JP3942934B2 - 形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法 - Google Patents

形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法 Download PDF

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、毒性のないCuの添加によって被削性を改善したフェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼を素材として、プレス成形と仕上げ切削により、機械部品,電子電機部品、ハードディスク用ハブ等の厳しい寸法精度が要求される金属成形部品を容易に製造できる形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
精密機械工業の著しい発達や家庭電気器具、家具調度品等の需要増加により、従来使用されていなかった部分にもステンレス鋼が使用されるようになってきた。このような機械部品の中でも、高速回転されて使用される部品や、組み込み精度が必要とされる部品など、厳しい寸法精度が要求されるものがあり、従来は、バルク材からの削り出しにより加工(総削り出し加工)されている。
このような用途では、JISG4303に規定されるSUS430Fのように快削性元素としてSを添加し、SAEに規定される51430(AISI規格でType430Se相当)のようにSeを添加し、被削性を改善したフェライト系ステンレス鋼が使用されてきた。さらにマルテンサイト系ステンレス鋼としては、JISG4303に規定されるSUS410F2やSUS410F2のように快削性元素としてPbを添加し、またはSUS416,SUS420FのようにSを添加して被削性を改善したステンレス鋼が使用されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、切削加工は成形に要する時間が長く、多くの加工エネルギーが必要な上、投入素材に占める使用素材の割合が低いため製造のコストアップを招くだけでなく、部品製造に必要なトータルエネルギーが多くなり、結果的に、地球環境への負荷が大きくなると言う問題点があった。加えて、従来の切削用鋼である、S含有鋼では耐食性が著しく低下すること、PbやSe含有鋼では有害な元素を含むため、環境対策上の問題となる。
【0004】
これまでに、切削用鋼を使用しない方法として、通常のステンレス鋼を素材としてプレス加工による成形や、目標に近い形状までプレス成形し、引き続き軽度の仕上げ切削加工をする成形により問題解決を試みた。しかし、プレス加工では、板素材の塑性異方性のために、塑性流動に方向性が出てしまい、目標とする寸法精度が得られなかった。さらにプレス品を仕上げ切削すると、プレス成形後の応力、歪みバランスが壊れることによって、さらに寸法精度が低下すると言う問題があった。
また、通常のステンレス鋼を素材とした場合には、プレス成形後の仕上げ切削においてバイトが摩耗し、著しく製造性が低下した。そこで、環境上問題となるPbやSeを快削性元素として使用している鋼を除いた従来の快削ステンレス鋼を素材として使用したが、快削性元素として使用しているS等を含む介在物が起点となり、プレス成形時に割れが生じ、目標製品形状に成形できないと言う問題があった。
【0005】
ところで、本発明者等は、環境に悪影響を及ぼすことなく被削性を著しく向上させる手段として、一定量以上のSnまたはInを含むCuを主体とした第2相を所定量以上析出させたフェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼を紹介した(特願2001−205349号)。
本発明は、上記のような問題を解消すべく案出されたものであり、先に紹介した被削性に優れたステンレス鋼を素材とし、プレス成形とその後の切削加工で容易に形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法は、その目的を達成するため、質量%で、C:0.5%以下,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,Cr:10.0〜30.0%,Ni:0.60%以下,Cu:0.5〜6.0%,SnまたはIn:0.005〜0.8%,Al:1.0%以下を含み、残部が不純物を除きFeの組成をもち、SnまたはInを10%以上含むCuリッチの第2相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散しているステンレス鋼を、プレス成形後、切削加工することを特徴とする。
