JP2021134418A - 機械構造用鋼及びその切削方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】部品製造に必要な熱間延性を担保しうる機械構造用鋼及び前記鋼の切削方法を提供する。【解決手段】組成が、質量%で、C:0.05〜0.85%、Si:0.01〜3.00%、Mn:0.01〜3.00%、In:0.060%超、0.250%未満、Al:0.002〜0.050%、P:0.100%以下、S:0.001%以上、0.150%未満、N:0.0030〜0.0250%、O:0.0009%超、0.0050%以下、を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ下記式(1)を満たし、鋼中に円相当径が2.0μm以上である金属Inの数密度が0.5個/mm2以上であることを特徴とする機械構造用鋼。0.061<[S%]+[In%]<0.250・・・(1)【選択図】図1

Description

本発明は、被削性に優れた機械構造用鋼およびその切削方法に関する。
自動車や建設機械、産業機械等の一般的な機械製品はギア、シャフトなど複数の部品を含む。これらの部品の多くは、切削加工により製造される。したがって、部品の素材となる鋼には優れた被削性が要求される。被削性は切りくず処理性、工具寿命、切削抵抗などが指標であることが知られている。
従来から、Pbを含有すれば、被削性が高まることは知られている。しかしながら、Pbは環境負荷物質であることから、Pb含有量を抑えて被削性を改善する技術が必要とされている。
Pbの使用量を抑制又はPbを代替する元素としてInに着目した発明がこれまでになされている。例えば特許文献1および2にはInを微量から多量までの広い範囲で添加することで、高速度鋼 (high−speed steel)からなる工具(以下、「ハイス工具」と略称する)を用いて40〜50m/分で穴あけした時の工具寿命が改善することが開示されている。また、特許文献3にはInを比較的少ない範囲で添加し、ハイス工具で10〜40m/分で旋削したときの切りくず処理性が改善することが開示されている。さらに特許文献4でも、比較的多量のIn添加により、ハイス工具を用いた20m/分での切りくず処理性が改善することが開示されている。また、特許文献5には、Pb及びIn等の低融点金属が被削性を向上させるのに非常に有効な元素であることが開示されている。
昭62−20853号公報 昭62−33743号公報 特開平7−54099号公報 特開2001−131684号公報 特開2001−329335号公報
しかしながら、前述した従来の技術には、いくつかの問題点がある。
Inは一般に高価な元素であるため、Pbの使用量を抑制又はPbの代替元素として使用するためには、添加コストに見合うだけの大きな被削性改善効果が必要である。特許文献1、2、4および5はInを単純に添加しているのみであり、コストに見合う十分な効果が得られているとは言い難い。特許文献3はInを添加するのみならず、Bを添加することによってInの粒界偏析を抑制しようとする技術を提案しているが、含有されるInの形態と被削性との関連性を開示していない。そのため、Inの形態を適正化することにより、被削性を改善する余地がある。
また、これらのいずれの特許文献もハイス工具を用いた比較的低切削速度域での効果を開示しているのみである。近年は生産工程の効率化のため、ハイス工具よりも高性能なコーティングハイス工具、超硬工具、コーティング超硬工具などを用いて、より高速で切削することが一般的となっている。これらの特許文献に記載の技術では、高切削速度域での被削性改善効果が得られるとは限らない。さらに、Inは低融点金属であるため、高温域における延性、つまり熱間延性を低下させて連続鋳造、圧延や鍛造時の製造性を低下させる恐れがあるが、この点を解決する技術は提案されていない。
本発明は、上述した問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、比較的高速での切削速度域に焦点を当て、Inの被削性改善効果を高めることにより、部品製造に必要な熱間延性を担保しうる機械構造用鋼及びその機械構造用鋼を利用して機械構造部品を製造する際の切削方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するため、まずInが被削性を改善する機構を調査した。Inは添加量が少ないと鋼中に固溶する。添加量を増やしていくと、固溶Inとして存在するだけでなく、金属Inを形成するようになる。固溶Inは鋼材自体を脆化させることにより、また金属Inは切削時にき裂発生の起点となる、また、工具上で潤滑効果を与えることで被削性改善に寄与するものと考えられる。
Inを添加した鋼材を種々の切削速度で切削試験することにより、固溶Inと金属Inのそれぞれが被削性に及ぼす影響を調査した。その結果、60m/分以上の高切削速度域では金属Inを増やす方が効率的に被削性を改善できることがわかった。
一般に鋼の切削加工は工具により被削材から切りくずを破断分離する加工であるため、被削材が脆化すると被削性は良好となると考えられる。一方、切削速度が大きくなると、切削発熱が大きくなり、被削材から分離された切りくずは高温となるため、切削加工中の切りくずの延性は向上する。
固溶Inを増加して被削材を脆化させても、60m/分以上の高切削速度域では切削発熱により、切りくずの延性が向上し、前記切りくずは比較的十分な延性を有すると考えられる。このように、切削速度が大きくなると、切削発熱により被削材が高温となって工具近傍での延性が向上するため、固溶Inによる脆化の効果が相殺されると考えられる。これが上述した、高切削速度域では固溶Inよりも金属Inを増やす方が有効な理由である。
鋼中の金属Inを詳細に観察したところ、Al23等の酸化物の周辺部に存在するものの存在が認められた。この結果に基づき、同じIn添加量で金属Inを増やすには、Al23等の酸化物を疲労強度等の機械的性質にあまり影響しない範囲で多くすることが重要であることを知見した。
