本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
以下では、本発明を適用するエンジン始動制御装置の第1,第2実施形態について、それぞれ説明する。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について、図1〜図3を用いて説明する。図1は、第1実施形態に係るエンジン始動制御装置の概略ブロック図、図2は、エンジン始動要求信号の継続時間の可変制御を示すフローチャート、図3は、バッテリSOCに基づいてエンジン始動要求信号の継続時間を設定する際に参照されるマップである。
まず、エンジン始動制御装置の概略構成について、図1を用いて説明する。図1に例示するエンジン始動制御装置は、プッシュ式スタートシステムを採用したエンジン始動制御装置として構成されており、電源ECU10と、エンジンECU20と、プッシュスイッチ30と、スタータ40と、スタータリレー50と、バッテリ60とを備えている。
電源ECU10は、車両電気システム全体の電源状態を制御するもので、電源としてのバッテリ60からの電力供給に基づいて動作する。バッテリ60は、車両に搭載され、例えば、ニッケル水素などの二次電池からなる。電源ECU10は、常時バッテリ60からの電力供給を受けて動作可能な状態にある。
電源ECU10には、プッシュスイッチ30が接続されている。プッシュスイッチ30は、エンジンの始動を指示するエンジン始動用スイッチである。このプッシュスイッチ30は、車両室内の運転席近辺に設けられたスイッチであり、例えば、インストルメントパネルに設けられたモーメンタリ式の押しボタンスイッチによって構成される。プッシュスイッチ30は、プッシュ式スタートシステムに対応するものになっている。すなわち、プッシュスイッチ30は、運転者によって操作(プッシュ)されることにより、オン状態となる。プッシュスイッチ30のオン状態のとき、スイッチオン信号SSWが電源ECU10に入力される。そして、プッシュスイッチ30がオンされたことに応じて、スイッチオン信号SSWが入力されると、電源ECU10は、そのスイッチオン信号SSWに基づき、エンジンECU20の始動制御部21に対して、エンジン始動を指示するエンジン始動要求信号STSWを生成して出力する。
電源ECU10は、エンジンECU20の始動制御部21からACCカット信号ACCRを受ける。このACCカット信号ACCRを受けると、電源ECU10は、ACCリレーをオフする。これにより、エンジン始動の際に、バッテリ60から車両電気システムの電気機器(エアコン、オーディオ機器など)への電力の供給が停止される。
また、電源ECU10は、ACCカット信号ACCRを受けると、バッテリ60からの電力供給に基づき、出力端子を通じて、スタータリレー50に対して電流供給を行う。つまり、電源ECU10からスタータリレー50に対して補助駆動電流(第1の駆動電流)が供給される。スタータリレー50への電流供給については後述する。
エンジンECU20は、エンジンの始動および回転を制御するもので、エンジンの始動を制御する始動制御部21と、エンジンの完爆判定を行う完爆判定部22と、バッテリ60の充電を制御する充電制御部23とを少なくとも備えて構成されている。エンジンECU20は、図示しない他の車両電気システムとともに、バッテリ60に接続され、このバッテリ60からの電力供給に基づいて動作する。エンジンECU20は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量などに応じてエンジンに対して燃料噴射に関する信号を出力するなど、周知の動作を行う。
エンジンECU20は、電源ECU10からエンジン始動要求信号STSWを受ける。このエンジン始動要求信号STSWを受けると、エンジンECU20の始動制御部21は、バッテリ60からの電力供給に基づき、出力端子を通じてスタータリレー50に対して電流供給を行う。つまり、エンジン始動要求信号STSWが入力されると、エンジンECU20の始動制御部21は、そのエンジン始動要求信号STSWに基づいて、スタータリレー50に対して駆動電流(第2の駆動電流)を供給する。スタータリレー50への電流供給については後述する。
また、エンジンECU20は、エンジン始動要求信号STSWを受けると、エンジン始動の際に、バッテリ60から車両電気システムの電気機器への電力供給を停止するために、電源ECU10に対して、ACCカット信号ACCRを出力する。
エンジンECU20には、エンジンのウォータジャケットの冷却水温度を検出する水温センサ71、エンジン回転数を検出する回転数センサ72、図示しないオルタネータ(発電機)からバッテリ60への充電電流を検出する電流センサ73、バッテリ60におけるバッテリ電圧を検出する電圧センサ74が接続されている。
水温センサ71は、検出したエンジン冷却水温度をエンジンECU20へ出力する。回転数センサ72は、エンジンのクランキングが開始してエンジンが回転を始めると、そのエンジン回転数NEを検出する。回転数センサ72は、検出したエンジン回転数NEをエンジンECU20へ出力する。電流センサ73は、検出したバッテリ60への充電電流をエンジンECU20へ出力する。電圧センサ74は、検出したバッテリ60のバッテリ電圧をエンジンECU20へ出力する。
