JP4323220B2 - 薄膜磁気センサ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜磁気センサ及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、自動車の車軸、ロータリーエンコーダ、産業用歯車等の回転情報の検出、油圧式シリンダ/空気式シリンダのストロークポジション、工作機械のスライド等の位置・速度情報の検出、工業用溶接ロボットのアーク電流等の電流情報の検出、地磁気方位コンパスなどに好適な薄膜磁気センサ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気センサは、電磁気力(例えば、電流、電圧、電力、磁界、磁束など。)、力学量(例えば、位置、速度、加速度、変位、距離、張力、圧力、トルク、温度、湿度など。)、生化学量等の被検出量を、磁界を介して電圧に変換する電子デバイスである。磁気センサは、磁界の検出方法に応じて、ホールセンサ、異方的磁気抵抗(AMR: Anisotropic Magneto-Resistivity)センサ、巨大磁気抵抗(GMR: Gaiant MR)センサ等に分類される。
【0003】
これらの中でもGMRセンサは、(1)ホールセンサやAMRセンサに比べて電気比抵抗の変化率の最大値(すなわち、MR比=△ρ/ρ0(△ρ=ρH−ρ0:ρHは、外部磁界Hにおける電気比抵抗、ρ0は、外部磁界ゼロにおける電気比抵抗))が極めて大きい、(2)ホールセンサに比べて抵抗値の温度変化が小さい、(3)巨大磁気抵抗効果を有する材料が薄膜材料であるために、マイクロ化に適している、等の利点がある。そのため、GMRセンサは、コンピュータ、電力、自動車、家電、携帯機器等に用いられる高感度マイクロ磁気センサとしての応用が期待されているものである。
【0004】
GMR効果を示す材料としては、(1)強磁性層(例えば、パーマロイ等)と非磁性層(例えば、Cu、Ag、Au等)の多層膜、あるいは、反強磁性層、強磁性層(固定層)、非磁性層及び強磁性層(自由層)の4層構造を備えた多層膜(いわゆる、「スピンバルブ」)からなる金属人工格子、(2)強磁性金属(例えば、パーマロイ等)からなるnmサイズの微粒子と、非磁性金属(例えば、Cu、Ag、Au等)からなる粒界相とを備えた金属−金属系ナノグラニュラー材料、(3)スピン依存トンネル効果によってMR効果が生ずるトンネル接合膜、(4)nmサイズの強磁性金属合金微粒子と、非磁性・絶縁性材料からなる粒界相とを備えた金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料、等が知られている。
【0005】
これらの内、スピンバルブに代表される多層膜は、一般に、低磁界における感度が高いという特徴がある。しかしながら、多層膜は、種々の材料からなる薄膜を高精度で積層する必要があるために、安定性や歩留まりが悪く、製作コストを抑えるには限界がある。そのため、この種の多層膜は、専ら付加価値の大きなデバイス(例えば、ハードディスク用の磁気ヘッド)にのみ用いられ、単価の安いAMRセンサやホールセンサとの価格競争を強いられる磁気センサに応用するのは困難であると考えられている。また、温度により反強磁性膜の特性が変化したり、あるいは多層膜間の拡散が生じやすく、GMR効果が劣化しやすいため、耐熱性が悪いという大きな欠点がある。
【0006】
一方、ナノグラニュラー材料は、一般に、作製が容易で、再現性も良い。そのため、これを磁気センサに応用すれば、磁気センサを低コスト化することができる。特に、金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、(1)その組成を最適化すれば、室温において10%を越える高いMR比を示す、(2)電気比抵抗が桁違いに高いので、磁気センサの超小型化と低消費電力化が可能である、(3)耐熱性の悪い反強磁性膜を含むスピンバルブ膜と異なり、高温環境下でも使用可能である、等の利点がある。しかしながら、金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、低磁界における磁界感度が非常に小さいという問題がある。
【0007】
そこでこの問題を解決するために、特許文献1には、巨大磁気抵抗薄膜の両端に軟磁性薄膜を配置し、巨大磁気抵抗薄膜の磁界感度を上げる点が記載されている。また、同文献には、基板上に膜厚2μmのパーマロイ薄膜(軟磁性膜)を形成し、パーマロイ薄膜にイオンビームエッチング装置を用いて幅約9μmの隙間を作製し、隙間の部分にCo38.6Y41.0O47.4組成を有するナノグラニュラーGMR膜を積層する薄膜磁気センサの製造方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、巨大磁気抵抗薄膜の両端に軟磁性薄膜を配置した薄膜磁気抵抗素子において、磁界感度をさらに向上させるために、巨大磁気抵抗薄膜の膜厚を軟磁性薄膜の膜厚以下とする点が記載されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−087804号公報の請求項1及び段落番号「0019」
【特許文献2】
特開平11−274599号公報の請求項1
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
大きな飽和磁化を有し、透磁率の高い軟磁性材料は、磁界感度が極めて高く、相対的に弱い外部磁界で極めて大きな磁化を示す。そのため、軟磁性材料からなる薄膜ヨークで挟まれた狭いギャップ内に、薄膜ヨークと電気的に接続するように、大きな電気比抵抗を有し、かつ巨大磁気抵抗効果を有する薄膜(GMR膜)を配置した薄膜磁気センサに対して外部磁界を作用させると、弱い外部磁界によって薄膜ヨークが磁化し、GMR膜には、外部磁界の100〜10000倍の強い磁界が作用する。その結果、GMR膜の磁界感度を著しく大きくすることができる。なお、GMR膜としては、現在、金属−絶縁体系グラニュラー薄膜が知られている。
【0011】
ところで、磁界中に棒状の磁性体を置くと、磁性体の両端に磁極が生じ、外部磁界と逆方向の磁界(すなわち、「反磁界」)が生ずる。反磁界の強さは、磁性体の形状に依存し、この形状に依存する因子を反磁界係数という。また、反磁界係数は、1/k2(但し、kは、磁性体の寸法比(=長さ/直径))に比例することが知られている。
【0012】
すなわち、軟磁性材料からなる薄膜ヨークの磁化は、反磁界のために膜面内に主たる磁化方向が固定されている。そのため、このような一対の薄膜ヨークのギャップ間にGMR膜を配置した薄膜磁気センサにおいて、主たる磁化方向と平行な軸(以下、これを「感磁軸」という。)に対して平行に外部磁界が作用したとき、低い磁界で最も出力が大きくなり、感磁軸に対して垂直に低い外部磁界が作用したときには、出力は、ほぼゼロとなる。従って、外部磁界を検出する方向に沿って感磁軸を配置すれば、その方向に発生する外部磁界の変化を検出することができる。
【0013】
しかしながら、従来の薄膜磁気センサは、平板状の絶縁基板の表面に薄膜ヨークを堆積させる方法により製造されているので、その感磁軸は、絶縁基板の表面に対してほぼ平行になる。そのため、絶縁基板に垂直方向の磁界成分を検出できないという問題がある。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、絶縁基板の表面に対して垂直方向の外部磁界を検出可能な薄膜磁気センサ及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、同一絶縁基板上に、絶縁基板の表面に対して垂直方向の外部磁界を検出可能な薄膜磁気センサと、絶縁基板の表面に対して平行な外部磁界を検出可能な薄膜磁気センサの双方が形成された、複数次元の外部磁界を検出可能な薄膜磁気センサチップ及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る薄膜磁気センサは、軟磁性材料からなり、かつギャップを介して対向させた一対の薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)と、該一対の薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)と電気的に接続されるように前記ギャップ間に形成された、前記軟磁性材料より高い電気比抵抗を有するGMR膜と、前記薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)、並びに前記GMR膜を支持する絶縁性・非磁性材料からなる絶縁基板とを備えたものであって、前記薄膜ヨーク(A)及び前記薄膜ヨーク(B)は、その感磁軸の少なくとも1つが前記絶縁基板の表面に対して平行にならないように、前記絶縁基板上に形成されていることを要旨とする。
【0017】
