JP4531227B2 - 鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定方法及びその測定装置 - Google Patents

鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定方法及びその測定装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を非破壊で測定する方法及び装置であり、より詳細には、方向性珪素鋼帯の脱炭焼鈍後に表層に生成する内部酸化層の酸素量である酸素目付量を、特にオンラインで分析できる方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性珪素鋼板は、軟磁性材料として、主に変圧器あるいは回転機等の鉄心材料として使用されるもので、磁束密度が高く、鉄損および磁歪が小さいという磁気特性を有することが要求される。このような方向性珪素鋼板を製造する場合には、焼鈍と冷延とを繰り返し行うのが一般的であるが、この中で、一次再結晶をさせるための脱炭焼鈍を施した鋼板の表面には、主としてSiが選択酸化された内部酸化層、いわゆるサブスケールが形成される。
【0003】
この一次再結晶させた鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍することにより、二次再結晶組織を形成させ、表層ではサブスケール内のSiO2 とMgOを反応させてフォルステライト(Mg2 SiO4 )質の絶縁被膜を形成させる。
【0004】
この絶縁被膜の品質には、脱炭焼鈍後に形成されるサブスケールの量や性状が大きな影響を与え、サブスケールの量等が適正でないと剥離等の欠陥の原因となることが知られており、従って、方向性珪素鋼板の製造において脱炭焼鈍後のサブスケール量の管理は重要である。
【0005】
サブスケール量の指標値としては、例えば特開昭55−110726号公報や特公平7−56048号公報に開示されているように、鋼板の単位面積当たりの酸素量、即ち酸素目付量が利用されている。
【0006】
しかし、この脱炭焼鈍後に鋼板表層に形成されるサブスケールは、厚さが数μm程度と非常に薄いこと、Fe中にSiO2 が分散した内部酸化層であること、酸素(O)成分を大気中で迅速に測定できる手法がないことなどの理由から、従来よりオンラインで酸素目付量を測定するのは困難とされていた。
【0007】
このため、一般には、脱炭焼鈍後の鋼板を打抜き等によりサンプリングし、サブスケール付きのまま鋼板の酸素分析を行うことによって酸素目付量を求めるという方法が用いられている。
【0008】
しかしながら、このような方法は、分析に時間を要すること、局所的な情報しか得られないこと等の問題があり、操業管理のためには、連続して迅速かつ非破壊で酸素目付量を測定できるオンライン分析法の開発が強く望まれていた。
【0009】
一方、この脱炭焼鈍後の酸化膜(サブスケール)の解析は、従来の酸素分析を用いた場合だけではなく、赤外吸収スペクトル、グロー放電分光分析、蛍光X線分析、X線回折分析などの各種の方法を用いた場合についても行われている。
【0010】
赤外吸収スペクトルによる分析法は、反射法であれば極表層のSi系酸化物の形態を判別することができ、表層の酸化物のみを化学的に抽出して測定すれば酸化物全体の中の形態情報が得られる。
グロー放電分光分析法は、サブスケールを含む表層部の深さ方向元素分布に関する情報を得ることができる。
蛍光X線分析法は、数μm〜数十μmの分析深さを有する精度のよい元素分析法として、表層の元素量に関する情報が得られる。
X線回折法は、酸化物の形態に関する情報を得ることができる。
【0011】
このような解析法を応用してオンラインでサブスケールの評価を行う場合、非破壊でかつ迅速に酸素目付量を測定する方法としては、光またはX線を利用する方法が考えられる。
【0012】
例えば、光を利用してオンラインで電磁鋼板脱炭焼鈍板酸化層中の酸化物の定量分析を行う方法については、特開平10−325755号公報に開示されており、この方法は、赤外光を焼鈍板表面に照射し、反射した光を測定することによって得られた赤外吸収スペクトルの情報から酸化物の定量分析を行おうとするものである。
【0013】
しかし、この方法で評価できるのはサブスケールの極表層の部分だけであり、サブスケールのように内部酸化により生成した酸化物がFe中に分散した層の場合には、内部の酸化物の情報は得られない。なぜならば、赤外線は金属表面では反射されるため、金属内部に存在する物質の情報は得られないからである。従って、特開平10−325755号公報記載の方法は、Feの上に存在している極表層の酸化物を評価する方法であって、サブスケール層全体の酸素量の分析法としては適さない。
