JP4346354B2 - 圧粉コア - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧粉コアに関するものであり、特に、インダクタンスL及び性能係数Qが向上した圧粉コアに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、TM-Al-Ga-P-C-B-Si系等(TMはFe、Co、Ni等の遷移金属元素)の組成からなる合金は、合金溶湯を急冷することにより非晶質相を形成し、これらは非晶質軟磁性合金を形成するものとして知られている(例えば、特許文献1、3参照。)。特に、この非晶質軟磁性合金のうち特定の組成のものは、結晶化の前の温度領域において広い過冷却液体の状態を有し、いわゆる金属ガラス合金(glassy alloy)を構成するものとして知られている。特許文献1には、金属ガラス合金の一例が開示されている。金属ガラス合金は軟磁気特性に優れるため、トランスやインダクタのコア材料として有望である。
【0003】
圧粉コアの構成材料として上記の金属ガラス合金を用いる場合、通常、粉末状の金属ガラス合金を結着材などとともに固化成形して圧粉コアとしている。結着材としては、例えば特許文献2及び3に記載されているように、ブチラール樹脂やブチラールフェノール樹脂、あるいはシリコーン樹脂などが用いられる。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−249802号公報
【特許文献2】
特開平5−62850号公報
【特許文献3】
特開平11−312604号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、トランスやインダクタに用いる圧粉コアは、一対の半コアを接合するための接着剤や、コア表面保護のための保護層にエポキシ樹脂などが一般に用いられている。
【0006】
しかし、エポキシ樹脂は、ガラス転移点及び弾性率がいずれも比較的高いものであるため、樹脂自体に内部応力が蓄積されやすく、圧粉コアを構成する軟磁性合金が本来有する磁気特性を劣化させ、圧粉コアのインダクタンスLや性能係数Qが低下するといった問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、インダクタンスL及び性能係数Qに優れた圧粉コアを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の圧粉コアは、軟磁性合金粉末が結着材によって固化成形されてなるとともにブチラール樹脂をフェノールで架橋したブチラールフェノール樹脂からなる保護層により全体が被覆されてなり、かつ前記軟磁性合金粉末がΔTx=Tx−Tg(ただしTxは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度を示す。)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxが20K以上を示す非晶質相からなり、Feと、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auの中から選択される1種以上の元素Mと、P、C、Bを少なくとも含む軟磁性合金からなるものであることを特徴とする。
【0009】
保護層として用いるブチラールフェノール樹脂は、ガラス転移温度及び弾性率が比較的低いので、保護層自体に内部応力が蓄積されるおそれがなく、圧粉コアのインダクタンスL及び性能係数Qを向上させることができる。特に、上記の軟磁性合金粉末は、大きな磁歪定数を有するという性質があるので、半コア同士の接合部での歪み発生を防止することで、上記軟磁性合金が本来有する磁気特性が損なわれず、インダクタンスL及び性能係数Qを大きく向上させることができる。
また、圧粉コアの全面に保護層が形成されているので、圧粉コアの抗折強度が向上し、圧粉コアの強度を高めることができる。
【0010】
また、本発明の圧粉コアは、一対の半コアを具備してなり、前記半コアが前記保護層を介して相互に接合されていることを特徴とする。このように、保護層が同時に接合部材として機能するため、他の接着剤等を用いることなく半コアを接合することができる。
【0011】
また本発明の圧粉コアは、先に記載の圧粉コアであって、前記軟磁性合金粉末が略球状粉末であることを特徴とする。この構成により、圧粉コアの密度が向上してコアロスを低くすることができる。
【0012】
また本発明の圧粉コアは、先に記載の圧粉コアであって、前記軟磁性合金粉末が水アトマイズ法により形成されたものであることを特徴とする。軟磁性合金粉末を水アトマイズ法により形成することで、略球状の粉末を得ることができる。
【0013】
また本発明の圧粉コアは、先に記載の圧粉コアであって、前記軟磁性合金粉末が下記の組成式で表されることを特徴とする。
Fe100−x−y−z−w−tMxPyCzBwSit
ただし、MはCr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素であり、組成比を示すx、y、z、w、tは、0.5原子%≦x≦8原子%、2原子%≦y≦15原子%、0原子%<z≦8原子%、1原子%≦w≦12原子%、0原子%≦t≦8原子%、70原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%である。
【0014】
上記の圧粉コアによれば、軟磁性合金粉末に耐食性に優れたCr、Mo等の元素Mが含有されているので、急冷速度の大きな水アトマイズ法により製造することができ、組織全体が完全に非晶質相である軟磁性合金粉末を得ることができる。こうして得られた軟磁性合金粉末は、軟磁気特性に優れるので、ブチラールフェノール樹脂と組み合わせて用いることで、圧粉コアのインダクタンスL及び性能係数Qを向上することができる。
