JP4527653B2 - Nb3Sn超電導線材およびそのための前駆体 - Google Patents

Nb3Sn超電導線材およびそのための前駆体 Download PDF

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Description

本発明は、ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材およびそのための前駆体(NbSn超電導線材製造用前駆体)に関するものであり、特に高分解能核磁気共鳴(NMR)分析装置のマグネットに代表される液体ヘリウム浸漬冷却型の超電導マグネットや冷凍機冷却型の超電導マグネット等に適用される構成素材としてのNbSn超電導線材およびこうした超電導線材を製造するための前駆体に関するものである。
超電導線材を巻回したコイルに大電流を流し強磁場を発生させる超電導マグネットは、核磁気共鳴(NMR)分析装置や各種物性評価装置の他に、核融合装置等への応用を目指して、その開発が進められている。このうち、NMR分析装置は、結晶化できない生体高分子やタンパク質の分子構造を解析できる唯一の装置であり、ポストゲノム開発を推進するための強力なツールである。またこの装置では、超電導マグネットが発生する磁場が高ければ高い程、分析の分解能が向上しNMR信号とノイズの比が高くなって、より短時間での分析が可能となる。そして、上記のような超電導マグネットの構成素材としては、従来からNbSn超電導線材が代表的なものとして汎用されている。
上記のようなNbSn超電導線材を製造する方法としては、これまでも様々なものが知られているが、最も代表的な方法としては、ブロンズ法が知られている。
図1は、ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材の断面構造を模式的に示した説明図であり、図中1はNbまたはNb合金芯、2は線状のCu−Sn基合金製母材(ブロンズマトリックス)、3は拡散バリヤー層、4は安定化銅、5は一次スタック材(NbSn超電導線材製造用前駆体)、6は外層ケース、7は二次多芯ビレットを夫々示す。
まず図1に示すように、Cu−Sn基合金製母材2に複数(この図では7)のNbまたはNb合金芯1を埋設して六角断面に成形加工した一次スタック材5(NbSn超電導線材製造用前駆体)を構成し、この一次スタック材5を複数束ねて、拡散バリアー層3としてのNbシートやTaシートを巻いたパイプ状のCu−Sn合金(外層ケース6)内に挿入し、或は束ねた一次スタック材に直接NbシートやTaシートを巻き付け、更にその外側に安定化銅4を配置して二次多芯ビレット7を組み立てる。尚、前記拡散バリヤー層3は、NbSn生成のための熱処理時にSnの外方への拡散を抑制する機能を発揮するものである。また安定化銅4は、NbSn超電導線材の安定化材として配置されるものであり、例えば無酸素銅からなるものである。
図1に示した二次多芯ビレットを、静水圧押出しし、続いて引き抜き加工等により減面加工を施してNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体とする。その後、650〜720℃程度の温度で100時間ほどの熱処理(拡散熱処理)をすることにより、NbまたはNb合金芯1の表面近傍(この場合には、Cu−Sn合金製母材2とNbまたはNb合金芯1の界面)にNbSn相を形成させるものである。
尚上記構成では、二次多芯ビレット7における安定化銅4は、最外層として設けたものを示したけれども、安定化銅4の位置は、二次多芯ビレット7の中心部(軸芯部)に設ける構成も採用される。また、図1に示したものは、二次多芯ビレット7の断面形状は円形のものを示したが、例えば図2に示すような断面矩形状のもの(平角線材)も採用される。
ところで、ブロンズ法でNbSn超電導線材を作製する場合、ブロンズマトリックス中のSn濃度が高いほど高磁場中の臨界電流密度Jcが向上し、より高い磁場を発生させる超電導マグネットの実現に有利となる。しかしながら、Cu−Sn基合金のα相中のSn固溶限界は15.8質量%であり、これを超えてSnを含有させる場合には、Cu−Snの金属間化合物(代表的なものとして「δ相」)が生成する。但し、この固溶限界値は520〜586℃の高温での値であって、実際のブロンズインゴットの製造段階では、冷却の関係から15.6質量%程度が固溶限界となる。
そして、δ相はα相よりも硬く延性が乏しいため、減面加工中に線材割れの原因となる。またNbSnの上部臨界電流値を高めるために、Cu−Sn基合金母材中にTi等の第三元素を添加することも知られているが、その場合でもSnの固溶限界はほとんど変化しない。
δ相の加工性の問題を解決するために、冷間減面加工の加工率や焼鈍温度を規定して冷間加工と焼鈍を繰り返して行なうことにより、生成したδ相を小さく分割させながら加工するという方法も提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、この方法ではδ相が消失するわけではなく、小さくても残存するために、線材を細く加工していくと線径に対するCu−Sn系金属間化合物の直径の比が高くなり、割れが生じる可能性が高くなってしまう。
また、ブロンズマトリックス中にNbまたはNb合金芯が埋設された前駆体の外周に、加工性の良い純Cuを配して割れや断線等の不具合を避けるという技術も考案されている(例えば、特許文献2)。しかしながらこの技術では、Snを含まない純Cuを用いるために、全体が高Sn濃度のブロンズで構成される場合に比べて全体のSn量が不足し、超電導特性が充分でないという問題が生じる。
