JP4256779B2 - ポリグリコール酸組成物 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、溶融安定性に優れ、溶融時に低分子量物に起因するガスの発生が抑制されたポリグリコール酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸は、分子鎖中に脂肪族エステル結合を含んでいるため、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されることが知られている。近年、プラスチック製品の増大に伴い、プラスチック廃棄物の処理が大きな課題となっているが、ポリグリコール酸は、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。
【0003】
また、ポリグリコール酸は、生体内分解吸収性を有しており、手術用縫合糸、人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている(U.S. Patent No. 3,297,033)。
【0004】
ポリグリコール酸は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコール酸塩の脱塩重縮合などにより製造することができる。
【0005】
また、ポリグリコール酸は、グリコール酸の二分子間環状エステル(「環状二量体」ともいう)であるグリコリドを合成し、該グリコリドを開環重合する方法により製造することができる。グリコリドの開環重合法によれば、高分子量のポリグリコール酸(「ポリグリコリド」ともいう)を効率よく製造することができる。
【0006】
ポリグリコール酸は、他の脂肪族ポリエステルなどの生分解性高分子材料に比べて、耐熱性、ガスバリヤー性、機械的強度等に優れているため、シート、フィルム、容器、射出成形品などとして、新たな用途展開が図られている〔特開平10−60136号公報(U.S. Patent No. 5,853,639に対応)、特開平10−80990号公報(U.S. Patent No. 6,245,437に対応)、特開平10−138371号公報、特開平10−337772号公報(U.S. Patent Nos. 6,001,439 and 6,159,416に対応)〕。
【0007】
しかし、ポリグリコール酸の製造技術は、汎用の高分子材料に比べて充分に確立していないため、その熱的特性が必ずしも溶融加工や延伸加工などに適していない。また、ポリグリコール酸は、溶融加工時にガスを発生する傾向があるなど、溶融安定性が不充分である。
【0008】
ポリグリコール酸の単独重合体、及びポリグリコール酸の繰り返し単位の含有割合が高い共重合体は、結晶性の重合体である。このような結晶性ポリグリコール酸は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、溶融状態から降温する過程で検出される結晶化温度Tc2が高く、融点Tmと結晶化温度Tc2との間の温度差(Tm−Tc2)が比較的小さい。この温度差が小さい重合体は、一般に、射出成形する場合には、結晶化速度が速いため、射出サイクル率を高めることができるという利点を有している。しかし、このような重合体は、シート、フィルム、繊維などに押出成形する場合には、溶融状態から冷却する際に結晶化しやすく、非晶プリフォームが得難いので、透明な成形品を得ることが困難である。
【0009】
また、結晶性ポリグリコール酸は、DSCを用いて、その非晶物を昇温する過程で検出される結晶化温度Tc1とガラス転移温度Tgとの間の温度差(Tc1−Tg)が比較的小さい。この温度差が小さい重合体は、一般に、シート、フィルム、繊維などを延伸したり、延伸ブロー成形したりする場合、延伸可能な温度領域が狭いという問題がある。
【0010】
そのため、従来の結晶性ポリグリコール酸を用いて、溶融加工や延伸加工する場合には、成形温度や延伸温度などの成形条件が狭い範囲に限定されるという問題があった。
【0011】
具体的に、発明者らは、米国特許第2,668,162号明細書の実施例1に開示されている製造方法に従ってポリグリコール酸を製造し、DSCを用いて該ポリグリコール酸の熱的特性を調べたところ、融点Tmが約222℃であるのに対して、融点より30℃高温である252℃での溶融状態から10℃/分の降温速度で冷却したときの結晶化による発熱ピーク温度である結晶化温度Tc2は、192℃であった。したがって、このポリグリコール酸は、その融点Tmと結晶化温度Tc2との差(Tm−Tc2)が30℃程度である。
【0012】
また、上記ポリグリコール酸を252℃に加熱した後、23℃に水冷却したプレスで挟み込んで冷却シートを作成したところ、シートにポリグリコール酸の結晶化が見られ、透明な非晶シートを得ることができなかった。溶融プレス後、約4℃に保った水中で急冷することにより、ようやく透明な非晶シート(非晶フィルム)を得ることができた。DSCを用いて、該非晶シートを昇温する過程で検出される結晶化温度Tc1を測定したところ、約75℃であり、ガラス転移温度が約40℃であった。したがって、このポリグリコール酸は、その結晶化温度Tc1とガラス転移温度Tgとの間の温度差(Tc1−Tg)が35℃程度である。
【0013】
さらに、ポリグリコール酸は、溶融安定性が充分ではなく、溶融加工時にガスを発生しやすい傾向を有している。より具体的に、従来のポリグリコール酸は、加熱時の重量減少率が3%に達するときの温度が300℃前後である。しかも、触媒失活剤、結晶核剤、可塑剤、酸化防止剤などの添加剤の多くは、ポリグリコール酸の溶融安定性を低下させることが判明した。
【0014】
ポリグリコール酸の溶融安定性が不充分であると、射出成形、押出成形、プレス成形などの成形工程において、成形温度などの成形条件が狭い範囲に限定され、得られた成形品の品質も低下しやすくなる。
【発明の開示】
【0015】
本発明の目的は、溶融安定性に優れ、溶融時にガスの発生が抑制されたポリグリコール酸組成物を提供することにある。
【0016】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ポリグリコール酸に、その融点Tm+38℃以上の高温度での熱履歴を与えることにより、融点Tmと結晶化温度Tc2との差(Tm−Tc2)及び結晶化温度(Tc1)とガラス転移温度Tgとの差(Tc1−Tg)を顕著に広げることができることを見出した。
【0017】
従来、ポリグリコール酸は、溶融安定性が悪く、高温条件下では熱分解や着色を生じやすいと考えられていた。そのため、ポリグリコール酸を成形する場合、その融点Tm(220℃前後)超過、Tm+30℃以下の温度(例えば、約250℃)で溶融加工されていた。したがって、ポリグリコール酸をその融点Tmよりはるかに高い温度で加熱処理することにより、前記の如き結晶性などの熱的特性を改質できることは、当業者といえども予期できない驚くべきことである。
【0018】
