JP4142128B2 - 積層薄膜およびその製造方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体薄膜を含む積層薄膜と、その製造方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体結晶基板であるSi基板上に、超電導膜、誘電体膜、強誘電体膜等を形成、集積化した電子デバイスが考案されている。半導体と超伝導体、誘電体、強誘電体を組み合わせることにより、例えば、半導体と超伝導体との組み合わせでは、SQUID、ジョセフソン素子、超電導トランジスタ、電磁波センサーおよび超電導配線LSI等が挙げられ、半導体と誘電体との組み合わせでは、集積度のさらに高いLSI、SOI技術による誘電体分離LSI、半導体と強誘電体との組み合わせでは、不揮発性メモリー、赤外線センサー、光変調器、および光スイッチOEIC(光・電子集積回路:OPTO-ELECTRONIC INTEGRATED CIRCUITS)等が試作されている。
【0003】
これらの電子デバイスにおいて、最適なデバイス特性およびその再現性を確保するためには、超電導体材料、誘電体材料、強誘電体材料として単結晶を用いることが必要である。多結晶体では粒界による物理量の撹乱のため、良好なデバイス特性を得ることが難しい。このことは薄膜材料についても同様であり、できるだけ完全な単結晶に近いエピタキシャル膜が望まれる。
【0004】
したがって、近年、上述した応用を目的として、エピタキシャル膜の検討がなされている。例えば、J.A.P.76(12),15,7833(1994)には、MgO基板上に形成した強誘電体エピタキシャル膜が記載されている。
【0005】
ただし、実際のデバイスに応用するためには、半導体と強誘電体との集積化を可能にする必要があるが、MgO基板をSiデバイス中に組み込むことは極めて困難である。しかし、Si(100)基板上に結晶性の良好なBaTiO3(001)単一配向膜を形成するなど、Si単結晶基板上に単一配向強誘電体薄膜を形成することも極めて困難である。これに対し本発明者らは、特願平8−217884号等においてSi単結晶基板上に強誘電体のエピタキシャル薄膜を容易に形成できる方法を提案している。
【0006】
しかし、Si基板上に形成された強誘電体薄膜の特性は、通常、強誘電体本来の特性から算出される特性より大きく劣る。強誘電体の特性、例えば、誘電率、キュリー温度、抗電界、残留分極は、強誘電体が有する応力により変化する。そして、薄膜化した強誘電体では、成膜にともなって応力が発生しやすいので、優れた特性を有する強誘電体薄膜を形成するには、応力の制御が重要である。Si基板上において薄膜化した強誘電体の特性劣化についても、応力の影響が大きいと考えられる。
【0007】
例えば、上記J.A.P.76(12),15,7833(1994)やA.P.L59(20),11,2524(1991)では、Si単結晶基板ではなくMgO単結晶基板を用いた場合についてではあるが、膜面内の二次元応力が強誘電体特性に強く影響を及ぼすことが指摘されている。応力発生の主要な原因は、下地である基板と強誘電体との物性の違い、例えば、熱膨張係数差や格子定数差などである。このため、強誘電体薄膜をデバイスに応用するためには、上述した応力を制御しなくては、望ましい強誘電性を安定に得ることはできない。
【0008】
ところで、本発明者らは、特願平8−186625号において、チタン酸鉛(PbTiO3)に所定の希土類元素を添加した希土類元素含有チタン酸鉛からなる強誘電体を、結晶性が良好でかつ組成ずれが小さい薄膜としてSi単結晶基板上に形成できる方法を提案している。しかし、希土類元素含有チタン酸鉛をSi単結晶基板上に単一配向膜として形成することは難しく、単一配向膜として形成できた場合でも、それに期待される強誘電体特性を得ることが困難であった。
【0009】
チタン酸鉛系強誘電体には、このほかPbTiO3、PLT(La添加PbTiO3)、PZT(PbZrO3−PbTiO3固溶体)、PLZT(La添加PbZrO3−PbTiO3固溶体)などがあるが、強誘電体特性、特に自発分極値の大きさにおいてはPbTiO3が最も優れている。PbTiO3系強誘電体は分極軸が[001]方向なので、強誘電特性の点では(001)単一配向膜であることが好ましい。しかし、純粋なPbTiO3をSi単結晶基板上に(001)単一配向膜として形成できたという報告はない。Si基板上にPbTiO3薄膜を形成すると、(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在したドメイン構造が形成されて、強誘電体特性が単結晶よりも著しく低くなり、MgO基板上に形成した場合よりも特性が低くなってしまう。このため、バルク材のときの強誘電体特性が優れているにもかかわらず、純粋なPbTiO3は薄膜としては用いられず、PZTやPLZT等が用いられているのが現状である。
【0010】
上述したように、希土類元素含有チタン酸鉛をSi単結晶基板上に単一配向膜として形成することは難しく、単一配向膜とできても期待される強誘電体特性は得られない。また、純粋なPbTiO3をSi単結晶基板上に単一配向膜として形成することは、不可能であった。Si単結晶基板を用いた場合のこのような問題の原因は、以下のように考えられる。
【0011】
SiおよびMgOはいずれもPbTiO3よりも熱膨張係数が小さいが、特に、Siの熱膨張係数は2.6×10-6/℃であり、MgOの熱膨張係数(14×10-6/℃)に比べ著しく小さい。したがって、例えばPbTiO3薄膜の形成温度を600℃とすると、形成後に室温まで冷却する過程でPbTiO3薄膜の収縮をSi基板が阻害することになり、PbTiO3薄膜にはその面内に比較的大きな二次元の引っ張り応力が生じてしまう。二次元引っ張り応力の大きな膜では、後述するように自発分極値の低下が生じる。そして、この引っ張り応力を緩和しようとして、PbTiO3は(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在するドメイン構造の膜となる。(100)配向結晶は、膜厚方向に分極を持たないため、自発分極値の低下が著しくなると考えられる。また、希土類元素含有チタン酸鉛では、(001)単一配向の膜となったときには大きな引っ張り応力が存在することになるため、(001)配向と(100)配向とが混在しているドメイン構造の膜よりも強誘電体特性が低くなってしまう。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、基板上、特にSi単結晶基板上に形成した現状の強誘電体薄膜、特にPbTiO3薄膜では、膜面内に二次元の大きな引っ張り応力が残留し、またドメイン構造となるため、十分な自発分極値を得ることができない。
【0013】
本発明の目的は、Si単結晶等からなる基板上に強誘電体薄膜、特にPbTiO3強誘電体薄膜を形成するに際し、自発分極値の低下を防ぐことである。半導体であるSi単結晶基板上に形成された自発分極値の大きな強誘電体薄膜は、不揮発性メモリー、赤外線センサー、光変調器および光スイッチOEIC、分極反転を利用した記録媒体などの各種分野に必要不可欠である。
【0014】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(14)の本発明により達成される。
(1) Si単結晶基板上に形成された積層薄膜であり、導電性中間薄膜と、この導電性中間薄膜を介して積層された強誘電体薄膜とから構成され、
前記強誘電体薄膜がペロブスカイト構造を有する(001)配向エピタキシャル膜であり、
前記導電性中間薄膜がペロブスカイト構造を有する単一配向のエピタキシャル膜であり、
前記強誘電体薄膜が、下記一般式(I)で表されるペロブスカイト化合物、下記一般式(II)で表される層状ペロブスカイト化合物、ならびに、R(Rは、Pr、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb、Y、Sm、Gd、ErおよびLaから選択された少なくとも1種の希土類元素)、Pb、TiおよびOを含有し、原子比が
(Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、
Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99
である希土類元素含有チタン酸鉛のうちのいずれか1種を含有し、
前記導電性中間薄膜が、導電性ペロブスカイト酸化物を含有し、
前記強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が前記導電性中間薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より大きい積層薄膜。
ABO (I)
[式(I)中、AはCa、Ba、Sr、Pb、K、Na、Li、LaおよびCdから選ばれた1種以上を示し、BはTi、Zr、TaおよびNbから選ばれた1種以上を示し、比率A/Bは0.8〜1.3であり、xは2.7〜3.3を示す。]
Bi m−1 3m+3 (II)
[式(II)中、AはBi、Ca、Sr、Ba、Pbおよび希土類元素(ScおよびYを含む)のいずれか1種を示し、BはTi、TaおよびNbのいずれか1種を示し、mは1〜5の整数を示す。]
(2) 前記導電性中間薄膜の比抵抗が1×10Ωcm以下である上記(1)の積層薄膜。
(3) 前記強誘電体薄膜の厚さが2〜50nmであり、前記導電性中間薄膜の厚さが0.3〜50nmである上記(1)または(2)の積層薄膜。
(4) 前記強誘電体薄膜の数が2〜500である上記(1)〜(3)のいずれかの積層薄膜
(5) 前記Si単結晶基板との間に、エピタキシャル膜であるバッファ薄膜が設けられている上記(〜(4)のいずれかの積層薄膜。
) 前記強誘電体薄膜が少なくともPbおよびTiを含む酸化物からなる上記(1)〜()のいずれかの積層薄膜。
) 前記強誘電体薄膜が、R(Rは、Pr、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb、Y、Sm、Gd、ErおよびLaから選択された少なくとも1種の希土類元素)、Pb、TiならびにOを含有し、原子比が
(Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、
Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99
である上記()の積層薄膜。
) 前記強誘電体薄膜において、Tiの60原子%以下がZr、Nb、Ta、HfおよびCeの少なくとも1種で置換されている上記()または()の積層薄膜。
) 前記強誘電体薄膜がPb、TiおよびOから構成され、原子比が
Pb/Ti=0.8〜1.3、
O/Ti=2.7〜3.3
である上記()の積層薄膜。
10) 前記導電性中間薄膜が、Ruを含有する酸化物から構成される上記(1)〜()のいずれかの積層薄膜。
11) 上記(1)〜(10)のいずれかの積層薄膜中の強誘電体薄膜を多元蒸着法により基板上に形成するに際し、蒸発源として少なくとも酸化鉛およびTiO(1≦x≦1.9)を用い、酸化性ガスを蒸着反応室内に導入しながら蒸着を行う積層薄膜の製造方法。
12) 蒸発源から供給される元素の原子比を
Pb/Ti=E(Pb/Ti)
とし、形成された強誘電体薄膜中の原子比を
Pb/Ti=F(Pb/Ti)
としたとき、
(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)=1.5〜3.5
となる上記(11)の積層薄膜の製造方法。
13) 酸化性ガスとして、少なくとも一部がラジカル化した酸素を用いる上記(11)または(12)の積層薄膜の製造方法。
14) 基板の温度を500〜700℃として蒸着を行う上記(11)〜(13)のいずれかの積層薄膜の製造方法。
【0015】
【作用および効果】
本発明の積層薄膜は、導電性中間薄膜を介してペロブスカイト構造の強誘電体薄膜を積層したものである。この積層薄膜がSi単結晶基板上に形成される場合、基板と積層薄膜との間には、通常、バッファ薄膜が設けられる。バッファ薄膜および積層薄膜は、エピタキシャル成長を利用して形成される。このような構造とすることにより、積層薄膜中の各強誘電体薄膜を、ドメイン構造をとらない(001)単一配向膜として形成することが可能となり、強誘電体薄膜の自発分極値の増大、あるいは自発分極値の低下防止が可能となる。また、積層薄膜全体としては厚いため、リークを防ぐことができる。
【0016】
次に、理論的考察および実験データに基づいて、本発明の作用および効果について詳細に説明する。
【0017】
まず、はじめに、強誘電体材料のバルク単結晶における自発分極特性について考察する。強誘電体材料をPbTiO3とする。PbTiO3結晶は、室温においてa軸の格子定数が0.3897nm、c軸の格子定数が0.4147nmの正方晶の結晶であり、[001]方向に分極軸をもつ。この結晶に、格子のc面に平行な面内方向に二次元の応力を発生させ、その場合の自発分極値PsをDevonshire熱力学関係式を用いて計算した結果を、図1に示す。図中においてマイナスの符号の二次元応力は圧縮応力、プラスの符号をもつものは引っ張り応力を表す。この図から、自発分極は、二次元圧縮応力の増大にともなって増大し、二次元引っ張り応力の増大にともなって減少することがわかる。
【0018】
次に、Si単結晶基板上にエピタキシャル成長したPbTiO3薄膜について考える。薄膜の形成温度が600℃のときに(001)配向の単結晶薄膜が得られるとすると、このときPbTiO3結晶格子のc面は、基板表面に現れる結晶面と平行に位置することになる。PbTiO3とSiとは熱膨張係数が異なるため、成膜温度から室温まで冷却する過程でPbTiO3薄膜の面内に二次元応力が発生する。Siの熱膨張係数は2.6×10-6/℃であり、この係数にしたがい、Si基板表面は600℃から室温までの冷却過程において二次元的に収縮を起こす。一方、PbTiO3薄膜も、Si基板表面の収縮に伴って収縮するが、このときPbTiO3結晶に生じるa軸方向およびb軸方向の収縮は、PbTiO3の熱膨張係数にしたがって生じる収縮に比べ、著しく小さい。これは、Siの熱膨張係数がPbTiO3のそれに比べ著しく小さいからである。このため、冷却後、PbTiO3薄膜には引っ張り応力が生じている。
【0019】
このように、Si基板上に形成されたPbTiO3薄膜には面内に二次元の引っ張り応力が生じているため、図1からわかるように、自発分極値がバルクの単結晶よりも小さくなってしまう。なお、実際には、この引っ張り応力を緩和するために、PbTiO3薄膜は(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在したドメイン構造の膜となってしまい、これによって自発分極が低下することになる。
【0020】
本発明では、PbTiO3などの強誘電体について、Si単結晶基板上において膜状化したときの自発分極低下を抑えることを目的とする。このためには、例えばPbTiO3薄膜では、(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在したドメイン構造の膜となることを防ぎ、単一ドメインの薄膜とする必要がある。そして、リークを防ぐために強誘電体薄膜を厚くした場合でも、単一ドメイン構造が維持されるようにする必要がある。
【0021】
以下、本発明において、強誘電体薄膜構成材料としてPbTiO3を用い、導電性中間薄膜構成材料としてペロブスカイト構造の導電性酸化物であるSrRuO3を用い、バッファ薄膜構成材料としてPtを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0022】
まず、Si(100)単結晶上にPt薄膜をエピタキシャル成長させたSi(100)/Pt(001)積層構造体を基板とし、この上にPbTiO3(001)薄膜をエピタキシャル成長させる場合について考える。PbTiO3薄膜形成時の基板温度を600℃とすると、600℃におけるa軸の格子定数は、Ptバルク体が0.3942nm、PbTiO3バルク体が0.3968nmであるから、両者間にはミスフィットと呼ばれる格子定数差が存在する。
【0023】
基板とエピタキシャル成長薄膜との間にミスフィットが存在する場合の薄膜結晶格子の一般的な変形パターンについて、図2を用いて説明する。図2において、(a)は、基板と薄膜とが独立した系となっている場合を示し、(b)は、薄膜が弾性歪みでミスフィットを吸収する場合を示し、(c)は、転位によってミスフィットを吸収する場合を示す。(b)では薄膜の結晶格子がc軸方向で伸び、a軸およびb軸方向では収縮している。すなわち、この状態では、薄膜の結晶格子に二次元の圧縮応力が生じている。(b)の状態は、膜が薄い場合に生じる。(c)に示すように転位によりミスフィットが完全に吸収されれば、(a)に示す状態と同じ格子定数を有する無応力の薄膜となる。(c)の状態は、膜が厚い場合に生じる。
【0024】
このように、Si/Ptを基板として成膜温度600℃でPbTiO3薄膜を形成すると、成膜温度に保持した状態ではPbTiO3薄膜は二次元圧縮応力が存在するか、無応力状態である。しかし、前述したように、成膜温度から室温まで冷却する過程で、SiとPbTiO3との熱膨張係数の大きな差に起因して、PbTiO3薄膜には二次元の引っ張り応力を生じさせる力が働く。このため、成膜温度において図2(c)に示されるような無応力状態であると、室温では引っ張り応力が生じてしまい、自発分極が小さくなってしまう。一方、成膜温度において図2(b)に示されるような圧縮応力が生じている状態であると、冷却に伴う引っ張り応力の発生をキャンセルすることができる。
【0025】
そこで本発明では、Si単結晶基板の熱膨張係数の小ささを考慮して、成膜温度におけるバッファ薄膜と強誘電体薄膜との間の格子定数のミスフィットが適当となるように両者の組み合わせを選択し、さらに積層構造を形成する。これにより、強誘電体薄膜の圧縮応力を、冷却の際のSi単結晶基板の影響をキャンセルできるような適当な値とすることができ、Si基板上において室温で実質的に無応力状態の強誘電体薄膜、または室温で圧縮応力が生じている強誘電体薄膜を実現できる。このため本発明によれば、PbTiO3薄膜を、ドメイン構造をもたない(001)配向エピタキシャル膜としてSi単結晶基板上に形成することが可能となる。
【0026】
しかしながら、膜を厚く形成した場合には転位が生じやすく、このためミスフィットによる圧縮応力が緩和されやすい。MgO基板を用いた場合、成膜温度で多少の転位が生じてミスフィットによる圧縮応力が緩和されたとしても、冷却中に生じる引っ張り応力が小さいので、室温まで冷却したときに大きな引っ張り応力が存在することはない。このため、MgO基板を用いた場合には、強誘電体薄膜が厚く転位が生じやすい条件でも、最終的に大きな引っ張り応力が生じることはない。これに対しSi基板を用いる場合には、冷却時に基板の収縮により生じる引っ張り応力が大きい。したがって、成膜時に大きな圧縮応力が生じていなければならない。このため、強誘電体薄膜を薄くして、転位の発生によるミスフィット緩和を防ぐ必要がある。
【0027】
ところが、強誘電体薄膜が薄い(50nm以下、特に30nm以下)と、リーク電流の増大により強誘電体特性を得ることが難しい。
【0028】
そこで本発明では、さらにこの図2(b)の状態のPbTiO3薄膜上に、SrRuO3薄膜を介してさらにPbTiO3薄膜を積層し、このような積層を繰り返すことで、全体として強誘電体特性をもつ比較的厚い積層薄膜とする。この構造とすることにより、積層薄膜中の各強誘電体薄膜に転位を発生させずに応力の制御が可能となり、かつリークの発生を防ぐことができる。PbTiO3が、(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在したドメイン構造になることは、結晶格子の集合体の連続変位に起因すると考えられる。SrRuO3等の導電性中間薄膜は、PbTiO3薄膜の間に位置して、PbTiO3の格子の連続性を断つ役割をはたすと考えられる。格子の連続性を断たれた結晶は(001)配向結晶と(100)配向結晶とに分かれず、この結果、積層薄膜中のすべてのPbTiO3薄膜において(001)配向の単一ドメイン構造が保たれると考えられる。
【0029】
後述するように、強誘電体薄膜と常誘電体薄膜とを交互に積層した積層薄膜は、既に知られている。しかし、このような積層薄膜では、強誘電体薄膜/常誘電体薄膜積層構造が直列コンデンサとなっている。したがって、この積層薄膜の強誘電性は、両薄膜の直列合成になり、得られるD−Eヒステリシス特性は、強誘電体単独からなる薄膜に比べ劣ったもの(残留分極が小さく、抗電界が高い)となり、特に、強誘電体薄膜と常誘電体薄膜とが同じ厚さである場合には、強誘電性はかなり劣ったものとなる。これに対し、強誘電体薄膜と導電性中間薄膜とを交互に積層した本発明の積層薄膜では、上記した直列コンデンサ構造による強誘電性の劣化を避けることができる。すなわち、強誘電体薄膜を導電性中間薄膜で挟んだ構造とすることにより、電圧はすべて強誘電体薄膜に加わることになるので、強誘電体薄膜の特性を十分に引き出すことが可能になる。
【0030】
本発明において、導電性中間薄膜構成材料として、a軸の格子定数が強誘電体薄膜構成材料のそれよりも小さなものを用いれば、積層薄膜の強誘電性をさらに向上させることができる。SrRuO3は、本来、GdFeO3型の結晶であり、その格子定数はa=0.553nm、b=0.557nm、c=0.785nmである。しかし、薄膜化や応力、あるいは他の効果により、格子が疑似ペロブスカイト(pseudo-cubicペロブスカイト)構造になる。したがって、本発明において導電性中間薄膜に用いる場合には、疑似ペロブスカイト構造となる。この疑似ペロブスカイト構造のa軸の格子定数apcは、600℃において0.395nmである。一方、PbTiO3バルク体のa軸の格子定数は600℃において0.3968nmなので、成膜時にPbTiO3薄膜とSrRuO3薄膜との間には格子定数のミスフィットが存在する。このため、積層薄膜中においてPbTiO3薄膜には圧縮応力が加わり、応力の緩和をより有効に防止することができる。なお、圧縮応力による強誘電性の改善は、Si単結晶基板を用いた場合に最も著しいが、MgO単結晶基板やSrTiO3単結晶基板などを用いた場合にも認められる。
【0031】
以上のように本発明では、ペロブスカイト構造の強誘電体薄膜を含む積層薄膜を、Si単結晶基板上にエピタキシャル膜として形成することができ、強誘電体薄膜を(001)配向の単一ドメイン膜とすることができる。したがって、デバイスに応用する際に極めて重要なSi単結晶基板を用いて、その上に自発分極の極めて大きな強誘電体を形成することが可能となる。
【0032】
ところで、強誘電体薄膜を含む積層薄膜は、例えば以下のものが知られている。
【0033】
特開平2−232974号公報には、PbTiO3、PZT(PbTiO3/PbZrO3)またはPLZT(La/PbTiO3/PbZrO3)薄膜と、MgAl24薄膜とを積層したヘテロ超格子構造が記載されている。同公報には、導電性薄膜を積層する旨の記載はない。また、同公報には、超格子の周期はなるべく小さく、例えば3nm−3nmとすることが好ましい旨の記載がある。すなわち、同公報では、両薄膜の厚さが等しい超格子構造にしか注目していない。同公報記載のヘテロ超格子構造では、導電性薄膜を用いない上に両薄膜の厚さが等しいため、残留分極が小さく抗電界が高くなり、良好な強誘電性が得られない。
【0034】
特開平4−62715号公報には、少なくとも2種類の誘電体を用いた薄膜を積層した多層構造を具備する薄膜誘電体材料が記載されている。同公報にも、導電性薄膜を積層する旨の記載はなく、また、異なる厚さの薄膜を積層する旨の記載もない。同公報の実施例では、Si基板の表面に、厚さ1.2±0.2μmのAl電極層を形成し、この上に、BaTiO3結晶膜とPb(Zr,Ti)O3結晶膜とをそれぞれ3nmで20層交互に積層した多層誘電体膜を形成している。この実施例ではAl電極層を介してSi基板上に多層誘電体膜を形成しているため、多層誘電体膜をエピタキシャル成長膜とすることはできない。このため、大きな残留分極値は得られない。
【0035】
特開平6−236826号公報には、PLZT等のペロブスカイト型酸化物の強誘電体薄膜を含む複数の薄膜を1層ないし10層づつ交互に積層して超格子構造とした薄膜状絶縁膜が記載されている。同公報では、Ta25等の絶縁性が極めて高い材料1〜2分子層からなる薄膜と、他の強誘電体薄膜とによって超格子構造を作ることにより、絶縁性が高くかつ高い誘電率を持つ超格子構造薄膜絶縁膜を実現したとしている。同公報には導電性薄膜を積層する旨の記載はない。また、同公報に記載された薄膜状絶縁膜では、Ta25、SiO2、Si34等の絶縁膜を介してペロブスカイト型酸化物を積層するため、ペロブスカイト型酸化物は(001)単一配向膜とならず、良好な強誘電性は得られない。
【0036】
特開平7−38004号公報には、少なくとも強誘電体膜を有する強誘電体メモリ素子であって、前記強誘電体膜が複数の強誘電体薄膜からなる積層構造であり、それぞれの強誘電体薄膜の残留分極−抗電界ヒステリシスが異なることを特徴とする強誘電体メモリ素子が記載されている。同公報には、導電性薄膜を積層する旨の記載はない。同公報の実施例では、Si基板の表面に厚さ200nmの熱酸化膜を形成し、この上に厚さ30nmのTi膜および厚さ200nmのPt膜を順次形成し、さらに、厚さ0.07μmのPLZT膜と厚さ0.13μmのPZT膜とを積層している。PZT膜およびPLZT膜は、いずれもゾルゲル法により形成した後、赤外線ランプを用いたアニーリング装置により結晶化したものである。同公報では、特性の異なる2種の強誘電体薄膜をそれぞれ1層づつ合計で2層積層することにしか注目していない。また、強誘電体薄膜をゾルゲル法により形成した後、結晶化する方法では(001)単一配向のエピタキシャル膜とすることはできない。
【0037】
特開平7−82097号公報には、異なる強誘電体を少なくとも2種類積層したことを特徴とする超格子構造を有する強誘電体薄膜が記載されている。同公報には、格子定数差により、薄膜表面の面内方向に格子歪による圧力を発生させることが可能である旨の記載があり、この点では本発明と類似する。しかし、同公報には、導電性薄膜を積層する旨の記載はない。同公報の実施例では、Nbドープした単結晶SrTiO3基板上に、SrTiO3薄膜とBaTiO3薄膜とを交互に積層しており、両薄膜の厚さは同一である。同公報には、Si基板を用いる旨の記載はなく、当然、強誘電体薄膜の格子定数に及ぼすSi基板の影響についての記載もない。同公報記載の発明では誘電率向上を目的としており、同公報では自発分極向上については触れられていない。
【0038】
特開平7−106658号公報には、異なる物性を有する2種類の薄膜を交互に積層してなる薄膜材料であって、前記2種類の薄膜のうち一方が強誘電体であり、他方が常誘電体である薄膜材料が記載されている。同公報の請求項9には、強誘電体を形成する材料の格子定数を常誘電体を形成する材料の格子定数よりも大きくする旨が記載されており、これは本発明と類似する。しかし、同公報には導電性薄膜を積層する旨の記載はない。同公報の実施例3では、Pt/Si基板上に、強誘電体薄膜(PbTiO3:格子定数約0.39nm)と常誘電体薄膜(YAlO3:格子定数約0.37nm)とを交互に積層して多層膜化している。この実施例では、常誘電体薄膜の厚さを10nmに固定し、強誘電体薄膜の厚さを0.8〜100nmの範囲で変えている。そして、強誘電体薄膜の厚さを1.6nm以下とした場合に、自発分極の向上がみられる。しかし、厚さ1.6nm以下の強誘電体薄膜と厚さ10nmの常誘電体薄膜との積層体では、強誘電体薄膜が相対的に薄すぎるため、優れた強誘電性を得ることはできない。
【0039】
