JP3882670B2 - 触媒コンバータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は主としてエンジンの排気浄化に適用される触媒コンバータに関し、特にHCトラップ機能を有する触媒コンバータの改良に関する。
【0002】
【従来の技術と解決すべき課題】
三元触媒を備えた排気浄化システムではエンジン冷間運転時のHCの処理が課題となっている。触媒が活性温度に達するまでは低温条件下での燃焼時に排出されやすいHCを十分に浄化できないからである。この問題を解決するものとして、特開平9−85049号にはHCトラップ剤を適用した浄化システムが提案されている。HCトラップ剤は排気ガス中のHCを一時的に捕捉しておく機能を持っており、捕捉されたHCは温度上昇に伴いトラップ剤から脱離する。そこで前記システムでは三元触媒の上流側にHCトラップ剤を設け、三元触媒が活性温度に達するまでのHCの排出を抑制するようにしている。しかしながら、捕捉されたHCがトラップ剤から脱離を開始する温度に達しても、この時点では下流側の三元触媒がまだ十分に活性化していないため、HCの排出を抑制する効果は十分ではない。
【0003】
本発明の目的は、エンジン冷間運転時においてもHCの排出を確実に抑制することのできる触媒コンバータを提供することである。
【0004】
【発明の概要】
本発明では、触媒担体にHCトラップ剤のコーティングを施した触媒コンバータにおいて、前記触媒担体のセルを横断するように1個以上のスリットを形成する。
【0005】
触媒担体に形成したスリットはその前後で触媒担体内の伝熱を遮断する作用を有するため、スリット下流への熱伝導が抑制され触媒担体全体として温度上昇が遅くなる。すなわちHCが脱離するまでの時間が長くなるので、それだけHCの捕捉量を増大させることができる。一方、その間に触媒金属の温度が上昇して転化率が高くなるので、HC脱離時の処理効率も向上する。
【0006】
他方、従来の触媒コンバータはハニカム状に形成された多数のセルの各々が担体の入口部から出口部にわたり連続しているためセル内のガスの流れは比較的整っており乱れは少ない。これに対して触媒担体にセルを横切るようにスリットを形成すると、このスリットにより流れ方向に分割されたセルに進入したガスはスリット部分で乱れを発生する。この乱れは、排気ガスがHCトラップ剤に接触する機会を増やすのでそれだけHCトラップ性能を向上させる。
【0007】
また、スリットを持たない連続したセル構造の触媒コンバータでは、触媒担体の断面上でガス流路の流量分布および昇温性に偏りがあり、言い換えればセル毎にHCトラップ性能や転化率に偏りを生じるため触媒コンバータが本来有している性能を使いきることは難しい。これに対してスリットを設けた触媒担体では前記乱流作用により触媒担体の断面方向でのガス流量分布を均一化できるので制御性が向上し、触媒コンバータ本来の性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0008】
スリットを複数設けることにより前記効果をより高めることができ、また詳しくは実施形態として後述するが、複数のスリットのガス流れ方向の分布やスリットの形状に応じてそれぞれに固有の特性を設定することができる。触媒担体にコーティングする触媒金属やHCトラップ剤についても同様であり、その分布や層構造の設定に応じて種々の特性を与えることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は本発明による触媒コンバータを適用したエンジンシステムの一例を示している。図において1はエンジン、2はその吸気通路、3は排気通路である。4は排気通路3から排気ガスの一部を吸気通路2へと還流させるEGR通路、5は前記排気還流量を制御するEGR制御弁である。7は燃料噴射弁、8は点火プラグである。
【0010】
9〜11は排気通路3に介装された触媒コンバータである。これら3個の触媒コンバータ9〜11は、基本的にはCO,HCの酸化機能とNOxの還元機能を併有する三元触媒であり、これらのうち何れかまたは全部はゼオライト等のHCトラップ剤によりHCを一時的に捕捉しておく機能を備えたHCトラップ触媒として構成されている。
【0011】
12と13はそれぞれ最上流の触媒コンバータ9の上流と下流にて排気ガスの空燃比もしくは酸素濃度を検出する排気ガスセンサ、14は中段の触媒コンバータ10の触媒温度を検出する温度センサである。
【0012】
15はエンジン回転速度や吸入空気量などの運転状態信号に基づいて空燃比および点火時期などを制御するコントローラであり、CPUおよびその周辺装置からなるマイクロコンピュータにより構成されている。
【0013】
図2以下に、前記触媒コンバータ9〜11に収装される触媒担体21の実施形態を示す。本発明では、基本的には図2に示したように触媒担体21のガス流れ(矢印方向)を横切るように1個以上のスリット22を形成する。触媒担体21をセラミクスから形成した場合には、その焼成後に研削によりスリット22を加工する。図示したものではスリット22を触媒の一側面側からガス流れに対して直交するように形成し、他側面側に非スリット部23を残している。また隣接するスリット22は互いに触媒担体21の周囲に180度ずつ異なる角度で、かつガス流れ方向には等間隔に形成してスリットと非スリット部とが交互に配列するようにしている。
