以下、図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示、図7中符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを記録紙搬送方向(副走査方向)と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造例は後述するが(図3乃至図5)、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の送り方向(以下、記録紙搬送方向と記載)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域(印字可能領域の全幅)をカバーするフルラインヘッドがインク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは不図示の管路を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字部12の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色ごとに設けられている各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
図3(a) は印字ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b) はその一部の拡大図である。また、図3(c) は印字ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はインク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図3(a) 中の4−4線に沿う断面図)である。記録紙面上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、印字ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例の印字ヘッド50は、図3(a) 〜(c) 及び図4に示したように、インク滴が吐出するノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53(吐出素子)を千鳥でマトリックス状に配置させた構造を有し、これにより見かけ上のノズルピッチの高密度化を達成している。
即ち、本実施形態における印字ヘッド50は、図3(a) ,(b) に示すように、インクを吐出する複数のノズル51が印字媒体搬送方向と略直交する方向に印字媒体の全幅に対応する長さにわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルラインヘッドである。
また、図3(c) に示すように、短尺の2次元に配列されたヘッド50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、印字媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。
圧力室52の天面を構成している加圧板56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
また、アクチュエータ58は圧力室52内部の圧力変化を検出する圧力検出センサ(圧力検出手段)として用いることができる。詳細は後述するが、アクチュエータ58にはPZT 圧電素子などの電歪素子(電気機械変換素子)が用いられ、個別電極57に駆動信号を印加するとアクチュエータ58に発生した歪みに応じて加圧板56が変形し、圧力室52内のインクが吐出される。
一方、圧力室52の圧力変化によってアクチュエータ58(加圧板56)に歪み(変位)が生じると、アクチュエータ58はその変位に応じた電圧(電位差)を発生させる。共通電極55を基準電位としてこの電位差を個別電極57から取り出して圧力検出信号 (圧力検出情報)として利用すると、アクチュエータ58は圧力室52の圧力検出センサとして機能する。
かかる構造を有する多数のインク室ユニット53を図5に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に配列させた構造になっている。主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなる。
すなわち、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。以下、説明の便宜上、ヘッドの長手方向(主走査方向)に沿って各ノズル51が一定の間隔(ピッチP)で直線状に配列されているものとして説明する。