【0014】
またオンライン分析法として、めっき分析等でよく利用されるX線回折による方法を用いることも考えられるが、サブスケール内に存在する酸化物は非晶質のものも多いため、回折ピーク強度と酸素量の相関は得にくい場合があり、酸素目付量の分析法としては必ずしも適しているとは言えなかった。
【0015】
一方、特開平2−274817号公報には、1次再結晶焼鈍板の1次皮膜(サブスケール)の酸素量をオンラインで測定する方法が開示されている。この方法は、脱炭焼鈍板の表面から発生するMnやSiなどの蛍光X線強度を測定することによって、酸素量を間接的に求める方法である。
【0016】
また、特開平10−219359号公報にも、同様の方法が開示されている。この方法は、酸素の特性X線であるOKα線のエネルギーが非常に弱く、 酸素の特性X線の強度を直接測定できないため、他の元素の特性X線の強度を測定して、加熱帯及び均熱帯での雰囲気ガス露点を管理し、これによって、電磁鋼板の酸化層を間接的に制御するものである。即ち、酸素を測定する代わりに、鋼板を焼鈍した場合に表層でSiやP等の各種元素が濃化あるいは減衰する挙動をモニターし、これと酸素量の関係を予め求めておくことによって、酸素量を間接的に測定するというものである。
【0017】
これらの方法は、酸素量に基づく物理量を直接測定するのではなく、あくまで他の元素の挙動と酸素量との関係を実験的に求めることが前提となるが、その関係は素材の組成や焼鈍条件によっても異なってくることは明らかで、そのため、素材の組成等の条件を限定することが必要となり、汎用性がない。
【0018】
また、軽元素であるSiやPは、その特性X線であるSiKαやPKαの鋼中での減衰が大きく、Fe中での半減厚(その中を通過する放射線の強度が半減する物質の厚さ)はそれぞれ0.4μm、0.6μmであるため、数μmの厚さがあるサブスケールを評価する場合には、その全体量を正確に分析することは難しい。
【0019】
一方、特開昭57−197410号公報には、X線を用いて軽元素から構成される高分子膜の付着量を測定する方法が開示されている。この方法は、コンプトン散乱を利用することによって高分子膜の付着量を測定するものである。
【0020】
ここで、「コンプトン散乱」とは、試料に照射されたX線が試料を構成する原子中の電子に運動エネルギーを与え、その分だけエネルギーを失うことによって波長が長く(エネルギーは低く)なって散乱される現象であり、この散乱は、入射X線の波長が短い程、また試料を構成する元素の原子番号が低いほど強く現われるという特長がある。
【0021】
特開昭57−197410号公報に記載の方法は、この原理を利用したもので、軽元素であるCやOが主成分で、数十μm(塩化ビニールで100g/m2 以上)と十分な厚さを有する塗膜からのコンプトン散乱線を測定することによりオンライン分析を可能にした。同様に、金属あるいは鋼板の上に金属とは全く異なる塗膜を付着させ、その塗膜の量をコンプトン散乱線を用いてオンライン測定する手法は、特開昭64−41810号公報などにも開示されている。
【0022】
しかしながら、サブスケール層は、塗膜に比べて1〜2桁程度薄いことに加え、Feベース中に酸化物が分散した層であるため、地鉄の原子番号とサブスケール層の平均原子番号との差はかなり小さくなることから、コンプトン散乱によるサブスケール層の測定は困難であるとされ、これまでは検討されていなかった。
【0023】
即ち、コンプトン散乱を用いて軽元素から構成される層を測定する方法は、塗膜や高分子膜などのように、主に軽元素で構成されかつ十分な厚さをもつ層を有する鋼板等に限られていた。
【0024】
以上のように、脱炭焼鈍後の珪素鋼板表層の酸素量である酸素目付量を、特にオンラインにて、酸素の存在そのものが物理現象を左右する手法で測定する方法はこれまでにはなかった。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、脱炭焼鈍後に珪素鋼板の表層に形成されるサブスケールの量を表す酸素目付量をオンラインで測定するための適切な方法及び装置はこれまでにはなく、打抜き試料によりオフライン測定をするなどの方法で対処するしかなかった。
【0026】
しかし、前述のように酸素目付量は、最終的に得られるフォルステライト被膜の密着性などの品質に大きな影響を与えるため、迅速かつ連続的にその量を測定できるオンライン測定法及び測定装置が開発できれば、操業の条件制御に大きく貢献できる。
