JP4297539B2 - 表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はオーステナイト系ステンレス薄鋼板及びその製造法に関し、特にこの製品板及び成形加工時の表面性状に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れており、厨房用、食器用を始め広い用途に用いられている。オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、これまで連続鋳造後に熱延し、焼鈍と冷延を繰り返す方法で製造されてきたが、近年、薄鋼板を直接鋳造する技術が開発され、熱延工程の簡略が可能となりつつある。
【0003】
熱延工程が簡略化されれば、生産性が向上し、最近問題となっているCO2 排出(加熱炉から)を削減できるという大きなメリットがある。しかし、熱延工程を簡省略した場合には、製品板での表面性状が劣化したり、成形加工時に表面性状が損なわれる等の問題が生じる。
【0004】
これらの問題を解決する手法としては、特開平3−71902号公報、特開平8−277423号公報などが知られている。特開平3−71902号公報では、ローピングの発生を抑制するために鋳片の圧延条件(圧下率と温度の関係)を規定しており、特開平8−277423号公報では、鋳造後の熱延及び冷却条件を規定している。これらの技術のように、製造条件を工夫することにより、ローピング等の発生は抑制できるが、将来的には製造条件の一層の簡略化(緩和)等により、さらなる生産性の向上が必要と考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
さらなる生産性向上のためには、製錬段階での成分及び介在物を規定するだけで鋳造以降の製造条件を規定することなく、上記の課題を解決できる手法が望まれる。
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼薄板で鋳造以降の製造条件を特に限定しなくとも製品板及び成形加工時の表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的としたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、SUS304を基本成分としたオーステナイト系ステンレス鋼に種々の元素を添加し、実験室で鋳造試験を行った。さらに鋳造材を冷延、焼鈍して製品板とし、表面の凹凸(ローピング)及び簡易成形試験後の表面凹凸を調査した。その結果、Mgを添加した鋼において表面凹凸が小さく、良好な場合があり、MgとTiを複合で添加した鋼においては表面凹凸が全く認められない場合が認められた。
【0007】
この原因を調査するため、電子顕微鏡及びX線マイクロアナライザーを用いて介在物の解析を行ったところ、Mgを添加して表面凹凸が小さい材料にはMg系介在物が密に分布していた。しかし、Mgを添加して表面凹凸が大きい材料ではMg系介在物が存在するが、その密度が低いことが明らかとなった。Ti+Mg添加材でも同様の傾向が認められ、それに加えていずれのMg系介在物も周囲を覆うようにTi窒化物が存在していた。
以上のことから、Mg系介在物を密に分布させることでオーステナイト系ステンレス鋼の表面凹凸を改善できる見通しを得た。
【0008】
次に発明者らは、Mg系介在物の密度と製品板及び成形加工後の表面凹凸の関係を調査したところ、Mg系介在物の個数が鋼板の任意の断面において20個/mm2 以上ある場合に良好な表面特性(目視で認められない程度)が得られることを明らかにした。
【0009】
さらに本発明者らは、Mg系介在物を密に分布させるためのMg添加条件(Mg添加後時間、温度、量等)の検討を行った。その結果、Mg系介在物の密度に最も影響を及ぼすのはMg添加後の時間であった。図1にMg系介在物の密度とMg添加から鋳造開始までの時間の関係を示す。Mg添加後、鋳造開始までの時間が長くなるにつれてMg系介在物の個数は単調に減少する。Mg系介在物の個数が20個/mm2 以上にするにはMg添加後、120分以内に鋳造を開始する必要があることを発見した。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであって、
(1)Cr:11mass%以上を含有し主相がオーステナイト相からなるオーステナイト系ステンレス鋼において、Mg:0.0005〜0.01%を含有し、かつ任意の断面において最大径が0.05〜2.0μmのMg系介在物が20個/mm2 以上存在することを特徴とする表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。及び、
(2)さらにmass%で、Ti:0.01〜0.8%を含有し、Ti窒化物がMg系介在物を覆って析出していることを特徴とする前記(1)項に記載の表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼であり、
(3)前記(1)項もしくは(2)項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼を製造するに際し、Mg添加後、120分以内に鋳造を開始することを特徴とする表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。なお、下記の説明における「%」とは、『mass%』を示すものである。
Mg:MgはMg系介在物を形成することで本発明の課題である表面特性を向上させる重要な元素である。Tiと複合で添加した場合にはさらに表面特性を向上させる効果を持つ。この効果を発揮するのは0.0005%以上であり、これを下限とした。また多量に添加してもその効果は飽和し、耐食性低下等の問題が生じるため、0.010%を上限とした。
【0012】
Ti:TiはMgと複合で添加することで本発明の課題である表面特性を向上させる元素であり、その効果が発揮されるのは0.01%以上であるのでこれを下限とした。しかし、0.8%を超えて添加しても表面特性向上効果は飽和し、製造性、加工性等の問題が生じるためこれを上限とした。
【0013】
