JP4427925B2 - 積層薄膜その製造方法および電子デバイス - Google Patents

積層薄膜その製造方法および電子デバイス Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体薄膜を含む積層薄膜と、この積層薄膜を備えた電子デバイスに関する。前記積層薄膜は、半導体記憶装置、赤外線センサ等の薄膜強誘電体素子、あるいはAFM(原子間力顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する記録媒体、移動体通信機等に利用される薄膜振動子、薄膜VCO、薄膜フィルタ、液体噴射装置等に利用される薄膜圧電体素子、などに適用されるものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体結晶基板であるSi基板上に、誘電体膜、強誘電体膜、圧電体膜等を形成、集積化した電子デバイスが考案され、盛んに研究されている。例えば、半導体と誘電体との組み合わせでは、集積度のさらに高いLSI、SOI技術による誘電体分離LSI、半導体と強誘電体との組み合わせでは、不揮発性メモリー等の半導体記憶装置、半導体基板と圧電体膜の組み合わせでは、薄膜バルク波共振子(Film Bulk Acoustic Resonator : FBAR)、薄膜VCO、薄膜フィルタ等が考案されている。
【0003】
これらの電子デバイスにおいて、最適なデバイス特性およびその再現性を確保するためには、誘電体材料、強誘電体材料、圧電体材料として単結晶を用いることが望まれる。このことは薄膜材料についても同様であり、多結晶体では粒界による物理量の撹乱のため、良好なデバイス特性を得ることが難しく、できるだけ完全な単結晶に近いエピタキシャル膜が望まれる。また、FBAR素子の場合、基板の高精度な加工が必要なため、Si単結晶基板上に形成しなければならない。しかも、PZT等の強誘電体をFBAR用の材料として用いる場合、強誘電体の自発分極が1方向に揃っているとき最も大きい出力が得られると考えられる。そのため、理想的には、Si単結晶基板上にエピタキシャル成長し、(001)単一配向した強誘電体薄膜を形成することが望まれる。
【0004】
強誘電体薄膜の代表的なものとして、PbTiO3 、PZT、BaTiO3 等が挙げられる。これらのペロブスカイト型酸化物薄膜を実際のデバイスに応用するためには、これらの薄膜を半導体基板上に形成する必要があるが、例えばSi(100)基板上に結晶性の良好なBaTiO3 (001)単一配向膜を形成するなど、半導体基板上に単一配向の強誘電体薄膜を形成することは極めて難しい。これに対し本発明者は、特開平9−110592号公報等においてSi単結晶基板上に強誘電体のエピタキシャル薄膜を容易に形成できる方法を提案している。
【0005】
しかし、例えば強誘電体薄膜の場合、Si基板上に形成された強誘電体薄膜の特性は、通常、強誘電体本来の特性から算出される特性より大きく劣る。強誘電体の特性、例えば、誘電率、キュリー温度、抗電界、残留分極は、強誘電体が有する応力により変化する。そして、薄膜化した強誘電体では、成膜にともなって応力が発生しやすいので、優れた特性を有する強誘電体薄膜を形成するには、応力の制御が重要である。Si基板上において薄膜化した強誘電体の特性劣化については、特に応力の影響が大きい。
【0006】
例えば、J.A.P.76(12),15,7833(1994)やA.P.L.59(20),11,2524(1991)では、Si単結晶基板ではなくMgO単結晶基板を用いた場合についてではあるが、膜面内の二次元応力が強誘電体特性に強く影響を及ぼすことが指摘されている。応力発生の主要な原因は、下地である基板と強誘電体との物性の違い、例えば、熱膨張係数差や格子定数差などである。このため、強誘電体薄膜をデバイスに応用するためには、上述した応力を低減しなくては、望ましい強誘電性を安定に得ることはできない。
【0007】
ところで、強誘電体として好ましい特性をもつものに、PbTiO3 、PLT(La添加PbTiO3 )、PZT(PbZrO3 −PbTiO3 固溶体)、PLZT(La添加PbZrO3 −PbTiO3 固溶体)等のPb系強誘電体がある。Pb系強誘電体の多くは分極軸が[001]方向なので、強誘電特性の点では(001)単一配向膜であることが好ましい。しかし、Si単結晶基板上にPb系強誘電体薄膜を形成すると、(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在したドメイン構造が形成されやすい。
【0008】
Si単結晶基板上にPb系強誘電体のドメイン構造が形成されやすいのは、以下に説明する理由によると考えられる。以下の説明では、Pb系強誘電体としてPZTを例に挙げる。
【0009】
SiはPZTよりも熱膨張係数が著しく小さい。したがって、例えばPZT薄膜の形成温度を600℃とすると、形成後に室温まで冷却する過程でPZT薄膜の収縮をSi基板が阻害することになり、PZT薄膜にはその面内に比較的大きな二次元の引っ張り応力が生じてしまう。この引っ張り応力を緩和しようとして、PZTは(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在する90度ドメイン構造の膜となると考えられる。さらに、ドメイン形成後も、冷却されるにともなってPZT薄膜内には引っ張り応力が生じることになるため、強誘電体特性が低くなってしまう。
【0010】
このことは、PZT薄膜を圧電体として利用する場合にもあてはまる。PZT薄膜の圧電性を高めるためには、(001)配向結晶の割合を少しでも大きくすること、PZT薄膜へかかる引っ張り応力を少しでも小さくすることが重要となる。
【0011】
これに対して、本発明者らは特開平10−223476号公報、および特開平11−26296号公報に記載されているように、ミスフィットと呼ばれる両者の格子定数差から発生する弾性歪みを利用して正方晶(001)配向をもつ強誘電体薄膜を得る方法を、導電性酸化物薄膜上にペロブスカイト型酸化物薄膜を形成することにより提案している。この方法を用いれば、数十ナノメートルの膜厚の(001)単一配向の強誘電体薄膜をSi(100)基板上に作製することができる。
【0012】
IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS, Vol 18 (1997) pp.529-531、Jpn.J.Appl.Phys.Vol37(1998) pp.5108-5111、および特開平11−274419号公報にも、上記の方法と同様にして、SrRuO3 等の導電性酸化物の上にBSTO等のペロブスカイト型酸化物を形成することで、ミスフィットによる弾性歪みを利用して誘電体膜をc軸方向に伸長させることが記述されており、数十ナノメートルの膜厚の(001)配向の強誘電体膜を得ている。
【0013】
ところで、ミスフィットによる弾性歪みの効果は、膜厚が厚くなるとともに転位によって吸収され、小さくなる。薄膜をキャパシタ等に利用する場合には、リークを減らすという目的を除いて特に膜厚を厚くする必要はないが、例えば、強誘電体薄膜を薄膜バルク振動子等の圧電体膜として利用するためには、薄膜の厚さ方向での共振を利用しなければならず、使用する周波数にもよって異なるが、薄膜バルク振動子の特徴を十分に発揮できる1GHz〜5GHz帯の周波数を得るには、少なくとも数百ナノメートル程度の厚さが必要となる。このような厚さではミスフィットによる弾性歪みの効果はほとんど無くなり、良好な圧電特性は得られない。本出願人による特開平10−287494号公報に示されているように、強誘電体薄膜と導電性酸化物薄膜とを、強誘電体薄膜中の弾性歪みが緩和されない厚さで繰り返し積層する方法を用いれば、実効的に強誘電体層の厚さを厚くすることが可能であるが、製造方法が複雑になること、強誘電体膜内に多数の層界面が存在することによる共振特性の悪化等の問題が生じる。したがって、強誘電体結晶を単層に近い積層数で、強誘電体膜内の90度ドメイン構造を改善し、(001)単一配向に近づける必要がある。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、Si単結晶基板上に形成した現状の強誘電体薄膜では、膜面内に二次元の大きな引っ張り応力が残留し、特に膜厚が数百ナノメートルにおよぶ強誘電体薄膜では十分な自発分極値または圧電特性を得ることができない。