被削性改善効果を得るには、同時にIn添加量自体もなるべく多くすれば良いと考えられる。しかし、Inは、熱間延性を低下させ、鋼製造時の鋳造や圧延、部品製造時の鍛造時の製造性を低下させるという技術的な課題が存在する。
そこで、本発明者らは種々の化学成分の鋼材の熱間延性を詳細に測定して分析した結果、熱間延性はIn単独の添加量よりもむしろ、SとInを足し合わせた量により良い相関があることを見出した。つまり、S量に応じて、添加可能なIn量が変化することを知見した。
本発明者らは、以上のように、In添加による被削性改善機構を理解した上で、鋼材成分、特にinsol.Al含有量及びO含有量を適正化することにより、高切削速度域で優れた被削性を得ることに成功した。さらに、必要な熱間延性を確保するにはS+Inの量を適正の範囲に制限することが重要であることを見出し、これらの知見を組み合わせることで本発明は完成した。
すなわち、本発明に係る機械構造用鋼およびその切削方法は、つぎのとおりである。
(1)組成が、質量%で、
C:0.05〜0.85%、
Si:0.01〜3.00%、
Mn:0.01〜3.00%、
In:0.060%超、0.250%未満、
Al:0.002〜0.050%、
P:0.100%以下、
S:0.001%以上、0.150%未満、
N:0.0030〜0.0250%、及び
O:0.0009%超、0.0050%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ下記式(1)を満たし、鋼中に円相当径が2.0μm以上である金属Inの数密度が0.5個/mm2以上であることを特徴とする機械構造用鋼。
0.061<[S%]+[In%]<0.250・・・(1)
ここで、[S%]および[In%]は、それぞれSおよびInの鋼中の含有量(質量%)を表す。
(2)前記機械構造用鋼が、質量%で、
insol.Al:0.0011〜0.0060%を含有することを特徴とする(1)に記載の機械構造用鋼。
(3)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Cr:3.00%以下を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の機械構造用鋼。
(4)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下、及び
REM:0.0050%以下
からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載の機械構造用鋼。
(5)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Ti:1.000%以下、
Nb:1.000%以下、及び
V:1.000%以下
からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(4)のうちいずれかに記載の機械構造用鋼。
(6)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Mo:1.00%以下、
Ni:1.40%以下、
Cu:1.40%以下、及び
B:0.0050%以下
からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(5)のうちいずれかに記載の機械構造用鋼。
(7)前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
Sb:0.5000%以下、
Se:0.5000%以下、
Te:0.5000%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、及び
Zn:0.5000%以下
からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(6)のうちいずれかに記載の機械構造用鋼。
(8)断面における鋼の表面から0.5mm以上離れた位置のビッカース硬度が120〜320HVであることを特徴とする(1)〜(7)のうちいずれかに記載の機械構造用鋼。
(9)(1)〜(8)のうちいずれかに記載の機械構造用鋼を60m/分以上の切削速度で切削することを特徴とする機械構造用鋼の切削方法。
本発明の機械構造用鋼とその切削方法によれば、被削性と熱間延性を両立した機械構造用鋼及びその機械構造用鋼を利用して機械構造部品を製造する際の切削方法を提供することができる。なお、本発明の機械構造用鋼とは、自動車部品等の機械構造部品に使用しうる鋼を意味する。
発明例と比較例の鋼の切削前の硬さ(HV)と被削性(切削抵抗[Ncm])との関係を示す図である。 発明例と比較例の鋼の切削前の硬さ(HV)と被削性(切りくず1個当たりの重量[mg])との関係を示す図である。
本発明に係る機械構造用鋼およびその切削方法について説明する。まず、機械構造用鋼(以下、単に鋼とも称する。)の成分及び鋼中の金属Inを限定する理由について説明する。以下の説明において、各元素の含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
(C:0.05〜0.85%)
Cは、鋼の強度を確保するために含有させる元素である。Cの含有量が0.05%未満では、硬度が低下し、切削加工後に熱処理されずに使用される場合に強度が不足してしまう。また、最終加工品を焼入れ、焼き戻しをして使用する際にも十分な強度が得られないおそれがある。このため、C量は、0.05%以上とする。一方、C量が0.85%より多いと、炭化物が多量に生成して被削性が劣化する。このため、C量は、0.85%以下とする。好ましいC量の下限は0.16%以上である。好ましいC量の上限は、0.60%以下である。
(Si:0.01〜3.00%)