特開平7−176803号公報には、ペロブスカイト型強誘電体薄膜と、ペロブスカイト型反強誘電体薄膜との積層構造を有する誘電体薄膜構造物が記載されている。同公報には、導電性薄膜を積層する旨の記載はない。同公報の実施例1では、Si上にPtを蒸着した基板を用い、この上にペロブスカイト型強誘電体薄膜(PbTiO3)とペロブスカイト型反強誘電体薄膜(PbZrO3)とを、1層あたりの膜厚を5nmとして20層積層することにより、高誘電率を得たとしている。しかし、この実施例の誘電体薄膜構造物では、強誘電体薄膜の厚さが反強誘電体薄膜と同じであるため、優れた強誘電性は得られない。
【0040】
PHYSICAL REVIEW LETTERS 77,1628(1996)には、SrTiO3単結晶基板上に、強誘電体(PbTiO3)薄膜と常誘電体(Pb0.72La0.283)薄膜とを交互に積層して強誘電体ヘテロ構造を形成した旨の報告がある。両薄膜の厚さは同一であって、10nm、40nmまたは200nmであるため、優れた強誘電性は得られない。なお、同報告には、導電性薄膜を積層する旨の記載はない。また、同報告では、自発分極についても触れられていない。
【0041】
Appl.Phys.Lett.68(3),15,328(1996)には、上記特開平7−176803号公報の実施例1と同様に、同じ厚さのPbTiO3薄膜とPbZrO3薄膜とを交互に積層した旨の報告がある。1層あたりの膜厚は5〜100nmから選択され、合計厚さは200nmである。この報告においても、上記特開平7−176803号公報と同様に両薄膜の厚さが同じであるため、優れた強誘電性は得られない。
【0042】
このように、従来、強誘電体薄膜を含む積層薄膜は知られているが、本発明の積層薄膜と同じ構成のものはない。また、従来の積層薄膜は誘電率の向上を目指すものがほとんどであり、強誘電体メモリーに適用することを目的として自発分極値の向上を目指すものはほとんどない。
【0043】
従来知られているMgO単結晶基板と強誘電体薄膜との組み合わせでは、両者の間の熱膨張係数の差がSi単結晶基板を用いる場合に比べ著しく小さい。このため、成膜温度からの冷却過程における基板と強誘電体薄膜との収縮率の違いによる引っ張り応力の発生や、(100)配向と(001)配向とが混在しているドメイン構造の発生などは基本的に生じない。本発明はMgO単結晶基板上の強誘電体薄膜の応力を制御する従来の技術とは異なり、Si単結晶基板上に、比較的厚い強誘電性膜、特に、PbTiO3を含む比較的厚い強誘電性膜を、単一ドメインのエピタキシャル膜として形成することを可能としたものであり、強誘電性の著しい向上とリークの減少との両立という従来なし得なかった効果を実現するものである。ただし、本発明においてMgO等のSi以外の単結晶基板を用いた場合でも、リークの減少は実現し、強誘電性の向上も可能である。
【0044】
本発明により得られる自発分極値が大きくリークの少ない積層薄膜は、不揮発性メモリー、赤外線センサー、光変調器、光スイッチOEIC、分極反転を利用する記録媒体などの各種分野において、優れた特性を発揮する。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0046】
積層薄膜
本発明の積層薄膜は、Si単結晶等からなる基板上に形成されており、導電性中間薄膜と、この導電性中間薄膜を介して積層された強誘電体薄膜とから構成される。強誘電体薄膜および導電性中間薄膜は、エピタキシャル膜である。
【0047】
なお、導電性中間薄膜の比抵抗は、1×103Ωcm以下、好ましくは10-7〜103Ωcm、より好ましくは10-7〜10-2Ωcmとする。
【0048】
強誘電体薄膜には、組成の異なる2種以上の薄膜を用いてもよい。また、導電性中間薄膜にも、組成の異なる2種以上の薄膜を用いてもよい。
【0049】
積層薄膜中における強誘電体薄膜の数が2以上であれば、積層による効果が認められる。積層薄膜の全厚は、通常の強誘電体膜と同様に100nm〜1μm程度とすればよく、全厚がこのような範囲となるように積層数を決定すればよいが、通常、500以下とする。
【0050】
積層薄膜を形成する際には、まず、強誘電体薄膜を形成し、次いで、導電性中間薄膜を形成し、これを繰り返して、最後に強誘電体薄膜を形成することが好ましい。最初に強誘電体薄膜を形成するのは、後述するように下地のバッファ薄膜材料との間の結晶格子のミスフィットを利用して、応力制御を効果的に行うためである。
【0051】
強誘電体薄膜の厚さ
強誘電体薄膜の厚さは、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下で、かつ好ましくは2nm以上、より好ましくは4nm以上、さらに好ましくは6nm以上、特に好ましくは8nm以上である。強誘電体薄膜形成後に室温まで冷却したときに、例えばSi基板上に形成した場合には基板と強誘電体薄膜との熱膨張係数の違いから、強誘電体薄膜には強い引っ張り応力が残留する。この応力を緩和するために強誘電体薄膜は(100)配向結晶と(001)配向結晶とが混ざったドメイン構造になってしまう。引っ張りを減少させるためには、強誘電体薄膜形成時に膜面内において圧縮応力が生じていなければならない。この圧縮応力は、バッファ薄膜との間の結晶格子のミスフィットを膜の弾性歪みで吸収することにより生じさせることができる。強誘電体薄膜が厚すぎると、エピタキシャル成長時にミスフィットを弾性歪みで吸収できず、転位による歪み吸収が行われるようになり、膜面内の二次元圧縮応力を効果的に生じさせることができなくなる。圧縮応力を生じさせるためには強誘電体薄膜が薄いほどよいが、強誘電性は結晶格子の骨格と原子の配置とに依存して発現するため、厚さは最低でも2nm(約5格子分)、好ましくは5nmは必要と考えられる。また、MgO等の他の基板を用いた場合でも、バッファ薄膜との間の結晶格子のミスフィットにより強誘電体薄膜に圧縮応力を生じさせれば、強誘電性を向上させることができる。
【0052】
導電性中間薄膜の厚さ
導電性中間薄膜の厚さは、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下である。導電性中間薄膜が厚すぎると、膜の面内方向の抵抗が低くなりすぎ、膜全面がほぼ同電位となってしまうので、用途によっては好ましくない。例えば、分極反転を利用する記録媒体に適用する場合には、導電性プローブにより積層薄膜の一部にだけ電圧を印加する必要があるが、導電性中間薄膜全面がほぼ同電位であると、一部にだけ電圧を印加することが難しくなる。ただし、キャパシタとして用いる場合には、通常、積層薄膜をセルに分割するので、このような問題は生じない。また、結晶格子のミスフィットを利用して導電性中間薄膜により強誘電体薄膜に圧縮応力を生じさせる構成とする場合、導電性中間薄膜が厚すぎると、導電性中間薄膜が転位により自身の引っ張り応力を吸収してしまうので、強誘電体薄膜に圧縮応力を生じさせることが困難になる。
【0053】
導電性中間薄膜は、強誘電体薄膜間に位置し、強誘電体格子の連続性を断つ役割を果たす。したがって、その厚さは構成元素の1原子層以上あることが必要で、一般に0.3nm以上であることが好ましい。
【0054】
強誘電体薄膜構成材料
強誘電体薄膜は、ペロブスカイト型材料から構成される。ペロブスカイト型材料としては、例えば以下のものが好適である。
【0055】
BaTiO3;PbTiO3、希土類元素含有チタン酸鉛、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等の鉛系ペロブスカイト化合物;Bi系ペロブスカイト化合物など。以上のような単純、複合、層状の各種ペロブスカイト化合物。
【0056】
ペロブスカイト型材料のうち、BaTiO3や、PbTiO3等の鉛系ペロブスカイト化合物などは、一般に化学式ABO3で表される。ここで、AおよびBは各々陽イオンを表す。AはCa、Ba、Sr、Pb、K、Na、Li、LaおよびCdから選ばれた1種以上であることが好ましく、BはTi、Zr、TaおよびNbから選ばれた1種以上であることが好ましい。本発明では、これらのうちから、使用温度において強誘電性を示すものを選択すればよい。
【0057】
こうしたペロブスカイト型化合物における比率A/Bは、好ましくは0.8〜1.3であり、より好ましくは0.9〜1.2である。
【0058】
A/Bをこのような範囲にすることによって、誘電体の絶縁性を確保することができ、また結晶性を改善することが可能になるため、誘電体特性または強誘電特性を改善することができる。これに対し、A/Bが0.8未満では結晶性の改善効果が望めなくなり、またA/Bが1.3を超えると均質な薄膜の形成が困難になってしまう。このようなA/Bは、成膜条件を制御することによって実現する。
【0059】
なお、本明細書では、PbTiO3などのようにABOxにおけるOの比率xをすべて3として表示してあるが、xは3に限定されるものではない。ペロブスカイト材料によっては、酸素欠陥または酸素過剰で安定したペロブスカイト構造を組むものがあるので、ABOXにおいて、xの値は、通常、2.7〜3.3程度である。なお、A/Bは、蛍光X線分析法から求めることができる。
【0060】
本発明で用いるABO3型のペロブスカイト化合物としては、A1+5+3、A2+4+3、A3+3+3、AXBO3、A(B′0.67B″0.33)O3、A(B′0.33B″0.67)O3、A(B0.5 +30.5 +5)O3、A(B0.5 2+0.5 6+)O3、A(B0.5 1+0.5 7+)O3、A3+(B0.5 2+0.5 4+)O3、A(B0.25 1+0.75 5+)O3、A(B0.5 3+0.5 4+)O2.75、A(B0.5 2+0.5 5+)O2.75等のいずれであってもよい。
【0061】
具体的には、PZT、PLZT等のPb系ペロブスカイト化合物、CaTiO3、BaTiO3、PbTiO3、KTaO3、BiFeO3、NaTaO3、SrTiO3、CdTiO3、KNbO3、LiNbO3、LiTaO3、およびこれらの固溶体等である。
【0062】
なお、上記PZTは、PbZrO3−PbTiO3系の固溶体である。また、上記PLZTは、PZTにLaがドープされた化合物であり、ABO3の表記に従えば、(Pb0.890.91La0.110.09)(Zr0.65Ti0.35)O3で示される。
【0063】
また、層状ペロブスカイト化合物のうちBi系層状化合物は、一般に
式 Bi2m-1m3m+3
で表わされる。上記式において、mは1〜5の整数、Aは、Bi、Ca、Sr、Ba、Pbおよび希土類元素(ScおよびYを含む)のいずれかであり、Bは、Ti、TaおよびNbのいずれかである。具体的には、Bi4Ti312、SrBi2Ta29、SrBi2Nb29などが挙げられる。本発明では、これらの化合物のいずれを用いてもよく、これらの固溶体を用いてもよい。
【0064】
本発明に用いることが好ましいペロブスカイト型化合物は、チタン酸塩ないしチタン酸塩含有ペロブスカイト型化合物、例えばBaTiO3、SrTiO3、PLZT、PZT、CaTiO3、PbTiO3(チタン酸鉛)、希土類元素含有チタン酸鉛等であり、より好ましいものはBaTiO3、SrTiO3、PZT、PbTiO3、希土類元素含有チタン酸鉛である。
【0065】
これらのうち特に好ましいものは、PbTiO3、またはR(Rは、Pr、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb、Y、Sm、Gd、ErおよびLaから選択された少なくとも1種の希土類元素)、Pb、TiならびにOを含有する希土類元素含有チタン酸鉛であり、最も好ましいものはPbTiO3である。PbTiO3は、自発分極、誘電率、キュリー温度の点でメモリに好適である。本発明では、従来は不可能であったPbTiO3のエピタキシャル膜化を実現できる。エピタキシャル膜化により、単一配向ではない従来のPbTiO3薄膜で問題であったリークや、分極反転による疲労特性の悪さが改善でき、PbTiO3本来の高特性を利用できる。
【0066】
希土類元素含有チタン酸鉛としては、原子比率が
(Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、
Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99
の範囲、好ましくは
(Pb+R)/Ti=0.9〜1.2、
Pb/(Pb+R)=0.7〜0.97
の範囲にある組成のものを用いることが好ましい。この組成の希土類元素含有チタン酸鉛は、特願平8−186625号に開示されている。希土類元素を上記比率でPbTiO3に添加することにより、Ecを低下させることができ、しかも、それに伴なう残留分極値Prの減少を抑えることが可能となる。また、上記組成では、半導体化を生じさせにくい希土類元素を添加するので、リークのより少ない強誘電体薄膜が実現する。また、本発明者らは、添加する希土類元素の種類と量とが、分極反転の疲労特性に影響していることをつきとめた。上記組成では、希土類元素の種類と量とを最適なものとしてあるので、繰り返し特性に優れた強誘電体薄膜が実現する。
【0067】
希土類元素含有チタン酸鉛において、Rは、PbTiO3材で構成される基本ペロブスカイトのAサイトに位置するPbと置換し、結晶を変形させる。PbTiO3はa軸:0.3897nm、c軸:0.4147nmの正方晶型のペロブスカイト構造であり、c軸方向に分極軸を持つ。この結晶変形は、a軸とc軸との比を減少させるのでわずかに自発分極を減少させるが、分極反転に必要とされる電圧(Ec)を低下させることができる。一方、R以外の希土類元素、例えばCeでは、PbTiO3のBサイトに位置する元素と置換するので、結晶の変形が効果的に行えず自発分極が極端に低下するため、デバイス応用に好ましくない。
【0068】
希土類元素含有チタン酸鉛において、(Pb+R)/Tiが小さすぎると結晶性の改善効果が望めなくなり、(Pb+R)/Tiが大きすぎると均質な薄膜の形成が困難になってしまう。また、(Pb+R)/Tiを上記範囲とすることにより、良好な誘電特性が得られる。Pb/(Pb+R)が小さすぎると、自発分極が小さくなってしまうと同時に誘電率も1000以上と大きくなってしまう。一方、Pb/(Pb+R)が大きすぎると、希土類元素の添加効果、すなわちEcの低下効果が不十分となる。Pb/(Pb+R)を上記範囲とすることは、強誘電体薄膜の形成条件を後述するように制御することによって容易に実現できる。Pb、TiおよびRの含有率は、蛍光X線分析法により求めることができる。