【0015】
また本発明においては、前記組成式中の組成比を示すy、z、w、tが、17原子%≦(y+z+w+t)≦29.5原子%なる関係を満たすことがより好ましい。
【0016】
また本発明においては、前記組成式中の組成比を示すx、y、z、w、tが、1原子%≦x≦4原子%、4原子%≦y≦14原子%、0原子%<z≦6原子%、2原子%≦w≦10原子%、2原子%≦t≦8原子%、72原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%なる関係を満たすものでもよい。
【0017】
また本発明においては、前記組成式中の組成比を示すx、y、z、w、tが、1原子%≦x≦3原子%、6原子%≦y≦11原子%、1原子%≦z≦4原子%、4原子%≦w≦9原子%、2原子%≦t≦7原子%、73原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦78原子%なる関係を満たすものでもよい。
【0018】
また本発明の圧粉コアは、先に記載の圧粉コアであって、インダクタ用コアとして用いられることを特徴とする。この構成により、優れた特性のインダクタを構成することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1には本実施形態の圧粉コアの斜視図を示し、図2には図1のA−A線に対応する断面図を示す。また図3には圧粉コアを構成する半コアの平面図を示し、図4には半コアの側面図を示す。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態の圧粉コア11は、一対の半コア12,12が一体化されて構成されている。また、各半コア12,12の全面には保護層13が形成されている。そして、半コア12,12同士がそれぞれの保護層13を介して接合されている。
【0021】
図3及び図4に示すように、半コア12,12は、平板状の基部磁極12aと、基部磁極12aのほぼ中央に突出形成された円柱状の中央磁極12bと、基部磁極12aの側端部に各々突出形成され、中央磁極12bを挟んで対向する側部磁極12c、12cとから構成されている。また図示しない巻線が基部磁極12a上に中央磁極12bの周囲に巻回されている。
【0022】
そして、図1及び図2に示すように、各半コア12,12の中央磁極12b同士、及び側部磁極12c、12c同士が接合されて圧粉コア11が構成されている。半コア12,12の全面には保護層13が形成されており、この保護層13が、中央磁極12b同士及び側部磁極12c、12c同士の間に挟まれた形になり、中央磁極12b同士及び側部磁極12c、12c同士が保護層13により接合された状態になる。
【0023】
保護層13はブチラールフェノール樹脂から構成されている。このブチラールフェノール樹脂は、ブチラール樹脂をフェノールで架橋させたものであり、ガラス転移温度及び弾性率が比較的低いという性質を有する。このため、保護層13自体に内部応力が蓄積されるおそれがない。従って圧粉コア11は、この保護層13によって圧粉コア11に歪みを発生させることがなく、インダクタンスL及び性能係数Qを向上させることができる。特に、上記の軟磁性合金粉末は、大きな磁歪定数を有するので、保護層13によって歪み発生を防止することで、インダクタンスL及び性能係数Qを大きく向上させることができる。また、半コア12,12の全面に保護層13が形成されているので、半コア12,12の抗折強度が向上し、圧粉コア11の強度を高めることができる。
【0024】
また、半コア12,12はブチラールフェノール樹脂により形成された保護層13を介して接合することができるため、他の接着剤等が不要であり、材料を削減でき、工数も少なくすることができる。
【0025】
また、保護層13は圧粉コア内部に若干浸透している場合があり、保護層13の厚みはこの浸透層の厚さを含めて2μm以上100μm以下の範囲が好ましい。保護層13の厚みが2μm未満だと表面を保護する機能を保持できず、また抗折強度も低下してしまうので好ましくなく、保護層13の厚みが100μmを越えると、コイル巻き枠が減少したり組立時の寸法許容値を超えてしまうので好ましくない。
【0026】
保護層13を半コア12,12の全面に形成する手段としては、ブチラールフェノール樹脂をメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の溶媒に溶解させ、この溶解液中に固化成形した半コア12,12を浸積した後、半コア12,12を引き上げて乾燥するいわゆるディッピング法を用いることが好ましい。溶媒に対するブチラールフェノール樹脂の濃度を調製することで、保護層13の厚みを制御することができる。
【0027】
次に、半コア12は、軟磁性合金粉末と、絶縁性の結着材と、潤滑剤とが混合され、これらが固化成形されて構成されている。軟磁性合金粉末は絶縁性の結着材によって絶縁されている。軟磁性合金粉末としては比抵抗が1.5μΩ・m以上のものが好ましい。
【0028】
このように、半コア12は、軟磁性合金粉末と絶縁材とが混合されて構成されているので、絶縁材によって半コア12自体の比抵抗が大きくなり、渦電流損失が低減されて高周波領域における透磁率の低下が小さくなる。
【0029】
また、軟磁性合金粉末の過冷却液体の温度間隔ΔTxが20K以上なので、磁性合金粉末と結着材と潤滑剤とを混合して作製した造粒粉末を圧縮成形した後に行う熱処理時に、結晶化させることなく、十分に内部応力を緩和させることができる。
【0030】
