以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<受光素子>
[式(1)]
本実施形態に係る受光素子は、少なくとも基体と、感光層と、保護層と、をこの順に備え、前記保護層の屈折率が前記感光層の屈折率よりも高く、且つ保護層の膜厚dsが下記式(1)を満たすことを特徴とする。
式(1) 2m−1≦{ds/(λ/4ns)}≦2m
(上記式(1)中、dsは保護層の膜厚(nm)を、λは前記受光素子に露光される光の波長(nm)を、nsは前記露光される光の波長に対する前記保護層の屈折率を、mは1以上の整数を表す。)
本実施形態に係る受光素子が、例えば電子写真画像形成装置における像保持体として用いられる場合には、該像保持体の表面には清掃用ブレードが接触配置されることがあり、表面が次第に磨耗する態様で用いられることがある。こうして、本実施形態に係る受光素子が、磨耗する態様で用いられる場合にあっても、保護層の膜厚dsが前記式(1)を満たすことにより、磨耗による表面電位の変動が低減される。この効果が達成される原理は、必ずしも明確ではないが、以下のように推察される。
図1は、感光層表面に保護層が設けられた本実施形態の受光素子の層構成の一例を示す模式断面図であり、露光光による光干渉を説明する図である。ここで、図1に記載の受光素子100では、感光層110表面に保護層120が設けられている。n0は感光層110の屈折率を、nsは保護層120の屈折率を、dsは保護層120の膜厚を、R0sは感光層110と保護層120との界面で反射された反射光成分を、Rsaは保護層120表面で反射された反射光成分を、表している。
図1に示す構成の受光素子に、外部から光を照射した場合、反射光R0sと反射光Rsaは可干渉となり、それらの光路差「2×ns×ds」により互いの位相が変化し、同位相であれば強め合い、反位相であれば弱め合うこととなる。即ち、受光素子に露光される光の波長をλとすると、n0<nsの場合(保護層の屈折率が感光層の屈折率よりも高い場合)は、感光層と保護層の界面での反射で反射光の位相が反転するので、
・式(I) 2×ns×ds=(m+1/2)λ
の条件では、反射光R0sと反射光Rsaとが強め合って反射率が最大となり、
・式(II) 2×ns×ds=mλ
の条件では、反射光R0sと反射光Rsaとが弱め合って反射率が最小となる。
従って、例えばレーザ光等の単色光を照射した場合、図2に示す様に、保護層の膜厚が変化すると、反射率は、膜厚が「λ/(4×ns)」変化する毎に最大と最小とを繰り返すこととなる。この反射率の変動は、保護層を透過する光量の変動となり、即ち受光素子の表面電位の変動となる(干渉による変動)。ここで、受光素子の保護層において膜厚ムラが存在する場合、該膜厚ムラに起因する反射率の変動によって、感光層への透過光量が変動し、例えば上記受光素子を像保持体として用いた画像形成装置であれば、その結果、表面電位の変動が生じ、画像の濃度ムラが発生する。
一方、保護層は完全に透明では無く、膜厚が増加した場合には光の吸収が増加して、感光層への入射光量が減少する。その結果、受光素子への露光による表面電位が増加する特性を有する。逆に保護層の膜厚が減少すると光の吸収が減少し、感光層への入射光量が増加する。その結果、受光素子への露光による表面電位が低下する(吸収による変動)。
従って、受光素子への露光による表面電位は、保護層の膜厚の変化と共に、これら2つの現象(干渉による変動と吸収による変動)が影響し合うこととなる。
ここで、図3に表面電位(露光電位)の変化の概念図を示す。まず「吸収による変動」のグラフは、保護層の膜厚が減少(図3においては左方向に移動)するにしたがい表面電位(露光電位)が減少する。一方、「干渉による変動」のグラフでは、保護層の膜厚が減少(図3においては左方向に移動)した場合に、(1)表面電位(露光電位)が増加(図3においては上方向に移動)する領域と、(2)表面電位(露光電位)が減少(図3においては下方向に移動)する領域と、が存在する。
保護層の膜厚が変化した場合に(1)表面電位(露光電位)が増加する領域では、「吸収による変動における表面電位の減少」と「干渉による変動における表面電位の増加」とが互いに打ち消しあい、「干渉と吸収を合わせた変動」のグラフに示す通り、表面電位(露光電位)の変化が小さくなる。一方、保護層の膜厚が変化した場合に(2)表面電位(露光電位)が減少する領域では、「吸収による変動における表面電位の減少」と「干渉による変動における表面電位の減少」とが互いに重なり合って、「干渉と吸収を合わせた変動」のグラフに示す通り、表面電位(露光電位)の変化がより大きくなる。
従って、保護層の各点の膜厚を、図2に示す反射率が最大値となる膜厚((2m−1)×(λ/4ns)[mは1以上の整数])から、反射率が最小値となる膜厚(2m×(λ/4ns)[mは1以上の整数])の領域に制御することにより、保護層の膜厚ムラに起因する表面電位(露光電位)の変動が低減されるものと推察される。
特に本実施形態に係る受光素子においては、保護層の膜厚dsを前記式(1)を満たす範囲に制御することにより、保護層の膜厚ムラに起因する露光電位の変動が低減される。
[各種物性・定義]
ここで、本実施形態に係る受光素子における物性値やその測定方法、定義等について説明する。尚、本明細書に記載の数値は、以下の測定方法によって測定されたものである。
・保護層の膜厚ds
保護層の膜厚dsは、以下の方法により測定される。
まず、受光素子の表面反射スペクトルを測定する。測定には、大塚電子(株)製の瞬間マルチ測光システムMCPD−3000を用い、ハロゲンランプ光源により受光素子表面に照射した白色光の反射スペクトルを測定する。尚、初めに保護層を有さない(成膜していない)受光素子について測定を行って反射スペクトルを求め、各波長での反射光量の基準とする。次いで保護層を有する受光素子について測定を行い、保護層を有さない受光素子の反射スペクトルと比較して、保護層の反射スペクトルを求める。
保護層の膜厚dsは、反射スペクトルが「最大」(または「最小」)となる波長をλ1、反射スペクトルが「最小」(前記λ1が最小となる波長であった場合には「最大」)となる波長のうち前記波長λ1より大きく且つ最も近い波長をλ2とすると、
ds=(λ1×λ2)/(4×ns×(λ2−λ1)) 式(2)
となる。尚、上記式(2)におけるnsは保護層の屈折率である。
・膜厚ムラ
既に述べた通り、一般に保護層は膜厚ムラを有する。本実施形態においては、当該膜厚ムラは、上記保護層の膜厚dsの測定方法によって、少なくとも縦3箇所×横4箇所(円筒形状である場合には、軸方向3箇所×周方向4箇所)の計12箇所を測定し、最大値および最小値を求めたものである。
・露光される光の波長
露光される光の波長とは、本実施形態に係る受光素子を感光させる目的で照射する光の波長を表す。例えば、本実施形態に係る受光素子が電子写真画像形成装置における像保持体として用いられる場合であれば、像保持体表面に静電潜像を形成するために静電潜像形成手段(露光手段)から露光される光の波長を表す。
・屈折率
保護層の屈折率nsおよび感光層の屈折率n0は、以下の方法により測定される。
測定サンプルは、Si基板上に保護層または感光層を単層で成膜したものを用いる。測定装置として、J.A.Woollam社製の高速分光エリプソメーターM−2000を使用し、入射角65°,70°,75°、測定波長195nmから1000nmの条件で測定する。尚、屈折率の値は、解析ソフトWVASE32を使用し求める。