【0007】
このステンレス鋼には、質量%でさらに、S:0.15%未満,Nb:0.01〜1.0%,Ti:0.01〜1.0%,Mo:3.0%以下,Zr:1.0%以下,V:1.0%以下,B:0.05%以下および希土類元素(REM):0.05%以下の1種または2種以上を含むこともできる。
また、このようなステンレス鋼としては、熱間圧延後から最終製品となるまでの間に500℃以上で、下記(1)式で定義されるAC以下の温度範囲で1時間以上加熱保持する時効処理を1回以上施し、SnまたはInを10%以上含むCuを主体とする第2相の析出を促進させた物が好ましい。
さらに、プレス成形を、下記(1)式で定義されるAC以下の温度範囲に加熱した状態で行うことが好ましい。
Figure 0003942934
なお、本明細書中にあっては、Cuを主体とする第2相を、以下、“Cuリッチ相”と称することにする。また、鋼中の各元素の含有量を示す「%」は、特に示さない限り「質量%」を意味することとする。
【0008】
【実施の態様】
ステンレス鋼は、全般的に被削性が悪く、難削材の一つに数えられている。被削性が悪い原因として、熱伝導率が低いこと,加工硬化の程度が大きいこと,凝着しやすいこと等が挙げられる。
本発明者等は、工具−被削材との潤滑および熱伝導に及ぼすε−Cu等のCuリッチ相の作用に着目し、ステンレス鋼中にCuを添加し、一部がCuリッチ相として微細にかつ均一に析出していると、被削性が改善されることを見出した。Cuリッチ相による被削性の改善は、切削時において工具掬い面上でのCuリッチ相による潤滑,熱伝導作用に基づく減摩により、切削抵抗が減少すると共に工具寿命を延ばし、結果として被削性が向上するものと考えられる。
特にフェライト系ステンレス鋼や焼き鈍し状態のマルテンサイト系ステンレス鋼では、結晶構造が体心立方晶b.c.c.であり、この中に面心立方晶f.c.c.のCuリッチ相を析出させることは、Cuリッチ相と同じ結晶構造をもつオーステナイト系ステンレス鋼にCuリッチ相を析出させた場合に比較して被削性向上に関してさらに大きな効果が得られる。
【0009】
Cuリッチ相の分散析出がオーステナイト系とマルテンサイト系,フェライト系で異なる原因は次のように推察される。体心立方晶の結晶構造をもつマルテンサイト系またはフェライト系ステンレス鋼のマトリックスに面心立方晶のCuリッチ相を析出させると、Cuリッチ相によって結晶整合性が低下し、大きな転位の集積が可能になる。さらに本発明の根幹であるSnまたはInを0.005%以上添加することにより、Cuリッチ相中に10%以上のSnまたはInが濃化し、融点の低いCu−Sn合金またはCu−In合金を形成する。このように転位の集積が高く、かつ融点が低いCuリッチ相が異物としてマトリックスに分散するため、破壊現象である被削性が向上し、かつ低融点の異物が切削工具との間で潤滑作用をするため、工具寿命が著しく向上することになる。このようなSnまたはInが濃化したCuリッチ相を0.2体積%以上の割合でマトリックス中に分散析出させておくと被削性が向上することを確認している。
【0010】
切削加工は、非常に早い歪み速度による加工、すなわち、破壊現象である。プレス成形は切削加工に比べて歪み速度が3桁から4桁低い塑性変形現象である。上記したように、Cuリッチ相は、高速変形時には、転移の集積作用があり、亀裂起点として有効に作用し、切削性向上に寄与する。しかし、プレス加工のように低速歪み加工の場合には、転移がCuリッチ相を通りぬけることが可能で、転移を集積することはない。Cuリッチ相は、降伏点の低いCuを主体とする合金相であるから、降伏点が低く、したがって、本相が分散していると形状凍結性が向上する。よって、Cuリッチ相が分散していれば、形状凍結性が良好となり、引き続く切削加工量を低減しても、所定の寸法制度の製品を得ることが可能になる。
【0011】
このような被削性に優れたフェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼を素材として、予め目標形状に近い形状にプレス成形した後、切削加工すれば、従来法に比べて切削量が格段に少ない加工で、形状精度に優れたステンレス製品を容易に製造できる。
また、SnまたはInが濃化したCuリッチ相は、割れの起点になるようなことはないので、プレス成形の際の加工性を妨げることはない。
