つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両の構成例を、図2に基づいて説明する。この図2には、ベルト式無段変速機1を搭載した車両Veが示されているとともに、車両Veの制御系統が示されている。ベルト式無段変速機1においては、駆動プーリ(プライマリプーリ)2と従動プーリ(セカンダリプーリ)3とが、それぞれの中心軸線を互いに平行にして所定の間隔を空けて配置されている。その駆動プーリ2は、無端状のベルト4を巻き掛けるいわゆるV溝の幅を変更できるようになっており、駆動プーリ2は、プライマリシャフト30と一体回転し、かつ、軸線方向には固定された固定プーリ片5と、プライマリシャフト30と一体回転し、かつ、軸線方向に動作可能に構成された可動プーリ片6とを有している。その可動プーリ片6の背面側に、可動プーリ片6を軸線方向に動作させるための油圧アクチュエータ7が設けられている。油圧アクチュエータ7は、可動プーリ片6に軸線方向の推力を与える油圧室31を有している。そして、これら固定プーリ片5と可動プーリ片6との対向面が、テーパ角の一定なテーパ面となっていて、これらのテーパ面によって前記V溝が形成されている。
前記従動プーリ3は、セカンダリシャフト32と一体回転し、かつ、軸線方向には固定された固定プーリ片8と、セカンダリシャフト32と一体回転し、かつ、軸線方向に動作可能な可動プーリ片9とを有している。そして、これら固定プーリ片8と可動プーリ片9との対向面が、テーパ角の一定なテーパ面となっていて、これらのテーパ面によってV溝が形成されている。さらに、可動プーリ片9の背面側に、可動プーリ片9を軸線方向に動作させるための油圧アクチュエータ10が設けられている。油圧アクチュエータ10は、可動プーリ片9に軸線方向の推力を与える油圧室33を有している。
このベルト式無段変速機1の駆動プーリ2が、発進クラッチやトルクコンバータなどを介して、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源(原動機)11に連結されている。ここで、エンジンとしては、内燃機関および外燃機関が挙げられるが、この実施例では、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられている場合について説明する。以下、動力源11に代えてエンジン11と記す。また、セカンダリシャフト32が、デファレンシャル(図示せず)あるいはプロペラシャフト(図示せず)などを介して駆動輪36に連結されている。
上記のベルト4は、各プーリ2,3のV溝に挟み込まれる形状の多数の金属片を環状に配列し、それらの金属片をフープと称される環状の金属バンドによって結束して構成されている。したがって、ベルト4の全長はフープによって制限されるから、各プーリ2,3によってベルト4を挟み付けると、V溝の傾斜面(テーパ面)によってベルト4を半径方向で外側に押し出す向きの力が作用し、その結果、ベルト4に張力が加えられるとともに、ベルト4と各プーリ2,3との接触圧力が発生し、その接触圧力と摩擦係数とで決まる摩擦力によって、ベルト4と各プーリ2,3との間でトルクが伝達される。このようにベルト4を挟み付ける圧力が挟圧力であって、例えば、従動プーリ3側の油圧アクチュエータ10の油圧室33の油圧に応じて挟圧力が制御される。
これに対していずれか一方のプーリにおいてベルト4を挟み付ける圧力が相対的に増大し、あるいは低下すると、ベルト4の張力に抗してベルト4が当該一方のプーリで半径方向で外側に押し出され、あるいは反対に半径方向で内側に入り込み、同時に他方のプーリではベルト4が半径方向で内側に入り込み、あるいは半径方向で外側に押し出される。このような巻き掛け半径の変更が変速の実行であり、例えば、駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31に供給される圧油の流量を制御することにより、変速比が制御される。
以下、駆動プーリ2の溝幅を変化させて、ベルト4の各プーリ2,3に対する巻き掛け半径を変更することにより、ベルト式無段変速機1の変速比を制御するように構成されているものとして説明する。このベルト式無段変速機1の変速比を制御するための油圧制御回路(以下、制御装置と記す)34について説明すると、駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31には、油路35を介在させて、アップシフト制御弁12およびダウンシフト制御弁13が並列に接続されている。