なお、用紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るラインを印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図5に示すようなマトリクスに配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。即ち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るラインの印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。但し、サーマルジェット方式を適用する場合には、圧力室52の圧力変化を検出する圧力検出手段(図5には不図示、図7に符号98として図示)を備える必要がある、
図6はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。
インク供給タンク60はインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図6のインク供給タンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図6に示したように、インク供給タンク60と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図6には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面の清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ64で覆う。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、アクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
このような状態になる前に(アクチュエータ58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)アクチュエータ58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ64(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、アクチュエータ58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合には印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル51内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yのアクチュエータを駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
また、ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられたメニスカス振動駆動指令に基づいて、ノズル51からインクを吐出させずにメニスカスを振動させる。
不図示のプログラム格納部には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。前記プログラム格納部はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。
なお、前記プログラム格納部は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
また、各圧力室52に備えられたアクチュエータ58は、印加される駆動信号に応じて当該圧力室内のインクに吐出力を与えるだけでなく、各圧力室52の圧力(圧力変化)に応じて圧力検出信号(電圧)を発生させる。
この圧力検出信号は検出回路90によってノイズ成分の除去、増幅など所定の信号処理を施された後にプリント制御部80に送られ、プリント制御部80では、圧力室52の圧力情報を得て、この圧力情報から当該インク室ユニット53の異常が判断される。
なお、アクチュエータ58に備えられた個別電極57は、アクチュエータ58の駆動信号印加電極として機能するだけでなく、圧力検出信号の出力電極としても機能する。したがって、ヘッドドライバ84からアクチュエータ58への信号は、符号92に示すように駆動信号と圧力検出信号とを共通の配線によって伝送し、駆動信号印加後の圧力検出信号を取得してもよいし、符号94(矢印付き破線で図示)に示すように、駆動信号と圧力検出信号とを別々の配線を用いて伝送し、駆動信号印加時から駆動信号印加後までの圧力検出信号を取得してもよい。
また、符号96(矢印付き一点破線で図示)は、アクチュエータ58とは別に圧力検出手段98を備えた場合の検出回路90と圧力検出手段98との間の信号の流れを示している。
〔吐出異常検出〕
次に、本インクジェット記録装置10の吐出異常検出ついて詳述する。
インクジェット記録装置10では、印字動作時にインクを吐出しない休止ノズルに対して、インクを吐出させない駆動信号(メニスカス振動駆動信号)を図4に示したアクチュエータ58に印加して動作させ、圧力室52の圧力を検出し、この圧力情報からノズル51、圧力室52及びアクチュエータ58を含んだインク室ユニット53の異常状態を判断する機能を有している。また、異常状態の検出と同時にノズル付近のインクを攪拌してインクの粘度上昇を防止する。