【0069】
チタン酸鉛は、一般にPb:Ti:O=1:1:3であるが、本発明では添加するRの種類および量によって酸素の比率は異なり、通常、2.7〜3.3程度である。
【0070】
なお、希土類元素含有チタン酸鉛では、Tiの60原子%以下がZr、Nb、Ta、HfおよびCeの少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0071】
導電性中間薄膜構成材料
導電性中間薄膜を構成する材料としては、金属や導電性酸化物などを用いることができる。ただし、金属の薄い膜を蒸着法により形成する場合、島状に成長しやすいので、好ましくは導電性酸化物を用いる。
【0072】
導電性中間薄膜構成材料の結晶格子のa軸長(疑似ペロブスカイト構造のa軸長も含む)は、強誘電体薄膜構成材料の結晶格子のa軸長よりも短いことが好ましい。これにより、強誘電体薄膜に圧縮応力を生じさせることができる。
【0073】
導電性中間薄膜に用いる金属としては、Au、Pt、Ir、Os、Re、Pd、RhおよびRuの少なくとも1種を含有する金属単体または合金が好ましい。金属以外の導電性材料としては、導電性酸化物が好ましく、特に、以下の導電性酸化物を含む材料が好ましい。
【0074】
NaCl型酸化物:TiO,VO,NbO,RO1-x(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)、0≦x<1),LiVO2等。
【0075】
スピネル型酸化物:LiTi2O4,LiMxTi2-xO4(ここで、M=Li,Al,Cr,0<x<2),Li1-xMxTi2O4(ここで、M=Mg,Mn,0<x<1),LiV2O4,Fe3O4,等。
【0076】
ペロブスカイト型酸化物:ReO3,WO3,MxReO3(ここで、M金属,0<x<0.5),MxWO3(ここで、M=金属,0<x<0.5),A2P8W32O112(ここで、A=K,Rb,Tl),NaxTayW1-yO3(ここで、0≦x<1,0<y<1),RNbO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),Na1-xSrxNbO3(ここで、0≦x≦1),RTiO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),Can+1TinO3n+1-y(ここで、n=2,3,...,y>0),CaVO3,SrVO3,R1-xSrxVO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)、0≦x≦1),R1-xBaxVO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)、0≦x≦1),Srn+1VnO3n+1-y(ここで、n=1,2,3....,y>0),Ban+1VnO3n+1-y(ここで、n=1,2,3....,y>0),R4BaCu5O13-y(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)、0≦y),R5SrCu6O15(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),R2SrCu2O6.2(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),R1-xSrxVO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),CaCrO3,SrCrO3,RMnO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),R1-xSrxMnO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦x≦1),R1-xBaxMnO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦x≦1),Ca1-xRxMnO3-y(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦x≦1,0≦y),CaFeO3,SrFeO3,BaFeO3,SrCoO3,BaCoO3,RCoO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),R1-xSrxCoO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦x≦1),R1-xBaxCoO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦x≦1),RNiO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),RCuO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),RNbO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),Nb12O29,CaRuO3,Ca1-xRxRu1-yMnyO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦x≦1,0≦y≦1),SrRuO3,Ca1-xMgxRuO3(ここで、0≦x≦1), Ca1-xSrxRuO3(ここで、0<x<1),BaRuO3,Ca1-xBaxRuO3(ここで、0<x<1),(Ba,Sr)RuO3,Ba1-xKxRuO3(ここで、0<x≦1),(R,Na)RuO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),(R,M)RhO3(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),M=Ca,Sr,Ba),SrIrO3,BaPbO3,(Ba,Sr)PbO3-y(ここで、0≦y<1),BaPb1-xBixO3(ここで、0<x≦1),Ba1-xKxBiO3(ここで、0<x≦1),Sr(Pb,Sb)O3-y(ここで、0≦y<1),Sr(Pb,Bi)O3-y(ここで、0≦y<1),Ba(Pb,Sb)O3-y(ここで、0≦y<1),Ba(Pb,Bi)O3-y(ここで、0≦y<1),MMoO3(ここで、M=Ca,Sr,Ba),(Ba,Ca,Sr)TiO3-x(ここで、0≦x),等。
【0077】
層状ペロブスカイト型酸化物(K2NiF4型を含む):Rn+1NinO3n+1(ここで、R:Ba,Sr,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,n=1〜5の整数),Rn+1CunO3n+1(ここで、R:Ba,Sr,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,n=1〜5の整数),Sr2RuO4,Sr2RhO4,Ba2RuO4,Ba2RhO4,等。
【0078】
パイロクロア型酸化物:R2V2O7-y(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦y<1),Tl2Mn2O7-y(ここで、0≦y<1),R2Mo2O7-y(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む),0≦y<1),R2Ru2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1),Bi2-xPbxPt2-xRuxO7-y(ここで、0≦x≦2,0≦y<1),Pb2(Ru,Pb)O7-y(ここで、0≦y<1),R2Rh2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,Cd,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1),R2Pd2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,Cd,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1),R2Re2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,Cd,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1),R2Os2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,Cd,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1),R2Ir2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,Cd,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1),R2Pt2O7-y(ここで、R:Tl,Pb,Bi,Cd,希土類(ScおよびYを含む)のうち一種類以上,0≦y<1)等。
【0079】
その他の酸化物:R4Re6O19(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),R4Ru6O19(ここで、R:一種類以上の希土類(ScおよびYを含む)),Bi3Ru3O1 1,V2O3,Ti2O3,Rh2O3,VO2,CrO2,NbO2,MoO2,WO2,ReO2,RuO2,RhO2,OsO2,IrO2,PtO2,PdO2,V3O5,VnO2n-1(n=4から9の整数),SnO2-x(ここで、0≦x<1),La2Mo2O7,(M,Mo)O(ここで、M=Na,K,Rb,Tl),MonO3n-1(n=4,8,9,10),Mo17O47,Pd1-xLixO(ここで、x≦0.1)等。Inを含む酸化物。
【0080】
これらのうちでは導電性ペロブスカイト酸化物が好ましく、特に、Ruを含有するもの、具体的にはRCoO3、RMnO3、RNiO3、R2CuO4、(R,Sr)CoO3、(R,Sr,Ca)RuO3、(R,Sr)RuO3、SrRuO3、(R,Sr)MnO3(Rは、YおよびScを含む希土類)、PbとRuとを含む酸化物、およびそれらの関連化合物が好ましい。
【0081】
結晶配向
強誘電体薄膜と導電性中間薄膜とからなる積層薄膜は、Si(100)基板の表面に形成することが好ましい。この場合の積層薄膜とSi基板との好ましい結晶軸方位関係は、以下の通りである。なお、Siは立方晶である。積層薄膜が(001)単一配向である場合、積層薄膜[100]//Si[010]であり、当然のことではあるが、強誘電体薄膜[100]//Si[010]かつ導電性中間薄膜[100]//Si[010]であることが好ましい。すなわち、強誘電体薄膜とSi基板および導電性中間薄膜とSi基板とは、面内に存在する軸同士も平行であることが好ましい。
【0082】
なお、上記説明における結晶配向は、導電性中間薄膜が正方晶(疑似ペロブスカイト構造を含む)である場合であるが、導電性中間薄膜が立方晶である場合でも、軸同士が平行であるという点では同様である。
【0083】
本発明の積層薄膜は、エピタキシャル膜である。すなわち、強誘電体薄膜および導電性中間薄膜は、いずれもエピタキシャル膜である。本明細書においてエピタキシャル膜とは、第一に、単一配向膜である必要がある。この場合の単一配向膜とは、X線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外のものの反射のピーク強度が目的とする面(多層膜であるので、ラウエ反射のサテライトピークも含む)の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である膜である。例えば、(001)単一配向膜、すなわちc面単一配向膜では、膜の2θ−θX線回折で(00L)面以外の反射ピークの強度が、(00L)面反射の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。なお、本明細書において(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。第二に、膜面内をX−Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸、Y軸およびZ軸方向にともに揃って配向している必要がある。このような配向は、RHEED評価でスポットまたはストリークパターンを示すことで確認できる。これらの条件を満足すれば、エピタキシャル膜といえる。なお、RHEEDとは、反射高速電子線回折(Reflction High Energy Electron Diffraction)であり、RHEED評価は、膜面内における結晶軸の配向の指標である。
【0084】
本発明では、強誘電体薄膜はペロブスカイト構造の(001)配向エピタキシャル膜、すなわち単一ドメイン膜である。一方、導電性中間薄膜は、一般に(001)配向のエピタキシャル膜、立方晶の場合には(100)配向のエピタキシャル膜である。
【0085】
バッファ薄膜
積層薄膜と基板との間には、以下に説明する酸化物中間層および/または電極層をバッファ薄膜として設けることが好ましい。バッファ薄膜とは、上述したように、強誘電体薄膜の応力制御のために基板と強誘電体薄膜との間に設けられる薄膜である。なお、酸化物中間層は、絶縁体としても機能する。
【0086】
酸化物中間層は、下記酸化ジルコニウム系層からなるか、さらに下記希土類酸化物系層または下記ペロブスカイト下地層を含むか、下記希土類酸化物系層および下記ペロブスカイト下地層の両方を含むことが好ましい。積層順序は、
酸化ジルコニウム系層→積層薄膜
であるか、
酸化ジルコニウム系層→希土類酸化物系層→積層薄膜
であるか、
酸化ジルコニウム系層→ペロブスカイト下地層→積層薄膜