【0014】
図3は、前記触媒担体21にガス流路として形成されたセル24の詳細であり、触媒担体21を図2の矢印方向から見た通路断面の部分拡大図である。セル24はハニカム状をなすように多数が形成されており、その表面には深層側にゼオライトなどのHCトラップ剤からなるHCトラップ層25が、表層側に三元触媒として機能するPt、Rh等の触媒金属層26がコーティングにより形成されている。
【0015】
図4は前記触媒コンバータ9〜11における触媒担体21の支持構造の一例を示している。図中の34は触媒容器、35はセラミクスファイバーあるいはアルミナファイバーなどからなる耐熱マットである。触媒担体21はその外周部に巻回された耐熱マット35を介して触媒容器34内に固定される。この実施形態では、スリット22の開放部分の外周を触媒担体21と同一の線膨張係数を有する充填材36で埋めてある。このように充填材36を設けることにより、スリット22を抜けてきた排気によりマット35が風蝕されて摩耗する不具合を防止することができる。また、触媒担体21と同一の線膨張係数を有する充填材36を用いることにより、触媒担体21の強度を確保できる。
【0016】
図5は前記触媒担体21の構成を最上流の触媒コンバータ9に適用した場合の効果を、スリットがない触媒担体との比較において示している。これはエンジンを冷間始動してからの経過時間に応じたエンジン回転数変化、触媒入口部でのHC量変化、触媒温度変化、HCトラップ収支を示している。エンジン始動直後は未着火燃料や不完全燃焼により定常アイドル運転時に比較すると多くのHCが燃焼室から排出される。このHCは大部分が触媒コンバータのHCトラップ層に捕捉され、その後HCトラップ層の温度が150℃程度に達すると捕捉されたHCがHCトラップ層から脱離を開始する。このとき触媒金属層が300℃程度の活性温度に達していれば脱離したHCは触媒反応により酸化処理される。
【0017】
本発明では、触媒担体21にスリット22を設けたことにより担体内の伝熱が抑制されるため、スリットを持たない担体に比較して担体全体の温度上昇が遅れ、それだけHCトラップ層25がHC脱離温度に達するまでの時間も長くなる。このことは担体に捕捉されるHC量を増大させるとともにHC脱離が開始されるまでの触媒金属層26の温度上昇量を大きくするのでHCの浄化性能も向上する。図にAで示したのは前記HC脱離温度に達するまでの遅れ時間tdの間のHC捕捉量の差を示しており、HC脱離開始後のB領域とC領域との差が浄化性能の向上分を表している。つまり、脱離して浄化しきれなかったHCの処理量が、スリット22を設けたことにより、B領域とC領域の差分だけ向上するのである。また、スリット22の部分を排気ガスが通過するときの乱流の作用により触媒コンバータに担持したトラップ剤がより有効に利用されるので、HCを捕捉する性能自体もスリットを持たないものより向上する。
【0018】
特に、セル24の深層側にHCトラップ層25を、表層側に触媒金属層26をそれぞれ積層した構成においては、スリット22を伴うことにより、HCトラップ層25がHC脱離温度に達するまでの時間を長くし、HC`脱離が開始されるまでの触媒金属層26の温度上昇量を大きくし、さらに前記乱流の作用によりHCトラップ層25へのHC捕捉効果を確保しつつ、触媒金属層26の活性を均一にできるので高い浄化性能が発揮される。触媒金属層26で生じる反応熱は既述したようにスリット22より下流側への伝達が抑制されるので、下流側HCトラップ層25の温度上昇が遅くなりHC捕捉性能が向上する。触媒金属層26はスリット22で仕切られた担体ブロック毎の熱容量が小さいので排気ガスの流入に伴い上流側から順に活性化しHC脱離時の浄化性能を向上させる。
【0019】
触媒担体21に複数のスリット22を垂直に形成した構成は、製造が比較的容易であることに加えて担体の強度確保の面で有利である。また、複数のスリット22をガス流れ方向に等間隔に配列した構成においては、排温によらずスリット前後の触媒部分でのHC捕捉時間を一定にしてHCトラップ性能を制御しやすい。スリット22を設ける数は、ガス流の乱流化と伝熱の抑制という観点からは多くした方が有効である。
【0020】
触媒担体21内部の伝熱がスリット22により抑制される作用はメタル担体であってもある程度は期待できるが、熱伝導率の比較的小さいセラミクス材料を担体として適用することでより顕著となる。セラミクス材はゼオライト等のHCトラップ剤との相性が良く、コーティングの強度が高いという利点もある。
【0021】