ポリグリコール酸は、融点Tmと結晶化温度Tc2との温度差が35℃以上、好ましくは40℃以上であり、結晶化温度Tc1とガラス転移温度Tgとの温度差が40℃以上、好ましくは45℃以上である。このような熱的特性が改質されたポリグリコール酸を用いることにより、透明性に優れたフィルムやシート、繊維などを容易に得ることができ、延伸加工も容易となる。
【0019】
本発明者らは、結晶性ポリグリコール酸に熱安定剤を添加したポリグリコール酸組成物であって、熱安定剤となる化合物を選択することにより、該ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度T2と、該ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度T1との差(T2−T1)が5℃以上であるポリグリコール酸組成物の得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0020】
ポリグリコール酸に熱履歴を与える前記方法と、熱安定剤を添加する方法とを併用すると、熱的特性が改質されるとともに、溶融安定性が改善されたポリグリコール酸組成物を得ることができる。また、ポリグリコール酸に、その融点Tm超過、Tm+100℃以下の温度範囲内で熱履歴を与えることにより、該ポリグリコール酸の結晶化温度Tc2などの結晶性を任意に制御することができる。
【0021】
かくして、本発明によれば、結晶性ポリグリコール酸100重量部に対し、熱安定剤0.001〜5重量部を含有するポリグリコール酸組成物であって、該熱安定剤が、重金属不活性化剤、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル、及び少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、かつ、該ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度T2と、該結晶性ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度T1との差(T2−T1)が5℃以上であることを特徴とするポリグリコール酸組成物が提供される。
【0022】
1.ポリグリコール酸
本発明で使用するポリグリコール酸は、式(I)
【0023】
【化6】
【0024】
で表される繰り返し単位を有する単独重合体または共重合体である。
【0025】
ポリグリコール酸の式(I)で表される繰り返し単位の含有割合は、好ましくは55重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。式(I)で表される繰り返し単位の含有量が少なすぎると、ポリグリコール酸が本来有するガスバリヤー性、耐熱性、結晶性などの特性が損なわれる。
【0026】
本発明で使用するポリグリコール酸は、融点を有する結晶性ポリマーである。このようなポリグリコール酸は、グリコール酸、グリコール酸アルキルエステル、またはグリコール酸塩を重縮合する方法により製造することができる。
【0027】
また、ポリグリコール酸は、式(II)
【0028】
【化7】
【0029】
に示されるように、グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合することにより製造することができる。
【0030】
開環重合は、少量の触媒の存在下に行うことが好ましい。触媒としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化スズ(例えば、二塩化スズ、四塩化スズなど)、有機カルボン酸スズ(例えば、オクタン酸スズ、オクチル酸スズ)などのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;などを挙げることができる。
【0031】
特に、シート、フィルム、繊維などの成形物で、高い強度が求められる場合には、ポリグリコール酸の合成法として、比較的高分子量体が得られやすいグリコリドの開環重合法を採用することが好ましい。グリコリドを単独で開環重合することにより、ポリグリコール酸の単独重合体(即ち、ポリグリコリド)を得ることができる。
【0032】
ポリグリコール酸としてグリコール酸の共重合体を製造するには、グリコリドやグリコール酸などのモノマーと各種コモノマーとを共重合させる。コモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン−2−オン(即ち、p−ジオキサノン)、5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−オンなどの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。グリコリドとグリコール酸を併用してもよい。
【0033】
これらの中でも、共重合させやすく、物性に優れた共重合体が得られやすい点で、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、p−ジオキサノン、5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−オンなどの環状化合物;乳酸などのヒドロキシカルボン酸などが好ましい。
【0034】
コモノマーは、全仕込みモノマーの通常45重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下の割合で使用する。コモノマーの割合が大きくなると、生成する重合体の結晶性が損なわれやすくなる。ポリグリコール酸は、結晶性が失われると、耐熱性、ガスバリヤー性、機械的強度などが低下する。
【0035】
結晶性ポリグリコール酸の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、管状型、平板型(四角形、特に、長方形)など様々な装置の中から、適宜選択することができる。
【0036】
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜250℃、より好ましくは140〜220℃、特に好ましくは150〜200℃である。重合温度が高くなりすぎると、生成したポリマーが熱分解を受けやすくなる。
【0037】
重合時間は、2分間〜50時間、好ましくは3分間〜30時間、より好ましくは5分間〜18時間の範囲内である。重合時間が短すぎると、重合が充分に進行し難く、長すぎると、生成ポリマーが着色しやすくなる。
【0038】
ポリグリコール酸は、シート、フィルム、ボトルなどに成形するために、重合後、固体を粒度の揃ったペレットの形状に賦形することが好ましい。ペレット化工程において、ポリグリコール酸の溶融温度を制御することにより、プロセスの大幅な変更を伴うことなく結晶性の制御されたポリグリコール酸を得ることができる。
【0039】
2.改質ポリグリコール酸
結晶性ポリグリコール酸は、DSCを用いて、10℃/分の昇温速度で加熱する過程で検出される結晶の融解による吸熱ピークの極大点として定義される融点Tmと、溶融状態から10℃/分の降温速度で冷却する過程で検出される結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc2との差(Tm−Tc2)が35℃以上である。