【0015】
そこで本発明では、Si基板上で、優先的に(001)配向させた任意の厚さの強誘電体薄膜を含む積層薄膜およびその製造方法を提供することを目的とする。半導体であるSi単結晶基板上に優先的に(001)配向した任意の厚さの強誘電体薄膜を形成できれば、移動体通信機等に利用される薄膜振動子、薄膜VCO、薄膜フィルタ、液体噴射装置等に利用される薄膜圧電体素子、半導体記憶装置、赤外線センサ等の薄膜強誘電体素子、あるいはAFM(原子間力顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する記録媒体などの各種分野の電子デバイスに適用する際に極めて有用である。
【0016】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) シリコン基板上にエピタキシャル成長した積層薄膜であって、酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有し、前記バッファ層と強誘電体薄膜との間に金属薄膜と第一酸化物薄膜がこの順で積層され、前記第一酸化物薄膜が前記金属薄膜上に接触して形成され、前記金属薄膜が前記バッファ層上に接触して形成され、前記強誘電体薄膜上に第二酸化物薄膜が形成され、前記第一酸化物薄膜が、前記強誘電体薄膜以上の熱膨張率を有し、前記金属薄膜の膜厚が50〜500nmであり、前記第一酸化物薄膜の膜厚が50〜200nmであり、前記金属薄膜と前記第一酸化物薄膜との前記積層が複数回重ねられている積層薄膜。
(2) 前記第一酸化物薄膜は、導電性を有する上記(1)の積層薄膜。
(3) 前記第一酸化物薄膜は、ペロブスカイト型酸化物である上記(1)〜(2)のいずれかの積層薄膜。
(4) 前記第一酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、前記強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい上記(1)〜(3)のいずれかの積層薄膜。
(5) 前記金属薄膜がPt、Ir、Pd、RhおよびAuの少なくとも1種を含有する上記(1)〜(4)のいずれかの積層薄膜。
(6) 前記強誘電体薄膜がPbおよびTiを含む上記(1)〜(5)のいずれかの積層薄膜
【0017】
【作用】
Si基板と強誘電体薄膜の間に、金属薄膜と酸化物薄膜をこの順で形成することで、強誘電体薄膜にかかる応力を緩和し、優先的に(001)配向した膜を得ることができる。
【0018】
以下、本発明の作用について説明する。
Si基板上に形成したPZTは、成膜温度から室温への冷却中にSi基板による引っ張り応力のため、(001)配向と(100)配向の混在するドメイン構造を形成しやすい。さらに、ドメインを形成した後も、冷却中に引っ張り応力は連続的に増加し、膜を二次元的に弾性変形させ、膜面に対して垂直方向の格子定数を減少させるため(001)配向部の特性をさらに悪化させる。このような引っ張り応力によるドメイン形成や変形を避けるため、本出願人による特開平10−223476号公報、および特開平11−26296号公報では、ミスフィットを利用して成膜中に膜を圧縮し、冷却中の引っ張り応力を相殺する方法が示されている。しかしながら、この方法は、ミスフィットによる弾性歪みが消失しない数十ナノメートルの厚さまででしか適用することができない。そこで、それ以上の膜厚に対しても、引っ張り応力を減少させるためには、強誘電体膜にかかる引っ張り応力をその下地構造で吸収するのが効果的と考えられる。
【0019】
Pt等の金属薄膜上に正方晶の強誘電体を直接形成すると、金属薄膜は塑性変形しやすいために、Si基板と強誘電体膜の熱膨張差による応力を緩和することができる。しかし、応力は完全には緩和されないため、強誘電体に引っ張り応力が働き、ドメイン形成や垂直方向の格子定数の減少は避けられない。また、PtとPZTの組み合わせの場合のような、金属薄膜の膜面内方向の格子定数が強誘電体のそれに比べて小さいときは、金属薄膜と強誘電体薄膜との間のミスフィットによって強誘電体が弾性歪みを受け、強誘電体の膜面垂直方向の格子定数が伸ばされたり、(100)ドメインに対する(001)ドメインの割合が増加する効果が期待されるが、金属は強誘電体に比べ一般に変形しやすいため、弾性歪みのほとんどは金属薄膜内の変形や転位により吸収されてしまい、十分な効果は得られない。
【0020】
一方、Si基板上に直接または酸化物のバッファ層を介して導電性ペロブスカイト型酸化物等の酸化物薄膜を形成し、その上に強誘電体薄膜を形成した場合、上述したように、強誘電体薄膜の膜厚が小さいうちはミスフィットによる歪みの効果で強誘電体薄膜のドメイン形成や変形を防ぐことができるが、膜厚が数百ナノメートルと厚くなるとこの効果は消失し、強誘電体薄膜の材料本来の格子定数で膜が成長することになる。この積層薄膜を室温に冷却すると、強誘電体薄膜と基板の間には金属等の柔らかい材料からなる層が存在していないために、基板からの引っ張り応力がほとんど緩和されずに強誘電体薄膜に伝わり、かえってドメイン形成や変形が大きくなる。また、クラックが発生するなどの新たな問題が生じる可能性がある。
【0021】
そこで、本発明では、強誘電体薄膜と基板との間に、金属薄膜からなる層と、前記強誘電体膜に近いかそれ以上の熱膨張率を持つ酸化物層を設ける。熱膨張率がSiより大きいことで、酸化物層は冷却中にSi基板に比べ大きく収縮しようとする。さらに、この層が立方晶であればドメインを形成できないため、膜内部でのドメイン形成による応力緩和ができず、これにより収縮の度合いは一層大きくなる。また、酸化物であるため変形しにくく、収縮しようとする力は膜内部での変形に吸収されずに効率よく下地の金属層に伝わる。これらの結果、Si基板と酸化物層との間の応力は、その間に設けられた金属層内部での転位や界面近傍でのすべりによって吸収される。その結果、強誘電体膜に作用する基板からの引っ張り応力は、下地が金属薄膜のみの場合に比べて弱められ、強誘電体膜のドメイン形成や垂直方向の格子定数の減少を抑えることが可能となる。さらに、強誘電体の上部にも酸化物薄膜を形成すれば、強誘電体はこの上部の膜からの圧縮応力を受けることが可能となるため、一層の効果が得られる。
【0022】
さらに、酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、その上に作製する強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい場合には、ミスフィットによる弾性歪みの効果が付加されることになり、この効果を利用して強誘電体膜をc軸方向に伸長させることができ、効率よく(001)配向した強誘電体膜を得ることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の積層薄膜は、Si単結晶等からなる基板上にエピタキシャル成長した酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有する積層薄膜であり、前記バッファ層と前記強誘電体薄膜の間に少なくとも一層の金属薄膜と少なくとも一層の酸化物薄膜を有する。
【0024】
なお、本明細書において薄膜が例えば(001)配向であるとは、膜面とほぼ平行に(001)面が存在していることを意味する。
【0025】
