ところで、この特許文献1に開示されている構造では、限界荷重(フォースリミッタ荷重)を切り替えるための構造、換言すれば、プロファイルヘッドの引出方向の回転を規制するためのロック機構と、スプールとを、ねじり棒やスリーブを介して機械的に連結し、又は、連結を解除するための構造が、スプールに収容されている。このため、スプールの構造が複雑になると共に、スプールが大型化してしまい。ウエビング巻取装置全体が大型化してしまう。
本発明は、上記事実を考慮して、スプールを大型化することなく、スプールとロック部材との係合を強制的に解除しうる機構を有するウエビング巻取装置を得ることが目的である。
請求項1に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、軸方向に沿って貫通した中空の略筒状に形成されると共に長尺帯状のウエビングベルトの基端側が係止され、自らの軸周り方向の一方である巻取方向への回転により前記ウエビングベルトを基端側から巻き取る略筒状のスプールと、前記スプールの内側に設けられると共に、前記スプールの軸方向に沿った前記スプールの一端部よりも他端側に形成された連結部にて前記スプールに連結され、変形によりエネルギーを吸収するエネルギー吸収部材と、前記スプールの軸方向一端側における前記スプールの外側のロック可能位置でロック方向に移動可能に設けられ、前記ロック方向への移動により前記エネルギー吸収部材に直接又は間接的に係合し、前記巻取方向とは反対の引出方向への前記エネルギー吸収部材の回転を規制して前記スプールをロックし、前記引出方向への前記スプールの回転を規制する第1ロック部材を有し、車両の所定の状態を検知して前記第1ロック部材を前記ロック方向へ移動させるロック機構と、前記第1ロック部材を前記ロック可能位置で支持すると共に、当該支持を解除することで前記ロック可能位置から前記エネルギー吸収部材への前記係合が不能な位置まで前記第1ロック部材を離脱させる支持手段と、所定の条件を満たした場合に作動して、作動することにより前記支持手段を強制的に変位させて前記支持手段による前記第1ロック部材の支持状態を強制的に解除する解除手段と、を備えている。
請求項1に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、乗員が車両の座席に着席して、スプールに巻き取られて収納されたウエビングベルトを引き出し、更に、この引き出されたウエビングベルトを身体に掛け回して、例えば、ウエビングベルトに設けられたタングプレートをバックル装置に係合させることで、ウエビングベルトの乗員身体に対する装着状態となる。
一方、車両が所定の状態になったことがロック機構によって検知されてロック機構が作動すると、スプールの軸方向一端側のロック可能位置で支持手段により支持された第1ロック部材がロック方向に移動する。このように、第1ロック部材がロック方向に移動すると第1ロック部材がスプールの軸方向一端側でエネルギー吸収部材に対して直接又は間接的に係合する。これにより、エネルギー吸収部材の引出方向への回転が規制される。上記のスプールは軸方向に沿って貫通した中空の略筒状に形成されており、エネルギー吸収部材はスプールの内側に入り込んで、スプールの軸方向一端よりも他端側に設けられた連結部にてスプールに一体的に連結されている。このため、上記のように、エネルギー吸収部材の引出方向への回転が規制されることでスプールがロックされて引出方向へのスプールの回転が規制される。
例えば、上記の車両が所定の状態を車両の急減速状態とした場合には、車両急減速状態での慣性で略車両前方側へ移動しようとする乗員の身体が、装着しているウエビングベルトを引っ張る。基本的にはウエビングベルトは引っ張られることで、スプールが引出方向に回転しつつスプールに巻き取られている部分が引き出される。
しかしながら、上記のように引出方向へのスプールの回転がロックされることで、ウエビングベルトの引き出しが規制される。これにより、乗員の身体に装着されているウエビングベルトによって乗員の身体が確実に保持され、車両急減速状態での慣性による略車両前方側への乗員の身体の移動が規制される。
また、このロック状態ではエネルギー吸収部材の双方の引出方向への回転が規制されている。しかしながら、少なくとも連結部よりもスプールの軸方向一端よりも他端側でのエネルギー吸収部材の剛性に基づいた第1限界荷重より大きな荷重でウエビングベルトが引っ張られてスプールに引出方向の回転力が付与されると、エネルギー吸収部材はその両端(すなわち、スプールの軸方向に沿った両端)に対してスプールとの連結部分が相対回転して捩じられ、これによってエネルギー吸収部材が変形する。このように、エネルギー吸収部材が変形することでウエビングベルトが乗員の身体に付与する拘束力が弱まる。
一方、本発明に係るウエビング巻取装置では、上記の第1ロック部材が支持手段によってロック可能位置で支持される。ここで、所定の条件が満たされて解除手段が作動すると、解除手段によって支持手段が強制的に変位させられる。この支持手段の変位により、支持手段による第1ロック部材の支持が強制的に解除される。第1ロック部材は支持手段による支持が解除されることで、ロック可能位置から離脱して、上述したエネルギー吸収部材に対する直接又は間接的な係合が不能な位置まで第1ロック部材が変位する。
したがって、本発明に係るウエビング巻取装置では、第1ロック部材によるスプールのロックを強制的に解除できる。
さらに、上記のように作動した解除手段は、支持手段を強制的に変位させて、支持手段による第1ロック部材の支持を強制的に解除させて、エネルギー吸収部材に対する直接又は間接的な係合が不能な位置まで第1ロック部材を変位させるものである。このようにエネルギー吸収部材に対する第1ロックの直接又は間接的な係合が解除されることで、半ば強制的に第1ロック部材によるエネルギー吸収部材の回転規制を解除できる。
また、上記のように、解除手段が作動した場合のロック解除は、支持手段による支持を失うことでのロック可能位置からの脱落によるものである。したがって、第1ロック部材とエネルギー吸収部材との係合が、歯車とパウルとの噛み合いのような構成で、しかも、係合状態で第1ロック部材とエネルギー吸収部材とが所謂「食いつき」の状態になっていたとしても、第1ロック部材をロック可能位置から脱落させることで確実にロック解除を行える。
さらに、例えば、上記のロック機構が作動してから所定時間経過後に解除手段を作動させる構成とすれば、ロック状態から所定時間が経過することで第1ロック部材によるロックを解除できる。
したがって、この状態で連結部よりもスプールの軸方向他端側でエネルギー吸収部材の引出方向への回転が規制されていなければ、エネルギー吸収部材はスプールと共に自由に回転できる状態となる。
