JP4410976B2 - 排気浄化装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は主としてエンジンの排気浄化に適用される排気浄化装置に関し、特にHCトラップ機能を有する排気浄化装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術と解決すべき課題】
三元触媒を備えた排気浄化システムではエンジン冷間運転時のHCの処理が課題となっている。触媒が活性温度に達するまでは低温条件下での燃焼時に排出されやすいHCを十分に浄化できないからである。この問題に対応するものとして、ゼオライト等のHC吸着剤により排気中のHCを一時的に吸着しておく機能を有するHCトラップ触媒を用いたシステムが知られている。これはHCトラップ剤により、触媒金属が活性温度に達するまでのHCの排出を抑制しようとするものである。しかしながら、捕捉されたHCが吸着剤から脱離を開始する温度に達しても、この時点では通常は触媒金属がまだ十分に活性化していないため、HCの排出を抑制する効果は必ずしも十分ではない。これに対して、特開2000−2138号公報に開示されているように、エンジン排気系に2個のHCトラップ触媒を互いに離隔して直列に配置した構成とすることでHCの排出量をある程度低減することが可能である。下流側のHCトラップ触媒は比較的低温に保たれるため、上流側HCトラップ触媒が脱離温度に達してHCの脱離を開始したとしても、これを下流側HCトラップ触媒にて再度捕捉できるからである。ただし、このようなHCの再捕捉作用を有効利用するためには、上流側HCトラップ触媒と下流側HCトラップ触媒との間に十分な温度差が得られるだけの熱容量が必要である。一般に車両用のエンジンでは車体床下部分に排気系が設けられる関係から、前述した十分な熱容量を確保できるように排気系のレイアウトをすることは困難であり、すなわち複数のHCトラップ触媒を直列に配置することによるHCの低減効果には限界を生じる。
【0003】
【発明の概要】
本発明は、エンジンの排気系に、複数のHCトラップ触媒を排気管を介して互いに離隔して配設する。前記HCトラップ触媒は、HC吸着剤と触媒金属とをハニカム状担体に担持させて構成する。前記複数のHCトラップ触媒のうち、少なくとも上流側に位置するHCトラップ触媒のハニカム状担体には、そのセルを横断するようにスリットを形成する。
【0004】
担体にスリットを形成した上流側HCトラップ触媒の構成においては、スリットがその前後で担体内の伝熱を遮断する作用を有するため、スリットよりも下流への熱伝導が抑制され、触媒担体全体として温度上昇が遅くなる。すなわちHCが脱離するまでのタイミングも遅くなる。このようにして上流側HCトラップ触媒でのHC脱離タイミングが遅延する間に上下流の各HCトラップ触媒の触媒金属の温度が上昇して転化率が高くなるので、HC脱離時の処理効率も向上する。仮に上流側HCトラップ触媒にて処理しきれなかった脱離HCが生じたとしても、これを下流側HCトラップ触媒にて確実に浄化することができる。
【0005】
また、前述のようにして上流側HCトラップ触媒でのHC吸着剤および触媒金属の作用が促進されることから、所要の浄化性能を得るための下流側HCトラップ触媒の容量をより小さくすることが可能である。下流側HCトラップ触媒を小型化しない場合にはHC吸着量をより増大できる。
【0006】
なお、触媒担体にスリットを設けるとこのスリット部分でガス流れに乱れを生じる。この乱れは、排気ガスがHC吸着剤に接触する機会を増やすのでHCトラップ性能自体を向上させる。また、スリットを設けた構成では前記乱流作用により担体の断面方向でのガス流量分布を均一化できるので制御性が向上し、排気浄化装置本来の性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0007】
HCトラップ触媒の上流または下流側に隣接して三元触媒を、さらに他のHCトラップ触媒を配置した構成を付加してもよく、これによりそれぞれの構成に固有の有益な特性を与えることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は本発明による排気浄化装置を適用したエンジンシステムの一例を示している。図において1はエンジン、2はその吸気通路、3は排気通路である。4は排気通路3から排気ガスの一部を吸気通路2へと還流させるEGR通路、5は前記排気還流量を制御するEGR制御弁である。7は燃料噴射弁、8は点火プラグである。
