JP4506805B2 - 電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び画像形成装置 - Google Patents

電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び画像形成装置 Download PDF

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Description

本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び画像形成装置に関するものである。
近年、電子写真法は、複写機やプリンター等の画像形成装置に幅広く利用されている。この如く電子写真法を利用した画像形成装置に使用される電子写真感光体(以下、「感光体」と称す場合がある)は、装置内で様々な接触やストレスに曝されるために劣化を招くが、その一方で、画像形成装置のデジタル化やカラー化にともなって高い信頼性が求められている。
例えば、感光体の帯電プロセスに着目した場合、以下の如く問題がある。まず、非接触帯電方式では、放電生成物が感光体に付着して、画像ぼけなどが発生する。従って、感光体に付着した放電生成物を除去するために、例えば、現像剤中に研磨機能を持つ粒子を混合してクリーニング部でかきとるシステムが採用されたりする。しかしこの場合、感光体表面が磨耗により劣化する。
ところで、感光体表面に、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)や非晶質窒化炭素(CN)、非晶質窒化珪素の如く硬質な膜を表面保護層として形成することが行われている(例えば、特許文献1乃至4参照)。
また、このような感光体の保護層を構成する材料のひとつとして、発明者等は既に、13族元素と酸素とを含む材料を提案している。これらの材料を保護層とする電子写真感光体は、繰り返し使用において摩耗がほとんどなく、さらに電子写真用感光体として繰り返し使用したときに高い撥水性を長期にわたって維持するため、放電生成物の付着による画質低下の発生が抑制される(例えば、特許文献5参照)。
特開平9−101625号公報 特開2003−27238号 特開昭58−80647号公報 特開平05−035156号公報 特開2006−267507号
本発明の課題は、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)が抑制され、初期の表面特性が維持される電子写真感光体を提供することである。また、本発明の他の課題は、当該電子写真感光体を用いた、画像欠陥が抑制されたプロセスカートリッジ、及び画像形成装置を提供することである。
上記課題は、以下の本発明により達成される。
請求項1に係る発明は、
導電性基体上に、有機感光層と表面層とをこの順に積層して構成され、
前記表面層が、ガリウム(Ga)と酸素(O)と水素(H)とを少なくとも構成元素とする層であり、該表面層の前記ガリウム(Ga)及び酸素(O)の全元素量に対する各構成比の和が0.70以上であり、かつ、酸素(O)及びガリウム(Ga)の元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1以上1.5以下であり、かつ厚み0.2μm以上1.5μm以下で、微小硬度2GPa以上15GPa以下であることを特徴とする電子写真感光体である。
請求項2に係る発明は、
前記表面層が、厚み0.2μm以上0.7μm以下で、微小硬度4GPa以上10GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体である。
請求項に係る発明は、
前記表面層を構成する元素のうち、ガリウム(Ga)及び酸素(O)の全元素量に対する各構成比の和が0.70以上であり、ガリウム(Ga)、酸素(O)及び水素(H)の全元素量に対する各構成比の和が0.95以上であり、かつ、酸素(O)及びガリウム(Ga)の元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1以上1.4以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体である。
請求項に係る発明は、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
該電子写真感光体表面を帯電する帯電手段、及び前記電子写真感光体表面に形成された静電潜像を現像剤によりトナー像に現像する現像手段、及び前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段から選択される少なくとも1つと、
を有し、画像形成装置本体に対して着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジである。
請求項に係る発明は、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
該電子写真感光体表面を帯電する帯電手段と、
該帯電手段により帯電された前記電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光手段と、
該静電潜像を少なくともトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、
該トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、
を有することを特徴とする画像形成装置である。
請求項1に係る発明によれば、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)が抑制され、初期の表面特性が維持される。
請求項2に係る発明によれば、より効果的に、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)が抑制され、初期の表面特性が維持される。
請求項に係る発明によれば、表面層に対する繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)、及び過剰な残留電位の発生を抑制し、耐久性と電気特性との両立が図れる。
請求項に係る発明によれば、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)が抑制され、初期の表面特性が維持される。
請求項に係る発明によれば、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)が抑制され、初期の表面特性が維持される。
以下、本発明を詳細に説明する。
<電子写真感光体>
本実施形態に係る電子写真感光体は、導電性基体上に、有機感光層と表面層とをこの順に積層して構成され、表面層が、ガリウム(Ga)と酸素(O)と水素(H)とを少なくとも構成元素とする層であり、かつ厚み0.2μm以上1.5μm以下で、微小硬度2GPa以上15GPa以下であることを特徴としている。
本実施形態に係る電子写真感光体は、特定の組成の表面層の厚み、及び微小高度を適切な範囲とすることで、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)が抑制され、初期の表面特性が維持される。結果、画像欠陥が抑制される。
以下、実施形態に係る電子写真感光体を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る感光体の層構成の一例を示す模式断面図であり、図1中、1は導電性基体、2は有機感光層、2Aは電荷発生層、2Bは電荷輸送層、3は表面層を表す。図1に示す感光体は、導電性基体1上に、電荷発生層2A、電荷輸送層2B、表面層3がこの順に積層された層構成を有し、有機感光層2は電荷発生層2A及び電荷輸送層2Bの2層から構成される。
図2は、本実施形態に係る感光体の層構成の他の例を示す模式断面図であり、図2中、4は下引層、5は中間層を表し、他は、図1中に示したものと同様である。図2に示す感光体は、導電性基体1上に、下引層4、電荷発生層2A、電荷輸送層2B、中間層5、表面層3がこの順に積層された層構成を有する。
図3は、本実施形態に係る感光体の層構成の他の例を示す模式断面図であり、図3中、6は有機感光層を表し、他は、図1、図2中に示したものと同様である。図3に示す感光体は、導電性基体1上に、有機感光層6、表面層3がこの順に積層された層構成を有し、有機感光層6は、図1や図2に示す電荷発生層2A及び電荷輸送層2Bの機能が一体となった層である。
まず、表面層について詳細に説明する。表面層は、ガリウム(Ga)と酸素(O)と水素(H)とを少なくとも構成元素とする層である。そして、表面層は、厚みが0.2μm以上1.5μm以下で、微小硬度が2GPa以上15GPa以下である。
表面層は、その厚みが0.2μm以上1.5μm以下であるが、好ましくは0.2μm以上0.7μm以下である。
表面層の厚みが0.2μmより小さいと、表面層の微小硬度が上記の範囲にあっても層自体の機械的強度が不足し、繰り返し使用による機械的損傷が生じる。結果、例えば、画像流れが生じる。
一方、表面層の厚みが1.5μmより大きいと、感光体に接触する部材から受ける剪断力に起因する繰り返し使用による機械的損傷が生じる。結果、例えば、高温高湿下(例えば28℃、85%RH環境下)での繰り返し使用し一晩放置した後の立上げ直後の画像にハーフトーン濃度の低下の回復が困難になる。
表面層は、その微小硬度が2GPa以上15GPa以下であるが、好ましくは4GPa以上10GPa以下である。
表面層の微小硬度が2GPaより小さいと、層自体の硬さが足りないため、現像量に依存した偏摩耗が発生する。結果、例えば、表面層と下層の有機感光層とのの屈折率差が大きいことに起因する干渉の効果で、有機感光層への入射光量の変動が発生し、ハーフトーン濃度のムラを発生する。
一方、表面層の微小硬度が15GPaより大きいと、層が脆くなり繰り返し使用による機械的損傷が生じる。結果、例えば、高温高湿下(例えば28℃、85%RH環境下)での繰り返し使用し一晩放置した後の立上げ直後の画像にハーフトーン濃度の低下の回復が困難になる。
ここで、微小硬度は、押し込み深さが、30nm以上40nm以下の範囲で行なわれた硬度値を用いる。連続剛性測定法(米国特許4848141)により深さプロファイルを求めて、上記押し込み深さでの硬度値であってもよいし、上記範囲になる負荷による負荷―除荷曲線から求めた硬度値であってもよい。測定装置としては、MTSシステムズ社製 Nano Indenter DCMを用いる。圧子としては、ダイヤモンド製正三角錐圧子(Berkovic圧子)を用いる。