Siは、一般に脱酸元素として添加されているが、フェライトの強化及び焼戻し軟化抵抗を付与する効果もある。しかしながら、Si含有量が0.01%未満の場合、十分な脱酸効果が得られない。このため、Si含有量は0.01%以上とする。一方、Si含有量が3.00%を超えると、鋼が硬くなりすぎて脆化する。このため、Si含有量は3.00%以下とする。好ましいSi量の下限は0.06%以上であり、さらに好ましくは0.20%以上である。好ましいSi量の上限は2.00%以下であり、さらに好ましくは1.30%以下である。
(Mn:0.01〜3.00%)
Mnは、鋼中の硫黄(S)をMnSとして固定・分散させると共に、マトリックスに固溶して焼入れ性の向上や焼入れ後の強度を確保するために必要な元素である。Mn含有量が0.01%未満であると、鋼中において、MnSとして固定されていないSがFeと結合してFeSとなり、鋼が著しく脆くなる。このため、Mn含有量は0.01%以上とする。一方、Mn含有量が増えると、具体的には、Mn含有量が3.00%を超えると、焼入れ性が高くなりすぎて硬さの大幅な増大を招き、被削性が低下する。このため、Mn含有量は3.00%以下とする。好ましいMn量の下限は0.20%以上である。好ましいMn量の上限は1.80%以下である。
(In:0.060%超、0.250%未満)
Inは被削性を向上させる効果があるが、その効果を得るためには0.060%を超えてInを含有させる必要がある。In含有量の下限は好ましくは0.070%超、さらに好ましくは0.100%超、さらに好ましくは0.150%超である。一方、In含有量が0.250%以上となると、800℃以上における延性が低下し、連続鋳造、圧延などの歩留まり低下や部品製造の鍛造時の製造性の低下の原因になる。このためにIn含有量を0.250%未満とする必要がある。In含有量の上限は好ましくは0.230%未満、好ましくは0.220%未満、さらに好ましくは0.200%未満である。
(Al:0.002〜0.050%)
Alは、一般に脱酸元素として添加されているが、Nと結合してAlNを形成し、オーステナイト領域での結晶粒粗大化を抑制する作用もある。この効果を得るためには、Alの含有量を0.002%以上とする必要がある。好ましくは、下限が0.010%以上である。しかしながら、Alを過剰に含有すると、粗大な酸化物として残存しやすくなり、疲労特性が低下する。したがって、Al含有量の上限は0.050%以下とする。Al含有量の好ましい上限は、0.030%以下である。なお、ここでいうAl量とは、酸不溶性Alを含む全Al量を意味する。
(P:0.100%以下)
Pは不純物である。Pはオーステナイト粒界に偏析して、熱間加工時に粒界割れの原因となるので、P量を0.100%以下にする。Pはできるだけ低減することが望ましいが、P量を0.001%未満に制限するには過剰なコストがかかる。したがって、P量の範囲は0.001%以上としてもよい。P量の下限は、好ましくは0.005%以上である。P量の上限は、好ましくは0.030%以下である。
(S:0.001%以上、0.150%未満)
SはMnと結合してMnSを形成する。MnSは被削性を向上させる効果があるが、その効果を得るためには、Sを0.001%以上含有させる必要がある。S含有量の好ましい下限は0.005%以上である。一方、S含有量が0.150%以上であると、靭性や疲労強度、熱間延性を顕著に低下させる。したがって、S含有量は0.150%未満とする。好ましい上限は0.080%未満であり、さらに好ましくは0.030%未満である。
(N:0.0030〜0.0250%)
Nは鋼中でAlやVなどと結合して炭窒化物を形成し、オーステナイト結晶粒界をピンニングすることによって粒成長を抑制し、オーステナイトから変態する組織を微細化する働きがあり、この効果を得るには0.0030%以上含有させる必要がある。N含有量の好適な下限は0.0050%以上である。一方、0.0250%を超えてNを過剰に含有させると1000℃以上の高温域における延性が低下し、連続鋳造、圧延時の歩留まり低下の原因になる。このため、N含有量を0.0250%以下とする必要がある。N含有量の好ましい上限は0.0150%以下である。
(O:0.0009%超、0.0050%以下)
Oは酸化物系介在物を形成し、In介在物を増やすことを通じて被削性を向上させる。この効果を得るには、O量を0.0009%超とする必要がある。一方、含有量が多い場合は粗大な酸化物として残存しやすくなり、疲労特性が低下する。このため本発明では、O量の上限を0.0050%以下とする必要がある。
(0.061<[S%]+[In%]<0.250)・・・(1)式
ここで、[S%]および[In%]には、それぞれSおよびInの鋼中の含有量(質量%)を表す。
SとInは共に被削性を改善する元素であるが、添加量が増えると高温域における延性が顕著に低下するため、連続鋳造、圧延などの歩留まり低下や部品製造の鍛造時の製造性の低下の原因になる。よってこれらの元素の鋼中の含有量(質量%)の和を0.250%未満とする必要がある。好ましくは0.230%未満である。(1)式の下限は、S及びIn元素のそれぞれの下限値により0.061%超となる。
本発明に係る機械構造用鋼は、鋼成分として、上記の基本成分に加え、以下に示す元素のうちから選んだ1種又は2種以上を含有させても良い。もっとも、以下に示す各元素は任意添加元素であり、いずれの任意添加元素も含有しなくとも(その含有量が0%であっても)本発明を実現できる。
(Cr:3.00%以下)
Crは、鋼の固溶強化元素であり、また部品を焼入れ、焼き戻しして使用する場合には、焼入れ性を向上すると共に、焼戻し軟化抵抗を付与して焼入れ後の疲労強度を向上させる。この効果を得るため、Cr含有量を0.01%以上にしてもよい。一方、Cr含有量が3.00%を超えると、Cr炭化物が生成して鋼が脆化する。よって、Cr量を3.00%以下とする。好ましいCr量の下限は0.05%以上である。好ましいCr量の上限は1.30%以下である。
(Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、及び、REM:0.0050%以下の1種又は2種以上)