そのアップシフト制御弁12は、駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31に対する圧油の供給を制御するバルブであって、ソレノイドバルブ14から出力される信号圧によって動作するように構成されている。具体的に説明すると、アップシフト制御弁12は、装置の全体の元圧であるライン圧PL、もしくは、ライン圧PLの補正圧が供給される入力ポート15と、前記油路35に接続され、かつ、入力ポート15に選択的に連通される出力ポート16と、デューティ比に応じた信号圧がソレノイドバルブ14から加えられることにより、図示しない弁体を動作させる信号圧ポート17とを備えている。なお、符号18はスプリングであって、信号圧に対抗する方向に弾性力を、弁体に対して付与するように配置されている。したがって、ソレノイドバルブ14におけるデューティ比に応じて、油圧アクチュエータ7の油圧室31に圧油が供給されるようになっている。
また、ダウンシフト制御弁13は、油圧アクチュエータ7の油圧室31から圧油を排出する制御を実行するためのバルブであって、ソレノイドバルブ19から出力される信号圧によって動作するように構成されている。具体的に説明すると、ダウンシフト制御弁13は、油路35に接続された入力ポート20と、その入力ポート20に選択的に連通されるドレインポート21と、デューティ比に応じた信号圧がソレノイドバルブ19から加えられることにより、図示しない弁体を動作させる信号圧ポート22とを備えている。なお、符号23はスプリングであって、信号圧に対抗する方向の弾性力を弁体に対して付与するように配置されている。したがって、ソレノイドバルブ19におけるデューティ比に応じて、油圧アクチュエータ7の油圧室31から圧油が排出されるようになっている。なお、油圧制御回路34は、油圧室33の油圧を制御する油路(図示せず)およびソレノイドバルブ(図示せず)などを有している。
そして、変速を制御する機能を有する電子制御装置(ECU)24が設けられている。この電子制御装置24は、マイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、電子制御装置24には、アクセル開度、車速、ベルト式無段変速機1の入力回転数および出力回転数、エンジン回転数、エンジン11の冷却水温、油圧制御装置34の油温、アイドルスイッチなどの信号が入力される。そして、電子制御装置24においては、アクセル開度や車速、エンジン回転数などの入力データと、予め記憶しているデータなどとに基づいて演算を行って変速を判断するとともに、その変速判断に基づいて、ソレノイドバルブ14,19の通電状態を制御するためのデューティ比などを演算し、そのデューティ比に応じた制御信号を出力するように構成されている。また、この電子制御装置24は、油圧室33の油圧を制御するソレノイドバルブなどを制御することにより、前記従動プーリ3がベルト4を挟み付けてベルト式無段変速機1における伝達トルク容量を設定する挟圧力を制御するように構成されている。
したがって、上記のベルト式無段変速機1は、アクセル開度や車速などの車両の走行状態に基づいて目標変速比あるいは目標入力回転数(エンジン11もしくは駆動プーリ2の目標回転数)が設定され、実変速比や実入力回転数がその目標値に一致するように、電子制御装置24が制御信号をいずれかのソレノイドバルブ14,19に出力するように構成されている。そして、いずれかのソレノイドバルブ14,19が、入力されたデューティ比に応じた信号圧を出力することにより、アップシフト制御弁12から駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7に圧油が供給されてアップシフトが実行され、あるいはその油圧アクチュエータ7からダウンシフト制御弁13を介して圧油が排出させられてダウンシフトが実行される。
上記のアップシフトおよびダウンシフトの変速制御に際しては、フィードバック制御およびフィードフォワード制御を組み合わせて実行可能である。フィードバック制御は、目標入力回転数や目標変速比などの目標値と、実際の入力回転数や変速比などの実際値との偏差を求め、その偏差を小さく(少なく)するように、実際の入力回転数や変速比などの実際値を制御することである。これに対して、フィードフォワード制御は、油圧室31におけるオイルの供給量・排出量と、入力回転数や変速比との対応関係をモデルベースに基づいてデータ化しておき、そのモデルベース化されたオイル量と変速比もしくは入力回転数との関係に基づいて、実入力回転数や実変速比が、目標入力回転数や目標変速比となるように、油圧室31におけるオイルの供給・排出量を制御することである。このフィードフォワード制御およびフィードバック制御に用いる制御量は、目標とする変速を達成するための制御指令信号であって、具体的には前記いずれかのソレノイドバルブ14,19に出力するデューティ比(%)である。