回転数センサ72からエンジン回転数NEを受けると、エンジンECU20の完爆判定部22は、検出されたエンジン回転数NEと予め定めた所定の回転数(たとえばアイドル回転数近傍)との一致比較動作を行い、その比較結果に基づいてエンジンが完爆状態であるか否かを判定する。このとき、エンジン回転数NEが所定の回転数以上であれば、エンジンECU20の完爆判定部22は、エンジンが完爆状態であると判定し、エンジン始動が完了したと判断し、始動制御部21に対してスタータオフ指示(スタータオフ要求フラグ)を送る。このスタータオフ要求フラグの送出により、エンジンECU20の始動制御部21は、スタータリレー50への駆動電流の供給を停止する。
電流センサ73からバッテリ60への充電電流を受けると、エンジンECU20の充電制御部23は、検出されたバッテリ60への充電電流と、そのバッテリ60への充電時間とに基づいて、バッテリ60のバッテリSOC(State of Charge)を算出する。バッテリSOCは、バッテリ60の充電状態(充電量)を表す量で、0〜100(%)の値の間で変化する。そして、バッテリSOCの値が大きいほど、バッテリ60の充電量が大きく、バッテリ電圧が高くなることを示す。このように、エンジンECU20の充電制御部23は、バッテリ60の充電制御を行うとともに、その充電状態(バッテリSOC)を監視している。
ここで、電源ECU10およびエンジンECU20は、正常動作が保証される動作電圧の限界値(リセットレベル)をそれぞれ有する。電源ECU10およびエンジンECU20は、バッテリ60におけるバッテリ電圧(電源電圧)がそれぞれのリセットレベル以上であるときには、正常動作が可能となる。一方、電源ECU10およびエンジンECU20は、バッテリ60におけるバッテリ電圧がそれぞれのリセットレベルを下回るときには、動作不能の状態(リセット状態)に陥ることとなる。そして、この実施形態では、電源ECU10のリセットレベルは、エンジンECU20のリセットレベルに比べ、低いレベルに設定されている。したがって、エンジンECU20がリセット状態になったとしても、バッテリ電圧が電源ECU10のリセットレベル以上であれば電源ECU10は正常に動作することになる。
スタータ40は、バッテリ60からの電力供給を受けて回転する。このスタータ40の回転によって、エンジンのクランキングが開始される。スタータ40は、例えば、スタータモータおよびスタータコイルを備えた周知のもので、バッテリ60からの電流供給に基づいて作動する。このスタータ40に対するバッテリ60からの電流供給ラインは、スタータリレー50によってオンオフ制御されるようになっている。
スタータリレー50は、通電時にバッテリ60とスタータ40とを電気的に接続するスタータ駆動用リレーであって、電源ECU10およびエンジンECU20と、スタータ40との間に配設されている。スタータリレー50は、例えば、巻線51およびリレースイッチ52を備えた周知のもので、巻線51に対して電流が流されると、巻線51の電磁吸引によってリレースイッチ52をオンさせるように構成されている。スタータリレー50には、エンジンECU20からの駆動電流および電源ECU10からの補助駆動電流の少なくとも一方が供給されるようになっている。このようなスタータリレー50への電流供給により、バッテリ60からスタータ40へ電力供給が行われるようになっている。
次に、上述のような構成のエンジン始動制御装置におけるスタータリレー50に対する電流供給について、図1〜図3を用いて説明する。
この実施形態では、スタータリレー50に対する電流供給を、エンジンECU20からだけではなく、エンジンECU20よりも低いリセットレベルを有する他のECUからも行うように構成されている。ここでは、他のECUを電源ECU10とした場合について説明するが、エンジンECU20よりも低いリセットレベルを有するECUであれば、電源ECU10以外であってもよい。この場合、電源ECU10は、昇圧回路(昇圧手段)を内蔵する構成とすることが好ましい。昇圧回路を備える構成とすれば、バッテリ60におけるバッテリ電圧が所定レベルよりも低い場合には、電源ECU10が自ら昇圧回路を用いてバッテリ電圧を昇圧することで、エンジン始動制御に必要とされる電圧以上の電圧を形成することが可能になる。なお、電源ECU10は、バッテリ電圧がエンジンECU20のリセットレベルよりも低下してもスタータリレー50に対する電流供給を行うことができるようなものであれば、必ずしも昇圧回路を備えていなくもよい。
電源ECU10からは、スタータリレー50に対して補助駆動電流が供給される。このように、電源ECU10は、スタータリレー50への電流供給機能、つまり、スタータ40の補助駆動機能を有している。このとき、電源ECU10からの補助駆動電流の供給時間は、リセットが行われたタイミング(リセット開始)からエンジン始動が再開されるまでにかかる一般的な間隔よりも長く、かつ、クランキング等によりエンジンが掛かりそうで結局掛からなかった場合にかかる間隔よりも短く設定され、例えば、300ms程度とされる。