また、本発明に係る薄膜磁気センサの製造方法は、絶縁性・非磁性材料からなる絶縁基板表面に凹部又は凸部を形成する傾斜面形成工程と、前記凹部又は凸部の側面に、薄膜ヨーク(B)との対向面を有し、かつ軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(A)を堆積させる薄膜ヨーク(A)形成工程と、前記薄膜ヨーク(A)の前記対向面と電気的に接続するように、前記軟磁性材料より高い電気比抵抗を有するGMR膜を前記対向面上に堆積させるGMR膜形成工程と、前記GMR膜と前記薄膜ヨーク(B)とが、前記対向面上に堆積させた前記GMR膜の膜表面において電気的に接続されるように、前記凹部又は凸部の側面に前記軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(B)を堆積させる薄膜ヨーク(B)形成工程とを備えていることを要旨とする。
【0018】
絶縁基板の表面に凹部又は凸部を形成し、その側面に薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)を形成すると、薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)の磁化を、反磁界の作用により、凹部又は凸部の側面とほぼ平行な面内に固定することができる。そのため、外部磁界の内、絶縁基板の表面に対して垂直方向(z方向)の磁界成分に主たる感度を有する薄膜磁気センサにすることができる。また、この薄膜磁気センサが形成された絶縁基板上に、その感磁軸が絶縁基板の表面に対して垂直にならないように第2の薄膜磁気センサをさらに形成すると、外部磁界のz方向成分に加えて、絶縁基板の表面に対して平行方向(x及び/又はy方向)成分も検出することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)及び図1(b)に、それぞれ、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40の平面図、及びそのA−A’線断面図を示す。図1において、薄膜磁気センサチップ40は、第1薄膜磁気センサ41と、第2薄膜磁気セセンサ51とを備えている。
【0020】
第1薄膜磁気センサ41は、絶縁基板42の表面に対して垂直方向(z方向)の磁界成分を検出するためのものであり、絶縁基板42と、ギャップ44cを介して対向する一対の薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bと、この一対の薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bと電気的に接続されるようにギャップ44c間に形成されたGMR膜46とを備えている。
【0021】
また、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bの端部には、電極48、48が接合されている。さらに、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b並びにGMR膜46の表面は、保護膜50により覆われている。
【0022】
一方、第2薄膜磁気センサ51は、絶縁基板42の表面に対して平行方向(x方向又はy方向)の磁界成分を検出するためのものであると同時に、第1薄膜磁気センサ41の参照抵抗となるものであり、絶縁基板42と、ギャップ54cを介して対向する一対の薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bと、この一対の薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bと電気的に接続されるようにギャップ54c間に形成されたGMR膜56とを備えている。すなわち、第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51は、いずれも絶縁基板42上に形成されている。
【0023】
また、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bの端部には、電極58、58が接合されている。さらに、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54b並びにGMR膜56の表面は、保護膜60により覆われている。
【0024】
初めに、絶縁基板42について説明する。絶縁基板42は、薄膜ヨーク(A)44a、薄膜ヨーク(B)44b、及びGMR膜46、並びに、薄膜ヨーク(A)54a、薄膜ヨーク(B)54b、及びGMR膜56を支持するためのものであり、絶縁性・非磁性材料からなる。絶縁基板42の材質としては、具体的には、ガラス、スパッタ膜によって表面を平滑化したアルミナ、熱酸化膜付Si、アルミナ・チタンカーバイドなどのセラミックス等の高剛性材等が好適な一例として挙げられる。
【0025】
また、絶縁基板42の表面には、凹部42aが形成されている。本実施の形態において、凹部42aの側面は、絶縁基板42の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第1傾斜面42bを備えている。第1薄膜磁気センサ41は、その感磁軸が絶縁基板42の表面に対して平行にならないように、第1傾斜面42b上に形成されている。
【0026】
第1傾斜面42bの傾斜角度は、特に限定されるものではないが、第1薄膜磁気センサ41により、絶縁基板42の表面に対して垂直方向(z方向)の外部磁界を高い感度で検出するためには、第1傾斜面42bの傾斜角度は、90°に近いほうが好ましい。また、第1薄膜磁気センサ41は、その感磁軸のz方向成分が最も大きくなるように、第1傾斜面42b上に形成するのが好ましい。
【0027】
また、絶縁基板42の表面には、凹部42aに隣接して平坦部42cが形成されている。第2薄膜磁気センサ51は、その感磁軸が絶縁基板42の表面に対して垂直にならないように、平坦部42c上に形成されている。
【0028】
絶縁基板42の底面から平坦部42cまでの高さは、特に限定されるものではないが、3次元的に変化する外部磁界を正確に検出するためには、絶縁基板42の底面から平坦部42cまでの高さは、絶縁基板42の底面から第1傾斜面42b上に形成される第1薄膜磁気センサ41のGMR膜46までの高さにほぼ等しくするのが好ましい。また、第2薄膜磁気センサ51によって、絶縁基板42の表面に対して平行方向(x方向又はy方向)の外部磁界を高い感度で検出するためには、第2薄膜磁気センサ51は、その感磁軸が絶縁基板42の表面に対して平行になるように、平坦部42c上に形成するのが好ましい。
【0029】
なお、絶縁基板42の表面に凹部42aを形成する代わりに凸部を形成し、凸部の側面上に第1薄膜磁気センサ41を形成しても良い。また、このような凹部又は凸部は、絶縁基板42の表面をエッチングし、不要部分を除去することにより形成しても良く、あるいは、絶縁基板42の表面に、絶縁基板42と同一又は異なる材質からなる絶縁性・非磁性材料を所定のパターンで堆積させることによって形成しても良い。
【0030】
また、絶縁基板42のその他の部分の形状については、特に限定されるものではなく、薄膜磁気センサチップ40の用途、要求特性等に応じて最適な形状を選択すれば良い。また、図1においては、絶縁基板42上に第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51の2個のセンサ(素子)が形成された状態が記載されているが、これは単なる例示であり、量産の場合には、同一の絶縁基板42上に複数個の薄膜磁気センサを同時に形成する。
【0031】
また、薄膜磁気センサは、温度による基準電位の変動を防ぐために、通常、2個の素子を直列に接続し、中点電位を計測することによって外部磁界の検出を行うようになっている。また、薄膜磁気センサは、2つの素子の感磁軸が互いに直交するように配列させた直交形と、2個の素子の感磁軸が互いに平行になるように配列させた平行形に分類される。また、出力を倍にするために、4個の素子を用いてブリッジ回路を構成する場合もある。
【0032】
この場合、外部磁界のz方向成分を検出するための1個又は2個以上の第1薄膜磁気センサ41、及び外部磁界のx方向又はy方向成分を検出するための1個又は2個以上の第2薄膜磁気センサ51を同一絶縁基板42上に形成し、これらを接続しても良く、あるいは、別個の絶縁基板42上に、それぞれ、1個又は2個以上の第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51を形成し、これらを接続して用いても良い。さらに、本実施の形態において、第2薄膜磁気センサ51は、第1薄膜磁気センサ41と直列に接続することにより、第1薄膜磁気センサ41の参照抵抗としても機能するものであるが、温度が一定の環境下において外部磁界のz方向成分のみを検出する場合には、絶縁基板42表面に第1薄膜磁気センサ41のみを形成し、これを単独で用いても良い。
【0033】
次に、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bについて説明する。薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bは、GMR膜46の磁界感度を高めるためのものであり、軟磁性材料からなる。また、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bは、GMR膜56の磁界感度を高めるためのものであり、軟磁性材料からなる。
【0034】