【0009】
9と10は排気通路3に介装したHCトラップ触媒である。これら2個の触媒9,10は、CO,HCの酸化作用とNOxの還元作用を併有する三元触媒として機能すると共に、ゼオライト等のHC吸着剤によりHCを一時的に捕捉しておく機能を備えている。上流側に位置する触媒9は、排気通路の一部を構成する排気マニフォールド3aの出口部に取り付けてある。一方、下流側に位置する触媒10は上流側触媒9に対して排気管3bを介して離隔した位置に設ける。このエンジンシステムを車両に搭載した場合、前記下流側の触媒10は通常は車体床下部に位置する。
【0010】
12と13はそれぞれ上流側触媒9の上流と下流にて排気ガスの空燃比もしくは酸素濃度を検出する排気ガスセンサ、14は下流側触媒10の触媒温度を検出する温度センサである。15はエンジン回転速度や吸入空気量などの運転状態信号に基づいて空燃比および点火時期などを制御するコントローラであり、CPUおよびその周辺装置からなるマイクロコンピュータにより構成されている。
【0011】
図2以下に、前記触媒9,10に収装される触媒担体21の実施形態を示す。本発明では、少なくとも上流側に位置する触媒9について、図2に示したように触媒担体21のガス流れ(矢印方向)を横切るように1個以上のスリット22を形成したものを適用する。図示したものではスリット22を触媒の一側面側からガス流れに対して直交するように形成し、他側面側に非スリット部23を残している。また隣接するスリット22は互いに触媒担体21の周囲に180度ずつ異なる角度で、かつガス流れ方向には等間隔に形成してスリットと非スリット部とが交互に配列するようにしている。
【0012】
図3は、前記触媒担体21にガス流路として形成されたセル24の詳細であり、触媒担体21を図2の矢印方向から見た通路断面の部分拡大図である。セル24はハニカム状をなすように多数を形成されている。セル24の表面には、深層側にゼオライトなどのHCトラップ剤からなるHCトラップ層25を、表層側に三元触媒として機能するPt、Rh等の触媒金属層26をコーティングにより形成してある。
【0013】
図4は前記触媒9の担体21の支持構造の一例を示している。図中34は触媒容器、35はセラミクスファイバーあるいはアルミナファイバーなどからなる耐熱マットである。触媒担体21はその外周部に巻回された耐熱マット35を介して触媒容器34内に固定される。この実施形態では、スリット22の開放部分の外周を触媒担体21と同一の線膨張係数を有する充填材36で埋めてある。このように充填材36を設けることにより、スリット22を抜けてきた排気によりマット35が風蝕されて摩耗する不具合を防止することができる。また、触媒担体21と同一の線膨張係数を有する充填材36を用いることにより、触媒担体21の強度を確保できる。
【0014】
図5は前記スリット付き触媒担体21の構成を上流側触媒9に適用した場合の効果を、スリットがない触媒担体を用いた場合との比較において示したものである。これはエンジンを冷間始動してからの経過時間に応じたエンジン回転数変化、触媒入口部でのHC量変化、触媒温度変化、HCトラップ収支を示している。
【0015】
図示したようにエンジン始動直後は未着火燃料や不完全燃焼により定常アイドル運転時に比較すると多くのHCが燃焼室から排出される。このHCは大部分が触媒のHCトラップ層に捕捉され、その後HCトラップ層の温度が150℃程度に達すると捕捉されたHCがHCトラップ層から脱離を開始する。このとき触媒金属層が300℃程度の活性温度に達していれば脱離したHCは触媒反応により酸化処理される。
【0016】
本発明では、触媒担体21にスリット22を設けたことにより担体内の伝熱が抑制されるため、スリットを持たない担体に比較して担体全体の温度上昇が遅れ、それだけHCトラップ層がHC脱離温度に達するまでの時間も長くなる。このことは担体に捕捉されるHC量を増大させるとともにHC脱離が開始されるまでの各触媒9,10の触媒金属層の温度上昇量を大きくするのでHCの浄化性能も向上する。図にAで示したのは前記HC脱離温度に達するまでの遅れ時間の間の上流側触媒9でのHC捕捉量の差を示しており、HC脱離開始後のB領域とC領域との差が浄化性能の向上分を表している。つまり、脱離して浄化しきれなかったHCの処理量が、スリット22を設けたことにより、B領域とC領域の差分だけ向上するのである。また、スリット22の部分を排気ガスが通過するときの乱流の作用により触媒コンバータに担持したトラップ剤がより有効に利用されるので、HCを捕捉する性能自体もスリットを持たないものより向上する。