インク室ユニット53の異常には、ノズル51近傍のインクの粘度上昇、圧力室52内への気泡発生(気泡混入)、アクチュエータ58の故障などがあり、これらの異常が発生すると、好ましい吐出を行うことができなくなる。
先ず、アクチュエータ58に印加される駆動信号について説明する。なお、各ノズル51を有する圧力室52に備えられたアクチュエータ58に駆動信号を印加することを、単に「当該ノズルに駆動信号を印加する」と言うことがある。
図8(a) には、印字ヘッド50に備えられたノズル51のうち、印字(画像形成)のための吐出を行うノズル51に印加される吐出用駆動信号100を示し、図8(b) には、図8(a) に示した吐出用駆動信号100を印加したときに圧力室52に備えられた圧力検出手段(ここでは、アクチュエータ58を兼用)によって検出される圧力室52(圧力室52内のインク)の圧力波形(圧力検出信号波形)110を示している。
図8(a) では、横軸は時間、縦軸は電圧を示し、インクを吐出させるようにアクチュエータ58を動作させる方向の電圧を正(上側)方向とし、メニスカスの引き込み動作を行うようにアクチュエータ58を動作させる方向の電圧を負(下側)方向とする。
一般に、印字ヘッド50内や圧力室52内の圧力変動によるインク漏れを防止するために、メニスカス面をノズル51の内部に少し引き込んだ状態でメニスカスを静定させる。したがって、メニスカスの静定状態ではアクチュエータ58に負方向の電圧V0 が印加されている。
即ち、図8(a) に示した吐出用駆動信号100はメニスカス静定状態の印加電圧V0 (静定電圧)を基準とし、負方向に電圧V1 、正方向に電圧V2 の振幅を有するパルス信号である。なお、図8(a) には吐出用駆動信号100を1サイクル(1周期)だけ示している。但し、電圧非印加時 (即ち、V0 =0V)をメニスカス静定状態として電圧非印加時
を駆動電圧(駆動信号)の基準としてもよい。
吐出用駆動信号100はタイミングt1 からタイミングt2 の間では静定電圧V0 から引き込み電圧V1 まで負方向に電圧が変化し、所定の期間引き込み電圧V1 を保持した後に、引き込み電圧V1 から静定電圧V0 に電圧が変化する。
また、タイミングt2 からタイミングt3 の間は静定電圧V0 が保持され、タイミングt3 からタイミングt5 の間では静定電圧V0 から吐出電圧V2 まで正方向に電圧が変化し、タイミングt5 で吐出電圧V2 になると所定の期間吐出電圧V2 を保持した後に吐出電圧V2 から静定電圧V0 に向かって電圧が変化し、タイミングt4 静定電圧V0 になる
。
言い換えると、吐出用駆動信号100の波形は負方向の台形波形(引き込み方向駆動信号)102と正方向の台形波形(吐出方向駆動信号)104を組み合わせた波形となっている。なお、図8(a) に示すTは吐出周期(タイミングt1 からタイミングt4 の間の時間)を示し、一般に、該吐出周期T(吐出周波数1/T)は圧力室52(圧力室52内のインク)の時定数の共振周期(共振周波数)に設定すると、インクの吐出及び該吐出後のリフィルを効率よく行うことができる。
ここで、吐出用駆動信号100の負方向及び正方向の最大振幅V1 及びV2 は同じ電圧としてもよいし、異なる電圧としてもよい。
図8(a) に示す吐出用駆動信号100をアクチュエータ58に印加すると、アクチュエータ58が動作して圧力室52を加圧する。一方、アクチュエータ58は圧力室52の圧力に応じた電圧を出力する圧力検出手段として機能させることができ、図8(b) に示す圧力波形110を得ることができる。
圧力波形110では、インクを吐出させる圧力の方向を正(上側)方向とし、メニスカスをノズル51内部に引き込む圧力の方向を負(下側)方向とする。また、圧力波形110は、メニスカス静定時の圧力P0 (静定圧力)を基準として表されている。
引き込み方向駆動信号102が印加されるタイミングt1 からタイミングt2 の間では、メニスカスの引き込み動作が行われ、静定圧力P0 から引き込み圧力P1 まで負方向に圧力室52の圧力が増加する。但し、吐出用駆動信号100の変化に対して圧力室52の圧力の変化は時間遅れが生じるため、タイミングt2 では静定圧力P0 にはならず、タイミングt2 から遅れたタイミングt3 で静定圧力P0 になる。
また、吐出方向駆動信号104が印加されるタイミングt3 からタイミングt4 の間では静定圧力P0 から吐出圧力P2 まで正方向に圧力室52の圧力が増加し、吐出方向駆動信号104が吐出電圧V2 になるタイミングt5 ではインクが吐出される。
更に、タイミングt5 から遅れたタイミングt5'で圧力室52の圧力が吐出圧力P2 になり、タイミングt5'から圧力室52の圧力が減少し、タイミングt5'から吐出方向駆動信号の1サイクルの終端であるタイミングt4 よりも遅れたタイミングt4'で圧力室52の圧力は静定圧力P0 になる。
