JP4532106B2 - 含クロム溶鋼の脱炭精錬方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、含クロム鋼の常圧又は減圧脱炭精錬において、溶鋼温度および[C]濃度に応じた精錬を行うことにより、クロムの酸化損失や耐火物の損耗等を少なくする方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ステンレス鋼のようなクロムを11mass%以上含む含クロム溶鋼の脱炭精錬において、[C]濃度に応じた精錬を行う方法としては、脱炭中期以降(例えば、[C]濃度0.7mass%以下)において、酸素ガス(以下、単に酸素と言う)と共に希釈ガスを吹込むことで雰囲気中のCOガス分圧(Pco)を下げる希釈脱炭法および溶鋼を取鍋に出鋼し、取鍋内を減圧して処理を行う真空脱炭法が広く用いられている。前者は一般にAOD法および上底吹き転炉法と呼ばれ、後者はVOD法と呼ばれている。
【0003】
また、最近では、特開平3−68713号公報および特開平4−254509号公報に開示されているように、AOD法において、脱炭途中より減圧精錬を付与する真空AOD法も用いられるようになっている。真空AOD法ではVOD法と同様に[C]濃度に応じて酸素供給量の調整や真空度の調整を行う方法が行われている。
【0004】
これらの方法は、いずれも溶鋼中[Cr]の酸化損失を抑えながら効率的に脱炭を進行させようとするものである。しかしながら、これまでの方法では、[C]濃度が低下するにつれて[Cr]の酸化が避けられず、[Cr]の酸化量が増大していた。
【0005】
従来、溶鋼中[Cr]の酸化損失を抑えるために、例えば、VOD法では、特開昭55−89417号公報や特開昭55−152118号公報に示されているように、脱炭の進行に応じた酸素供給量の調整や真空度の調整(100Torr以下)を行っている。また、AOD法では、[C]濃度の低下に応じて希釈ガス比率を上げる方法や、あるいは上記の真空AOD法を用いて脱炭途中より真空精錬を付与する方法を行っている。
【0006】
以上の方法、例えば[C]濃度の低下に応じて希釈ガス比率を上げる方法においては、[Cr]酸化防止を目的に希釈ガス比率を上げすぎると、高価な希釈ガスを多量に使用することになって精錬コストの上昇を招く。逆に希釈ガスの削減を行おうとすると[Cr]の酸化ロスを十分に防止することができない。
【0007】
また、VOD法、AOD法および真空AOD法で含クロム溶鋼の脱炭精錬を行う場合、溶鋼温度の測定、溶鋼のサンプリングおよび組成分析に長時間を要するために、溶鋼温度の測定は間欠的に行うか、あるいは測定を行っておらず、また、溶鋼中[C]濃度も連続的に把握されていないために、溶鋼温度および[C]濃度に応じた精錬操作が十分には行われていなかった。その結果、過剰にPcoを下げる操作、つまり真空度を上げることや希釈ガスを多量に吹き込むことが行われ、[Cr]の酸化および耐火物の溶損は十分に抑えられず、また精錬コストの上昇および送酸速度の低下による生産性の低下を招いていた。
【0008】
上述の問題の中で溶鋼温度測定の問題を解決する方法として、特開平11−124618号公報による精錬方法が知られている。この方法は、含クロム溶鋼の温度を連続的に測定し、測定した溶鋼温度に応じて、吹き込みガスの酸素ガス比率、合金の添加量、冷却材の添加量、副原料の添加量を制御して、[Cr]の酸化損失を少なくし、かつ精錬炉の耐火物の溶損を軽減することができるとされている。
【0009】
しかしながら、この方法では吹錬中の脱炭酸素効率(吹込み酸素ガスの脱炭に使用される割合。以下脱炭酸素効率ηと記す。)の推移や溶鋼中[C]濃度が正確に把握されていない結果、特に減圧下の操業において精錬制御操作が不十分であり、その結果、[Cr]の酸化損失が未だ大きく、生産性が十分に向上していないことを確認している。
【0010】
【発明が解決しようとするための課題】
本発明は、常圧又は減圧下の含クロム溶鋼の脱炭精錬において、従来開示されている技術では、[Cr]の酸化損失の抑制が十分でなく、かつ耐火物の溶損が大きいという問題点を解決するものであり、実測あるいは推定によって求めた精錬中の溶鋼温度、溶鋼成分及びガス吹き込み条件に基づいて最適な精錬条件を定めることにより、[Cr]の酸化損失および耐火物の溶損を低減することを課題としたものである。本発明はさらに、溶鋼温度を連続的に測定する手段を用いて、脱炭量を連続的に求め、溶鋼中[C]濃度を推定すると共に、溶鋼温度および[C]濃度に応じた精錬操業操作を行うことで、[Cr]の酸化損失および耐火物の溶損を低減することを課題としたものである。
【0011】
熱力学平衡的には、溶鋼中[C]濃度(質量%)、[Cr]濃度(質量%)、雰囲気中のCO分圧(PCO:atm)と平衡する溶鋼温度TとしてHiltyの平衡温度、Chipmanの平衡温度、不破らの平衡温度などが知られているが本発明ではその中でよく用いられているHiltyの平衡温度TH(K)を用いる。Hiltyの平衡温度TH(K)は下記(5)式によって記述される。
TH={−13800/(−8.76+log([C]PCO/[Cr]))}…5式
本発明者らは、含クロム溶鋼の精錬中において、溶鋼温度TとHiltyの平衡温度との差が所定の値以上になるように精錬制御、具体的には溶鋼中[C]濃度、[Cr]濃度の推移に基づいて雰囲気中のPCOおよび溶鋼温度を調整する精錬制御を行うと、不活性ガスを過剰に使用することなく、また溶鋼温度を過剰に上昇させることなく[Cr]の酸化損失を最小限に抑え、耐火物の溶損を防止することが可能であることを見いだした。
【0012】
また、Hiltyの平衡温度に基づいて精錬制御を行うに際し、精錬中の[C]濃度や[Cr]濃度の推定精度が高いほど精錬制御精度も向上する。本発明者らは、高精度で[C]濃度や[Cr]濃度を推定する方法を見いだした。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
(1) 大気圧下又は減圧下で含クロム溶鋼に酸素ガスと不活性ガスを吹き込んで脱炭精錬を行う方法において、
精錬中の溶鋼温度を実測によりあるいは精錬前溶鋼温度と精錬条件とから計算により求め、
精錬中の[C]濃度及び[Cr]濃度を、精錬前溶鋼成分と精錬条件とから計算により求め、精錬中の雰囲気中CO分圧PCOを、全圧Pと酸素ガス供給速度q T 及び不活性ガス供給速度q d とから下記(1)式に基づいて求め、前記[C]濃度、[Cr]濃度、PCOに基づいて含クロム溶鋼の脱炭反応の平衡温度Tを、下記(2)式によりHiltyの平衡温度T H (K)として求め、前記精錬中の溶鋼温度と該平衡温度Tとの差ΔTを求め、
その際、精錬中の[C]濃度及び[Cr]濃度を、精錬前の溶鋼成分における値を初期値とし、前記求めたΔTの関数として下記(3)式より脱炭酸素効率ηを求め、該脱炭酸素効率ηと酸素ガス供給速度q T から下記(4)式を用いて脱炭速度Δ[C]を、及び下記(5)式から[Cr]酸化速度Δ[Cr]をそれぞれ決定して、[C]濃度及び[Cr]濃度を更新し、この計算を繰り返すことによって逐次[C]濃度及び[Cr]濃度を求めるようにし、
溶鋼中[C]濃度0.5質量%以上では、ΔTが0℃以上になるように溶鋼温度を制御し、[C]濃度0.2質量%以上0.5質量%未満の領域においてΔTが30℃以上となるように精錬容器内の圧力を制御し、[C]濃度0.2質量%未満の領域ではΔTが50℃以上になるように精錬容器内の圧力の制御及び吹き込みガス中の酸素ガス比率の制御を行うことを特徴とする含クロム溶鋼の脱炭精錬方法。
ここで、
P CO =P×2×q T /(2×q T +q d ) ……(1)式
