JP4557161B2 - 繊維の改質方法 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維の改質方法に関するものである。
従来、繊維に毛羽立ちを防止し、引張り強度及び耐摩耗性の向上、制電性又は吸水性の付与、さらさら感等、繊維の風合いを出す目的で、繊維にビスコースを付着させた後、凝固・再生し、その後、水洗、乾燥して繊維の表面を再生セルロースで被覆するギマ加工と呼ばれる方法が提案されている。
しかし、ビスコース由来の再生セルロースで被覆する繊維改質方法は、セルロースを毒性の強い二硫化炭素で変成することによって作られるセルロースザンテートが苛性ソーダ水溶液に溶かされた溶液、つまりビスコースを繊維に付着させた後、セルロースを凝固・再生する工程を含むため、セルロースザンテートの製造工程及び凝固・再生工程において、製造従事者が二硫化炭素の暴露を受ける問題がある。また、この繊維改質方法では、被覆された再生セルロース自体の吸水性が不十分なため、制電性、吸水性、防縮性等の改質効果が十分ではないという問題も残されていた。
更に、ギマ加工ではアルカリ水溶液を用いるため、酸で中和凝固させる工程が必要となる上、アルカリに対する耐性の低い繊維の改質は困難であった。
このようなビスコース由来の再生セルロース被覆による繊維の改質の問題を解決する目的で、セルロースそのものを苛性ソーダ水溶液に溶解して繊維に付着させた後、凝固・再生することにより再生セルロースで繊維の表面を被覆する方法が提案されている(特許文献1:特開昭61−252369号公報参照)。
しかし、この方法では、低温でセルロースを苛性ソーダ水溶液に溶解させる必要がある他、原料であるセルロース自体も木材パルプを酸加水分解し、ボールミルで粉砕したものあるいはビスコース等から造られる再生セルロース等、結晶構造を少なくして溶解性を高めたセルロースを使用する必要があるという制約があった。
特開昭61−252369号公報
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、二硫化炭素に基づく毒性の問題がなく、しかも製造工程が簡素で、アルカリに対する耐性の低い繊維の改質も可能であり、毛羽立ちを防止し、引張り強度、耐摩耗性、制電性、吸水性、耐洗濯性に優れた繊維の改質方法を提供することを目的とする。
本発明者らは低置換度のセルロースエーテルを苛性ソーダ等の、典型的には10質量%程度の濃度のアルカリに溶解して繊維に付着させ、凝固再生する方法を提案した(特開2004−218102号公報参照)が、更なる改良を鋭意検討した結果、アルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基によるモル置換度が0.05〜1.3の低置換度セルロースエーテルを水中又はアルカリ濃度が1質量%以下の希アルカリ水溶液中に懸濁分散した後、剪断力をかけて得られた分散液及び架橋剤又は水系樹脂エマルジョンを繊維に付着させ、次いで加熱処理することにより、高濃度のアルカリ水溶液を使用しなくて済むため、酸で中和凝固する工程が要らず、通常苛性ソーダ等の高濃度のアルカリ水溶液を使用するギマ加工では適用困難であったアルカリに対する耐性の低い繊維の改質も可能となった。また、毒性の高い二硫化炭素の問題がなく、毛羽立ちを防止し、引張り強度の向上、耐摩耗性、制電性、吸水性、耐洗濯性に優れた繊維改質加工が可能となることを見出し、本発明をなすに至った。
従って、本発明は、以下の繊維の改質方法を提供する。
請求項1:
アルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基によるモル置換度が0.05〜1.3である水に溶解しない低置換度セルロースエーテルを水中又はアルカリ濃度が1質量%以下の希アルカリ水溶液中に懸濁分散して剪断前分散液を調製し、この剪断前分散液に剪断力をかけて得られた剪断分散液及び架橋剤又は水系樹脂エマルジョンを繊維に付着させた後、加熱処理することを特徴とする繊維の改質方法。
請求項
低置換度セルロースエーテルをアルカリの水溶液に溶解し、このアルカリ溶液を当量又はアルカリ濃度を1質量%以下とする量の酸で中和して低置換度セルロースエーテルを析出させることにより低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液を得る請求項記載の繊維の改質方法。
請求項
剪断力をかけて低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法が、振動ボールミル、コロイドミル、ホモミキサー又はホモジナイザーを用いて、剪断前分散液中の低置換度セルロースエーテルを互いに衝突させるか又は衝突板に衝突させて低置換度セルロースエーテルを摩砕させる方法である請求項1又は2記載の繊維の改質方法。
請求項
剪断力をかけて低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法が、ノズルから70〜250MPaの高圧で噴射させると共に、低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液同士又は低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液と衝突板とを90〜180°の角度で1〜200回衝突させて、低置換度セルロースエーテルの平均粒子長さを1/4以下に粉砕することにより、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得るようにした請求項1又は2記載の繊維の改質方法。
