本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図13に基づいて説明する。
図1には、本発明の第1の実施の形態に係る「変速装置」としての自動変速装置10の概略全体構成が模式図にて示されている。この図に示される如く、自動変速装置10は、「変速機」としてのベルト式無段変速機(以下、ベルト式CVTという)12を備えている。
ベルト式CVT12は、エンジン14の出力が図示しないトルクコンバータ、前後進切替クラッチ等を介して入力される入力軸16を備えており、入力軸16にはプライマリプーリ18が設けられている。プライマリプーリ18は、それぞれ入力軸16に同軸的かつ一体回転可能に設けられた固定シーブ18Aと可動シーブ18Bとで構成されている。可動シーブ18Bは、固定シーブ18Aが入力軸16に対し固定されているのに対し、入力軸16の軸線方向に変位可能とされている。固定シーブ18Aと可動シーブ18Bとの対向面は、それぞれ円錐面とされており、プライマリプーリ18に巻き掛けられるVベルト20を挟み込むようになっている。
また、ベルト式CVT12は、入力軸16と平行に配置された出力軸22を備えており、出力軸22にはセカンダリプーリ24が設けられている。セカンダリプーリ24は、それぞれ出力軸22に同軸的かつ一体回転可能に設けられた固定シーブ24Aと可動シーブ24Bとで構成されている。可動シーブ24Bは、固定シーブ24Aが出力軸22に対し固定されているのに対し、出力軸22の軸線方向に変位可能とされている。固定シーブ24Aと可動シーブ24Bとの対向面は、それぞれ円錐面とされており、セカンダリプーリ24に巻き掛けられるVベルト20を挟み込むようになっている。
このベルト式CVT12は、プライマリプーリ18及びセカンダリプーリ24にVベルト20が巻き掛けられており、具体的にはVベルト20が固定シーブ18Aと可動シーブ18Bとの間で挟持されると共に固定シーブ24Aと可動シーブ24Bとの間で挟持されており、このVベルト20を介して入力軸16から出力軸22に動力が伝達されるようになっている。この出力軸22は、例えば、駆動ギヤ・アイドラギヤ・ファイナルギヤ・差動装置等から成る動力伝達機構26を介して車輪28に接続されたドライブシャフト30に動力を伝達可能に接続されている。
そして、ベルト式CVT12は、Vベルト20のプライマリプーリ18への巻き掛け半径と、Vベルト20のセカンダリプーリ24への巻き掛け半径とを維持または変更することで、入力軸16と出力軸22との回転速度比すなわち減速比を維持または変更する構成である。このVベルト20のプライマリプーリ18及びセカンダリプーリ24への巻き掛け半径は、それぞれ油圧によって可動シーブ18B、24Bの固定シーブ18A、24Aに対する位置を保持または変更することで、維持または変更される構成である。したがって、固定シーブ18A及び可動シーブ18B、固定シーブ24A及び可動シーブ24がそれぞれ「一対の回転部材」に相当し、Vベルト20が「動力伝達部材」に相当する。
以上説明したベルト式CVT12に油圧を供給するために、自動変速装置10は、本発明における「油圧供給装置」としてのオイルポンプ32を備えている。オイルポンプ32の吐出(ディスチャージ)部は、「第1油路」としてのライン圧油路34の一端部に接続されており、該ライン圧油路34の他端部はベルト式CVT12の油圧制御回路36に接続されている。これにより、オイルポンプ32は、ライン圧油路34を介して油圧制御回路36に油圧を供給するようになっている。また、オイルポンプ32の吸込(サクション)部は、一端部がベルト式CVT12のオイルパン33に接続された戻り油路35の他端部に接続されている。したがって、自動変速装置10では、オイルポンプ32、ライン圧油路34、油圧制御回路36、オイルパン33、戻し油路35を通じて作動油が循環する構成である。
オイルポンプ32は、エンジン14から車輪28間までの各部で構成される動力伝達系の回転力によって駆動されるようになっている。具体的には、オイルポンプ32は、車両の通常走行時には、図4に矢印Aにて示す経路でエンジン14から伝達される駆動力によって駆動されるようになっている。また、オイルポンプ32は、車両減速時には、図4に矢印Bにて示す経路で車輪28・動力伝達機構26及びベルト式CVT12を介して伝達される動力(制動時における動力伝達系の回転慣性力)によって駆動されるようになっている。何れの場合にも、オイルポンプ32は、上記の通りライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36に油圧を供給する構成である。
図2に示される如く、油圧制御回路36は、ライン圧油路34に接続されたレギュレータバルブ38を備えている。レギュレータバルブ38は、ライン圧コントローラ40によってオイルポンプ32からの油圧を所定の油圧に設定して、該油圧をその上流でライン圧油路34から分岐した変速圧油路42に供給するようになっている。また、レギュレータバルブ38は、ライン圧コントローラ40によって、その接続されたクラッチ圧油路44に別途所定の油圧を供給するようになっている。クラッチ圧油路44にはマニュアルバルブ46が設けられている。マニュアルバルブ46は、シフトレバー装置によって選択されたシフトポジションに応じて、前進クラッチ48及び後進クラッチ50の何れか一方を結合すると共に他方を切り離すようになっている。
一方、変速圧油路42には変速制御弁52が設けられており、変速圧油路42は変速制御弁52の下流でプライマリプーリ18の油圧室18Cに接続されている。また、変速圧油路42は、変速制御弁52の上流で分岐してセカンダリプーリ24の油圧室24Cに接続されている。これらの油圧室18C、24Cに供給される油圧が、それぞれプライマリプーリ18の可動シーブ18B、セカンダリプーリ24の可動シーブ24Bに作用することで、上記の通りベルト式CVT12による減速比の維持または変速が行なわれるようになっている。そして、変速制御弁52は、図示しない変速制御装置である変速機コントローラからの指令に基づいて、ライン圧コントローラ40及びレギュレータバルブ38と協働して油圧室18C、24Cに供給する油圧を調整し、ベルト式CVT12による減速比を制御する構成とされている。
以上説明した油圧制御回路36は、ベルト式CVT12を構成するバルブボディ54(図1参照)に一体に形成されている。なお、このような油圧制御回路36は、公知の技術であるため詳細な説明は省略する。また、図2では、オイルパン33、戻し油路35の図示は省略している。
また、自動変速装置10は、油圧補助回路55を備えている。油圧補助回路55は、ライン圧油路34におけるオイルポンプ32と油圧制御回路36との間に接続された逆止弁56を備えている。逆止弁56は、後述するアキュムレータ60からの油圧がオイルポンプ32に供給されることを防止するようになっている。そして、油圧補助回路55は、ライン圧油路34における逆止弁56と油圧制御回路36との間から分岐した「第2油路」としてのアキュムレータ油路58の端部に接続されたアキュムレータ60を備えている。