ここで、圧力室52の圧力波形110の持つ周期T’は吐出周期Tよりも圧力室52(圧力室52内のインク)の遅れ分だけ長くなる。この圧力室52の圧力の吐出用駆動信号100に対する時間遅れは、圧力室52の持つ時定数(共振周波数)やインクの持つ時定数などに起因する。
図8(b) に示すように、タイミングt4'以降も圧力室52及び圧力室52内に収容されているインクの過渡現象によって、圧力室52の圧力は直ちに静定圧力P0 に収束せず、1〜数サイクルの減衰振動の後に静定圧力P0 に収束する。図8(b) に示す圧力波形110は1サイクルの減衰振動の後に静定圧力P0 に収束している。
図9(a) には、従来技術に係るメニスカス振動駆動信号120を示し、図9(b) には、図9(a) に示したメニスカス振動駆動信号120を印加したときに得られる圧力室52の圧力波形130を示している。なお、図9中、図8と同一または類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図9(a) に示すように、従来技術に係るメニスカス振動駆動信号120は、吐出周期Tと略同一周期を有し、負方向及び正方向にそれぞれ電圧V3 及び電圧V4 の振幅を有するパルス信号となっている。
メニスカス振動駆動信号120は、引き込み方向にメニスカスを移動させるタイミングt1 〜タイミングt2 では、静定電圧V0 から負方向に電圧V3 (負方向振動駆動電圧)まで電圧を変化させ、吐出方向にメニスカスを移動させるタイミングt3 〜タイミングt4 では、静定電圧V0 から正方向の電圧V4 (正方向振動駆動電圧)まで電圧を変化させる。
ここで、負方向振動駆動電圧V3 の絶対値は、図8(a) に示した引き込み方向駆動電圧V1 の絶対値よりも小さくなる。また、正方向振動駆動電圧V4 は図8(a) に示した吐出電圧V2 よりも小さくなる。即ち、V1 〜V4 の関係は、|V3 |<|V1 |(V1 <V3 )、V4 <V2 となる。
図9(a) に示すメニスカス振動駆動信号120を印加すると、図9(b) に示すようにメニスカス振動駆動信号120にほぼ同期して、圧力波形130は、タイミングt1 からタイミングt2 を経てタイミングt3 では静定圧力P0 から負方向に負方向振動圧力P3 まで変化した後に負方向振動圧力P3 から静定圧力P0 まで変化する。
また、圧力波形130は、タイミングt3 〜タイミングt4 では、静定圧力P0 から正方向に正方向振動圧力P4 まで変化した後に正方向振動圧力P4 から静定圧力P0 まで変化する。なお、図8に示した吐出用駆動波形と同様に、圧力波形130の持つ周期T’は吐出周期Tよりも圧力室52(圧力室52内のインク)の圧力変化の遅れ分だけ長くなる。
このようにして、図9(a) に示したメニスカス振動駆動信号120を印加すると、静定状態を基準として引き込み方向及び吐出方向にメニスカスを振動させることができ、このメニスカス振動に応じて圧力室52の圧力は静定圧力P0 を基準として負方向振動圧力P3 から正方向振動圧力P4 まで変化する。
但し、吐出方向にメニスカスを移動させる際にノズル51からインク滴を吐出させないように正方向振動駆動電圧V4 が設定され、正方向振動圧力P4 はノズル51からインクが吐出しない圧力となる。
なお、図9(a) に示すメニスカス振動駆動信号120の波形は、図8に示した吐出用駆動信号100の波形と相似形になる態様を例示したが、これ以外にも、吐出用駆動信号100の波形と相似形にならない波形を持つパルス信号を適用してもよいし、図10(a) に示すような高周波パルス信号を適用してもよい。また、台形波形でなく矩形波形を有するパルス信号を適用してもよい。
図10(a) は、従来技術に係る高周波パルス信号を適用したメニスカス振動駆動信号140である。図10(a) に示したメニスカス振動駆動信号140は、吐出周期Tよりも十分短い周期T1 を有し、また、静定電圧V0 を基準として、負方向(引き込み方向)に電圧V5 、正方向(吐出方向)に電圧V6 の振幅を有している。
また、図10(b) には、図10(a) に示したメニスカス振動駆動信号140を印加したときの圧力室52の圧力波形150を示している。
図10(b) に示すように、メニスカス振動駆動信号140に高周波パルス信号を適用すると、メニスカス振動駆動信号140の最大振幅に対して圧力波形150の最大振幅が小さくなるので、ノズル51からインクを吐出させることなくメニスカスを振動させることができる。
即ち、圧力室52の圧力変化がメニスカス振動駆動信号140の電圧変化に追従できず、圧力室52の圧力が最大圧力(最大振幅)に達する前にメニスカス振動駆動信号140の電圧が圧力室52の圧力の変化する方向と反対方向に変化しまうために、圧力室52の圧力が印加電圧に対応した圧力まで変化することができない。このような現象によって、メニスカス振動駆動信号140に高周波信号を適用した場合、圧力室52の引き込み方向圧力P5 及び吐出方向圧力P6 は、電圧V5 及びV6 を印加したときの圧力に比べて小さくなる。