表面層は、構成する元素のうち、ガリウム及び酸素の全元素量に対する各構成比の和が0.70以上であり、かつ、酸素及びガリウムの元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1以上1.5以下であるこれにより、表面層の硬度が確保されやすくなり、繰り返し使用による機械的損傷がより抑制される。
また、表面層は、構成する元素のうち、ガリウム及び酸素の全元素量に対する各構成比の和が0.70以上であり、かつ、ガリウム(Ga)、酸素(O)及び水素(H)の全元素量に対する各構成比の和が0.95以上であり、かつ、酸素及びガリウムの元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1以上1.4以下であることがより好ましい。これにより、表面層の硬度が確保されると共に、電気抵抗の調整幅が広くなることから適切な導電性が確保されやすくなり、繰り返し使用による機械的損傷(例えば割れや凹み)、及び過剰な残留電位の発生を抑制し、耐久性と電気特性との両立が図れる。
一方、酸素及びガリウムの元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1に満たないと、層の硬度が確保され難くなることがあり、機械的損傷抑制効果が低減され、また、電気抵抗値が低下しすぎることがあり、静電潜像が面内方向で流れてしまい、画像の解像度が得られなくなることがある。また、1.5を超えるものは、ガリウム、酸素及び水素を構成元素とする材料として安定な状態として得ることができない。1.4を超えるものは電気抵抗が高いため残留電位が問題となることがある。したがって、この酸素及びガリウムの元素組成比(酸素/ガリウム)は、1.1以上1.4以下であることが特に好適である。
また、表面層には、水素が含まれ。水素を含んだ酸化ガリウムでは、より電気抵抗の調整幅が広くなることから適切な導電性が確保されやすくなる。膜中に水素を含んだ酸化ガリウムでは、水素はガリウムと結合することにより、前記酸素欠損におけるガリウムの電子を電気的に不活性化し電気特性に影響を及ぼすと考えられる。また、膜中に水素を含むことにより、結合のフレキシビリティが増すといったことも考えられる。そして、この水素を含んだ酸化ガリウムの組成と電気特性との関係は、水素を含まない酸化ガリウムのそれとは異なると考えられるが、より効果的に電気抵抗の制御性を向上させる理由については明らかでない。
表面層に含まれる水素の含有量は、1原子%以上30原子%以下が好ましく、5原子%以上20原子%以下がより好ましい。水素が1原子%に満たないと、酸素欠損におけるガリウムの電子を電気的に不活性化する効果が不十分となる場合がある。また30原子%を超えると、水素がガリウムに2原子以上結合する確立が増加して三次元構造を保つことができず硬度や化学的安定性とくに耐水性などに不十分となる場合がある。
表面層を構成する元素として水素を含む場合、ガリウム、酸素、及び水素の全元素量に対する各構成比の和は、0.95以上であることが好ましく、より好ましくは0.99以上である。この元素構成比の和が0.95に満たないと、例えばN,P,Asなどの15族元素などが混入した場合、これらがガリウムと結合する影響などが無視できなくなることがあり、表面層の硬度や電気特性を向上させる酸素及びガリウム組成比(酸素/ガリウム)の適正範囲を見出すことができなくなることがある。
表面層には、酸素、ガリウム及び水素以外の元素が不純物として含まれていてもよい。しかしながら、多量の不純物は硬度や電気特性に影響することがあるので、できるだけ少ない方がよい。具体的には、不純物は5原子%以下、好ましくは1原子%以下である。特に、窒素原子が含まれる場合には、窒素原子の含有量は1原子%以下とすることが望ましい。
ここで、表面層の元素組成は、最表面から深さ10nmの範囲を除いた、表面層の膜厚方向に平均化された値である。最表面から深さ10nmの範囲を含まないのは、汚染による炭素等の影響をなくすことと、自然酸化の影響を除くためである。なお、表面から10nm以内の深さで前記自然酸化により化学量論比の絶縁膜が形成されていても、感光体の電気特性に与える悪影響はほとんどない。また、元素組成は膜厚方向に傾斜されたものであってもよいが、その場合は膜厚方向に平均化された値である。
表面層における、ガリウムや酸素等の元素の含有量は、膜厚方向の分布も含めてラザフォードバックスキャタリング(以下、「RBS」ということもある)により以下のようにして求められる。
RBSは、加速器としてNEC社 3SDH Pelletron、エンドステーションとしてCE&A社 RBS−400、システムとして3S−R10を用いた。解析にはCE&A社のHYPRAプログラム等を用いた。
なお、RBSの測定条件は、He++イオンビームエネルギーは2.275eV、検出角度160°、入射ビームに対してGrazing Angleは109°±2である。
RBS測定は、具体的には以下のように行った。
まず、He++イオンビームを試料に対して垂直に入射し、検出器をイオンビームに対して、160°にセットし、後方散乱されたHeのシグナルを測定する。検出したHeのエネルギーと強度から組成比と膜厚を決定する。組成比及び膜厚を求める精度を向上させるために二つの検出角度でスペクトルを測定してもよい。深さ方向分解能や後方散乱力学の異なる二つの検出角度で測定しクロスチェックすることにより精度が向上される。
ターゲット原子によって後方散乱されるHe原子の数は、1)ターゲット原子の原子番号、2)散乱前のHe原子のエネルギー、3)散乱角度の3つの要素のみにより決まる。 測定された組成から密度を計算によって仮定して、これを用いて膜厚を算出する。密度の誤差は20%以内である。
また、前記水素量はハイドロジェンフォワードスキャタリング(以下、「HFS」という場合がある)により、以下のようにして求められる。
HFSは、加速器としてNEC社 3SDH Pelletron、エンドステーションとしてCE&A社 RBS−400を用い、システムとして3S−R10を用いた。解析にはCE&A社のHYPRAプログラムを用いた。HFSの測定条件は、以下の通りである。
・He++イオンビームエネルギー:2.275eV
・検出角度:160°入射ビームに対してGrazing Angle30°
HFS測定は、He++イオンビームに対して検出器が30°に、試料が法線から75°になるようにセットすることにより、試料の前方に散乱する水素のシグナルが拾われる。この時検出器をアルミ箔で覆い、水素とともに散乱するHe原子を取り除くことがよい。定量は参照用試料と被測定試料との水素のカウントを阻止能で規格化した後に比較することによって行う。
参照用試料としてSi中にHをイオン注入した試料と白雲母を使用した。白雲母は水素濃度が6.5原子%±1%であることが知られている。なお、最表面に吸着しているHは、清浄なSi表面に吸着しているH量を差し引くことによって行われる。また、2次イオン質量分析法(SIMS)、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光(AES)、蛍光X線元素分析(EDS)、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)、電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)、電子線エネルギー損失分光(EELS)などが挙げられるがこれらに限ったものではない。また、これらは単独、又は2つ以上組み合わせて用いてもよい。
なお、深さ方向の元素組成データに関しては、表面からの深さプロファイルのデータを取得する方法、表面を真空中でスパッタリングなどによりエッチングしながら表面を測定する方法、断面サンプルを作製して、断面の組成マッピングにより測定する方法が考えられるが、それぞれの分析手法にあった方法を用いればよい。いずれにしても、本発明において求められる元素組成は、表面層の最表面ではなく最表面10nmを除いた層全体としてのものである。
また、表面層の下層に形成される有機感光層は、そのダイナミック硬度が0.1GPa以上10GPa以下であることがよい。表面層が形成される下地としての感光層のダイナミック硬度が上記範囲とすることで、当該下地の凹みが抑制されることから、より効果的に、表面層に対する偏磨耗、及び繰り返し使用による機械的損傷が抑制され、初期の表面特性が維持される。
なお、有機感光層のダイナミック硬度は、後述するように下引層や中間層を形成した場合、これを含む層全体(即ち導電性基体と表面層との間に存在する層全体)のダイナミック硬度を示す。
ここで、ダイナミック硬度は、島津製作所社製の微小硬度計DUH−201、202を用いて、三角錐圧子(ダイアモンド製、稜間角115°、先端曲率半径約0.1μm)を、負荷速度0.05N/secで押し込んだときの押し込み深さ[m]及び押し込み荷重[N]を測定し、これらの測定値から下記式
DH=3.8584P/D
[式中、DHはダイナミック硬度(N/m)すなわち(Pa)を表し、Pは押し込み荷重(N)を表し、Dはお師込み深さ(m)を表す]
に基づいて得られる値(Pa)を意味する。押し込み深さは1.0μm以下の領域でDHを得る。
次に、表面層の形成方法について説明する。表面層の形成に際しては、有機感光層上に直接ガリウムや酸素を含むように形成してもよい。また有機感光層の表面をプラズマでクリーニングしてもよい。
表面層の形成は、一般公知の薄膜形成方法が用いられる。なお、有機感光層に表面層を形成する場合、基板の被成膜面である有機感光体の温度が150℃以下であることが好ましい。中でもプラズマCVDは、有機感光層などの下地に、本実施形態に係る無機薄膜が接着性よく形成されること、本実施形態に係る組成範囲の無機薄膜が原料の供給量により制御性良く形成されること、低温(例えば10℃以上60℃以下程度)で無機薄膜が形成されること、などの点で好適である。その他には、触媒CVD、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、分子線堆積法などが用いられるが、これらに限られるものではない。
図4は、本実施形態に係る電子写真感光体の表面層の形成に用いる成膜装置の一例を示す概略模式図である。
成膜装置30は、真空排気される真空チャンバー32を含んで構成されている。真空チャンバー32の内部には、表面層の成膜が未だなされていない状態の電子写真感光体(以下、ノンコート感光体と称する)50を、ノンコート感光体50の長尺方向を回転軸方向として回転するように支持する支持部材46が設けられている。支持部材46は、支持部材46を支持するための支持軸52を介してモータ48に接続されており、モータ48の駆動力を、支持軸52を介して支持部材46へ伝達され得るように構成されている。
