JP4518601B2 - 難燃剤組成物とそれを用いた樹脂組成物の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性、耐加水分解性に優れた難燃剤組成物、及びそれを用いた難燃性樹脂組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、高温高湿環境下、あるいは高温成形時においても機械的物性が維持され、さらに色調にも優れた樹脂組成物を得ることができる難燃剤組成物、及びそれを用いて高品質の難燃性樹脂組成物を安定した性能でかつ高い生産性で得るための製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハロゲン元素を含まない有機リン化合物は、樹脂組成物を難燃化するための非臭素・非塩素系難燃剤として広く利用されている。特に有機リン化合物が難燃剤としてポリカーボネートとABSとの組成物に配合された難燃PC/ABS系アロイは、機械的特性、耐光性等に優れた材料としてOA機器、電気機器のハウジング等に幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、有機リン化合物を用いた難燃樹脂材料では高温高湿環境下に長時間暴露された場合、あるいは、溶融樹脂の流動性を高める目的で高温で成形を行う場合などにおいて、耐衝撃性や破断伸び特性の低下が起こることがある。このような現象は材料の成形加工性を制限したり、使用に際しての長期信頼性を損なう大きな問題となっている。
【0004】
このような樹脂の物性を低下させる原因として有機リン系化合物中に存在する有機リン酸類が考えられている。それら有機リン酸類を多く含む有機リン化合物が樹脂に配合された場合、溶融混練中、あるいは成形加工中に樹脂が劣化して期待される物性が得られない場合や、あるいは製品が変色して外観を損なう場合がある。特にポリカーボネート樹脂あるいはポリカーボネート系アロイのようなベース樹脂が酸や塩基に対する安定性が低い場合、有機リン酸類に起因する樹脂の劣化が起こりやすいため、近年、有機リン化合物に含まれる酸性物質を除去、あるいは中和処理することにより、樹脂組成物の品質を向上させる試みが行われている。
【0005】
有機リン化合物中の酸性物質含有量は、通常、酸価(KOHmg/g)がその指標として用いられており、有機リン化合物の酸価を低減するための試みがなされている。酸価を低減するための方法として、例えば、水酸化ナトリウムあるいは炭酸カルシウムのような塩基性物質により中和処理を行い、さらに水洗や蒸留を行う方法が提案されている。しかしながら該手法は、有機リン化合物の酸価を低減させることができるが、最終製品中に微量の金属類が残存してしまう問題があり、金属残渣が原因となって樹脂組成物の耐熱性や耐加水分解性が低下してしまうことがある。そこで、金属残渣量をできるだけ少なくするために、多数回水洗を行なったり、再度酸で処理を行う等の方法がさらに必要となり、作業行程が煩雑となり好ましくない。
【0006】
また、特開平8−67685号公報ではアルカリ金属化合物等の塩基性化合物を使用せずに酸価を低減する方法が提案されている。該公報では粗製リン化合物をエポキシ化合物で処理した後、水分の存在下で熱処理し、次いで水洗した後、残留する水を除去するという方法が記載されている。しかしながら、該手法は、エポキシ化合物を添加後に洗浄、除去という処理工程が必要となるため工業的に煩雑となる。また、該公報中に具体的に記載されているエポキシ化合物はそれ自体、高温時の化学的安定性が不十分であるため、樹脂組成物に添加した場合には耐熱性、耐衝撃性、色調等に悪影響を与えることがある。さらに、樹脂組成物の高温高湿環境下における機械的物性の保持性、あるいは樹脂の繰り返し使用における物性の保持性が十分とはいえない。
【0007】
一方、難燃性樹脂組成物を得るための樹脂への難燃剤や安定剤等の添加剤の配合方法としては、これらを樹脂ペレットと同時に押出機に投入し、溶融混練を行う方法が一般に行われている。しかしながら、有機リン化合物を難燃剤として使用する場合はその配合量が多量でありかつ液状である場合が一般に多く、そのために樹脂と難燃剤の混合不良が生じる場合がある。また、別の方法としては樹脂と難燃剤の混合状態を良好とするために押出機の混練ゾーンで樹脂を可塑化させた後に難燃剤を配合する方法があるが、この方法では樹脂の可塑化に負荷が大きくなり、高生産性を得るためには不向きである。