T H ={−13800/(−8.76+log([C]P CO /[Cr]))} ……(2)式
η=j×ΔT+k ……(3)式
Δ[C]=η×q T ×(1−R)×12/11.2/(10×Wm) ……(4)式
Δ[Cr]=(1−η)×q T ×(1−R)×104/33.6/(10×Wm) ……(5)式
ただし、上記式において、Rは二次燃焼率(−)、Wmは溶鋼量(ton)、jとkは精錬炉および精錬条件によって決まる定数、である。また、式の各パラメータの単位は、[C]濃度、[Cr]濃度:質量%、Δ[C]、Δ[Cr]:質量%/min、q T とq d :Nm 3 /min、T H :K、PとP CO :atm、である。
(2) 減圧下で行う脱炭精錬を、減圧開始から酸素ガスの吹き込みを開始するまでの期間(自然脱炭期)、自然脱炭期後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上の期間(酸素脱炭期)、自然脱炭後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満の期間(拡散脱炭期)に分け、
1)前記自然脱炭期においては、減圧開始前の溶鋼中[C]濃度[%C]s、溶鋼中[C]の活量ac及び減圧開始前の溶鋼温度To(℃)から減圧開始前の[O]濃度[O]calを(7)式及び(8)式より求め、自然脱炭期の脱炭量Δ[%C]を該減圧開始前の[O]濃度の関数として(6)式より求め、[Cr]濃度は自然脱炭期の脱炭量の関数として求め、
2)前記酸素脱炭期においては、酸素脱炭期開始時の[C]濃度と[Cr]濃度を初期値とし、前記求めたΔTの関数として脱炭酸素効率ηを前記(3)式より求め、該脱炭酸素効率ηと酸素ガス供給速度とから前記(4)式より脱炭速度、及び前記(5)式より[Cr]酸化速度を決定して[C]濃度及び[Cr]濃度を更新し、この計算を繰り返すことによって逐次[C]濃度及び[Cr]濃度を求め、
3)前記拡散脱炭期においては、拡散脱炭期開始からの[C]濃度[%C]の対数の変化しろを(9)式より拡散脱炭期開始からの時間tに比例する関数として求め、[Cr]濃度は酸素供給速度と脱炭速度の関数として求めることを特徴とする上記(1)に記載の含クロム溶鋼の脱炭精錬方法。
Δ[%C]=a×[O]cal+b ……(6)式
[O]cal=c+d×[O]e×10 fo/To+g × log[%C]s+h ……(7)式
[O]e=1/(ac×fo)×10 -1160/(To+273.15)-2.003 ……(8)式
log[%C]−log[%C] 0 =m×t ……(9)式
ここで、foは減圧開始前の溶鋼中[O]の活量係数であり、a,b,c,d,g,hは精錬炉および精錬条件によって決まる定数である。
【0015】
【発明の効果】
本発明により、含クロム溶鋼の精錬において[Cr]の酸化損失を抑制し、かつ耐火物溶損を抑制できる脱炭精錬が可能になり、精錬コストの低減および生産性の向上をはかることが可能になった。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1に本発明を実施するための装置例を真空AOD炉を例にして模式的に示す。もちろん、常圧AOD炉においても同様の装置を用いることができる。真空AOD炉1に溶鋼3が装入されており、溶鋼3上にはクロム酸化物を含むスラグ2が存在する。そこに、原料ホッパー8から切り出し装置9、投入シュート10、真空炉蓋19をへて、合金、冷却材および副原料が添加される。合金としては、フェロクロム(Fe−Cr)、フェロニッケル(Fe−Ni)、フェロシリコン(Fe−Si),アルミ合金等が含まれ、冷却材には種々形状、銘柄のスクラップ、副原料にはCaO,CaF2,MgO,SiO2等が含まれており、精錬する鋼種により種々選択することが可能である。
【0018】
真空AOD炉1の内側には上吹きランス4、側壁には底吹き羽口5が設置され、上吹きランス4および底吹き羽口5から、酸素と不活性ガスが吹き込まれる。真空AOD炉1での減圧精錬は、上吹きランス4および底吹き羽口5からガス吹き込みを開始すると同時に真空炉蓋19を真空排気設備11につなぎ、真空排気を開始することにより開始する。
【0019】
本発明において、精錬中の溶鋼温度については、実測によりあるいは精錬前溶鋼温度と精錬条件とから計算により求める。精錬中の溶鋼温度を実測により求める場合においては、真空AOD炉1の炉底には測温用羽口14が設置され、測温用羽口14に接続されたパージガス供給ライン15の中には輝度によって溶鋼温度を測定するイメージファイバー(図示しない)が挿入されている。パージガスには通常はArガスを用いるが、窒素ガス、COガス等の非酸化性ガスであっても構わない。また、測温用羽口14の先端が閉塞した場合の開口方法として測温用羽口14には、酸素、空気、CO2ガスの酸化性ガスを供給することも可能である。
【0020】
パージガス供給ライン15の中のイメージファイバー(図示しない)で得られた情報は測温処理装置17において、画像処理と信号処理がなされ、輝度から温度に変換され、溶鋼温度情報として出力される。制御演算装置18では、この溶鋼温度に、減圧開始前の溶鋼3、スラグ2および切り出し装置9からの溶鋼量の情報と、上吹きガスライン6および底吹きガスライン7からの吹込みガスの情報および真空排気設備11の情報とを合わせ、脱炭酸素効率η、脱炭量(Δ[%C])を計算することができる。また、減圧開始前の溶鋼の組成、投入した合金、スクラップ等の組成の情報が入力されて、[%C]および[Cr]濃度を計算することができる。
【0021】
さらに、制御演算装置18では、これらの溶鋼温度、[%C]、[Cr]濃度の情報により、[Cr]の酸化損失および耐火物の溶損を抑制するための操業条件の計算を行い、その制御指示を、上吹きガスライン6に設けた上吹きガス制御装置12、底吹きガスライン7に設けた底吹きガス制御装置13、真空排気設備11、および切り出し装置9に伝達して、操業条件を制御する。
【0022】
本発明の上記(1)においては、Hiltyの式に基づいて平衡温度THを求め、前記精錬中の溶鋼温度とHiltyの平衡温度THとの差ΔTを求め、ΔTが所定値以上になるように精錬条件を制御する。Hiltyの式を計算するためには、精錬中のその時点における溶鋼温度、[C]濃度、[Cr]濃度、PCOを定める必要がある。
【0023】
精錬中の溶鋼温度は上記測温装置を用いて精錬中に連続的に実測により求めることもでき、あるいは精錬前溶鋼温度と精錬条件とから計算により求めることもできる。計算により求めるに際しては、過去の精錬実績に基づき、送酸量実績から入熱量を計算し、冷材投入量実績から温度降下量を計算し、精錬前測温結果に基づいて現在の溶鋼温度を算出する。溶鋼温度としてこのような算出した温度ではなく精錬中の実測温度を用いると、冷却材投入時の冷却材投入速度および溶解速度のばらつき、送酸速度の時間的なばらつきなどが加味されており、計算温度よりも精度高いために、精度の高い精錬制御が行えるという効果があるので好ましい。
【0024】
精錬中の[C]濃度、[Cr]濃度については、精錬中に間欠的にサンプリングを行い、溶鋼成分分析を行うことによって求めることが可能である。また、本発明の上記(2)にあるように、精錬前の溶鋼成分、気体酸素及び固体酸素源合計の送酸量、吹き込みガス中の酸素ガス比率の推移、過去の精錬実績データに基づいて計算により求めることができる。同一の精錬条件を採用すればほぼ同一の精錬経過をたどることが知られており、過去の同様の精錬条件での実績データに基づいて精度良く溶鋼成分を推定できるからである。さらに、本発明の上記(3)にあるように、排ガス分析結果を考慮して計算により求めることもできる。精錬中の排ガス成分を連続的に分析することにより、溶鋼上に存在するスラグの組成、量の影響や二次燃焼率の時間的な小さなばらつき等の影響が加味された脱炭量の情報を得ることができ、この情報から溶鋼の組成、量のみを加味した脱炭量の計算を行う場合に比べて、精錬中における溶鋼成分の推定精度を向上することができる。