本明細書における単一配向膜とは、基板表面と平行に目的とする結晶面が揃っている結晶化膜のことを意味する。具体的には、X線回折(XRD)による測定を行ったとき、目的とする面以外のものの反射ピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である膜である。例えば、(00L)単一配向膜、すなわちc面単一配向膜は、膜の2θ−θX線回折で(00L)面以外の反射強度が、(00L)面反射の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下のものである。なお、本明細書において(00L)は、(001)系列の面、すなわち(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0026】
また、本明細書においてエピタキシャル膜とは、第一に、上述した単一配向膜である必要がある。本明細書におけるエピタキシャル膜の第二の条件は、膜面内をx−y面とし、膜厚方向をz軸としたとき、結晶がx軸方向、y軸方向およびz軸方向に共に揃って配向していることである。このような配向は、RHEED評価でスポット状またはストリーク状のシャープなパターンを示すことで確認できる。例えば、表面に凹凸が存在するバッファ層において結晶配向に乱れがある場合、RHEED像はシャープなスポット状とはならず、リング状に伸びる傾向を示す。上記した二つの条件を満足すれば、エピタキシャル膜といえる。
【0027】
また、本明細書において、エピタキシャル成長した膜とは、エピタキシャル膜を含むが、その他に成長時にエピタキシャル膜であって、室温でドメイン構造膜である薄膜も含む。PZT薄膜等の正方晶ペロブスカイト型酸化物薄膜の場合、成長温度で立方晶の(100)エピタキシャル膜として成長し、成長後、冷却する間に正方晶に相転移して、(100)配向と(001)配向とが混在する90度ドメイン構造膜も含まれる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
〔バッファ層〕
本発明で用いられるバッファ層は酸化物の単層あるいは複数の酸化物を積層したものである。バッファ層は、金属薄膜と基板との間に設けられ、金属膜をSi基板上に高品質にエピタキシャル成長させる役割とともに、絶縁体としての機能、およびFBAR素子等のビアホールエッチング加工時のエッチングストッパ層としても機能する。また、バッファ層は金属薄膜と基板との間に形成することで、金属薄膜と基板との反応、特に、基板にSiを用いる場合には、シリサイドの形成を阻止する効果を持つ。
【0030】
結晶性の良好な強誘電体薄膜を得るためには、電極膜を単結晶に近いエピタキシャル膜として形成することが必要となる。このような要求に対し、本発明者らの特開平9−110592号公報に示される方法、すなわち、Si単結晶基板上に(001)配向のZrO2 薄膜、安定化ジルコニア薄膜、希土類元素酸化物薄膜等を含む層を設け、この上にBaTiO3 等からなる(001)配向のペロブスカイト層を形成し、このペロブスカイト層上にPt等からなる金属薄膜を電極膜として形成する方法を用いることが好ましい。ペロブスカイト層を設けるのは、ZrO2 (001)薄膜上にPt薄膜を直接形成すると、Ptは(111)配向または多結晶となり、Pt(100)単一配向膜を形成することができないからである。これは、ZrO2 (001)面とPt(100)面の格子不整合が大きいために、Ptはエピタキシャル成長するよりも、すなわち(100)面を成長面として成長するよりも、エネルギー的に安定な(111)面を成長面として成長するからである。
【0031】
バッファ層、および金属薄膜には、特開平11−312801号公報に記載された積層薄膜を用いても良い。同公報に記載された積層薄膜は、ファセットを有するバッファ層上に金属薄膜を形成しているため、BaTiO3 薄膜等の多元組成のペロブスカイト型薄膜を形成する必要がない。そのため、より容易に良好な結晶性のエピタキシャル金属薄膜を作製することができる。同公報に記載されたバッファ層は、金属薄膜との界面が{111}ファセット面を含むことが特徴である。このバッファ層は、立方晶(100)配向、正方晶(001)配向または単斜晶(001)配向のエピタキシャル膜なので、そのファセット面は、{111}ファセット面である。金属薄膜は、バッファ層の{111}ファセット面上に{111}配向膜としてエピタキシャル成長する。金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められ、最終的に、金属薄膜の表面は平坦となり、かつ、この表面は基板表面に平行となる。この表面は、立方晶(100)面となるが、結晶格子の歪み等により正方晶(001)面となることもある。
【0032】
なお、バッファ層とSi基板との間に、バッファ層の形成過程においてSiO2 層が生じる場合があるが、このSiO2 層はバッファ層がエピタキシャル成長し始めた後にSi表面が酸化されることにより形成されるものと見られ、バッファ層のエピタキシャル成長を阻害するものでは無い。したがって、このSiO2 層は存在していても良い。
【0033】
〔金属薄膜〕
金属薄膜はSi基板によって強誘電体膜に作用する引っ張り応力を吸収するための構造の一部として機能する。また、本発明の積層薄膜を電子デバイスの構成要素として利用する場合、金属薄膜は電極としても機能する。金属薄膜上に、エピタキシャルの立方晶酸化物を介して圧電薄膜等を形成すれば、特性の良好な薄膜バルク共振器等の各種電子デバイスが実現する。
【0034】
バッファ層のファセット面が存在する表面に設けられる金属薄膜は、前述したように、ファセット面により構成される凹部を埋めながら成長し、最終的に金属薄膜表面は平坦となり、かつ、基板表面に平行となる。
【0035】
金属薄膜は、通常、膜面と平行に(100)面が配向した立方晶エピタキシャル膜となっているが、応力によって結晶が変形して、例えば正方晶(001)配向のエピタキシャル膜となることもある。
【0036】
金属薄膜は、強誘電体の成膜温度での耐熱性に優れたものであるとともに、応力を吸収するための可塑性に優れたものであることが好ましい。具体的には、Pt、Ir、Pd、Rh、およびAuの少なくとも1種を主成分とすることが好ましく、PtおよびAuのいずれか1種を主成分とすることがさらに好ましい。これらの金属の単体またはこれらの金属を含む合金から構成されることが好ましい。また、金属薄膜は、組成の異なる2種以上の薄膜から構成されていてもよい。
【0037】
金属薄膜の厚さは、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜200nmである。薄すぎると、変形による応力の吸収が不十分となり、また、結晶性、表面性が損なわれる。厚すぎると、FBAR等の圧電体素子に用いた場合に共振特性が損なわれる。表面がファセット面により構成されるバッファ層を用いた場合には、バッファ層の凹凸を埋めるために厚さを50nm以上とすれば、十分な表面平坦性が得られる。また、電極として十分に機能させるためには、厚さを50〜500nmとすることが好ましい。
【0038】
なお、金属薄膜の比抵抗は、好ましくは10-7 〜103 Ωcm、より好ましくは10-7 〜10-2 Ωcmである。
【0039】
〔酸化物薄膜〕
酸化物薄膜は、金属薄膜に接して形成されており、金属薄膜とともに基板からの引っ張り応力を緩和、制御する働きを持つ。また、酸化物薄膜を強誘電体薄膜上にさらに形成することにより、強誘電体薄膜に2次元的な圧縮応力を加えることが可能となり、強誘電体薄膜の特性を向上させる効果がある。
【0040】
酸化物薄膜は、その上に形成される強誘電体膜の結晶性を良好なものとするために、金属薄膜に対してエピタキシャルに形成されていることが必要となる。この薄膜は、立方晶(100)単一配向、あるいは正方晶(001)単一配向していることが好ましい。酸化物薄膜が、Si基板上に形成されている場合には、応力による歪みを受け結晶が変形したり、ドメインを形成したりすることもあるため、立方晶(100)配向膜が変形した正方晶(001)配向膜となっていたり、正方晶の(001)配向と(100)配向からなる90度ドメイン構造となっていても良い。