弱磁界に対する高い磁界感度を得るためには、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bには、透磁率μ及び/又は飽和磁化Msの高い材料を用いるのが好ましい。具体的には、その透磁率μは、100以上が好ましく、さらに好ましくは、1000以上である。また、その飽和磁化Msは、5(kGauss)以上が好ましく、さらに好ましくは、10(kGauss)以上である。
【0035】
薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)の材質としては、具体的には、パーマロイ(40〜90%Ni−Fe合金)、センダスト(Fe74Si9Al17)、ハードパーム(Fe12Ni82Nb6)、Co88Nb6Zr6アモルファス合金、(Co94Fe6)70Si15B15アモルファス合金、ファインメット(Fe75.6Si13.2B8.5Nb1.9Cu0.8)、ナノマックス(Fe83HF6C11)、Fe85Zr10B5合金、Fe93Si3N4合金、Fe71B11N18合金、Fe71.3Nd9.6O19.1ナノグラニュラー合金、Co70Al10O20ナノグラニュラー合金、Co65Fe5Al10O20合金等が好適な一例として挙げられる。
【0036】
また、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bに用いられる軟磁性材料と、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bに用いられる軟磁性材料とは、互いに同一材質からなるものであっても良く、あるいは、異なる材質からなるものであっても良い。
【0037】
本実施の形態において、薄膜ヨーク(A)44aは、凹部42aの底部側の第1傾斜面42b上に軟磁性材料からなる薄膜を所定のパターンで堆積させたものからなり、その先端には、薄膜ヨーク(B)44bとの対向面が形成されている。対向面と第1傾斜面42bとのなす角は、特に限定されるものではなく、0°以上90°以下であればよい。本実施の形態においては、対向面と第1傾斜面42bとのなす角は、ほぼ90°になっている。
【0038】
一方、薄膜ヨーク(B)44bは、薄膜ヨーク(A)44aの対向面上に所定の厚さを有するGMR膜46を堆積させた後、GMR膜46と薄膜ヨーク(B)44bとが、対向面上に堆積させたGMR膜46の膜表面において電気的に接続されるように、第1傾斜面42b上に軟磁性材料からなる薄膜を所定のパターンで堆積させたものからなる。すなわち、薄膜ヨーク(A)44aの対向面と、薄膜ヨーク(B)44bの対向面との距離、すなわち、ギャップ44cのギャップ長は、GMR膜46とほぼ同等になっている。
【0039】
この場合、ギャップ44cは、第1傾斜面42bのほぼ中央に形成されているのが好ましい。これは、第1薄膜磁気センサ41について高い磁界感度を得るためには、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bの形状は、ギャップ44cに対してほぼ対称になっている方が好ましいためである。
【0040】
さらに、薄膜ヨーク(B)44bは、電極48側の端部が絶縁基板42の表面に露出した状態になっている。薄膜ヨーク(B)44bの電極側端部を絶縁基板42の表面に露出させると、電極側端部が外部磁界の流入・流出端として有効に機能するので、外部磁界の鉛直方向成分を高い感度で検出することができる。
【0041】
また、薄膜ヨーク(A)54aは、絶縁基板42の平坦部42c上に軟磁性材料からなる薄膜を所定のパターンで堆積させたものからなり、その先端には、薄膜ヨーク(B)54bとの対向面が形成されている。対向面と平坦部42cとのなす角は、特に限定されるものではなく、0°以上90°以下であればよい。本実施の形態においては、対向面と平坦部42cとのなす角は、0°より大きく90°より小さくなっている。
【0042】
一方、薄膜ヨーク(B)54bは、薄膜ヨーク(A)54aの対向面上に所定の厚さを有するGMR膜56を堆積させた後、GMR膜56と薄膜ヨーク(B)54bとが対向面上に堆積させたGMR膜56の膜表面において電気的に接続されるように、平坦部42c上に軟磁性材料からなる薄膜を所定のパターンで堆積させたものからなる。すなわち、薄膜ヨーク(A)54aの対向面と、薄膜ヨーク(B)54bの対向面との距離、すなわち、ギャップ54cのギャップ長は、GMR膜56とほぼ同等になっている。
【0043】
薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bの形状に関するその他の点については、特に限定されるものではないが、GMR膜46並びにGMR膜56の磁界感度を高めるためには、以下のような条件を満たしていることが望ましい。
【0044】
第1に、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bは、それぞれ、外部磁界の流入・流出端である電極側の断面積(Sr)に対するギャップ側の断面積(Sf)の比(Sf/Sr)が1以下であることが望ましい。ギャップ側の断面積を相対的に小さくすると、ギャップ先端における磁束密度が大きくなり、GMR膜46又はGMR膜56に強い磁界を作用させることができる。
【0045】
第2に、薄膜ヨークは、その電極側の横幅Wに対するそのギャップ長方向長さLの比(L/W)が、適度に大きいことが望ましい。薄膜ヨークのギャップ長方向長さが相対的に長くなるほど、ギャップ長方向に発生する反磁界が小さくなるので、電極側の端面を外部磁界の流入・流出端として有効に機能させることができる。
【0046】
より具体的には、薄膜ヨークのギャップ長方向長さ(L)の2乗に対する薄膜ヨークの電極側端面の断面積(Sr)の比(Sr/L2)は、Lの2乗に対する薄膜ヨークの側面の面積(Ss)、上面の面積(Su)、又は下面の面積(Sd)の比(Ss/L2、Su/L2、Sd/L2)のいずれよりも小さいことが好ましい。
【0047】
第3に、ギャップを介して対向する各薄膜ヨークの先端面間の距離(すなわち、「ギャップ長」)は、短いことが望ましい。ギャップ長が短くなるほど、薄膜ヨークの先端から空間への磁束の分散が抑制され、GMR膜に強い磁界を作用させることができる。ギャップ長は、GMR膜に作用する磁界の大きさ、ギャップの形成の容易性、電気抵抗値仕様等に応じて、最適な長さとするのが好ましい。
【0048】
なお、各薄膜ヨークの厚さは、特に限定されるものではなく、薄膜ヨークの材質、第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51に要求される特性等に応じて、最適な厚さを選択すればよい。また、図1に示す例においては、各薄膜ヨークの先端側(ギャップ側)の平面形状は、テーパ状になっているが、薄膜ヨークの先端に平行部を設けても良い。薄膜ヨークの先端に平行部を設けると、薄膜ヨーク先端における磁束の分散が抑制されるので、GMR膜に、より強い磁界を作用させることができる。
【0049】
次に、GMR膜46及びGMR膜56について説明する。GMR膜46及びGMR膜56は、それぞれ、外部磁界の変化を電圧の変化として検出するためのものであり、巨大磁気抵抗効果を有する材料からなる。外部磁界の変化を高い感度で検出するためには、GMR膜46及びGMR膜56のMR比の絶対値は、それぞれ、外部磁界Hが数百(Oe)以下で5%以上が好ましく、さらに好ましくは、10%以上である。
【0050】
また、本発明において、GMR膜46並びにGMR膜56は、それぞれ、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bと直接、電気的に接続されるので、薄膜ヨークより高い電気比抵抗を有するものが用いられる。一般に、電気比抵抗が小さすぎる材料の場合には、薄膜ヨーク間が電気的に短絡するので好ましくない。一方、電気比抵抗が高すぎる材料の場合には、ノイズが増加し、外部磁界の変化を電圧変化として検出するのが困難となる。GMR膜46及びGMR膜56の電気比抵抗は、それぞれ、103μΩcm以上1012μΩcm以下が好ましく、さらに好ましくは、104μΩcm以上1011μΩcm以下である。
【0051】
このような条件を満たす材料には、種々の材料があるが、中でも上述した金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料が特に好適である。金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料は、高いMR比と高い電気比抵抗を有するだけでなく、僅かな組成変動によってMR比が大きく変動することがないので、安定した磁気特性を有する薄膜を、再現性良く、かつ低コストで作製することができるという利点がある。
【0052】
第1GMR膜26として用いられる巨大磁気抵抗効果を有する金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料としては、具体的には、Co−Y2O3系ナノグラニュラー合金、Co−Al2O3系ナノグラニュラー合金、Co−Sm2O3系ナノグラニュラー合金、Co−Dy2O3系ナノグラニュラー合金、FeCo−Y2O3系ナノグラニュラー合金、Fe−MgF2、FeCo−MgF2、Fe−CaF2等のフッ化物系ナノグラニュラー合金等が好適な一例として挙げられる。
【0053】
