JP4272397B2 - 熱間加工性,切削性に優れたマルテンサイト系及びフェライト系ステンレス鋼 - Google Patents

熱間加工性,切削性に優れたマルテンサイト系及びフェライト系ステンレス鋼 Download PDF

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、毒性のないCuの添加によって被削性を改善し、熱間加工性も良好なフェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
精密機械工業の発達や家庭電気器具,家具調度品等の需要増加に応じ、従来ステンレス鋼が使用されていなかった部分にもステンレス鋼が使用されるようになってきた。また、工作機械の自動化・省力化に伴って被削性に優れたステンレス鋼に対するニーズが急増している。フェライト系では、快削性元素としてSを添加したJIS G4303規定のSUS430F,Seを添加したSAE規定の51430(AISI規格でType430Se相当)等の鋼種がある。マルテンサイト系では、Pbを添加したJISG4303規定のSUS410F,Sを添加したSUS416,SUS420F等の鋼種がある。
【0003】
快削性元素として有効なSは、熱間加工性,延性及び耐食性を著しく低下させ、機械的性質に異方性を生じさせる原因にもなる。Pb添加で被削性を改善したフェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼は、使用中に有害なPbが溶出し、リサイクル利用しにくい材料でもある。Se添加で被削性を改善した鋼種では、有毒なSeが環境に悪影響を及ぼす。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
快削性元素の添加に起因した材質の劣化や環境問題を考慮すると、快削性元素に代わる手段で被削性を改善する必要がある。このような観点から、本発明者等は、C含有量が一定量以上のマルテンサイト系又はフェライト系ステンレス鋼にCuを主体とする第二相(以下、Cuリッチ相という)を所定量析出させると、材質や環境に有害な快削性元素の添加が必要なく被削性が著しく改善されることを見出した(特願2000−177786号)。Cuリッチ相にSn又はInを含ませるとCuリッチ相が低融点化し、被削性が更に改善される(特願2001−205349号)。
【0005】
ところが、低融点化したCuリッチ相を析出分散させたステンレス鋼を熱間加工すると、溶融状態又は半溶融状態になったCuリッチ相に応力が集中し、Cuリッチ相を起点にする割れが散見される。割れ抑制の面からCuリッチ相の低融点化、換言すればCuリッチ相のSn及び/又はIn濃度に制約が加わり,被削性の向上に限界が生じる。他方、高形状精度の高い部品,部材への用途展開に伴ってステンレス鋼に対する被削性の要求が格段に過酷になっており、被削性の更なる改善が望まれる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Cuリッチ相の低融点化に伴う熱間加工性の劣化をB,Tiを含む合金設計により抑え、Cuリッチ相を一層低融点化させて被削性を更に改善したマルテンサイト系及びフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
本発明に従ったマルテンサイト系及びフェライト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、Sn及び/又はIn濃度20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散析出し、B及び/又はTi添加によってCuリッチ相の粒界析出を抑制している。
【0007】
マルテンサイト系ステンレス鋼は、C:0.01〜0.5質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Cr:10〜15質量%,Ni:0.60質量%以下,Cu:0.5〜6.0質量%,Sn及び/又はIn:0.5〜3.0質量%,B:0.0005〜0.2質量%及び/又はTi:0.01〜0.5質量%を含んでいる。