HCの捕捉量を増やすためにHCトラップ剤の担持量を増やすとセルの通路面積が小さくなりそれだけ排気抵抗が増大してしまう。この点、本発明では前述した乱流化および熱伝導抑制の効果によりHCトラップ性能が向上するのでセル密度を下げて排気抵抗の軽減を図ることも可能である。具体的には一般的な三元触媒のセル密度が900以上であるのに対して、本発明では300以下、少なくとも600以下にすることが可能である。前記セル密度の単位は担体横断面の面積1平方インチあたりのセル数であり、当業者による取引上の常用単位である。また、HCトラップ剤の担持量は、例えばセル密度が300のとき350程度、セル密度が600のとき250程度とする。前記担持量の単位はg/cfすなわち触媒担体の見かけ上の容積1立方フィートあたりのグラム数であり、当業者による取引上の常用単位である。
【0022】
図1に示したような複数の触媒コンバータ9〜11を備えた排気浄化システムでは、下流側に位置する触媒コンバータ10または11について、そのセル密度を上流側のものよりも小さくして排気抵抗を低減することができる。下流側の触媒は昇温性が低く活性温度に達するまでに時間がかかるが、本発明の触媒コンバータの構成によればHCトラップ性能を十分に高められるので、排気浄化性能を確保しつつセル密度を粗くして排気抵抗を小さくできるのである。
【0023】
前記と同様の効果は、複数の触媒担体を互いに隙間を空けてガス流れ方向に配列した構成においても得られるが、スリットを形成した本発明の構成の方が組立工数および個々の触媒担体の強度、耐久性の点で比較的有利である。
【0024】
図6はスリット22を触媒担体21の上流部(図の左方が上流、以下同様。)に偏在させた実施形態である。この実施形態では複数のスリット22のガス流れ方向の分布が上流側にて密となるように触媒担体21にスリット22を配列している。
【0025】
この実施形態によれば、同数のスリット22を等間隔で配列した場合に比較して、触媒担体21の比較的上流側での乱流作用を促進して、HCの捕捉、脱離性能を向上できる。スリット22の密度が高い部分では触媒金属層26の熱容量が小さくなるので、始動直後の排気温度が比較的低いエンジンであっても、前記乱流化の作用とあわせて、触媒金属層26の触媒成分の昇温、活性をより早めることができ、HC脱離時の浄化性能を高められる。スリット22よりも下流側については触媒担体への伝熱をより抑制してHCトラップ層25の昇温を抑え、HCトラップ性能を高められる。
【0026】
図7はスリット22を触媒担体21の下流部に偏在させた実施形態である。この実施形態では複数のスリット22のガス流れ方向の分布が下流側にて密となるように触媒担体21にスリット22を配列している。
【0027】
この実施形態によれば、触媒担体21の下流側の触媒金属層26の昇温が遅い場合に、同数のスリット22を等間隔で配列した場合に比較して触媒成分の活性を早く均一に高めることができる。始動直後の排気温度が比較的高いエンジンでは担体上流部のHCトラップ層25の温度上昇を抑えつつHCトラップ性能を向上させることができる。排気温度が高い場合は、表層側の触媒金属層26の昇温、活性はそれだけ速やかになるのでHC脱離時の浄化性能も確保される。
【0028】
図8はスリット22を触媒担体21の上流部と下流部に偏在させた実施形態である。この実施形態では複数のスリット22のガス流れ方向の分布が上流側と下流側において密、中間部において疎となるように触媒担体21にスリット22を配列している。
【0029】
この実施形態によれば、同数のスリット22を等間隔で配列した場合に比較して、担体中間部の触媒金属層26の熱容量が大きくなるので、担体中間部で触媒金属の温度が上昇しやすい場合に、当該中間部の触媒金属の温度上昇を抑制して触媒金属の活性を担体全域にわたり均一化することができる。上下流部においては乱流化および熱伝導抑制の作用によりHCのトラップおよび処理性能が向上する。
【0030】
図9は1個以上のスリット22を触媒担体21の中間部に偏在させた実施形態である。すなわちこの実施形態では複数のスリット22のガス流れ方向の分布が上流側と下流側において疎、中間部において密となるように触媒担体21にスリット22を配列している。
【0031】
この実施形態によれば、前記図8の実施形態とは対称的に、担体中間部の触媒金属層26の熱容量が比較的小さくなるので、中間部での触媒金属の昇温が遅い場合に、当該中間部の触媒金属の温度上昇を促して触媒金属の活性を担体全域にわたり均一化することができる。排気に直接晒されない下層側のHCトラップ層25についてはスリット22による伝熱抑制により温度上昇が抑えられる。
【0032】
図10は触媒担体21に等間隔に形成した複数のスリット22のうち上流部に位置するものの幅dを下流部のものよりも大とした実施形態である。
【0033】
この実施形態によれば、スリット幅dを大にした上流部での排気の乱流化をより促進できると共に伝熱抑制作用も大にできる。始動直後の排温が高く、担体上流部でHCトラップ層25が昇温しやすい場合に適合する。幅dの大きなスリット22の部分ではそれだけガスの乱れが大きいことによりその下流側での担体横断面方向のガス流量分布が均一となるので、HCトラップ性能、脱離HCの浄化性能ともに向上する。
【0034】
図11は触媒担体21に等間隔に形成した複数のスリット22のうち下流部に位置するものの幅dを上流部のものよりも大とした実施形態である。
【0035】