図3は、その変速制御の基本的な内容を説明するためのフローチャートであって、先ず、フィードフォワード(FF)制御用の目標入力回転数NINTSTAが算出される(ステップS100)。この目標入力回転数NINTSTAは、例えば、基本目標入力回転数NINCを1次なまし処理して算出する。この基本目標入力回転数NINCは、エンジン11とベルト式無段変速機1とを協調制御する際に、アクセル開度と車速とに基づいて算出することが可能である。より具体的には、アクセル開度とその時点の車速とに基づいて要求駆動力が求められる。これは、例えば予め用意したマップから求められる。その要求駆動力と車速とからエンジン11の要求出力が算出され、その要求出力を最小の燃費で出力するエンジン回転数が、マップを使用して求められる。こうして求められたエンジン回転数に対応するベルト式無段変速機1の入力回転数が、基本目標入力回転数NINCである。なお、エンジン11の負荷は、上記の目標出力とエンジン回転数とに基づいて算出され、その目標出力を達成するようにエンジン11のスロットル開度が制御される。
このステップS100についで、フィードバック(FB)制御用の目標入力回転数NINTを算出する(ステップS101)。このステップS101においては、目標入力回転数NINTとして、前述の目標入力回転数NINTSTA、または、目標入力回転数NINTSTAに対する制御の応答遅れを考慮した目標入力回転数NINTNFFのいずれかを、選択的に用いることが可能である。ここで、目標入力回転数NINTNFFは、例えば、次式により算出される。
NINTNFF(i)=NINTNFF(i−1)+{NINTSTA(i−K1)−
NINTNFF(i−1)}×K2
上記の式において、「(i)」は、制御ルーチンの実行周期における(i)番目の周期、つまり「今回」を意味し、「(i−1)」は前回を意味する。また、「K1」は、無駄時間に相当する係数もしくは補正値であり、「K2」は、なまし量を決定する時定数もしくは補正値である。さらに、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを切り替える判断は、フィードフォワード制御が禁止されているか否かによりおこなわれる。具体的には、フィードフォワード制御が禁止されている場合は、目標入力回転数NINTSTAが選択され、フィードフォワード制御が許可されている場合は、目標入力回転数NINTNFFが選択される。なお、フィードフォワード制御が禁止される条件としては、冷却水温が所定温度以下である場合、または、アクセルペダルが急激に戻されてアイドルオンになる場合などが挙げられる。例えば、冷却水温もしくは油温が所定温度以下である場合は、油圧制御装置34の作動油の粘度が高く、変速比と、オイルの供給・排出量を制御する制御量(デューティ比)との対応関係が、モデルベースの対応関係と一致しない場合があり、変速制御の精度が低下するからである。このような理由により、冷却水温もしくは油温に基づいて、フィードフォワード制御の禁止・許可を判断している。また、アクセルペダルが急激に戻されてアイドルオンになる場合は、車両Veが惰力走行状態となり、車両Veの運動エネルギに対応するトルクが、車輪36からセカンダリシャフト32を経由してプライマリシャフト30に伝達されることになる。その結果、ベルト式無段変速機1の変速比と、デューティ比との実際の対応関係が、モデルベースにおける対応関係とは異なったものになる可能性があり、制御精度が低下するため、フィードフォワード制御が禁止される。
上記のステップS101についで、実出力回転数NOUTのなまし補正回転数(遅れ補正なまし値)NOUTHOが算出される(ステップS102)。実出力回転数NOUTは、適宜のセンサによって検出されており、これをフィルタ処理することによりなまし補正回転数NOUTHOが求められる。なお、このなまし処理(フィルタ処理)は、検出信号に含まれるノイズ(外乱成分)を除去するための処理であるが、そのノイズの要因や程度は必ずしも一律ではないので、なまし係数(フィルタ処理の係数)はノイズあるいは外乱の要因や程度に応じて変更することが好ましい。
ついで、そのなまし補正回転数NOUTHOを利用して目標変速比RATIOTが算出される(ステップS103)。すなわち、変速比は駆動プーリ2の回転数と従動プーリ3の回転数との比であるから、目標変速比RATIOTが、上述した目標入力回転数NINTSTAと実出力回転数NOUTのなまし補正回転数NOUTHOとの比として算出される。
図2に示すベルト式無段変速機1は、各プーリ2,3に対するベルト4の巻き掛け半径に応じて変速比が設定されるから、目標変速比RATIOTを達成するための可動プーリ片6の位置WDXが算出される(ステップS104)。ここで、位置WDXとは軸線方向における位置を意味する。すなわち変速比と可動プーリ片6の位置WDXとは、プーリの形状に基づいて幾何学的に定まるので、目標変速比RATIOTと可動プーリ片6の位置WDXとの関係を予めマップとして用意しておき、そのマップと目標変速比RATIOTとから可動プーリ片6の位置WDXが求められる。
