JP4254190B2 - 薄膜形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基材の薄膜形成方法に関し、特に均一な膜厚の薄膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
CRT、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、液晶画像表示装置等の画像表示装置の画面については、近年、その透過率やコントラストの向上、映り込み低減のために表面反射を低減させる反射防止技術等が多数提案されており、その一つの反射防止技術として、複数の異なる屈折率の膜を積層することによって、光の反射を減少させることが有効であるということが知られている。
【0003】
このように基材に機能性の薄膜を複数積層することにより、新たな機能を持たせることが出来、複数の機能性薄膜を有する基材は、様々な技術分野で用いられている。上記のような基材の表面に特定の機能を付与した薄膜を形成する方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、減圧下でのグロー放電を利用したプラズマCVD法などが知られている。
【0004】
近年、例えば、大気圧プラズマ放電処理薄膜形成法が、蒸着法やスパッタリング法にくらべた時の生産設備の経済性、生産操作性の観点から考案され実用化されつつある(例えば、特許文献1参照。)。大気圧プラズマ放電処理方法のメリットとしては、真空にする必要がなく、また薄膜形成速度が早いことである。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−241165号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
また、近年、上記画像表示装置の画面が大型化しつつあり、装置もそれに応じて大型化されるようになって来た。このような中で、薄膜形成した基材の膜厚の均一化が収率に大きく影響を及ぼすようになって来た。特に基材の端部(エッジ)の部分は印加される電界が、エッジが尖っていること、膜厚が急激に変化することと考えられる形成される膜厚が凸凹になり、このような部分は商品として不適切であり、裁ち落とすという無駄を生じ易い。更に裁ち落とすことによって、目的のサイズのものが出来なかったり、収率の低下で生産性のダウン、コストアップの原因となり好ましくない。
【0007】
本発明は上記のような事情に鑑みなされたものであり、本発明の第1の目的は、薄膜形成の際、基材の端部の部分の薄膜の膜厚を基材の端部以外のほとんどの部分と同じ膜厚に出来る薄膜形成方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空プラズマCVD法、大気圧プラズマ放電処理方法等如何を問わず、薄膜形成の際に、基材の端部の薄膜膜厚の不均一性をなくし、収率よく、生産性に優れた薄膜形成方法を提案するものである。
【0009】
特に、基材の大面積化に容易に対応出来る大気圧プラズマ放電処理方法による薄膜形成が好ましく、大気圧プラズマ放電処理方法は、電極の大きさを若干変えることによって小さいサイズから大面積のサイズまで対応出来、容易に大型化に対応出来るという特徴がある。
【0010】
本発明は以下の構成よりなる。
(1) 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)にガスを導入し、該放電空間に高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスに基材を晒すことにより該基材上に薄膜を形成する際に、一方の電極面と平行して相対的に移動する電極平面上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法。
【0011】
(2) 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)にガスを導入し、該放電空間に高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスを該放電空間外の処理空間に噴出させ、該処理空間において基材を該励起したガスに晒すことにより該基材上に薄膜を形成する際に、該対向電極の底面と平行して相対的に移動する架台上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法
【0012】
(3) 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)を大気圧もしくはその近傍の圧力とし、該放電空間にガスを導入して高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスにより基材上に薄膜を形成する際に、一方の電極面と平行して相対的に移動する電極平面上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法
【0013】
(4) 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)を大気圧もしくはその近傍の圧力とし、該放電空間にガスを導入して高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスを該放電空間外の処理空間に噴出させ、該処理空間において基材を該励起したガスに晒すことにより該基材上に薄膜を形成する際に、該対向電極と平行して相対的に移動する架台上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法
【0014】
(5) 前記基材の端部と前記ダミー基材の端部との距離を5mm以内として配置することを特徴とする(1)乃至(4)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0015】
(6) 前記電極の底面と前記基材の面との距離をaとし、該電極の底面とダミー基材の面までの距離をbとした時、(|a−b|/a)×100(%)が20%以内とすることを特徴とする(1)乃至(5)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0017】
) 前記基材が枚葉基材であることを特徴とする(1)乃至()の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0018】
) 前記ダミー基材片を繰り返し使用することを特徴とする(1)乃至()の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0019】
) 前記電極と前記基材が一方方向にまたは往復して相対的に移動することを特徴とする(1)乃至()の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0020】
(1) 前記ガスが放電ガスと薄膜形成ガスを主構成成分とするものであることを特徴とする(1)乃至()の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0021】
(1) 前記ガスが放電ガスを主構成成分とするものであることを特徴とする(1)乃至()の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0022】
(1) 前記ガスが薄膜形成ガスを主構成成分とするものであることを特徴とする請求項(1)乃至()の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0023】
(1) 前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つの添加ガスを含有することを特徴とする(1)または(1)に記載の薄膜形成方法。
【0024】
(1) 前記有機金属化合物が下記一般式(I)で表されるものであることを特徴とする(1)に記載の薄膜形成方法。
【0025】
一般式(I) R1 xMR2 y3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとすると、x+y+z=mであり、x=0〜mまたはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mである。
【0026】
(1) 前記一般式(I)で表される有機金属化合物が、少なくとも一つのRのアルコキシ基を有するものであることを特徴とする(1)に記載の薄膜形成方法。
【0027】
(1) 前記一般式(I)で表される有機金属化合物が、少なくとも一つのRのβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を有することを特徴とする(1)または(1)に記載の薄膜形成方法。
【0028】
(1) 前記一般式(I)で表される有機金属化合物のMの金属が、チタン(Ti)、珪素(Si)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びゲルマニウム(Ge)から選ばれる少なくとも一つのものであることを特徴とする(1)乃至(1)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0029】
(1) 前記対向電極間に印加する電界が、周波数100kHzを超える高周波電圧で、且つ1W/cm以上の電力密度を供給して放電させることを特徴とする(1)乃至(1)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0030】
19) 前記高周波電圧を印加する周波数を150kHz以上とすることを特徴とする(1)乃至(1)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0031】
(2) 前記高周波電圧をかける周波数を200kHz以上とすることを特徴とする(19)に記載の薄膜形成方法。
【0032】
(2) 前記高周波電圧をかける周波数を800kHz以上とすることを特徴とする(19)または(2)に記載の薄膜形成方法。
【0033】
(2) 前記高周波電圧をかける周波数を150MHz以下とすることを特徴とする(1)乃至(2)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0034】
(2) 前記電力密度を1.2W/cm以上とすることを特徴とする(1)に記載の薄膜形成方法。
【0035】
(2) 前記電力密度を50W/cm以下とすることを特徴とする(2)記載の薄膜形成方法。
【0036】
(2) 前記電力密度を20W/cm以下とすることを特徴とする(2)に記載の薄膜形成方法。
【0037】
(2) 前記高周波電圧が、連続したサイン波であることを特徴とする(1)乃至(2)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0038】
(2) 対向電極の少なくとも一方が誘電体で被覆されていることを特徴とする(1)乃至(2)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0039】