これに対して、連結部よりもスプールの軸方向一端側でエネルギー吸収部材の引出方向への回転が規制され、この軸方向一端側での回転規制により上記の第1限界荷重が連結部よりも他端側でのエネルギー吸収部材の剛性と、連結部よりも一端側でのエネルギー吸収部材の剛性の双方に基づいたものとなっていれば、エネルギー吸収部材の軸方向他端側でのエネルギー吸収部材のロックが解除されることで、ロック機構が作動してから所定時間経過後には第1限界荷重よりも小さな第2限界荷重でエネルギー吸収部材を変形させることが可能となる。
一方、上記のロック機構が作動する前に解除手段を作動させる構成とすれば、仮に、ロック機構が作動したとしても第1ロック部材がエネルギー吸収部材に係合することはできない。このため、この構成の場合には、第1ロック部材によるエネルギー吸収部材の引出方向への回転規制が行なわれない。
したがって、この状態で連結部よりも一端側でエネルギー吸収部材の引出方向への回転が規制され、上記の第1限界荷重が連結部よりも他端側でのエネルギー吸収部材の剛性と、連結部よりも一端側でのエネルギー吸収部材の剛性の双方に基づいたものとなっていれば、エネルギー吸収部材の軸方向他端側でのエネルギー吸収部材のロックが解除されることで、ロック機構の動作開始直後から上記の第2限界荷重でエネルギー吸収部材を変形させることが可能となる。
このように、エネルギー吸収部材を変形させるための第1及び第2限界荷重を選択的に切り替えることができ、特に、解除手段の動作タイミングをロック機構作動後に設定すれば、エネルギー吸収部材の変形途中でロックの解除や第1限界荷重未満の第2限界荷重でのエネルギー吸収部材の変形が可能になる。
また、第1ロック部材が基本的にスプールの外側のロック可能位置に設けられるため、スプールの内側には基本的にエネルギー吸収部材だけを設ければよい。これにより、これまでに説明した作用を奏するにも関わらず、スプールの大型化が効果的に抑制され、スプールの機械的な構造が簡素化される。
請求項2に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、前記連結部よりも前記スプールの軸方向他端側で前記エネルギー吸収部材に対して接離移動可能に設けられ、前記エネルギー吸収部材に対して接近移動することで前記エネルギー吸収部材に係合して前記引出方向への前記エネルギー吸収部材の回転をロックすると共に、前記第1ロック部材に機械的に連結され、前記エネルギー吸収部材へ接近移動することで前記ロック可能位置にある前記第1ロック部材を前記エネルギー吸収部材へ接近移動させる第2ロック部材を含めて前記ロック機構を構成した、ことを特徴としている。
請求項2に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、ロック機構が作動すると、第2ロック部材がエネルギー吸収部材に接近移動する。このように、第2ロック部材がエネルギー吸収部材に接近移動すると、スプールとエネルギー吸収部材との連結部よりもスプールの軸方向他端側で第2ロック部材がエネルギー吸収部材に直接又は間接的に係合する。これにより、スプールとエネルギー吸収部材との連結部分よりもスプールの軸方向他端側で引出方向へのエネルギー吸収部材の回転がロックされる。
一方、上記のように、第2ロック部材がエネルギー吸収部材に接近移動してエネルギー吸収部材に係合すると、この第2ロック部材に機械的に連結された第1ロック部材が連動してエネルギー吸収部材に接近移動し、連結部よりもスプールの軸方向他端側で第2ロック部材がエネルギー吸収部材に直接又は間接的に係合する。これにより、連結部よりもスプールの軸方向他端側で引出方向へのエネルギー吸収部材の回転がロックされる。
すなわち、本発明に係るウエビング巻取装置では、ロック機構が作動すると基本的に第1ロック部材と第2ロック部材とによりスプールの軸方向に沿った両端側にてエネルギー吸収部材がロックされる。したがって、第1限界荷重は、連結部よりもスプールの軸方向一端側におけるエネルギー吸収部材の剛性と、連結部よりもスプールの軸方向他端側におけるエネルギー吸収部材の剛性と、の双方に基づくものとなる。
ここで、上述したように、所定の条件が満たされることで解除手段が作動し、これによって、第1ロック部材によるエネルギー吸収部材のロックが解除させられると、エネルギー吸収部材の捩じり変形は連結部よりもスプールの軸方向一端側でのみ行なわれる。したがって、この状態では、連結部よりもスプールの軸方向他端側におけるエネルギー吸収部材の剛性に基づいた第2限界荷重よりも大きな荷重が作用すればエネルギー吸収部材が変形する。しかも、第2限界荷重に関しては、連結部よりもスプールの軸方向他端側におけるエネルギー吸収部材の剛性は基本的に関係ない。このため、第2限界荷重は第1限界荷重よりも小さい。
このように、解除手段を作動させることで、エネルギー吸収部材を変形させるための第1及び第2限界荷重を選択的に切り替えることができ、特に、解除手段の動作タイミングをロック機構作動後に設定すれば、エネルギー吸収部材の変形途中でロックの解除や第1限界荷重未満の第2限界荷重でのエネルギー吸収部材の変形が可能になる。
請求項3に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項2に記載の本発明において、前記連結部よりも前記スプールの軸方向一端側に設けられ、基端部にて前記連結部に一体的に結合されると共に、前記ロック方向に移動した前記第1ロック部材が先端側に直接又は間接的に係合し、先端側の引出方向への回転が前記第1ロック部材により規制される棒状の第1変形部と、前記スプールの軸方向に沿った寸法が前記第1変形部よりも長い棒状に形成されて、前記連結部よりも前記スプールの軸方向他端側に設けられ、基端部にて前記連結部に一体的に結合されると共に、前記ロック方向に移動した前記第2ロック部材が先端側に直接又は間接的に係合し、先端側の引出方向への回転が前記第2ロック部材により規制される第2変形部と、を含めて前記エネルギー吸収部材を構成した、ことを特徴としている。
請求項3に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、エネルギー吸収部材の第1変形部の先端側に、ロック方向に移動した第1ロック部材が係合することで、第1変形部の先端側は引出方向への回転が規制される。また、エネルギー吸収部材の第2変形部の先端側に、ロック方向に移動した第2ロック部材が係合することで、第2変形部の先端側は引出方向への回転が規制される。
したがって、このように第1変形部及び第2変形部の両先端側が第1ロック部材及び第2ロック部材に回転規制された状態での第1限界荷重は、第1変形部の剛性と第2変形部の剛性と、の双方に基づくものとなる。