【0040】
また、結晶性ポリグリコール酸は、DSCを用いて、非晶フィルムを10℃/分の昇温速度で加熱する過程で検出される結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc1と、当該過程で検出される熱量曲線の2次転移点の温度として定義されるガラス転移温度Tgとの差(Tc1−Tg)が40℃以上である。
【0041】
熱的性質を表す数値は、メトラー社製の示差走査熱量計(DSC;TC10A)を用いて測定した値である。より具体的な測定法に照らして説明すると、融点Tmとは、DSCを用いて、窒素雰囲気下、50℃から10℃/分の昇温速度で加熱したときに、熱量曲線に表われる結晶の融解による吸熱ピークの極大点を示す温度を意味する〔図1(a)〕。
【0042】
結晶化温度Tc2とは、DSCを用いて、窒素雰囲気下、結晶の融解ピークが消失する融点より30℃高い温度まで、50℃から10℃/分の昇温速度で加熱し、その温度で2分間保持した後、10℃/分の降温速度で冷却した場合に、熱量曲線に表われる結晶化による発熱ピークの極大点を示す温度を意味する〔図1(b)〕。
【0043】
結晶化温度Tc1とは、ポリグリコール酸を240℃で30秒間予熱した後、5MPaの圧力で15秒間加圧してフィルム(シート)を作成し、このフィルムを直ちに氷水に投じて冷却して得た透明な固体状態の非晶フィルムを、DSCにより、窒素雰囲気下、−50℃から10℃/分の昇温速度で加熱した場合に、熱量曲線に表われる結晶化による発熱ピークの極大点を示す温度を意味する〔図1(c)〕。
【0044】
ガラス転移温度Tgとは、ポリグリコール酸を240℃で30秒間予熱した後、5MPaの圧力で15秒間加圧してフィルム(シート)を作成し、このフィルムを直ちに氷水に投じて冷却して得た透明な固体状態の非晶フィルムを、DSCにより、窒素雰囲気下、−50℃から10℃/分の昇温速度で加熱した場合に、熱量曲線に表われる2次転移点(オンセット)の温度を意味する〔図1(c)〕。
【0045】
結晶性等の熱的特性が改質されたポリグリコール酸は、融点Tmと結晶化温度Tc2との間の温度差(Tm−Tc2)が、35℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは60℃以上の結晶性ポリグリコール酸である。この温度差が小さすぎると、ポリグリコール酸の溶融加工時、溶融状態から冷却する際に結晶化しやすく、透明なシート、フィルム、繊維などを得ることが困難になる。この温度差は、ポリグリコール酸を押出加工する場合には、大きいほど好ましい。この温度差の上限は、ポリグリコール酸の組成にもよるが、通常100℃程度であり、多くの場合90℃程度である。
【0046】
熱的特性が改質されたポリグリコール酸は、昇温過程での結晶化温度Tc1とガラス転移温度Tgとの間の温度差(Tc1−Tg)が、40℃以上、好ましくは45℃以上、特に好ましくは50℃以上である。この温度差が小さすぎると、ポリグリコール酸から成形したフィルム、シート、繊維などを延伸するときやポリグリコール酸を延伸ブロー成形するときなどの延伸加工において、延伸可能な温度領域が狭くなり、適正な成形条件を設定することが困難になる。この温度差が大きいほど、延伸可能な温度領域が広くなり、延伸加工しやすくなる。この温度差の上限は、通常65℃、多くの場合60℃程度である。
【0047】
3.改質ポリグリコール酸の製造方法
前記の如き結晶性等の熱的特性が改質されたポリグリコール酸は、ポリグリコール酸に、その融点Tmより38℃以上の高温で熱履歴を与えることにより製造することができる。熱履歴温度は、好ましくは融点Tmより40℃以上の温度である。熱履歴温度の上限は、通常、融点Tm+100℃の温度である。熱履歴温度は、融点Tm+38℃からTm+100℃までの温度範囲が好ましく、Tm+40℃からTm+80℃までの温度範囲がより好ましく、Tm+45℃からTm+70℃までの温度範囲が特に好ましい。
【0048】
ポリグリコール酸が単独重合体(Tm=約222℃)の場合には、熱履歴温度は、好ましくは262〜322℃、より好ましくは265〜310℃、特に好ましくは270〜300℃である。
【0049】
熱履歴温度が低すぎると、融点Tmと結晶化温度Tc2との温度差を充分に大きくすることが困難になる。熱履歴温度が高くなるにつれて、融点Tmと結晶化温度Tc2との温度差が大きくなるものの、その温度差はやがて飽和傾向を示すため、過度に高温にする必要はなく、熱分解や着色の発生などを考慮して、322℃以下とすることが望ましい。同様に、熱履歴温度が低すぎると、結晶化温度Tc1とガラス転移温度Tgとの間の温度差を充分に大きくすることが困難になる。
【0050】
ポリグリコール酸の融点Tmを超える高温で過剰な熱履歴を与えると、熱分解や着色を招きやすくなるので、短時間に熱履歴を与えることが好ましい。熱履歴を与える時間は、好ましくは1〜100分間、より好ましくは2〜30分間の範囲内である。熱履歴を与える時間が短すぎると、熱履歴が不充分となって、結晶性などの熱的特性が充分に改質されなくなることがある。
【0051】
ポリグリコール酸に熱履歴を与える時期は、特に限定されず、重合時、重合後のペレット化時、成形時などにおいて、適宜実施することができる。また、同じポリグリコール酸に対して、複数回の熱履歴を与えてもよい。
【0052】
ポリグリコール酸に熱履歴を与える具体的な方法としては、例えば、(i)重合時に生成重合体を熱履歴温度までに加熱する方法、(ii)ポリグリコール酸を熱履歴温度で溶融混練する方法、(iii)ポリグリコール酸を熱履歴温度で溶融押出してペレット化する方法、(iv)成形温度を熱履歴温度に調整する方法、(v)これらを組み合わせた方法などが挙げられる。
【0053】
これらの中でも、ポリグリコール酸を熱履歴温度で溶融混練する方法や、ポリグリコール酸を熱履歴温度で溶融押出してペレット化する方法などが好ましい。ペレット化する方法では、ポリグリコール酸の溶融温度を制御することにより、プロセスの大幅な変更を伴うことなく結晶性の制御されたポリグリコール酸を得ることができる。ポリグリコール酸を熱履歴温度で溶融混練する方法では、その後、通常の溶融温度(単独重合体の場合、230〜250℃程度)でペレット化することができる。
【0054】
結晶性ポリグリコール酸の溶融安定性を向上させつつ、熱履歴を与える方法としては、
(1)グリコリドを溶融状態で開環重合する工程、
(2)生成したポリマーを溶融状態から固体状態に変換する工程、及び
(3)所望により、固体状態でさらに固相重合する工程
によりポリグリコール酸を調製し、次いで、
(4)固体状態の結晶性ポリグリコール酸を、その融点Tm+38℃以上、好ましくはTm+38℃からTm+100℃までの温度範囲内で溶融混練する工程により熱履歴を与える方法が望ましい。
【0055】
