JP4310973B2 - 水分散型樹脂組成物、これを含む水分散型塗料、その塗料を用いた塗膜、その塗膜を用いた金属板および缶 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は缶内面用の塗料として優れた水系樹脂組成物に関する。また当該水系樹脂組成物を含有する塗料および塗膜に関する。さらに本発明は前記塗膜を用いた金属板および缶に関する。
【0002】
【従来の技術】
食品や飲料缶内面に塗装される塗料はその性質から毒性がなく、廃棄、リサイクル時にも汚染物質の排出もなく、製缶の加工、レトルト処理の蒸気、熱、内容物の塩、酸に耐えるものでなければならない。
【0003】
従来、缶の内面塗料としてはエポキシ樹脂を主とする塗料が多く使用されている。その中でも特に、水分散型(水系)のエポキシ−アクリル塗料は、自然環境の保護、及び作業環境の改善のため、溶剤系の塗料に置き換わり缶内面塗料として多く用いられるようになっている。エポキシ−アクリル樹脂は水分散化後の安定性も良好であり、缶内面に塗装された後の加工性、耐レトルト性、などにすぐれ、また、従来は人体に対する衛生性にも優れているとされてきた。
【0004】
しかし、エポキシ−アクリル塗料の原料であるビスフェノール−Aは外因子内分泌撹乱物質(環境ホルモン)である可能性が示唆されるようになり、近年特に食品分野において缶の内面塗料へのビスフェノール−Aの使用を避ける要求が高まっている。そのため、ビスフェノール−Aに代わる水系塗料の開発が望まれているが、いまだ十分に好適な塗料組成物は得られていない。
【0005】
たとえば、特開平9−296100号公報、特開平11−61035号公報、特開平11−124542号公報、特開平11−236529号公報、特開2000−26709号公報では、ジカルボン酸、グリコール、ポリカルボン酸モノ無水物などでポリエステル樹脂の解重合、または開環付加反応を行い樹脂末端に酸価を与えることが望ましいとしている。さらににこれを塩基性化合物で分子内に有するカルボキシル基を中和することで水分散し、アミノ樹脂、保護コロイドを含有する水系塗料樹脂組成物が提案されている。
【0006】
これらの塗料は硬化性、加工性に優れるものの、アミノ樹脂は衛生性に乏しく、特にメラミン−ホルムアルデヒド樹脂は耐レトルト性に乏しい。また、この耐レトルト性を改良するために疎水性のアミノ樹脂(ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド樹脂など)を使用することも可能であるが、これら特許公報に記載の方法で得られたポリエステル樹脂はカルボキシル基が分子末端に偏在しているため、分散安定性が低い。したがって塗料の安定化を図るため保護コロイドを使用する必要があるが、この保護コロイドが耐レトルト性、衛生性を低下させるという問題がある。また、分散安定性が低いために缶内面塗料としてスプレー塗装した際にスプレーノズルの目詰まりや塗装後のタレを生じるという問題もある。
【0007】
また、特開平11−315251号公報においては、ポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂を組み合わせた塗料により、硬化性、加工性、耐レトルト性、衛生性が改善するとしている。しかしながら、当該公報に記載されているレゾール型フェノール樹脂は一部がアルキルエーテル化されているため水分散性に乏しく、これを水中にて分散安定化させるには、やはり保護コロイドや界面活性剤などの使用が必要となり、耐レトルト性が低下する原因となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の問題点を解決すべく、ビスフェノール−Aなどの環境ホルモンを含有せず、硬化性、加工性、耐レトルト性、衛生性、スプレー塗装性、水分散性に優れた、缶内面塗装用の水系樹脂組成物を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記の課題を達成するには、水分散性に優れたポリエステル樹脂に、硬化性、加工性、耐レトルト性、衛生性、スプレー塗装性、を付与すればよいことに着目し、鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル樹脂にカルボン酸ポリ無水物を開環付加反応させ、分子鎖中間にペンダント状のカルボキシル基修飾を行い、さらに塩基性化合物で中和して水性化(水分散性を付与すること)すると、混合した疎水性樹脂、たとえばフェノール樹脂も安定に水分散化することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)成分として、ポリエステルにカルボン酸無水物基を有する化合物が開環付加反応して得られるポリエステル樹脂であって、当該開環付加反応に使用する化合物には少なくともカルボン酸ポリ無水物が含まれ、樹脂酸価は150eq/106g〜800eq/106gであり、数平均分子量は5,000〜100,000であるポリエステル樹脂と、(B)成分として、フェノール樹脂と、(C)成分として、沸点が250℃以下の有機アミン化合物と、(D)成分として、水、あるいは、水および有機溶剤と、を含有する水系樹脂組成物である。
【0011】
ここで、前記カルボン酸無水物基を有する化合物は、該全量100モル%のうち10モル%を占めるカルボン酸ポリ無水物と、それ以外のカルボン酸モノ無水物とからなることが好ましい。さらに、前記カルボン酸ポリ無水物は、エチレングリコールビストリメリテート二無水物であることがさらに好ましい。
【0012】
また、前記フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。さらに、前記フェノール樹脂は、3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有するフェノール化合物と、ホルムアルデヒドとの共重合体であることがより好ましい。さらに、アルコキシメチル基を芳香環1個あたり平均して1つ以上有することがより好ましい。
【0013】
