JP4293264B2 - 自動変速機の摩擦係合装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両に搭載される自動変速機の摩擦係合装置、特に他部材との干渉防止のために摩擦材押圧部側を部分的に切り欠いたピストンを備えている自動変速機の摩擦係合装置に関する。
自動車に搭載される自動変速機においては、変速機構を構成する複数のプラネタリーギヤセットのリングギヤ、プラネタリキャリア、サンギヤ等を摩擦係合装置である湿式多板型のクラッチやブレーキで相互に選択的に摩擦係合させたりあるいはケース側に選択的に摩擦係合させたりすることで、複数の変速段を形成するように動力伝達経路の切り換えがなされる。
この種の自動変速機の摩擦係合装置としては、例えば特許文献1に記載のように、動力伝達経路の一部を構成し、その内周に複数の一方側の摩擦材が取り付けられたドラムと、他の回転要素にスプライン結合した他方側の摩擦材と、ドラムに収納されるとともに一方側および他方側の摩擦材を摩擦係合させるよう押圧する押圧部を有するピストンと、ピストンを摩擦材の摩擦係合を解除する方向に付勢する複数のリターンスプリングとを備えたものが知られている。
この摩擦係合装置では、ピストンの押圧部が連続する環状に形成されるとともに、複数のリターンスプリングが環状押圧部に沿ってその周方向に等間隔に配置されている。
特開平07−269663号公報
しかしながら、上述のような従来の自動変速機の摩擦係合装置にあっては、ピストンの押圧部が連続する環状に形成され、複数のリターンスプリングがピストンの環状押圧部に沿って周方向に等間隔に配置されていたため、次のような問題があった。
すなわち、近時の燃費向上要求の高度化に伴って、限られた変速機搭載スペースに小型で多段の自動変速機を搭載することが必要となり、自動変速機を構成する要素の高密度配置が不可欠となってきたことから、環状の押圧部を有する摩擦係合装置のピストンが駆動輪側への出力要素となるギヤ等の他部材と干渉するのを避けるべく、ピストンのスカート状の環状押圧部を切り欠く必要が生じていた。そのため、複数のリターンスプリングがピストンの環状押圧部に沿って周方向等間隔に配置されている構成では、切り欠かれた部分だけ摩擦材側からの反力がなく、押圧方向の油圧力のみがかかる切欠き範囲で小要素化されたピストンが撓み易くなるため、ピストンが変形してしまうおそれがあった。
本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、小要素化されたピストンに他部材との干渉を防止するための切欠きが形成される場合でも、ピストンの変形を抑えることのできる、小型・多段の自動変速機に好適な自動変速機の摩擦係合装置を提供することを目的とする。
本発明の自動変速機の摩擦係合装置は、上記目的達成のため、(1)自動変速機内に設けられた筒状のケースと、前記ケースに支持された一方側の摩擦材と、前記自動変速機内に設けられた回転要素に支持された他方側の摩擦材と、前記ケースに摺動可能に収納されて前記ケースとの間に環状の油圧室を形成する受圧部と該受圧部からの推力により前記一方側の摩擦材および前記他方側の摩擦材を軸方向一方側に押圧する押圧部とを有する環状のピストンと、前記ピストンを軸方向他方側に付勢するよう前記ケースと前記ピストンの間に介装された複数のリターンスプリングと、を備えた自動変速機の摩擦係合装置において、前記ピストンが、前記押圧部側をその周方向の所定角度範囲にわたって切り欠いた第1受圧区間と該第1受圧区間以外の第2受圧区間とを有し、前記ピストンが前記一方側の摩擦材および前記他方側の摩擦材を押圧するとき、前記第1受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの付勢力が前記第2受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの付勢力より大きくなるようにしたことを特徴とするものである。
この構成により、ピストンは第2受圧区間では油圧室側の油圧とこれに対抗する摩擦材側からの反力を受けるが押圧部側を切り欠いた第1受圧区間では油圧室側の油圧のみを受けることになり、第1受圧区間の受圧部に撓み等の変形が生じ易くなる。しかし、第1受圧区間では単位角度範囲当りのリターンスプリングの付勢力が第2受圧区間のそれより大きくなることから、第1受圧区間の受圧部の変形が抑制される。なお、第2受圧区間のリターンスプリングの配置を適宜設定することで、複数のリターンスプリング全体での付勢力を所要値に設定することができるし、ピストンの傾きを生じさせるモーメントを抑えることもできる。