Mg系介在物は、酸化物、硫化物等のMgを含有する化合物であれば表面特性向上効果がある。Mg系介在物のサイズは、その最大径が0.05μm未満の場合には表面特性向上効果が小さく、2.0μm以上の場合には耐食性の低下等の別の課題が生じるため、Mg介在物径は最大径が0.05〜2.0μmの範囲とした。分布密度は20個/mm2 以上で表面特性向上効果が認められる。
【0014】
上記のような分布密度でMg系介在物を生成するには、Mg添加後、120分以内に鋳造を開始する必要がある。Tiを含有する場合には、Mg系介在物を覆ってTiNが存在するとさらに表面特性は向上する。
【0015】
本発明はSUS304のみならず他のオーステナイト系ステンレス鋼でも同様の効果が発揮される。本明細書中のオーステナイト系ステンレス鋼とは、Crを11%以上含有したステンレス鋼で、主相がオーステナイト相からなる鋼を指す。
【0016】
Mgの添加はAODやその後の成分調整工程で、純MgあるいはMg合金の添加が好ましい。また、本発明は熱延工程を省略した工程で効果が顕著に現れるが、熱延工程を入れても、また冷延、焼鈍を繰り返す工程でも同様の効果が発揮される。
【0017】
Mg系介在物のサイズ測定は、鋼塊及び鋼板の任意の断面において介在物の抽出レプリカあるいは薄膜を作成し、電子顕微鏡で調査する方法がよい。分布は、電子顕微鏡、あるいはX線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて調査する方法がよい。
【0018】
本発明により表面特性が向上する原因については、本発明者らは次のように考えている。
Mg系介在物は鋳造時の凝固核として作用しており、これが多量に存在することで鋳造組織が微細になり、通常の鋳造、熱延プロセスで得られた熱延板の組織と同等、あるいはそれに近い細粒の組織が得られるためと考えている。さらにTiがMg系介在物を覆うと、何らかの理由により凝固核生成効果が促進されるためと考えている。
【0019】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示す。
(実施例1)
オーステナイト系ステンレス鋼に種々の元素を添加し、表1に示す組成の鋼種を溶製した。この鋳造片を、酸洗後、冷延、焼鈍等により0.4〜1.0mmの鋼板を作成した。鋼板の板厚中心部の介在物を電子顕微鏡及びEPMAにより調査し、Mg系介在物のサイズ及び分布を調査した。また冷延焼鈍板及びそれを90°曲げ加工した材料の表面特性を調査した。
表面特性の評点は、1:凹凸が全くなし、2:目視では無いが粗度を測定すると若干凹凸がある、3:目視で凹凸が認められる、4:目視で著しく厳しい凹凸が認められるである。結果を表2に示す。本発明鋼は比較鋼に比べて表面特性が著しく優れていた。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
(実施例2)
オーステナイトステンレス鋼に種々の元素を添加し、表3に示す組成の鋼種を溶製した。この鋳造片を、酸洗後、冷延、焼鈍等により0.4〜1.0mmの鋼板を作成した。鋼板の板厚中心部の介在物を電子顕微鏡及びEPMAにより調査し、Mg系介在物のサイズ及び分布を調査した。また冷延焼鈍板及びそれを90°曲げ加工した材料の表面特性を調査した。
表面特性の評点は、前述同様である。結果を表4に示す。本発明鋼は比較鋼に比べて表面特性が著しく優れていた。
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
(実施例3)
前述の表1の鋼種A及び表2の鋼種Eの成分を持つ鋼種を溶製し、Mgを添加後の時間を変えて鋳造試験を行った。この鋳造片を、酸洗後、冷延、焼鈍等により0.4〜1.0mmの鋼板を作成した。鋼板の板厚中心部の介在物を電子顕微鏡及びEPMAにより調査し、Mg系介在物のサイズ及び分布を調査した。また冷延焼鈍板及びそれを90°曲げ加工した材料の表面特性を調査した。
表面特性の評点は前述同様である。結果を表5に示す。本発明法は比較法に比べて表面特性が著しく優れていた。
【0024】
【表5】
【0025】
【発明の効果】
本発明は鋼成分及び介在物さらにはその添加タイミングを規定することにより、鋳造後の製造工程及び条件を規定することなく表面特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を安価な製造工程で製造できる。したがって、産業上の価値の極めて高い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はMg介在物密度とMg添加後の時間の関係を示す図である。
Claims (3)
- Cr:11mass%以上を含有し主相がオーステナイト相からなるオーステナイト系ステンレス鋼において、Mg:0.0005〜0.01mass%を含有し、かつ任意の断面において最大径が0.05〜2.0μmのMg系介在物が20個/mm2 以上存在することを特徴とする表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
- Ti:0.01〜0.8mass%を、さらに含有し、Ti窒化物がMg系介在物を覆って析出していることを特徴とする請求項1に記載の表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1もしくは2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼を製造するに際し、Mg添加後、120分以内に鋳造を開始することを特徴とする表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
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JP01119399A JP4297539B2 (ja) | 1999-01-19 | 1999-01-19 | 表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 |
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