更に、Sn濃度を比較的多くすると共に、所定量のTiを含有することによって、高温における押し出し比を大きくできる技術も提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、この技術においては、δ相への認識はされておらず、実施例においても上記固溶限界までのSnしか含有されていないものである。
上記のような加工性の問題を解決し、健全に線材が加工できたとしても、NMR分析装置のマグネットに用いる線材として必要な超電導特性(臨界電流密度Jcとn値)の仕様を簡単に満足することは難しい。例えば、減面加工後のNbまたはNb合金芯(これを、「Nbフィラメント」と呼ぶことがある)を細くすると臨界電流密度Jcは高くなるがn値が低くなるし、Nbフィラメントを太くすればn値は高くなるが臨界電流密度Jcは低くなる傾向がある。単にブロンズ中のSn濃度を向上させるだけでなく、線材の断面構成を最適化する必要がある。尚、n値とは、超電導状態から常電導状態への転移の鋭さを示す量であり、大きな方が特性的に優れていると言われているものである。
上記のような課題が存在するために、これまで20T(テスラ)以上という非常に高い磁場で、4.2Kの液体ヘリウム温度で実用レベルの超電導特性を有するブロンズ法NbSn超電導線材は実現されていないのが実情である。
特許第3108496号公報、特許請求の範囲等 特開平8−96633号公報 特許請求の範囲等 特許第1515094号公報 特許請求の範囲等
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的は、高Sn濃度のブロンズを用いても、Nbフィラメント径に比べて大きなδ相を発生させずに加工性の良好なNbSn超電導線材製造用前駆体を提供することにあり、必要によって線材の断面構成を最適化した多芯型前駆体を構成することによって、高い磁場での実用レベルの超電導特性を発揮するNbSn超電導線材を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明のNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体とは、Cu−Sn基合金製母材に複数のNbまたはNb基合金芯を埋設したNbSn超電導線材製造用前駆体を含んで複数束ね、これを減面加工した多芯型前駆体であって、
前記Cu−Sn基合金製母材はSnを含有する他、Tiおよび/またはZrを含有し、Snの含有量をX(質量%)、Tiおよび/またはZrの合計含有量をY(質量%)としたとき、これらが下記(1)式および(2)式の関係を満足すると共に、NbまたはNb基合金芯の合計断面積に対するCu−Sn基合金断面積の比Bzと、NbまたはNb基合金芯の平均径Df(μm)が、下記(3)式および(4)式の関係を満足する点に要旨を有するものである。
0.4≦(X−15.6)/Y≦1.9…(1)
15.6<X≦19 …(2)
2Bz≦Df≦4Bz …(3)
1.8≦Bz≦3.0 …(4)
上記のような本発明のNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体において、前記Nb基合金芯は、Taおよび/またはHfを合計で0.1〜5.0質量%含有するものであることが好ましい。
上記のようなNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体を熱処理することによって、Cu−Sn基合金製母材とNbまたはNb基合金芯の界面にNbSn相を形成すれば、超電導特性(臨界電流密度Jcおよびn値)の良好なNbSn超電導線材が得られる。
本発明によれば、前駆体を構成するCu−Sn基合金に所定量のTiやZrを含有させることによって、固溶限界を超える高いSn濃度を有しながらδ相の生成を抑制したブロンズ合金をマトリックスとするNbSn超電導線材を製造することが可能となり、性能的に従来よりも高い磁場で必要とされる超電導特性が得られるようになった。これにより、これまでに存在しない、例えば960MHz以上のNMRマグネットなどを実現することが可能となり、生体高分子やタンパク質の分子構造の詳細な解析が可能となる。
本発明者らは、上記課題を解決するために様々な角度から検討した。その結果、Cu−Sn基合金に第三元素のTiおよび/またはZrを含有させることによって、Cu−Sn基合金中のδ相そのものを消失することができることが判明したのである。これによって、これまで常温での固溶限界とされる15.6質量%よりも多くのSnをCu−Sn基合金に含有させてもδ相が生成しないことになる。15.6質量%を超えてSnを含有させると、α相に固溶できないSnが生じるが、このSnはCu−Sn−TiやCu−Sn−Zrとなって析出することになる。しかしながら、これらの析出物は、第三元素(Tiおよび/またはZr)の濃度が適量であれば、その大きさは2μm程度以下と非常に小さなものとなり、Nbフィラメント径よりも小さくなっており、線材全体の加工性には影響しない。
これに対して、前述したδ相では減面加工の前には小さいものでも100μm以上であり、減面加工によって断面は小さくすることはできても、伸線方向に伸ばされていて全体の大きさとしては加工前とあまり変わらないものである。しかも、このCu−Sn−TiやCu−Sn−Zrは、NbSn相を生成させる拡散熱処理中に分解し、その時に発生したSnはNb3Sn相生成に提供されることが予想され、ブロンズマトリックス中の全てのSnに、Nbフィラメントと反応できる可能性を持たせることができる。
