、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラナトリウム塩、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラカリウム塩、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタン、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタンテトラメチルエステル、テトラキス(3−カルボキシ−4,5−ジメチルフェニル)エタン、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタンテトラエチルエステル、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタンテトラn−プロピルエステル、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタンテトラベンジルエステル、テトラキス(3−カルボキシ−4,5−ジメチルフェニル)エタン、テトラキス(3−カルボキシ−4,5−ジメチルフェニル)エタンテトラメチルエステル、テトラキス(3−カルボキシ−4,5−ジメチルフェニル)エタンテトラエチルエステル、テトラキス(3−カルボキシ−4,5−ジメチルフェニル)エタンテトラn-プロピルエステル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル)エタンテトラベンジルエステル、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタンテトラナトリウム塩、テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタンテトラカリウム塩などを挙げることができる。
【0021】
一般式(III)で表されるテトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン誘導体のうち、R25とR32、R26とR31、R27とR30、R28とR29が同一の置換基である中心対称の場合のものについては、例えば以下の反応工程(1)〜(5)により容易に製造される。また、一般式(IV)で表されるテトラキス(3−カルボキシフェニル)エタン誘導体のうちR35とR37、R36とR38、R39とR41、R40とR42が同一の置換基である中心対称の場合のものに関しても出発原料に1, 1−ビス(3−カルボキシフェニル)ケトン誘導体を用いることにより同様の手法で製造することができる。
【0022】
反応工程(1)
次の反応式▲1▼(式中、R25〜R28は水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C4のアルケニル基、C7〜C12のアラルキル基)に示されるように、1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ケトン誘導体をメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒もしくは水酸化ナトリウムなどの希アルカリ水溶液に溶解させ、この溶液に還元剤を導入して室温又は加熱条件下でケトンのカルボニル基のみを選択的にアルコールに変換する。この際、還元剤としては比較的還元力の弱い剤が好適に用いられ、特に水素化ホウ素ナトリウム等が好ましい。反応温度は任意の温度で構わないが、室温〜50℃の範囲が好ましい。
【0023】
【化9】
【0024】
反応工程(2)
次の反応式▲2▼に示されるように、反応工程(1)で生成したアルコールの水酸基を脱離基であるハロゲン原子に変換してハロゲン化物とする。ハロゲン化の際には通常、塩素化、臭素化もしくは沃素化が行われるが、合成の容易さと次の反応の容易さという観点から臭素化が最も好適である。臭素化には48%臭化水素酸が好適に用いられ、臭化水素分でアルコールの5〜10倍当量を用いて加熱条件で行う。この際、反応温度は90℃〜環流条件の範囲が好ましい。また、アルコールが臭化水素酸に溶解しない場合には、アルコール以外の親水性溶媒を用いるのが好ましく、特に好ましくは酢酸などを用いる。
【0025】
【化10】
【0026】
反応工程(3)
次の反応式▲3▼に示されるように、反応工程(2)で生成した臭化物のカルボキシル基をエステルの形にして保護する。この際、導入及び除去操作が簡便に行える、メチル、エチルなどの簡単なC1〜C6のアルキルエステル、又はベンジルエステルなどが好ましい。これらのエステル化物は鉱酸触媒の存在下にカルボン酸と対応するアルコールを反応させることにより得られるが、更に好ましくは塩化チオニルを用いてカルボン酸塩化物とした後に、アルコールと反応させる。すなわち臭化物と大過剰の塩化チオニルの混合物を加熱条件下、好ましくは環流条件下においてカルボン酸塩化物とする。
【0027】
【化11】
【0028】
次の反応式▲4▼に示されるように、引き続いてメチルアルコール、エチルアルコールなどのアルコールを用いて、塩基触媒のもとにエステル化反応を行う。この際、塩基触媒としては弱塩基性アミンが好ましく、より好ましくはトリエチルアミン、ピリジン等がよい。反応温度は任意の温度で構わないが、室温〜40℃の範囲が好ましい。
【0029】
【化12】
【0030】
反応工程(4)
次の反応式▲5▼に示されるように、反応工程(3)で合成したハロゲン化アルキルのジエステル化物に脱水有機溶媒中、加熱条件下で金属試薬を作用させて、Wurtz型の縮合反応を行い、アルカンを生成する。この際、溶媒としては酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドなどが好適に用いられ、金属試薬としては亜鉛、マグネシウム、銅、鉄、鉛などが好ましい。反応は加熱条件下が好ましく、より好ましくは環流条件がよい。
【0031】
【化13】