【0012】
プレス成形の際、ステンレス鋼素材を高い温度にしておくことが好ましい。
通常の温度でプレス成形すると、素材の異方性に起因して部品形状が対称な位置であっても、塑性流動に差異が生じ、寸法精度が悪くなることがある。そこで、素材を加熱して加工すると、耐力が低下して形状凍結性が向上するとともに、変形抵抗が低減して塑性流動が容易化し、異方性が低くなって加工性がよくなり、寸法精度が良くなる。加熱温度は高い方が加工性向上には有効であるが、高すぎると母相が変態し、CuやSnに対する固溶度が上昇してCuリッチ相は固溶し、被削性が低下する。
【0013】
ところで、本発明は、寸法精度の優れたステンレス鋼製成形品を製造する方法に関するものである。
成形品の寸法精度は、サイズ,形状により異なるため、これを絶対値で定義することは困難である。回転部位に使用される成形品や、平坦度が必要な成形品は、点対称、もしくは数回対称系であり、これらをまとめて寸法精度指標として表現し、d値とした。
このd値は、中心点からの距離rにおける対称位置での高さ、外径等の測定値をXとして次の(2)式で定義した。
ΔX/r=(Xmax−Xmin)/r ・・・・(2)
なお、総削り出し加工で部品を製造すると、このd値は5.0×10-4以下になるので、本発明においても、この5.0×10-4以下を目標にすることにする。
【0014】
以下、まず、本発明のステンレス鋼素材に含まれる合金成分,含有量およびCuリッチ相等について説明する。
C:0.5%以下
過剰なC含有量は製造性や耐食性を低下させる原因となるので、本発明では、C含有量の上限を0.5%に設定した。なお、Cは、Cuリッチ相の析出サイトとして有効なCr炭化物を生成し、微細なCuリッチ相をマトリックス全体に渡って均一分散させる作用を呈する。このような作用を呈するためには、フェライト系では0.001%以上含有させることが好ましい。
【0015】
Si:1.0%以下
耐食性の改善に有効な合金成分である。しかし、1.0%を超える過剰量でSiが含まれると、製造性が劣化する。
Mn:1.0%以下
製造性を改善すると共に、鋼中の有害なSをMnSとして固定する作用を呈する。MnSは、被削性の向上にも有効に働くと共に、Cuリッチ相生成の核として作用するため、微細なCuリッチ相の生成に有効な合金成分である。しかし、1.0%を超える過剰量のMnが含まれると、耐食性が劣化する傾向を示す。
【0016】
Cr:10.0〜30.0%
ステンレス鋼本来の耐食性を維持するために必要な合金成分であり、要求される耐食性を確保するために10.0%以上のCrを添加する。しかし、30.0%を超える過剰量のCrが含まれると、製造性,加工性に悪影響を及ぼす。
Ni:0.60%以下
ステンレス鋼の工業的な製造工程では、原料から不可避的に混入する成分である。本発明では、通常の生産ラインで混入するレベルの上限値として0.60%を設定した。
【0017】
Cu:0.5〜6.0%
本発明のステンレス鋼において最も重要な合金成分であり、良好な被削性を発現させるためには、0.2体積%以上の割合でCuリッチ相がマトリックスに析出していることが必要である。各合金成分の含有量が前述のように特定された組成のステンレス鋼で0.2体積%以上のCuリッチ相を析出させるため、Cu含有量を0.5%以上としている。しかし、6.0%を超える過剰量のCu添加は、製造性,加工性,耐食性等に悪影響を及ぼす。マトリックスに析出するCuリッチ相は、析出物のサイズに特別な制約を受けるものではないが、表面および内部においても均一分散していることが好ましい。Cuリッチ相の均一分散は、被削性を安定して改善する。
【0018】
SnまたはIn:0.005〜0.8%
Cu同様、本発明において最も重要な合金成分であり、良好な被削性を発現させるためには、10%以上の割合でCuリッチ相に含まれている必要がある。この割合でCuリッチ相にSnまたはInのいずれかまたは両方が含まれているとき、Cuリッチ相自身が低融点化するため被削性が著しく向上する。この低融点化を発現させるためには、合金全体としてSnまたはInの含有量を0.005%以上とする必要がある。ただし、含有量の増加により、過度に低融点化すると液膜脆化により熱間圧延性が著しく低下するため、その上限値は0.8%とする。
【0019】
Al:1.0%以下
耐食性を改善する作用を有するとともに、微細なCuリッチ相の核サイトとして有効な化合物として析出する。しかし、過剰なAl添加は製造性および加工性を劣化させるので、その上限値を1.0%に設定した。