また、前記ポリエステル樹脂99質量部に対して、前記フェノール樹脂を1質量部〜99質量部含有することが好ましい。そして、ポリエステル樹脂の樹脂酸価に対して、塩基性化合物を0.5当量〜1.5当量含有することが望ましい。また、前記ポリエステル樹脂と前記フェノール樹脂あわせて100質量部に対して、酸触媒を0.01質量部〜3質量部含有することが好ましい。さらに、前記レゾール型フェノール樹脂のゲル到達時間は30秒以上であることが好ましい。また、前記有機アミン化合物が、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリンおよびN−エチルモルホリンのいずれかであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記水系樹脂組成物を含む水系塗料も含む。そして、本発明は、前記水系塗料を用いた塗膜も含む。さらに、本発明は、前記塗膜を用いた、金属板および缶を含む。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
【0016】
本発明の水系樹脂組成物は、(A)成分として特定のポリエステル樹脂と、(B)成分として特定のフェノール樹脂と、(C)成分として塩基性化合物と、(D)成分として、水、あるいは、水および有機溶剤と、を含有する。
【0017】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、ポリエステルにカルボン酸無水物基を有する化合物が開環付加反応ポリエステル樹脂であって、当該開環付加反応に使用する化合物には少なくともカルボン酸ポリ無水物が含まれ、樹脂酸価は150eq/106g〜800eq/106gであり、数平均分子量は5,000〜100,000であることを特徴とするポリエステル樹脂である。
【0018】
ここで、本発明において、カルボン酸ポリ無水物とは、分子内に2つ以上のカルボン酸無水物基をもつ化合物のことを示すものとする。また、カルボン酸モノ無水物とは、分子内に1つのカルボン酸無水物基をもつ化合物のことを示すものとする。
【0019】
また、一般にポリエステル樹脂とは、ポリマー鎖中にエステル結合を含むポリマーの総称であり、通常は、多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合反応によって合成されることが多い。
【0020】
まず、本発明に用いるポリエステル樹脂について説明する。
本発明に用いるポリエステル樹脂に使用されるカルボン酸成分としては、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、などの脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン−マレイン酸付加体、などの不飽和ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリト酸、(無水)ピロメリト酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸、などの3価以上のカルボン酸、4,4−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−ペンタン酸、4−モノ(4’−ヒドロキシフェニル)−ペンタン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、などのモノカルボン酸が挙げられ、これらの中から一種または二種以上を選択し使用できる。
【0021】
また、本発明に用いるポリエステル樹脂に使用される多価アルコール成分としては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、4−プロピル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類、などの脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、などの3価以上のポリアルコールを挙げることができ、これらの中から一種、又はそれ以上を選び使用できる。
【0022】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、ポリエステルにカルボン酸無水物基を有する化合物が開環付加したポリエステル樹脂であって、当該開環付加反応に使用された化合物のうち少なくとも10モル%以上はカルボン酸ポリ無水物である。
【0023】
前記カルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸ポリ無水物が、ポリエステル樹脂へ開環付加することにより、式(1)に例示されるように、ポリエステル樹脂分子鎖中に2価のカルボキシル基をもつペンダント状の構造が与えられる。
【0024】
【化1】
【0025】
2価のカルボキシル基をもつペンダント状の構造をポリエステル樹脂がとることにより、カルボン酸モノ無水物などで酸価を与えられるポリエステル樹脂よりも低い酸価での水分散化や分散体粒子径の細粒化、分散体の安定性向上が可能となり、再溶解性、スプレー塗装性、耐レトルト性の向上等の性能が向上する。
【0026】
また、カルボン酸モノ無水物のみで酸価を与えると一部のポリエステル樹脂は酸分解で低分子量化してしまい、加工性が低下するという問題が生じる場合がある。しかし、カルボン酸ポリ無水物の場合、式(2)に例示されるように、ポリエステル分子鎖の鎖が延長され、より高い分子量となり、加工性が向上する傾向にある。
【0027】
【化2】
【0028】
本発明に用いるポリエステル樹脂に開環付加する分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸ポリ無水物としては、たとえば、無水ピロメリト酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物などがあり、これらの中から一種、または二種以上を選び使用できる。上記カルボン酸ポリ無水物のうちでは、エチレングリコールビストリメリテート二無水物が最も好適に使用できる。
【0029】
本発明に用いるポリエステル樹脂に開環付加する分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸モノ無水物としては、たとえば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリト酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等の一無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、などが挙げられ、これらから一種または二種以上を選択し使用できる。
