JP3758425B2 - Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、商用周波数よりも高い周波数において良好な磁気特性を有するFe−Cr−Si系電磁鋼板の有利な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Si合金は、軟質磁気特性に優れる材料として知られていて、なかでもSi量が3.5 wt%以下のFe−Si合金は、電磁鋼板として商用周波数用の各種鉄心を中心に多用されている。しかし、使用周波数が商用周波数よりも高い場合には、かかるSi量3.5 wt%以下の電磁鋼板では鉄損が大きくなる不利がある。そのため、このような商用周波数よりも高い周波域で用いられる用途においては、鉄損特性を改善するために、更に電気抵抗の高い材料が求められている。
【0003】
一般に、鋼中のSi量を増やせば電気抵抗が増大するから、上記のような高周波域での鉄損を低減する上で好都合である。しかし、その一方で、Si量が3.5 wt%を超えると、合金が極めて硬く脆くなり、加工性が劣ってしまうので圧延による製造、加工が困難となる。特にSi量が5.0 wt%を超える場合には、冷間加工はもろんのこと、温間加工も不可能になってしまう。
【0004】
この高Si鋼の加工性を改良し、6.5 wt%程度のSiを含有しても工業的に鋼板を製造できる技術としては、特開昭61−166923号公報に開示されている低温強圧下の熱間圧延による方法、特開昭62−227078号公報に開示されているSiの拡散浸透処理による方法が代表的である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前者の特開昭61−166923号公報に開示された技術は、合金としての脆性を見かけ上改善するために圧延組織を微妙に調整しなければならない。したがって、製造過程で厳密な制御を行わなければならず、工業的に安定して生産するのは非常に困難である。一方、後者の特開昭62−227078号公報に開示された技術では、特殊な拡散浸透法を用いるため、工業的な製造を行う場合にはコストにおいて極めて不利である。また、良好な高周波磁気特性を得るためにSi量をこれらの方法で増量しても、電気抵抗の増加には限界がある。特に、通常の工業的な圧延法で製造できる3.5 wt%以下のSi量の場合には、50μΩcm台までの比抵抗しか得られなかった。
また、これらのFe−Si合金は、耐食性が劣る点も鉄心などの用途においては問題とされる。
【0006】
ところで、Alは磁気特性の観点でSiと同様に電気抵抗を増大させる効果があり、しかもSiほどは加工性を劣化させない。そこで、Siの一部をAlで置換することにより、加工性が改善されることが知られている。Alは、Siよりもコスト高になり、磁束密度の減少が大きいなどの不利があるが、例えばほぼ同等の電気抵抗を得られるSi:3 wt%、Al:0.7 wt%の組成の鋼と、Si:3.7 wt%の組成の鋼とでは、Alを0.7 wt%含有する前者の鋼が、加工性、冷延性ともに良好である。磁気特性もほぼ同等となる。
しかし、Si:3 wt%以上の鋼において、SiとAlとの合計量が4wt%以上になる場合は、冷間圧延が不能となり、更に、SiとAlとの合計量が6wt%を超える場合には、温間圧延でさえも困難になっていた。また、この成分系の場合においても結局、工業的には60μΩcm未満の比抵抗しか得られていなかった。
【0007】
結局のところ、単にSi量やAl量を増加させることにより高周波域での鉄損低減を図るよりも、本質的に加工性の改善された新規な成分系の合金によって、高周波域にわたる鉄損特性と共に、加工性をも確保し、更に、耐食性などを満たすことが望ましい。
【0008】
なお、Fe−Si合金の耐食性に関しては、このFe−Si合金の耐食性を改善する手段として、Crを一定量添加する方法が、特開昭52−24117号公報及び特開昭61−272352号公報に開示されている。このように、Crの添加により耐食性を向上させた合金は知られている。しかし、これらの公報に開示された合金はいずれも、磁気特性としては従来の合金と同程度で、格段の改良を加えたものではなかった。
【0009】