支持部材46に、ノンコート感光体50が保持された後に、モータ48が駆動することにより、モータ48の駆動力が支持軸52及び支持部材46を介してノンコート感光体50に伝達されると、ノンコート感光体50は、長尺方向を回転軸方向として回転する。
真空チャンバー32の一端には、真空チャンバー32内のガスを排気するための排気管42が設けられている。排気管42の一端は、真空チャンバー32の開口42Aを介して真空チャンバー32の内部に連ねて設けられ、他端は、真空排気装置44に接続されている。真空排気装置44は、1つ、又は複数の真空ポンプからなるが、必要に応じてコンダクタンスバルブなどの排気速度を調整する機構を備えていてもよい。
真空排気装置44の駆動によって、排気管42を介して真空チャンバー32内の空気が排気されると、真空チャンバー32の内部は所定の圧力(到達真空度)まで減圧される。なお、この到達真空度とは、1Pa以下であることが好ましく、0.1Pa以下であることがさらに好ましい。後述するように本発明では、ガリウム原料と酸素の供給速度の比によって元素組成比(酸素/13族)を制御するが、この到達真空度が高いと、残存した空気中の酸素や水の影響で反応雰囲気の酸素量が供給した量よりも多くなり、組成制御性が悪くなる。
真空チャンバー32の内部に設置されたノンコート感光体50の近くには、放電電極54が設けられている。放電電極54は、マッチングボックス56を介して高周波電源58に電気的に接続されている。高周波電源58としては、例えば、直流電源又は交流電源を用いられるが、効率的にガスが励起されることから交流の高周波電源を用いることが好ましい。
放電電極54は、板状であって、放電電極54の長尺方向は、ノンコート感光体50の回転軸方向(長尺方向)と同一となるように設けられ、且つノンコート感光体50の外周面から所定距離離間されて設けられている。放電電極54は、中空状(空洞構造)で放電面にプラズマを生成するガスを供給するための1つ又は複数の開口34Aを有するものである。放電電極54が空洞構造でなく放電面に開口34Aが無いものである場合、プラズマを生成するガスは別に設けられたガス供給口から供給され、ノンコート感光体50と放電電極54との間を通過するようにした構成でもよい。また、放電電極54と真空チャンバー32との間で放電が起こらないように、ノンコート感光体50と対向している面以外の電極面が約3mm以下程度のクリアランスを有してアースされた部材により覆われていることが好適である。
高周波電源58からマッチングボックス56を介して放電電極54へ高周波電力が供給されると、放電電極54による放電が行われる。
真空チャンバー32内の、放電電極54を介してノンコート感光体50に対向する領域には、中空構造の放電電極54内部を介して真空チャンバー32内のノンコート感光体50に向かってガスを供給するためのガス供給管34が設けられている。
ガス供給管34の一端は、放電電極54内に連結(すなわち、放電電極54及び開口34Aを介して真空チャンバー32内に連結)しており、他端は、ガス供給装置41A、ガス供給装置41B、ガス供給装置41C各々に接続されている。
ガス供給装置41A、ガス供給装置41B、及びガス供給装置41C各々は、ガス供給量を調整するためのMFC(マスフローコントローラー)36、圧力調整器38、及びガス供給源40を含んで構成されている。各ガス供給装置41A、ガス供給装置41B、及びガス供給装置41C各々のガス供給源40は、ガス供給管34の上記他端に、圧力調整器38及びMFC36を介して接続されている。
ガス供給源40内のガスは、圧力調整器38によって供給圧を調整され、且つMFC36によってガス供給量を調整されつつ、ガス供給管34、放電電極54、及び開口34Aを介して、真空チャンバー32内のノンコート感光体50へ向かって供給される。
なお、上記ガス供給装置41A、ガス供給装置41B、及びガス供給装置41C各々に含まれるガス供給源40に充填されているガスの種類は、同一種類であってもよいが、複数のガスを用いて処理を行う場合には、互いに異なる種類のガスを充填したガス供給源40を用いてもよい。この場合には、互いに異なる種類のガスが、ガス供給装置41A、ガス供給装置41B、及びガス供給装置41C各々のガス供給源40からガス供給管34に供給されて合流された混合ガスが、放電電極54及び開口34Aを介して真空チャンバー32内のノンコート感光体50へ向かって供給される。
また、真空チャンバー32内のノンコート感光体50には、ガリウムを含む原料ガスも供給される。原料ガスは、原料ガス供給源62から先端部がシャワーノズル64Aであるガス導入管64によって、真空チャンバー32に導入される。原料ガスとしては、例えばトリメチルガリウム、トリエチルガリウムなどのガリウムを含む化合物ガスや金属ガリウムなどを用いられる。また、酸素源として、Oをはじめ酸素を含む物質を用いてもよい。
なお、図4に示す一例では、放電電極54による放電方式は、容量型である場合を説明するが、誘導型であってもよい。
成膜は、例えば、以下のように実施される。まず、真空排気装置44によって真空チャンバー32内が所定の圧力まで減圧された状態で、マッチングボックス56を介して高周波電源58から放電電極54に高周波電力を供給すると共に、プラズマを生成するガスをガス供給管34から真空チャンバー32内へと導入する。このとき、放電電極54の放電面側から排気管42による開口42A側へと放射状に広がるように、プラズマが形成される。
なお、上記プラズマ形成時の真空チャンバー32内の圧力は、1Pa以上500Pa以下であることが好ましい。
本実施形態においては、プラズマを形成するガスは酸素を含んでいる。そして、そのほかにHeやArなどの不活性ガスやHなどの非成膜性ガスを含んだ混合ガスであってもよい。この非成膜性ガスや不活性ガスは、例えば反応容器内の圧力などの反応雰囲気を制御するのに用いられる。特に水素は、後述するように低温での反応において重要である。
次に、キャリアガス供給源60からの水素を原料ガス供給源62に通して、水素をキャリアガスとして用いて水素希釈したトリメチルガリウム(ガリウムを含む有機金属化合物)ガスをガス導入管64、シャワーノズル64Aを介して真空チャンバー32に導入することによって、活性化した酸素とトリメチルガリウムとを活性水素を含む雰囲気で反応させ、ノンコート感光体50表面に水素と酸素とガリウムとを含む膜が成膜される。
本実施形態においては、上記のようにOガスとHガスとを混合して放電電極54内に導入して、同時に活性種をつくることによってトリメチルガリウムガスを分解し、ノンコート感光体50上に水素を含んだガリウムと酸素との化合物を成膜することが好ましい。
水素ガスと酸素ガスとを同時にプラズマ内で活性化し、ガリウムを含む有機金属化合物を反応させることで、プラズマ放電により生成した活性水素により有機金属ガスに含まれるメチル基やエチル基等の炭化水素基のエッチング効果が得られ、これにより低温でも高温(例えば200℃以上600℃以下)成長時と同等の膜質のガリウム及び酸素を含む化合物の膜を、有機物(有機感光層)の表面にも該有機物にダメージを与えることなく形成される。
具体的には、例えば、活性化のために供給される前記プラズマを生成するガス中の水素ガス濃度は、10体積%以上とすることが好ましい。水素ガス濃度が10体積%未満では低温でも十分なエッチング反応が行われず、水素ガス濃度が10体積%以上の場合に比べ水素含有量が多いガリウムの酸化物化合物が生成され、耐水性が不足し、大気中で不安定な膜となる場合がある。
また、プラズマCVDにより表面層を形成する場合、例えばガリウム原料と酸素原料との供給量により、O/Ga元素組成比が制御される。この場合、酸素ガスとトリメチルガリウム(TMGa)ガスのガス供給モル比[O]/[TMGa]は、0.1以上10以下とすることが好ましい
その他の方法による場合においても、ガス供給量を変えることによって成長雰囲気を制御したり、スパッタリングなどにおいてはターゲットに含まれるガリウムと酸素との割合によって制御される。
成膜時のノンコート感光体50表面の温度は特に限定されないが、0℃以上150℃以下で処理を行うことが好ましい。ノンコート感光体50表面の温度は、100℃以下とすることがより好ましい。さらに、ノンコート感光体50表面の温度が150℃以下であっても、プラズマの影響で表面が150℃より高くなる場合には有機感光層が熱で損傷を受ける場合があるため、この影響を考慮してノンコート感光体50表面の温度を設定することが好ましい。
なお、ノンコート感光体50の表面温度は図示していない方法で制御してもよいし、放電時の自然な温度の上昇に任せてもよい。ノンコート感光体50を加熱する場合にはヒータをノンコート感光体50の外側や内側に設置してもよい。ノンコート感光体50を冷却する場合にはノンコート感光体50の内側に冷却用の気体又は液体を循環させてもよい。
放電によるノンコート感光体50の温度上昇を避けたい場合には、ノンコート感光体50表面に当たる高エネルギーの気体流を調節することが効果的である。この場合、ガス流量や放電出力、圧力などの条件を所要温度となるように調整すればよい。
図4に示す成膜装置30のプラズマ発生方法は、高周波発振装置を用いたものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、マイクロ波発振装置を用いたり、エレクトロサイクロトロン共鳴方式やヘリコンプラズマ方式の装置を用いてもよい。また、高周波発振装置の場合は、誘導型でも容量型でもよい。
本実施形態においては、放電電極54、高周波電源58、マッチングボックス56、ガス供給管34、MFC36、圧力調整器38、及びガス供給源40をプラズマ発生装置として、このプラズマ発生装置を1組用いているが、このプラズマ発生装置を2種類以上組み合わせて用いてもよく、あるいは、同種の装置を2つ以上用いてもよい。さらに、円筒型のノンコート感光体50を取り囲むようにした円筒型電極を有する容量結合型のプラズマCVD装置を用いてもよいし、平行平板電極とノンコート感光体50との間で放電を起こすものでもよい。
2種類以上の異なるプラズマ発生装置を用いる場合には、同じ圧力で同時に放電が生起される必要がある。また、放電する領域と、成膜する領域(ノンコート感光体50が設置された部分)とに圧力差を設けてもよい。これらの装置は、処理装置内をガスが導入される部分から排出される部分へと形成されるガス流に対して直列に配置してもよいし、いずれの装置もノンコート感光体50の成膜面に対向するように配置してもよい。
また、放電は大気圧下で行ってもよい。ここで、該大気圧下とは70000Pa以上110000Pa以下を意味する。なおこの場合には、希ガスとしてHe、Arガスを水素と混合して用い放電を行うと、放電の安定化が得易くなる。
ガリウムを含むガスとしては、トリメチルガリウムガスの代わりにトリエチルガリウムを使用してもよいし、これらを2種類以上混合して用いてもよい。
