JP3464297B2 - 高速温間絞り成形用オーステナイト系ステンレス鋼板およびその温間絞り成型法 - Google Patents

高速温間絞り成形用オーステナイト系ステンレス鋼板およびその温間絞り成型法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,温間絞り成形用または
温間・常温絞り成形用オーステナイト系ステンレス鋼板
およびその温間絞り成形法に関する。
【0002】
【従来の技術】オーステナイト系ステンレス鋼は,プレ
スによる深絞り加工,張出し加工,曲げ加工,せん断加
工などが施されることによって,各種用途に適用されて
いる。例えば流し台のシンクや器物では深絞り加工が施
されるが,この場合の深絞り加工は通常は常温で行われ
ている。深絞り加工は,一般にダイスとブランクホルダ
(しわ押え)の間に挟んだ鋼板に対してポンチでダイス
穴に材料を流入させる操作によって行われるが,該鋼板
のフランジ部のボンチ穴への流入変形抵抗とポンチ肩部
での破断力のバランスによって成形可否が決まり,フラ
ンジ部の変形抵抗が小さく,ポンチ肩部での破断力が大
きいほど深絞り性は向上する。
【0003】オーステナイト系ステンレス鋼の常温での
一段絞りによる限界絞り比は2.0程度であり,さらに
厳しい形状に多段絞で成形される場合には,成形後にカ
ップ縁部に割れを生ずる,いわゆる“時期割れ”が起き
る。このことから,オーステナイト系ステンレス鋼の常
温での深絞り性の限界が決まる。
【0004】この時期割れ性を改善する方法として,素
材面では例えば特開昭49−130309号公報,特開
昭52−62113号公報,特開昭52−110215
号公報等に記載されているように,オーステナイト相の
安定度を増加することや固溶CやN量を低下させる方法
が採られている。また,加工技術面では加工途中に焼鈍
を施してさらにプレス成形を行う方法が採用されてい
る。
【0005】このオーステナイト系ステンレス鋼の深絞
り性を向上させる方法の一つとして温間プレス法(温間
絞り成形法)が知られている。これは,ダイスおよび/
またはブランクホルダ(しわ押え)を加熱することによ
り素材のフランジ部を加熱すると同時にポンチを冷却し
て素材のポンチ接触部を冷却することによって,被加工
物に温度勾配をつけて,フランジ部の流入変形抵抗を小
さくし,ポンチ肩部での破断力を大きくするという原理
を採用した絞り方法である。
【0006】この温間深絞り方法をステンレス鋼に適用
した例としては,例えば特開昭49−39558号公報
や特開昭54−142168号公報に示されている。こ
れらはいずれもオーステナイト相の安定度を規定したオ
ーステナイト系ステンレス鋼を,オーステナイト相の安
定度から決まる成形温度で加工する成形方法に係わるも
のである。
【0007】これらの公報には,オーステナイト系ステ
ンレス鋼は低温で加工すると加工誘起マルテンサイトが
生成し易く加工硬化が大きくなり,逆に高温で加工する
と加工誘起マルテンサイトが生成し難く加工硬化が小さ
くなるという特有の性質を有するので,フランジ部を加
熱しポンチ肩部を冷却する温間プレス方法には最適の材
料であると述べられ,オーステナイト系ステンレス鋼に
温間絞り方法を適用すれば,厳しい成形形状の加工が可
能となることが示されている。さらにはオーステナイト
系ステンレス鋼を厳しい成形形状に常温で加工される場
合に問題となる時期割れも温間プレス方法では生じない
ことも示されている。
【0008】このような温間プレスは,実際に器物など
の加工に適用されており,通常,ポンチ接触部の被加工
物を0〜20℃程度に冷却し,フランジ部を80〜12
0℃程度に加熱して,被加工物の温度勾配を十分にとる
ために特開昭54−142168号公報に提案されてい
るように絞り成形速度を600mm/min以下とし
て,絞り比が2.5〜2.6で一段絞りにより実施されて
おり,現状では時期割れの発生もなく,形状も良好であ
る。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし,オーステナイ
ト系ステンレス鋼を深絞り性が改善する温間深絞りに適
用する場合に,現状では次のような問題があった。
【0010】1)これまでの実際のオーステナイト系ス
テンレス鋼の温間深絞り加工は絞り比2.6程度で行わ
れているが,さらに高い絞り比が要求される器物(底面
積に対して高さの高い器物)もあり,このような厳しい
形状の温間プレスの実施を考慮すると,少なくとも限界
絞り比が2.6を越えるような材料が必要となるが,現
在のところ,このような高絞り比の器物を安定して成形
できる材料に関する知見は得られていない。
【0011】2)現状の材料では成形速度が一般に遅
く,生産性向上の点から温間深絞りの成形速度を高くし
たくても,それに即応できる材料が見当たらない。
【0012】3)フランジ部の加熱温度が低い場合に
は,ポンチ肩部近傍で局部的に板厚変動が生じ,製品の
表面性状が低下する。被加工材がポンチ肩部で板厚変動
を起こす原因がフランジ部の加熱温度にあることを本発
明をなす試験の過程で本発明者らは知見した。
【0013】4)現状では温間深絞り加工が適用される
用途は,先述のように絞り比が2.5〜2.6程度の場合
であり,絞り比がこれより低い場合には常温での多段絞
りによるプレス加工が行われる場合が多い。また,絞り