(2) 前記誘導体の非誘電率が6〜45の無機物であることを特徴とする(2)に記載の薄膜形成方法。
【0040】
29) 前記誘電体を被覆した電極の表面粗さRmaxが10μm以下であることを特徴とする(2)または(2)に記載の薄膜形成方法。
【0041】
本発明を詳述する。
本発明は、前述のごとく優れたメリットを有する大気圧プラズマ放電処理方法を用いて、薄膜形成の際の基材の端部の薄膜の凸凹をなくし、端から端まで膜厚が一定となる薄膜形成方法について説明する。
【0042】
基材の端部は端が尖ったエッジとなっていることから、放電集中が起こり易く、異常な薄膜堆積が起こり易い。相対的に移動している基材(例えば、基材が移動架台に搭載されて架台ごと移動するか、対向している電極が移動する)がグロー放電が起こっている中に入る際に異常放電となり、薄膜形成が乱される。
【0043】
図1は、基材がグロー放電の中に入る際に生じる異常放電の様子を示したイラスト的図である。
【0044】
図1において、固定電極2の下の移動している移動架台1Aの上の基材Fが、グロー放電3の中に入りはじめ、基材Fの端部(エッジ)Eの部分で異常放電が起こっている様を爆発マーク4Aで示している。矢印5B及び矢印5Cは基材Fの進行状況を示している。矢印5Bの後の移動架台1Bでは、グロー放電が基材の平らな部分で行われ、異常放電が起こっていない状態を示している。次の矢印5Cの後では、基材Fの終わりのエッジEにおいて異常放電(爆発マーク4C)が起こっている様子を示している。図1または以下の図において、下側の架台が移動するように図示されているが、本発明においては、上側の電極が移動してもよく、基材が相対的に移動すればよい。
【0045】
基材上に形成された膜は、基材端部ではグロー放電の異常放電等により正常な膜厚と異なる膜厚となり、更に品質的にも正常部とは異なる性能になってしまう。基材端部の膜厚異常は、電極の種類、形状、大きさ、グロー放電、基材の厚さ、材質によっても多少異なるが、膜厚がもっとも大きく影響するようである。連続して移送するフィルム基材の場合には、フィルムの両端部に起こるものの、フィルムの厚さが比較的小さいので、影響される範囲はかなり狭く、裁ち落とし幅も少なくて済む。これに対して、厚さの大きいガラス板基材のような枚葉の基材の場合には、エッジが四方にあるため、異常部分が広範囲に出来、特に四隅の角においてはそれが顕著である。
【0046】
本発明者は、この課題の解決のために、基材の端部に、基材とほぼ同じ厚さまたほぼ同程度の誘電率を有するダミー基材を該端部に接して、またはわずかに離れた近傍に配置して基材の端部に極端な孤立的なエッジを作らせないようにすることによって解決することを見いだした。
【0047】
図2は、移動架台上の基材の周辺にダミー基材を配置した平面図の一例である。図2は、移動架台1の上に基材Fを置き、そのエッジEに密着してダミー基材を周辺に配置した図である。このように密着してなくとも、以上な放電が起こらない程度にわずかに離して配置してもよい。
【0048】
図3は、ダミー基材を基材の周囲に配置してグロー放電の中を移動して薄膜形成しているイラスト的図である。
【0049】
図3は、移動架台1の上に基材Fを乗せ、該基材FのエッジEのまわりにダミー基材DFを配置して、グロー放電3の中を薄膜形成している図で、グロー放電3が乱れることなく、移動している基材の先頭から後尾まで均一なグロー放電に晒している様子を表している。
【0050】
ここでいう、グロー放電は、前述の種々の薄膜形成方法において、薄膜形成の際に発生する好ましい放電の様を表現しており、後述のような励起した薄膜形成ガスに基材面を晒すの同義である。
【0051】
本発明において、基材の端部にダミー基材を周辺に配置する端部からのダミー基材との距離は、好ましくは5mm以内であり、より好ましくは2mm以内、更に好ましいのは1mm以内である。最も好ましいのは、密着して配置することである。
【0052】
また、薄膜形成に使用する基材の表面と上方にある電極の底面との距離をaとし、架台上のダミー基材面と上方に有る電極の底面との距離bとした時、(|a−b|/a)×100(%)が20%以内として薄膜を形成することが好ましく、この程度であれば異常放電は起こりにくくなる。より好ましくは10%以内、更に好ましくは5%以内である。最も好ましいのは、差が全くない0%である。架台面が全くの平面である場合には、基材とダミー基材の厚さの差がほとんどないことが好ましく、最も好ましくは差が全くないことである。架台に段差がある場合には、上方の電極の底面と基材面及びダミー基材面との距離がほとんどないことが好ましいが、上記のように距離の割合が20%以内であることが好ましい。
【0053】
更に、基材とダミー基材の誘電率にも依存するから、基材と出来るだけ誘電率の等しいダミー基材を使用することが望まれる。本発明においては、基材が有する誘電率をcとし、ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内として薄膜形成することが好ましく、この程度あれば異常放電は起こりにくくなる。より好ましくは6%以内、最も好ましくは全く同質で誘電率の差のないものである。
【0054】
なお、図面には図示してないが、基材の端部にダミー基材端部に接して、またはわずかに離れた近傍に配置して基材の端部とダミー基材の端部との間、またはダミー基材同士の端部との間に極端な孤立的なエッジを作らせないようにテープを貼ってつなぐこともより好ましい方法である。
【0055】
本発明において、上述の方法のうち、最も扱い易くしかも安定した薄膜形成方法及び装置の代表として、大気圧プラズマ放電処理方法及び装置について述べることとする。
【0056】
本発明に係る大気圧プラズマ放電処理方法は、上述のように、対向電極間(放電空間にガスを導入して二つの電極に高周波電圧を印加し放電ガスを励起させ、放電ガスからエネルギーを受けて励起した薄膜形成ガスに基材を晒すことによって、基材上に薄膜を形成させるという方法である。このようなガスの対向電極間(放電空間)への導入の仕方、基材にどこで薄膜を形成させるか等、大まかに言って下記の四つの方法がある。しかし、本発明においてはこれらに限定されない。
【0057】
1)放電ガスと薄膜形成ガスを主構成成分とする混合ガスを放電空間に導入し、高周波電圧を印加し放電ガスと薄膜形成ガスを励起させ、該放電空間において励起した薄膜形成ガスに基材を晒す方法
2)放電ガスと薄膜形成ガスを主構成成分とする混合ガスを放電空間に導入し、高周波電圧を印加し放電ガスと薄膜形成ガスを励起させ、該放電空間から励起した薄膜形成ガスを基材のある放電空間外の処理空間にジェット状に吹き出させ、該処理空間において励起した薄膜形成ガスに基材を晒す方法
3)放電ガスを主構成成分とするガスと薄膜形成ガスを主構成成分とするガスを別々に放電空間に導入し、高周波電圧を印加し放電ガスと薄膜形成ガスを励起させ、該放電空間において励起した薄膜形成ガスに基材を晒す方法
4)放電空間に放電ガスを主構成成分のガスを導入し、高周波電圧を印加し放電ガスを励起させ、該励起したガスを放電空間外の処理空間にジェット状に吹き出させ、また薄膜形成ガスを主構成成分とするガスを別に処理空間に導入して、該放電空間から励起した放電ガスを別に処理空間に導入した薄膜形成ガスと接触させ、励起した薄膜形成ガスに基材を晒す方法。
【0058】
大気圧プラズマ放電処理装置は、二つの電極が、例えば片方の電極がアース電極で、対向する位置に配置された他方の電極が印加電極で構成する対向電極、電圧印加手段、ガス供給手段及び電極温度調節手段を少なくとも有しているものであり、更に枚葉の基材に薄膜を形成する場合には基材を搭載して移動する移動手段を有している。以下図により説明する。
【0059】
図4は、本発明に有用な薄膜形成装置の一例の概略図である。
図4の薄膜形成装置は、対向電極を有するプラズマ放電装置10、高周波電圧を印加する電圧印加手段40及び放電空間にガスを供給するガス供給手段50及び移動手段70を有している。
【0060】
プラズマ放電装置10には中央部にスリット14を有する電極11と移動架台電極15があり、移動架台電極15は印加電極の電極11の下側に位置し、電極11とアース電極の移動架台電極15とで対向電極を構成している。11Aは電極の導電性金属質母材であり、11Bはその上に被覆してある誘電体である。金属質母材及び誘電体については後述する。移動架台電極15の上には基材(枚葉基材)Fを搭載しており、移動架台電極は移動手段70により移動しながら基材Fの上に薄膜形成が行われるようになっており、薄膜形成後、移動架台電極は図4で右側(ガスに晒さない空間20)に移動してするようになっている(移動架台電極15′)。移動架台電極15の移動手段は水平にスムースに移動出来る手段であれば制限なく、図示してないが、移動架台電極15の底面(図面下側)に車輪を付けて、レールの上を移動するようなものでも、移動架台電極15がリニアガイド上に載せられ、図示してない駆動装置(サーボモーターとボールねじ)により移動出来るようなものでも、また移動架台電極15に車輪を付けて、レールの上を移動するようなものでも、更に移動架台電極15が摺動により移動するものでもよい。42はアース結線である(アース結線はこれに限らない)。なお、移動架台電極15の15Aと15Bは導電性の金属質母材とその上に被覆してある誘電体を示している。電極11及び移動架台電極15の内部は温度調節のためのジャケットになっている(不図示)。
【0061】
薄膜形成は、まず、電極11と移動架台電極15とで構成される対向電極間の放電空間13を大気圧近傍の圧力とし、ガス供給手段50のガス供給装置51から供給されるガスMG(薄膜形成用のガス、ここでは後述の放電ガス、薄膜形成ガス、補助ガス等の混合ガス)を、ガス供給管52から電極11内のスリット14を通して、電極11の底面にあるスリット出口12から放出させ、放電空間13に満たす。電圧印加手段40の高周波電源41から高周波電圧を印加し、放電空間13に放電を発生させて、ガスMGを励起して(先ず後述の放電ガスが励起し、次いで薄膜形成ガスがエネルギーを受け励起する)ガスG°とし、移動架台電極15上に搭載されている基材Fの先頭から後尾まで進行に従ってガスG°に晒し、基材全体に薄膜が形成される。
【0062】
移動架台電極15′は、元の位置に戻りながら後尾であった基材Fを先頭から、該薄膜の上に薄膜が積層され、移動架台電極15が移動しながら図4の左方向のガスに晒さない空間20′に移動する。
【0063】
本発明においては、対向電極のいずれが移動してもよく、基材Fが搭載されている電極が固定で、その対向する電極が移動してもよい。つまり相対的に移動するのである。
【0064】
また、本発明において、移動する方向は、必ずしも両方向、つまり図5のように往復移動をしなくとも、ガスに晒される空間及びガスに晒されない空間が連続して並んでいて、一方向に移動してもよい。
【0065】
更に、2種の異なったガスを用いる場合、対向電極を、ガスに晒されない空間を挟んで反対側にも同様な対向電極があってもよい。
【0066】
プラズマ放電装置10のプラズマ放電処理容器10Aはパイレックス(R)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けてもよく、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。
【0067】