【0032】
反応工程(5)
次の反応式▲6▼に示されるように、エステル部分をカルボン酸に変換する場合には、アルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの親水性有機溶媒中で、1M濃度程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応を行う。この際、反応温度は任意の温度で構わないが、好ましくは0℃〜40℃の範囲がよい。
【0033】
【化14】
【0034】
他方、一般式(III)で表されるテトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン誘導体のうち、非対称である場合のものについては、次の反応式▲7▼に示されるように、異なる2種のジエステル体を上記(1)〜(3)と同様の反応工程で合成し、反応工程(4)の手法でそれらを縮合した後、反応工程(5)の操作を行うことにより製造することができる。また、一般式(IV)で表されるテトラキス(3−カルボキシフェニル)エタン誘導体のうち非対称である場合のものについても同様の手法で製造することができる。なお、テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの具体的な製造法は、後述の実施例1において説明する。
【0035】
【化15】
【0036】
本発明において、一般式(I)又は一般式(II)、特に一般式(III)又は一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体と分子化合物を形成する物質は、かかるカルボン酸誘導体と分子化合物を形成し得るものであればどのようなものでもよく、具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジオール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、フタルアルデヒド、α−ブロムシンナムアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、2−ブロモ−4′−ヒドロキシアセトフェノン等のケトン類、アセトニトリル、アクリロニトリル、n−ブチロニトリル、マロノニトリル、フェニルアセトニトリル、ベンゾニトリル、シアノピリジン、2,2−ジブロモメチルグルタルニトリル、2,3,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等のニトリル類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジオキソラン、トリオキサン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、n−ヘプチルアセテート、ビス−1,4−ブロモアセトキシ−2−ブテン等のエステル類、ベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド類、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジシアンジアミド、ジブロムニトリルプロピオンアミド、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、N,N−ジエチル−m−トルアミド等のアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素、ε−カプロラクタム等のラクタム類、ε−カプロラクトン等のラクトン類、アリールグリシジルエーテル等のオキシラン類、モルホリン類、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、p−クロロ−m−クレゾール等のフェノール類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、アジピン酸、酒石酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等のカルボン酸類及びチオカルボン酸類、スルファミン酸類、チオカルバミン酸類、チオセミカルバジド類、尿素、フェニル尿素、ジフェニル尿素、チオ尿素、フェニルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素等の尿素及びチオ尿素類、イソチオ尿素類、スルホニル尿素類、チオフェノール、アリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ベンジルメルカプタン等のチオール類、ベンジルスルフィド、ブチルメチルスルフィド等のスルフィド類、ジブチルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等のジスルフィド類、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジベンジルスルホキシド等のスルホキシド類、ジメチルスルホン、フェニルスルホン、フェニル−(2−シアノ−2−クロロビニル)スルホン、ヘキサブロモジメチルスルホン、ジヨードメチルパラトリルスルホン等のスルホン類、チオシアン酸メチルエステル、イソチオシアン酸メチルエステル等のチオシアン酸類及びイソチオシアン酸類、グリシン、アラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、グルタミン等のアミノ酸類、アミド及びウレタン化合物類、酸無水物類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アルカン類、アルケン類、アルキン類、ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート等のイソシアネート類、メチレンビスチオシアネート、メチレンビスイソチオシアネート等のチオシアネート類及びイソチオシアネート類、トリス(ヒドロキシメチル)ニトロメタン等のニトロ化合物類、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、アリルアミン、ヒドロキシルアミン、エタノールアミン、ベンジルアミン、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N′−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N−エチル−1,3−プロパンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、アルキル−t−モノアミン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、グアニジン、N−(2−ヒドロキシプロピル)アミノメタノール等の非環式脂肪族アミン類、シクロヘキシルアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ピロリジン類、アゼチジン類、ピペリジン類、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、N,N′−ジメチルピペラジン等のピペラジン類、ピロリン類等の環式脂肪族アミン類、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、m−キレンジアミン等の芳香族アミン類、エポキシ化合物付加ポリアミン、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、チオ尿素付加ポリアミン、ケトン封鎖ポリアミン等の変性ポリアミン類、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−n−プロピルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ウンデシル−1H−イミダゾール、2−ヘプタデシル−1H−イミダゾール、2−フェニル−1H−イミダゾール、4−メチル−2−フェニル−1H−イミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ピロール、ピリジン、ピコリン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリアジン、テトラゾール、プリン、インドール、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、イミダゾリン、ピロリン、オキサゾール、ピペリン、ピリミジン、ピリダジン、ベンズイミダゾール、インダゾール、キナゾリン、キノキサリン、フタルイミド、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、2−メトキシカルボニルベンズイミダゾール、2,3,5,6−テトラクロロ−4−メタンスルホニルピリジン、2,2−ジチオ−ビス−(ピリジン−1−オキサイド)、N−メチルピロリドン、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリエチル−s−トリアジン、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、2−メトキシカルボニルベンズイミダゾール、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド等の含窒素複素環化合物、フラン、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアミン、ピラン、クマリン、ベンゾフラン、キサンテン、ベンゾジオキサン等の含酸素複素環化合物、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソキサゾール、5−メチルオキサゾリジン、4−(2−ニトロブチル)モルホリン、4,4′−(2−エチル−2−ニトロトリメチレン)ジモルホリン等の含窒素及び酸素複素環化合物、チオフェン、3,3,4,4−テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキサイド、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン、5−クロロ−4−フェニル−1,2−ジチオラン−3−オン、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド等の含硫黄複素環化合物、チアゾール、ベンゾチアゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−3−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−チオシアノメチルベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、2−チオシアノメチルベンゾチアゾール等の含窒素及び硫黄複素環化合物、コレステロール等のステロイド類、ブルシン、キニン、テオフィリン等のアルカロイド類、シネオール、ヒノキチオール、メントール、テルピネオール、ボルネオール、ノポール、シトラール、シトロネロール、シトロネラール、ゲラニオール、メントン、オイゲノール、リナロール、ジメチルオクタノール等の天然精油類、キンモクセイ、ジャスミン、レモン等の合成香料類、アスコルビン酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド等のビタミン及び関連化合物等を例示することができる。
【0037】