比が高い場合においても成形後の製品強度を得るために
常温での多段絞りによる深絞り加工が行われる場合もあ
る。このように,用途や材料に応じて温間絞り加工と常
温絞り加工が使い分けされているが,両者を共用できる
材料は見当たらない。
【0014】この点をより詳しく見ると,例えば特開昭
49−39558号公報や特開昭54−142168号
公報に記載されたオーステナイト相の安定度を規定した
温間深絞り加工用のオーステナイト系ステンレス鋼を,
常温深絞り加工に用いようとすると,比較的オーステナ
イト安定度が高い鋼では,加工誘起マルテンサイト変態
が抑制されているためポンチ肩部の強度が低く,α破断
を生じる。逆に,比較的オーステナイト安定度か低い鋼
では,加工誘起マルテンサイト変態が急激に生ずるた
め,フランジ部の変形抵抗が上昇し,やはりα破断を生
ずる。
【0015】また,例えば特開昭49−39558号の
実施例に示されるように,温間深絞り性に優れるオース
テナイト系ステンレス鋼は通常の常温プレスで過酷な成
形を行うと,時期割れを生ずるという問題があった。
【0016】このようなことから,従来の温間プレスに
適用可能なオーステナイト系ステンレス鋼は常温でのプ
レスに用いることができず,したがって,温間プレス用
および常温プレス用それぞれに適用鋼種を選択しなけれ
ばならなかった。このため,流通過程およびユーザーに
おいて素材在庫量が増加するという管理上の問題が生じ
ており,また温間プレスでの成形速度が通常の常温絞り
成形よりも低いために生産性が低くならざるを得ないと
いう問題があった。
【0017】以上のように,従来,温間限界絞り比で
2.6を越えるような高加工が可能でかつ常温プレスで
の時期割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板
は存在しなかった。したがって,本発明は,温間深絞り
性がさらに優れかつ常温での耐時期割れ性に優れたオー
ステナイト系ステンレス鋼板およびその温間深絞り方法
を提供し,上記の問題点を解決しようとするものであ
る。
【0018】また,このような素材分野において,その
表面に樹脂被覆を施すことによって耐汚染性や遮音性を
向上させることも望まれているが,本発明は,同様に温
間深絞り性に優れかつ常温での耐時期割れ性に優れた樹
脂被覆オーステナイト系ステンレス鋼板を提供しようと
するものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明によれば,質量%
で, C:0.04%以下, Si:2.0%以下, Mn:3.0%以下, Ni:6.0〜12.0%, Cr:16.7〜20.0%, Mo:0.005〜0.5%以下, Cu:0.005〜3.0%以下, N:0.05%以下, を含有し,(C+N)量が0.04%以上で,且つ下記
の(1)式で示されるMd30の値が−20以上20以
下, Md30=551−462(C+N)−9.2Si−20
Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo
・・(1) を同時に満足するように各成分量が調整され,残部がF
eおよび不可避的に混入する不純物よりなる成形速度7
00mm/min〜20000mm/minの高速温間
絞り成形用オーステナイト系ステンレス鋼板,および当
該鋼板にフッ素樹脂を被覆した高速温間絞り成形用オー
ステナイト系ステンレス鋼板を提供する。
【0020】そして本発明によれば,当該鋼板またはフ
ッ素樹脂被覆鋼板を,フランジ部加熱温度がMd30値+
80℃以上で且つポンチ冷却温度がMd30値+20℃以
下の条件下で,成形速度を700mm/min〜200
00mm/minの範囲で絞り成形する温間絞り成形法
を提供する。
【0021】
【作用】本発明者らは,前記の課題を解決すべく,種々
の特性を有するオーステナイト系ステンレス鋼を用いて
温間および常温でのプレス成形性を広範囲に調査研究し
た。その結果,各成分元素の限定に加えて,(C+N)
量を0.04%以上とし且つMd30が−20(マイナス
20)〜20(プラス20)に規定されるオーステナイ
ト系ステンレス鋼を用いれば,温間での絞り性に優れ
(温間限界絞り比で2.6を越えることができ),加え
て従来の一般加工用オーステナイト系ステンレス鋼と同
等の常温での絞り性をも有し,多段常温絞りで耐時期割
れ性の優れたオーステナイト系ステンレス鋼が得られる
ことを見いだした。
【0022】本発明のオーステナイト系ステンレス鋼
は,従来材では達成できなかったような底の深い器物
(高絞り比の成形品)が温間プレス法で高歩留りで製作
できる。しかも,常温プレス(常温多段プレス)に適用
しても耐時期割れ性に優れる。したがって,温間・常温
の両プレスに共用でき,ともに高歩留りで良品質の成形
品が得られる。かような本発明鋼の性質は,各成分の含
有量の規制と(C+N)量≧0.04%で且つMd30
−20〜20となるように各成分量を調整したことによ
ってもたらされたものである。とくに,この成分調整に
より,成形途中の加工誘起マルテンサイトの生成挙動が
有利に作用して良品質の高絞り品が製作できる。
【0023】そして,当該本発明鋼を温間絞り成形する
にさいし,鋼の化学成分値(Md30値)に応じてフラン
ジ部加熱温度ならびにポンチ冷却温度を適正に設定する