このようにリン化合物を使用する難燃樹脂組成物はその製造方法により樹脂組成物の組成の安定性や生産性は大きく影響を受け、安定した性能の難燃樹脂組成物を高い生産性で得るための工業的課題が残されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、樹脂組成物に配合した場合に、高温高湿環境下、あるいは高温で成形が行われる場合においても機械的物性を維持することができ、かつ色調が改善された難燃樹脂組成物を得ることができる難燃剤組成物を提供すること、さらにはその難燃剤組成物を使用し安定した性能の難燃樹脂組成物を高い生産性で得るための製法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、有機リン化合物を難燃剤とする樹脂組成物について、その高温高湿環境下における機械的物性を維持するための方法を鋭意検討した結果、難燃剤として、有機リン化合物にその酸価を低減させるために必要な量のエポキシ系化合物を配合した難燃剤組成物を用いることにより、高温高湿環境下、あるいは高温で成形が行われる場合においても機械的物性が高レベルで維持され、かつ色調が大いに改善された難燃樹脂組成物が得られることを見いだした。
【0010】
更に上記の難燃剤組成物を用いる樹脂組成物の製造方法について検討し、単軸、または2軸以上の多軸押出機を用いて溶融混練ゾーン、および/または溶融混練ゾーンよりも原料供給口側に位置する1カ所、または2カ所以上に上記難燃剤組成物を配合し溶融混練する事により、難燃剤を樹脂の可塑剤として利用しその粘度を低下させることにより高生産性の溶融混煉が可能になること、さらには多量の難燃剤を配合する場合においても難燃剤と樹脂の良好な混合状態が得られ、難燃樹脂組成物を安定に製造できることを見出した。この結果、難燃性樹脂組成物の製造においてしばしば発生する難燃剤のバックフローや、樹脂の溶融不足から生じるベントアップといったトラブルを解消することができる。
【0011】
本発明は上記の知見によってなされたものであり、すなわち、
[1](α)有機リン化合物と、(β)脂環式エポキシ化合物を混合・攪拌して得られた、酸価が0.2以下である(B)ポリカーボネート系樹脂用難燃剤組成物であって、(α)有機リン化合物が下記式(10)又は下記式(11)又は下記式(12)で表され、下記式(10)又は下記式(11)で表される有機リン化合物はそのnの平均値N(平均縮合度)が1以上1.5以下である1種または2種以上の混合物からなるオリゴマー系有機リン化合物であり、かつ(β)脂環式エポキシ化合物が下記式(3)で表される脂環式エポキシ化合物であって、(α)有機リン化合物100重量部に対して0.001〜20重量部の範囲であるポリカーボネート系樹脂用難燃剤組成物。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0017】
以下、本発明について詳細に述べる。
本発明に使用される(α)有機リン化合物はリン酸エステル化合物である。リン酸エステル化合物の中で本発明では特に下記式(1)で表される1種または2種以上の混合物からなるオリゴマー系有機リン化合物を好ましく使用することができる。
【0018】
【化7】
【0019】
上記式(1)における置換基Ra 、Rb 、Rc 、Rd は、アリール基でありその一つ以上の水素が置換されていてもいなくてもよい。置換基Ra 、Rb 、Rc 、Rd がアルキル基やシクロアルキル基である化合物は射出成形を行う際の成形機内の溶融樹脂の滞留安定性が不十分であり、樹脂の物性の低下を招きやすい。置換基Ra 、Rb 、Rc 、Rd の一つ以上の水素が置換されている場合、その置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン化アリール基等が挙げられ、またこれらの置換基を組み合わせた基(例えばアリールアルコキシアルキル基等)またはこれらの置換基を酸素原子、硫黄原子、窒素原子等により結合して組み合わせた基(例えば、アリールスルホニルアリール基等)を置換基として用いてもよい。好ましいアリール基は、フェニル基、クレジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、およびブチルフェニル基であり、特に流動性と難燃性が共に優れるのはフェニル基である。また、置換基Ra 、Rb 、Rc 、Rd は同じであっても、それぞれが異なっていても良い。
【0020】