図3に示される如く、アキュムレータ60は、ダイアフラム60Aによって内部がオイル室60Bとガス室60Cとに仕切られており、オイル室60Bに設けられた接続口60Dがアキュムレータ油路58の端部に接続されている。そして、アキュムレータ60は、ガス室60C内のガスを圧縮しつつオイル室60Bに作動油が供給されることで、油圧を蓄える(蓄圧)する構成とされている。なお、アキュムレータ60としては、例えば、ダイアフラム60Aに代えてピストンを設けたり、ガス室60C内のガスの圧縮による蓄圧に代えてピストンを付勢するばね等の変形によって蓄圧を行なうように構成することも可能である。このアキュムレータ60の容量は、本第1の実施の形態では、後述する所定の油圧を維持した状態で略1リットルとされている。
また、アキュムレータ60は、断熱構造とされている。具体的には、アキュムレータ60の外表面には、断熱材62が設けられている。断熱材62は、例えば樹脂材や発泡材等より成り、アキュムレータ60の本体に一体成形されたり、所定の形状(型状)に形成されてアキュムレータ60の本体に接着されたり、シート状に形成されてアキュムレータ60の本体に巻き付けられたりして設けられる。また、アキュムレータ60の断熱構造としては、例えば、アキュムレータ60の外郭を二重構造とし、その内部を真空としたり、内部に高断熱材を充填したりすることで構成することも可能である。
以上説明したアキュムレータ60には、アキュムレータ油路58を介してオイルポンプ32からの油圧が供給されるようになっている。また、アキュムレータ60は、後述する所定の場合に、蓄えた油圧をアキュムレータ油路58及びライン圧油路34を介して油圧制御回路36に供給(油圧を放出)するようになっている。そして、アキュムレータ油路58には、「油路開閉装置」としての切替弁64と、該切替弁64とアキュムレータ60との間に配置された「油圧検出器」としての圧力センサ66とが設けられている。
切替弁64は、アキュムレータ油路58を開放しアキュムレータ60への蓄圧またはアキュムレータ60からの油圧の放出を許容する開放状態と、アキュムレータ油路58を閉塞し(閉じ)アキュムレータ60とライン圧油路34とを遮断する閉塞状態とを選択的に取り得る構成とされている。この切替弁64には、「制御装置」としてのアキュムレータコントローラ68が電気的に接続されている。そして、切替弁64は、開放状態でアキュムレータコントローラ68から閉塞信号が入力されると閉塞状態に切り替わり、閉塞状態でアキュムレータコントローラ68から開放信号が入力されると開放状態に復帰する構成とされている。なお、切替弁64は、通常は機械的に開放状態または閉塞状態を維持するように構成されても良い。
アキュムレータコントローラ68は、圧力センサ66とも電気的に接続されており、圧力センサ66は、アキュムレータ60と切替弁64との間のアキュムレータ油路58の圧力、すなわちアキュムレータ60に蓄えられた油圧に応じた信号をアキュムレータコントローラ68に出力するようになっている。アキュムレータコントローラ68は、圧力センサ66から入力した信号が所定の油圧未満であることに対応する場合には、切替弁64に開放信号を出力して開放状態とするか、または閉塞信号を出力せず開放状態を維持させ、圧力センサ66から入力した信号が所定の油圧以上であることに対応する場合には、切替弁64に閉塞信号を出力して閉塞状態とするか、または開放信号を出力せず閉塞状態を維持させるようになっている。したがって、アキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧が蓄えられると、アキュムレータ油路58が閉塞されて該アキュムレータ60の油圧が維持される構成である。この所定の圧力は、ベルト式CVT12がVベルト20を挟持するために要求する圧力以上の値として設定されている。
また、アキュムレータコントローラ68は、上記変速機コントローラ・車速センサ・ブレーキ操作センサ(何れも図示省略)とも電気的に接続されている。そして、アキュムレータコントローラ68は、アキュムレータ60の油圧が所定の油圧未満の場合において、車両巡航(定常走行)時の変速待機状態では、閉塞信号を出力せず開放状態を維持させ、変速機コントローラから変速指令信号が入力されベルト式CVT12が変速する際には、切替弁64に閉塞信号を出力して閉塞状態に切り替えるようになっている。これにより、定常走行時に廃棄してしている余剰圧力を利用してアキュムレータ60に蓄圧を行ない、またベルト式CVT12が大きな油圧を必要とする変速時にはオイルポンプ32から油圧制御回路36のみに油圧が供給される構成である。一方、アキュムレータ60の油圧が所定の油圧以上であって切替弁64が閉塞状態であれば、このような制御を行なうことはない。また、アキュムレータコントローラ68は、アキュムレータ60の油圧が所定の油圧未満の場合において車両減速時には、閉塞信号を出力せず開放状態を維持させるようになっている。これにより、車両減速に伴う動力(回生力)を利用してアキュムレータ60に蓄圧を行なう構成とされている。
さらに、アキュムレータコントローラ68は、図示しないアイドリングストップ装置と電気的に接続されており、アイドリングストップ装置が各種センサからの情報に基づきアイドリングを停止するための所定の条件を満たしていると判断してエンジンを自動停止する(燃料供給を遮断する)と、これに対応するアイドリングストップ信号が入力されるようになっている。また、アキュムレータコントローラ68は、アイドリングストップ装置が各種センサからの情報に基づきエンジンを再始動するための所定の条件を満たしていると判断してエンジンを再始動すると、これに対応するエンジン再始動信号が入力されるようになっている。なお、アイドリングストップを成立させる所定の条件、エンジンを再始動するための所定の条件は、例えば背景技術の項で開示した文献等に記載されて従来公知であるため、説明を省略する。
アイドリングストップ信号が入力されたアキュムレータコントローラ68は、切替弁64に開放信号を出力してアキュムレータ油路58を開放させるようになっている。これにより、アキュムレータ60に蓄えられた油圧が油圧制御回路36に供給される構成である。そして、アキュムレータ60の上記容量は、可動シーブ24B等の摺動部からの作動油の漏れを考慮して、設定されたアイドリングストップ期間中、ベルト式CVT12にVベルト20の挟持圧を確保させることができる容量として決められている。一方、エンジン再始動信号が入力されたアキュムレータコントローラ68は、上記圧力センサ66・変速機コントローラ・車速センサ・ブレーキ操作センサからの信号に基づく制御を行なうようになっている。
さらにまた、アキュムレータコントローラ68は、例えば、イグニッションスイッチと電気的に接続されており、イグニッションスイッチがOFF操作されてIG−OFF信号が入力されると、切替弁64に閉塞信号を出力して閉塞状態とするか、または開放信号を出力せず閉塞状態を維持させるようになっている。これにより、車両の運転終了後には、アキュムレータ60に油圧が蓄圧された状態が維持される構成である。そして、アキュムレータ60が断熱構造とされていることにより、該アキュムレータ60内の作動油は、長時間に亘り外気温すなわち外気に曝されるベルト式CVT12のバルブボディ54(油圧制御回路36)よりも高温の状態が維持されるようになっている。