前述した目標入力回転数NINTSTAは、最終的に到達するべき回転数として設定されるのではなく、時々刻々の目標値として設定されるから、それに基づく前記目標変速比RATIOTも時々刻々変化する値として算出される。したがって可動プーリ片6の位置WDXは時間毎の位置として求められる。したがって次のステップS105では、所定時間の可動プーリ片6の移動量DXTが算出される。これは、可動プーリ片6の位置WDXの移動平均として求めることができる。
次に、目標変速比RATIOTの変化量を達成するための上記の所定時間の可動プーリ片6の移動量DXTを実現するのに要する駆動プーリ2の油圧アクチュエータ7に対する圧油の流量値QINが算出される(ステップS106)。要は、その油圧アクチュエータ7におけるピストン(図示せず)の受圧面積と、可動プーリ片6の移動量DXTとの積である。
駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31に対する圧油の給排の制御は、図2に示すソレノイドバルブ14,19をデューティ制御することによって行われるが、そのデューティ比に応じた圧油の流量は、その流入口と流出口との差圧に関係するので、先ず、その差圧(駆動プーリ2におけるオイルの流入出差圧)SAATUが算出される(ステップS107)。これは、所定のモデルに基づく制御で得られたデータを用いればよい。また、このステップS107においては、目標変速比と実際の変速比との偏差から変速速度を求め、その変速速度に応じた流量で、変速に必要な油圧室31の油圧が求められる。そして、この差圧SAATUと前記流量値QINとの関係を示すマップ、および変速に必要な油圧室31の油圧に基づいて、フィードフォワード制御での制御量(FF制御量)DQSCFFTが算出される(ステップS108)。
なお、軸線方向における駆動プーリ2の目標位置と、実際の位置との偏差を解消するためのフィードバック制御も併せて実行されるので、その偏差とフィードバックゲインとに基づくいわゆるフィードバック制御量(FB制御量)DQSCFBが算出される(ステップS109)。そして、これらの算出された制御量DQSCFFTおよび制御量DQSCFBに基づいて、変速出力制御量(具体的には前記ソレノイドバルブ14,19のデューティ比)が算出される(ステップS110)。
このように、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを組み合わせ、かつ、並行して実行する。ところで、フィードフォワード制御の制御量、つまり、ソレノイドバルブ14,19のデューティ比は、基本的には図3のようにして求めることが可能であるとともに、図3のステップS101で述べたように、フィードフォワード制御が許可されている場合と、フィードフォワード制御が禁止されている場合とでは、選択される目標入力回転数の特性が異なる。ところで、冷却水温や油温に基づいて、特性が異なる目標入力回転数同士を相互に切り替える場合のように、エンジントルクが変動しない状況で、目標入力回転数を段階的に変化させると、駆動力が急激に変化してショックとして体感される可能性がある。そこで、この実施例では、目標入力回転数の切り替えに際して、図1に示すような制御を実行することにより、上記のショックを抑制している。つまり、この図1のフローチャートは、エンジントルクが変動しないような条件下で、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを切り替える場合に実行される。
この図1のフローチャートは、請求項1の発明に対応している。まず、フィードフォワード制御が許可から禁止、または禁止から許可に切り換えられて、前述した目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを相互に切り替える条件、つまり、目標入力回転数NINTを徐変する条件が成立したか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1で否定的に判断された場合は、フィードフォワード制御が許可されているか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2で肯定的に判断された場合は、目標入力回転数(NINT)として目標入力回転数(NINTNFF)を選択し(ステップS3)、図1の制御ルーチンを終了する。これに対して、ステップS2で否定的に判断された場合は、目標入力回転数(NINT)として目標入力回転数(NINTSTA)を選択し(ステップS4)、図1の制御ルーチンを終了する。
一方、前記ステップS1で肯定的に判断された場合は、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを相互に切り替える途中におけるフィードフォワード制御の実制御量DSFTNFFが求められる(ステップS5)。この実制御量DSFTNFFは、目標入力回転数NINTSTAを達成するためのフィードフォワード制御の目標制御量DQSCFFTから求められる。このステップS5についで、目標入力回転数NINTSTAと、目標入力回転数NINTNFFとを切り替える途中における目標入力回転数NINTの徐変割合SWPRATEが求められる(ステップS6)。このステップS6においては、条件に応じて、下記の式(1)または式(2)を用いる。