但し、第2変形部は連結部を介して第1変形部とは反対側に設けられているため、ウエビングベルトが強制的に引き出されてスプールが引出方向に回転し、この引出方向の回転力が連結部に伝わると、第1変形部の基端側と第2変形部の基端側とでは一体的にではあるが、個々に先端側に対して引出方向に捩じり変形され、その捩じり変形量(すなわち、第1変形部及び第2変形部の両先端側に対する両基端部の回転角度)は第1変形部と第2変形部とで同じになる。
ここで、スプールの軸方向に沿った第2変形部の寸法は、第1変形部よりも長いため、第1変形部が破断するまで第1変形部を捩じり変形させても、第2変形部は破断せず捩じり変形し続け、この状態から更に第2変形部が捩じり変形されることで第2変形部が破断される。
このように、本発明に係るウエビング巻取装置では、第1変形部が破断しても第2変形部が破断しないため、第2ロック部材による第2変形部の回転規制が継続される。これにより、第1変形部が破断した後も、ウエビングベルトを引き出す引っ張り力に対抗することができるため、充分で且つ確実にウエビングベルトで乗員の身体を拘束できる。
請求項4に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項2に記載の本発明において、前記連結部よりも前記スプールの軸方向一端側に設けられ、基端部にて前記連結部に一体的に結合されると共に、前記ロック方向に移動した前記第1ロック部材が先端側に直接又は間接的に係合し、先端側の引出方向への回転が前記第1ロック部材により規制される第1変形部と、前記スプールの軸方向に対して直交する方向に切った断面積が前記第1変形部よりも小さな棒状に形成されて、前記連結部よりも前記スプールの軸方向他端側に設けられ、基端部にて前記連結部に一体的に結合されると共に、前記ロック方向に移動した前記第2ロック部材が先端側に直接又は間接的に係合し、先端側の引出方向への回転が前記第2ロック部材により規制される第2変形部と、を含めて前記エネルギー吸収部材を構成した、ことを特徴としている。
請求項4に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、エネルギー吸収部材の第1変形部の先端側に、ロック方向に移動した第1ロック部材が係合することで、第1変形部の先端側は引出方向への回転が規制される。また、エネルギー吸収部材の第2変形部の先端側に、ロック方向に移動した第2ロック部材が係合することで、第2変形部の先端側は引出方向への回転が規制される。
したがって、このように第1変形部及び第2変形部の両先端側が第1ロック部材及び第2ロック部材に回転規制された状態での第1限界荷重は、第1変形部の剛性と第2変形部の剛性と、の双方に基づくものとなる。
ここで、スプールの軸方向に対して直交する方向に沿って第2変形部を切った際の断面積は、同様にして切った際の第1変形部の断面積よりも小さい。したがって、スプールの軸方向に沿った単位長さ当たりの剛性は第2変形部よりも第1変形部の方が大きい。
このため、第1変形部及び第2変形部の双方の剛性に基づく第1限界荷重の大きさと、第2変形部の剛性のみに基づく第2限界荷重の大きさの差を大きくできる。
請求項5に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項2に記載の本発明において、前記連結部よりも前記スプールの軸方向一端側に設けられ、基端部にて前記連結部に一体的に結合されると共に、前記ロック方向に移動した前記第1ロック部材が先端側に直接又は間接的に係合し、先端側の引出方向への回転が前記第1ロック部材により規制される棒状の第1変形部と、基端部に対して先端側が前記スプールの軸方向周りに捩じり変形された際に破断するまでに要する捩じり変形量が前記第1変形部よりも大きな棒状に形成されて、前記連結部よりも前記スプールの軸方向他端側に設けられ、基端部にて前記連結部に一体的に結合されると共に、前記ロック方向に移動した前記第2ロック部材が先端側に直接又は間接的に係合し、先端側の引出方向への回転が前記第2ロック部材により規制される第2変形部と、を含めて前記エネルギー吸収部材を構成した、ことを特徴としている。
請求項5に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、エネルギー吸収部材の第1変形部の先端側に、ロック方向に移動した第1ロック部材が係合することで、第1変形部の先端側は引出方向への回転が規制される。また、エネルギー吸収部材の第2変形部の先端側に、ロック方向に移動した第2ロック部材が係合することで、第2変形部の先端側は引出方向への回転が規制される。
したがって、このように第1変形部及び第2変形部の両先端側が第1ロック部材及び第2ロック部材に回転規制された状態での第1限界荷重は、第1変形部の剛性と第2変形部の剛性と、の双方に基づくものとなる。
但し、第2変形部は連結部を介して第1変形部とは反対側に設けられているため、ウエビングベルトが強制的に引き出されてスプールが引出方向に回転し、この引出方向の回転力が連結部に伝わると、第1変形部の基端側と第2変形部の基端側とでは一体的にではあるが、個々に先端側に対して引出方向に捩じり変形され、その捩じり変形量(すなわち、第1変形部及び第2変形部の両先端側に対する両基端部の回転角度)は第1変形部と第2変形部とで同じになる。
ここで、上記の捩じり変形により第2変形部が破断するのに必要な捩じり変形量は、第1変形部を破断するのに必要な捩じり変形量よりも大きい。このため、第1変形部が破断するまで第1変形部を捩じり変形させても、第2変形部は破断せず捩じり変形し続け、この状態から更に第2変形部が捩じり変形されることで第2変形部が破断される。
このように、本発明に係るウエビング巻取装置では、第1変形部が破断しても第2変形部が破断しないため、第2ロック部材による第2変形部の回転規制が継続される。これにより、第1変形部が破断した後も、ウエビングベルトを引き出す引っ張り力に対抗することができるため、充分で且つ確実にウエビングベルトで乗員の身体を拘束できる。
請求項6に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載の本発明において、前記第2変形部の基端部に対して先端側が前記スプールの軸方向周りに捩じり変形された際に破断するまでに要する捩じり変形量を、前記第2ロック部材が前記第2変形部の回転を規制した状態で前記スプールに巻き取られている前記ウエビングベルトを所定の長さ引き出すために必要な前記スプールの回転量よりも大きく設定した、ことを特徴としている。
請求項6に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、第2変形部の基端部に対して先端側がスプールの軸方向周りに所定量(所定角度)捩じり変形されると第2変形部が破断する。ここで、本発明に係るウエビング巻取装置において、第2変形部を破断させるために必要な捩じり変形量は、第2ロック部材が第2変形部の回転を規制した状態でスプールに巻き取られているウエビングベルトを所定の長さ引き出すために必要なスプールの引出方向への回転量よりも大きい。
