JP3823896B2 - 排気浄化装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は主としてエンジンの排気浄化に適用される排気浄化装置に関し、特にHCトラップ機能を有する排気浄化装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術と解決すべき課題】
三元触媒を備えた排気浄化システムではエンジン冷間運転時のHCの処理が課題となっている。触媒が活性温度に達するまでは低温条件下での燃焼時に排出されやすいHCを十分に浄化できないからである。この問題に対応するものとして、ゼオライト等のHC吸着剤により排気中のHCを一時的に吸着しておく機能を有するHCトラップ触媒を三元触媒に隣接して設けたシステムが知られている(特開平10‐317949号公報)。これはHCトラップ剤により、触媒金属が活性温度に達するまでのHCの排出を抑制しようとするものである。しかしながら、捕捉されたHCが吸着剤から脱離を開始する温度に達しても、この時点では通常は触媒金属がまだ十分に活性化していないため、HCの排出を抑制する効果は必ずしも十分ではない。
【0003】
【発明の概要】
本発明は、エンジンの排気系に、上流側に三元触媒が、下流側にHCトラップ触媒が位置するように前記各触媒を隣接して配置する。さらに、前記下流側に位置するHCトラップ触媒のハニカム状担体にはそのセルを横断するようにスリットを形成する。
【0004】
担体にスリットを形成したHCトラップ触媒の構成においては、スリットがその前後で担体内の伝熱を遮断する作用を有するため、スリットよりも下流への熱伝導が抑制され、触媒担体全体として温度上昇が遅くなる。すなわちHCが脱離するまでのタイミングも遅くなる。このようにしてHCトラップ触媒でのHC脱離タイミングが遅延する間に上流側に隣接する三元触媒の触媒金属の温度が上昇して転化率が高くなるので三元触媒の早期活性化と同等の効果が得られ、それだけ三元触媒を小型化し、またはその触媒金属の担持量を低減することができる。
【0005】
また、通常はHCトラップ剤から脱離したHCはHCトラップ触媒の触媒金属層にて浄化されるが、本発明のように上流側に隣接する三元触媒の昇温時間を確保してHCトラップ触媒でのHC脱離タイミングよりも早期に活性化させておくことで、排気の脈動によりHCトラップ触媒から三元触媒へと排気が逆流したときに、脱離HCをHCトラップ触媒のスリット部で拡散しつつ上流側三元触媒で確実に浄化することができる。
【0006】
なお、触媒担体にスリットを設けるとこのスリット部分でガス流れに乱れを生じる。この乱れは、排気ガスがHC吸着剤に接触する機会を増やすのでHCトラップ性能自体を向上させる。また、スリットを設けた構成では前記乱流作用により担体の断面方向でのガス流量分布を均一化できるので制御性が向上し、排気浄化装置本来の性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0007】
HCトラップ触媒の下流側に隣接して三元触媒を、さらに他のHCトラップ触媒を配置した構成を付加してもよく、これによりそれぞれの構成に固有の有益な特性を与えることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は本発明による排気浄化装置を適用したエンジンシステムの一例を示している。図において1はエンジン、2はその吸気通路、3は排気通路である。4は排気通路3から排気ガスの一部を吸気通路2へと還流させるEGR通路、5は前記排気還流量を制御するEGR制御弁である。7は燃料噴射弁、8は点火プラグである。
【0009】
9と10は排気通路3に介装したHCトラップ触媒である。これら2個の触媒9,10は、CO,HCの酸化作用とNOxの還元作用を併有する三元触媒として機能すると共に、ゼオライト等のHC吸着剤によりHCを一時的に捕捉しておく機能を備えている。上流側に位置する触媒9は、排気通路の一部を構成する排気マニフォールド3aの出口部に取り付けてある。一方、下流側に位置する触媒10は上流側触媒9に対して排気管3bを介して離隔した位置に設ける。このエンジンシステムを車両に搭載した場合、前記下流側の触媒10は通常は車体床下またはエンジンオイルパンの高さに位置する。
【0010】
12と13はそれぞれ上流側触媒9の上流と下流にて排気ガスの空燃比もしくは酸素濃度を検出する排気ガスセンサ、14は下流側触媒10の触媒温度を検出する温度センサである。15はエンジン回転速度や吸入空気量などの運転状態信号に基づいて空燃比および点火時期などを制御するコントローラであり、CPUおよびその周辺装置からなるマイクロコンピュータにより構成されている。
【0011】