次いで、本実施形態に係る受光素子を構成する各層について説明する。
(保護層)
本実施形態の保護層に用いられる材料としては、特に限定されず従来公知の保護層が適用される。中でも、ガリウム(Ga)元素と酸素とを含むGa酸化物、ガリウム(Ga)元素と窒素とを含むGa窒化物等のガリウム化合物を含有することが好ましい。
また、保護層に含まれる元素としては、具体的には、Gaのほかに13族元素のB,Al,Inから選ばれる少なくとも一つ以上の元素を用いてもよく、これらの元素から選択される二つ以上の元素を組み合わせて用いてもよい。この場合、これらの原子の半導体中の含有量の組み合わせは制限は無い。
また、この組成からなる保護層は、後述する製造方法を利用すれば有機材料を含む基材(感光層)上へも形成し得る。
ここでは、好ましい態様である、保護層がGa酸化物を含有する場合について説明する。保護層は、Ga元素と15原子%以上の酸素のみを含むものであってもよいが、この他にも窒素や水素等の第4の元素が必要に応じて含まれていてもよく、特に水素が含まれていることが好ましい。この場合、水素が、13族元素と窒素と酸素との結合により発生したダングリングボンドや構造欠陥を補償する。窒素は酸素との結合に加えて、さらに3次元的な結合が提供される。
保護層の厚み方向の組成は、ムラが無い態様であってもよいが、Ga元素と酸素を含むものであれば、膜の厚み方向において組成に傾斜構造を有していたり、多層構成からなるものであってもよい。
保護層の厚み方向において窒素の濃度分布を有するものであり、基材側に向かって増加し、酸素の濃度分布は基材側に向かって減少していてもよいし、反対に窒素の濃度分布は基材側に向かって減少し酸素の濃度分布は基材側に向かって増加していてもよい。
なお、窒素と酸素との含有量の総和とGa元素との原子数比は0.5:1乃至3:1が好ましい。
また、保護層中の酸素の含有量は15原子%以上であることが好ましく、28原子%以上であることがより好ましく、37原子%以上であることが更に好ましい。
酸素の含有量は実用上は65原子%以下であることが好ましい。
ここで、保護層中に水素が含まれる場合、保護層の水素の含有量としては0.1原子%以上30原子%以下の範囲が好ましく、0.5原子%以上20原子%以下の範囲内がより好ましい。
また、保護層に含まれる水素量は、保護層を構成する主たる2つの元素(13族元素および酸素)全体に対して、0.1原子%以上50原子%以下の範囲が好ましく、1原子%以上40原子%以下の範囲であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、保護層中の水素含有量はハイドロジェンフォワードスキャタリング(HFS)により求められた値を意味する。
HFSは、
加速器 NEC社 3SDH Pelletron
エンドステーション CE&A社 RBS−400 を用い、
システムとして 3S−R10を用いた。
解析にはCE&A社のHYPRAプログラムを用いた。
HFSの測定条件は、以下の通りである。
He++イオンビームエネルギー:2.275eV
検出角度160°入射ビームに対してGrazing Angle30°
HFS測定は、He++イオンビームに対して検出器が30°に、試料が法線から75°になるようにセットすることにより、試料の前方に散乱する水素のシグナルを拾う。この際検出器を薄いアルミ箔で覆い、水素とともに散乱するHe原子を取り除くことが良い。定量は参照用試料と被測定試料との水素のカウントを阻止能で規格化した後に比較することによっておこなう。参照用試料としてSi中にHをイオン注入した試料と白雲母を使用した。
白雲母は水素濃度が6.5atomic%であることが知られている。
最表面に吸着しているHは、清浄なSi表面に吸着しているH量を差し引くことによって行われる。
また、保護層中の水素含有量は赤外吸収スペクトル測定を利用して、Ga−水素結合やN−H結合の強度からも推定してもよい。
赤外吸収スペクトルは成膜時における条件で、赤外透過基板に成膜しても良いし、受光素子から剥離してKBr錠剤として測定しても良い。有機感光体の場合には有機溶剤で溶かして残渣を用いてもよい。またアモルファスシリコンの場合には、表面を削りおとしても良いし、また全体を剥離して用いても良い。また受光素子表面のATR法による吸収スペクトルを測定してもよい。
保護層中には、炭素も含まれていてもよいが、この場合の含有量は15原子%以下であることが好ましい。
(感光層および基体)
本実施形態に係る受光素子は、前述の通り、少なくとも基体と感光層と保護層とをこの順に備える。以下においては、該感光層および基体について、電子写真用画像形成装置の像保持体(電子写真用感光体)として用いる場合を例に説明する。
本実施形態の画像形成装置における像保持体(受光素子)は、その層構成が基体上に感光層と保護層とがこの順に積層されたものであれば特に限定されず、これら2つの層の間に必要に応じて下引層等の中間層を設けてもよい。また、感光層は、2層以上であってもよく、機能分離型であってもよい。
さらに、本実施形態における感光層は、シリコン原子を含むいわゆるアモルファスシリコン感光体であってもよい。また、本実施形態における感光層は、有機感光材料等の有機材料を含むいわゆる有機感光体であっても良い。以下、本実施形態の画像形成装置における像保持体(受光素子)の層構成の具体例について、図面を用いてより詳細に説明する。
図4(A)は、本実施形態の像保持体(受光素子)の層構成の一例を示す模式断面図であり、該像保持体(受光素子)は、導電性基体1上に、感光層2、保護層3がこの順に積層された層構成を有し、感光層2は電荷発生層2Aおよび電荷輸送層2Bの2層から構成される。
図4(B)は、本実施形態の像保持体(受光素子)の層構成の他の例を示す模式断面図であり、図4(B)中、4は下引層、他は図1中に示したものと同義である。
図4(C)に示す像保持体(受光素子)は、導電性基体1上に、感光層5、保護層3がこの順に積層された層構成を有し、感光層5は、図4(A)や図4(B)に示す電荷発生層2Aおよび電荷輸送層2Bの機能が一体となった層である。
なお、感光層2および感光層5は、有機高分子から形成されたものでも良いし、無機材料から形成されたものでも良いし、それらが組み合わされたものでも良い。
−有機感光体−
次に、本実施形態の像保持体(受光素子)が有機感光体である場合の好ましい構成について、その概要を説明する。
感光層を形成する有機高分子化合物は熱可塑性であっても熱硬化性のものであっても、また2種類の分子を反応させて形成するものでも良い。
感光層上に、後述する方法により保護層を形成する場合、熱以外の短波長電磁波の照射により感光層が分解したりすることを防ぐため、感光層中に紫外線などの短波長光吸収財や酸化防止剤、還元防止剤を添加しても良い。
また、紫外線吸収剤を含む層(例えば、高分子樹脂に分散させた層を塗布等を利用して形成される層)を感光層表面に設けても良い。
−アモルファスシリコン感光体−
次に、本実施形態の像保持体(受光素子)がアモルファスシリコン感光体である場合の好ましい構成について、その概要を説明する。
アモルファスシリコン感光体は、正帯電用でも負帯電用の感光体でも良い。導電性基板の上に電荷注入阻止や接着性向上のための下引き層を形成し、ついで光導電層と保護層を設けたものが使用できる。保護層は感光層の表面に中間層を設け、さらにその表面に保護層を設けても良いし、感光層の表面に直に保護層を設けても良い。