【0025】
精錬中の[C]濃度、[Cr]濃度は、本発明の上記(4)にあるように、脱炭酸素効率ηを介して、精錬開始からの時間経過と共に逐次計算によって求めることができ、これにより溶鋼成分推定精度をさらに向上することができる。
【0026】
脱炭酸素効率ηとは、溶鋼中に吹き込んだ酸素中で脱炭に使用された酸素の割合である。炉内に吹き込んだ全酸素はまず二次燃焼によって一部消費される。その後溶鋼中に吹き込んだ酸素は、脱炭と[Cr]酸化に使用される。従って、溶鋼中に吹き込んだ酸素中における脱炭に使用された酸素の比率である脱炭酸素効率ηは下記6式のように定義することができる。
η=qC/((1−R)・qT)…6式
ここで、qCは単位時間当たりに脱炭に使用された酸素ガス量(Nm3/min)、qTは単位時間当たりに吹き込んだ全酸素ガス量(Nm3/min)、Rは二次燃焼率(−)である。
【0027】
二次燃焼率Rは上吹きランスからの酸素の供給条件によって決まる値であり、供給条件が一定であればほぼ一定値を示し、定数として位置づけられ、一般的には0.05〜0.20の範囲にある。
【0028】
精錬中の任意のタイミングにおいて、その時点の脱炭酸素効率ηを求めることができれば、単位時間当たりに吹き込んだ酸素ガス量および二次燃焼率Rは既知であることから、上記6式を用いて脱炭に使用された酸素ガス量が求まり、単位時間当たりの脱炭量Δ[C]が求まる。その時点における[C]濃度が定まっていれば、求めたΔ[C]を用いて短い時間経過後の[C]濃度を算出することができる。このようにして、精錬中の[C]濃度の時間推移を逐次計算によって求めることが可能になる。
【0029】
精錬中の任意のタイミングにおいて、実測してあるいは逐次計算の結果として溶鋼温度、[C]濃度、[Cr]濃度が定まると、これにPCO実績を付加することにより、Hiltyの式からHiltyの平衡温度を求めることができ、さらに溶鋼温度TとHiltyの平衡温度との差ΔTを求めることができる。ここで、求めたΔTと上記脱炭酸素効率ηの関係を調査すると、常圧AODにおいては図4、減圧AODにおいては図5、図6の結果が得られた。図4〜6は、SUS304ステンレス鋼(18mass%−8mass%Ni)を従来の方法で2〜5minおきに溶鋼の測温およびサンプリングを行いながら、AOD炉で脱炭精錬を行った場合の吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上で酸素吹込みを開始後のΔTとηの関係を示す。なお、図中の○印は容量が60ton、●印は90tonのAOD炉のデータである。Hiltyの平衡温度THは、サンプリングした溶鋼組成とガス吹き込み条件から3式、5式を用いて算出し、ΔTは実測した溶鋼温度と求めたHiltyの平衡温度THとの差として計算した。[C]濃度は、図4はすべて0.5質量%以上、図5はすべて0.15質量%以上、図6はすべて0.15質量%以下のデータである。これらの図から明らかなように、ΔTとηとの間には極めて良好な相関があり、精錬中の任意のタイミングでΔTが求まれば、これからηを求めることができることが明らかである。
【0030】
以上のとおりであるから、精錬開始時を出発点とし、精錬開始時の[C]濃度、[Cr]濃度、PCO実績と溶鋼温度実績に基づいてΔTを求め、これからηを求めることにより、単位時間当たり脱炭量Δ[C]を求めることができる。このΔ[C]から、短い時間(Δt)経過後の[C]濃度が求まるので、このようにして逐次計算を行うことにより、精錬中における[C]濃度の時間変化を精度良く計算で求めることができる。逐次計算で用いる短い時間刻みΔtは、計算精度を維持する上で任意の時間刻みとすることができる。溶鋼温度として実際に測温した温度を用いる場合においては、測温と測温との間の間隔(測温区間)をΔtとして用いると好都合である。
【0031】
上記ΔTの計算には当該計算時点での[Cr]濃度と溶鋼温度も必要である。[Cr]濃度は、本発明の上記(2)(3)にあるように計算により求めることが可能であるが、ηを用いて逐次計算を行うことによりより高い精度で求めることが可能である。即ち、単位時間当たりにCr酸化に使用された酸素ガス量をqCrとおくと、脱炭とCr酸化に使用された合計酸素ガス量(qC+qCr)が((1−R)・qT)であるから、6式を用いて、
qCr=(1−η)・qT・(1−R)… 7式
となり、上記Δ[C]同様、単位時間当たりの[Cr]燃焼量Δ[Cr]を計算できるので、精錬中の[Cr]濃度を逐次計算によって精度良く求めることが可能になる。精錬中の溶鋼温度は、実測によりあるいは精錬前溶鋼温度と精錬条件とから計算により求めることができるが、連続測温によって実測すると最も高い精度で溶鋼温度を定めることができる。
【0032】
二次燃焼率Rは上吹きランスからの酸素の供給条件によって決まる値であり、供給条件が一定であれば、ほぼ一定値を示し、定数として位置づけられ、一般的には0〜0.20の範囲にある。もちろん、AOD炉排ガスの成分を分析することにより二次燃焼率Rの実績を求め、この実績Rを使用しても良い。
【0033】
上記計算において、Δ[C]とΔ[Cr]の計算は、具体的には本発明の上記(6)にあるように、下記8式、9式によって算出することができる。
【0034】
Δ[C]=η×qT×(1−R)×12/11.2/(10×Wm)…8式
Δ[Cr]=(1−η)×qT×(1−R)×104/33.6/(10×Wm)…9式
ただし、Δ[C]Δ[Cr]は単位時間当たりの[C][Cr]の変化量(質量%/min)、qTは単位時間当たりの酸素ガス供給速度(Nm3/min)、Rは二次燃焼率(−)、Wmは溶鋼量(ton)である。
【0035】
常圧AOD精錬であれば、精錬の開始から終了まで連続して上記逐次計算を行うことにより、精錬中任意のタイミングにおけるΔTを求めることができる。一方、精錬開始時は常圧AOD精錬であり、精錬途中において炉体に真空炉蓋を装着して真空AOD精錬を行う場合においては、本発明の上記(5)にあるように、減圧下で行う脱炭精錬を、減圧開始から酸素ガスの吹き込みを開始するまでの期間(自然脱炭期)、自然脱炭期後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上の期間(酸素脱炭期)、自然脱炭後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満の期間(拡散脱炭期)に分け、各期間毎に計算ロジックを定めることにより、精度の高い逐次計算を行うことができる。
【0036】
減圧開始から酸素の吹き込みを開始するまでの期間である自然脱炭期では脱炭量は減圧開始前の[O]濃度に比例すること、さらに減圧開始前の[O]濃度は、減圧開始前の溶鋼温度及び溶鋼組成の関数として求められることが精錬実績の解析の結果から明らかになった。まず、減圧開始前の溶鋼中[C]濃度([C]s)、溶鋼中[C]の活量(ac)及び測温された減圧開始前の溶鋼温度(To)から、減圧開始前の[O]濃度([O]cal)を求めることができる。即ち、ac及びTに基づいて[C]+[O]=CO(g)の反応での平衡[O]濃度([O]e)を溶鋼成分の活量を考慮して算出する式を用いて求める。通常は、下記10式によって算出する。
[O]e=1/(ac×fo)×10-1160/(To+273.15)-2.003…10式