ここで、メニスカス振動では、メニスカスをノズル51内部の所定の範囲内を移動させてもよいし、メニスカスがノズル51の外部に吐出してもノズル51内の液柱からちぎれないようにノズル51の外部を含んだ範囲でメニスカスを移動させてもよい。
また、メニスカス振動によってノズル51内のインクを効果的に攪拌するには、メニスカスの移動量(メニスカス振動の振幅)を大きくするとよい。また、ノズル51内のインクを効果的に攪拌するためにメニスカス振動の回数を多くしてもよい。
しかしながら、メニスカス振動駆動信号に高周波パルス信号を用いると、駆動系が吐出用のものと別になり、また、高周波パルス信号は設計が困難であるだけでなく、設計どおりの信号を生成することも困難である。更に、圧力室の共振周波数とメニスカス振動駆動信号の周波数が大きく異なるので、実際にはメニスカス振動駆動信号とインクの振動周波数とが大きく異なるので、所望の攪拌効果を得ることが難しい。
次に、圧力室52内に気泡が発生した場合やノズル近傍のインクの粘度が上昇した場合などに起こる圧力室52の異常状態(圧力異常)について説明する。
図11(a) には、図9(a) に示した従来技術に係るメニスカス振動駆動信号120を示し、図11(b) には, 図9(b) に示した正常時の圧力室52の圧力波形130を示す。また、図11(c) 、(d) には、異常状態の圧力室52の圧力波形160及び162を示す。
図11(c) に示す圧力室52の圧力波形160は、圧力室52内のインクに気泡が発生した場合の圧力室52の圧力変化を示している。圧力室52内のインクに気泡が発生すると、該気泡によって圧力室52の共振周期がT’からT”に変化し、更に、吐出方向では圧力室52内のインクに発生した気泡によって圧力室52に圧力損失が発生するために、アクチュエータ58から圧力室52内のインクに所定の圧力を付加しても、検出される圧力室52の圧力は所定の圧力P4 より小さいP7 となる。
即ち、図11(c) に示す状態では、アクチュエータ58から圧力室52内のインクに所定の圧力を付加しても、圧力室52内の圧力損失の影響を受けて、当該ノズルに吐出異常が発生し得る。
なお、本例では、メニスカス引き込み時には圧力損失の影響を受けない態様を示したが、メニスカス引き込み時にも圧力損失の影響を受け、メニスカスを所定量だけ引き込むことができない場合がある。
図11(d) に示す圧力室52の圧力波形162は、図11(c) に示す圧力波形160よりも圧力損失が大きい場合(例えば、図11(c) よりも圧力室52内のインクに発生した気泡の量が多い場合)を示している。
図11(d) に示す圧力室52の圧力波形162は吐出方向の圧力が静定圧力P0 から変化していない。これは、圧力室52に与えられる吐出方向の圧力とほぼ同一の圧力損失があり、吐出方向には圧力が与えられないことと等しい状態である。
即ち、図11(d) に示す状態では、吐出方向における圧力室52の圧力がP0 から変化しないために、アクチュエータ58から圧力室52のインクに所定の圧力を付加しても、インクが吐出されない不吐出が起こり得る。
上述したように、メニスカス振動駆動信号120、140に対する圧力室52の圧力を検出し、その圧力波形130、150の周期、振幅等から当該ノズルの不吐出及び吐出異常を検出することができる。
なお、メニスカス振動駆動波形120を印加した後の圧力波形160’、162’から圧力室52の圧力異常を検知することも可能である。
しかしながら、図9(a) 、図10(a) に示すメニスカス振動駆動信号120、140では、吐出方向へメニスカスを移動させるので、温度変化やヘッド内の内圧変化によって、誤ってノズル51からインク滴を吐出させてしまう恐れがある。したがって、メニスカス振動駆動信号120、140は電圧の振幅を十分に小さくしなければならない。
一方、メニスカス振動駆動信号120、140の電圧の振幅が小さい場合には、圧力室52の圧力変化も小さくなり、圧力検出信号130、150のS/N 比が低くなる。
そのために、好ましい圧力波形を得ることができず、圧力室52の圧力検出が困難になる。また、メニスカスを十分振動させることができず、更に、メニスカス振動によるインクの粘度上昇抑制効果を十分に得られないことがあり得る。
このように、従来のメニスカス振動技術では、インクを吐出させないでメニスカス振動を行うために吐出用駆動信号より振幅の小さい駆動信号を用いたり、高周波による駆動を行ったりしてきた。一方、異常検出においては、検出信号の精度を上げるために検出用入力信号(本例のメニスカス振動駆動信号に相当)はできるだけ大きな振幅を有する信号が好ましい。これらの要件を両立させることは非常に困難である。
また、アクチュエータ58の故障によって所定の圧力を圧力室52に与えることができない場合にも、圧力室52の圧力異常として検出することができる。もちろん、アクチュエータ58を圧力検出手段として用いる場合やアクチュエータ58とは別に圧力検出手段98を備えた場合の該圧力検出手段98の故障も検知可能である。