S:0.15%以下
被削性の改善に有効なMnSを形成する元素である。また硫化物の形成によりCuリッチ相の核サイトを形成する作用も有している。しかし、S含有量が0.15%を超えると熱間加工性および延性が著しく低下する。したがって、本発明においてはS含有量の上限を0.15%に設定した。
【0020】
Nb:0.01〜1.0%
Cuリッチ相は、各種析出物のなかでもNb系析出物の周囲に析出する傾向が強い。したがって、Cuリッチ相を均一に析出分散させるためには、必要に応じてNbの炭化物,窒化物,炭窒化物等を微細に析出させた組織が好ましい。しかし、過剰量のNb添加は、製造性や加工性に悪影響を及ぼす。したがって、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.01〜1.0%の範囲で選定する。
Ti:0.02〜1.0%
必要に応じて添加される合金成分であり、Nbと同様にCuリッチ相の析出サイトとして有効な炭窒化物を形成する合金成分である。しかし、過剰量のTi添加は、製造性や加工性を劣化させ、製品表面に疵を発生させ易くする原因となる。したがって、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.02〜1.0%の範囲で選定する。
【0021】
Mo:3.0%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、耐食性を向上させると共に、微細なCuリッチ相の核サイトとして有効なFe2Mo等の金属間化合物として析出する。しかし、3.0%を超える過剰なMo含有は、製造性および加工性に悪影響を及ぼす。
Zr:1.0%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、微細なCuリッチ相の核サイトとして有効な炭窒化物となって析出する。しかし、Zrの過剰添加は製造性や加工性に悪影響を及ぼすので、Zrを添加する場合には含有量の上限を1.0%に規制する。
【0022】
V:1.0%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、Zrと同様に微細なCuリッチ相の核サイトとして有効な炭窒化物となって析出する。しかし、過剰添加は製造性や加工性に悪影響を及ぼすので、Vを添加する場合には含有量の上限を1.0%に規制する。
【0023】
B:0.05%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、熱間加工性を改善すると共に、析出物となってマトリックスに分散する。Bの析出物も、Cuリッチ相の析出サイトとして働く。しかし、Bの過剰添加は熱間加工性を低下させることになるので、Bを添加する場合には含有量の上限を0.05%に規制する。
希土類元素(REM):0.05%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、適量の添加によってBと同様に熱間加工性を改善する。また、Cuリッチ相の析出に有効な析出物となってマトリックスに分散する。しかし、過剰に添加すると熱間加工性が劣化するので、希土類元素を添加する場合には含有量の上限を0.05%に規制する。
【0024】
熱処理温度:500℃以上、AC以下
Cuリッチ相の析出により優れた被削性を得るためには、500℃以上の温度での時効処理が有効である。時効処理温度が低くなるほど、マトリックス中の固溶Cu量が少なくなり、Cuリッチ相の析出量が増加する。しかし、低すぎる時効処理温度では、拡散速度が遅くなるため、析出量が却って減少する傾向がみられる。被削性に有効なCuリッチ相の析出に及ぼす時効処理温度の影響を種々の実験から調査したところ、500〜900℃の温度域で時効処理するとき、被削性に最も有効なCuリッチ相が0.2体積%以上の割合で析出することを見出した。
【0025】
しかし、(1)式で定義したAC温度を超えると、母相がオーステナイト相に変態し、CuやSn,Inに対する固溶度が大きくなり、Cuリッチ相が減少する。
Figure 0003942934
したがって、上記上限温度900℃は一応の目安とし、厳密な上限温度はAC点以下とする。
Cuリッチ相の析出は、炭窒化物や析出物を形成し易いNb,Ti,Mo等の元素の添加や、S含有量を増やして硫化物を形成することによっても促進される。炭窒化物や硫化物等は、析出サイトとして働き、マトリックス中にCuリッチ相を均一に分散させ、被削性、成形品の製造時には製造性を効率よく改善する。時効処理は、好ましくは1時間以上で施され、熱間圧延終了後から製品となるまでの何れの段階で実施しても良い。