また、上記式(1)におけるXは、2価のフェノール類より誘導される芳香族基であり、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノール、4−t−ブチルカテコール、2−t−ブチルヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールSスルフィド、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等から誘導される芳香族基を挙げることができるが、本発明では特に下記式(2)
【0021】
【化8】
で表される、Xがジフェニロールジメチルメタン基(ビスフェノールAより誘導される芳香族基)であるオリゴマー系有機リン化合物を使用することにより、耐加水分解性が向上し、樹脂組成物の滞留安定性を向上させ、さらに成形の際に金型表面に付着するモールドデポジット(MD)の発生を低減化することができる。
【0022】
上記式(1)及び式(2)で表されるオリゴマー系有機リン化合物は、通常、上記式(1)及び式(2)において異なるnの値(nは自然数)を有する化合物の混合物として使用される場合が多い。平均縮合度Nはnの平均値である。Nはゲルパーミエーションクロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーにより異なるnを有するそれぞれの成分の重量分率を求め、nの重量平均により算出される。検出器はUV検出器、あるいはRI検出器が使用される。ただし、本発明ではnが0の成分、すなわち分子中のリン原子が1つのみである化合物はNの計算から除外する。
【0023】
オリゴマー系有機リン化合物のnの平均値N(平均縮合度)は、通常1以上5以下であり、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下が更に好ましく、1以上1.2未満が特に好ましい。Nが小さいほど樹脂との相溶性に優れ、流動性に優れ、かつ難燃性が高い。特に、N=1の化合物は樹脂組成物における難燃性と流動性のバランスが特に優れる。Nが5以上である場合は粘度が大きくなり、高流動の組成物、特に高せん断速度領域での流動性に優れた組成物を得るのが困難となり、また、難燃性が低下する。
【0024】
Nが1以上1.2未満であるオリゴマー系有機リン化合物を得る方法としては、例えば、
[ア]オキシハロゲン化リンにフェノールや2,6−キシレノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物をルイス酸触媒の下で反応させ、予めジアリールホスホロハリデードを得て、引き続いてこれに、ビスフェノールA、ヒドロキノン、レゾルシノール等の芳香族ジヒドロキシ化合物(2価フェノール化合物)をルイス酸触媒の下で反応させて得る方法。
[イ]芳香族ジヒドロキシ化合物とそれに対して大過剰(約3倍モル当量以上)のオキシハロゲン化リンをルイス酸触媒の下で反応させ、引き続いて過剰のオキシハロゲン化リンを加熱減圧下で完全に除去した後に、上記反応生成物に芳香族モノヒドロキシ化合物をルイス酸触媒の下で反応させて得る方法。
等が挙げられる。
【0025】
さらに本発明で用いられる(α)有機リン化合物の酸価は特に限定されるものではないが、好ましくは10mgKOH/g以下であり、より好ましくは5mgKOH/g以下、更に好ましくは2mgKOH/g以下、特に好ましくは1mgKOH/g以下である。酸価が10mgKOH/gを超える場合は、本発明の難燃剤組成物(A)、すなわち、酸価が1mgKOH/g以下である難燃剤組成物を得るために(β)エポキシ化合物を多量に配合する必要があり、(β)成分が増えると樹脂組成物とした場合にその難燃性能が低下して好ましくない。
【0026】
本発明に使用される(β)エポキシ化合物は分子骨格中に1個以上のエポキシ基を有する化合物であり、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、複素環式エポキシ化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を使用することができる。
脂環式エポキシ化合物は、分子構造中に1個以上の二重結合を有する脂肪族環状炭化水素化合物に対して、過酢酸等の過酸化物を用いて二重結合部分に酸素を付加してエポキシ基を導入する手法で合成されるものであり、下記式(4)で示される脂環式エポキシ化合物が包含されるとともに、下記一般式(5)、(6)及び(7)で示される構造のものが含まれる。
【0027】
【化9】
【0028】
【化10】
【0029】
【化11】
【0030】
【化12】
脂肪族エポキシ化合物としては、本発明では、エポキシ化油脂系化合物、エポキシ化脂肪酸エステルを好ましく使用することができる。ここで、エポキシ化油脂系化合物は天然油脂の二重結合に酸素を付加して得られるものであり、下記一般式(8)