フェライト系では,C:0.001〜0.5質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Cr:15〜30質量%,Ni:0.60質量%以下,Cu:0.5〜6.0質量%,Sn及び/又はIn:0.5〜3.0質量%,B:0.0005〜0.2質量%及び/又はTi:0.01〜0.5質量%,残部実質的にFeの合金設計が採用される。
Sn及び/又はInが濃化されたCuリッチ相は、所定組成に調整されたマルテンサイト系又はフェライト系ステンレス鋼を熱間圧延した後、最終製品になるまでの過程で500〜900℃の温度域に1時間以上加熱する時効処理を施すことにより、マトリックスに分散析出する。
【0008】
【作用】
先願・特願2001−205349号で提案したように、ステンレス鋼に添加したCuの一部を微細なCuリッチ相として均一に分散析出させると被削性が改善される。Cuリッチ相による被削性の改善は、切削時において工具掬い面上でのCuリッチ相による潤滑,熱伝導作用に基づく減摩により、切削抵抗の減少に併せて工具寿命が延びることによるものと考えられる。フェライト系ステンレス鋼や焼き鈍し状態のマルテンサイト系ステンレス鋼にCuリッチ相を分散析出させると、体心立方晶b.c.c.のマトリックスに面心立方晶f.c.c.のCuリッチ相が分散するため、Cuリッチ相によって結晶整合性が低下し、大きな転位の集積が可能になる。その結果、Cuリッチ相と同じ結晶構造のオーステナイト系ステンレス鋼に比較して格段に大きな被削性改善効果が得られる。
【0009】
Cuリッチ相が被削性に及ぼす影響は、Sn及び/又はInの濃化によりCuリッチ相を低融点化すると格段に大きくなる。低融点化したCuリッチ相が分散したマトリックスは破壊現象である切削作用を受けやすく、しかも低融点のCuリッチ相(異物)が切削工具に対する潤滑剤として働き、ステンレス鋼板の被削性を向上させると共に切削工具を長寿命化する。低融点化による被削性改善効果は、Cuリッチ相にSn及び/又はInを濃度20質量%以上で濃化させるとき顕著になる。
しかし、Cuリッチ相の低融点化は、被削性の向上には有効であるが熱間加工性に悪影響を及ぼす。熱間加工性の低下は、低融点化したCuリッチ相の粒界析出に起因した液膜脆化に原因がある。熱間加工性が低下すると、熱間圧延中のステンレス鋼板に割れが発生しやすくなり、工業的レベルでの安定製造が困難になる。このようなことから、先願(特願2001−205349号)では、ステンレス鋼に添加するSn及び/又はInの上限を0.5質量%に規制している。
【0010】
熱間加工性の低下がステンレス鋼の材質改善により防止可能になると、被削性の改善に有効なCuリッチ相の低融点化を一層進めることができる。そこで、本発明では、低融点化したCuリッチ相が熱間加工性を低下させるメカニズムを前提として、Cuリッチ相の粒界析出をB及び/又はTiの添加によって抑制している。Bは結晶粒界に優先的に偏析する作用があり、Bの粒界偏析によってCuリッチ相の粒界析出が抑制される。Tiは、Cuリッチ相の析出核として働く炭化物,窒化物,硫化物等としてマトリックスに分散析出し、粒界に析出するCuリッチ相の絶対量を軽減する。Cuリッチ相の粒界析出抑制に及ぼすB及び/又はTiの効果は、0.0005質量%以上のB及び/又は0.01質量%以上のTiで顕著になる。B及び/又はTiの添加によってCuリッチ相の粒界析出が抑えられるので、Cuリッチ相を低融点化しても液膜脆化が発生しがたく、良好な熱間加工性が確保される。
【0011】
被削性改善効果のあるCuリッチ相は、Cuリッチ相が析出し易い温度域における時効等の等温加熱,加熱後の降温過程で析出温度域の通過時間を可能な限り長くする条件下での徐冷等によって析出する。具体的には、最終焼鈍後に500〜900℃の温度域で時効処理するとSn又はInを20質量%以上含む低融点のCuリッチ相の析出が促進され、優れた被削性がマルテンサイト系及びフェライト系ステンレス鋼に付与される。
Tiは、液膜脆化に起因した熱間加工性の低下防止に有効であると共に、Cuリッチ相の析出を促進させる作用も呈する。Nb,Mo等もTiと同様に炭化物、窒化物となってCuリッチ相の析出を促進させる。炭化物,窒化物等は、Cuリッチ相の析出核として働き、マトリックスにCuリッチ相を均一分散させ、結果としてCuリッチ相の粒界析出が抑制される。Cuリッチ相の析出は、S含有量を増やして硫化物を形成することによっても促進される。
【0012】