【0027】
この発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、内部酸化層を有する鋼帯、例えば脱炭焼鈍後に珪素鋼帯の表層に形成されるサブスケールにおける酸素目付量を直接的に精度よく測定する方法、特にオンラインで測定する方法及びその装置を提供することを目的とする。
【0028】
【課題を解決するための手段】
第1発明は、かかる目的を達成するためになされたもので、内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射し、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線の強度を測定し、この測定した強度から鋼帯の内部酸化層の酸素目付量を非破壊で測定することを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定方法である。
【0029】
尚、この発明でいう「鋼帯」の概念には、所定寸法に切り出した鋼板も含めることとする。
【0030】
また、コンプトン散乱線の強度の他に、レイリー散乱線の強度も、好ましくは同時に測定し、それらの強度比を用いることにより、パスライン変動および地鉄のSi濃度の影響を軽減して、精度のよい酸素目付量の測定方法を提供するものである。
【0031】
加えて、上記発明の測定方法は、特にオンラインの測定に用いることが好ましい。
【0032】
さらに、複数の検出器を設置してその積算強度を用いることにより、感度及び精度のよい酸素目付量の測定を行うことも可能である。
【0033】
そして、さらに精度よく分析するためには、オンライン測定で避けられない鋼帯のバタツキ(パスライン変動)によるX線強度の変動を、距離計による放射線源及び分光結晶を含む光学系と鋼帯の距離の測定値で補正することが好ましい。
【0034】
さらに、一次X線照射位置に不活性ガスを吹き付けることにより、X線によるオゾン発生を抑制して鋼帯の分析位置が酸化されることを防いで、精度よく鋼帯表層の酸素量である酸素目付量を測定することが好ましい。
【0035】
また、レイリー散乱線及びコンプトン散乱線の強度は、母材の集合組織の影響を受けてX線管球及び検出器の配置、即ち光学条件によっては変動する傾向があるため、この影響を受けにくい光学条件に配置して測定できるようにすることが好ましい。
【0036】
また、第2発明は、内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射する放射線源と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線の強度を測定する検出器と、該検出器により測定した前記強度に基づいて、前記鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を演算する演算器とを具えることを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定装置である。
【0037】
さらに、第3発明は、内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射する放射線源と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線の強度を測定するコンプトン散乱線用検出器と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するレイリー散乱線の強度を測定するレイリー散乱線用検出器と、該検出器によりそれぞれ測定した前記強度の比に基づいて、前記鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を演算する演算器とを具えることを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定装置である。
【0038】
さらにまた、第4発明は、内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射する放射線源と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線及びレイリー散乱線の強度を同時に測定するエネルギー分散型検出器と、該検出器により測定した前記強度の比に基づいて、前記鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を演算する演算器と、を具えることを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定装置である。