上記(1)の構成を有する自動変速機の摩擦係合装置においては、(2)前記第1受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの配置数が前記第2受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの配置数より多いことが好ましい。
これにより、第1受圧区間では単位角度範囲当りのリターンスプリングの付勢力を容易に大きくすることができる。
上記(1)又は(2)の構成を有する自動変速機の摩擦係合装置においては、(3)前記ピストンが前記一方側の摩擦材および前記他方側の摩擦材を押圧するとき、前記第1受圧区間内の各リターンスプリングの発生荷重が前記第2受圧区間内の各リターンスプリングの発生荷重より大きくなるようにするのが好ましい。
この場合、第1受圧区間の単位角度範囲当りのリターンスプリングの付勢力をより大きくすることができる。
上記(3)の自動変速機の摩擦係合装置においては、(4)前記複数のリターンスプリングのうち前記第1受圧区間内に配置された第1のリターンスプリングと、前記複数のリターンスプリングのうち前記第2受圧区間内に配置された第2のリターンスプリングとが、互いに相違するばね定数を有するものであってもよい。
この構成により、受圧部に作用する油圧の増加に応じて第1受圧区間の単位角度範囲当りのリターンスプリングの付勢力を徐々に大きくすることができ、第1受圧区間の変形が生じ易い摩擦係合油圧作用時にはリターンスプリングの付勢力を十分に高めることができる。しかも、摩擦係合装置の解放状態からピストンが摩擦係合側へのストロークを開始するときに複数のリターンスプリングの付勢力をピストンの全周でほぼ均等にすることができる。
上記(1)〜(3)の何れかの自動変速機の摩擦係合装置においては、(5)前記複数のリターンスプリングのうち前記第1受圧区間内に配置された第1のリターンスプリングと、前記複数のリターンスプリングのうち前記第2受圧区間内に配置された第2のリターンスプリングとが、同一のばね定数と互いに相違する取付時荷重を有するものであってもよい。
この構成により、複数のリターンスプリングを同一の部品とすることができ、取り扱いの容易化とコストの低減が可能になる。また、例えば第1受圧区間内で受圧部の背面側に肉盛りするようにすれば、ピストンの第1受圧区間の強度が高まる。さらに、第1受圧区間のリターンスプリング取付時荷重を大きくしておくことで、第1受圧区間のリターンスプリングの付勢力を十分に高めることができる。
上記(1)〜(4)の何れかの自動変速機の摩擦係合装置は、(6)前記ピストンの周方向における前記第1受圧区間の中央部に前記第1受圧区間の両端部より密に前記リターンスプリングを位置させたものであるのがよい。
この構成により、第1受圧区間の受圧部の撓みを有効に抑制することができる。
上記(1)〜(6)の何れかの自動変速機の摩擦係合装置は、(7)前記複数のリターンスプリングの一端部を片面側で保持するとともに前記ケースに係止された環状のリテーナプレートを備え、前記ピストンの受圧部の背面側には前記リテーナプレートに保持された前記複数のリターンスプリングの他端部が嵌め込まれる凹部が形成されているのが望ましい。
この構成により、リターンスプリングの配置間隔が均等でなかったりリターンスプリングの種類が相違したりしても、リテーナプレートに複数のリターンスプリングを保持させたアッシー(ASSY)としてその取り扱いや組み付け作業を容易にすることができる。
本発明によれば、第2受圧区間では油圧室側の油圧とこれに対抗する摩擦材側からの反力を受け、押圧部側を切り欠いた第1受圧区間では油圧室側の油圧のみを受けるピストンに対し、その第1受圧区間における単位角度範囲当りのリターンスプリングの付勢力を第2受圧区間のそれより大きくして第1受圧区間の受圧部の変形を抑制するようにしているので、第1受圧区間の受圧部の撓み等といったピストンの変形を有効に抑制することができる。
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
図1ないし図5は、本発明に係る自動変速機の摩擦係合装置の第1実施形態を示す図であり、本発明を自動変速機の湿式多板型のブレーキに適用した場合を示している。
まず、その構成について説明すると、図1に模式断面図で示すように、本実施形態の摩擦係合装置10は、自動変速機のケース内に設けられた筒状のケース11と、このケース11の一端側(図1中の右端側)の内周部にスプライン嵌合することでケース11に対し軸方向変位可能にかつ回転方向には一体的に支持された複数の一方側の摩擦材12と、自動変速機のケース内に設けられた回転要素13に軸方向変位可能にかつ回転方向には一体的に支持された他方側の摩擦材14と、オイルシールリング16a、16bが装着されてケース11に摺動可能に収納された環状のピストン15と、ピストン15を図1中の左方側(軸方向他方側)に付勢するようケース11とピストン15の間に介装された複数の圧縮コイルばねからなるリターンスプリング17とを備えている。