半コア12を構成する絶縁性の結着材は、半コア12の比抵抗を高めるとともに、軟磁性合金粉末が含まれる造粒粉末を形成でき、更に形成した造粒粉末を結着させて圧粉コア11の形状を保持するもので、磁気特性に大きな損失とならない材料からなることが好ましい。例えば、ブチラール樹脂、ブチラールフェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、PVA(ポリビニルアルコール)等の液状又は粉末状の樹脂あるいはゴムや、水ガラス(Na2O-SiO2)、酸化物ガラス粉末(Na2O-B2O3-SiO2、PbO-B2O3-SiO2、PbO-BaO-SiO2、Na2O-B2O3-ZnO、CaO-BaO-SiO2、Al2O3-B2O3-SiO2、B2O3-SiO2)、ゾルゲル法により生成するガラス状物質(SiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2等を主成分とするもの)等を挙げることができる。また、結着材として各種のエラストマー(ゴム)を用いてもよい。
【0031】
また、結着材とともにステアリン酸塩(ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム等)のうちから選択される潤滑剤が同時に用いられる。
【0032】
上記の結着材のなかでも特にシリコーン樹脂またはシリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムは一般に、高重合度の直鎖状オルガノポリシロキサンの架橋体からなるゴム状の弾性を示すものをいう。架橋方法により、高温型と室温型に大別されるが、本発明では室温型が好ましい。室温型のシリコーンゴムは、直鎖状のポリオルガノシロキサンに、アセトキシル基、アルコキシル基、オキシム基、イソプロペノキシル基等を有するシラン化合物等の架橋剤を反応させて得られるもので、特にアルコキシル基またはオキシム基を有する架橋剤を用いたものが好ましい。
【0033】
また、シリコーン樹脂は一般に、高度な三次元的網目構造を有するオルガノポリシロキサンの重合体をいう。オルガノクロロシランまたはオルガノアルコキシシランの加水分解重縮合や環状シロキサンの開環重合により製造される。
【0034】
また、上記の結着材としてブチラールフェノール樹脂を用いても良い。この樹脂は、ブチラール樹脂をフェノールで架橋させたものであり、ガラス転移温度及び弾性率が比較的低いという性質を有する。このため、半コア12の固化成形の際に、ブチラールフェノール樹脂が緩衝材として機能し、軟磁性合金粉末に内部応力が蓄積されるおそれがない。これにより、軟磁性合金粉末の軟磁気特性を劣化させることがなくなり、軟磁性合金粉末本来の磁気特性を引き出すことが可能となり、圧粉コア11のインダクタンスL及び性能係数Qを向上させることができる。
【0035】
本実施形態の軟磁性合金粉末は、Feを主成分とし、P、C、Bを少なくとも含む非晶質相からなるものである。さらにこの軟磁性合金粉末は、ΔTx=Tx−Tg(ただしTxは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度を示す。)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxが20K以上を示すものである。
【0036】
この軟磁性合金粉末は、非晶質の粉末を作る上で必要な非晶質形成能を十分に維持しつつ、しかも従来のFe-Al-Ga-C-P-Si-B系合金よりも磁気特性を向上させることができ、なおかつ、水アトマイズ法により球状に近い形状に形成できるものである。さらに、水アトマイズ法に耐え得る耐食性を得ることができるものである。また、Gaが添加されていなくても非晶質化できるため、低コストとすることができ、さらには高い飽和磁化と低いコアロスを兼ね備えることができる。また、略球状の粉末からなる軟磁性合金粉末によって半コア12を形成することで、半コア12の密度を向上させることができ、コアロスを低減することができる。
【0037】
本発明の軟磁性合金粉末は、磁性を示すFeと、非晶質形成能を有するP、C、Bといった半金属元素とを具備しているので、非晶質相を主相とするとともに優れた軟磁気特性を示す。また、P、C、Bに加えてSiを添加しても良い。
また、M(Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auのうちの1種又は2種以上の元素素)が添加されているので、高い耐食性を有している。
【0038】
この軟磁性合金粉末は、20K以上の過冷却液体の温度間隔ΔTxを示す略球状の金属ガラス合金粉末であり、組成によってはΔTxが30K以上、さらには50K以上という顕著な温度間隔を有し、また、軟磁性についても室温で優れた特性を有している。
【0039】
本発明の軟磁性合金粉末は、従来のFe-Al-Ga-C-P-Si-B系合金よりも強磁性元素であるFeを多く含むために高い飽和磁化を示す。また、本発明の軟磁性合金粉末は、組織全体が完全な非晶質相であることから、適度な条件で熱処理した場合に結晶質相が析出することなく内部応力を緩和でき、軟磁気特性をより向上させることができる。
【0040】
本発明の軟磁性合金粉末を水アトマイズ法により作製した場合でも、ガスアトマイズ法により作製した軟磁性合金粉末と同等あるいはそれ以上の飽和磁化を示すことができる。
【0041】