であるか、
酸化ジルコニウム系層→希土類酸化物系層→ペロブスカイト下地層→積層薄膜である。
【0087】
バッファ薄膜としての電極層は、基板と積層薄膜との間に設けられる。上記した酸化物中間層を設ける場合には、電極層は酸化物中間層と積層薄膜との間に設けられる。
【0088】
バッファ薄膜としての電極層は、金属から構成されることが好ましいが、金属以外の導電性材料で構成されていてもよい。電極層は、積層薄膜の下側の電極として機能する。また、電極層は、積層薄膜との間の格子整合性が良好なので、結晶性の高い積層薄膜が得られる。
【0089】
Si単結晶基板を用いる場合、バッファ薄膜において、Si単結晶基板表面の結晶面に平行な結晶面をZB面とし、このZB面の面内における格子定数をxBとし、積層薄膜中の強誘電体薄膜を構成する材料のバルク状態での前記ZF面の面内における格子定数をxF0としたとき、強誘電体薄膜形成時の温度においてxBおよびxF0は、
式 1.000<mxF0/nxB≦1.050
を満足することが好ましく、
式 1.000<mxF0/nxB≦1.020
を満足することがより好ましく、
式 1.005≦mxF0/nxB≦1.010
を満足することがさらに好ましい。上記式において、nおよびmは1以上の整数である。xF0>xBの場合、m=n=1としたときに上記式を満足することが好ましいが、m<nであってもよい。この場合のmとnとの組み合わせ(m,n)は、例えば(2,3)、(2,5)、(3,4)、(3,5)、(4,5)などが好ましい。一方、xF0<xBのときは、m>nとする必要がある。この場合の(m,n)としては、例えば(3,2)、(5,2)、(4,3)、(5,3)、(5,4)などが好ましい。これら以外の組み合わせでは、強誘電体薄膜のエピタキシャル成長による圧縮応力蓄積が難しくなる。なお、複合ペロブスカイト型化合物を用いた場合の(m,n)も上記と同様であるが、この場合の格子定数xB、xF0には、単純ペロブスカイト構造を基本とした単位格子の格子定数を用いる。なお、複合ペロブスカイト型化合物自体の格子定数は、その単位格子の整数倍(通常、最大5倍程度)である。また、例えば前述したSrRuO3のように薄膜化したときに疑似ペロブスカイト構造となる化合物では、バルク状態における他の結晶構造の格子定数ではなく、疑似ペロブスカイトの格子定数を用いて上記格子定数比を算出する。
【0090】
このような条件を満足する強誘電体薄膜とバッファ薄膜とを選択することにより、積層薄膜の形成温度において強誘電体薄膜の格子とバッファ薄膜の格子との間のミスフィットを利用して、形成温度で強誘電体薄膜面内に二次元圧縮応力を生じさせることができる。また、強誘電体薄膜の格子と導電性中間薄膜の格子との間のミスフィットを利用することによっても、同様に形成温度で強誘電体薄膜面内に二次元圧縮応力を生じさせることができる。膜形成時に二次元圧縮応力が生じているため、冷却時にSi基板との間の熱膨張率の差により生じる二次元引っ張り応力をキャンセルすることができる。このため、条件を合わせることにより無応力状態の強誘電体薄膜または圧縮応力を有する強誘電体薄膜を得ることが可能となるので、自発分極値の大きな積層薄膜を実現することができる。
【0091】
上記式においてmxF0/nxBが1以下になると、冷却時に生じる引っ張り応力をキャンセルできなくなる。一方、mxF0/nxBが大きすぎると、バッファ薄膜上に強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させることが困難となり、積層薄膜中の強誘電体薄膜に所定の圧縮応力を生じさせることが難しくなる。
【0092】
以下、バッファ薄膜として用いられる酸化物中間層および電極層について詳細に説明する。
【0093】
酸化物中間層
酸化ジルコニウム系層
酸化ジルコニウム系層は、酸化ジルコニウムを主成分とするか、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とする。この層を設けることにより、その上に設けられる電極層や強誘電体薄膜の剥離を防止できる。また、この層は、強誘電体との格子整合性がよいため、結晶性の高い強誘電体薄膜が得られる。
【0094】
酸化ジルコニウムおよび安定化ジルコニアは、Zr1-xx2-δ(RはScおよびYを含む希土類元素である)で表わされる組成のものが好ましい。xおよびδについては、後述する。Rとしては、Y、Pr、Ce、Nd、Gd、Tb、Dy、HoおよびErから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0095】
酸化ジルコニウム系層は、単一の結晶配向を有していることが望ましい。これは、複数の結晶面を有する層においては粒界が存在するため、その上の電極層や強誘電体薄膜のエピタキシャル成長が不可能になるためである。具体的には、(001)配向の電極層や強誘電体薄膜を形成しようとする場合、酸化ジルコニウム系層は、正方晶または単斜晶の(001)単一配向であるか、立方晶の(100)単一配向であることが好ましく、エピタキシャル膜であることがより好ましい。このような良好な結晶性の酸化ジルコニウム系層が形成できれば、粒界による物理量の攪乱等がなくなり、酸化ジルコニウム系層上に良質の電極層や積層薄膜が得られる。
【0096】
Si(100)基板表面に、酸化物中間層(Zr1-xx2-δ)が積層されているとき、これらの結晶方位関係は、Zr1-xx2-δ(001)//Si(100)であることが好ましい。
【0097】
ZrO2 は高温から室温にかけて立方晶→正方晶→単斜晶と相転移を生じる。立方晶を安定化するために希土類元素を添加したものが、安定化ジルコニアである。Zr1-xx2-δ膜の結晶性はxの範囲に依存する。Jpn.J.Appl.Phys.27(8)L1404-L1405(1988)に報告されているように、xが0.2未満である組成域では正方晶または単斜晶の結晶になる。これまで、xが0.2以上の立方晶領域では単一配向のエピタキシャル膜が得られている。ただし、xが0.75を超える領域では、立方晶ではあるが、例えば(100)単一配向は得られず、(111)配向の結晶が混入する。一方、正方晶または単斜晶となる領域では、J.Appl.Phys.58(6)2407-2409(1985)にも述べられているように、得ようとするもの以外の配向面が混入し、単一配向のエピタキシャル膜は得られていない。
【0098】
したがって、立方晶(100)単一配向とするためには、Zr1-x x 2-δにおいてxは0.2〜0.75であることが好ましい。この場合のxのより好ましい範囲は、0.2〜0.50である。酸化ジルコニウム系層がエピタキシャル膜であれば、その上に形成される電極層や強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させやすい。
【0099】
安定化ジルコニアが含む希土類元素は、Si基板の格子定数および酸化ジルコニウム系層上に設けられる層の格子定数と、酸化ジルコニウム系層の格子定数とを好ましくマッチングさせるために、その種類および添加量が選択される。希土類元素の種類を固定したままxを変更すれば格子定数を変えることができるが、xだけの変更ではマッチングの調整可能領域が狭い。ここで、例えばYに替えてPrを用いると、格子定数を大きくすることが可能であり、マッチングの最適化が容易となる。
【0100】
なお、酸素欠陥を含まない酸化ジルコニウムは、化学式ZrO2 で表わされるが、希土類元素を添加した酸化ジルコニウムは、添加した希土類元素の種類、量および価数により酸素の量が変化し、Zr1-x x 2-δにおけるδは、通常、0〜0.5となる。
【0101】
Zr1-x x 2-δにおいてxが0.2未満である領域、特に、酸素を除く構成元素中におけるZrの比率が93mol%を超える高純度の組成域では、上述したように結晶性が良好とはならず、また、良好な表面性も得られていなかった。しかし、本発明者らが検討を重ねた結果、後述する製造方法を適用することにより、上記した単一配向、さらにはエピタキシャル成長が可能となり、表面性も良好な値が得られることがわかった。高純度のZrO2膜は、絶縁抵抗が高くなり、リーク電流が小さくなることから、絶縁特性を必要とする場合には好ましい。
【0102】
したがって、良好な結晶性および表面性が得られる場合には、酸化ジルコニウム系層中の酸素を除く構成元素中におけるZrの比率は、好ましくは93mol%超、より好ましくは95mol%以上、さらに好ましくは98mol%以上、最も好ましくは99.5mol%以上である。酸素およびZrを除く構成元素は、通常、希土類元素やPなどである。なお、Zrの比率の上限は、現在のところ99.99mol%程度である。また、現在の高純度化技術ではZrO2とHfO2との分離は難しいので、ZrO2の純度は、通常、Zr+Hfでの純度を指している。したがって、本明細書におけるZrO2の純度は、HfとZrとを同元素とみなして算出された値であるが、HfO2は本発明における酸化ジルコニウム系層においてZrO2と全く同様に機能するため、問題はない。
【0103】
なお、酸化物中間層を形成する場合、酸化物中間層中の酸素がSi等からなる基板の表面付近に拡散し、基板表面付近が浅く(例えば5nm程度以下)酸化されてSiO2などの酸化層が形成されることがある。また、成膜の方法によっては、酸化物中間層形成時にSi等の基板の表面にSi酸化物層等が残留する場合がある。
【0104】
希土類酸化物系層
希土類酸化物系層は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも1種、特に、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、HoおよびErの少なくとも1種を含有する希土類酸化物から実質的に構成されていることが好ましい。なお、2種以上の希土類元素を用いるとき、その比率は任意である。
【0105】
希土類酸化物系層を(001)配向の酸化ジルコニウム系層の上に形成した積層構造の場合には、希土類酸化物系層は(001)配向となるので、この場合は、ペロブスカイト型材料から構成される積層薄膜の形成に好適である。酸化物中間層として上記した安定化ジルコニアを用いたときには、C−V特性にヒステリシスがみられ、この点においてZrO2高純度膜に劣る。この場合、酸化ジルコニウム系層上に希土類酸化物系層を積層することにより、C−V特性のヒステリシスをなくすことができる。また、希土類酸化物系層を積層することにより、強誘電体薄膜との間での格子整合のマッチングがより良好となる。希土類酸化物系層が積層されている場合、酸化ジルコニウム系層は、元素分布が均一な膜であってもよく、膜厚方向に組成が変化する傾斜構造膜であってもよい。傾斜構造膜とする場合、基板側から希土類酸化物系層側にかけて、酸化ジルコニウム系層中の希土類元素含有率を徐々または段階的に増大させると共に、Zr含有率を徐々または段階的に減少させる。このような傾斜構造膜とすることにより、酸化ジルコニウム系層と希土類酸化物系層との間の格子のミスフィットが小さくなるか、あるいは存在しなくなり、希土類酸化物系層を高結晶性のエピタキシャル膜とすることが容易となる。このような積層構造の場合、希土類酸化物系層に添加する希土類元素は、酸化ジルコニウム系層に添加する希土類元素と同一のものを用いることが好ましい。
【0106】
酸化ジルコニウム系層および希土類酸化物系層には、特性改善のために添加物を導入してもよい。例えば、これらの層にCaやMgなどのアルカリ土類元素をドーピングすると、膜のピンホールが減少し、リークを抑制することができる。また、AlおよびSiは、膜の抵抗率を向上させる効果がある。さらに、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属元素は、膜中において不純物による準位(トラップ準位)を形成することができ、この準位を利用することにより導電性の制御が可能になる。
【0107】
ペロブスカイト下地層
ペロブスカイト下地層は、積層薄膜の説明において述べたABO3型のペロブスカイト型化合物から構成される。ペロブスカイト下地層は、ペロブスカイト型化合物からなる強誘電体薄膜の結晶性を高めるために、必要に応じて設けられる。ペロブスカイト下地層の構成材料は、好ましくはBaTiO3、SrTiO3またはこれらの固溶体であり、より好ましくはBaTiO3である。ペロブスカイト下地層は、酸化ジルコニウム系層や希土類酸化物系層との間の格子整合性が良好であって、かつ強誘電体薄膜構成材料とは異なる化合物から構成される。
【0108】
例えば、前述したPbTiO3薄膜を含む積層薄膜を、酸化ジルコニウム系層または希土類酸化物系層に接して形成する場合、前述した好ましい結晶配向を有するPbTiO3強誘電体薄膜を得ることは難しいが、BaTiO3等からなるペロブスカイト下地層を介して積層薄膜を形成することにより、目的とする結晶配向を実現することができる。
【0109】
また、後述する電極層を、酸化ジルコニウム系層または希土類酸化物系層に接して形成する場合、後述するような正方晶(001)配向または立方晶(100)配向の電極層を得ることは難しいが、BaTiO3等からなるペロブスカイト下地層を介して電極層を形成することにより、目的とする結晶配向を実現することができる。
【0110】
ペロブスカイト下地層は、正方晶であるときは(001)単一配向、すなわち基板表面と平行にc面が単一に配向したものであることが好ましく、立方晶であるときは(100)単一配向、すなわち基板表面と平行にa面が単一に配向したものであることが好ましく、いずれの場合でもエピタキシャル膜であることがより好ましい。
【0111】
そして、酸化ジルコニウム系層とペロブスカイト下地層との結晶方位関係は、ペロブスカイト(001)//Zr1-xx2-δ(001)//Si(100)、かつペロブスカイト[100]//Zr1-xx2-δ[100]//Si[010]であることが好ましい。なお、これは各層が正方晶の場合であるが、各層が立方晶である場合でも、膜面内において軸同士が平行であることが好ましいという点では同様である。
【0112】
電極層