【0031】
【化13】
で示される構造を有する。このような化合物の具体例としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などが挙げられる。また、エポキシ化脂肪酸エステルとは不飽和脂肪酸アルキルエステルをエポキシ化した化合物を表し、下記一般式(9)で示される構造を有する。
【0032】
【化14】
このような化合物の具体例として、エポキシ化ステアリン酸ブチルなどが挙げられる。また、本発明では脂肪族エポキシ化合物として、エポキシ化油脂系化合物、エポキシ化脂肪酸エステルの他に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、ポリエチレングリコール400ジグリシジルエーテル、3,4−エポキシブタノール等も使用することができる。
【0033】
芳香族エポキシ化合物、あるいは、複素環式エポキシ化合物としてはフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等を挙げることができる。
これらエポキシ化合物の中で、本発明においては、取り扱い性に優れ、かつ溶融混練に耐え得る熱安定性を有し、かつ、低粘度、低揮発性であるものが好ましく、特に好ましいものは脂環式のエポキシ化合物である。
【0034】
本発明において特に好ましく用いることができる脂環式エポキシ化合物は、脂環式エポキシ構造単位がジオキサン構造単位やカルボキシル基構造単位等の結合単位で結合した化合物であり、2−(3,4−エポキシシクロアルキル)−5−5’−スピロ−(3,4−エポキシ)シクロアルキル−m−ジオキサン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−5−5’−スピロ−(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン(商品名 ERL−4234 ユニオンカーバイド社製)、あるいは、下記式(3)で表される3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3−4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(商品名 ERL−4221 ユニオンカーバイド社製)、
【0035】
【化15】
さらに、ユニオンカーバイド社から商品名ERL−4299、あるいはERL−4206として工業的に入手することができる脂肪族環状エポキシ化合物をその例として挙げることができる。これら具体例の中でも、ERL−4221は優れた熱安定性を有し、低粘度、低揮発性であって、さらに、高反応のエポキシ基を多量に含むので、特に好ましく使用される。
【0036】
本発明の難燃剤組成物では、(α)有機リン化合物に対して、(β)エポキシ化合物が、難燃剤組成物の酸価が1以下、好ましくは0.1以下になるために必要な量が配合される。難燃剤組成物の最終的な酸価が低いほど、樹脂に配合した場合に、より優れた耐高温高湿特性や高温成形に対する安定性、さらには改善された色調を得ることができる難燃剤組成物とすることができる。また、難燃剤組成物自身の長期安定性も高めることができる。(α)成分に対する(β)成分の配合量は、(α)成分の酸価の値や(β)成分のエポキシ基の含有量によって変化し、特に限定されるものではないが、通常、(α)成分100重量部に対して、(β)成分は0.001〜20重量部の範囲であり、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.05〜2重量部、特に好ましくは0.1〜1重量部である。0.001重量部未満では酸価低減効果が不十分である場合が多く、一方、20重量部を超えると難燃効果や樹脂組成物とした場合の耐衝撃性が低下するので好ましくない。
【0037】
本発明の難燃剤組成物はできるだけ少ない(β)成分の配合により得ることが、優れた難燃性能が得られるので好ましく、従って、酸価がより低い(α)成分を使用することが好ましい。
また本発明において、(α)成分と(β)成分の配合は特に限定されず、(α)成分の製造工程、貯蔵中、出荷時、あるいは樹脂組成物に配合する前等、様々な場合において行うことができる。本発明の難燃剤組成物は、例えば、液状にした(α)成分に(β)成分を配合し、場合により粘度を低下させるために加熱して攪拌・混合するのみで得ることができ、極めて簡便に得ることができる。また、本発明の難燃剤組成物はエポキシ化合物を配合した後に洗浄、除去等の処理を特に行う必要がない。