【0041】
酸化物薄膜の材料としては、例えば、CaF2 構造、希土類c型構造、パイロクロア構造、NaCl構造、ペロブスカイト型構造を有するものが好ましいが、強誘電体の多くがペロブスカイト構造を有することから、強誘電体との結晶整合性に適した、ペロブスカイト型酸化物がさらに好ましく、導電性ペロブスカイト型酸化物薄膜がさらに好ましい。導電性ペロブスカイト型酸化物薄膜を用いれば、金属薄膜(Pt)とともに下部電極としても機能させることができ、その上に形成される強誘電体薄膜に効率よく電圧を印加することができる。ペロブスカイト型酸化物薄膜としては、例えば、SrTiO3 、希土類元素含有チタン酸鉛、およびSrRuO等の導電性ペロブスカイト型酸化物が好ましい。
【0042】
酸化物薄膜は、導電性を有することが好ましい。酸化物薄膜の比抵抗は、好ましくは103 Ωcm以下、より好ましくは10-6 〜10-2 Ωcm程度である。
【0043】
酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、その上に作製する強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい場合には、ミスフィットによる弾性歪みを利用して強誘電体膜をc軸方向に伸長させることができ、酸化物薄膜と強誘電体薄膜の界面から数十ナノメートルの厚さまで(001)配向した強誘電体膜を得ることができる。
【0044】
酸化物薄膜の厚さは、好ましくは30〜500nm、より好ましくは50〜200nmである。薄すぎると、収縮の効果が十分に得られず、基板の引っ張り応力の吸収が不十分となる。厚すぎると、金属薄膜と同様に、FBAR等の圧電体素子に用いた場合に共振特性が損なわれる。
【0045】
酸化物薄膜は単層膜であっても多層膜であっても良い。例えば、酸化物薄膜の製造過程、または形成後にその下地の金属薄膜の一部が酸化されて、酸化物層が形成されていても良い。また、酸化物薄膜と金属薄膜の間に正方晶等からなる薄膜が形成されていても良い。例えば、Pt上にBaTiO3 を形成し、その上にSrRuO3 を積層した構造でも良い。
【0046】
酸化物薄膜上にはさらに金属薄膜が形成されていても良い。また、金属薄膜と酸化物薄膜との積層を数回重ねても良い。これらにより、さらに応力の緩和効果が得られる。積層を重ねる場合、強誘電体薄膜に接している層は酸化物薄膜と金属薄膜とのいずれでも良い。
【0047】
強誘電体薄膜上に形成される酸化物薄膜は、強誘電体薄膜の後に形成されるため、強誘電体薄膜の結晶性に影響を及ぼさない。したがって、この酸化物薄膜は必ずしもエピタキシャル膜である必要はない。しかし、強誘電体薄膜と酸化物薄膜との界面に生じる欠陥等が強誘電特性等の悪化を引き起こすことになるので、エピタキシャル膜であることが好ましい。
【0048】
ところで、強誘電体薄膜と金属薄膜の間に他の酸化物薄膜を有する構造としては、例えば以下のものが知られている。
【0049】
特開平11−274419号公報には、実施例1としてSi(100)基板上にV1−xAlxN、Pt、SrRuO3 、BSTO、Ptを順に積層した構造を持つ薄膜キャパシタが記載されている。同公報では、SrRuO3 の下地のPtは酸化防止層として機能することのみが記載されているだけで、PtとSrRuO3 の組み合わせによる応力緩和および制御に関しては記述されていない。また、Ptは必ずしも必要でないと記されており、その膜厚についての記述も無い。さらに、同公報では、窒化物を下部電極と基板の間に設けているが、金属薄膜と基板との間に酸化物からなるバッファ層を形成した本発明の構造とは異なる。上記と同様の構造は、IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS Vol 18 (1997) pp.529-531にも記載されているが、SrRuO3 の下地のPtは、さらにその下地の窒化物層の表面酸化を抑えるために導入しているもので、膜厚は30nmである。我々の検討の結果、30nmの膜厚のPt薄膜では、応力緩和の効果はほとんど得られないことが判明した。したがって、このような構造では、本発明が目的とする効果は得られない。
【0050】
特開平10−93036号公報には、導電性ペロブスカイト型酸化物からなる下部電極と、前記下部電極上に形成されたペロブスカイト型酸化物からなる誘電体薄膜とを具備する誘電体薄膜素子において、前記下部電極の下地層として、その酸化物が導電性を有する金属、および導電性を有する前記金属の窒化物、珪化物、酸化物から選ばれる少なくとも1種からなる層が設けられていることを特徴とする誘電体薄膜素子が記載されているが、同公報での下部電極の下地層は、下部電極の下側に存在するSiプラグやWプラグ等の導電層表面の表面性状や電気的特性等に悪影響を及ぼすような酸化を防止するためのもので、本発明の目的とは異なる。また、同公報には、積層膜がエピタキシャル膜であるような記述は一切無く、ポリシリコンやSiO2 上に形成されているためエピタキシャル膜とすることは不可能で、多結晶または非晶質膜である可能性が高い。このような膜では、良好な強誘電特性、あるいは共振特性は得られない。
【0051】
特開平11−195768号公報には、Si基板上に順にSiO2 、Ti、Pt、SRO、PZT、SRO、Ptで積層した、電子装置が記載されているが、エピタキシャル膜との記載は無く、SiO2 上に形成されていることから多結晶膜または非晶質膜である可能性が高い。このような膜では良好な強誘電特性は得られない。また、同公報記載のPt膜は拡散防止層として作用させるために設けており、本発明の作用とは異なる。
【0052】
特開平11−322424号公報には、強誘電性ペロブスカイト型酸化物と導電性ペロブスカイト型酸化物とを積層した圧電材料が記載されており、さらに、導電性ペロブスカイト型酸化物の外側に金属電極を積層した構造が記載されているが、同公報では強誘電性酸化物を焼結体あるいは、単結晶としているため、Si等の基板上に形成されたエピタキシャル積層薄膜ではない。また、導電性酸化物と金属電極を積層する理由については、記述されていない。
【0053】
特開平6−224068号公報には、基板上に、導電層、ペロブスカイト型酸化物誘電体および上部電極を順次積層してなる薄膜キャパシタにおいて、導電層を白金その他の高融点金属からなる第1の導電層と三酸化レニウム型の結晶構造を有する金属酸化物を有する第2の導電層の積層構造とした薄膜キャパシタが記載されているが、第1の導電層は基板の酸化を防止するために設けられており、本発明の作用とは異なる。また、基板としてはチタンしか記載されておらず、このような基板上に強誘電体をエピタキシャル形成することは不可能であり、良好な強誘電特性は得られない。
【0054】
このように、従来、金属薄膜と強誘電体薄膜の間に他の酸化物薄膜を形成する積層薄膜は知られているが、本発明の積層薄膜とは膜の結晶性あるいは構造が異なる。また、従来の積層薄膜では、金属薄膜は拡散防止や酸化防止のために設けられているものがほとんどで、本発明のように、酸化物薄膜と金属薄膜との組み合わせによって基板からの応力の緩和および制御を行っているものは、報告されていない。
【0055】
〔強誘電体薄膜〕
強誘電体薄膜は、ペロブスカイト型酸化物薄膜上に設けられる。強誘電性、圧電性など、要求される機能に応じて適宜選択すればよいが、例えば以下の材料が好適である。
【0056】
(A)ペロブスカイト型材料:希土類元素含有チタン酸鉛、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等のPb系ペロブスカイト化合物;Bi系ペロブスカイト化合物など。以上のような単純、複合、層状の各種ペロブスカイト化合物。
【0057】