電極層には、前述した導電性中間薄膜の説明において挙げた金属または導電性酸化物を好ましく用いることができる。導電性酸化物としては、Inを含む酸化物または導電性ペロブスカイト酸化物が好ましく、特にIn23、In23(Snドープ)、RCoO3、RMnO3、RNiO3、R2CuO4、(R,Sr)CoO3、(R,Sr,Ca)RuO3、(R,Sr)RuO3、SrRuO3、(R,Sr)MnO3(Rは、YおよびScを含む希土類)、およびそれらの関連化合物が好ましい。
【0113】
(001)配向の強誘電体薄膜を形成しようとする場合、電極層は正方晶(001)単一配向であるか、立方晶(100)単一配向であることが好ましい。電極層はエピタキシャル膜であることがより好ましい。
【0114】
正方晶(001)配向または立方晶(100)配向の電極層を形成しようとする場合、酸化物中間層は(001)配向であることが好ましい。電極層が金属から構成される場合に電極層を確実に(001)配向とするためには、上記したペロブスカイト下地層を設けることが好ましい。
【0115】
Si単結晶基板、電極層および積層薄膜の間の結晶軸方位関係は、積層薄膜[100]//電極層[100]//Si[010]であることが好ましい。また、面方位関係は積層薄膜(001)//電極層(001)//Si(100)であることが好ましい。なお、これは電極層が正方晶の場合であるが、電極層が立方晶である場合でも、膜面内において軸同士が平行であることが好ましいという点では同様である。
【0116】
電極層の比抵抗は、好ましくは10-7〜103Ωcm、より好ましくは10-7〜10-2Ωcmである。また、電極層は、超電導材料から構成されていてもよい。
【0117】
基板
Si、MgO、SrTiO3等の各種単結晶から選択することができるが、好ましくはSi単結晶を用いる。前述したように、Si単結晶基板としては、Si(100)面を表面に有するものを用いることが好ましい。
【0118】
各層の結晶性、表面性および厚さ
バッファ薄膜、すなわち酸化物中間層を構成する各層および電極層は、その上に形成される層の結晶性を向上させるために、結晶性が良好でかつ表面が分子レベルで平坦であることが好ましい。また、積層薄膜中の強誘電体薄膜および導電性中間薄膜も、上記した理由により、高結晶性で表面が平坦であることが好ましい。
【0119】
各層の結晶性は、XRD(X線回折)における反射ピークのロッキングカーブの半値幅や、RHEEDによる像のパターンで評価することができる。また、表面性は、RHEED像のストリーク性、およびAFMで測定した表面粗さ(十点平均粗さ)で評価することができる。
【0120】
積層薄膜、電極層および酸化物中間層は、X線回折による(002)面の反射のロッキングカーブの半値幅が1.50°以下となる程度の結晶性を有していることが好ましい。また、AFMにより測定される表面粗さRz(十点平均粗さ、基準長さ500nm)は、酸化物中間層では好ましくは2nm以下、より好ましくは0.60nm以下であり、電極層では好ましくは10nm以下であり、強誘電体薄膜および導電性中間薄膜では2nm以下、好ましくは0.60nm以下である。なお、このような表面粗さは、各層の表面の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の領域で実現していることが望ましい。上記表面粗さは、基板全面にわたって各層を形成したときに、面積10cm2以上の領域にわたって平均に分布した任意の10箇所以上を測定しての値である。本明細書において、薄膜表面の例えば80%以上でRzが2nm以下であるとは、上記のように10箇所以上を測定したときにその80%以上の箇所でRzが2nm以下であることを意味する。なお、表面粗さRzは、JIS B 0610に規定されている。
【0121】
ロッキングカーブの半値幅およびRzの下限値は特になく、小さいほど好ましいが、現在のところ、ロッキングカーブの半値幅の下限値は、一般に0.7°程度、特に0.4°程度、上記Rzの下限値は0.10nm程度である。
【0122】
また、RHEED像がストリークであって、しかもシャープである場合、各層の結晶性および表面平坦性が優れていることになる。
【0123】
電極層の厚さは、一般に好ましくは50〜500nm程度であるが、結晶性および表面性が損なわれない程度に薄いことが好ましい。
【0124】
酸化物中間層の厚さは、一般に好ましくは5〜500nm、より好ましくは10〜50nmであるが、結晶性、表面性を損なわない程度に薄いことが好ましい。また、酸化物中間層を絶縁層として用いる場合の厚さは、50〜500nm程度であることが好ましい。なお、酸化物中間層を多層構成とする場合、各層の厚さは0.5nm以上であることが好ましく、かつ酸化物中間層全体の厚さは上記範囲とすることが好ましい。
【0125】
製造方法
積層薄膜、酸化物中間層および電極層の形成方法は特に限定されず、基板上、特にSi単結晶基板上に、これらを単一配向膜やエピタキシャル膜として形成可能な方法であればよいが、好ましくは蒸着法、特に、特願平7−219850号、特開平9−63991号公報、特願平8−186625号等に開示されている蒸着法を用いることが好ましい。
【0126】
以下、製造方法の具体例として、Pr含有PbTiO3(以下、PPTという)薄膜の形成について説明する。
【0127】
積層薄膜の形成方法
この製造方法を実施するにあたっては、図3に示したような蒸着装置1を用いることが望ましい。
【0128】
蒸着装置1は、真空ポンプPが設けられた真空槽1aを有し、この真空槽1a内には、下部に基板2を保持するホルダ3が配置されている。このホルダ3は、回転軸4を介してモータ5に接続されており、このモータ5によって回転され、基板2をその面内で回転させることができるようになっている。上記ホルダ3は、基板2を加熱するヒータ6を内蔵している。
【0129】
蒸着装置1は、酸化性ガス供給装置7を備えており、この酸化性ガス供給装置7の酸化性ガス供給口8は、上記ホルダ3の直ぐ下方に配置されている。これによって、酸化性ガスは、基板2近傍でその分圧が高くされるようになっている。ホルダ3のさらに下方には、PbO蒸発部9、TiOx蒸発部10および希土類元素蒸発部11が配置されている。これら各蒸発部には、それぞれの蒸発源の他に、蒸発のためのエネルギーを供給するためのエネルギー供給装置(電子線発生装置、抵抗加熱装置等)が配置されている。
【0130】
鉛蒸発源として酸化物(PbO)を用いる理由は、高温の基板上ではPbの蒸気圧が高いため、蒸発源にPbを用いると再蒸発して基板表面に付着しにくいが、PbOを用いると付着率が高まるからであり、TiOxを用いる理由も、同様に付着率が高いからである。TiOxの替わりにTiを用いた場合、TiはPbOよりも酸化されやすいため、PbOはTiに酸素を奪われてPbとなり、これが再蒸発してしまうので好ましくない。
【0131】
なお、TiOxにおけるxは、好ましくは1≦x<1.9、より好ましくは1≦x<1.8、さらに好ましくは1.5≦x≦1.75、特に好ましくは1.66≦x≦1.75である。このようなTiOxは熱エネルギーを加えると真空槽内で溶融し、安定した蒸発速度が得られる。これに対しTiO2は、熱エネルギーを加えると真空槽内で酸素を放出しながらTiOxへと変化してゆくため、真空槽内の圧力変動が大きくなり、また、安定した蒸発速度が得られないため、組成制御が不可能である。
【0132】
まず、上記ホルダに基板をセットする。基板材料には、前述した各種のものを用いることができるが、これらのうちではSi単結晶基板が好ましい。特にSi単結晶の(100)面を基板表面になるように用いることが好ましい。また、前記した酸化ジルコニウム系層、希土類酸化物系層、ペロブスカイト下地層、電極層などを形成した単結晶板を基板として用いることも好ましい。
【0133】
この製造方法では、均質な強誘電体薄膜を大面積基板、例えば10cm2以上の面積を持つ基板上に形成することができる。これにより、強誘電体薄膜を有する電子デバイスや記録媒体を、従来に比べて極めて安価なものとすることができる。なお、基板の面積の上限は特にないが、現状では400cm2程度である。現状の半導体プロセスは2〜8インチのSiウエハー、特に6インチタイプのウエハーを用いたものが主流であるが、この方法ではこれに対応が可能である。また、ウエハー全面ではなく、部分的にマスク等で選択して強誘電体薄膜を形成することも可能である。
【0134】
次に、基板を真空中で加熱し、PbO、TiOxおよびPrと、酸化性ガスとを基板表面に供給することにより、強誘電体薄膜を形成していく。
【0135】
加熱温度は、500〜700℃、特に550〜650℃とすることが好ましい。500℃未満であると、結晶性の高い強誘電体薄膜が得られにくい。700℃を超えると、鉛蒸気と基板のSi等とが反応し、結晶性の鉛系強誘電体膜が得られにくい。また、Pt等の電極層上に強誘電体薄膜を形成する場合にも、Ptとの反応が生じてしまう。
【0136】
上記酸化性ガスとしては、酸素、オゾン、原子状酸素、NO2、ラジカル酸素等を用いることができるが、酸化性ガスの一部または大部分をラジカル化した酸素とすることが好ましい。
【0137】
ここでは、ECR酸素源によるラジカル酸素を用いる場合について説明する。
【0138】
真空ポンプで継続的に真空槽内を排気しながら、ECR酸素源から大部分がラジカル化した酸素ガスを真空蒸着槽内に継続的に供給する。基板近傍における酸素分圧は、1.33×10 −1 〜1.33×10 Pa(10−3〜10−1Torr程度であることが好ましい。酸素分圧の上限を1.33×10 Pa(10−1Torrとしたのは、真空槽内にある蒸発源中の金属を劣化させることなく、かつその蒸発速度を一定に保つためである。真空蒸着槽に酸素ガスを導入するに際しては、基板の表面にその近傍からガスを噴射し、基板近傍だけに高い酸素分圧の雰囲気をつくるとよく、これにより少ないガス導入量で基板上での反応をより促進させることができる。このとき真空槽内は継続的に排気されているので、真空槽のほとんどの部分は1.33×10 −2 〜1.33×10 −4 Pa(10−4〜10−6Torrの低い圧力になっている。酸素ガスの供給量は、2〜50cc/分、好ましくは5〜25cc/分である。酸素ガスの最適供給量は、真空槽の容積、ポンプの排気速度その他の要因により決まるので、あらかじめ適当な供給量を求めておく。
【0139】
各蒸発源は、電子ビーム等で加熱して蒸発させ、基板に供給する。成膜速度は、好ましくは0.05〜1.00nm/s、より好ましくは0.100〜0.500nm/sである。成膜速度が遅すぎると成膜速度を一定に保つことが難しくなり、膜が不均質になりやすい。一方、成膜速度が速すぎると、形成される薄膜の結晶性が悪く表面に凹凸が生じてしまう。
【0140】
TiOxおよびPrは、供給したほぼ全量が基板上に成長するPPT結晶に取り込まれるので、目的とする組成比に対応した比率の蒸発速度で基板上に供給すればよい。しかし、PbOは蒸気圧が高いので組成ずれを起こしやすく、制御が難しい。これまで鉛系の強誘電体材料では、組成ずれがなく、より単結晶に近い薄膜は得られていない。本発明では、このPbOの特性を逆に利用し、PbO蒸発源からの基板への供給量比を、形成されるPPT膜結晶における比率に対し過剰とする。過剰供給の度合いは、蒸発源から供給されるPbとTiとの原子比
Pb/Ti=E(Pb/Ti)
と、形成された強誘電体薄膜の組成におけるPbとTiとの原子比
Pb/Ti=F(Pb/Ti)
との関係が、
(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)=1.5〜3.5、
好ましくは
(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)=1.7〜2.5、
より好ましくは
(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)=1.9〜2.3
となるものである。過剰なPbOあるいはペロブスカイト構造に組み込まれないPbOは基板表面で再蒸発し、基板上にはペロブスカイト構造のPPT膜だけが成長することになる。E(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)が小さすぎると、膜中にPbを十分に供給することが困難となり、膜中の(Pb+R)/Tiの比率が低くなりすぎて結晶性の高いペロブスカイト構造とならない。一方、E(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)が大きすぎると、膜中の(Pb+R)/Tiの比率が大きくなりすぎて、ペロブスカイト相の他に他のPbリッチ相が出現し、ペロブスカイト単相構造が得られなくなる。
【0141】
以上説明したように、PbOおよびTiOxを蒸発源として用いて付着率を高め、ラジカル酸素により強力に酸化し、かつ基板温度を所定範囲に設定することにより、Pbの過不足のないほぼストイキオメトリのPPT結晶が基板上に自己整合的に成長する。この方法は、ストイキオメトリの鉛系ペロブスカイト結晶薄膜を製造する画期的な方法であり、結晶性の極めて高い薄膜が得られる。
【0142】
成膜面積が10cm2程度以上である場合、例えば直径2インチの基板の表面に成膜するときには、図3に示すように基板を回転させ、酸化性ガスを基板表面の全域に万遍なく供給することにより、成膜領域全域で酸化反応を促進させることができる。これにより、大面積でしかも均質な膜の形成が可能となる。このとき、基板の回転数は10rpm以上であることが望ましい。回転数が低いと、基板面内で膜厚の分布が生じやすい。基板の回転数の上限は特にないが、通常は真空装置の機構上120rpm程度となる。
【0143】
以上、積層薄膜の製造方法の詳細を説明したが、この製造方法は、従来の真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレージョン法などとの比較において特に明確なように、不純物の介在の余地のない、しかも制御しやすい操作条件下で実施しうるため、再現性よく完全性が高い目的物を大面積で得るのに好適である。