図5は、図4の電極11を底面側から見上げた斜視図である。電極の底面11Tにはスリット出口12が開いており、スリット14は電極11の内部を通り、電極11上部ではガス供給管52に接続している。電極11の内部ではスリットが如何なる形をしていても構わないが、電極11の底部スリット(直線)からはガスが電極の長さ方向に対して均一に同じ強さで吹き出すようになっていればよい。スリット出口12の長さは該電極の長さよりやや短く、電極の底部11T(対向している電極に相対する面)でスリット出口12の両端部は閉じられている。また電極の内部には空洞があり、電極温度を調節出来るジャケットとなっている。電極の底面11Tに開放されているスリット出口12の幅は0.5〜10mm程度あればよい。電極11の本体は、金属質母材11Aで出来ている。該電極の底面11T及び該底面に接する側面から30mm以上の高さまで(勿論スリットの面も同様)立ち上がるように下記のような誘電体11Bを金属質母材表面に被覆してある。
【0068】
電極及び移動架台の母材は導電性の金属質のもので形作られている。また少なくとも一方の電極の導電性の金属質母材には、対向する電極の対向面上には固体誘電体が被覆されていることが好ましい。金属質母材及び誘電体の材質については、放電条件にも関係するので、詳しくは後述するが、ここでは概略的なことを以下述べておく。
【0069】
導電性の金属質母材(図5において11A)としては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料を挙げることが出来るが、後述の理由からはチタン金属またはチタン合金が特に好ましい。
【0070】
誘電体(図5において11B)は、導電性の金属質母材の上に誘電体としてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したセラミックス被覆処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1〜10mm程度被覆されていればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ガラスライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0071】
対向電極の電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、電極の一方に誘電体を設けた場合の誘電体表面と導電性の金属質母材表面の最短距離、上記電極の双方に誘電体を設けた場合の誘電体表面同士の距離としては、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.5〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜5mmである。
【0072】
電極の底面11Tの金属質母材11A表面には大気圧プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜が被覆されている。その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行う。
【0073】
図6は、本発明に有用な薄膜形成装置の一例の概略図である。図6は、放電空間と薄膜形成する空間とが別々になっているジェット方式といわれる薄膜形成装置である。
【0074】
図6において、プラズマ放電装置110内に印加電極111とアース電極112の2個の電極で対向電極を構成している。電極111と112の111Aと112Aは導電性の金属質母材であり、111Bと112Bはその上に被覆してある誘電体である。この装置においては、該対向電極間が放電空間113となっており、該対向電極の底面(111と112との図面の下側)と移動架台116(または基材F面)とで形成するところは処理空間114である。移動架台116の上には基材Fが搭載されている。また、該移動架台116はアースに接地されておらず、電極ではなく単なる移動架台である。移動架台116は全体が絶縁体から出来ていてもよいが、金属製の台の周りを絶縁体で覆ったものでもよく、電気が絶縁されていればよい。
【0075】
図6において、放電空間113及び処理空間114を大気圧近傍の圧力とし、ガスMG(放電ガスと薄膜形成ガスの混合ガス)をガス供給管152から放電空間113に導入し、放電空間113に高周波電源141から高周波電圧を印加しガスMGを励起し、該励起したガスG°(励起した薄膜形成ガス)となり、ジェットのような流れでジェット噴出口115から処理空間114に噴射され、基材Fの上で薄膜形成が行われる。基材Fは移動架台115の上に搭載されており、該移動架台116が移動手段170によりガスに晒さない空間120及び120′に移動出来るようになっている。
【0076】
図7は、本発明に有用な薄膜形成装置の一例の概略図である。
図7は薄膜形成に係るガスを分けて導入する電極を有する装置である。プラズマ放電装置210内の電極は少なくとも三つに分かれている。そのうちの一つの電極211は第1のガスG1が導入されるスリット214を有する独立した電極でアース電極となっている。これに対して、アース電極の両側に2個の電極212が電極211とで対向電極を構成している。対向電極の電極211と電極212との間は放電空間213となっている(この放電空間は電極211の両側面と電極211の壁で挟まれた空間で形成される)。対向電極(電極211と212)の下側には、基材Fを搭載している移動架台217があり、電極211と電極211の両方の電極の対向電極の底面と移動架台215とで作る励起ガスの晒す空間(処理空間ともいう)216が構成される。放電空間213、スリット214及び処理空間216を大気圧近傍の圧力としておく。第1のガスG1(ここでは薄膜形成ガスを主構成成分とするガス)は、ガス供給管252から電極211のスリット214を通り処理空間216に放出される。一方、同時に、第2のガスG2(放電ガスを主構成成分とするガス)は、ガス供給手段からガス供給管253を経て、放電空間213に導入され、高周波電源241から高周波電圧を印加し、第2のガスG2を励起し、ジェット状に噴出部215から処理空間216に噴出させる。励起した第2のガスG2と第1のガスG1は、処理空間216で混合し、ここで第1のガスG1は励起したガスG2からエネルギーを受け取り励起した第1のガス(薄膜形成ガス)G°となり、励起した薄膜形成ガスG°を移動架台上の基材に晒すことによって薄膜が形成される。なお、図7においては、金属質母材と誘電体については省略されている。
【0077】
図8は、本発明に有用な図4のプラズマ放電装置を2基配列した薄膜形成装置の一例の概略図である。
【0078】
図8は、2種の異なるガスを使用して交互に薄膜形成して積層する光学素子を作製するのに適した薄膜形成装置である。図8の左側の装置の記号は図4と同様であり、右側の装置の記号については、11′は電極、11′Aは電極の金属質母材、11′Bは電極の誘電体、13′は放電空間、14′はスリット、52′はガス供給管、F′は移動した基材、DF′は移動したダミー基材である。ガス供給管52からガスMGAをスリット14に導入し、スウィッチ43に接続した高周波電源から高周波電圧を放電空間に印加し、放電空間13において励起したガスGA°に基材Fを晒して励起したガスGA°により薄膜を形成した後、移動架台電極15を右側に移動する。その時、スウィッチ43をスウィッチ43′に切り替える。電極11′のスリット14′にガス供給管52′からガスMGBを導入し、高周波電源41から放電空間13′に高周波電圧を印加し、ガスMGBを励起させ、励起したガスGB°に薄膜形成された基材を晒して、薄膜の上にガスGB°により薄膜が形成される。この操作を繰り返すことによって、積層した光学素子を作製することが出来る。
【0079】
図9は、本発明に有用な図6のプラズマ放電装置を2基配列した薄膜形成装置の一例の概略図である。
【0080】
図9は、2種の異なるガスを使用して交互に薄膜形成して積層する光学素子を作製するのに適した薄膜形成装置である。図9の左側の装置の記号は図6と同様であり、右側の装置の記号については、111′及び112′は電極で対向電極を構成している。111′A及び112′は電極の金属質母材、111′B及び112′Bは電極の誘電体、113′は放電空間、114′は処理空間、115′はジェット噴射口、152′はガス供給管、F′は移動した基材、DF′は移動したダミー基材である。
【0081】
ガス供給管152からガスMGAを放電空間113に導入し、スウィッチ143に接続した高周波電源から高周波電圧を放電空間に印加し、放電空間113において励起したガスMGAをジェット状に噴射口115から移動架台116に噴射して、励起した薄膜形成ガスGA°に基材Fを晒して薄膜を形成した後、移動架台116を右側に移動する。その時、スウィッチ143をスウィッチ143′に切り替える。電極対向の放電空間113′にガス供給管152′からガスMGBを導入し、高周波電源141から放電空間113′に高周波電圧を印加しガスMGBを励起させてジェット噴射口115′から処理空間114′に噴射させて、励起した薄膜形成ガスGB°に基材F′を晒して、薄膜を形成させる。この操作を繰り返すことによって、積層した光学素子を作製することが出来る。
【0082】
本発明において、放電プラズマ処理時の基材への影響を最小限に抑制するために、放電プラズマ処理時の基材の温度を常温(15℃〜25℃)〜300℃の温度に調整することが好ましい。上記の温度範囲に調整するため、必要に応じて電極、基材は温度調節手段で冷却や加熱をしながら放電プラズマ処理される。
【0083】
本発明において、プラズマ放電処理が大気圧もしくはその近傍の圧力で行われるが、ここで大気圧近傍とは、20kPa〜110kPaの圧力を表すが、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPa〜104kPaが好ましい。
【0084】
本発明に係る大気圧プラズマ放電処理方法において、対向する電極間に印加する高周波電圧は、100kHzを越えた高周波電圧で、且つ、1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給し、薄膜形成ガスを励起してプラズマを発生させることによって、基材上に緻密な薄膜を形成することが出来る。
【0085】
本発明において、対向電極間に印加する高周波電圧の周波数の上限値は、好ましくは150MHz以下であり、より好ましくは15MHz以下である。また、高周波電圧の周波数の下限値としては、好ましくは200kHz以上、より好ましくは800kHz以上である。しかし、放電ガスの種類によっては3kHz以上の高周波電源を使用することもある。
【0086】
また、電極間に供給する電力の上限値とは、好ましくは50W/cm2以下、より好ましくは20W/cm2以下である。下限値は、好ましくは1.2W/cm2以上である。尚、放電面積(cm2)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0087】
高周波電源より印加電極に印加される電圧の値は適宜決定されるが、例えば、電圧が10V〜10kV程度で、上記のように電源周波数は100kHzを越えて150MHz以下に調整される。
【0088】