一方、エンジンECU20からは、電源ECU10からのエンジン始動要求信号STSWに応じて、スタータリレー50に対して駆動電流が供給される。上述したように、エンジンECU20の始動制御部21は、エンジン始動要求信号STSWに基づいて、スタータリレー50に対して駆動電流を供給する。ここで、エンジンECU20の始動制御部21は、エンジン始動要求信号STSWが継続している間は、完爆判定部22からのスタータオフ要求フラグがない限り、スタータリレー50へ駆動電流を供給するが、完爆判定部22からのスタータオフ要求フラグがあれば、スタータリレー50に対する駆動電流の供給を停止する。
そして、この実施形態では、電源ECU10からのエンジン始動要求信号STSWの継続時間(出力時間)が変更可能になっている。これにともなって、エンジンECU20からの駆動電流の供給時間が一定ではなく、可変となる。以下、この可変制御について、図2のフローチャートを参照して説明する。
まず、エンジン始動制御装置は、プッシュスイッチ30が運転者によって操作されると、エンジン始動制御を開始する(ステップST1)。この場合、プッシュスイッチ30の操作はわずかの時間だけプッシュされるいわゆる短押しとする。
次に、エンジン始動制御装置は、バッテリ60におけるバッテリSOCに基づいて、電源ECU10がエンジンECU20へ出力するエンジン始動要求信号STSWの継続時間を算出する(ステップST2)。バッテリ60のバッテリSOCは、上述したように、エンジンECU20の充電制御部23により常時監視されている。そして、エンジン始動要求信号STSWの継続時間の算出に際し、例えば、図3に示すようなマップが参照される。この場合、マップは、バッテリ60のバッテリSOCが小さい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、逆に、バッテリ60のバッテリSOCが大きい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定されるような関係を満たすものとなっている。マップは予め計算・実験等を行うことによって経験的に作成される。
図3に例示するマップによれば、エンジン始動要求信号STSWの継続時間は、300〜1200msの間で変更可能になっている。具体的には、バッテリ60のバッテリSOCが小さい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、最大で1200msに設定される。逆に、バッテリ60のバッテリSOCが大きい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定され、最小で300msに設定される。バッテリ60のバッテリSOCが図3のマップの基準点以外の場合、エンジン始動要求信号STSWの継続時間は補完して算出される。
なお、図3のマップは一例であり、バッテリSOCの基準点およびエンジン始動要求信号STSWの継続時間はそれ以外であってもよい。また、補完計算を行わず、バッテリ60のバッテリSOCの所定範囲ごとに、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を所定値に設定するようにしてもよい。ただし、この実施形態では、バッテリ60のバッテリSOCが小さい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、逆に、バッテリ60のバッテリSOCが大きい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定されるような関係に基づいて、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を算出することが好ましい。
次に、エンジン始動制御装置は、エンジンのクランキングを開始する(ステップST3)。この際、ステップST2で算出された継続時間の間だけ、電源ECU10からエンジンECU20へ出力されるエンジン始動要求信号STSWが継続され、このエンジン始動要求信号STSWに基づいて、スタータリレー50に対して駆動電流が供給される。上述したように、エンジン始動要求信号STSWが継続している間は、エンジンECU20の始動制御部21は、完爆判定部22からのスタータオフ要求フラグがない限り、スタータリレー50へ駆動電流を供給する。このため、スタータオフ要求フラグがなければ、ステップST2で算出されたエンジン始動要求信号STSWの継続時間の間だけ、スタータリレー50への駆動電流の供給が行われることになる。また、電源ECU10からは、一定の時間(例えば、300ms)の間だけ、スタータリレー50への補助駆動電流の供給が行われる。こうして、バッテリ60からスタータ40へ電力供給が行われ、クランキングが開始される。
ここで、スタータ40は、エンジン停止状態からクランキングを行ってエンジンを始動させるために、大きな始動電流を必要とするので、バッテリ60におけるバッテリ電圧が大きく低下する。このとき、バッテリ60におけるバッテリ電圧が、電源ECU10のリセットレベル以上であり、かつ、エンジンECU20のリセットレベルを下回ったとすると、エンジンECU20がリセット状態に陥るため、エンジンECU20からスタータリレー50に対する電流供給がリセットされる(停止される)。一方、電源ECU10は正常に動作するので、エンジンECU20に対するエンジン始動要求信号STSWの出力およびスタータリレー50に対する電流供給は正常に行われる。