請求項
剪断力をかけて低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法が、低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液に500sec-1以上の剪断力を1〜60回かけて低置換度セルロースエーテルを摩砕分散させることにより、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得るようにした請求項1又は2記載の繊維の改質方法。
請求項
アルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基によるモル置換度が0.05〜1.3である水に溶解しない低置換度セルロースエーテルをアルカリの水溶液に溶解し、このアルカリ溶液をコロイドミルで剪断して低置換度セルロースエーテルを摩砕するか、又はホモジナイザーを用いて低置換度セルロースエーテルを衝突、粉砕させながら、上記アルカリと当量又はアルカリ濃度を1質量%以下とする量の酸で中和して得られた剪断分散液及び架橋剤又は水系樹脂エマルジョンを繊維に付着させた後、加熱処理することを特徴とする繊維の改質方法。
請求項
低置換度セルロースエーテルの剪断分散液中の濃度が0.5〜20質量%であり、ピックアップ率が10〜500質量%である請求項1〜のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
請求項
架橋剤が、イソシアナート系の架橋剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
請求項
水系樹脂エマルジョンが、水系ウレタン樹脂エマルジョン又は反応性オルガノポリシロキサンのO/W型エマルジョンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
請求項10
低置換度セルロースエーテルが、モル置換度0.1〜0.7の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
本発明によれば、二硫化炭素等の有毒な溶媒を使用することなく繊維を改質できるため安全性も高く、製造工程が煩雑ではなく、毛羽立ちを防止し、引張り強度の向上、耐摩耗性、制電性、吸水性、耐洗濯性に優れた改質繊維を得ることができる。また、従来のギマ加工と比較して簡便な方法で改質が可能で、アルカリ耐性の低い繊維の改質も可能となる。
本発明で用いられる繊維は特に制限はないが、具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維等の合成繊維、あるいは綿、セルロース、麻等の天然繊維、羊毛、絹、カシミア等の動物性繊維が例示できる。本発明によれば、アルカリに対して耐性の低い羊毛、絹、カシミア等の獣毛やポリエステルと羊毛の混紡糸にも好適に使用できる。ここで繊維とは、糸状の繊維、糸状の繊維を織った布、あるいは糸状繊維の不織布を含むものである。
本発明における低置換度セルロースエーテルは、セルロースを構成しているグルコース環の水酸基の水素原子をアルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基で置換したセルロースエーテルのうち、モル置換度が0.05〜1.3、好ましくは0.1〜0.7のもので、水には溶解しないが、剪断力をかけて、安定性の高い分散液が得られるものであればよい。上記モル置換度が0.05より低いと剪断力をかけても安定な分散液が得られず、1.3を超えると水への溶解性が増し、耐洗濯性が悪くなる。
このような低置換度セルロースエーテルとしては、例えば、低置換度メチルセルロース、低置換度エチルセルロース等の低置換度アルキルセルロース、低置換度ヒドロキシエチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の低置換度ヒドロキシアルキルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシエチルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシエチルエチルセルロース等の低置換度ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられるが、特に低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
本発明の繊維の改質は、まず上記低置換度セルロースエーテルを水中又はアルカリ濃度が1質量%以下の希アルカリ水溶液中に懸濁分散した後、剪断力をかけて分散した剪断分散液を繊維に塗工又は含浸して付着させ、必要に応じて遠心脱水機、マングル、ナイフコーティング機等を用いて余分な付着液を除去し、その後付着した分散液を乾燥することにより行われる。なお、本発明において、低置換度セルロースエーテルの剪断力をかける前の分散液を剪断前分散液といい、剪断力をかけた後の分散液を剪断分散液という。