固相重合とは、ポリグリコール酸の融点未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0056】
本明細書に開示されている製造方法によれば、ポリグリコール酸の結晶性などの熱的特性を改質することができる。従来のポリグリコール酸単独重合体を例にとると、図2に示すように、DSCによる昇温過程で検出される融点Tmが約220℃であり〔図2(a)〕、降温過程で検出される結晶化温度Tc2が約190℃であり〔図2(b)〕、昇温過程で検出される結晶化温度Tc1が約74℃であり〔図2(c)〕、昇温過程で検出されるガラス転移温度Tgが約39℃である〔図2(c)〕。
【0057】
これに対して、ポリグリコール酸単独重合体に高温での熱履歴を与えると、図1に示すように、その融点Tmは、約220℃で実質的に変動がないけれども〔図1(a)〕、結晶化温度Tc2が例えば150℃にまで大幅に低下し〔図1(b)〕、結晶化温度Tc1が例えば95℃にまで上昇し〔図1(c)〕、ガラス転移温度Tgは、約39℃で実質的に変動していない〔図1(c)〕ポリグリコール酸を得ることができる。
【0058】
また、ポリグリコール酸単独重合体に250℃程度の比較的低い温度で熱履歴を与えると、再度、融点Tmを測定した場合、図3(b)に示すように、融解による吸熱ピークが2つに分裂したり、ショルダーが表われる。これに対して、ポリグリコール酸単独重合体に例えば260〜300℃程度の高温の熱履歴を与えると、再度、融点Tmを測定した場合、図3(a)に示すように、融解による吸熱ピークが単一になる。したがって、結晶性ポリグリコール酸に充分な熱履歴が与えられたことは、その融点Tmの吸熱ピークの形状を測定することによっても確認することができる。
【0059】
4.ポリグリコール酸の結晶性の制御方法
結晶性ポリグリコール酸に、その融点Tm超過、Tm+100℃以下の温度範囲内で1〜100分間の熱履歴を与えると、該ポリグリコール酸の結晶性を制御することができる。
【0060】
重合時の熱履歴が融点Tm+38℃未満の温度の場合、重合後に溶融してペレット化する時にTm+38℃以上の温度での熱履歴を与えると、熱履歴温度を調整することにより、結晶化温度を調整することができる。したがって、一つの重合方法で、射出成形や押出成形など様々な成形方法に適した結晶化温度を有するポリグリコール酸を作り分けることが可能になる。
【0061】
ポリグリコール酸の結晶性を制御する好ましい方法としては、
(1)グリコリドを溶融状態で開環重合する工程、
(2)生成したポリマーを溶融状態から固体状態に変換する工程、及び
(3)所望により、固体状態でさらに固相重合する工程
によりポリグリコール酸を調製し、次いで、
(4)固体状態の結晶性ポリグリコール酸を加熱下に溶融混練する工程により熱履歴を与える方法を挙げることができる。
【0062】
この工程(4)において、加熱温度を制御することにより、結晶性が制御されたポリグリコール酸を得ることができる。加熱は、ポリグリコール酸の融点にもよるが、通常、Tm超過、Tm+100℃以下の温度範囲内で行われる。ポリグリコール酸単独重合体の場合には、220℃超過、320℃以下の温度範囲内で加熱される。
【0063】
加熱温度と結晶性との関係は、DSCにより結晶化温度Tc2を測定することにより簡単に確認することができる。DSCを用いる加熱温度の決定方法は、極少量の試料と短い時間で求めることができるため、開発や工程管理に有効な手段となりうる。
【0064】
5.溶融安定性ポリグリコール酸組成物
本発明では、結晶性ポリグリコール酸に熱安定剤を添加することにより、溶融安定性に優れたポリグリコール酸組成物を得ることができる。即ち、本発明によれば、結晶性ポリグリコール酸100重量部に対し、熱安定剤0.001〜5重量部を含有するポリグリコール酸組成物であって、該熱安定剤が、重金属不活性化剤、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル、及び少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、かつ、該ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度T2と、該結晶性ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度T1との差(T2−T1)が5℃以上であるポリグリコール酸組成物が提供される。
【0065】
また、結晶性ポリグリコール酸と安定剤とを含有するポリグリコール酸組成物に、該結晶性ポリグリコール酸の融点Tm+38℃以上の温度での熱履歴を与えることにより、
(i)DSCを用いて、10℃/分の昇温速度で加熱する過程で検出される結晶の融解による吸熱ピークの極大点として定義される融点Tmと、溶融状態から10℃/分の降温速度で冷却する過程で検出される結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc2との差(Tm−Tc2)が35℃以上である結晶性ポリグリコール酸を含有し、かつ
(ii)該ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度T2と、該ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度T1との差(T2−T1)が5℃以上である
ポリグリコール酸組成物を製造することができる。
【0066】
さらに、上記熱履歴により、溶融安定性に優れるとともに、DSCにより非晶フィルムを10℃/分の昇温速度で加熱する過程で検出される結晶化による発熱ピークの極大点として定義される結晶化温度Tc1と、当該過程で検出される熱量曲線の2次転移点の温度として定義されるガラス転移温度Tgとの差(Tc1−Tg)が40℃以上の結晶性ポリグリコール酸を得ることができる。
【0067】
このような溶融安定性に優れ、結晶性が改質されたポリグリコール酸は、
(1)グリコリドを溶融状態で開環重合する工程、
(2)生成したポリマーを溶融状態から固体状態に変換する工程、及び
(3)所望により、固体状態でさらに固相重合する工程
によりポリグリコール酸を調製し、次いで、
(4)固体状態の結晶性ポリグリコール酸と熱安定剤とを混合し、該結晶性ポリグリコール酸の融点Tm+38℃以上の温度、好ましくはTm+38℃からTm+100℃までの温度範囲内で溶融混練する工程により熱履歴を与える方法により好適に得ることができる。
【0068】
ポリグリコール酸は、溶融安定性が充分ではなく、溶融加工時にガスを発生しやすい傾向を有している。従来のポリグリコール酸は、加熱時の重量減少率が3%に達するときの温度が300℃前後である。しかも、触媒失活剤、結晶核剤、可塑剤、酸化防止剤などの添加剤の多くは、ポリグリコール酸の溶融安定性を低下させる。
【0069】
したがって、ポリグリコール酸の溶融安定性を向上させるには、ポリグリコール酸に添加して組成物としたとき、該ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度T2と、該ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度T1との間の温度差(T2−T1)が5℃以上になるような熱安定剤を選択する必要がある。