そして、スタータ40の回転にともなってエンジン始動負荷が軽減されていくと、バッテリ60のバッテリ電圧が上昇し、エンジンECU20のリセットレベル以上になると、エンジンECU20がリセット状態から復帰する。この復帰の際、エンジン始動要求信号STSWが継続していれば、エンジンECU20は、復帰後ただちに、そのエンジン始動要求信号STSWに基づいてスタータリレー50に対して電流供給を再び行う。
このように、電源ECU10によるエンジン始動要求信号STSWの出力が開始されてから、エンジンECU20がリセット状態から復帰するまでの時間が、エンジン始動要求信号STSWの継続時間に比べて短ければ、エンジンECU20がリセット状態になったとしても、エンジンECU20からスタータリレー50に対する駆動電流の供給を再び行うことが可能になる。一方、電源ECU10によるエンジン始動要求信号STSWの出力が開始されてから、エンジンECU20がリセット状態から復帰するまでの時間が、エンジン始動要求信号STSWの継続時間に比べて長ければ、エンジンECU20がリセット状態になったとすると、エンジンECU20からスタータリレー50に対する駆動電流の供給を再び行うことは不可能であり、クランキングが中止される。
ところで、バッテリ60のバッテリSOCが比較的小さい場合には、バッテリ電圧が比較的低いので、エンジンが始動しにくくエンジン始動が完了するまでに時間をかなりの要する。また、エンジンECU20がリセット状態に陥りやすく、エンジンECU20がリセット状態から復帰するまでにはかなりの時間を要する。この実施形態では、バッテリ60のバッテリSOCが小さい場合、バッテリSOCに応じてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を長く設定するので、スタータリレー50に対する駆動電流の供給時間を長く確保でき、エンジン始動の完了前にクランキングが中止されることをできるだけ回避できる。
また、エンジンECU20がリセット状態から復帰するまでにかなりの時間を要するとしても、その復帰の際に、エンジン始動要求信号STSWが継続している可能性が高くなる。これにより、エンジンECU20からスタータリレー50への電流供給を再び行える可能性が高くなるので、エンジンECU20がリセット状態に陥ったとしても、クランキングの中止をできるだけ回避することができる。しかも、電源ECU10によるスタータリレー50への補助駆動電流の供給が開始されてから、エンジンECU20がリセット状態から復帰するまでの時間が、予め設定されたその電源ECU10からの補助駆動電流の供給時間に比べて短ければ、エンジンECU20がリセット状態になったとしても、スタータリレー50に対する電流供給を中断せずに行うことが可能になり、クランキングを継続して行うことが可能になる。
一方、バッテリ60のバッテリSOCが比較的大きい場合には、バッテリ電圧が比較的高いので、エンジンが始動やすくエンジン始動が完了するまでに時間をそれほど要しない。また、エンジンECU20がリセット状態に陥りにくく、リセット状態に陥らずにエンジン始動が完了する可能性が高い。たとえエンジンECU20がリセット状態に陥ったとしても復帰するまでには時間をそれほど要しない。この実施形態では、バッテリ60のバッテリSOCが大きい場合、バッテリSOCに応じてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を短く設定するので、エンジン始動が完了した後において、エンジン始動要求信号STSWが継続している可能性が低くなり、クランキングが継続される可能性が低くなる。これにより、エンジン始動完了後のスタータ40のオーバーランをできるだけ回避することができる。
そして、プッシュ式スタートシステムを採用したエンジン始動制御装置において、上述のように、エンジンの始動性を向上させるために、プッシュスイッチ30を繰り返し操作したり、プッシュスイッチ30を長時間操作(いわゆる長押し)する必要はなく、プッシュスイッチ30を1回短押しするだけでよい。したがって、操作性に極めて優れたエンジン始動制御装置を提供できる。しかも、新たなECU等を追加する必要がなく、既存の装置構成を用いることでこの実施形態のエンジン始動制御装置を実現でき、この場合、既存のECU(電源ECU10、エンジンECU20等)の始動制御に関するプログラムの変更を行うだけで対応可能になる。
次に、第1実施形態の変形例について説明する。
以上では、エンジン始動要求信号STSWの継続時間をバッテリ60におけるバッテリSOCに基づいて設定する場合について説明したが、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を他のパラメータに基づいて設定する構成としてもよい。このパラメータとして、例えば、バッテリ60におけるバッテリ電圧、エンジンのウォータジャケットの冷却水温度などが挙げられる。