【0030】
分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を付加し、本発明に用いるポリエステル樹脂を得る方法としては、特に限定はされず、公知の方法を採用可能であるが、具体例を挙げると、分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を付加する前のポリエステル樹脂が目標の分子量(Mn=5,000〜100,000)に達した直後、溶融している状態(150℃〜280℃)に前記した分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を必要量添加する方法、分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を付加する前のポリエステル樹脂が目標の分子量未満(Mn<5,000)の段階で分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を添加し、窒素雰囲気下で分子量を目標まで上げる方法、分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を付加する前のポリエステル樹脂と分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を溶融押し出し装置で混練し、分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を付加する方法、などが挙げられ、いずれの方法でも本発明に用いるポリエステル樹脂は得られる。
【0031】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、150eq/106g〜800eq/106gの樹脂酸価を有する必要がある。前記樹脂酸価は、カルボン酸無水物基を有する化合物の開環付加反応後の数値である。
【0032】
前記樹脂酸価が150eq/106g未満だと、本発明に用いるポリエステル樹脂の水への分散性が低下し、分散体の保存性が不安定となる。また、前記樹脂酸価が800eq/106gを超えると、本発明の塗膜の耐レトルト性が低下する。本発明の水系樹脂組成物の樹脂酸価は、180eq/106g〜500eq/106gの範囲にあることが好ましく、200eq/106g〜400eq/106gの範囲にあれば更に好ましい。
【0033】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、数平均分子量が5,000〜100,000の範囲にある必要がある。数平均分子量が5,000未満であると本発明の塗膜が脆くなり、加工性や耐レトルト性に劣り、数平均分子量が100,000を越えると塗装作業性が低下する。数平均分子量は、8,000〜50,000の範囲にあるのが好ましく、10,000〜30,000の範囲にあればさらに好ましい。なお、ここで述べる数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0034】
本発明に用いるポリエステル樹脂に開環付加する分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物は、該全量100モル%のうち、10モル%以上を占めるカルボン酸ポリ無水物と、それ以外のカルボン酸モノ無水物とからなることが好ましい。カルボン酸ポリ無水物が10モル%未満だと、上記のポリエステル樹脂の水分散性向上やポリエステル分子鎖の高分子量化の効果が得られにくい。分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物のうちカルボン酸ポリ無水物は、20モル%以上含まれているのが好ましく、30モル%以上含まれていればさらに好ましい。
【0035】
また、本発明に用いるポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が0℃〜120℃の範囲にあるのが好ましく、10℃〜100℃の範囲にあればさらに好ましく、30℃〜100℃の範囲にあるのが最も好ましい。ガラス転移温度が0℃未満であると本発明の塗膜の耐レトルト性が劣る傾向がある。特に、本発明の塗膜を用いた缶がフレーバー性を必要とする内容物に使用される場合には、ガラス転移温度は50℃以上であることが望ましい。ガラス転移温度が120℃を超えると、本発明の塗膜の加工性や本発明の水系樹脂組成物の塗装作業性が低下する場合がある。なお、ここで述べるガラス転移温度(Tg)は示差熱分析(DSC)によって測定したものである。
【0036】
本発明に用いるフェノール樹脂は、フェノール樹脂であれば特に限定はされないが、レゾール型フェノール樹脂が好ましい。レゾール型フェノール樹脂は、本発明の水系樹脂組成物中において架橋剤として働く。ここで、一般にレゾール型フェノール樹脂とは、塩基性触媒を用いてフェノール類とホルムアルデヒドとの付加縮合によって合成されるフェノール樹脂のことをいう。レゾール型フェノール樹脂は、一般に加熱下で自己硬化する熱硬化性樹脂である。
【0037】
本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂は、3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有するフェノール化合物と、ホルムアルデヒドと、の共重合体であり、アルコキシメチル基を芳香環1個当たり平均して1つ以上有するものがより好ましい。
【0038】
本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂の原料は、3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有することが好ましい。ここで、3官能以上のフェノール化合物とは、ホルムアルデヒドとの反応性に富む部位が3個所以上あるフェノール化合物のことを示す。
【0039】
3官能以上のフェノール化合物が原料中50質量%未満だと、本発明に用いるポリエステル樹脂の硬化性が低下することがある。3官能以上のフェノール化合物は、原料中70質量%以上であることが好ましい。
