JP2012136010A - 液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置 - Google Patents

液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置 Download PDF

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Abstract

【課題】液体の噴射に伴う不要な振動を抑えて駆動周波数によらず安定して液体を噴射することが可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル44におけるイナータンスをMn、インク供給路41におけるイナータンスをMs、ノズルにおける流路抵抗と圧力室42における流路抵抗と供給路における流路抵抗との合成抵抗をR、圧力室のインクに生じる圧力振動の固有振動周期をTcとしたとき、以下の式(A)を満たすように記録ヘッドにおけるインク流路の寸法・形状が設計されている。
√(MnMs)≦RTc…(A)
【選択図】図4

Description

本発明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッド、および、これを備えた液体噴射装置に関するものであり、特に、液体の噴射に伴う不要な振動を抑えることが可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関する。
液体噴射装置は噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
この種の液体噴射装置には、液体噴射の高速化に対する強い要望がある。このため、液体噴射ヘッドが備える圧力発生手段(例えば、圧電振動子や発熱素子)をより高速で作動させることが求められている。しかしながら、駆動周波数(液体の噴射周波数)を従来の駆動周波数よりも高めた場合、液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体の量あるいは飛翔速度(以下、適宜、噴射特性という。)が駆動周波数に応じて変動する。これは、ノズルにおけるメニスカスの状態に起因するものと考えられる。即ち、先の液体噴射時から次の液体噴射時までの時間が短くなることで、噴射直後におけるノズルを含む圧力室内の液体(特に、メニスカス)の振動が十分に収束する前に次の噴射が行われることになり、このメニスカスの状態の違いが噴射特性の変動となる。このため、液体の噴射に伴って生じるメニスカスの振動をできるだけ抑えることが望ましい。
この点に関し、例えば、特許文献1では、圧力室の容積をV、ノズルの断面積をA、ノズルの軸方向の長さをl0、液体の密度をρ、液体の粘性係数をμ、および圧力室内の液体を伝播する圧力波の伝達速度をcとして、c2/V<16π2μ20/(A3ρ2)を満たすように液体噴射ヘッドの構造が設計されている。これにより、ノズルにおけるメニスカスが振動することがなく、駆動波形を印加する際、メニスカス面の固有振動が支障となることがなく、時間的制約と周期の制約が全くないため、駆動波形を印加する時間を考慮する必要がなく、効率良く駆動を行うことができるというものである。
特開2005−119296号公報
一般的に、この種の液体噴射ヘッドでは、複数の圧力室に共通な液体室(リザーバー或いはマニホールドとも言う)が設けられ、この共通液体室と圧力室とを供給路(供給口)を介して連通させている。この供給路は、リザーバーや圧力室と比較して断面積が十分に小さく設定された流路であり、ノズルとの関係で流路抵抗およびイナータンスを調整するために設けられている。つまり、この供給路は、ノズルからの液体の噴射の特性に大きく関わる重要な部分であり、ノズルにおける流路抵抗およびイナータンスとのバランスを考慮して設計されている。
ところが、上記特許文献1に開示されている発明では、この供給路について考慮されておらず、より高い駆動周波数でノズルから液体を噴射させた場合に、共通液体室側から供給路を通じて圧力室への液体の供給が不足する等により、所望の噴射特性が得られない可能性がある。したがって、実用化する上では、上記の供給路の特性をも考慮した上で設計することが望まれる。
なお、このような問題はインクジェット式記録装置だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体の噴射に伴う不要な振動を抑えて駆動周波数によらず安定して液体を噴射することが可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、複数の圧力室に共通な共通液室と、圧力室毎に設けられ当該圧力室と前記共通液室を連通する供給路と、前記圧力室に圧力変動を付与することにより当該圧力室に連通するノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッドであって、前記ノズルにおけるイナータンスをMn、前記供給路におけるイナータンスをMs、前記ノズルにおける流路抵抗と前記圧力室における流路抵抗と前記供給路における流路抵抗との合成抵抗をR、前記圧力室の液体に生じる圧力振動の固有振動周期をTcとしたとき、以下の式(A)を満たすことを特徴とする。
Figure 2012136010