ここで、例えば、バッテリ60におけるバッテリ電圧に基づいてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を設定する場合について、図4、図5を用いて説明する。この場合、図2のフローチャートの代わりに、図4のフローチャートが用いられ、この際、図5のマップが参照される。エンジン始動制御装置の構成は、上述した場合とほぼ同様になっている(図1参照)。
図4のフローチャートについて説明すると、ステップST11は、図2のフローチャートのステップST1と同様のステップになっている。
ステップST12では、エンジン始動制御装置は、バッテリ60におけるバッテリ電圧に基づいて、電源ECU10がエンジンECU20へ出力するエンジン始動要求信号STSWの継続時間を算出する。バッテリ60のバッテリ電圧は、電圧センサ74により検出される。そして、エンジン始動要求信号STSWの継続時間の算出に際し、例えば、図5に示すようなマップが参照される。この場合、マップは、バッテリ60のバッテリ電圧が小さい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、逆に、バッテリ60のバッテリ電圧が大きい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定されるような関係を満たすものとなっている。マップは予め計算・実験等を行うことによって経験的に作成される。
図5に例示するマップによれば、エンジン始動要求信号STSWの継続時間は、300〜1200msの間で変更可能になっている。具体的には、バッテリ60のバッテリ電圧が小さい場合には、エンジンが始動しにくくエンジン始動が完了するまでに時間をかなりの要する。また、エンジンECU20がリセット状態に陥りやすく、エンジンECU20がリセット状態から復帰するまでにはかなりの時間を要するので、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、最大で1200msに設定される。逆に、バッテリ60のバッテリ電圧が大きい場合には、エンジンが始動やすくエンジン始動が完了するまでに時間をそれほど要しない。また、エンジンECU20がリセット状態に陥りにくく、リセット状態に陥らずにエンジン始動が完了する可能性が高く、たとえエンジンECU20がリセット状態に陥ったとしても復帰するまでには時間をそれほど要しないので、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定され、最小で300msに設定される。バッテリ60のバッテリ電圧が図5のマップの基準点以外の場合、エンジン始動要求信号STSWの継続時間は補完して算出される。
なお、図5のマップは一例であり、バッテリ電圧の基準点およびエンジン始動要求信号STSWの継続時間はそれ以外であってもよい。また、補完計算を行わず、バッテリ60のバッテリ電圧の所定範囲ごとに、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を所定値に設定するようにしてもよい。ただし、この変形例では、バッテリ60のバッテリ電圧が小さい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、逆に、バッテリ60のバッテリ電圧が大きい場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定されるような関係に基づいて、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を算出することが好ましい。
次に、エンジン始動制御装置は、エンジンのクランキングを開始する(ステップST13)。この際、ステップST12で算出された継続時間の間だけ、電源ECU10からエンジンECU20へ出力されるエンジン始動要求信号STSWが継続され、このエンジン始動要求信号STSWに基づいて、スタータリレー50に対して駆動電流が供給される。また、電源ECU10からは、一定の時間(例えば、300ms)の間だけ、スタータリレー50への補助駆動電流の供給が行われる。こうして、バッテリ60からスタータ40へ電力供給が行われ、クランキングが開始される。
また、例えば、エンジンの冷却水温度に基づいてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を設定する場合には、図6に例示するようなマップが参照される。この場合、マップは、エンジンの冷却水温度が低い場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、逆に、エンジンの冷却水温度が高い場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定されるような関係を満たすものとなっている。