【0039】
また、上記測定装置に加えて、放射線源及び分光結晶を含む光学系と鋼帯の距離を測定する距離計を設けることが好ましく、さらに、鋼帯のX線照射位置に不活性ガスを吹き付ける機構を有することが好ましい。
【0040】
さらに、前記鋼帯の圧延方向に対して放射線源、一次X線照射中心及び分光結晶を含む面が10〜80度の角度となるように前記放射線源及び前記検出器を配置することがより好適である。
【0041】
【発明の実施の形態】
以下、この発明をさらに詳細に説明する。
コンプトン散乱は、前述したように軽元素ほど強く散乱が生じ、また、入射X線の波長が短い(エネルギーが高い)ほど強く現われる現象であるため、大気中において蛍光X線では測定できない軽元素の分析法に用いるのが好ましい。
【0042】
この発明は、上記現象を利用したものであり、鋼帯(例えば珪素鋼焼鈍板)の表層が酸化されて酸素量が増加するのに対応してコンプトン散乱強度が増大することを利用したものであり、即ち、この散乱強度と化学分析により求めた酸素目付量との関係を予め調べておき、実際に測定した散乱強度から酸素目付量を一義的に求めることにある。
【0043】
ここで特に問題となるのはその感度である。
コンプトン散乱は、軽元素のみに生じる現象ではなく、Feや他の重元素においても生じる現象である。また、コンプトン散乱線の波長は、試料の組成や目的にしている元素とは関係がなく、散乱角のみによって決まる。さらに、Oで散乱された散乱線とFeで散乱された散乱線は、共に同じ検出器で検出されるため、鋼板上に薄く酸化物が分散した状態のサブスケールの場合には、測定されるコンプトン散乱強度は、ベースとなる地鉄からのコンプトン散乱線の強度と、表層酸化物からのコンプトン散乱線の強度とが加算された形で検出される。
【0044】
一方、コンプトン散乱は、入射X線の波長が短い(エネルギーが高い)場合に強く現われるため、通常は短い波長の入射X線が用いられる。そのため、地鉄への侵入深さは深くなり、コンプトン散乱線の発生に寄与できる深さは深くなる。
【0045】
例えば、RhKαの場合には、Feに吸収されて強度が1/2になる厚さ(半減厚)は約35μmである。従って、このような特性X線のコンプトン散乱線をそのまま測定すると、数μmのサブスケール層からの散乱線の強度に対して、地鉄からの散乱線の強度の方が相対的に大きくなり、サブスケール層の酸素目付量の変化に対する散乱線強度の変化、即ち感度が小さく精度が悪くなってしまう。
【0046】
このため、サブスケールからの情報を相対的に高くして感度を上げる方法を検討した結果、Feに吸収されやすい特性X線を利用すること、また、散乱X線の取り出し角度を浅くすることにより分析深さを浅くすればよいことがわかった。具体的には、特性X線としてはFeに吸収されやすいMoKα線が感度がよい点で好ましい。
【0047】
また、取出角θ(°)を変化させた場合の酸素目付量に対するコンプトン散乱強度の変化率(%)を検討した結果を図10に示すが、図10の結果から、前記取出角θが40°よりも大きいと、コンプトン散乱強度が殆ど変化しなくなり、40°以下の範囲内で低角にするほど感度向上効果が大きく、好ましいことがわかった。一方、オンライン測定を考慮すると、10°未満の光学系を設計するのは困難である。従って、取出角θは、実用的な範囲として10°〜40°にすることが好ましい。
【0048】
そして、このような条件下で実験を行った結果、コンプトン散乱強度と酸素目付量とは良好な関係が得られ、散乱強度を用いて酸素目付量の測定が可能なことを確認した。
【0049】
しかし、このような測定をオンラインで精度よく行うには、鋼帯のバタツキ(パスライン変動)によるX線強度の変動が問題となる。このため、放射線源及び分光結晶を含む光学系と試料との距離を変化させて実験を行った結果、実際に予想される数mmの距離変動に対して、X線強度と距離の関係は図11に示すように一義的に決まり、距離を測定しておけばX線強度の変化の補正が可能であることを確認した。
【0050】
一方、母材のSi濃度が異なった場合には、コンプトン散乱強度と酸素目付量との関係が変化する(バイアスが生じる)こともわかった。即ち、母材のSi濃度が高い場合には、母材によるX線の吸収量がわずかに減ることに伴って、散乱強度が高くなる傾向があるからである。また、この現象はレイリー散乱においても同様であった。
【0051】
