JP5616283B2 - Fe−Ni−Cr−Mo合金およびその製造方法 - Google Patents
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Description
Cr+3.3×Mo+16×N (1)
(Cr、Mo、Nは各成分元素の含有量(質量%))
Cは、合金に強度を付与するために必要な元素であるため0.001%以上含有させる必要がある。しかしながら、0.015%を超えて含有すると、溶接熱影響部あるいは固溶化熱処理後の冷却速度が遅い場合において、結晶粒界に(Cr、Fe)23C6として析出し、Cr欠乏層を生成することにより、本合金の耐粒界腐食性を劣化させる。したがって、Cの上限を0.015%とした。
Siは、脱酸のために有効な元素であって0.01%以上の添加が必要である。しかしながら、過剰に添加してもその効果が飽和するとともに、延性の低下や強度の上昇を招き、さらに耐衝撃性を低下させるσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制し、また耐食性劣化を抑制するには過剰な添加は抑える必要があるため、Siの上限を0.30%とした。
Mnは、脱酸のために有効な元素であって0.01%以上の添加が必要である。しかしながら、耐衝撃性を低下させるσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制し、また耐食性劣化を抑制するには過剰な添加は抑える必要があるため、Mnの上限を0.50%とした。
Pは、不純物として不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析し易く、耐食性および熱間加工性の観点からは少ない方が望ましいので、含有量は0.020%以下とする。
Sは、Pと同様に不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析、または硫化物を形成し、孔食等の耐食性および熱間加工性を劣化させる元素であることから、その含有量は0.0015%以下とする。
Niは、オーステナイト相生成元素であり、σ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で有効な元素であって30.00%以上の添加が必要である。ただし、Niは溶鋼中のNの溶解度を低下させる性質も併せ持つことから、その含有量は32.00%以下とする。
Crは、耐食性を向上させる元素であるため26.00%を超えて含有する。しかしながら、Crはσ相やχ相等の金属間化合物の形成を助長し、かえって耐食性を劣化させるため、28.00%以下とする。
Moは、耐食性を向上させるために有効な元素であるが、7.00%を超えて含有すると、Crと同様にσ相やχ相などの金属間化合物の生成を助長し、耐食性をかえって劣化させるので、6.00〜7.00%以下とした。
Cuは、耐酸性を向上させるために有効な元素であり、その効果を得るためには1.00%を超えて含有する必要がある。しかしながら、1.40%を超えて含有すると、熱間加工性を低下させるため1.00〜1.40%とした。
Alは、有効な脱酸元素であるが、0.001%以上含有しないとその効果が得られない。一方、Alの含有量が0.10%を超えると、脱酸の効果が飽和する。また、Alは金属間化合物の析出を助長し、スラグ中のCaOを還元により溶鋼中のCa濃度上昇を招き、CaO含有介在物の生成を促して耐食性の劣化を招く。そこで、上限を0.10%と定めた。
Nは、強力なオーステナイト相生成元素であるとともに、CrやMoと同様に耐食性を向上させるために有効な元素である。また、Nは、金属間化合物の析出を抑制するのに有効であり、その効果を得るためには0.15%以上含有する必要がある。しかしながら、鋼中にNを多量に含有させると熱間変形抵抗が高くなり、熱間圧延が困難になるため、0.15〜0.25%とした。
Bは、熱間加工性の向上に対して、極めて有効な元素であるが、その含有量が0.0005%に満たないとその効果は小さい。一方、過剰な添加はかえって熱間加工性を阻害する。そこで、上限を0.0030%とした。
Oは、Al、Mg、Caなどと反応し、非金属介在物を生成する。Oの濃度が0.0050%を超えると、非金属介在物の量が多くなるのと同時に大型になることで、表面疵が発生することから、その上限を0.0050%とした。また、合金に含まれる非金属介在物の個数は少ない方が好ましいが、極端に低減するには製造コストの上昇をもたらす。そこで、下限は0.0001%とした。