SWPRATE=DSFTNFF/DQSCFFT ・・・(1)
SWPRATE=DSFTNFF/DQSCFFT(0) ・・・(2)
すなわち、フィードフォワード制御の禁止から許可に変更される場合は式(1)が用いられ、フィードフォワード制御の許可から禁止に変更される場合は式(2)が用いられる。この実施例では、目標入力回転数NINTの徐変割合SWPRATEは、零ないし1の範囲に設定される。また、式(1)において、
DQSCFFT=0
の場合は、
SWPRATE=1
に設定される。これは、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとが略一致しており、目標制御量DQSCFFTが零であるため、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを、徐変をおこなうことなく、直接切り替えてもショックが殆ど生じないからである。
また、式(2)において、
DQSCFFT(0)=0
の場合は、
SWPRATE=0
に設定される。
このステップS6についで、徐変される目標入力回転数NINTが算出され(ステップS7)、図1の制御ルーチンを終了する。このステップS7においては、フィードフォワード制御が許可から禁止に変更される場合、またはフィードフォワード制御が禁止から許可に変更される場合のいずれにおいても、下記の式(3)が用いられる。
NINT=NINTSTA−(NINTSTA−NINTNFF)×SWPRATE
・・・(3)
ここで、フィードバック制御用の目標入力回転数NINTとして、目標入力回転数NINTSTAと、目標入力回転数NINTNFFとを選択的に切替える場合のタイムチャートの一例を、図4に基づいて説明する。なお、ここでは目標入力回転数NINTSTAの方が目標入力回転数NINTNFFよりも高回転数となっている。
そして、時刻t1以前においては、フィードフォワード制御が禁止されており、フィードバック制御用の目標入力回転数NINTとして、目標入力回転数NINTSTAが選択されている。フィードフォワード制御が禁止されているため、フィードフォワード制御項(FF項)は零%であり、フィードバック制御項(FB項)は零%を越える正(+)側の所定値に制御されている。また、ステップS110で述べた変速出力制御量(出力項)も、零%を越える所定のデューティ比に制御されている。なお、実入力回転数NINは、目標入力回転数NINTSTAに沿って推移している。また、図4において、フィードバック制御項および変速制御項において、正(+)側が変速比を大きくする(ダウンシフト)制御量であり、負(−)側が、変速比を小さくする(アップシフト)制御量である。なお、変速比を制御するソレノイドバルブ14,19が、ノーマルオープン形式のソレノイドバルブか、ノーマルクローズ形式のソレノイドバルブかにより、正側と負側とが逆になる。
まず、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更する場合に、実施例のような徐変制御をおこなわない比較例について説明する。この比較例においては、目標入力回転数NINTが、時刻t1で目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに、破線で示すように急激に変更される。
すると、破線で示す実入力回転数NINと、目標入力回転数NINTNFFとの差が急激に大きくなり、フィードバック制御項(FB項)が破線で示すように急激に変動するとともに、変速制御量(出力項)も破線で示すように正(+)側で急激に変化する。さらに、実入力回転数NINが破線で示すように、目標入力回転数NINTNFF未満になるオーバーシュート現象が生じる可能性がある。そして、時刻t3で実入力回転数NINが目標入力回転数NINTNFFと一致するとともに、フィードバック制御項が零となり、かつ、変速制御量が、零%よりも高い一定のデューティ比に制御されている。このように、比較例においては、エンジントルクが変動しない条件において、時刻t1から時刻t3の間、変速制御量が大きく変動しており、ベルト式無段変速機1の変速比が急激に変化して駆動力が急変し、ショックを生じる可能性がある。
つぎに、この実施例の制御を、図4に基づいて説明する。時刻t1でフィードフォワード制御の禁止から許可に変更されると、フィードバック制御用の目標入力回転数NINTが、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更される。すると、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更するための目標制御量DQSCFFTが求められ、フィードフォワード制御項を、零%から目標制御量DQSCFFTに変更するために、徐変割合SWPRATEが求められ、その徐変割合SWPRATEに応じた勾配で、フィードフォワード制御項および目標入力回転数NINTが制御される。