また、感光層の最上層(保護層側の層)は、p型アモルファスシリコンであってもよくn型アモルファスシリコンであってもよく、感光層と保護層との間に中間層(電荷注入阻止層)として、例えば、SiXO(1−X):H,SiXN(1−X):H,SiXC(1−X):H,アモルファスカーボン層が形成されていてもよい。
−保護層およびその形成方法−
次に、上述した組成等以外の本実施形態の保護層の好ましい特性等についてより詳細に説明する。
保護層は、既述したように非晶性あるいは結晶性のいずれでもよいが、感光層(あるいは中間層)との密着性を高めかつ像保持体(受光素子)表面の滑りを良くするためには、保護層は非晶質性であることが好ましい。また保護層の下層(感光層側)が微結晶性であり、上層(感光体表面側)が非晶質性であっても良い。
保護層は、帯電時、保護層に注入させるものでも良い。この場合保護層と感光層の界面で電荷がトラップする必要がある。また電荷が保護層の表面にトラップしても良い。例えば、感光層が図4(A)、図4(B)に示すように機能分離型である場合、負帯電で保護層が電子を注入する場合には電荷輸送層の保護層側の面が電荷トラップの機能を果たしても良いし、電荷の注入阻止とトラップのために、電荷輸送層と保護層との間に中間層を設けても良い。正帯電性の場合にもこの構成が採用される。
保護層の膜厚は、前述の式(1)を満たすことを必須とし、その膜厚の範囲としては0.1μm以上1μm以下の範囲内が好ましい。
また、保護層は電荷注入阻止層、あるいは、電荷注入層としての機能を兼ねてもよい。この場合、既述したように保護層の導電型をn型やp型に調整することによって、保護層を電荷注入阻止層、あるいは、電荷注入層としても機能させることができる。
保護層が電荷注入層としても機能する場合には、中間層や感光層の表面(保護層側の面)で電荷がトラップされる。負帯電の場合にn型の保護層は電荷注入層として機能し、p型の保護層は電荷注入阻止層として機能する。正帯電の場合にはn型の保護層は電荷注入阻止層として機能し、p型の保護層は電荷注入層として機能する。
また、静電潜像を維持するため、高抵抗としたi型の保護層として形成しても良い。本実施形態の中間層と保護層は前記保護層の上に設けても良いし、保護層を兼ねても良い。
次に、本実施形態の像保持体(受光素子)を構成する基体および感光層の詳細や、必要に応じて設けられる下引層や中間層の詳細について、本実施形態の像保持体(受光素子)が機能分離型の感光層を有する有機感光体である場合について説明する。
−導電性基体−
本実施形態に用いられる基体は、導電性を有している基体であることが好ましい。
尚ここで、上記「導電性」とは、表面抵抗率が1000Ω/□以下であることを表す。
導電性基体としては、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、亜鉛、ニッケル等の金属ドラム;シート、紙、プラスチック、ガラス等の基材上にアルミニウム、銅、金、銀、白金、パラジウム、チタン、ニッケル−クロム、ステンレス鋼、銅−インジウム等の金属を蒸着したもの;酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属化合物を上記基材に蒸着したもの;金属箔を上記基材にラミネートしたもの;カーボンブラック、酸化インジウム、酸化スズ−酸化アンチモン粉、金属粉、ヨウ化銅等を結着樹脂に分散し、上記基材に塗布することによって導電処理したもの等が挙げられる。また、導電性基体の形状は、ドラム状、シート状、プレート状のいずれであってもよい。
また、導電性基体として金属製パイプ基体を用いる場合、当該金属製パイプ基体の表面は素管のままのものであってもよいが、予め表面処理により基体表面を粗面化しておいてもよい。表面処理の方法としては、鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニング等が挙げられる。
特に、以下のようにアルミニウム基体の表面に陽極酸化処理を施したものを導電性基体として用いることが好ましい。
以下、表面に陽極酸化処理を施した導電性基体の製造方法について説明する。まず、基体として純アルミ系あるいはアルミニウム合金(例えば、JISH4080に規定されている合金番号1000番台、3000番台、6000番台のアルミニウムあるいはアルミニウム合金)を用意する。次に陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理は、クロム酸、硫酸、蓚酸、リン酸、硼酸、スルファミン酸などの酸性浴中において行うが、硫酸浴による処理がよく用いられる。陽極酸化処理は、例えば、硫酸濃度:10質量%以上20質量%以下、浴温:5℃以上25℃以下、電流密度:1A/dm2以上4A/dm2以下、電解電圧:5V以上30V以下、処理時間:5分以上60分以下程度の条件で行われるが、これに限定するものではない。
このようにしてアルミニウム基体上に成膜された陽極酸化皮膜は、多孔質であり、又絶縁性が高く、表面が非常に不安定であるため、皮膜形成後にその物性値が経時的に変化しやすくなっている。この物性値の変化を防止するため、陽極酸化皮膜を更に封孔処理することが行われる。封孔処理の方法には、フッ化ニッケルや酢酸ニッケルを含有する水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する方法、陽極酸化皮膜を沸騰水に浸漬する方法、加圧水蒸気により処理する方法などがある。これらの方法のうち、酢酸ニッケルを含有する水溶液に浸漬する方法が最もよく用いられる。
このようにして封孔処理が行われた陽極酸化皮膜の表面には、封孔処理により付着した金属塩等が過剰に残留している。そこで、封孔処理に引き続き、封孔処理により付着した金属塩等を除去するために陽極酸化皮膜の洗浄処理が行われる。洗浄処理は純水により基体の洗浄を1回行うことでも構わないが、多段階の洗浄工程により基体の洗浄を行うのが好ましい。この際、最終の洗浄工程における洗浄液としては、可能な限りきれいな(脱イオンされた)洗浄液が用いられる。また、多段階の洗浄工程のうち、いずれか1工程において、ブラシ等の接触部材を用いた物理的なこすり洗浄を施すことがよりさらに好ましい。
以上のようにして形成される導電性基体表面の陽極酸化皮膜の膜厚は、3μm以上15μm以下程度の範囲内であることが好ましい。陽極酸化皮膜上には多孔質陽極酸化膜のポーラスな形状の極表面に沿ってバリア層といわれる層が存在する。バリア層の膜厚は本実施形態に用いられる像保持体(受光素子)においては1nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。以上のようにして、陽極酸化処理された導電性基体を得ることができる。
−下引層−
次に、下引層について説明する。下引層を構成する材料としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂などの高分子樹脂化合物のほかに、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、シリコン原子などを含有する有機金属化合物などが挙げられる。
これらの化合物は単独にあるいは複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いることができる。これらの中でも、ジルコニウムもしくはシリコンを含有する有機金属化合物が好ましく使用される。また、有機金属化合物は、これを単独または2種以上を混合したり、さらに上述の結着樹脂と混合して用いることが可能である。
