JP4549915B2 - スエード調人工皮革およびその製造方法 - Google Patents
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従来製法では、繊維の極細化手法として、溶解性の異なる2成分の樹脂から製造した海島繊維から海成分をトルエン等の特定の有機溶剤により溶解除去する方法、高分子弾性体の付与方法としては、ポリウレタンのジメチルホルムアミド溶液のように高分子弾性体を有機溶剤に溶解した状態で繊維基材に含浸する方法が広く用いられてきた。このような製法は多量の有機溶剤を使用するため、製造に従事する人員の健康面への影響、製造系から外界への排出、製品への残存などによる環境への影響が危惧されており、近年、環境対応の観点から、製造工程中で有機溶剤を使用しない方法が検討されるようになっている。
この点については、たとえば、極細繊維含む不織布シートに無機塩類を溶解、混合したポリウレタンエマルジョンを付与し、加熱乾燥する際にマイグレーションを防止する方法(例えば、特許文献1を参照。)が提案されている。この方法によれば、高分子弾性体の均一付与が可能となり充実感が向上するが、繊維と樹脂との接着性が強いため、耐摩耗性を確保するために高分子弾性体の付与量を多くすることで風合いが硬くなりやすく、逆に付与量が少ない場合には柔軟な風合いとなるが耐摩耗性に劣るものとなる。
また、可細化性繊維を含むシートに粘弾性樹脂と仮充填物を付与、凝固し、しかる後、該シートを構成する可細化性繊維の可細化を行い、その後さらに粘弾性樹脂を付与、凝固し、仮充填物質を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。この方法によれば、たしかに風合いは柔軟化するが、繊維と粘弾性樹脂間で接着する力が弱まり耐摩耗性の確保は困難となる。
また、水溶性樹脂の溶解除去工程等、製造条件の微妙な変動が品質に影響を与えやすいため、安定的に一定品質の物が得られ難く、生産安定性にも問題を抱えている。
本発明は環境対応型の製造方法にて、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、柔軟かつ充実感のある風合いを有し、耐摩耗性、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性、等の力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
また本発明は、単繊維繊度が0.0003〜0.5dtexの極細繊維からなる絡合不織布の内部に水分散系高分子弾性体が含有された人工皮革基体にポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体の混合物をポリアミド誘導体塩化物がスエード調人工皮革に対して0.05〜2質量%となるように付与し凝固する工程を含むスエード調人工皮革の製造方法である。そして、人工皮革基体を構成する極細繊維が極細繊維発生型繊維を極細化して得られる繊維であることが好ましく、該極細繊維発生型繊維が水溶性高分子成分および水難溶性高分子成分からなり、水溶性高分子成分が炭素数4以下のα−オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を1〜20モル%含有し、けん化度90〜99.99モル%の変性ポリビニルアルコールであることが好ましい。
本発明者らは、前述の課題について鋭意改良を検討した。その結果、スエード調人工皮革の全質量に対して0.05〜2質量%のポリアミド誘導体の塩化合物の付着量となるように該ポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体との混合物を人工皮革基体を構成する絡合不織布の極細繊維間及び水分散系高分子弾性体に付着含有させることで、これらの問題点を解消でき、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、充実感を有し、耐摩耗性、湿摩擦堅牢性等の力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供できることを見出した。
R1CONR3(R2NR’3)nOCR’1 (1)
(但し、R1、R’1は炭素数11〜25のアルキル基、R2は炭素数2ないし3のアルキレン基、R3、R’3はHあるいは分子間架橋結合で、同一であっても異なるものであってもよく、nは1〜8の整数)
本発明において使用される上記ポリアミド誘導体は、アルキル基の炭素数が11〜25の高級脂肪酸とアルキレン基の炭素数が2ないし3のポリアルキレンポリアミンを脱水縮合し、さらに必要に応じ尿素あるいはチオ尿素等で架橋して得られる前記一般式で表される化合物あるいはそれをエピハロヒドリンにより重縮合することにより得られる。これに用いられる高級脂肪酸の例として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘニン酸等が挙げられ、なかでもアルキル基の炭素数が17以上の高級脂肪酸が好ましい。