そこで、発明者らがコンプトン散乱とレイリ一散乱の強度比をとることにより、前記バイアスの影響の軽減が可能か否かを検討した結果、これらの強度比をとることにより、Si濃度が変化しても、表層(サブスケール層)の酸素量との対応は一致し、その影響を軽減できることがわかった。
【0052】
また、レイリー散乱とコンプトン散乱を近接した検出器で同時に測定してそれらの比をとれば、オンライン分析においては高速で搬送される鋼帯が基準位置から変動するいわゆるパスライン変動の影響を軽減できることもわかった。さらに、装置自体の経時変化による強度変動も相殺できた。従って、オンライン測定法としてレイリー散乱強度とコンプトン散乱強度の比を用いて計測することは誤差を軽減するために非常に有効である。
【0053】
一方、鋼板の圧延方向に対するX線管球および検出器の位置関係を変えて実験を行った結果、レイリー散乱だけでなくコンプトン散乱線も強度が変化することを確認した。
【0054】
鋼板中の結晶は、圧延等の影響により、方向がある程度揃った集合組織を有しており、レイリー散乱はこの影響を受けてその集合組織を反映した方向性(方向による強度分布)を有する。同様に特定の波長で測定されるコンプトン散乱線も、前述のように鋼板の圧延方向に対する検出器の方向関係を変化させて測定した結果、方向により強度変動のあることがわかった。即ち、レイリー散乱、コンプトン散乱ともに母材の集合組織の影響を受けていることを確認した。
【0055】
このため、鋼帯の酸素目付量をコンプトン散乱線の強度を用いて測定する場合の検出器の最適な方向を検討すべく実験を行った結果、図12に示すように、圧延方向に対して垂直に検出器を配置するよりも圧延方向と平行に検出器を配置した方が、酸素目付量に対するX線強度の変化量が大きいことを見出した。
【0056】
そして、内部酸化層を有する鋼帯に対して90°で一次X線を照射し、該鋼帯から発生するコンプトン散乱線とレイリー散乱線の強度を、取出角θ:10〜40°の範囲で取出し、X線管球とX線照射中心と各検出器とを含む面が、圧延方向に対し垂直な位置を避けて配置することによって、より効果的に母板の集合組織の影響を軽減させることができる。
【0057】
さらに、統計変動誤差およびパスライン変動による誤差の軽減には、各強度の測定は、鋼帯に対して90°入射のX線管球のまわりに同等な複数の検出器を置き、その強度を積算して用いることが有効であることを確認した。
【0058】
一方、大気中で強力な一次X線を鋼板試料に照射した結果、鋼板試料の表層には、数十分間の照射によって目視でも観察できる酸化が認められた。この現象は真空中では観察されず、照射位置以外の部分でも認められない。従って、これは大気中でX線照射により発生するとされるオゾンが鋼板の表面の酸化を促進したものと考えられる。高速で通過する鋼板では大きな問題はないと考えられるが、標準試料等の測定においては、分析面が酸化されると酸素目付量測定に大きく影響する。
【0059】
このため、X線照射部位にNガスを吹き付けながら測定を行った結果、酸化現象は殆ど認められず、分析に支障のないことが確認できた。従って、N、Ar等で代表される不活性ガスのように反応性のないガスを吹き付けながら測定することがよいことがわかった。
【0060】
以上のように種々の条件を整えれば、内部酸化層を有する鋼帯 (例えば珪素鋼焼鈍板)に、X線管よりターゲットからの特性X線を含む一次X線を照射し、該鋼帯から発生する特性X線のコンプトン散乱線の強度から、又はこの強度とレイリー散乱線の強度の双方から酸素目付量を測定できること、また、集合組織の影響を軽減する光学系を採用し、鋼帯と光学系の距離を測定する距離計や、鋼帯のX線照射位置に反応性のないガス(例えば不活性ガス)を吹き付ける機構とを装備すれば、さらに精度よく酸素目付量の測定ができる。
【0061】
【実施例】
以下、この発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
この発明の代表的な測定装置の光学系の概念図を図1に示す。X線管球3にはMoを用い、鋼帯1に対して90°でX線が照射されるようにX線管球3を配置する。X線管球3のまわりに取出角θ=32°でこの光学条件に合わせたMoKαコンプトン散乱測定用検出器6を4個設置している。各検出器6の信号は、計数回路部9で計数し、演算器10に送られる。そして、予め求めておいたコンプトン散乱強度と化学分析により求めた酸素目付量の関係を用いて酸素目付量を算出することができる。
【0062】