上記の制御により、時刻t1以降、実入力回転数NINが、目標入力回転数NINTに対して所定の遅れをもって推移する。このため、時刻t1以降、フィードバック制御項が零%に近づくように推移している。ついで、時刻t2において、フィードフォワード制御の実制御量DSFTNFFが、フィードフォワード制御の目標制御量DQSCFFTに到達すると、徐変割合が「1」となる。つまり、目標入力回転数NINTが、目標入力回転数NINTNFFに到達して目標入力回転数NINTの徐変が終了する。一方、フィードバック制御項も時刻t2で零%となっている。このように、時刻t1から時刻t2の間、フィードフォワード制御項が所定の勾配で増加し、フィードバック制御項が同じ勾配で減少している。このため、フィードフォワード制御項とフィードバック制御項とが相殺されて、時刻t1から時刻t2の間、変速出力制御量は正側で略一定となっている。
なお、時刻t2の後、実入力回転数NINが目標入力回転数NINTNFFと一致する。また、特に図示しないが、フィードフォワード制御が許可から禁止に変更されて、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTNFFから目標入力回転数NINTSTAに変更する場合も、目標入力回転数NINTの徐変を実行することが可能である。この場合は、徐変割合が、「1」から零%に向けて緩やかな勾配で変化し、かつ、フィードフォワード制御項が、正(+)側の目標制御量DQSCFFTから零%まで緩やかな勾配で制御される。したがって、目標入力回転数NINTの変更過程(図4ではアップシフト過程)における変速制御量の変動を抑制できる。
以上のように、この実施例においては、エンジントルクが変動しない条件において、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTNFFと目標入力回転数NINTSTAとで切り替える場合に、目標入力回転数NINTの徐変を実行するため、目標入力回転数NINTの変更過程で、実入力回転数NINと目標入力回転数NINTとの差が増加することを抑制できるため、変速制御量の変動を抑制できる。したがって、ベルト式無段変速機1の変速比が急激に変化して、駆動力が急激に変化すること、すなわちショックの発生を抑制できる。
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS2,S3,S4が、この発明の目標入力回転数算出手段に相当し、ステップS5,S6,S7が、この発明の目標入力回転数変更手段に相当する。また、この実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、駆動プーリ2が、この発明の入力側プーリに相当し、従動プーリ3が、この発明の出力側プーリに相当し、油圧室31,33が、この発明の油圧室に相当し、目標入力回転数NINTが、この発明の目標入力回転数に相当し、基本目標入力回転数NINCが、この発明の基本目標入力回転数に相当し、目標入力回転数NINTSTAが、この発明の第1の目標入力回転数に相当し、目標入力回転数NINTNFFが、この発明の第2の目標入力回転数に相当する。
つぎに、請求項2の発明に対応する制御例を、図5のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS21において、オフアップ判定が成立したか否かが判断される。ここで、「アクセルペダルが踏まれた状態から、アイドルスイッチがオンする状態まで、即座に戻されて、ベルト式無段変速機1でアップシフトが生じること。」がオフアップである。このステップS21で否定的に判断された場合は、ステップS22の処理を実行する。このステップS22の処理は、図3のステップS100の処理と同じである。ステップS22についで、ステップS23の処理が実行される。このステップS23の処理は、図3のステップS108の処理と同じである。このステップS23についで、ステップS24の処理が実行される。このステップS24の処理は、図1のステップS5の処理と同じである。ステップS24についで、応答遅れを考慮した目標入力回転数NINTNFFが算出される。これは、図3のステップS101と同じ方法で求められる。