なお、本明細書では、PbTiO3 などのようにABOxにおけるOの比率xをすべて3として表示してあるが、xは3に限定されるものではない。ペロブスカイト材料によっては、酸素欠陥または酸素過剰で安定したペロブスカイト構造を組むものがあるので、ABOxにおいて、xの値は、通常、2.7〜3.3程度である。また、A/Bは1に限定されるものではない。A/Bを変えることにより、強誘電特性や圧電特性などの電気的特性、および表面平坦性や結晶性を変化させることができる。従って、A/Bは必要とされる強誘電体薄膜の特性に応じて変化させてもよい。通常、A/Bは0.8〜1.3程度である。なお、A/Bは、蛍光X線分析法から求めることができる。
【0058】
なお、上記PZTは、PbZrO3 −PbTiO3 系の固溶体である。また、上記PLZTは、PZTにLaがドープされた化合物であり、ABO3 の表記に従えば、例えば(Pb:0.89〜0.91、La:0.11〜0.09)(Zr:0.65、Ti:0.35)O3 のように表される。
【0059】
ペロブスカイト型強誘電体の中では、PZTが、強誘電特性の他に圧電特性にも優れるため、好ましい。PZT薄膜の組成は、Ti/(Ti+Zr)原子比として、0.60から0.90の範囲が好ましく、0.70から0.85の範囲がさらに好ましい。0.60よりTiの割合の少ない組成域では強誘電特性、あるいは共振特性が悪化する。一方、Tiの割合が多すぎると、絶縁性が悪化する。
【0060】
希土類元素含有チタン酸鉛としては、原子比率が
(Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、
Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99
の範囲、特に、
(Pb+R)/Ti=0.9〜1.2、
Pb/(Pb+R)=0.7〜0.97
の範囲にある組成のものを用いることが好ましい。この組成の希土類元素含有チタン酸鉛は、特開平10−17394号公報に開示されている。
【0061】
(B)タングステンブロンズ型材料:SBN(ニオブ酸ストロンチウムバリウム)、PBN(ニオブ酸鉛バリウム)等のタングステンブロンズ型酸化物など。
【0062】
タングステンブロンズ型材料としては、強誘電体材料集のLandoit-Borenstein.Vol.16記載のタングステンブロンズ型材料が好ましい。具体的には、(Ba,Sr)Nb26 、(Ba,Pb)Nb26 、PbNb26 、PbTa26 、BaTa26 、PbNb411 、PbNb26 、SrNb26 、BaNb26 等やこれらの固溶体が好ましく、特に、SBN[(Ba,Sr)Nb26 ]やPBN[(Ba,Pb)Nb26 ]が好ましい。
【0063】
強誘電体薄膜は、下地のペロブスカイト型酸化物薄膜上にエピタキシャル成長していることが必要である。強誘電体薄膜が正方晶である場合には(001)単一配向膜であることが好ましいが、Si基板からの応力によって(100)配向結晶と(001)配向結晶からなる90度ドメイン構造となっていても良い。
【0064】
〔結晶性〕
バッファ層、金属薄膜、酸化物薄膜、および強誘電体薄膜の結晶性は、XRD(X線回折)における反射ピークのロッキングカーブの半値幅や、RHEED像のパターンで評価することができる。なお、RHEEDとは、反射高速電子線回折(Reflection High Energy Electron Diffraction)である。
【0065】
具体的には、X線回折において、(100)面または(001)面の反射のロッキングカーブの半値幅がいずれも1.50°以下となる程度の結晶性を有していることが好ましい。なお、ロッキングカーブの半値幅の下限値は特になく、小さいほど好ましいが、現在のところ、前記下限値は一般に0.7°程度、特に0.4°程度である。また、RHEEDにおいては、像がスポット状である場合、表面に凹凸が存在していることになり、ストリーク状である場合、表面が平坦であることになる。そして、いずれの場合でも、RHEED像がシャープであれば、結晶性に優れていることになる。
【0066】
本発明の積層薄膜において、バッファ層、金属薄膜、酸化物薄膜、および強誘電体薄膜は、エピタキシャル成長した膜である。
【0067】
〔基板〕
本発明で用いる基板は、Si、MgO、SrTiO3 等の各種単結晶から選択することができるが、Si(100)単結晶表面を有する基板が最も好ましい。Si単結晶基板を用いる場合、基板と積層薄膜とは、それぞれの面内に存在する軸同士も平行であることが好ましい。
【0068】
〔製造方法〕
バッファ層、金属薄膜、酸化物薄膜、および強誘電体薄膜の形成方法は特に限定されず、基板上、特にSi単結晶基板上に、これらをエピタキシャル成長させることのできる方法から適宜選択すればよいが、蒸着法、MBE法、RFマグネトロンスパッタ法などを用いることが好ましく、特に、前記特開平9−110592号公報や、本出願人による特開平10−287494号公報等に開示されている蒸着法を用いることが好ましい。
【0069】
以下、製造方法の具体例として、ジルコニア薄膜およびY23 薄膜からなるバッファ層、Pt薄膜からなる金属薄膜、SrRuO3 からなる酸化物薄膜、PZTからなる強誘電体薄膜を用いた積層薄膜の形成について説明する。
【0070】
この製造方法を実施するにあたっては、例えば図1に示すような構成の蒸着装置1を用いることが望ましい。
【0071】
この蒸着装置1は、真空ポンプPが設けられた真空槽1aを有し、この真空槽1a内には、下部に基板2を保持するホルダ3が配置されている。このホルダ3は、回転軸4を介してモータ等の回転手段5に接続されており、この回転手段5によって回転され、基板2をその面内で回転させることができるようになっている。上記ホルダ3は、基板2を加熱するヒータ等の加熱手段6を内蔵している。
【0072】
蒸着装置1は、酸化性ガス供給装置7を備えており、この酸化性ガス供給装置7の酸化性ガス供給口8は、上記ホルダ3の直ぐ下方に配置されている。これによって、酸化性ガスは、基板2近傍でその分圧が高くされるようになっている。ホルダ3のさらに下方には、Zr等を供給する第1蒸発部9、TiOx(x=1.67)等を供給する第2蒸発部10、およびPbO等を供給する第3蒸発部11が配置されている。これら各蒸発部には、それぞれの蒸発源の他に、蒸発のためのエネルギーを供給するエネルギー供給装置(電子線発生装置、抵抗加熱装置等)が配置されている。
【0073】
まず、上記ホルダに基板をセットする。この製造方法では、均質な薄膜を大面積基板、例えば10cm2 以上の面積を持つ基板上に形成することができる。これにより、本発明の積層薄膜を有する電子デバイスを、従来に比べて極めて安価なものとすることができる。なお、基板の面積の上限は特にないが、現状では400cm2 程度である。また、ウエハ全面ではなく、部分的にマスク等で選択して積層薄膜を形成することも可能である。
【0074】
バッファ層の形成前に、Si基板に表面処理を施すことが好ましい。基板の表面処理は、例えば前記特開平9−110592号公報や、特開平10−287494号公報などに記載された処理方法を利用することが好ましい。
【0075】
このような表面処理後、基板表面のSi結晶はSi酸化物層により被覆されて保護された状態となっている。そして、このSi酸化物層は、バッファ層形成の際に基板表面に供給されるZr等の金属によって還元され、除去される。
【0076】
次にバッファ層を形成し、その上に金属薄膜を形成する。バッファ層および金属薄膜の形成には、特開平11−312801号公報、特開平9−110592号公報等に記載された製造方法を用いるのが好ましい。
【0077】
形成された金属薄膜上に、続いて酸化物薄膜を形成する。酸化物薄膜として、SrRuO3 薄膜を形成する場合について説明する。蒸着装置1を用いて、真空ポンプで継続的に排気されている真空槽内で、酸化性ガスを導入しながら、SrおよびRuをそれぞれの蒸発源から供給して形成するのが好ましい。
【0078】