以上の方法により、活性化された水素、酸素及びガリウムが感光体上に存在し、さらに、活性化された水素が、有機金属化合物を構成するメチル基やエチル基等の炭化水素基の水素を分子として脱離させる効果を有する。それゆえ、感光体表面には、水素、酸素及びガリウムが三次元的な結合を構成する硬質膜からなる表面層が形成される。
なお、上記表面層の形成方法は、表面層が水素、酸素及びガリウムを構成元素とする例を説明したが、表面層を酸素及びガリウムを構成元素とする層(水素を含まない)とする場合、例えば、スパッタリング、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシーにより形成される。
以下、本実施形態に係る電子写真感光体の他の構成について詳細に説明する。
本実施形態に係る電子写真感光体は、その層構成が導電性基体上に有機感光層と表面層とがこの順に積層されたものである。また、これらの層の間に必要に応じて下引層等の中間層を設けてもよい。さらに有機感光層は、前記のように2層以上であってもよく、更に、機能分離型であってもよい。
有機感光層は、電荷発生層と電荷輸送層とが分離された機能分離型であってもよい。機能分離型である場合の構成としては、電荷発生層及び電荷輸送層は、電荷発生層が表面側であってもよいし、電荷輸送層が表面側であってもよい。必要に応じて導電性基体と有機感光層との間に下引層を設けてもよい。また、表面層と有機感光層との間に、緩衝層などの中間層を設けてもよい。
有機感光層に含まれる有機高分子化合物は熱可塑性であっても熱硬化性のものであっても、また2種類の分子を反応させて形成するものでもよい。また、有機感光層と表面層との間に、硬度や膨張係数、弾力性の調整、密着性の向上などの観点から中間層を設けてもよい。中間層は、表面層の物性及び有機感光層(機能分離型の場合は電荷輸送層)の物性の両者に対して、中間的な特性を示すものが好適である。また、中間層を設ける場合には、中間層は、電荷をトラップする層として機能してもよい。
有機感光層は、電荷発生層と電荷輸送層に分かれた機能分離型の有機感光層(図1及び図2参照)でもよいし、機能一体型の単層型の有機感光層(図3参照)であってもよい。機能分離型の場合には電子写真感光体の表面側に電荷発生層を設けたものでもよいし、表面側に電荷輸送層を設けたものでもよい。以下、有機感光層としては機能分離型の有機感光層を中心に説明する。
有機感光層上に、後述する方法により表面層を形成する場合、熱以外の短波長電磁波の照射により有機感光層が分解したりすることを防ぐため、有機感光層表面には、表面層を形成する前に紫外線などの短波長光吸収層を予め設けてもよい。
また、紫外線吸収剤を含む層(例えば、高分子樹脂に分散させた層を、塗布等を利用して形成される層)を有機感光層表面に設けてもよい。
このように、表面層を形成する前に感光体表面に中間層を設けることで、表面層を形成するときの紫外線や、画像形成装置内で感光体が使用された場合のコロナ放電や各種の光源からの紫外線などの短波長光による有機感光層への影響が抑制される。
表面層は、非晶性あるいは結晶性のいずれでもよいが、感光体表面の滑りを良くするためには、表面層が非晶質性であることが好ましい。
次に、導電性基体について説明する。導電性基体としては、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、亜鉛、ニッケル等の金属ドラム;シート、紙、プラスチック、ガラス等の基材上にアルミニウム、銅、金、銀、白金、パラジウム、チタン、ニッケル−クロム、ステンレス鋼、銅−インジウム等の金属を蒸着したもの;酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属化合物を上記基材に蒸着したもの;金属箔を上記基材にラミネートしたもの;カーボンブラック、酸化インジウム、酸化スズ−酸化アンチモン粉、金属粉、ヨウ化銅等を結着樹脂に分散し、上記基材に塗布することによって導電処理したもの等が挙げられる。また、導電性基体の形状は、ドラム状、シート状、プレート状のいずれであってもよい。ここで、「導電性」とは、体積抵抗率が10Ω・cm以下を示す。
また、導電性基体として金属製パイプ基体を用いる場合、該金属製パイプ基体の表面は素管のままのものであってもよいが、予め表面処理により基体表面を粗面化しておいてもよい。かかる粗面化により、露光光源としてレーザービーム等の可干渉光源を用いた場合に、感光体内部で発生し得る干渉光による木目状の濃度ムラが抑制される。表面処理の方法としては、鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウェットホーニング等が挙げられる。
特に、有機感光層との密着性向上や成膜性向上の点で、以下のようにアルミニウム基体の表面に陽極酸化処理を施したものを導電性基体として用いることが好ましい。
以下、表面に陽極酸化処理を施した導電性基体の製造方法について説明する。
まず、基体として純アルミ系あるいはアルミニウム合金(例えば、JIS1000番台、3000番台、6000番台のアルミニウムあるいはアルミニウム合金)を用意する。次に陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理は、クロム酸、硫酸、蓚酸、リン酸、硼酸、スルファミン酸などの酸性浴中において行うが、硫酸浴による処理がよく用いられる。陽極酸化処理は、例えば、硫酸濃度:10質量%以上20質量%以下、浴温:5℃以上25℃以下、電流密度:1A/dm以上4A/dm以下、電解電圧:5V以上30V以下、処理時間:5分以上60分以下程度の条件で行われるが、これに限定するものではない。
このようにしてアルミニウム基体上に成膜された陽極酸化皮膜は、多孔質であり、又絶縁性が高く、表面が非常に不安定であるため、皮膜形成後にその物性値が経時的に変化しやすくなっている。この物性値の変化を防止するため、陽極酸化皮膜を更に封孔処理することが行われる。封孔処理の方法には、フッ化ニッケルや酢酸ニッケルを含有する水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する方法、陽極酸化皮膜を沸騰水に浸漬する方法、加圧水蒸気により処理する方法などがある。これらの方法のうち、酢酸ニッケルを含有する水溶液に浸漬する方法が特によく用いられる。
このようにして封孔処理が行われた陽極酸化皮膜の表面には、封孔処理により付着した金属塩等が過剰に残留している。この金属塩等が基体の陽極酸化皮膜上に過剰に残存すると、陽極酸化皮膜上に形成する塗膜の品質に悪影響を与えるだけでなく、一般的に低抵抗成分が残ってしまう傾向にあるため、この基体を感光体に用いて画像を形成した場合に地汚れの発生原因になる。
そこで、封孔処理に引き続き、封孔処理により付着した金属塩等を除去するために陽極酸化皮膜の洗浄処理が行われる。洗浄処理は純水により基体の洗浄を1回行うことでも構わないが、多段階の洗浄工程により基体の洗浄を行うのが好ましい。この際、最終の洗浄工程における洗浄液としては、可能な限りきれいな(脱イオンされた)洗浄液が用いられる。また、多段階の洗浄工程のうち、いずれか1工程において、ブラシ等の接触部材を用いた物理的なこすり洗浄を施すことがよりさらに好ましい。
以上のようにして形成される導電性基体表面の陽極酸化皮膜の膜厚は、3μm以上15μm以下程度の範囲内であることが好ましい。陽極酸化皮膜上には多孔質陽極酸化膜のポーラスな形状の極表面に沿ってバリア層といわれる層が存在する。バリア層の膜厚は、本実施形態に係る電子写真感光体においては1nm以上100nm以下であることが好ましい。以上のようにして、陽極酸化処理された導電性基体が得られる。
このように得られた導電性基体は、陽極酸化処理により基体上に成膜された陽極酸化皮膜が高いキャリアブロッキング性を有している。そのため、この導電性基体を用いた感光体を画像形成装置に装着して反転現像(ネガ・ポジ現像)を行う場合に発生する点欠陥(黒ポチ、地汚れ)が抑制されるとともに、接触帯電時に生じやすい接触帯電器からの電流リーク現象が抑制される。また、陽極酸化皮膜に封孔処理を施すことにより、陽極酸化皮膜の作製後における物性値の経時変化が抑制される。また、封孔処理後に導電性基体の洗浄を行うことにより、封孔処理により導電性基体表面に付着した金属塩等を除去することができ、この導電性基体を用いて作製した感光体を備えた画像形成装置により画像を形成した場合に地汚れの発生が抑制される。
次に、導電性基体上に設けられる有機感光層について詳細に説明する。有機感光層は、主として電荷発生層及び電荷輸送層であるが、前記のように必要に応じて下引層や中間層が設けられる。
まず、下引層を構成する材料としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂などの高分子樹脂化合物のほかに、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、シリコン原子などを含有する有機金属化合物などが挙げられる。
これらの化合物は、例えば単独にあるいは複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いられる。これらの中でも、ジルコニウムもしくはシリコンを含有する有機金属化合物は、残留電位が低く環境による電位変化が低減されると共に、繰り返し使用による電位の変化も低減されることから好ましく使用される。また、有機金属化合物は、これを単独又は2種以上を混合したり、さらに上述の結着樹脂と混合して用いてもよい。
有機シリコン化合物(シリコン原子を含有する有機金属化合物)としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が好ましく使用される。
有機ジルコニウム化合物(ジルコニウムを含有する有機金属化合物)としては、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシドなどが挙げられる。
有機チタン化合物(チタンを含有する有機金属化合物)としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物(アルミニウムを含有する有機金属化合物)としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)などが挙げられる。
また、下引層を形成するための下引層形成用塗布液に用いる溶媒としては、公知の有機溶剤、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。また、これらの溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。なお2種以上の溶媒を混合する場合に使用される溶媒としては、混合溶媒として結着樹脂を溶かす溶媒であれば、いかなるものでも使用される。