【0026】
プレス成形温度:AC以下
素材を加熱して加工すると、耐力が低下して形状凍結性が向上するとともに、変形抵抗が低減して塑性流動が容易化し、異方性が低くなって、加工性がよくなる。本発明ステンレス鋼においても、加熱することで異方性を低減させた状態でプレス成形したことによって、優れた寸法精度が得られる。加熱温度は高いほど効果的ではあるが、(1)式に示したACを超えて高温に加熱すると、母相が変態し、CuやSnに対する固溶度が上昇するために、Cuリッチ相が固溶して減少し、被削性が低下する。また、ACを超えて加熱してプレス成形すると、プレス後の冷却で、相変態により製品内の歪みが大きくなり、目的の寸法精度が得られなくなるため、その上限はAC点とする。
【0027】
均熱時間は、0秒以上あれば目的は達成されるが、より長時間均熱保持しても良い。しかし、過度に長時間加熱すると、被削性を発現するCuリッチ相の大きさが小さくなり、また量も少なくなって被削性効果は薄れる。さらに、加熱保持中に多量の酸化スケールが生成して肉圧ロスを生じるので、均熱時間の上限は10分にすることが好ましい。
加熱方法は、加工部位で均一な温度分布が得られる方法であれば十分である。通電加熱や誘導加熱が望ましい。素材が目的の温度に均一に加熱されることが満たされれば、金型全体を加熱炉で加熱する方法でも良い。
なお、上記したように、SnまたはInが濃化したCuリッチ相を析出させたステンレス鋼はプレス成形後の形状凍結性に優れている。したがって、必ずしも熱間でプレス成形する必要はなく、冷間でプレス成形した後、通常の切削加工を行えば、被削性にも優れているので寸法精度の良い成形品が得られることは言うまでもない。
【0028】
【実施例】
実施例1:
表1に示す化学成分のステンレス鋼A,Bを真空溶解炉で溶製、鍛造し、1230℃で1時間加熱後、熱間圧延し、引き続き750℃で12時間の時効処理を施した後、酸洗して板厚2mm,幅40mmの鋼帯を作製した。
プレス成形により所定形状に成形後、寸法精度指標d値を求めた。さらに同一加工品を、表層から約0.1mm深さを回転切削により仕上げ、同様にd値を測定した。
加工品の形状と寸法精度測定位置を図1に示す。加工品は外径φ35mmのつば付きのハット形状であり、中心位置から16mmの円周上で、内角45度で等分された8点における寸法精度を評価した。
【0029】
Figure 0003942934
【0030】
プレス成形品および切削仕上げ加工品の寸法精度測定結果を表2に示す。プレス成形ままのA1およびB1は、d値が5.0×10-4を超えており十分な寸法精度は得られていない。しかし、表層をわずか0.1mm深さ切削しただけのA2では、d値が5.0×10-4であり、良好な寸法精度を示していた。一方、B2は寸法精度の向上は認められるものの、Cu,Snの含有量が少ないために、十分な寸法精度は得られていない。
【0031】
Figure 0003942934
【0032】
実施例2:
表3に示す化学成分のステンレス鋼C〜Lを用いて実施例1と同様な方法で、板厚2mm,幅40mmの鋼帯を作製した。
これをプレス成形し、図1に示す形状の製品を1000個作製した。
プレス成形結果を表4に示す。本発明鋼である鋼種C〜Kでは、1000個中での割れはなく、良好なプレス成形性を示していた。一方、比較品として用いた、快削元素としてSを利用した従来のステンレス鋼Lでは、263個のプレス品で加工割れが発生し、歩留まりが著しく低下していた。
【0033】
Figure 0003942934
【0034】
Figure 0003942934
【0035】
プレス成形性が良好であった鋼種C〜Kについて、各加工品を実施例1と同様に約0.1mm深さで仕上げ切削加工を行った。なお、同一素材加工品毎に新しい刃物を用いて切削した。それぞれ仕上げ切削1000個目の製品について、実施例1と同様、同じ位置で寸法精度を測定した。その結果を表5に示す。d値はいずれも5.0×10-4以下であり、優れた寸法精度を示していた。
【0036】
Figure 0003942934
【0037】
実施例3:
表6に示す化学成分のステンレス鋼M〜Uと市販鋼を真空溶解炉で溶製、鍛造し、1230℃で1時間加熱後、熱間圧延し、引き続き750℃で12時間の時効処理を施した後、酸洗して板厚2mm,幅37mmの鋼帯を作製した。