【0144】
さらに、この方法においてMBE装置を用いた場合でも、全く同様にして目的とする薄膜を得ることができる。
【0145】
以上では、Pr含有チタン酸鉛薄膜を形成する例について説明したが、この方法は、Pr以外の希土類元素を含有するチタン酸鉛系薄膜、PbTiO3薄膜、PZT系薄膜などを形成する場合にも適用でき、同様な効果が得られる。これらの薄膜を形成する際にも、TiOxを用い、E(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)が上記範囲内となるように制御すればよい。
【0146】
また、導電性中間薄膜に用いるPbとRuとを含む導電性酸化物薄膜を形成する場合には、TiOxに替えて金属Ruを用い、上記方法に準じて、蒸発源から供給されるPbとRuとの原子比
Pb/Ru=E(Pb/Ru)
と、形成された薄膜の組成におけるPbとRuとの原子比
Pb/Ru=F(Pb/Ru)
との関係が、
(Pb/Ru)/F(Pb/Ru)=1.5〜3.5、
好ましくは
(Pb/Ru)/F(Pb/Ru)=1.7〜2.5、
より好ましくは
(Pb/Ru)/F(Pb/Ru)=1.9〜2.3
となるように制御することが好ましい。この場合にも、同様な効果が得られる。
【0147】
また、上記方法は、Bi系酸化物薄膜にも適用できる。Bi系酸化物薄膜においても、真空中でBiの蒸気圧が高いために、これまで組成制御が不十分であったが、この方法においてPbO蒸発源をBi23蒸発源に替えることで同様に製造できることを確認している。Bi系の場合も、Biが過不足無く自己整合的に結晶に取り込まれ、ストイキオメトリの強誘電体薄膜結晶が得られる。
【0148】
Si基板表面処理
Si単結晶基板を用いる場合、バッファ薄膜の形成前に、基板に表面処理を施すことが好ましい。以下に、表面処理の必要性について説明する。
【0149】
結晶表面の数原子層における表面構造は、バルク(3次元的な大きな結晶)の結晶構造を切断したときに考えられる仮想的な表面の原子配列構造とは一般に異なる。これは、片側の結晶がなくなくなることにより表面に現れた原子の周囲の状況が変化し、これに対応してエネルギーのより低い安定な状態になろうとするからである。その構造変化は、主として、原子位置の緩和に留まる場合と、原子の組み換えが生じ、再配列構造を形成する場合とがある。前者はほとんどの結晶表面で存在する。後者は一般に表面に超格子構造を形成する。バルクの表面構造の単位ベクトルの大きさをa、bとするとき、ma、nbの大きさの超格子構造が生じた場合、これをm×n構造とよぶ。
【0150】
Si基板上に酸化物薄膜をエピタキシャル成長させるためには、Si基板表面の構造が安定で、かつSi基板表面が、その結晶構造情報を、成長させる酸化物薄膜へ伝える役割を果たさなければならない。バルク結晶構造を切断したときに考えられる原子配列構造は1×1構造なので、酸化物薄膜をエピタキシャル成長させるための基板の表面構造は、安定な1×1構造であることが必要である。
【0151】
しかし、清浄化されたSi(100)の表面は、後述するように、1×2または2×1構造となり、Si(111)の表面は、7×7または2×8構造の大きな単位メッシュをもつ複雑な超構造となってしまうため、好ましくない。
【0152】
また、これらの清浄化されたSi表面は、反応性に富み、特に、酸化物薄膜をエピタキシャル形成する温度(700℃以上)では、真空中の残留ガス、とくに炭化水素と反応をおこし、表面にSiCが形成されることにより基板表面が汚染され、表面結晶が乱れる。したがって、酸化物薄膜の形成に際しては、反応性に富んだSi表面を保護する必要がある。
【0153】
このようなことから、Si単結晶基板に、以下の方法で表面処理を施すことが好ましい。
【0154】
この方法では、まず、表面が清浄化されたSi単結晶基板を、図3に示すホルダにセットして真空槽中に配置し、酸化性ガスを導入しつつ加熱して、基板表面にSi酸化物層を形成する。酸化性ガスとしては、上記した強誘電体薄膜の場合と同様なものを用いることができるが、空気を用いてもよい。Si酸化物層は、基板表面を再配列、汚染などから保護するためのものである。Si酸化物層の厚さは、0.2〜10nm程度とすることが好ましい。厚さが0.2nm未満であると、Si表面の保護が不完全となるからである。上限を10nmとした理由は、後述する。
【0155】
上記の加熱は、300〜700℃の温度に、0〜10分間程度保持して行う。このとき、昇温速度は、30〜70℃/分程度とする。温度が高すぎたり、昇温速度が速すぎたりすると、Si酸化物層の形成が不十分になり、逆に、温度が低すぎたり、保持時間が長すぎると、Si酸化物層が厚くなりすぎてしまう。
【0156】
酸化性ガスの導入は、例えば酸化性ガスとして酸素を用いる場合、真空槽内を当初1.33×10 −5 〜1.33×10 −2 Pa(1×10−7〜1×10−4Torr程度の真空にし、酸化性ガスの導入により、少なくとも基板近傍の雰囲気中の酸素分圧が1.33×10 −2 〜1.33×10 Pa(1×10−4〜1×10−1Torrとなるようにして行うことが好ましい。
【0157】
上記工程後、真空中で加熱する。基板表面のSi結晶は、Si酸化物層により保護されているので、残留ガスである炭化水素と反応してSiCが形成されるなどの汚染が発生しない。加熱温度は、600〜1200℃、特に700〜1100℃とすることが好ましい。600℃未満であると、Si単結晶基板表面に1×1構造が得られない。1200℃を超えると、Si酸化物層によるSi結晶の保護が十分ではなくなり、Si単結晶基板の結晶性が乱れてしまう。
【0158】
次いで、Zrおよび酸化性ガスか、Zr、希土類元素(ScおよびYを含む)および酸化性ガスを、基板表面に供給する。この過程で、Zr等の金属は前工程で形成したSi酸化物層を還元し、除去することになる。同時に露出したSi結晶表面にZrおよび酸素、またはZr、希土類元素および酸素により、1×1の表面構造が形成される。
【0159】
表面構造は、RHEEDによる像のパターンで調べることができる。例えば、好ましい構造である1×1の表面構造の場合、電子線入射方向が[110]で図4(a)に示すような1倍周期C1の完全なストリークパターンとなり、入射方向を[1−10]にしても全く同じパターンとなる。一方、Si単結晶清浄表面は、たとえば(100)面の場合1×2または2×1であるか、1×2と2×1とが混在している表面構造となる。このような場合には、RHEEDのパターンは、電子線の入射方向[110]または[1−10]のいずれか、または両方で、図4(b)に示すような1倍周期C1と2倍周期C2とを持つパターンになる。1×1の表面構造においては、上記RHEEDのパターンでみて、入射方向が[110]および[1−10]の両方で、2倍周期C2が見られない。
【0160】
なお、Si(100)清浄表面も1×1構造を示す場合があり、われわれの実験でも何度か観察された。しかし、1×1を示す条件は不明確であり、安定に再現性よく1×1をSi清浄面で得ることは、現状では不可能である。1×2、2×1、1×1いずれの構造の場合であっても、Si清浄面は真空中、高温で汚染されやすく、特に残留ガス中に含まれる炭化水素と反応してSiCが形成されて、基板表面の結晶が乱れやすい。
【0161】
Zr、またはZrおよび希土類元素は、これらを酸化性雰囲気中で蒸着して酸化物膜を形成したときの膜厚が0.3〜10nm、特に3〜7nm程度となるように供給することが好ましい。このような供給量の表示を、以下、酸化物換算での供給量という。酸化物換算での供給量が0.3nm未満では、Si酸化物の還元の効果が十分に発揮できず、10nmを超えると表面に原子レベルの凹凸が発生しやすくなり、表面の結晶の配列が凹凸により1×1構造でなくなることがある。上記Si酸化物層の厚さの上限の好ましい値を10nmとした理由は、10nmを超えると、上記のように金属を供給してもSi酸化物層を十分に還元できなくなる可能性がでてくるからである。
【0162】
酸化性ガスとして酸素を用いる場合は、2〜50cc/分程度供給することが好ましい。酸化性ガスの最適供給量は、真空槽の容積、ポンプの排気速度その他の要因で決まるので、あらかじめ最適な供給量を求めておく。
【0163】
酸化ジルコニウム系層、希土類酸化物系層の形成方法
バッファ薄膜のうち酸化ジルコニウム系層は、本出願人がすでに特願平7−93024号において提案した方法で形成することが好ましい。
【0164】
酸化ジルコニウム系層の形成にあたっては、まず、基板を加熱する。成膜時の加熱温度は酸化ジルコニウムの結晶化のために400℃以上であることが望ましく、750℃以上であれば結晶性に優れた膜が得られ、特に分子レベルの表面平坦性を得るためには850℃以上であることが好ましい。なお、単結晶基板の加熱温度の上限は、1300℃程度である。
【0165】
次いで、Zrを電子ビーム等で加熱し蒸発させ、基板表面に供給すると共に、酸化性ガスおよび必要に応じ希土類元素を基板表面に供給して、酸化ジルコニウム系薄膜を形成する。成膜速度は、好ましくは0.05〜1.00nm/s、より好ましくは0.100〜0.500nm/sとする。成膜速度が遅すぎると成膜速度を一定に保つことが難しくなり、一方、成膜速度が速すぎると、形成される薄膜の結晶性が悪くなり、表面に凹凸が生じてしまう。
【0166】
なお、酸化性ガスの種類、その供給量、基板近傍の酸素分圧、基板の回転等の各種条件については、上記した強誘電体薄膜形成の場合と同様である。
【0167】
酸化ジルコニウム系層の上に希土類酸化物系層を積層する場合、蒸発源として希土類元素だけを用いればよい。このときの酸化性ガスの導入条件や基板の温度条件等は、酸化ジルコニウム系層の場合と同様とすればよい。両薄膜において同一の希土類元素を使用する場合には、酸化ジルコニウム系層が所定の厚さに形成されたときにZrの供給を停止し、希土類元素だけを引き続いて供給することにより、連続して希土類酸化物系層を形成することができる。また、酸化ジルコニウム系薄膜を傾斜構造とする場合には、Zrの供給量を徐々に減らし、最後にはゼロとして、希土類酸化物系層の形成に移行すればよい。
【0168】
ペロブスカイト下地層の形成方法
ペロブスカイト下地層としてBaTiO3膜を形成する場合について説明する。
【0169】
酸化ジルコニウム系層または希土類酸化物系層を成膜した後、加熱および酸化性ガスの導入を続けながら、BaおよびTiを基板表面に供給する。供給量は、Ba:Ti=1:1となるようにすることが好ましい。成膜時の蒸着基板の温度および成膜初期のBa/Ti供給量比は、BaTiO3膜の配向性に影響を及ぼす。BaTiO3膜、酸化ジルコニウム系層(Zr1-xx2-δ)およびSi(100)基板の結晶方位関係が、前述した好ましい関係、すなわち、BaTiO3(001)//Zr1-xx2-δ(001)//Si(100)、かつBaTiO3[100]//Zr1-xx2-δ[100]//Si[010]となるようにするためには、BaTiO3成膜時における加熱温度は800〜1300℃、好ましくは900〜1200℃が望ましい。また、成長初期のBa/Ti供給量比は、1〜0、好ましくは1〜0.8とすることが望ましい。すなわち、成長初期にはTi過剰にすることが好ましい。なお、Ba/Ti供給量比が0であるとは、成長初期にはTiのみの供給であってもよいことを示す。加熱温度が高すぎると、薄膜積層体に相互拡散が生じ、結晶性が低下してしまう。一方、加熱温度が低すぎたり、成長初期のBa/Ti比が適切でなかったりすると、形成されるBaTiO3膜が目的とする(001)配向ではなく(110)配向になるか、または(001)配向BaTiO3膜に(110)配向結晶が混在してしまう。成長初期には、供給されたBaが下地の酸化ジルコニウム系層と反応して、目的の配向を有するBaTiO3が得られにくい。成長初期にTi過剰とするのは、Baと酸化ジルコニウムとの反応を避けるためである。なお、ここでいう成長初期とは、膜厚が1nm程度以下である範囲内である。
【0170】
ペロブスカイト下地層形成時の成膜速度、酸化性ガスの種類、その供給量、基板近傍の酸素分圧、基板の回転等の各種条件については、上記した酸化ジルコニウム系層形成の場合と同様である。
【0171】
酸化ジルコニウム系層や希土類酸化物系層、ペロブスカイト下地層の上記形成方法は、上記した積層薄膜の場合と同様に、従来の真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレージョン法などとの比較において特に明確なように、不純物の介在の余地のない、しかも制御しやすい操作条件下で実施しうるため、再現性よく完全性が高い目的物を大面積で得るのに好適である。上記方法においてMBE装置を用いても、全く同様にして目的とする薄膜を得ることができる。
【0172】
電極層の形成方法
電極層を金属から構成する場合、蒸着により形成することが好ましい。蒸着時の基板温度は、500〜750℃とすることが好ましい。基板温度が低すぎると、結晶性の高い膜が得られず、基板温度が高すぎると膜の表面の凹凸が大きくなってしまう。なお、蒸着時に真空槽内に微量の酸素を流しながらRfプラズマを導入することにより、さらに結晶性を向上させることができる。具体的には、例えばPt薄膜において、(001)配向結晶中に(111)配向結晶が混入することを防ぐ効果がある。
【0173】
電極層をInを含む酸化物または導電性ペロブスカイト酸化物から構成する場合、上記した積層薄膜やペロブスカイト下地層の形成方法を利用することが好ましく、この他、反応性多元蒸着法やスパッタ法を利用することもできる。
【0174】
本発明では、積層薄膜がエピタキシャル膜であるので、その表面の平坦度が良好となるが、積層薄膜の組成や形成方法によっては十分な平坦度が得られないこともある。そのような場合には、積層薄膜表面を研磨して平坦化することができる。研磨には、アルカリ溶液等を用いる化学的研磨、コロイダルシリカ等を用いる機械的研磨、化学的研磨と機械的研磨との併用などを用いればよい。
【0175】