TiやZrの含有量が低すぎると、ブロンズマトリックス中にδ相が析出して線材全体の加工性に悪影響を及ぼし、多すぎるとCu−Sn−TiやCu−Sn−Zrが大きくなって、やはり線材の加工性に悪影響を与える。こうしたことから、TiやZrのCu−Sn基合金への含有量を適切な範囲に制御する必要がある。
本発明者らは、TiやZrの合計含有量Yとして、Cu−Sn基合金中のSn含有量Xとの関係で最適な関係について検討した。その結果、0.4≦(X−15.6)/Y≦1.9[前記(1)式の関係]および15.6<X≦19[前記(2)式の関係]満足する範囲ではδ相の析出を防止でき、且つCu−Sn−TiやCu−Sn−Zrの生成を微細化するために適正であることを見出し、本発明を完成した。また、こうした関係を満足する場合には、Cu−Sn基合金インゴット中のCu−Sn−(Ti.Zr)の大きさを10μm以下に抑制されて、加工性が良好となるために、前記特許文献3に示されるように押出し比や伸線加工の温度に制約されずに、加工を行なうことができる。尚、前記(1)式の好ましい範囲は、0.6≦(X−15.6)/Y≦1.0である。
ところで、超電導特性としては、NbSn相の生成面積を大きくすると、臨界電流密度Jcは高くなるが、Nbフィラメントが全てNbSn相になってしまうと、n値は低下する傾向がある。逆に、NbSn相の生成面積が小さいくなると、n値は高いが臨界電流密度Jcは低くなる。こうしたことから、未反応のNbフィラメントを適量に残すことによって、両者共に高い値が得られるものと考えられる。
NnSn相の生成面積は熱処理時間が長くなると増加する傾向があるが、実質的には100時間を超えて熱処理を行なってもNbSn相の生成面積は大きくは変化しないので、100〜150時間程度が標準的な熱処理時間と考えることができる。
本発明者らは、こうした標準的な熱処理時間を想定した場合に、多芯型前駆体とした後のNbまたはNb基合金芯(即ち、Nbフィラメント)の合計断面積に対するCu−Sn基合金(ブロンズマトリックス:前記外側ケース6も含む)の比(以下、「ブロンズ比Bz」と呼ぶ)と、Nbフィラメントの平均径Dfが、前記(3)式および(4)式の関係を満足するものであれば、熱処理後に得られるNbSn超電導線材の臨界電流密度Jcおよびn値共に高い値が得られることが判明した。
尚ブロンズ比は、多芯型前駆体の最終線径の段階でのものであるが、このブロンズ比は減面加工の加工率の如何に係わらず、一次スタック材の段階でのブロンズ比とほぼ同様の値となる。また、このときの減面加工率は、下記の式で示されるものであるが、好ましい範囲は99.90〜99.99%程度である。
加工率=(二次多芯ビレットの断面積―線材最終線径の断面積)/(二次多芯ビレットの断面積)
本発明の超電導線材製造用前駆体において用いるNb基合金芯は、純NbにTaやHfを含有させたものを用いることができ、これによって超電導特性(特に臨界電流密度Jc)を更に向上させることができる。但し、これらの元素を含有させる場合には、その含有量も適切に調整するのが良い。NbにTaやHfを含有させると、純Nbに比べて室温での引張り強度や硬さが向上することになる。また押出し後の減面加工は室温で行なうが、その減面加工の途中では一般にCu−Sn基合金は純Nbよりも硬くなっており、しかもCu−Sn基合金は減面加工中に加工硬化するので両者の硬さの差は大きくなる。複合体の場合に、その構成材料の硬さが大きく異なると健全な加工が難しくなる。純NbにTaやHfを0.1〜5.0質量%程度含有させることにより、適正に硬さを向上させ、Cu−Sn基合金との硬度差を低減することができるので、長手方向により均一な断面を有する加工が可能となる。その結果、n値も更に向上することになる。TaやHfの合計含有量が0.1質量%未満の場合には、純Nbと硬さが殆ど変わらず、含有量が5.0質量%を超えるとNb基合金自体の加工性が低下して健全な加工が困難となる。
上記のような要件を満足する一次スタック材を束ねて本発明の多芯型前駆体が構成されることになるのであるが、束ねる一次スタック材の全てが必ずしも、上記要件[前記(1)式および(2)式の関係]を満足している必要はなく、その一部がこれらの要件を満足しないものであっても、全体として上記要件を満足するように一次スタック材を含んで構成すれば良い。即ち、その一部としてSn含有量、TiやZrの含有量等に変動があって、上記(1)式および(2)式の関係を満足しない一次スタック材がその一部に含まれていても、多芯型前駆体全体の組成として、上記(1)式および(2)式の関係を満足していれば、本発明の目的が達成できるものである。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。例えば、前記図1、2では、一次スタック材として断面が六角形状のものを示したが、丸形、その他の形状のものも採用できるものである。また、安定化銅を二次多芯ビレットの中心部(軸芯部)に設けた構成のものに対しても適用可能である。
比較例1