下引層の形成は、まず、下引層用塗布剤及び溶媒を分散及び混合して調合された下引層形成用塗布液を用意し、導電性基体表面に塗布することにより行う。下引層形成用塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、リング塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法を用いられる。下引層を形成する場合には、その膜厚は0.1μm以上3μm以下となるように形成することが好ましい。下引層の膜厚をこのような膜厚範囲内とすることにより、電気的な障壁を過剰に強くすることなく減感及び繰り返しによる電位の上昇が抑制される。
このようにして導電性基体上に下引層を形成することにより、下引層上に形成される層を塗布形成する際の濡れ性の改善を図られるとともに、電気的なブロッキング層としての機能が果される。
下引層の表面粗さは、使用される露光用レーザ波長λの1/(4n)倍(但し、nは下引層よりも外周側に設けられる層の屈折率)以上1倍以下程度の範囲内の粗度を有するように調整してもよい。表面粗さの調整は、下引層形成用塗布液中に樹脂粒子を添加することにより行われる。これにより下引層の表面粗さを調整して作製した感光体を画像形成装置に用いた場合に、レーザ光源による干渉縞像がより抑制される。
なお、樹脂粒子としては、シリコーン樹脂粒子、架橋型PMMA樹脂粒子等が用いられる。また、表面粗さの調整のために下引層表面を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、ウェットホーニング、研削処理等を用いられる。なお、正帯電構成の画像形成装置に用いられる感光体では、レーザ入射光は感光体の極表面の近くで吸収され、さらに有機感光層中で散乱されるため、下引層の表面粗さの調整は強くは必要とされない。
また、下引層形成用塗布液に、電気特性向上、環境安定性向上、画質向上のために種々の添加物を加えることも好ましい。添加物としては、クロラニル、ブロモアニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールや2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール系化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物などの電子輸送性物質、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料を用いられる。
ここで用いられるシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ジルコニウムキレート化合物の具体例としては、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシドなどが挙げられる。
チタニウムキレート化合物の具体例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートなどが挙げられる。
アルミニウムキレート化合物の具体例としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)などが挙げられる。
これらの添加物は、単独で用いてもよいが、複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いてもよい。
また、上述した下引層形成用塗布液には、少なくとも1種の電子受容性物質を含有させておくことが好ましい。電子受容性物質の具体例としては、無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロム無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、クロラニル、ジニトロアントラキノン、トリニトロフルオレノン、ピクリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、フタル酸などが挙げられる。これらのうち、フルオレノン系、キノン系や、Cl,CN,NO等の電子吸引性置換基を有するベンゼン誘導体がより好ましく用いられる。これにより、有機感光層における光感度の向上や残留電位の低減を図るとともに、繰り返し使用した場合の光感度の劣化を低減することができ、下引層に電子受容性物質を含む感光体を備えた画像形成装置により形成したトナー像の濃度ムラが抑制される。
また、上述した下引層用塗布剤の代わりに下記分散型下引層用塗布剤を用いることも好ましい。これにより、適度に下引層の抵抗値を調整することにより残留電荷の蓄積が抑制されるとともに、下引層の膜厚をより厚くすることが可能となるため感光体の耐リーク性、特に接触帯電時のリークの抑制が図られる。
この分散型下引層用塗布剤としては、アルミニウム、銅、ニッケル、銀などの金属粉体や、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物や、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト粉末などの導電性物質等を結着樹脂に分散したものが挙げられる。導電性金属酸化物としては、平均1次粒径0.5μm以下の金属酸化物粒子が好ましく用いられる。平均1次粒径が大きすぎる場合には局部的な導電路形成を起こしやすく、電流のリークが発生しやすく、その結果かぶりの発生や帯電器からの大電流のリークが生じる場合がある。下引層はリーク耐性の向上のために適切な抵抗値に調整されることが必要である。そのため、上述の金属酸化物粒子は、10Ω・cm以上1011Ω・cm以下程度の粉体抵抗を有することが好ましい。
なお、上記範囲の下限よりも金属酸化物粒子の抵抗値が低いと十分なリーク耐性が得られず、この範囲の上限よりも高いと残留電位上昇を引き起こす場合ある。従って、中でも上記の範囲内の抵抗値を有する酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物粒子がより好ましく用いられる。また、金属酸化物粒子は2種以上混合して用いてもよい。さらに、金属酸化物粒子にカップリング剤による表面処理を行うことで、粉体の抵抗が制御される。この際使用されるカップリング剤としては上述の下引層形成用塗布液と同様の材料を用いられる。また、これらのカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。
この金属酸化物粒子の表面処理においては、公知の方法であればいかなる方法でもよいが、乾式法あるいは湿式法を用いてもよい。
乾式法を用いる場合においては、まず、金属酸化物粒子を加熱乾燥して表面吸着水を除去する。表面吸着水を除去することによって、金属酸化物粒子表面にカップリング剤を吸着させてもよい。次に、金属酸化物粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接あるいは有機溶媒又は水に溶解させたカップリング剤を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させることによって吸着のバラツキが抑制されて処理される。カップリング剤を添下あるいは噴霧する際には、50℃以上の温度で行われることが好ましい。カップリング剤を添加あるいは噴霧した後、さらに100℃以上で焼き付けを行うことが好ましい。焼き付けの効果によりカップリング剤を硬化させ金属酸化物粒子と堅固な化学反応が起される。焼き付けは、所望の電子写真特性が得られる温度、時間であれば任意の範囲で実施される。
湿式法を用いる場合においては、乾式法と同様に、まず、金属酸化物粒子の表面吸着水を除去する。この表面吸着水を除去する方法として、乾式法と同様の加熱乾燥の他に、表面処理に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法等が実施される。次に、金属酸化物粒子を溶剤中に攪拌、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミルなどを用いて分散し、カップリング剤溶液を添加し攪拌あるいは分散したのち、溶剤除去することで吸着のバラツキが抑制されて処理される。溶剤除去した後、さらに100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは所望の電子写真特性が得られる温度、時間であれば任意の範囲で実施される。
金属酸化物粒子に対する表面処理剤の量は所望の電子写真特性が得られる量であることが必須である。電子写真特性は表面処理後に金属酸化物粒子に表面処理剤が付着している量によって影響される。シランカップリング剤の場合、その付着量は蛍光X線分析により測定される(シランカップリング剤に起因する)Si強度と、使用されている金属酸化物の主たる金属元素強度とから求められる。この蛍光X線分析により測定されるSi強度は用いられる金属酸化物の主たる金属元素強度の1.0×10−5倍以上1.0×10−3倍以下であることが好ましい。この範囲を下回った場合、かぶりなどの画質欠陥が発生しやすく、この範囲を上回った場合、残留電位の上昇による濃度低下が発生しやすくなる場合がある。
分散型下引層用塗布剤に含まれる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの公知の高分子樹脂化合物、また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂などが挙げられる。
中でも下引層上に形成される層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが好ましく用いられる。分散型下引層形成用塗布液中の金属酸化物粒子と結着樹脂との比率は所望する感光体特性を得られる範囲で任意に設定される。
上述した方法により表面処理された金属酸化物粒子を結着樹脂に分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が用いた方法が挙げられる。さらに、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
この分散型下引層用塗布剤により下引層を形成する方法は、上述した下引層用塗布剤を用いて下引層を形成する方法と同様に行われる。
次に、有機感光層について、電荷輸送層と電荷発生層とに分けてこの順に以下に説明する。