酸化性ガスには、酸素、オゾン、原子状酸素、NO2 、ラジカル酸素等を用いることができるが、酸素を用いるのが好ましい。酸化性ガスは、継続的に排気されている真空槽内に、継続的に供給される。このとき、酸化性ガスは基板近傍から供給するのが好ましい。これにより、基板近傍に酸素分圧の高い領域を局所的に作り出すことができるので、少ないガス導入量で反応を促進することができる。酸素ガスの導入量は、5〜50cc/分が好ましく、15〜35cc/分がさらに好ましい。酸素ガスの導入量の最適値は、真空槽の容積、真空ポンプの排気速度、ガス供給口と基板との距離等によって変化するので、予め適当な供給量を求めておく。
【0079】
各蒸発源は、電子ビームや抵抗加熱等によって加熱して蒸発させ、基板に供給する。成膜速度は、好ましくは0.02〜1.00nm/s、より好ましくは0.05〜0.30nm/sである。成膜速度が小さすぎると、各蒸発源からの供給量の制御性が悪化するため、膜が不均一となりやすい。一方、成膜速度が大きすぎると、結晶性が悪化する。
【0080】
SrRuO3 形成時の基板温度は、550〜850℃とするのが好ましく、650〜750℃とするのがさらに好ましい。基板温度が低すぎると、結晶性の良好なエピタキシャル膜が得られなくなる。一方、基板温度が高すぎると、酸化物薄膜の表面性が悪化したり、下地の金属薄膜が基板と反応してしまい酸化物薄膜をエピタキシャル成長させることが不可能となる。
【0081】
以上、SrRuO3 薄膜を形成する方法について説明したが、同様の方法を用いることにより、他の酸化物薄膜もエピタキシャル成長させることができる。
【0082】
次に強誘電体薄膜を形成する。強誘電体薄膜としてPZTを形成する場合には、酸化性ガスを導入しながら、PbO、TiOx(x=1.67)、Zrをそれぞれの蒸発源から供給して形成するのが好ましい。酸化性ガスには、酸素、オゾン、原子状酸素、NO、ラジカル酸素等を用いることができるが、酸化性ガスの一部もしくは大部分をラジカル化した酸素を用いることが好ましい。これにより、PZT薄膜の形成時において、PbまたはPbOの再蒸発を抑えることができる。鉛の蒸発源としてPbOを用いる理由は、PbOがPbに比べて高温の基板上で再蒸発しにくく、付着率が高いためである。また、チタンの蒸発源としてTiOxを用いる理由も、同様に付着率が高いからである。TiOxのかわりにTiを用いると、PbOがTiに酸素を奪われPbとなり再蒸発してしまうので、好ましくない。なお、TiOxにおけるxは、好ましくは1≦x<1.9、より好ましくは1≦x<1.8、さらに好ましくは1.5≦x≦1.75、特に好ましくは1.66≦x≦1.1.75である。このようなTiOxは、熱エネルギーを加えると真空槽内で溶融し、安定した蒸発速度が得られる。
【0083】
PZT形成時の基板温度は500〜750℃とするのが好ましく、550〜650℃とするのがさらに好ましい。成膜速度は、好ましくは0.030〜1.000nm/s、より好ましくは0.100〜0.300nm/sである。成膜速度が遅すぎると成膜速度を一定に保つのが難しく、膜が不均質になりやすい。一方、成膜速度が速すぎると、膜の結晶性が悪化する。
【0084】
TiOxおよびZrは、供給したほぼ全量が基板上に成長するPZT結晶に取り込まれるので、目的とする組成比に対応した比率の蒸発速度で基板上に供給すればよい。しかし、PbOは蒸気圧が高いので組成ずれを起こしやすく、制御が難しい。この形成方法では、このPbOの特性を逆に利用し、PbO蒸発源からの基板への供給量比を、形成されるPZT膜結晶における比率に対し過剰とする。過剰供給の度合いは、蒸発源から供給されるPbと(Ti+Zr)との原子比Pb/(Ti+Zr)をE[Pb/(Ti+Zr)]とし、そのとき形成される強誘電体薄膜中のPbと(Ti+Zr)との原子比Pb/(Ti+Zr)をF[Pb/(Ti+Zr)]としたとき、これらの関係が、E[Pb/(Ti+Zr)]/F[Pb/(Ti+Zr)]=1.5〜3.5、好ましくはE[Pb/(Ti+Zr)]/F[Pb/(Ti+Zr)]=1.7〜2.5、より好ましくはE[Pb/(Ti+Zr)]/F[Pb/(Ti+Zr)]=1.9〜2.3となるものである。過剰なPbOあるいはペロブスカイト構造に組み込まれないPbOは基板表面で再蒸発し、基板上にはペロブスカイト構造のPZT膜だけが成長することになる。E[Pb/(Ti+Zr)]/F[Pb/(Ti+Zr)]が小さすぎると、膜中にPbを十分に供給することが困難となり、膜中のPb/(Ti+Zr)の比率が低くなりすぎて結晶性の高いペロブスカイト構造とならない。一方、E[Pb/(Ti+Zr)]/F[Pb/(Ti+Zr)]が大きすぎると、膜中のPb/(Ti+Zr)の比率が大きくなりすぎて、ペロブスカイト相の他に他のPbリッチ相が出現し、ペロブスカイト単相構造が得られなくなる。
【0085】
以上説明したように、PbOおよびTiOxを蒸発源として用いて付着率を高め、ラジカル酸素により強力に酸化し、かつ基板温度を所定範囲に設定することにより、Pbの過不足のないほぼストイキオメトリのPZT結晶が基板上に自己整合的に成長する。この方法は、ストイキオメトリの鉛系ペロブスカイト結晶薄膜を製造する画期的な方法であり、結晶性の極めて高い強誘電体薄膜が得られる方法である。
【0086】
この方法は、他のPb系強誘電体材料からなる薄膜の形成にも適用でき、これらの場合でも同様な効果が得られる。また、Bi系酸化物薄膜にも適用できる。Bi系酸化物薄膜においても、真空中でBiの蒸気圧が高いために、これまで組成制御が不十分であったが、この方法においてPbO蒸発源をBi23 蒸発源に替えることで同様に形成できることを確認している。Bi系の場合も、Biが過不足無く自己整合的に結晶に取り込まれ、ストイキオメトリの強誘電体薄膜結晶が得られる。
【0087】
こうして作製した強誘電体薄膜上に、さらに酸化物薄膜を形成する場合には、上述の酸化物薄膜の形成方法と同じ方法を用いることが好ましい。この方法を用いれば、強誘電体薄膜上に酸化物薄膜を安定にエピタキシャル成長させることができる。基板温度は、強誘電体薄膜形成時の基板温度にほぼ等しい温度とすることが好ましい。それにより、酸化物薄膜の圧縮応力を効果的に強誘電体薄膜に作用させることが可能となる。
【0088】
成膜面積が10cm2 程度以上である場合、例えば直径2インチの基板の表面に成膜するときには、図1に示すように基板を回転させ、酸化性ガスを基板表面の全域に万遍なく供給することにより、成膜領域全域で酸化反応を促進させることができる。これにより、大面積でしかも均質な膜の形成が可能となる。このとき、基板の回転数は10rpm以上であることが望ましい。回転数が低いと、基板面内で膜厚の分布が生じやすい。基板の回転数の上限は特にないが、通常は真空装置の機構上120rpm程度となる。
【0089】
以上、本発明の積層薄膜の形成方法の詳細を説明したが、この方法は、従来の真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレージョン法などとの比較において特に明確なように、不純物の介在の余地のない、しかも制御しやすい操作条件下で実施しうるため、再現性よく完全性が高い目的物を大面積で得るのに好適である。
【0090】
さらに、この方法においてMBE装置を用いても、全く同様にして目的とする積層薄膜を得ることができる。
【0091】
〔電子デバイス〕
本発明の積層薄膜は、半導体プロセスにより加工して、キャパシタおよびFETのゲートとして構成した半導体記憶装置、赤外線センサ等の薄膜強誘電体素子、AFM(原子間力顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する記録媒体、あるいは、移動体通信機等に利用される、FBAR等の薄膜振動子、薄膜VCO、薄膜フィルタ、液体噴射装置等に利用される薄膜圧電体素子、などに適用することができる。半導体プロセスによる加工は、積層薄膜の形成後、あるいは形成の途中の過程のいずれで行っても良く、例えば、金属薄膜まで形成した後にその金属薄膜をエッチング等によりパターンニングし、基板表面に金属薄膜部とバッファ薄膜部とが現れている基板上に、酸化物薄膜、および強誘電体薄膜を形成し、電子デバイスとしても良い。この場合、金属薄膜上に形成された酸化物薄膜および強誘電体薄膜は金属薄膜の結晶に対してcube on cubeでエピタキシャル成長するが、金属薄膜が除去された部分に形成される酸化物薄膜および強誘電体薄膜は、金属薄膜上に形成されたものに対し45°面内回転した状態でエピタキシャル成長することもある。