低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液を得る方法としては、低置換度セルロースエーテル粒子を水又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリの濃度が1質量%以下、特に0.5質量%以下の希アルカリ水溶液に添加、分散させるようにしてもよい。また、低置換度セルロースエーテルを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリの水溶液(通常、アルカリ濃度2〜25質量%、特に3〜15質量%)に溶解し、これに当量又はアルカリ濃度が1質量%以下の希アルカリ水溶液が得られるように当量より若干少ない量の酸を加えて中和することで低置換度セルロースエーテルを析出させるようにしてもよい。希アルカリ水溶液の場合、羊毛のようなアルカリ耐性の低い繊維にも適応でき、更に低置換度セルロースエーテルがアルカリに可溶であるため、アルカリの存在により、剪断分散液の造膜性の更なる向上が可能である。
水又は希アルカリ水溶液に分散した低置換度セルロースエーテルに剪断力をかけて剪断分散液を得る方法としては、分散した低置換度セルロースエーテル同士を衝突させたり、衝突板に当てたりして摩砕する方法が挙げられる。この低置換度セルロースエーテル同士を衝突させたり、衝突板に当てたりして摩砕して得られる低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を調製する装置としては、特に限定しないが、振動ボールミル、コロイドミル、ホモミキサー、ホモジナイザー等が挙げられる。コロイドミルとしては、増幸産業(株)製のマスコロイダー、セレンディピター等が挙げられる。ホモジナイザーとしては、高圧をもってバルブの隙間から処理液を噴射して低置換度セルロースエーテルを衝突摩擦する三和機械(株)製「ホモジナイザー」、(株)スギノマシーン製「アルティマイザーシステム」、みずほ工業社製「マイクロフルイダイザー」、ゴーリン社製「高圧ホネジナイザー」、超音波の振動を利用した超音波ホモジナイザー、(株)日本精機製作所製「超音波ホモジナイザー」が均一な分散系を調製する上で好ましく使用できる。また、これらの装置で繰り返し処理した剪断分散液も使用できる。
更に、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法としては、特開2002−204951号公報に記載されているように、低置換度セルロースエーテルをアルカリの水溶液(通常、アルカリ濃度2〜25質量%、特に3〜15質量%)に溶解し、アルカリ溶液をコロイドミルで剪断摩砕するか、上記のホモジナイザー類で衝突させ粉砕させながら、使用するアルカリと当量又はアルカリ濃度を1質量%以下とする量の塩酸や硫酸等の酸で中和して分散液を得る方法を採用し得る。
低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る場合、一対のノズルから低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液を噴射して互いに衝突させるか、又は低置換度セルロースエーテルの剪断分散液をノズルから噴射して衝突板に衝突させることが有効であるが、この際、ノズルからの低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液の噴射圧力を70〜250MPaとし、低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液同士の衝突角度又は低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液の衝突板に対する衝突角度を90〜180°、より好ましくは95〜178°、更に好ましくは100〜170°とすることが望ましい。また、衝突回数は1〜200回、特に5〜120回とすることが好ましく、衝突により、低置換度セルロースエーテルの平均粒子長が、衝突前の低置換度セルロースエーテルの平均粒子長の1/4以下、より好ましくは1/5〜1/100、更に好ましくは1/6〜1/50、特に好ましくは1/7〜1/20となるように細かくすることが好ましい。なお、平均粒子長は、偏向顕微鏡又は透過型電子顕微鏡写真を撮り、50以上の粒子の長さ測定結果の平均値として求めることができる。圧力や衝突角度、回数がこの範囲外であると充分な均一分散ができず、低置換度セルロースエーテルの分子量が極端に低下して本発明が目的とする充分な風合い改善効果が得られない場合がある。
低置換度セルロースエーテルを摩砕する方法で分散させる場合は、分散液に500sec-1以上、より好ましくは1,000sec-1以上、更に好ましくは1,500sec-1以上の剪断力がかかるようにして摩砕分散することが好ましい。剪断をかける時間は、繰り返しでも連続でもよいが、充分な摩砕分散ができる回数とし、好ましくは1〜60回、より好ましくは10〜60回である。1回未満では分散の度合いが低く、低置換度セルロースエーテルの成膜性が劣るおそれがある。60回を超えると低置換度セルロースエーテルの重合度が低下して皮膜強度が低下するおそれがある。