と,成形速度を700〜20000mm/minとし
て,表面性状に優れた成形品を高い生産性のもとで温間
深絞り成形できることを見いだした。
【0024】以下に先ず本発明鋼の各成分の作用とその
含有量限定の理由を概説すると次のとおりである。
【0025】Cは,温間プレス中で生成する加工誘起マ
ルテンサイト中に固溶し,加工硬化を増大させる作用が
あるので,ポンチ肩部での破断強度を上昇し深絞り性を
向上させる効果がある。しかし多量に含有されると,常
温での多段絞りによる耐時期割れ性が劣化するため,上
限を0.04%とする。
【0026】Siは,温間プレスにおいて,加工誘起マ
ルテンサイトが多く生成するポンチ肩部での靱性を高め
る効果がある。しかし,加熱されるフランジ部ではSi
含有量が増加するとポンチ穴への流入変形抵抗が増大す
るようになる。このため過剰のSiの添加は好ましくな
いことから,その上限を2.0%とする。
【0027】Mnは,オーステナイト生成元素であり,
オーステナイト相中では加工硬化を抑制し,逆に加工誘
起マルテンサイトが生成する場合には加工硬化を促進す
る作用があるため,温間でのプレスを行う場合には有用
な元素である。しかし,多量に含有された場合には鋼の
清浄度が低下し耐食性が劣化するため上限を3.0%と
する。
【0028】Niはオーステナイト系ステンレス鋼には
必須の元素であり,オーステナイト相の安定度を確保す
るうえで下限を6.0%とする。また上限は経済性を考
慮して12.0%とする。
【0029】Crは耐食性の点から16.7%以上にす
ることが望ましい。しかし,多量に含有されるとプレス
成形時にフランジ部の素材流入変形抵抗が増大して,温
間および常温での深絞り性に悪影響を及ぼすため,その
上限を20.0%とする。
【0030】Moは,含有量が増加すると鋼の耐食性を
向上させる。しかし多量に含有するとフランジ部の素材
流入変形抵抗が増大して,温間および常温での深絞り性
に悪影響を及ぼすため上限を0.5%とする。また,M
oは式(1)における係数が18.5と高く,オーステ
ナイト安定度に対する寄与が大きいため,安定度の調整
の目的には0.02%以上は必要である。
【0031】Cuはオーステナイト生成元素であり,オ
ーステナイト相を軟質化し,フランジ部の素材流入変形
抵抗を低下させるので,深絞り性を向上させる。しか
し,多量に含有する場合には熱間加工性を劣化させるの
で上限を3.0%とする。またCuは式(1)における
係数が29と高く,オーステナイト安定度に対する寄与
が大きいため,安定度の調整の目的には0.02%以上
が必要である。
【0032】NはCと同様に時期割れ性に有害に作用す
る元素であるが,その作用はCほどではない。しかし多
量に添加されると表面性状の劣化を招くため上限を0.
05%とする。
【0033】以上の各成分量の規制に加えて,温間深絞
り性に優れるとともに常温での深絞り性にも優れたオー
ステナイト系ステンレス鋼板を得るためには,(C+
N)量が0.04%以上で且つMd30値が−20以上2
0以下を同時に満足するように成分調整する必要があ
る。この点を以下に試験結果を参照しながら具体的に説
明する。
【0034】〔試験例〕「表1」に示した化学成分の鋼
A〜鋼Wの23種類を溶製し,それらのスラブを122
0℃に再加熱後,熱間圧延により板厚3.8mmの熱延
板とし,これに1150℃で均熱1分の熱延板焼鈍を施
した。この熱延焼鈍板を板厚1.0mmまで冷間圧延し
た後,1050℃で均熱1分の中間焼鈍を施し,さらに
0.6mmまで冷間圧延した。そして1050℃で均熱
1分の仕上焼鈍を施した。
【0035】得られた各冷延焼鈍板から供試材を採取し
て,温間での円筒絞り成形試験,常温での円筒絞り成形
試験,常温での多段絞りによる時期割れ試験および常温
での引張試験による伸び測定を行った。各種試験結果を
「表2」にまとめて示している。なお,各試験の内容は
次のとおりである。
【0036】〔温間円筒絞り成形試験〕ポンチは径40
mmで肩半径6mm,ダイスは径42.0mmで肩半径
は3mmのものを用い,被加工材のフランジ部をしわ押
え(ブランクホルダ)で押える円筒絞り成形において,
ダイスとブランクホルダを加熱し,これらに接触する被
加工材料を120℃に加熱し,他方ポンチは0℃まで冷
却してポンチに接触する被加工物を常温まで冷却しつ
つ,加工速度50mm/minで試験し,絞り抜ける最
大のブランク径(供試材の円板径)をポンチ径で除した
値を「温間限界絞り比」(温間LDR)とした。
【0037】〔常温円筒絞り成形試験〕ダイス,ポンチ
を常温に設定した以外は,前記の温間円筒絞り成形試験
と同様にして「常温限界絞り比」(常温LDR)を求め
た。
【0038】〔常温での多段絞りによる時期割れ試験〕
「表3」に示したブランク径の素円板をそれぞれ表示の
絞り比となるポンチとダイスを用いて多段絞り(3段絞
り)した後,一昼夜放置してカップ縁部に割れが発生す
るか否かを判定し,割れの発生しない最大のブランク径
をポンチ径で除した値を「時期割れ限界絞り比」(LD
R(B))とした。
【0039】〔常温での引張試験〕標点間距離50m
m,引張速度3mm/minで常温引張試験を行い,
「全伸び」を測定した。
【0040】また,温間深絞り性に及ぼす成形速度と加
熱冷却温度の影響を次の試験で評価した。
【0041】〔温間深絞り性の評価試験〕Md30が1.