この発明は、上記の問題点を解決するものであり、加工性の改善された成分系であるFe−Cr−Si系合金を素材として、製造条件に工夫を加えることにより、一層良好な鉄損特性を得ることを可能にした製造方法を提案することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。まず、加工性(ほぼ靱性によって評価することができる。)の確保に関して、Fe−Si合金やFe−Si−Al合金の靱性向上のためには予想外にもCrを共存させることが効果があることを見いだした。すなわち、これまではCrを添加するほど靱性は劣化すると考えられてきたが、Siが3 wt%以上又はAlが1 wt%以上の含有量であっても、C+Nの含有量を十分に低減した上で、一定量以上のCrを含有させることにより、むしろ高い靱性が得られることを見出した。
しかも、更にSi量又はAl量が低いFe−Cr−Si系合金(Fe−Cr−Si合金の他、Fe−Cr−Si−Al合金も含む。以下同じ。)であって、比抵抗が60μΩcm以上となる成分系においても、C+Nの含有量を十分に低減すれば、同等の比抵抗をもつFe−Si合金やFe−Si−Al合金よりも加工性が大幅に向上することを見出したのである。
【0011】
また、磁気特性については、Cr、Si又はAlを同時に含有させることにより、電気抵抗の増大に相乗的な効果が現れることを見いだした。その結果、特に高周波域での鉄損を、SiやAlのみを含有するFe−Si合金、Fe−Al合金、更にはFe−Si−Al合金に比べて格段に低減することができるに至った。
しかも、このようにCrを添加すれば、このCrの効果によって耐食性は従来のFe−Si系に比べて確実に向上する。
【0012】
更に、上述した成分を有する合金は、加工性に優れていることから、熱間圧延及び冷間圧延を経て製造することきには、熱延後の熱延板焼鈍、あるいは冷間圧延時や温間圧延時の中間焼鈍を行わないでも製造できるが、この熱延板焼鈍や中間焼鈍を行うならば、合金の集合組織の変化を通じて、鉄損特性が更に向上することを見出した。
【0013】
この発明は上記の知見に立脚するものである。
すなわち、この発明は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0014】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0015】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0016】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0017】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0018】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0019】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0020】
この発明の他の態様は、
Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法である。
【0021】
【発明の実施の形態】
この発明における合金素材の成分組成範囲について数値限定した理由について説明する。
まず、Crは、Si更にはAlとの相乗効果によって電気抵抗を大幅に向上させて高周波域での鉄損を低減し、更には耐食性を向上させる基本的な合金成分である。しかも、3.5 wt%以上のSi含有量の場合、又は3 wt%以上のSi含有量かつ1 wt%を超えるAl含有量の場合であっても温間圧延可能な程度の靱性を得るのに極めて有効である。その観点からCrは2 wt%以上を要する。Si量やAl量が上記の場合よりも少ないときには、Cr量を更に減じても加工性が確保できるが、Crの加工性向上効果を発揮させ、かつ、合金の比抵抗を60μΩcm以上とするためには、1.5 wt%以上のCrが必須である。一方、20wt%を超えると靱性向上の効果が飽和するとともに、コスト上昇を招くので、Crの含有量は1.5 wt%以上、20wt%以下、好ましくは2 wt%以上、10wt%以下、より好ましくは、3 wt%以上、7 wt%以下とする。
【0022】
Siは、Crとの相乗効果によって電気抵抗を大幅に上昇させ、高周波域での鉄損を低減するのに有効な成分である。Si量が2.5 wt%未満ではCrやAlを併用しても磁束密度をあまり犠牲にせずに60μΩcm以上の比抵抗を得るには至らない。一方、10wt%を超えるとCrを含有させても温間圧延可能なまでの靱性が確保できないので、Siの含有量は2.5 wt%以上、10wt%以下、好ましくは3 wt%以上、7 wt%以下、より好ましくは3.5 wt%以上、5 wt%以下と規定する。