このため、スプールから所定の長さ未満のウエビングベルトが引き出されても、第2変形部が破断することがなく、ウエビングベルトで確実に乗員の身体を拘束できる。
なお、上記のウエビングベルトの「所定の長さ」に関しては特に限定するものではないが、その一例として、第2ロック部材が第2変形部の回転を規制した状態でスプールに巻き取られているウエビングベルトの全量が考えられる。
請求項7に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の本発明において、前記解除手段の動作開始タイミイグを、前記第1ロック部材が前記エネルギー吸収部材に直接又は間接的に係合した後に設定した、ことを特徴としている。
請求項7に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、所定の条件が満たされている状態で、第1ロック部材がエネルギー吸収部材に直接又は間接的に係合すると、この第1ロック部材の係合後に解除手段が作動し、支持手段による第1ロック部材の支持が強制的に解除される。
すなわち、本発明に係るウエビング巻取装置では、少なくとも、ロック機構の動作開始直後では、第1ロック部材によるエネルギー吸収部材の引出方向への回転規制が行なわれ、その後に、第1ロック部材による回転規制が解除される。したがって、エネルギー吸収部材の変形を途中で中止させたり、又、上述した第2限界荷重でのエネルギー吸収部材の変形に切り替えることができる。
請求項8に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の本発明において、前記第1ロック部材の下方から前記支持手段に前記第1ロック部材を支持させると共に、前記支持手段による前記第1ロック部材の支持の解除により、前記第1ロック部材を支持する支持均衡を崩し、或いは、前記支持手段による支持の解除により、前記第1ロック部材の自重で前記第1ロック部材を下方に落下させて前記ロック可能位置から離脱させる、ことを特徴としている。
請求項8に記載の本発明に係るウエビング巻取装置によれば、ロック可能位置で少なくとも第1ロック部材がその下方から支持手段に支持される。解除手段が作動して支持手段が強制的に変位させられると、第1ロック部材は支持手段による下方からの支持を失い、これにより、第1ロック部材を支持するための支持均衡が崩れて第1ロック部材が落下し、或いは、支持手段のみで第1ロック部材を支持しているならば、単純に第1ロック部材が自重によって落下する。このように第1ロック部材が落下することで第1ロック部材はロック可能位置から離脱する。
上記のように、本発明に係るウエビング巻取装置では、支持手段による第1ロック部材の支持が解除されると、第1ロック部材を支持するための支持均衡を崩し、又は、第1ロック部材が自重によって落下することにより第1ロック部材がロック可能位置から離脱するため、ロック可能位置から第1ロック部材を離脱させるにあたり、支持手段だけを強制変位させればよく、第1ロック部材に外力を付与して第1ロック部材を強制的に変位させる構成が不要である。これにより、装置の構成を簡素化でき、装置の小型化や部品点数の低減、ひいては、低コスト化が可能となる。
以上説明したように、本発明に係るウエビング巻取装置では、スプールを大型化することなく、スプールとロック部材との係合を強制的に解除しうる機構を設けることができる。
<第1の実施の形態の構成>
図1には、本発明の第1の実施の形態に係るウエビング巻取装置10の全体構成の概略が正面断面図によって示されている。
この図に示されるように、ウエビング巻取装置10はフレーム12を備えている。フレーム12は略板状の背板14を備えており、この背板14がボルト等の図示しない締結手段によって車体に固定されることで、本ウエビング巻取装置10が車体に取り付けられる構成となっている。背板14の幅方向両端からは一対の脚板16、18が互いに平行に延出されており、これらの脚板16、18間にダイカスト等によって製作された巻取軸としてのスプール20が回転可能に配置されている。
スプール20は略円筒形状のスプール本体22と、このスプール本体22の両端部に略円盤形状にそれぞれ形成された一対のフランジ部24、26とによって構成されており、全体としては鼓形状をなしている。
スプール本体22のフランジ部24、26間には、長尺帯状に形成されたウエビングベルト28の基端部が係止されており、スプール20をその軸周り一方の巻取方向へ回転させると、ウエビングベルト28がその基端側からスプール本体22の外周部に層状に巻き取られる。また、ウエビングベルト28をその先端側から引っ張れば、スプール本体22の外周部に巻き取られたウエビングベルト28が引き出され、これに伴い、巻取方向とは反対の引出方向にスプール20が回転する。
また、スプール20の内側には、エネルギー吸収部材としてのトーションシャフト30が配置されている。トーションシャフト30は、連結部32を備えている。連結部32は、スプール20の内側の軸方向中央部よりも脚板16側に設けられている。また、連結部32は全体的に略多角柱形状又は外周部にロレット等が形成された略円柱形状に形成されており、その軸心線はスプール20の軸心線に略一致した状態でスプール20の内周部に一体的に連結されている。
連結部32の軸方向一端部(脚板18側の端部)には第1変形部34が設けられている。第1変形部34は連結部32に対して略同軸の円柱形状とされており、その連結部32側の端部にて連結部32に一体的に連結されている。
一方、連結部32の軸方向他端部(脚板16側の端部)には第2変形部36が設けられている。第2変形部36は連結部32に対して略同軸で且つ第1変形部34よりも大径の円柱形状とされており、その連結部32側の端部にて連結部32に一体的に連結されている。
第2変形部36の連結部32とは反対側の端部は、脚板16に形成された円孔38を貫通してフレーム12の外側に突出している。脚板16から突出した第2変形部36の先端には、外歯のラチェット歯が外周部に形成されたラチェットホイール40が同軸的且つ一体的に形成されており、更に、ラチェットホイール40の第2変形部36とは反対側には係合シャフト42がラチェットホイール40に対して同軸的且つ一体的に形成されている。
また、ラチェットホイール40の脚板16とは反対側の側方には、スプリングケース44が配置されている。スプリングケース44は、直接又は間接的に脚板16又は背板14に一体的に連結されており、その内側には渦巻きばね46が収容されている。
渦巻きばね46は、その渦巻き方向外方側の端部がスプリングケース44に一体的に連結されていると共に、渦巻き方向内方側の端部はスプリングケース44内に入り込んだ係合シャフト42に連結されている。渦巻きばね46は、係合シャフト42が引出方向に回転することで巻き締まり、係合シャフト42に対する巻取方向への付勢力を増加させる。
