JP4513807B2 - Fe−Ni合金素管及びその製造方法 - Google Patents

Fe−Ni合金素管及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、Fe−Ni合金素管及びその製造方法、並びにこれらの素管を用いて製造されたFe−Ni合金継目無管に関する。より詳しくは、強度や延性などの機械的性質に優れるとともに、炭酸ガス、硫化水素、S(硫黄)や塩化物イオンなどの腐食性物質を多く含む環境(以下、「サワーガス環境」という。)下での耐食性に優れた油井管及びラインパイプの素管として好適な、更に、原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材の素管としても好適な、マンネスマン圧延穿孔機(以下、「ピアサー」ともいう。)によって穿孔圧延されたFe−Ni合金素管及びその製造方法、並びに上記素管を用いて製造されたFe−Ni合金継目無管に関する。
第一次オイルショック以降、世界規模での油井・ガス井の開発が進む一方で、発展途上国におけるエネルギー需要の増大に伴い、油井・ガス井の深井戸化と腐食性がより厳しいサワーガス環境下での井戸の掘削が余儀なくされている。
このような、油井・ガス井環境の過酷化に伴い、例えば、特許文献1や特許文献2に示されるような従来よりも高強度で且つ耐食性に優れた各種のNi基合金、更には、特許文献3に示されるような超オーステナイトステンレス合金が開発され、実用に供されている。
しかしながら、東西冷戦の終結、EU統合などを経て、世界規模で急速に進行した企業統合・再編など経済のグローバル化に伴い、企業間の価格競争は益々激化している。その結果、油井・ガス井の開発において、安全性の確保に加えて高効率・低コスト化が求められるようになってきた。
油やガスの生産性を高めることは、口径の大きい管を用いることによって達成することができる。また、強度がより高い材料を用いることによって、管の薄肉化が可能となり、材料費を節減することができる。このため、油井・ガス井で用いられる管の素材には、安価で且つ従来にもまして高強度を有する材料が求められており、また、管の大口径化が重要な課題となっている。
一方、油井・ガス井の開発に際し、強度と耐食性とを備え、しかも、安価な材料を使用することによって、低コスト化を達成することができる。
そこで、特許文献4に、Cr及びNiをそれぞれ重量%で20〜35%及び25〜50%含む合金において、Moの含有量を少なくして経済性を高めた、「耐応力腐食割れ性に優れた高Cr−高Ni合金」が開示されている。
なお、ピアサーによる穿孔圧延を行うことができれば、口径の大きい管や長尺管の素管を工業的規模で効率よく、しかも低コストで製造することが可能になる。
このため、特許文献5に、ピアサーによって継目無管用素管を製造するに際し、オーバーヒートに起因する管内面欠陥を生じさせない継目無管の製造方法を提供することを目的とした「難加工性材料の継目無管のピアサー穿孔方法」が開示されている。
また、非特許文献1に、高Cr−高Niの合金を穿孔圧延するに際して、ロール交叉角及びロール傾斜角を大きくして、内面被れ疵や二枚割れを発生させることなく圧延できる技術が開示されている。
米国特許第4168188号公報 米国特許第4245698号公報 WO03/044239号公報 特開平11−302801号公報 特開2000−301212号公報 山川富夫、林千博:CAMP-ISIJ Vol.6(1993)364
前述の特許文献1〜4で提案された合金のなかで、特許文献4におけるMo含有量が1.5%以下の合金、つまり、油井・ガス井用の材料として提案された20〜35%のCr及び25〜50%のNiを含む「耐応力腐食割れ性に優れた高Cr−高Ni合金」のうちで、Mo含有量が1.5%以下の合金は、高い熱間加工性を有しており、ピアサーによって穿孔圧延しても疵や割れを生じることがない。このため、上記の合金を素材とすれば高い生産性の下に合金管の素管を製造することが可能である。したがって、この合金は極めて経済性に優れた油井・ガス井用の材料ということができる。
しかしながら、この合金の場合、硫化水素分圧が101325〜1013250Pa(1〜10atm)、温度が150〜250℃、炭酸ガス分圧が709275Pa(7atm)程度の環境下での耐食性は良好であるものの、Mo含有量が1.5%以下と低いため、例えば炭酸ガス分圧が1013250〜2026500Pa(10〜20atm)程度にまで上昇した環境下での耐食性は必ずしも満足できるものではなかった。
一方、特許文献1〜3で提案された、Cr及びNiの含有量がいずれも高く、しかも、Mo(%)+0.5W(%)の式で表される値(以下、「Mo当量の値」ともいう。)が1.5%を超えるような高い量のMo及び/又はWを同時に含有するNi基合金及び超オーステナイトステンレス合金は、厳しいサワーガス環境下での耐食性に優れるものの、熱間加工性が極めて低く、従来はピアサーによって穿孔圧延すれば疵や割れの発生を避けることができなかった。
同様に、特許文献4で提案された20〜35%のCr及び25〜50%のNiを含有する高Cr−高Ni合金のうちでMo含有量が1.5%を超える(以下、この場合にも「Mo当量の値が1.5%を超える」という。)合金も、厳しいサワーガス環境下での耐食性に優れるものの、熱間加工性が極めて低く、従来はピアサーによって穿孔圧延すれば疵や割れの発生を避けることができなかった。
すなわち、従来、ピアサーによる穿孔圧延でオーステナイト系材料の素管を製造する場合には、例えば、JISで規定されるSUS316、SUS321やSUS347等のオーステナイト系ステンレス鋼を素材とする場合であっても、内面疵や溶融二枚割れの発生が顕著であった。したがって、これらのオーステナイト系ステンレス鋼よりも更に一層難加工性の、Cr及びNiの含有量がいずれも高く、しかも、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系の合金を通常の方法でピアサーによって穿孔圧延すれば、前述のように、疵や割れの発生を避けることができなかった。
このため、上記のような高Cr−高Niで、しかも、Mo当量の値が1.5%を超え、サワーガス環境下で極めて良好な耐食性を有する各種合金の油井・ガス井用の高強度、高耐食性継目無管の素管は、従来、ユジーンセジュルネ方式などの熱間押出法によって製造されるのが常であった。
しかしながら、熱間押出法は口径の大きい管や長尺管の素管の製造には不向きである。このため、ユジーンセジュルネ方式などの熱間押出法によって製造された素管は、油やガスの生産性を高め、また、油井・ガス井で用いる合金管を低コストで製造したいという産業界からの要請に応えられるものではなかった。
なお、口径の大きい管や長尺管の素管は、例えば横プレスを用いた熱間鍛造によって製造することができる。しかしながら、Cr及びNiの含有量がいずれも高く、しかも、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有する合金は、熱間加工性が極めて低い難加工材であり、鍛造できる温度範囲が狭い範囲に限られるものである。このため、加熱と鍛造を何度も繰り返す必要があり、生産性と歩留まりが著しく劣るので、熱間鍛造法によって口径の大きい管や長尺管の素管を工業的規模で量産することにもやはり問題があった。
したがって、Cr及びNiの含有量がいずれも高く、しかも、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有し、サワーガス環境下で極めて良好な耐食性を有する各種合金についても、炭素鋼や低合金鋼、更には、いわゆる「13%Cr鋼」などのマルテンサイト系ステンレス鋼の場合と同様に、ピアサーによる穿孔圧延を行って、口径の大きい管や長尺管の素管を工業的規模で効率よく、しかも低コストで製造することへの要請が極めて大きい。
しかしながら、前述の特許文献5で提案されたピアサー穿孔方法が対象とする「難加工性材料」は、その段落[0004]に記載されているように、ステンレス鋼より変形抵抗が低いものにすぎない。このため、そのいずれもが変形抵抗を上昇させる元素であるNi、Mo及びWに関し、上述の高Cr−高Niで、しかも、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系の合金、なかでも、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系の合金を対象とするものではない。しかも、そのピアサー穿孔方法は、ビレット加熱温度とピアサーによる穿孔速度とを関連させて調整し、これによってビレット内部の温度がオーバーヒート温度未満になるようにして穿孔圧延するものでしかない。