積層薄膜表面を研磨すると、研磨歪が残留することがある。強誘電体の電気的特性は応力により大きく変化するため、研磨歪を除去するために、必要に応じて積層薄膜にアニールを施すことが好ましい。アニールは、好ましくは300〜850℃、より好ましくは400〜750℃で、好ましくは1秒間〜30分間、より好ましくは5〜15分間行う。
【0176】
なお、研磨を行わない場合でも、強誘電体特性を向上させるために、必要に応じてアニールを施してもよい。この場合のアニールは、好ましくは300℃以上、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは650℃以上、かつ好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下で、好ましくは1秒間〜30分間、より好ましくは5〜15分間行う。
【0177】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0178】
実施例1
特願平7−219850号、特願平7−240607号に記載された方法を利用して、以下のようにして積層薄膜を形成した。
【0179】
表面が(100)面となるように切断して鏡面研磨したSi単結晶ウエハー(直径2インチ)を用意した。このウエハー表面を40%フッ化アンモニウム水溶液により、エッチング洗浄した。
【0180】
真空槽内に設置された回転および加熱機構を備えた基板ホルダーに上記単結晶基板を固定し、真空槽を1.33×10 −4 Pa(10−6Torrまで油拡散ポンプにより排気した後、基板洗浄面をSi酸化物を用いて保護するため、基板を20rpmで回転させ、酸素を基板付近にノズルから25cc/分の割合で導入しつつ、600℃に加熱した。これにより基板表面が熱酸化され、基板表面に厚さ約1nmのSi酸化物膜が形成された。
【0181】
次いで、基板を900℃に加熱し、回転させた。回転数は20rpmとした。このとき、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入し、前記基板上に金属Zrを蒸発源から蒸発させることにより、ZrO2の膜厚に換算して5nmとなるように供給し、1×1の表面構造を備えるSi表面処理基板を得た。
【0182】
さらに、基板温度を900℃、基板回転数を20rpmとし、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入した状態で、Si表面処理基板表面に金属Zrを蒸発源から供給することにより、厚さ10nmのZrO2膜を形成した。
【0183】
次いで、ZrO2膜を形成した基板を蒸着基板として、BaTiO3膜を形成した。蒸着基板は、900℃に加熱し、20rpmで回転させた。このとき、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入し、基板上に金属Baと金属Tiとを蒸発源から蒸発させることにより、BaTiO3膜を形成した。成膜初期には、TiだけをTiO2膜の厚さに換算して0.5nmとなるように供給し、次いで、成膜速度を0.05nm/sとしてBaTiO3膜の厚さに換算して2nmとなるようにTiおよびBaを供給し、次いで、成膜速度を0.2nm/sに上げ、厚さ100nmのBaTiO3膜とし、Si(100)/ZrO2(001)(10nm)/BaTiO3(001)(100nm)エピタキシャル構造体を作製した。
【0184】
このエピタキシャル構造体の上に、700℃で金属Ptを蒸着してPt膜を形成し、Si(100)/ZrO2(001)(10nm)/BaTiO3(001)(100nm)/Pt(001)(100nm)エピタキシャル構造体を得た。
【0185】
さらに、このエピタキシャル構造体を蒸着基板として、チタン酸鉛(以下、PTという)を蒸着することにより、PT膜(強誘電体薄膜)を形成した。具体的には、まず、基板を600℃に加熱し、20rpmで回転させた。そして、ECR酸素源からラジカル酸素ガスを10cc/分の割合で導入し、基板上にPbO、TiOx(x=1.67)をそれぞれの蒸発源から蒸発させることにより、PT膜を得た。蒸発源からの供給は、PbO:TiOxのモル比が2:1となるように制御しながら行った。すなわち、
(Pb/Ti)=2.0
とした。
【0186】
このPT膜の組成(原子比)を蛍光X線分析により調べたところ、
Pb/Ti=1.00
であった。この組成では
(Pb/Ti)=1.00
となるので、
(Pb/Ti)/F(Pb/Ti)=2.00
となる。
【0187】
さらにこのPT膜上に、SrRuO3(以下、SROという)膜(導電性中間薄膜)を形成した。具体的には、PT膜形成時と同様に、基板を600℃に加熱し、20rpmで回転させた。そして、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入し、金属Srと金属Ruとをそれぞれの蒸発源から基板表面に供給することにより、SRO膜を得た。
【0188】
この組成のSROは、薄膜化したときに疑似ペロブスカイト構造となり、比抵抗は1×10-4Ωcmであり、導電性である。
【0189】
さらにこの上に、PT膜とSRO膜とをそれぞれ上記条件で交互に繰り返し形成し、最後にPT膜を形成して、PT/SRO積層薄膜を得た。PT膜の積層数は31とした。PT膜の厚さは10nmとし、SRO膜の厚さは1nmとした。
【0190】
この積層薄膜を、X線回折、RHEED、透過電子顕微鏡(TEM)観察により調べた結果、基板上に形成した薄膜のすべてが(001)配向エピタキシャル膜であることが確認された。この積層薄膜表面について、JIS B 0610による十点平均粗さRz(基準長さ500nm)を測定したところ、平均で0.43nm、最大で0.80nm、最小で0.12nmであった。そして、測定箇所の80%以上でRzが0.60nm以下であった。
【0191】
この積層薄膜エピタキシャル構造体を0.1mm×0.1mmのセルに分割し、その表面(PT膜表面)に、蒸着法とリソグラフィー法とを用いて直径50μmのAl電極を形成し、Pt膜からリードを取り出し、ソーヤタワー回路を用いて残留分極を測定した。この結果、残留分極値は31μC/cm2であり、優れた強誘電性を示した。
【0192】
この結果から、本発明の積層薄膜では、全厚が300nm程度以上と厚い領域でもPT膜が(001)単一ドメイン構造となり、大きな残留分極値が得られることがわかる。
【0193】
実施例2
実施例1と同様にして、Si(100)/ZrO2(001)(10nm)/BaTiO3(001)(100nm)/Pt(001)(100nm)エピタキシャル構造体を得た。
【0194】
このエピタキシャル構造体を蒸着基板として、PT膜(強誘電体薄膜)とPbRuOx(以下、PROという)膜(導電性中間薄膜)とを交互に蒸着し、積層薄膜を得た。PT膜の積層数は31とし、最初と最後にPT膜を形成した。PT膜の厚さは20nm、PRO膜の厚さは1nmとした。
【0195】
PT膜は実施例1と同様にして形成した。PRO膜の形成に際しては、まず、実施例1のPT膜形成時と同様に、基板を600℃に加熱し、20rpmで回転させた。そして、ECR酸素源からラジカル酸素ガスを10cc/分の割合で導入し、基板上にPbOおよび金属Ruをそれぞれの蒸発源から蒸発させることにより、PRO膜を得た。蒸発源からの供給は、PbO:Ruのモル比が2:1となるように制御しながら行った。すなわち、
(Pb/Ru)=2.0
とした。
【0196】
このPRO膜の組成(原子比)を蛍光X線分析により調べたところ、
Pb/Ru=1.05
であった。この組成では
(Pb/Ru)=1.05
となるので、
(Pb/Ru)/F(Pb/Ru)=1.90
となる。
【0197】
この組成のPROは、ペロブスカイト構造をもち、比抵抗は1×10-4Ωcmであり、導電性である。
【0198】
このようにして得た積層薄膜を、X線回折、RHEED、透過電子顕微鏡(TEM)観察により調べた結果、基板上に形成した薄膜のすべてが(001)配向のエピタキシャル膜であることが確認された。また、この積層薄膜表面について、JIS B 0610による十点平均粗さRz(基準長さ500nm)を測定したところ、平均で0.39nm、最大で0.75nm、最小で0.20nmであった。そして、測定箇所の80%以上でRzが0.60nm以下であった。
【0199】
この積層薄膜について、実施例1と同様にして残留分極を測定したところ、32μC/cm2であり、優れた強誘電性を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】強誘電体(PbTiO3)薄膜の二次元応力と自発分極との関係を示すグラフである。
【図2】(a)、(b)および(c)は、単結晶基板とその上に形成されたエピタキシャル薄膜との間に格子定数のずれ(ミスフィット)が存在した場合における薄膜結晶格子の変形を、模式的に表す説明図である。
【図3】本発明の強誘電体薄膜の形成に用いられる蒸着装置の一例を示す説明図である。
【図4】(a)は1×1の表面構造のRHEEDパターンを示す模式図であり、(b)は2×1、1×2あるいはこれらが混在している場合のRHEEDパターンを示す模式図である。
【符号の説明】
1 蒸着装置
1a 真空槽
2 基板
3 ホルダ
4 回転軸
5 モータ
6 ヒータ
7 酸化性ガス供給装置
8 酸化性ガス供給口
9 PbO蒸発部
10 TiOx 蒸発部
11 希土類元素蒸発部

Claims (14)

  1. Si単結晶基板上に形成された積層薄膜であり、導電性中間薄膜と、この導電性中間薄膜を介して積層された強誘電体薄膜とから構成され、
    前記強誘電体薄膜がペロブスカイト構造を有する(001)配向エピタキシャル膜であり、
    前記導電性中間薄膜がペロブスカイト構造を有する単一配向のエピタキシャル膜であり、
    前記強誘電体薄膜が、下記一般式(I)で表されるペロブスカイト化合物、下記一般式(II)で表される層状ペロブスカイト化合物、ならびに、R(Rは、Pr、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb、Y、Sm、Gd、ErおよびLaから選択された少なくとも1種の希土類元素)、Pb、TiおよびOを含有し、原子比が
    (Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、
    Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99
    である希土類元素含有チタン酸鉛のうちのいずれか1種を含有し、
    前記導電性中間薄膜が、導電性ペロブスカイト酸化物を含有し、
    前記強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が前記導電性中間薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より大きい積層薄膜。
    ABO (I)
    [式(I)中、AはCa、Ba、Sr、Pb、K、Na、Li、LaおよびCdから選ばれた1種以上を示し、BはTi、Zr、TaおよびNbから選ばれた1種以上を示し、比率A/Bは0.8〜1.3であり、xは2.7〜3.3を示す。]
    Bi m−1 3m+3 (II)
    [式(II)中、AはBi、Ca、Sr、Ba、Pbおよび希土類元素(ScおよびYを含む)のいずれか1種を示し、BはTi、TaおよびNbのいずれか1種を示し、mは1〜5の整数を示す。]
  2. 前記導電性中間薄膜の比抵抗が1×10Ωcm以下である請求項1の積層薄膜。
  3. 前記強誘電体薄膜の厚さが2〜50nmであり、前記導電性中間薄膜の厚さが0.3〜50nmである請求項1または2の積層薄膜。
  4. 前記強誘電体薄膜の数が2〜500である請求項1〜3のいずれかの積層薄膜。
  5. 前記Si単結晶基板との間に、エピタキシャル膜であるバッファ薄膜が設けられている請求項1〜4のいずれかの積層薄膜。
  6. 前記強誘電体薄膜が少なくともPbおよびTiを含む酸化物からなる請求項1〜のいずれかの積層薄膜。
  7. 前記強誘電体薄膜が、R(Rは、Pr、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb、Y、Sm、Gd、ErおよびLaから選択された少なくとも1種の希土類元素)、Pb、TiならびにOを含有し、原子比が
    (Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、
    Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99
    である請求項の積層薄膜。
  8. 前記強誘電体薄膜において、Tiの60原子%以下がZr、Nb、Ta、HfおよびCeの少なくとも1種で置換されている請求項またはの積層薄膜。
  9. 前記強誘電体薄膜がPb、TiおよびOから構成され、原子比が
    Pb/Ti=0.8〜1.3、
    O/Ti=2.7〜3.3
    である請求項の積層薄膜。
  10. 前記導電性中間薄膜が、Ruを含有する酸化物から構成される請求項1〜のいずれかの積層薄膜。
  11. 請求項1〜10のいずれかの積層薄膜中の強誘電体薄膜を多元蒸着法により基板上に形成するに際し、蒸発源として少なくとも酸化鉛およびTiO(1≦x≦1.9)を用い、酸化性ガスを蒸着反応室内に導入しながら蒸着を行う積層薄膜の製造方法。
  12. 蒸発源から供給される元素の原子比を
    Pb/Ti=E(Pb/Ti)
    とし、形成された強誘電体薄膜中の原子比を
    Pb/Ti=F(Pb/Ti)
    としたとき、
    (Pb/Ti)/F(Pb/Ti)=1.5〜3.5
    となる請求項11の積層薄膜の製造方法。
  13. 酸化性ガスとして、少なくとも一部がラジカル化した酸素を用いる請求項11または12の積層薄膜の製造方法。
  14. 基板の温度を500〜700℃として蒸着を行う請求項1113のいずれかの積層薄膜の製造方法。
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