【0038】
また本発明の難燃剤組成物は長期保存性にも極めて優れており、難燃剤の耐加水分解性や耐熱性、さらには変色に対する安定性が著しく改良されている。従って、本発明の難燃剤組成物は難燃剤としての取り扱い性が飛躍的に向上している。難燃剤組成物の長期安定性を高める目的の上で、(α)成分が製造された直後に所定量の(β)成分を配合する事により、本発明の難燃剤組成物を得るのが好ましい。
【0039】
(A)熱可塑性樹脂に(B)難燃剤組成物を配合する方法としては、(A)成分と(B)成分を一軸あるいは多軸の押出機を用いて溶融混練する方法が一般的である。一般に、押出機により、様々な成分から構成される樹脂組成物を製造する場合、押出機のスクリュー構成は、フライトスクリューから構成される樹脂成分を移送、及び溶融させる部分(移送・溶融ゾーン)と、浅溝スクリューやニーディングスクリューや逆スクリュー、あるいはフィン状やダルメージ状のスクリューを用いて剪断応力を作用させて構成成分を細分・混合し、均一な混練を行う部分(溶融混練ゾーン)に分けることができ、実際の押出機のスクリュー構成はそれらを組み合わせて使用される。
一般に押出機では、最初の溶融混練ゾーンにおいて最も負荷がかかり、特に樹脂の溶融粘度が高い場合は、負荷の増大が原因となって樹脂組成物の生産速度が十分に得られない場合がある。このような場合における対処としてはシリンダー設定温度を高くする方法があるが、樹脂の変色、ヤケ等の弊害が生じる場合がある。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して(α)有機リン化合物と、(β)エポキシ系化合物を含み、酸価が1以下好ましくは0.1以下である(B)樹脂用難燃剤組成物を1〜30重量部を配合し、溶融混練して得る難燃性樹脂組成物の製造方法であり、さらに、単軸、または2軸以上の多軸押出機を用いて溶融混練ゾーン、および/または溶融混練ゾーンよりも原料供給口側に位置する1カ所、または2カ所以上に(B)樹脂用難燃剤組成物を配合し、溶融混練するして得ることを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法である。
【0041】
本発明で使用される押出機としては二軸の押出機が最も好ましく使用される。本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法では、(B)樹脂用難燃剤組成物を押出機の溶融混練ゾーン、および/またはそれよりも原料供給口側の移送・溶融ゾーンの1カ所、または2カ所以上に配合することにより、(B)樹脂用難燃剤組成物を(A)熱可塑性樹脂の可塑剤として作用させることにより溶融樹脂の粘度を低下させ、吐出量を飛躍的に向上させることが可能となる。また、場合により1カ所に多量の難燃剤組成物を配合すると樹脂の可塑化溶融が不十分になる場合があるので、難燃剤組成物の配合箇所を複数設けるのが好ましい。これとは逆に、溶融混練ゾーンよりもダイ側に(B)樹脂用難燃剤組成物を配合する方法では、押出機の負荷が高くなり、樹脂組成物の生産速度が著しく低下する。
【0042】
また、本発明では(A)熱可塑性樹脂に、予め調製された(α)有機リン化合物と(β)エポキシ系化合物を含み、酸価が1以下好ましくは0.1以下である(B)樹脂用難燃剤組成物を配合して難燃剤組成物を得ることに特長がある。すなわち、本発明の製造方法により、組成の均一性に優れ、その結果性能の安定性に優れた難燃性樹脂組成物を高生産性で得ることが可能となる。本発明の方法とは異なる難燃性樹脂組成物の製造方法として、(A)熱可塑性樹脂に、(α)成分と(β)成分をそれぞれ独立して押出機に投入し溶融混練を行う方法が挙げられるが、該手法では(β)成分の配合量が極めて微量であるので組成物における(β)成分の分散が不均一となりやすく、安定した性能の樹脂組成物を得るのが困難となる。
【0043】
本発明では、(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記(B)樹脂用難燃剤組成物は1〜30重量部の範囲で配合され、好ましくは3〜25重量部、より好ましくは5〜20重量部、最も好ましいのは8〜17重量部で配合される。(B)樹脂用難燃剤組成物が1重量部未満であると充分な難燃性が得られず、また、30重量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性や色調等が劣る。
【0044】