複数の一方側の摩擦材12はケース1に設けられたストッパ11aによって軸方向一方側への変位を所定位置で規制されるようになっており、一方側の摩擦材12と他方側の摩擦材14は、複数の一方側の摩擦材12によって他方側の摩擦材14を挟むように交互に配置されている。また、回転要素13は、自動変速機内の動力伝達経路の一部を形成するものである(詳細は後述する)。
ピストン15は、ケース11との間に環状の油圧室18を形成する受圧部15aと、この受圧部15aからの推力によって一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を摩擦係合させるように、複数の一方側の摩擦材12のうちピストン15に最も近接する1枚を軸方向一方側に押圧する押圧部15bとを有している。また、ケース11には図示しないリニアソレノイドバルブ等の油圧制御バルブからの作動油圧を油圧室18に導入する油路11hが形成されている。
この摩擦係合装置10においては、油圧室18内の油圧が高いときにはピストン15が一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を互いに圧接させるよう押圧して所定の摩擦係合状態とし、油圧室18内の油圧が低いときには一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14の摩擦係合状態を解くようになっている。このような摩擦係合動作やその解除動作自体は公知のものと同様であるので、詳述しない。
図2に示すように、ピストン15には押圧部15b側をその周方向の所定角度範囲にわたって切り欠いた切欠き部15cが形成されており、これによりピストン15は、押圧部15b側に切欠き部15cが形成された第1受圧区間A1と、この第1受圧区間A1以外の第2受圧区間A2とを有している。
また、ピストン15が一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を押圧するとき、第1受圧区間A1における単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力(複数の第1のリターンスプリング17Fの発生荷重の総和/第1受圧区間A1の中心角相当の角度)は、第2受圧区間A2における単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力(複数の第2のリターンスプリング17Sの発生荷重の総和/第2受圧区間A2の中心角相当の角度)より大きくなるようになっている。
具体的には、図3に示すように、複数のリターンスプリング17は、回転要素13の回転中心軸Zを中心とする所定半径の円周Csp上に互いに間隔を隔てて配置されており、第1受圧区間A1内の単位角度範囲当りのリターンスプリング17の配置数が、第2受圧区間A2内の単位角度範囲当りのリターンスプリング17の配置数より多くなっている。すなわち、第1受圧区間A1内に配置されるリターンスプリング17(以下、リターンスプリング17Fともいう)の間の配置間隔P1の方が、第2受圧区間A2内に配置されるリターンスプリング17(以下、リターンスプリング17Sともいう)の間の配置間隔P2よりも狭くなっている。
また、ピストン15の周方向における第1受圧区間A1の中央部付近に、第1受圧区間A1の両端部よりも密にリターンスプリング17を位置させたものとなっており、ピストン15の押圧部15b側に形成された切欠き部15cの両端縁部から所定の隙間(例えばリターンスプリング17の直径程度)を隔てるようになっている。
より具体的には、本実施形態の摩擦係合装置10は、図4に部分断面を示すような自動変速機の変速機構内に設けられている。なお、この変速機構は、複数のプラネタリーギヤセットを備えた遊星歯車式のギヤトレーンで構成されたものであるが、同図にはその第1のプラネタリーギヤセット周辺のみを図示している。
図4に示す変速機構は、図外のタービンランナからの回転を入力する変速機入力軸31と、変速機入力軸31にスプライン結合したサンギヤ32と、サンギヤ32の周囲に複数設けられたピニオン33と、複数のピニオン33をサンギヤ32に噛合させた状態で自転可能にかつ周方向等間隔に保持するキャリア34と、複数のピニオン33に噛合するよう複数のピニオン33を取り囲むとともに回転要素13に支持されたリングギヤ35とを備えている。
回転要素13は、上述のように、摩擦係合装置10の一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14が摩擦係合するときには、ブレーキとして機能する摩擦係合装置10によって自動変速機のケース1に締結される。したがって、リングギヤ35は回転要素13および摩擦係合装置10を介して選択的に自動変速機のケース1側からの拘束によってその回転を制限されるようになっている。