一方、この低置換度セルロースエーテルの剪断分散液中での濃度は、0.5〜20質量%、特に1〜10質量%とすることが好ましい。0.5質量%未満では、繊維の風合い改善の効果がなく、20質量%を超えると剪断分散液の粘度が高くなりすぎて繊維に一定量での付着がしにくくなる。
低置換度セルロースエーテルの剪断分散液の塗工は、一本糊付機、ブレードコーター、トランスファーコーター、エアドクターコーター等の塗工機で行うことができ、プレウェット方式、フロート方式、ドクターバー方式等の含浸機を用いて、繊維を剪断分散液に含浸させればよい。塗工作業終了後に100℃前後で乾燥を行えば、本発明が目的とする風合いの改善された繊維を得ることができる。
繊維に対する低置換度セルロースエーテルの剪断分散液の付着量は適宜選定されるが、ピックアップ率、つまり〔低置換度セルロースエーテルの剪断分散液付着質量/繊維基材質量〕×100が、10〜500質量%、特に20〜300質量%とすることが好ましい。ピックアップ率が10質量%未満であると繊維への低置換度セルロースエーテルの被覆率が小さく、繊維の改質効果が十分でないおそれがあり、500質量%を超えると逆に繊維の風合いが悪くなり、通気性やさらさら感等の風合い等の改質効果も添加量に見合う程見られない場合がある。
上述した乾燥により、上記低置換度セルロースエーテルが繊維に固定されるが、本発明においては、上記剪断分散液を繊維に付着させる時に同時に、又は付着させた後に、剪断分散液と共に架橋剤又は水系樹脂エマルジョンを繊維に付着させ、乾燥、加熱して架橋剤の架橋反応を行わせ、又は水系樹脂エマルジョンの硬化皮膜化を行わせ、これにより耐洗濯性を向上させる。この場合、架橋反応及び水系樹脂エマルジョンの硬化皮膜化は加熱工程で進行する。架橋反応及び水系樹脂エマルジョンの硬化皮膜化はいずれも繊維と低置換度セルロースエーテルの付着性を高め、結果として耐洗濯性を向上させる。
本発明で使用される架橋剤としては、低置換度のセルロースエーテルの分子中に残存する水酸基と反応して架橋反応するものであれば、いずれも使用できる。このような架橋剤としては、架橋剤ハンドブック(昭和56年10月20日、大成社発行)に記載の水酸基との反応が行える架橋剤が挙げられる。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール、ジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、炭素数3〜15の脂肪族ジグリシジルエーテル、モノグリシジルエーテル、エポキシアクリレート、ビスフェノールA、ブチルグリシジルエーテルアクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルアクリレート、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルポリアクリレート、テレフタル酸ジグリシジルエステルアクリレート、フタル酸ジグリシジルエステル、スピログリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物や、グリオキザール等のジアルデヒド、尿素ホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド系の架橋剤、トルイジンイソシアナート、2,4−トルイジンイソシアナートの二量体、ナフチレン−1,5−ジイソシアナート、o−トルイジンイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、トリフェニルメタントリイソシアナート、トリス−(p−イソシアナートフェニル)チオホスファイト、ポリメチレンポリフェニルイソシアナート、多官能芳香族イソシアナート、芳香族ポリイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ブロック型ポリイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、エーテル又はウレタン含有ブロック型イソシアナート含有プレポリマー、ポリイソシアナートプレポリマー、ブロックイソシアナート、ポリイソシアナート、二液型用ポリイソシアナート、無黄変性二液型用ポリイソシアナート、熱硬化型ポリイソシアナート等のイソシアナート系の架橋剤、更に、一般式SiR1234(式中、R1は炭素数1又は2のアルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を表す。また、R2、R3及びR4は、それぞれ相互に独立して炭素数1又は2のアルコキシ基又はアシルオキシ基を表す。)で表されるシラン等が挙げられる。
なお、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液中のこれらの架橋剤濃度は、特に制限はないが、1〜30質量%、特に5〜10質量%とすることが好ましい。1質量%未満では、耐洗濯性の向上が不十分となる場合があり、30質量%を超えてもそれに見合うだけの耐洗濯性の向上が見られない場合がある。