Caは、非金属介在物をCaO−Al2O3−MgO系酸化物に制御するために有用な元素であり、精錬工程において、スラグや耐火物中のCaOが還元されることによって溶鋼中に供給される。しかしながら、Caの含有量が0.0020%を越えると、非金属介在物中のCaO濃度を上昇させ、耐食性に悪影響を与えることに加えて、30μmを超えるサイズのCaO−Al2O3−MgO系酸化物が発生し、製品板の表面欠陥を発生させることから、その濃度には限界がある。そこで、本発明では、Caの含有量を、0.0001〜0.0020%とした。
Mgは、熱間加工性向上に有効な元素であると共に、非金属介在物組成をMgO、MgO・Al2O3スピネルまたはCaO−Al2O3−MgO系酸化物のうちの1種または2種以上に制御するために必要な元素であり、精錬工程において、スラグや耐火物中のMgOが還元されることによって溶鋼中に供給される。しかしながら、Mgの含有量が0.0050%を超えると、非金属介在物として硬質なMgO・Al2O3系が主体となり、表面疵を引き起こす大型非金属介在物の存在頻度が増すため、Mgの含有量には限界がある。そこで本発明では、Mgの含有量を、0.0001〜0.0050%とした。
本発明では、Fe−Ni−Cr−Mo合金に含有される非金属介在物は、MgO、MgO・Al2O3スピネル、CaO−Al2O3−MgO系酸化物のいずれか1種または2種以上を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Al2O3スピネルの個数比率が50%以下で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が20%以下であることを好ましい態様としている。以下、非金属介在物の組成、並びに個数比率限定の根拠を示す。
これらの酸化物系非金属介在物は、フェロシリコンとAlにより脱酸した際に生成される脱酸生成物である。本発明に係るFe−Ni−Cr−Mo合金は、合金中のAl、Mg、Caの含有量に従い、MgO、MgO・Al2O3スピネル、CaO−Al2O3−MgO系酸化物のうちの1種または2種以上を含む。しかしながら、MgO・Al2O3スピネルの個数比率が50%を超えて存在した場合、MgO・Al2O3スピネルからなるクラスターを形成しやすくなり、大型非金属介在物の個数比率が多くなり、表面疵を発生させる。したがって、大型非金属介在物の個数比率を制限するためには、MgO・Al2O3スピネルの個数比率を50%以下とすることが望ましい。
MgO・Al2O3スピネルから形成されるクラスターや、脱酸が不十分の際に合金中に生成される大型非金属介在物が表面疵を発生させる起因となる。しかしながら、長径3μm以上からなる非金属介在物のうち、長径が30μm以上となる非金属介在物の個数比率が20%以下であれば、表面欠陥が発生しないことが判った。よって、長径3μm以上からなる非金属介在物のうち、長径が30μm以上となる非金属介在物の個数比率は20%以下であることが望ましい。
本発明にかかるFe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法では、上述のようにスラグの組成に特徴を有している。以下、本発明で規定するスラグ組成の根拠を説明する。
合金溶湯を効率よく脱酸、脱硫するため、かつ非金属介在物を制御するためには、スラグのCaO/Al2O3比を制御する必要がある。この比が3未満ではAl2O3の活量が低く、脱酸、脱硫することができなくなり、本発明におけるS濃度、O濃度の範囲に制御することができなくなる。一方、CaO/Al2O3比が10を超えて高くなると、合金溶湯中に還元されるCa濃度が高くなり、CaO濃度に富む非金属介在物を多数生成し、Fe−Ni−Cr−Mo合金板の耐食性を劣化させることに加えて、大型非金属介在物が生成されることから、上限を10とした。このようなCaO/Al2O3比に制御するため、CaO成分として、石灰または蛍石、Al2O3成分として脱酸材であるAlの酸化により生成されるアルミナが使用される。または、Al2O3成分として、アルミナ、またはライムアルミネート原料を添加してもよい。
合金溶湯を効率よく脱酸、脱硫するためには、スラグのCaO/SiO2比を制御する必要がある。この比の値が20を超えると相対的にAl2O3の活量が高くなってしまい、MgO・Al2O3スピネルの生成が助長され、請求項に記載の非金属介在物に制御することができなくなる。一方、CaO/SiO2比が5未満になると、スラグ中のSiO2濃度が高くなり、合金溶湯中に還元されるSi濃度も高くなる。その結果、本発明におけるSi濃度範囲に制御することができなくなり、Fe−Ni−Cr−Mo合金板の耐衝撃性を劣化させることから、下限を3とした。このようなCaO/SiO2比に制御するため、CaO成分として、石灰または蛍石、SiO2成分として脱酸材であるSiの酸化により生成されるシリカが使用される。あるいは、SiO2成分として、珪砂を添加してもよい。