電荷輸送層に用いられる電荷輸送材料としては、下記に示すものが例示される。即ち、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリンなどのピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリ(p−メチル)フェニルアミン、N,N−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、ジベンジルアニリン、9,9−ジメチル−N,N−ジ(p−トリル)フルオレノン−2−アミンなどの芳香族第3級アミノ化合物、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミンなどの芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4’ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4’−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジンなどの1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、4−ジフェニルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、[p−(ジエチルアミノ)フェニル](1−ナフチル)フェニルヒドラゾン、1−ピレンジフェニルヒドラゾン、9−エチル−3−[(2メチル−1−インドリニルイミノ)メチル]カルバゾール、4−(2−メチル−1−インドリニルイミノメチル)トリフェニルアミン、9−メチル−3−カルバゾールジフェニルヒドラゾン、1,1−ジ−(4,4’−メトキシフェニル)アクリルアルデヒドジフェニルヒドラゾン、β,β−ビス(メトキシフェニル)ビニルジフェニルヒドラゾンなどのヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリンなどのキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)−ベンゾフランなどのベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリンなどのα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール及びその誘導体などの正孔輸送物質が用いられる。あるいは、上記化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は、単独又は2種以上を組み合せて使用される。
電荷輸送層に用いられる結着樹脂には任意のものを用いてもよいが、結着樹脂は、特に電荷輸送材料と相溶性を有し適当な強度を有するものであることが望ましい。
この結着樹脂の例として、ビスフェノールAやビスフェノールZ,ビスフェノールC,ビスフェノールTPなどからなる各種のポリカーボネート樹脂やその共重合体、ポリアリレート樹脂やその共重合体、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独あるいは2種以上の混合物として使用される。
電荷輸送層に用いられる結着樹脂の分子量は、有機感光層の膜厚や溶剤などの成膜条件によって選択されるが、通常は粘度平均分子量で3000以上30万以下が好ましく、2万以上20万以下がより好ましい。
また、前記電荷輸送材料と上記結着樹脂との配合比は10:1乃至1:5の範囲内が好ましい。
電荷輸送層及び/又は後述する電荷発生層は、画像形成装置中で発生するオゾンや酸化性ガス、あるいは光、熱による感光体の劣化を防止する目的で、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤などの添加剤を含んでもよい。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン又はそれらの誘導体、有機硫黄化合物、有機燐化合物などが挙げられる。
酸化防止剤の具体的な化合物例として、フェノール系酸化防止剤では、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチル−フェノール)、4,4’−チオ−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート]−メタン、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチル エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリルなどが挙げられる。
ヒンダードアミン系化合物では、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、8−ベンジル−7,7,9,9−テトラメチル−3−オクチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]ウンデカン−2,4−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,3,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物などが挙げられる。
有機イオウ系酸化防止剤では、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
有機燐系酸化防止剤では、トリスノニルフェニルフォスフィート、トリフェニルフォスフィート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−フォスフィートなどが挙げられる。
なお、有機硫黄系及び有機燐系酸化防止剤は2次酸化防止剤と言われるもので、フェノール系あるいはアミン系などの1次酸化防止剤と併用することにより酸化防止効果を相乗的により高められる。
光安定剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ジチオカルバメート系、テトラメチルピペリジン系などの誘導体が挙げられる。
ベンゾフェノン系光安定剤として、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジ−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系光安定剤として、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラ−ヒドロフタルイミド−メチル)−5’−メチルフェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−ブチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
その他の光安定剤としては、2,4,ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ニッケルジブチル−ジチオカルバメートなどがある。
電荷輸送層は、上記に示した電荷輸送材料及び結着樹脂を適当な溶媒に溶解させた溶液を塗布し、乾燥させることによって形成される。電荷輸送層形成用塗布液の調整に用いられる溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル等、又はこれ等の混合溶媒を用いられる。
また電荷輸送層形成用塗布液には、塗布形成される塗膜の平滑性向上のためのレベリング剤としてシリコーンオイルを添加してもよい。
電荷輸送層形成用塗布液の塗布は、感光体の形状や用途に応じて、浸漬塗布法、リング塗布法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法、ローラー塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法などの塗布法を用いて行うことができる。乾燥は、室温(例えば25℃)での指触乾燥の後に加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥は、30℃以上200℃以下の温度域で5分以上2時間以下の範囲の時間で行うことが望ましい。
なお、電荷輸送層の膜厚は一般に5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。
電荷発生層は、電荷発生材料を真空蒸着法により蒸着させて形成するか、有機溶剤及び結着樹脂を含む溶液を塗布することにより形成される。
電荷発生材料としては、非晶質セレン、結晶性セレン、セレン−テルル合金、セレン−ヒ素合金、その他のセレン化合物;セレン合金、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電体;又はこれらを色素増感したもの、無金属フタロシアニン,チタニルフタロシアニン,銅フタロシアニン,錫フタロシアニン,ガリウムフタロシアニンなどの各種フタロシアニン化合物;スクエアリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラキノン系、ピレン系、ピリリウム塩、チアピリリウム塩等の各種有機顔料;又は染料が用いられる。
また、これらの有機顔料は一般に数種の結晶型を有しており、特にフタロシアニン化合物ではα型、β型などをはじめとしてさまざまな結晶型が知られているが、目的にあった感度その他の特性が得られる顔料であるならば、これらのいずれの結晶型も用いられる。
なお、上述した電荷発生材料の中でも、フタロシアニン化合物が好ましい。この場合、有機感光層に光が照射されると、有機感光層に含まれるフタロシアニン化合物がフォトンを吸収してキャリアを発生させる。このとき、フタロシアニン化合物は、他種に比べ高い量子効率を有するため、吸収したフォトンを効率よく吸収してキャリアが発生される。
更にフタロシアニン化合物の中でも、下記(1)乃至(3)に示すフタロシアニンがより好ましい。すなわち、
(1)電荷発生材料としてCuKα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも7.6°,10.0°,25.2°,28.0°の位置に回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン。
(2)電荷発生材料としてCuKα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも7.3°,16.5°,25.4°,28.1°の位置に回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン、
(3)電荷発生材料としてCuKα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも9.5°,24.2°,27.3°の位置に回折ピークを有するチタニルフタロシアニン。