【0070】
このような熱安定剤は、従来からポリマー用の酸化防止剤として知られている化合物の中から選択することができるが、ポリマーの熱安定剤として用いられていなかった重金属不活性剤や触媒失活剤、核剤などの中からも選択することができる。
【0071】
熱安定剤としては、重金属不活性化剤、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル、少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物などが好ましい。これらの化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
ホスファイト系酸化防止剤などのリン系化合物の多くは、むしろポリグリコール酸の溶融安定性を阻害する作用を示すことが判明した。これに対して、下記式(III)
【0073】
【化8】
【0074】
で表されるペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステルは、特異的にポリグリコール酸の溶融安定性を向上させる作用を示す。
【0075】
このようなペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステルの具体例としては、式(1)
【0076】
【化9】
【0077】
で表されるサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、式(2)
【0078】
【化10】
【0079】
で表されるサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、式(3)
【0080】
【化11】
【0081】
で表されるホスファイト系酸化防止剤、及び式(4)
【0082】
【化12】
【0083】
で表されるサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイトが挙げられる。
【0084】
これらの中でも、前記式(1)で表されるサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト及び前記式(4)で表されるサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイトは、少量の添加でも、ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度を顕著に高める作用を有するため特に好ましい。
【0085】
また、リン系化合物の中では、式(IV)
【0086】
【化13】
【0087】
で表される少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物が好ましい。長鎖アルキルの炭素原子数は、8〜24個の範囲が好ましい。このようなリン化合物の具体例としては、式(5)
【0088】
【化14】
【0089】
で表されるモノまたはジ−ステアリルアシッドホスフェートが挙げられる。
【0090】
重金属不活性剤としては、例えば、式(6)
【0091】
【化15】
【0092】
で表される2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル−ベンズアミド、及び式(7)
【0093】
【化16】
【0094】
で表されるビス〔2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン〕ドデカン二酸が挙げられる。
【0096】
これらの熱安定剤の配合割合は、結晶性ポリグリコール酸100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.003〜3重量部、より好ましくは0.005〜1重量部である。熱安定剤は、極少量の添加でも溶融安定性の改善効果のあるものが好ましい。熱安定剤の配合量が多すぎると、効果が飽和したり、透明性を阻害するなどの不都合を生じるおそれがある。
【0097】
6.成形加工及び用途
本発明のポリグリコール酸組成物は、溶融加工時の熱安定性が著しく改良されており、成形加工時の温度範囲も広いので、フィルム、シート、繊維、その他の押出成形物、射出成形物、中空成形物などの各種成形物に容易に成形加工することができる。フィルムとしては、延伸フィルムや熱収縮性フィルムが好ましい。シートは、真空成形や圧空成形などのシート成形法により、トレーやカップなどの容器に二次成形加工することができる。中空成形物としては、ブロー容器や延伸ブロー容器などがある。
【0098】
本発明のポリグリコール酸組成物は、溶融安定性が顕著に優れているので、以下、主として該組成物について説明するが、結晶性ポリグリコール酸も該組成物と同様に成形加工を行い、同様の用途に適用することができる。
【0099】
フィルムは、一般に、ポリグリコール酸組成物からなるペレットをTダイなどのフラットダイ、あるいはサーキュラーダイから溶融押出することにより製造される。
【0100】
延伸フィルムは、該組成物からなるペレットを溶融押出してシートを作製し、該シートを冷却しながら延伸するか、あるいは冷却後、必要に応じて再加熱して延伸し、次いで、必要に応じて熱固定することにより製造される。製膜法としては、フラットダイを用いてシートを溶融押出し、次いで、ロール法、テンター法、またはこれらの方法を組み合わせて、該シートを一軸延伸、逐次二軸延伸、または同時二軸延伸する方法が挙げられる。また、サーキュラーダイを用いて、インフレーション法により二軸延伸する方法も採用することができる。
【0101】
延伸フィルムは、単層でもよいが、必要に応じて、他の樹脂層や紙などと積層することができる。積層法としては、ラミネート加工、コーティング、共押出などがある。アルミニウム蒸着などのドライプロセスも適用することができる。
【0102】
ラミネート加工には、ウエットラミネーション、ドライラミネーション、エクストルージョンラミネーション、ホットメルトラミネーション、ノンソルベントラミネーションなどが含まれる。コーチングには、延伸フィルムの表面に防湿コートや防湿ラミネートなどを施す方法が含まれる。
【0103】
共押出による積層では、本発明の組成物層を中間層として、他の樹脂層を内外層に配置することが好ましい。層構成としては、例えば、外層/中間層/内層の少なくとも三層構成があり、各層間には、必要に応じて接着層を配置してもよい。共押出後に延伸する場合には、積層体の全体が延伸されるので、外層及び内層を構成する樹脂として、延伸が容易な熱可塑性樹脂が選択される。
【0104】
また、外層または内層には、所望の機能に応じて、例えば、シール可能な樹脂、耐衝撃性や耐アビューズ性、耐熱性(例えば、耐ボイル性、耐レトルト性)などに優れた樹脂を配置することができる。外層、中間層、及び内層は、所望により、それぞれ複数層にすることができる。