この場合、GMR膜46とGMR膜56とは、それぞれ、同一材質からなるものであっても良く、あるいは、異なる材質からなるものであっても良い。
【0054】
GMR膜46及びGMR膜56は、それぞれ、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(A)54aの先端に形成された対向面上に堆積させたものからなる。従って、GMR膜46及びGMR膜56の膜厚は、それぞれ、要求されるギャップ長が得られるように、その材質、第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51に要求される特性等に応じて、最適な厚さを選択するのが好ましい。
【0055】
なお、薄膜ヨーク(A)44aを形成した後に形成されるGMR膜46のパターンの横幅は、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bのギャップ44c側先端の横幅より広くても良い。GMR膜46の横幅の方が広い場合には、GMR膜46によって薄膜ヨーク(A)44a−薄膜ヨーク(B)44b間を電気的に分離することができるばかりでなく、薄膜ヨーク(B)44bをパターン形成する時に、薄膜ヨーク(A)44aを損傷させないための保護膜としての機能をも持つので、製造工程に自由度を持たせることができるという利点がある。また、一般に、ギャップ幅に比してGMR膜46の横幅が広くなると、薄膜ヨークの横幅方向に漏れる弱い磁束に感応するGMR膜領域が増加し、磁界感度が低下する場合がある。このような場合には、薄膜ヨーク(B)44bをパターン形成するときに、これをすべてのマスクとして、その下にあるGMR膜46と薄膜ヨーク(A)44aの先端部を同時にエッチングすれば、薄膜ヨーク(B)44bの横幅方向にはみ出している余分なGMR膜46を抜いてしまうこともできる。
【0056】
一方、GMR膜46の横幅の内、薄膜ヨーク(A)44aと薄膜ヨーク(B)44bの双方に電気的に接触している部分は、薄膜ヨークのギャップ側先端の横幅より狭くても良い。この場合、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bと電気的に接触させない部分には、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b間を電気的に分離するための絶縁性・非磁性材料からなる薄膜をさらに形成する必要があるので、工数が若干増加するという欠点がある。しかしながら、確実に安定した抵抗値を持つ磁気センサとなる利点がある。
【0057】
これらの点は、GMR膜56も同様である。
【0058】
電極48、48及び電極58、58は、それぞれ、出力を取り出すためのものであり、導電性材料が用いられる。具体的には、Cu、Ag、Au等が好適である。但し、これらの下地には、Cr、Ti、Niなどの密着向上と拡散防止の膜が置かれる。電極48、48及び電極58、58の形状は、特に限定されるものではない。但し、絶縁基板42上に素子を作り込んだ後、隣接する電極48と電極58にはワイヤがボンディングされるが、このボンディングを円滑に行うためには、絶縁基板42の底面から各電極までの高さは、ほぼ一定であることが好ましい。
【0059】
従って、凹部42aの底部側に形成される薄膜ヨーク(A)44aに接合される電極48については、図1に示すように、その長さを平坦部42cの上まで延長し、ボンディングに供される部分の高さを、平坦部42c上に形成される電極58、58とほぼ同等にするのが好ましい。
【0060】
保護膜50並びに保護膜60は、それぞれ、絶縁基板42の表面に露出しているGMR膜46、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに、GMR膜56、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bを大気から遮断し、これらを保護するためのものである。
【0061】
保護膜50及び保護膜60には、絶縁性・非磁性材料が用いられる。保護膜50及び保護膜60の材質としては、具体的には、Al2O3、SiO2、Si3N4、200℃以上でハードベークしたフォトレジスト等が好適な一例として挙げられる。
【0062】
次に、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40の製造方法について説明する。なお、以下の説明においては、第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51の対応する各要素が、いずれも同一材質からなる場合について説明するが、両者の対応する各要素の全部又は一部が異なる材質からなる場合には、必要に応じて、以下の各工程を複数回繰り返せばよい。また、絶縁基板42上に第1薄膜磁気センサ41のみを作製する場合には、後述する各工程の内、第2薄膜磁気センサ51に相当する部分を省略すればよい。第2薄膜磁気センサ51のみを作製する場合も同様である。
【0063】
図2〜図5に、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40の製造方法の工程図を示す。本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40の製造方法は、基板加工工程と、薄膜ヨーク(A)形成工程と、GMR膜形成工程と、薄膜ヨーク(B)形成工程と、電極形成工程と、保護膜形成工程とを備えている。
【0064】
初めに、基板加工工程について説明する。基板加工工程は、絶縁性・非磁性材料からなる絶縁基板42の表面に、凹部又は凸部を形成(傾斜面形成工程)すると同時に、凹部又は凸部に隣接して平坦部を形成(平坦部形成工程)する工程である。絶縁基板42の表面に、第1傾斜面42bを備えた凹部42a及びこれに隣接する平坦部42cを形成する場合、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0065】
すなわち、まず、絶縁基板42の表面に、Cr、Tiなどにより光の透過を防止する透過防止膜(図示省略)を成膜した後、凹部42aを形成する部分を除いて、フォトレジスト膜38を形成する(図2(a))。次いで、絶縁基板42を回転させながら、Arイオンビームエッチングを行う。この時、絶縁基板42の回転速度、Arイオンビームの照射角度等の照射条件を最適化すると、図2(b)に示すように、フォトレジスト膜38の境界線に沿って、絶縁基板42を斜めにエッチングすることができる。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38を除去すれば、図2(c)に示すように、その側面に第1傾斜面42bを備えた凹部42aが得られる。
【0066】
なお、本実施の形態では、Arイオンビームエッチングを用いたが、他のウエットエッチングや、反応性イオンエッチング等を用いても類似の形状を形成することは可能であるため、Arイオンビームエッチングのみに限定されるものではない。
【0067】
次に、凹部42aに隣接する平坦部42cを形成する。具体的には、まず、絶縁基板42の表面に、再び透過防止膜(図示省略)を成膜した後、平坦部42cを形成する領域を除いて、新たにフォトレジスト膜38を形成する(図2(d))。次いで、所定の条件下でArイオンビームエッチングを行うと、図2(e)に示すように、フォトレジスト膜38で覆われていない部分が平坦に除去される。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38を除去すれば、図2(f)に示すように、凹部42aに隣接して、所定の高さを有する平坦部42cを形成することができる。
【0068】
なお、絶縁基板42の表面をエッチングすることにより凹部42aを形成する代わりに、絶縁基板42の表面に絶縁性・非磁性材料を所定のパターンで堆積させることにより、凹部42aを形成しても良い。また、絶縁基板42表面のエッチング又は絶縁基板42表面への絶縁性・非磁性材料の堆積によって、絶縁基板42の表面に凸部を形成しても良い。
【0069】
次に、薄膜ヨーク(A)形成工程について説明する。薄膜ヨーク(A)形成工程は、絶縁基板42に形成された凹部又は凸部の側面に、薄膜ヨーク(B)44bとの対向面を有し、かつ軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(A)44aを堆積させると同時に、絶縁基板42に形成された平坦部42cの表面に、薄膜ヨーク(B)54bとの対向面を有し、かつ軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(A)54aを堆積させる工程である。薄膜ヨーク(A)の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0070】
すなわち、まず、凹部42a及び平坦部42cが形成された絶縁基板42の表面全面に、軟磁性材料からなる軟磁性薄膜44dを、所定の厚さとなるまで堆積させる(図3(a))。次いで、図3(b)に示すように、軟磁性薄膜44dの内、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(A)54aとなる部分に、それぞれ、新たにフォトレジスト膜38a及び38bを形成する。
【0071】