次に、PCO分のずれを考慮して求められる値として、下記11式によってパラメータZを定義すると、減圧開始前の[O]濃度([O])はパラメータZと高い相関が認められることがわかっている。
【0037】
Z=[O]e×10fo/To+g × log[%C]s+h…11式
ここで、Toは減圧開始前の溶鋼温度(℃)、[%C]sは減圧開始前の溶鋼中[C]濃度(mass%)、acは減圧開始前の溶鋼中[C]の活量、foは減圧開始前の溶鋼中[O]の活量係数であり、また、g,hは精錬炉および精錬条件によって決まる定数である。
【0038】
従って、過去の精錬実績からZと減圧開始前の[O]濃度との関係を求めておけば、上記求めた[O]eおよび溶鋼温度、[C]sに基づいて減圧開始前の[O]濃度を計算で求め、この値を[O]calとすることができる。さらに、[O]calと脱炭量の間には高い相関が認められることがわかっている。従って、過去の精錬実績から[O]calと脱炭量の関係を定めておけば、上記計算によって得られた[O]calに基づき、自然脱炭期の脱炭量を求めることができる。
【0039】
図2にSUS304ステンレス鋼(18mass%Cr-8mass%Ni)を真空AOD炉で減圧精錬を行った時の減圧精錬開始前の実績[O]濃度([O]obs)と上記手順で求めた計算[O]濃度([O]cal)の関係を示す。図中の○印は炉の容量が60ton、●印は90tonの真空AOD炉のデータである。なお、60tonAODではc=18、d=0.97、f=-5700、g=0.83、h=3.35、90tonAODではc=21、d=0.98、f=-5600、g=0.85、h=3.30の値を試行錯誤法にて求め、計算に用いた。図2より、○印と●印に関係なく、両者はほぼ一致している。即ち、過去の精錬実績からZと減圧開始前の[O]濃度の関係を正しく求めておけば、当該精錬における減圧開始前[O]濃度を[O]calとして正確に計算することができることがわかる。
【0040】
図3にSUS304ステンレス鋼(18mass%Cr-8mass%Ni)を真空AOD炉で減圧精錬を行った時の上記手順で求めた[O]calと減圧開始時の自然脱炭量の関係を示す。図中の○印は炉の容量が60ton、●印は90tonの真空AOD炉のデータである。図3より、○印と●印で若干、値が異なるが、[O]calと自然脱炭量の間には良好な直線関係が得られることがわかる。
【0041】
以上より、自然脱炭期の脱炭量を容易に求められることが確認された。減圧精錬開始前の[C]濃度は溶鋼分析によって求め、この[C]濃度から上記計算した脱炭量を差し引くことによって、自然脱炭後、即ち次の酸素脱炭期開始時の[C]濃度が計算される。
【0042】
自然脱炭期における[Cr]濃度の変化は、脱炭反応が(Cr2O3)+3[C]=2[Cr]+3COと考えられるので、自然脱炭量より溶鋼中[Cr]の増加量が求められ、溶鋼量で除することで[Cr]濃度の変化量を求めることができる。
【0043】
次に、自然脱炭後の吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上の酸素脱炭期においては、本発明の上記(4)と全く同様に、脱炭酸素効率ηを介して、酸素脱炭期の開始からの時間経過と共に逐次計算によって求めることができる。上記求めた酸素脱炭期開始時の[C]濃度と[Cr]濃度を初期値とし、Hiltyの式を用いて求めたΔTの関数として脱炭酸素効率ηを求め、該脱炭酸素効率ηと酸素ガス供給速度とから脱炭速度及び[Cr]酸化速度を決定し、所定の短い時間(Δt)経過後の[C]濃度及び[Cr]濃度を計算で求め、この計算を繰り返すことによって逐次[C]濃度及び[Cr]濃度を求めることにより、精錬中の任意のタイミングにおける[C]濃度及び[Cr]濃度を精度良く計算で求めることができる。
【0044】
上記計算において、Δ[C]とΔ[Cr]の計算は、具体的には本発明の上記(6)にあるように、下記8式、9式によって算出することができる。
【0045】
Δ[C]=η×qT×(1−R)×12/11.2/(10×Wm)…8式
Δ[Cr]=(1−η)×qT×(1−R)×104/33.6/(10×Wm)…9式
ただし、Δ[C]Δ[Cr]は単位時間当たりの[C][Cr]の変化量(質量%/min)、qTは単位時間当たりの酸素ガス供給速度(Nm3/min)、Rは二次燃焼率(−)、Wmは溶鋼量(ton)である。
【0046】
次に、自然脱炭後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満の拡散脱炭期の[C]濃度推移の算出方法について説明する。含クロム溶鋼の減圧精錬では、一般に吹き込みガスの酸素ガス比率を20%未満とするのは[C]が0.1mass%以下で適用される。つまり、前述したように、溶鋼中[C]の拡散律速域である。
【0047】
図7は、SUS304ステンレス鋼(18mass%−8mass%Ni)を従来方法で2〜5minおきに溶鋼の測温およびサンプリングを行いながら、真空AOD炉で減圧脱炭精錬を行った場合の吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満での[C]の対数の時間変化を示す。なお、図中の○、□印は容量が60ton、●、黒塗り四角印は90tonのAOD炉のデータであり、○、●印は真空度が約0.1atm、□、黒塗り四角印は約0.2atmのデータである。
【0048】
図7より、各条件で直線の傾きの差はあるが、拡散脱炭期開始からの時間tとlog[C]の間には良好な直線関係が得られることが判明した。このことから、拡散脱炭期においては、拡散脱炭期開始からの炭素濃度[C]の対数(log[C])の変化しろを拡散脱炭期開始からの時間tに比例する関数として求め、これから直ちに[C]を算出することができる。また、[Cr]濃度は酸素供給速度と脱炭速度の関数として求めることができる。その理由は脱炭に必要な酸素は供給される酸素からであり、酸素供給速度が脱炭速度よりも大きい場合には残りの酸素は溶鋼中[Cr]の酸化に作用する。したがって、酸素供給速度と脱炭速度の関係で[Cr]濃度は変化することになる。
【0049】
上記本発明の(1)〜(6)において、精錬中の雰囲気中CO分圧PCOは、本発明の上記(7)にあるとおり、全圧Pと酸素ガス供給速度qT及び不活性ガス供給速度qdとから下記3式に基づいて求めることができる。
PCO=P×2×qT/(2×qT+qd)…3式
上記本発明の(1)〜(7)において、Hiltyの平衡温度THとしては、本発明の上記(8)にあるとおり下記5式により計算した値を用いることができる。しかし、Hiltyの式における常数は5式の値に限るものではなく、実質的にHiltyの平衡温度を表す式であれば良いことはいうまでもない。
【0050】
TH={−13800/(−8.76+log([C]PCO/[Cr]))}…5式
各パラメータの単位は、TH:K、[C][Cr]:質量%、PCO:atmである。
【0051】
以上のようにして精錬中の溶鋼温度とHiltyの平衡温度THとの差ΔTを求めた後、ΔTが所定値以上になるように精錬条件を制御することにより、不活性ガスの使用量を最小限に抑えつつ[Cr]の酸化ロスを抑え、耐火物の損傷を低減することができる。従来より含クロム溶鋼の脱炭を効率的に進めるにはHiltyの式から求められる優先脱炭域の精錬条件にして脱炭を行えばよいことは定性的には知られていた。しかし、定量的にηにおよぼす精錬条件の影響がわかっていなかったために、過剰な精錬操作を行う状況となり、精錬コストの増大、生産性の低下等を招いていた。本発明者らはΔTとηが前述したような定量的な関係で表せることを初めて見出し、かつ、この関係を用いて、思考錯誤的な手法により、ηを高位に保つためのΔTの条件を見出すと共に、各[C]濃度域でΔTを制御するための有効な精錬制御手段を見出した。