本発明の分子化合物は、一般式(I)又は一般式(II)、好ましくは一般式(III)又は一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体と、かかるカルボン酸誘導体と分子化合物を形成する前記のような物質とを直接混合するか、あるいは溶媒中で混合することにより得ることができる。また、低沸点の物質あるいは蒸気圧の高い物質の場合は、本発明のカルボン酸誘導体にこれら物質の蒸気を作用させることにより目的とする分子化合物を得ることができる。そしてまた、本発明のカルボン酸誘導体に対して、二種類以上の物質を反応させることにより、三成分以上の多成分からなる分子化合物を得ることもできる。さらに、本発明のカルボン酸誘導体とある物質との分子化合物をまず生成させ、この分子化合物と別の物質とを上記のような方法で反応させることにより目的とする分子化合物を得ることもできる。
【0038】
本発明の分子化合物はその生成条件により、これを構成する各成分化合物の比率が変化することがあるが、上記方法により得られた物質が確かに分子化合物であることは、熱分析(TG及びDTA)、赤外吸収スペクトル(IR)、X線回折パターン、固体NMRスペクトル等により確認することができる。また、分子化合物の組成は熱分析、1H−NMRスペクトル、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、元素分析等により確認することができる。
【0039】
本発明の分子化合物は、有用物質の選択分離、化学的安定化、不揮発化、粉末化等の機能の点、及び一定の組成の分子化合物を安定的に製造するなどの目的から、結晶性であることが好ましく、特に結晶性の包接化合物であることがより好ましい。この際、同一の分子化合物であっても結晶多形をとることがある。結晶性の確認は主にX線回折パターンを調べることによりできる。また結晶多形の存在は熱分析、X線回折パターン、固体NMR等により確認できる。ここで、包接化合物とは、原子又は分子が結合してできた三次元構造の内部に適当な大きさの空孔があり、その中に他の原子又は分子が非共有結合的な相互作用により一定の組成比で入り込んだ物質を指す。ここで、空孔は必ずしも包接化合物を構成する一方の成分化合物が単独で形成する必要はなく、二つの成分化合物から包接化合物ができる際にのみ形成されるものでもよい。
【0040】
本発明の分子化合物の使用形態には特に制限はなく、例えばそれぞれ異なる成分化合物で構成された二種類以上の分子化合物を混合して使用することができる。また、本発明の分子化合物は目的とする機能を損なわない限り、他の物質と併用して使うことができる。本発明の分子化合物に賦形剤等を与え、顆粒や錠剤に成形して使用することもできる。更に、樹脂、塗料、並びにそれらの原料や原料組成物中に添加して使用することもできる。本発明の分子化合物はそのまま有機合成の原料として使用したり、分子化合物を特異的な反応場として使用することもできる。
【0041】
例えば、本発明における一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体をホスト化合物とし、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系殺菌剤、ヒノキチオール、1,8−シネオール等の抗菌・殺虫・防虫剤、ローズマリー等の香料、イソチアゾロン系化合物等の防汚剤、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のエポキシ樹脂用硬化剤及び1,8−ジアザビシクロ(4,5,0)ウンデセン−7等のエポキシ樹脂用硬化促進剤などの触媒、又はトルエン、キシレン、ピリジン等の有機溶媒をゲストとした包接化合物は、ゲスト化合物が本来有する作用の他に、徐放性、皮膚刺激性の軽減、化学的安定化、不揮発化、粉末化、有用物質の選択分離等の機能が新たに付与され、新しい特性を有する殺菌剤、抗菌剤、殺虫・防虫剤、香料、防汚剤、エポキシ樹脂用硬化剤等の触媒、有機溶媒として極めて有用である。
【0042】
また、本発明のカルボン酸誘導体におけるカルボキシル基は2座配位子としても機能するため、一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体において、R9〜R12、R21〜R24、R33、R34、R43及びR44が水素原子又はアルカリ金属であるものは、金属イオンと配位化合物を形成することができる。かかるカルボン酸誘導体と配位化合物を形成する金属イオンとしては例えば、銅、亜鉛、ニッケル、鉄等を例示することができる。そして、例えば、上記R9〜R12、R21〜R24、R33、R34、R43及びR44が水素原子であるものを配位子とする配位化合物の製造方法には特に制限はないが、通常、塩化銅、塩化亜鉛などの金属塩化物と配位子となる本発明のカルボン酸誘導体のアルカリ金属塩とを室温下で、水中において数十分間攪拌して反応させることにより、新規な配位化合物を得ることができる。かかる新規配位化合物は、網目状の配位高分子化合物を形成し、銅、亜鉛、ニッケル、鉄等の金属イオンが安定的に捕捉されているので、種々の反応触媒、特に固体触媒として使用することができる。
【0043】
この方法により得られた物質が確かに配位化合物であることは、熱分析(TG及びDTA)、赤外吸収スペクトル(IR)、X線回折パターン等により確認することができる。また、配位化合物の組成は熱分析、原子吸光分析、元素分析等により確認することができる。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例に従ってさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの合成
反応工程(1)
攪拌棒を備えた500mlの4口フラスコに、1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ケトン14.21g(0.053mol)、0.75M水酸化ナトリウム水溶液150mlとメタノール40mlの混合溶媒を加えて攪拌し、室温下で溶解させた。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム2.11g(0.053mol)を加え、室温で4.5時間攪拌し反応を終了させた。反応液を6N−塩酸でpHを3に調整後、析出した固体を濾取した。この固体を50℃で真空乾燥させて、1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)メタノール14.31gを得た(収率95%)。