この実施形態によれば、スリット幅dを大にした下流部での排気の乱流化をより促進できると共に伝熱抑制作用も大にできる。担体下流部でHCトラップ層25が昇温しやすい場合に本構成を適用することにより、担体全体でのHCトラップ層25の昇温を抑えてHCトラップ性能を向上できる。
【0036】
図12は触媒担体21に形成した複数のスリット22のうち上流部と下流部に位置するものの幅dを中間部のものよりも大とした実施形態である。
【0037】
この実施形態によれば、担体上流部と下流部で排気の乱流化をより促進できると共に伝熱抑制作用も大にできる。担体上流部と下流部でHCトラップ層25が昇温しやすい場合に本構成を適用することにより、担体全体でのHCトラップ層25の昇温を抑えてHCトラップ性能を向上できる。担体上流部で大きなガス乱れを発生させられるので、その下流側での担体横断面方向のガス流量分布が均一となり、HCトラップ性能、脱離HCの浄化性能が向上する。
【0038】
図13は触媒担体21に形成した複数のスリット22のうち中間部に位置するものの幅dを上流部および下流部のものよりも大とした実施形態である。
【0039】
この実施形態によれば、担体中間部で排気の乱流化をより促進できると共に伝熱抑制作用も大にできる。担体中間部でHCトラップ層25が昇温しやすい場合に本構成を適用することにより、担体全体でのHCトラップ層25の昇温を抑えてHCトラップ性能を向上できる。
【0040】
図14は触媒担体21の両側面から対向的に、かつセルに対して垂直にスリット22を形成し、前記一対のスリットの中間に非スリット部23を設けた実施形態である。
【0041】
この実施形態によれば、非スリット部23を設けたことにより触媒担体21の強度を確保しやすい。
【0042】
図15は触媒担体21の両側面から交互に、かつセルに対してガス流れの上流側に傾斜するように複数のスリット22を形成した実施形態である。ガス流れ方向から見ると隣接するスリット22どうしが部分的に重畳するように交互に配列している。
【0043】
この実施形態によれば、傾斜したスリット22により担体内側から外側へとガスが拡散しやすくなるので、担体外側部分にデッドボリューム部つまりガスの流れが少なくHCトラップ剤および触媒金属の機能を十分に生かせない部分が生じる場合に本構成を適用することにより、デッドボリューム部を少なくすることができる。
【0044】
図16は触媒担体21の両側面から対向的に、かつセルに対してガス流れの上流側に傾斜するように複数のスリット22を形成した実施形態である。この実施形態では、ガス流れ方向から見ると隣接するスリット22どうしが重畳する部分はなく、非スリット部23が中央部に残っている。
【0045】
この実施形態によれば、図15のものと同様に担体外側域のデッドボリューム部を減らしつつ、中央の非スリット部23により触媒担体21の強度を高めることができる。
【0046】
図17は、スリット22を触媒担体21の両側面を貫通するように形成した実施形態である。
【0047】
この実施形態によれば、スリット22の両側に非スリット部23があるため触媒担体21の強度を寄り高められる。また、この実施形態ではスリット23の側面形状を上流側に頂部を向けた山形形状としてあるので、図15または図16のものと同様に担体外側域のデッドボリューム部を低減できる。
【0048】
図18は触媒担体21の両側面から交互に形成したスリット22の幅dを、担体内側に向かって狭くなるように楔状に形成した実施形態である。隣接するスリット22どうしはガス流れ方向から見て一部が重畳している。
【0049】
この実施形態によれば、担体外周域ほどスリット幅dが大となっているので、担体外周域のガス乱れをより促進してデッドボリューム部を減らすことができる。
【0050】
図19は図18と同様の楔状のスリット22を、隣接するスリット22どうしがガス流れ方向から見て重畳しないように形成した実施形態である。
【0051】
この実施形態によれば、図18のものと同様に担体外側域のデッドボリューム部を減らしつつ、中央の非スリット部23により触媒担体21の強度を高めることができる。
【0052】
図20は触媒担体21の両側面を貫通するようにスリット22を形成した実施形態である。担体横断面上、各スリット22の両側に非スリット部23が残っている。また、各スリット22はその幅dが中央部ほど大となるように多角形状に形成してある。
【0053】
この実施形態によれば、スリット22の中央の幅広部分により担体内側域でのガスの乱れが大きくなるので、担体内側部分にデッドボリューム部が生じる場合に本構成を適用することによりデッドボリューム部を少なくすることができる。また、スリット22の両側に非スリット部23があるので触媒担体21の強度上も有利である。
【0054】
図21は触媒担体21の両側面を貫通するように、かつガス流れの上下流方向に複数の頂部を有する屈曲形状にスリット22を形成した実施形態である。
【0055】
この実施形態によれば、屈曲したスリット形状により担体中央部でのガス流れを複雑化してその乱れをより大きくできるので、担体のデッドボリューム部を効果的に減らすことができる。また、スリット両側の非スリット部23により担体強度を確保できる。