ステップS25についで、目標入力回転数NINTを徐変する条件が成立しているか否かが判断される(ステップS26)。このステップS26の判断は、図1のステップS1の判断と同じである。ステップS26で否定的に判断された場合は、フィードフォワード制御が許可されているか否かが判断される(ステップS27)。このステップS27で肯定的に判断された場合は、ステップS28の処理をおこなう。このステップS28の処理は、図1のステップS3の処理と同じである。これに対して、ステップS27で否定的に判断された場合は、フィードフォワード制御の実制御量DSFTNFFが零%に制御される(ステップS29)。このステップS29についで、ステップS30の処理がおこなわれる。このステップS30の処理は、図1のステップS4の処理と同じである。
一方、前記ステップS26で肯定的に判断された場合は、ステップS31の処理がおこなわれる。このステップS31の処理は、図1のステップS6の処理と同じである。このステップS31についで、ステップS32の処理がおこなわれる。このステップS32の処理は、図1のステップS7の処理と同じである。このステップS32の後、または前記ステップS28の後、または前記ステップS30の後、ステップS33の処理が実行される。このステップS33の処理は、図3のステップS109の処理と同じである。このステップS33についで、ステップS34の処理が実行され、この制御ルーチンを終了する。このステップS34においては、フィードフォワード制御の実制御量DSFTNFFと、フィードバック制御量DQSCFBとに基づいて、最終の変速制御量が求められる。
ところで、ステップS21で肯定的に判断されて車両Veが惰力走行する場合は、フィードフォワード制御の許可から禁止に変更される。そこで、ステップS21で肯定的に判断された場合は、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTNFFから目標入力回転数NINTSTAに変更するにあたり、目標入力回転数NINTOFUを、目標入力回転数NINTSTAに代入する(ステップS35)。この目標入力回転数NINTOFUの特性については後述する。このステップS35についで、フィードフォワード制御の実制御量DSFTNFFが零%に制御され(ステップS36)、ステップS25に進む。
つぎに、図5の制御例に対応するタイムチャートの一例を図6に基づいて説明する。図6のタイムチャートは、フィードフォワード制御の実行が、許可から禁止に変更される場合を示している。まず、時刻t1以前においては、アクセルペダルが踏み込まれており、かつ、フィードフォワード制御の実行が許可されている。この時刻t1以前においては、フィードバック制御用の目標入力回転数NINTとして、太い実線で示す目標入力回転数NINTNFFが選択されており、実入力回転数NINが目標入力回転数NINTNFFとほぼ一致して推移している。この目標入力回転数NINTNFFは、時刻t1以前では上昇傾向にある。さらに、時刻t1以前においては、破線で示す目標入力回転数NINTSTAは、目標入力回転数NINTNFFよりも高回転数になっている。
一方、時刻t1以前において、フィードフォワード制御の実制御量DSFTNFFは、フィードフォワード制御の目標制御量DQSCFFTと一致している。また、時刻t1以前において、実入力回転数NINが目標入力回転数NINTNFFとほぼ一致して推移しているため、フィードバック制御量は零%に制御されている。このため、時刻t1以前において、変速制御量(出力項)は、正(+)側の所定値で略一定に制御されており、車両Veの前後加速度(前後G)は、正(+)側の所定値で実線で示すように、略一定に推移している。
ついで、時刻t1でアクセルペダルが素速く戻され、かつ、アイドルスイッチがオンされると、フィードフォワード制御の実行が、許可から禁止に変更されて、フィードフォワード制御項が零%に制御される。また、時刻t1において、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTNFFから、実線で示す目標入力回転数NINTSTAに変更する制御が実行される。ここで選択される目標入力回転数NINTSTAは、具体的には、オフアップ判定が成立した場合に選択される目標入力回転数NINTOFUである。この目標入力回転数NINTOFUは、時刻t1で急激に低下され、かつ、一点鎖線で示す目標入力回転数NINTNFFよりも低回転数になる特性を有しているとともに、時刻t1以降は、所定の勾配で緩やかに低下する特性を備えている。
時刻t1以降、このような目標入力回転数NINTの変更がおこなわれると、実入力回転数NINも細い実線で示すように低下する。この実入力回転数NINは、目標入力回転数NINTOFUに対して所定の遅れをもって低下するため、時刻t1以降、フィードバック制御量が、零%から負(−)側の所定値に制御されるとともに、変速制御量は、時刻t1以降、実線で示すように、正側の所定値から負側に変更され、その負側の所定値で推移する。また、時刻t1以降、車両Veの前後加速度は正側から負(−)側に変化し、その後は、負側で緩やかに増加している。そして、目標入力回転数NINTOFUと実入力回転数NINとの差が少なくなることにともない、フィードバック制御項および変速制御項が、負側で零%に近づけるように制御され、時刻t2以降で目標入力回転数NINTOFUと実入力回転数NINとが略一致すると、フィードバック制御項および変速制御項が、共に零%に制御される。
