JP4297721B2 - 電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解コンデンサの電極材として使用されるアルミニウム材およびその製造方法、さらにこのアルミニウム材が電極材として用いられた電解コンデンサに関するものである。
【0002】
なお、この明細書において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【0003】
【従来の技術】
通常、電解コンデンサ電極に使用されるアルミニウム材は、拡面率を高めて静電容量を向上させるために電気化学的あるいは化学的エッチング処理がなされる。
【0004】
とりわけ、近年、ノート型パーソナルコンピューター用交流−直流コンバータ電源、あるいは、照明器具、空調機、冷蔵庫、洗濯機等におけるインバータ電源採用に伴って、コンデンサの定格電圧の上昇、静電容量の増大に対するニーズが高まっている。これら要求に対し、箔をなすアルミニウムの結晶において、その集合組織が高い(100)方位密度を有することを求められている他、ただ高い(100)方位密度を満足するだけでは、高い定格電圧域では均一な静電容量が得られていない。
【0005】
これらの結晶方位の制御以外に、高い定格電圧域で高静電容量を高い信頼性を維持しながら確保するには、酸化膜に均一な欠陥を形成し、エッチングによるピット核を均一化する必要がある。
【0006】
また、高い定格電圧においてコンデンサの静電容量を高めるには、エッチングおよび引き続く化成処理により得られるエッチピット内部の酸化膜の耐電圧を高める必要がある。そこで、エッチピットを極力粗く分散させ、かつ、エッチピットの径を増大させる必要が生じている。
【0007】
このように、エッチピットの径を増大させるには、エッチピットの核となる欠陥の形成をエッチングの前処理段階で少なく抑える必要がある。しかし、エッチピット核となる欠陥を抑制するために前処理を弱めると、アルミウム箔の表面に形成されている酸化膜の厚さ、あるいは前処理に用いられる酸に対する溶解性の相違によりエッチピット核の分散が異なってくる。
【0008】
さらに、電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の多くは、高い(100)方位密度を確保するために1回以上の焼鈍を要する。このときに、特定の金属元素が、アルミウム材基体中から表層に拡散し、表層に濃化して静電容量の増大に寄与することは従来から開示されていた。
【0009】
これら酸化膜中の合金元素の濃化と、高い静電容量に関する知見に関しては、種々事例がある(例えば、特許文献1〜8)。
【0010】
特許文献1〜3においてはSi,Fe,Cu等の種々の元素の濃化について開示されている。また、同様に特許文献4にはZnが、特許文献5にはGaが、酸化膜中に濃化することによる静電容量への効果について開示されている。さらに、特許文献6にはFeが、特許文献7にはMgが、特許文献8にはSiが酸化膜中に濃化することによる静電容量への効果について開示されている。
【0011】
一方、コイルとして製造されたアルミニウム材の静電容量を均一化する方法についても種々の提案がなされている(特許文献9〜13)。
【0012】
特許文献9においては、酸化膜の形成方法として、不活性雰囲気の焼鈍での昇温時、特定の温度以上に達した段階で、炉内雰囲気を排気し、真空雰囲気で焼鈍する方法が記載されている。特許文献10においては、コイル内のアルミニウム箔の静電容量を制御する方法として、最終箔製品の3.3〜20倍まで冷間圧延した際に、表面をアルカリ、または酸洗浄し、その後さらに冷間圧延される発明が開示されている。この最終製品厚に対する洗浄を施す理由として、この範囲を下回る倍率では、溶解洗浄により表面が荒れるためとされ、上回る倍率では後工程での酸化膜形成が厚くなるとされている。
【0013】
特許文献11、12においては、表面の凹凸や、その発生原因となる埋め込み物を除去するため、最終の冷間圧延までに表層を0.01μm以上洗浄することが記載されている。さらに、特許文献13においては、表層の酸化膜を2.5オングストローム以下に制御すべく、洗浄、焼鈍を行うことが開示されている。
【0014】
【特許文献1】
特開平4−213810号公報
【0015】
【特許文献2】
特開平4−213811号公報
【0016】
【特許文献3】
特開平4−213812号公報
【0017】
【特許文献4】
特開平9−129513号公報
【0018】
【特許文献5】
特開平9−129514号公報
【0019】
【特許文献6】
特開平11−176704号公報
【0020】
【特許文献7】
特開平11−176705号公報
【0021】
【特許文献8】
特開平11−176706号公報
【0022】
【特許文献9】
特開平11−172389号公報
【0023】
【特許文献10】
特開平3−257147号公報
【0024】
【特許文献11】
特開平5−200406号公報
【0025】
【特許文献12】
特開平5−200407号公報
【0026】
【特許文献13】
特開平5−279815号公報
【0027】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1〜3に記載された発明では、Si,Fe,Cu等、種々の元素の酸化膜中の濃化については言及しているが、複合的な濃化条件と、その静電容量への効果については開示されていない。
【0028】
特許文献4〜8に記載された発明においても、酸化膜中の複合的な金属元素の濃化、特に、Cu、Pbの挙動については開示された知見が見当たらない。
【0029】