一方、トーションシャフト30の第1変形部34の連結部32とは反対側の端部は、脚板18に形成された円孔48を貫通してフレーム12の外側に突出している。脚板18から突出した第1変形部34の先端には、外歯のラチェット歯が外周部に形成されたラチェットホイール50が同軸的且つ一体的に形成されている。
また、ラチェットホイール50の第1変形部34とは反対側にはロック機構52のハウジング54が配置されている。ハウジング54は、直接又は間接的に脚板18又は背板14に一体的に連結されている。
ハウジング54の内側には、ラチェットホイール50に対して同軸的且つ一体的に設けられた回転体、この回転体に対して同軸的に相対回転可能に設けられた慣性質量体としてのイナーシャルプレート、回転体とイナーシャルプレートとを連結すると共に、回転体の回転により生じたイナーシャルプレートに対する回転体の相対回転量に応じて増加したばね力(付勢力)でイナーシャルプレートを回転体の回転方向に押圧して回転体にイナーシャルプレートを追従回転させるスプリング、慣性硬球の転動によりイナーシャルプレートに係合してイナーシャルプレートの回転を規制する加速度センサ等の各部材が収容されている。
さらに、ハウジング54と脚板18との間には、第2ロック部材としてのロックパウル56が配置されている。ロックパウル56は軸方向がスプール20の軸方向と平行なシャフト58を備えている。シャフト58は、脚板18に回転自在に軸支されており、シャフト58周りの回動によってラチェットホイール50の外周部に対して接離する構造となっている。
また、ロックパウル56の一部はハウジング54の内部に入り込んでおり、ハウジング54内の回転体及びイナーシャルプレートの双方に係合し、イナーシャルプレートに対する回転体の引出方向への相対回転に連動してロックパウル56がラチェットホイール50の外周部に接近移動する構造となっている。さらに、ロックパウル56の外周一部には外歯のラチェット歯が形成されており、ロックパウル56がラチェットホイール50の外周部に接近移動するとロックパウル56のラチェット歯がラチェットホイール50のラチェット歯に噛み合ってロックし、引出方向へのラチェットホイール50の回転をロックパウル56が規制する。
一方、シャフト58には軸方向がスプール20の軸方向と平行なシャフト60が一体的に連結されている。シャフト60のシャフト58とは反対側の端部には、シャフト62がシャフト58に対して同軸的に形成されており、脚板16に回転自在に軸支されている。シャフト62の先端には、脚板16の外側に配置された揺動アーム64が固定されており、シャフト62の軸心周りにシャフト62と共に一体的に回動する。
図1及び図2に示されるように、揺動アーム64を介して脚板16とは反対側には支持手段としてのカムプレート66が設けられている。図2及び図3に示されるように、カムプレート66は、その本体部分68がスプール20と平行な軸周りに回動自在に脚板16に支持されている。
本体部分68の上部は支持部70とされている。支持部70の先端上面上で且つ上述したラチェットホイール40の下側には第1ロック部材としてのロックパウル72が設けられている。ロックパウル72は支持部70(カムプレート66)により下側から支持されている。
また、支持部70によるロックパウル72の支持位置から変位した位置(図3においてはロックパウル72の支持位置よりも左上方)では、ロックパウル56にガイドピン74が形成されている。
ガイドピン74は、上述した揺動アーム64に形成された長孔76に入り込んでいる。これにより、揺動アーム64とロックパウル56とが機械的に連結され、シャフト62周りの揺動アーム64の揺動に連動して、概ね支持部70での支持位置周りにロックパウル56が回動する。ロックパウル56は、この回動によりラチェットホイール40の外周部に接離する。
ロックパウル72の外周一部には外歯のラチェット歯が形成されており、ロックパウル72がラチェットホイール40の外周部に接近移動すると、ロックパウル72のラチェット歯がラチェットホイール40のラチェット歯に噛み合ってロックし、引出方向へのラチェットホイール40の回転をロックパウル72が規制する。
また、ロックパウル72のラチェット歯がラチェットホイール40のラチェット歯に噛み合う噛合位置(ロック位置)に位置したロックパウル72に対応して脚板16には干渉片73が形成されている。干渉片73は上記の噛合位置に位置したロックパウル72に対して背板14側から干渉している。噛合位置に到達したロックパウル72は、干渉片73からの干渉と支持部70(カムプレート66)からの支持との支持がバランスすることで噛合位置で保持される構成となっている。
上述したように、ロックパウル72を回動させる揺動アーム64は、シャフト62、60、58を介してロックパウル56に連結されており、ロックパウル72をラチェットホイール40の外周部に接近させる際の揺動アーム64の揺動方向は、ロックパウル56がラチェットホイール50の外周部に接近する際の回動方向と同じ方向になっている。
一方、上述したカムプレート66の本体部分68よりも下側には当接片78が形成されている。さらに、当接片78の側方には解除手段を構成するシリンダ80が配置されている。シリンダ80には、その軸方向に沿ってシリンダ80と共に解除手段を構成するピストン82が摺動可能に設けられている。シリンダ80の軸方向及び当接片78におけるカムプレート66の回動接線方向に沿ったピストン82の先端部の側方には、当接片78が概ね位置しており、シリンダ80から突出したピストン82が当接片78に当接して当接片78を押圧することでカムプレート66を回動させることができるようになっている。
シリンダ80の内部には、火薬及びこの火薬に着火する着火装置が収容されており、火薬が燃焼することで生じるガス圧の急激な増加によりピストン82がシリンダ80から押し出される構造となっている。
シリンダ80の内部に収容された着火装置は、制御装置84に電気的に接続されており、制御装置84から出力された電気的な着火信号に基づいて着火装置が火薬を着火する。
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、本ウエビング巻取装置10の動作の説明を通して、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
本ウエビング巻取装置10では、スプール20にウエビングベルト28が層状に巻き取られた収納状態で、図示しないタングプレートを引っ張りつつウエビングベルト28を引っ張ると、スプール20を巻取方向に付勢する渦巻きばね46の付勢力に抗してスプール20を引出方向へ回転させながらウエビングベルト28が引き出される。このように、ウエビングベルト28が引き出された状態で、ウエビングベルト28を座席に着座した乗員の身体の前方に掛け回しつつタングプレートを図示しないバックル装置に差し込み、バックル装置にタングプレートを保持させることで乗員の身体に対するウエビングベルト28の装着状態(以下、単に「装着状態」と称する)となる。