有機シリコン化合物(シリコン原子を含有する有機金属化合物)としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が好ましく使用される。
有機ジルコニウム化合物(ジルコニウムを含有する有機金属化合物)としては、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシドなどが挙げられる。
有機チタン化合物(チタンを含有する有機金属化合物)としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物(アルミニウムを含有する有機金属化合物)としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)などが挙げられる。
また、下引層を形成するための下引層形成用塗布液に用いる溶媒としては、公知の有機溶剤、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。また、これらの溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。なお2種以上の溶媒を混合する場合に使用できる溶媒としては、混合溶媒として結着樹脂を溶かす事ができる溶媒であれば、いかなるものでも使用することができる。
下引層の形成は、まず、下引層用塗布剤および溶媒を分散および混合して調合された下引層形成用塗布液を用意し、導電性基体表面に塗布することにより行う。下引層形成用塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、リング塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法を用いることができる。下引層を形成する場合には、その膜厚は0.1μm以上3μm以下の範囲内となるように形成することが好ましい。
上記により形成された下引層の表面粗さは、使用される露光用の光の波長λの1/(4n)倍(但し、nは下引層よりも外周側に設けられる層の屈折率)以上1倍以下の範囲内の粗度を有するように調整してもよい。表面粗さの調整は、下引層形成用塗布液中に樹脂粒子を添加することにより行われる。
なお、樹脂粒子としては、シリコーン樹脂粒子、架橋型PMMA樹脂粒子等が用いられる。また、表面粗さの調整のために下引層表面を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、ウエットホーニング、研削処理等を用いられる。なお、正帯電構成の画像形成装置に用いられる像保持体(受光素子)では、レーザ入射光は像保持体(受光素子)の極表面で吸収され、さらに感光層中で散乱されるため、下引層の表面粗さの調整は強くは必要とされない。
また、下引層形成用塗布液に、種々の添加物を加えることも好ましい。添加物としては、クロラニル、ブロモアニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールや2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)1,3,4オキサジアゾールなどのオキサジアゾール系化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物、3,3’,5,5’テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物などの電子輸送性物質、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料を用いることができる。
ここで用いられるシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ジルコニウムキレート化合物の具体例としては、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシドなどが挙げられる。
チタニウムキレート化合物の具体例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートなどが挙げられる。
アルミニウムキレート化合物の具体例としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)などが挙げられる。
これらの添加物は、単独で用いてもよく、複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いてもよい。
また、上述した下引層形成用塗布液には、少なくとも1種の電子受容性物質を含有させておくことが好ましい。電子受容性物質の具体例としては、無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロム無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、クロラニル、ジニトロアントラキノン、トリニトロフルオレノン、ピクリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、フタル酸などが挙げられる。これらのうち、フルオレノン系、キノン系や、Cl,CN,NO2等の電子吸引性置換基を有するベンゼン誘導体がより好ましく用いられる。
また、上述した下引層用塗布剤の代わりに下記の分散型下引層用塗布剤を用いることも好ましい。
この分散型下引層用塗布剤としては、アルミニウム、銅、ニッケル、銀などの金属粉体や、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物や、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト粉末などの導電性物質等を結着樹脂に分散したものが挙げられる。導電性金属酸化物としては、平均1次粒径0.5μm以下の金属酸化物粒子が好ましく用いられる。上述の金属酸化物粒子は、102Ω・cm以上1011Ω・cm以下の粉体抵抗を有することが好ましい。
従って、中でも上記の範囲内の抵抗値を有する酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物粒子がより好ましく用いられる。また、金属酸化物粒子は2種以上混合して用いてもよい。さらに、金属酸化物粒子にカップリング剤による表面処理を行うことで、粉体の抵抗を制御してもよい。この際使用可能なカップリング剤としては上述の下引層形成用塗布液に用いた材料を用いられる。また、これらのカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。
この金属酸化物粒子の表面処理においては、公知の方法であればいかなる方法でも使用し得るが、乾式法あるいは湿式法が用いられる。
乾式法を用いる場合においては、まず、金属酸化物粒子を加熱乾燥して表面吸着水を除去する。次に、金属酸化物粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接あるいは有機溶媒または水に溶解させたカップリング剤を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させる。カップリング剤を添下あるいは噴霧する際には、50℃以上の温度で行われることが好ましい。カップリング剤を添加あるいは噴霧した後、さらに100℃以上で焼き付けを行うことが好ましい。焼き付けの効果によりカップリング剤を硬化させ金属酸化物粒子と堅固な化学反応を起こさせる。