【0052】
具体的には、本発明の上記(9)にあるとおり、溶鋼中[C]濃度0.5質量%以上ではΔTが0℃以上、[C]濃度0.2質量%以上ではΔTが30℃以上、[C]濃度0.2質量%未満ではΔTが50℃以上になるように精錬条件を制御するとよい。
【0053】
[C]濃度が低下するにつれて、効率良く脱炭を進めるためのΔTの値が大きくなる。これは、含クロム溶鋼では[C]濃度の低下にともない、[Cr]の酸化が起きやすくなるために、平衡からのずれ指標であるΔTの値を大きくして、より[Cr]酸化を起きないようにする必要があるからである。本発明者らはこのような考えより閾値を求め、前述の値を提示した。
【0054】
ΔTを制御する方法としては、雰囲気ガスの組成を制御することによって制御する方法、又は溶鋼温度を制御する方法を採用することができる。本発明の上記(10)にあるとおり、溶鋼中[C]濃度0.5質量%以上の領域において、前記ΔTの制御を溶鋼温度の制御によって行うと好ましい。[C]濃度0.5質量%以上では通常、酸素供給速度が大きく、かつ吹き込みガスの酸素比率の高い条件で脱炭が行われる。このような条件下でΔTを制御するために、雰囲気ガスの制御を行うことは酸素供給速度を低下させることにつながり、脱炭速度の低下を招いてしまうために、ΔTの制御には溶鋼温度の制御が有効な手段となる。
【0055】
また、溶鋼中[C]濃度0.2質量%以上0.5質量%以下の領域においては、本発明の上記(11)にあるとおり、前記ΔTの制御を精錬容器内の圧力の制御によって行うと好ましい。[C]濃度0.2質量%以上0.5質量%以下の領域では通常、溶鋼温度は比較的安定した状態となると共に、高炭域に比べ、送酸速度が低下し、真空精錬が適用できる条件となる。このような条件下で高酸素供給速度で、高脱炭酸素効率を維持するには精錬容器内の圧力を制御して、ΔTを制御することが有効な手段となる。
【0056】
さらに、溶鋼中[C]濃度0.2質量%未満の領域においては、本発明の上記(12)にあるとおり、前記ΔTの制御を精錬容器内の圧力の制御及び吹き込みガス中の酸素ガス比率の制御によって行うと好ましい。[C]濃度0.2質量%未満の領域では通常、溶鋼温度は安定した状態であり、酸素供給速度が低下し、真空精錬の適用もなされている。このような条件下ではΔTの制御にはPCOの制御が重要であり、そのために精錬容器内の圧力の制御および吹き込みガス中の酸素ガス比率の制御が有効な手段となる。
【0057】
次に、減圧下で含クロム溶鋼に酸素ガスと不活性ガスを吹き込んで脱炭精錬を行う場合において、減圧開始時から前記溶鋼の温度を連続的に測定し、測定した溶鋼温度を用いて以下の1)〜3)のようにして脱炭量(Δ[%C])および[C]濃度([%C])を連続的に求めることについて、さらに説明する。
1)減圧開始から酸素ガスの吹き込みを開始するまでの期間(自然脱炭期)においては、減圧開始前の溶鋼中[C]濃度([%C]s)、溶鋼中[C]の活量(ac)及び測温された減圧開始前の溶鋼温度(T)から減圧開始前の[O]濃度([O]cal)を求め、脱炭量(Δ[%C])を[O]calの関数として求め、
2)自然脱炭期後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上の期間(酸素脱炭期)においては、測温時の真空度(P)、測温区間で吹き込んだ全酸素ガス量(Q T )、測温区間で吹き込んだ全希釈ガス量(Q d )に基づいて測温時の雰囲気中CO分圧Pcoを求め、計算溶鋼中[C]濃度([%C])、計算溶鋼中[Cr]濃度([%Cr])及び上記Pcoに基づいてHiltyの平衡温度を求め、測温された溶鋼温度Tと上記求めたHiltyの平衡温度との差(ΔT)を求め、吹き込んだ酸素ガスの中で脱炭に使用された酸素ガス比率(η)をΔTの関数として求め、上記η、上記Q T 、二次燃焼率(R)に基づいて測温区間で脱炭に使用された酸素ガス量(Q O2 )を求め、このQ O2 及び溶鋼量(Wm)に基づいて脱炭量(Δ[%C])を求め、
3)自然脱炭後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満の期間(拡散脱炭期)においては、拡散脱炭期開始からの炭素濃度[%C]の対数(log[%C])の変化しろを拡散脱炭期開始からの時間tに比例する関数として求める。
【0058】
真空AOD炉1の炉底に測温用羽口14を備え、測温処理装置17において溶鋼温度情報を出力し、制御演算装置18で精錬条件の演算を行えるような装置を用いて、酸素と不活性ガスの吹込みガスによる含クロム溶鋼の減圧脱炭精錬を実施すると、溶鋼温度を連続的に測定する手段が備えられ、かつΔ[%C]および[%C]、[Cr]濃度を連続的に推定できるために、得られた情報に応じて、Pcoを制御するための吹き込みガスの酸素ガス比率、または/および雰囲気圧力を制御することが可能になる。
【0059】
この制御により、冶金特性上で必要な溶鋼温度以上の高温状態とすることで、耐火物の溶損を招くことや、必要以上に吹込みガスの酸素の比率を低下させること、又は合金、冷却材、副原料の添加時期を遅らせることで処理時間が延長し、生産性を低下させるというような問題点が解決され、効率的な含クロム溶鋼の減圧精錬が可能となる。
【0060】
含クロム溶鋼の減圧脱炭精錬では、減圧脱炭開始時の[%C]は一般に0.1〜0.6mass%、溶鋼温度は1600〜1750℃、減圧精錬中の真空度は0.03〜0.5atmと広い範囲で変化するために、脱炭酸素効率ηは、溶鋼温度、[%C]、真空度および吹込みガスの酸素比率に依存して変化し、この変化により[Cr]の酸化損失量が変動する。そのために、連続的に測定された溶鋼温度により、ηおよびΔ[%C]を求め、これらの値によりPcoの制御を行うことは、[Cr]の酸化損失の抑制および耐火物の溶損の抑制等に効果的な手段となる。
【0061】
そこで、まずη、Δ[%C]および[%C]の算出方法について説明する。
【0062】
これまで定量的な知見は十分にはないが、含クロム溶鋼の減圧精錬では脱炭期を自然脱炭期、酸素脱炭期および拡散脱炭期の3期に分けられることが知られている。本発明者らは、種々の実験および解析により、これら3期でのΔ[%C]および[%C]を定量的に求める方法を導出した。
【0063】
まず、減圧開始から酸素の吹き込みを開始するまでの期間である自然脱炭期ではΔ[%C]は減圧開始前の[O]濃度に比例すること、さらに減圧開始前の[O]濃度は、減圧開始前の溶鋼温度及び溶鋼組成の関数として求められることを導出した。まず、減圧開始前の溶鋼中[C]濃度([%C]s)、溶鋼中[C]の活量(ac)及び測温された減圧開始前の溶鋼温度(To)から、減圧開始前の[O]濃度([O]cal)を求めることができる。即ち、ac及びTに基づいて[C]+[O]=CO(g)の反応での平衡[O]濃度([O]e)を求める。次に減圧開始前の[O]濃度は、求めた[O]eおよび溶鋼温度、[%C]sの関数として求める。こうして得られた[O]calに基づき、脱炭量(Δ[%C])を[O]calの関数として求めることができる。ここで[O]calの関数の形態としては、[O]calの一次関数とすると最も好ましいが、高次関数としあるいは別種の関数としても良い。いずれの関数を用いても、実質的に一次関数に近い関係が得られることとなる。
【0064】
以上の関係を式で表すと、下記1〜3式のように表すことができる。
【0065】
Δ[%C]=a×[O]cal+b…………1式