【0023】
Alは、Siと同様、Crとの相乗効果によって電気抵抗を大幅に向上させ、高周波域での鉄損を低減するのに有効な成分であるので、この発明では必要に応じてAlを含有させることができる。しかし、Al量が5 wt%を超えるとコスト上昇を招く上に、この発明のようにSi量が2.5 wt%以上含有されている場合にCrを含有させても温間圧延可能なまでの靱性が確保できないので、Alの含有量は5 wt%以下とする。Alの下限は特に限定する必要がないが、脱酸や結晶粒成長性の改善のために0.005 〜0.3 wt%程度を含有させることがある。更に、Alを積極的に電気抵抗の増大のために活用するときには、この発明のようにSiが2.5 wt%以上含有されている合金ではAlが0.5 wt%未満では電気抵抗を更に上昇させるに十分な効果が得られない。したがって、この好ましくはAlの含有量は0.005 wt%以上、5 wt%以下、より好ましくは0.5 wt%以上、3 wt%以下と規定する。
【0024】
C及びNは、Fe−Cr−Si系合金の靱性を劣化させるためにできる限り低減するのが好ましく、その許容量はこの発明のCr量、Si量の場合には、高靱性を確保するために合計量で100 wtppm 以下に抑える必要がある。すなわち、先に述べたとり、この発明では、C+Nの含有量を100 wtppm 以下に低減した上で、一定量以上のCrを含有させることにより、たとえSiを多量に (3.5 wt%を超える量) で含有させる場合であっても、優れた高い靱性が得られ、製造時及び製品加工時の加工性が改善されるとともに、高周波磁気特性が格段に向上するのである。C+Nの含有量は、好ましくは60wtppm 以下、より好ましくは30wtppm 以下である。なお、C又はNの各々は、Cが30wtppm 以下、Nが80wtppm 以下が良く、より好ましくはCが10wtppm 以下、Nが20wtppm 以下が良い。
また、C、N以外の不純物量は特に限定されないが、S:20wtppm 以下、好ましくは10wtppm 以下、より好ましくは5 wtppm 以下がよい。O:50wtppm 以下、好ましくは30wtppm 以下、より好ましくは15wtppm 以下が良い。又は、不純物C+S+N+Oの合計量で120 wtppm 以下が好ましく、より好ましくは50wtppm 以下が良い。
【0025】
Mn及びPは、Fe−Cr−Si系合金に更に添加することにより、一層の電気抵抗の上昇を与える。これらの成分の添加により、この発明の趣旨が損なわれることなく、更なる鉄損の低減が達成できる。そこで、この発明では、Mn、Pの中から選ばれる1種又は2種を含有させることができる。とはいえ、これらの成分を大量に添加するとコスト上昇を招くので、それぞれの添加量は1 wt%を上限とする。より好ましくは0.5 wt%以下が良い。なお、Mn量、P量の下限は、特に限定するものではないが、前述したMn、Pの添加効果を十分に発揮させるためには、Mnについては0.1 wt%以上、Pについては0.05wt%以上を含有させることが好ましい。
【0026】
この発明の磁気材料に優れる高加工性Fe−Cr−Si系合金薄板は、C及びN合計量を100 wt%以下にするように、原料として純度99.9wt%以上の高純度の電解鉄、電解クロム、金属Si、金属Alを用い、Mn、Pを添加する場合には、これらも高純度原料を用いて製造できる。あるいは、転炉法で製造する場合には、所定の純度にまで十分に精錬し、かつ、後工程での汚染を受けないようにして製造することができる。
溶製に際しては、転炉法の他、例えば、高真空(10-3Torr以下の圧力)の真空溶解炉を用いることもできる。
【0027】
前述した成分組成範囲に調整された合金素材は、連続鋳造又は造塊−分塊圧延によりスラブとすることができる。また、薄スラブ連続鋳造法を用いて、板厚の薄いスラブを製造することもできる。得られたスラブは、加熱保持後に熱間圧延に供するか、また、CC-DR 法やHCR 法のように、連続鋳造時の顕熱を保持したまま加熱することなく熱間圧延に供することができる。
【0028】
その後の熱間圧延は、極力薄く圧延することによって、次工程の冷間圧延ないしは温間圧延における加工性、すなわち圧延性を良好にすることができる。これは、この発明のFe−Cr−Si系合金組成の場合には、熱延板の表面部分の方が中心部分よりも靱性が高く、加工性が優れているとの新知見に基づくものである。そのための熱延板の厚みは3 mm以下、好ましくは2.5 mm以下、より好ましくは1.5 mm以下とする。