2の鋼Aの冷延焼鈍板を用いて,「表4」の条件1と5
に示したように,フランジ部加熱温度を120℃,ポン
チ冷却温度0℃として,成形速度を500から2500
0mm/minまで変化させた。また成形速度が100
0mm/minの一定として,条件1〜5に示すように
フランジ部加熱温度ならびにポンチ冷却温度を変化させ
た。なお,いずれの場合でも,ポンチは直径100mm
φ,肩半径10mm,ダイスは内径102mm,肩半径
10mmのものを用いた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】以上の試験結果を前記の表2および下記の
表5と表6並びに図1〜図3に整理して示した。
【0047】図1は,前記の試験結果のうち,一段絞り
での温間限界絞り比および常温限界絞り比をオーステナ
イト安定度の指標であるMd30で整理したものである。
【0048】図1に見られるとおり,温間限界絞り比
は,(C+N)量が0.04%未満の鋼を除き,Md30
が高くなるにしたがって(オーステナイト相が不安定に
なるにしたがって)上昇し,温間絞り性が向上すること
がわかる。従来の温間プレスでは絞り比2.6程度で行
われているが,これを越えるものがMd30を−20以上
にすることによって得られる。なお,図1にはMd30
−16,6,9で,それぞれ限界絞り比が2.6の鋼が
あるが,これらはいずれも(C+N)量が0.04%未
満の鋼である。
【0049】また図1に見られるように,常温限界絞り
比はすべての鋼ともに1.9以上であり,特にMd30
約−20以上の鋼では2.0であり,従来より用いられ
ている深絞り用オーステナイト系ステンレス鋼と同程度
の深絞り性を有している。
【0050】図2は,Md30が−20以上の鋼につい
て,温間限界絞り比と(C+N)量の関係を見たもので
ある。図2から明らかなように,温間限界絞り比が2.
6を越える領域のMd30が−20以上の鋼でも,(C+
N)量が0.04%未満のものでは温間限界絞り比が2.
6であり,従来の水準にある。これに対して,Md30
−20以上で且つ(C+N)量が0.04%の鋼は,従
来の水準を超えて高い温間限界絞り比を示す。このこと
から,従来の水準を超える良好な温間での深絞り性を有
する鋼を得ようとすれば,Md30が−20以上の材料で
あっても鋼中の(C+N)量を0.04%以上に設定す
る必要があることがわかる。
【0051】図3は,常温での引張試験による伸びとM
30の関係を示したものである。同図に見られるよう
に,Md30の上昇とともに伸びは上昇し,−20から0
の間で極大値を示した後,低下していることから,常温
での伸びは温間深絞り性にはあまり寄与しない。しかし
実際には深絞り要素以外の張出し要素が加わった複合成
形加工されることも多いため,ある程度の延性も要求さ
れ,伸びで50%以上確保する必要がある。図3から,
伸び50%以上を有する鋼を得るためにはMd30を20
以下にする必要があることがわかる。
【0052】表5は,表1の鋼A(Md30=1.2,M
30+80=81.2,Md30+20=21.2)を用い
て,成形速度を1000mm/min,絞り比=2.6
または2.8として,フランジ部加熱温度,ポンチ冷却
温度を変化させた場合(表4の条件1〜5参照)の成形
性を示したものである。いずれの条件ともに50回の絞
り成形を行い,その不良率を求めた。不良率は全絞り数
に対する割れ発生個数の百分率で表した。
【0053】
【表5】
【0054】表5の結果にみられるように,絞り比が比
較的低い2.6の場合には,いずれの温度条件において
も割れの発生はなく良好である。しかし絞り比が2.8
と高い場合には,フランジ部加熱温度とポンチ冷却温度
の影響を受ける。この加熱冷却温度の影響は以下に示す
ように鋼のMd30とも関係するのである。結論を先に言
えば,鋼のMd30に応じて,フランジ部加熱温度を(M
30)+80℃以上で且つポンチ冷却温度を(Md30
+20℃以下に設定して温間絞りを行えば高い絞り比を
得ることができる。本例の場合,鋼AのMd30=1.2
であるから,フランジ部加熱温度は81.2以上,ポン
チ冷却温度は21.2以下とすることが必要となる。
【0055】例えば条件1のようにフランジ部加熱温度
が81.2℃より低く,ポンチ側温度が21.2℃より高
いと,割れの発生頻度が高くなり,不良率は80%にも
なる。また,条件2のように,ポンチ冷却温度は21.
2℃より低いが,フランジ部加熱温度が81.2℃より
低い場合には不良率66%,条件3のようにフランジ部
加熱温度は充分に高いがポンチ冷却温度が高い場合には
不良率60%となっている。なお,フランジ部加熱温度
が低い場合には,ブランクの流入応力が高くなり,ポン
チ肩部近傍において局所的に板厚が変動し,表面性状が
劣化するという問題も生じる。
【0056】これに対して条件4および条件5のように
フランジ部加熱温度が81.2℃以上で且つポンチ冷却
温度が21.1℃以下の場合には割れの発生はなく,板
厚の変動もない良好な温間絞り成形が可能である。
【0057】このようにフランジ部加熱温度を鋼の化学
成分で決まる温度(Md30+80)以上とし,ポンチ冷
却温度を鋼の化学成分で決まる温度(Md30+20)以
下に設定することで,安定して絞り比が2.6以上の高
度な温間絞り成形が可能になり,ポンチ肩部の局所的な
板厚変動もない表面性状の優れた製品を得ることができ
る。
【0058】表6は,表1の鋼A(Md30=1.2,M
30+80=81.2,Md30+20=21.2)を用い
て,フランジ部加熱温度=120℃,ポンチ冷却温度=
0℃の一定として,成形速度を500〜25000mm
/minにまで変化させた場合(表4の条件1および
5)の成形性を示したものである。いずれの条件とも5
0回の絞り成形を行い,不良率を求めた。不良率は全絞
り数に対する割れ発生個数の百分率で表した。
【0059】
【表6】
【0060】表6の結果から,成形速度が25000m