以下、本発明のマルテンサイト系及びフェライト系ステンレス鋼に含まれる合金成分,含有量等を説明する。
C:0 . 001〜0 . 1質量%(フェライト系)
C:0 . 01〜0 . 5質量%(マルテンサイト系)
Cuリッチ相の析出核として有効なCr炭化物を生成し、微細なCuリッチ相をマトリックス全体に渡って均一分散させる作用を呈する。このような作用を呈するためには、マルテンサイト系では0.01質量%以上,フェライト系では0.001質量%以上のC含有量が必要である。しかし、過剰なC含有は製造性や耐食性を低下させる原因となるので、マルテンサイト系では0.5質量%,フェライト系では0.1質量%にC含有量の上限を設定した。
【0013】
Si:1 . 0質量%以下
耐食性の改善に有効な合金成分であるが、1.0質量%を超える過剰量のSi含有は製造性を劣化させる。
Mn:1 . 0質量%以下
製造性を改善すると共に、鋼中の有害なSをMnSとして固定する作用を呈する。MnSは、被削性の向上にも有効に働くと共に、Cuリッチ相生成の核として作用するため、微細なCuリッチ相の生成に有効である。しかし、1.0質量%を超える過剰量のMnが含まれると、耐食性が劣化する傾向を示す。
S:0 . 15質量%以下
被削性の改善に有効なMnSを形成する元素であるが、0.15重量%を超える過剰量のSが含まれると熱間加工性及び延性が著しく低下する。
【0014】
Cr:10〜15質量%(マルテンサイト系)
Cr:10〜30質量%(フェライト系)
ステンレス鋼本来の耐食性を維持するために必要な合金成分であり、要求される耐食性を確保するために10質量%以上のCrを添加する。しかし、フェライト系では30質量%を超える過剰量のCrが含まれると、製造性,加工性に悪影響を及ぼす。マルテンサイト系では15質量%を超える過剰量のCrが含まれると、フェライト相が安定化し、焼入れ時にマルテンサイト組織が得られがたくなる。
Ni:0 . 60質量%以下
フェライト系及びマルテンサイト系ステンレス鋼の工業的な製造工程では、原料から不可避的に混入する成分である。本発明では、通常の生産ラインで混入するレベルの上限値0.60質量%にNi含有量の上限を設定した。
【0015】
Cu:0 . 5〜6 . 0質量%
被削性改善効果のあるCuリッチ相の析出に必要な合金成分であり、0.2体積%以上の割合でCuリッチ相をマトリックスに析出させるため、Cu含有量を0.5質量%以上に設定している。しかし、6.0質量%を超える過剰量のCu添加は、製造性,加工性,耐食性等に悪影響を及ぼす。マトリックスに析出するCuリッチ相は、析出物のサイズに特別な制約を受けるものではないが、被削性を安定して改善する上で表面及び内部に均一分散していることが好ましい。
Sn及び/又はIn:0.5〜3 . 0質量%
Cuリッチ相の低融点化に有効な合金成分であり、Cuリッチ相に20質量%以上の濃度でSn及び/又はInを濃化させるためにSn及び/又はInを0.5質量%以上を添加する。しかし、Sn及び/又はInの過剰添加はCuリッチ相の低融点化を必要以上に進め、熱間加工性に及ぼすCuリッチ相の悪影響をB及び/又はTiで抑制できなくなるので、Sn及び/又はIn含有量の上限を3.0質量%に設定した。
【0016】
B:0 . 0005〜0 . 2質量%以下
熱間加工時に粒界に偏析し、熱間加工性に悪影響を及ぼすCuリッチ相の粒界析出を抑制する作用を呈する。マトリックスに分散したBの析出物は析出核としても働き、Cuリッチ相の均一分散に有効である。このような効果は、0.0005質量%以上のB添加で顕著になる。しかし、Bの過剰添加は熱間加工性を低下させるので、B含有量の上限を0.2質量%に規制した。
【0017】
Ti:0.02〜0 . 5質量%
Cuリッチ相の析出核となる炭化物,窒化物,炭窒化物,硫化物等の介在物として分散し、微細なCuリッチ相をマトリックスに均一分散させる。その結果、Cuリッチ相の粒界析出が防止され、ひいては熱間加工性が向上する。しかし、0.5質量%を超える過剰量のTiを添加すると、鋼材の清浄度が低下し、耐食性,プレス加工性等が損なわれる。
以上に掲げた成分のほかに、必要に応じてNb,Mo,Zr,Al,V,希土類元素(REM)等を添加することもできる。これらの任意成分は、以下の作用を呈する。
【0018】
Nb:0 . 01〜1質量%