水アトマイズ法のような腐食性の高い環境下においても優れた磁気特性を有する軟磁性合金粉末を製造できるのは、軟磁性合金粉末の製造に用いる合金溶湯(溶融状態の合金)として本発明の軟磁性合金粉末と同組成あるいは略同じ組成のものを用いるので上記のように非晶質形成能を有する元素が含まれており、しかも過冷却液体の温度間隔ΔTxが20K以上と大きいために、水アトマイズ法により合金溶湯(溶融状態の合金)を粉砕、冷却する際に、一般的な水アトマイズ法の冷却速度をガスアトマイズ法と同程度に遅くしても広い過冷却液体領域を有し、結晶化することなく温度の低下に伴って、ガラス遷移温度Tgに至って非晶質相を容易に形成できる。また、合金溶湯を冷却する際の冷却速度は合金溶湯に十分に表面張力が作用する程度に冷却速度を制御することにより、略球状、すなわち、比表面積の小さな軟磁性合金粉末を得ることができる。このためには、酸化されにくく、遅い冷却速度でも非晶質化できる前述した合金組成が必要となる。
【0042】
本発明の軟磁性合金粉末は、アスペクト比の平均が1以上3以下であることが先に述べた理由から好ましく、アスペクト比の平均が1以上2以下であることがより好ましく、1以上1.5以下であることがさらに好ましい。また、本発明の軟磁性合金粉末は、平均粒径(D50)が45μm以下であることが先に述べた理由から好ましく、D50 が4μmより大きく、30μm以下であることがより好ましく、4μm以上16μm以下であることがさらに好ましい。軟磁性合金粉末のD50が4μm以下なると、粉末収量が減少する。
【0043】
また、本発明の軟磁性合金粉末は、合金組成にもよるが、1×10―5以上3×10―5以下の比較的大きな磁歪定数を有している。このような大きな磁歪定数を有する軟磁性合金粉末に対し、ブチラールフェノール樹脂を保護層13として用いることで、圧粉コア11のインダクタンスL及び性能係数Qをより向上させることが可能になる。
【0044】
本発明の軟磁性合金粉末の一例として、下記組成式で表すものを挙げることができる。
Fe100−x−y−z−w−tMxPyCzBwSit
ただし、MはCr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素であり、組成比を示すx、y、z、w、tは、0.5原子%≦x≦8原子%、2原子%≦y≦15原子%、0原子%<z≦8原子%、1原子%≦w≦12原子%、0原子%≦t≦8原子%、70原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%である。
【0045】
また、上記の組成式で表される軟磁性合金粉末の前記組成式中の組成比を示すy、z、w、tは、17原子%≦(y+z+w+t)≦29.5原子%なる関係を満たすことが好ましい。
【0046】
以下に、本発明の略球状の軟磁性合金粉末の組成限定理由について説明する。Feは磁性を担う元素であって、本発明の軟磁性合金粉末に必須の元素である。Feの組成比を高くすると、軟磁性合金粉末の飽和磁化σsを向上できる。
【0047】
Feの添加量は、70原子%以上79原子%以下であることが好ましく、72原子%以上79原子%以下であることがより好ましく、73原子%以上78原子%以下であることが更に好ましい。Feの添加量が70原子%未満では、飽和磁化σsが150×10−6Wb・m/kg未満に低下してしまうので好ましくない。また、Feの添加量が79原子%を越えると、合金の非晶質形成能の程度を示すTg/Tmが0.57未満になり、非晶質形成能が低下するので好ましくない。上記Tmは、合金の融点である。
【0048】
尚、Feの添加量が76原子%以上であれば合金粉末の飽和磁化σsを170×10−6Wb・m/kg以上にでき、77原子%以上であれば合金の飽和磁化σsを180×10−6Wb・m/kg以上にできる。
【0049】
また、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hfは、合金粉末表面に不動態化酸化皮膜を形成でき、合金粉末の耐食性を向上できる。これらの元素のうち耐食性の向上に最も効果があるものはCrである。水アトマイズ法において、合金溶湯が直接水に触れたとき、更には合金粉末の乾燥工程において生じる錆の発生を防ぐことができる(目視レベル)。また、これらの元素は単独添加するか、あるいは2種以上の組み合わせで複合添加しても良く、例えば、Mo、VとMo、CrとV、Cr及びCr、Mo、V等の組合せで複合添加しても良い。これらの元素のうち、Mo,Vは耐食性がCrより若干劣るものの非晶質形成能が向上するため、必要に応じてこれらの元素を選択する。また、Cr、Mo、W、V、Nb、Taのうちから選択される元素の添加量が8原子%を超えると、磁気特性(飽和磁化)が低下してしまう。
【0050】
また、上記組成式中の元素Mとして採用される元素のうちガラス形成能はZr、Hfが最も高い。Ti、Zr、Hfは酸化性が強いため、これらの元素が8原子%を超えて添加されていると、大気中で合金粉末原料を溶解すると原料溶解中に溶湯が酸化し、また、磁気特性(飽和磁化)が低下してしまう。
【0051】
また、合金粉末の耐食性向上効果は、Pt、Pd、Auのうちから選択される1種又は2種以上の貴金属元素の添加によっても得られ、これら貴金属元素を粉末表面に分散することにより、耐食性が向上する。また、これらの貴金属元素は単独添加あるいは上記のCr等の耐食性向上効果のある元素との組み合わせて複合添加しても良い。上記の貴金属元素はFeと混じり合わないため、8原子%超えて添加されているとガラス形成能が低下し、また、磁気特性(飽和磁化)も低下する。軟磁性合金粉末に耐食性を持たせるためには、上記Mの添加量は0.5原子%以上とする必要がある。
【0052】
従って、組成式中のMは、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素であり、特に、Cr、Mo、W、V、Nb、Taのうちの1種または2種以上を用いるのが好ましい。上記Mの組成比xは、0.5原子%以上8原子%以下であることが好ましく、1原子%以上4原子%以下であることが好ましく、1原子%以上3原子%以下でであることがさらに好ましい。