本発明に使用される(A)熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂とABS樹脂あるいはHIPS樹脂からなるポリマーアロイ、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびこれにスチレン系樹脂がブレンドされた樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられるが、これらの中で特に好ましく使用されるのはポリカーボネート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂にABS樹脂、HIPS樹脂、ポリエステル系樹脂等がブレンドされたポリカーボネート系ポリマーアロイ、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびこれにスチレン系樹脂がブレンドされた樹脂である。
【0045】
また、難燃樹脂組成物を製造する際には滴下防止剤として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のパーフルオロアルカンポリマー、シリコンゴム、ポリカーボネート・ジオルガノシロキサン共重合体、シロキサンポリエーテルイミド、液晶ポリマー、シリコン・アクリル複合ゴムなどが配合されるが、本発明においても使用することができる。
【0046】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。用いた材料を以下に示す。
1.有機リン化合物(α)成分
(有機リン化合物(α1))
下記参考例1の方法により得られた有機リン化合物
(参考例1)
攪拌機、コンデンサ、加熱用ジャケットを装備したオートクレーブ(30リットル容器)にビスフェノールA(1モル当量)に対し、オキシ塩化リン(4モル当量)と塩化マグネシウム(0.025モル当量)を加え、徐々に加熱攪拌し、120℃まで昇温し、さらに7時間反応させた。反応で副生する塩酸は塩酸吸収塔に導かれる。得られた反応混合物からオキシ塩化リンを160℃、10mmHgの条件で2時間減圧除去した。その後フェノール(4.5モル等量)を攪拌しながら徐々に加え、150℃で8時間反応させ、さらに175℃、200mmHgの条件で3時間保持して発生する塩酸を除去し、得られた生成物を90℃の0.1N塩酸水溶液で1回、更に純水を用いて90℃にて3回洗浄した後、乾燥させ、薄膜蒸留法により残存するフェノールを完全に除去し、下記式(10)で表されるオリゴマー系有機リン化合物を得た。平均縮合度Nを求めたところ、1.09であった。また、酸価は1.12mgKOH/gであった。
【0047】
【化16】
【0048】
(有機リン化合物(α2))
大八化学工業(株)社製 商品名 CR733S
平均縮合度Nが1.41の下記式(11)で表されるオリゴマー系有機リン化合物。
酸価は0.72mgKOH/gであった。
【0049】
【化17】
(有機リン化合物(α3))
大八化学工業(株)製 商品名 PX−200
平均縮合度Nが1.00の下記式(12)で表されるオリゴマー系有機リン化合物。
酸価は0.75mgKOH/gであった。
【0050】
【化18】
2.2.エポキシ化合物(β)成分
(エポキシ化合物(β1))
下記式(3)で表わされる脂環式エポキシ化合物(ユニオンカーバイド日本(株)製 ERL−4221)
【0051】
【化19】
(エポキシ化合物(β2))
脂肪族エポキシ化合物(旭電化工業(株)製 EP−17)
(エポキシ化合物(β3))
エポキシ化油脂系化合物(花王(株)社製 カポックスS6)
【0052】
上記(α)成分、および(β)成分を表1〜4に示す割合で配合し、加熱して粘度を低下させて混合・撹拌することにより難燃剤組成物を得た。また、酸価の測定は、試料約5gをエタノール50ccに溶解し、指示薬としてブロモチモールブルー水溶液を用い、0.05N−NaOH溶液で滴定して求めた。
3.その他の成分
(ポリカーボネート:PC)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから溶融エステル交換法により製造されたMwが20,500であり、ヒドロキシ基末端量が29%のビスフェノールA系ポリカーボネート
(アクリロニトリル・スチレン共重合体:SAN)
アクリロニトリル単位25.0wt%、スチレン単位75.0wt%からなるMwが140,000のアクリロニトリル・スチレン共重合体
【0053】
(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体ゴム:ABS)