湿式法を用いる場合においては、乾式法のごとく、まず、金属酸化物粒子の表面吸着水を除去する。この表面吸着水を除去する方法として、乾式法に記載の加熱乾燥の他に、表面処理に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法等が実施される。次に、金属酸化物粒子を溶剤中に攪拌、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミルなどを用いて分散し、カップリング剤溶液を添加し攪拌あるいは分散したのち、溶剤除去する。溶剤除去した後、さらに100℃以上で焼き付けを行ってもよい。
電子写真特性は表面処理後に金属酸化物粒子に表面処理剤が付着している量によって影響される。シランカップリング剤の場合、その付着量は蛍光X線分析により測定される(シランカップリング剤に起因する)Si強度と、使用されている金属酸化物の主たる金属元素強度とから求められる。この蛍光X線分析により測定されるSi強度は用いられる金属酸化物の主たる金属元素強度の1.0×10−5倍以上1.0×10−3倍以下の範囲であることが好ましい。
分散型下引層用塗布剤に含まれる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの公知の高分子樹脂化合物、また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂などが挙げられる。
中でも下引層上に形成される層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが好ましく用いられる。分散型下引層形成用塗布液中の金属酸化物粒子と結着樹脂との比率は必要により設定される。
上述した方法により表面処理された金属酸化物粒子を結着樹脂に分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が用いた方法が挙げられる。さらに、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
この分散型下引層用塗布剤により下引層を形成する方法は、上述した下引層用塗布剤を用いて下引層の形成として記載した方法により行われる。
−感光層:電荷輸送層−
次に、感光層について、電荷輸送層と電荷発生層とに分けてこの順に以下に説明する。
電荷輸送層に用いられる電荷輸送材料としては、下記に示すものが例示される。即ち2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリンなどのピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリ(P−メチル)フェニルアミン、N,N−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、ジベンジルアニリン、9,9−ジメチル−N,N−ジ(p−トリル)フルオレノン−2−アミンなどの芳香族第3級アミノ化合物、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミンなどの芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4’ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4’−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジンなどの1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、4−ジフェニルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、[p−(ジエチルアミノ)フェニル](1−ナフチル)フェニルヒドラゾン、1−ピレンジフェニルヒドラゾン、9−エチル−3−[(2メチル−1−インドリニルイミノ)メチル]カルバゾール、4−(2−メチル−1−インドリニルイミノメチル)トリフェニルアミン、9−メチル−3−カルバゾールジフェニルヒドラゾン、1,1−ジ−(4,4’−メトキシフェニル)アクリルアルデヒドジフェニルヒドラゾン、β,β−ビス(メトキシフェニル)ビニルジフェニルヒドラゾンなどのヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリンなどのキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)−ベンゾフランなどのベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリンなどのα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体などの正孔輸送物質が用いられる。あるいは、上記化合物からなる基を主鎖または側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は、単独または2種以上を組み合せて使用される。
電荷輸送層に用いられる結着樹脂には必要により公知のものを選択して用いられるが、結着樹脂は、特に電荷輸送材料と相溶性を有し適当な強度を有するものであることが望ましい。
この結着樹脂の例として、ビスフェノールAやビスフェノールZ,ビスフェノールC,ビスフェノールTPなどからなる各種のポリカーボネート樹脂やその共重合体、ポリアリレート樹脂やその共重合体、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノールーホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、アチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独あるいは2種以上の混合物として使用される。
電荷輸送層に用いられる結着樹脂の分子量は、感光層の膜厚や溶剤などの成膜条件によって選択されるが、通常は粘度平均分子量で3000以上30万以下の範囲内が好ましく、2万以上20万以下の範囲内がより好ましい。
電荷輸送層は、上記電荷輸送材料および結着樹脂を適当な溶媒に溶解させた溶液を塗布し乾燥することによって形成される。電荷輸送層形成用塗布液の形成に使用される溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル、あるいはこれらの混合溶剤などを用いられる。電荷輸送材料と上記結着樹脂との配合比は10:1乃至1:5の範囲内が好ましい。また電荷輸送層の膜厚は一般に5μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、10μm以上40μm以下の範囲であることがより好ましい。
電荷輸送層および/または後述する電荷発生層は、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤などの添加剤を含んでもよい。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノンまたはそれらの誘導体、有機硫黄化合物、有機燐化合物などが挙げられる。