一方、アキュムレータコントローラ68は、例えばイグニッションスイッチがON操作されてIG−ON信号が入力されると、切替弁64に開放信号を出力してアキュムレータ油路58を開放させるようになっている。これにより、アキュムレータ60に蓄えられた油圧が油圧制御回路36に供給される構成である。これにより、油圧制御回路36内の作動油がアキュムレータ60内に蓄えられていた比較的高温の作動油と置換される構成である。したがって、車両の発進に先だって、油圧制御回路36が形成されたバルブボディ54が暖機されるようになっている。
次に、本第1の実施の形態の作用を説明する。
上記構成の自動変速装置10では、車両の走行時にエンジン14の駆動力によってオイルポンプ32が駆動され、ライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36(バルブボディ54)に油圧が供給される。ベルト式CVT12では、油圧制御回路36が変速機コントローラの指令に基づき減速比を維持または変更(変速)する。
ベルト式CVT12による減速比を維持する車両の巡航時、または車両減速時には、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、油圧補助回路55のアキュムレータ油路58が開放される。これにより、図4に示される如く、オイルポンプ32の油圧がアキュムレータ60に供給され、アキュムレータ60が油圧を蓄える。また、変速機コントローラから変速指令信号が入力されると、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に閉塞信号を出力し、オイルポンプ32の油圧が油圧制御回路36のみに供給される。さらに、車両が巡航状態または減速状態になると、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、アキュムレータ60が油圧を蓄える。
そして、アキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧が蓄圧されると、すなわち圧力センサ66からアキュムレータコントローラ68に入力される信号がアキュムレータ60の油圧が所定の油圧以上であることに対応する場合に、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に閉塞信号を出力し、アキュムレータ油路58が閉塞される。これにより、図5に示される如く、アキュムレータ60は、ライン圧油路34と遮断され、所定の油圧以上の油圧を蓄圧した状態を維持する。
車両が例えば交差点での信号待ちなどによってアイドリングストップ状態になると、エンジン14が停止することに伴いオイルポンプ32の作動が停止し、ベルト式CVT12の油圧制御回路36にはオイルポンプ32からの油圧が供給されなくなる。このとき、アイドリングストップ装置からアキュムレータコントローラ68にアイドリングストップ信号が入力されるので、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、アキュムレータ油路58が開放される。これにより、図6に示される如く、アキュムレータ60に蓄圧されていた油圧が、アキュムレータ油路58、ライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36に供給される。また、逆止弁56によって、アキュムレータ60の油圧がオイルポンプ32に供給されることが防止される。
このアイドリングストップ期間中、ベルト式CVT12は、アキュムレータ60から供給される油圧によって車両発進可能状態を維持する。具体的には、ベルト式CVT12では、車両発進時には減速比を大とする減速側(トルク増幅側)に減速比を設定するために、セカンダリプーリ24におけるVベルト20の巻き掛け半径が大である状態を維持する必要がある。このため、ベルト式CVT12では、変速圧油路42の圧が抜けるとセカンダリプーリ24によるVベルト20の挟持圧を確保できなくなるが、上記アキュムレータ60から変速圧油路42に供給される油圧によって、セカンダリプーリ24によるVベルト20の挟持圧を確保する。
一方、アイドリングストップ状態からエンジンが再始動すると、これに伴いオイルポンプ32が始動し、このオイルポンプ32からの油圧が油圧制御回路36に供給される状態に復帰する。このとき、アイドリングストップ装置からアキュムレータコントローラ68にエンジン再始動信号が入力され、アキュムレータコントローラ68が圧力センサ66の信号、ベルト式CVT12による変速の有無等に等に基づいて、切替弁64を適宜開閉させつつアキュムレータ60に蓄圧させる上記アイドリングストップ前の制御状態に復帰する。
また、車両の運転が終了し、例えばIG−OFF信号がアキュムレータコントローラ68に入力されると、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力せず、アキュムレータ油路58の閉塞状態が維持される(または、アキュムレータの油圧が所定の油圧未満であっても閉塞信号を出力しアキュムレータ油路58を閉塞状態に切り替える)。これにより、車両の運転状態が終了しても、図7に示される如く、アキュムレータ60に蓄圧された状態が維持される。また、断熱構造のアキュムレータ60内に蓄えられている作動油は、温度低下が抑制される。
そして、運転再開時に、例えばIG−ON信号がアキュムレータコントローラ68に入力されると、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、アキュムレータ油路58が開放される。すると、図8に示される如く、アキュムレータ60に蓄圧されていた油圧が、アキュムレータ油路58、ライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36に供給される。これにより、油圧制御回路36が形成されたバルブボディ54内の比較的低温の作動油が、アキュムレータ60に蓄えられていた比較的高温の作動油に置換される。
ここで、オイルポンプ32が停止するアイドリングストップ期間中には、アキュムレータ60の油圧が油圧制御回路36に供給されるため、ベルト式CVT12が車両の発進可能な減速比を維持することができる。このため、自動変速装置10を備えた車両は、アイドリングストップ状態からエンジン14が再始動された後、速やかに発進することができる。具体的には、図9に示される如く、アキュムレータ60から供給される油圧によって、時間T0前のアイドリングストップ期間中においても油圧制御回路36(変速圧油路42)の油圧が維持されるため、エンジン14が再始動してエンジン回転数が所定の回転数に達する時間T1に車両を発進させることができる。
一方、比較のために示したアキュムレータ60からの油圧供給がない場合には、油圧制御回路36の油圧上昇がエンジン回転数の上昇に遅れるため、必要な油圧に達する時間T2後の時間T3まで車両を発進させることができない。そして、アキュムレータ60からの油圧供給がない構成では、時間T3までの待ち時間と油圧切替等に伴って生じるショックによりスムースな発進が阻害されるが、本自動変速装置10を備えた車両では、上記の通り速やかに車両を発進させることができ、かつ油圧切替等に伴うショックが生じることもなく、運転者等の乗員に違和感を与えることのないスムースな発進が可能となる。また、アキュムレータ60からの油圧供給がない構成では、上記違和感のために時間T3までの間に運転者がアクセルペダルを踏み込んでしまい、エンジン回転数が上昇して車両が急発進したりクラッチ結合時のショックが発生したりすることも懸念されるが、本自動変速装置10を車両ではこのような急発進等も防止される。