【0056】
図22は触媒担体21の両側面を貫通するように、かつガス流れの上流方向に凸の湾曲形状にスリット22を形成した実施形態である。
【0057】
この実施形態によれば、図17のものと同様に担体のデッドボリューム部を減らす効果が得られることに加えて、スリット22が湾曲形状であって鋭角部分がないため、触媒担体21が振動や衝撃力を受けたときに応力集中を起こしにくく、強度上有利である。
【0058】
図23〜図32は、触媒担体21にコーティングする触媒金属またはHCトラップ剤の担持量の分布に関する実施形態を示す。担持量とは触媒金属またはHCトラップ剤の密度または重量を意味する。また以下の説明または図では担持量が上下流方向に段階的に変化するように表しているが、これに限らず、担持量が連続的に変化するような構成とすることもできる。
【0059】
図23は、触媒担体21の全体に均一に触媒金属M(ハッチング部)を担持した実施形態である。
【0060】
この実施形態によれば、前述したスリットによるガス乱流化と担体内の伝熱抑制の効果により捕捉した多量のHCを高効率で処理でき、多くの場合に安定した排気浄化性能が得られる。
【0061】
図24は、触媒金属Mの担持量が触媒担体21上流部において大となるようにした実施形態である。
【0062】
この実施形態によれば、触媒入口部で早期に触媒活性を高められるので、始動直後の排温が低いエンジンであっても、HC脱離後の浄化性能を確保しやすい。また下流側のHCトラップ剤へのHC捕捉量を低減してその全体量を減らすことができる。前述した触媒の早期活性により担体上流部の昇温が促進しても、スリット22により伝熱が抑制されるので、HCトラップ剤の量を減らしたとしても担体下流部でのHC捕捉性能は確保できる。
【0063】
図25は、触媒金属Mの担持量が触媒担体21の下流部において大となるようにした実施形態である。
【0064】
この実施形態によれば、担体下流部での触媒活性と浄化が促進される。この担体下流部での温度上昇はスリット22により上流側へ伝わることなく、上流部の担体温度は比較的低く抑えられ、HCトラップ性能は確保される。
【0065】
図26は、触媒金属Mの担持量が触媒担体21の中間部に比較して上流部と下流部において大となるようにした実施形態である。
【0066】
この実施形態は、前記図24と図25の実施形態の特徴を併せ持っており、すなわち担体上流部と下流部とで触媒活性と浄化とが促進される。担体中間部の温度が上昇しやすい場合に本構成を適用することで、触媒全体を適切な温度条件下で機能させることができる。
【0067】
図27は、触媒金属Mの担持量が触媒担体21の中間部に比較して上流部と下流部において小となるようにした実施形態である。
【0068】
この実施形態では、担体中間部での触媒活性と浄化とが促進される。中間部よりも下流側への伝熱はスリット22により抑制されるので、当該下流部の昇温を抑えてHCトラップ性能を確保できる。担体中間部の温度上昇が遅い場合に本構成を適用することで、触媒全体を適切な温度条件下で機能させることができる。
【0069】
図28は、触媒担体21の全体に均一にHCトラップ剤Tを担持した実施形態である。
【0070】
この実施形態によれば、前述したスリットによるガス乱流化と担体内の伝熱抑制の効果により多量のHCを安定して捕捉することができ、多くの場合に安定した排気浄化性能が得られる。
【0071】
図29は、HCトラップ剤Tの担持量が触媒担体21上流部において大となるようにした実施形態である。
【0072】
この実施形態によれば、担体上流部でのHCトラップ剤の担持量を大としたことで担体上流部の熱容量が大きくなるので、始動直後の排温が高いエンジンの場合に、HC脱離のタイミングを遅らせて表層側の触媒金属の活性タイミングと合わせることができ、HC脱離時の浄化性能を向上できるとともに触媒全体の容量を小さくすることができる。
【0073】
また、始動直後の排温が低いエンジンでは表層の触媒金属も活性化しにくいので、このように上流部にHCトラップ剤を集中させた構成とすることで触媒金属の活性タイミングにHC脱離タイミングを合わせてHC脱離時の浄化性能を向上させ、触媒容量を減じることが可能である。
【0074】
前記何れの場合も、担体下流部にはスリット22により伝熱が抑制されるので、当該下流部分のHCトラップ剤の量を相対的に減らしたとしてもHCトラップ性能は確保できる。
【0075】
図30は、HCトラップ剤Tの担持量が触媒担体21の下流部において大となるようにした実施形態である。
【0076】
この実施形態によれば、HCトラップ剤の担持量を大とした担体下流部の熱容量が大きくなるので、始動直後の排温が高いエンジンにおいて、スリット22による伝熱抑制作用とあわせて担体下流部の温度上昇を遅らせることができ、これによりHCの脱離タイミングを触媒活性化のタイミングに合致するように遅らせることができる。
【0077】
図31は、HCトラップ剤Tの担持量が触媒担体21の中間部に比較して上流部と下流部において大となるようにした実施形態である。
【0078】