Cu−16質量%Sn−0.15質量%Ti[(X−15.6)/Y=2.7]の組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、大気中において680℃×100時間+600℃×100時間の条件で均質化のための溶体化処理を行なった。尚、Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるミクロ観察分析では、100μmレベルのCu−Sn化合物(δ相)が残存していることが確認された。
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシート(前記拡散バリヤー層3)を巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した(全加工率99.98%)。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。またブロンズ比Bzは、2.2であった。最終条長が合わせて2500mの線材に加工する途中で、合計5回の断線が生じた。断線部分を電子顕微鏡で観察すると、Cu−Sn化合物(δ相)が起点となっていることが確認された。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
比較例2
Cu−16質量%Sn−2.0質量%Ti[(X−15.6)/Y=0.20]の組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、大気中において680℃×100時間+600℃×100時間の条件で均質化のための溶体化処理を行なった。尚、Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるミクロ観察分析では、Cu−Sn化合物(δ相)が消失していることが確認された。
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した(全加工率99.98%)。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。またブロンズ比Bzは、2.2であった。
このとき、断線は1回も生じなかった。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−SnTi化合物の存在が認められ、或る部分はNbフィラメントを歪めるようにして析出していることが判明した。
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jc(=臨界電流/安定化銅を除いた部分の断面積)とn値(発生電圧と通電電流の対数プロットの傾き)を評価したところ、nonCu-Jc=135A/mmと高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準の130A/mmを超える値が得られていたが、n値は21となっており使用可能と考えられる30以上という基準を下回っていた。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
実施例1
Cu−16質量%Sn−0.5質量%Ti[(X−15.6)/Y=0.80]の組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、大気中において680℃×100時間+600℃×100時間の条件で均質化のための溶体化処理を行なった。Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるミクロ観察分析では、Cu−Sn化合物(δ相)が消失していることが確認された。
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。
このとき、断線は1回も生じなかった。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−Sn0−Ti化合物の存在は認められなかった。
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jcとn値を評価したところ、nonCu-Jc=148A/mmとn値=35という高い値が得られ、いずれも高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準を満たしていた。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認し、計算によって求めた。
実施例2
Cu−Sn基合金にTiやZrを含有させた各組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造してインゴットを製作し、実施例1と同じ条件で均質化のための溶体化処理を行なった。このときのCu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるミクロ観察分析で、インゴット中のCu−Sn化合物(δ相)の有無を調べた。その後、得られたインゴットと純Nbを用い、実施例1と同様にブロンズ比が2.2の一次スタック材を製作し、その後静水圧押出し、減面加工を行なって、実施例1と同様の断面形状を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した(全加工率99.98%)。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析し、Cu−Sn−(Ti,Zr)の大きさを測定し、組成との関係について調査した。その結果(Snの含有量XとTiとZrの合計含有量Yが化合物の形態に与える影響)を図3に示す。この図において、「▲」印は溶体化処理したインゴット中に、Cu−Sn化合物(δ相)が現れた組成、「△」印は線材加工後に6.0μm以上のCu−Sn−(Ti,Zr)が現れた組成、「○」印は溶体化処理したインゴット中にCu−Sn化合物(δ相)が現れず且つ線材加工後に6.0μm以上のCu−Sn−(Ti、Zr)も現れない組成、を夫々示す。またラインAは、Y=(X−15.6)/0.4の関係を表すものであり、ラインBは、Y=(X−15.6)0.9の関係を表すものである。これらの結果から、前記(1)式および(2)式の関係を満足するもの(「○」印のもの)は、化合物の形態が良好に制御できていることが分かる。