図6のマップでは、エンジン始動要求信号STSWの継続時間は、300〜1200msの間で変更可能になっている。具体的には、エンジンの冷却水温度が低い場合には、エンジンが始動しにくくエンジン始動が完了するまでに時間をかなりの要するので、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が長く設定され、最大で1200msに設定される。逆に、バッテリ60のバッテリ電圧が大きい場合には、エンジンが始動やすくエンジン始動が完了するまでに時間をそれほど要しないので、エンジン始動要求信号STSWの継続時間が短く設定され、最小で300msに設定される。
また、バッテリ60におけるバッテリSOC、バッテリ60におけるバッテリ電圧、エンジンの冷却水温度のうち、2以上のパラメータに基づいてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を設定する構成としてもよい。例えば、バッテリ60のバッテリ電圧とエンジンの冷却水温度とに基づいてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を設定することが可能であり、バッテリ60のバッテリ電圧が小さくかつエンジンの冷却水温度が低い場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を長く設定し、バッテリ60のバッテリ電圧が大きくかつエンジンの冷却水温度が高い場合には、エンジン始動要求信号STSWの継続時間を短く設定することが可能である。
ここで、エンジンECU20の充電制御部23により常時監視しているので、バッテリ60のバッテリSOCのほぼ正確な値を算出可能で、その誤差が小さい。これに対し、水温センサ71によるエンジンの冷却水温度の検出値や、電圧センサ74によるバッテリ60のバッテリ電圧の検出値は、周囲の温度や、バッテリ60の充放電状況に左右されやすく、その誤差が大きくなる可能性がある。このため、バッテリ60のバッテリ電圧の1つのパラメータのみ、あるいは、エンジンの冷却水温度の1つのパラメータのみでなく、バッテリ60のバッテリ電圧とエンジンの冷却水温度との2つのパラメータに基づいてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を設定することで、その信頼性を確保することができる。
以上では、エンジンECU20がバッテリ60の充電制御を行う充電制御部23を備えている場合について説明したが、エンジンECU20は、必ずしも充電制御部23を備えていなくてもよい。この場合には、バッテリ60におけるバッテリSOCを算出するための電流センサを設ける必要がある。したがって、エンジンECU20が充電制御部23を備える場合、電流センサを新たに設ける必要がなくなり、また、バッテリ60のバッテリSOCを算出するロジック等をそのまま利用でき、有利である。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について、図7を用いて説明する。
この第2実施形態は、エンジン始動要求信号STSWの継続時間の可変制御については上記第1実施形態とほぼ同様であるが、プッシュ式スタートシステムを採用したエンジン始動制御装置の構成、および、スタータリレー50に対する電流供給が上記第1実施形態とは異なる。以下では、異なる点について主に説明することとし、上記第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
この実施形態のエンジン始動制御装置の概略構成について、図7を用いて説明する。図7に例示するエンジン始動制御装置は、プッシュ式スタートシステムを採用したエンジン始動制御装置として構成されており、パワーマネージメントECU110と、エンジンECU120と、プッシュスイッチ30と、スタータ40と、スタータリレー50と、バッテリ60とを備えている。
パワーマネージメントECU110は、上記第1実施形態の電源ECU10の機能を有するとともに、エンジンECU20の一部の機能(始動制御部21の一部の機能および充電制御部23の機能)を有する。具体的に、パワーマネージメントECU110は、車両電気システム全体の電源状態を制御する電源切替部111と、エンジンの始動を制御する始動制御部112と、バッテリ60の充電を制御する充電制御部113とを少なくとも備えて構成されている。
一方、エンジンECU120は、上記第1実施形態のエンジンECU20の機能からその一部の機能(パワーマネージメントECU110が新たに担う上記一部の機能)を取り除いた機能を有する。具体的に、エンジンECU120は、始動制御部121と、エンジンの完爆判定を行う完爆判定部122とを少なくとも備えて構成されている。なお、エンジンECU120の始動制御部121は、完爆判定部122の参照するカウンタとしての役割を担うもので、エンジンの始動を制御する役割は主にパワーマネージメントECU110の始動制御部112が担う。
パワーマネージメントECU110とエンジンECU120とは、例えば、CAN通信によって接続されており、必要な情報を送受信するようになっている。パワーマネージメントECU110からエンジンECU120へは、プッシュスイッチ30がオンされたことを示すスタータSWフラグなどが送られる。エンジンECU120からパワーマネージメントECU110へは、車両情報(エンジンの状態、トランスミッションの状態など)や、エンジン回転数NE、エンジンの冷却水温度、スタータオフ要求フラグなどが送られる。