10メッシュ残分が、90%未満であるパウダー状ABS樹脂(三菱レーヨン(株)社製、商品名 RC)
(ポリフェニレンエーテル:PPE)
米国特許第4,788,277号明細書(特願昭62−77570号)に記載されている方法に従ってジブチルアミンの存在下に、2,6−キシレノールを酸化カップリング重合して製造されたもので、ηSP/C=0.42であり、溶融粘度は280℃で140sec-1のせん断速度で測定し、49,000poiseである。
【0054】
(ポリスチレン:GPPS)
旭化成工業(株)製 スタイロン685
(ハイインパクトポリスチレン:HIPS)
旭化成工業(株)製 スタイロンH9405
(フッ素系樹脂:PTFE)
三井デュポンフロロケミカル社製 商品名 テフロン30J
ポリテトラフルオロエチレン水性ディスパージョン
実施例及び比較例における各試験は以下に示す方法で行った。
【0055】
(1)難燃性試験
得られたペレットを乾燥し、射出成形機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、燃焼試験用験片形状成形体を作成した。難燃性評価はUL94規格垂直燃焼試験(UL94)に基づいてランク付けを行った。
(2)MFR
ASTM D1238に準じて、220℃、10kg荷重条件で測定した。
(単位:g/10min)
(3)アイゾット衝撃試験
ASTM D256に準じて、1/8インチ厚、ノッチ付きで測定した。(単位:kgf・cm/cm)
【0056】
(4)色調評価
得られたペレット、または試験片の色調を目視観察した。
○:黄変が少ない
△:やや黄変が見られる
×:黄変が顕著である
(5)耐熱水性
1/8インチ厚短冊試験片をオートクレーブ中で、120℃、2気圧飽和水蒸気環境下で96時間放置した後の黄変度を評価した。
【0057】
○:黄変が少ない
×:黄変が顕著である
(6)耐高温高湿特性
1/8インチ厚短冊片を60℃、85RH%の雰囲気中に300時間保存し、アイゾット衝撃強度を評価した。
(7)アイゾット衝撃値の経時変化評価
押出機を用いて得られる難燃樹脂組成物のペレットをペレタイズを開始してから5分後、10分後、30分後、及び60分後にそれぞれ採取し、成形を行いアイゾット衝撃試験を行った。
【0058】
(実施例1〜5及び比較例1、2)
表1に掲げる組成(単位は重量部)の樹脂組成物のペレットを2軸押出機(ZSK−25、W&P社製)で溶融混練し、ペレタイズを行うことにより調製した。シリンダー温度は実施例1〜5、及び比較例1、2共に250℃に設定した。実施例1〜4は有機リン化合物に予めエポキシ化合物を70℃で添加・混合することにより難燃剤組成物を調製し、80℃で押出機にギアポンプにより圧入して配合した。実施例5は有機リン化合物に予めエポキシ化合物を120℃で添加・混合することにより難燃剤組成物を調製し、120℃で押出機にギアポンプで圧入して配合した。それぞれの実施例において難燃剤は表1に示す位置で行った。表1中の記号はそれぞれ以下に示す押出機における位置を表す。図1にそれらの記号の位置を示す。
上:溶融混練ゾーンより原料供給側
中:溶融混練ゾーン
下:溶融混練ゾーンよりダイヘッド側
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1〜5は本発明の難燃剤組成物を使用した場合の結果であり、比較例に対してペレットの色調が優れていた。
また、表中の吐出量(kg/h)は押出機のスクリュー回転数を150rpmとした場合において、押出機のスクリュートルクを示す電流値がその最大許容値の90%となる樹脂組成物の吐出量を表す。実施例1、2、4、5は、吐出量が大きく生産性に優れることが分かる。
【0063】
(参考実施例6、実施例7、及び、比較例4、5、6)
表2に掲げる組成の樹脂組成物を2軸押出機で溶融混練して得た。シリンダー温度は250℃とし、スクリュー回転数は250rpmとした。難燃組成物の配合箇所は図1の「中」に示す箇所とし、80℃で押出機にギアポンプにより圧入して配合した。得られたペレットを乾燥し、シリンダー設定温度を240℃、260℃、280℃とし、また、金型温度は60℃に設定して、射出成形機で1/8インチ厚の短冊片を成形し、アイゾット衝撃強度を評価した。また、各ペレットを用いてMFRを評価した。さらに、280℃で成形した試験片について色調の評価を行った。
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