ここで電源の印加法に関しては、連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードとパルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モードのどちらを採用しても良いが連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られる。
【0089】
本発明においては、このような電圧を印加して、均一なグロー放電状態を保つことが出来る電極をプラズマ放電処理装置に採用する必要がある。
【0090】
本発明においては、印加電極に電圧を印加する電源としては、特に限定はないが、神鋼電機製高周波電源(3kHz)、神鋼電機製高周波電源(5kHz)、神鋼電機製高周波電源(10kHz)、春日電機製高周波電源(15kHz)、神鋼電機製高周波電源(50kHz)、ハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)、パール工業製高周波電源(200kHz)、パール工業製高周波電源(800kHz)、パール工業製高周波電源(2MHz)、パール工業製高周波電源(13.56MHz)、パール工業製高周波電源(27MHz)、パール工業製高周波電源(150MHz)等が使用出来る。好ましくは、100kHz超〜150MHzの高周波電源であり、より好ましくは、800kHz〜15MHzのものである。
【0091】
このような大気圧プラズマCVD法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならないので、下記のような導電性の金属質母材上に誘電体を被覆した電極が好ましい。
【0092】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な導電性の金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、導電性の金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10-6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10-6/℃以下、さらに好ましくは5×10-6/℃以下、さらに好ましくは2×10-6/℃以下である。尚、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0093】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
▲1▼導電性の金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
▲2▼導電性の金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
▲3▼導電性の金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
▲4▼導電性の金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
▲5▼導電性の金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
▲6▼導電性の金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
▲7▼導電性の金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
▲8▼導電性の金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング
等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記▲1▼または▲2▼、及び▲5▼〜▲8▼が好ましく、特に▲1▼が好ましい。
【0094】
本発明において、導電性の金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。導電性の金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが出来る。
【0095】
本発明に有用な電極の導電性の金属質母材は、チタンを70質量%以上含有するチタン合金またはチタン金属である。本発明において、チタン合金またはチタン金属中のチタンの含有量は、70質量%以上であれば、問題なく使用出来るが、好ましくは80質量%以上のチタンを含有しているものが好ましい。本発明に有用なチタン合金またはチタン金属は、工業用純チタン、耐食性チタン、高力チタン等として一般に使用されているものを用いることが出来る。工業用純チタンとしては、TIA、TIB、TIC、TID等を挙げることが出来、何れも鉄原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、水素原子等を極僅か含有しているもので、チタンの含有量としては、99質量%以上を有している。耐食性チタン合金としては、T15PBを好ましく用いることが出来、上記含有原子の他に鉛を含有しており、チタン含有量としては、98質量%以上である。また、チタン合金としては、鉛を除く上記の原子の他に、アルミニウムを含有し、その他バナジウムや錫を含有しているT64、T325、T525、TA3等を好ましく用いることが出来、これらのチタン含有量としては、85質量%以上を含有しているものである。これらのチタン合金またはチタン金属はステンレススティール、例えばAISI316に比べて、熱膨張係数が1/2程度小さく、導電性の金属質母材としてチタン合金またはチタン金属の上に施された後述の誘電体との組み合わせがよく、高温、長時間での使用に耐えることが出来る。
【0096】
一方、誘電体の求められる特性としては、具体的には、比誘電率が6〜45の無機化合物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等がある。この中では、後述のセラミックスを溶射したものやガラスライニングにより設けたものが好ましい。特にアルミナを溶射して設けた誘電体が好ましい。
【0097】
または、上述のような大電力に耐える仕様の一つとして、誘電体の空隙率が10体積%以下、好ましくは8体積%以下であることで、好ましくは0体積%を越えて5体積%以下である。尚、誘電体の空隙率は、誘電体の厚み方向に貫通性のある空隙率を意味し、水銀ポロシメーターにより測定することが出来る。後述の実施例においては、島津製作所製の水銀ポロシメーターにより導電性の金属質母材に被覆された誘電体の空隙率を測定した。誘電体が、低い空隙率を有することにより、高耐久性が達成される。このような空隙を有しつつも空隙率が低い誘電体としては、後述の大気プラズマ溶射法等による高密度、高密着のセラミックス溶射被膜等を挙げることが出来る。さらに空隙率を下げるためには、封孔処理を行うことが好ましい。
【0098】
上記、大気プラズマ溶射法は、セラミックス等の微粉末、ワイヤ等をプラズマ熱源中に投入し、溶融または半溶融状態の微粒子として被覆対象の母材に吹き付け、皮膜を形成させる技術である。プラズマ熱源とは、分子ガスを高温にし、原子に解離させ、さらにエネルギーを与えて電子を放出させた高温のプラズマガスである。このプラズマガスの噴射速度は大きく、従来のアーク溶射やフレーム溶射に比べて、溶射材料が高速で母材に衝突するため、密着強度が高く、高密度な被膜を得ることが出来る。詳しくは、特開2000−301655に記載の高温被曝部材に熱遮蔽皮膜を形成する溶射方法を参照することが出来る。この方法により、上記のような被覆する誘電体(セラミック溶射膜)の空隙率にすることが出来る。
【0099】
また、大電力に耐える別の好ましい仕様としては、誘電体の厚みが0.5〜2mmであることである。この膜厚変動は、5%以下であることが望ましく、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0100】
誘電体の空隙率をより低減させるためには、上記のようにセラミックス等の溶射膜に、更に、無機化合物で封孔処理を行うことが好ましい。前記無機化合物としては、金属酸化物が好ましく、この中では特に酸化ケイ素(SiOx)を主成分として含有するものが好ましい。
【0101】
封孔処理の無機化合物は、ゾルゲル反応により硬化して形成したものであることが好ましい。封孔処理の無機化合物が金属酸化物を主成分とするものである場合には、金属アルコキシド等を封孔液として前記セラミック溶射膜上に塗布し、ゾルゲル反応により硬化する。無機化合物がシリカを主成分とするものの場合には、アルコキシシランを封孔液として用いることが好ましい。
【0102】
ここでゾルゲル反応の促進には、エネルギー処理を用いることが好ましい。エネルギー処理としては、熱硬化(好ましくは200℃以下)や、紫外線照射などがある。更に封孔処理の仕方として、封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、よりいっそう無機質化が向上し、劣化の無い緻密な電極が出来る。
【0103】
本発明に係る誘電体被覆電極の金属アルコキシド等を封孔液として、セラミックス溶射膜にコーティングした後、ゾルゲル反応で硬化する封孔処理を行う場合、硬化した後の金属酸化物の含有量は60モル%以上であることが好ましい。封孔液の金属アルコキシドとしてアルコキシシランを用いた場合には、硬化後のSiOx(xは2以下)含有量が60モル%以上であることが好ましい。硬化後のSiOx含有量は、XPSにより誘電体層の断層を分析することにより測定する。
【0104】
本発明の薄膜形成方法に係る電極においては、電極の少なくとも基材と接する側のJIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が10μm以下になるように調整することが、本発明に記載の効果を得る観点から好ましいが、更に好ましくは、表面粗さの最大値が8μm以下であり、特に好ましくは、7μm以下に調整することである。このように誘電体被覆電極の誘電体表面を研磨仕上げする等の方法により、誘電体の厚み及び電極間距離を一定に保つことが出来、放電状態を安定化出来ること、更に熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、かつ、高精度で、耐久性を大きく向上させることが出来る。誘電体表面の研磨仕上げは、少なくとも基材と接する側の誘電体において行われることが好ましい。更にJIS B 0601で規定される中心線平均表面粗さ(Ra)は0.5μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。
【0105】
本発明に使用する誘電体被覆電極において、大電力に耐える他の好ましい仕様としては、耐熱温度が100℃以上であることである。更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。また上限は500℃である。なお、、耐熱温度とは、絶縁破壊が発生せず、正常に放電出来る状態において耐えられる最も高い温度のことを指す。このような耐熱温度は、上記のセラミックス溶射や、泡混入量の異なる層状のガラスライニングで設けた誘電体を適用したり、下記導電性の金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差の範囲内の材料を適宜選択する手段を適宜組み合わせることによって達成可能出来る。