図2以下に、前記触媒9または10に収装されるスリット付き触媒担体21の実施形態を示す。本発明では、少なくとも上流側に位置する触媒9について、図2に示したように触媒担体21のガス流れ(矢印方向)を横切るように1個以上のスリット22を形成したものを適用する。図示したものではスリット22を触媒の一側面側からガス流れに対して直交するように形成し、他側面側に非スリット部23を残している。また隣接するスリット22は互いに触媒担体21の周囲に180度ずつ異なる角度で、かつガス流れ方向には等間隔に形成してスリットと非スリット部とが交互に配列するようにしている。
【0012】
図3は、前記触媒担体21にガス流路として形成されたセル24の詳細であり、触媒担体21を図2の矢印方向から見た通路断面の部分拡大図である。セル24はハニカム状をなすように多数を形成されている。セル24の表面には、深層側にゼオライトなどのHCトラップ剤からなるHCトラップ層25を、表層側に三元触媒として機能するPt、Rh等の触媒金属層26をコーティングにより形成してある。
【0013】
図4は前記触媒9の担体21の支持構造の一例を示している。図中33は三元触媒のハニカム状触媒担体、34は触媒容器、35はセラミクスファイバーあるいはアルミナファイバーなどからなる耐熱マットである。図中左方が上流側であり、矢印は排気の流れ方向を示している。HCトラップ触媒の触媒担体21は前記三元触媒担体33の下流側に隣接するように配置され、各担体33,21はそれぞれその外周部に巻回された耐熱マット35を介して触媒容器34内に固定される。この実施形態では、スリット22の開放部分および隣接する三元触媒担体33との隙間部分の外周を触媒担体21と同一の線膨張係数を有する充填材36で埋めてある。このように充填材36を設けることにより、スリット22を抜けてきた排気によりマット35が風蝕されて摩耗する不具合を防止することができる。また、触媒担体21と同一の線膨張係数を有する充填材36を用いることにより、触媒担体21の強度を確保している。
【0014】
エンジン始動直後は未着火燃料や不完全燃焼により定常アイドル運転時に比較すると多くのHCが燃焼室から排出される。このHCは大部分が触媒のHCトラップ層に捕捉され、その後HCトラップ層の温度が150℃程度に達すると捕捉されたHCがHCトラップ層から脱離を開始する。このとき触媒金属層が300℃程度の活性温度に達していれば脱離したHCは触媒反応により酸化処理される。
【0015】
本発明では、触媒担体21にスリット22を設けたことにより担体内の伝熱が抑制されるため、スリットを持たない担体に比較して担体全体の温度上昇が遅れ、それだけHCトラップ層がHC脱離温度に達するまでの時間も長くなる。このことは担体に捕捉されるHC量を増大させるとともにHC脱離が開始されるまでの各触媒9,10の触媒金属層の温度上昇量を大きくするのでHCの浄化性能も向上する。また、スリット22の部分を排気ガスが通過するときの乱流の作用により触媒コンバータに担持したトラップ剤がより有効に利用されるので、HCを捕捉する性能自体もスリットを持たないものより向上する。
【0016】
図1において排気マニフォールド3aの直後に位置する上流側触媒9においては、特にセル24の深層側にHCトラップ層25を、表層側に触媒金属層26をそれぞれ積層した構成により、スリット22を伴うことにより、HCトラップ層25がHC脱離温度に達するまでの時間を長くし、HCの脱離が開始されるまでの触媒金属層26の温度上昇量を大きくし、さらに前記乱流の作用によりHCトラップ層25へのHC捕捉効果を確保しつつ、触媒金属層26の活性を均一にできるので高い浄化性能が発揮される。触媒金属層26で生じる反応熱は既述したようにスリット22より下流側への伝達が抑制されるので、下流側HCトラップ層25の温度上昇が遅くなりHC捕捉性能が向上する。触媒金属層26は、スリット22で仕切られた担体ブロック毎の熱容量が小さいので排気ガスの流入に伴い上流側から順に活性化しHC脱離時の浄化性能を向上させる。
【0017】
前記三元触媒は排気マニフォールド3aの直後に位置するため昇温が早く、一方HCトラップ触媒はその下流側に位置するので昇温を遅らせてHC吸着性能を確保することができる。この構成において、HCトラップ触媒の熱容量をその上流側に位置する三元触媒よりも大とすることにより、HCトラップ触媒の昇温がさらに遅くなるので、HC脱離までの時間を遅らせつつ三元触媒の活性化を早めるという相反する要求を満足させることがより容易になる。
【0018】
次に、本発明の他の実施形態につき説明する。図5〜図12はそれぞれ本発明の第2〜第9の実施形態を模式的に表している。
【0019】