【0105】
ラミネート加工による積層体としては、例えば、以下のような層構成のものが挙げられる。
【0106】
1)外層/中間層/内層
2)外層/中間層/防湿コート層
3)外層/中間層/防湿コート層/内層
4)防湿コート層/外層/中間層/内層
5)防湿コート層/外層/中間層/防湿コート層
6)防湿コート層/外層/中間層/防湿コート層/内層
【0107】
外層、中間層、及び内層は、それぞれ単層でもよいが、多層であってもよい。各層間には、必要に応じて接着剤層が配置される。これらの積層フィルムにおいて、その一部もしくは全部を構成する層に延伸フィルムを含み、かつ、延伸フィルムの少なくとも一つが本発明の組成物からなる延伸フィルムであることが好ましい。ガスバリヤ性などの観点から、中間層フィルムが、本発明の組成物からなる延伸フィルムであることがより好ましい。また、アルミニウム蒸着層などの金属若しくは金属酸化物などの蒸着層を最外層や中間層などに付加的に配置することができる。
【0108】
本発明のポリグリコール酸組成物からのフィルムは、未延伸フィルムであるより、延伸フィルムである方がフィルム強度や光学的特性などの観点から好適である。
【0109】
熱収縮性フィルムは、延伸フィルムを熱固定しないか、あるいは熱固定条件を調整することにより製造することができる。熱収縮性フィルムは、包材用フィルムとして好適に用いられるが、その他に、スプリットヤーンなどの紐材としても使用することができる。
【0110】
フィルムは、食品、雑貨、生理用品、医用器材、工業用部品、電子部品、精密機器などの包材用フィルム、または農業用フィルムなどに使用される。包材用フィルムは、バッグ、パウチなど袋状に成形加工してもよい。フラットフィルムや広幅のインフレーションフィルムから切り開いたフィルムは、センターシームによりチューブ状にしてから、袋状に成形加工してもよい。また、フィルムは、袋状に形成しながら、内容物を充填することができる自動包装機に適用してもよい。
【0111】
シートは、ポリグリコール酸組成物からなるペレットをフラットダイまたはサーキュラーダイからシート状に溶融押出することにより製造される。シートは、単層でもよいが、必要に応じて他の樹脂層や紙などと積層して使用される。シートは、フィルムよりも比較的厚みのある各種包材に適用することができる。シートは、真空成形などのシート成形法により、絞り比の比較的浅いトレー、絞り比の比較的深いカップなどの容器に二次加工することができる。
【0112】
積層シートの層構成としては、前述の積層フィルムと同様の層構成を挙げることができる。ラミネート加工により積層体を製造する場合には、各層をシートにすることができるが、外層、内層、中間層などのいずれか1つ以上を延伸フィルムとすることが可能である。ガスバリヤ性の観点から、中間層を本発明のポリグリコール酸組成物層とすることが好ましい。各層間には、必要に応じて接着剤層を配置することができる。また、蒸着層を付加することができる。
【0113】
射出成形物は、ポリグリコール酸組成物からなるペレットを射出成形用金型を装着した射出成形機に供給し、射出成形することにより製造することができる。射出成形物は、ポリグリコール酸の生分解性を活かす用途に使用する場合には、ポリグリコール酸単独から形成されるが、必要に応じて、他の樹脂層で被覆することもできる。射出成形物としては、例えば、日用雑貨品(例えば、食器、箱・ケース類、中空ボトル、台所用品、植木用ポット)、文房具、電化製品(各種キャビネット等)、レンジ用容器、カップ用容器などに用いられる。
【0114】
繊維としては、ポリグリコール酸を含む生分解性樹脂からなる糸、例えば、釣糸にすることができる。ポリグリコール酸からなる熱可塑性樹脂は、比較的硬いので、これを芯層にし、他の熱可塑性樹脂、例えば、比較的柔らかい生分解性樹脂を鞘層にした複合糸にすることが好ましい。
【0115】
中空成形物としては、ガスバリヤ性を有する中空容器(例えば、ボトル)がある。中空成形物としては、延伸ブロー容器が好ましい。延伸ブロー容器の製造方法としては、特開平10−337771号公報に開示されている方法などを採用することができる。
【0116】
中空成形物には、ポリグリコール酸組成物からなる単層の容器があるが、他の樹脂層との多層容器とすることができる。多層容器の場合には、一般に、ガスバリヤ性に優れたポリグリコール酸組成物層が中間層に配置される。したがって、多層容器の層構成としては、外層/中間層/内層の少なくとも三層構成があり、必要に応じて、各層間に接着剤層を配置することができる。
【0117】
中空成形物の用途としては、例えば、炭酸飲料、清涼飲料、果樹飲料、ミネラルウオーターなどの飲料用容器;食品用容器;醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、食用油、これらの混合物などの調味料用容器;ビール、日本酒、ウイスキー、ワインなどの酒類用容器;洗剤用容器;化粧品用容器;農薬用容器;ガソリン用容器;アルコール用容器;などが挙げられる。
【0118】
ポリグリコール酸組成物層を中間層とし、必要に応じて接着剤層を介して、その両側に高密度ポリエチレン樹脂層を配置した容器は、ガソリンタンクとしても使用可能である。耐熱性や透明性など要求する用途には、例えば、両側にホモポリプロピレン樹脂やコポリプロピレン樹脂などのポリプロピレン樹脂層を配置した容器にしてもよい。また、ポリエステル樹脂/ポリグリコール酸組成物/ポリエステル樹脂からなる少なくとも三層構成を有し、適宜、他の熱可塑性樹脂層や接着層を配置した層構成の容器は、ガスバリヤ性や透明性に優れているため、ビールなどのボトルとして好適である。中間層をポリエステル樹脂とポリグリコール酸組成物とのブレンド物で追加形成してもよい。このように、ポリグリコール酸組成物と共押出あるいは共射出される別の熱可塑性樹脂とのブレンド物は、目的とする用途の特性に特別な不都合を来たさない限り、中間層、表面層、接着層としてよく用いられる。これらブレンド物を使用することは、リサイクルなど環境にとって有用である。
【0119】
本発明のポリグリコール酸組成物は、発泡体に成形することができる。また、積層体や多層体において、ポリグリコール酸組成物層を発泡体層とすることができる。
【0120】
以上の如き各種成形物において、層を構成する樹脂中に乾燥剤、吸水剤などを配合してもよい。また、積層体や多層体などにおいて、脱酸素剤含有層を配置することができる。積層体や多層体において、必要に応じて用いられる接着剤層には、エポキシ化ポリオレフィンなど特開平10−138371号公報に記載の接着剤などが用いられる。
【実施例】
【0121】
以下に実施例、参考例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。物性等の測定法は、下記のとおりである。
【0122】
(1)DSC測定
熱的性質は、メトラー社製の示差走査熱量計TC10Aを用いて測定した。測定中は、乾燥窒素を50ml/分で流して、窒素雰囲気で行った。サンプルは、約10mg用い、アルミニウムパンに入れて測定した。
【0123】