【0106】
次に、本発明に使用する薄膜を形成する放電処理用ガスについて説明する。放電処理用ガスは、主として放電ガスと薄膜形成ガスを構成成分としている。更に補助ガス(添加ガスともいう)を成分に加えることもある。
【0107】
放電ガスとは、処理を可能なグロー放電を起こすことの出来るガスであり、それ自身がエネルギーを授受する媒体として働くガスで、プラズマ放電を発生させるに必要なガスである。放電ガスとしては、窒素、希ガス、空気、水素、酸素などがあり、これらを単独で放電ガスとして用いても、混合して用いてもかまわない。希ガスとしては、周期表の第18属元素、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等を挙げることが出来、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。放電ガスの量は、放電空間に供給する全ガス量に対し、90〜99.9体積%含有することが好ましい。
【0108】
本発明に使用する薄膜形成ガスとしては、有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等を挙げることが出来る。
【0109】
本発明に有用な有機金属化合物は下記の一般式(I)で示すものが好ましい。
一般式(I) R1 xMR2 y3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。R1のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることが出来る。R2のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等を挙げることが出来る。またアルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。R3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基としては、β−ジケトン錯体基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンともいう)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸エステル錯体基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等を挙げることが出来、またケトオキシとして、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等を挙げることが出来る。これらの基の炭素原子数は、上記例有機金属示化合物を含んで、18以下が好ましい。また例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0110】
本発明において取り扱いの問題から、爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも一つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとしてR2のアルコキシ基を少なくとも一つを含有する有機金属化合物、またR3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する金属化合物が好ましい。
【0111】
なお、具体的な有機金属化合物については後述する。
本発明において、放電空間または処理空間に供給するガスには、放電ガス、薄膜形成ガスの他に、薄膜形成の反応を促進する補助ガスを混合してもよい。補助ガスとしては、酸化性ガスとして、酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化炭素、一酸化炭素、また還元性ガスとして水素、アンモニア、硫化水素等を挙げることが出来るが、酸化性ガスとしては酸素または一酸素化炭素及び還元性ガスとしては水素が好ましく、これらから選択される成分を混合させるのが好ましい。その含有量は全ガスに対して0.01〜5体積%含有させることにより、反応促進され、且つ、緻密で良質な薄膜を形成することが出来る。
【0112】
上記形成された酸化物または複合化合物の薄膜の膜厚は、0.1〜1000nmの範囲が好ましい。
【0113】
本発明において、薄膜形成ガスに使用する有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物の金属として、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を挙げることが出来る。
【0114】
本発明の薄膜形成方法で、上記のような有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等の金属化合物を放電ガスと共に使用することにより様々な高機能性の薄膜を得ることが出来る。本発明の薄膜の例を以下に示すが、本発明はこれに限られるものではない。
【0115】
電極膜 Au、Al、Ag、Ti、Ti、Pt、Mo、Mo−Si
誘電体保護膜 SiO2、SiO、Si34、Al23、Al23、Y23
透明導電膜 In23、SnO2
エレクトロクロミック膜 WO3、IrO2、MoO3、V25
蛍光膜 ZnS、ZnS+ZnSe、ZnS+CdS
磁気記録膜 Fe−Ni、Fe−Si−Al、γ−Fe23、Co、Fe34、Cr、SiO2、AlO3
超導電膜 Nb、Nb−Ge、NbN
太陽電池膜 a−Si、Si
反射膜 Ag、Al、Au、Cu
選択性吸収膜 ZrC−Zr
選択性透過膜 In23、SnO2
反射防止膜 SiO2、TiO2、SnO2
シャドーマスク Cr
耐摩耗性膜 Cr、Ta、Pt、TiC、TiN
耐食性膜 Al、Zn、Cd、Ta、Ti、Cr
耐熱膜 W、Ta、Ti
潤滑膜 MoS2
装飾膜 Cr、Al、Ag、Au、TiC、Cu
本発明において、特に好ましい金属化合物の金属は、上記のうちチタン(Ti)、珪素(Si)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びゲルマニウム(Ge)から選ばれる少なくとも一つのものであり、これらの金属と結合する金属化合物のうち、上記一般式(I)で示した有機金属化合物が好ましい。有機金属化合物の例示については後述する。
【0116】
ここで、上記の高機能の薄膜のうち反射防止膜(層)及び反射防止膜を積層した反射防止膜及び透明導電膜を有する基材について詳細に説明する。
【0117】
本発明に係る高機能の薄膜のうちの反射防止膜を有する基材の反射防止層は中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層それぞれの薄膜が積層されたものである。
【0118】
本発明に係る反射防止層薄膜形成ガスの高屈折率層を形成するチタン化合物、中屈折率層を形成する錫化合物、低屈折率層を形成する珪素化合物について述べる。反射防止層を有する反射防止膜を有する基材は、各屈折率層を基材上に直接または他の層を介して積層して得られるものであるが、積層は、例えば、前述の図のような大気圧プラズマ放電処理装置を、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に3層を積層するために、直列に3基並べて連続的に処理することが出来、この連続的積層処理は品質の安定や生産性の向上等から本発明の薄膜の形成に適している。また積層せずに、1層処理ごと処理し、逐次処理して積層してもよい。本発明において、反射防止層の上に防汚層を設ける場合には、上記のプラズマ放電処理装置を更にもう1基続けて設置し、4基並べて最後に防汚層を積層してもよい。また、反射防止層を設ける前に、基材の上に予めハードコート層や防眩層を塗布によって設けてもよく、また、その裏側に予めバックコート層を塗布によって設けてもよい。
【0119】
本発明に係る反射防止膜(層)を有する基材の反射防止層薄膜形成ガスには、適切な屈折率を得ることの出来る化合物であれば制限なく使用出来るが、本発明において、高屈折率層薄膜形成ガスとしてはチタン化合物を、中屈折率層薄膜形成ガスとしては錫化合物またはチタン化合物と珪素化合物の混合物(または高屈折率形成用のチタン化合物で形成した層と低屈折率層を形成する珪素化合物で形成した層を積層してもよい)を、また低屈折率層薄膜形成ガスとしては珪素化合物、フッ素化合物、あるいは珪素化合物とフッ素化合物の混合物を好ましく用いることが出来る。これらの化合物を屈折率を調節するために、何れかの層の形成用薄膜形成ガスとして2種以上混合して使用してもよい。
【0120】
本発明に有用な中屈折率層薄膜形成ガスに用いる錫化合物としては、有機錫化合物、錫水素化合物、ハロゲン化錫等であり、有機錫化合物としては、例えば、ジブチルジエトキシ錫、ブチル錫トリス(2,4−ペンタンジオナート)、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、エチルエトキシ錫、メチルメトキシ錫、イソプロピルイソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、ジブチリロキシ錫、ジエチル錫、テトラブチル錫、錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫(2,4−ペンタンジオナート)、ジメチル錫ジ(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタート錫、ジアセトキシ錫、ジブトキシジアセトキシ錫、ジアセトオキシ錫ジアセトアセトナート等、錫水素化合物等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等を挙げることが出来、何れも本発明において、好ましく用いることが出来る。また、これらの薄膜形成ガスを2種以上同時に混合して使用してもよい。なお、このようにして、形成された酸化錫層は表面比抵抗値を1011Ω/cm2以下に下げることが出来るため、帯電防止層としても有用である。
【0121】
本発明に有用な高屈折率層薄膜形成ガスに使用するチタン化合物としては、有機チタン化合物、チタン水素化合物、ハロゲン化チタン等があり、有機チタン化合物としては、例えば、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、トリエチルチタン、トリイソプロピルチタン、トリブチルチタン、テトラエチルチタン、テトライソプロピルチタン、テトラブチルチタン、テトラジメチルアミノチタン、ジメチルチタンジ(2,4−ペンタンジオナート)、エチルチタントリ(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(アセトメチルアセタート)、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン等、ジブチリロキシチタン、チタン水素化合物としてはモノチタン水素化合物、ジチタン水素化合物等、ハロゲン化チタンとしては、トリクロロチタン、テトラクロロチタン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。またこれらの薄膜形成ガスを2種以上を同時に混合して使用することが出来る。