次に、絶縁基板42の表面を所定の条件下でエッチングする。この時、エッチング条件を最適化すると、図3(c)に示すように、軟磁性薄膜44dがフォトレジスト膜38a及び38bの境界線に沿って、所定の角度でエッチングされる。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38a及び38bを除去すると、図3(d)に示すように、その端面に所定の傾斜角度を有する対向面を備えた薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(A)54aを、それぞれ、第1傾斜面42b上及び平坦部42c上に形成することができる。
【0072】
次に、GMR膜形成工程について説明する。GMR膜形成工程は、薄膜ヨーク(A)44aの対向面上に、所定の組成を有するGMR膜46を堆積させると同時に、薄膜ヨーク(A)54aの対向面上に、所定の組成を有するGMR膜56を堆積させる工程である。GMR膜46及びGMR膜56の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0073】
すなわち、まず、絶縁基板42の表面全面に、所定の組成を有する巨大磁気抵抗効果を有する材料からなる薄膜46aを、所定の厚さとなるまで堆積させる(図3(e))。次いで、図3(f)に示すように、この薄膜46aの内、GMR膜46及びGMR膜56となる部分に、それぞれ、新たにフォトレジスト膜38a及び38bを形成する。
【0074】
次に、絶縁基板42の表面を所定の条件下でエッチングすると、図3(g)に示すように、薄膜46aの内、フォトレジスト膜38a及び38bで覆われていない部分が除去される。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38a及び38bを除去すると、図4(a)に示すように、薄膜ヨーク(A)44aの対向面上及び薄膜ヨーク(A)54aの対向面上にそれぞれ形成されたGMR膜46及びGMR膜56が得られる。
【0075】
なお、上述した工程に代えて、フォトレジスト膜38a、38bと全く反転のフォトレジストマスクを形成しておき、その後、GMR膜を堆積させ、フォトレジストマスクを溶解すると同時に、不要なGMR膜を除去するリフトオフ法を用いても良い。また、GMR膜の横幅が薄膜ヨーク(B)先端の横幅より広い場合には、そのまま次工程に進めば良い。一方、GMR膜の横幅が薄膜ヨーク(B)先端の横幅より狭い場合には、薄膜ヨーク(A)と薄膜ヨーク(B)とを絶縁するための絶縁性・非磁性材料からなる薄膜をGMR膜に隣接して形成する。
【0076】
次に、薄膜ヨーク(B)形成工程について説明する。薄膜ヨーク(B)形成工程は、GMR膜46と薄膜ヨーク(B)44bとが、薄膜ヨーク(A)44aの対向面上に堆積させたGMR膜46の膜表面において電気的に接続されるように、凹部又は凸部の側面に軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(B)44bを堆積させると同時に、GMR膜56と薄膜ヨーク(B)54bとが、薄膜ヨーク(A)54aの対向面上に堆積させたGMR膜56の膜表面において電気的に接続されるように、平坦部上に軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(B)54bを堆積させる工程である。薄膜ヨーク(B)の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0077】
すなわち、まず、絶縁基板42の表面全面に、軟磁性材料からなる軟磁性薄膜44dを、所定の厚さとなるまで堆積させる(図4(b))。次いで、図4(c)に示すように、薄膜ヨーク(B)44b及び薄膜ヨーク(B)54bとなる部分に、それぞれ、新たにフォトレジスト膜38a及び38bを形成する。
【0078】
次に、絶縁基板42の表面を所定の条件下でエッチングする。この時、エッチング条件を最適化すると、図4(d)に示すように、軟磁性薄膜44dがフォトレジスト膜38a及び38bの境界線に沿って、所定の角度でエッチングされる。また、エッチングは、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)54aの表面に堆積した軟磁性薄膜44dが完全に除去されるまで行う。また、GMR膜の横幅が薄膜ヨーク(B)先端の横幅より広い場合において、エッチング条件を最適化すれば、薄膜ヨーク(B)をマスクとして、薄膜ヨーク(B)先端からはみ出している余分なGMR膜を除去することもできる。
【0079】
エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38a及び38bを除去すれば、図4(e)に示すように、ギャップ長がGMR膜46の膜厚によって規定される一対の薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びにギャップ長がGMR膜56の膜厚によって規定される一対の薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bが得られる。
【0080】
この後、絶縁基板42表面の平坦化を行い、絶縁基板42の表面に第3薄膜ヨーク(B)44bの端面を露出させる。平坦化の方法は、特に限定されるものではなく、絶縁基板42の表面に研磨用保護膜を形成し、これを機械的に研磨する機械研磨法、エッチバック法等、種々の方法を用いることができる。
【0081】
例えば、エッチバック法を用いて第3絶縁基板42表面を平坦化する場合には、まず、絶縁基板42の表面に研磨用保護膜37を形成し(図4(f))、次いで、絶縁基板42表面に対してArイオンビームエッチングを行い(図4(g))、さらに残った研磨用保護膜37を除去すれば良い(図5(a))。この場合、研磨用保護膜37には、90℃以下でプリベーク又は90〜120℃でポストベークしたフォトレジスト膜を用いるのが好ましい。
【0082】
また、研磨用保護膜37で覆われた絶縁基板42の表面に対してArイオンビームエッチングを行うと、最初に研磨用保護膜37のみがエッチングされる。エッチングを続行すると、やがて薄膜ヨーク(B)44b及び薄膜ヨーク(B)54bの凸部が露出するので、以後は、研磨用保護膜37と薄膜ヨーク(B)44b及び薄膜ヨーク(B)54bの双方がエッチングされる。
【0083】
一般に、薄膜ヨーク(B)の突部上にあるレジスト膜が完全に平坦とならず、また、薄膜ヨークとフォトレジスト膜のエッチング速度に差があるので、1回のエッチングで薄膜ヨーク(B)の必要部に損傷を与えずに、不要部分を完全に除去するのは困難である。そのため、図4(g)に示すように、フォトレジスト膜(研磨用保護膜37)がなくなる前にエッチングを一旦止め、フォトレジスト膜を除去(ハクリ)する。そして、薄膜ヨーク(B)の不要部分が完全に除去されるまで、(1)フォトレジスト膜の形成及びプリベーク又はポストベーク、(2)エッチング、及び(3)ハクリを所定回数繰り返す。
【0084】
次に、電極形成工程について説明する。電極形成工程は、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bの端部に、それぞれ、電極48、48を形成すると同時に、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)54bの端部に、それぞれ、電極58、58を形成する工程である。電極48、48及び電極58、58の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0085】
すなわち、まず、電極48、48及び電極58、58を形成する領域を除いて、新たにフォトレジスト膜38を形成する(図5(b))。次いで、フォトレジスト膜38の上から、所定の厚さを有する導電性材料からなる薄膜48aを堆積させる(図5(c))。さらに、フォトレジスト膜38を除去すれば、図5(d)に示すように、薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44b、並びに、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bの端部に、それぞれ、電極48、48及び電極58、58を形成することができる。
【0086】
次に、保護膜形成工程について説明する。保護膜形成工程は、絶縁基板42の表面に、薄膜ヨーク(A)44a、薄膜ヨーク(B)44b及びGMR膜46を保護するための保護膜50を形成すると同時に、薄膜ヨーク(A)54a、薄膜ヨーク(B)54b及びGMR膜56を保護するための保護膜60を形成する工程である。保護膜50及び保護膜60の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0087】
すなわち、まず、保護膜50及び保護膜60を形成する領域を除いて、新たにフォトレジスト膜38を形成する。この時、電極48、48及び電極58、58の一部が保護膜で覆われるように、フォトレジスト膜38を形成するのが好ましい。次いで、その上から所定の厚さを有し、かつ絶縁性・非磁性材料からなる薄膜50aを堆積させる(図5(e))。その後、フォトレジスト膜38を除去すれば、図5(f)に示すように、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40が得られる。