そして、リングギヤ35の回転が拘束されたときには、リングギヤ35内で変速機入力軸31からの入力回転を受けたサンギヤ32の回転に応じてピニオン33が自転および公転し、キャリア34が入力回転を所定減速比で減速した回転を第2のプラネタリーギヤセット側の回転軸36に出力する。
また、摩擦係合装置10の摩擦係合状態が解けてリングギヤ35が回転可能になるときには、リングギヤ35の回転により変速機入力軸31の入力回転に対するピニオン33の自転速度が減るとともにピニオン33の公転速度が増し、キャリア34から第2のプラネタリーギヤセット側の回転軸36に出力する回転数が増加するようになっている。このような遊星歯車式の変速機構の動作自体は、公知のものと同様である。
ピストン15の内方には、図外の駆動輪側への出力要素となるカウンタドライブギヤ37が配置されており、これに噛合するカウンタドリブンギヤ38がピストン15の切欠き部15cを通してカウンタドライブギヤ37に噛合するようになっている。また、ピストン15の周壁の一部には開口穴15h(図2参照)が形成されており、この開口穴15hを貫通してカウンタドライブギヤ37の回転速度を検出する回転速度センサ(図示していない)がピストン15内に挿入されている。
一方、図1および図4に示すように、摩擦係合装置10は、複数のリターンスプリング17の一端部17aを片面側で保持するとともにストッパ21によりケース11に係止された環状のリテーナプレート19を備えている。また、ピストン15の受圧部15aの背面側には、リテーナプレート19に保持された複数のリターンスプリング17の他端部17bが嵌め込まれる凹部15rが形成されている。
リテーナプレート19に保持された複数のリターンスプリング17は、例えば同一の自然長およびばね定数を有する同一諸元の複数の圧縮ばねとなっており、これら複数のリターンスプリング17およびリテーナプレート19は全体として1つのスプリングASSY20を構成している。
また、図5に示すように、リテーナプレート19は、ケース11のボス部11bの外周に支持された内周部19aと、複数のリターンスプリング17の一端部が当接する環状のシート面部分19bと、そのシート面部分19bの内周に近接しシート面部分19bとリテーナプレート19の内周部19aとの間に位置する環状の段付部分19cと、そのシート面部分19bの外周に近接する環状の外周曲げ部19dとを有している。そして、リテーナプレート19の内周部19aは、ケース11のボス部11bに装着されたストッパ21によって抜け止めされている。
さらに、リテーナプレート19は、複数のリターンスプリング17の一端部17aの内周に入り込む複数の位置決めおよび保持用の凸部19fを有しており、これら凸部19fは環状のリテーナプレート19の周方向に不等間隔に形成されている。すなわち、上述のように、第1受圧区間A1内に配置されるリターンスプリング17Fの間の配置間隔P1の方が、第2受圧区間A2内に配置されるリターンスプリング17Sの間の配置間隔P2よりも狭くなり、ピストン15が一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を押圧するとき、第1受圧区間A1における単位角度範囲当りのリターンスプリング17Fの付勢力が、第2受圧区間A2における単位角度範囲当りのリターンスプリング17Sの付勢力より大きくなるように複数の凸部19fの位置が設定されている。
なお、複数のリターンスプリング17の総配置数や諸元は、複数のリターンスプリング17全体での付勢力を所要値に設定するように決定されている。また、図3中では便宜的に第1のリターンスプリング17Fを所定間隔P1で等間隔に、第2のリターンスプリング17Sを所定間隔P2で等間隔にそれぞれ図示しているが、複数のリターンスプリング17および凸部19fの位置はピストン15の傾きを生じさせるモーメントを適時抑えるような間隔および範囲に設定されている。
次に、作用について説明する。
上述のように構成された本実施形態の自動変速機の摩擦係合装置10では、図示しない油圧制御バルブから油圧室18内に選択的に所定の係合油圧が供給され、あるいは、その油圧が解放される。
そして、油圧室18内に係合油圧が供給されたときには、ピストン15によって一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14に押圧力が加えられてこれら摩擦材12、14が所定の摩擦係合状態となる。一方、油圧室18内の油圧が解放されたときには、一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14の摩擦係合状態が解除される。