参考実施例6、実施例7は、高い成形温度で成形を行った場合でもアイゾット衝撃強度が維持されていることがわかる。また、280℃で成形した試験片の色調も比較例と比べて優れることが分かる。また、参考実施例6に対して比較例4はMFRが増大している。同様に実施例7に対して比較例5はMFRが増大している。また、比較例6は(α)有機リン化合物に(β)エポキシ化合物を配合した難燃剤組成物を使用した結果であるが、使用した難燃剤組成物の酸価は1.07であり、本発明の範囲外の例である。
【0066】
(実施例8、及び、比較例7)
表3に掲げる組成で樹脂組成物を2軸押出機で溶融混練して得た。シリンダー温度は250℃とし、スクリュー回転数は250rpmとした。難燃組成物の配合箇所は図1の「中」に示す箇所とし、80℃で押出機にギアポンプにより圧入して配合した。得られたペレットを乾燥し、シリンダー設定温度を240℃、金型温度は60℃に設定して、射出成形機で1/8インチ厚短冊片を成形し、アイゾット衝撃強度を評価した。また評価したアイゾット試験片からポリカーボネートを分離抽出し、ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)をGPCにより評価した。さらに成形片の色調を目視観察した。また、射出成形機で1/16インチ厚短冊片を成形し、UL94垂直燃焼試験を実施した。
さらに同じ成形条件で成形した試験短冊片を60℃、85RH%の雰囲気中に300時間放置し、取り出した試験片を用いて上記と同様の試験を実施した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
実施例8は試験短冊片を60℃、85RH%の雰囲気中に300時間放置しても成形直後とほぼ同等な性能が得られた。一方、比較例7は60℃、85RH%の雰囲気中に300時間放置した後は、各種物性の低下が顕著に見られた。
【0069】
(実施例9、及び、比較例8)
表4に掲げる組成で、樹脂組成物を2軸押出機で溶融混練して得た。シリンダー温度は250℃とし、スクリュー回転数は250rpmとした。実施例9では難燃組成物の配合箇所は図1の「中」に示す箇所とし、80℃で押出機にギアポンプにより圧入して配合した。一方、比較例8は樹脂ペレット、ABSパウダー、PTFEディスパージョン、及びエポキシ化合物を一括してドラムブレンダーでブレンドした混合物を押出機のホッパーから投入した。有機リン化合物は実施例9と同じ投入位置において配合し樹脂組成物のペレットを得た。連続溶融混練を開始してから、5分後、10分後、30分後、及び60分後において、樹脂組成物ペレットを採取し、それぞれのペレットを乾燥し、シリンダー設定温度240℃、金型温度60℃の条件で射出成形機で1/8インチ厚短冊片を成形し、アイゾット衝撃強度を評価した。また、MFR測定を実施した。結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
実施例9はそれぞれの時間で採取したアイゾット衝撃強度並びにMFRの値が安定しており、性能のばらつきが少ない安定した性能の樹脂組成物を得ることができた。一方、比較例8では性能のばらつきが大きかった。
【0071】
【発明の効果】
以上のように、本発明により、樹脂組成物に配合した場合に、高温高湿環境下、あるいは高温で成形が行われる場合においても機械的物性を維持することができ、かつ色調が改善された難燃樹脂組成物を得ることができる難燃剤組成物を提供すること、さらにはその難燃剤組成物を使用し安定した性能の難燃樹脂組成物を高い生産性で得るための製法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】樹脂組成物をペレタイズするための押出機の概略図である。
Claims (1)
- (α)有機リン化合物と、(β)脂環式エポキシ化合物を混合・攪拌して得られた、酸価が0.2以下である(B)ポリカーボネート系樹脂用難燃剤組成物であって、(α)有機リン化合物が下記式(10)又は下記式(11)又は下記式(12)で表され、下記式(10)又は下記式(11)で表される有機リン化合物はそのnの平均値N(平均縮合度)が1以上1.5以下である1種または2種以上の混合物からなるオリゴマー系有機リン化合物であり、かつ(β)脂環式エポキシ化合物が下記式(3)で表される脂環式エポキシ化合物であって、(α)有機リン化合物100重量部に対して0.001〜20重量部の範囲であるポリカーボネート系樹脂用難燃剤組成物。
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