また、特許文献9に記載された方法では、高温での不活性ガスの排気と、炉内圧を真空に近い状態まで低下させる必要があり、炉体構造の寿命が短く、また排気設備における安全性の確保にコストがかかるために経済的に不利である。
【0030】
特許文献10に記載された方法では、洗浄後の冷間圧延において加工熱が生じ、外気との接触状態が不均一となって酸化膜に不均一が生じる場合がある。
【0031】
特許文献11、12においては、その洗浄後における表面の酸化抑止について、冷延過程での制御、あるいは経済性の高い雰囲気焼鈍での酸化抑制に関しては、開示がなされていない。
【0032】
さらに、本発明用途のような高い定格電圧用途では、最終焼鈍温度が高く、酸化膜を特許文献13に記載された2.5オングストローム以下に制御するには、雰囲気管理が極めて困難で、経済的でない。
【0033】
本発明は、このような技術背景に鑑み、高い定格電圧における電解コンデンサの静電容量の増大と均一化をなし得る電解コンデンサ電極用アルミニウム材およびその製造方法、ならびに電解コンデンサの提供を目的とする。
【0034】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記公知事例における技術的な課題を考慮した上で、アルミニウム材のエッチングにおいて、エッチングの前処理における酸化膜の溶解挙動、および酸化膜中に濃化した金属元素の溶解がエッチピットの形状、および分散形態に影響を及ぼしていることに着目し、ピットの分布の均一化に最適な酸化膜と酸化膜中の金属元素の濃化条件を検討した結果、広いエッチピットの分散間隔が得られるエッチング前処理と、このエッチング前処理条件で均一な酸化膜溶解挙動が得られるコイルの表面酸化膜条件とその条件に適合させる製造方法を確立した。これにより、高い定格電圧におけるアルミニウム材のコイル内での静電容量の均一性を確保できる。
【0035】
即ち、本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材は下記の構成を有する。
(1) 基体の表面に酸化膜を有するアルミニウム材であって、
化学組成において、Al純度が99.9質量%以上であり、Si:5〜50質量ppm、Fe:5〜40質量ppm、Cu:10〜80質量ppmおよびPb:0.3〜2質量ppmを含み、残部が不純物からなるアルミニウムで構成され、
アルミニウム材表面において立方体方位の結晶粒が90%以上の面積を占め、前記酸化膜は、40℃、2mol/lのりん酸水溶液中にアルミニウム材を浸漬して50mVで1kHzの交流電圧を与え、該アルミニウム材の静電容量と浸漬時間との関係を示すS字静電容量曲線(A)において、静電容量の最大変化率の傾きを有する直線(B)と、最大静電容量の漸近直線(C)との交点(P)に対応する浸漬時間によって定義される酸化膜溶解時間(TR)が60〜90秒の範囲にあり、かつ酸化膜溶解時間(TR)の変動幅が10秒以内となされ、
PbおよびCuが酸化膜表層部においてイオン強度比として表される(F1)(F2)(F3)式を充足して濃化されていることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【0036】
7×103・Pb(b)≦Pb(s)≦2.7×104・Pb(b) ・・・・・(F1)
2.0・Cu(b)≦Cu(s)≦8.0・Cu(b) ・・・・・(F2)
1.5×10-2≦Cu(s)/Pb(s)≦6.0×10-2 ・・・・・(F3)
ここで、Cu(b)、Pb(b)は基体における濃度
Cu(s)、Pb(s)は酸化膜表層部における濃度
(2) アルミニウムの化学組成において、さらにZn:2〜20質量ppm、Mn:1〜20質量ppm、Ga:1〜30質量ppmのうちから選ばれた1種以上の元素を含有する前項1に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(3) さらに、PbおよびCuは酸化膜−基体界面においてイオン強度比で表される(F4)(F5)式を充足して濃化されている前項1または2に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【0037】
1.3×103・Pb(b)≦Pb(sb)≦5.8×103・Pb(b) ・・・・・(F4)
2.0×10-2≦Cu(sb)/Pb(sb)≦17.2・×10-2 ・・・・・(F5)
ここで、Cu(b)、Pb(b)は基体における濃度
Cu(s)、Pb(s)は酸化膜表層部における濃度
Cu(sb)、Pb(sb)は酸化膜−基体界面における濃度を示す
(4) 前記アルミニウム材はコイル状に巻かれたコイル材である前項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(5) 前記酸化膜の厚さが3nm以上4.2nm未満である前項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(6) 前記アルミニウム材は中高圧用陽極材である前項1〜5のいずれかに記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【0038】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法は下記の構成を有する。
(7) 化学組成において、Al純度が99.9質量%以上であり、Si:5〜50質量ppm、Fe:5〜40質量ppm、Cu:10〜80質量ppmおよびPb:0.3〜2質量ppmを含み、残部が不純物からなるアルミニウムを熱間圧延した後、複数回の冷間圧延、中間焼鈍、軽圧下冷間圧延、最終焼鈍を順次行うことにより、基体の表面に酸化膜が形成されたアルミニウム材を製造する工程において、
中間焼鈍を行う前で、アルミニウム素材の厚さが最終製品厚の1.2〜3倍の段階で該アルミニウム素材を洗浄し、