なお、上記特許文献5のピアサー穿孔方法が対象とするオーバーヒート温度は1260〜1310℃であり、「オーバーヒート温度」とは材料が粒界溶融をきたす温度である。そして、特許文献5の図5に示されているように、そのピアサー穿孔方法を適用するためには、ステンレス鋼より変形抵抗が低い材料に対してさえ、ビレット加熱温度は、従来の炭素鋼、低合金鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼の圧延時に比べて低い温度である高々1180℃にする必要がある。同様に、上記図5に示されているように、穿孔速度は高々300mm/秒で、最高の300mm/秒の場合でも従来の半分程度以下にまで遅くする必要があり、例えば8mの素管を製造するのに従来の約2倍の27秒程度の時間を要することになる。
しかも、特許文献5で開示された技術の場合、穿孔圧延中にビレット内部がオーバーヒート温度以上とならないようにするためには、ビレット加熱温度とピアサーによる穿孔速度とを関連させて調整する必要があって、例えば、ビレット加熱温度を1180℃程度にまで上昇させれば、上記図5に示されるように、穿孔速度は50mm/秒程度の極めて遅い条件とする必要があり、工業的な規模での量産に堪えるものではない。或いは、穿孔速度を300mm/秒程度とすれば、上述のように、従来の半分程度の効率で製造できるとはいうものの、上記図5に示されるように、ビレット加熱温度は1060℃程度の極めて低い温度とする必要がある。このため、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有する変形抵抗の大きいオーステナイト系合金の素管を製造するには通常のピアサーの穿孔能力を遙かに超えてしまい、極めて大きい動力源を要するピアサーが必要になる。
一方、非特許文献1で開示された技術は、具体的には、25Cr−35Ni−3Mo合金及び30Cr−40Ni−3Mo合金の穿孔では、ロール交叉角を10゜以上、ロール傾斜角を14゜以上とすることで、また、25Cr−50Ni−6Mo合金の穿孔では、ロール交叉角が10゜の場合にはロール傾斜角を16゜以上とし、ロール交叉角が15゜の場合にはロール傾斜角を14゜以上とすることで、いずれも内面被れ疵や二枚割れを発生させることなく圧延できるというものである。
しかしながら、炭素鋼や低合金鋼、更には、いわゆる「13%Cr鋼」などのマルテンサイト系ステンレス鋼を穿孔圧延する目的で建設された継目無鋼管の製造工場におけるピアサーの場合、ロール交叉角は通常0〜10゜でロール傾斜角は7〜14゜程度である。
したがって、高Cr−高Ni合金を穿孔圧延することを目的に、非特許文献1で提案されたような大きなロール交叉角度とロール傾斜角度を有するピアサーに改造することは多大の費用を要し現実的ではない。
このため、従来は、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金の大口径且つ長尺である管の素管を、工業的な量産規模でピアサーを用いて穿孔圧延することは全くなされていなかった。
換言すれば、従来、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金を工業的な量産の規模でピアサーで穿孔圧延したものは皆無であった。
そこで、上述のような問題点を解決するために、本発明者らは、難加工性である高Cr−高Ni系のFe−Ni合金、なかでも、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金をピアサーで穿孔圧延した際の内面疵の発生状況について、材料の組織変化の観点から詳細に検討した。その結果、下記(a)〜(d)の知見を得た。
(a)高Cr−高Ni系のFe−Ni合金に生ずる内面疵は、
(1)加工発熱に伴う高温側での粒界溶融に起因する二枚割れ、
(2)高い変形抵抗に起因する内面被れ疵、
(3)温度低下に伴う低温域でのシグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵、
の3つに大別できる。
(b)上記(1)の粒界溶融に起因する二枚割れは、被穿孔圧延材料を構成する元素の凝固偏析、とりわけC、P及びSの凝固偏析が生じた場合に顕著である。そして、Fe、Ni、CrやMo等の組成バランスに強く依存する上記C、P及びSの凝固偏析状況、換言すれば、粒界溶融状況は、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金においては、下記(1)式で表されるTGBmの値によって評価でき、TGBmの値が1300以上の場合に穿孔圧延性が良好となって、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の二枚割れ発生が抑制される。
GBm=1440−6000P−100S−2000C・・・・・(1)。
(c)材料の熱間での変形抵抗は、主に、Ni、N、Mo及びWの含有量に依存して変化し、変形抵抗が高い材料ほど、上記(2)の内面被れ疵が発生しやすい。そして、上記の内面被れ疵の発生状況は、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金においては、下記(2)式で表されるPsrの値によって評価でき、Psrの値が120以下の場合に、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の内面被れ疵の発生が抑制される。
sr=Ni+10(Mo+0.5W)+100N・・・・・(2)。
(d)被穿孔圧延材料を構成する元素のうち、主に、Ni、N、Cr、Mo及びWの組成バランスが、ビレットの温度が低下した場合のシグマ相の生成に大きく影響し、前記の20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金においては、上記(3)のシグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵は、1000℃においてシグマ相を生成する場合に顕著になる。そして、上述の内面での割れ及び内外面の被れ疵は、下記(3)式で表されるPσの値によって評価でき、Pσの値が0以上の場合に、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の上記内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生が抑制される。
σ=(Ni−35)+10(N−0.1)−2(Cr−25)−5(Mo+0.5W−3)+8・・・・・(3)。
なお、上記(1)〜(3)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
更に、本発明者らは、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、しかも、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金のビレットをピアサーで穿孔圧延する際の条件に関して種々検討した。その結果、下記(e)及び(f)の知見を得た。
(e)C、P及びSの含有量の上限値をそれぞれ0.04%、0.03%及び0.01%に抑え、更に、前記(1)式で表されるTGBmの値を1300以上とした上記オーステナイト系のFe−Ni合金の場合、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比Hを大きくすることによって、粒界溶融に起因する二枚割れの発生を容易に抑制することができる。
(f)上記(e)の条件に加えて、拡管比H、並びに、Fe−Ni合金が含有するP及びSの含有量との関係式である下記(4)式で表されるfnの値を1以下とすれば、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の粒界溶融に起因する二枚割れの発生を完全に防止することができる。
fn={P/(0.025H−0.01)}+{S/(0.015H−0.01)}・・・・・(4)。
なお、上記(4)式中のP及びSは、素管中のP及びSの質量%での含有量を表し、Hは、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比を指す。