また、車両の運転終了時に断熱構造のアキュムレータ60の蓄圧状態を維持し、運転再開時にアキュムレータ60に蓄えられた比較的高温の作動油をバルブボディ54に供給するため、バルブボディ54が速やかに暖機される。これにより、作動油の粘度低減に伴うオイルポンプ32の駆動トルク低減すなわちポンプ損失の低減が図られ、またバルブボディ54の暖機に伴いドライブトレーン系の暖機が促進され燃費向上が図られる。以下、具体的に説明する。
図10は、断熱材62としてシート状の発泡材を外郭に巻き付けたアキュムレータ60の運転終了からの時間経過に伴う油温変化を示す線図である。実線はアキュムレータ60内の作動油温、一点鎖線はアキュムレータ60の表面温度(表面に接触している作動油温)、破線は比較のために示した断熱材62を備えないアキュムレータ内の作動油温、二点鎖線は断熱材62を備えないアキュムレータの表面温度をそれぞれ示している。本図10は、運転終了時の作動油油温を略80℃、外気温を略−10℃とした場合の実験結果である。この図から明らかなように、断熱材62を設けてアキュムレータ60を断熱構造とすることで、該アキュムレータ60内の油温低下が抑制されている。そして、運転終了から約8時間(28800秒)経過後のアキュムレータ60内の作動油温は、略15℃〜20℃であり、外気温との差が略25℃〜30℃である。
図11は、アキュムレータ60内の作動油温(保持油温)と、このアキュムレータ60から作動油が供給された場合のバルブボディ54の温度変化を示す線図(実験結果)である。この図から、外気温よりも高温の作動油が供給されることで、バルブボディ54が暖機されることが判る。当然ながら、外気温が高いほどバルブボディ54の温度が高くなり、アキュムレータ60から供給される作動油温が高いほどバルブボディ54の温度が高くなる。ここで、外気温が−10℃の場合、上記略15℃〜20℃の作動油をバルブボディ54に供給すると、バルブボディ54の温度が略0℃〜3℃となり、バルブボディ54の温度(外気温に一致)が略10℃〜13℃上昇することが判る。
一方、図12は、ベルト式CVT12に用いられる作動油の温度−粘度特性を示す線図である。この図から判るように作動油は低温粘度が高いので、この領域でバルブボディ54内の作動油の温度を上昇させると、作動油の粘度が高いほど大きくなるオイルポンプ32の駆動トルクを低減して該オイルポンプ32のポンプ損失を低減することができる。上記のようにバルブボディ54が−10℃から0℃まで昇温された場合、オイルポンプ32のポンプ損失が略10%低減することが確かめられている。
また、図13は、車両走行距離と積算燃費との関係を示す線図である。実線はバルブボディ54内の作動油温が35℃の状態で車両を始動した場合の燃費を示しており、一点鎖線はバルブボディ54内の作動油温が25℃の状態で車両を始動した場合の燃費を示している。この図から、バルブボディ54(ドライブトレーン系)の温度が高い状態で車両を始動した場合の燃費の方が良好であることが判る。これは、図12に示すように低温側で単位温度差当りの粘度変化が大きくなる作動油の特性から、高温で始動することで作動油の粘度変化が抑制され、温度上昇に伴う粘度変化による撹拌抵抗が低減される等によるものと考えられる。
そして、破線は、車両始動時に、作動油温が25℃であるバルブボディ54にアキュムレータ60から比較的高温(例えば、60℃)の作動油を供給した場合の燃費を示している。アキュムレータ60から作動油を供給しない構成と比較して、燃費が顕著に向上することが判る。このように、アキュムレータ60からバルブボディ54への作動油供給によってドライブトレーン系の温度上昇が促進され、車両発進に先だってドライブトレーン系の温度が上昇することが、燃費向上に大きく寄与する。
このように、本第1の実施の形態に係る自動変速装置10では、電動ポンプ等のエンジン14が停止しても作動可能な油圧供給手段を備えることなく、アイドリング停止中にベルト式CVT12(油圧制御回路36)の油圧を維持でき、かつ運転終了後の再始動時における動力損失を低減することができる。
また、上記自動変速装置10では、オイルポンプ32が発生する油圧のうち余剰油圧(変速に必要な圧力と、減速比を維持するために必要な圧力との差の油圧)を廃棄している車両巡航時、または減速時にアキュムレータ60への蓄圧を行なう構成であるため、オイルポンプ32は、アキュムレータ60に蓄圧するために余分な仕事をする必要がない。すなわち、オイルポンプ32の容量を増大したり、作動時間を増やしたりする必要がない。このため、余剰動力を有効利用しつつアキュムレータ60に油圧を蓄え、アイドリングストップ後のスムースな発進を可能とすると共に、ポンプ損失の低減及び燃費向上を図ることができる。
さらに、自動変速装置10では、圧力センサ66の出力に基づいてアキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧が蓄えられたことを検出すると、切替弁64を閉塞状態に切り替えてアキュムレータ60の蓄圧状態を維持するため、ベルト式CVT12を発進可能状態に維持するために必要な油圧をアキュムレータ60に確実に蓄えることができる。また、このアキュムレータ60が断熱構造であるため、上記蓄圧状態でアキュムレータ60内の温度が低下して該アキュムレータ60内の油圧が低下することが防止される。また、アキュムレータ60内の油圧が低下してしまった場合でも、圧力センサ66の出力に基づいて切替弁64を開放状態とすることで、再度必要油圧を蓄圧することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について、図14乃至図22に基づいて説明する。なお、上記第1の実施の形態と基本的に同一の部品・部分については、上記第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
図14には、本発明の第2の実施の形態に係る「変速装置」としての自動変速装置70の概略全体構成が模式図にて示されている。この図に示される如く、自動変速装置70は、メインポンプであるオイルポンプ32に加えてサブポンプ72を備え得る点で、上記第1の実施の形態に係る自動変速装置10とは異なる。本第2の実施の形態では、サブポンプ72は、ベルト式CVT12の入力軸16におけるオイルポンプ32設置側とは反対側の端部に設けられており、エンジン14から車輪28までの各部で構成される動力伝達系の回転力によって駆動されるようになっている。
図16(A)に示される如く、入力軸16とサブポンプ72(の後述するギヤシャフト82)との間にはクラッチ74が配設されている。これにより、自動変速装置70では、サブポンプ72に動力を伝達するサブポンプ作動状態と、動力を伝達しないサブポンプ停止状態とを選択的に切替可能とされている。このクラッチ74は、例えば電磁クラッチとされており、後述する変速機コントローラ94から結合信号が入力されると入力軸16とギヤシャフト82とを結合してサブポンプ停止状態からサブポンプ作動状態に切り替わり、変速機コントローラ94から遮断信号が入力されると上記結合状態を解除してサブポンプ停止状態に復帰するように構成されている。このようなクラッチ74の構成は従来公知であるため、詳細については説明を省略する。