【0088】
次に、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40の作用について説明する。薄膜ヨーク(A)44a及び薄膜ヨーク(B)44bは、絶縁基板42に形成された凹部42aの第1傾斜面42bに堆積させたものからなるので、その磁化は、第1傾斜面42bとほぼ平行な面内に固定されている。しかも、第1薄膜磁気センサ41は、その感磁軸が絶縁基板42の表面に対して平行にならないように、第1傾斜面42b上に形成されているので、外部磁界の内、z方向成分を検出することができる。
【0089】
一方、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bは、凹部42aに隣接して形成された平坦部42cに堆積させたものからなるので、その磁化は、平坦部42cとほぼ平行な面内に固定されている。しかも、第2薄膜磁気センサ51は、その感磁軸が絶縁基板42の表面に対して垂直にならないように、平坦部42c上に形成されているので、外部磁界の内、x方向又はy方向成分を検出することができる。
【0090】
そのため、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40によれば、z方向及びx方向又はy方向に変化する外部磁界を確実に検出することができる。また、第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51は、いずれも、GMR膜の両端に軟磁性材料からなる薄膜ヨークが配置された構造を備えているので、磁界感度が高く、相対的に弱い外部磁界であっても確実に検出することができる。
【0091】
また、第1薄膜磁気センサ41及び第2薄膜磁気センサ51は、いずれも、そのギャップ長がGMR膜の膜厚とほぼ同等になっているので、薄膜ヨークから空間に分散する磁束を最小限に抑えることができる。そのため、薄膜ヨークではさまれた狭いギャップ内にGMR膜を堆積させる従来の薄膜磁気センサに比べて、高い磁界感度を得ることができる。
【0092】
また、一対の薄膜ヨークの内、一方の薄膜ヨークを先に堆積させ、その対向面上にGMR膜を堆積させた後、さらに他方の薄膜ヨークを堆積させる方法によれば、ギャップ長がGMR膜の膜厚とほぼ同等である薄膜磁気センサを容易に作成することができる。しかも、各薄膜ヨークは、GMR膜の膜表面においてGMR膜と面接触しているので、両者の電気的接触状態が安定化し、安定した電気的、かつ磁気的特性を有する薄膜磁気センサチップを高い歩留まりで製造することができる。
【0093】
さらに、同一絶縁基板上に、z方向を検出するための薄膜磁気センサ(第1薄膜磁気センサ41)と、x方向及び/又はy方向を検出するための薄膜磁気センサ(第2薄膜磁気センサ51)とを同時に形成することができる。そのため、これらを直列に接続し、その中点電位を検出することによって、例えば、z方向磁界を検出する際には、第2薄膜磁気センサ51が参照抵抗として動作する。
【0094】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る薄膜磁気センサチップについて説明する。図6(a)及び図6(b)に、それぞれ、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70の平面図、及びそのA−A’線断面図を示す。図7において、薄膜磁気センサチップ70は、第1薄膜磁気センサ71と、第2薄膜磁気センサ51とを備えている。
【0095】
第1薄膜磁気センサ71は、絶縁基板72の表面に対して垂直方向(z方向)の磁界成分を検出するためのものであり、絶縁基板72と、ギャップ74cを介して対向する一対の薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74bと、この一対の薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74bと電気的に接続されるようにギャップ74c間に形成されたGMR膜76とを備えている。
【0096】
また、薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74bは、その端部に電極78、78が接合されている。さらに、薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74b並びにGMR膜76の表面は、保護膜80により覆われている。
【0097】
絶縁基板72の表面には、凹部72aが形成されている。本実施の形態において、凹部72aの側面は、絶縁基板72の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第2傾斜面72bと、第2傾斜面72bと連続し、かつ絶縁基板72の表面に対して平行な第2水平面72cと、第2水平面72cと連続し、かつ絶縁基板72の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第3傾斜面72dとを備えている。第1薄膜磁気センサ71は、その感磁軸が第3絶縁基板72の表面に対して平行にならないように、第2傾斜面72b、第2水平面72c及び第3傾斜面72d上に形成されている。
【0098】
第2傾斜面72b及び第3傾斜面72dの傾斜角度は、特に限定されるものではないが、第1薄膜磁気センサ71により、絶縁基板72の表面に対して垂直方向(z方向)の外部磁界を効率よく検出するためには、第2傾斜面72b及び第3傾斜面72dの傾斜角度は、それぞれ、90°に近いほうが好ましい。また、第1薄膜磁気センサ71は、その感磁軸のz方向成分が最も大きくなるように、第2傾斜面72b、第2水平面72c及び第3傾斜面72d上に形成するのが好ましい。
【0099】
本実施の形態において、薄膜ヨーク(A)74aは、第2水平面72cのほぼ中央から凹部72aの底部側にある第2傾斜面72bにかけて形成されている。また、薄膜ヨーク(B)74bは、第2水平面72cのほぼ中央から絶縁基板72の表面側にある第3傾斜面72dにかけて形成されている。さらに、薄膜ヨーク(A)74aと薄膜ヨーク(B)74bが対向するギャップ74cは、第2水平面72cのほぼ中央に形成されている。
【0100】
薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74bの形状は、特に限定されるものではないが、第1薄膜磁気センサ71によりz方向の外部磁界を効率よく検出するためには、薄膜ヨーク(A)74aは、第2水平面72c上に形成された部分の長さより第2傾斜面72b上に形成された部分の方が長いことが好ましい。同様に、薄膜ヨーク(B)74bは、第2水平面72c上に形成された部分の長さより第3傾斜面72d上に形成された部分の方が長いことが好ましい。
【0101】
第2水平面72c上に形成された部分の長さよりも第2傾斜面72b上又は第3傾斜面72c上に形成された部分の長さを長くすると、第2傾斜面72b又は第3傾斜面72d方向の反磁界を小さくすることができるので、薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74bの電極側端部を外部磁界の流入・流出端として有効に機能させることができる。換言すれば、第1薄膜磁気センサ71の感磁軸を第2傾斜面72b又は第3傾斜面72dに対してほぼ平行にすることができる。
【0102】
なお、第1薄膜磁気センサ71に関するその他の点については、第1の実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40を構成する第1薄膜磁気センサ41と同様であるので説明を省略する。
【0103】
また、第2薄膜磁気センサ51は、絶縁基板72の表面に対して平行方向(x方向又はy方向)の磁界成分を検出するためのものであると同時に、第1薄膜磁気センサ71の参照抵抗となるものであり、絶縁基板72の表面に形成された凹部72aに隣接する平坦部72e上に形成されたものからなる。この第2薄膜磁気センサ51は、第1の実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ40を構成する第2薄膜磁気センサ51と同一であるので、説明を省略する。
【0104】
次に、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70の製造方法について説明する。なお、以下の説明においては、第1薄膜磁気センサ71及び第2薄膜磁気センサ51の対応する各要素が、いずれも同一材質からなる場合について説明するが、両者の対応する各要素の全部又は一部が異なる材質からなる場合には、必要に応じて、以下の各工程を複数回繰り返せばよい。また、絶縁基板72上に第1薄膜磁気センサ71のみを作製する場合には、後述する各工程の内、第2薄膜磁気センサ51に相当する部分を省略すればよい。第2薄膜磁気センサ51のみを作製する場合も同様である。
【0105】
図7〜図10に、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70の製造方法の工程図を示す。本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70の製造方法は、基板加工工程と、薄膜ヨーク(A)形成工程と、GMR膜形成工程と、薄膜ヨーク(B)形成工程と、電極形成工程と、保護膜形成工程とを備えている。