図5は前記HCトラップ触媒(担体)21の下流側に隣接して第2の三元触媒33aを設けたものである。前述したスリット付き担体21でのHC脱離遅延化によりその下流側に隣接する三元触媒33aの触媒金属の活性化が進むので、仮に上流側触媒で処理しきれないHCが放出されたとしてもこれを三元触媒33aの部分で確実に処理することができる。また、スリットでの乱流化により三元触媒33aでの触媒と排気との接触機会が増大するため、三元触媒としての昇温性および浄化性能も向上する。
【0020】
前記HCトラップ触媒21の熱容量を三元触媒33aよりも大とすることで、HCトラップ触媒21での昇温遅延化と三元触媒33aでの昇温促進という相反する要求を満たすことができる。さらに最上流に位置する三元触媒33の熱容量を下流側三元触媒33aよりも小とすることで、HCトラップ触媒の昇温を抑制しつつ、三元触媒33,33aの昇温および活性化をより促進することができる。または、下流側三元触媒33aの熱容量を上流側三元触媒33よりも小に設定すると、下流側三元触媒33aの活性化が早くなるので、上流側触媒で処理しきれないHCが発生したときの浄化性能を向上させることができる。
【0021】
図6は図5の構成において、第2の三元触媒33aの下流側に隣接して第2のHCトラップ触媒21aを設けたものである。この実施形態によれば、図5に示した実施形態による効果に加えて、第2のHCトラップ触媒21aを設けたことで、HC処理の確実性をより高めることができる。スリットによるガス乱流化により第2のHCトラップ触媒21aのHC吸着性能も向上する。
【0022】
図7は図6の第2のHCトラップ触媒(担体)21aに図2と同様にスリット22を形成したものである。この実施形態によれば、図6に示した実施形態による効果に加えて、HC脱離までの遅延時間およびガス接触機会をさらに増大してHC吸着量を増やし、触媒金属の活性化促進、転化効率の向上を図ることができる。
【0023】
図8は、図1の構成において床下位置の第2の触媒10として、上流側にHCトラップ触媒21bを、下流側に三元触媒33bをそれぞれ互いに隣接するように配置した構成である。この実施形態によれば、マニフォールド位置の第1の触媒9での前述した昇温抑制作用により、下流側に離隔している第2の触媒10にて高いHC吸着性能が得られる。また隣接する三元触媒33bにより、HCトラップ触媒21bの触媒金属層で処理しきれなかったHCの処理を行うことができる。
【0024】
図9は、図8の構成において、HCトラップ触媒(担体)21bに図2と同様にスリット22を形成したものである。この実施形態によれば、図8に示した実施形態による効果に加えて、スリット22での伝熱抑制作用とガス乱流化作用により、HCトラップ触媒21bのHC吸着性能をより高めることができる。
【0025】
図10は、図9の構成において、三元触媒33bの下流側に隣接してさらにHCトラップ触媒21cを配置した構成である。この実施形態によれば、上流側触媒にて処理しきれないHCが放出されたとしてもこれを確実に吸着および浄化することができる。
【0026】
図11は、図9の下流側HCトラップ触媒(担体)21cに図2と同様にスリット22を形成した構成である。この実施形態によれば、図10に示した実施形態による効果に加えて、下流側HCトラップ触媒21cでのHC吸着性能をより高めることができる。
【0027】
図12は、図9の構成において、下流側HCトラップ触媒担体21cの下流側に隣接してさらに三元触媒33cを配置した構成である。この実施形態によれば、図11に示した実施形態による効果に加えて、処理しきれないHCが生じたときの浄化性能をより高められる。特に、最下流の三元触媒33cは上流側に2個のスリット付きHCトラップ触媒21b、21cが位置してこれらが大きな伝熱抑制作用を発揮するため、触媒活性化の時間を十分に確保することができ、それだけ三元触媒としての性能を高めることができる。
【0028】
図13と図14は、マニホールド側触媒9と床下側触媒10とを接続する排気管3bの構造に関する実施形態である。図13は排気管3bの途中部分に可撓性を有する蛇腹状のフレキシブルチューブ3cを適用したもの、図14は配管3bの途中に各触媒9,10の相対回転を可能にする自在管継手3dを適用したものである。前記フレキシブルチューブ3cまたは自在管継手3dを適用することにより、エンジン運転時の触媒9と触媒10との間の相対運動を許容できることに加えて、フレキシブルチューブ3cまたは管継手3dが排気管3bの熱容量を大きくする作用を有することから、下流側のHCトラップ触媒の浄化性能を向上させるうえで有利になる。
【0029】