図2に示すようなプレス装置を使用してプレス成形した。すなわち、鋼帯を連続的に供給し、プレス金型前後に配置した電極で挟み込みながら通電加熱し、所定温度に達成後速やかに図1に示す形状にプレス成形し、引き続き大気中で冷却した。
プレス成形の段階で割れなかった加工品については、冷却後は、実施例1と同様に表層から、約0.1mm深さに切削加工した。そして、実施例1と同様にd値を測定し、寸法精度を評価した。
プレス温度と加工性、切削加工後の寸法精度の関係の測定結果を表7に示す。
【0038】
Figure 0003942934
【0039】
Figure 0003942934
【0040】
AC点を超える温度でプレスした試験No.M3はポンチ肩部で加工割れが発生していた。同様にCu含有量が多い試験No.P1やSn含有量が0.8%を超える試験No.S1でも、プレス成形時にポンチ肩部で加工割れが発生していた。
これ以外の試験No.では、プレス成形性は良好であった。
なお、比較に用いた従来の快削鋼であるSUS430FやSUS410Fは、プレス時にポンチ肩部で加工割れを起こしていた。
加工割れを起こした試験No.M3、P1,S1を除いたプレス成形品に切削加工を施した製品の寸法精度は、d値がいずれも5.0×10-4以下であり、良好な寸法精度を示していた。
【0041】
【発明の効果】
以上に説明したように、SnまたはInが濃化したCuリッチ相を析出させ、プレス成形性と被削性を良くしたステンレス鋼を素材として使用した本発明方法は、プレス成形後の切削量を少なくし、かつその切削も容易に行えるので、バルク素材から削り出し加工された製品と同等以上の寸法精度を有している。また削り量も少なくなるので、総削り出しで成形品を製造する場合と比べて、素材歩留まりが向上し、短時間で加工できるため、製造コストを大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 加工成形品の形状と寸法精度測定位置を説明する図
【図2】 加熱した状態でプレス成形する装置の概要を説明する図

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.5%以下,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,Cr:10.0〜30.0%,Ni:0.60%以下,Cu:0.5〜6.0%,SnまたはIn:0.005〜0.8%,Al:1.0%以下を含み、残部が不純物を除きFeの組成をもち、SnまたはInを10%以上含むCuリッチの第2相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散しているステンレス鋼を、プレス成形後、切削加工することを特徴とする形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法。
  2. ステンレス鋼が、質量%でさらに、S:0.15%未満,Nb:0.01〜1.0%,Ti:0.01〜1.0%,Mo:3.0%以下,Zr:1.0%以下,V:1.0%以下,B:0.05%以下および希土類元素(REM):0.05%以下の1種または2種以上を含むものである請求項1に記載の形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の組成をもつステンレス鋼を、熱間圧延後から最終製品となるまでの間に500℃以上で、下記(1)式で定義されるAC以下の温度範囲で1時間以上加熱保持する時効処理を1回以上施し、SnまたはInを10%以上含むCuリッチの第2相の析出を促進させた後、成形と切削を行う請求項1または2に記載の形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法。
    AC=35Cr+75Si+60Mo+170Nb+620Ti+750Al-250C-280N
    -120Ni-70Mn-20(Cu+Sn+In)+500 ・・・(1)
  4. プレス成形を、下記(1)式で定義されるAC以下の温度範囲に加熱した状態で行う請求項1〜3のいずれか1に記載の形状精度に優れたステンレス鋼成形品の製造方法。
    AC=35Cr+75Si+60Mo+170Nb+620Ti+750Al-250C-280N
    -120Ni-70Mn-20(Cu+Sn+In)+500 ・・・(1)
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