パワーマネージメントECU110は、バッテリ60からの電力供給に基づいて動作する。パワーマネージメントECU110には、プッシュスイッチ30が接続されている。このプッシュスイッチ30のオン状態のとき、スイッチオン信号SSWがパワーマネージメントECU110に入力される。そして、プッシュスイッチ30がオンされたことに応じて、スイッチオン信号SSWが入力されると、パワーマネージメントECU110の電源切替部111は、そのスイッチオン信号SSWに基づき、ACCリレーをオフする。また、電源切替部111は、そのスイッチオン信号SSWに基づき、始動制御部112に対して、エンジン始動を指示するエンジン始動要求信号STSWを生成して送る。つまり、パワーマネージメントECU110は、電源切替部111と始動制御部112との間で、エンジン始動要求信号STSWのやりとり(出入力)を行っている。これにともなって、パワーマネージメントECU110の始動制御部112は、バッテリ60からの電力供給に基づき、出力端子を通じて、スタータリレー50に対して駆動電流の供給を行う。このスタータリレー50への電流供給により、バッテリ60からスタータ40へ電力供給が行われる。これにより、エンジンのクランキングが開始される
パワーマネージメントECU110には、図示しないオルタネータ(発電機)からバッテリ60への充電電流を検出する電流センサ73、バッテリ60におけるバッテリ電圧を検出する電圧センサ74が接続されている。電流センサ73は、検出したバッテリ60への充電電流をパワーマネージメントECU110へ出力する。電圧センサ74は、検出したバッテリ60のバッテリ電圧をパワーマネージメントECU110へ出力する。
電流センサ73からバッテリ60への充電電流を受けると、パワーマネージメントECU110の充電制御部113は、検出されたバッテリ60への充電電流と、そのバッテリ60への充電時間とに基づいて、バッテリ60のバッテリSOCを算出する。このように、パワーマネージメントECU110の充電制御部113は、バッテリ60の充電制御を行うとともに、その充電状態(バッテリSOC)を監視している。
エンジンECU120は、バッテリ60からの電力供給に基づいて動作する。エンジンECU120には、エンジンのウォータジャケットの冷却水温度を検出する水温センサ71、エンジン回転数を検出する回転数センサ72が接続されている。水温センサ71は、検出したエンジン冷却水温度をエンジンECU120へ出力する。回転数センサ72は、エンジンのクランキングが開始してエンジンが回転を始めると、そのエンジン回転数NEを検出する。回転数センサ72は、検出したエンジン回転数NEをエンジンECU120へ出力する。
回転数センサ72からエンジン回転数NEを受けると、エンジンECU120の完爆判定部122は、検出されたエンジン回転数NEと予め定めた所定の回転数(たとえばアイドル回転数近傍)との一致比較動作を行い、その比較結果に基づいてエンジンが完爆状態であるか否かを判定する。このとき、エンジン回転数NEが所定の回転数以上であれば、エンジンECU120の完爆判定部122は、エンジンが完爆状態であると判定し、エンジン始動が完了したと判断し、CAN通信を介してパワーマネージメントECU110に対してスタータオフ指示(スタータオフ要求フラグ)を送る。このスタータオフ要求フラグの送出により、パワーマネージメントECU110の始動制御部112は、スタータリレー50への駆動電流の供給を停止する。
ここで、パワーマネージメントECU110およびエンジンECU120は、正常動作が保証される動作電圧の限界値(リセットレベル)をそれぞれ有する。パワーマネージメントECU110およびエンジンECU120は、バッテリ60におけるバッテリ電圧がそれぞれのリセットレベル以上であるときには、正常動作が可能となる。一方、パワーマネージメントECU110およびエンジンECU120は、バッテリ60におけるバッテリ電圧がそれぞれのリセットレベルを下回るときには、動作不能の状態(リセット状態)に陥ることとなる。そして、この実施形態では、パワーマネージメントECU110のリセットレベルは、エンジンECU120のリセットレベルに比べ、低いレベルに設定されている。したがって、エンジンECU120がリセット状態になったとしても、バッテリ電圧がパワーマネージメントECU110のリセットレベル以上であればパワーマネージメントECU110は正常に動作することになる。
次に、上述のような構成のエンジン始動制御装置におけるスタータリレー50に対する電流供給について説明する。
この実施形態では、スタータリレー50に対する電流供給をエンジンECU120よりも低いリセットレベルを有する他のECUからも行うように構成されている。ここでは、他のECUをパワーマネージメントECU110とした場合について説明するが、エンジンECU120よりも低いリセットレベルを有するECUであれば、パワーマネージメントECU110以外であってもよい。