m/minと高い場合には,フランジ部加熱温度および
ポンチ冷却温度が適正であるにもかかわらず,絞り比が
比較的低い2.6の場合には6%,絞り比が2.8の場合
には66%の不良率が発生した。これは成形速度が速す
ぎてポンチ側の冷却が不十分となったものと考えられ
る。したがって,成形速度が25000mm/minを
超える高速で成形すると成形性を損なうようになり,ま
た成形速度が600mm/min未満では,生産性が著
しく低下することになる。
【0061】以上の試験結果から明らかなように,要す
るところ,(C+N)量が0.04%以上で且つMd30
値が−20以上20以下を同時に満足するように成分調
整することが,従来の水準を超える温間絞り成形を可能
とし且つ常温絞り成形に供した場合にも良好な耐時期割
れ性を確保するうえで,重要な要件となることがわか
る。
【0062】そして,本発明で規定する化学組成を有す
る素材を温間プレス成形に供する場合には,フランジ部
加熱温度≧Md30+80℃で且つポンチ部冷却温度≦M
30+20℃の条件とすれば,従来の水準を超える成形
速度で高速成形が可能となり,高い生産性を維持しなが
ら良品質の成形品を製作することができる。
【0063】そのさい,局所的な板厚変動による表面性
状の劣化が起きないため,後記の実施例に示すように,
フッ素樹脂をプレコートした材料を用いても樹脂層の浮
きや剥離などを生ずることなく,良好にプレス成形が可
能となる。
【0064】ここで,被覆用フッ素樹脂としては,エチ
レン−テトラフルオロエチレン共重合体,フルオロエチ
レン−フルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエ
チレン−パ−フルオロプロピルビニルエーテル共重合
体,もしくはテトラフルオロエチレンを用いることが望
ましい。
【0065】かようなフッ素樹脂被覆を鋼帯に施す方法
は特に限定されないが,該樹脂のフイルムを接着剤を用
いて接合する方法または該フッ素樹脂を鋼帯に熱融着さ
せる方法が生産性の面から便宜である。
【0066】前者の接着剤を用いる場合には,フッ素樹
脂のフィルム厚さは10μm以上あれば,成形性および
成形加工後の耐汚染性,耐薬品性,非粘着性を確保でき
る。また,フィルムは接着剤層側にコロナ放電処理をし
ておくと接着性を高めることができる。積層方法として
は,鋼帯に接着剤層を形成したうえ加熱後にフィルムを
ラミネートロールで圧下して積層するのがよい。また接
着剤層の形成方法としてはロールコート,カーテンフロ
ーコート,スプレーコートなどを適用することができ
る。
【0067】後者の熱融着法の場合には,鋼帯は脱脂処
理,化成処理等の前処理を施すのが通常であるが,表面
仕上げが適切になされていればこれらは省略することも
できる。また,鋼帯とフッ素樹脂との密着性を高めるた
めに,前記の前処理後にプライマー層を形成しておくの
もよい。このプライマー層の材料としては,エチレン−
テトラフルオロエチレン共重合体,フルオロエチレン−
フルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエチレン
−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体,テト
ラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂や,これらとポリ
エーテルサルフォン,ポリフェニレンサルファイドなど
の耐熱性樹脂の混合物を用いることができる。
【0068】熱融着するフッ素樹脂は樹脂単体で用いる
ほかに,着色顔料や体質顔料などの添加により着色化し
て用いてもよい。また,鋼帯表面への樹脂被覆の形成は
樹脂フィルムを積層する方法と,樹脂を溶剤に分散した
ディスパージョンを塗装する方法などが適用できるが,
積層および被覆膜厚として10μm以上,好ましくは2
0μm以上が望ましい。なお,熱融着する場合には融点
以上の温度で加熱して鋼帯に融着する。フィルムの場合
では予め融点以上の温度に鋼帯を加熱しておいきてフィ
ルムを積層することも可能である。
【0069】
【実施例】以下に,代表的な本発明の実施例を挙げる。
【0070】〔実施例1〕表7に本発明鋼および比較鋼
の化学成分値を示した。表7の本発明の鋼1〜9のMd
30はいずれも−20から20の範囲にあり(C+N)量
も0.04%以上である。比較鋼の鋼10と11はC量
が0.04%を越え且つMd30が−43,−33と低く
てオーステナイト安定度の高い材料である。同鋼12は
Md30が−20から20の範囲にあるもののC量が0.
04%を越える鋼である。同鋼13はMd30は−20か
ら20の範囲にあるものの,(C+N)量が0.04%
未満の鋼である。同鋼14は各成分および(C+N)量
は本発明範囲にあるものの,Md30が高くオーステナイ
ト安定度の低い鋼である。
【0071】
【表7】
【0072】表7の各鋼は,当該化学成分値のものに溶
製した後,1220℃で熱間圧延を行い,3.8mmの
熱延板とした。これに1150℃にて均熱1分の熱延板
焼鈍を施した後,冷間圧延により1.5mmとし,10
50℃にて均熱1分の中間焼鈍を行ない,さらに板厚
0.6mmまで冷間圧延を施し,1050℃で均熱1分
の仕上焼鈍を施した。これらの冷延焼鈍板から供試材を
採取し,本文に記載した試験と同じ条件で温間円筒絞り
成形試験,常温円筒絞り成形試験,常温での多段絞りに
よる時期割れ試験および引張試験による伸び測定を行っ
た。各試験は前記の試験と同様に「温間限界絞り比」
(温間LDR),「常温限界絞り比」(冷間LDR),
「常温での多段絞りによる時期割れ限界絞り比」(LD
R(B)),破断伸びで評価した。その結果を表8に示し
た。
【0073】
【表8】
【0074】表8の結果から,本発明鋼のすべての鋼1
〜9の温間限界絞り比は2.7以上であり,温間での深
絞り性に優れていることがわかる。また,常温での限界
絞り比は2.0であり,時期割れ限界絞り比もすべて2.