本発明は、上記の内容に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた強度や延性などの機械的性質を有するとともに、サワーガス環境下で優れた耐食性を有する、高Cr−高Niで、しかも、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するピアサーによって穿孔圧延されたFe−Ni合金素管及びその製造方法、なかでも、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するFe−Ni合金素管及びその製造方法を提供することである。本発明のもう1つの目的は、上記素管を用いて製造され、機械的性質及びサワーガス環境下での耐食性に優れた、Fe−Ni合金継目無管を提供することである。
本発明の要旨は、下記(1)〜(7)に示すFe−Ni合金素管、(8)及び(9)に示すFe−Ni合金素管の製造方法、並びに(10)に示すFe−Ni合金継目無管にある。
(1)質量%で、C:0.04%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.01〜6.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cr:20〜30%、Ni:30〜45%、Mo:0〜10%、W:0〜20%、但し、Mo(%)+0.5W(%):1.5%を超えて10%以下、Cu:0.01〜1.5%、Al:0.10%以下及びN:0.0005〜0.20%を含み、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)〜(3)式で表されるTGBm、Psr及びPσの値がそれぞれ1300以上、120以下及び0以上の化学組成を有し、マンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延されたことを特徴とするFe−Ni合金素管。
GBm=1440−6000P−100S−2000C・・・・・(1)、
sr=Ni+10(Mo+0.5W)+100N・・・・・(2)、
σ=(Ni−35)+10(N−0.1)−2(Cr−25)−5(Mo+0.5W−3)+8・・・・・(3)。
ここで、(1)〜(3)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
(2)Mn:0.01〜1.0%である上記(1)に記載のFe−Ni合金素管。
(3)Feの一部に代えて、V:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%及びHf:0.001〜1.0%から選択される1種以上を含有する上記(1)又は(2)に記載のFe−Ni合金素管。
(4)Feの一部に代えて、B:0.0001〜0.015%を含有する上記(1)から(3)までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
(5)Feの一部に代えて、Co:0.3〜5.0%を含有する上記(1)から(4)までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
(6)Feの一部に代えて、Mg:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%、La:0.0001〜0.20%、Ce:0.0001〜0.20%、Y:0.0001〜0.40%、Sm:0.0001〜0.40%、Pr:0.0001〜0.40%及びNd:0.0001〜0.50%から選択される1種以上を含有する上記(1)から(5)までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
(7)上記(1)から(6)までのいずれかに記載の化学組成を有し、下記(4)式で表されるfnの値が1以下であることを特徴とする上記(1)から(6)までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
fn={P/(0.025H−0.01)}+{S/(0.015H−0.01)}・・・・・(4)。
ここで、(4)式中のP及びSは、素管中のP及びSの質量%での含有量を表し、Hは、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比を指す。
(8)上記(1)から(6)までのいずれかに記載の化学組成を満たすビレットをマンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延することを特徴とするFe−Ni合金素管の製造方法。
(9)下記(4)式で表されるfnの値が1以下となる条件でマンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延することを特徴とする上記(8)に記載のFe−Ni合金素管の製造方法。
fn={P/(0.025H−0.01)}+{S/(0.015H−0.01)}・・・・・(4)。
ここで、(4)式中のP及びSは、素管中のP及びSの質量%での含有量を表し、Hは、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比を指す。
(10)上記(1)から(7)までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管又は、(8)若しくは(9)に記載の方法で製造されたFe−Ni合金素管を用いて製造されたことを特徴とするFe−Ni合金継目無管。
以下、上記(1)〜(7)のFe−Ni合金素管に係る発明、(8)及び(9)のFe−Ni合金素管の製造方法に係る発明、並びに(10)のFe−Ni合金継目無管を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(10)」という。また、総称して、「本発明」ということがある。
本発明のFe−Ni合金素管を素材として製造された油井管及びラインパイプ、並びに原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材は、強度や延性などの機械的性質に優れるとともにサワーガス環境下での耐食性に優れる。このため、本発明のFe−Ni合金素管は、油井管及びラインパイプの素管として用いることができ、また、原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材の素管として用いることができる。更に、本発明のFe−Ni合金素管は、ピアサーによって穿孔圧延されたものであるため、これを素材として口径の大きい管や長尺管を容易に製造することが可能であり、高効率、低コストで油井・ガス井を開発したいという産業界の要請に十分応えることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
(A)Fe−Ni合金の化学組成
以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
C:0.04%以下
Cを過多に含有する場合には、M23型炭化物の量が著しく増加して、合金の延性及び靱性が低下する。特に、Cの含有量が0.04%を超えると、延性及び靱性の低下が著しくなる。したがって、Cの含有量を0.04%以下とした。なお、Cの含有量は0.02%以下にまで低減することがより好ましい。特に、Cの含有量を0.010%以下に抑制すると、延性及び靱性の向上だけではなく、耐食性が顕著に改善される。
上記「M23型炭化物」における「M」は、Mo、Fe、Cr及びW等の金属元素を複合して含むことを意味する。
なお、Cの含有量が多い場合には凝固偏析が生じて、Fe−Ni合金の粒界溶融温度が低下し、ピアサーによる穿孔圧延性が低下する。したがって、Cの含有量は、後述するP及びSの含有量とのバランスで、前記(1)式で表されるTGBmの値が1300以上を満たす量とする必要がある。
Si:0.50%以下
過多のSiは、シグマ相の生成を助長して、延性及び靱性の低下をもたらす。特に、Siの含有量が0.50%を超えると、前記(3)式で表されるPσの値が0以上の場合であっても、ピアサーでの穿孔圧延によってシグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制し難くなる。したがって、Siの含有量を0.50%以下とした。なお、Siの含有量を0.10%以下にまで低減すれば、炭化物の粒界析出が抑制されて、延性、靱性及び耐食性が大きく向上する。