酸化防止剤の具体的な化合物例として、フェノール系酸化防止剤では、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチル−フェノール)、4,4’−チオ−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート]−メタン、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチル エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリルなどが挙げられる。
ヒンダードアミン系化合物では、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、8−ベンジル−7,7,9,9−テトラメチル−3−オクチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]ウンデカン−2,4−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイミル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,3,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物などが挙げられる。
有機イオウ系酸化防止剤では、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
有機燐系酸化防止剤では、トリスノニルフェニルフォスフィート、トリフェニルフォスフィート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−フォスフィートなどが挙げられる。
なお、有機硫黄系および有機燐系酸化防止剤は2次酸化防止剤と言われるもので、フェノール系あるいはアミン系などの1次酸化防止剤と併用することにより酸化防止効果を相乗的により高めることができる。
光安定剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ジチオカルバメート系、テトラメチルピペリジン系などの誘導体が挙げられる。
ベンゾフェノン系光安定剤として、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジ−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系光安定剤として、2−(−2’−ヒドロキシ−5’メチルフェニル−)−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラ−ヒドロフタルイミド−メチル)−5’−メチルフェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(−2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル 5’−メチルフェニル−)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル−)−5−クロロ ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−ブチルフェニル−)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル−)−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
その他の光安定剤としては、2,4,ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ニッケルジブチル−ジチオカルバメートなどがある。
電荷輸送層は、上記に示した電荷輸送材料および結着樹脂を適当な溶媒に溶解させた溶液を塗布し、乾燥させることによって形成される。電荷輸送層形成用塗布液の調製に用いられる溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系、アセトン、2ーブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状或るいは直鎖状エーテル等、あるいはこれ等の混合溶媒が用いられる。
また電荷輸送層形成用塗布液には、レベリング剤としてシリコーンオイルを微量添加してもよい。
電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は、質量比で10:1乃至1:5であることが好ましい。また電荷輸送層の膜厚は一般には5μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましく、10μm以上30μm以下の範囲内がより好ましい。
電荷輸送層形成用塗布液の塗布は、像保持体(受光素子)の形状や用途に応じて、浸漬塗布法、リング塗布法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法、ローラー塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法などの塗布法を用いて行われる。乾燥は、室温(23℃)での指触乾燥の後に加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥は、30℃以上200℃以下の温度域で5分以上2時間の範囲の時間で行うことが望ましい。
−感光層:電荷発生層−
電荷発生層は、電荷発生材料を真空蒸着法により蒸着させて形成するか、有機溶剤および結着樹脂を含む溶液を塗布することにより形成される。
電荷発生材料としては、非晶質セレン、結晶性セレン、セレン−テルル合金、セレン−ヒ素合金、その他のセレン化合物;セレン合金、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電体;またはこれらを色素増感したもの、無金属フタロシアニン,チタニルフタロシアニン,銅フタロシアニン,錫フタロシアニン,ガリウムフタロシアニンなどの各種フタロシアニン化合物;スクエアリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラキノン系、ピレン系、ピリリウム塩、チアピリリウム塩等の各種有機顔料;または染料が用いられる。
また、これらの有機顔料は一般に数種の結晶型を有しており、特にフタロシアニン化合物ではα型、β型などをはじめとしてさまざまな結晶型が知られているが、目的にあった感度その他の特性が得られる顔料であるならば、これらのいずれの結晶型でも用いられる。
なお、上述した電荷発生材料の中でも、フタロシアニン化合物が好ましい。この場合、感光層に光が照射されると、感光層に含まれるフタロシアニン化合物がフォトンを吸収してキャリアを発生させる。
更にフタロシアニン化合物の中でも、下記(1)乃至(3)に示すフタロシアニンがより好ましい。すなわち、
(1)電荷発生材料としてCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも7.6°,10.0°,25.2°,28.0°の位置に回折ピークを有する結晶型のヒドロキシガリウムフタロシアニン。
(2)電荷発生材料としてCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも7.3°,16.5°,25.4°,28.1°の位置に回折ピークを有する結晶型のクロルガリウムフタロシアニン、