この構成によれば、液体の噴射に伴う固有振動周期Tcの振動が生じ難くなり、ノズルから噴射される液体の重量(又は飛翔速度)の周波数特性の固有振動周期Tcに基づく変動を抑えることができる。これにより、低周波数域(数kHz)から高周波数域(数十kHz)に亘って液体を安定して噴射させることが可能となる。また、不要な振動が生じ難いため、より高い周波数で液体を噴射することができ、これにより、高周波駆動化に寄与することができる。特に、液体の粘度が高い(例えば、噴射時の粘度が6mPa・s以上)場合においても、共通液室から供給路を通じた圧力室への液体の供給が不足を抑制しつつ安定して噴射を行うことができる。
上記構成において、前記ノズルにおけるイナータンスMnが、前記供給路におけるイナータンスMsよりも小さいことが望ましい。
この構成によれば、圧力室に圧力変動を付与したときに、液体がノズル側に流れ易くなるように構成されている。これにより、ノズルからインクをより効率良く噴射することができる。
また、上記構成において、以下の式(B)を満たすことが望ましい。
Figure 2012136010
この構成によれば、メニスカスの振動をより抑制して、より平坦な周波数特性を得ることが可能になる。
また、上記構成において、前記ノズルからの噴射時における前記液体の粘度が6mPa・s以上であることが望ましい。
そして、本発明の液体噴射装置は、上記各構成の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする。
プリンターの構成を説明する斜視図である。 プリンターの電気的な構成を説明するブロック図である。 記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。 記録ヘッドにおけるインク流路近傍の構成を説明する図である。 噴射駆動パルスの構成を説明する波形図である。 ノズルから噴射されるインクの重量(又は飛翔速度)の周波数特性について説明するグラフである。 記録ヘッドの等価回路である。
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。例示したプリンター1は、記録用紙、フィルム等の記録媒体(着弾対象)に向けて、液体の一種であるインクを噴射することで記録媒体に画像や文字などを記録するように構成されている。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録用紙6の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録用紙6を搬送する紙送り機構8と、を備えている。
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー14の制御部19(図2参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。このため、制御部19は、受信したエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4に搭載された記録ヘッド2の走査位置を認識できる。即ち、例えば、受信したエンコーダーパルスをカウントすることで、キャリッジ4の位置を認識することができる。これにより、制御部19はこのリニアエンコーダー10からのエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作を制御することができる。
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート38:図3参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録用紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
図2はプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。本実施形態におけるプリンター1は、プリンターコントローラー14及びプリントエンジン15を有している。プリンターコントローラー14は、ホストコンピューター等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェース(外部I/F)16と、各種データ等を記憶するRAM17と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM18と、各部の制御を行う制御部19と、クロック信号を発生する発振回路20と、記録ヘッド2へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路21と、ドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド2に出力するための内部インターフェース(内部I/F)22と、を備えている。
制御部19は、各部の制御を行うほか、外部装置から外部I/F16を通じて受信した印刷データを、ドットパターンデータに変換し、このドットパターンデータを内部I/F22を通じて記録ヘッド2側に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成されている。また、制御部19は、発振回路20からのクロック信号に基づいて記録ヘッド2に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