【0122】
本発明に有用な低屈折率層薄膜形成ガスに使用する珪素化合物としては、有機珪素化合物、珪素水素化合物、ハロゲン化珪素化合物等を挙げることが出来、有機珪素化合物としては、例えば、テトラエチルシラン、テトラメチルシラン、テトライソプロピルシラン、テトラブチルシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルシランジ(2,4−ペンタンジオナート)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等、珪素水素化合物としては、テトラ水素化シラン、ヘキサ水素化ジシラン等、ハロゲン化珪素化合物としては、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジエチルジクロロシラン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。また、前記フッ素化合物を使用することが出来る。これらの薄膜形成ガスを2種以上を同時に混合して使用することが出来る。また、屈折率の微調整にこれら錫化合物、チタン化合物、珪素化合物を適宜2種以上同時に混合して使用してもよい。
【0123】
上記の有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物は、取り扱い上の観点から金属水素化合物、アルコキシ金属が好ましく、腐食性、有害ガスの発生がなく、工程上の汚れなども少ないことから、アルコキシ金属が好ましく用いられる。また、上記の有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物を放電空間である電極間に導入するには、両者は常温常圧で、気体、液体、固体何れの状態であっても構わない。気体の場合は、そのまま放電空間に導入出来るが、液体、固体の場合は、加熱、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用される。有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物を加熱により気化して用いる場合、テトラエトキシ金属、テトライソプロポキシ金属などの常温で液体で、沸点が200℃以下である金属アルコキシドが反射防止膜の形成に好適に用いられる。上記アルコキシ金属は、溶媒によって希釈して使用されても良く、この場合、希ガス中へ気化器等により気化して混合ガスに使用すればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。
【0124】
薄膜形成ガスについて、放電プラズマ処理により基材上に均一な薄膜を形成する観点から、混合ガス中の含有率は、0.01〜10体積%で有することが好ましいが、更に好ましくは、0.01〜1体積%である。
【0125】
なお、中屈折率層については、上記珪素化合物、上記チタン化合物または上記錫化合物を、目標とする屈折率に合わせて適宜混合することによっても得ることが出来る。
【0126】
なお、各屈折率層の好ましい屈折率と膜厚は、例えば、中屈折率層の酸化錫層では屈折率として1.6〜1.8、また膜厚として50〜70nm程度、高屈折率層の酸化チタン層では屈折率として1.9〜2.4、また膜厚として80〜120nm程度、低屈折率層の酸化珪素層では屈折率として1.3〜1.5、また膜厚として80〜120nm程度である。
【0127】
また、移動架台電極または移動架台が、図8または9のように二つのプラズマ放電装置の間を何往復してもよく、例えば、ハーフミラーのような光学素子ではこのような交互に薄膜形成し10数層積層するという場合もある。
【0128】
また、他の光学素子として、ハーフミラーのような、反射と透過の両方の性質を有するような光学素子は例えば、下記のように作製する。
【0129】
上述の酸化珪素を主成分とする低屈折率層と酸化チタンを主成分とする高屈折率層を交互に積層して5〜20層設けることにより、ハーフミラーとしての性質を付与することが出来る。酸化珪素層には上述と同様な有機珪素化合物、また酸化チタン層には、やはり上述と同様な有機チタン化合物が用いられる。
【0130】
次に本発明に係る高機能膜の他の例として薄膜を有する透明導電膜の形成について説明する。
【0131】
前述の反射防止層を形成する際に使用する有機金属化合物の金属成分がインジウム等の透明性と導電性を有する薄膜を形成すると言う点が若干異なるが、有機基についてはほぼ同じような成分が用いられる。
【0132】
薄膜を形成する好ましい有機金属化合物の金属は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)から選ばれる少なくとも1種の金属である。また、有機金属化合物の該金属の他に、ドーピングを行う金属としてジルコニウム(Zr)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びゲルマニウム(Ge)が有機金属化合物として好ましく用いられる。更に硼素(B)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)等も用いれれる。
【0133】
本発明において、好ましい有機金属化合物の好ましい例は、インジウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)、インジウムトリス(ヘキサフルオロペンタンジオナート)、インジウムトリアセトアセタート、トリアセトキシインジウム、ジエトキシアセトキシインジウム、トリイソポロポキシインジウム、ジエトキシインジウム(1,1,1−トリフルオロペンタンジオナート)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)インジウム、エトキシインジウムビス(アセトメチルアセタート)、ジ(n)ブチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジ(n)ブチルジアセトキシ錫、ジ(t)ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラ(i)ブトキシ錫、ビス(2,4−ペンタンジオナート)亜鉛等を挙げることが出来る。これらの有機金属化合物は一般に市販(例えば、東京化成工業(株)等から)されている。
【0134】
本発明においては、上記分子内に少なくとも1つの酸素原子を有する有機金属化合物の他に、該有機金属化合物から形成された透明導電膜の導電性を更に高めるために該透明導電膜をドーピングすることが好ましく、透明導電膜形成ガスとしての該有機金属化合物とドーピング用有機金属化合物ガスを同時に混合して用いることが好ましい。ドーピングに用いられる有機金属化合物またはフッ素化合物の薄膜形成ガスとしては、例えば、トリイソプロポキシアルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナート)ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナート)マンガン、イソプロポキシボロン、トリ(n)ブトキシアンチモン、トリ(n)ブチルアンチモン、ジ(n)ブチルビス(2,4−ペンタンジオナート)錫、ジ(n)ブチルジアセトキシ錫、ジ(t)ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、テトラブチル錫、亜鉛ジ(2,4−ペンタンジオナート)、ジプロポキシゲルマニウム、ジ(n)ブチルジアセトオキシゲルマニウム、ゲルマニウムトリス2,4−ペンタンジオナート、ガリウムトリス2,4−ペンタンジオナート、トリプロポキシガリウム、ブチルジアセトオキシガリウム、六フッ化プロピレン、八フッ化シクロブタン、四フッ化メタン等を挙げることが出来る。
【0135】
前記透明導電膜を形成するに必要な有機金属化合物と上記ドーピング用の透明導電膜形成ガスの比は、製膜する透明導電膜の種類により異なるが、例えば、酸化インジウムに錫をドーピングして得られるITO膜においては、InとSnの比の原子数比が100:0.1〜100:15の範囲になるように透明導電膜形成ガス量を調整することが必要である。好ましくは、100:0.5〜100:10になるよう調整することが好ましい。酸化錫にフッ素をドーピングして得られる透明導電膜(FTO膜という)においては、得られたFTO膜のSnとFの比の原子数比が100:0.01〜100:50の範囲になるよう透明導電膜形成ガスの量比を調整することが好ましい。In23−ZnO系アモルファス透明導電膜においては、InとZnの比の原子数比が100:50〜100:5の範囲になるよう透明導電膜形成ガスの量比を調整することが好ましい。In:Sn比、Sn:F比及びIn:Zn比の各原子数比はXPS測定によって求めることが出来る。
【0136】
本発明において、透明導電膜形成ガスは、混合ガスに対し、0.01〜10体積%含有させることが好ましい。
【0137】
本発明において、得られる透明導電膜は、例えば、SnO2、In23、ZnOの酸化物膜、またはSbドープSnO2、FドープSnO2(FTO)、AlドープZnO、SnドープIn23(ITO)等ドーパントによるドーピングした複合酸化物を挙げることが出来、これらから選ばれる少なくとも一つを主成分とするアモルファス膜が好ましい。またその他にカルコゲナイド、LaB6、TiN、TiC等の非酸化物膜、Pt、Au、Ag、Cu等の金属膜、CdO等の透明導電膜を挙げることが出来る。
【0138】
上記形成される金属酸化物または金属複合化合物の透明導電膜の膜厚は、0.1〜1000nmの範囲が好ましい。
【0139】
本発明の透明導電膜を有する物品の製造方法により得られる透明導電膜は、高いキャリア移動度を有する特徴を持つ。よく知られているように透明導電膜の電気伝導率は以下の(1)式で表される。
【0140】
σ=n×e×μ (1)
ここで、σは電気伝導率、nはキャリア密度、eは電子の電気量、そしてμはキャリアの移動度である。電気伝導率σを上げるためにはキャリア密度nあるいはキャリア移動度μを増大させる必要があるが、キャリア密度nを増大させていくと2×1021cm-3付近から反射率が大きくなるため透明性が失われる。そのため、電気伝導率σを増大させるためにはキャリア移動度μを増大させる必要がある。本発明の透明導電膜の形成方法によれば条件を最適化することにより、DCマグネトロンスパッタリング法により形成された透明導電膜に近いキャリア移動度μを有する透明導電膜を形成することが可能であることが判明した。
【0141】
本発明の透明導電膜の形成方法は高いキャリア移動度μを有するため、ドーピングなしでも比抵抗値として1×10-3Ω・cm以下の比抵抗値の透明導電膜を得ることが出来る。ドーピングを行いキャリア密度nを増加させることで更に比抵抗値を下げることが出来る。また、必要に応じて比抵抗値を上げる薄膜形成ガスを用いることにより、比抵抗値として1×10-2Ω・cm以上の高比抵抗値の透明導電膜を得ることも出来る。透明導電膜の比抵抗値を調整するために用いる薄膜形成ガスとしては、例えば、チタントリイソプロポキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン等を挙げることが出来る。