(3)電荷発生材料としてCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも9.5°,24.2°,27.3°の位置に回折ピークを有する結晶型のチタニルフタロシアニン。
なお、結晶の形状や測定方法によりこれらのピーク強度や位置が微妙にこれらの値から外れることも有るが、X線回折パターンが基本的に一致しているものであれば同じ結晶型であると判断できる。
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、以下のものを例示することができる。即ちビスフェノールAタイプあるいはビスフェノールZタイプなどのポリカーボネート樹脂およびその共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコン−アルキド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾールなどである。
これらの結着樹脂は、単独であるいは2種以上混合して用いられる。電荷発生材料と結着樹脂との配合比(電荷発生材料:結着樹脂)は、質量比で、10:1乃至1:10の範囲が望ましい。また電荷発生層の厚みは、一般には0.01μm以上5μm以下の範囲内であることが好ましく0.05μm以上2.0μm以下の範囲内であることがより好ましい。
また電荷発生層は、少なくとも1種の電子受容性物質を含有してもよい。電荷発生層に用いられる電子受容性物質としては、例えば無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロム無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、クロラニル、ジニトロアントラキノン、トリニトロフルオレノン、ピークリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、フタル酸などを挙げることができる。これらのうち、フルオレノン系、キノン系や、Cl,CN,NO2等の電子吸引性置換基を有するベンゼン誘導体が特によい。
電荷発生材料を樹脂中に分散させる方法としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、ダイノーミル、サンドミル、コロイドミルなどの方法が用いられる。
電荷発生層を形成する為の塗布液の溶媒として公知の有機溶剤、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。
また、これらの溶媒は単独あるいは2種以上混合して用いられる。2種類以上の溶媒を混合して用いる場合には、混合溶媒として結着樹脂を溶かす溶媒であれば使用し得る。但し、感光層が、導電性基体側から、電荷輸送層と電荷発生層とをこの順に形成した層構成を有する場合に、浸漬塗布のように下層を溶解しやすい塗布方法を利用して電荷発生層を形成する際には、電荷輸送層等の下層を溶解しない溶媒を用いることが望ましい。また、比較的下層の侵食性の少ないスプレー塗布塗布法やリング塗布法を利用して電荷発生層を形成する場合には溶媒の選択範囲が広げられる。
(保護層の形成方法)
次に、本実施形態の保護層の形成方法について説明する。本実施形態の保護層は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、有機金属気相成長法、分子線エキタピシー法、蒸着、スパッタリング等の公知の気相成膜法が利用されるが、有機金属気相成長法を用いることが好ましい。
この場合、チッ素を含む物質および酸素を含む物質を反応に必要なエネルギー状態または励起状態に活性化する活性化手段によって、前記チッ素を含む物質および前記酸素を含む物質を活性種とし、前記活性種と、活性化していない13族元素を含む有機金属化合物とを反応させることにより、本実施形態の保護層を形成することが好ましい。
これにより、感光層が有機材料を含む場合、例えば、受光素子の導電性基体として、高分子フィルム基板を用いる場合や、感光層が有機感光体である場合においても、導電性基体や感光層に、受光素子の保護層として上述した特性を有する保護層が形成される。なお、保護層の形成に際しては、感光層の表面を予めプラズマによりクリーニングしてもよい。
なお、上述した保護層の形成は、通常は、チッ素を含む物質や、酸素を含む物質、13族元素を含む有機金属化合物からなるガスまたはこれらを気化したガスを、感光層を有する基体が配置された反応室(成膜室)内にて、反応室へと各々の成分を含むガスを供給しつつ、反応を終えたガスを反応室から排気しながら行われる。この観点からは、13族元素を含む有機金属化合物を、チッ素を含む物質および酸素を含む物質を活性化する活性化手段の下流側に導入することが好ましい。
これにより、13族元素を含む有機金属化合物が導入された位置よりも上流側で活性化されたチッ素を含む物質および酸素を含む物質が、活性化手段の下流側で合流するため、活性化していない13族元素を含む有機金属化合物と活性化したチッ素を含む物質および酸素を含む物質とを反応させることができる。
また、本実施形態の保護層の用途にもよるが、感光層が有機材料を含む場合、例えば、受光素子の導電性基体としてITO電極付きのPETフィルムを用いる場合や、像保持体の感光層が有機系の電荷発生材料や結着樹脂等の有機材料を含む場合には、保護層を感光層上に形成する際の該感光層表面の最高温度は、100℃以下であることが好ましく、50℃以下であることが好ましく、感光層表面の最高温度は常温(23℃)に近ければ近いほど好ましい。
以下に、上述した本実施形態の保護層の製造方法について、像保持体の保護層を形成する場合を例としてより詳細に説明する。なお、以下の説明において、基材として感光層部分までが形成された基体の代わりに導電性基体を用いた方法で受光素子も作製し得る。
図5は、本実施形態の像保持体の保護層の形成に用いる成膜装置の一例を示す概略模式図であり、図5(A)は、成膜装置を側面から見た場合の模式断面図を表し、図5(B)は、図5(A)に示す成膜装置のA−A間における模式断面図を表す。図5中、10は成膜室、11は排気口、12は基体回転部、13は基体ホルダー、14は基体、15は高周波電極部、16はガス供給部、17は別のガス導入ノズル部、18はガス供給部、19は高周波電力供給部、20はマッチング回路と高周波電源である。
図5に示す成膜装置において、成膜室10の一端には、不図示の真空排気装置に接続された排気口11が設けられており、成膜室10の排気口11が設けられた側と反対側に、高周波電力供給部19、高周波電極部15および高周波電源20からなるプラズマ発生装置が設けられている。
このプラズマ発生装置は、高周波電極部15内にガスを供給するためのガス導入管16が接続されており、このガス導入管16のもう一方の端は、不図示の第1のガス供給源に接続されている。
成膜室10内には、基体回転部12が設けられており、円筒状の基体14が、シャワーノズルの長手方向と基体14の軸方向とが略平行に対面するように基体ホルダー13を介して基体回転部12に取りつけられるようになっている。成膜に際しては、基体回転部12が回転することによって、基体14が周方向に回転し得る。なお、基体14としては、予め感光層まで積層された感光体、あるいは、感光層上に中間層までが積層された感光体が用いられる。