【0053】
C、P、B及びSiは、非晶質形成能を高める元素であり、Feと上記Mにこれらの元素を添加して多元系とすることにより、Feと上記Mのみの2元系の場合よりも安定して非晶質相が形成される。特にPはFeと低温(約1050℃)で共晶組成を持つため、組織の全体が非晶質相になるとともに過冷却液体の温度間隔ΔTxが発現しやすくなる。またPとSiを同時に添加すると、過冷却液体の温度間隔ΔTxがより大きくなって非晶質形成能が向上し、非晶質単相の組織を得る際の製造条件を比較的簡易な方向に緩和できる。
【0054】
Siを無添加とした場合におけるPの組成比yは、2原子%以上15原子%以下であることが好ましく、4原子%以上14原子%以下であることがより好ましく、6原子%以上11原子%以下であることが最も好ましい。Pの添加量が2原子%未満では、軟磁性合金粉末が得られず、15原子%を超えると、飽和磁化が低下してしまう。Pの組成比yが上記の範囲であれば、過冷却液体の温度間隔ΔTxが発現して合金粉末の非晶質形成能が向上する。
【0055】
また、Siを添加すると熱的安定性が向上するため、2原子%以上添加されていることが好ましい。また、Siの添加量が8原子%を超えると、融点が上昇してしまう。従ってSiの組成比tは、0原子%以上8原子%以上であることが好ましく、2原子%以上8原子%以下であることがより好ましく、2原子%以上7原子%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
また、Bの添加量が2原子%未満では軟磁性合金粉末が得られ難く、12原子%を超えると融点が上昇してしまい。従って、Bの組成比wは、1原子%以上12原子%以下であることが好ましく、2原子%以上10原子%であることが好ましく、4原子%以上9原子%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
また、Cを添加すると熱的安定性が向上するため、1原子%以上添加されていることが好ましい。また、Cの添加量が8原子%を超えると、融点が上昇してしまう。従って、Cの組成比zは、0原子%を超えて8原子%以下であることが好ましく、0原子%を超えて6原子%以下であることがより好ましく、1原子%以上4原子%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
そして、これらの半金属元素C、P、B及びSiの合計の組成比(y+z+w+t)は、17原子%以上29.5原子%以下であることが好ましく、18原子%以上26原子%以下とすることがより好ましく、18原子%以上25原子%以下とすることが更に好ましい。半金属元素の合計の組成比が29.5原子%を越えると、特にFeの組成比が相対的に低下し、飽和磁化σsが低下するので好ましくない。半金属元素の合計の組成比が17原子%未満では、非晶質形成能が低下し非晶質相単相組織が得られにくい。
【0059】
また、Feの組成比が76原子%以上のときに、半金属元素C、P、B及びSiの合計の組成比(y+z+w+t)を18原子%以上24原子%以下とすることにより、合金粉末の飽和磁化σsを170×10−6Wb・m/kg以上にできる。更に、Feの組成比が77原子%以上のときに、半金属元素C、P、B及びSiの合計の組成比(y+z+w+t)を18原子%以上23原子%以下とすることにより、合金粉末の飽和磁化σsを180×10−6Wb・m/kg以上にできる。
【0060】
また、本発明の軟磁性合金粉末においては、上記の組成に、Geが4原子%以下含有されていてもよい。上記のいずれの場合の組成においても、本発明においては、過冷却液体の温度間隔ΔTxは20K以上、組成によっては35K以上が得られる。また上記の組成で示される元素の他に不可避的不純物が含まれていても良い。
【0061】
前記組成の軟磁性合金粉末は、室温において磁性を有し、また熱処理によってより良好な磁性を示す。このため優れた軟磁気特性を有する材料として各種の応用に有用なものとなる。
【0062】
次に、略球状の軟磁性合金粉末を水アトマイズ法により製造する一例について説明する。本発明に用いられる水アトマイズ法は、大気雰囲気中で上述の軟磁性合金粉末と同じ組成あるいは略同様の組成からなる非晶質軟磁性合金溶湯を高圧水とともにチャンバ内部に霧状に噴霧し、上記合金溶湯を粉砕、急冷して略球状の軟磁性合金粉末を製造するというものである。
【0063】
図5は、水アトマイズ法による合金粉末の製造に好適に用いられる高圧水噴霧装置の一例を示す断面模式図である。この高圧水噴霧装置1は、溶湯るつぼ2と、水噴霧器3と、チャンバ4とを主体として構成されている。この高圧水噴霧装置1は、大気雰囲気中に配置されている。
【0064】
溶湯るつぼ2の内部には合金溶湯5が充填されている。また溶湯るつぼ2には加熱手段たるコイル2aが備えられており、合金溶湯5を加熱して溶融状態に保つように構成されている。そして、溶湯るつぼ2の底部には溶湯ノズル6が設けられており、合金溶湯5は溶湯ノズル6からチャンバ4の内部に向けて滴下される。
【0065】
水噴霧器3は溶湯るつぼ2の下側に配設されている。この水噴霧器3には水導入流路7と、この導入流路7の先端部である水噴射ノズル8とが設けられている。図示しない液体加圧ポンプ(加圧手段)によって加圧された高圧水10は導入流路7を通って水噴射ノズル8まで導かれ、このノズル8からチャンバ4内部へ高圧水流gとなって噴霧される。チャンバ4の内部には、高圧水噴霧装置1の周囲の雰囲気と同じ大気雰囲気とされている。チャンバ4内部の圧力は100kPa程度に保たれており、また温度は室温程度に保たれている。
【0066】