融点Tmは、サンプルを50℃から10℃/分の昇温速度で加熱して測定した。結晶化温度Tc2は、サンプルを結晶の融解ピークが消失する融点より30℃高い温度まで50℃から10℃/分の昇温速度で加熱し、その温度で2分間保持した後、10℃/分の降温速度で冷却して測定した。ただし、−50℃から昇温して融点Tm及び結晶化温度Tc2を測定した場合には、その旨を明記した。
【0124】
結晶化温度Tc1は、サンプルを240℃で30秒間予熱した後、5MPaの圧力で15秒間加圧してフィルム(シート)を作成し、このフィルムを直ちに氷水に投じて冷却して透明な固体状態の非晶フィルムを得、この非晶フィルムをサンプルとして、−50℃から10℃/分の昇温速度で加熱して測定した。このとき、ガラス転移温度Tgも測定した。溶融エンタルピーは、結晶化温度Tc2と結晶化ピーク面積とから求めた。
【0125】
(2)熱重量減少温度の測定
メトラー社製の熱重量分析機TC11を用い、30℃で6時間以上真空乾燥したサンプル20mgを白金パンに入れ、乾燥窒素10ml/分の雰囲気下で50℃から400℃まで10℃/分で昇温し、その間の重量減少率を測定した。測定開始時の重量から3%減少したときの温度を3%熱重量減少温度とした。
【0126】
[参考例1]
グリコリドの開環重合により合成したポリグリコール酸(融点Tm=222℃、結晶の溶融エンタルピー=71J/g)10mgをアルミニウムパンに仕込み、50ml/分の乾燥窒素雰囲気下、50℃から所定温度まで10℃/分の速度で昇温した(第一加熱)。所定温度で2分間保持した後、10℃/分の速度で50℃まで降温した(第一冷却)。第一加熱時の結晶溶解に起因する吸熱ピークから融点Tmを求め、第一冷却時の結晶化に起因する発熱ピークから結晶化温度Tc2を求めた。所定温度を240、250、260、270、280、290、300℃と変えたときの結晶化温度Tc2と結晶化ピーク面積から求めた結晶化エンタルピー(J/g)を含む測定結果を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
表1の結果から、ポリグリコール酸に熱履歴を与えることにより、結晶化温度Tc2を制御することができることが分かる。ポリグリコール酸に260℃以上、好ましくは270〜300℃の熱履歴を与えることにより、融点Tmと結晶化温度Tc2との間の温度差を大きくすることができることが分かる。
【0129】
[参考例2]
参考例1と同じポリグリコール酸を270℃で溶融し、水冷プレスでシートに成形するとともに冷却した。その結果、透明なシートが得られ、該シートを延伸することが可能であった。
【0130】
[比較例1]
溶融温度を250℃に変えたこと以外は、参考例2と同様にポリグリコール酸を溶融し、水冷プレスでシートに成形するとともに冷却した。得られたシートは、結晶化のため不透明であり、延伸することができなかった。水冷プレスを氷水冷却プレスに変えたところ、ようやく透明なシートが得られたが、延伸することは困難であった。
【0131】
[参考例3]
グリコリドの開環重合により合成したポリグリコール酸(融点Tm=222℃、結晶の溶融エンタルピー=71J/g)10mgをアルミニウムパンに仕込み、50ml/分の乾燥窒素雰囲気下、−50℃から所定温度Aまで10℃/分の速度で昇温した(第一加熱)。所定温度で2分間保持した後、10℃/分の速度で−50℃まで降温した(第一冷却)。再び、−50℃から所定温度Bまで10℃/分の速度で昇温した(第二加熱)。所定温度Bで2分間保持した後、10℃/分の速度で−50℃まで降温した(第二冷却)。第一加熱と第二加熱の所定温度A及びBを、それぞれ250℃と250℃、250℃と280℃、280℃と250℃と変えて実験を行った。
【0132】
各々の第一加熱、第一冷却、第二加熱、第二冷却における融点Tm及び結晶化温度Tc2を表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
第一加熱と第二加熱の所定温度A及びBがそれぞれ250℃と250℃の場合(実験番号参3−1)は、融点Tmと結晶化温度Tc2との間の温度差が35℃未満と小さいが、第一加熱と第二加熱の所定温度A及びBをそれぞれ250℃と280℃(実験番号参3−2)、及び280℃と250℃(実験番号参3−3)とした場合には、融点Tmと結晶化温度Tc2との間の温度差が70℃以上に大きくなる。
【0135】
[参考例4]
グリコリド100gと4mgの二塩化スズ2水和塩をガラス製試験管に投入し、200℃で1時間攪拌した後、3時間静置して開環重合を行った。重合終了後、冷却してから生成ポリマーを取り出し、粉砕し、アセトンで洗浄した。その後、30℃で真空乾燥してポリマーを回収した。次いで、このポリマーを280℃に設定した(株)東洋精機製作所製ローラミキサー付きラボプラストミルに投入し、10分間溶融混練した。得られたポリグリコール酸(融点Tm=222℃、結晶の溶融エンタルピー=71J/g)10mgをアルミニウムパンに仕込み、50ml/分の乾燥窒素雰囲気下、−50℃から250℃まで10℃/分の速度で昇温した(第一加熱)。所定温度で2分間保持した後、10℃/分の速度で−50℃まで降温した(第一冷却)。第一加熱及び第一冷却における融点Tm及び結晶化温度Tc2は、それぞれ220℃及び150℃であり、両者間の温度差は、70℃となった。
【0136】
[比較例2]
参考例4において、溶融混練温度を280℃から240℃に変えたこと以外は、参考例4と同様にして、ポリグリコール酸に熱履歴を与えた。その結果、第一加熱及び第一冷却における融点Tm及び結晶化温度Tc2は、それぞれ223℃および190℃であり、両者間の温度差は33℃であった。
【0137】
[参考例5]
グリコリド100gと4mgの二塩化スズ2水和塩をガラス製試験管に投入し、200℃で1時間攪拌した後、3時間静置して開環重合を行った。重合終了後、冷却してから生成ポリマーを取り出し、粉砕し、アセトンで洗浄した。その後、30℃で真空乾燥してポリマーを回収した。次いで、このポリマーを280℃に設定した(株)東洋精機製作所製ローラミキサー付きラボプラストミルに投入し、10分間溶融混練した。得られたポリグリコール酸(融点Tm=222℃、結晶の融解エンタルピー=71J/g)を240℃で30秒間予熱した後、5MPaで15秒間加圧してフィルムを作成し、このフィルムを直ちに氷水に投じて冷却して透明な固体状態のフィルムを得た。このフィルムをDSCにより窒素雰囲気下、−50℃から10℃/分で昇温させて結晶化温度Tc1を測定したところ、95℃であった。また、ポリグリコール酸のガラス転移温度Tgは、39℃であった。結果を表3に示す。
【0138】
[比較例3]
参考例5において、溶融混練温度を280℃から240℃に変えたこと以外は、参考例5と同様にして、ポリグリコール酸に熱履歴を与え、次いで、フィルムを作製した。このフィルムをDSCにより窒素雰囲気下、−50℃から10℃/分で昇温させて結晶化温度Tc1を測定したところ、74℃であった。また、ポリグリコール酸のガラス転移温度Tgは、39℃であった。結果を表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