【0092】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1、比較例1,2〕
Si(100)単結晶基板上に、ZrO2 薄膜、Y23 薄膜、Pt薄膜、BaTiO3 薄膜、SrRuO3 薄膜、PZT薄膜がこの順で積層された積層薄膜を、以下の手順で形成した。
【0093】
まず、表面が(100)面となるように切断して鏡面研磨したSi単結晶ウエハ(直径2インチ、厚さ250μmの円板状)を用意した。このウエハ表面を40%フッ化アンモニウム水溶液により、エッチング洗浄した。
【0094】
次に、図1に示す蒸着装置1を用い、真空槽1a内に設置された回転および加熱機構を備えた基板ホルダ3に上記単結晶基板2を固定し、真空槽を10-6 Torrまで油拡散ポンプにより排気した後、基板洗浄面をSi酸化物を用いて保護するため、基板を20rpmで回転させ、酸素を基板付近にノズル8から25cc/分の割合で導入しつつ、600℃に加熱した。これにより基板表面が熱酸化され、基板表面に厚さ約1nmのSi酸化物膜が形成された。
【0095】
次いで、基板を900℃に加熱し、回転させた。回転数は20rpmとした。このとき、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入すると共に、金属Zrを蒸発源から蒸発させて前記基板表面に供給し、前工程で形成したSi酸化物の還元と薄膜形成とを行った。なお、金属Zrの供給量は、ZrO2 の膜厚に換算して10nmとした。この薄膜は、X線回折においてZrO2 の(002)ピークが明瞭に観察され、(001)単一配向で高結晶性のZrO2 薄膜であることが確認された。また、このZrO2 薄膜は、図2に示すように、RHEEDにおいて完全なストリークパターンを示し、表面が分子レベルで平坦であって、かつ高結晶性のエピタキシャル膜であることが確認された。
【0096】
次に、このZrO2 薄膜を形成した単結晶基板を基板とし、基板温度900℃、基板回転数20rpm、酸素ガス導入量15cc/分の条件で、基板表面に金属Yを供給することにより、Y23 薄膜を形成した。金属Yの供給量は、Y2O3に換算して40nmとした。このY23 薄膜のRHEED像は、図3に示されるようにシャープなスポット状であった。このことから、このY23 薄膜は、結晶性が良好なエピタキシャル膜であり、かつ、表面に凹凸が存在することがわかる。このY23 薄膜の断面を、透過型電子顕微鏡により観察したところ、高さ10nmのファセット面が存在し、ファセット面の比率は95%以上であった。
【0097】
次に、Y23 薄膜上に、金属薄膜として、厚さ100nmのPt薄膜を形成した。基板温度は700℃、基板回転数は20rpmとした。このPt薄膜のRHEED像は、図4に示されるようにシャープなストリーク状であった。このことから、このPt薄膜は、結晶性が良好なエピタキシャル膜であり、かつ、表面が分子レベルで平坦であることがわかる。
【0098】
また、Pt薄膜表面について、JIS B 0610による十点平均粗さRz(基準長さ1000nm)を測定したところ、1.1〜1.8nmであり、平坦性に優れていることが直接確認できた。
【0099】
次に、Pt薄膜上に、酸化物薄膜として厚さ5nmのBaTiO3 薄膜を介して厚さ50nmのSrRuO3 薄膜を形成した。基板温度は750℃、基板回転数は20rpm、酸素ガス導入量は25cc/分とした。基板上にSrおよびRuをそれぞれの蒸発源から蒸発させた。形成されたSrRuO3 薄膜のRHEED像は、図5に示されるようにシャープなストリーク状を示し、表面が分子レベルで平坦であって、かつ高結晶性のエピタキシャル成長した膜であることが確認された。また、SrRuO3 薄膜の比抵抗は4×10-4 Ωcmであった。
【0100】
次に、SrRuO3 薄膜上に、強誘電体薄膜として、厚さ500nmのPZT膜を蒸着法により形成した。具体的には、基板を600℃に加熱し、20rpmで回転させた。そして、ECR酸素源からラジカル酸素ガスを10cc/分の割合で導入し、基板上にPbO、TiOx(x=1.67)およびZrをそれぞれの蒸発源から供給することによりPZT膜を形成した。蒸発源からの供給量はPbO:ZrO2 :TiO2 のモル比が2:0.25:0.75になるように制御しながら行った。
【0101】
このPZT膜の組成(原子比)を蛍光X線分光法より調べたところ、
Pb/(Ti+Zr)=1.00
Zr/Ti=0.330
であった。この組成のPZTバルク材の600℃における格子定数は0.4018nmであり、一方、PZT膜の下に存在するSrRuO3 膜の600℃における格子定数は0.3966nmなので、この実施例の積層薄膜では、立方晶酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい場合に相当する。
【0102】
形成されたPZT膜のRHEED像は、図6に示されるようにシャープなストリーク状のパターンを示した。また、上記の方法で作成した、PZT/SrRuO3 /Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)構造の積層薄膜のX線回折を測定した結果、(001)または(100)と等価なピークのみが観測された。これらのことから、この積層薄膜は、面内での結晶軸の関係がPZT[100]//Si[010]またはPZT[001]//Si[010]の、高結晶性のエピタキシャル成長した膜であることが確認された。
【0103】
一方、比較例1として、PZT/Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)構造の積層薄膜を挙げる。実施例1の構造のうち、酸化物薄膜の層、すなわちSrRuO3 薄膜層を持たない積層薄膜で、各層は実施例1と同じ膜厚、組成、方法で形成した。各層とも、RHEEDで実施例1と同様のストリークまたはスポットパターンが観測され、結晶性の高いエピタキシャル成長した膜であることが確認された。
【0104】
さらに、比較例2として、PZT/SrRuO3 /BaTiO3 /ZrO2 /Si(100)構造の積層薄膜を挙げる。酸化物薄膜とSi基板との間に金属薄膜を待たない構造である。PZT薄膜は、実施例1と同じ組成、膜厚、形成方法で形成した。SrRuO3 薄膜、BaTiO3 薄膜の厚さは、ともに50nmとした。RHEEDパターンより各層がエピタキシャル成長していることが確認された。
【0105】
実施例1、比較例1および2のPZT膜の(001)および(100)ピーク付近のX線回折の結果を、それぞれ、図7、8、および9に示す。これらのピークには、PZT膜の下地層である、SrRuO3 膜やBaTiO3 膜からの回折が重なるが、下地層のみのX線回折測定を行うことにより、PZT薄膜の(001)および(100)ピークへの下地層からの回折の影響はほぼ無視できることが予め確認された。PZT膜の(001)ドメインと(100)ドメインの割合を調べるため、(001)ピークの強度をIc、(100)ピークの強度をIaとして、それぞれのPZT膜のIc/(Ia+Ic)を求めた。Ic/(Ia+Ic)の値は、PZT/SrRuO3 /Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)構造で0.540、PZT/Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)構造で0.158、PZT/SrRuO3 /BaTiO3 /ZrO2 /Si(100)構造で0.267となった。このことから、実施例1の構造とすることにより、PZT膜のドメイン構造が著しく改善され、優先的に(001)配向したPZT膜が得られることが明らかとなった。