耐洗濯性を向上させる目的で行う架橋剤による処理の方法としては、衝突や剪断力をかけて得られた低置換度セルロースエーテル分散液に予め架橋剤を添加し、この分散液を繊維に付着させた後、乾燥し、次いで100〜170℃で加熱して架橋反応させたり、あるいは、低置換度セルロースエーテル分散液を繊維に塗工した後に架橋剤溶液に浸漬させ、遠心脱水機、マングル、ナイフコーティング機等を用いて余分な架橋剤溶液を除いてから乾燥させ、次いで100〜170℃で加熱して架橋反応させ、乾燥させて風合いの改善された繊維を得ることができる。なお、いずれの場合も加熱時間は1〜20分が好ましい。
この場合、架橋剤を含浸しやすくするために、プロピレングリコールやエチレングリコールのアルキルエーテル浸透剤やプロピレングリコールとエチレングリコールのブロック共重合体浸透剤等の界面活性剤類を0.5〜1質量%の割合で架橋剤溶液と共に添加することもできる。
本発明の水系樹脂エマルジョンは、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液が乾燥される過程で、水系樹脂が低置換度セルロースエーテルと共に繊維に固定され、引き続き行われる加熱工程で水系樹脂が硬化皮膜化して、低置換度セルロースエーテルと一体となって、繊維表面に被覆されることにより、耐洗濯性等の繊維物性を向上させる。従って、用いられる水系樹脂エマルジョンは、加熱により硬化皮膜化して、繊維と低置換度セルロースエーテルとの付着性を向上させるものであればよく、繊維の樹脂加工に一般的に使用される水系ウレタン樹脂エマルジョン、水系アクリル樹脂エマルジョン、水系酢酸ビニル樹脂エマルジョン、水系エチレン/酢酸ビニルエマルジョン、水系エポキシ樹脂エマルジョン、反応性オルガノポリシロキサンのO/W型のエマルジョン、SBRラテックス等が挙げられ、特に水系ウレタン樹脂エマルジョン、反応性オルガノポリシロキサンのO/W型のエマルジョンが好適である。
水系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等のポリエーテルとトリレインジイソシアナート、3,3’−ビストリレン−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、3,3−ジメチルジフェニルメタンジイソシアナート、4,4’−ジイソシアナート等のジイソシアナート類の反応から製造される各種エマルジョン等が挙げられる。
反応性オルガノポリシロキサンのO/W型のエマルジョンは、米国特許第4221688号明細書やシリコーンハンドブック 伊藤邦雄編(1990年8月31日、日刊工業新聞社発行)の248〜251頁に記載されているメチルハイドロジェンポリシロキサン、末端水酸基封鎖ジメチルポリシロキサン、ビニル基含有ポリシロキサンや特公平3−67145号公報に記載されている珪素原子に結合する水酸基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン等を水に分散したもの等が挙げられる。また、これらの反応性オルガノポリシロキサンのO/W型のエマルジョンによる架橋反応を促進する触媒としては、スズ、鉛、亜鉛、コバルト、マンガン、クロム、ジルコニウム、チタン、白金等の各種金属塩を用いることも差し支えなく、特に特公昭34−4199号公報記載の酢酸ジルコニウムや特公昭51−9440号公報に記載の塩化第二白金酸等が有用である。これらの触媒の使用量は特に限定されないが、架橋反応の促進が図れるに合理的量として使用する。エマルジョン中の反応性オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.001〜120質量部、0.005〜110質量部が好ましい。O/W型エマルジョンの粒子径としては特に限定しないが、0.01〜100μm、好ましくは0.1〜80μmがエマルジョンとしての安定性の観点から好ましい。
水系樹脂を硬化皮膜化して、低置換度セルロースエーテルと一体となって繊維表面に被覆する方法としては、剪断力をかけて得られた低置換度セルロースエーテル分散液に予め水系樹脂エマルジョンを添加しておき、低置換度セルロースエーテルと水系樹脂を繊維に付着後、加熱して水系樹脂の硬化皮膜を形成したり、あるいは低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を繊維に塗工した後、乾燥し、更にこれを水系樹脂エマルジョンに浸漬して水系樹脂を付着し、これを加熱して硬化皮膜化する方法を採ることができる。この場合、加熱条件は水系樹脂エマルジョン分が硬化皮膜化する条件であればよく、特に80〜150℃、1〜20分間加熱することが好ましい。なお、低置換度セルロースの剪断分散液中の水系樹脂濃度は、特に制限はないが、1〜30質量%、特に5〜10質量%とすることが好ましい。これは1質量%未満では、耐洗濯性の向上が不十分であり、30質量%を超えてもそれに見合うだけの耐洗濯性の向上が見られないからである。
本発明で改質された繊維により得られた糸から作られる布や布地は、通気性が向上し、さらさら感や腰のある繊維となるが、更に低置換度セルロースエーテルの剪断分散液に酸化チタンを1〜20質量%程度添加して光触媒機能のある繊維や布としたり、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液に染料や顔料を添加して着色したりすることも可能である。その他、本発明の目的の達成に支障のない範囲であればあらゆる無機材料、有機材料、天然材料を低置換度セルロースの剪断分散液中に添加して改質された繊維を得ることができる。