[O]cal=c+d×[O]e×10fo/To+g × log[%C]s+h…………2式
[O]e=1/(ac×fo)×10-1160/(To+273.15)-2.003 …………3式
ここで、Toは減圧開始前の溶鋼温度(℃)、[%C]sは減圧開始前の溶鋼中[C]濃度(mass%)、acは減圧開始前の溶鋼中[C]の活量、foは減圧開始前の溶鋼中[O]の活量係数であり、また、a,b,c,d,f,g,hは精錬炉および精錬条件によって決まる定数であり、過去の精錬実績に基づいて容易に定めることができる。
【0066】
3式は、[C]+[O]=CO(g)の反応での平衡[O]濃度([O]e)を求める式であり、溶鋼温度及び溶鋼組成が判明すれば容易に求まる値である。2式は減圧開始前の[O]濃度は[O]eおよび溶鋼温度、[%C]sの関数として求められることを示す式である。通常、[O]濃度の分析には長時間を要するため、精錬中の分析は行われていないが、[O]濃度の分析値がわかる場合には、1式の計算の[O]濃度([O]cal)に、この値を代用することが可能である。2式に3式を代入した式を用いれば、計算の途中段階で[O]eを算出することなく[O]calを求めることができる。同様に、1式の[O]calに2式の[O]calを代入した式を用いれば、計算の途中段階で[O]calを算出することなくΔ[%C]を求めることができる。
【0067】
図2にSUS304ステンレス鋼(18mass%Cr-8mass%Ni)を真空AOD炉で減圧精錬を行った時の減圧精錬開始前の実績[O]濃度([O]obs)と前記2、3式より求めた計算[O]濃度([O]cal)の関係を示す。図中の○印は炉の容量が60ton、●印は90tonの真空AOD炉のデータである。なお、60tonAODではc=18、d=0.97、f=-5700、g=0.83、h=3.35、90tonAODではc=21、d=0.98、f=-5600、g=0.85、h=3.30の値を試行錯誤法にて求め、計算に用いた。図2より、○印と●印に関係なく、両者はほぼ一致している。
【0068】
図3にSUS304ステンレス鋼(18mass%Cr-8mass%Ni)を真空AOD炉で減圧精錬を行った時の2、3式にて求めた[O]calと減圧開始時の自然脱炭量(Δ[%C])の関係を示す。図中の○印は炉の容量が60ton、●印は90tonの真空AOD炉のデータである。図3より、○印と●印で若干、値が異なるが、[O]calとΔ[%C]の間には良好な直線関係が得られる。
【0069】
以上より、Δ[%C]は前記1〜3式より、容易に求まることが確認された。
【0070】
次に、自然脱炭後の吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上の酸素脱炭期における脱炭酸素効率ηおよび脱炭量(Δ[%C])の算出方法について説明する。
【0071】
ηは、二次燃焼分を除く、測温区間で吹込んだ全酸素ガス量(QT)のうち脱炭に使用された酸素ガス量(QO2)の割合を示し、一般に下記5式で定義される。また、上記QO2及び溶鋼量(Wm)に基づいて化学量論的に脱炭量(Δ[%C])を求めることができる。従って、ηが求まれば、Δ[%C]を求めることができる。より具体的には、Δ[%C]は下記4式で求めることができる。
【0072】
Δ[%C]=η×QT×(1−R)×11.2/12/(10×Wm)…………4式
η=QO2/((1−R)×QT)…………5式
ここで、QTは測温区間で吹き込んだ全酸素ガス量(Nm3)、Rは二次燃焼率(−)、Wmは溶鋼量(ton)、QO2は測温区間で脱炭に使用された酸素ガス量(Nm3)、Δ[%C]は測温区間での脱炭量(質量%)を示す。また、測温区間とは連続測温される情報を画像処理等を加え、表示するまで要する時間を意味し、通常、1〜5秒間の時間間隔である。
【0073】
二次燃焼率Rは上吹きランスからの酸素の供給条件によって決まる値であり、供給条件が一定であれば、ほぼ一定値を示し、定数として位置づけられ、一般的には0〜0.20の範囲にある。もちろん、AOD炉排ガスの成分を分析することにより二次燃焼率Rの実績を求め、この実績Rを使用しても良い。
【0074】
減圧精錬開始後、自然脱炭期の後の酸素吹込み開始時より逐次、ηが求まれば、吹込んだ酸素量QT、二次燃焼率Rおよび溶鋼量Wmは既知であることから、脱炭に使用された酸素ガス量QO2が求まり、Δ[%C]が求まる。減圧精錬開始前の溶鋼組成、精錬中に添加した合金やスクラップ等の量および組成がわかれば、上記η、上記QT、二次燃焼率(R)に基づいて測温区間で脱炭に使用された酸素ガス量(QO2)を求め、このQO2及び溶鋼量(Wm)に基づいて脱炭量(Δ[%C])が容易に求められることになる。また、脱炭および二次燃焼に使用された以外の酸素が全て溶鋼中[Cr]の酸化に使用されたと仮定することができるので、この仮定に基づき、溶鋼中[Cr]濃度を求めることができる。
【0075】
次に、溶鋼温度測定に基づくηの算出方法について説明する。
【0076】
測温された現在の溶鋼温度TとHiltyの平衡温度との差をΔTとおく。Hiltyの平衡温度とは、Th(℃)=−13800/(−8.76+log([%C]Pco/[%Cr]))で表される温度である。即ち、下記7式が導かれる。ここにおいて、本発明方法においては[%C]と[%Cr]を短いインターバルで連続的に求めているので、[%C]には直前の計算溶鋼中[C]濃度、[%Cr]には直前の計算溶鋼中[Cr]濃度を用いることができる。直前の計算[C]濃度とΔ[%C]から測温時の[C]濃度を推定して用いても良い。[Cr]濃度も同様である。また、測温時の雰囲気中CO分圧Pcoは、測温時の真空度(P)、測温区間で吹き込んだ全酸素ガス量(QT)、測温区間で吹き込んだ全希釈ガス量(Qd)に基づいて求めることができる。具体的には下記8式である。8式は吹き込んだ全酸素ガスが全て脱炭に使用された場合を想定してPcoを求める式である。実際のPcoは8式で求められる値より小さい値となるが、Pcoは測定することが困難であり、8式でPcoの最大値を見積もることで、反応状態の評価が可能になる。
【0077】
図5は、SUS304ステンレス鋼(18mass%−8mass%Ni)を従来の方法で2〜5minおきに溶鋼の測温およびサンプリングを行いながら、真空AOD炉で減圧脱炭精錬を行った場合の吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上で酸素吹込みを開始後のΔTとηの関係を示す。なお、図中のデータは全て[C]濃度が0.15mass%以上のデータであり、また、図中の○印は容量が60ton、●印は90tonのAOD炉のデータであり、ΔTは測温、サンプリングした時の真空度、ガス吹き込み条件および溶鋼の温度、組成より、下記7、8式より求めた値である。
【0078】
ΔT={T+273.15)−(−13800/(−8.76+log([%C]Pco/[%Cr]))}…7式
Pco=P×2×QT/(2×QT+Qd)…………8式
ここで、Tは測温された溶鋼温度(℃)、[%C]は溶鋼中[C]濃度(mass%)、[%Cr]は溶鋼中[Cr]濃度(mass%)、Pは測温時の真空度(atm)、QTは測温区間に吹き込んだ全酸素量(Nm3)、Qdは測温区間で吹き込んだ全希釈ガス量(Nm3)である。
【0079】
図5より、○印と●印で若干、値は異なるが、両者ともΔTが50℃以上でΔTとηの間には良好な直線関係が得られる。即ち、吹き込んだ酸素ガスの中で脱炭に使用された酸素ガス比率(η)をΔTの関数として、好ましくは一次関数として求められることが判明した。関数形としては、高次関数又は別種の関数とすることも可能であるが、いずれの関数を用いても実質的に一次関数に近い関係が得られることとなる。より具体的には、ΔTとηとの関係は下記6式にて表されることが確認された。