【0017】
一方、このようにして上流側HCトラップ触媒でのHC吸着性能が向上する分だけ、下流側HCトラップ触媒でのHC吸着の負担は減少する。図ではスリットを設けなかった場合のHC吸着特性によるD領域から、スリットを設けた場合の特性によるE領域を差し引いたものがHC吸着量減少分となる。この下流側HCトラップ触媒での吸着HCは、その後触媒が脱離温度に達すると脱離を開始するが、このとき触媒金属層は十分に高温化しているので確実に酸化処理される。
【0018】
図1において排気マニフォールド3aの直後に位置する上流側触媒9においては、特にセル24の深層側にHCトラップ層25を、表層側に触媒金属層26をそれぞれ積層した構成により、スリット22を伴うことにより、HCトラップ層25がHC脱離温度に達するまでの時間を長くし、HCの脱離が開始されるまでの触媒金属層26の温度上昇量を大きくし、さらに前記乱流の作用によりHCトラップ層25へのHC捕捉効果を確保しつつ、触媒金属層26の活性を均一にできるので高い浄化性能が発揮される。触媒金属層26で生じる反応熱は既述したようにスリット22より下流側への伝達が抑制されるので、下流側HCトラップ層25の温度上昇が遅くなりHC捕捉性能が向上する。触媒金属層26は、スリット22で仕切られた担体ブロック毎の熱容量が小さいので排気ガスの流入に伴い上流側から順に活性化しHC脱離時の浄化性能を向上させる。
【0019】
前記構成において、上流側触媒9の容量を下流側触媒10よりも大きくすることにより、上流側触媒9の熱容量が増大してHCが脱離を開始するまでの遅れ時間がより長くなるので、下流側触媒10でのHCの転化効率もより向上する。
【0020】
次に、本発明における触媒コンバータの配列に関するいくつかの実施形態を説明する。図6と図7は、スリットを有する上流側HCトラップ触媒9の上流側に隣接して三元触媒17を配置したものである。図6は三元触媒17とHCトラップ9とを互いに独立して設けた構成例を示しているが、図7に示したようにそれぞれの触媒担体を共通の触媒容器34に収容するようにしてもよい。前記構成において、上流に位置する三元触媒17は、隣接するHCトラップ触媒9でのHC脱離タイミングが遅れる分だけ触媒活性化が促されるので、早期活性化を図ったのと同等の効果が得られ、触媒システムとしての小型化・小容量化または触媒担持量の低減が可能となる。
【0021】
図8は下流側HCトラップ触媒10の下流側に隣接して三元触媒18を配置したものである。この構成においては、下流側HCトラップ触媒10において仮に処理しきれないHCが排出されたとしてもこれを下流に隣接する三元触媒18により浄化することができる。
【0022】
図9は、図8の構成に加えて、下流側HCトラップ触媒10の担体21を図2と同様のスリット付きとしたものである。触媒10と18はそれぞれの触媒担体を共通の触媒容器に収容した構成としてもよい。スリット付きとすることにより、下流側HCトラップ触媒10においても、前述した上流側HCトラップ触媒9と同様にHC脱離までのタイミングの遅延化を図れるので、全体としてHCの浄化性能をより向上させることができる。
【0023】
図10は、図9の構成において、下流側の三元触媒18のさらに下流側に隣接して、HCトラップ触媒19を配置したものである。触媒10または触媒18と触媒19とはそれぞれの触媒担体を共通の触媒容器に収容した構成としてもよい。この構成では、スリット付きのHCトラップ触媒10にて乱れを与えられた排ガス流が下流側の三元触媒18およびHCトラップ触媒19に流れ込むため、三元触媒1については転換効率が、HCトラップ触媒19についてはHC吸着性能が、それぞれより向上し、これにより触媒システムの小型化・小容量化を促進することができる。なお、前記図10の構成において、最下流の触媒19の触媒担体をスリット付きとしてもよく、これによりHC吸着性能をさらに向上できる。
【0024】
図11と図12は、上流側HCトラップ触媒9と下流側HCトラップ触媒10とを接続する排気管3bの構造に関する実施形態である。図11は排気管3bの途中部分に可撓性を有する蛇腹状のフレキシブルチューブ3cを適用したもの、図12は配管3bの途中に各触媒9,10の相対回転を可能にする自在管継手3dを適用したものである。前記フレキシブルチューブ3cまたは自在管継手3dを適用することにより、エンジン運転時の触媒9と触媒10との間の相対運動を許容できることに加えて、フレキシブルチューブ3cまたは管継手3dが排気管3bの熱容量を大きくする作用を有することから、下流側HCトラップ触媒10の浄化性能を向上させるうえで有利になる。