中間焼鈍を、露点−70℃〜−20℃の不活性ガス雰囲気中で、160℃〜300℃で2〜30時間保持することにより行い、
最終焼鈍を、露点−70℃〜−20℃の不活性ガス雰囲気中で、加熱保持温度をT(℃)、保持時間をt(時間)とした場合に、
480℃≦T≦560℃ … (F6)
−T/20+30≦t≦−T/20+55 … (F7)
なるT,tの関係を充足する条件で行うことを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(8) アルミニウムの化学組成において、さらにZn:2〜20質量ppm、Mn:1〜20質量ppm、Ga:1〜30質量ppmのうちから選ばれた1種以上の元素を含有する前項8に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(9) 中間焼鈍後の軽圧下冷間圧延出側をアルミニウム素材表面温度が50℃以下とする前項7または8に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【0039】
本発明の電解コンデンサは下記の構成を有する。
(10) 前項1〜6のいずれか1項に記載された電解コンデンサ電極用アルミニウム材が電極材として用いられていることを特徴とする電解コンデンサ。
【0040】
【発明の実施の形態】
本発明に規定する電解コンデンサ電極用アルミニウム材の構成要素について以下に詳述する。
【0041】
アルミニウム材は、基体の表面に酸化膜を有する。
【0042】
前記アルミニウム材を構成するアルミニウムの化学組成において、Al純度は99.9質量%以上とする。そして、Si、Fe、CuおよびPbを必須成分とし、要すればさらに任意添加元素としてZn、Mn、Gaのうちから選ばれた1種以上が添加されたものである。
【0043】
Al純度を99.9質量%以上とするのは、不純物量が増えるとエッチング時に過剰溶解して表面から板厚中心に向かって垂直に形成されるエッチピットが不均一に形成され、均一な長いトンネル型のエッチングピットを形成できず、静電容量の高いアルミニウム材を得ることができないためである。なお、アルミニウム材の表層部には、アルミニウム材製造の過程で施される焼鈍で特定元素が濃化するが、この表層での濃化領域は極めて薄い領域なので、前記Al純度は極表層部を除く基体について満たしていることを前提とする。特に好ましいAl純度は99.99質量%以上である。
【0044】
Siは、アルミニウム材の製造材料に不可避的に含まれている元素である。Siの含有量を5質量ppm未満に低減させてもさらなる静電容量の向上効果は望めないし、材料合金の溶解・精製にコストがかかる。一方50質量ppmを越えると静電容量が低下するため、5〜50質量ppmに規定する。好ましいSi含有量は5〜20質量ppmである。
【0045】
Feも材料合金に不可避的に含まれている元素であり、5質量ppm未満にまで低減させても静電容量の向上効果は望めないし、材料合金の溶解・精製にコストがかかる。一方40質量ppmを越えると静電容量が低下するため、5〜40質量ppmに規定する。好ましいFe含有量は5〜20質量ppmである。
【0046】
Cuは、アルミニウム材表層部に濃化してエッチングピットの成長を促進し、静電容量を増大させる。Cuが10質量ppm未満では前記効果に乏しく、80質量ppmを越えると静電容量が低下するため、10〜80質量ppmとする。好ましいCu含有量は40〜80質量ppmである。
【0047】
Pbもアルミニウム材表層部に濃化し、初期のエッチピット発生を均一化して局部エッチピットの発生を抑止する。0.3質量ppm未満または2質量ppmを越えると静電容量が低下するため、0.3〜2質量ppmとする。好ましいPb含有量は0.4〜0.8質量ppmである。
【0048】
Zn,Mn,Gaは、ケミカルエッチング性を向上させる効果があり、エッチピット径を拡大して拡面率を増大し、静電容量の向上に効果がある。これらの元素は少なくとも1種の含有によって前記効果を得ることができ、2種以上の併用でも同様の効果が得られる。各元素の好ましい含有量は、Zn:2〜20質量ppm、Mn:1〜20質量ppm、Ga:1〜30質量ppmであり、いずれもこの範囲において最も静電容量の向上に効果がある。特に好ましい含有量は、Zn:2〜10質量ppm、Mn:1〜10質量ppm、Ga:1〜15質量ppmである。
【0049】
アルミニウム材表面における結晶方位の立方体方位からのずれは、Al純度と同様にエッチング時に形成されるエッチピット不均一の原因となるため、アルミニウム材表面において立方体方位の結晶粒が90%以上の面積を占めることとする。特に好ましい面積率は95%以上である。
【0050】
電解コンデンサ電極用アルミニウム材では、エッチングの前処理において、アルミニウム材表面の酸化膜が部分的に溶解する状態でとどめ、酸化膜の有無による電流の流れ易さに違いを生じさせ、その後のエッチング処理においてエッチピットを大きな分散間隔で均一に形成させる。このため、本発明では、Al純度および結晶粒の立方体方位面積率によって規定した上で、エッチピットの分散性および形成均一性を、部分的溶解にとどめ得る溶解時間を、りん酸水溶液によって定義する酸化膜溶解時間(TR)として規定する。
【0051】
本発明において、前記酸化膜溶解時間(TR)は次の方法で定義する。
【0052】