Mn:0.01〜6.0%
Mnは、脱硫作用を有する。この効果を確保するためには、Mnの含有量を0.01%以上とする必要がある。しかし、Mnの含有量が6.0%を超えると、M23型炭化物の生成を助長し、耐食性を劣化させる場合がある。したがって、Mnの含有量を0.01〜6.0%とした。なお、Mnの含有量が1.0%を超えると、シグマ相の生成を助長し、前記(3)式で表されるPσの値が0以上の場合であっても、ピアサーでの穿孔圧延によってシグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵が発生する場合がある。したがって、Mnの含有量は、0.01〜1.0%とすることがより好ましく、0.01〜0.50%とすることが一層好ましい。
P:0.03%以下
Pは、通常不可避的に混入してくる不純物であり、一般に、合金中に多量に存在すると熱間加工性が低下し、また、耐食性も劣化する。特に、Pの含有量が0.03%を超えると、熱間加工性の低下と耐食性の劣化が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.03%以下とした。Pの含有量は0.01%以下にすることが一層好ましい。
なお、Pの含有量が多い場合には凝固偏析が生じて、Fe−Ni合金の粒界溶融温度が低下し、ピアサーによる穿孔圧延性が低下する。したがって、Pの含有量は、前述したC及び後述するSの含有量とのバランスで、前記(1)式で表されるTGBmの値が1300以上を満たす量とする必要がある。
S:0.01%以下
Sも、通常不可避的に混入してくる不純物であり、一般に、合金中に多量に存在すると熱間加工性が低下し、また、耐食性も劣化する。特に、Sの含有量が0.01%を超えると、熱間加工性の低下と耐食性の劣化が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.01%以下とした。Sの含有量は0.005%以下にすることが一層好ましい。
なお、Sの含有量が多い場合には凝固偏析が生じて、Fe−Ni合金の粒界溶融温度が低下し、ピアサーによる穿孔圧延性が低下する。したがって、Sの含有量は、前述したC及びPの含有量とのバランスで、前記(1)式で表されるTGBmの値が1300以上を満たす量とする必要がある。
Cr:20〜30%
Crは、Mo、W及びNとともに合金の耐食性及び強度を向上させる作用を有する。前記の効果は、Crの含有量が20%以上で顕著に得られる。しかし、Crの含有量が30%を超えると、合金の熱間加工性が低下する。したがって、Crの含有量を20〜30%とした。Crの含有量は21〜27%とすることがより好ましい。
なお、本発明においては、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制するために、Crの含有量は、後述するNi、Mo、W及びNの含有量とのバランスで、前記(3)式で表されるPσの値が0以上を満たす量とする必要がある。
Ni:30〜45%
Niは、Nとともにオーステナイトの素地を安定化する作用を有し、Fe−Ni合金中にCr、MoやW等の強化作用と耐食作用を有する元素を多量に含有させるのに必須の元素である。また、Niにはシグマ相の生成を抑制する作用がある。前記の各作用は、Niの含有量が30%以上で確実に得られる。一方、Niの多量添加は合金コストの過度の上昇を招き、特にNiの含有量が45%を超えるとコストの上昇が大きくなる。したがって、Niの含有量を30〜45%とした。Niの含有量は32〜42%とすることがより好ましい。
なお、本発明においては、変形抵抗の過度の上昇を抑え、内面被れ疵の発生を抑制するために、Niの含有量は、後述するMo、W及びNの含有量とのバランスで、前記(2)式で表されるPsrの値が120以下を満たす量とする必要がある。また、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制するために、Niの含有量は、前述したCr、並びに、後述するMo、W及びNの含有量とのバランスで、前記(3)式で表されるPσの値が0以上を満たす量とする必要がある。
Mo:0〜10%、W:0〜20%、但し、Mo(%)+0.5W(%):1.5%を超えて10%以下
Mo及びWは、いずれもCrとの共存下で合金の強度を高める作用を有し、更に、耐食性、なかでも耐孔食性を著しく向上させる作用も有する。これらの効果を得るためには、Mo(%)+0.5W(%)の式で表される値、つまりMo当量の値で1.5%を超える量のMo及び/又はWを含有させる必要がある。しかし、Mo当量の値が10%を超えると延性や靱性等機械的性質の低下を招く。なお、MoとWは複合添加する必要はなく、Mo当量の値が上記の範囲にありさえすればよい。したがって、Moの含有量を0〜10%、Wの含有量を0〜20%とし、更に、Mo(%)+0.5W(%)の値を1.5%を超えて10%以下とした。
なお、本発明においては、Mo及びWの含有量、並びにMo当量の値は、変形抵抗の過度の上昇を抑え、内面被れ疵の発生を抑制するために、前述したNi及び後述するNの含有量とのバランスで、前記(2)式で表されるPsrの値が120以下を満たす量とする必要がある。また、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制するために、前述したCr及びNi、並びに、後述するNの含有量とのバランスで、前記(3)式で表されるPσの値が0以上を満たす量とする必要がある。
Cu:0.01〜1.5%
Cuは、サワーガス環境下での耐食性向上に有効な元素であり、特に、S(硫黄)が単体で認められるサワーガス環境下では、Cr、Mo及びWと共存して耐食性を大きく高める作用を有する。前記の効果はCuの含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Cuの含有量が1.5%を超えると、延性及び靱性が低下する場合がある。したがって、Cuの含有量を0.01〜1.5%とした。なお、Cuの含有量は0.5〜1.0%とすることがより好ましい。
Al:0.10%以下
Alは、シグマ相の生成を助長する最も有害な元素である。特に、Alの含有量が0.10%を超えると、前記(3)式で表されるPσの値が0以上の場合であっても、ピアサーでの穿孔圧延によってシグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制し難くなる。したがって、Alの含有量を0.10%以下とした。なお、Alの含有量は0.06%以下とすることがより好ましい。
N:0.0005〜0.20%
Nは、本発明における重要な元素の一つであり、Niとともにオーステナイトの素地を安定化する作用及びシグマ相の生成を抑制する作用を有する。前記の効果は、Nの含有量が0.0005%以上で得られる。しかし、Nの多量添加は靱性の低下を招くことがあり、特に、その含有量が0.20%を超えると靱性の低下が著しくなる場合がある。したがって、Nの含有量を0.0005〜0.20とした。Nの含有量は0.0005〜0.12%とすることがより好ましい。
なお、本発明においては、変形抵抗の過度の上昇を抑え、内面被れ疵の発生を抑制するために、Nの含有量は、前述したNi、Mo及びWの含有量とのバランスで、前記(2)式で表されるPsrの値が120以下を満たす量とする必要がある。また、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制するために、Nの含有量は、前述したCr、Ni、Mo及びWの含有量とのバランスで、前記(3)式で表されるPσの値が0以上を満たす量とする必要がある。
残部:Fe及び不純物
Feは、合金の強度を確保するとともに、Niの含有量を低減して合金コストを引き下げる効果を有する。このため、本発明に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金においては、残部はFe及び不純物からなることとした。
GBmの値:1300以上
既に述べたように、高Cr−高Ni系のFe−Ni合金に生ずる内面疵のうち、加工発熱に伴う高温側での粒界溶融に起因する二枚割れの発生は、被穿孔圧延材料を構成する元素の凝固偏析、とりわけC、P及びSの凝固偏析が生じた場合に顕著である。そして、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金においては、前記(1)式で表されるTGBmの値によって粒界溶融状況を評価することができ、TGBmの値が1300以上の場合に、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の二枚割れの発生を抑制することができる。したがって、TGBmの値を1300以上とした。なお、TGBmの値は1320以上とすることが一層好ましい。