パワーマネージメントECU110の始動制御部112からは、電源切替部111から送られたエンジン始動要求信号STSWに応じて、スタータリレー50に対して駆動電流が供給される。ここで、パワーマネージメントECU110の始動制御部112は、エンジン始動要求信号STSWが継続している間は、エンジンECU120からのスタータオフ要求フラグ(後述するエンジンECU120のリセットにともなうフラグを除く)がない限り、スタータリレー50へ駆動電流を供給するが、エンジンECU120からのスタータオフ要求フラグがあれば、スタータリレー50に対する駆動電流の供給を停止する。これにより、エンジン始動完了後のスタータ40のオーバーランを回避できる。
そして、この実施形態では、パワーマネージメントECU110における電源切替部111から始動制御部112へ出力されるエンジン始動要求信号STSWの継続時間(出力時間)が変更可能になっている。つまり、パワーマネージメントECU110が生成するエンジン始動要求信号STSWの継続時間が変更可能になっている。これにともなって、パワーマネージメントECU110からの駆動電流の供給時間が一定ではなく、可変となる。この可変制御は、上記第1実施形態の図2のフローチャートと同様であるので、詳しい説明は省略する。
パワーマネージメントECU110が生成するエンジン始動要求信号STSWの継続時間は、バッテリ60におけるバッテリSOCに基づいて設定される。この際、例えば、図3に示すようなマップが参照される。そして、エンジンのクランキングの開始により、その継続時間の間だけ、パワーマネージメントECU110の電源切替部111で生成されたエンジン始動要求信号STSWが始動制御部112へ送られる。このエンジン始動要求信号STSWに基づいて、スタータリレー50に対して駆動電流が供給される。上述したように、エンジン始動要求信号STSWが継続している間は、パワーマネージメントECU110の始動制御部112は、エンジンECU120からのスタータオフ要求フラグ(後述するエンジンECU120のリセットにともなうフラグを除く)がない限り、スタータリレー50へ駆動電流を供給する。このため、スタータオフ要求フラグがなければ、その継続時間の間だけ、スタータリレー50への駆動電流の供給が行われることになる。
ここで、スタータ40は、エンジン停止状態からクランキングを行ってエンジンを始動させるために、大きな始動電流を必要とするので、バッテリ60におけるバッテリ電圧が大きく低下する。このとき、バッテリ60におけるバッテリ電圧が、パワーマネージメントECU110のリセットレベル以上であり、かつ、エンジンECU120のリセットレベルを下回ったとすると、エンジンECU120がリセット状態に陥る。一方、パワーマネージメントECU110は正常に動作するので、エンジン始動要求信号STSWのやりとりおよびスタータリレー50に対する電流供給は正常に行われる。したがって、エンジンECU120がリセット状態になったとしても、スタータリレー50に対する電流供給を中断せずに行うことが可能になり、クランキングを継続して行うことが可能になる。
ここで、バッテリ60のバッテリSOCが比較的小さい場合には、バッテリ電圧が比較的低く、エンジンが始動しにくくエンジン始動が完了するまでに時間をかなりの要する。この実施形態では、バッテリ60のバッテリSOCが小さい場合、バッテリSOCに応じてエンジン始動要求信号STSWの継続時間を長く設定するので、スタータリレー50に対する駆動電流の供給時間を長く確保でき、エンジン始動の完了前にクランキングが中止されることをできるだけ回避できる。
そして、スタータ40の回転にともなってエンジン始動負荷が軽減されていくと、バッテリ60のバッテリ電圧が上昇し、エンジンECU120のリセットレベル以上になると、エンジンECU120がリセット状態から復帰する。ところで、エンジンECU120のリセット状態からの復帰の際、エンジンECU120が初期化されると、エンジンECU120からパワーマネージメントECU110へスタータオフ要求フラグが出力されるおそれがあり、これにともなって、スタータリレー50に対する駆動電流の供給が停止される可能性がある。そこで、この実施形態では、エンジンECU120のリセットにともなうスタータオフ要求フラグをパワーマネージメントECU110が受けても、エンジン始動要求信号STSWが継続している間は、このエンジン始動要求信号STSWを優先させて、スタータリレー50に対する電流供給を継続して行うようにしている。これにより、エンジン始動が完了していないにもかかわらず、クランキングが中止されることを回避できる。
また、プッシュ式スタートシステムを採用したエンジン始動制御装置において、上述のように、エンジンの始動性を向上させるために、プッシュスイッチ30を繰り返し操作したり、プッシュスイッチ30を長時間操作(いわゆる長押し)する必要はなく、プッシュスイッチ30を1回短押しするだけでよい。したがって、操作性に極めて優れたエンジン始動制御装置を提供できる。しかも、新たなECU等を追加する必要がなく、既存の装置構成を用いることでこの実施形態のエンジン始動制御装置を実現でき、この場合、既存のECU(パワーマネージメントECU110、エンジンECU120等)の始動制御に関するプログラムの変更を行うだけで対応可能になる。
なお、この第2実施形態の変形例についても、上記第1実施形態の場合と同様の変形例が挙げられる。