即ち、圧力室52の圧力波形130、150から当該インク室ユニット53の異常を検出することが可能であり、このインク室ユニット53の異常が発生すると、好ましいインク滴の吐出が行われないことがあり得る。したがって、圧力室52の圧力波形130、150から吐出異常を判断することが可能である。
本インクジェット記録装置10では、図9(a) 、図10(a) に示した、従来技術に係るメニスカス振動駆動信号120、140に代わり、図12(a) に示す、メニスカス振動駆動信号200が用いられる。
図12(a) には、本発明に係るメニスカス振動駆動信号200を示す。メニスカス振動駆動信号200は、引き込み方向にメニスカスを移動させる負方向の電圧V10を有し、連
続する2つのパルス信号202、204を備えており、その波形は負方向にW形状となっている。また、パルス信号202及びパルス信号204の周期は吐出周期(共振周期)Tの1/2である。
なお、負方向の最大電圧V10は、図9(a) に示す、メニスカス振動駆動信号120の負方向の最大電圧V3 や、図10(a) に示す、メニスカス振動駆動信号140の負方向の最大電圧V5 に比べて絶対値が大きな電圧を用いることができる。
言い換えると、メニスカス振動駆動信号200は、メニスカス引きこみ方向への駆動パルス信号202と、これに続く吐出周期 (共振周期)Tの1/2だけ間隔をおき(即ち、T/2の周期を持って)、同じく引き込み方向への駆動パルス信号204によって構成され、メニスカスは引き込み方向のみの駆動を得ることになる。
本例では、駆動パルス信号202と駆動パルス信号204を同一波形のパルス信号としたが、振幅や傾きが異なる波形を適用してもよい。
図12(b) 〜(d) は、図12(a) に示したメニスカス振動駆動信号200を印加したときの圧力室52の圧力波形220、222、224を示している。
図12(b) に示した圧力波形220は正常時の圧力波形を示している。先ず、パルス信号202によってメニスカスを引き込み方向に移動させると、静定圧力P0 から負方向に電圧V10に対応した圧力P10(引き込み方向最大圧力)まで変化し、その後、圧力室の圧力は引き込み方向最大圧力P10から静定圧力P0 に変化する。
ここで、更に、引き込み方向への駆動パルス信号204が印加されると、過渡現象により吐出方向に移動しようとするメニスカス(破線で図示した符号220’)に引き込み方向に移動させる圧力が与えられ、メニスカスを直ちに静定位置に停止させることができる。なお、このときの圧力室52の圧力は静定圧力P0 になる。
即ち、メニスカス引きこみ方向への駆動パルス信号202と、それに続く吐出周期の1/2だけ間隔をおき、同じく引き込み方向への駆動パルス信号204によって、メニスカス振動駆動信号200を構成することにより、圧力室52内の振動を効果的に制振し、ノズル51からのインク滴の吐出を防止する。
一方、図12(c) に示す圧力波形222は、圧力室52内のインクに気泡が発生する等の異常状態における圧力波形を示す。
図12(c) に示す異常状態では、共振周期の変化が起こることが多く、共振周期の変化が起こると制振効果の減少となって圧力波形222に現れる。
即ち、引き込み方向への駆動パルス204を印加しても、図12(b) に示すようにメニスカスが静定位置に停止せず、圧力波形222には、図12(c) に示すような過渡現象による残留振動222’が起こる。
また、図12(d) に示した圧力波形224は、図12(c) に示した異常時の圧力波形222の残留振動222’よりも、振幅が大きい残留振動224’を有している。これは制振効果が更に減少している場合であり、図12(c) に示す異常状態よりも圧力損失が大きい(異常状態の程度が高い)と考えられる。
このようにして、圧力室52の圧力を検出して得られた圧力検出信号インク室ユニット53の異常を検出し、吐出異常の有無及び吐出異常の状態を容易に把握することができる。また、吐出時の駆動により近い振幅、周期で駆動でき、より大きい攪拌効果を得ることができる。
ここで、圧力室52及び圧力室52内のインクの圧力異常は、圧力室52内のインクに気泡が発生する場合 (圧力室52に気泡や異物が混入する場合)や、メニスカス近傍のインクの粘度上昇が起こる場合などに起こり得る。したがって、圧力室52の圧力異常を検出することで、これらに起因する不吐出や吐出異常を発見することが可能である。
本例では、2つの連続する波形から成るメニスカス駆動信号200を示したが、メニスカス駆動信号200をn個(但し、n≧3)の連続する波形から構成してもよい。なお、nが偶数となる態様が好ましい。
また、休止ノズルに対して図12(a) に示したメニスカス振動駆動信号200を与える態様は、休止期間中には吐出周期の1/2の間隔で連続的にメニスカス振動駆動信号200を与えてもよいし、所定の周期(例えば、圧力検出のタイミングごと等)で間欠的にメニスカス振動駆動信号200を与えてもよい。
