以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示,図7中符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造例は後述するが(図3乃至図5)、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の送り方向(以下、副走査方向という。)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは不図示の管路を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
〔ヘッドの構造〕
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色ごとに設けられている各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
図3(a) は印字ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b) はその一部の拡大図である。また、図3(c) は印字ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はインク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図3(a) 中の4−4線に沿う断面図)である。記録紙面上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、印字ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例の印字ヘッド50は、図3(a) 〜(c) 及び図4に示したように、インク滴が吐出するノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリックス状に配置させた構造を有し、これにより見かけ上のノズルピッチの高密度化を達成している。
即ち、本実施形態における印字ヘッド50は、図3(a) ,(b) に示すように、インクを吐出する複数のノズル51が印字媒体(記録紙16)送り方向と略直交する方向に印字媒体の全幅に対応する長さにわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルラインヘッドである。
また、図3(c) に示すように、短尺の2次元に配列された印字ヘッド50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、印字媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、その底面の隅部のうち1つの隅部にはノズル51が設けられている。また、ノズル51が設けられている隅部の対角線上の隅部を含む一辺には、圧力室52と略同一幅を有し、共通流路(液体供給路)55の上部に位置する供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。
なお、圧力室52の平面形状は概略正方形に限定されず、例えば、長方形やひし形、平行四辺形でもよいし、四角形以外の多角形や円、だ円などでもよい。
圧力室52の天面を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)56には個別電極57を備えたアクチュエータ58(加圧手段)が接合されている。個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。なお、アクチュエータ58には、ピエゾ素子などの圧電体が好適に用いられる。インク吐出後、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
図4に示すように、本例のノズル51は、ノズル開口部51Aの近傍に位置し、ノズル開口部51Aと同一直径を持つ管路を含んだノズル細管部51Bと、ノズル細管部51Bよりも管路の直径が大きくノズル細管部51Bと圧力室52との間に位置するノズル太管部51Cと、を有している。
図4に示す符号のうち、Ln1はノズル太管部51Cの流路長、Ln2はノズル細管部51Bの流路長、Lsは供給口54の流路長を表している。また、Dn1はノズル太管部51Cの直径、Dn2はノズル細管部51Bの直径、Dsは供給口54の幅方向の一辺の長さを表している。なお、供給口54のインク流の方向と直交する面の断面形状が円の場合には、Dsは供給口54の直径を表す。
詳細は後述するが、インク室ユニット53は、ノズル51の断面積An(ノズル開口部51Aの断面積或いは、ノズル細管部51Bの断面積An2、ノズル太管部51Cの断面積An1、但し、ここで言う断面積はインク流方向に略直交する面の断面積)よりも供給口54の断面積As(図9中、斜線で図示、但し、ここで言う断面積はインク流方向に略直交する面の断面積)が大きい構造(即ち、An<Asの関係を満たす構造)を有している。図4に示す態様では、供給口54の断面積Asは圧力室52の底面の面積の略1/2となっている。
言い換えると、インク室ユニット53は、ノズル51のイナータンスMnと供給口54のイナータンスMsとの関係が、Mn>Msを満たすような構造を有している。このような構造を持つことで、一般的なインクよりも高い粘度を持った高粘度インクを用いる場合にも所定の吐出周波数を維持することができ、安定したインク滴吐出が可能になる。
本例では、ノズル細管部51Bの太さ(直径)が均一な態様を示したが、ノズル細管部51Bの管路径が圧力室52側からノズル開口部51A側に向かって一定の割合で小さくなるテーパ形状を有していてもよいし、ノズル細管部51Bとノズル太管部51Cとの太さが同一でもよい。更に、ノズル細管部51B及びノズル太管部51Cの太さと異なる太さの流路を備えてもよい。