【0029】
熱間圧延後は、必要に応じて熱延板焼鈍を行う。熱延板焼鈍を行うことにより、圧延された素材の集合組織が改善され、鉄損特性の向上に有利に作用する。また、熱延板焼鈍を行うことにより、圧延素材を軟化できるため、引き続いて行う冷間圧延や温間圧延の作業性を改善することができる。
この熱延板焼鈍条件は、温度:700〜1100℃で、時間:1秒〜2時間とする。焼鈍温度が高い場合や焼鈍時間が長い場合は、焼鈍効果が飽和して鉄損特性の一層の改善が見込めないこと及びコスト上昇の要因となること、焼鈍温度が低い場合や焼鈍時間が短い場合は鉄損特性の向上効果が小さいことから、これらの作用効果を考慮して上記の範囲内で定めれば良い。
【0030】
熱延板焼鈍後は、酸洗もしくはショットブラスト等により熱延スケールを除去した後に、冷間圧延や温間圧延を行う。熱延板の靱性が改善されているため、更に温間や冷間で圧延して0.4 mm以下の厚みの薄板とすることができる。一般に、板厚を減じると、とりわけ高周波において渦電流損が有利に抑制され、低鉄損になることは周知である。しかし、これまでは高電気抵抗の材料は圧延性が悪く、通常の圧延法によっては0.5 mm程度までしか減厚されていなかった。また、単に厚みを減じてもヒステリシス損失のために、十分な鉄損低減ができないとされてきた。この点、この発明では、素材成分と純度を調整することにより、減厚した場合の高周波鉄損特性の効果を促進し得る。かかる減厚の効果を得るためには、板厚を0.4 mm以下とすることが有効である。もっとも、0.01mmよりも薄くするには、コスト上、工業的に無理があるので、板厚の範囲を0.01〜0.4 mm、好ましくは0.03〜0.35mmである。
【0031】
以上のような冷間圧延や温間圧延は、1回の圧延又は中間焼鈍(途中焼鈍ともいう)を含む2回以上の圧延により行う。途中焼鈍を行うことは、圧延材の集合組織の改善を通じて磁気特性の向上に有利に作用する。また、この冷間圧延や温間圧延の作業性を改善することができる。途中焼鈍の条件は、温度:600〜1000℃で時間:1秒〜10分の範囲とする。焼鈍温度が低い場合や焼鈍時間が短い場合は鉄損特性の向上効果が小さいこと、焼鈍温度が高い場合や焼鈍時間が長い場合は、焼鈍効果が飽和して鉄損特性の一層の改善が見込めないこと及びコスト上昇の要因となることから、これらの作用効果を考慮して上記の範囲内で定めれば良い。
ここで、冷間圧延及び温間圧延は、コストの面からできるだけ低い温度とすることが好ましい。温間圧延を行う場合は、300 ℃程度以下の温度とすることが望ましい。
【0032】
なお、この発明においては、熱延後の熱延板焼鈍と、冷間圧延や温間圧延時の途中焼鈍とのうち、少なくとも一方を行うことを必須とする。これにより、圧延材の集合組織の改善を通じて鉄損特性の向上に有利に作用するとともに、この冷間圧延や温間圧延の作業性が改善できる。もちろん、熱延板焼鈍及び途中焼鈍の双方を行うことも可能である。
【0033】
冷間圧延、温間圧延の後は、仕上げ焼鈍を施し、更に絶縁被膜を被成して製品とする。これらの仕上げ焼鈍の条件、絶縁被膜の被成条件に関しては、通常の電磁鋼板や電磁ステンレス鋼板で常用される方法と同様にすればよい。
【0034】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す成分組成を含み、残部は実質的に鉄の組成よりなる種々の鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとした。これらのスラブを1100℃に加熱してから、熱間圧延を行って板厚1.6 mmとした。
【0035】
【表1】
【0036】
熱延後は、熱延板焼鈍を行うことなく脱スケール処理をした後、850 ℃で 20秒の途中焼鈍を含む2回の冷間圧延又は温間圧延を行って最終板厚0.1 mmとした。冷延後、820 ℃の仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜を表面に被成させて製品とした。