6を超え,特に鋼1〜3,6〜9は3.1以上の良好な
耐時期割れ性を有している。
【0075】これに対し,比較鋼の鋼10および11の
常温絞り性は一段絞りでは限界絞り比2.0であり,多
段絞りによる時期割れ性も2.61と,通常のプレス用
材料と差異はない。しかしながら,オーステナイト安定
度が高いため,温間限界絞り比はそれぞれ2.6および
2.5と低の水準にあり,本発明鋼のような良好な温間
での深絞り性は得られない。
【0076】また 鋼12の温間限界絞り比は2.9と
高く,温間での深絞り性は優れている。また常温での深
絞り性も一段絞りでは限界絞り比が2.0である。しか
しながら,多段絞りによる時期割れ限界絞り比はC量が
高いため2.22と低く,時期割れ性に劣る。
【0077】鋼13は,一段絞りによる常温での絞り性
および耐時期割れ性に優れるものの温間限界絞り比が
2.6と低く,温間での深絞り性に劣る。
【0078】鋼14はオーステナイト安定度の低い鋼で
あり,温間限界絞り比は3.0と高く,温間での深絞り
性に優れている。また,常温限界絞り比が2.0であ
り,常温での深絞り性も優れているが,オーステナイト
が極端に不安定なため,伸びが47.5%と低い。
【0079】〔実施例2〕 前記の表8に示した本発明鋼の鋼1,3,5,7および
9の冷延焼鈍板を用いて,成形速度,フランジ部加熱温
度およびポンチ冷却温度を変化させて,温間絞り成形を
行った結果を示す。各試験は本文に説明したのと同様の
条件である。その結果を表9に示した。表9において,
本発明例はフランジ部加熱温度を各鋼のMd30+80以
上とし,ポンチ冷却温度をMd30+20以下として,成
形速度を700mm/min〜20000mm/min
の間に設定したものである。各試験における絞り比は,
鋼1と3については2.7,鋼5は2.8,鋼7は3.
0,鋼9は2.9である。
【0080】
【表9】
【0081】表9の結果から,本発明例のものはいずれ
の場合においても割れの発生および局所的な板厚変動は
認められず,良好な成形加工が可能である。
【0082】これに対し,比較例では,鋼1について
は,フランジ部加熱温度およびポンチ冷却温度はそれぞ
れMd30+80以上,Md30+20以下とし,成形速度
300または25000mm/minとして,いずれも
絞り比2.7の成形を行ったが,成形速度が25000
mm/minの場合は冷却が不十分となり,68%の不
良が生じた。なお,成形速度300mm/minの場合
には良好な成形加工ができたが生産性が悪い。
【0083】比較例の鋼3は,成形速度を1000mm
/minとし,フランジ部加熱温度およびポンチ冷却温
度はそれぞれMd30+80未満,Md30+20越えと
し,絞り比2.7の成形を行ったものであるが,不良率
は95%と高く,局所的な板厚変動も認められる。
【0084】比較例の鋼5は,成形速度を10000m
m/minとし,フランジ部加熱温度をMd30+80未
満,ポンチ冷却温度はMd30+20以下とし,絞り比
2.8の成形を行ったものであるが,不良率は75%と
高く,局所的な板厚変動も認められる。
【0085】比較例の鋼7と9は成形速度をそれぞれ5
000,700mm/minとし,フランジ部加熱温度
をMd30+80以上,ポンチ冷却温度はMd30+20以
上とし,絞り比はそれぞれ3.0,2.9の成形を行っ
た。局所的な板厚変動は認められなかったものの,不良
率はそれぞれ78%,68%と高い。
【0086】〔実施例3〕表7に示した各鋼について,
実施例1と同様に板厚0.6mmの冷間圧延材を作製
し,1050℃で均熱1分の仕上焼鈍を施した。この仕
上焼鈍材に塗布型クロメート処理を施したうえ,以下に
述べるように接着剤法と熱融着法によってフッ素樹脂被
覆を行った。
【0087】接着剤を用いる方法では,フェノキシ樹脂
系プライマーを乾燥厚さで5μmになるように塗布した
後,このプライマー層の上に,ポリエステル系接着剤
[酸化合物:テレフタル酸/イソフタル酸/セバチン酸
/アジピン酸=53/18/25/4(mol%)と,
ヒドロキシ化合物:ネオペンチングリコール/エチレン
グリコール=51/49(mol%)からなる芳香族ポ
リエステル樹脂,溶剤(トルエン/MEK=9/1(重
量比)]を乾燥厚さで8μmになるように塗布して,最
高到着鋼帯温度が210℃になるように焼き付け,直ち
にシリコンゴム製のラミネートロールを用いて厚さ25
μmの白色ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレ
ン)フィルムを積層した。そのさい,フイルムの接着側
面にコロナ放電処理を施しておいた。
【0088】熱融着する方法ではフイルム熱融着と塗装
熱融着を行った。フイルム熱融着では,組成比が,PE
S(ポリエーテルサルフォン):ETFE(エチレン−
テトラフルオロエチレン)=40:60の混合樹脂プラ
イマーを乾燥厚さで5μmになるように塗装した鋼帯
を,最高到達温度が300℃になるように加熱して,直
ちにシリコンゴム製ラミネートロールで,先の白色ET
FEフィルムを積層し,塗装熱融着ではETFEをN−
メチルピロリドンで固形分35wt%に分散したディス
パージョンを用いて乾燥厚さで20μmに塗装し,炉温
300℃で30秒間加熱して被覆した。
【0089】得られた各フッ素樹脂被覆鋼板について温
間と常温での円筒絞り成形試験,常温での多段絞りによ
る時期割れ試験および引張試験による伸び測定を先に述
べた試験条件と同様の条件で行ない,前記の試験と同様
に「温間限界絞り比」(温間LDR),「常温限界絞り
比」(常温LDR),「常温での多段絞りによる時期割
れ限界絞り比」(LDR(B)),破断伸びで評価した。な
お,温間円筒絞り成形試験は前記と同様に,フランジ部
の加熱温度120℃,ポンチ冷却温度0℃,加工速度5
0mm/minである。それらの結果を表10に総括し
て示した。なおこれらの成形試験において,全ての被覆
鋼板は被膜の浮きや剥離は認められなかった。