実施例3
Cu−16質量%Sn−0.5質量%Ti[(X−15.6)/Y=0.80の組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、実施例1と同じ条件で均質化のための溶体化処理を行なった。Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。そのCu−Sn基合金を用いて、ブロンズ比が1.4〜3.4の範囲の一次スタック材を製作し、これを約4000本束ねたものに直接Nbシート(前記拡散バリヤー層3)を巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、Nbフィラメントの平均径Dfが3.0〜11.0μmとなるように最終の断面サイズを調整して、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した(全加工率99.98%)。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jcとn値を評価した。その結果を、図4および図5に示す。図4はブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfの関係が臨界電流密度nonCu-Jcに与える影響を示したものであり、図5はブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfの関係がn値に与える影響を示したものである。尚図4中の数値は臨界電流値(A/mm)を示しており、図5中の数値はn値を示している。また、図4、5中のラインCはDf=4Bzを示しており、ラインDはDf=2Bzを示している。
この結果から明らかなように、前記(3)式および(4)式の関係を満足する範囲では、高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる臨界電流密度nonCu-Jcとn値の基準を満足していることが分かる。尚、Tiの代わりにZrをCu−Sn基合金に含有させても、同様の結果が得られることが確認できた。
実施例4
実施例1で製作したCu−16質量%Sn−0.5質量%Ti[(X−15.6)/Y=0.80]の組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、実施例1と同じ条件で均質化のための溶体化処理を行なった。Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。このCu−Sn基合金とNb−3.0質量%Taを用いて、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した(全加工率99.98%)。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。また、ブロンズ比Bzは2.2であった。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
このとき、断線は1回も生じなかった。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−Sn−Ti化合物の存在は認められなかった。
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jcとn値を評価したところ、nonCu-Jc=145A/mmとn値=42という実施例1よりも高い値が得られ、いずれも高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準を満たしていた。
上記実施例では、一次スタック材として同一サイズのものを使用したが、異なるサイズの一次スタック材を用いたり、NbやNb基合金を埋設していないCu−Sn基合金の一次スタック材を一部として用いて多芯型前駆体を構成することも可能であり、要するに熱処理前の多芯型前駆体の段階でのブロンズ比Bzが上記(3)式および(4)式の関係を満足するようにすれば、同一サイズ・同一形態の一次スタック材を用いる場合と同様の効果が期待できる。
実施例5
Cu−17.0質量%Sn−0.8質量%Ti[(X−15.6)/Y=1.75]の組成の溶体化したCu−Sn基合金と純Nbを用いて、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。このとき、断線は1回も生じなかった。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−Sn−Ti化合物の存在は認められなかった。