印字ヘッド50を複数のブロックに区分けして、ブロックごとにメニスカス振動駆動信号200を与えてもよい。また、メニスカス駆動信号200を与える時間は、ブロックごとに同一時間としてもよいし、各ブロックに含まれるノズル数(休止ノズル数)に応じて変えてもよい。
なお、メニスカス振動駆動信号200は休止期間内に少なくとも1回(1サイクル)与えればよい。
また、各ノズルの休止期間を求め、求められた各ノズルの休止期間が予め定められた期間よりも長い休止期間をもつノズル対してメニスカス振動駆動信号を与えてもよい。各ノズルの休止期間は休止時間算出手段によって画像データから算出(予測)してもよいし、各ノズルの稼動実績を記録してこの稼動実績から求めてもよい。
次に、本インクジェット記録装置10に備えられた吐出異常検出手段について詳述する。
図13は、本インクジェット記録装置10に備えられた吐出異常検出手段の構成を示すブロック図である。
図13に示すように、印字ヘッド50が有するノズルのうち、図13の上側の圧力室52Aに収容されたインクを吐出するノズル51Aは印字実行時に吐出を行うノズルであり、図13の下側の圧力室52Bに収容されたインクを吐出するノズル51Bは印字実行時に吐出を行わない休止ノズルである。
プリント制御部80は、インクの吐出を行うノズル51(例えば、図13のノズル51A)を有する圧力室52(例えば、図13の圧力室52A)に備えられたアクチュエータ58(例えば、図13のアクチュエータ58A)には吐出用駆動信号(例えば、図8(a) に示す吐出用駆動信号100)を印加し、一方、吐出を行わないノズル51(例えば、図13のノズル51B)を有する圧力室52(例えば、図13の圧力室52B)に備えられたアクチュエータ58(例えば、図13のアクチュエータ58B)にはインクを吐出しない駆動信号である検出用駆動信号(例えば、図12(a) に示すメニスカス振動駆動信号200)を印加するようにヘッドドライバ84に指令信号を送出する。
ヘッドドライバ84には、吐出用駆動信号を発生させる吐出用駆動信号発生回路300及び検出用駆動信号を発生させる検出用駆動信号発生回路302を備え、プリント制御部80から送られる指令信号に従って、吐出を行うノズルには吐出用駆動信号が印加され、一方、休止ノズルには検出用駆動信号が印加されるように制御され、該休止ノズルを有する圧力室52内の圧力変化を検出するために、当該アクチュエータ58から検出回路90へ圧力検出信号が送られる。
即ち、ノズル51Aは印字のための吐出が行われるので、図13に示したスイッチS11がオンになり、ノズル51Aを有する圧力室52Aに備えられたアクチュエータ58Aには吐出用駆動信号発生回路300から吐出用駆動信号が印加される。
また、アクチュエータ58Aには検出用駆動信号が印加されないようにスイッチS12はオフになる。なお、吐出が行われるノズル51Aでは圧力室52Aの圧力検出を行わないので、アクチュエータ58Aと検出回路90とを接続させるスイッチS13はオフになる。
一方、休止ノズル51Bでは、スイッチS21がオフ、スイッチS22がオンになり、検出用駆動信号発生回路302からアクチュエータ58Bに検出用駆動信号が印加され、スイッチS23がオンになり、アクチュエータ58Bから検出回路90へ圧力検出信号が送られ、圧力室52Bの圧力変化が検出される。
検出回路90で所定の信号処理が施された圧力検出信号はプリント制御部80に送出され、プリント制御部80では、圧力検出信号(圧力波形)から吐出異常の有無を判断し、吐出異常と判断されると、パージや吸引などのメンテナンスを行うように制御が行われる。
ここで、アクチュエータ58には駆動信号を印加すると該駆動信号に応じて圧力室を変形させると共に、圧力室の変形(圧力変化)に応じた電圧を発生させるPZT アクチュエータが適用される。したがって、アクチュエータ58には、圧力室52の圧力変化に応じた変位(歪み)が発生し、また、圧力室の変位(圧力変化)に比例した電圧である圧力検出信号(例えば、図12(b) 〜(d) に示す符号220、222、224)を図4に示した共通電極55及び個別電極57間に発生させる。
図12(a) に示すメニスカス振動駆動信号200印加後に、個別電極57からこの圧力検出信号を取得し、残留圧力の波形の振幅、周期を観測することによりインク室ユニット53の異常検出し、この検出結果から吐出異常を判断することができる。
本例では、圧力室52の圧力検出に圧電素子駆動時(メニスカス振動駆動信号200)の両極間電圧を測定する態様を示したが、圧電素子の両極間電圧測定に代わり、圧電素子のインピーダンスを測定してもよいし、圧電素子駆動時の電流 (電流波形)を測定してもよい。もちろん、メニスカス振動駆動信号200を印加した後の該圧電素子の電圧、電流、インピーダンスを測定してもよい。
また、圧力室52内における圧力はメニスカス振動駆動信号200が印加されるタイミングから遅れを生じて伝搬されるので、メニスカス振動駆動信号200を印加した後(メニスカス振動駆動信号200終了後)に圧電素子の両極間の電圧、電流、インピーダンスを測定してもよい。