Ca、Mg、Zr、及びREM(希土類元素)は、いずれも脱酸元素であり、鋼中で酸化物を生成し、鋼中のMnSの形態を制御して機械特性の向上に寄与する元素である。これらの効果を得るためには、本発明の鋼の優れた特性を損なわない範囲で、Ca、Mg、Zr、及びREMを、それぞれ0.0001%以上含有させてもよい。一方、Ca、Mg、Zr及びREMのうちいずれか1種が0.0050%を超えて含有させると、酸化物が粗大化し、疲労強度が低下する。従って、Ca、Mg、Zr及びREMのそれぞれの含有量の上限は0.0050%以下とし、好ましくは0.0020%以下とする。
なお、REMは希土類金属元素を示し、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選択される1種以上である。前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
(Ti:1.000%以下、Nb:1.000%以下、V:1.000%以下のいずれか1種又は2種以上)
Ti、NbおよびVは、C及び/又はNと微細な炭化物、窒化物、及び/又は、炭窒化物を形成して、オーステナイト温度域加熱時の結晶粒成長および異常粒成長を抑制して、組織の微細均質化に寄与し、衝撃特性を改善する。この効果を得るために、Ti、NbおよびVは、1種又は2種以上を、それぞれ0.005%以上含有させてもよい。いずれの元素も好ましくは0.010%以上、より好ましくは0.020%以上である。一方、Ti、Nb及びVのいずれか1種が1.000%を超えて含有されると、硬質の炭化物が生成して被削性が低下する。従って、Ti、Nb及びVのそれぞれの含有量の上限は1.000%以下とする。Ti、Nbのいずれの元素も、好ましい含有量は0.200%以下、より好ましくは0.150%以下、さらに好ましくは0.040%以下である。Vは、好ましくは0.500%以下、より好ましくは0.320%以下である。
(Mo:1.00%以下、Ni:1.40%以下、Cu:1.40%以下、及びB:0.0050%以下のうちの1種又は2種以上)
Mo、Ni、Cu及びBは、いずれも、焼入れ性向上元素である。この効果を得るためには、本発明の鋼の優れた特性を損なわない範囲で、Mo、Ni及びCuは、それぞれ0.01%以上、Bは0.0003%以上含有させて添加してもよい。一方、Moが1.00%を超えると、焼入れ性が高くなりすぎて硬さの大幅な増大を招き、切削や鍛造時の加工性が低下する。このため、Mo含有量は1.00%以下とし、好ましくは0.30%以下とする。NiとCuのいずれかが1.40%を超えると、やはり、Moと同様に、焼入れ性が高くなりすぎて、硬さの大幅な増大を招き、加工性が低下する。このため、NiとCuの含有量の上限は、いずれも1.40%以下とする。Bは0.0050%を超えて含有添加しても効果が飽和する。従ってBを鋼に添加する場合、鋼中のB含有量の上限は、0.0050%以下である。B含有量の好適な下限は0.0010%であり、B含有量の好適な上限は0.0025%である。
(Sb:0.5000%以下、Se:0.5000%以下、Te:0.5000%以下、Bi:0.500%以下、Pb:0.09%以下、及びZn:0.5000%以下の1種又は2種以上)
Sb、Se、Te、及びBiは、被削性向上元素である。この効果を得るためには、本発明鋼の優れた特性を損なわない範囲で、Sb、Se及びTeは0.0003%以上、Biは、0.001%以上を添加してもよい。一方、Sb、Se及びTeが0.5000%を超える場合、或いはBiが0.500%を超える場合、熱間脆性が発現し、疵の原因となったり、圧延が困難になったりするので、Sb、Se及びTeは0.5000%以下、Biは0.500%以下とする。尚、Sb、Se及びTeは0.2000%以下が好ましい。Biは0.200%以下が好ましい。
Pbは、従来より用いられていた、被削性向上元素である。被削性の観点ではより多い量を含むことも可能であるが、環境負荷物質であるため、本発明を実施するうえではPbの含有量を0.09%以下に限定する。環境負荷の観点からはPbはより少ないほうが好ましく、具体的には、0.05%以下、0.03%以下、0.02%以下であってもよい。
Znも被削性向上元素であり、この効果を得るためには、本発明鋼の優れた特性を損なわない範囲で0.0003%以上添加してもよい。一方、Znは0.5000%を超えると、鋼の製造が困難となるので、0.5000%以下とする。
本発明の機械構造用鋼の成分組成は以上の通りであり、残部はFe及び不純物である。なお、原料、資材、製造設備等の状況によっては、不純物が鋼中に混入するが、本発明の優れた特性を阻害しない範囲であれば許容される。
(鋼中に円相当径が2.0μm以上である金属Inの数密度が0.5個/mm2以上)
本発明では、鋼中の金属Inの量を増やすことによって被削性の向上の効果を得ている。本発明者らはさらに金属Inの適切な数密度について調査を行ったところ、円相当径が2.0μm以上である金属Inの数密度が0.5個/mm2以上とすることが有効であることを明らかにした。円相当径が2.0μm未満の金属Inは、切削時にき裂発生の起点になり難く、工具上で潤滑効果を与える効果が小さい。また、円相当径が2.0μm以上の金属Inの数密度が0.5個/mm2未満であると、被削性を向上させるには不十分である。
金属Inの円相当径及び数密度は、次の方法で測定できる。棒鋼サンプルを、棒鋼の軸方向を含む断面(縦断面)で切断し、縦断面を含む試料を採取する。試料の観察面は腐食させず、そのまま200倍の走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、写真画像を作製する。一視野のサイズは任意の大きさを採用できるが、本開示では約600μm×450μmの視野で38視野観察することにより、被検面積の合計を10mm2以上として算出した。