まず、アルミニウム材を0.2 mol/l、40℃のりん酸水溶液中に浸漬して、50mVで1kHzの交流電圧を与えた際に、連続的に静電容量を測定し、図1に示す静電容量と浸漬時間との関係を示すS字静電容量曲線(A)を求める。アルミニウム材表面の酸化膜の厚さは浸漬時間の経過に伴って減少するが、全く均一に減少するものでなく、途中過程では、厚みに不均一が生じる。部分的に酸化膜が消失した部位では、酸化膜に代わる被膜が成長し、酸化膜に代わる誘電体被膜として働くため、次第に静電容量の変化率は減少し始める。このような溶解挙動に基づき、元からあった酸化膜はりん酸水溶液中で成長する被膜への変化は漸次進行するため、元の酸化膜が消滅した時間はS字静電容量曲線には明確に現れない。そこで、本発明では、酸化膜溶解時間(TR)を次の方法で定義する。
【0053】
1)静電容量と浸漬時間の関係を示すS字静電容量曲線(A)を求める(図1)。
【0054】
2)このS字静電容量曲線(A)において、静電容量の最大変化率の傾きを有する直線(B)、即ち最大変化率を示す位置で接線をひく。
【0055】
3)S字静電容量曲線(A)において、最大静電容量の漸近直線(C)をひく。
【0056】
4)(B)(C)の交点を(P)とし、(P)に対応する浸漬時間(TR)を酸化膜溶解時間とする。
【0057】
上述の方法で定義される酸化膜溶解時間(TR)を60〜90秒の範囲とする。酸化膜溶解時間(TR)が90秒を超えると、エッチング前処理による表面酸化膜の溶解が少なく、エッチピットの形成が不均一となり、60秒未満であれば酸化膜が全て溶解し、エッチピット形成が過度に微細になる。また、アルミニウム材における溶解時間(TR)の変動幅、即ちアルミニウム材における溶解時間(TR)の最大値と最小値との差は10秒以内とする。変動幅が10秒を越えると溶解が不均一となり、所期するエッチングピットを形成することができない。好ましい酸化膜溶解時間(TR)は60〜80秒であり、好ましい変動幅は5秒以下である。
【0058】
なお、本発明において、酸化膜溶解時間(TR)はアルミニウム材における部分的な酸化膜溶解状態を確保するものであり、溶解性試験を行うことが本発明の趣旨ではない。従って、エッチングの前処理における溶解状態を明確に定義し、上述したりん酸水溶液による酸化膜溶解時間(TR)と同等の溶解状態を確保しうる試験方法や、その試験方法によって定義されたアルミニウム材を排除するものではない。例えば、溶解時間が長く、部分的な酸化膜溶解状態を比較的容易に選定できる酸性水溶液であれば、りん酸水溶液以外によっても溶解状態を定義することができる。
【0059】
また、前記酸化膜溶解時間(TR)は溶解速度に基づくパラメータであるから、化学組成や熱処理方法等の異なるアルミニウム材のエッチング特性を共通のパラメータで評価して静電容量を把握することができる。
【0060】
本発明のアルミニウム材は、寸法や形態を限定するものではない。しかし、酸化膜溶解時間(TR)の変動幅を10秒以下に規定することによって、長尺のアルミニウム材が巻かれたコイル材におけるエッチピットの均一形成性を確保することができる。変動幅とは、エッチングに供する単位の材料内、例えばアルミニウムコイル材においてはコイル内の溶解時間の最大値と最小値の差であり、材料の長さ方向、幅方向から代表的な部位を10点前後サンプリングし、溶解時間を測定することによって求められる。
【0061】
CuおよびPbは、アルミニウム材において基体および酸化膜の表層部に濃化し、さらには酸化膜−基体界面にも若干濃化して均一なエッチングピットを形成して静電容量を増大させる。本発明においては、図2に示す酸化膜表層部における濃化状態、さらには酸化膜−基体界面に濃化状態を規定することによってエッチング特性を確保する。
【0062】
即ち、本発明のアルミニウム材は、基体における濃度Cu(b)およびPb(b)、酸化膜表層部における濃度Cu(s)およびPb(s)で表される(F1)(F2)(F3)式を満たすことを必須条件とする。(F1)(F2)式はそれぞれ酸化膜表層部と基体とのPb濃度比およびCu濃度比を示すものであり、(F3)式は酸化膜表層部におけるCu濃度/Pb濃度比を示すものであって、Pbの濃化程度、Cuの濃度の程度およびPbとCuの濃化バランスがこれらの範囲にある場合に静電容量が相対的に増大する。
【0063】
7×103・Pb(b)≦Pb(s)≦2.7×104・Pb(b) ・・・・・(F1)
2.0・Cu(b)≦Cu(s)≦8.0・Cu(b) ・・・・・(F2)
1.5×10-2≦Cu(s)/Pb(s)≦6.0×10-2 ・・・・・(F3)
また、これらの式において好ましい範囲は下記の(F1’)(F2’)(F3’)式によって表される。
【0064】
1.0×104・Pb(b)≦Pb(s)≦2.0×104・Pb(b) ・・・・・(F1’)
4.0・Cu(b)≦Cu(s)≦8.0・Cu(b) ・・・・・(F2’)
3.0×10-2≦Cu(s)/Pb(s)≦6.0×10-2 ・・・・・(F3’)
さらに、高い静電容量が確保するために、基体における濃度Cu(b)およびPb(b)、酸化膜と基体との界面における濃度Cu(sb)、Pb(sb)で表される(F4)(F5)式を満たすことが好ましい。(F4)式は酸化膜−基体の界面におけるPb濃度比を示すものであり、(F5)式は酸化膜−基体界面におけるCu濃度/Pb濃度比を示すものであって、Pbの濃化程度、PbとCuの濃化バランスがこれらの範囲にある場合に高い静電容量が確保される。
【0065】
1.3×103・Pb(b)≦Pb(sb)≦5.8×103・Pb(b) ・・(F4)
2.0×10-2≦Cu(sb)/Pb(sb)≦17.2・×10-2 ・・(F5)
また、これらの式においてさらに好ましい範囲は下記の(F4’)(F5’)式によって表される。
【0066】
4.5×103・Pb(b)≦Pb(sb)≦6.5×103・Pb(b) ・・(F4’)
3.0×10-2≦Cu(sb)/Pb(sb)≦8.0×10-2 ・・(F5’)