また、図16(A)及び図16(B)に示される如く、サブポンプ72は、本第2の実施の形態では内接ギヤポンプとされている。具体的には、サブポンプ72は、ハウジング76と、ハウジング76内に回転可能に嵌合した内歯形状の従動ギヤ78と、従動ギヤ78に対し偏心した状態で噛み合う外歯形状の駆動ギヤ80と、駆動ギヤ80に同軸的かつ一体回転可能に設けられると共にハウジング76を貫通してクラッチ74に接続されたギヤシャフト82と、従動ギヤ78と駆動ギヤ80との噛合部の反対側で従動ギヤ78及び駆動ギヤ80の各歯先に接触するに配設された略三日月形状の仕切部材84とを備えている。
このサブポンプ72では、従動ギヤ78と駆動ギヤ80との間において、該従動ギヤ78と駆動ギヤ80との噛合部と仕切部材84とによって分割された2つの空間は、一方がサブポンプ72の吸込部に連通されると共に他方が吐出部(何れも図示省略)に連通されている。これにより、サブポンプ72は、クラッチ74を介して伝達される駆動力によってギヤシャフト82が軸心廻りに回転すると、吸込部から作動油を吸込み昇圧し、該作動油を吐出部から吐出する構成とされている。このような内接ギヤポンプの構成は従来公知であるため、詳細については説明を省略する。
以上説明したサブポンプ72は、図15に示される如く、ライン圧油路34における逆止弁56よりも上流側(オイルポンプ32側)から分岐されたサブポンプ油路86に設けられている。ライン圧油路34とサブポンプ油路86との分岐部位には、切替弁88が配設されている。切替弁88は、オイルポンプ32が吐出した作動油(油圧)の供給経路をライン圧油路34に接続すると共にサブポンプ油路86から遮断するサブポンプ遮断状態と、オイルポンプ32が吐出した作動油(油圧)の供給経路をライン圧油路34から遮断すると共にサブポンプ油路86に接続するサブポンプ経由状態とを選択的に取り得る構成とされている。切替弁88は、通常は機械的に上記サブポンプ遮断状態を維持し、後述する変速機コントローラ94から切替信号が入力されるとサブポンプ遮断状態からサブポンプ経由状態に切り替わり、変速機コントローラ94から復帰信号が入力されるとサブポンプ遮断状態に復帰するように構成されている。
そして、サブポンプ油路86は、その下流端がライン圧油路34における切替弁88と逆止弁56との間に接続(合流)されている。また、サブポンプ72は、吸込部がサブポンプ油路86における切替弁88側に接続されると共に、吐出部がサブポンプ油路86における下流端側に接続されている。したがって、切替弁88のサブポンプ経由状態では、サブポンプ72はオイルポンプ32の下流に直列に配置され、オイルポンプ32が油圧P1まで昇圧した作動油をさらに油圧P2(>P1)まで昇圧してライン圧油路34における逆止弁56(アキュムレータ油路58)の上流に供給する構成とされている。
以上により、本第2の実施の形態では、油圧補助回路55に代えて、油圧補助回路55にサブポンプ72、サブポンプ油路86、及び切替弁88を付加した油圧補助回路90が設けられている。なお、サブポンプ油路86におけるサブポンプ72とライン圧油路34への接続部との間に、サブポンプ72の吐出側への作動油の流入を阻止するための逆止弁を設けても良い。
また、自動変速装置70は、作動油の油温に応じた信号を出力する、すなわち作動油温を検出する「油温検出器」としての温度センサ92を備えている。温度センサ92は、本第2の実施の形態では、ライン圧油路34におけるオイルポンプ32と切替弁88との間に設けられている。さらに、自動変速装置70は、変速機コントローラ94を備えている。変速機コントローラ94は、上記第1の実施の形態(図示は省略した)と同様に変速制御弁52やライン圧コントローラ40に変速指令を適宜出力してベルト式CVT12の減速比を維持しまたは変速を行なうようになっている他、アキュムレータコントローラ68、クラッチ74、切替弁88及び温度センサ92に電気的に接続されている。
そして、変速機コントローラ94は、ベルト式CVT12が減速比を維持する変速待機状態では、クラッチ74に遮断信号を出力してサブポンプ停止状態とすると共に、切替弁88に切替信号を出力することなくサブポンプ遮断状態を維持させてサブポンプ油路86への作動油の供給を阻止するようになっている。これにより、変速待機状態のベルト式CVT12(油圧制御回路36)は、オイルポンプ32のみによって昇圧された作動油すなわち油圧P1が供給される構成である。このオイルポンプ32の吐出圧P1は、ベルト式CVT12による減速比の維持に必要な油圧Pf以上に設定されている。また、この変速待機状態では、上記第1の実施の形態と同様に、アキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧Paが蓄えられていない場合に、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力して開放状態とし、オイルポンプ32の油圧がアキュムレータ60にも供給されるようになっている。これにより、オイルポンプ32の吐出圧に応じた油圧がアキュムレータ60に蓄えられる構成である。
一方、変速機コントローラ94は、ベルト式CVT12に変速を行なわせる際には、クラッチ74に結合信号を出力してサブポンプ作動状態とすると共に、切替弁88に切替信号を出力してサブポンプ経由状態にさせ、サブポンプ油路86へ作動油を供給させるようになっている。この場合、図17に矢印Aにて示される如く、エンジン14の駆動力によってオイルポンプ32及びサブポンプ72が駆動される構成である。また、この変速時には、上記第1の実施の形態と同様に、変速機コントローラ94からアキュムレータコントローラ68に変速指令信号が出力され、アキュムレータコントローラ68は切替弁64に閉塞信号を出力して閉塞状態とするようになっている。以上により、上記の通りベルト式CVT12が大きな油圧Pc(>Pf)を必要とする変速時に、オイルポンプ32及びサブポンプ72によって圧力P2(≧Pc)まで昇圧された作動油、すなわちオイルポンプ32のみによる油圧P1よりも大きな油圧P2が、アキュムレータ60に供給されることなく油圧制御回路36に供給される構成である。
したがって、本第2の実施の形態では、オイルポンプ32及びサブポンプ72が共に作動した場合の油圧制御回路36への供給油圧P2が上記第1の実施の形態におけるオイルポンプ32の供給油圧(吐出圧)に相当すれば足り、オイルポンプ32が第1の実施の形態におけるオイルポンプ32よりも低容量化(吐出圧がP1まで低減)されている。なお、所定容量(1リットル)の作動油を油圧制御回路36の供給してベルト式CVT12の減速比をアイドリングストップの期間中に亘り維持させるために、アキュムレータ60に蓄圧される所定の油圧以上の油圧Paがオイルポンプ32の吐出圧P1よりも大である場合、本第2の実施の形態では、上記変速待機状態におけるオイルポンプ32のみの作動によっては、アキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧Paを蓄えることができない構成とされている。