金属Inは鉄よりも原子量が大きいため、反射電子像中の明るいコントラストとして観察される。そのため、反射電子像のコントラストに基づいて、特定する。Bi、Pb、Teが添加されている場合、鋼中に金属Bi、金属Pb、Te化合物が存在する場合があり、これらは同様に反射電子像中に明るいコントラストとして観察されるため、金属Inとの区別が困難な場合がある。このような場合はエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マップを用いて、金属Inを判別する。
次に、画像解析装置を用いて、上述の方法で特定した金属Inの円相当径を算定する。円相当径とは、測定された粒子の投影面積と等しい面積をもつ円の直径を指し、具体的には以下の式によって導出する。
円相当径=2×{(当該粒子の面積)÷π}1/2
本発明の鋼の硬さ、すなわち本発明の鋼を被削材として切削する前の硬さは、120HV以上320HV以下の範囲とすることが好ましい。切削前の鋼の硬さが120HV未満であると、切削後に熱処理せずに使用する場合に必要な強度が不足し、一方320HVを超えると被削性が低下してくる。なお、硬さはビッカース硬さであり、切削加工がなされる位置の断面、あるいはその位置と同等硬さを有する位置の断面で、JIS Z 2244:2009に準拠して、測定荷重は、10kg重で測定するとよい。ただし、あまりに表層に近い位置で測定すると、適切な計測ができない可能性がある。測定にあたっては、断面において、鋼の表面から0.5mm以上離れた位置において硬さを測定する。
一般に、被削材である鋼の組織にベイナイトやマルテンサイトが含まれると被削性が低下することが知られている。そのため、本発明の鋼を被削材として切削する前の組織はフェライト及びパーライトの混合組織あるいはパーライト単相の組織でも良い。但し、本発明の効果は、組織によって影響されるものではなく、どのような組織でも得られるものであり、例えば組織が焼戻しマルテンサイトであっても本発明の効果(被削性を改善する効果)は阻害されることなく享受できる。
焼入れ焼戻しを加えた後の機械構造用鋼であれば、組織は主として焼戻しマルテンサイトとなり、具体的には、断面における面積率で90%以上が焼戻しマルテンサイトとなる。また、硬さは250HV(測定荷重10kg重)以上であることが好ましい。
本発明の機械構造用鋼の製造方法の一例を説明する。これは、鋼中に十分な量の金属Inを得るための方法である。特に、本開示では、鋼に含有されるAlを、Al23として鋼中に分散させて金属Inの生成核とすることにより、上述した金属Inの形態を実現している。本実施の形態では、鋼の精錬工程を工夫することによって上記の金属Inの形態を実現した。
具体的には、転炉での脱炭、脱燐、脱珪処理が行われた溶鋼が取鍋に出鋼されたあと、ただちに第1の脱酸処理を行い、続いて脱硫処理を行う。第1の脱酸処理で用いられる脱酸剤は、Al含有量が質量%で80%以上の金属Al又はAl合金であることが好ましい。
また、SiO2やCaOの混入を防ぐため、取鍋はアルミ脱酸専用鍋を使用するのが好ましい。取鍋の形状および材質は特に限定されず、鋼等の金属製のケーシングに多孔質の耐熱性セラミックスが内張された構造の取鍋を用いることができるが、SiやCa等を用いた脱酸を過去に行っていないことが好ましい。このような取鍋を用いることで、SiやCa等の不純物が鋼の溶湯に混入することを抑制できる。
脱硫処理の後、真空脱ガス処理を実施する。ここで、製造途中の溶鋼成分を確認し、真空脱ガス処理中に第2の脱酸処理を行う。第2の脱酸処理で用いられる脱酸剤は、第1の脱酸処理で用いられたものと同様、Al含有量が質量%で80%以上の金属Al又はAl合金であることが好ましい。また、第2の脱酸処理で添加されるアルミ脱酸剤の量は、脱酸に用いられたアルミ脱酸剤の全量(第1の脱酸処理で用いられた量と、第2の脱酸処理で用いられた量との総和)に対し、50%以上70%以下である。
精錬工程において、SiO2の生成を抑制するため、Siの添加はアルミ脱酸剤によって鋼が十分脱酸された後に行う。鋼中のSi含有量が0.01%前後の場合、原料由来のSiが鋼に混入する場合がある。鋼中のSi含有量を0.01%超とする場合、特に、鋼中のSi含有量を0.02%以上にする場合、Siの添加は、たとえば、第2の脱酸処理から10分以上経過後に実施する。さらに、Al23を適正範囲で凝集させるため、第1の脱酸処理の開始から鋳造開始までにおいて、溶鋼温度が1600℃以上の時間は15分以上60分以下となるのが好ましい。以上の精錬工程によれば、本実施形態による機械構造用鋼のうち、上述の化学組成及び式(1)を満たす溶鋼が得られる。
上述の溶鋼を用いて、周知の方法により鋳片(スラブ又はブルーム)又は鋼塊(インゴッ卜)を製造する。鋳造方法はたとえば、連続鋳造法や造塊法である。鋳片や鋼塊などの鋼素材を、加熱し、常用の熱間圧延又は熱間鍛造等の熱間加工を施して所望の形状にすることによって、本発明の機械構造用鋼を製造することができる。但し、本発明の鋼の硬さを、断面における鋼の表面から0.5mm以上離れた位置のビッカース硬度で120HV以上320HV以下の範囲に調整するように製造条件を調整することが好ましい。例えば、硬さを好ましい範囲に調整するために、切削工程の前に鋼に焼鈍、球状化焼鈍等の熱処理を行ってもかまわない。
[発明に係る機械構造用鋼の切削方法]
本発明の鋼は比較的大きな切削速度、具体的には60m/分以上の切削速度での切削加工条件において特に有効である。切削方法はドリル、旋削、歯切り、エンドミル、フライス、タップ等様々な方法があるが、これらの切削方法には本発明の効果は限定されない。また、切削工具は高速度鋼、超硬合金、サーメット、またそれらに化学蒸着(Chemical Vapor Deposition;CVD)や物理蒸着(Physical Vapor Deposition;PVD)によりセラミックコーティングを施したものなどがあるが、これらの工具材料の種類には本発明の効果は限定されない。