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
表1に示した低置換度セルロースエーテル50gを950gの0.5質量%の希水酸化ナトリウム水溶液に分散した後、スギノマシーン(株)製のアルテマイザーの対向衝突型ユニットを用いて圧力150MPaにて高圧分散を行った。この処理を10回実施することにより低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を調製した。この剪断分散液100gにジフェニルメタンジイソシアナート8gを添加した試料分散液を調製した。次に、ニットコーマ綿糸30/1番手をこの分散液に浸漬させた後、ローラマングルでピックアップ率108%に絞った後、乾燥し、次いで145℃で10分間、加熱して、試料を得た。
このようにして得られた試料について、下記試験法に従い、毛羽立ち性、引張り強度、耐摩耗性、制電性、吸水性、耐洗濯性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例2〜8]
表1に示した低置換度セルロースエーテル50gを950gの水に分散した後、スギノマシーン(株)製のアルテマイザーの対向衝突型ユニットを用いて圧力150MPaにて高圧分散を行った。この処理を10回実施することにより低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を調製した。この剪断分散液100gにジフェニルメタンジイソシアナート8gを添加した試料分散液を調製した。次に、ニットコーマ綿糸30/1番手又は羊毛2/48番手をこの分散液に浸漬させた後、ローラマングルでピックアップ率108%に絞った後、乾燥し、次いで145℃で10分間、加熱して、試料を得た。
このようにして得られた試料について、下記試験法に従い、毛羽立ち性、引張り強度、耐摩耗性、制電性、吸水性、耐洗濯性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例9]
表1に示した低置換度セルロースエーテル50gを950gの水に分散した後、スギノマシーン(株)製のアルテマイザーの対向衝突型ユニットを用いて圧力150MPaにて高圧分散を行った。この処理を10回実施することにより低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を調製した。この剪断分散液100gに架橋構造タイプの水系ウレタン樹脂エマルジョンとしてポリオキシエチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアナートの架橋物8gを添加した試料分散液を調製した。次に、繊維として2/48番手の羊毛を使用し、かつローラマングルでピックアップ率108%に絞った後、95℃で20分間加熱した。このようにして得られた試料について、下記試験法に従い、評価した結果を表1に示す。
[実施例10]
表1に示した低置換度セルロースエーテル50gを950gの0.5質量%の希水酸化ナトリウム水溶液に分散した後、スギノマシーン(株)製のアルテマイザーの対向衝突型ユニットを用いて圧力150MPaにて高圧分散を行った。この処理を10回実施することにより低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を調製した。この剪断分散液100gにジフェニルメタンジイソシアナート8gを添加した試料分散液を調製した。次に、羊毛2/48番手をこの分散液に浸漬させた後、ローラマングルでピックアップ率108%に絞った後、乾燥し、次いで145℃で10分間、加熱して、試料を得た。
このようにして得られた試料について、下記試験法に従い、毛羽立ち性、引張り強度、耐摩耗性、制電性、吸水性、耐洗濯性を評価した。結果を表1に示す。
[実施例11〜13]
表1に示した低置換度セルロースエーテル50gを950gの水に分散した後、スギノマシーン(株)製のアルテマイザーの対向衝突型ユニットを用い圧力150MPaにて高圧分散を行った。この処理を10回実施することにより低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を調製した。この剪断分散液100gにジフェニルメタンジイソシアナート8gを添加した試料分散液を調製した。次に、2/60番手のポリエステルと羊毛の混紡糸をこの分散液に浸漬させた後、ローラマングルでピックアップ率108%に絞った後、乾燥し、次いで145℃で10分間、加熱して、試料を得た。このようにして得られた試料について、下記試験法に従い、評価した結果を表1に示す。
[比較例1]
日本製紙(株)製の粉末セルロースKCフロックW100により、セルロース換算濃度8質量%、苛性ソーダ濃度6質量%、二硫化炭素2.5質量%からなるビスコース試料液
に2/48番手の羊毛を浸漬したところ、羊毛が溶解してしまい、繊維改質はできなかった。
[比較例2]
ヒドロキシプロピル基置換度0.25の低置換度セルロースエーテル50gを475gの水に分散した後、20質量%濃度苛性ソーダを475g添加して低置換度セルロースエーテル苛性ソーダ水溶液を調製した。この溶液に2/60番手のポリエステルと羊毛の混紡糸を浸漬したところ、繊維が溶解してしまい、繊維改質はできなかった。