これらのフタロシアニン化合物は、特に、他種に比べ、光感度が高いだけでなく、その光感度の安定性も高いため、これらフタロシアニン化合物を含む有機感光層を有する感光体は、他種に比べ、高速な画像形成及び繰り返し再現性が要求されるカラー画像形成装置の感光体として好適である。
なお、結晶の形状や測定方法によりこれらのピーク強度や位置が微妙にこれらの値から外れることも有るが、X線回折パターンが基本的に一致しているものであれば同じ結晶型であると判断される。
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、以下のものが例示される。即ちビスフェノールAタイプあるいはビスフェノールZタイプなどのポリカーボネート樹脂及びその共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾールなどである。
これらの結着樹脂は、単独であるいは2種以上混合して用いてもよい。電荷発生材料と結着樹脂との配合比(電荷発生材料:結着樹脂)は、質量比で、10:1乃至1:10の範囲が望ましい。また電荷発生層の厚みは、一般には0.01μm以上5μm以下であることが好ましく0.05μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。
また電荷発生層は、感度の向上、残留電位の低減、繰り返し使用時の疲労低減等を目的として少なくとも1種の電子受容性物質を含有してもよい。電荷発生層に用いられる電子受容性物質としては、例えば無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロム無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、クロラニル、ジニトロアントラキノン、トリニトロフルオレノン、ピクリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、フタル酸などを挙げられる。これらのうち、フルオレノン系、キノン系や、Cl,CN,NO等の電子吸引性置換基を有するベンゼン誘導体が特によい。
電荷発生材料を樹脂中に分散させる方法としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、ダイノーミル、サンドミル、コロイドミルなどの方法を用いられる。
電荷発生層を形成する為の塗布液の溶媒として公知の有機溶剤、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。
また、これらの溶媒は単独あるいは2種以上混合して用いられる。2種類以上の溶媒を混合して用いる場合には、混合溶媒として結着樹脂を溶かす溶媒であれば使用される。但し、有機感光層が、導電性基体側から、電荷輸送層2Bと電荷発生層とをこの順に形成した層構成を有する場合に、浸漬塗布のように下層を溶解しやすい塗布方法を利用して電荷発生層を形成する際には、電荷輸送層等の下層を溶解しないような溶媒を用いることが望ましい。また、比較的下層の侵食が抑制されるスプレー塗布法やリング塗布法を利用して電荷発生層を形成する場合には溶媒の選択範囲が広げられる。
次に、中間層について説明する。中間層としては、例えば、帯電器により感光体表面を帯電させる際に、帯電電荷が感光体表面から電極である感光体の導電性基体にまで注入して帯電電位が得られなくなることを防止するために必要に応じて表面層と電荷発生層との間に電荷注入阻止層を形成してもよい。
電荷注入阻止層の材料としては上記に列挙したシランカップリング剤、チタンカップリング剤、有機ジルコニウム化合物、有機チタン化合物、その他の有機金属化合物、ポリエステル、ポリビニルブチラールなどの汎用樹脂を用いられる。電荷注入阻止層の膜厚は0.001μm以上5μm以下程度で成膜性及びキャリアブロッキング性を考慮して適宜設定される。
<プロセスカートリッジ及び画像形成装置>
次に、本実施形態に係る電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置について実施形態により説明する。
図5に示すように、本実施形態に係る画像形成装置82は、所定方向(図5中、矢印D方向)に回転する電子写真感光体80を備えている。電子写真感光体80周辺には、電子写真感光体80の回転方向に沿って、帯電装置(帯電手段)84、露光装置(露光手段)86、現像装置(現像手段)88、転写装置(転写手段)89、除電装置81、及びクリーニング部材87が設けられている。
帯電装置84は、電子写真感光体80の表面を所定電位に帯電する。露光装置86は、帯電装置84によって帯電された電子写真感光体80の表面を露光することにより、画像データに応じた静電潜像を形成する。現像装置88は、静電潜像を現像するためのトナーを含む現像剤を予め貯留すると共に、貯留された現像剤を電子写真感光体80表面に供給することにより静電潜像を現像してトナー像を形成する。
転写装置89は、電子写真感光体80上に形成されたトナー像を、電子写真感光体80との間で記録媒体83を挟持搬送することにより、記録媒体83に転写する。記録媒体83に転写されたトナー像は、図示を省略する定着装置によって記録媒体83表面に定着される。
除電装置81は、電子写真感光体80表面に付着した帯電されている付着物を除電する。クリーニング部材87は、電子写真感光体80の表面に接触するように設けられ、電子写真感光体80表面との摩擦力によって、表面の付着物を除去する。
なお、本実施形態に係る画像形成装置82は、各色のトナーに対応して電子写真感光体80を複数有するいわゆるタンデム機であってもよい。また、トナー像の記録媒体83転写は、電子写真感光体80表面に形成されたトナー像を中間転写体に転写した後に記録媒体に転写する、中間転写方式であってもよい。
本実施形態に係るプロセスカートリッジは、画像形成装置82本体に対して脱着自在に設けられ、少なくとも帯電装置84と、現像装置88と、クリーニング部材87と、除電装置81からなる群より選択される少なくとも一つとを一体に有して構成されている。
本実施形態において、クリーニング手段としては特に限定されるものではないが、クリーニングブレードであることが好ましい。クリーニングブレードは、他のクリーニング手段と比べると感光体表面を傷つけ、また、磨耗を促進しやすいものである。
しかし、本実施形態に係るプロセスカートリッジや、本実施形態に係る画像形成装置82においては、電子写真プロセスにおいて繰り返し使用したときの残留電位上昇を抑制し、耐磨耗性を向上させるに十分な硬度とその膜厚を有する表面層を有する本実施形態に係る電子写真感光体を用いているため、長期に渡る使用においても、電子写真感光体表面の傷の発生や磨耗を抑制し、良好な画像が得られる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
<実施例1>
(電子写真感光体の作製)
−下引層の形成−
酸化亜鉛(平均粒子径:70nm、テイカ社製)100質量部をトルエン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(商品名:KBM603、信越化学社製)1.5質量部を添加して2時間攪拌した。その後、減圧蒸留によりトルエンを留去し、150℃で2時間焼き付けを行った。
このようにして表面処理を施した酸化亜鉛60質量部、硬化剤(ブロック化イソシアネート、商品名:スミジュールBL3175、住友バイエルンウレタン社製)15質量部及びブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学社製)15質量部をメチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部に、メチルエチルケトン25質量部を混合して被処理液を得た。
次に、水平型メディアミル分散機(KDL−PILOT型、ダイノーミル、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて以下の手順で分散処理を行った。分散機のシリンダー及び撹拌ミルはジルコニアを主成分としたセラミックスで構成されている。このシリンダーに直径1mmのガラスビーズ(ハイビーD20、株式会社オハラ製)をかさ充填率80体積%で投入し、攪拌ミルの周速を8m/分、被処理液の流量を1000mL/分として、循環方式により分散処理を行った。被処理液の送液にはマグネットギヤポンプを用いた。
上記分散処理において、所定時間経過後に被処理液の一部をサンプリングし、成膜時の透過率を測定した。すなわち、被処理液をガラスプレート上に膜厚20μmとなるように塗布し、150℃で2時間の硬化処理を行って塗膜を形成させた後、分光光度計(U−2000、日立社製)を用いて波長950nmの透過率を求めた。そして、この透過率(膜厚20nmに対する値)が70%を超えた時点で分散処理を終了した。
このようにして得られた分散液に、触媒としてジオクチルスズジラウレート0.005質量部及びシリコーンオイル(商品名:SH29PA、東レダウコーニングシリコーン社製)0.01質量部を添加し、下引層用塗布液を調製した。この塗布液を浸漬塗布法にて直径84mm、長さ340mm、肉厚1mmのアルミニウム基体上に塗布し、160℃、100分の乾燥硬化を行い、膜厚20μmの下引層を形成させた。
−有機感光層の形成−
次の如く、下引層上に、電荷発生層及び電荷輸送層で構成される有機感光層を形成した。まず、電荷発生物質として、CuKα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.4゜,16.6゜,25.5゜,28.3゜の位置に回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン15質量部、結着樹脂として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(商品名:VMCH、日本ユニカー社製)10質量部、及びn−ブチルアルコール300質量部からなる混合物を、直径1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間分散処理し、電荷発生層用塗布液を得た。得られた分散液を下引層上に浸漬塗布し、乾燥させて、膜厚0.2μmの電荷発生層を形成させた。
さらに、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’]ビフェニル−4,4’−ジアミン4質量部及びビスフェノールZポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:40000)6質量部をクロルベンゼン80質量部に加えて溶解して電荷輸送層用塗布液を得た。この塗布液を電荷発生層上に塗布し、130℃、40分の乾燥を行うことにより膜厚25μmの電荷輸送層を形成させ、有機感光体(ノンコート感光体)を得た。この有機感光体における有機感光層(下引層含む)のダイナミック硬度は7.1GPaであった。