次に、この発明の他の実施形態を図2〜図6に示す。図2に示す測定装置は、上記構成に加えて、さらに、X線管球3のまわりに取出角θ=32°でこの光学条件に合わせたMoKαレイリー散乱測定用検出器7を4個設置したものである。これらの検出器6,7としては、例えば、高負荷で高計数率測定ができ、オンライン条件下の測定に適した波長分散型検出器を用いることが好ましい。図7に、取出角θ=32°、即ち散乱角122 °で測定されるMoKαのレイリー及びコンプトン散乱のスペクトルの一例を示す。即ち、分光結晶8にLiF(220) を用いた場合には、回折角(2θ) が20.40 °の位置でMoKαのレイリー散乱線を、21.40 °の位置でMoKαのコンプトン散乱線を測定できる。各検出器6,7の信号は、計数回路部9で計数し、演算器10に送られる。ここでは、レイリー及びコンプトンそれぞれの散乱毎に各検出器からの強度を積算し、さらにレイリー散乱とコンプトン散乱の強度比を計算する。そして、予め求めておいたレイリー散乱に対するコンプトン散乱の強度比と化学分析により求めた酸素目付量の関係を用いれば、母材中のSi濃度の変化等に依らず酸素目付量を正確に算出することができる。
【0063】
また、図3の測定装置は、図2の測定装置に用いた検出器6,7の代わりに、MoKαコンプトン散乱線とレイリー散乱線を同時に測定できるエネルギー分散型検出器15を用いたものである。エネルギー分散型検出器15は、測定時間が長くなるものの、検出器の計数能力から低負荷となり、余分なスリットや分光結晶が不要となるので測定装置をコンパクトにできるという利点がある。
【0064】
さらに、図4〜6の測定装置は、それぞれ図1〜3の測定装置の構成に加えて、鋼帯と光学系との距離を測定する距離計16と、X線照射部にN2ガスを吹き付けるためのガス吹き付け機構17を一体化してヘッド部18としたものであり、前記距離計16によって鋼帯と光学系との距離が測定され、演算器10に送られてX線強度の補正に用いられ、また、ガス吹き付け機構17からN2ガスをX線照射部へ吹き付けることによって、照射位置の酸化が防止できる。
【0065】
そして、演算器10によって演算された酸素目付量は、表示器12に示されるとともに、焼鈍炉の管理システム13に情報が送られ、炉の監視及び制御に反映させることができる。
【0066】
図1の装置を用いて、鋼帯(珪素鋼板焼鈍板)のMoKαコンプトン散乱強度を測定し、化学分析により酸素目付量を求めた値との関係を図8に示す。母材(珪素鋼板)中のSi含有量が同じである場合には、MoKαコンプトン散乱強度と化学分析による酸素目付量とは良好な関係が得られているが、母材中のSi含有量が異なる場合には、バイアスを生じている。
【0067】
次に、図2の装置を用いて、コンプトン散乱とレイリー散乱の強度比と化学分析により酸素目付量を求めた値との関係を示したものを図9に示す。
図9から明らかなように、レイリー散乱とコンプトン散乱の強度比をとることにより、母材中のSi含有量が異なる場合であっても、前記強度比は酸素目付量との良好な対応関係が得られ、前記バイアスの影響を軽減することができた。
【0068】
さらに、図5の装置を用いて、コンプトン散乱とレイリー散乱の強度比と化学分析により酸素目付量を求めた値との関係を示したものを図13に示す。図13から明らかなように、鋼帯と光学系との距離の測定からX線強度を補正するとともに、N2ガスをX線照射部へ吹き付けることにより、前記強度比と酸素目付量とは、母材中のSi含有量に依存することなく同一の対応関係が得られ、前記バイアスの影響をほぼなくすことができた。
【0069】
尚、この発明の測定方法は、パスライン変動の影響も軽減できるため、オンライン分析法として大変有効な方法である。
【0070】
【発明の効果】
この発明の測定方法を用いることにより、従来オフラインでしか測定できなかった鋼帯(珪素鋼脱炭焼鈍板)の酸素目付量をオンラインで分析できるようになった。この結果、例えば脱炭焼鈍炉の制御や後工程への情報の伝達が迅速に連続してできるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明(第2発明)の測定装置の概念図である。
【図2】 別の測定装置(第3発明)の概念図である。
【図3】 他の測定装置(第4発明)の概念図である。
【図4】 本発明の他の測定装置の概念図である。
【図5】 本発明の他の測定装置の概念図である。
【図6】 本発明の他の測定装置の概念図である。
【図7】 この発明のコンプトン散乱線とレイリー散乱線のスペクトルの一例を示す図である。
【図8】 珪素鋼脱炭焼鈍板におけるMoKα線のコンプトン散乱強度と化学分析による酸素目付量の関係を示す図である。