【0040】
3官能以上のフェノール化合物としては、たとえば、フェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノール、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、などが挙げられ、これらは一種または二種以上を混合して使用できる。
【0041】
3官能フェノール化合物に加え、本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂の原料中に50質量%未満の範囲で性能を落とさない程度に加えてもよいフェノール化合物としては、たとえば、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、などの2官能のフェノール化合物が挙げられる。
【0042】
本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂は、アルコキシメチル基を芳香環1個当たり平均して1つ以上有するものが好ましい。
【0043】
本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂において、アルコキシメチル基が芳香環1個当たり平均1個未満だと本発明に用いるポリエステルとの硬化性が低下し、本発明の塗膜の耐レトルト性、加工性が劣ることがある。また、本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂をアルコキシ化せず、メチロール基をそのままにしておくと、本発明のポリエステル樹脂との硬化性に劣るおそれがある。
【0044】
本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂は、3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有するレゾール型フェノール樹脂を、ホルマリン、パラホルムアルデヒドまたはトリオキサンなどでメチロール化し、さらに当該メチロール基をアルコキシ化することによって得られる。
【0045】
3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有するレゾール型フェノール樹脂をアルコキシ化する際に使用されるアルコールは、炭素原子数1個〜8個の1価アルコールである。1価アルコールは、炭素原子数1個〜4個であることが好ましい。また、1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどを挙げることができる。ここに列挙した1価アルコールのうちでは、n−ブタノールが最も好ましい。また、3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有するレゾール型フェノール樹脂をアルコキシ化する際にはリン酸などの触媒を使用してもよい。
【0046】
アルコキシメチル基を芳香環1個当たり平均して1つ以上有するレゾール型フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂製造工程における重合反応時の原料割合、反応条件を調整することで得ることができる。
【0047】
本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂は、150℃に熱した金属プレートに滴下した後、ゲル(メチルエチルケトンに不溶化)に到達するまでの時間(以下ゲル到達時間と呼ぶ)は30秒以上であることが好ましい。ゲル到達時間が30秒未満だと、レゾール型フェノール樹脂同士の自己縮合反応が早くなるため、ポリエステル樹脂との硬化、架橋反応が進まず、硬化性の低下、相分離による塗膜の濁りの原因となる傾向がある。ゲル到達時間は、100秒以上であることがさらに好ましく、150秒以上であれば最も好ましい。
【0048】
レゾール型フェノール樹脂は、製造工程における重合反応に用いる原料化合物の化学構造、分子量などを調整することで、ゲル到達時間を30秒以上にすることができる。
【0049】
本発明の水系樹脂組成物は、本発明に用いるポリエステル樹脂99質量部に対して、本発明に用いるフェノール樹脂を1質量部〜99質量部含有することが好ましい。フェノール樹脂が1質量部より少ない場合は、本発明の塗膜の硬化性、耐水性が低下する傾向があり、加工性、耐レトルト性も十分でない場合がある。また99質量部より多い場合は、塗膜の可撓性が低下する傾向があり、加工性が十分でない場合がある。
【0050】
本発明に用いるフェノール樹脂とともに、必要に応じその他の架橋剤を加えて用いることができる。その他の架橋剤としては、たとえば、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、などが挙げられるが、衛生面よりアミノ樹脂が特に好ましい。これらの架橋剤は本発明の塗膜の性能を低下させない程度に配合し使用できる。
【0051】
前記のアミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド、などのアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基を炭素原子数1〜6のアルコールによってエーテル化したものも前記アミノ樹脂に含まれる。これらのアミノ樹脂は、単独或いは併用して使用できる。これらのアミノ樹脂のうちでは、衛生上、メラミン、ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂が特に好ましい。また、ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂は、耐レトルト性、抽出性に優れるため、これらのアミノ樹脂のうちでは最も好ましい。
【0052】
ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化ベンゾグアナミン樹脂のメチロール基を一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、あるいはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によるエーテル化によってできたメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合物によってエーテル化されたベンゾグアナミン樹脂が好ましい。前記のブチルアルコールとしては、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコールが特に好ましい。