スラグ中のMgOは、溶鋼中に含まれるMg濃度を請求項に記載される濃度範囲に制御するために重要な元素であるとともに、非金属介在物組成を本発明の好ましい組成に制御するためにも必要な元素である。そこで、下限を3%とした。一方、MgO濃度が10%を越えると、MgO・Al2O3スピネルの生成を助長し、MgO・Al2O3スピネルの個数比率を50%以下に制御することが困難となる。そこで、MgO濃度の上限を10%とした。スラグ中のMgOは、AOD精錬、あるいはVOD精錬する際に使用されるドロマイトレンガ、またはマグクロレンガがスラグ中に溶け出すことで、所定の範囲となる。あるいは、所定の成分範囲に制御するため、ドロマイトレンガ、またはマグクロレンガの廃レンガを添加してもよい。
1.シャルピー衝撃試験
スラブを熱間鍛造した鋼塊の鍛伸方向に鉛直な方向を長手とする試料を切り出し、厚さ:5mm、幅:10mm、長さ:55mmの試験片を作製し、室温、2mmVノッチでシャルピー衝撃試験により耐衝撃性を測定した(JIS Z 2242)。
鋼塊を厚さ6.5mmに熱間圧延した後にコイルに巻き取り、コイルを冷却後、巻き戻したときにコイルが破断したか否かを調べた。
Fe−Ni−Cr−Mo合金の化学成分は、蛍光X線分析により測定した。ただし、Cは赤外線吸収法、Oは不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法により測定した。
鋳造後のスラブから試料を切り出し、その試料断面に含まれる長径3μm以上からなる非金属介在物を無作為に30点選出し、EDS(エネルギー分散型X線分析)により定量分析し、非金属介在物の同定を行った。
熱間圧延合金板を冷間圧延し、その表面1m2あたりに非金属介在物起因のスジ状表面疵発生有無を目視にて観察し判定した。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.001〜0.015%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.020%以下、S:0.0015%以下、Ni:30.00〜32.00%、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Mo:6.00〜7.00%、Cu:1.00%を超え1.40%以下、Al:0.001〜0.10%、N:0.15〜0.25%、B:0.0005〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0020%、Mg:0.0001〜0.0050%、O:0.0001〜0.0050%、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe−Ni−Cr−Mo合金。
- 非金属介在物としてMgO、MgO・Al2O3スピネル、CaO−Al2O3−MgO系酸化物のいずれか1種または2種以上を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Al2O3スピネルの個数比率が50%以下で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のFe−Ni−Cr−Mo合金。
- 請求項1または2に記載のFe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法であって、電気炉に原料を装入し、質量%で、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Ni:30.00〜32.00%、Mo:6.00〜7.00%含有するFe−Cr−Ni−Mo合金溶湯を溶製し、次いで、AOD精錬、VOD精錬、およびAOD精錬に続きVOD精錬の3通りのいずれかの処理で脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金およびAlを投入し、CaO/Al2O3比:3〜10、CaO/SiO2比:5〜20、MgO:3〜10質量%からなるCaO−SiO2−MgO−Al2O3−F系スラグを用い、請求項1に記載の成分組成となるように溶鋼成分の調整を行い、その後、該合金溶湯を連続鋳造法または普通造塊法にて鋳造し、スラブを製造することを特徴とするFe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法。
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