【0090】
【表10】
【0091】表10の結果から明らかなように,本発明
例に従うすべての鋼の温間限界絞り比は,接着剤による
フッ素樹脂の積層材,熱融着によるフッ素樹脂フイルム
積層材および熱融着によるフッ素樹脂塗装積層剤のいず
れとも2.8以上であり,温間での深絞り性に優れてい
ることがわかる。また,常温での限界絞り比は2.0で
あり,時期割れ限界絞り比についても,鋼4および5が
2.61である他は,いずれの鋼とも3.1以上の良好な
耐時期割れ性を有していることがわかる。また前記のよ
うにいずれの鋼ともに被膜の浮き,剥離は認められなか
った。
【0092】一方,比較例について見ると,鋼10およ
び11の常温絞り性は一段絞りでは限界絞り比2.0で
あり,多段絞りによる時期割れ性も2.61と,通常プ
レス材料と差異はない。しかし,これらの鋼はオーステ
ナイト安定度が高いために,温間限界絞り比は,いずれ
のフッ素樹脂積層方法の場合でも2.5から2.6程度と
低く,温間での良好な深絞り性は得られない。
【0093】また比較例の鋼12の温間限界絞り比は,
いずれのフッ素樹脂積層方法の場合でも2.8から2.9
と高く,温間での深絞り性は優れており,常温での深絞
り性も一段絞りでは限界絞り比が2.0である。しか
し,この鋼は多段絞りによる時期割れ限界絞り比は2.
22と低く,時期割れ性に劣る。これはC含有量が高い
ためであると見てよい。
【0094】比較例の鋼13は,一段絞りによる常温で
の絞り性および耐時期割れ性に優れるものの,(C+
N)量が0.028%と低いので,温間限界絞り比が2.
6と低く,温間での深絞り性に劣っている。
【0095】比較例の鋼14はオーステナイト安定度の
低い鋼であり,このため温間限界深絞り比は3.0と高
く,温間での深絞り性に優れている。また,常温限界絞
り比が2.0であり常温での深絞り性も優れているが,
オーステナイトが極端に不安定なため伸びが47.5%
と低い。このように比較例の樹脂被覆鋼板は本発明例に
比べて成形性が劣るものの,被覆樹脂の浮きや剥離など
の劣化は認められなかった。
【0096】〔実施例4〕前記の表10に示した鋼1,
3,5,7および9の接着剤によるフッ素樹脂積層材を
用いて,成形速度,フランジ部加熱温度およびポンチ冷
却温度を変化させて,温間絞り成形を行った。各試験は
本文に説明したのと同様の条件である。その結果を表1
1に示した。
【0097】
【表11】
【0098】表11において,本発明例のものは全てフ
ランジ部加熱温度を各鋼のM 30+80以上とし,ポン
チ冷却温度をM 30+20以下として,成形速度を70
mm/min〜20000mm/minの間に設定し
たものである。また,各試験における絞り比は,鋼1と
3はについては2.8,鋼5は2.9,鋼7は3.1,鋼
9は3.0である。表11に見られるように,本発明例
のいずれの場合においても割れの発生は認められなかっ
た。また局所的な板厚変動は認められず,良好な成形加
工が可能であり,いずれの鋼ともに被覆樹脂の浮き,剥
離などの劣化は認められなかった。
【0099】これに対し,比較例の鋼1は,フランジ部
加熱温度およびポンチ冷却温度はそれぞれM 30+80
以上,M 30+20以下とし,成形速度を300または
25000mm/minで絞り比2.7の成形を行った
ものであるが,成形速度が25000mm/minの場
合は冷却が不十分となり,68%の不良が生じている。
また成形速度300mm/minでは,生産性が悪く実
用的ではない。
【0100】比較例の鋼3は成形速度を1000mm/
minとし,フランジ部加熱温度およびポンチ冷却温度
はそれぞれM 30+80未満,M 30+20越えとし,
絞り比2.7の成形を行ったものであるが,この場合に
は不良率は95%と高く局所的な板厚変動も認められ
た。
【0101】比較例の鋼5は成形速度を10000mm
/minとし,フランジ部加熱温度をM 30+80未
満,ポンチ冷却温度はM 30+20以下とし,絞り比
2.8の成形を行ったものであるが,不良率は75%と
高く,局所的な板厚変動も認められた。
【0102】比較例の鋼7および9は,成形速度をそれ
ぞれ5000,700mm/minとし,フランジ部加
熱温度をM 30+80以上,ポンチ冷却温度はM 30
20未満とし,絞り比はそれぞれ3.0,2.9の成形を
行ったものであるが,局所的な板厚変動は認められなか
ったものの不良率はそれぞれ78%,68%と高い。
【0103】なお,比較例のものは本発明例に比べて成
形性の点で不良率が高いものの,被覆樹脂の浮き,剥離
などの劣化は認められなかった。
【0104】次に,表11の本発明例で得られた成形加
工材の耐汚染性および耐熱性を調査した。
【0105】先ず当該成形加工材に,ヘアトニック,ヘ
アリキッド,マジックインキ(黒),コーヒー,紅茶,
マヨネーズ,ケチャップ,醤油,ソース,わさび,から
し等の汚染因子を室温下で1週間接触させた。そして,
これらの汚染物をエタノールで拭き取った結果,痕跡な
く拭き取ることができ,いずれの汚染因子には全く汚染
されなかった。
【0106】また,成形加工材を200℃の雰囲気中に
20日間放置する耐熱性試験を行った。その結果,いず
れも,被覆樹脂の剥離,縮みおよび変退色は認められな
かった。
【0107】
【発明の効果】以上のように,本発明によれば,従来の
水準を超える高度の温間深絞り加工が可能なオーステナ
イト系ステンレス鋼板が提供される。しかも,この鋼板
は常温での絞り加工も良好に行なうことができ,常温多
段深絞りを行っても耐時期割れ性に優れることから,温
間・常温の両絞り加工に共用できる。そして,本発明鋼
板はその化学成分(Md30値)に応じて温間絞りのさい
の加熱冷却条件を規制することによって,高い成形速度
と高絞り比のもとで表面性状の良好な成形品をでき,こ
れまで実現できなかったような底面積に比べて背の高い
ステンレス鋼製器物を高い歩留りと高い生産速度のもと
で製作することができる。