略球状の軟磁性合金粉末を製造するには、まず、溶湯るつぼ2に充填された合金溶湯5を溶湯ノズル6からチャンバ4内に滴下する。同時に、水噴霧器3の水噴射ノズル8から高圧水10を噴射する。噴射された高圧水10は、高圧水流gとなって上記の滴下された溶湯まで達し、噴霧点pにおいて溶湯に衝突して溶湯を霧化するとともに急冷凝固し、先に述べた組成の非晶質相からなる略球状粒末が形成される。これら略球状粉末は水とともにチャンバ4の底部に貯まる。
【0067】
ここで合金溶湯の冷却速度は合金溶湯に十分に表面張力が作用する程度にする。合金溶湯の冷却速度は、合金の組成、目的とする合金粉末の粒径等によって、好適な冷却速度が決まるが、103〜105K/s程度の範囲を目安とすることができる。そして実際には、略球形状に近いものが得られているかどうかと、ガラス相(glassy phase)に結晶相としてのFe3B、Fe2B、Fe3P等の相が析出するかどうかを確認することで決めることができる。ついで、これらの略球状粉末を大気雰囲気中で乾燥した後、これらの粉末を分級して、所定の平均粒径を有する球状あるいは球状に近い軟磁性合金粉末を得る。
【0068】
水アトマイズ法により略球状の軟磁性合金粉末を製造する際には、水の噴射圧力、噴射流量、合金溶湯流量等をコントロールすることにより合金溶湯の冷却速度を制御し、また、水噴射ノズルスリット幅、水噴射ノズル傾斜角度、水噴射角、合金溶湯の温度や粘度、アトマイジングポイント(粉化点距離)等をコントロールすることにより製造条件を制御することにより、目的とする特性、具体的には、アスペクト比、D50等が先に述べた範囲になる軟磁性合金粉末が得られるようにする。
【0069】
得られた軟磁性合金粉末は必要に応じて熱処理しても良い。熱処理をすることで合金粉末の内部応力が緩和され、軟磁性合金粉末の軟磁気特性をより向上できる。熱処理温度Taは、合金のキュリー温度Tc以上ガラス遷移温度Tg以下の範囲が好ましい。熱処理温度Taがキュリー温度Tc未満であると、熱処理による軟磁気特性向上の効果が得られないので好ましくない。また熱処理温度Taがガラス遷移温度Tgを越えると、合金粉末組織中に結晶質相が析出しやすくなり、軟磁気特性が低下するおそれがあるので好ましくない。また熱処理時間は、合金粉末の内部応力を充分に緩和させるとともに結晶質相の析出のおそれのない範囲が好ましく、例えば30〜300分の範囲が好ましい。
【0070】
上記の圧粉コア11によれば、ブチラールフェノール樹脂からなる保護層13を備えており、このブチラールフェノール樹脂は、ガラス転移温度及び弾性率が比較的低いので、保護層13自体に内部応力が蓄積されるおそれがない。このため、半コア12,12同士の接合部で歪みの発生がなく、圧粉コア11のインダクタンスL及び性能係数Qを向上させることができる。特に、上記の軟磁性合金粉末は、大きな磁歪定数を有するという性質があるので、保護層13によって圧粉コア11に歪みが発生するのを防止することで、インダクタンスL及び性能係数Qを大きく向上させることができる。また、半コア12の全面に保護層13が形成されているので、半コア12の抗折強度が向上し、圧粉コア11の強度を高めることができる。
【0071】
【実施例】
(実施例1の圧粉コアの製造)
Fe、Fe-C合金、Fe-P合金、B及びCrを原料としてそれぞれ所定量秤量し、大気雰囲気下においてこれらの原料を図5に示す高圧水噴霧装置の溶湯るつぼ内に入れて溶解し、溶湯るつぼの溶湯ノズルから合金溶湯を滴下するとともに、図5に示す水噴霧器の水噴射ノズルから高圧水を噴射して合金溶湯を霧状にし、チャンバ内で霧状の合金溶湯を急冷させて軟磁性合金粉末を作製した。得られた各種の軟磁性合金粉末の組成は、いずれもFe74.43Cr1.96P9.04C2.16B7.54Si4.87なる組成であった。
【0072】
上記の組成の軟磁性合金粉末についてX線回折法により組織構造の解析を行ったところ、X線回折パターンがブロードなパターンを示し、非晶質相からなる組織のみから構成されていることが分かった。
【0073】
更に、得られた軟磁性合金粉末のDSC測定(Differential scanning caloriemetry:示差走査熱量測定)を行い、ガラス遷移温度Tg、結晶化開始温度Tx、キュリー温度Tc及び融点Tmを測定するとともに、過冷却液体の温度間隔ΔTx及びTg/Tmを測定した。尚、DSC測定の際の昇温速度は0.67K/秒とした。測定の結果、ガラス遷移温度Tgは795Kであり、結晶化開始温度Txは845Kであり、キュリー温度Tcは594Kであり、融点Tmは1350Kであり、過冷却液体の温度間隔ΔTxは50Kであり、Tg/Tmは0.59であった。更に、得られた軟磁性合金粉末について磁歪を測定したところ、1.7×10―5であった。
【0074】
次に、得られた軟磁性合金粉末98.3重量%に対し、結着材としてシリコーン樹脂を1.4重量%と潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.3重量%とを混合、造粒して造粒粉末とした。これら造粒粉末を大気中室温で12時間乾燥した。ついで、乾燥させた造粒粉末を分級して、粒径45μm以上500μm以下の範囲のものを選択し、後工程で用いた。
【0075】
粒径45μm以上500μm以下の造粒粉末をWC製の金型に充填した後、プレス装置を用い、大気圧、室温のもと造粒粉末を成形圧力(Ps)2000MPaまで加圧した。
そして、熱処理温度Taが573K(300℃)〜723K(450℃)で3600秒間熱処理して、半コアを製造した。この半コアの形状は、図3及び図4に示した形状であり、基部磁極の縦寸法が7ミリ、横寸法が10ミリ、中央磁極の径が4ミリ、中央磁極を含めた全体の厚みが2ミリのものであった。