このように、図5の制御例では、アクセルペダルが戻されて、エンジントルクが変動(低下)することに並行して、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTNFFから目標入力回転数NINTSTAに変更する場合において、選択される目標入力回転数NINTOFUは、目標入力回転数NINTNFFよりも低回転数まで急激に低下する。この低下された目標入力回転数NINTOFUは、時刻t1から所定時間が経過して時刻t3になった時点における目標入力回転数NINTOFUよりも高回転数である。これは、エンジントルクの変化に追従するように、ベルト式無段変速機1のアップシフト速度を制御するためである。なお、時刻t1における目標入力回転数NINTOFUの低下量は、例えば、車速、アクセル開度、変速比などをパラメータとするマップから求めることが可能である。このように、時刻t1以降で目標入力回転数NINTを低下させる制御を実行する、つまり、ベルト式無段変速機1でアップシフトを実行することにより、「変速比が大きくなってエンジンブレーキ力が急激に増加すること」を抑制できる。したがって、エンジントルクの変動に伴う車両Veの減速ショックを抑制することができる。また、目標入力回転数NINTOFUは、時刻t1で急激に低下した後、緩やかに低下する特性を有しているため、「急激に変速比が小さくなって加速ショックが生じること」を抑制することができる。
このように、図5の制御例では、ステップS21で肯定的に判断される場合のように、エンジントルクが変化する状況で、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを切り替える場合は、前述した目標入力回転数NINTの徐変制御がおこなわれない。これに対して、ステップS21で肯定的に判断された場合においても、目標入力回転数NINTの徐変制御をおこなう場合の比較例を、図6のタイムチャートに基づいて説明する。この比較例において、時刻t1以前の各パラメータの状態は、実施例と同じであるものとする。この比較例においては、時刻t1以降、目標入力回転数NINTが徐々に低下される。例えば、図6に二点鎖線で示すように、時刻t2で前述した目標入力回転数NINTOFUような推移で徐変される。
すなわち、比較例における徐変割合は、「1」から零に近づけられるとともに、フィードフォワード制御の目標制御量DQSCFFTから、破線で示すような勾配で零%まで低下される。このため、比較例では、目標入力回転数NINTと実入力回転数NINとの偏差が小さくなり、比較例におけるフィードバック制御項は破線で示すように、負側の零%に近い領域で変化するとともに、変速制御項は破線で示すように、正側で零%に近づくように変化する。このような制御が実行される比較例においては、エンジントルクの低下に対して、アップシフト速度が追従できないため、エンジンブレーキ力が急激に強められて、車両の前後加速度が、破線で示すように負側で急激に増減する。すなわち、急減速によるショックが生じる。なお、図5のステップS21において、加速要求が低下しているか否かを、手動操作されるレバーやスイッチにより判断することも可能である。
ここで、図5に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS27,S28,S29,S30が、この発明の目標入力回転数算出手段に相当し、ステップS31,S32が、この発明の目標入力回転数変更手段に相当する。また、ステップS21,S35,S36が、この発明の徐変禁止手段に相当する。また、ステップS21で肯定的に判断される場合が、この発明における「車両における加速要求が減少して」に相当する。また、請求項2の発明において、「徐変を禁止する」とは、「常時、徐変することを禁止する」という意味であり、図6に示す目標入力回転数NINTOFUの特性は、請求項2に記載された発明に含まれる。
なお、従動プーリ3の油圧室33に供給・排出されるオイル量を制御することにより、ベルト式無段変速機1の変速比を制御することが可能に構成されているとともに、油圧室31の油圧を制御するソレノイドバルブなどを制御することにより、前記駆動プーリ2がベルト4を挟み付けてベルト式無段変速機1における伝達トルク容量を設定する挟圧力を制御するように構成されている車両についても、図1および図3および図5の制御例を実行可能である。この場合は、油圧室33のオイル量を制御するソレノイドバルブ(図示せず)のデューティ比を、図1および図3および図5の制御によりフィードバック制御およびフィードフォワード制御することが可能であり、各図の制御と同様の効果を得られる。