このような摩擦係合装置10の係合時には、ピストン15は、図2に示すように、押圧部15bが存在する第2受圧区間A2では油圧室18側からの油圧による等分布の荷重と圧接状態の摩擦材12、14からの反力を受ける。一方、ピストン15の押圧部15b側の周壁の一部が略コの字形に切り欠かれて切欠き部15cが形成されている第1受圧区間A1では、ピストン15が油圧室18側からの油圧による等分布の荷重を受けるが、圧接状態の摩擦材12、14からの反力を直接に受けない。したがって、ピストン15の第1受圧区間A1内の受圧部15aに撓み等の変形が生じ易くなる。
これに対し、本実施形態では、ピストン15の第1受圧区間A1では単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力が、第2受圧区間A2の単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力より大きくなっていることから、第1受圧区間A1の受圧部15aの変形が抑制される。
また、第1受圧区間A1の単位角度範囲当りのリターンスプリング17の配置数が第2受圧区間A2の単位角度範囲当りのリターンスプリング17の配置数より多いので、第1受圧区間A1では単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力を容易に大きくすることができる。
さらに、ピストン15の周方向における第1受圧区間A1の中央部に第1受圧区間A1の両端部より密にリターンスプリング17を位置させているので、第1受圧区間A1の受圧部15aの撓み等の変形を有効に抑制することができる。
加えて、複数のリターンスプリング17の一端部17aを片面側で保持するとともにケース11に係止された環状のリテーナプレート19が設けられ、ピストン15の受圧部15aの背面側にはリテーナプレート19に保持された複数のリターンスプリング17の他端部17bが嵌め込まれる凹部15rが形成されているので、リターンスプリング17の配置間隔が均等でなかったりリターンスプリング17の種類が相違したりしても、リテーナプレート19に複数のリターンスプリング17を保持させたスプリングASSY20として、その取り扱いや組み付け作業を容易にすることができ、そのピストン15側への組み付けも容易となる。
(第2の実施の形態)
図6は本発明に係る自動変速機の摩擦係合装置の第2実施形態の模式断面図である。
なお、以下に説明する各実施形態は、複数のリターンスプリングおよびリテーナプレートからなるスプリングASSYの構成が上述した第1実施形態とは相違するが、他の構成については第1実施形態と同一である。したがって、その同一の構成については上述と同様の符号を用い、相違点についてのみ説明する。
本実施形態では、ピストン15が一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を摩擦係合させるように押圧するときに、第1受圧区間A1内の各リターンスプリング17Fの発生荷重F1が第2受圧区間A2内の各リターンスプリング17Sの発生荷重F2より大きくなるようになっている。
具体的には、複数のリターンスプリング17のうち第1受圧区間A1内に配置された第1のリターンスプリング17Fと、複数のリターンスプリング17のうち第2受圧区間内に配置された第2のリターンスプリング17Sとが、互いに等しい自然長と互いに相違するばね定数k1、k2とを有しており、第1のリターンスプリング17Fのばね定数k1が第2のリターンスプリング17Sのばね定数k2よりも大きくなっている。
この場合、摩擦係合装置10の摩擦係合状態が解除された状態から、ピストン15の受圧部15aに作用する油圧が増加すると、それに応じてピストン15が変位することで、第1受圧区間A1内のリターンスプリング17Fの発生荷重が第2受圧区間A2内のリターンスプリング17Sの発生荷重よりも徐々に大きくなり、第1受圧区間A1の変形が生じ易い摩擦係合油圧作用時にはリターンスプリング17Fの付勢力が十分に高まることになる。その結果、第1受圧区間A1の受圧部15aの撓み等といったピストン15の変形を有効に抑制することができる。また、摩擦係合装置10の解放状態からピストン15が摩擦係合側へのストロークを開始するときに複数のリターンスプリング17の付勢力をピストン15の全周でほぼ均等にすることができる。
(第3の実施の形態)
図7は本発明に係る自動変速機の摩擦係合装置の第3実施形態の模式断面図である。
本実施形態は、上述の実施形態とほぼ同様の構成を有しているので、上述と同様の符号を用いて相違点についてのみ説明する。
本実施形態では、ピストン15が一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を摩擦係合させるように押圧するとき、第1受圧区間A1内の各リターンスプリング17Fの発生荷重F1が第2受圧区間A2内の各リターンスプリング17Sの発生荷重F2より大きくなるようになっている。