なお、本実施形態では、ノズル開口部51Aや細管部51Bを単にノズル51と呼ぶことがある。また、ノズル開口部51Aから太管部51Cまでを含めて、ノズル開口部51Aから圧力室52までの流路全体をノズル51と呼ぶこともある。
本例で言う供給口54は、単に圧力室52と供給側の境界面に設けられた開口部だけでなく、供給側流路の断面積が最小となる部分を示している。この供給側流路の断面積が最小となる部分には、供給側の絞りとして機能するインク供給側流路(管路)が含まれている。なお、供給側流路の詳細は後述する。
即ち、ノズル51や供給口54は、それぞれ吐出側流路及び供給側流路の絞りとして機能する開口部、管路、溝など流体抵抗やイナータンス算出の基礎となる流路を意味する。この絞り機能を有する流路は複数の流路から構成されていてもよいし、1つの流路の一部であってもよい。
かかる構造を有する多数のインク室ユニット53を図5に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に配列させた構造になっている。主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなる。
すなわち、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。以下、説明の便宜上、ヘッドの長手方向(主走査方向)に沿って各ノズル51が一定の間隔(ピッチP)で直線状に配列されているものとして説明する。
なお、用紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを主走査と定義する。
特に、図5に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。即ち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)、記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、主走査方向に沿う行方向及び副走査方向に沿う列方向にノズルを並べる配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
本実施形態では、印字媒体送り方向と略直交する方向に印字媒体の全幅に対応する長さにわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルラインヘッドを示したが、本発明適用範囲はこれに限定されず、印字媒体の全幅よりも短い長さの短尺ヘッドを印字媒体の送り方向と直交する主操作方向に移動しながら、印字媒体の幅方向に沿ったドット列を形成するシリアル型(シャトルスキャン型)ヘッドにも適用可能である。
また、本実施形態では1層の圧電体層を有する単層圧電素子を示したが、本発明は2層以上の圧電体層が積層された多層圧電素子に適用してもよい。
本実施形態では、加圧板56と共通電極が兼用される態様を示したが、加圧板56と共通電極とを別々に備えてもよい。加圧板56と共通電極とを別々に備える態様では、加圧板56に金属材料などの導電性材料を用いる場合には加圧板56と共通電極との間に絶縁層が設けられる。
〔インク供給系の構成〕
図6はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。
インク供給タンク60はインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少な
くなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図6のインク供給タンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図6に示したように、インク供給タンク60と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図6には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面の清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ64で覆う。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、アクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
このような状態になる前に(アクチュエータ58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)アクチュエータ58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ64(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、アクチュエータ58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合には印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66を
ノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル51内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
〔制御系の説明〕
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部(駆動制御手段)80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。