駆動信号発生回路21(駆動信号発生手段の一種)は、制御部19によって制御され、圧電振動子28を駆動するための駆動信号を発生する。本実施形態における駆動信号発生回路21は、ノズル44からインクをインク滴として噴射させて記録用紙6等の記録媒体上にドットを形成させるための噴射駆動パルスや、ノズル44に露出したインクの自由表面、即ち、メニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
次に、プリントエンジン15側の構成について説明する。プリントエンジン15は、記録ヘッド2と、キャリッジ移動機構7と、紙送り機構8と、リニアエンコーダー10と、を備えている。
記録ヘッド2は、シフトレジスター(SR)23、ラッチ24、デコーダー25、レベルシフター(LS)26、スイッチ27、及び圧電振動子28を備えている。プリンターコントローラー14からのドットパターンデータSIは、発振回路20からのクロック信号CKに同期して、シフトレジスター23にシリアル伝送される。このドットパターンデータは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(噴射階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
シフトレジスター23には、ラッチ24が電気的に接続されており、プリンターコントローラー14からのラッチ信号(LAT)がラッチ24に入力されると、シフトレジスター23のドットパターンデータをラッチする。このラッチ24にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー25に入力される。このデコーダー25は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電振動子28に対する噴射駆動パルスの供給又は非供給が選択される。
そして、デコーダー25は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター26に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター26に入力される。このレベルシフター26は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ27を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター26で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ27に供給される。このスイッチ27の入力側には、駆動信号発生回路21からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ27の出力側には、圧電振動子28が接続されている。
そして、パルス選択データは、スイッチ27の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電振動子28への供給を制御する。例えば、スイッチ27に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ27が接続状態になって、対応する噴射駆動パルスが圧電振動子28に供給され、この噴射駆動パルスの波形に倣って圧電振動子28の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター26からはスイッチ27を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ27は切断状態となり、圧電振動子28へは噴射駆動パルスが供給されない。
このような動作を行うデコーダー25、レベルシフター26、スイッチ27、制御部19、及び駆動信号発生回路21は、噴射制御手段として機能し、ドットパターンデータに基づき、駆動信号の中から噴射駆動パルスを選択して圧電振動子28に印加(供給)する。その結果、噴射駆動パルスの電圧変化に応じて圧電振動子28が伸張又は収縮し、この圧電振動子28の伸縮に伴って圧力室42(図3参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータを構成する階調情報に応じた量のインク滴がノズル44から噴射される。
図3は、上記記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。また、図4(a)は共通液室40から圧力室42を通ってノズル44に至るまでのインク流路周辺の拡大断面図、図4(b)は当該インク流路の平面図である。
本実施形態における記録ヘッド2は、ケース30、振動子ユニット31、及び流路ユニット32等を備えている。上記のケース30の内部には振動子ユニット31を収納するための収納空部33が形成されている。振動子ユニット31は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子28と、この圧電振動子28が接合される固定板35と、圧電振動子28に駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル36とを備えている。この圧電振動子28は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードの圧電振動子である。