また、ウエビングベルト28を装着するためにウエビングベルト28を引き出してスプール20を引出方向へ回転させると、渦巻きばね46が巻き締められてスプール20を巻取方向側へ付勢する渦巻きばね46の付勢力が増加する。したがって、上記装着状態では、渦巻きばね46の付勢力がウエビングベルト28をスプール20に巻き取らせるように作用するため、基本的には、この付勢力で乗員の身体にウエビングベルト28がフィットし、このときの付勢力に応じた力でウエビングベルト28が乗員の身体を拘束、保持する。
これに対して、バックル装置によるタングプレートの保持が解除され、バックル装置からタングプレートが抜け出ると、渦巻きばね46の付勢力に抗して引出状態のままウエビングベルト28を維持する力が解除されるため、渦巻きばね46は付勢力でスプール20を巻取方向に回転させる。この巻取方向へのスプール20の回転により引き出されたウエビングベルト28がスプール20の外周部に層状に巻き取られ、これにより、ウエビングベルト28が収納される。
一方、車両が急減速状態になると、上述したロック機構52の加速度センサを構成する慣性鋼球が慣性により転動する。慣性鋼球が転動することで、加速度センサはイナーシャルプレートに係合してイナーシャルプレートをロックし、引出方向へのイナーシャルプレートの回転を規制する。
これに対して、上記のように車両が急減速状態になると、車両乗員の身体は慣性によって略車両前方側へ移動しようとする。乗員の身体が略車両前方側へ移動しようとすると、乗員の身体に装着されたウエビングベルト28が引っ張られ、これにより、スプール20が引出方向に回転しようとする。引出方向への回転力は、連結部32、第2変形部36、及びラチェットホイール50を介してハウジング54内の回転体に伝わり、回転体が引出方向に回転しようとする。
ここで、上記のように、この状態では、イナーシャルプレートは加速度センサにより引出方向の回転が規制されているため、イナーシャルプレートと回転体とを繋ぐスプリングの付勢力に抗して、イナーシャルプレートと回転体との間に相対回転が生じ、回転体がイナーシャルプレートに対して引出方向に回転する。この回転体とイナーシャルプレートとの間に生じた相対回転に連動してロックパウル56がシャフト58周りに回動してラチェットホイール50に接近移動する。
このように、ラチェットホイール50にロックパウル56が接近移動することで、ロックパウル56のラチェット歯がラチェットホイール50のラチェット歯に噛み合い、ラチェットホイール50がロックされる。これにより、ラチェットホイール50の引出方向への回転が規制され、ひいては、第2変形部36及び連結部32を介してラチェットホイール50に一体的に連結されているスプール20の引出方向への回転が規制される。
また、上記のように、ロックパウル56が回動してラチェットホイール50に接近すると、このロックパウル56の回動に連動してシャフト58〜62を介してロックパウル56に連結されている揺動アーム64が揺動する。さらに、揺動アーム64が揺動すると長孔76に入り込んだガイドピン74により揺動アーム64に連結されたロックパウル72が回動する。
このときのロックパウル72の回動方向はラチェットホイール40に接近する方向となるため、ロックパウル72が回動することで、図3に示されるように、それまでラチェットホイール40から離間していたロックパウル72は、図4に示されるように、ロックパウル72のラチェット歯がラチェットホイール40のラチェット歯に噛み合う。これにより、ラチェットホイール40はロックされ、引出方向へのラチェットホイール40の回転が規制される。
ラチェットホイール40もまたラチェットホイール50と同様に第1変形部34及び連結部32を介してスプール20に連結されているため、引出方向へのラチェットホイール40の回転が規制されることで引出方向へのスプール20の回転が規制される。
以上のように、ラチェットホイール40、50にロックパウル72、56が噛み合うことでスプール20の引出方向の回転が規制されると、基本的にウエビングベルト28のうちスプール20に巻き取られている分が引き出されることはない。このように、引き出しが規制されたウエビングベルト28によって車両乗員の身体は確実に拘束され、略車両前方側への乗員の身体の移動が規制される。
一方、以上のように、引出方向へのスプール20の回転が規制された状態でも車両急減速状態では慣性によって乗員の身体がウエビングベルト28を引っ張る。この引っ張り力はスプール20の引出方向への回転力となり、この回転力は連結部32を介して第1変形部34及び第2変形部36に付与される。
ここで、このときの引っ張り力が第1変形部34及び第2変形部36の双方の剛性に基づく第1限界荷重(第1フォースリミッタ荷重)以上になると、第1変形部34は、回転規制されているラチェットホイール50側の端部に対して連結部32側の端部が相対的に引出方向に回転して、捩じり変形される。また、第2変形部36も、回転規制されているラチェットホイール40側の端部に対して連結部32側の端部が相対的に引出方向に回転して、捩じり変形される。
また、このように、第1変形部34及び第2変形部36の双方が捩じり変形に伴い連結部32が引出方向に回転し、スプール20が引出方向に回転する。第1変形部34及び第2変形部36の双方の捩じり変形分に対応した回転量だけスプール20が引出方向に回転することで、この回転量に対応した長さだけウエビングベルト28が引き出される。
これにより、乗員の身体に対するウエビングベルト28の拘束力が緩和される。しかも、第1変形部34及び第2変形部36の双方の捩じり変形で引っ張り力のエネルギーが吸収されるため、このような場合でも急激なウエビングベルト28の引き出しが行なわれることがない。
さらに、上記のように、第1変形部34及び第2変形部36の双方の捩じり変形が開始されてから、極僅かな所定時間が経過すると、制御装置84から着火信号が出力され、シリンダ80内の着火装置が作動する。着火装置が作動するとシリンダ80内の火薬が燃焼され、これにより、急激にシリンダ80内の内圧が上昇する。このシリンダ80内の急激な内圧の上昇により、ピストン82が押し出される。ピストン82は押し出されることで、図5に示されるように、その先端部がカムプレート66の当接片78に衝突し、図6に示されるように、カムプレート66を強制的に回動させる。
このカムプレート66の回動により、カムプレート66の支持部70がロックパウル72の支持位置から変位する。ロックパウル72は、支持部70が支持位置から変位することで、支持部70による支持を失い、干渉片73からの干渉に基づく支持のみとなる。このように、ロックパウル72の支持が干渉片73からの干渉だけになることで、ロックパウル72を支持するための支持均衡(支持のバランス)が崩れる。