このため、変速機コントローラ94は、アキュムレータ60の油圧が所定の油圧未満である場合であって、車両減速時には、アキュムレータコントローラ68から蓄圧要求信号が入力されるようになっている。蓄圧要求信号が入力されている変速機コントローラ94は、クラッチ74に結合信号を出力してサブポンプ作動状態とすると共に、切替弁88に切替信号を出力してサブポンプ経由状態にさせサブポンプ油路86へ作動油を供給させるようになっている。この場合、図18に矢印Cにて示される如く、車輪28・動力伝達機構26及びベルト式CVT12を介して伝達される動力(制動時における動力伝達系の回転慣性力)によってオイルポンプ32及びサブポンプ72が駆動される構成である。
これにより、減速時の制動力、すなわち上記車輪28、動力伝達機構26、ベルト式CVT12等の回転慣性力を利用して駆動されるサブポンプ72によって、アキュムレータ60への蓄圧が行なわれる構成である。そして、オイルポンプ32が昇圧した作動油をさらに昇圧するサブポンプ72からの供給油圧P2は、上記の通りベルト式CVT12の変速に供される油圧Pc以上であり、サブポンプ72の作動によってアキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧Paを蓄えることができる構成である。
さらに、変速機コントローラ94は、温度センサ92から入力される信号が所定の温度未満であることに対応している場合、すなわち、作動油温が所定の温度未満である場合には、クラッチ74に結合信号を出力してサブポンプ作動状態とすると共に、切替弁88に切替信号を出力してサブポンプ経由状態にさせサブポンプ油路86へ作動油を供給させるようになっている。これにより、自動変速装置70では、サブポンプ72の作動に伴う流体摩擦によって作動油温を上昇し、暖機を促進する構成とされている。
また、作動油温が所定の温度未満である場合には、変速機コントローラ94はアキュムレータコントローラ68に蓄圧待機信号を出力するようになっており、蓄圧待機信号が入力されたアキュムレータコントローラ68は、切替弁64に閉塞信号を出力して閉塞状態とするようになっている。これにより、低温の作動油がアキュムレータ60に蓄えられることが防止される構成とされている。一方、変速機コントローラ94は、作動油温が所定の温度以上になったことに対応する信号が温度センサ92から入力されると、上記した変速時または減速時にのみサブポンプ72を作動させる制御状態に復帰すると共に、アキュムレータコントローラ68に蓄圧可能信号を出力するようになっている。蓄圧可能信号が入力されたアキュムレータコントローラ68は、上記各制御条件にしたがってアキュムレータ60への蓄圧またはアキュムレータに蓄圧された油圧の開放を行なう状態に復帰するようになっている。
自動変速装置70の他の構成・機能は、自動変速装置10の対応する構成・機能と同様である。したがって、自動変速装置70においても、アイドリングストップ時にはアキュムレータ60に蓄えられた油圧を油圧制御回路36に供給してベルト式CVT12に発進可能な減速比を維持させ、車両運転終了時にはアキュムレータ60に高温の作動油を蓄えた状態を維持させ、該車両運転後の再始動時にはアキュムレータ60に蓄えられた高温の作動油をバルブボディ54(油圧制御回路36)に供給させるようになっている。
なお、本第2の実施の形態では、オイルポンプ32が本発明における「第1ポンプ」に、サブポンプ72が本発明における「第2ポンプ」にそれぞれ相当し、オイルポンプ32及びサブポンプ72が「油圧供給装置」に相当する。また、本第2の実施の形態では、アキュムレータコントローラ68と変速機コントローラ94とが本発明における「制御装置」に相当する。
またなお、上記説明では、サブポンプ72がベルト式CVT12の入力軸16におけるエンジン14と反対側に配置された例を示したが、サブポンプ72は、エンジン14から車輪28までの動力伝達系(エンジン14、ベルト式CVT12、動力伝達機構26、ドライブシャフト30、車輪28等)の何れかの回転力によって駆動されれば良い。したがって、例えば、図23に示される如く、サブポンプ72をオイルポンプ32と共通の駆動軸(エンジン14の出力軸またはベルト式CVT12の入力軸16)にクラッチ74を介して接続しても良く、図24に示される如く、サブポンプ72をベルト式CVT12の出力軸22(従動軸)にクラッチ74を介して接続しても良い。これらの構成においても、図15に示す油圧回路が構成される。
次に、本第2の実施の形態の作用を説明する。
上記構成の自動変速装置70では、車両の定常走行時、すなわち変速機コントローラ94の指令に基づく変速待機時には、エンジン14の駆動力によってオイルポンプ32が駆動され、ライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36(バルブボディ54)に油圧P1が供給される。このとき、変速機コントローラ94は、クラッチ74に遮断信号を出力すると共に切替弁88には切替信号を出力せず、サブポンプ油路86すなわちサブポンプ72に作動油が供給されることはない。ベルト式CVT12では、オイルポンプ32から供給される油圧P1(≧Pf)によって油圧制御回路36が減速比を維持する。
一方、ベルト式CVT12に変速を行なわせる際には、変速機コントローラ94がクラッチ74に結合信号を出力すると共に切替弁88に切替信号を出力する。すると、図17に示される如く、オイルポンプ32で昇圧された作動油は、サブポンプ油路86を経由してサブポンプ72に供給され、該サブポンプ72によってさらに昇圧されて油圧制御回路36に供給される。ベルト式CVT12は、サブポンプ72から供給される油圧P2(≧Pc)によって油圧制御回路36が変速を行なう。
また、上記定常走行時(変速待機時)には、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、油圧補助回路55のアキュムレータ油路58が開放される。これにより、オイルポンプ32の油圧がアキュムレータ60に供給され、アキュムレータ60がオイルポンプ32の吐出圧に応じた油圧を蓄える。さらに、車両減速時には、アキュムレータコントローラ68から変速機コントローラ94に蓄圧要求信号が入力され、変速機コントローラ94がクラッチ74に結合信号を出力すると共に切替弁88に切替信号を出力する。すると、図18に示される如く、オイルポンプ32で昇圧された作動油は、サブポンプ油路86を経由してサブポンプ72に供給され、該サブポンプ72によってさらに昇圧されてアキュムレータ60に供給される。
そして、1回または数回の車両減速によってアキュムレータ60に所定の油圧以上の油圧Paが蓄圧されると、すなわち圧力センサ66からアキュムレータコントローラ68に入力される信号がアキュムレータ60の油圧が所定の油圧以上であることに対応する場合に、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に閉塞信号を出力し、アキュムレータ油路58が閉塞される。これにより、アキュムレータ60は、ライン圧油路34と遮断され、所定の油圧以上の油圧Paを蓄圧した状態を維持する(図示は省略するが、図5と同様の状態となる)。