この実施形態は、前記図29と図30の実施形態の特徴を併せ持っており、すなわち担体上流部と下流部の熱容量を大としてHC脱離と触媒活性化のタイミングをコントロールすることができる。たとえば担体上流部と下流部が温度上昇しやすい場合に本構成を適用することで、触媒全体を適切な温度条件下で機能させることができる。
【0079】
図32は、HCトラップ剤の担持量が触媒担体21の中間部に比較して上流部と下流部において小となるようにした実施形態である。
【0080】
この実施形態では、担体中間部の熱容量が大きくなり、HCトラップ量が増大する。中間部よりも下流側への伝熱はスリット22により抑制されるので、当該下流部の昇温を抑えてHCトラップ性能を確保できる。担体中間部の温度上昇が早い場合に本構成を適用することで、触媒全体を適切な温度条件下で機能させることができる。
【0081】
図33と図34は担体の配列に関する実施形態である。図33は、複数のスリット22を備えた触媒担体21の上流側にHCトラップ触媒28を隣接して配置した実施形態である。
【0082】
この実施形態によれば、HCトラップ剤と触媒金属とを担持した触媒担体21の上流側にHCトラップ触媒28を隣接して配置したことにより、担体21からの触媒反応熱の伝達を確実に遮断してHCトラップ触媒28のHCトラップ性能を向上できる。
【0083】
なおHCトラップ触媒28に代えて三元触媒を適用した場合には、当該三元触媒が下流側触媒のHC脱離タイミングよりも早期に活性化するように熱設計をしておくことにより、排気脈動により下流側から逆流してきた排気中の脱離HCを触媒間の隙間部分で拡散しつつ上流側触媒にて浄化することができる。
【0084】
図34は、前記上流側のHCトラップ触媒28をガス流れ方向に二分割された第1担体28aと28bとから構成した実施形態である。
【0085】
この実施形態によれば、前記図33のものと同様な効果が得られることに加えて、上流側のHCトラップ触媒28においても熱伝導抑制と乱流化の作用を得てHCトラップ性能をより向上させることができる。
【0086】
上流側の分割構成の触媒として三元触媒を適用した場合には、図33の場合と同様にその活性化のタイミングを適切に設定することにより排気脈動を利用して下流側触媒からの脱離HCを処理できる。
【0087】
図35〜図37は、HCトラップ剤または触媒金属のコーティング層の構成に関する実施形態である。図35は、HCトラップ層25を互いに特性が異なる複数の層25aと25bから構成した実施形態である。図36は、HCトラップ層25に隣接してアルミナ等からなる断熱層29を形成した実施形態である。図37は、触媒金属層26を互いに特性が異なる複数の層26aと26bから構成した実施形態である。前記触媒金属層26aと26bの組み合わせとしては、例えば表層26aにPdを適用した場合には、深層26bはPd−Rh系、またはPt−Rh系、または比較的低密度のPd層とする。
【0088】
これらの実施形態によれば、触媒担体やHCトラップ剤の特性による昇温性に応じてHC脱離タイミングまたは触媒金属の活性タイミングを適切に制御することが可能となる。
【0089】
なお、以上の各図はスリットの形成態様や触媒コンバータの構造を説明するための図面であり、スリットの幅、ピッチなどは説明の便宜のために実際とは異なる寸法または比率で描いてある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による触媒コンバータを適用したエンジンシステムの一例を示す概略構成図。
【図2】本発明による触媒担体の実施形態を示す形状説明図。
【図3】前記触媒担体のセル部分の詳細を示す横断面図。
【図4】本発明による触媒コンバータの担体支持構造の一例を示す縦断面図。
【図5】本発明による効果を、スリットがない従来の触媒担体との比較において示した特性線図。
【図6】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図7】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図8】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図9】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図10】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図11】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図12】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図13】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図14】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図15】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図16】