srの値:120以下
既に述べたように、難加工性である高Cr−高Ni系のFe−Ni合金、なかでも、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金に生ずる内面疵のうち、高い変形抵抗に起因する内面被れ疵の発生状況は、前記(2)式で表されるPsrの値によって評価することができる。そして、Psrの値が120以下の場合に、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の内面被れ疵の発生を抑制することが可能となる。したがって、Psrの値を120以下とした。なお、Psrの値は90以下とすることが一層好ましい。
σの値:0以上
高Cr−高Ni系のFe−Ni合金、なかでも、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するオーステナイト系のFe−Ni合金に生ずる内面疵のうち、温度低下に伴う低温域でのシグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生は、前記(3)式で表されるPσの値によって評価することができる。そして、Pσの値が0以上の場合に、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の上記内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生を抑制することができる。したがって、Pσの値を0以上とした。なお、Pσの値は3.0以上とすることが一層好ましい。
したがって、本発明(1)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金の化学組成について、上述した範囲のCからNまでの元素を含み、残部はFe及び不純物からなり、前記TGBmの値が1300以上、Psrの値が120以下及びPσの値が0以上であることと規定した。
また、本発明(2)に係るFe−Ni合金素管は、本発明(1)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金の化学組成のうち、特にMn含有量を0.01〜1.0%と規定したものである。
なお、本発明に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金には、上記の成分に加え、必要に応じて、
(i)V:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%及びHf:0.001〜1.0%から選択される1種以上、
(ii)B:0.0001〜0.015%、
(iii)Co:0.3〜5.0%、
(iv)Mg:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%、La:0.0001〜0.20%、Ce:0.0001〜0.20%、Y:0.0001〜0.40%、Sm:0.0001〜0.40%、Pr:0.0001〜0.40%及びNd:0.0001〜0.50%から選択される1種以上、
の各グループの元素の1種以上を選択的に含有させることができる。すなわち、前記(i)〜(iv)の4グループの元素の1種以上を任意添加元素として添加し、含有させてもよい。
以下、上記の任意添加元素に関して説明する。
(i)V:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%及びHf:0.001〜1.0%
V、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfは添加すれば、いずれも、S(硫黄)が単体で認められるサワーガス環境下での耐食性を著しく高める作用を有する。また、MC型炭化物(但し、Mは、V、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfのいずれか単独又は複合を意味する。)を形成してCを安定化する作用を有し、更に、強度を高める作用も有する。
前記の効果を確実に得るには、V、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfのいずれの元素も0.001%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、V及びNbを0.3%を超えて、Ta、Ti、Zr及びHfを1.0%を超えてそれぞれ含有させると、前記独自の炭化物が多量に析出して延性及び靱性の低下を招く。
したがって、V、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfを添加する場合のそれぞれの含有量は、Vは0.001〜0.3%、Nbは0.001〜0.3%、Taは0.001〜1.0%、Tiは0.001〜1.0%、Zrは0.001〜1.0%及びHfは0.001〜1.0%とするのがよい。
上記の理由から、本発明(3)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金の化学組成について、本発明(1)又は(2)におけるFe−Ni合金のFeの一部に代えて、V:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%及びHf:0.001〜1.0%から選択される1種以上を含有することと規定した。
なお、本発明(3)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金において、添加する場合の一層好ましい含有量の範囲は、Vが0.10〜0.27%、Nbが0.03〜0.27%、Taが0.03〜0.70%、Tiが0.03〜0.70%、Zrが0.03〜0.70%及びHfが0.03〜0.70%である。
上記のV、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfはいずれか1種のみ、又は2種以上の複合で添加することができる。
(ii)B:0.0001〜0.015%
Bは、添加すれば、析出物を微細化する作用とオーステナイト結晶粒径を微細化する作用を有する。前記効果を確実に得るには、Bは0.0001%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Bを多量に添加すると低融点の化合物を形成して熱間加工性が低下することがあり、特に、その含有量が0.015%を超えると熱間加工性の低下が著しくなる場合がある。したがって、添加する場合のBの含有量は、0.0001〜0.015%とするのがよい。
上記の理由から、本発明(4)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金の化学組成について、本発明(1)から本発明(3)までのいずれかにおけるFe−Ni合金のFeの一部に代えて、B:0.0001〜0.015%を含有することと規定した。
なお、本発明(4)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金において、添加する場合の一層好ましいB含有量の範囲は、0.0010〜0.0050%である。
(iii)Co:0.3〜5.0%
Coは、添加すれば、オーステナイトを安定化する作用がある。前記効果を確実に得るには、Coは0.3%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Coの多量添加は合金コストの過度の上昇を招き、特にCoの含有量が5.0%を超えるとコストの上昇が大きくなる。したがって、添加する場合のCoの含有量は、0.3〜5.0とするのがよい。
上記の理由から、本発明(5)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金の化学組成について、本発明(1)から本発明(4)までのいずれかにおけるFe−Ni合金のFeの一部に代えて、Co:0.3〜5.0%を含有することと規定した。
なお、本発明(5)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金において、添加する場合の一層好ましいCo含有量の範囲は、0.35〜4.0%である。