【0076】
次に、ブチラールフェノール樹脂をメチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンからなる混合溶媒に溶解させて50質量%濃度の溶解液とし、この溶解液に半コアを浸積させてから引き上げた。そして、2つの半コアを接合させた状態で、150℃で30分間加熱する硬化条件でブチラールフェノール樹脂の硬化を行った。このようにして、ブチラールフェノール樹脂を保護層とする圧粉コアを製造した。
【0077】
ブチラールフェノール樹脂のガラス転移温度及び引っ張り弾性率を表1に示す。また、得られた圧粉コアの中央磁極に導線を3ターン巻回してインダクタとした。このインダクタ(塗布後)について、周波数10kHz〜10000kHzの範囲でインダクタンスL及び性能係数Qを測定した。結果を図6及び図7及び表2に示す。
【0078】
また、図6及び図7には、保護層の形成を省略した圧粉コア(塗布前)のインダクタンスL及び性能係数Qを合わせて示す。
【0079】
(実施例2の圧粉コアの製造)
ブチラールフェノール樹脂をメチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンからなる混合溶媒に溶解させて70質量%濃度の溶解液としたこと以外は上記実施例1と同様にして、実施例2の圧粉コアを製造した。この実施例2の圧粉コアの中央磁極に導線を3ターン巻回してインダクタとし、このインダクタ(塗布後)について、周波数10kHz〜10000kHzの範囲でインダクタンスL及び性能係数Qを測定した。結果を図8及び図9及び表3に示す。
【0080】
また、図8及び図9には、保護層の形成を省略した圧粉コア(塗布前)のインダクタンスL及び性能係数Qを合わせて示す。
【0081】
(比較例1の圧粉コアの製造)
保護層の材料として加熱硬化性エポキシ樹脂を用い、硬化条件を170℃で90分間加熱する条件として保護層を形成したこと以外は上記実施例1と同様にして、比較例1の圧粉コアを製造した。この比較例1の圧粉コアの中央磁極に導線を3ターン巻回してインダクタとし、このインダクタ(塗布後)について、周波数10kHz〜10000kHzの範囲でインダクタンスL及び性能係数Qを測定した。結果を図10及び図11及び表4に示す。また、表1に比較例1の加熱硬化性エポキシ樹脂のガラス転移温度及び曲げ弾性率を示す。
【0082】
また、図10及び図11には、保護層の形成を省略した圧粉コア(塗布前)のインダクタンスL及び性能係数Qを合わせて示す。
【0083】
(比較例2の圧粉コアの製造)
保護層の材料として加熱硬化性エポキシ樹脂を用い、硬化条件を180℃で120分間加熱する条件として保護層を形成したこと以外は上記実施例1と同様にして、比較例2の圧粉コアを製造した。この比較例2の圧粉コアの中央磁極に導線を3ターン巻回してインダクタとし、このインダクタ(塗布後)について、周波数10kHz〜10000kHzの範囲でインダクタンスL及び性能係数Qを測定した。結果を図12及び図13及び表5に示す。また、表1に比較例2の加熱硬化性エポキシ樹脂のガラス転移温度及び曲げ弾性率を示す。
【0084】
また、図12及び図13には、保護層の形成を省略した圧粉コア(塗布前)のインダクタンスL及び性能係数Qを合わせて示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
(各圧粉コアのインダクタンスL及び性能係数Q)
図6及び図7に示すように、実施例1の圧粉コア(塗布後)は、保護層を形成していない圧粉コア(塗布前)と比べて、インダクタンスL及び性能係数Qがほとんど低下していないことが分かる。特にインダクタンスLは塗布前よりも向上していることが分かる。
また、図8及び図9に示すように、実施例2の圧粉コア(塗布後)についても、塗布前の圧粉コアと比べて、インダクタンスL及び性能係数Qがほとんど低下していないことが分かる。
【0091】
一方、図10及び図11に示すように、エポキシ樹脂を保護層とする比較例1の圧粉コア(塗布後)は、塗布前の圧粉コアと比べて、インダクタンスL及び性能係数Qが大幅に低下していることが分かる。特に、1000kHz以下の性能係数Qの低下が著しいことが分かる。
【0092】
更に、図12及び図13に示すように、エポキシ樹脂を保護層とする比較例2の圧粉コア(塗布後)は、塗布前の圧粉コアと比べて、インダクタンスL及び性能係数Qが大幅に低下していることが分かる。特に、1000kHz以下の性能係数Qの低下が著しいことが分かる。
【0093】
また、表1を見ると、実施例1及び2で用いたブチラールフェノール樹脂のガラス転移温度及び弾性率が、比較例1及び2で用いたエポキシ樹脂よりも低くなっていることが分かる。すなわち、ブチラールフェノール樹脂の方がエポキシ樹脂よりも柔軟性に富んでいることが分かる。この柔軟性の違いによって、ブチラールフェノール樹脂の内部応力がエポキシ樹脂よりも小さくなり、圧粉コアの全体の歪みが小さくなって実施例1及び2のインダクタンスL及び性能係数Qが比較例1及び2よりも向上したものと考えられる。
【0094】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば圧粉コアの形状は、上記の実施形態に限るものではなく、平面視略E字状、平面視略コ字状、平面視略I字状等であっても良い。
【0095】
また、軟磁性合金粉末は、水アトマイズ法により製造された略球状の粉末に限るものではなく、ガスアトマイズ法で製造した略球状粉末や、球状粉末をアトライタ等で粉砕して扁平状にしたものや、ロール急冷法により得られた合金薄帯を粉砕したものでも良い。