かくして得られた製品の機械的特性、鉄損特性及び耐食性について調べた結果を表2に示す。なお、表中、延性−脆性遷移温度は、熱延板からVノッチのシャルピー試験片を圧延方向と平行に採取し、25℃おきの温度でシャルピー衝撃値を測定して、脆性破面率が50%になる温度、すなわち延性−脆性遷移温度を靱性の指標として求めた。また、鉄損特性は、エプスタイン試験片を調製して周波数10kHz 、磁束密度0.1 T における鉄損値を測定した。また、同じ薄板から別途、幅30mm、長さ280 mmの試験片を切り出して、四端子法によって比抵抗を測定した。また、耐食性はJIS Z2371 に準拠した塩水噴霧試験を2 時間行い、板表面の錆発生面積率が20%以下なら「良」、20%を超え80%以下なら「中」、80%超えなら「劣」と判定した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示された鋼のうち、番号1の鋼は、C+N量が100 wtppm を超えているため、延性−脆性遷移温度が高い。番号6の鋼は、C+N量が100 wtppm を超えているため、延性−脆性遷移温度が高い。番号7の鋼は、Cr量が1.5 wt%に満たないため、延性−脆性遷移温度が高く、かつ、耐食性が悪い。番号9の鋼は、Crが添加されていない延性−脆性遷移温度が極めて高く、かつ、耐食性が悪い。番号10の鋼は、Si量が2.5 wt%に満たないため、比抵抗が低く、高周波での鉄損特性が劣る。
一方、番号2〜5及び8の鋼は、この発明の成分組成範囲内にあるため、靱性も鉄損も良好であって磁性材料として極めて優秀であり、耐食性も優れている。
【0039】
(実施例2)
表1に示す鋼種3及び5の成分組成を含み、残部は実質的に鉄の組成よりなる鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとした。これらのスラブを1050℃に加熱してから、熱間圧延を行って板厚2.0 mmとした。
熱延後は、熱延板焼鈍を行うことなく脱スケール処理をした後、中間焼鈍回数が異なる種々の圧延条件で冷間圧延又は温間圧延を行って、表3に示す最終板厚になる鋼板を得た。なお、中間焼鈍条件は、850 ℃で15秒であった。 その後、835 ℃の仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜を表面に被成させて製品とした。
【0040】
【表3】
【0041】
かくして得られた製品の鉄損特性について調べた結果を表3に併記する。表2に示した鉄損特性に加え、周波数1 kHz 、磁束密度1.0 T における鉄損値も示す。
表3より、同一鋼種、同一板厚であっても、中間焼鈍を施さない鋼に比べて、中間焼鈍を施した鋼は、鉄損が軽減されていることが分かる。また、同一鋼種の場合は、板厚が薄いほど、中間焼鈍の回数が多いほど鉄損の低い製品が得られることがわかる。
【0042】
(実施例3)
表1に示す成分組成を含み、残部は実質的に鉄の組成よりなる種々の鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとした。これらのスラブを1150℃に加熱してから、熱間圧延を行って板厚1.2 mmとした。
熱延後は、950 ℃で10秒の熱延板焼鈍を行った後、脱スケール処理をした後、900 ℃で10秒の途中焼鈍を含む2回の冷間圧延又は温間圧延を行って最終板厚0.1 mmとした。熱延後、850 ℃の仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜を表面に被成させて製品とした。
かくして得られた製品の鉄損特性について調べた結果を表4に示す。表4から、この発明に従う成分組成範囲を有する鋼は、良好な鉄損特性を有することが分かる。
【0043】
【表4】
【0044】
(実施例4)
表1に示す鋼種2〜4の成分組成を含み、残部は実質的に鉄の組成よりなる鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとした。これらのスラブを1100℃に加熱してから、熱間圧延を行って板厚1.6 mmとした。
【0045】
熱延後は、熱延板焼鈍を行う場合と熱延板焼鈍を行わない場合との2条件を行い、次いで脱スケール処理をした後、中間焼鈍回数の異なる種々の圧延条件で冷間圧延又は温間圧延を行って、表5に示す最終板厚になる鋼板を得た。なお、中間焼鈍条件は、850 ℃で10秒であった。 その後、820 ℃の仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜を表面に被成させて製品とした。
【0046】
【表5】
【0047】
かくして得られた製品の鉄損特性について調べた結果を表5に併記する。
表5より、同一鋼種、同一板厚であっても、熱延板焼鈍を施さない鋼に比べて、熱延板焼鈍を施した鋼は、鉄損が軽減されていることが分かる。また、同一鋼種の場合は、板厚が薄いほど、中間焼鈍の回数が多いほど鉄損の低い製品が得られることがわかる。