Tiと同様にCuリッチ相の析出核として有効な炭化物,窒化物,炭窒化物等を形成し、微細なCuリッチ相をマトリックスに均一分散させる。Nbの添加効果は0.01質量%以上でみられる。しかし、1質量%を超える過剰量のNb添加は、製造性や加工性に悪影響を及ぼす。
Mo:3質量%以下
耐食性を向上させると共に、微細なCuリッチ相の核サイトとして有効なFe2Mo等の金属間化合物として析出する。しかし、3質量%を超える過剰なMo含有は、製造性及び加工性に悪影響を及ぼす。
【0019】
Zr:1質量%以下
微細なCuリッチ相の核サイトとして有効な炭窒化物となって析出する。しかし、Zrの過剰添加は製造性や加工性に悪影響を及ぼすので、Zrを添加する場合には含有量の上限を1質量%に規制する。
【0020】
Al:1質量%以下
Moと同様に耐食性を改善すると共に、微細なCuリッチ相の核サイトとして有効な化合物として析出する。しかし、過剰なAl添加は製造性及び加工性を劣化させるので、Alを添加する場合には含有量の上限を1質量%に規制する。
【0021】
V:1質量%以下
Zrと同様に微細なCuリッチ相の核サイトとして有効な炭窒化物となって析出する。しかし、Vの過剰添加は製造性や加工性に悪影響を及ぼすので、Vを添加する場合には含有量の上限を1質量%に規制する。
【0022】
希土類元素(REM):0 . 05質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、適量の添加によってBと同様に熱間加工性を改善する。また、Cuリッチ相の析出に有効な析出物となってマトリックスに分散する。しかし、過剰に添加すると熱間加工性が劣化するので、希土類元素を添加する場合には含有量の上限を0.05質量%に規制する。
【0023】
熱処理温度:500〜900℃
Cuリッチ相の析出により優れた被削性を得るためには、500〜900℃の時効処理が有効である。時効処理温度が低くなるほど、マトリックス中の固溶Cu量が少なくなり、Cuリッチ相の析出量が増加する。しかし、低すぎる時効処理温度では、拡散速度が遅くなるため、析出量が却って減少する傾向がみられる。被削性に有効なCuリッチ相の析出に及ぼす時効処理温度の影響を種々の実験から調査したところ、500〜900℃の温度域で時効処理するとき、被削性に最も有効なCuリッチ相が0.2体積%以上の割合で析出することを見出した。析出したCuリッチ相は、抗菌性の向上にも有効である。時効処理は、好ましくは1時間以上で施され、熱間圧延終了後から製品となるまでの何れの段階で実施しても良い。
【0024】
【実施例】
表1に示した組成をもつ各種マルテンサイト系ステンレス鋼を300kg真空溶解炉で溶製し、鋳造後に1230℃で1時間加熱し、熱延工程を経て種々の温度で時効処理した。時効処理後のステンレス鋼帯を酸洗し、板厚4mm,板幅500mm,長さ1200mmの供試材を得た。
【0025】
Figure 0004272397
【0026】
横型フライス盤を用いた切削性評価試験で各鋼帯の切削性を評価した。切削性評価試験(図1)では、JIS B4107に規定される外径125mm,幅10mmの超硬バイト1を円周方向に等間隔で16個装着させたフライス2を用い、圧延方向に直交する方向に送り方向Dを設定し、回転速度2000rpm,送り速度0.6m/分,送り速度0.6m/分,切込み深さ0.5mm,無潤滑の条件下で沿って被切削片3(鋼帯)をダウンカット方式で切削した。被切削片3の長手方向1200mmを切削した後、被切削片3の幅方向にフライス2を10mm送って隣接する長手方向の切削を繰り返した。被切削片3の表面全域を0.5mm切り込んだ後、起点に戻り、新たに0.5mmの切込みを繰り返した。この条件下で切削を継続し、超硬バイト1の刃先が0.1mm減少するまでの切削時間を寿命判定基準としてバイト摩耗を評価した。
【0027】
同じ鋼帯から切り出された試験片を透過型電子顕微鏡で組織観察し、画像処理によってマトリックスに分散析出しているCuリッチ相を定量し、Cuリッチ相の体積分率(体積%)を求めた。
更に、EDX分析によりCuリッチ相のSn,In濃度を測定した。
810℃×9時間で時効処理した試験番号MA-1〜MO-1の各鋼材について、熱間圧延された鋼帯のエッジ部を観察し、平滑な形状のエッジ部を○,圧延方向に直交する方向に沿って1mm以上の切込み(耳切れ)が検出されたエッジ部を×としてエッジ部の外観から熱間加工性を評価した。