【0080】
η=j×ΔT+k…………6式
ここで、jおよびkは精錬炉によって求まる定数を示し、過去の精錬実績に基づいて容易に定めることができる。
【0081】
前述したようにηが求まればΔ[%C]を求めることができる。より具体的には、Δ[%C]は上記4式で求めることができる。Δ[%C]を求めるに際し、計算過程でη、ΔT、Pcoを求めても良いが、算出ロジックあるいは算出式を相互に代入して、η、ΔT、Pcoを求めずに直接Δ[%C]を求めることができるのはいうまでもない。
【0082】
図6は、図5と同様にして、吹き込みガスの酸素ガス比率20%以上の条件で[C]濃度0.15mass%以下の範囲で求めたΔTとηの関係を示す。図5に比べ、同一ΔTでηの値が小さくなっているが、精錬炉毎にΔTが50℃以上で、ΔTとηの間に良好な直線関係が得られ、8式の関係が成り立つことが確認された。
【0083】
図5および図6より、6式の関係が成り立ち、定数であるjとkを精錬炉および[C]濃度範囲毎に求めれば精度良く、ηを求めることができる。ηが求まれば、前述したように、溶鋼中[C]および[Cr]濃度も求めることが可能になる。なお、図5と図6では[C]濃度のしきい値を0.25mass%として、ΔTとηの関係を求めたが、[C]濃度をさらに、細かく限定した範囲で両者の関係を求めれば、ηの精度が向上する。
【0084】
図5および図6より、ΔTが50℃未満ではΔTとηとの直線関係が崩れ、ηが極端に小さくなる傾向、つまり[Cr]の酸化が進行し易くなることを示している。これは、ΔTが0以下では前述の4式での[Cr]酸化優先域になり、ΔTが50℃未満と小さい値では徐々に[Cr]酸化が優先されるためと考えられる。
【0085】
これより、含クロム溶鋼の減圧脱炭精錬ではΔTを50℃以上に制御することで、効率的な脱炭が可能になる。ΔTを制御するための操作要因には、前記7式より、T、[%C]、Pco、[%Cr]が挙げられる。この中で、[%C]および[%Cr]は目標とする成分範囲の制限があるために、有効な操作とならない。次に、Tの制御はSi、Alのような酸化発熱の大きな元素を含む合金の添加、あるいは冷却材の添加により可能ではあるが、これらの添加は溶鋼量および溶鋼組成の変化を招き、ηの推定の誤差を大きくするために、十分な効果が得られないことが確認された。したがって、ΔTの制御にはPcoの制御が最も有効な手段である。
【0086】
次に、Pcoの制御であるが、前記8式よりPcoの制御には雰囲気圧力Pの制御、および吹込みガスの全ガス量に対する酸素ガス量の比率の制御の2つの方法がある。一般に、含クロム溶鋼の減圧下の脱炭反応は、[C]濃度0.15mass%以上では酸素供給律速、0.15mass%以下では溶鋼中[C]の拡散律速と言われている。
【0087】
一方、真空精錬炉ではスプラッシュあるいはボイリング等の制約により、雰囲気圧力毎に、吹き込む全ガス量に上限が存在し、雰囲気圧力が小さいほど吹き込めるガス量が低下する。酸素供給律速域では酸素ガス量を稼ぐことが有効であり、雰囲気圧力の制御を行うことは不利である。
【0088】
したがって、Pcoの制御は、溶鋼中[C]濃度が0.15mass%以上の領域では吹込みガスの全ガス量に対する酸素ガス量の比率の制御によって行うこと、溶鋼中[C]濃度が0.15mass%以下の領域では吹込みガスの全ガス量に対する酸素ガス量の比率の制御または/および雰囲気圧力の制御によって行うことが有効な手段となる。
【0089】
次に、自然脱炭後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満の拡散脱炭期の[C]濃度([%C])推移の算出方法について説明する。含クロム溶鋼の減圧精錬では、一般に吹き込みガスの酸素ガス比率を20%未満とするのは[%C]が0.1mass%以下で適用される。つまり、前述したように、溶鋼中[C]の拡散律速域である。
【0090】
図7は、SUS304ステンレス鋼(18mass%−8mass%Ni)を従来方法で2〜5minおきに溶鋼の測温およびサンプリングを行いながら、真空AOD炉で減圧脱炭精錬を行った場合の吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満での[%C]の対数の時間変化を示す。なお、図中の○、□印は容量が60ton、●、黒塗り四角印は90tonのAOD炉のデータであり、○、●印は真空度が約0.1atm、□、黒塗り四角印は約0.2atmのデータである。
【0091】
図7より、各条件で直線の傾きの差はあるが、拡散脱炭期開始からの時間tとlog[%C]の間には良好な直線関係が得られることが判明した。このことから、拡散脱炭期においては、拡散脱炭期開始からの炭素濃度[%C]の対数(log[%C])の変化しろを拡散脱炭期開始からの時間tに比例する関数として求め、これから直ちに[%C]を算出することができる。より具体的には、拡散脱炭期の[%C]は下記9式あるいは9’式にて表されることが確認された。ここで、関数の形態としては上記関数形とは別種の関数を採用することもできるが、いずれの関数形を採用しても炭素濃度[%C]と時間tとの関係は炭素濃度[%C]の対数の変化しろが拡散脱炭期開始からの時間tに比例する関数による場合に近似したものとなるのは当然である。
【0092】
log[%C]−log[%C]0=m×t…………9式
[%C]=[%C]0×10m × t…………9’式
ここで、[%C]0は拡散脱炭期開始時の溶鋼中[C]濃度(mass%)、tは拡散脱炭期開始時からの経過時間(min)である。また、mは精錬炉および精錬条件によって決まる定数であり、過去の精錬実績に基づいて容易に定めることができる。
【0093】
以上より、減圧開始時から溶鋼の温度を連続的に測定することで、連続的にΔ[%C]および[%C]を求められることが確認された。より具体的には、前記1〜9式を用いて求めることができる。
実施例
SUS304ステンレス鋼(18mass%Cr−8mass%Ni)の精錬を図1に示す60t真空AOD炉にて実施した。電気炉にて溶解した粗溶鋼([C]=約2.0mass%,[Si]=0.3mass%,[Ni]=7.5mass%,[Cr]=19mass%,温度=約1450℃)55tonを真空AOD炉に装入した後、最初は大気圧下で上底吹きにより吹錬を開始した。
【0094】
真空AOD炉は上底吹きが可能な複合吹錬タイプのもので、上吹きは22mmφ×2孔のランスを用い、最大4000Nm3/Hrの酸素ガスを供給した。底吹きは炉の側壁に設けた5本の2重管羽口(内管内径15mmφ、外管外径20mmφ)より最大5000Nm3/Hrの酸素ガス、ArガスとN2ガスの不活性ガスを供給した。脱炭反応の進行による[C]濃度の低下に伴って、上吹きは酸素ガス供給速度を低下させ、底吹きは吹込みガスの酸素ガス比率を低下させた。[C]濃度が約0.5mass%なった時点で溶鋼のサンプリングを行った後に、減圧精錬を開始した。
【0095】
減圧精錬では減圧開始から約30secは不活性ガスのみの供給を行い、その後は吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上で行い、[%C]が約0.1mass%以下の脱炭末期では酸素ガス比率を20%未満として精錬を行った。
【0096】