またポリアルキレンポリアミンの例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン等が挙げられる。さらにエピハロヒドリンと反応させると、エピハロヒドリンは2官能性の化合物であるため、ポリアミド誘導体をカチオン化すると共に架橋し、その結果、塩化合物が得られる。なかでも[C22H45COHNC2H4NHCOC23H47]HClが最も好ましい。
また、極細繊維間および高分子弾性体にポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体の混合物の状態で付着させることが重要であり、何れかに付着していない場合には、本発明の効果を得ることが難しい。従って、極細繊維発生型繊維からなる絡合不織布に水分散系高分子弾性体を付与して凝固し、その後該不織布を構成する極細繊維発生型繊維の極細化を行い、しかるのち、ポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体の混合物を付与して凝固することが好ましい。
そして、ポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体の混合物の質量比がポリアミド誘導体の塩化合物/水分散系高分子弾性体=0.2/100〜10/100であることが好ましく、0.5/100〜5/100であることが天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、充実感を有し、耐摩耗性、耐湿摩擦堅牢性等の力学物性に優れたスエード調人工皮革が得られ易い点でより好ましい。
また、本発明においては、上記した極細繊維発生型繊維以外に、紡糸延伸時に直接、極細繊維そのものを得る方法により製造した極細繊維を用いても差し支えない。
またけん化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.96モル%がさらに好ましく、95〜99.95モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な複合溶融紡糸を行うことができない。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。更に、PVAの一次構造や高次構造を調節し結晶性や水溶性を制御して、適当な熱水溶解性に調整する。
または、極細繊維発生型繊維を捲縮付与した後ステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウエバー等によりウエブを形成し、必要に応じて該ウエブの表層、下層、あるいは中間層に上記繊維を用いた織編物を積層し、ニードルパンチまたは、高圧水流処理等の公知の絡合処理をおこなうことにより繊維を絡合させる。
好ましくは水溶性成分の脱落のない乾熱収縮処理により布帛の面積を収縮前の40〜90%にする。収縮後の面積が収縮前の面積の90%を超えるような低い収縮では緻密感が得られず風合いやスエード感が劣るため好ましくなく、あるいは、短繊維が素抜けやすくなって、それを固定するための高分子弾性体の必要量が多くなる傾向があり好ましくない。逆に、収縮後の面積が収縮前の面積の40%未満となるような大きな収縮の場合には風合いが硬化するため好ましくない。乾熱収縮処理は、上記絡合不織布を160〜200℃の雰囲気下に0.5〜3分放置することにより好適に行なわれる。
絡合不織布の厚みは、得られる人工皮革の用途等によって任意に選択でき、特に制限されるものではないが、その厚みは0.2〜10mm程度であることが好ましく、0.4〜5mm程度であることがより好ましい。密度は0.30〜0.80g/cm3が好ましく、0.40〜0.60g/cm3が更に好ましい。0.30g/cm3未満であると繊維の立毛感が不足し、さらに機械物性も低下する傾向があり、0.80g/cm3を越えると得られる人工皮革の風合いが硬くなる傾向があるため好ましくない。
また本発明では、水分散系高分子弾性体の水分散液に感熱ゲル化性化合物や金属塩を添加する等の公知の方法で、絡合不織布全体に均一に存在できるように高分子弾性体を凝固する方法を加えることがより好ましい。
水分散系高分子弾性体を絡合不織布内部に含浸する方法については、絡合不織布中に高分子弾性体の水分散液を均一に含浸させ得る公知の方法を採用すれば良いが、水分散液中に絡合不織布を浸漬した後にプレスロールやドクターナイフなどを用いて水分散系高分子弾性体の含浸量を適量なものに調整する方法や、定量ポンプ付きのコート塗工方法による方法などが好ましい例として挙げられる。