【図9】 珪素鋼脱炭焼鈍板におけるMoKα線のコンプトン散乱強度のレイリー散乱強度に対する強度比と、化学分析による酸素目付量との関係を示す図である。
【図10】 取出角θとコンプトン散乱強度の変化率(%)の関係を示す図である。
【図11】 試料と光学系の距離変動と、MoKα線のコンプトン散乱強度変化の関係を示す図である。
【図12】 圧延方向に対しそれぞれ垂直及び平行に検出器を配置した場合の、化学分析による酸素目付量とMoKα線のコンプトン散乱強度との関係を示す図である。
【図13】 珪素鋼脱炭焼鈍板におけるMoKα線のコンプトン散乱強度のレイリー散乱強度に対する強度比と、化学分析による酸素目付量との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 鋼帯(珪素鋼脱炭焼鈍板)
2 サブスケール層
3 X線管球
4 一次X線
5 散乱X線
6 コンプトン散乱線用検出器
7 レイリー散乱線用検出器
8 分光結晶
9 計数回路部
10 演算器
11 X線発生装置
12 表示器
13 焼鈍炉管理システム
14 スリット
15 エネルギー分散型検出器
16 距離計
17 ガス吹き付け機構
18 ヘッド部

Claims (6)

  1. 内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射し、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線の強度を測定し、この測定した強度から鋼帯の内部酸化層の酸素目付量を非破壊で測定することを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定方法。
  2. 内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射し、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線とレイリー散乱線の強度を同時に測定し、それらの強度比から鋼帯の内部酸化層の酸素目付量を非破壊で測定することを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定方法。
  3. 鋼帯の酸素目付量をオンラインで測定する請求項1又は2に記載した鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定方法。
  4. 内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射する放射線源と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線の強度を測定する検出器と、該検出器により測定した前記強度に基づいて、前記鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を演算する演算器とを具えることを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定装置。
  5. 内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射する放射線源と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線の強度を測定するコンプトン散乱線用検出器と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するレイリー散乱線の強度を測定するレイリー散乱線用検出器と、該検出器によりそれぞれ測定した前記強度の比に基づいて、前記鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を演算する演算器とを具えることを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定装置。
  6. 内部酸化層を有する鋼帯にMo管球を線源とする一次X線を照射する放射線源と、該鋼帯から取出角10°〜40°の方向に発生するコンプトン散乱線及びレイリー散乱線の強度を同時に測定するエネルギー分散型検出器と、該検出器により測定した前記強度の比に基づいて、前記鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量を演算する演算器とを具えることを特徴とする鋼帯に形成される内部酸化層の酸素目付量の測定装置。
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