【0053】
メラミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基を一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、あるいはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によるエーテル化によってできたメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合物によってエーテル化されたメラミン樹脂が好ましい。
【0054】
本発明の水系樹脂組成物には、硬化触媒として酸触媒を全樹脂分(ポリエステル樹脂とフェノール樹脂を併せたもの)100質量部に対して0.01質量部〜3質量部を含有することが好ましい。酸触媒を含有することで、架橋反応が促進され、より緻密な架橋が低温、短時間で得られる。酸触媒が0.01質量部未満だと、硬化促進性が低くなる傾向があり、また3質量部を超えると塗膜の耐水性が低下し、耐レトルト性が低下する。
【0055】
前記の酸触媒としては、たとえば、硫酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸、およびこれらをアミンブロック(アミンを添加し一部中和すること)したもの、などが挙げられ、これらの中から一種または二種以上を併用することができる。これらの酸触媒の中では、樹脂との相容性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、およびドデシルベンゼンスルホン酸をアミンブロックしたものが特に好ましい。
【0056】
また、本発明の水系樹脂組成物には、必要に応じ潤滑剤を含有することができる。全樹脂分(ポリエステル樹脂とフェノール樹脂を併せたもの)100質量部に対し、潤滑剤0.1質量部〜10質量部を加えることが好ましい。潤滑剤を加えることにより、製缶時の塗膜の傷付きを抑制したり、成形加工時の塗膜の滑りを向上させることができる。特にDI加工、DRD加工時に効果がある。
【0057】
本発明の水系樹脂組成物に加えることのできる潤滑剤としては、たとえば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、およびシリコン系化合物、などを挙げることができる。これらの潤滑剤は一種、または二種以上を混合し使用できる。
【0058】
本発明の水系樹脂組成物には、用途に合わせて、酸化チタン、シリカなどの公知の無機顔料、リン酸およびそのエステル化物、有機スズ化合物、などの硬化触媒、表面平滑剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤、などの公知の添加剤を配合することができる。
【0059】
本発明の水系樹脂組成物には、前記ポリエステル樹脂と、前記フェノール樹脂と、塩基性化合物と、水、あるいは、水および有機溶剤を含有する。
【0060】
本発明に用いる塩基性化合物としては、塗膜形成時の焼付で揮散する化合物、すなわち、アンモニアおよび/または沸点が250℃以下の有機アミン化合物、などが好ましい。塩基性化合物の具体例を挙げると、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、などを挙げることが出来る。これら塩基性化合物は、ポリエステル樹脂の酸価を少なくとも一部分中和し得る量を必要とし、具体的には酸価に対して0.5当量〜1.5当量を添加することが望ましい。塩基性化合物が0.5当量未満だと本発明の水系樹脂組成物の水への分散化の効果が低く、1.5当量を超えると本発明の水系樹脂組成物が著しく増粘したり、本発明に用いるポリエステル樹脂が加水分解を起こす可能性がある。
【0061】
本発明の水系樹脂組成物は、特定のポリエステル樹脂と、特定のフェノール樹脂と、塩基性化合物と、水、あるいは、水および有機溶剤と、を含有する。
【0062】
本発明の水系樹脂組成物は、有機溶剤を含まない水に分散させても、好ましく使用できるが、製膜性や塗膜の乾燥性、再溶解性、分散安定性を保つためには、有機溶剤を含む水に分散させて使用することがさらに好ましい。
【0063】
前記有機溶剤としては、ポリエステル樹脂の可塑効果があり、かつ両親媒性を有するものが好ましく、たとえば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、などのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、などの環状エーテル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、などを挙げることが出来る。
【0064】
本発明の水系樹脂組成物を得る方法としては、特に限定はされず、公知の方法を用いることができるが、たとえば、前記の有機溶剤のうち、一種または二種以上を選択し、本発明に用いるポリエステル樹脂を加熱溶解し、次に本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂と塩基性化合物を攪拌しながら必要量加えた後、水を加えることによって得ることができる。
【0065】
このとき水は、ポリエステル樹脂を溶解している有機溶剤の温度付近に温めたものを使用してもよい。水を加えていくとW/O型エマルジョンからO/W型エマルジョンへの相転移が生じる。
【0066】
また、この後、必要に応じ、ポリエステル樹脂を溶解する際に使用した有機溶剤を加熱留去、あるいは減圧留去することができる。有機溶剤を留去する方法としては、レゾール型フェノール樹脂が有機溶剤留去中の熱での縮合を抑えるためにも100℃以下での減圧留去が望ましく、80℃以下の減圧留去がさらに好ましい。この場合、有機溶剤を全量留去すれば完全に水系の樹脂組成物を得られるが、分散体の安定性、成膜性などから有機溶剤を3質量%〜20質量%含有させることが望ましい。
【0067】