ここで、風合いの柔軟性と耐摩耗性を両立させるためには、第一段目の樹脂添加量は水分散系高分子弾性体付与目標量の50〜95%とすることが特に好ましく、70〜85%がとりわけ好ましい。
本発明において、得られるスエード調人工皮革の密度は0.35〜0.70g/cm3であることが好ましい。密度が0.35g/cm3未満の場合には、天然皮革ライクな風合いが得られ難くなり、また密度が0.70g/cm3より大きい場合には、柔軟性に劣る傾向となる。好ましくは、0.40〜0.60g/cm3の範囲である。
JIS L0849(摩擦に対する染色堅牢度試験方法)の湿潤試験により評価した。
[摩耗状態の評価]
マーチンデール型摩耗試験機を使用して、JIS L1096摩耗強さE法に準拠し、押圧荷重12kPaにて20000回まで摩擦処理を行った。途中、1000回毎に表面(摩擦面)の毛玉発生の有無を目視にて判定した。併せて、20000回処理後の試料の質量減少を測定した。
[水溶性熱可塑生PVAの製造]
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cmに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液200g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニルの酢酸ビニルユニットに対してモル比0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVAを得た。
得られた人工皮革は、充実感と柔軟性を併せ持ち、湿摩擦堅牢度、耐摩耗性ともにインテリア用途に充分な性能を有するものであった。
実施例1において、二次含浸液としてニッテックスAPを配合せず、エバファノールAP−12の希釈液を使用する以外は、同一の条件にて人工皮革を作成した。
得られた人工皮革は、柔軟性に欠け、湿摩擦堅牢度に劣るなど、実用性能の不足したものであった。
実施例1において、ニッテックスAPの配合量を表1のとおりスエード調人工皮革に対して0.03質量%となるようにパディング付与してポリアミド誘導体の塩化合物量を減らす以外は、同一の条件にてスエード調人工皮革を作成した。
得られたスエード調人工皮革は、柔軟性に欠け、湿摩擦堅牢度に劣るなど、実用性能の不足したものであった。
実施例1において、二次含浸液として、エバファノールAP−12と、NKガードNDN−2000(日華化学(株)製、フッ素系処理剤)を表1に示す率で混合した液を使用する以外は、同一の条件にてスエード調人工皮革を作成した。
得られたスエード調人工皮革は、風合いおよび湿摩擦堅牢度は良好であったが、摩擦試験において、毛玉が発生してしまい、摩耗減量値も大きく実用性能の不足したものであった。
実施例1において、二次含浸液として、エバファノールAP−12と、ニッカシリコンAM204(日華化学(株)製、シリコーン系処理剤)を表1に示す率で混合した液を使用する以外は、同一の条件にてスエード調人工皮革を作成した。
得られたスエード調人工皮革は、風合いおよび湿摩擦堅牢度は良好であったが、摩擦試験において、毛玉が発生してしまい、摩耗減量値も大きく実用性能の不足したものであった。
Claims (4)
- 単繊維繊度が0.0003〜0.5dtexの極細繊維からなる絡合不織布の内部に水分散系高分子弾性体が含有されてなるスエード調人工皮革において、該極細繊維間および水分散系高分子弾性体に、ポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体の混合物が付与され、該ポリアミド誘導体の塩化物としての付与量がスエード調人工皮革に対して0.05〜2質量%であることを特徴とするスエード調人工皮革。
- 単繊維繊度が0.0003〜0.5dtexの極細繊維からなる絡合不織布の内部に水分散系高分子弾性体が含有された人工皮革基体にポリアミド誘導体の塩化合物と水分散系高分子弾性体の混合物をポリアミド誘導体塩化物がスエード調人工皮革に対して0.05〜2質量%となるように付与し凝固する工程を含むスエード調人工皮革の製造方法。
- 人工皮革基体を構成する極細繊維が極細繊維発生型繊維を極細化して得られる繊維である請求項2に記載のスエード調人工皮革の製造方法。
- 極細繊維発生型繊維が水溶性高分子成分および水難溶性高分子成分からなり、水溶性高分子成分が炭素数4以下のα−オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を1〜20モル%含有し、けん化度90〜99.99モル%の変性ポリビニルアルコールである請求項3に記載のスエード調人工皮革の製造方法。
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