(iv)Mg:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%、La:0.0001〜0.20%、Ce:0.0001〜0.20%、Y:0.0001〜0.40%、Sm:0.0001〜0.40%、Pr:0.0001〜0.40%及びNd:0.0001〜0.50%
Mg、Ca、La、Ce、Y、Sm、Pr及びNdは添加すれば、いずれも、インゴット鋳造時の凝固割れを防止する作用を有する。また、長期間使用後の延性低下を低減する作用も有する。
前記の効果を確実に得るには、Mg、Ca、La、Ce、Y、Sm、Pr及びNdのいずれの元素も0.0001%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Mg及びCaを0.010%を超えて、La及びCeを0.20%を超えて、Y、Sm及びPrを0.40%を超えて、Ndを0.50%を超えてそれぞれ含有させると粗大な介在物を生成して、靱性の低下を招く。
したがって、Mg、Ca、La、Ce、Y、Sm、Pr及びNdを添加する場合のそれぞれの含有量は、Mgは0.0001〜0.010%、Caは0.0001〜0.010%、Laは0.0001〜0.20%、Ceは0.0001〜0.20%、Yは0.0001〜0.40%、Smは0.0001〜0.40%、Prは0.0001〜0.40%及びNdは0.0001〜0.50%とするのがよい。
上記の理由から、本発明(6)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金の化学組成について、本発明(1)から本発明(5)までのいずれかにおけるFe−Ni合金のFeの一部に代えて、Mg:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%、La:0.0001〜0.20%、Ce:0.0001〜0.20%、Y:0.0001〜0.40%、Sm:0.0001〜0.40%、Pr:0.0001〜0.40%及びNd:0.0001〜0.50%から選択される1種以上を含有することと規定した。
なお、本発明(6)に係るFe−Ni合金素管の素材となる合金において、添加する場合の一層好ましい含有量の範囲は、Mgが0.0010〜0.0050%、Caが0.0010〜0.0050%、Laが0.01〜0.15%、Ceが0.01〜0.15%、Yが0.01〜0.15%、Smが0.02〜0.30%、Prが0.02〜0.30%及びNdが0.01〜0.30%である。
上記のMg、Ca、La、Ce、Y、Sm、Pr及びNdはいずれか1種のみ、又は2種以上の複合で添加することができる。
これまでに述べた化学組成からなるFe−Ni合金素管を素材として製造された油井管及びラインパイプ、並びに原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材は、強度や延性などの機械的性質に優れるとともにサワーガス環境下での耐食性に優れている。このため、前述の化学組成を有するFe−Ni合金素管を、油井管及びラインパイプの素管、また、原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材の素管として適用すれば、耐久性及び安全性を大幅に向上させることができる。つまり、このFe−Ni合金素管は上記環境に曝される部材用途として極めて好適なものである。
(B)Fe−Ni合金素管の製造方法
強度や延性などの機械的性質とサワーガス環境下での耐食性とに優れる各種部材用素管を得るだけではなく、高効率、低コストで油井・ガス井を開発したいという産業界の要請に応えるためには、口径の大きい管や長尺管の素管を工業的規模で量産する必要がある。そして、上記口径の大きい管や長尺管の素管を工業的規模で量産するためには、ピアサーによる穿孔圧延が適している。
しかしながら、既に述べたように、強度や延性などの機械的性質とサワーガス環境下での耐食性とに優れ、油井管及びラインパイプ、並びに原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材の素材として好適なFe−Ni合金素管、なかでも、20%以上のCrと30%以上のNiを含み、更に、Mo当量の値で1.5%を超えるような高い量のMoやWを同時に含有するFe−Ni合金素管を、炭素鋼や低合金鋼、更には、いわゆる「13%Cr鋼」などのマルテンサイト系ステンレス鋼の場合と同様の方法(以下、「通常の方法」という。)でピアサーによって穿孔圧延して工業的規模で量産することは、従来不可能であった。これは、上記のような高Cr−高Niで、しかもMo当量の値が大きい合金を通常の方法でピアサーによって穿孔圧延した場合には、疵や割れの発生を避けることができなかったからである。
一方、前記(A)項で述べた化学組成からなるFe−Ni合金は、CからNまでの元素の含有量を適正化するとともに、特に、ピアサーによる穿孔圧延時の高温側での粒界溶融に起因する二枚割れ、高い変形抵抗に起因する内面被れ疵、並びに、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の発生とそれぞれ相関を有する前記(1)式で表されるTGBmの値、前記(2)式で表されるPsrの値、更に、前記(3)式で表されるPσの値を、それぞれ1300以上、120以下、0以上としたものである。このため、前記(A)項で述べた化学組成からなるFe−Ni合金のビレットは、これを通常の方法でピアサーによって穿孔圧延しても、二枚割れ、内面被れ疵、並びに、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の全ての発生を抑制することができ、したがって、表面性状の良好な素管が得られる。
したがって、本発明(8)は、前記(A)項で述べた化学組成からなるFe−Ni合金のビレットをピアサーによって穿孔圧延し、工業的規模で量産された口径の大きい管や長尺管を得たいという産業界の要請に応えることとした。そして、本発明(1)〜本発明(6)に係るFe−Ni合金素管は、前記(A)項で述べた化学組成を有し、ピアサーによって穿孔圧延されたものと規定した。
なお、本発明(8)の方法で製造した素管、つまり、前記(A)項で述べた化学組成からなるビレットをピアサーによって穿孔圧延した素管は、上述のように、二枚割れ、内面被れ疵、並びに、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の全ての発生が抑制された表面性状の良好な素管である。このため、本発明(1)〜本発明(6)に係るFe−Ni合金素管は、前記産業界の要請に十分応えることができるものである。
なお、前記(A)項で述べた化学組成からなるビレットのピアサーによる穿孔圧延は通常の方法で行えばよい。
すなわち、ピアサーによる穿孔圧延は、炭素鋼や低合金鋼、更には、いわゆる「13%Cr鋼」などのマルテンサイト系ステンレス鋼の場合と同様の条件で行えばよい。具体的には、例えば、ビレット加熱温度を1200〜1300℃、ロール交叉角を0〜10゜、ロール傾斜角を7〜14、ドラフト率を8〜14%、プラグ先端ドラフト率を4〜7%として穿孔圧延すればよい。
ここで、ドラフト率及びプラグ先端ドラフト率はそれぞれ下記(5)式及び(6)式で表されるものである。
ドラフト率(%)={(素材直径−ロールのゴージ間隔)/素材直径}×100・・・・・(5)、
プラグ先端ドラフト率(%)={(素材直径−プラグ最先端部でのロール間隔)/素材直径}×100・・・・・(6)。
なお、上述のように、前記(A)項で述べた化学組成からなるビレットのピアサーによる穿孔圧延は通常の方法で行えばよく、特別な条件を設ける必要はない。しかし、既に述べたように、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比Hを大きくすることによって、粒界溶融に起因する二枚割れの発生を容易に抑制することができ、しかも、前記(4)式で表されるfnの値を1以下とすれば、ピアサーによる穿孔圧延を行った際の粒界溶融に起因する二枚割れの発生を完全に防止することができる。
したがって、本発明(9)は、前記(A)項で述べた化学組成からなるFe−Ni合金のビレットをピアサーによって穿孔圧延するに際し、前記(4)式で表されるfnの値を1以下として穿孔圧延することとした。そして、本発明(7)に係るFe−Ni合金素管は、前記(A)項で述べた化学組成を有するとともに、前記(4)式で表されるfnの値が1以下を満たすもので、しかも、ピアサーによって穿孔圧延されたものと規定した。