上述した濃度はイオン強度比によって表される。例えば、グロー放電によって原子をイオン化して質量分析するグロー放電質量分析によって測定することができる。また、基体における元素濃度は材料鋳塊の化学分析によって測定することもできる。
【0067】
また、アルミニウム材において、酸化膜厚が過度に増大すると、本発明で規定する前処理における部分的な酸化膜溶解が大きく変動する。そこで、本発明では酸化膜厚が3nm以上4.2nm未満であることを推奨する。一方、酸化膜厚が薄くても酸化膜溶解時間(TR)が不均一になることはないが、焼鈍時の酸素濃度を過度に抑制する必要があり、真空排気や、封入する雰囲気ガス中の酸素濃度を低減する厳しい工程管理が必要となる。酸化膜厚が3nm以上であれば、酸化膜溶解時間(TR)の均一性を確保しつつ、焼鈍工程管理の容易性をも確保することができる。このため、酸化膜厚として3nm以上4.2nm未満を推奨できる。さらに好ましい酸化膜厚は3〜4nmである。
【0068】
本発明のアルミニウム材は、その後拡面率向上のためのエッチングが施される。アルミニウム材は、立方体方位占有率、溶解性、PbおよびCuの濃化状態が制御されているから、エッチングによって大径で粗くかつ均一に分散するエッチングピットが形成される。このため、陽極材として用いて、化成処理によって耐電圧の高い酸化膜が形成される。また、耐電圧性皮膜を形成させても大きい実効面積を有する点で陽極材に適している。さらに、高い定格電圧において高くかつ均一な静電容量が得られるから、中圧用および高圧用電解コンデンサ電極材に適している。また、この電極材を用いた電解コンデンサは大きな容量を実現できる。
【0069】
また、本発明のアルミニウム材の厚さは限定されない。箔と称される200μm以下のものも、それ以上の厚いものも本発明に含まれる。
【0070】
上述の特性を有する電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、本発明の方法によって製造することができる。
【0071】
即ち、上述した化学組成のアルミニウムを熱間圧延した後、複数回の冷間圧延、中間焼鈍、軽圧下冷間圧延、最終焼鈍を順次行うアルミニウム材の製造工程において、中間焼鈍前の洗浄工程、中間焼鈍工程および最終焼鈍工程について規定し、さらに軽圧下冷間圧延時のアルミニウム材温度について規定する。
【0072】
中間焼鈍前の洗浄は、アルミニウム素材の厚さが最終製品厚の1.2〜3倍の段階で行う。この洗浄により、本発明に規定する立方体方位占有率と溶解時間(TR)とを有する酸化膜特性を得ることができる。アルミニウム素材の厚さが1.2倍未満にまで薄く圧延された状態で洗浄すると、後工程の中間焼鈍、軽圧下冷間圧延、最終焼鈍で立方体方位の組織が減少し、電解コンデンサ電極用アルミニウム材としての特性が劣化する。また、3倍を越える厚い状態で洗浄すると、中間焼鈍の後の軽圧下冷間圧延において、圧延速度によってはアルミニウム材の表面温度が圧延による変形量の増大により上昇し、更に不均一な酸化膜を形成する。そこで、本発明では中間焼鈍前の洗浄を実施するアルミニウム素材の厚さ範囲を、最終製品厚の1.2〜3倍に規定する。この範囲の厚さであれば、該当する洗浄は、中間焼鈍の直前であっても、途中の冷延工程の間であっても特に支障はない。特に好ましいアルミニウム材の厚さは、最終製品厚の1.2〜1.5倍である。
【0073】
前記洗浄には、表面の凹凸を極力小さく抑えるため、低濃度のオルトケイ酸ソーダのような微弱なアルカリ性水溶液、または低濃度のりん酸水溶液のような微弱な酸性水溶液を用いることが望ましい。
【0074】
上述の洗浄後、中間焼鈍が施されたアルミニウム材には、最終焼鈍での立方体方位制御のために軽圧下冷間圧延がなされる。ここで、軽圧下とは10〜25%程度の圧下率である。この軽圧下冷間圧延で生じる新生アルミニウム表面への酸化膜不均一形成を抑制するため、冷間圧延時の表面温度上昇による酸化抑制をはかることが好ましい。そこで、中間焼鈍に続く軽圧下冷間圧延出側におけるアルミニウム素材表面温度を50℃以下とする。これを越える温度では、圧延後、緩やかな冷却の間に外気の空気との接触により酸化膜の不均一が生じるおそれがある。好ましい表面温度は40℃以下である。また、アルミニウム材がコイル材の場合は、コイル素材の外周面における温度を上記温度とする。さらに、この条件で軽圧下冷間圧延を行った後、有機溶剤にて圧延油を洗浄除去することが好ましい。前記有機溶剤は第2石油類に属する引火点の高いものが好ましい。
【0075】
また、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造工程において、コイル材として焼鈍される場合であっても、コイル端部では炉内に封入される不活性ガスに曝される。このとき、雰囲気ガスに含まれる微量酸素により表面酸化膜が端部で顕著に成長する。この酸化膜の成長は、焼鈍温度の上昇と、焼鈍時間の増大におよそ比例する。そこで本発明では、このようなコイル端部の酸化膜成長を極力抑制するとともに、PbおよびCuを規定の濃化状態とするために、中間焼鈍では、露点−70℃〜−20℃の不活性ガス雰囲気で、160℃〜300℃で2〜30時間保持することとする。また、特に高温で保持される最終焼鈍においては、その条件を、露点−70℃〜−20℃の不活性ガス雰囲気中で、加熱保持温度をT(℃)、保持時間をt(時間)とした場合に、下記(F6)(F7)式を満たす範囲とする。
【0076】
480℃≦T≦560℃ …(F6)
−T/20+30≦t≦−T/20+55 …(F7)
上記を越える温度、時間条件では、端部の酸化膜成長が顕著になる。また、上記に満たない温度、時間では、再結晶した立方体方位の結晶粒成長が不十分となる。中間焼鈍の好ましい条件は、露点:−50〜−30℃、加熱温度:230〜250℃、保持時間:12〜24時間である。最終焼鈍の好ましい条件は、露点:−30〜−30℃、であり、加熱温度(T)および保持時間(t)は下記(F6’)(F7’)式で表される範囲である。