【0106】
〔実施例2、比較例3〕
実施例1の積層薄膜を用い、図10に示した構造のFBAR素子を作製した。
図示するFBAR素子は、ビアホール21が形成されたSi(100)単結晶基板(以下、単にSi基板という)22を有し、Si基板22上に、酸化物薄膜等からなるバッファ層23、Pt等の導電性薄膜からなる下地電極24、BaTiO3 、およびSrRuO3 等のペロブスカイト型酸化物薄膜25、PZT等の強誘電体薄膜26およびAu等の導電薄膜からなる上部電極27をこの順で設けたものである。ビアホール21は、図中下面側からSiを異方性エッチングすることにより形成したものであり、このビアホール21により、その上に積層された薄膜がダイヤフラムを構成している。Si基板22の下面は、ダイボンド剤30によりパッケージ31の底面に接着され、パッケージ31の上部は蓋33により封止されている。
【0107】
先ず、Si(100)基板22上に、ZrO2 、およびY23 のバッファ層23、Ptの下部電極24、BaTiO3 、およびSrRuO3 の酸化物薄膜25をこの順で形成した後、SrRuO3 /BaTiO3 /Pt層をエッチングにより部分的に除去して下部電極をパターンニングし、その上にPZT強誘電体層26を蒸着により形成した。ここで、下部電極面積は20μm×20μm角である。このとき、PZT膜の一部はY23 上に形成されることになるが、SrRuO3 上、Y23 上ともにPZT膜はエピタキシャル成長していることが、RHEEDにより確認された。PZT薄膜の組成はZr:Ti原子比で0.25:0.75とし、膜厚は500nmとした。続いて、電極面積20μm×20μm角のAlからなる上部電極27を形成、パターンニング加工し、Si基板22をエッチングすることによりビアホール21を形成した。最後に、ダイシング装置でチップに分割し、ダイボンド剤30を用いてパッケージ31に搭載した後、ワイヤー32により配線し、封止して素子を完成させた。
【0108】
また、比較例3として、比較例1のPZT/Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)構造の積層薄膜を用いたFBAR素子を作製した。積層薄膜の作製、および素子の作成方法は、それぞれ比較例1、および実施例3と同じである。
【0109】
実施例3のFBAR素子を測定した。最初に、PZT膜に直流電圧を印加しない状態で測定した。共振周波数、反共振周波数は、それぞれ2.2GHz、2.49GHzであった。共振・反共振周波数でのインピーダンス差は29dBであった。また、電気機械結合係数を求めるとk2 =28%と、極めて優れた特性が得られた。これらの特性は、PZT膜に印加する直流電圧を変化させても、ほとんど変わらなかった。
【0110】
一方、比較例3のFBAR素子を測定したところ、PZT膜に直流電圧を印加しない場合にはほとんど共振および反共振が見られなかった。
【0111】
このことから、本発明の積層薄膜を用いたFBAR素子は極めて優れた特性を持つことが分かった。
【0112】
【発明の効果】
本発明では、Si基板と強誘電体薄膜の間に、金属薄膜と酸化物薄膜を形成することで、強誘電体薄膜にかかる応力を緩和し、優先的に(001)配向した任意の厚さの強誘電体膜およびその製造方法を得ることができる。
【0113】
さらに、立方晶酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、その上に作製する強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい場合には、ミスフィットによる弾性歪みの効果が付加されることになり、この効果を利用して強誘電体膜をc軸方向に伸長させることができ、優先的に(001)配向した強誘電体膜およびその製造方法を得ることができる。
【0114】
本発明の積層薄膜は、各種電子デバイス、例えば半導体プロセスにより加工して、キャパシタおよびFETのゲートとして構成した半導体記憶装置、赤外線センサ等の薄膜強誘電体素子、AFM(原子間力顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する記録媒体、あるいは、移動体通信機等に利用される、FBAR等の薄膜振動子、薄膜VCO、薄膜フィルタ、液体噴射装置等に利用される薄膜圧電体素子、などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層薄膜の形成に用いられる蒸着装置の一例を示す説明図である。
【図2】結晶構造を示す図面代用写真であって、Si単結晶基板上に形成されたZrO2 薄膜のRHEED像である。
【図3】結晶構造を示す図面代用写真であって、図2にRHEED像を示すZrO2 薄膜上に形成されたY23 薄膜のRHEED像である。
【図4】結晶構造を示す図面代用写真であって、図3にRHEED像を示すY23 薄膜上に形成されたPt薄膜のRHEED像である。
【図5】結晶構造を示す図面代用写真であって、図4にRHEED像を示すPt薄膜上にBaTiO3 薄膜を介して形成されたSrRuO3 薄膜のRHEED像である。
【図6】結晶構造を示す図面代用写真であって、図5にRHEED像を示すSrRuO3薄膜上に形成されたPZT薄膜のRHEED像である。
【図7】SrRuO3 /Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)上に形成されたPZT膜のX線回折チャートである。
【図8】Pt/Y23 /ZrO2 /Si(100)上に形成されたPZT膜のX線回折チャートである。
【図9】SrRuO3 /BaTiO3 /ZrO2 /Si(100)上に形成されたPZT膜のX線回折チャートである。
【図10】本発明の積層薄膜を用いて作製したFBAR素子の構造図である。
【符号の説明】
1 蒸着装置
1a 真空槽
2 基板
3 ホルダ
4 回転軸
5 モータ
6 ヒータ
7 酸化性ガス供給装置
8 酸化性ガス供給口
9 第1蒸発部
10 第2蒸発部
11 第3蒸発部
21 ビアホール
22 Si
23 ZrO2 薄膜
23 Y23 薄膜
24 Pt薄膜
25 PbTiO3 薄膜
26 PZT薄膜
27 Al電極
30 ダイボンド剤
31 パッケージ
32 ワイヤー
33 蓋

Claims (6)

  1. シリコン基板上にエピタキシャル成長した積層薄膜であって、
    酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有し、前記バッファ層と強誘電体薄膜との間に金属薄膜と第一酸化物薄膜がこの順で積層され、
    前記第一酸化物薄膜が前記金属薄膜上に接触して形成され、
    前記金属薄膜が前記バッファ層上に接触して形成され、
    前記強誘電体薄膜上に第二酸化物薄膜が形成され、
    前記第一酸化物薄膜が、前記強誘電体薄膜以上の熱膨張率を有し、
    前記金属薄膜の膜厚が50〜500nmであり、
    前記第一酸化物薄膜の膜厚が50〜200nmであり、
    前記金属薄膜と前記第一酸化物薄膜との前記積層が複数回重ねられている積層薄膜。
  2. 前記第一酸化物薄膜は、導電性を有する請求項1の積層薄膜。
  3. 前記第一酸化物薄膜は、ペロブスカイト型酸化物である請求項1〜のいずれかの積層薄膜。
  4. 前記第一酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、前記強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい請求項1〜のいずれかの積層薄膜。
  5. 前記金属薄膜がPt、Ir、Pd、RhおよびAuの少なくとも1種を含有する請求項1〜のいずれかの積層薄膜。
  6. 前記強誘電体薄膜がPbおよびTiを含む請求項1〜のいずれかの積層薄膜。
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