前述のとおり、ピアサー穿孔圧延時の拡管比Hは、その値を大きくすることによって粒界溶融に起因する二枚割れの発生を容易に抑制することができる。しかし、その値が2を超えると、素管の膨らみが大きくなりすぎて、ロールと外面規制工具であるディスク或いはガイドシューの隙間に素材が噛み出して破れる現象が生じやすくなり、圧延トラブルを招きやすくなる。このため、拡管比Hの上限値は2とすることが好ましい。但し、拡管比Hの下限値が1未満の場合には、得られる素管の外径の方が素材ビレットの直径よりも小さくなるので、内面工具であるプラグや芯金の外径も小さくする必要があって、熱容量不足によるプラグの溶損や芯金の曲がりが生じ、現実的ではない。
(C)Fe−Ni合金継目無管
本発明(1)から本発明(7)までのいずれかに係るFe−Ni合金素管又は、本発明(8)若しくは本発明(9)の方法で製造されたFe−Ni合金素管を用いて製造されたFe−Ni合金継目無管は、表面性状が良好で、しかも、機械的性質とサワーガス環境下での耐食性とに優れる。このため、油井管及びラインパイプ、並びに原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材として好適である。
したがって、本発明(10)は、上記本発明(1)から本発明(7)までのいずれかに係るFe−Ni合金素管又は、本発明(8)若しくは本発明(9)の方法で製造されたFe−Ni合金素管を用いて製造されたFe−Ni合金継目無管と規定した。
なお、本発明(1)から本発明(7)までのいずれかに係るFe−Ni合金素管又は、本発明(8)若しくは本発明(9)の方法で製造されたFe−Ni合金素管を用いて通常の方法で加工することによって、例えば、マンドレルミル、プラグミル、アッセルミル、プッシュベンチなどの延伸機で拡管して肉厚を減じた後、ストレッチレデューサーやサイザーなどの絞り圧延機で外径を絞ることによって、容易に所望のFe−Ni合金継目無管に仕上げることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
[実施例1]
表1及び表2に示す化学組成を有するFe−Ni合金を、通常の方法によって150kg真空誘導溶解炉を用いて溶解した後、造塊してインゴットにした。表1及び表2において、合金1〜20及び合金22は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の合金であり、合金a〜qは成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の合金である。なお、比較例のうち合金a及び合金bはそれぞれ、従来合金としてのASM UNS No.08028とNo.08535にほぼ相当するものである。
Figure 0004513807
Figure 0004513807
次いで、上記の各インゴットを1200℃で2時間均熱した後、通常の方法で熱間鍛造して、穿孔圧延時の拡管比を変化させるために、各Fe−Ni合金について直径が85mmのビレットを1個、直径が70mmのビレットを2個、そして、直径が55mmのビレットを1個作製した。なお、鍛造の仕上げ温度はいずれも1000℃以上とした。
このようにして得た各ビレットを1250℃で1時間加熱した後、モデルミルを用いて、拡管率Hを1.09〜1.74として、表3に示すサイズの素管に穿孔圧延した。なお、表3に、上記拡管率と、ビレットサイズ及び素管サイズとの関係を示す。また、表4に、穿孔圧延装置であるモデルミルの穿孔条件であるロール交叉角、ロール傾斜角、ドラフト率及びプラグ最先端部ドラフト率を示す。
なお、表5に、各合金の前記(4)式で表されるfnの値を、穿孔圧延時の拡管率Hがそれぞれ1.09、1.36、1.64及び1.74の場合に分けて示す。
Figure 0004513807
Figure 0004513807
Figure 0004513807
このようにして得た各素管について、割れと疵の有無を、すなわち、粒界溶融に起因する二枚割れ、内面被れ疵、並びに、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の有無を調査した。
表6に、割れと疵の有無の調査結果を整理して示す。なお、表6における「◎」、「○」、「△」及び「×」はそれぞれ、「割れと疵がなかったこと」、「割れはないものの小さな疵があったこと」、「割れはないものの大きな疵があったこと」及び「割れがあったこと」を意味する。
上記素管における割れと疵の有無の調査結果が「◎」の評価を含む合金1〜20及び合金22、合金p及び合金qについて、拡管比Hが1.36のもので代表させて、そのまま、或いは、1050℃で30分保持した後水冷する固溶化熱処理を行った。次いで、厚さ5mm、幅12mmで長さ150mmの短冊状素材を切り出し、通常の方法で冷間圧延して、厚さ3.5mmの板にし、これを素材として引張特性と耐食性を調査した。
すなわち、上記の厚さ3.5mmの板から、直径が3mmで標点距離が15mmの引張試験片を切り出し、室温大気中にて引張試験して、降伏強さ(YS)及び伸び(El)を測定した。
また、上記の厚さ3.5mmの板から、幅10mm、厚さ2mm及び長さ75mmで、半径0.25mmの切欠き部を設けた4点曲げ腐食試験片を作製し、下記条件のサワーガス環境下で耐食性、つまり、耐応力腐食割れ性を評価した。
試験溶液:20%NaCl−0.5%CHCOOH、
試験ガス:硫化水素分圧1013250Pa−炭酸ガス分圧2026500Pa(10atmHS−20atmCO)、
試験温度:177℃、
浸漬時間:1000時間、
付加応力:1×YS。
表6に、上記の引張試験結果及び耐食性試験結果を併せて示す。なお、表6における耐食性(サワーガス環境下での耐応力腐食割れ性)欄の「○」及び「×」はそれぞれ、割れの発生がなかったこと及び割れが発生したこと、を意味する。また、合金a〜oの引張特性と耐食性の欄における「−」は、穿孔圧延した素管の割れと疵の評価に「◎」となるものがなく、試験していないことを示す。
Figure 0004513807
表6から明らかなように,本発明に係るFe−Ni合金である合金1〜20及び合金22を用いた場合、穿孔圧延後の割れと疵の有無の調査結果は殆どが「◎」で僅かに「○」のものが存在する程度である。すなわち、割れの発生は全くなく、発生した疵は小さなものにすぎず、表面性状の優れたものであった。
更に、合金1〜20及び合金22を用いた場合の引張特性と耐食性の調査結果は良好なものであった。すなわち、800MPaを超える大きなYSと20%を超える大きな伸びとを有する強度と靱性に優れたものであり、しかも、前記の過酷なサワーガス環境下での耐食性にも優れている。
したがって、本発明に係るFe−Ni合金のビレットを通常方法で穿孔圧延した素管を用いれば、優れた機械的性質を有するとともにサワーガス環境下での耐食性に優れた継目無管を工業的規模で量産できることが明らかである。
これに対して、比較例の合金である合金pを用いた場合、穿孔圧延後の割れと疵の有無の調査結果は、「◎」と「○」である。すなわち、割れの発生は全くなく、発生した疵は小さなものにすぎず、表面性状の優れたものであった。しかし、その耐食性試験結果は「×」であり、前記の過酷なサワーガス環境下での耐食性に劣ることが明らかである。
更に、比較例の合金である合金qを用いた場合、穿孔圧延後の割れと疵の有無の調査結果は、「◎」と「△」である。すなわち、割れの発生は全くないが、発生した疵の中に大きなものがあった。その耐食性試験結果は「×」であり、前記の過酷なサワーガス環境下での耐食性に劣ることも明らかである。
また、比較例の合金である合金a〜oを用いた場合には、穿孔圧延後の割れと疵の有無の調査結果は「○」止まりである。すなわち、穿孔圧延すれば、割れはないものの大きな疵を生じたり、割れを生じるものである。したがって、こうした合金のビレットを通常方法で穿孔圧延した素管を用いても、優れた機械的性質を有するとともにサワーガス環境下での耐食性に優れた継目無管を工業的規模で量産できないことが明らかである。
[実施例2]
表1における合金3と同等の化学組成を有するFe−Ni合金を実機で溶製して分塊圧延し、直径が147mmのビレットを5本作製した。上記のFe−Ni合金の化学組成を表7に示す。
Figure 0004513807