【0048】
【表6】
【0049】
(実施例5)
表6に示す成分組成を含み、残部は実質的に鉄の組成よりなる種々の鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとした。これらのスラブを1050℃に加熱してから、熱間圧延を行って板厚2.2 mmとした。
【0050】
【表7】
【0051】
熱延後は、熱延板焼鈍を行うことなく脱スケール処理をした後、950 ℃で10秒の途中焼鈍を含む2回の冷間圧延又は温間圧延を行って最終板厚0.1 mmとした。熱延後、830 ℃の仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜を表面に被成させて製品とした。かくして得られた製品の機械的特性、鉄損特性及び耐食性について調べた結果を表7に示す。なお、表中、延性−脆性遷移温度、鉄損特性及び耐食性の測定法は実施例1と同様である。
【0052】
【表8】
【0053】
表7に示された鋼のうち、番号43及び45の鋼は、Al量が5 wt%を超えているため、延性−脆性遷移温度が高く、通常の圧延で製造するのが困難である。また、番号49の鋼は、Mn量が1 wt%を超えているため、鉄損特性が劣っている。
一方、番号42, 44, 46〜48の鋼は、この発明の成分組成範囲内にあるため、靱性も鉄損も良好であって磁性材料として極めて優秀であり、耐食性も優れている。
【0054】
(実施例6)
表6に示す鋼種13又は17の成分組成を含み、残部は実質的に鉄の組成よりなる鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとした。これらのスラブを1000℃に加熱してから、熱間圧延を行って板厚2.3 mmとした。
【0055】
熱延後は、熱延板焼鈍を行う場合と熱延板焼鈍を行わない場合との2条件を行い、次いで脱スケール処理をした後、中間焼鈍回数の異なる種々の圧延条件で冷間圧延又は温間圧延を行って、最終板厚0.1 mmの鋼板を得た。なお、中間焼鈍条件は、900 ℃で20秒であった。 その後、850 ℃の仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜を表面に被成させて製品とした。
【0056】
かくして得られた製品の鉄損特性について調べた結果を表8に示す。
表8より、同一鋼種、同一板厚であっても、熱延板焼鈍を施さない鋼に比べて、熱延板焼鈍又は中間焼鈍を施した鋼は、鉄損が軽減されていることが分かる。
【0057】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、従来のSi量6.5 wt%までのFe−Si合金やFe−Al合金に比べて格段に優れた高周波鉄損特性を、良好な加工性とともに確保することかできる。しかも、耐食性や製造コスト面からも有利であり、総合的に極めて優秀な磁性材料を与えるものである。
Claims (8)
- Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで700〜1100℃の熱延板焼鈍を行った後、1回又は600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下及び
Si:2.5 wt%以上10wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。 - Cr:1.5 wt%以上20wt%以下、
Si:2.5 wt%以上10wt%以下及び
Al:5 wt%以下
を含み、Mn及びPから選ばれる1種又は2種をそれぞれ1wt%以内で含有し、かつ、C及びNを合計量で100 wtppm 以下に低減し、残部は鉄及び不可避的不純物からなる合金素材を熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を行うことなく、600〜1000℃の中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延又は温間圧延を施して最終板厚とし、更に、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする Fe−Cr−Si系電磁鋼板の製造方法。
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