【0028】
更に、先願・特願2000−177786号で紹介した被削性の良好な材料MO-1を基準とし、MO-1よりも優れた被削性を示す試験片を○,MO-1より被削性が劣る試験片を×として被削性を評価した。
表2の調査結果にみられるように、本発明で規定した成分・組成,Cuリッチ相に関する条件を満足するMA-1,MB-1,MC-1,MD-1,ME-1,MJ-1,MK-1,ML-1,MM-1,MN-1は、何れも良好な被削性を示し、熱間加工性も優れていた。
【0029】
他方、MF-1はCuが過剰,MH-1はSnが過剰,MG-1はCu含有量が0.5質量%以上で0.5質量%以上のSnが添加されているもののB及び/又はTiが不足しているため、熱間加工性に劣っていた。成分・組成条件を満足するものの未時効のMA-2,MB-2,MC-2,MD-2,ME-2では、Cuリッチ相の体積分率が0.2体積%を下回っていることから被削性に劣っていた。時効処理材であってもCu含有量が0.5質量%のMI-1,MI-2では、Cuリッチ相の析出量が0.2体積%に達せず、被削性に劣っていた。
【0030】
【表2】
Figure 0004272397
【0031】
【実施例2】
表1の鋼材MCを用いて、実施例1と同じ条件で供試材を作製し、450〜950℃及び0.5〜16時間の範囲で条件を種々変更した時効処理を施した。時効処理材の被削性を実施例1と同様に調査した。
表3の調査結果から、500〜900℃で1時間以上時効処理された試験番号MC-4,MC-6〜MC-10は、Sn濃度20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の体積分率で析出しており、優れた被削性を示すことが判る。
【0032】
時効処理温度が500〜900℃の範囲にあっても、時効処理時間が1時間に満たない試験番号MC-5では、Cuリッチ相が0.2体積%に達せず、被削性に劣っていた。時効処理温度が500℃未満のMC-3や900℃を超えるMC-11は、Cuリッチ相の析出量が0.2体積%未満で、被削性に劣っていた。
以上の結果から、被削性の改善には0.5質量%以上のCu含有量でSn及び/又はInの濃度が20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の体積分率で析出している必要があり、Cuリッチ相を0.2体積%以上で析出させるために500〜900℃×1時間以上の時効処理が必要であることが確認された。
【0033】
Figure 0004272397
【0034】
【実施例3】
表4に示した組成をもつ各種フェライト系ステンレス鋼を300kg真空溶解炉で溶製し、鋳造後に1230℃で1時間加熱し、熱延工程を経て種々の温度で時効処理した。時効処理後のステンレス鋼帯を酸洗し、板厚4mm,板幅500mm,長さ1200mmの供試材を得た。
【0035】
Figure 0004272397
【0036】
実施例1と同じ被削性評価試験で各供試材の被削性を評価すると共に、Cuリッチ相の体積分率,Sn濃度,In濃度を求めた。各供試材の被削性は、820℃×9時間の時効処理を施した後、先願・特願2000−177786号で紹介した被削性の良好な材料FM-1を基準とし、FM-1より良好な被削性を示す供試材を○,FM-1より被削性が劣る供試材を×として評価した。
【0037】
表5の調査結果にみられるように、本発明で規定した成分・組成及びCuリッチ相に関する条件を満足するFA-1,FB-1,FC-1,FG-1,FH-1,FI-1,FJ-1,FK-1は、何れも被削性に優れ、熱間加工性も良好であった。
他方、Cu含有量が0.5質量%以上であっても未時効のFA-2,FB-2,FC-2では、Cuリッチ相の体積分率が0.2体積%を下回っていることから被削性に劣っていた。時効処理材であってもCu含有量が0.5質量%のFL-1,FL-2では、Cuリッチ相の析出量が0.2体積%に達せず被削性に劣っていた。
【0038】
【表5】
Figure 0004272397
【0039】
【実施例4】
表4に示した鋼材FCを用い、実施例3と同じ条件で作製した供試材に450〜950℃及び0.5〜16時間の範囲で条件を種々変更した時効処理を施した。時効処理材の被削性を実施例1と同様に調査した。