このように、ロックパウル72の支持均衡が崩れることで、ロックパウル72が長孔76に入り込んだガイドピン74周りに回動し、これに伴い、ロックパウル72のラチェット歯がラチェットホイール40のラチェット歯から離間しつつ回動して、ラチェットホイール40のラチェット歯に対して噛み合い不能な位置まで移動する。
このようにして、ラチェットホイール40とロックパウル72との噛み合いが解消されることで、ラチェットホイール40の引出方向への回転規制が解除される。これにより、第1変形部34の連結部32とは反対側は基本的に自由に回転できる状態となる。したがって、この状態で、連結部32を介してスプール20の引出方向への回転力が第1変形部34に付与されても、第1変形部34はその全体が連結部32と共に引出方向に回転するだけで捩じり変形が生じない。
このため、この状態では、ウエビングベルト28に付与されている引っ張り力が第2変形部36の剛性に基づく第2限界荷重(第2フォースリミッタ荷重)以上であれば、第2変形部36において回転規制されているラチェットホイール40側の端部に対して連結部32側の端部が相対的に引出方向に回転して、捩じり変形される。
ここで、第1限界荷重(第1フォースリミッタ荷重)は第1変形部34及び第2変形部36の双方の剛性に基づいていたのに対し、第2限界荷重(第2フォースリミッタ荷重)は第2変形部36の剛性に基づき、基本的に第1変形部34の剛性とは無関係である。このため、第2限界荷重は第1限界荷重よりも小さく、したがって、同じ大きさ引っ張り力が作用しているのであれば、スプール20は引出方向にロックパウル72がラチェットホイール40に噛み合っていたときよりも大きく回転でき、ウエビングベルト28の引き出し量も多くなる。
これにより、例えば、本ウエビング巻取装置10を搭載した車両が所謂エアバッグ装置を搭載した車両であるならば、エアバッグが乗員の前方で確実に展開するまでは、ウエビングベルト28により比較的強固に乗員の身体を拘束し、エアバッグが展開した直後にウエビングベルト28による拘束力を弱めて乗員の身体を展開したエアバッグで受け止めさせることができる。
このように、本ウエビング巻取装置10では、両ロックパウル56、72が両ラチェットホイール50、40に噛み合った後に、一方のロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを解除してトーションシャフト30の基づく限界荷重(フォースリミッタ荷重)を低下させることができる。
しかも、ロックパウル72、カムプレート66、揺動アーム64、及びシャフト60、62がスプール20の外部に配置されるため、スプール20の小型化が可能となり、ひいては、ウエビング巻取装置10全体の小型化が可能となる。
さらに、スプール20の内部に上記のようなロックパウル72等に相当する構造を収納すると、スプール20は、ロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを強制解除する機構を有するウエビング巻取装置のための専用部品となる。これに対して、本実施の形態では、スプール20の外部にロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを強制解除する機構を設けているため、このような強制解除機構を有しないウエビング巻取装置に対してもスプール20の流用が可能となる。
すなわち、上記のようなロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを強制解除する機構を所謂オプションとした場合であっても、スプール20を共通部品として強制解除機構の有無に拘わらず使用できるため、コストを安価にできる。
また、本実施の形態では、ロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを解除するにあたり、カムプレート66を強制的に回動させてカムプレート66と干渉片73とによるロックパウル72の支持均衡を崩すことで、ロックパウル72を回動させて脱落させる構成である。
このように、カムプレート66と干渉片73とによる支持均衡を崩すことでロックパウル72を回動させる構造にすることで、ロックパウル72を強制的に回動させるための構造(例えば、モータ等の駆動手段)が不要となる。これにより、コストを安価にできると共に、構造の簡素化が可能となる。
なお、本実施の形態は、上記のように、カムプレート66と干渉片73とによりロックパウル72を支持し、カムプレート66による支持を失わせることで、ロックパウル72の支持均衡を強制的に崩すことでロックパウル72を回動させる構成であった。しかしながら、本実施の形態のように、ロクパウル72を複数方向から干渉して支持する構成にしなくてもよく、例えば、カムプレート66のみによってロックパウル72を下方から支持し、カムプレート66を強制的に回動させてカムプレート66によるロックパウル72の下方からの支持を解除させることで、ロックパウル72を自重で回動させて脱落させる構成としてもよい。
また、本実施の形態では、両ロックパウル56、72が両ラチェットホイール50、40に噛み合った後に、一方のロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを解除する構成であったが、両ロックパウル56、72が両ラチェットホイール50、40に噛み合う前に一方のロックパウル72とラチェットホイール40との噛み合いを解除する構成としてもよい。この場合であっても機械的な構造に変化はなく、制御装置84から出力する着火制御信号の出力タイミングを変えれば容易に実現可能である。
さらに、本実施の形態は、上記のように、スプール20の軸方向両端側でトーションシャフト30をロックする構造に本発明を適用した構成であった。しかしながら、スプール20の軸方向一端側でのみトーションシャフト30をロックする構造に本発明を適用することも可能である。このような場合には、強制的なロックパウルとラチェットホイールとの噛み合いを強制的に解除することで、単純にウエビングベルト28の引き出しが可能となる。
ここで、ラチェットホイールにロックプレートのような部材が比較的強固に噛み合った場合には、ロック機構における回転体とイナーシャルプレートとの相対回転が解消されても、ラチェットホイールとロックプレートとの噛み合いが解消されない可能性がある。このような構成に本発明を適用すると、ロック機構における回転体とイナーシャルプレートとの相対回転の有無に拘わらず強制的にラチェットホイールの引出方向の回転規制を解消できるという効果を得ることができる。