【0106】
初めに、基板加工工程について説明する。基板加工工程は、絶縁性・非磁性材料からなる絶縁基板72の表面に、凹部又は凸部を形成(傾斜面形成工程)すると同時に、凹部又は凸部に隣接して平坦部を形成(平坦部形成工程)する工程である。絶縁基板72の表面に、第2傾斜面72b、第2水平面72c及び第3傾斜面72dを備えた凹部72a、並びにこれに隣接する平坦部72eを形成する場合、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0107】
すなわち、まず、絶縁基板72の表面に透過防止膜(図示省略)を成膜した後、凹部72a及び平坦部72eを形成する部分を除いて、フォトレジスト膜38を形成する(図7(a))。次いで、絶縁基板72を回転させながら、Arイオンビームエッチングを行う。この時、絶縁基板72の回転速度、Arイオンビームの照射角度等の照射条件を最適化すると、図7(b)に示すように、フォトレジスト膜38の境界線に沿って、絶縁基板72を斜めに、かつ一定の深さにエッチングすることができる。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38を除去すれば、図7(c)に示すように、その表面に第3傾斜面72d及びこれと連続する平坦なエッチング領域が得られる。
【0108】
次に、絶縁基板72の表面に再び透過防止膜(図示省略)を成膜した後、第2傾斜面72bを形成するための領域を除いて、新たにフォトレジスト膜38を形成する(図7(d))。次いで、絶縁基板72の表面を所定の条件下でエッチングすると、図7(e)に示すように、フォトレジスト膜38の境界線に沿って、絶縁基板72が斜めにエッチングされる。エッチング終了後、フォトレジスト膜38を除去すれば、図8(a)に示すように、絶縁基板72の表面に、第2傾斜面72b、第2水平面72c及び第3傾斜面72dを備えた凹部72a、並びにこれに隣接する平坦部72eを形成することができる。
【0109】
なお、絶縁基板72の表面をエッチングすることにより凹部72aを形成する代わりに、絶縁基板72の表面に絶縁性・非磁性材料を所定のパターンで堆積させることにより、凹部72aを形成しても良い点、絶縁基板72表面のエッチング又は絶縁基板72表面への絶縁性・非磁性材料の堆積によって、絶縁基板72の表面に凸部を形成しても良い点、及び、Arイオンビームエッチングに代えて、ウエットエッチングや反応性イオンエッチング等を用いても良い点は、第1の実施の形態と同様である。
【0110】
次に、薄膜ヨーク(A)形成工程について説明する。薄膜ヨーク(A)形成工程は、絶縁基板72に形成された凹部又は凸部の側面に、薄膜ヨーク(B)74bとの対向面を有し、かつ軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(A)74aを堆積させると同時に、絶縁基板72に形成された平坦部72eの表面に、薄膜ヨーク(B)54bとの対向面を有し、かつ軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(A)54aを堆積させる工程である。薄膜ヨーク(A)の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0111】
すなわち、まず、凹部72a及び平坦部72eが形成された絶縁基板72の表面全面に、軟磁性材料からなる軟磁性薄膜74dを、所定の厚さとなるまで堆積させる(図8(b))。次いで、図8(c)に示すように、軟磁性薄膜74dの内、薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(A)54aとなる部分に、それぞれ、新たにフォトレジスト膜38a及び38bを形成する。
【0112】
次に、絶縁基板72の表面を所定の条件下でエッチングすると、図8(d)に示すように、軟磁性薄膜74dがフォトレジスト膜38a及び38bの境界線に沿って、所定の角度でエッチングされる。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38a及び38bを除去すると、図8(e)に示すように、その端面に所定の傾斜角度を有する対向面を備えた薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(A)54aを、それぞれ、第2水平面72cのほぼ中央から第2傾斜面72bにかけて、並びに平坦部72e上に形成することができる。
【0113】
次に、GMR膜形成工程について説明する。GMR膜形成工程は、薄膜ヨーク(A)74aの対向面上に、所定の組成を有するGMR膜76を堆積させると同時に、薄膜ヨーク(A)54aの対向面上に、所定の組成を有するGMR膜56を堆積させる工程である。GMR膜46及びGMR膜56の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0114】
すなわち、まず、絶縁基板72の表面全面に、所定の組成を有する巨大磁気抵抗効果を有する材料からなる薄膜76aを、所定の厚さとなるまで堆積させる(図8(f))。次いで、図9(a)に示すように、この薄膜76aの内、GMR膜76及びGMR膜56となる部分に、それぞれ、新たにフォトレジスト膜38a及び38bを形成する。
【0115】
次に、絶縁基板72の表面を所定の条件下でエッチングすると、図9(b)に示すように、薄膜76aの内、フォトレジスト膜38a及び38bで覆われていない部分が除去される。エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38a及び38bを除去すると、図9(c)に示すように、薄膜ヨーク(A)74aの対向面上及び薄膜ヨーク(A)54aの対向面上にそれぞれ形成されたGMR膜76及びGMR膜56が得られる。なお、GMR膜の形成に際し、リフトオフ法を用いても良い点、及びGMR膜の横幅は、薄膜ヨーク(B)先端の横幅より広くても良く、あるいは狭くても良い点は、第1の実施の形態と同様である。
【0116】
次に、薄膜ヨーク(B)形成工程について説明する。薄膜ヨーク(B)形成工程は、GMR膜76と薄膜ヨーク(B)74bとが、薄膜ヨーク(A)74aの対向面上に堆積させたGMR膜76の膜表面において電気的に接続されるように、凹部又は凸部の側面に軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(B)74bを堆積させると同時に、GMR膜56と薄膜ヨーク(B)54bとが、薄膜ヨーク(A)54aの対向面上に堆積させたGMR膜56の膜表面において電気的に接続されるように、平坦部72e上に軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(B)54bを堆積させる工程である。薄膜ヨーク(B)の形成は、具体的には、以下のような方法を用いるのが好ましい。
【0117】
すなわち、まず、絶縁基板72の表面全面に、軟磁性材料からなる軟磁性薄膜74dを、所定の厚さとなるまで堆積させる(図9(d))。次いで、図9(e)に示すように、薄膜ヨーク(B)74b及び薄膜ヨーク(B)54bとなる部分に、それぞれ、新たにフォトレジスト膜38a及び38bを形成する。
【0118】
次に、絶縁基板72の表面を所定の条件下で、かつ薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(A)54aの表面に堆積した軟磁性薄膜74dが完全に除去されるまでエッチングすると、図9(f)に示すように、軟磁性薄膜74dがフォトレジスト膜38a及び38bの境界線に沿って、所定の角度でエッチングされる。また、GMR膜の横幅が薄膜ヨーク(B)先端の横幅より広い場合において、エッチング条件を最適化すれば、薄膜ヨーク(B)をマスクとして、薄膜ヨーク(B)先端からはみ出している余分なGMR膜を除去することもできる。
【0119】
エッチング終了後、残ったフォトレジスト膜38a及び38bを除去すれば、図10(a)に示すように、ギャップ長がGMR膜76の膜厚によって規定される一対の薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74b、並びにギャップ長がGMR膜56の膜厚によって規定される一対の薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bが得られる。
【0120】
この後、絶縁基板72表面の平坦化を行い、薄膜ヨーク(B)74bの端面を絶縁基板72の表面に露出させる。平坦化の方法は、特に限定されるものではなく、上述した機械研磨法、エッチバック法等、種々の方法を用いることができる。
【0121】
例えば、エッチバック法を用いて絶縁基板72表面を平坦化する場合には、まず絶縁基板72の表面に研磨用保護膜37を形成し(図10(b))、次いで絶縁基板72の表面に対してArイオンビームエッチングを行い(図10(c))、さらに残った研磨用保護膜37を除去(図10(d))すれば良い。この場合、研磨用保護膜37には、90℃以下でプリベーク又は90〜120℃でポストベークしたフォトレジスト膜を用いるのが好ましい。