画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
画像メモリ74には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、画像メモリ74は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。画像メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバである。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号(駆動信号)を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色のヘッド12K,12C,12M,12Yの圧電素子を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、画像メモリ74に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データが画像メモリ74に記憶される。
画像メモリ74に蓄えられた画像データは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてインク色ごとのドットデータに変換される。即ち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをKCMYの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yのアクチュエータを駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
プログラム格納部(不図示)には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。前記プログラム格納部はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。
なお、前記プログラム格納部は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行う。
なお、図1に示した例では、印字検出部24が印字面側に設けられており、ラインセンサの近傍に配置された冷陰極管などの光源(不図示)によって印字面を照明し、その反射光をラインセンサで読み取る構成になっているが、本発明の実施に際しては他の構成でもよい。
〔インク室ユニットの詳細構造〕
次に、図4に示したインク室ユニット53の構造について詳説する。
印字ヘッド50は、圧力室52の圧縮性(コンプライアンス)とノズル51及び供給口54を含む供給側流路の慣性(イナータンス)との共振を利用して引き打ちを行うことで、所定の吐出周波数が得られるように構成されている。
一般的に用いられるインクよりも高い粘度持った高粘度インクを吐出させるときには、上述した共振が早く減衰してしまうので、共振が減衰しないうちに引き押し吐出を行うように共振周波数を高くする必要がある。
また、高粘度インクを用いる際に、安定した吐出を得るために吐出時にインクに与える圧力を大きくすることがある。吐出時にインクに与える圧力を大きくすると圧力室52の体積変化量が大きくなり、吐出されるインク滴サイズが大きくなる。したがって、このように吐出圧力だけを大きくする必要がある場合には、吐出させるインク滴サイズを小さくすることができなくなる。
本例に示すインク室ユニット53は高粘度インクを用いる場合にも所定の吐出周波数が得られる構造を有し、アクチュエータ58を吐出方向に駆動させると、ノズル51から吐出されるインクの量よりも供給口54を介して共通流路55へ排出されるインクの量の方が大きくなるように構成されるので、高粘度インクを用いる場合でも小さいサイズのインク滴を吐出させることが可能になる。
ここで、一般的なインクジェット記録装置の印字ヘッド(インクジェットヘッド)の形状の一例を挙げると、圧力室52は、たて700μm、横700μm、高さ150μm、ノズルは、直径30μm、管路長40μm 、供給口は、40μm×40μmの正方形の断面形状を有し、供給口54の流路長100μmである。なお、ここでは、説明を簡単にするために、ノズルは、図4に示した、太管部51Cと細管部51Bとの直径及び流路長が等しい構造とする。
インクの粘性によってノズル51におけるインクの振動が静定した状態から駆動させた際の時間を0とし、駆動させた後に他の駆動がかからないような際に1/c間で振幅が減衰するまでの時間をTd、共振周期の半分(引き押し吐出効果が最も大きい引き押し吐出の時間間隔)をTm とすると、Td>Tmの条件を満足する場合に引き押し吐出の効果がある。
上記形状を有する一般的なインク室ユニットでは、インクの粘度が18cP(1.8×10-2Pa・s)以下のときのこの関係が成り立つことになる(引き押し吐出の効果を得ることができる)。
言い換えると、インクの粘度が18cPを超える場合には、上記の形状を有するインク室ユニットでは引き押し吐出の効果を得ることは難しい。
本インクジェット記録装置10では、20〜50cPの粘度を有する高粘度インクを用いる場合にも、引き押し吐出の効果を得られるようにインク室ユニット53の形状が決められている。更に、本インクジェット記録装置10では、インクの粘度が20〜30cPの場合に、引き押し吐出の効果が最大限に発揮される。
図8は、図4に示したインク室ユニット53の機能 (特性)を電気回路に置き換えたときの集中定数モデル (集中定数回路)100を示している。