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図17】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図18】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図19】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図20】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図21】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図22】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図23】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図24】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図25】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図26】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図27】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図28】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図29】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図30】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図31】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図32】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図33】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図34】本発明による触媒担体の他の実施形態の側面図。
【図35】本発明による触媒担体の他の実施形態のセル部詳細断面図。
【図36】本発明による触媒担体の他の実施形態のセル部詳細断面図。
【図37】本発明による触媒担体の他の実施形態のセル部詳細断面図。
【符号の説明】
1 エンジン
2 吸気通路
3 排気通路
9〜11 触媒コンバータ
21 触媒担体
22 スリット
23 非スリット部
24 セル
25 HCトラップ層
26 触媒金属層
28 HCトラップ触媒
29 断熱層
34 触媒容器
Claims (40)
- 触媒担体にHCトラップ剤のコーティングを施した、エンジンの排気を浄化する触媒コンバータにおいて、
前記触媒担体のセルを横断するようにスリットを形成したことを特徴とする触媒コンバータ。 - 前記スリットを触媒担体のガス流れ方向に複数配列した請求項1に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットを等間隔に配列した請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットを触媒担体の上流部に偏在させた請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットを触媒担体の下流部に偏在させた請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットを触媒担体の上流部と下流部に偏在させた請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットを触媒担体の中間部に偏在させた請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットのうち、上流側のものの幅を下流側のものに比較して大とした請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットのうち、下流側のものの幅を上流側のものに比較して大とした請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットのうち、上流側と下流側のものの幅をこれらの中間に位置するものよりも大とした請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットのうち、中間に位置するものの幅をその上流側または下流側に位置するものよりも大とした請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットは触媒担体外周の相対する位置から対向的に、かつセル内のガス流れに対して垂直に形成した請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットは触媒担体外