【0122】
また、研磨用保護膜37で覆われた絶縁基板72の表面に対してイオンビームエッチングを行うと、最初に研磨用保護膜37のみがエッチングされる。エッチングを続行すると、やがて薄膜ヨーク(B)74b及び薄膜ヨーク54bの凸部が露出するので、以後は、研磨用保護膜37と薄膜ヨーク(B)74b及び薄膜ヨーク54bの双方が同時にエッチングされる。
【0123】
一般に、薄膜ヨーク(B)上の突部をフォトレジスト膜で完全に平坦化できず、かつ、薄膜ヨークとフォトレジスト膜のエッチング速度に差があるので、1回のエッチバックにより絶縁基板72の表面を完全に平坦化するのは困難である。このような場合には、研磨用保護膜37が完全になくなる前にエッチングを止め、研磨用保護膜37を一旦除去(ハクリ)した後、(1)研磨用保護膜37の形成、(2)エッチング、及び(3)ハクリを、複数回繰り返すのが好ましい。
【0124】
絶縁基板72の表面を平坦化した後、第1の実施の形態と同様の手順に従い、薄膜ヨーク(A)74a及び薄膜ヨーク(B)74bの端部に、それぞれ電極78、78を形成し、薄膜ヨーク(A)54a及び薄膜ヨーク(B)54bの端部に電極58、58を形成する(電極形成工程)。さらに、薄膜ヨーク(A)74a、薄膜ヨーク(B)74b及びGMR膜76の表面に保護膜80を形成し、薄膜ヨーク(A)54a、薄膜ヨーク(B)54b及びGMR膜56の表面に保護膜60を形成(保護膜形成工程)すれば、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70が得られる。
【0125】
次に、本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70の作用について説明する。本実施の形態に係る薄膜磁気センサチップ70は、絶縁基板72の凹部72aの側面に形成された第1薄膜磁気センサ71と、平坦部72eに形成された第2薄膜磁気センサ51とを備えているので、z方向及びx方向又はy方向に変化する外部磁界を確実に検出することができる。
【0126】
また、第1薄膜磁気センサ71及び第2薄膜磁気センサ51は、いずれも、GMR膜の両端に軟磁性材料からなる薄膜ヨークが配置された構造を備えており、しかも、ギャップ長がGMR膜の膜厚とほぼ同等であるので、磁界感度が高く、相対的に弱い外部磁界であっても確実に検出することができる。また、GMR膜は、その膜表面において一対の薄膜ヨークと面接触しているので、安定した電気的、磁気的特性が得られる。
【0127】
また、本実施の形態においては、第2水平面72c上にギャップ74cが形成されているので、z方向の磁界を検出するための第1薄膜磁気センサ71の作製が容易化する。さらに、本発明に係る製造方法は、一方の薄膜ヨーク(A)、GMR膜及び他方の薄膜ヨーク(B)をこの順で形成しているので、このような高い磁界感度と、安定した磁気特性を有する薄膜磁気センサチップ70を低コストで、かつ再現性良く製造することができる。
【0128】
また、第1薄膜磁気センサ71と、第2薄膜磁気センサ51を直列に接続すれば、一方が他方の参照抵抗として機能するので、大きな温度変化が生ずる環境下で使用した場合であっても、z方向、又はx方向若しくはy方向の磁界成分を高い精度で検出することができる。
【0129】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0130】
【発明の効果】
本発明に係る薄膜磁気センサは、その感磁軸の少なくとも1つが絶縁基板表面に対して平行にならないように、薄膜ヨーク(A)、薄膜ヨーク(B)及びGMR膜が絶縁基板表面に形成されているので、外部磁界の内、絶縁基板の表面に対して垂直方向(z方向)成分を、高い感度で検出できるという効果がある。
【0131】
また、本発明に係る薄膜磁気センサの製造方法は、絶縁基板の表面に凹部を形成し、凹部の側面に、薄膜ヨーク(A)、GMR膜及び薄膜ヨーク(B)をこの順で形成しているので、外部磁界のz方向成分を高い感度で検出可能であり、かつ安定した磁気特性を示す薄膜磁気センサを低コストで、かつ再現性良く製造できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気センサチップの平面図、及びそのA−A’線断面図である。
【図2】 図1に薄膜磁気センサチップの製造方法を示す工程図である。
【図3】 図2に示す工程図の続きである。
【図4】 図3に示す工程図の続きである。
【図5】 図4に示す工程図の続きである。
【図6】 図6(a)及び図6(b)は、それぞれ、本発明の第2の実施の形態に係る薄膜磁気センサチップの平面図、及びそのA−A’線断面図である。
【図7】 図6に示す薄膜磁気センサチップの製造方法を示す工程図である。
【図8】 図7に示す工程図の続きである。
【図9】 図8に示す工程図の続きである。
【図10】 図9に示す工程図の続きである。
【符号の説明】
40 薄膜磁気センサチップ
41 第1薄膜磁気センサ
42 絶縁基板
42a 凹部
42b 第1傾斜面
44a 薄膜ヨーク(A)
44b 薄膜ヨーク(B)
46 GMR膜
51 第2薄膜磁気センサ
54a 薄膜ヨーク(A)
54b 薄膜ヨーク(B)
56 GMR膜
70 薄膜磁気センサチップ
71 第1薄膜磁気センサ
72 絶縁基板
72a 凹部
72b 第2傾斜面
72c 第2水平面
72d 第3傾斜面
Claims (5)
- 軟磁性材料からなり、かつギャップを介して対向させた一対の薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)と、
該一対の薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)と電気的に接続されるように前記ギャップ間に形成された、前記軟磁性材料より高い電気比抵抗を有するGMR膜と、
前記薄膜ヨーク(A)及び薄膜ヨーク(B)、並びに前記GMR膜を支持する絶縁性・非磁性材料からなる絶縁基板とを備え、
前記薄膜ヨーク(A)及び前記薄膜ヨーク(B)は、その感磁軸の少なくとも1つが前記絶縁基板の表面に対して平行にならないように、前記絶縁基板上に形成されている薄膜磁気センサであって、
前記絶縁基板は、その表面に、該絶縁基板の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第2傾斜面と、該第2傾斜面と連続し、かつ前記絶縁基板の表面に対して平行な第2水平面と、該第2水平面と連続し、かつ前記絶縁基板の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第3傾斜面とを備えた凹部又は凸部を有し、
前記薄膜ヨーク(A)は、前記第2傾斜面及び前記第2水平面上に形成され、
前記薄膜ヨーク(B)は、前記第2水平面及び前記第3傾斜面上に形成され、
前記ギャップは、前記第2水平面上に形成されている薄膜磁気センサ。 - 前記薄膜ヨーク(A)は、前記第2水平面上に形成された部分の長さより前記第2傾斜面上に形成された部分の長さの方が長いものからなり、
前記薄膜ヨーク(B)は、前記第2水平面上に形成された部分の長さより前記第3傾斜面上に形成された部分の方が長いものからなる請求項1に記載の薄膜磁気センサ。 - 前記絶縁基板の表面の凹部又は凸部に隣接する平坦部上に、さらに、前記絶縁基板の表面に対して平行方向の磁界成分を検出する薄膜磁気センサを有する請求項1又は2に記載の薄膜磁気センサ。
- 前記薄膜ヨーク(A)及び前記薄膜ヨーク(B)は、外部磁界の流入・流出端の断面積(Sr)に対する前記ギャップ側の断面積(Sf)の比(Sf/Sr)が1以下である請求項1から3までのいずれかに記載の薄膜磁気センサ。
- 絶縁性・非磁性材料からなる絶縁基板表面に凹部又は凸部を形成する傾斜面形成工程と、
前記凹部又は凸部の側面に、薄膜ヨーク(B)との対向面を有し、かつ軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(A)を堆積させる薄膜ヨーク(A)形成工程と、
前記薄膜ヨーク(A)の前記対向面と電気的に接続するように、前記軟磁性材料より高い電気比抵抗を有するGMR膜を前記対向面上に堆積させるGMR膜形成工程と、
前記GMR膜と前記薄膜ヨーク(B)とが、前記対向面上に堆積させた前記GMR膜の膜表面において電気的に接続されるように、前記凹部又は凸部の側面に前記軟磁性材料からなる薄膜ヨーク(B)を堆積させる薄膜ヨーク(B)形成工程とを備え、
前記傾斜面形成工程は、その側面に、前記絶縁基板の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第2傾斜面と、該第2傾斜面と連続し、かつ前記絶縁基板の表面に対して平行な第2水平面と、該第2水平面と連続し、かつ前記絶縁基板の表面に対して90°以下の角度で傾斜している第3傾斜面とを備えた前記凹部又は凸部を形成するものであり、
前記薄膜ヨーク(A)形成工程は、前記第2傾斜面及び前記第2水平面上に前記薄膜ヨーク(A)を形成するものであり、
前記薄膜ヨーク(B)形成工程は、前記第2水平面及び前記第3傾斜面上に前記薄膜ヨーク(B)を形成するものである薄膜磁気センサの製造方法。
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