【0045】
反応工程(2)
攪拌棒、温度計を備えた300mlの4口フラスコに反応工程(1)で得られた1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)メタノール7.98g(0.029mol)、酢酸80ml、48%臭素水素酸溶液50.00g(0.29mol)を仕込み、95〜100℃で3時間攪拌し反応を終了させた。反応液を室温まで放冷し、析出した固体を吸引濾取した。この固体を50℃で真空乾燥させて、1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ブロモメタン6.59gを得た(収率67%)。
【0046】
反応工程(3)
攪拌棒、温度計を備えた200mlの4口フラスコに反応工程(2)で得られた1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ブロモメタン6.50g(0.019mol)、塩化チオニル40gを加え、徐々に加熱しながら攪拌して溶解させた。反応液を環流条件下で2時間攪拌し反応を終了させた。塩化チオニルを減圧留去することにより橙色の油状物が得られた。この油状物にエタノール125mlを加え、さらにピリジン4.55g(0.058mol)を加えて室温下で17時間攪拌し反応を終了させた。反応溶媒を留去し、残査に酢酸エチル120mlを加えて溶解し、水70mlで3回洗浄することにより、反応によって生成する塩化ピリジニウムを除いた。酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、酢酸エチルを留去して1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ブロモメタンジエチルエステル6.53gを得た(収率84%)。
【0047】
反応工程(4)
攪拌棒、CaCl2管を付けた環流冷却管を備えた100mlの3口フラスコに反応工程(3)で得られた1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)ブロモメタンジエチルエステル6.30g(0.016mol)、脱水酢酸エチル30ml、亜鉛末1.26g(0.026mol)を加え、攪拌しながら環流条件まで加熱して溶解させた。ついで環流条件下で6.5時間攪拌して反応を終了させた。反応液を室温まで放冷した後、酢酸エチル90ml、エタノール45mlを加えて反応系で生成した臭化亜鉛を溶解させ、不溶解物をろ過した。ろ過物にアセトン500mlを加え、攪拌しながら50℃付近まで加熱した後に過剰の亜鉛末をろ去した。ろ液を濃縮して得られた白色粉末から臭化亜鉛を完全に除去するため、50%エタノール水溶液で洗浄し、50℃で真空乾燥することにより、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラエチルエステル3.21gを得た(収率64%)。
【0048】
反応工程(5)
攪拌棒を備えた1Lの3口フラスコに反応工程(4)で得られた1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシレートフェニル)エタンテトラエチルエステル3.10g(5mmol)、アセトン430mlを加え攪拌して溶解させた。この溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液40ml(40mmol)を加えて室温で攪拌した。基質の消失と共にアセトンを留去していき、1N水酸化ナトリウム水溶液20mlをさらに加えて反応の進行を速めた。最終的にアセトンをほぼ留去して、1N水酸化ナトリウム溶液中で攪拌した。攪拌開始から55時間後に反応を終了させ、反応液のpHを6N塩酸で3に調整後、析出した固体を濾取した。この固体を50℃で真空乾燥することにより、白色の粉末2.44gを得た(収率96%)。
【0049】
このものが1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンであることを核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルにより確認した。赤外吸収スペクトルにおけるカルボキシル基の吸収は、通常の会合した芳香族カルボン酸のカルボキシル基の吸収波数域に見られることから、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンは、分子内会合体として存在することが示唆された。DSCにおけるトップピーク法から求めた融点も、この会合状態を反映して、386℃と非常に高く、耐熱安定性が極めて良好であることが判った。得られた1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)及びIRスペクトル(KBr法)を図1及び図2に示す。
【0050】
実施例2
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンを成分化合物とする分子化合物の製造(その1)