流路ユニット32は、流路形成基板37の一方の面にノズルプレート38を、流路形成基板37の他方の面に振動板39をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット32には、共通液室40(リザーバーまたはマニホールドとも言う。)、インク供給路41(供給路の一種)、圧力室42、ノズル連通口43、及びノズル44が設けられている。そして、流路形成基板37には、インク供給路41から圧力室42及びノズル連通口43を経てノズル44に至る一連のインク流路が、各ノズル44に対応して複数形成されている。
上記ノズルプレート38(ノズル形成部材の一種)は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル44が列状に開設された板状部材であり、本実施形態ではステンレス鋼により作製されている。このノズルプレート38には、ノズル44を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル44によって構成される。
上記振動板39は、支持板45の表面に可撓性を有する弾性体膜46を積層した二重構造である。本実施形態では、ステンレス板を支持板45とし、この支持板45の表面に樹脂フィルムが弾性体膜46としてラミネートされた複合板材により振動板39が作製されている。この振動板39には、圧力室42の容積を変化させるダイヤフラム部47が設けられている。また、この振動板39には、共通液室40の一部を封止するコンプライアンス部48が設けられている。
上記のダイヤフラム部47は、エッチング加工等によって支持板45を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部47は、圧電振動子28の自由端部の先端面が接合される島部49と、この島部49を囲む薄肉弾性部50とから成る。上記のコンプライアンス部48は、共通液室40の開口面に対向する領域の支持板45がエッチング加工等によって除去されることにより作製される。このコンプライアンス部48は、共通液室40に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
そして、上記の島部49には圧電振動子28の先端面が接合されているので、この圧電振動子28の自由端部が伸縮することで圧力室42の容積が変動する。この容積変動に伴って圧力室42内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル44からインク滴を噴射させる。
図5は、駆動信号発生回路21が発生する駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスDPの構成を説明する波形図である。例示した噴射駆動パルスDPは、圧力室42の膨張又は収縮の基準となる容積(基準容積)に対応する基準電位VBから最高電位VHまで比較的穏やかな勾配で電位を上昇させる第1充電要素PE1(膨張要素)と、最高電位VHを一定の時間維持する第1ホールド要素PE2(膨張維持要素)と、最高電位VHから最低電位VLまで、第1充電要素PE1の勾配よりも急峻な勾配で電位を降下させる放電要素PE3(収縮要素)と、最低電位VLを短い時間維持する第2ホールド要素PE4(収縮維持要素)と、最低電位VLから基準電位VBまで電位を復帰させる第2充電要素PE5(復帰要素)と、を順に接続して構成された電圧波形である。
この噴射駆動パルスDPが圧電振動子28に印加されると、次のようにしてノズル44からインク滴が噴射される。即ち、第1充電要素PE1が供給されると、圧電振動子28が収縮して、基準電位VBに対応する基準容積から最高電位VHに対応する膨張容積まで圧力室42が膨張する(膨張工程)。これに伴って、ノズル44におけるメニスカスが圧力室42側に引き込まれる。また、共通液室40側からのインクがインク供給路41を通じて圧力室42側に供給される。この圧力室42の膨張状態は、第1ホールド要素PE2が圧電振動子28に印加されることによって、ごく短い間(例えば、数μs)維持される(膨張維持工程)。その後、メニスカスが圧力室42側から噴射側に移動方向が変換されたタイミングで放電要素PE3が印加されて圧電振動子28が急激に伸長する。これに伴って、圧力室42の容積が、最低電位VLに対応する収縮容積まで収縮し、メニスカスが圧力室42とは反対側に向けて急激に加圧される(収縮工程)。これにより、ノズル44からは、数ng程度の液量のインク滴が噴射される。その後、第2ホールド要素PE4、及び、第2充電要素PE5が圧電振動子28に順次印加され、インク滴の吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるべく、圧力室42が基準容積に復帰する(復帰工程)。
ここで、上記記録ヘッド2のノズル44から噴射されるインクの重量(又は飛翔速度)の周波数特性について説明する。
図6は、当該周波数特性の例を示すグラフであり、所定の範囲(数kHz〜40kHz)で駆動周波数を変えてノズル44からインクを連続的に噴射して、各駆動周波数でのインク重量Iwを測定したときの結果をプロットしたものである。同図では、横軸がインクの噴射周波数(駆動周波数)F(kHz)で縦軸がインク重量Iwである。