精錬中、炉底に設けた二重管羽口の内管内径10mmφのArガス吹込み孔にイメージファイバーを挿入し輝度イメージを得た。得られた輝度イメージはArガス気泡を介して見た溶鋼の輝度だけではなく、ガス吹込みパイプの内周面や、パイプ先端に生成された地金(マッシュルーム)の輝度も含まれているために、これを画像処理して、真の溶鋼部の輝度情報のみを抽出し溶鋼温度に換算した。内管Arガス流量は100Nm3/Hrとした。
【0097】
表1に実施結果について、大気圧および減圧精錬下での連続測温の有無、連続Δ[%C]および[%C]、[%Cr]の推定の有無、ΔT制御の有無および各[C]濃度範囲でのPcoの制御方法を示す。
【0098】
なお、No.1〜No.6の例は本発明例、No.7〜No.12の例は本発明の条件外の例を示す。本発明例のNo.1〜No.5では[C]濃度0.5質量%以上ではΔTが0℃以上になるように溶鋼温度の制御を行い、[C]濃度0.2質量%以上0.5質量%以下ではΔTが30℃以上になるように精錬容器内の圧力の制御を行い、[C]濃度0.2質量%未満ではΔTが50℃以上になるように精錬容器内の圧力の制御および吹き込みガス中の酸素ガス比率の制御を行った。本発明例のNo.6ではηの推定は行ったが、ΔTが所定値以上になるように制御を行わなかった例である。
【0099】
一方、比較例のNo.7、No.8では連続測温は行ったが、Δ[%C]および[%C]、[%Cr]の推定は行わなかった例であり、それ以外の比較例では連続測温も行わなかった例である。
【0100】
【表1】
【0101】
表2に実施結果について、平均のΔT、[Cr]酸化指数、耐火物溶損指数、脱炭時間指数および精錬コスト指数を示す。これらの指数は本発明例のNo.1の例を100として比例換算したものである。
【0102】
【表2】
【0103】
本発明例では連続的に測定される溶鋼温度により連続的にΔ[%C]の推定し、[C]濃度および[Cr]濃度の推定ができるために、これらの値に応じて、精錬制御操作を行うことで脱炭精錬時間を短縮でき、かつ[Cr]の酸化損失および耐火物溶損を低位に安定させ、精錬コストを低減できた。
【0104】
一方、比較例では、溶鋼温度に応じた精錬制御が不可能であり、かつΔ[%C]の推定、[C]濃度、[Cr]濃度の推定ができず、そのために実際の溶鋼温度がばらつき、[Cr]酸化、耐火物溶損を過大に進行させてしまい、かつ脱炭時間も長くなり、精錬コスト増を招いてしまった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を実施するための装置例を模式的に示す図である。
【図2】 減圧精錬開始前の実績[O]濃度と計算[O]濃度の関係を示す図である。
【図3】 減圧精錬開始前の計算[O]濃度と減圧精錬での自然脱炭量の関係を示す図である。
【図4】 常圧AOD精錬での溶鋼中[C]濃度0.5mass%以上におけるΔTと脱炭酸素効率の関係を示す図である。
【図5】 減圧AOD精錬での溶鋼中[C]濃度0.15mass%以上におけるΔTと酸素脱炭期での脱炭酸素効率の関係を示す図である。
【図6】 減圧AOD精錬での溶鋼中[C]濃度0.15mass%以下におけるΔTと酸素脱炭期での脱炭酸素効率の関係を示す図である。
【図7】 拡散脱炭期の精錬時間と拡散脱炭期での溶鋼中[C]濃度の関係を示す図である。
Claims (2)
- 大気圧下又は減圧下で含クロム溶鋼に酸素ガスと不活性ガスを吹き込んで脱炭精錬を行う方法において、
精錬中の溶鋼温度を実測によりあるいは精錬前溶鋼温度と精錬条件とから計算により求め、
精錬中の[C]濃度及び[Cr]濃度を、精錬前溶鋼成分と精錬条件とから計算により求め、精錬中の雰囲気中CO分圧PCOを、全圧Pと酸素ガス供給速度q T 及び不活性ガス供給速度q d とから下記(1)式に基づいて求め、前記[C]濃度、[Cr]濃度、PCOに基づいて含クロム溶鋼の脱炭反応の平衡温度Tを、下記(2)式によりHiltyの平衡温度T H (K)として求め、前記精錬中の溶鋼温度と該平衡温度Tとの差ΔTを求め、
その際、精錬中の[C]濃度及び[Cr]濃度を、精錬前の溶鋼成分における値を初期値とし、前記求めたΔTの関数として下記(3)式より脱炭酸素効率ηを求め、該脱炭酸素効率ηと酸素ガス供給速度q T から下記(4)式を用いて脱炭速度Δ[C]を、及び下記(5)式から[Cr]酸化速度Δ[Cr]をそれぞれ決定して、[C]濃度及び[Cr]濃度を更新し、この計算を繰り返すことによって逐次[C]濃度及び[Cr]濃度を求めるようにし、
溶鋼中[C]濃度0.5質量%以上では、ΔTが0℃以上になるように溶鋼温度を制御し、[C]濃度0.2質量%以上0.5質量%未満の領域においてΔTが30℃以上となるように精錬容器内の圧力を制御し、[C]濃度0.2質量%未満の領域ではΔTが50℃以上になるように精錬容器内の圧力の制御及び吹き込みガス中の酸素ガス比率の制御を行うことを特徴とする含クロム溶鋼の脱炭精錬方法。
ここで、
P CO =P×2×q T /(2×q T +q d ) ……(1)式
T H ={−13800/(−8.76+log([C]P CO /[Cr]))} ……(2)式
η=j×ΔT+k ……(3)式
Δ[C]=η×q T ×(1−R)×12/11.2/(10×Wm) ……(4)式
Δ[Cr]=(1−η)×q T ×(1−R)×104/33.6/(10×Wm) ……(5)式
ただし、上記式において、Rは二次燃焼率(−)、Wmは溶鋼量(ton)、jとkは精錬炉および精錬条件によって決まる定数、である。また、式の各パラメータの単位は、[C]濃度、[Cr]濃度:質量%、Δ[C]、Δ[Cr]:質量%/min、q T とq d :Nm 3 /min、T H :K、PとP CO :atm、である。 - 減圧下で行う脱炭精錬を、減圧開始から酸素ガスの吹き込みを開始するまでの期間(自然脱炭期)、自然脱炭期後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%以上の期間(酸素脱炭期)、自然脱炭後、吹き込みガスの酸素ガス比率が20%未満の期間(拡散脱炭期)に分け、
1)前記自然脱炭期においては、減圧開始前の溶鋼中[C]濃度[%C]s、溶鋼中[C]の活量ac及び減圧開始前の溶鋼温度To(℃)から減圧開始前の[O]濃度[O]calを(7)式及び(8)式より求め、自然脱炭期の脱炭量Δ[%C]を該減圧開始前の[O]濃度の関数として(6)式より求め、[Cr]濃度は自然脱炭期の脱炭量の関数として求め、
2)前記酸素脱炭期においては、酸素脱炭期開始時の[C]濃度と[Cr]濃度を初期値とし、前記求めたΔTの関数として脱炭酸素効率ηを前記(3)式より求め、該脱炭酸素効率ηと酸素ガス供給速度とから前記(4)式より脱炭速度、及び前記(5)式より[Cr]酸化速度を決定して[C]濃度及び[Cr]濃度を更新し、この計算を繰り返すことによって逐次[C]濃度及び[Cr]濃度を求め、
3)前記拡散脱炭期においては、拡散脱炭期開始からの[C]濃度[%C]の対数の変化しろを(9)式より拡散脱炭期開始からの時間tに比例する関数として求め、[Cr]濃度は酸素供給速度と脱炭速度の関数として求めることを特徴とする請求項1に記載の含クロム溶鋼の脱炭精錬方法。
Δ[%C]=a×[O]cal+b ……(6)式
[O]cal=c+d×[O]e×10 fo/To+g × log[%C]s+h ……(7)式
[O]e=1/(ac×fo)×10 -1160/(To+273.15)-2.003 ……(8)式
log[%C]−log[%C] 0 =m×t ……(9)式
ここで、foは減圧開始前の溶鋼中[O]の活量係数であり、a,b,c,d,g,hは精錬炉および精錬条件によって決まる定数である。
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