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン0.25mmol(0.13g)をピリジン3mlに加熱溶解した後、室温で24時間放置した。析出した結晶を濾取し、40℃下で1時間ロータリー真空ポンプを用いて減圧乾燥し、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとピリジンとの組成比率1:3(モル比)から成る分子化合物を得た。次にピリジンの代わりにN,N−ジメチルホルムアミドを使用し、同様の操作を行ったが、室温で24時間放置した後は、減圧下でN,N−ジメチルホルムアミドを留去し、残査について更に80℃で1時間ロータリー真空ポンプを用いて減圧乾燥し、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとN,N−ジメチルホルムアミドとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物を得た。各々が前記の組成の分子化合物であることは熱分析(TG/DTA)、1H−NMR及びX線回折パターンにより確認した。またX線回折パターンから各々の分子化合物が明らかに結晶性であることを確認した。
【0051】
各々の分子化合物はピリジンをおよそ89℃〜189℃の範囲、N,N−ジメチルホルムアミドをおよそ153℃〜173℃の範囲で放出した。1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとピリジン及びN,N−ジメチルホルムアミドとの分子化合物の1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)を図3及び図4に示し、熱分析(TG/DTA)チャートをそれぞれ図5及び図6に示した。また、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとピリジン及びN,N−ジメチルホルムアミドとの分子化合物の粉末X線回折パターンをそれぞれ図7及び図8に示した。比較のために、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの粉末X線回折パターンをそ図9に示した。このように本発明の分子化合物は、室温で液体であるピリジン及びN,N−ジメチルホルムアミドを粉末化し、また揮発の制御を可能にした。
【0052】
実施例3
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンを成分化合物とする分子化合物の製造(その2)
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン0.196mmol(0.1g)を、1,4−ジオキサン5mlに懸濁し、10分間還流温度で加熱した後、24時間室温で放置した。固体成分を濾取し、40℃下ロータリー真空ポンプを用いて2時間減圧乾燥し、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物を得た。このものが前記の組成の分子化合物であることは熱分析(TG/DTA)、1H−NMR及びX線回折パターンにより確認した。またX線回折パターンから本分子化合物が明らかに結晶性であることを確認した。
【0053】
本分子化合物は1,4−ジオキサンをおよそ194℃〜215℃の範囲で放出した。1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの分子化合物の1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)及び熱分析(TG/DTA)チャートをそれぞれ図10及び図11に示した。また、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの分子化合物の粉末X線回折パターンを図12に示した。このように本発明の分子化合物は、室温で液体である1,4−ジオキサンを粉末化し、また揮発の制御を可能にした。更に従来知られている拡散水素結合部位を持ったテトラキスフェノール類の一つである、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの分子化合物の1,4−ジオキサンの放出温度範囲はおよそ96℃〜115℃であることから、本発明の分子化合物は、極めて高い熱安定性を可能にした。
【0054】
実施例4
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと銅及び亜鉛の配位化合物の製造
1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン770mg(1.5mmol)を1N水酸化ナトリウム水溶液10mlに溶解し、この溶液へエチルアルコールを加えていき、析出した白色固体を濾取した。この固体を50℃で真空乾燥することにより1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンテトラナトリウム塩の粉末799mgを得た(収率88%)。この白色粉末100mg(0.17mmol)を蒸留水4mlに溶解し、塩化銅(II)・2水和物72mg(0.42mmol)が溶解した水溶液4mlと混合し、混合液を室温下で30分間マグネチックスターラーで攪拌した。さらに15時間室温で放置した後、析出した固体を濾取した。この固体を50℃で真空乾燥することにより、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと2価の銅イオン及び水との組成比率がおよそ1:3:6(モル比)からなる配位化合物を得た。同様の手法により、塩化銅(II)・2水和物の代わりに塩化亜鉛57mg(0.42mmol)を用いた場合には、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと2価の亜鉛イオン及び水との組成比率がおよそ1:2:7(モル比)からなる配位化合物を得た。
【0055】
これらのものが1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと銅及び亜鉛の配位化合物であることを赤外吸収スペクトルにおけるカルボニル基の吸収のシフト及び水酸基の吸収の消失により確認し、これらのものが前記の組成の配位化合物であることは原子吸光分析、空気雰囲気下で測定した熱分析(TG/DTA)により確認した。得られた1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと銅及び亜鉛の配位化合物のIRスペクトル(KBr法)をそれぞれ図13及び図14に示し、熱分析チャートをそれぞれ図15及び図16に示した。