図8に示す集中定数モデルでは、Mn はノズル51のイナータンス、Rnはノズル51の流体抵抗、Msは供給口54のイナータンス、Rsは供給口54の流体抵抗、Ciは圧力室52の持つコンプライアンス、Caはアクチュエータ58の持つコンプライアンス、Φは圧力差を表している。また、unはノズル51内のインクの体積速度、uiは圧力室52内のインクの体積速度、usは供給口54内のインクの体積速度を示している。
この集中定数モデル100の微分方程式は以下の連立方程式で表される。
ここで、インクの密度ρ、インクの粘度ν、インクの表面張力σ、ノズル太管部51Cの長さL
n1、ノズル太管部51Cの断面積A
n1、ノズル太管部51Cの半径r
n1(=D
n1/2)、ノズル細管部51B長さL
n2、ノズル細管部51Bの断面積A
n2、ノズル細管部51Bの半径r
n2(=D
n2/2)、供給口54の長さL
s、供給口54の断面積A
s、圧力室52の体積V、インク中の音速c、アクチュエータ58を駆動したときに体積X(排除体積)だけ変化させるために必要な発生圧力Pのとき、ノズル51のイナータンスM
n、ノズル51の抵抗R
n、ノズル51の表面張力によるコンプライアンスC
n、供給口54のイナータンスM
s、供給口54の抵抗R
s、圧力室52の持つコンプライアンスC
i、アクチュエータ58の持つコンプライアンスC
aは以下の式で表される。
なお、上記(6)に示したノズル51の表面張力によるコンプライアンスC
nはノズル51のイナータンスの容量成分とノズル51の抵抗の容量成分との和である。しかし、図8に示した集中定数モデル100に示す系では、これらの影響はほとんど無視できる程度に小さいので、図8に示した、集中定数モデル100ではC
nが省略されている。
また、ここで言う排除体積Xはノズル51から外部に吐出されるインクの体積と、供給側に戻るインクの体積と、加圧されることによって圧縮されたインクの体積と、の合計である。
ここで、上記(4)に示すように、複数の流路から成る流路のイナータンスを算出するには、各流路のイナータンスを求めた後に合成イナータンスを求めればよい。また、複数の流路から成る流路の抵抗及びコンプライアンスを算出する場合にも各流路について抵抗、コンプライアンスを求め、それらを合成すればよい。
上記(1)〜(3)に示した集中定数モデル100の連立微分方程式を解いて圧力室52の圧縮性とノズル51の慣性との共振周波数fを求めると、上記(4)〜(10)を用いて以下の式で表される。
但し、上記(11)に示したイナータンスM、抵抗R、コンプライアンスCは以下の式で表される。
即ち、上記(11)に示す共振周波数fを高くするには、上記(12)に示すイナータンスMを小さくすればよい。しかしながら、上述した〔発明が解決しようとする課題〕に示すように、ノズル51のイナータンスM
n及び上記(14)に示したコンプライアンスCを小さくすることは非常に困難であり、本発明に係る印字ヘッド50では、供給口54のイナータンスM
sを小さくすることによって共振周波数fを高くし、アクチュエータ58を引き押し出し駆動することで、好ましい高粘度インクの吐出を実現している。
また、上記(7)によれば、供給口54のイナータンスMsを小さくするには供給口54の断面積を大きくしてもよいし、供給口54の流路長を小さくしてもよい。
図9は、図4にその断面を示したインク室ユニット53の構造を示す透視斜視図である。図9に示すインク室ユニット53は印字ヘッド50に備えられた多数のインク室ユニットのうち1つを取り出した図である。
図9に示すように、供給口54は供給口プレート200に形成された略長方形の開口202から成り、その断面積Asは圧力室52の底面204の略1/2である。また、供給口54の流路長Lsは供給口プレート200の厚みに等しい。
本例では、インク流の方向と略直交する面の断面形状が略長方形形状である供給口54を示したが、この断面形状は長方形形状に限定されず、円形、だ円形、四角形以外の多角形形状など様々な形状を適用可能である。
また、本例では、圧力室52の底面204(ノズル51と連通させる開口が形成される面)に供給口54を備える態様を例示したが、もちろん、供給口54を側面(例えば、図9の符号206等)に備えてもよい。なお、図9中、一点破線の符号58はアクチュエータ58を示している。
図10及び図11には、圧力室52の側面側に供給口(54)が設けられた態様を示す。図10は、インク室ユニット53の立体構造及び圧力室52と共通流路55との配置関係を示す斜視図であり、圧力室52の天面(加圧板56)側から見た透視図となっている。なお、図10では、圧力室52の天面を形成する部材と共通流路55の天面を形成する部材が取り除かれた状態を示している。また、図10中、一点破線の符号58は、図4に示すアクチュエータ58を示している。
また、図11は、図10の断面構造を示す断面図(図4に相当)である。
図10及び図11に示す態様では、圧力室52は、図9に示した圧力室52の側面206が取り除かれた構造を有し、この側壁が取り除かれた面が共通流路55の圧力室側の側壁210に接合されている。即ち、図9に示した圧力室52の側面206に相当する面は共通流路55との接合面になっている。
また、共通流路55の圧力室側の側壁210には、圧力室52が接合される部分に切り欠き部212が設けられ、この切り欠き部212を介して圧力室52と共通流路55とが連通される。即ち、共通流路55の側壁210に設けられた切り欠き部212はインク室ユニット53の供給口(54)として機能する。
なお、図10に示すように、供給口として機能する切り欠き部212の幅が図4に示した供給口54の幅方向の一辺の長さDsに相当し、この切り欠き部212の幅Dsが圧力室52の共通流路との接合部分の幅Dよりも小さい態様を示したが、供給口(即ち、切り欠き部212)のイナータンスMnを小さくするために該切り欠き部212の幅Dsを大きくするとよい。即ち、切り欠き部212は圧力室52の共通流路との接合面と略同一サイズ、略同一形状を有する態様(即ち、Ds=D及び、切り欠き部212の高さhsと圧力室52の高さhがhs=hの関係を満たす態様)好ましい。