<毛羽立ち性>
敷島紡績(株)製のF−INDEX TESTERの光学式毛羽試験装置により2mm以下、3mm以下、4mm以下の合計毛羽量を求め、未加工の糸の値に対する割合を求めた。
<引張り強度>
エーアンドディ社製のテンシロン引張り強度測定装置にて、長さ100mmの試料糸10本についての引張り強度の未処理繊維との比を測定した。
<耐摩耗性>
蛭田式摩耗性試験装置にて、試料糸が破断するまでの回数を未処理の糸での破断回数で除した値として求めた。
<制電性>
JIS L 1094−1980により半減期を求め、未処理品に対する比として求めた。
<吸水速度>
JIS L 1096−1979により10分間における吸水長さを未処理品との比として求めた。
<耐洗濯性>
JIS L 0844に記載の方法で糸を洗濯し、洗濯後の顕微鏡観察により繊維の毛羽立ちが未処理品より顕著に少なくなっているものを◎とした。
Figure 0004557161

Claims (10)

  1. アルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基によるモル置換度が0.05〜1.3である水に溶解しない低置換度セルロースエーテルを水中又はアルカリ濃度が1質量%以下の希アルカリ水溶液中に懸濁分散して剪断前分散液を調製し、この剪断前分散液に剪断力をかけて得られた剪断分散液及び架橋剤又は水系樹脂エマルジョンを繊維に付着させた後、加熱処理することを特徴とする繊維の改質方法。
  2. 低置換度セルロースエーテルをアルカリの水溶液に溶解し、このアルカリ溶液を当量又はアルカリ濃度を1質量%以下とする量の酸で中和して低置換度セルロースエーテルを析出させることにより低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液を得る請求項記載の繊維の改質方法。
  3. 剪断力をかけて低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法が、振動ボールミル、コロイドミル、ホモミキサー又はホモジナイザーを用いて、剪断前分散液中の低置換度セルロースエーテルを互いに衝突させるか又は衝突板に衝突させて低置換度セルロースエーテルを摩砕させる方法である請求項1又は2記載の繊維の改質方法。
  4. 剪断力をかけて低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法が、ノズルから70〜250MPaの高圧で噴射させると共に、低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液同士又は低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液と衝突板とを90〜180°の角度で1〜200回衝突させて、低置換度セルロースエーテルの平均粒子長さを1/4以下に粉砕することにより、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得るようにした請求項1又は2記載の繊維の改質方法。
  5. 剪断力をかけて低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得る方法が、低置換度セルロースエーテルの剪断前分散液に500sec-1以上の剪断力を1〜60回かけて低置換度セルロースエーテルを摩砕分散させることにより、低置換度セルロースエーテルの剪断分散液を得るようにした請求項1又は2記載の繊維の改質方法。
  6. アルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基によるモル置換度が0.05〜1.3である水に溶解しない低置換度セルロースエーテルをアルカリの水溶液に溶解し、このアルカリ溶液をコロイドミルで剪断して低置換度セルロースエーテルを摩砕するか、又はホモジナイザーを用いて低置換度セルロースエーテルを衝突、粉砕させながら、上記アルカリと当量又はアルカリ濃度を1質量%以下とする量の酸で中和して得られた剪断分散液及び架橋剤又は水系樹脂エマルジョンを繊維に付着させた後、加熱処理することを特徴とする繊維の改質方法。
  7. 低置換度セルロースエーテルの剪断分散液中の濃度が0.5〜20質量%であり、ピックアップ率が10〜500質量%である請求項1〜のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
  8. 架橋剤が、イソシアナート系の架橋剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
  9. 水系樹脂エマルジョンが、水系ウレタン樹脂エマルジョン又は反応性オルガノポリシロキサンのO/W型エマルジョンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
  10. 低置換度セルロースエーテルが、モル置換度0.1〜0.7の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項記載の繊維の改質方法。
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