なお、図14に示すように、アクチュエータ58とは別に、圧力室52の圧力変化を検出する圧力検出手段98を備えてもよい。圧力検出手段98には圧力室52内の圧力変化によって検出素子の変位を電流または電圧に変化する圧電素子や歪みゲージ (ストレンゲージ等)などの電歪素子(機械電気変換素子)を用いることができる。
圧力検出手段98をアクチュエータ58と別に備えることで、圧力検出手段には機械的な力を電気信号に変換する機械電気変換効率が高い電歪素子を用いることができる。また、アクチュエータ58には電気機械変換効率が高い電歪素子を用いることができる。
このような構成では、圧力室52の圧力検出の効率、感度を上げることができ、また、吐出効率を維持できる。
図14に示す態様では、印字のための吐出を行うノズル51A(圧力室52A)には吐出用駆動電圧が圧力室52Aに備えられているアクチュエータ58Aに印加されるように、アクチュエータ58Aと吐出用駆動信号発生回路300との間に設けられたスイッチS11がオンになり、アクチュエータ58Aと検出用駆動信号発生回路302との間に設けられたスイッチS12及び、圧力検出手段98Aと検出回路90との間に設けられたスイッチS13がオフになるように制御される。
一方、休止ノズル51B(圧力室52B)では、アクチュエータ58Bと吐出用駆動信号発生回路300との間に設けられたスイッチS21がオフになり、アクチュエータ58Bと検出用駆動信号発生回路302との間に設けられたスイッチS22及び、圧力検出手段98Bと検出回路90との間に設けられたスイッチS23がオンになるように制御される。
図13及び図14には、吐出行うノズルと休止ノズルに与える駆動信号の切り換えをヘッドドライバ84内に設けられたスイッチS11〜スイッチS23に示した切り換え手段を用いて行う態様を例示したが、該切り換え手段はヘッドドライバ84の外部に設けてもよい。
また、該切り換え手段に代わり、吐出用駆動信号発生回路300と検出用駆動信号発生回路302の信号出力部を共通化し、イネーブル信号やソフトウエア上で何れの駆動信号を出力するかを切り換えてもよい。
一方、アクチュエータ58及び圧力検出手段98と検出回路90との間の切り換え手段(例えば、図13及び図14のスイッチS13、S23)を省略し、アクチュエータ58及び圧力検出手段98から検出回路90へは常に圧力検出信号を送出し、圧力検出が行われるタイミングに合わせて検出回路90からプリント制御部80へ圧力検出信号を送出するように制御してもよい。
なお、休止ノズルに対応する圧力室の圧力を検出するタイミングは、検出用駆動信号入力中は常に圧力室の圧力を検出してもよいし、所定の時間間隔で(所定のサンプリング信号に同期して)圧力室の圧力を検出してもよい。また、検出用駆動信号を入力するタイミング等の特定のタイミングで圧力室の圧力を検出してもよい。
即ち、複数のサンプリング信号(例えば、常時サンプリングを行うサンプリング信号と所定のタイミングでサンプリングを行うサンプリング信号)を備え、これらのサンプリング信号を選択するサンプリング信号選択手段を備えてもよい。
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10では、印字のための吐出を行わない休止ノズルには、メニスカス振動駆動信号200を印加し、メニスカス近傍のインクの粘度上昇を抑制すると共に、当該休止ノズルに対応する圧力室52内の圧力変化を検出し、該圧力室52の圧力波形 (圧力情報)から、圧力室52内の気泡発生などによるインク室ユニット53の異常を判断する。更に、インク室ユニット53の異常から吐出異常を判断することができるので、休止ノズルではプリント時(印字実行時)に同時に異常検出を行うことができ、異常検出動作に時間がかかってもプリントできないデッドタイムが生じない。また、多数のノズルを有する印字ヘッドでもプリント能力の低下を防止することができる。
更に、吐出しない(即ち、吐出異常が起こる可能性が高い)ノズルに対して異常検出を行うため、特に、ノズルが多い場合には異常検出の効率を上げることができる。
一方、メニスカス振動駆動信号200は、メニスカス引きこみ方向へのパルス信号202と、それに続く吐出における共振周期の1/2だけ間隔をおき、同じく引き込み方向へのパルス信号204によって構成されるので、圧力室52の振動を効果的に抑制し、メニスカス振動駆動信号200印加時のノズル51からのインク滴吐出を防止する。
本実施形態では液滴の吐出ヘッドとしてインクジェット記録装置に用いられる印字ヘッドを例示したが、本発明は、ウエハやガラス基板、エポキシなどの基板類等の被吐出媒体上に液類(水、薬液、レジスト、処理液)を吐出させて画像、回路配線、加工パターンなどの形状を形成させる液吐出装置に用いられる吐出ヘッドにも適用可能である。
10…インクジェット記録装置、50…印字ヘッド、51,51A,51B…ノズル、52,52A,52B…圧力室、58,58A,58…アクチュエータ、80…プリント制御部、84…ヘッドドライバ、90…検出回路、98…検出手段、200…メニスカス振動駆動信号、302…検出用駆動信号発生回路