さらに、潤滑方法として、湿式、乾式、MQL(Minumum Quantity Lubrication)などのセミドライ等が知られているが、これらの潤滑方法にも本発明の効果は限定されない。なおMQLとは、潤滑油剤(切削油剤)の量が1時間当たり200cm3以下であることを指すが、実際の鋼材の加工においては潤滑油剤の量を1時間当たり約50cm3以下として実施することも多い。潤滑油剤の塗布方法は潤滑油を空気と混合してミスト状にして噴射する方法が一般的である。場合によってはミスト状の水も混合させても良い。
(insol.Al:0.0011〜0.0060%)
本発明の機械構造用鋼では、金属Inの形態を制御するため、鋼に含有されるAlを、Al23として鋼中に分散させている。本発明の機械構造用鋼においては、酸不溶性Alであるinsol.Alを、Al23として存在するAlの量とみなされ、その量が測定される。本発明においては、所定サイズの金属Inを十分確保するうえでは、insol.Alを0.0011%以上とすることが好ましい。また、insol.Alが多い場合は粗大な酸化物が残存しやすくなり、疲労特性が低下することが懸念される。このため、insol.Alは0.0060%以下であることが好ましい。
insol.Alは酸不溶性残さをICP(誘導結合プラズマ)分析することにより測定する。本実施の形態では、採取した試料を王水で分解した後、溶液をろ紙(5種C)を用いてろ過することで得られる。抽出された残さを融解合剤を用いて加熱融解した後、融解物を冷却して固体化する。次に、前記固体化した融解物を硝酸等を用いて溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)分析により測定する。なお、使用する試薬や試料調整はJIS G 1257:2013 鉄及び鋼−原子吸光分析方法を参考にしても良い。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1−1及び表1−2に示す成分組成の鋼を70トン転炉で一次精錬を実施し、取鍋に出鋼した。各製造番号の鋼について、アルミ脱酸専用鍋を用いたか否かについて表2−1及び表2−2に示す。具体的に、表2−1及び表2−2中の「取鍋」欄において、「適用」はアルミ脱酸専用鍋を用いたことを、「非適用」はアルミ脱酸専用鍋ではない取鍋を用いたことを示す。尚、使用した取鍋は、どちらも鋼製のケーシングに多孔質の耐熱性セラミックスが内張された構造を有したものである。アルミ脱酸専用鍋は、過去にSiやCa等を用いた脱酸に用いられていないものである。
各製造番号の鋼について、取鍋に出鋼後直ちにアルミ脱酸剤を添加し(第1の脱酸処理)、その後脱硫処理を実施した。使用したアルミ脱酸剤中のAl含有量について表2−1及び表2−2に示す。具体的に、表2−1及び表2−2中の「アルミ脱酸剤」欄において、「適用」はアルミ脱酸剤中のAl含有量が80%以上であることを、「非適用」はアルミ脱酸剤中のAl含有量が80%未満であることを示す。
脱硫処理後、第2の脱酸処理として、真空脱ガス処理中にアルミ脱酸剤を添加した。第2の脱酸処理においても、第1の脱酸処理に用いられたアルミ脱酸剤が用いられた。ここで、各製造番号の鋼について、真空脱ガス処理中に添加するアルミ脱酸剤の割合を、表2−1及び表2−2に示す。具体的に、表2−1及び表2−2中の「脱酸剤配分」欄において、「適用」は真空脱ガス処理中に添加するアルミ脱酸剤が、添加するアルミ脱酸剤全体の50%以上であることを、「非適用」は真空脱ガス処理中に添加するアルミ脱酸剤が、添加するアルミ脱酸剤全体の50%未満であることを示す。
さらに、各製造番号の鋼について、真空脱ガス処理中にアルミ脱酸剤を添加してからSiを添加するまでの時間を示す。具体的に、表2−1及び表2−2中の「Si添加タイミング」欄において、「適用」は真空脱ガス処理中にアルミ脱酸剤を添加してからSiを添加するまでの時間が10分以上であることを、「非適用」は真空脱ガス処理中にアルミ脱酸剤を添加してからSiを添加するまでの時間が10分未満であることを示す。
各製造番号の鋼について、出鋼後のアルミ脱酸剤添加から鋳造開始までの、溶鋼温度が1600℃以上の時間を表2−1及び表2−2に示す。具体的に、表2−1及び表2−2中の「溶鋼の保持時間」欄において、「適用」は出鋼後の第1の脱酸処理の開始から鋳造開始までの、溶鋼温度が1600℃以上の時間が、15〜60分であることを、「非適用」は出鋼後のアルミ脱酸剤添加から鋳造開始までの、溶鋼温度が1600℃以上の時間が、15分未満であることを示す。
続いて、各製造番号の鋼について、連続鋳造機を用いて、連続鋳造法により溶鋼から鋳片(ブルーム)を製造した。ブルームの横断面は300mm×400mmであった。製造された鋳片を熱間圧延してビレッ卜を製造した。ビレッ卜を1150℃で35分加熱し、その後、仕上げ圧延機を用いて仕上げ圧延を実施して直径100mmの棒鋼を製造した。
直径100mmの棒鋼を、60mm×60mmの断面サイズの角型の棒鋼、及びΦ50の丸型の棒鋼の2種類の形状に熱間鍛造した。鍛造後の棒鋼は、1100℃で1時間保持し、その後空冷する加熱放冷処理を実施した。
角型の棒鋼を長さ方向と垂直な断面で切断し、得られた角形断面上の、中心部から幅方向に15mm且つ厚み方向に15mm離れた位置(以下、「中間位置」という。)を観察できるように試料を切り出して樹脂に埋め、研磨した後、同位置のビッカース硬さをJIS Z 2244:2009に準拠し測定した。なお、測定荷重は10kg重で行った。また、同様にして試料を切り出し、ナイタール腐食の後、当該試料の断面の中間位置を光学顕微鏡で組織観察した。
また、上記角型の棒鋼から、所定サイズの試料を切削により取得し、前記試料に含有されるinsol.Alの量を前述した方法により測定した。
硬さ測定の結果を「切削前の硬さ」として表2−1及び表2−2に示す。なお、表中の「切削前の硬さ」とは、上記中間位置にて硬さ測定を3回行い、その平均値を「切削前の硬さ」として評価した。表2−1及び表2−2の「フェライト−パーライト」はフェライト及びパーライトの混合組織であり、「パーライト」はパーライト単相の組織であることを意味する。本実施例で用いた切削前の鋼材の組織はフェライト及びパーライトの混合組織、あるいはパーライト単相の組織であった。