【0077】
500℃≦T≦550℃ …(F6’)
−T/20+40≦t≦−T/20+50 …(F7’)
また、焼鈍時の不活性ガス雰囲気は、中間焼鈍にあっては窒素ガスを推奨でき、最終焼鈍にあってはArガスまたは窒素ガスを推奨できる。
【0078】
なお、本発明のアルミニウム材の製造に際し、上述の工程以外の工程、即ちアルミニウム材料の溶解・成分調整・スラブ鋳造、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延は、一般法に従えばよく、特に限定すべき工程の指定はない。また、最終焼鈍前等の洗浄も適宜行う。
【0079】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
〔試験1〕
表1に示す11種類の化学組成のアルミニウム鋳塊を用意した。表1において、本発明の組成範囲を逸脱する鋳塊について、鋳塊No.に*を付して表す。
【0080】
表2の試験No.1−3、1−4、1−6、1−8、1−9、1−11については、アルミニウム鋳塊に対し、常法による面削、熱間圧延を行った後に冷間圧延を施し、箔厚が125μmにおいて65℃に加熱した0.2質量%オルトケイ酸ソーダ水溶液で30秒浸漬して表面を洗浄した。引き続き、露点−30℃の窒素雰囲気において、250℃で24時間保持する中間焼鈍を行い、軽圧下冷延により箔厚を100μmとし、有機溶剤による洗浄の後、露点−40℃のAr雰囲気において500℃で28時間保持する最終焼鈍を実施し、種々の酸化膜特性のアルミニウム箔を得た。
【0081】
また、試験No.1−1、1−2、1−5、1−7、1−10、1−12については、本発明の範囲から外れる種々の製造条件で調整し、同じく箔厚100μmのアルミ箔を得た。
【0082】
製造したアルミニウム箔は、何れも幅1000mm×全長5000mのものをコイルに巻き取った。
【0083】
そして、各コイルから、コイルの長さ方向において外周側から100m以内、中央部、および内周側から100m以内の各部位において、コイルの幅方向両端部から20mmの位置と、幅中央部の位置から合計9点の測定用サンプルを抽出し、酸化膜厚さ、酸化膜溶解時間、立方体方位の結晶粒の面積率、CuおよびPbの表面濃化状態、静電容量を次の方法によって測定した。
【0084】
(1) 酸化膜厚さの測定方法
Hunter-Fowle法(Hunter-Fowle法:JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY,101.No.9(1954),p.481)に準拠して測定した。
【0085】
(2) 酸化膜溶解時間の測定方法
酸化膜溶解時間は、40℃、2mol/lのりん酸水溶液中に該当アルミニウム箔を浸漬し、50mVで1kHzの交流電流を与えた際の、静電容量と浸漬時間との関係を示すS字静電容量曲線(A)において、静電容量の最大変化率の傾きを有する直線(B)と、最大静電容量の漸近直線(C)との交点(P)に対応する浸漬時間(TR)とする(図1参照)。
【0086】
(3) 立法体方位方位の結晶粒の面積率の測定方法
液組成がHF:HCl:HNO3=1:5:15からなる処理液を30℃に保持し、この処理液中にアルミニウム箔を30秒浸漬した後、水洗、乾燥して、(100)方位の結晶粒と、他方位の結晶粒の光沢を変化させて、画像処理により(100)方位の結晶粒の面積率を測定した。
【0087】
(4)CuおよびPbの濃化状態
アルミニウム箔基体におけるCu濃度:Cu(b)およびPb濃度:Pb(b)はアルミニウム鋳塊における濃度と有意な差がないため、化学分析により求めた鋳塊中の元素濃度を基体濃度とした。酸化膜表層部におけるCu濃度:Cu(s)およびPb濃度:Pb(s)、酸化膜−基体界面におけるCu濃度:Cu(sb)およびPb濃度:Pb(sb)は、VG Elemetal社製 グロー放電質量分析装置VG9000を用い、次の条件で測定し、該アルミニウムスラブ溶解鋳造時の該当元素化学分析値と比較した。
【0088】
▲1▼イオン源:メガフラットセル(液体窒素で放電セル冷却)
▲2▼放電面積:10mmφ
▲3▼放電ガス:Ar(6Nグレード)
▲4▼放電条件:1mA、0.4kV
▲5▼分解能 :約3500
▲6▼分析元素:Al,Cu,Pb,O
▲7▼検出器積分時間:100−160msec×60ch×1scan
そして、これらの元素の酸化膜表層部における濃化状態について(F1)(F2)(F3)式の充足の有無によって判定し、酸化膜−基体界面における濃化状態について(F4)(F5)式の充足の有無によって判定した。
【0089】
(5) 静電容量の測定方法
該当アルミニウム箔を、40℃の2mol/lのリン酸水溶液に60秒浸漬する前処理を行った。
【0090】
引き続き、一次エッチングを、液組成HCl:1mol/l+H2SO4:3mol/lを含む液温75℃の混合水溶液に浸漬した後、電流密度D.C.0.2A/cm2で、時間100秒で実施した。
【0091】
その後、二次エッチングを、液組成HCl:1.5mol/l+(COOH)2:1/200mol/lを含む液温90℃の混合水溶液に10分間浸漬した。
【0092】
これらエッチング処理後、洗浄、乾燥を行い、化成電圧500Vで、EIAJ規格に準拠して100g/lのホウ酸にて、88〜95℃で0.05A/cm2の直流電流で化成処理し、30℃中で40000μF以上の白金板を対極として120Hzで静電容量を測定した。
【0093】