【0108】加えて,フッ素樹脂被覆鋼板として用いれ
ば,フッ素樹脂がプレス加工時に必要となる潤滑剤の役
割を果たすため,従来の潤滑剤塗布の簡略化が可能であ
るばかりでなく,加工後にポストコートを施すことによ
る生産性の低下や製造コストアップを避けることができ
る。また,製品の耐汚染性や遮音性などの機能性をも付
与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】温間限界絞り比および常温限界絞り比とMd30
の関係を示した図である。
【図2】温間限界絞り比と(C+N)量の関係を示した
図である。
【図3】常温引張試験による伸びとMd30の関係を示し
た図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C22C 38/58 C22C 38/58 (72)発明者 輿石 謙二 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新 製鋼株式会社鉄鋼研究所内 (72)発明者 森 浩治 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新 製鋼株式会社鉄鋼研究所内 (72)発明者 川嶋 哲史 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新 製鋼株式会社鉄鋼研究所内 (56)参考文献 特開 昭59−129731(JP,A) 特開 平6−41644(JP,A) 特開 昭58−22329(JP,A) 特開 昭54−142168(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60 B21D 22/20

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で C:0.04%以下, Si:2.0%以下, Mn:3.0%以下, Ni:6.0〜12.0%, Cr:16.7〜20.0%, Mo:0.005〜0.5%以下, Cu:0.005〜3.0%以下, N:0.05%以下, を含有し, (C+N)量が0.04%以上で,且つ 下記の(1)式で示されるMd30の値が−20以上20
    以下, Md30=551−462(C+N)−9.2Si−20
    Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo
    ・・(1) を同時に満足するように各成分量が調整され,残部がF
    eおよび不可避的に混入する不純物よりなる成形速度7
    00mm/min〜20000mm/minの高速温間
    絞り成形用オーステナイト系ステンレス鋼板。
  2. 【請求項2】 質量%で C:0.04%以下, Si:2.0%以下, Mn:3.0%以下, Ni:6.0〜12.0%, Cr:16.7〜20.0%, Mo:0.005〜0.5%以下, Cu:0.005〜3.0%以下, N:0.05%以下, を含有し, (C+N)量が0.04%以上で,且つ 下記の(1)式で示されるMd30の値が−20以上20
    以下, Md30=551−462(C+N)−9.2Si−20
    Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo
    ・・(1) を同時に満足するように各成分量が調整され,残部がF
    eおよび不可避的に混入する不純物からなる鋼板の表面
    にフッ素樹脂を被覆してなる成形速度700mm/mi
    n〜20000mm/minの高速温間絞り成形用オー
    ステナイト系ステンレス鋼板。
  3. 【請求項3】 質量%で C:0.04%以下, Si:2.0%以下, Mn:3.0%以下, Ni:6.0〜12.0%, Cr:16.7〜20.0%, Mo:0.005〜0.5%以下, Cu:0.005〜3.0%以下, N:0.05%以下, を含有し, (C+N)量が0.04%以上で,且つ 下記の(1)式で示されるMd30の値が−20以上20
    以下, Md30=551−462(C+N)−9.2Si−20
    Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo
    ・・(1) を同時に満足するように各成分量が調整され,残部がF
    eおよび不可避的に混入する不純物よりなるオーステナ
    イト系ステンレス鋼板を,フランジ部加熱温度がMd30
    値+80℃以上で且つポンチ冷却温度がMd30値+20
    ℃以下の条件下で,成形速度を700mm/min〜2
    0000mm/minの範囲で絞り成形する温間絞り成
    形法。
  4. 【請求項4】 質量%で C:0.04%以下, Si:2.0%以下, Mn:3.0%以下, Ni:6.0〜12.0%, Cr:16.7〜20.0%, Mo:0.005〜0.5%以下, Cu:0.005〜3.0%以下, N:0.05%以下, を含有し, (C+N)量が0.04%以上で,且つ 下記の(1)式で示されるMd30の値が−20以上20
    以下, Md30=551−462(C+N)−9.2Si−20
    Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo
    ・・(1) を同時に満足するように各成分量が調整され,残部がF
    eおよび不可避的に混入する不純物からなり,表面にフ
    ッ素樹脂が被覆されたオーステナイト系ステンレス鋼板
    を,フランジ部加熱温度がMd30値+80℃以上で且つ
    ポンチ冷却温度がMd30値+20℃以下の条件下で,成
    形速度を700mm/min〜20000mm/min
    の範囲で絞り成形する温間絞り成形法。
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