平均粒径2.0μm以上の金属Inの数密度(個/mm2)を表2−1及び表2−2に示す。金属Inの数密度は、上記角棒から、軸方向を含む断面(縦断面)を、深さ15mm位置から切り出し、被検面積の合計を10mm2としてサンプルを採取し、上述の方法で求めた。
試料の観察面は腐食させず、そのまま200倍の走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、写真画像を撮影した。写真画像では、約600μm×450μmの視野で38視野を観察した。前記写真画像から金属Inを特定して、画像解析装置を用いて、2.0μm以上の円相当径を有する金属Inの個数を求め、被検面積の合計(10mm2)で除した値を数密度(個/mm2)とした。
次に、上記棒鋼に対し、切削試験を行った。具体的には、上記の加熱放冷処理後の角型の棒鋼から切り出した50×50×115mmの角型試験片に対し、直径が4.98mm、全長が170mm、刃長が124mmの油穴付き超硬コーティングドリルを用いて、下記の条件で切削加工を行った。
周速:90m/分
送り:0.15mm/rev
穴深さ:100mm
潤滑条件:MQL(生分解性の高い合成エステルを約1.0cm3/時の割合でドリル油穴から内部給油で塗布)
なお、前記切削試験前に、角型試験片に対して、直径が5.0mm、深さが15mmのガイド穴を形成した。したがって、先に述べた穴深さとしての100mmには、このガイド穴の深さが含まれている。上記の条件で切削加工した際の切削抵抗(トルク)の測定値と、切りくずをランダムに20個採取して重量を測定し、切りくず1個当たりの重量の値で被削性を評価した。切削抵抗及び切りくず重量とも、小さな値の方が被削性に優れることを意味する。
本発明に係る機械構造用鋼は、切削加工後に熱処理を行なわずに部材として使用される場合、及び焼入れ焼戻しなどの熱処理をして使用される場合の両方を想定している。すなわち、「切削前の硬さ」はもちろん、切削後に熱処理を施した場合の硬さも確保できることが望ましい。そのため、焼入れ焼戻し後の硬さを以下のように調べた。
上述した加熱放冷処理後の角型の棒鋼の上記中間位置に相当する部位が円形断面の中心となるように、Φ10×50mmの丸棒試験片を切り出し、その試験片を950℃で30分間保持後に水焼入れし、その後に550℃で90分間保持する焼戻し処理を実施した。続いて、その試験片の長さ方向と垂直な円形断面を観察できるように試料を切り出して樹脂に埋め、研磨した後、円形断面の円の中心と鋼表面との中間にある位置のビッカース硬さをJIS Z 2244:2009に準拠し、3回測定した。なお、測定荷重は10kg重で行った。その平均値を、表2−1及び表2−2中に「焼入れ焼戻し後の硬さ」として示した。本発明の機械構造用鋼の焼入れ焼戻し後の硬さはいずれも250HV以上であり、部材として使用されるために、十分な強度特性を有している。
さらに熱間延性の調査を次のように高温引張試験にて実施した。Φ50の加熱放冷処理後の丸型の棒鋼から、Φ10×170mmの引張試験片を棒鋼の長さ方向に沿って作製した。引張試験片の作製にあたっては、丸型の棒鋼の断面における中心と外周との中間地点が、引張試験片の円形断面の中心に位置するように切削加工した。熱間延性は1250℃に加熱して1分間保持後、1000℃まで温度を下げ、1000℃に達した後に1分間保持後に歪速度が5×10-3/sで引張試験を行い、その絞りの値により評価した。絞りが60%以上であれば熱間延性が合格(”OK”)であり、60%未満であれば不合格(”NG”)とした。
Figure 2021134418
Figure 2021134418
Figure 2021134418
Figure 2021134418
表1−2中で、本発明の条件を満たさないものについては、下線を引いて示す。切削前の硬さ、鋼材組織、切削抵抗、切りくず重量、高温引張試験の結果、焼入れ焼戻し後の硬さは表2−1及び表2−2に示した。
なお、切削抵抗や切りくず重量などの被削性は硬さに影響されることが一般的である。また、本発明は、熱間延性を確保する必要がある。そこで、被削性の良否は、熱間延性が合格であることを前提として、切削前の硬さが同程度の鋼材をもって比較評価することにした。図1、図2の発明例と比較例(但し、熱間延性が合格(OK)である比較例)とを同程度の切削前の硬さにおいて比較すると、発明例は比較例に比べて切削抵抗が低く、且つ切りくず重量が小さくなっていることが確認できる。以下、熱間延性が合格である比較例に対して切削前の硬さの差が±5HVの範囲内にある発明例を「切削前の硬さが比較例と同程度」とする。
番号22〜24の鋼はIn含有量が不足しているため、所定サイズの金属Inを十分確保できなかった。その結果、切削前の硬さが同程度の発明例の鋼に対して切削抵抗が高く、且つ切りくず重量も大きい。番号22は番号4及び11、番号23は番号3、5、7、9及び10、番号24は番号14と切削前の硬さが同程度である。比較例である番号22〜24の鋼では、それぞれ硬さが同程度の鋼に比べ、切削抵抗が5.0Ncm以上高く、また切りくず1個あたりの重量も30%以上大きい。
番号25、26の鋼はIn含有量が過剰であり、[S%]+[In%]の値が大きくなったため、高温引張試験での絞り値が不合格である。すなわち、熱間延性を十分確保できなかった。
番号27、28及び29の鋼のIn含有量は発明の範囲内であるが、[S%]+[In%]の値が大きくなったため、高温引張試験での絞り値が不合格である。なお、番号29の鋼はS含有量も発明の範囲外である。
番号30はアルミ脱酸剤中のAl含有量が低すぎた。そのため、所定サイズの金属Inの個数密度が低すぎた。これは、Al23以外の酸化物が生じてinsol.Alの値が低くなったことによると考えられる。その結果、切削前の硬さが同程度の発明例である番号15及び18の鋼に対して切削抵抗が5.0Ncm以上高く、且つ切りくず重量も30%以上大きい。