表2にこれらの測定結果を示す。前記測定項目のうち、立方体方位面積率、酸化膜厚さについては最大値および最小値を示し、酸化膜溶解時間については最大値、最小値およびこれらの差を変動幅として示す。CuおよびPbの濃化状態については、式を充足するものを○、充足しないものを×で表すものとする。静電容量は、Cu含有量が本発明の範囲を下回るNo.1−1の最大値を100%とした静電容量比で表すものとし、これらの最大値および最小値を示す。さらに、静電容量比の変動について最大値と最小値との差が5%未満のものは均一性が優れているとして○、5%以上のものは均一性が劣っているとして×で表した。さらに、静電容量比の最大値が100%以上でかつ前項の変動が5%未満のものを静電容量が高くかつ均一であり総合的に優れているとして○、それ以外のものを総合的に劣っているとして×で示した。
【0094】
さらに、鋳塊の化学組成、立方体方位密度、溶解時間、PbおよびCuの濃化状態のいずれかが本発明の範囲を逸脱するものについては試験No.に*を付して表す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
この結果、試験No.1−3、1−4、1−6、1−9は本発明の組成、酸化膜特性、立方体方位面積率、PbおよびCuの濃化状態を満足しており、静電容量が高くかつ均一であった。試験No.1−2では、Si,Feが本発明の範囲を下回るまで純度を高めているが、静電容量の向上は他の組成と大差がなく、本発明の範囲以上にSi、Feを精製しても格別の効果は得られないことを確認した。No.1−3,1−4では、No.1−1よりCuの量が増大し、静電容量は増大する。No.1−5は、組成ではNo.1−4と同じであるが、酸化膜の溶解時間が増大し、(F1)(F2)(F3)式を充足せず静電容量も減少した。No.1−6ではさらにCu量が74ppmに増大して静電容量は増大しているが、No.1−7ではCuが本発明の範囲を超えて静電容量が減少する傾向が見られた。1−9ではSi,Feが範囲内にあるが、No.1−10ではPbが下限値を下回り、No.1−12ではPbが上限値を上回り、いずれも静電容量が減少した。
〔試験2〕
表1のNo.12〜23はZn,Mn,Gaを含有するアルミニウム鋳塊である。これらのアルミニウム鋳塊に対し、試験1に準拠して製造条件を変えて表3示す試験No.2−1〜2−12に示す厚さ105μmのアルミニウム箔を製作し、コイル材とした。また、酸化膜溶解時間の測定、立方体方位密度の測定、酸化膜厚さの測定、Cu、Pbの濃化状態の測定、静電容量の測定も実施例1に準拠し、これらの結果を表3に示す。また、静電容量は試験No.2−1(Zn、Mn,Ga濃度が1ppm未満)での静電容量を100%として、各元素の濃度の影響を相対的に評価し、それぞれ最大値と最小値を求めた。さらに、静電容量比の変動について最大値と最小値との差が5%未満のものは均一性が優れているとして○、5%以上のものは均一性が劣っているとして×で表した。さらに、静電容量比の最小値が96%以上でかつ前項の変動が5%未満のものを静電容量が高くかつ均一であり総合的に優れているとして○、それ以外のものを総合的に劣っているとして×で示した。
【0098】
さらに、鋳塊の化学組成、立方体方位密度、溶解時間、PbおよびCuの濃化状態のいずれかが本発明の範囲を逸脱するものについては試験No.に*を付して表す。
【0099】
【表3】
【0100】
試験No.2−1〜2−4、2−9は、最小静電容量が96%以上得られた。No.2−5は溶解時間が本発明範囲外であったため、静電容量が低く均一性に劣るものであった。No.2−6はZnが、No.2−7はMnが、No.2−8はGaが、それぞれ好ましい上限値を超えたため、静電容量の低いものであった。No.2−10は、Zn,Mn,Gaを請求範囲内で含有するが、酸化膜の溶解時間が短く、またNo.2−12は溶解時間が長く、いずれも静電容量が低下した。
〔試験3〕
表1のNo.20の鋳塊を用い、表4、5に示す試験No.3−1〜3−20アルミニウム箔を製作してコイル材とした。製造工程において、中間洗浄時の素材厚さ、中間焼鈍条件、軽圧下冷間圧延出側の箔表面温度、最終焼鈍条件を表4に示すように種々変化させ、最終箔厚はいずれも105μmとした。また、これらの工程以外は試験1と同様に行った。表4において、中間焼鈍前の洗浄時の素材厚が本発明の規定範囲(最終製品厚さの1.2〜3倍)を逸脱するもの、中間焼鈍条件が本発明の規定範囲(露点温度:−70〜−20℃、160〜300℃×2〜30時間)を逸脱するもの、最終焼鈍条件が本発明の規定範囲(露点温度:−70〜−20℃、F6、F7式)を逸脱するものについては、試験No.に*を付して表す。また、軽圧下冷間圧延出側の素材温度のみが本発明の推奨範囲(50℃以下)を逸脱するものについては試験No.に**を付して表す。
【0101】
そして、酸化膜厚さの測定、酸化膜溶解時間の測定、立方体方位密度の測定、Cu、Pbの濃化状態の測定、静電容量の測定は実施例1に準拠して行い、これらの結果を表5に示す。また、静電容量は試験No.3−1の最大静電容量を100%として相対的に評価し、それぞれ最大値と最小値を求めた。さらに、静電容量比の変動について最大値と最小値との差が5%未満のものは均一性が優れているとして○、5%以上のものは均一性が劣っているとして×で表した。さらに、静電容量比の最大値が100%以上でかつ前項の変動が5%未満のものを静電容量が高くかつ均一であり総合的に優れているとして○、それ以外のものを総合的に劣っているとして×で示した。
【0102】
さらに表5において、アルミニウム箔の鋳塊の化学組成、立方体方位密度、溶解時間、PbおよびCuの濃化状態(F1、F2、F3式)のいずれかが本発明の範囲を逸脱するものについては試験No.に*を付して表す。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