さらに、本実施の形態では、解除手段にシリンダ80及びピストン82を適用したが、解除手段の構成がシリンダ80及びピストン82に限定さるものではない。例えば、通電することで形成した磁界によって磁性体を含めて構成されたシャフトを変位させるソレノイドを以って解除手段としてもよい。
<第2の実施の形態の構成>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態を説明するにあたり、前記第1の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
図7には、本実施の形態に係るウエビング巻取装置90の全体構成の概略が正面断面図によって示されている。
この図に示されるように、ウエビング巻取装置90は基本的に前記第1の実施の形態に係るウエビング巻取装置10と構成は同じである。しかしながら、ウエビング巻取装置90はトーションシャフト30を備えておらず、代わりにエネルギー吸収部材としてのトーションシャフト92を備えている。トーションシャフト92は、トーションシャフト30と同様に連結部32を備えており、更に連結部32の軸方向一端部(脚板18側の端部)には第1変形部34が設けられている。
但し、本ウエビング巻取装置90では、連結部32の軸方向他端部(脚板16側の端部)に第2変形部36に代わって第2変形部94が設けられている。第2変形部94は連結部32に対して略同軸に設けられ、連結部32側の端部にて連結部32に一体的に連結されている点に関しては前記第1の実施の形態における第2変形部36と同じである。
しかしながら、第2変形部94は第2変形部36と異なり第1変形部34よりも小径で、例えば、第2変形部94の外径寸法は第1変形部34の外径寸法の略1/2程度とされている。但し、第2変形部94の軸方向寸法は、第1変形部34の軸方向寸法よりも充分に長い。
その長さは、所定の長さのウエビングベルト28がスプール20に巻き取られた状態で、前記第1の実施の形態で説明したように、ロックパウル56のラチェット歯がラチェットホイール50のラチェット歯に噛み合うことで第2変形部94の回転が規制された際に、上記の所定の長さのウエビングベルト28がスプール20から強制的に引き出されて第2変形部94が捩じり変形されても、第2変形部94が破断しないように第2限界荷重(第2フォースリミッタ荷重)、すなわち、第2変形部94の剛性が設定されている。
なお、この第2限界荷重を設定する際の目安となる上記のウエビングベルト28の所定の長さに関しては格別に限定するものではない。但し、その設定の一例としては、例えば、統計的な標準体型の人間が座席に着座した状態でウエビングベルト28を装着した際に、スプール20に巻き取られたままで残るウエビングベルト28の長さにすることが考えられる。この場合の長さは、例えば、90cm以上120cm未満となる。
これに対して、第1変形部34の剛性は、ロックパウル72がラチェットホイール40に噛み合い、これにより第1変形部34がロックされた状態で、車両が前方障害物に対して通常衝突した際に、ウエビングベルト28が引き出されてスプール20を介して第1変形部34が捩じり変形させられても第1変形部34が破断しない程度に設定されている。
なお、上記の通常衝突に関しては、衝突時の衝撃の大きさ等が格別限定されるものではなく、車両の仕様等に基づいて適宜に設定してよいが、その一例としては、時速56kmで走行している車両が前方で停止している障害物に衝突した際の衝撃に設定することが考えられる。この場合の第1変形部34の外径寸法は、6mm以上10mm未満となる。
<第2の実施の形態の作用、効果>
以上の構成の本ウエビング巻取装置90でも基本的な動作は前記第1の実施の形態に係るウエビング巻取装置10と同じ動作をする。ここで、第1変形部34と第2変形部94とは、剛性が異なるため、図8の(A)及び(B)に示されるように、それぞれの限界荷重が異なり、第2変形部94の限界荷重がF1であるのに対し、第2変形部94よりも外径寸法が大きな第1変形部34は第2変形部94の限界荷重F1よりも大きなF2となる。
したがって、ロックパウル56のラチェット歯がラチェットホイール50のラチェット歯に噛み合って第2変形部94の回転が規制され、且つ、ロックパウル72のラチェット歯がラチェットホイール40のラチェット歯に噛み合って第1変形部34の回転が規制された状態では、図8の(C)に示されるように、トーションシャフト92の限界荷重が荷重F2に荷重F1を重畳した大きさとなる。
さらに、上記の第1変形部34及び第2変形部94の回転規制状態で、上記の通常衝突時よりも大きな慣性で略車両前方側へ移動しようとする車両乗員の身体が、装着しているウエビングベルト28を引っ張り、この引っ張りによるウエビングベルト28の引出量(引出ストローク)がS1に達すると、これによるトーションシャフト92の捩じり変形で、第1変形部34が破断する。これに対して、この状態でスプール20に巻き取られていたウエビングベルト28の上記のように引っ張られることによる引出量(引出ストローク)が上記の所定の長さS2に達していなければ第2変形部94が破断することはない。
ここで、米国特許5799893や米国特許6012667に開示された構造では、本ウエビング巻取装置90の第1変形部34に相当する構成の外径寸法及び軸方向寸法と、本ウエビング巻取装置90の第2変形部94に相当する構成の外径寸法及び軸方向寸法と、がそれぞれ略等しい。このため、基本的には一方が破断すれば他方も略同時又は時間的に極めて短い間隔で破断することになる(すなわち、図8に対応させて説明すると、ウエビングベルト28の引出量がS1に達すると双方が破断する)。
このように、双方が破断してしまうことで、ロックパウル56、72に相当する構成によるスプール20のロックが解除され、更には、渦巻きばね46に相当する構成からの付勢力も付与されなくなる。すなわち、この状態では、ウエビングベルト28を引き出す引っ張り力に抗する力が途絶えてしまう。このため、ウエビングベルト28によって車両乗員の身体を拘束することができない。
これに対して、本ウエビング巻取装置90では、上記のように、ロックパウル56、72がラチェットホイール50、40に噛み合った状態では、車両急減速状態からのウエビングベルト28の引出量が所定の長さS1に到達しても、このS1よりも充分に長いS2にウエビングベルト28の引出量が到達していなければ、第1変形部34が破断しても第2変形部94が破断しない。このため、通常衝突時よりも大きな減速度で車両が急減速状態になっても、ウエビングベルト28の引出量が所定の長さS1に到達するまではウエビングベルト28により乗員の身体を確実に拘束できる。
また、本ウエビング巻取装置90は、トーションシャフト92を除いて基本的に前記第1の実施の形態に係るウエビング巻取装置10と同じ構成である。したがって、当然、ウエビング巻取装置10と同様の作用を奏し、同様の効果を得ることができる。