上述の第2実施形態がリターンスプリング17F、17Sの間のばね定数の相違によって摩擦係合時におけるばね発生荷重の差を生じさせる構成であったのに対し、本実施形態は、複数のリターンスプリング17のうち第1受圧区間A1内に配置された第1のリターンスプリング17Fと、複数のリターンスプリング17のうち第2受圧区間A2内に配置された第2のリターンスプリング17Sとが、同一の自由長およびばね定数kと互いに相違する取付時荷重とを有している。
本実施形態では、リターンスプリング17は圧縮コイルばねであるので、ここにいう取付時荷重は取付時高さh1、h2に相当し、取付時高さhはピストン15とリテーナプレート19の間に装着された油圧解放状態でのリターンスプリング17の高さ(長さ)である。
本実施形態では、例えばリターンスプリング17の他端部17bが嵌め込まれる受圧部15aの背面側の凹部15rの深さを第1受圧区間A1内では小さい深さd1に、第2受圧区間A2内では第1受圧区間A1内の深さd1よりも大きい深さd2にすることで、第1のリターンスプリング17Fの取付時高さh1が、第2のリターンスプリング17Sの取付時高さh2より小さくなるようになっている。すなわち、第1のリターンスプリング17Fの方が第2のリターンスプリング17Sよりも多く撓んだ状態でピストン15とリテーナプレート19の間に装着されている。
このような本実施形態の自動変速機の摩擦係合装置では、ピストン15が一方側の摩擦材12および他方側の摩擦材14を押圧するとき、第1受圧区間A1内の各リターンスプリング17Fの発生荷重が第2受圧区間A2内の各リターンスプリング17Sの発生荷重より大きくなるので、第1受圧区間A1の単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力をより大きくすることができる。
さらに、本実施形態では、第1受圧区間A1内で受圧部15aの背面側に肉盛りするようにしているので、ピストン15の第1受圧区間A1の強度を高めることもできる。
また、本実施形態では、複数のリターンスプリング17をすべて同一の部品とすることができるので、取り扱いの容易化とコストの低減も可能になる。
なお、本実施形態では、受圧部15aの背面側の凹部15rの深さを第1受圧区間A1内では小さい深さd1に、第2受圧区間A2内ではそれよりも大きい深さd2にしたが、受圧部15aの背面側の凹部15rの深さを一定しつつリテーナプレート19のシート面部分19bの高さを第1受圧区間A1と第2受圧区間A2とで相違させることにより、第1のリターンスプリング17Fの取付時高さh1(取付時荷重)を第2のリターンスプリング17Sの取付時高さh2(取付時荷重)より小さくするようにすることもできるのは勿論である。また、上述の各実施形態ではリターンスプリング17として円形断面円筒型の圧縮コイルばねを例示したが、断面形状が円形である必要はないし、円筒形でなく円錐形やつづみ形、たる形等の任意の形状とすることができる。また、圧縮コイルばねに限らず、皿ばねや板ばねを用いることができる。さらに、第1受圧区間に所定のピストンストロークになると発生荷重が増加する組合せ型のコイルばねを用いることもできるし、ばね定数一定のリターンスプリングを全周に等間隔に配置するとともに、第1受圧区間にばね定数や取付時高さの異なる他のリターンスプリングを併設することもできる。
以上説明したように、本発明は、第2受圧区間A2では油圧室18側の油圧とこれに対抗する摩擦材12、14側からの反力を受け、押圧部15b側を切り欠いた第1受圧区間A1では油圧室18側の油圧のみを受けるピストン15に対して、その第1受圧区間A1における単位角度範囲当りのリターンスプリング17の付勢力を第2受圧区間A2のそれより大きくすることで第1受圧区間A1の受圧部15aの変形を抑制するようにしているので、第1受圧区間A1の受圧部15aの撓み等といったピストン15の変形を有効に抑制することができるという効果を奏するものであり、車両に搭載される自動変速機の摩擦係合装置、特に他部材との干渉防止のために摩擦材押圧部側を部分的に切り欠いたピストンを備えている自動変速機の摩擦係合装置全般に有用である。
本発明の自動変速機の摩擦係合装置の第1実施形態を示すその模式断面図である。 第1実施形態の摩擦係合装置におけるピストンの切欠き部側から見た斜視図である。 第1実施形態の摩擦係合装置におけるスプリングASSYの上面図である。 第1実施形態の摩擦係合装置を含む自動変速機の部分断面図である。 第1実施形態の摩擦係合装置におけるピストンの第1受圧区間の受圧部とその近傍を示す要部断面図である。 本発明の自動変速機の摩擦係合装置の第2実施形態を示すその模式断面図である。 本発明の自動変速機の摩擦係合装置の第3実施形態を示すその模式断面図である。