車両が例えば交差点での信号待ちなどによってアイドリングストップ状態になると、エンジン14が停止することに伴いオイルポンプ32(及びサブポンプ72)の作動が停止し、ベルト式CVT12の油圧制御回路36にはオイルポンプ32からの油圧が供給されなくなる。このとき、アイドリングストップ装置からアキュムレータコントローラ68にアイドリングストップ信号が入力されるので、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、アキュムレータ油路58が開放される。これにより、図19に示される如く、アキュムレータ60に蓄圧されていた油圧Paが、アキュムレータ油路58、ライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36に供給される。また、逆止弁56によって、アキュムレータ60の油圧がオイルポンプ32及びサブポンプ72に供給されることが防止される。
このアイドリングストップ期間中、ベルト式CVT12は、アキュムレータ60から供給される油圧によって車両発進可能状態を維持する。具体的には、ベルト式CVT12では、車両発進時には減速比を大とする減速側(トルク増幅側)に減速比を設定するために、セカンダリプーリ24におけるVベルト20の巻き掛け半径が大である状態を維持する必要がある。このため、ベルト式CVT12では、変速圧油路42の圧が抜けるとセカンダリプーリ24によるVベルト20の挟持圧を確保できなくなるが、上記アキュムレータ60から変速圧油路42に供給される油圧によって、セカンダリプーリ24によるVベルト20の挟持圧を確保する。
一方、アイドリングストップ状態からエンジンが再始動すると、これに伴いオイルポンプ32が始動し、このオイルポンプ32からの油圧が油圧制御回路36に供給される状態に復帰する。このとき、アイドリングストップ装置からアキュムレータコントローラ68にエンジン再始動信号が入力され、アキュムレータコントローラ68が圧力センサ66の信号、ベルト式CVT12による変速の有無等に等に基づいて、切替弁64を適宜開閉させつつアキュムレータ60に蓄圧させる上記アイドリングストップ前の制御状態に復帰する。また、変速機コントローラ94によるクラッチ74、切替弁88の制御状態は、アイドリングストップ前の制御状態となる。
また、車両の運転が終了し、例えばIG−OFF信号がアキュムレータコントローラ68に入力されると、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力せず、アキュムレータ油路58の閉塞状態が維持される(または、アキュムレータの油圧が所定の油圧未満であっても閉塞信号を出力しアキュムレータ油路58を閉塞状態に切り替える)。これにより、車両の運転状態が終了しても、図20に示される如く、アキュムレータ60に蓄圧された状態が維持される。また、断熱構造のアキュムレータ60内に蓄えられている作動油は、温度低下が抑制される。
そして、運転再開時に、例えばIG−ON信号がアキュムレータコントローラ68に入力されると、アキュムレータコントローラ68が切替弁64に開放信号を出力し、アキュムレータ油路58が開放される。すると、図21に示される如く、アキュムレータ60に蓄圧されていた油圧が、アキュムレータ油路58、ライン圧油路34を介してベルト式CVT12の油圧制御回路36に供給される。これにより、油圧制御回路36が形成されたバルブボディ54内の比較的低温の作動油が、アキュムレータ60に蓄えられていた比較的高温の作動油に置換される。
さらに、作動油温が所定の温度(例えば、50℃)よりも低い場合、すなわち温度センサ92から変速機コントローラ94に入力される信号が所定の温度未満であることに対応している場合には、変速待機状態であっても、変速機コントローラ94がクラッチ74に結合信号を出力すると共に切替弁88に切替信号を出力する。すると、図22に示される如く、作動油がサブポンプ油路86を経由してサブポンプ72に供給され、この作動油は流体摩擦によって温度上昇が促進される。これにより、自動変速装置70を循環する作動油の温度上昇が果たされ、該自動変速装置が早期に暖機される。
このとき、変速機コントローラ94がアキュムレータコントローラ68に蓄圧待機信号を出力し、蓄圧待機信号が入力されたアキュムレータコントローラ68は、変速待機状態または車両減速状態であっても、切替弁64に閉塞信号を出力してアキュムレータ油路58を閉塞させる。これにより、アキュムレータ60に低温の作動油が蓄えられることが防止される。そして、作動油温が所定の温度以上になった場合、すなわち温度センサ92から変速機コントローラ94に所定の温度以上であることに対応している信号が入力されると、変速機コントローラ94がアキュムレータコントローラ68に蓄圧可能信号を出力する。これにより、アキュムレータコントローラ68が圧力センサ66の信号、ベルト式CVT12による変速の有無等に等に基づいて、切替弁64を適宜開閉させつつアキュムレータ60に蓄圧させる上記アイドリングストップ前の制御状態に復帰する。
以上説明したように、本第2の実施の形態に係る自動変速装置70によっても、上記第1の実施の形態に係る自動変速装置10と全く同様の効果を得ることができる。すなわち、自動変速装置70では、オイルポンプ32及びサブポンプ72が停止するアイドリングストップ期間中には、アキュムレータ60の油圧Paが油圧制御回路36に供給されるため、ベルト式CVT12が車両の発進可能な減速比を維持することができる。このため、自動変速装置70を備えた車両は、アイドリングストップ状態からエンジン14が再始動された後、速やかに(図9の時間T1に)発進することができる。また、車両の運転終了時に断熱構造のアキュムレータ60の蓄圧状態を維持し、運転再開時にアキュムレータ60に蓄えられた比較的高温の作動油をバルブボディ54に供給するため、バルブボディ54が速やかに暖機される。これにより、作動油の粘度低減に伴うオイルポンプ32の駆動トルク低減すなわちポンプ損失の低減が図られ、またバルブボディ54の暖機に伴いドライブトレーン系の暖機が促進され燃費向上が図られる(図10乃至図13参照)。
したがって、自動変速装置70では、電動ポンプ等のエンジン14が停止しても作動可能な油圧供給手段を備えることなく、アイドリング停止中にベルト式CVT12(油圧制御回路36)の油圧を維持でき、かつ運転終了後の再始動時における動力損失を低減することができる。さらに、自動変速装置70では、圧力センサ66の出力に基づいて切替弁64の開閉を制御するため、ベルト式CVT12を発進可能状態に維持するために必要な油圧をアキュムレータ60に確実に蓄えることができる。また、このアキュムレータ60が断熱構造であるため、上記蓄圧状態でアキュムレータ60内の温度が低下して該アキュムレータ60内の油圧が低下することが防止される。
また、本第2の実施の形態に係る自動変速装置70では、上記自動変速装置10と同様の効果の他に、以下に示す効果を得ることができる。
自動変速装置70では、ベルト式CVT12は、変速待機時(車両の定常走行時)にはオイルポンプ32によって昇圧された油圧P1によって減速比を維持し、変速時にはサブポンプ72から供給される油圧P2によって変速を行なうため、変速待機時に生じる余剰油圧が低減される。すなわち、吐出圧がP2(>P1)である1基のオイルポンプ32を有する構成と比較して、変速待機時に廃棄される余剰油圧が(P2−Pf)から(P1−Pf)に低減され、該変速待機時の動力損失が低減される。