【0142】
本発明の透明導電膜の形成方法によって得られる透明導電膜は、キャリア密度nが、1×1019cm-3以上、より好ましい条件下においては、1×1020cm-3以上となるが、透明性は低下しない。
【0143】
本発明の優れた効果の一つとして、エッチングがある。各種ディスプレイ素子を電極として用いる場合、基板上に回路を描くパターニング工程は必須なものであり、パターニングが容易に行うことが出来るかが工程適性上重要な課題となっている。一般に、パターニングはフォトリソグラフィー法により行われることが多く、導通を必要としない部分はエッチングにより溶解、除去するため、該部分のエッチング液による溶解の速さ及び残渣のないことが重要な課題となっている。エッチング液には、通常、硝酸、塩酸、塩酸と硝酸の混酸、フッ酸、塩化第二鉄水溶液等が用いられ、これらのウェットエッチングする方法が主流である。
【0144】
透明性導電膜として、上記形成された酸化物または複合酸化物の薄膜の膜厚は、0.1〜1000nmの範囲が好ましい。
【0145】
基材について述べる。
ガラス板の基材としては、その材質は特に制限ないが、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、超高純度ガラス、クリスタルガラス等を挙げることが出来、これらは好ましく用いることが出来る。なお、ハーフミラー用にはソーダライムガラスが好ましい。またガラス板は使用目的によりことなるが、厚さは0.1〜5mm程度のものが用いられ、好ましくは0.3〜2mmである。
【0146】
樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂レンズ、樹脂成形物等成形物の材質としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリメチルアクリレート、アクリレートコポリマー等を挙げることが出来る。
【0147】
これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することも出来る。中でもゼオネックス(日本ゼオン(株)製)、ARTON(日本合成ゴム(株)製)などの市販品を適宜使用することが出来る。更に、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルフォン及びポリエーテルスルフォンなどの固有複屈折率の大きい素材であっても、溶液流延製膜、溶融押し出し製膜等の条件、更には縦、横方向に延伸条件等を適宜設定することにより使用することが出来るものを得ることが出来る。樹脂フィルムの膜厚としては0.1〜2mmが好ましい。
【0148】
これらの樹脂の表面にゼラチン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂等を塗設したものも使用出来る。またこれら基材の反対側の面に防眩層、クリアハードコート層、反射防止層、防汚層等を設けてもよい。また、必要に応じて接着層、アルカリバリアコート層、ガスバリア層や耐溶剤性層等を設けてもよい。また、本発明に係る基材は、上記の記載に限定されない。
【0149】
本発明の基材の薄膜形成において、フィルム状の基材よりも枚葉基材を用いることの方が本発明をより精度良く実施することが出来る。以下基材を枚葉基材ということがある。
【0150】
【実施例】
実施例1
〔ハーフミラーの作製〕
〈電極の作製〉
電極のサイズは、底面の長さ、幅、高さが500mm×80mm×100mmで、底面の中央には幅1mm、長さ400mmのスリットが開いており、図4及び図5に示したような電極を作製した。電極11はチタン合金T64の金属質母材11Aで作製した。図5の該電極の底面11T及び該底面に接する側面の30mmの高さまで(勿論スリットの内部も同様)に下記のような誘電体11Bを金属質母材表面に被覆した。
【0151】
電極の底面11Tの金属質母材11A表面に大気圧プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆した。その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行った。また、電極の底から側面及びスリット内の誘電体の立ち上がりを30mmとした。最終的な誘電体の空隙率は5体積%であった。また、最終的な誘電体の膜厚は、1mm(膜厚変動±1%以内)、誘電体の比誘電率は10であった。このようにして被覆した誘電体表面を研磨し、金属質母材と誘電体の熱膨張係数の差は1.8×10-6であった。また誘電体面を平滑にして、JIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が5μmとなるように加工した。
【0152】
移動架台電極15は、長さ、幅及び厚さが600mm×600mm×100mm、肉厚10mmの中空になっている平板で、この移動架台電極15がリニアガイド上に載せられ、図示してない駆動装置(サーボモーターとボールねじ)により移動出来るよう移動手段を有している。なお、移動架台電極もチタン合金T64を金属質母材として形成し、電極の底面11Tに相対する面を上記と同様に誘電体を電極の底面から3.5mmの厚さに被覆した。中空になっている内部はジャケットとなっていて温度調節が出来るようにした。この電極を2個用意した。
【0153】
〈薄膜形成条件〉
図4に示したような薄膜形成装置を同じものを二つ並べて配置した図8の装置を用いた。高周波電源にはパール工業製の高周波電源13.56MHzを接続しし、スウィッチ43及び43′で切り替えられるようにした。電極11及び11′の底面と移動架台電極15または15′の電極間面を平行にして、電極間隙(電極底面とダミー基材面との距離ではない)を2mmとし、移動架台の上の中央に、長さ480mm、幅380mm、厚さ0.5mmの全く平坦なソーダライムガラス板を枚葉の基材F(電極底面と基材面との距離は1.5mm)として設置した。そしてその周辺に図2のように、表2に示したような間隔で同じ材質で、同じ厚さのダミー基材を配置した。
【0154】
放電空間13の圧力を103kPaとし、1基目のプラズマ放電装置のガス供給管52から下記高屈折率層用混合ガス(MGA)を放電空間13に満たし、スウィッチ43をONにし、上記高周波電源41から周波数13.56MHz、2W/cm2の電力密度を供給して放電空間13に高周波電圧を印加し、励起した高屈折率層用混合ガスGA°に8分間晒し、1層目の高屈折率層を形成させた。薄膜形成後、スウィッチ43をOFFにして移動架台電極15を次の(図中右側の)プラズマ放電装置に移動し、電極11′と移動架台電極15′との放電空間13′の圧力を同様に103kPaとし、下記低屈折率層用混合ガス(MGB)を放電空間13′に満たし、スウィッチ43′をONし上記高周波電源41から周波数13.56MHz、2W/cm2の電力密度を供給して放電空間13′に高周波電圧を印加し、励起した低屈折率層用混合ガスGB°に5分間晒し、第2層目としての低屈折率層を形成した。スウィッチ43′をOFFとした。低屈折率層形成後、移動架台電極15を元のプラズマ放電装置(図中左側)に戻し、再び同様な第3層目の高屈折率層薄膜形成を行い、更に第4層目としての低屈折率層薄膜形成を行い、表1に示したような、積層ごとの放電時間をかけて高屈折率層側の薄膜形成装置で3〜8分を7回繰り返し、低屈折率層側の薄膜形成装置では1〜5分を7回繰り返して薄膜形成を行った。高屈折率層薄膜形成と低屈折率層薄膜形成を交互に7回、14層の積層を行いハーフミラーを作製した。積層ごとの放電時間を表1に示した。
【0155】
【表1】
Figure 0004254190
【0156】
《高屈折率層用混合ガス(MGA)》
放電ガス:アルゴン 99.3体積%
薄膜形成ガス:テトライソプロポキシチタン蒸気 0.2体積%
補助ガス:酸素ガス 0.5体積%
《低屈折率層用混合ガス(MGB)》
放電ガス:アルゴン 99.2体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン蒸気 0.3体積%
補助ガス:酸素ガス 0.5体積%
なお、上記薄膜形成ガス蒸気はリンテック(株)製の気化器を使用して気化後、アルゴンガス中に混合した。
【0157】
比較例1
移動架台電極15の上のガラスの基材Fの端部の周囲にダミー基材DFを配置しなかった以外は、実施例1と同様に行いハーフミラーを得た。
【0158】
〔測定・評価〕
(評価基準:6段階評価)
A:端部の膜厚が、正常と全く変わらない
B:端部の膜厚が、正常部とほとんど変わらない
C:端部に、極微少な変化がわずかに見られる
D:端部に、微少な変化がわずかに見られる
E:端部に、わずかに変化がみられる
F:端部に、変化がはっきりと見られる。
【0159】
実施例1及び比較例1で作製したハーフミラーの端部膜厚変化の評価結果について表2に示した。
【0160】
【表2】
Figure 0004254190
【0161】
(結果)
実施例1において、基材の端部にダミー基材を密着(間隔0mm)させた試料1は、端部の膜厚変化が全くなく、間隔を1mmとした試料2は、端部の膜厚変化がほとんどなかった。間隔を2mmとした試料3は、端部の膜厚変化が見られるものの極微少であった。更に、間隙を5mmとした試料4は、膜厚変化は見られたが微少であったものの許容出来る範囲であった。これに対してダミー基材を配置しなかった比較例1では、端部の膜厚変化が非常に大きく、許容出来る範囲を大きくこえていた。
【0162】
実施例2
〔ハーフミラーの作製〕
基材FまたはF′とダミー基材DFまたはDF′を図2のように密着して配置し、表3のように、ダミー基材DFまたはDF′の厚さを変化させて電極11または11′の底面と該ダミー基材DFまたはDF′との距離を、基材F面と電極11または11′の底面との距離を変え、基材FまたはF′及びダミー基材DFまたはDF′とに段差をつけて配置した以外は実施例1の試料1と同様に(枚葉基材の材質及び枚葉基材とダミー基材の端部の間隔は密着して(0mm)配置)ハーフミラーを作製した。
【0163】
比較例2
移動架台電極15の上に基材Fの端部の周囲にダミー基材を配置しなかった以外は、実施例2と同様に行った。
【0164】
評価は実施例1と同様に行った。なお、表3中、+は電極底面とダミー基材面との距離が広くなっている(基材面よりダミー基材面が低く下がっている)ことを表し、−は電極底面とダミー基材面との距離が狭くなっている(基材面よりダミー基材面が高く上がっている)ダミー基材面が高いことを表している。
【0165】
実施例2及び比較例2の結果を表3に示した。
【0166】
【表3】
Figure 0004254190
【0167】
(結果)
実施例2の電極底面と基材面の距離と電極底面とダミー基材面の差が全くない試料6は、実施例1の試料1と同じであり、全く変動がなかった。(|a−b|/a)×100(%)を5%とした試料7(a−bが+)、8(a−bが−)の端部の膜厚変化は、ほとんどなかった。また、(|a−b|/a)×100(%)を10%とした試料9(a−bが+)、10(a−bが−)は、極微少の端部膜厚変化が認められた。更に、(|a−b|/a)×100(%)を20%とした試料11((a−b)が+)、12((a−b)が−)は、端部の膜厚変化が微少ではあるがわずかに見られたが、許容範囲であった。これに対してダミー基材を配置しなかった比較例2の試料13(比較例1と同一)では、端部膜厚変化が非常に大きく、許容出来る範囲を大きく超えていた。