なお、図5に示す装置により受光素子を作製する場合には、円筒状の基体14を固定する基体ホルダー13の代わりにに導電性基体等の平板状の基板を固定する基体ホルダーを取り付けても良いし、基体ホルダー13に取り付けられた基体14の外周面に導電性基体を貼り付けて、基体ホルダー13を回転させながら、保護層を形成してもよい。
保護層の形成は、例えば以下のように実施される。まず、H2ガスとHeガスとN2あるいは酸素ガスとをガス導入管16から高周波電極部15内に導入すると共に、高周波電力供給部19と高周波電源20から高周波電極部15に、13.56MHzのラジオ波を供給する。この際、高周波電極部15の放電面側から排気口11側へと放射状に広がるようにプラズマが形成される。ここで、ガス導入管16から導入された4種類のガスは成膜室10を高周波電極部15側から排気口11側へと流れる。
高周波電極部15は電極の周りをアースシールドで囲んだものがよい。
次に、水素をキャリアガスとして用いて希釈したトリメチルガリウムガスをガス供給部18、活性化手段である高周波電極部15の下流側に位置するガス導入ノズル部17を介して成膜室10に導入することによって、基体14表面にガリウムと窒素あるいは酸素を含む非単結晶膜を成膜される。
成膜時の保護層の形成温度は特に限定されないが、アモルファスシリコン感光体を作製する場合には円筒状の基体14表面の温度が、50℃から350℃の範囲内で形成することが好ましく、有機感光体を作製する場合には円筒状の基体14表面の温度が、20℃から100℃の範囲内で形成することが好ましい。
有機感光体を作製する場合において、保護層の成膜時の基体14表面の温度は、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、50℃以下が特に好ましい。
基体14表面の温度は加熱および/または冷却手段(図中、不図示)によって制御しても良いし、放電時の自然な温度の上昇に任せてもよい。基体14を加熱する場合にはヒータを基体14の外側や内側に設置しても良い。基体14を冷却する場合には基体14の内側に冷却用の気体または液体を循環させても良い。
放電による基体14表面の温度の上昇を避けたい場合には、基体14表面に当たる高エネルギーの気体流を調節することが効果的である。この場合、ガス流量や放電出力、圧力などの条件を所要温度となるように調整する。
13族元素を含むガスとしてはトリメチルガリウムガスの代わりにインジウム、アルミニウムを含む有機金属化合物やジボラン等の水素化物を用いてもよく、これらを2種類以上混合してもよい。
例えば、保護層の形成の初期において、トリメチルインジウムをガス導入管15、シャワーノズル16を介して成膜室10内に導入することにより、基体14上にチッ素とインジウムとを含む膜を成膜する。
また、保護層には、その導電型を制御するためにドーパントを添加してもよい。成膜時におけるドーパントのドーピングの方法としてはn型用としてはSiH3,SnH4を、p型用としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、ジメチルカルシウム、ジメチルストロンチウム、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、などがガス状態で使用される。また、ドーパント元素を保護層中にドーピングするには、熱拡散法、イオン注入法等の公知の方法を採用してもよい。
具体的には、少なくとも一つ以上のドーパント元素を含むガスをガス導入管15、シャワーノズル16を介して成膜室10内に導入することによってn型、p型等任意の導電型の保護層が得られる。
なお、13族原子の供給材料として水素原子を含む有機金属化合物を用い、13族原子と窒素原子と酸素とを主に含む保護層を形成する場合、成膜室10内には活性水素が存在することが好ましい。活性水素は、キャリアガスとして使用する水素ガスや有機金属化合物に含まれる水素原子から供給されるものでもよい。
例えば、図5に示す成膜装置において、水素ガスと窒素ガスとを別々の位置から成膜装置内に導入する場合には、水素ガスの活性化状態と、窒素ガスの活性化状態とを各々独立して制御し得るように、複数のプラズマ発生装置を設けてもよい。また、これに対して、装置の簡素化という点では、水素および窒素の供給材料としてNH3等のチッ素原子と水素原子とを同時に含むガスを用いたり、窒素ガスと水素ガスとを混合したガスを用いて、これをプラズマにより活性化することが好ましい。
また、キャリアガスとしてヘリウムなどの希ガスや、水素を組み合わせて用いれば、ヘリウムなどの希ガスと水素による基体14表面で成長している膜のエッチング効果により100℃以下の低温でも高温成長時と同等の水素の少ない非晶質の13族元素と窒素あるいは酸素の化合物が形成される。
上述した方法により、活性化された水素、窒素、酸素、希ガスおよび、13族原子が基体14表面上に存在し、さらに、活性化された希ガスや水素が、有機金属化合物を構成するメチル基やエチル基等の炭化水素基の水素を分子として脱離させる効果を有する。それゆえ、基体14表面には、水素含有量が少なく、窒素あるいは酸素と13族元素が三次元的な結合を構成する硬質膜からなる保護層が低温で形成される。
図5に示す成膜装置のプラズマ発生手段は、高周波発振装置を用いたものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、マイクロ波発振装置を用いたり、エレクトロサイクロトロン共鳴方式やヘリコンプラズマ方式の装置をもちいてもよい。また、高周波発振装置の場合は、誘導型でも容量型でも良い。
さらに、これらの装置を2種類以上組み合わせて用いてもよく、あるいは、同種の装置を2つ以上用いてもよい。プラズマの照射によって基体14表面の温度が上昇しないようにするためには高周波発振装置が好ましいが、熱の照射を防止する装置を設けても良い。
2種類以上の異なるプラズマ発生装置(プラズマ発生手段)を用いる場合には、同じ圧力で同時に放電が生起できるようにする必要がある。また、放電する領域と、成膜する領域(基体が設置された部分)とに圧力差を設けても良い。これらの装置は、成膜装置内をガスが導入される部分から排出される部分へと形成されるガス流に対して直列に配置してもよいし、いずれの装置も基体の成膜面に対向するように配置してもよい。
例えば、2種類のプラズマ発生手段をガス流に対して直列に設置する場合、図5に示す成膜装置を例に上げれば、ガス導入ノズル部17を電極として成膜室10内に放電を起こさせる第2のプラズマ発生装置として利用される。この場合、ガス供給部18を介して、ガス導入ノズル部17に高周波電圧を印加して、ガス導入ノズル部17を電極として成膜室10内に放電を起こしてもよい。
また、異なる2種類のプラズマ発生装置を同一の圧力下で利用する場合、例えば、マイクロ波発振装置と高周波発振装置とを用いる場合、励起種の励起エネルギーを大きく変えられ、膜質の制御に有効である。また、放電は大気圧下で行っても良い。大気圧下で放電を行う場合にはキャリアガスとしてHeを使用することが望ましい。
なお、保護層の形成に際しては、上述した方法以外にも、通常の有機金属気相成長法や分子線エピタキシー法が使用されるが、これらの方法による成膜に際しても、活性窒素および/または活性水素、活性酸素を使用することは低温化に有効である。この場合、チッ素原料としてはN2,NH3,NF3,N2H4、メチルヒドラジンなどの気体、液体を気化したり、あるいは、キャリアガスでバブリングしたものが利用される。