また、車両減速(制動)時にクラッチ74を結合してサブポンプ72を作動させると共に切替弁64を開放してアキュムレータ60に油圧を蓄えさせるため、上記の通りオイルポンプ32の吐出圧P1が低い場合でも、アイドリングストップ時におけるベルト式CVT12による減速比の維持に必要な油圧Paをアキュムレータ60に確実に蓄圧させることができる。そして、減速時におけるベルト式CVT12(エンジン14)の回転慣性力によってサブポンプ72を作動するため、換言すれば、通常廃棄している制動力を回生してアキュムレータ60に蓄圧するため、アキュムレータ60への蓄圧に伴って動力損失が生じることもない。
以上により、自動変速装置70では、全体として省動力化を図りつつ、アキュムレータ60への蓄圧を行ない、アイドリングストップ時及び運転終了後のエンジン再始動時、または運転終了後のエンジン再始動時に、アキュムレータ60からベルト式CVT12の油圧制御回路36(バルブボディ54)に油圧Paまたは比較的高温の作動油を供給することができる構成が実現される。
またここで、自動変速装置70では、作動油の温度が所定の温度よりも低い場合には、変速待機状態であってもサブポンプ72を作動させるため、作動油は、オイルポンプ32による流体摩擦に加え、サブポンプ72による流体摩擦によって早期に昇温される。これにより、作動油を循環させる自動変速装置70では、例えば、運転終了後のエンジン再始動時等の車両始動直後に、全体として暖機が一層促進される。すなわち、運転終了後のエンジン再始動時には、アキュムレータ60から比較的高温の作動油がバルブボディに供給されて暖機が促進されることに加え、サブポンプ72の作動によって一層暖機が促進される。これにより、作動油の粘度低減に伴うポンプ損失の一層の低減(ポンプ損失が生じる状態の早期解消)が図られ、またバルブボディ54の暖機に伴いドライブトレーン系の暖機が一層促進され一層の燃費向上が図られる。
なお、このような暖機促進のためのサブポンプ72の作動(クラッチ74の結合)は、例えば、車両減速時にのみ行なうようにしても良い。また、暖気のためのサブポンプ72の作動を停止する油温(の上限)と、アキュムレータ60への蓄圧を開始する油温(の下限)とが異なっても良い。但し、暖気のためのサブポンプ72の作動を停止する油温よりも、アキュムレータ60への蓄圧を開始する油温の方が高いことが望ましい。
そして、自動変速装置70では、作動油の油温が所定の温度よりも低い場合には、アキュムレータコントローラ68が切替弁64を閉塞するため、アキュムレータ60へ低温の作動油が蓄えられることが防止される。そして、作動油の油温が所定の温度以上になると、上記の通りアキュムレータへの蓄圧が行なわれる。これにより、アキュムレータには高温の作動油が確実に蓄えられるため、上記運転終了後のエンジン再始動時には、変速機に比較的高温の作動油が確実に供給され、自動変速装置70は暖機が確実に促進される。
なお、上記の各実施の形態では、自動変速装置10、70が変速機としてベルト式CVT12を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、変速機として、油圧によって減速比を自動的に維持または変更する自動変速機、または変速に際して油圧を利用する変速機を備えていれば足りる。すなわち、例えば、ベルト式CVT12に代えて、対向する入力ディスクと出力ディスクとに挟持されるパワーローラを備えたトロイダル式CVT、または変速機内に内蔵された複数のクラッチやブレーキを備えた自動変速機(AT装置)を備えた構成としても良い。
また、上記の各実施の形態では、アイドリングストップ時にアキュムレータ60からの油圧によって減速比を維持する好ましい構成を示したが、本発明はこれに限定されず、運転終了後のエンジン再始動時にアキュムレータに蓄えた高温の作動油を暖機促進に供すれば足り、例えば、アイドリングストップ時にアキュムレータ60からの油圧によって減速比を維持しない構成、またはアイドリングストップ機能を有しない車両に搭載される構成に適用されても良い。この場合、変速機として、上記ベルト式CVT12、トロイダル式CVT、またはAT装置を備える構成の他に、変速の際に全体として油圧を利用するが減速比の維持または変更に油圧を利用しない変速機、例えば油圧によって作動する自動クラッチを有するマニュアルトランスミッションを備えた構成とすることも可能である。
以上説明したように、本発明は、各種変速機を備えた変速装置(自動変速装置または手動変速装置)に適用可能であり、アキュムレータ60からの油圧または作動油の供給先である油圧制御回路36の構成によって限定されることはない。
さらに、上記の各実施の形態では、アキュムレータ60内の油圧に対応した信号を出力する圧力センサ66を備えた好ましい構成としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、圧力センサ66に代えて設定された圧力を境に出力信号を切り替える(ON/OFFを含む)圧力スイッチを設けても良く、圧力検出器に相当する要素を設けない構成としても良い。また、車両の運転中は、切替弁64を常時開放状態とするように構成しても良く、アイドリングストップ条件が成立したときにアキュムレータ60の油圧が所定の油圧よりも低い場合には、該油圧が所定の油圧以上になるまでエンジン14の停止を遅らせるようにしても良い。
さらにまた、上記の各実施の形態では、ライン圧油路34とアキュムレータ60とが1つのアキュムレータ油路58にて接続(連通)された構成としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、ライン圧油路34からアキュムレータ60に油圧を供給する油路と、アキュムレータ60からライン圧油路34に油圧を供給する油路とを別個に設けても良い。したがって、本発明における油路開閉装置は、4ポート以上の切替弁であっても良く、各油路に配設される複数の切替弁や切替弁と逆止弁との組み合わせ等によって構成しても良い。
また、上記第2の実施の形態では、自動変速装置70がアキュムレータコントローラ68と変速機コントローラ94とを備えた構成を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、アキュムレータコントローラ68及び変速機コントローラ94の各機能を1つの制御装置によって行なうようにしても良く、アキュムレータコントローラ68と変速機コントローラ94とが一部の機能を入れ替えて構成されても良い。したがって、アキュムレータコントローラ68、変速機コントローラ94と、切替弁64、88、圧力センサ66、クラッチ74、温度センサ92、との各接続が図152示される構成に限定されることもない。同様に、例えば第1の実施の形態におけるアキュムレータコントローラ68を図示しない変速機コントローラと統合して構成しても良く、これらの機能の一部を入れ替えて構成しても良い。
さらに、上記第2の実施の形態では、作動油御に対応した信号出力する温度センサ92を備えた好ましい構成としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、温度センサ92に代えて設定された温度を境に出力信号を切り替える(ON/OFFを含む)温度スイッチを設けても良く、油温検出器に相当する要素を設けない構成としても良い。また、温度センサ92の配置が図15における配置に限定されないことは言うまでもない。さらに、上記第1の実施の形態にかかる自動変速装置10に温度センサ92を設け、作動油温が所定の油温よりも低い場合にアキュムレータ60へ作動油を蓄えることを防止するようにしても良い。