一方、上記(7)に示すように、供給口54のイナータンスMsを小さくするためには、供給口54の流路長Lsを短くしてもよい。供給口54の流路長Lsを短くするには、図9に示す態様では供給口プレート200の厚みを薄くすればよく、図10に示す態様では共通流路55の側壁210のうち、切り欠き部212(圧力室52が接合される部分)の厚みを薄くすればよい。
但し、図9に示す態様では、供給口プレート200は圧力室52の底面となっている。したがって、供給口プレートは圧力室52の底面として機能する剛性を有する必要があり、ある厚みよりも薄くすることができない。一方、図10及び図11に示す態様では、側壁210の厚みを薄くすることで供給口54の流路長Lsを短くすることができるので、供給口54の流路長Lsをゼロにすることも可能である。
図12には、圧力室52を共通流路55に直に接合させ、切り欠き部212の厚みをゼロにした態様を示す。図12に示す態様は、供給口の断面積Asが最大、供給口の流路長Lsが最小となる態様であり、より好ましい。
ここで、本発明において供給口とは、単に圧力室52と共通流路55(共通流路から分岐した支流を含む)とを連通させるインク流路ではなく、圧力室52との接合部分からインクの吐出動作及びリフィル動作時に絞りとして機能する部分までの供給側流路の一部又は全部を示す。
例えば、図13に示す態様では、供給口54の断面積As(=Ds ×hs)と共通流路55の断面積A(図13に斜線で示す部分の断面積)との関係がAs>Aとなるときには、共通流路55が絞りとして機能することになる。
同様に、本発明においてノズルとは、圧力室52との接合部分から絞り機能を有する部分までの吐出側流路を含んでいる。
図10乃至図12には、供給口54の高さhsと圧力室52の高さhとが略同一(即ち、hs=h)である態様を示したが、図13及び図14に示すように、供給口54の高さhsと圧力室52の高さhとが異なるように(即ち、hs<h)構成されてもよい。
〔応用例〕
次に、上述した印字ヘッド50に備えられたインク室ユニット53の応用例を説明する。
図15は本実施形態の応用例に係るインク室ユニット53の立体構造を示す断面図である。
図15に示すように、供給口54には弾性部材300が備えられている。弾性部材300は供給口54と略同一サイズを有し、その略中心部には供給口54の幅Dsよりも十分に小さい直径Ds’の開口(穴)302が設けられている。また、弾性部材300には開口302から放射状に切り込みが形成され、圧力を受けると開口302の断面積を広げるように構成されている。
弾性部材300は、矢印線Kに示す方向に圧力を受けると共通流路55側へ変形し、矢印線Kと反対の方向に圧力を受けると変形しない(或いは、矢印線Kの方向に圧力を受けるときに比べて変形量が少ない)異方性を有している。
即ち、アクチュエータ58を駆動して、圧力室52からインクを吐出させる方向へ圧力室52を変形させると、弾性部材300は矢印線Kで示す方向に圧力を受けて共通流路55側へ変形し、その幅が略Dsとなる供給口54を介して共通流路55へインクが排出される。
一方、圧力室52へインクを引き込む方向へ圧力室52を変形させると、弾性部材300は変形せずに、弾性部材300に設けられた開口302を介して共通流路55から圧力室52へインクが供給される。
言い換えると、供給口54の断面積をインク吐出時とリフィル時とで切り替える(可変させる)ことができ、吐出時には供給口54の面積Asを大きくして吐出性能を維持し、リフィル時には供給口54の断面積Asを小さくして、圧力室52への気泡や異物の混入を防止する。なお、弾性部材300にはゴムやシリコンなどを用いるとよい。
上記の如く構成された印字ヘッド50では、ノズル51のイナータンス(吐出側のイナータンス)Mnと、供給口54のイナータンス(供給側のイナータンス)Msと、の関係がMn>Msとなるように、供給口54(供給側流路)の断面積As、供給口54(供給側流路)の流路長Lsが決められる構造を有している。したがって、一般的な粘度を持ったインクよりも粘度が高い高粘度インクを用いる場合にも、圧力室52のコンプライアンスとノズルのイナータンスとの共振を利用した引き打ちを行って好ましいインク滴の吐出を実現することができる。
上述した吐出駆動では、微小量のインク滴を早い吐出周期で吐出させることができ、更に、供給側流路のイナータンスMs及び供給側流路の抵抗Rsが小さくなるために、リフィル時間を短くすることができ、吐出効率の向上が見込まれる。
また、図12に示す態様では、供給口54の流路長がゼロとなり、供給口54を取り除くことができる。したがって、印字ヘッド50の構造がシンプルになり、複数の薄板状部材を積層させる積層構造を有する印字ヘッドでは、供給口54が形成される層を省略でき、層数を減らすことができる。
本例では、アクチュエータ58の反対側(図4等で下側)に広がるように共通流路55が形成される態様を示したが、アクチュエータ58の側(図4等で上側)に広がるように共通流路55を形成してもよい。
また、共通流路の55の長手方向(インク流方向)と略直交する方向に圧力室52を配置する態様を示したが、共通流路の長手方向に圧力室52を配置してもよい。
上述の説明では、液吐出装置の一例としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、被吐出媒体上に液を吐出させて被吐出媒体上に立体形状を形成する様々な画像形成装置や液吐出装置に適用可能である。
10…インクジェット記録装置、50…ヘッド、51、51A,51B,51C…ノズル、52…圧力室、54,212…供給口、55…共通流路、58…アクチュエータ、100…圧力室の集中定数モデル