番号31は取鍋にアルミ脱酸専用鍋を用いなかった。そのため、所定サイズの金属Inの個数密度が低すぎた。これは、Al23以外の酸化物が生じてinsol.Alの値が低くなったことに因ると考えられる。その結果、切削前の硬さが同程度である発明例の番号2及び20の鋼に対して切削抵抗が5.0Ncm以上高く、且つ切りくず重量も30%以上大きい。
番号32は真空脱ガス処理中にアルミ脱酸剤を添加してからSiを添加するまでの時間が短すぎた。そのため、Al23以外の酸化物が生じてinsol.Alの値が低くなった。その結果、所定サイズの金属Inの個数密度が低すぎた。その結果、切削前の硬さが同程度である発明例の番号2、19及び20の鋼に対して切削抵抗が5.0Ncm以上高く、且つ切りくず重量も30%以上大きい。
番号33は添加されるアルミ脱酸剤の総量に比べ、第2の脱酸処理において添加されるアルミ脱酸剤の割合が低すぎた。そのため、形成されたAl23が十分に鋼中に分散できず、所定サイズの金属Inの個数密度が低すぎた。その結果、切削前の硬さが同程度である発明例の番号2、19及び20の鋼に対して切削抵抗が5.0Ncm以上高く、且つ切りくず重量も30%以上大きい。
番号34は出鋼後のアルミ脱酸剤添加から鋳造開始までの、溶鋼温度が1600℃以上の時間が短すぎた。そのため、Al23以外の酸化物が生じてinsol.Alの値が低くなり、所定サイズの金属Inの個数密度が低すぎた。その結果、切削前の硬さが同程度である発明例の番号3、5、7、10、17及び21の鋼に対して切削抵抗が5.0Ncm以上高く、且つ切りくず重量も30%以上大きい。
番号35の鋼はS含有量が大きくなったため、高温引張試験での絞り値が不合格である。すなわち、熱間延性を十分確保できなかった。
番号1〜21は、成分組成が本発明の範囲内となっており、所定サイズの金属Inを十分確保できたため、切削抵抗、切りくず重量、及び高温引張試験での絞り値が良好である。
本発明によれば、特に比較的高速な切削速度で切削時の被削性と、鋼や部品製造時の熱間延性を両立した機械構造用鋼とその切削方法を提供することができる。

Claims (9)

  1. 組成が、質量%で、
    C:0.05〜0.85%、
    Si:0.01〜3.00%、
    Mn:0.01〜3.00%、
    In:0.060%超、0.250%未満、
    Al:0.002〜0.050%、
    P:0.100%以下、
    S:0.001%以上、0.150%未満、
    N:0.0030〜0.0250%、及び
    O:0.0009%超、0.0050%以下、
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ下記式(1)を満たし、鋼中に円相当径が2.0μm以上である金属Inの数密度が0.5個/mm2以上であることを特徴とする機械構造用鋼。
    0.061<[S%]+[In%]<0.250・・・(1)
    ここで、[S%]および[In%]は、それぞれSおよびInの鋼中の含有量(質量%)を表す。
  2. 前記機械構造用鋼が、質量%で、
    insol.Al:0.0011〜0.0060%を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
  3. 前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
    Cr:3.00%以下を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用鋼。
  4. 前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
    Ca:0.0050%以下、
    Mg:0.0050%以下、
    Zr:0.0050%以下、及び
    REM:0.0050%以下
    からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  5. 前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
    Ti:1.000%以下、
    Nb:1.000%以下、及び
    V:1.000%以下
    からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  6. 前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
    Mo:1.00%以下、
    Ni:1.40%以下、
    Cu:1.40%以下、及び
    B:0.0050%以下
    からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  7. 前記機械構造用鋼が、さらに、質量%で、
    Sb:0.5000%以下、
    Se:0.5000%以下、
    Te:0.5000%以下、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、及び
    Zn:0.5000%以下
    からなる群から選択された1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  8. 断面における鋼の表面から0.5mm以上離れた位置のビッカース硬度が120〜320HVであることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  9. 請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の機械構造用鋼を60m/分以上の切削速度で切削することを特徴とする機械構造用鋼の切削方法。
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