No.3−1では中間焼鈍後の洗浄時の箔厚が本発明範囲を超え、No.3−4ではコイル洗浄を行っていない。このため酸化膜の溶解時間の変動幅が大きく静電容量の均一性に劣るものであった。No.3−5では、中間焼鈍において炉内を2×10-4torrの状態まで真空排気し、その後高純度の窒素をパージして露点を−80℃としたが、静電容量の増大効果は小さく、経済性において望ましくない。No.3−8では中間焼鈍条件が、No.3−9、No.3−12は最終焼鈍条件が発明範囲を外れるために酸化膜中のCu,Pbの濃化状態が本発明範囲を外れ、静電容量が相対的に低い。No.3−14、No.3−15は、最終焼鈍条件が本発明範囲を超え、酸化膜中のCu,Pbの濃化状態が本発明範囲を外れるため、静電容量が低い。
【0106】
その他、No.3−16〜No.3−19はNo.3−1よりも高い静電容量を得られた。
【0107】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材はアルミニウムの化学組成、立方体方位の面積率、溶解時間が制御され、さらに酸化膜表層部におけるPb、Cuの濃化状態が制御されているため、エッチングの前処理において酸化膜が部分溶解され、その後のエッチングによってエッチピットが大きな分散間隔で均一に形成される。このため、耐電圧の高い酸化膜が形成され、高い定格電圧においても高く均一な静電容量を得ることができる。
【0108】
化学組成において、Zn、Mn、Gaのうちから選ばれた1種以上の元素を含有する電解コンデンサ電極用アルミニウム材によれば、さらにエッチング特性が向上して高い静電容量を得ることができる。
【0109】
酸化膜−基体界面におけるPb、Cuの濃化状態が制御されている電解コンデンサ電極用アルミニウム材によれば、高い静電容量を確実に得ることができる。
【0110】
コイル状に巻かれた電解コンデンサ電極用アルミニウム材によれば、コイルとしてのアルミニウム材において高く均一な静電容量を得ることができる。
【0111】
酸化膜厚さが3nm以上4.2nm未満となされた電解コンデンサ電極用アルミニウム材によれば、さらに酸化膜の溶解性が均一となり、さらに高く均一な静電容量が得られる。
【0112】
前記電解コンデンサ電極用アルミニウム材を中高圧用陽極材として用いることにより、高く均一な静電容量を得ることができる。
【0113】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法は、熱間圧延、複数回の冷間圧延、中間焼鈍、軽圧下冷間圧延、最終焼鈍を順次行う製造工程において、中間焼鈍前の洗浄を素材厚さが最終製品厚の1.2〜3倍の時に行い、かつ中間焼鈍条件および最終焼鈍条件を規定するものであるから、エッチングの前処理において酸化膜が部分溶解され、その後のエッチングによってエッチピットが大きな分散間隔で均一に形成しうる電解コンデンサ電極用アルミニウム材を製造できる。ひいては、高い定格電圧においても高く均一な静電容量を得られるアルミニウム材を製造できる。
【0114】
化学組成において、Zn、Mn、Gaのうちから選ばれた1種以上の元素を含有するアルミニウムを用いる場合は、さらにエッチング特性が向上して高い静電容量が得られるアルミニウム材を製造できる。
【0115】
軽圧下冷間圧延出側における素材表面温度を50℃とすることにより、溶解性の均一な酸化膜を確実に形成することができる。
【0116】
本発明の電解コンデンサによれば、電極材として本発明のアルミニウム材を電極材が用いられているため、大きく均一な静電容量が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において定義される酸化膜溶解時間の算出に使用するS字静電容量曲線を示す図面である。
【図2】アルミニウム材表層部における元素の濃化状態を示す図面である。
【符号の説明】
A…S字静電容量曲線
B…静電容量の最大変化率の傾きを有する直線
C…最大静電容量の漸近直線
P…A、Bの交点
TR…酸化膜溶解時間
Claims (3)
- 化学組成において、Al純度が99.9質量%以上であり、Si:5〜50質量ppm、Fe:5〜40質量ppm、Cu:10〜80質量ppmおよびPb:0.3〜2質量ppmを含み、残部が不純物からなるアルミニウムを熱間圧延した後、複数回の冷間圧延、中間焼鈍、軽圧下冷間圧延、最終焼鈍を順次行うことにより、基体の表面に酸化膜が形成されたアルミニウム材を製造する工程において、
中間焼鈍を行う前で、アルミニウム素材の厚さが最終製品厚の1.2〜3倍の段階で該アルミニウム素材を洗浄し、
中間焼鈍を、露点−70℃〜−20℃の不活性ガス雰囲気中で、160℃〜300℃で2〜30時間保持することにより行い、
最終焼鈍を、露点−70℃〜−20℃の不活性ガス雰囲気中で、加熱保持温度をT(℃)、保持時間をt(時間)とした場合に、
480℃≦T≦560℃ … (F6)
−T/20+30≦t≦−T/20+55 … (F7)
なるT,tの関係を充足する条件で行うことを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。 - アルミニウムの化学組成において、さらにZn:2〜20質量ppm、Mn:1〜20質量ppm、Ga:1〜30質量ppmのうちから選ばれた1種以上の元素を含有する請求項1に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
- 中間焼鈍後の軽圧下冷間圧延出側をアルミニウム素材表面温度が50℃以下とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
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