周の相対する位置から対向的に、かつセル内のガス流れに対して傾斜して形成した請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記相対するスリットはガス流れ方向から見て互いに重畳しないように形成した請求項12または請求央13に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットを触媒担体の両側面を貫通するように形成した請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記複数のスリットは触媒担体の外周から内側に向かって次第に幅が狭くなる形状に形成した請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットは触媒担体の相対する位置から対向的に、かつガス流れ方向から見て互いに重畳しないように複数個を形成した請求項16に記載の触媒コンバータ。
- 前記貫通したスリットは貫通方向から見て触媒担体の外周から内側に向かって次第に幅が広くなる形状に形成した請求項15に記載の触媒コンバータ。
- 前記貫通したスリットは貫通方向から見て上下流方向に複数の頂部を有する屈曲形状に形成した請求項15に記載の触媒コンバータ。
- 前記貫通したスリットは貫通方向から見て上流側に凸の湾曲形状に形成した請求項15に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体には触媒金属を均一に担持させた請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体は触媒金属の担持量が上流部において大となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体は触媒金属の担持量が下流部において大となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体は触媒金属の担持量が中間部に比較して上流部と下流部において大となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体は触媒金属の担持量が中間部に比較して上流部と下流部において小となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体にはHCトラップ剤を均一に担持させた請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体はHCトラップ剤の担持量が上流部において大となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体はHCトラップ剤の担持量が下流部において大となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体はHCトラップ剤の担持量が中間部に比較して上流部と下流部において大となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体はHCトラップ剤の担持量が中間部に比較して上流部と下流部において小となるようにした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記スリットを備えた触媒担体の上流側にHCトラップ触媒を隣接して配置した請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記HCトラップ触媒は、ガス流れ方向に分割された複数の触媒担体から構成した請求項31に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体はセラミクスから構成した請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体には、下層側にHCトラップ剤を、上層側に触媒金属を、それぞれコーティングした請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記HCトラップ層は互いに特性が異なる複数の層からなる請求項34に記載の触媒コンバータ。
- 前記HCトラップ層にアルミナからなる断熱層を形成した請求項34に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒金属層は互いに特性が異なる複数の層からなる請求項34に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体のセル密度は600以下である請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
- 前記触媒担体のセル密度は上流側に位置する他の触媒よりも小とする請求項38に記載の触媒コンバータ。
- 前記HCトラップ剤のコーティング量は250[g/cf]以上である請求項1または請求項2に記載の触媒コンバータ。
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