この種の記録ヘッドでノズルから連続的にインクを噴射する場合、ノズルから噴射されるインク重量Iwあるいは飛翔速度(以下、適宜、噴射特性という。)が駆動周波数Fに応じて変動する。これは、連続する噴射における先のインクの噴射時で生じた圧力室内のインクの圧力振動が、次のインクの噴射に対して影響を与えるからである。即ち、先のインク噴射の直後における圧力室42内のインク(特に、メニスカス)の振動が十分に収束する前に次の噴射が行われることになり、このメニスカスの状態の違いが噴射特性の変動となる。そして、この噴射特性の変動は、液体噴射ヘッド内の液体流路の特性に依存している。従来の記録ヘッドでは、図6におけるA,Bのグラフのように、駆動周波数Fが高くなるにつれて、上下に細かく振動しながら全体的にインク重量Iwが低下する傾向を示す。この振動の周期は、圧力室内のインクに生じる圧力振動の固有振動周期Tcに概ね一致している。なお、この固有振動周期Tcは、以下の式(1)で表される。
Figure 2012136010
但し、式(1)において、Mnはノズルにおけるイナータンス〔kg/m4〕、Msはインク供給路におけるイナータンス、Ccは圧力室のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)〔m5/N〕である。また、上記式(1)において、イナータンスMとは、インク流路におけるインクの移動し易さを示し、単位断面積あたりのインクの質量である。そして、インクの密度をρ、流路のインク流れ方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(2)で近似して表すことができる。
M=(ρ×L)/S ・・・ (2)
なお、Tcは、上記式(1)で定まるものに限らず、圧力室内のインクに生じる圧力振動の固有振動周期を表すものであればよい。
このように、周波数特性がTcに応じた周期で変動する構成では、プリンター1の本来の用途である記録媒体に対する画像等の印刷(記録)に適した(設計上、目標とするインク重量Iwが得られる)駆動周波数を選択する必要があり、使用可能な駆動周波数が制限されてしまうという問題がある。特に周波数特性の振動の極大部分では、インク重量Iwについては比較的多く得られるものの、飛翔方向が曲がったりする等、噴射が安定しない可能性があり、やむを得ず、駆動周波数をこれよりも低い値に設定せざるを得ない場合がある。
そこで、本発明に係るプリンターでは、ノズル44における流路抵抗とイナータンス、インク供給路41における流路抵抗とイナータンスと、圧力室42におけるインクに生じる圧力振動の固有振動周期Tcとの関係を以下の式(A)で規定することで、ノズル44から噴射されるインクの噴射特性についての周波数特性を安定させている。つまり、上記記録ヘッド2では、式(A)を満たすように、各インク流路の形状や寸法が設計されている。
Figure 2012136010
以下、上記式(A)の導出について説明する。
ここで、図7は、記録ヘッド2を電気的に置き換えた等価回路を示す図である。同図において、コンプライアンスCおよびイナータンスMについては上述した通りであり、また、R〔Ns/m5〕は流路抵抗を示している。例えば、流路が中空直方体(幅w、高さh、長さl)である場合、流路抵抗R=12μl/wh3、円筒体(半径r)である場合は、流路抵抗R=8μl/πrとなる。ただし、μは液体(インク)の粘性係数である。また、図7における添字に関し、cは圧力室42、sはインク供給路41、添字nはノズル44をそれぞれ意味している。この等価回路の振動系は、以下の式(3)で表すことができる。
Figure 2012136010
上記式(3)において、q(t)は圧力室42におけるインクの体積変位、P(t)は圧力室42内のインクに生じる圧力、Cはこの振動系における全コンプライアンスである。また、MT=Mn+Ms+Mc、R=Rn+Rs+Rcである。
ここで、q(t)=Aeiαt,P(t)=0と仮定すると、上記式(3)は、以下の式(4)のようになる。
Figure 2012136010
上記(4)を満たすためには、A=0または{ }内が0となる必要がある。このことから、以下の式(5)が導き出される。
Figure 2012136010
上記式(5)からαを求めると、以下のようになる。
Figure 2012136010
ここで、γ=R/MT、ω2=1/(MTC)である。
q(t)Aeiαtに上記α+,α-をそれぞれ代入すると以下の式(7)のようになる。
Figure 2012136010
このq(t)は、根号を含むので、根号内の値に応じて実数になったり複素数になったりする。q(t)が複素数解となると振動することになってしまうため、振動しない条件は、ω2−γ2/4≦0である。この場合、
Figure 2012136010
となって、これにより上記式(7)は次式(9)のようになる。
Figure 2012136010
上記式(9)は、体積変位q(t)が振動することなく一様に減衰していくことを表している。
q(t)が振動しない条件ω2−γ2/4≦0から、以下の式(10)が導き出される。
Figure 2012136010
そして、以下のように、上記式(10)とTcとの関係について導く。
Figure 2012136010
上記式(1)から
Figure 2012136010
これを式(11)に代入して、
Figure 2012136010
この式(13)から以下の式(A)が導き出される。
Figure 2012136010