符号の説明
1 自動変速機のケース
10 摩擦係合装置
11 ケース
11a ストッパ
11b ボス部
11h 油路
12 一方側の摩擦材
13 回転要素
14 他方側の摩擦材
15 ピストン
15a 受圧部
15b 押圧部
15c 切欠き部
15h 開口穴
15r 凹部
16a、16b オイルシールリング
17 複数のリターンスプリング
17F 第1のリターンスプリング
17S 第2のリターンスプリング
17a 一端部
17b 他端部
18 油圧室
19 リテーナプレート
19a 内周部
19b シート面部分
19c 段付部分
19d 外周曲げ部
19f 凸部
20 スプリングASSY
21 ストッパ
31 変速機入力軸
32 サンギヤ
33 ピニオン
34 キャリア
35 リングギヤ
37 カウンタドライブギヤ
38 カウンタドリブンギヤ
A1 第1受圧区間
A2 第2受圧区間
d1、d2 凹部の深さ
F1、F2 発生荷重
h1、h2 取付時高さ
k1、k2 ばね定数
P1、P2 配置間隔

Claims (7)

  1. 自動変速機内に設けられた筒状のケースと、
    前記ケースに支持された一方側の摩擦材と、
    前記自動変速機内に設けられた回転要素に支持された他方側の摩擦材と、
    前記ケースに摺動可能に収納されて前記ケースとの間に環状の油圧室を形成する受圧部と該受圧部からの推力により前記一方側の摩擦材および前記他方側の摩擦材を軸方向一方側に押圧する押圧部とを有する環状のピストンと、
    前記ピストンを軸方向他方側に付勢するよう前記ケースと前記ピストンの間に介装された複数のリターンスプリングと、を備えた自動変速機の摩擦係合装置において、
    前記ピストンが、前記押圧部側をその周方向の所定角度範囲にわたって切り欠いた第1受圧区間と該第1受圧区間以外の第2受圧区間とを有し、
    前記ピストンが前記一方側の摩擦材および前記他方側の摩擦材を押圧するとき、前記第1受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの付勢力が前記第2受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの付勢力より大きくなるようにしたことを特徴とする自動変速機の摩擦係合装置。
  2. 前記第1受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの配置数が前記第2受圧区間の単位角度範囲当りの前記リターンスプリングの配置数より多いことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の摩擦係合装置。
  3. 前記ピストンが前記一方側の摩擦材および前記他方側の摩擦材を押圧するとき、前記第1受圧区間内の各リターンスプリングの発生荷重が前記第2受圧区間内の各リターンスプリングの発生荷重より大きくなるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機の摩擦係合装置。
  4. 前記複数のリターンスプリングのうち前記第1受圧区間内に配置された第1のリターンスプリングと、前記複数のリターンスプリングのうち前記第2受圧区間内に配置された第2のリターンスプリングとが、互いに相違するばね定数を有することを特徴とする請求項3に記載の自動変速機の摩擦係合装置。
  5. 前記複数のリターンスプリングのうち前記第1受圧区間内に配置された第1のリターンスプリングと、前記複数のリターンスプリングのうち前記第2受圧区間内に配置された第2のリターンスプリングとが、同一のばね定数と互いに相違する取付時荷重を有することを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の自動変速機の摩擦係合装置。
  6. 前記ピストンの周方向における前記第1受圧区間の中央部に前記第1受圧区間の両端部より密に前記リターンスプリングを位置させたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の自動変速機の摩擦係合装置。
  7. 前記複数のリターンスプリングの一端部を片面側で保持するとともに前記ケースに係止された環状のリテーナプレートを備え、
    前記ピストンの受圧部の背面側には前記リテーナプレートに保持された前記複数のリターンスプリングの他端部が嵌め込まれる凹部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の自動変速機の摩擦係合装置。
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