前記各実施形態では触媒9または10において隣接する複数の触媒担体同士を共通の容器に収容した構成を前提としているが、これに限らず、担体を個々に容器に収容してそれぞれを隣接配置した構成とすることもできる。ただし、共通容器に複数の担体を隣接配置した構成とすることにより、装置全体を小型化できることに加えて、隣接する担体間の隙間により排気ガスの乱流化作用が得られるので、HC吸着性能または触媒の転化効率を高められるという効果が得られる。
【0030】
なお、以上の各図はスリットの形成態様や触媒コンバータの構造を説明するための図面であり、触媒担体の大きさ、スリットの幅およびピッチなどは説明の便宜のために実際とは異なる寸法または比率で描いてある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による排気浄化装置を適用したエンジンシステムの一例を示す概略構成図。
【図2】本発明による排気浄化装置の第1の実施形態の触媒担体形状を示す説明図。
【図3】前記触媒担体のセル部分の詳細を示す横断面図。
【図4】前記触媒担体の支持構造の一例を示す縦断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態の模式図。
【図6】本発明の第3の実施形態の模式図。
【図7】本発明の第4の実施形態の模式図。
【図8】本発明の第5の実施形態の模式図。
【図9】本発明の第6の実施形態の模式図。
【図10】本発明の第7の実施形態の模式図。
【図11】本発明の第8の実施形態の模式図。
【図12】本発明の第9の実施形態の模式図。
【図13】本発明の第10の実施形態の概略構成図。
【図14】本発明の第11の実施形態の概略構成図。
【符号の説明】
1 エンジン
2 吸気通路
3 排気通路
3a 排気マニフォールド
3b 排気管
3c フレキシブルチューブ
3d 管継手
9、10、19 HCトラップ触媒
17、18 三元触媒
21 HCトラップ触媒(担体)
22 スリット
24 セル
25 HCトラップ層
26 触媒金属層
33 三元触媒(担体)
34 触媒容器

Claims (17)

  1. エンジンの排気系に、上流側に三元触媒が、下流側にHCトラップ触媒が位置するように前記各触媒を隣接して配置し、
    前記下流側に位置するHCトラップ触媒のハニカム状担体にそのセルを横断するようにスリットを形成したことを特徴とする排気浄化装置。
  2. 前記HCトラップ触媒の下流側に隣接してさらに三元触媒を設けた請求項1に記載の排気浄化装置。
  3. 前記下流側三元触媒の下流側に隣接してさらにHCトラップ触媒を設けた請求項2に記載の排気浄化装置。
  4. 前記下流側HCトラップ触媒のハニカム状担体にそのセルを横断するようにスリットを形成した請求項3に記載の排気浄化装置。
  5. 前記隣接する三元触媒とHCトラップ触媒をエンジンの排気マニホールド付近に設けた請求項1に記載の排気浄化装置。
  6. 前記HCトラップ触媒の熱容量をその上流側に位置する三元触媒よりも大とした請求項1に記載の排気浄化装置。
  7. 前記HCトラップ触媒の熱容量を、その下流側に位置する三元触媒よりも大とした請求項2に記載の排気浄化装置。
  8. 触媒の熱容量を、前記HCトラップ触媒、下流側三元触媒、上流側三元触媒の順に大とした請求項2に記載の排気浄化装置。
  9. 触媒の熱容量を、前記HCトラップ触媒、上流側三元触媒、下流側三元触媒の順に大とした請求項2に記載の排気浄化装置。
  10. 車両搭載状態で車両の床下高さ付近に位置するように、上流側にHCトラップ触媒が、下流側に三元触媒が位置するように前記各触媒を隣接して配置した請求項5に記載の排気浄化装置。
  11. 前記三元触媒の下流側に隣接してさらにHCトラップ触媒を設けた請求項10に記載の排気浄化装置。
  12. 前記HCトラップ触媒のハニカム状担体にそのセルを横断するようにスリットを形成した請求項10または請求項11に記載の排気浄化装置。
  13. 前記下流側HCトラップ触媒の下流側に隣接してさらに三元触媒を設けた請求項11に記載の排気浄化装置。
  14. 前記隣接するHCトラップ触媒と三元触媒とを互いに共通の触媒容器に収容した請求項1または請求項10に記載の排気浄化装置。
  15. 前記HCトラップ触媒は、HC吸着剤を含むHCトラップ層が深層側に、触媒金属を含む触媒金属層が表層側となるように層状に形成した請求項1に記載の排気浄化装置。
  16. 前記排気マニホールド付近に設けた触媒と床下位置に設けた触媒とを、可撓性を有する排気管を介して接続した請求項6に記載の排気浄化装置。
  17. 前記排気マニホールド付近に設けた触媒と床下位置に設けた触媒とを、途中に各触媒の相対運動を許容する自在管継手を備えた排気管を介して接続した請求項6に記載の排気浄化装置。
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