【0056】
【発明の効果】
本発明の新規カルボン酸誘導体を成分とする分子化合物は、簡単な操作で調製できる上に、種々の物質について化学的安定化、不揮発化、徐放化、粉末化などの機能を付与することができ、また特定物質の選択分離や回収を行うことができる。更に本発明の分子化合物は種々の物質と併用して使用することができ、また各種の形態で用いることもできる。さらに、本発明の新規カルボン酸誘導体を配位子とする配位化合物は固体触媒として有用である。従って、本発明の新規カルボン酸誘導体は非常に広範な分野で利用可能であり、産業上における意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの赤外吸収スペクトル(KBr法)を示す図である。
【図3】本発明の実施例2の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとピリジンとの組成比率1:3(モル比)から成る分子化合物の1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)を示す図である。
【図4】本発明の実施例2の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとN,N−ジメチルホルムアミドとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物の1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)を示す図である。
【図5】本発明の実施例2の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとピリジンとの組成比率1:3(モル比)から成る分子化合物の熱分析(TG/DTA)チャートを示す図である。
【図6】本発明の実施例2の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとN,N−ジメチルホルムアミドとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物の熱分析(TG/DTA)チャートを示す図である。
【図7】本発明の実施例2の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとピリジンとの組成比率1:3(モル比)から成る分子化合物の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】本発明の実施例2の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンとN,N−ジメチルホルムアミドとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図9】本発明の実施例1の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図10】本発明の実施例3の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物の1H−NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド−d6溶媒使用)を示す図である。
【図11】本発明の実施例3の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物の熱分析(TG/DTA)チャートを示す図である。
【図12】本発明の実施例3の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと1,4−ジオキサンとの組成比率1:1(モル比)から成る分子化合物の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図13】本発明の実施例4の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと2価の銅イオンから成る配位化合物の赤外吸収スペクトル(KBr法)を示す図である。
【図14】本発明の実施例4の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと2価の亜鉛イオンから成る配位化合物の赤外吸収スペクトル(KBr法)を示す図である。
【図15】本発明の実施例4の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと2価の銅イオンから成る配位化合物の熱分析(TG/DTA)チャートを示す図である。
【図16】本発明の実施例4の1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタンと2価の亜鉛イオンから成る配位化合物の熱分析(TG/DTA)チャートを示す図である。
Claims (6)
- 請求項1記載の一般式(I)又は一般式(II)で表されるカルボン酸誘導体からなる、包接化合物形成用ホスト化合物。
- 請求項1記載の一般式(I)又は一般式(II)で表されるカルボン酸誘導体が、請求項2記載の一般式(III)又は一般式(IV)で表されるカルボン酸誘導体であることを特徴とする請求項3記載の包接化合物形成用ホスト化合物。
- 一般式(I)
- 請求項1記載の一般式(I)又は一般式(II)で表され、それら式中のR9〜R12及びR21〜R24が水素原子又はアルカリ金属であるカルボン酸誘導体であることを特徴とする配位化合物形成用配位子。
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