即ち、上記式(A)を満たすように、インク供給路41、圧力室42、及びノズル44を設計することで、インクの噴射に伴う固有振動周期Tcの振動が生じ難くなり、図6におけるCのグラフに示すように、上記のノズル44から噴射されるインクの重量(又は飛翔速度)の周波数特性の固有振動周期Tcに基づく変動を抑えることができる。これにより、低周波数域(数kHz)から高周波数域(数十kHz)に亘ってインクを安定して噴射させることが可能となる。また、不要な振動が生じ難いため、より高い周波数でインクを噴射することができ、これにより、高周波駆動化に寄与することができる。特に、インクの粘度が高い(例えば、噴射時の粘度が6mPa・s以上)場合においても、メニスカスの振動を抑制し、共通液室40からインク供給路41を通じた圧力室42へのインクの供給が不足を抑制しつつ安定して噴射を行うことができる。下記の表1に噴射時のインク粘度と吐出安定性の確認結果を示す。
なお、「安定した噴射」とは、どの周波数でもだいたい同じくらいのIwが得られる場合とする。
Figure 2012136010
また、より発明効果を挙げるため、以下の式(B)を満たすことが好ましい。この条件を満たすことにより、メニスカスの振動をより抑制して、よりフラットな周波数特性を得ることが可能になる。
Figure 2012136010
本実施形態では、さらにノズル44におけるイナータンスMnを、インク供給路41におけるイナータンスMsよりも小さく設定される(Mn<Ms)ことで、圧力室42に圧力変動を付与したときに、インクがノズル44側に流れ易くなるように構成されている。これにより、効率良くノズル44からインクを噴射することができる。このため、上記の高粘度のインクを噴射する場合に好適である。この条件を満たすことにより高周波駆動の条件でノズル44へのインクのリフィル性がよくなり、つまり、ノズル44へのインクの充填が円滑となり、周波数特性をより平坦化することができる。
なお、本実施形態における記録ヘッド2では、例えば、ノズルの最小径部分(噴射側の開口部)の断面積Dnが25μm、インク供給路41の幅Swが55μm、インク供給路41の長さSlが600μm、インク供給路41の高さShが80μm、圧力室42の断面積が10000μm2とされ、常温(20℃)における粘度が15mPa・sのインクを、図示しない加熱手段によって粘度を10mPa・s程度に低下させてから噴射する構成となっている。また、Mn<Msとすることに応じて、ノズル44における流路抵抗とインク供給路41における流路抵抗とのバランスが最適な状態に調整される。具体的には、例えば、インク供給路41の流路長をより長くすることでイナータンスMsを高めた構成では、当該インク供給路41の流路幅をより広げることで、イナータンスMsを高めたことに伴う流路抵抗の上昇分を調整する。
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子28を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、図5で例示した駆動パルスに関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。その他、熱を利用した発熱素子や静電気を利用した静電アクチュエーターなどを採用することも可能である。
そして、本発明は、上記実施形態で例示した記録ヘッドおよびこれを搭載したプリンターには限られず、液晶や電極材などの他の液体を噴射する場合にも好適である。要するに、共通液室から供給路を通じて圧力室に液体が導入され、圧力発生手段によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、この圧力振動を利用してノズルから液体を噴射する液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等の他の機器にも適用することができる。
1…プリンター,2…記録ヘッド,28…圧電振動子,40…共通液室,41…インク供給路,42…圧力室,44…ノズル。

Claims (5)

  1. 複数の圧力室に共通な共通液室と、圧力室毎に設けられ当該圧力室と前記共通液室を連通する供給路と、前記圧力室に圧力変動を付与することにより当該圧力室に連通するノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッドであって、
    前記ノズルにおけるイナータンスをMn、前記供給路におけるイナータンスをMs、前記ノズルにおける流路抵抗と前記圧力室における流路抵抗と前記供給路における流路抵抗との合成抵抗をR、前記圧力室の液体に生じる圧力振動の固有振動周期をTcとしたとき、以下の式(A)を満たすことを特徴とする液体噴射ヘッド。
    Figure 2012136010
  2. 前記ノズルにおけるイナータンスMnが、前記供給路におけるイナータンスMsよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
  3. 以下の式(B)を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
    Figure 2012136010
  4. 前記ノズルからの噴射時における前記液体の粘度が6mPa・s以上であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
  5. 請求項1から請求項4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。
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