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jcとn値を評価したところ、nonCu-Jc=145A/mmとn値=35という高い値が得られ、いずれも高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準を満たしていた。
この組成のCu−Sn基合金を用いた線材のブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについて、高磁場NMR線材として使用可能と考えられる基準を満たす領域について調べたところ、前記図4および図5と同等の結果が得られ、2Bz≦Df≦4Bz、且つ1.8≦Bz≦3.0が適切な範囲であることが分かった。
尚、上記実施例1〜5においては、NbSnを生成するための熱処理を、720℃×100時間の一段階で行っているが、(600〜670℃)×(50〜200時間)+(680〜750℃)×(50〜150時間の二段階熱処理を行なうことにより、一段階熱処理よりも更に高いnonCu−Jcが得られることが判明した。
電子顕微鏡によるブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfの確認については、下記のようにして行なった。まずブロンズ比Bzについては、一次スタック材が少なくとも19個以上の領域において、電子顕微鏡写真を画像処理し、Cu−Sn基合金とNbフィラメント径に分けてその面積比を求めた。Nbフィラメントの平均径Dfについては、一次スタック材が少なくとも19個以上の領域において、電子顕微鏡写真の各Nbフィラメント断面の最長径を加算して、加算したNbフィラメントの数で割って求めた。
誘導結合プラズマ分光法(ICP)による線材のCu−Sn基合金の組成は、下記のようにして求めた。まず、線材を数10mm長さに切断し、安定化銅部分を硝酸で除去した後に、塩酸と硝酸と水の混合溶液に線材サンプルを入れて200〜300℃に加熱し、Nbを残してCu−Sn基合金部分を全て溶かし、更に硫酸を加えて加熱することにより、溶け残った酸化物も溶かしてサンプル溶液を作った。このサンプル溶液をプラズマ発光させ、分光スペクトルにより溶液中の組成を求めた。
電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるCu−Sn−Ti等の観察は、電子顕微鏡で線材断面の反射電子像(組成が異なると明暗のコントラストがつく)を観察しながら、Cu−Sn基合金やNb芯とは異なる析出物が見られた部分に10〜30keVに加速した電子線を照射して、放出された特性X線のスペクトルから、Cu−Sn−Ti等の組成を求めた。
ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材の断面構造の一例を模式的に示した説明図である。 ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材の断面構造の他の例を模式的に示した説明図である。 Snの含有量XとTiとZrの合計含有量Yが化合物の形態に与える影響を示すグラフである。 ブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfの関係が臨界電流密度nonCu-Jcに与える影響を示したグラフである。 ブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfの関係がn値に与える影響を示したグラフである。
符号の説明
1 NbまたはNb合金芯
2 Cu−Sn基合金製母材(ブロンズマトリックス)
3 拡散バリヤー層
4 安定化銅
5 一次スタック材(NbSn超電導線材製造用前駆体)
6 外層ケース
7 二次多芯ビレット

Claims (3)

  1. Cu−Sn基合金製母材に複数のNbまたはNb基合金芯を埋設したブロンズ法NbSn超電導線材製造用の前駆体を含んで複数束ね、これを減面加工した多芯型前駆体であって、
    前記Cu−Sn基合金製母材はSnを含有する他、Tiおよび/またはZrを含有し、Snの含有量をX(質量%)、Tiおよび/またはZrの合計含有量をY(質量%)としたとき、これらが下記(1)式および(2)式の関係を満足すると共に、NbまたはNb基合金芯の合計断面積に対するCu−Sn基合金断面積の比Bzと、NbまたはNb基合金芯の平均径Df(μm)が、下記(3)式および(4)式の関係を満足するものであることを特徴とするNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体。
    0.4≦(X−15.6)/Y≦1.9…(1)
    15.6<X≦19 …(2)
    2Bz≦Df≦4Bz …(3)
    1.8≦Bz≦3.0 …(4)
  2. 前記Nb基合金芯は、Taおよび/またはHfを合計で0.1〜5.0質量%含有するものである請求項1に記載のNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体。
  3. 請求項1または2に記載のNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体を熱処理することによって、Cu−Sn基合金製母材とNbまたはNb基合金芯の界面にNbSn相を形成したものであるNbSn超電導線材。
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