【0096】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明の圧粉コアは、ブチラールフェノール樹脂からなる保護層を備えており、このブチラールフェノール樹脂は、ガラス転移温度及び弾性率が比較的低いので、保護層自体に内部応力が蓄積されるおそれがない。従って、上記の圧粉コアによれば、保護層によって圧粉コアに歪みを付与することがなく、圧粉コアのインダクタンスL及び性能係数Qを向上させることができる。特に、上記の軟磁性合金粉末は、大きな磁歪定数を有するという性質があるので、保護層により発生する歪みを防止することで、インダクタンスL及び性能係数Qを大きく向上させることができる。
また、圧粉コアの全面に保護層が形成されているので、圧粉コアの抗折強度が向上し、圧粉コアの強度を高めることができる。
更に、半コアが保護層を介して接合されるので、材料の種類と工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態である圧粉コアの斜視図。
【図2】 図1のA-A線に対応する断面図。
【図3】 図1及び図2に示した圧粉コアを構成する半コアの平面図。
【図4】 図1及び図2に示した圧粉コアを構成する半コアの側面図。
【図5】 本発明に係る軟磁性合金粉末の製造に用いる高圧水噴霧装置の一例を示す断面模式図。
【図6】 実施例1の圧粉コアのインダクタンスLと周波数との関係を示すグラフ。
【図7】 実施例1の圧粉コアの性能係数Qと周波数との関係を示すグラフ。
【図8】 実施例2の圧粉コアのインダクタンスLと周波数との関係を示すグラフ。
【図9】 実施例2の圧粉コアの性能係数Qと周波数との関係を示すグラフ。
【図10】 比較例1の圧粉コアのインダクタンスLと周波数との関係を示すグラフ。
【図11】 比較例1の圧粉コアの性能係数Qと周波数との関係を示すグラフ。
【図12】 比較例2の圧粉コアのインダクタンスLと周波数との関係を示すグラフ。
【図13】 比較例2の圧粉コアの性能係数Qと周波数との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1…高圧水噴霧装置、2…溶湯るつぼ、3…水噴霧器、4…チャンバ、5…合金溶湯、6…溶湯ノズル、7…導入流路、8…水噴射ノズル、10…高圧水、11…圧粉コア、12…半コア、13…保護層、g…高圧水流、P…噴霧点、θ…水噴射角
Claims (9)
- 軟磁性合金粉末が結着材によって固化成形されてなるとともにブチラール樹脂をフェノールで架橋したブチラールフェノール樹脂からなる保護層により全体が被覆されてなり、かつ前記軟磁性合金粉末がΔTx=Tx−Tg(ただしTxは結晶化開始温度、Tgはガラス遷移温度を示す。)の式で表される過冷却液体の温度間隔ΔTxが20K以上を示す非晶質相からなり、Feと、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auの中から選択される1種以上の元素Mと、P、C、Bを少なくとも含む軟磁性合金からなるものであることを特徴とする圧粉コア。
- 前記圧粉コアが一対の半コアを具備してなり、前記半コアが前記保護層を介して相互に接合されていることを特徴とする請求項1に記載の圧粉コア。
- 前記軟磁性合金粉末が略球状粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧粉コア。
- 前記軟磁性合金粉末が水アトマイズ法により形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の圧粉コア。
- 前記軟磁性合金粉末が下記の組成式で表されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧粉コア。
Fe100−x−y−z−w−tMxPyCzBwSit
ただし、MはCr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素であり、組成比を示すx、y、z、w、tは、0.5原子%≦x≦8原子%、2原子%≦y≦15原子%、0原子%<z≦8原子%、1原子%≦w≦12原子%、0原子%≦t≦8原子%、70原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%である。 - 前記組成式中の組成比を示すy、z、w、tは、17原子%≦(y+z+w+t)≦29.5原子%なる関係を満たすことを特徴とする請求項5に記載の圧粉コア。
- 前記組成式中の組成比を示すx、y、z、w、tは、1原子%≦x≦4原子%、4原子%≦y≦14原子%、0原子%<z≦6原子%、2原子%≦w≦10原子%、2原子%≦t≦8原子%、72原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%なる関係を満たすことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の圧粉コア。
- 前記組成式中の組成比を示すx、y、z、w、tは、1原子%≦x≦3原子%、6原子%≦y≦11原子%、1原子%≦z≦4原子%、4原子%≦w≦9原子%、2原子%≦t≦7原子%、73原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦78原子%なる関係を満たすことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の圧粉コア。
- インダクタ用コアとして用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の圧粉コア。
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