次いで、上記のビレットを1230℃に加熱した後、表8に示す条件で実機製管し、外径が235mmで肉厚が15mmの素管を得た。この場合の穿孔圧延時の拡管率Hは1.5であるので、前記(4)式で表されるfnの値は0.193856となる。なお、ピアサープラグには、Fe−Ni合金の穿孔圧延に適したものとして、900℃における引張強度が90MPa、使用前の総スケール厚さが600μmで、0.5%Cr−1.0%Ni−3.0%W系の材質からなるものを用いた。
Figure 0004513807
上記5本の素管について、割れと疵の有無を、すなわち、粒界溶融に起因する二枚割れ、内面被れ疵、並びに、シグマ相生成に起因する内面での割れ及び内外面の被れ疵の有無を調査した。その結果、いずれの素管にも割れ及び疵がなく、その表面性状の良好なことが確認できた。
そこで、5本の素管にそれぞれ断面減少率で30%の冷間抽伸を施し、次いで、1090℃に加熱して水冷する固溶化熱処理を行った後、更に断面減少率で30%の冷間抽伸を施した。
このようにして得た管の長手方向から、実施例1の場合と同様の引張試験片と腐食試験片を切り出し、引張特性と耐食性を調査した。
すなわち、上記各管の長手方向から、直径が3mmで標点距離が15mmの引張試験片を切り出し、室温大気中にて引張試験して、降伏強さ(YS)及び伸び(El)を測定した。
また、上記の管から、幅10mm、厚さ2mm及び長さ75mmで、半径0.25mmの切欠き部を設けた4点曲げ腐食試験片を作製し、下記条件のサワーガス環境下で耐食性、つまり、耐応力腐食割れ性を評価した。
試験溶液:20%NaCl−0.5%CHCOOH、
試験ガス:硫化水素分圧1013250Pa−炭酸ガス分圧2026500Pa(10atmHS−20atmCO)、
試験温度:177℃、
浸漬時間:1000時間、
付加応力:1×YS。
表9に、上記の引張試験結果及び耐食性試験結果をまとめて示す。なお、表9における耐食性(サワーガス環境下での耐応力腐食割れ性)欄の「○」は、割れの発生がなかったことを意味する。
Figure 0004513807
表9から、いずれの管も良好な強度と延性とを有し、更に、極めて良好な耐食性を有していることが明らかである。
本発明のFe−Ni合金素管は、内面性状に優れるため、この素管を通常の方法によって、例えば、マンドレルミル、プラグミル、アッセルミル、プッシュベンチなどの延伸機で拡管して肉厚を減じた後、ストレッチレデューサーやサイザーなどの絞り圧延機で外径を絞ることによって、目標寸法の継目無管に仕上げることができる。そして、その継目無管は優れた機械的性質を有するとともにサワーガス環境下での耐食性に優れるので、本発明のFe−Ni合金素管は、油井管及びラインパイプの素管、更には、原子力発電プラント及び化学工業プラントにおける各種構造部材の素管として利用することができる。このFe−Ni合金素管は、本発明の方法によって低コストで容易に量産することができる。

Claims (10)

  1. 質量%で、C:0.04%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.01〜6.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cr:20〜30%、Ni:30〜45%、Mo:0〜10%、W:0〜20%、但し、Mo(%)+0.5W(%):1.5%を超えて10%以下、Cu:0.01〜1.5%、Al:0.10%以下及びN:0.0005〜0.20%を含み、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)〜(3)式で表されるTGBm、Psr及びPσの値がそれぞれ1300以上、120以下及び0以上の化学組成を有し、マンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延されたことを特徴とするFe−Ni合金素管。
    GBm=1440−6000P−100S−2000C・・・・・(1)
    sr=Ni+10(Mo+0.5W)+100N・・・・・(2)
    σ=(Ni−35)+10(N−0.1)−2(Cr−25)−5(Mo+0.5W−3)+8・・・・・(3)
    ここで、(1)〜(3)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
  2. 質量%で、C:0.04%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.01〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cr:20〜30%、Ni:30〜45%、Mo:0〜10%、W:0〜20%、但し、Mo(%)+0.5W(%):1.5%を超えて10%以下、Cu:0.01〜1.5%、Al:0.10%以下及びN:0.0005〜0.20%を含み、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)〜(3)式で表されるTGBm、Psr及びPσの値がそれぞれ1300以上、120以下及び0以上の化学組成を有し、マンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延されたことを特徴とするFe−Ni合金素管。
    GBm=1440−6000P−100S−2000C・・・・・(1)
    sr=Ni+10(Mo+0.5W)+100N・・・・・(2)
    σ=(Ni−35)+10(N−0.1)−2(Cr−25)−5(Mo+0.5W−3)+8・・・・・(3)
    ここで、(1)〜(3)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
  3. Feの一部に代えて、V:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%及びHf:0.001〜1.0%から選択される1種以上を含有する請求項1又は2に記載のFe−Ni合金素管。
  4. Feの一部に代えて、B:0.0001〜0.015%を含有する請求項1から3までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
  5. Feの一部に代えて、Co:0.3〜5.0%を含有する請求項1から4までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
  6. Feの一部に代えて、Mg:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%、La:0.0001〜0.20%、Ce:0.0001〜0.20%、Y:0.0001〜0.40%、Sm:0.0001〜0.40%、Pr:0.0001〜0.40%及びNd:0.0001〜0.50%から選択される1種以上を含有する請求項1から5までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
  7. 請求項1から6までのいずれかに記載の化学組成を有し、下記(4)式で表されるfnの値が1以下であることを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管。
    fn={P/(0.025H−0.01)}+{S/(0.015H−0.01)}・・・・・(4)
    ここで、(4)式中のP及びSは、素管中のP及びSの質量%での含有量を表し、Hは、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比を指す。
  8. 請求項1から6までのいずれかに記載の化学組成を満たすビレットをマンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延することを特徴とするFe−Ni合金素管の製造方法。
  9. 下記(4)式で表されるfnの値が1以下となる条件でマンネスマン圧延穿孔機によって穿孔圧延することを特徴とする請求項8に記載のFe−Ni合金素管の製造方法。
    fn={P/(0.025H−0.01)}+{S/(0.015H−0.01)}・・・・・(4)
    ここで、(4)式中のP及びSは、素管中のP及びSの質量%での含有量を表し、Hは、素管の外径と素材ビレットの直径との比で表される拡管比を指す。
  10. 請求項1から7までのいずれかに記載のFe−Ni合金素管又は、請求項8若しくは9に記載の方法で製造されたFe−Ni合金素管を用いて製造されたことを特徴とするFe−Ni合金継目無管。
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