−表面層の形成−
続いて、ノンコート感光体上にプラズマCVDにより表面層の形成を行った。ノンコート感光体に参照試料作製のためのSi基板(5mm×10mm)を粘着テープで貼り付け、図4に示すプラズマCVD装置に導入し、真空チャンバー32内を、圧力が1×10−2Paとなるまで真空排気した。次に、ガス供給管から、マスフローコントローラー36を介して真空チャンバー32に、水素ガス流量100sccm、He希釈酸素(4%)流量4sccm、及び水素希釈トリメチルガリウム(約10%)流量4sccmを供給すると共にコンダクタンスバルブを調整することにより、真空チャンバー32内の圧力を10Paとし、高周波電源58及びマッチングボックス56により、13.56MHzのラジオ波を出力80Wにセットし、チューナーでマッチングを取り反射波を0Wとして放電電極54から放電を行った。この状態で、ノンコート感光体を40rpmの速度で回転させながら60分間成膜し表面層付きの感光体1を得た。なお、この水素希釈トリメチルガリウムガスの供給は、0℃に保たれたトリメチルガリウムに、水素をキャリアガスとしてバブリングすることによって行った。得られた感光体を温度20℃の環境で24時間放置した。
−表面層の分析評価−
前記Si基板上に形成した参照試料を癖開した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、膜厚を測定し表2の結果を得た。
また、Si参照試料に形成された膜の組成分析を、ラザフォードバックスキャッタリング(RBS)とハイドロジェンフォワードスキャッタリング(HFS)により行い、Ga、O、H、Cの組成を表2のように得た。
−表面層の微小硬度の測定−
前記Si基板上に形成した参照試料に対し、MTSシステムズ社製 超微小硬度計「Nano Indenter DCM」を用いて、連続剛性測定法により表面層の微小硬度を測定した。圧子にはダイヤモンド製正三角錐圧子(Berkovich圧子)を用いた。測定条件は、測定環境20℃、湿度50%でおこなった。得られた硬度プロファイルから押し込み深さ40nmでの硬度値を得た。その結果を表2に示した。。
−電位特性−
表面層を形成した電子写真感光体の電位特性を評価した。まず、上述の表面層形成前のノンコート感光体と、表面層を形成した電子写真感光体とに対して、露光用の光(光源:半導体レーザー、波長:780nm、出力:5mW)を、スコロトロン帯電器により−700Vに帯電させた状態で40rpmで回転させている感光体の表面に走査しながら照射した。
その後、感光体の電位を表面電位計(モデル344、トレック・ジャパン社製)を使用し、プローブとしては測定領域幅10mmのプローブ(モデル555P−1、トレック・ジャパン社製)を用い、このプローブを感光体との距離2mmに設定し、ドラム軸方向及び回転方向に走査しながら測定することによってマッピングし、感光体における電位状態(残留電位)を調べた。その結果、前記ノンコート感光体については電位が−20Vであるのに対し、表面層を設けた感光体の残留電位は表2に示す通りであった。
さらに、前記条件での帯電、露光を100回繰り返し、同様にノンコート感光体及び表面層を設けた感光体について残留電位を測定した。その結果、ノンコート感光体で−22Vであるのに対し、表面層を設けた感光体では表2に示した値であった。
−電子写真感光体の評価−
表面層を形成した電子写真感光体を、富士ゼロックス社製DocuCenter Colar 500用のプロセスカートリッジに搭載し、これをDocuCenter Colar 500に取り付けて、プリントテストを実施した。プリントテストは気温28℃、湿度85%の高温高湿環境にて行った。
まず、図6に示したように、現像量が異なる2つの画像部(一方の画像の現像量:面積被覆率100%、他方の画像の現像量:面積被覆率50%)を有するA4サイズの走行チャートを5万枚出力した。なお、この現像量が異なる2つの画像は、各々、長手方向がプロセス方向(用紙搬送方向)に沿った長方形であり、これをプロセス方向と直交方向に配列するように形成した。
その後、200dpi(dots per inch:1インチ当たりのドット数))、面積被覆率50%のA3全面ハーフトーン画像により“ハーフトーン濃度むら”を、プロセス方向と垂直方向の0.2mm線画像を0.2mm間隔で形成したラインアンドスペース(横ラダー)の画像により“筋状画像流れ”の評価を行った。さらに電源をオフにして12時間放置し、電源オンと同時に200dpi、面積被覆率50%のA3全面ハーフトーン画像を100枚プリントし、“停止後濃度低下からの回復特性”を評価した。評価基準は以下の通りである。
・ハーフトーン濃度むら
○:画像濃度が全面均一で目視ではほとんど差が見られない。差があったとしても、走行チャートの画像濃度に依存したものではない。
△:走行チャート中の100%の画像部にあたる位置のみ濃度が他よりもわずかに高い、または低いことが目視でわかる。
×:走行チャート中の100%の画像部にあたる位置の濃度が他よりも高い、または低いことが目視でわかる。さらに50%の画像部にあたる位置の濃度が他よりもわずかに高い、または低いことが目視でわかる。
・筋状画像流れ
○:横ラダーが正常に形成されている。
×:筋状の画像ながれが発生して、横ラダーに異常がみられる。
・停止後濃度低下からの回復特性
○:電源オン後1枚目の画像に濃度低下が見られない
△:電源オン後1枚目の画像に濃度低下が見られるが、電源オン後10枚目の画像には濃度低下が見られない。
×:電源オン後1000枚目の画像に濃度低下が見られる。
得られた電子写真感光体の詳細と共に、評価結果を表2に示す。
<実施例2>〜<実施例9>、<比較例1>〜<比較例3>
実施例1の電子写真感光体の作製において、表面層の成膜条件(ラジオ波出力、He希釈トリメチルガリウム流量、He希釈酸素(4%)流量、成長時間)を表1に示す条件示す変更した以外は実施例1と同様にして、表面層付きの感光体2〜9、比較感光体1〜3を得た。Si参照試料を用いて、実施例1と同様にして表面層の分析、硬さ、電気特性の評価を行った。また、上記感光体を用いて、実施例1と同様にして電子写真特性の評価を行った。結果をまとめて表2に示す。
Figure 0004506805
Figure 0004506805
上記結果から、本実施例は、比較例に比べ、電気特性(残留電位)、停止後回復特性、濃度ムラ、筋状画像流れが抑制され、画像欠陥が抑制された画像が得られることがわかる。
本実施形態に係る電子写真感光体の層構成の一例を示す模式断面図である。 本実施形態に係る電子写真感光体の層構成の他の一例を示す模式断面図である。 本実施形態に係る電子写真感光体の層構成の他の一例を示す模式断面図である。 本発明に用いる成膜装置の一例を示す概略模式図である。 本実施形態に係るプロセスカートリッジ及び画像形成装置の一例を示す概略構成図である。 実施例における電子写真感光体の評価で行った現像量の異なる画像の出力について説明する模式図である。
符号の説明
1 導電性基体
2 有機感光層
2A 電荷発生層
2B 電荷輸送層
3 表面層
4 下引層
5 中間層
6 有機感光層
30 成膜装置
32 真空チャンバー
34 ガス供給管
34A 開口
36 マスフローコントローラー
38 圧力調整器
40 ガス供給源
41A ガス供給装置
41B ガス供給装置
41C ガス供給装置
42 排気管
42A 開口
44 真空排気装置
46 支持部材
48 モータ
50 ノンコート感光体
52 支持軸
54 放電電極
56 マッチングボックス
58 高周波電源
60 キャリアガス供給源
62 原料ガス供給源
64 ガス導入管
64A シャワーノズル
80 電子写真感光体
81 除電装置
82 画像形成装置
83 記録媒体
84 帯電装置
86 露光装置
87 クリーニング部材
88 現像装置
89 転写装置

Claims (5)

  1. 導電性基体上に、有機感光層と表面層とをこの順に積層して構成され、
    前記表面層が、ガリウム(Ga)と酸素(O)と水素(H)とを少なくとも構成元素とする層であり、該表面層の前記ガリウム(Ga)及び酸素(O)の全元素量に対する各構成比の和が0.70以上であり、かつ、酸素(O)及びガリウム(Ga)の元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1以上1.5以下であり、かつ厚み0.2μm以上1.5μm以下で、微小硬度2GPa以上15GPa以下であることを特徴とする電子写真感光体。
  2. 前記表面層が、厚み0.2μm以上0.7μm以下で、微小硬度4GPa以上10GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
  3. 前記表面層を構成する元素のうち、ガリウム(Ga)及び酸素(O)の全元素量に対する各構成比の和が0.70以上であり、ガリウム(Ga)、酸素(O)及び水素(H)の全元素量に対する各構成比の和が0.95以上であり、かつ、酸素(O)及びガリウム(Ga)の元素組成比(酸素/ガリウム)が1.1以上1.4以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
  4. 請求項1乃至のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
    該電子写真感光体表面を帯電する帯電手段、及び前記電子写真感光体表面に形成された静電潜像を現像剤によりトナー像に現像する現像手段、及び前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段から選択される少なくとも1つと、
    を有し、画像形成装置本体に対して着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
  5. 請求項1乃至のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
    該電子写真感光体表面を帯電する帯電手段と、
    該帯電手段により帯電された前記電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光手段と、
    該静電潜像を少なくともトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、
    該トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、
    を有することを特徴とする画像形成装置。
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