表6の調査結果にみられるように、500〜900℃で1時間以上時効処理された試験番号FC-4,FC-6〜FC-10は、Sn濃度20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の体積分率で析出しており、優れた被削性を示した。
【0040】
時効処理温度が500〜900℃の範囲にあっても、時効処理時間が1時間に満たない試験番号FC-5では、Cuリッチ相が0.2体積%に達せず、被削性に劣っていた。時効処理温度が500℃未満のFC-3や900℃を超えるFC-11では、Cuリッチ相の析出量が0.2体積%未満で被削性に劣っていた。
以上の結果から、被削性の改善には0.5質量%以上のCu含有量でSn及び/又はInの濃度が20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の体積分率で析出している必要があり、Cuリッチ相を0.2体積%以上で析出させるために500〜900℃×1時間以上の時効処理が必要であることが確認された。
【0041】
Figure 0004272397
【0042】
【発明の効果】
以上に説明したように、Sn及び/又はIn濃度が20質量%以上のCuリッチ相を0.2体積%以上の体積分率でマトリックスに分散析出させると共に、B及び/又はTiの添加によってCuリッチ相の粒界析出を抑制することにより、Cuリッチ相により被削性を改善し、且つCuリッチ相の粒界析出に起因する液膜脆化を抑えて良好な熱間加工性を確保している。しかも、被削性改善のためにS,Pb,Bi,Se等の有害元素を含んでいないため、材質の劣化がなく環境対策にかかる負担も軽減される。このようにして、本発明に従ったマルテンサイト系又はフェライト系ステンレス鋼は、優れた被削性を活かして必要形状に精度良く切削加工され、加工後の表面も良好なため、家庭電気器具,家具調度品,厨房機器,各種機械・器具,機器等の材料として広範な分野で使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 切削性評価試験の説明図
【符号の説明】
1:超硬バイト 2:フライス 3:被切削片 D:送り方向

Claims (3)

  1. C:0.01〜0.5質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Cr:10〜15質量%,Ni:0.60質量%以下,Cu:0.5〜6.0質量%,Sn及び/又はIn:0.5〜3.0質量%,B:0.0005〜0.2質量%及び/又はTi:0.01〜0.5質量%,残部Fe及び不可避的不純物からなる組成をもち、Sn及び/又はIn濃度が20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散していることを特徴とする熱間加工性,切削性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。
  2. C:0.001〜0.5質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Cr:15〜30質量%,Ni:0.60質量%以下,Cu:0.5〜6.0質量%,Sn及び/又はIn:0.5〜3.0質量%,B:0.0005〜0.2質量%及び/又はTi:0.01〜0.5質量%,残部Fe及び不可避的不純物からなる組成をもち、Sn及び/又はIn濃度が20質量%以上のCuリッチ相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散していることを特徴とする熱間加工性,切削性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
  3. 請求項1又は2記載のマルテンサイト系又はフェライト系ステンレス鋼を熱間圧延した後、最終製品になるまでの過程で500〜900℃の温度域に1時間以上加熱する時効処理を施し、Sn及び/又はIn濃度が20質量%以上のCuリッチ相の析出を促進させ、該Cuリッチ相を析出させることを特徴とする熱間加工性,切削性に優れたマルテンサイト系又はフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
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