【0025】
なお、以上の各図はスリットの形成態様や触媒コンバータの構造を説明するための図面であり、触媒担体の大きさ、スリットの幅およびピッチなどは説明の便宜のために実際とは異なる寸法または比率で描いてある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による排気浄化装置を適用したエンジンシステムの一例を示す概略構成図。
【図2】本発明における触媒担体の実施形態を示す形状説明図。
【図3】前記触媒担体のセル部分の詳細を示す横断面図。
【図4】本発明おける触媒の担体支持構造の一例を示す縦断面図。
【図5】本発明による効果を、スリットがない従来の触媒担体との比較において示した特性線図。
【図6】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【図7】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【図8】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【図9】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【図10】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【図11】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【図12】本発明の他の実施形態の概略構成図。
【符号の説明】
1 エンジン
2 吸気通路
3 排気通路
3a 排気マニフォールド
3b 排気管
3c フレキシブルチューブ
3d 管継手
9、10、19 HCトラップ触媒
17、18 三元触媒
21 ハニカム状担体
22 スリット
24 セル
25 HCトラップ層
26 触媒金属層
34 触媒容器

Claims (13)

  1. エンジンの排気系に、HC吸着剤を含むHCトラップ層が深層側に、触媒金属を含む触媒金属層が表層側となるように層状に形成され、エンジン冷間始動時に流れる排ガスによって表層側に遅れて深層側が温度上昇する複数のHCトラップ触媒を排気管を介して互いに離隔して配設し、
    前記複数のHCトラップ触媒のうち、少なくとも上流側に位置するHCトラップ触媒のハニカム状担体の一側面側からそのセルを横断し他側面側には非スリット部を残して、エンジン冷間始動時に前記深層側の温度上昇がさらに遅れるように担体の伝熱を抑制するスリットを形成した
    ことを特徴とする排気浄化装置。
  2. 前記複数のHCトラップ触媒のうち、上流側に位置するものの触媒容量を下流側のものに比較して大とした請求項1に記載の排気浄化装置。
  3. 前記上流側HCトラップ触媒の上流側に隣接して三元触媒を設けた請求項1に記載の排気浄化装置。
  4. 前記上流側HCトラップ触媒と三元触媒とを互いに共通の触媒容器に収容した請求項3に記載の排気浄化装置。
  5. 前記下流側HCトラップ触媒の下流側に隣接して三元触媒を設けた請求項1に記載の排気浄化装置。
  6. 前記HCトラップ触媒にそのセルを横断するようにスリットを形成した請求項5に記載の排気浄化装置。
  7. 前記三元触媒の下流側に隣接してHCトラップ触媒を設けた請求項6に記載の排気浄化装置。
  8. 前記三元触媒下流のHCトラップ触媒にそのセルを横断するようにスリットを形成した請求項7に記載の排気浄化装置。
  9. 前記下流側HCトラップ触媒と三元触媒とを互いに共通の触媒容器に収容した請求項5から請求項8の何れかに記載の排気浄化装置。
  10. 前記上流側のHCトラップ触媒は、エンジンの排気マニホールド付近に取り付ける請求項1に記載の排気浄化装置。
  11. 前記下流側のHCトラップ触媒は、車両搭載状態で車両の床下位置に取り付ける請求項5から請求項9の何れかに記載の排気浄化装置。
  12. 前記上流側HCトラップ触媒と下流側HCトラップ触媒とは、可撓性を有する排気管を介して接続した請求項11に記載の排気浄化装置。
  13. 前記上流側HCトラップ触媒と下流側HCトラップ触媒とは、途中に各HCトラップ触媒の相対運動を許容する自在管継手を備えた排気管を介して接続した請求項11に記載の排気浄化装置。
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