また、本発明に用いるポリエステル樹脂を粉砕し、これに本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂、塩基性化合物、前記の有機溶剤を必要量仕込み、加熱分散することでも、本発明の水系樹脂組成物を得ることも可能である。この場合も加熱温度は100℃以下とすることが望ましい。
【0068】
しかし、前記の有機溶剤のうち、一種または二種以上を選択し、本発明に用いるポリエステル樹脂を加熱溶解し、次に本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂と塩基性化合物を攪拌しながら必要量加えた後、水を加える分散方法を行うほうが、より安定した水系分散体を得ることが出来る。
【0069】
本発明の水系樹脂組成物は、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤などのベヒクルとして、または、繊維、フィルム、紙製品の加工剤として利用することができ、優れた加工性を有する塗膜を形成する。本発明の水系樹脂組成物はそのままでも使用できるが、前記架橋剤や硬化触媒を配合して焼付硬化を行うこともでき、これにより高度の耐水性が発現され得る。また、本発明の水系樹脂組成物には、顔料、染料、各種添加剤などを配合することができる。さらに、本発明の水系樹脂組成物は、他の水性樹脂、水系分散体と混合して使用することにより加工性を向上させることができる。
【0070】
本発明の水系塗料には、塗膜の可撓性、密着性などの改質を目的とした樹脂を加えることができる。前記の樹脂としては、たとえば、エチレン−重合性不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−重合性カルボン酸共重合体アイオノマー、非水系ポリエステル樹脂、などを挙げることができ、これらの樹脂から選ばれる少なくとも一種以上の樹脂を配合することにより、塗膜の可撓性、密着性を改質することができる。
【0071】
これら樹脂を本発明に用いるポリエステル樹脂を加熱溶解する際に一緒に溶解し、次いで前記の水分散化の方法を採ることで、塗膜の可撓性、密着性が改質された水系塗料を得ることが出来る。
【0072】
また、本発明の水系塗料には、たとえば、リン酸、有機スルホン酸類、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、などの硬化促進剤、あるいは、可塑剤、顔料、界面活性剤、潤滑剤、増粘剤、レオロジー調整剤、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、などを、本発明の水系樹脂組成物の水分散性を損なわない範囲で、必要に応じて、加えてもよい。
【0073】
本発明の水系塗料の用途は、特に限定はされないが、たとえば、飲料缶、食品用缶など、または、それらの蓋、キャップ、などに好ましく塗装可能である。また、前記の飲料缶、食品用缶など、または、それらの蓋、キャップ、などに用いる金属板の内外面に好ましく塗装することができる。
【0074】
前記の金属板としては、使用目的にかなうものであれば特に限定はされないが、たとえば、ブリキ板、ティンフリースティール、アルミ、などを挙げることができる。これらの金属板にはあらかじめリン酸処理、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、その他の防錆処理剤などの防食、塗膜の密着性向上を目的とした表面処理を施したものを使用してもよい。
【0075】
本発明の水系塗料の塗装方法は、特に限定されず、公知の方法を使用可能であるが、たとえば、ロールコーター法、スプレー法、ディップコート法、刷毛塗り法、などの塗装方法によって塗装し、本発明の塗装金属板を得ることができる。
【0076】
また、本発明の塗膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、一般的には、乾燥膜厚で3μm〜20μmの範囲にあることが好ましく、3μm〜10μmの範囲にあることがさらに好ましい。膜厚が3μm未満の場合には、耐水性、耐酸性、耐腐食性、などの各種バリアー性が低下する傾向があり、膜厚が20μmを超える場合には、膜が乾燥しにくくなり、コスト面で不利になる傾向がある。
【0077】
塗膜の焼付条件は通常の場合、100℃〜300℃の温度で、5秒〜30分の範囲にあることが好ましく、150℃〜250℃の温度で、1分〜15分の範囲にあればさらに好ましい。
【0078】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の記述において単に部とあるものは質量部を示すものとする。
【0079】
<ポリエステル樹脂(a)の合成例>
テレフタル酸230部、イソフタル酸540部、2−メチル−1,3−プロパンジオール440部、1,4−シクロヘキサンジメタノール300部、チタンテトラブトキシド0.5部(またはジブチルスズオキシド0.5部)を3Lの四つ口フラスコに仕込み、4時間かけて235℃まで徐々に昇温し、エステル化を行った。所定量の水が溜出した後、30分かけて1330Paまで減圧初期重合を行なうとともに温度を255℃まで昇温し、さらにこのまま133Pa以下で80分間後期重合を行なった。目標分子量に達したらこれを窒素雰囲気下で220℃に冷却した。次いでエチレングリコールビストリメリテート二無水物20部、無水トリメリト酸18部を相次いで投入し、窒素雰囲気下、200℃〜230℃、1時間攪拌を継続した。これを取り出し本発明の実施例に用いるポリエステル樹脂(a)を得た。
【0080】
<ポリエステル樹脂の分析方法>
ポリエステル樹脂の各測定項目は、下記の方法にしたがって、測定した。
【0081】
(i)ポリエステル樹脂の組成(モル比)の定量
500MHzの核磁気共鳴スペクトル装置を用いて、ポリエステル樹脂の酸成分、アルコール成分のモル比を定量した。
【0082】
(ii)ポリエステル樹脂の数平均分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
【0083】
(iii)ポリエステル樹脂の還元粘度の測定
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25cm3に溶かし、30℃でウベローデ粘度管を用いて測定した。
【0084】
(iv)ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)の測定