表3の結果から明らかなように、ポリグリコール酸に、その融点Tmより38℃以上、好ましくは40℃以上高い温度の熱履歴を与えることにより(参考例5)、結晶化温度Tc1とガラス転移温度Tgとの間の温度差を40℃以上に大きくすることができる。
【0141】
[実施例1]
グリコリドの開環重合により合成したポリグリコール酸(融点Tm=222℃)100重量部に対して、表4に示す各種化合物0.5重量部をそれぞれ加えてハンドブレンドした後、240℃に設定した(株)東洋精機製作所製ローラミキサー付きラボプラストミルに投入し、10分間溶融混練した。得られた各ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度を測定した。結果を表4に示す。
【0142】
【表4】
【0143】
(脚注)
(1)CDA−1:旭電化工業株式会社製の2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル−ベンズアミド〔式(6)の化合物;商品名アデカスタブCDA−1〕、
(2)CDA−6:旭電化工業株式会社製のビス〔2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン〕ドデカン二酸〔式(7)の化合物;商品名アデカスタブCDA−6〕、
(3)PEP−36:旭電化工業株式会社製のサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト〔式(1)の化合物;商品名アデカスタブPEP−36〕、
(4)AX−71:旭電化工業株式会社製のモノorジ−ステアリルアシッドホスフェート〔式(5)の化合物;商品名アデカスタブAX−71〕、
(5)NA−21:旭電化工業株式会社製の結晶核剤、ビス(2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−ヒドロキシ−12H−ジベンゾ−[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン−6−オキシド)水酸化アルミニウム塩(商品名アデカスタブNA−21)、
(6)NA−30:旭電化工業株式会社製の結晶核剤(複合物;商品名アデカスタブNA−30)、
(7)MgO:関東化学株式会社製、
(8)ミズカライザDS:水澤化学工業株式会社製のNa−A型合成ゼオライト、
(9)ステアリン酸Ca:関東化学株式会社製、
(10)NA−10:旭電化工業株式会社製の結晶核剤、リン酸ビス(4−tert−ブチルフェニル)ナトリウム(商品名アデカスタブNA−10)、
(11)NA−11:旭電化工業株式会社製の結晶核剤、リン酸2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム(商品名アデカスタブNA−11)、
(12)パインクリスタルKM−1500:荒川化学工業株式会社製のロジン系結晶核剤、
(13)Al2O3:関東化学株式会社製、
(14)SiO2:関東化学株式会社製、
(15)HP−10:旭電化工業株式会社製のホスファイト系酸化防止剤、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名アデカスタブHP−10)、
(16)2112:旭電化工業株式会社製のホスファイト系酸化防止剤、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名アデカスタブ2112)、
(17)PN−400:旭電化工業株式会社製の可塑剤、アジピン酸系ポリエステル(商品名アデカサイザーPN−400)、
(18)PEP−8:旭電化工業株式会社製のサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト〔式(4)の化合物;商品名アデカスタブPEP−8〕。
【0144】
[実施例2]
グリコリドの開環重合により合成したポリグリコール酸(融点Tm=222℃)100重量部に対して、旭電化工業株式会社製のモノorジ−ステアリルアシッドホスフェート〔式(5)の化合物;商品名アデカスタブAX−71〕0.1重量部を加え、ハンドブレンドした後、270℃に設定した(株)東洋精機製作所製ローラミキサー付きラボプラストミルに投入し、10分間溶融混練した。得られたポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度、融点Tm、結晶化温度Tc2を測定した。結果を表5に示す。
【0145】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、溶融安定性に優れ、溶融時に低分子量物に起因するガスの発生が抑制されたポリグリコール酸組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】 図1は、熱的特性が改質されたポリグリコール酸のDSCによる熱量曲線の説明図である。図1(a)は、昇温過程での吸熱ピーク(Tm)を示し、図1(b)は、降温過程での発熱ピーク(Tc2)を示し、図1(c)は、昇温過程での2次転位点(Tg)、発熱ピーク(Tc1)、及び吸熱ピーク(Tm)を示す。
【図2】 図2は、従来のポリグリコール酸のDSCによる熱量曲線の説明図である。図2(a)は、昇温過程での吸熱ピーク(Tm)を示し、図2(b)は、降温過程での発熱ピーク(Tc2)を示し、図2(c)は、昇温過程での2次転位点(Tg)、発熱ピーク(Tc1)、及び吸熱ピーク(Tm)を示す。
【図3】 図3は、高温での熱履歴を与えられたポリグリコール酸が単一の吸熱ピークを有し(a)、それに対して、比較的低温での熱履歴を与えられたポリグリコール酸が2つに分裂した吸熱ピークを有すること(b)を示す説明図である。
Claims (4)
- 結晶性ポリグリコール酸100重量部に対し、熱安定剤0.001〜5重量部を含有するポリグリコール酸組成物であって、該熱安定剤が、重金属不活性化剤、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル、及び少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、かつ、該ポリグリコール酸組成物の3%熱重量減少温度T2と、該結晶性ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度T1との差(T2−T1)が5℃以上であることを特徴とするポリグリコール酸組成物。
- 重金属不活性剤が、2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル−ベンズアミド、またはビス〔2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン〕ドデカン二酸である請求項1記載のポリグリコール酸組成物。
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