示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定した。
【0085】
(v)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル0.2gを20cm3のクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当りの当量(eq/106g)を求めることによって測定した。
【0086】
<ポリエステル樹脂(b)〜(e)の合成例>
樹脂組成が表1に示されるようなモル比である点を除いては、合成例(a)と同様にして、本発明の実施例に用いるポリエステル樹脂(b)〜(e)を合成した。
【0087】
ポリエステル樹脂(b)〜(e)の組成とモル比、数平均分子量、還元粘度、ガラス転移温度、酸価、をポリエステル樹脂(a)と同様に測定した結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
<ポリエステル樹脂(f)〜(i)の合成例>
樹脂組成が表2に示されるようなモル比である点を除いては、合成例(a)と同様にして、本発明の比較例に用いるポリエステル樹脂(f)〜(i)を合成した。
【0090】
ポリエステル樹脂(f)〜(i)の組成とモル比、数平均分子量、還元粘度、ガラス転移温度、酸価、をポリエステル樹脂(a)と同様に測定した結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
<レゾール型フェノール樹脂(j)の合成例>
本発明の実施例に用いるレゾール型フェノール樹脂を、次の様にして合成した。m−クレゾール100部、37質量%ホルマリン水溶液180部、及び水酸化ナトリウム1部を加え、60℃で3時間反応させた後、減圧下50℃で1時間脱水した。次いでn−ブタノール100部を加え、110℃〜120℃で4時間反応を行った。反応終了後、得られた溶液を濾過して、固形分約50質量%のm−クレゾール系のレゾール型フェノール樹脂架橋剤(j)を得た。合成配合と質量比を表3に示す。
【0093】
また、レゾール型フェノール樹脂架橋剤(j)の芳香環1個あたりのアルコキシメチル基の平均存在数、数平均分子量、ゲル到達時間、を下記の様に測定した。測定結果を表3に示す。
【0094】
<レゾール型フェノール樹脂の分析方法>
レゾール型フェノール樹脂の各測定項目は、下記の方法にしたがって、測定した。
【0095】
(i)レゾール型フェノール樹脂の芳香環1個あたりのアルコキシメチル基の平均存在数
500MHzの核磁気共鳴スペクトル装置を用いて測定し、フェノール樹脂のメチロール基とアルコキシメチル基の定量値から求めた。
【0096】
(ii)レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
【0097】
(iii)レゾール型フェノール樹脂のゲル化時間
150℃の熱した金属板に、得られたレゾール型フェノール樹脂溶液を滴下し、メチルエチルケトンに不溶化するまでの時間を計測して求めた。
【0098】
<レゾール型フェノール樹脂(k)〜(n)の合成例>
合成配合が表3に示されるような質量比である点を除いては、レゾール型フェノール樹脂(j)と同様にして、本発明の実施例または比較例に用いるレゾール型フェノール樹脂(k)〜(n)を合成した。
【0099】
また、レゾール型フェノール樹脂(k)〜(n)の芳香環1個あたりのアルコキシメチル基の平均存在数、数平均分子量、ゲル到達時間、を合成例(j)と同様に測定した。測定結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
<実施例1>
ポリエステル樹脂(a)100部、メチルエチルケトン80部、n−ブチルセロソルブ20部を1Lの四つ口フラスコに入れ、これを75℃で溶解する。次いで、N,N−ジメチルエタノールアミン2.5部、レゾール型フェノール樹脂(j)35部、イソプロパノール40部を順次投入し、70℃で均一化する。次に水を200部投入し、相転移を行う。
【0102】
70℃にした後、フラスコに減圧蒸留装置(ト字管、コンデンサー、溶剤トラップ、真空ポンプなど)を装着し、これを減圧下で溶剤留去していく。投入したメチルエチルケトン、イソプロパノールを留去し終えたらこれを冷却し、固形分36質量%の水系分散体を得た。この水系分散体30部に触媒としてキャタリスト602(固形分5質量%としたもの)を0.6部加え本発明の実施例の水系樹脂組成物(1)とした。
【0103】
また、水系樹脂組成物(1)を金属板(アルミ材:#5052、70mm×150mm×0.5mm、ブリキ材:5mm×100mm×0.22mm)にバーコーターで膜厚が4μm〜8μmになるように塗装し、230℃(雰囲気温度)×80秒で硬化焼き付けを行い、これをアルミテストピース(1)およびブリキテストピース(1)とした。
【0104】
<実施例2〜8>
樹脂および触媒の配合が表4に示すような質量比である点を除いては、実施例1と同様にして、本発明の実施例の水系樹脂組成物(2)〜(8)および本発明の実施例のアルミテストピース(2)〜(8)とブリキテストピース(2)〜(8)を得た。
【0105】
【表4】
【0106】
<比較例9〜14>
樹脂および触媒の配合が表5に示すような質量比である点を除いては、実施例1と同様にして、本発明の比較例の水系樹脂組成物(9)〜(14)および本発明の比較例のアルミテストピース(9)〜(14)とブリキテストピース(9)〜(14)を得た。尚、比較例14は本発明に用いるポリエステル樹脂をアミノ樹脂で硬化した場合を再現したものである。
【0107】
【表5】
【0108】
<性能評価>
得られた塗膜の性能を、アルミテストピース(1)〜(14)とブリキテストピース(1)〜(14)を用いて、硬化性、加工性1、加工性2、耐レトルト性、耐酸加工性、抽出性の項目について評価した結果を表4、表5に示す。また、同時に、水系樹脂組成物(1)〜(14)を用いてスプレー塗装性を評価した結果も表4、表5に示す。各評価項目は、下記の方法にしたがって評価した。
【0109】
(i)硬化性
アルミテストピースの塗装面にMEK溶剤を浸したフェルトを当て、これに荷重0.5kgをかけながら往復させ、その際、素地に達した回数から、次の基準に従って、硬化の程度を判断した。
○:良好 (≧10回)
△:やや硬化不足(5〜10回)
×:未硬化 (<5回)
(ii)加工性1
アルミテストピースを1枚挟み180°方向に折り返し、万力を使用折り曲げ、この曲げ加工部を1質量%NaCl水溶液に浸漬したスポンジに接触させ5.5Vの電圧をかけたときの通電値により評価した。通電値が小さい方(≦1.5mA)が良好である。
【0110】
(iii)加工性2
ブリキテストピースを180°方向に甘く折り返し、これにブリキテストピースをもう1枚挟み、この曲げ部分を40cm高さから1kgのおもり(ブロック状)を落とし、折り曲げ、この曲げ加工部を1質量%NaCl水溶液に浸漬したスポンジに接触させ5.5Vの電圧をかけたときの通電値により評価した。通電値が小さい方(≦1.5mA)が良好である。
【0111】
(iv)耐レトルト性
アルミテストピースを立ててステンレスカップに入れ、これにイオン交換水を試験片の半分の高さまで注ぎ、これを圧力釜の中に設置し、125℃×30分のレトルト処理を行った後、水中部分と蒸気部分それぞれの白化の度合いを目視で次の基準に従って判定した。
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターは無し
△:若干白化、または若干のブリスターあり
×:著しい白化、または著しいブリスターあり
(v)耐酸加工性
アルミテストピースをクエン酸1質量%を含む水溶液に浸し、125℃×30分処理した後、これを加工性1と同じ方法で通電値を測定して評価した。通電値が小さい方(≦1.5mA)が良好である。
【0112】
(vi)抽出性
耐レトルト性試験後の抽出液を、過マンガンカリウムにより滴定して、塗膜からの有機物の抽出量を定量して評価した。数値の少ない方が良好である。
【0113】
(vii)スプレー塗装性
水系樹脂組成物(1)〜(14)を水で固形分20質量%に希釈し、これを霧吹きで吹き付け、ノズルの詰まり具合を目視で観察し、次の評価基準に従って評価した。
○:良好
△:やや詰まり気味である。
×:詰まりが激しい。
【0114】
表4〜表5で明らかなように、本発明の水系樹脂組成物を塗布した金属板はその硬化性、加工性(1と2)、耐レトルト性、耐酸加工性、抽出性に優れており、本発明の水系樹脂組成物は、スプレー塗装性に優れている。
【0115】
また、本発明の水系樹脂組成物はビスフェノール−Aを含まず、抽出性にも優れているので、人体および環境に対する衛生性にも優れているということができる。
【0116】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0117】
【発明の効果】
本発明の水系樹脂組成物は、ビスフェノール−Aなどの環境ホルモンを含有せず、硬化性、加工性、耐レトルト性、衛生性、スプレー塗装性、水分散性に優れている。
【0118】
そのため、本発明の水系樹脂組成物は、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤などのベヒクルとして、または、繊維、フィルム、紙製品の加工剤として好適に利用することができる。
【0119】
また、本発明の水系塗料は、飲料缶、食品用缶など、または、それらの蓋、キャップ、それらの製造に用いる金属板に塗装した場合には、製缶の加工、レトルト処理の蒸気、熱、内容物の塩、酸に耐えることができるため、非常に優れた性質を示す。さらには、外因子内分泌撹乱物質(環境ホルモン)とされるビスフェノール化合物を含まないため、人体に対する毒性がなく、廃棄、リサイクル時にも汚染物質の排出もないため、人と環境に優しい塗料ということができる。
Claims (14)
- (A)成分として、ポリエステルに、全量100モル%のうち10モル%以上を占めるカルボン酸ポリ無水物とそれ以外のカルボン酸モノ無水物とからなるカルボン酸無水物基を有する化合物が開環付加反応して得られるポリエステル樹脂であって、樹脂酸価は150eq/106g〜800eq/106gであり、数平均分子量は5,000〜100,000であるポリエステル樹脂と、
(B)成分として、フェノール樹脂と、
(C)成分として、沸点が250℃以下の有機アミン化合物と、
(D)成分として、水、あるいは、水および有機溶剤と、
を含有する水分散型樹脂組成物。 - カルボン酸ポリ無水物が、エチレングリコールビストリメリテート二無水物であることを特徴とする請求項1に記載の水分散型樹脂組成物。
- (B)成分のフェノール樹脂が、レゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水分散型樹脂組成物。
- (B)成分のフェノール樹脂が、3官能以上のフェノール化合物を50質量%以上含有するフェノール化合物と、ホルムアルデヒドとの共重合体であることを特徴とする請求項3に記載の水分散型樹脂組成物。
- (B)成分のフェノール樹脂が、アルコキシメチル基を芳香環1個あたり平均して1つ以上有することを特徴とする請求項4に記載の水分散型樹脂組成物。
- (A)成分のポリエステル樹脂99質量部に対して、(B)成分のフェノール樹脂を1質量部〜99質量部含有することを特徴とする、請求項1に記載の水分散型樹脂組成物。
- (A)成分のポリエステル樹脂の樹脂酸価に対して、(C)成分の塩基性化合物を0.5当量〜1.5当量含有することを特徴とする、請求項1に記載の水分散型樹脂組成物。
- (A)成分のポリエステル樹脂と(B)成分のフェノール樹脂あわせて100質量部に対して、酸触媒を0.01質量部〜3質量部含有することを特徴とする、請求項1に記載の水分散型樹脂組成物。
- レゾール型フェノール樹脂のゲル到達時間が30秒以上であることを特徴とする請求項3に記載の水分散型樹脂組成物。
- (C)成分の有機アミン化合物が、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリンおよびN−エチルモルホリンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の水分散型樹脂組成物。
- 請求項1〜請求項10のいずれかに記載の水分散型樹脂組成物を含む水分散型塗料。
- 請求項11に記載の水分散型塗料を用いた塗膜。
- 請求項12に記載の塗膜を用いた金属板。
- 請求項12に記載の塗膜を用いた缶。
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