【0168】
実施例3
〔ハーフミラーの作製〕
〈電極の作製〉
電極のサイズは、底面の長さ500mm、幅80mm、高さ100mm、肉厚5mmで、図6に示したような2個の角筒型の電極111と112(中は空洞になっている)を作製した。電極の金属質母材111A及び112Aをチタン合金T64とし、対向電極を形成する面に誘電体111B及び112Bを3.5mmの厚さで被覆し、更にその面に続く両側の面の誘電体の立ち上がりを30mmとした。誘電体の被覆は、実施例1の場合と同様に行った。2個の電極の誘電体のある面を向き合わせて、その間隔(放電空間となる)を1.5mmとして平行になるように角筒の両端面を絶縁体例えば耐熱性の樹脂板(ポリイミドのような)で封鎖して固定した。2個の電極の間の導通性と、ジャケットとしての水漏れをチェックした。ガス供給管152は図5のガス供給管52と同様なものを付けた。この電極を有する薄膜形成装置を図9のように2基配列した。
【0169】
〈移動架台〉
移動架台116は、長さ600mm、幅600mm、厚さが80mmステンレススティールの平板で、電極と相対する面には厚さ10mmの耐熱樹脂で被覆し、その表面を平滑にして、JIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が5μmとなるように加工した。この移動架台116はリニアガイド上に載せられ、図示してない駆動装置(サーボモーターとボールねじ)により移動出来るよう移動手段を有している。
【0170】
〈薄膜形成条件〉
図6に示したような薄膜形成装置を同じものを二つ並べて配置した図9の薄膜形成装置を用いた。高周波電源141にはパール工業製の高周波電源13.56MHzを接続した。対向電極(111と112)底面と移動架台116面を平行にして、処理空間114を2mmとし、移動架台の上の中央に、長さ480mm、幅380mm、厚さ0.5mmの全く平坦な基材Fとしてのソーダライムガラス板を枚葉の基材Fとして設置した。その周辺に図2のように、表4に示した同じ厚さの誘電率が10%以下ダミー基材を、枚葉基材に密着して配置した。薄膜形成する基材の誘電率が異なるダミー基材を、枚葉基材に密着して配置した。薄膜形成する基材の誘電率は8.2であった。
【0171】
放電空間113と処理空間114の圧力を103kPaとし、1基目のプラズマ放電装置のガス供給管152から下記高屈折率層用混合ガス(MGA)を放電空間113に満たし、スウィッチ143をONにし、上記高周波電源141から周波数13.56MHz、2W/cm2の電力密度を供給して放電空間113に高周波電圧を印加しガスMGAを励起させてジェット噴射口115から移動架台に向けて励起したガスMGAを噴射させ、励起した高屈折率層用混合ガスGA°に基材Fを8分間晒し、1層目の高屈折率層を形成させた。薄膜形成後、スウィッチ143をOFFにしてから移動架台116を次の(図中右側の)プラズマ放電装置に移動し、対向電極(111′と112′)の放電空間113′と処理空間114の圧力を同様に103kPaとし、下記低屈折率層用混合ガス(MGB)を放電空間113′に満たし、スウィッチ143′をONし上記高周波電源141から周波数13.56MHz、2W/cm2の電力密度を供給して放電空間113′に高周波電圧を印加しガスMGBを励起させてジェット噴射口115′から移動架台に向けて励起したガスMGBを噴射させ、励起した低屈折率層用混合ガスGB°に基材F′を5分間晒し、第2層目としての低屈折率層を形成した。スウィッチ143′をOFFとした。低屈折率層形成後、移動架台116を元のプラズマ放電装置(図中左側)に戻し、再び同様な第3層目の高屈折率層薄膜形成を行い、更に第4層目としての低屈折率層薄膜形成を行い、表1に示したような、積層ごとの放電時間をかけて高屈折率層側の薄膜形成装置で3〜8分を7回繰り返し、低屈折率層側の薄膜形成装置では1〜5分7回繰り返して薄膜形成を行った。高屈折率層薄膜形成と低屈折率層薄膜形成を交互に7回、14層の積層を行いハーフミラーを作製した。
【0172】
《高屈折率層用混合ガス(MGA)》
放電ガス:アルゴン 99.3体積%
薄膜形成ガス:テトライソプロポキシチタン蒸気 0.2体積%
補助ガス:酸素ガス 0.5体積%
《低屈折率層用混合ガス(MGB)》
放電ガス:アルゴン 99.2体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン蒸気 0.3体積%
補助ガス:酸素ガス 0.5体積%
なお、上記薄膜形成ガス蒸気はリンテック(株)製の気化器を使用して気化後、アルゴンガス中に混合した。
【0173】
比較例3
移動架台116の上のガラスの基材Fの端部の周囲に、ダミー基材を配置しなかった以外は、実施例3と同様に行いハーフミラーを得た。
【0174】
なお、誘電率の異なるダミー基材は、基材と同じソーダライムガラスのうち誘電率7.0のもの、またけい酸塩ガラスであるが誘電率が6.6のものを使用した。
【0175】
実施例3及び比較例3の試料の端部膜厚変動率を実施例1の評価と同様に行い、その結果を表4に示した。
【0176】
【表4】
Figure 0004254190
【0177】
(結果)
実施例3の枚葉基材とダミー基材との誘電率の差が全くない試料14は、実施例1の試料1と同一であり、全く端部変動はなかった。(|c−d|/c)×100(%)を6%とした試料15は、端部の膜厚変化は、ほとんどなかった。また、(|c−d|/c)×100(%)を20%とした試料16は、端部の膜厚変化がやや大きくみられたが許容出来る範囲であった。これに対し、ダミー基材を配置しなかった比較例3の試料17(比較例1と同じ)では、端部の膜厚変化がひじょうに大きく、許容範囲を大きく超えていた。
【0178】
【発明の効果】
薄膜形成の際、基材の端部に膜厚の変動がなく、基材上全面積にわたって薄膜の膜厚均一にすることの出来る薄膜形成方法を提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】基材がグロー放電の中に入る際に生じる異常放電の様子を示したイラスト的図である。
【図2】移動架台上の基材の周辺にダミー基材を配置した平面図の一例である。
【図3】ダミー基材を基材の周囲に配置してグロー放電の中を移動して薄膜形成しているイラスト的図である。
【図4】本発明に有用な薄膜形成装置の一例の概略図である。
【図5】図4の電極を底面側から見上げた斜視図である。
【図6】本発明に有用な薄膜形成装置の一例の概略図である。
【図7】本発明に有用な薄膜形成装置の一例の概略図である。
【図8】本発明に有用な図4のプラズマ放電装置を2基配列した薄膜形成装置の一例の概略図である。
【図9】本発明に有用な図6のプラズマ放電装置を2基配列した薄膜形成装置の一例の概略図である。
【符号の説明】
11 電極
13 放電空間
14 スリット
15、15′ 移動架台電極
41 高周波電源
F 基材

Claims (29)

  1. 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)にガスを導入し、該放電空間に高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスに基材を晒すことにより該基材上に薄膜を形成する際に、一方の電極面と平行して相対的に移動する電極平面上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法。
  2. 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)にガスを導入し、該放電空間に高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスを該放電空間外の処理空間に噴出させ、該処理空間において基材を該励起したガスに晒すことにより該基材上に薄膜を形成する際に、該対向電極の底面と平行して相対的に移動する架台上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法
  3. 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)を大気圧もしくはその近傍の圧力とし、該放電空間にガスを導入して高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスにより基材上に薄膜を形成する際に、一方の電極面と平行して相対的に移動する電極平面上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法
  4. 少なくとも2個の電極が対向する対向電極間(放電空間)を大気圧もしくはその近傍の圧力とし、該放電空間にガスを導入して高周波電圧を印加し、該ガスを励起させ、該励起したガスを該放電空間外の処理空間に噴出させ、該処理空間において基材を該励起したガスに晒すことにより該基材上に薄膜を形成する際に、該対向電極と平行して相対的に移動する架台上に有する該基材の端部に接して、または該基材の端部の近傍にダミー基材を配置する薄膜形成方法であって、前記基材が有する誘電率をcとし、前記ダミー基材が有する誘電率をdとした時、(|c−d|/c)×100(%)を20%以内とすることを特徴とする薄膜形成方法
  5. 前記基材の端部と前記ダミー基材の端部との距離を5mm以内として配置することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  6. 前記電極の底面と前記基材の面との距離をaとし、該電極の底面とダミー基材の面までの距離をbとした時、(|a−b|/a)×100(%)が20%以内とすることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  7. 前記基材が枚葉基材であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  8. 前記ダミー基材片を繰り返し使用することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  9. 前記電極と前記基材が一方方向にまたは往復して相対的に移動することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  10. 前記ガスが放電ガスと薄膜形成ガスを主構成成分とするものであることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  11. 前記ガスが放電ガスを主構成成分とするものであることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  12. 前記ガスが薄膜形成ガスを主構成成分とするものであることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  13. 前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つの添加ガスを含有することを特徴とする請求項10ま たは12に記載の薄膜形成方法。
  14. 前記有機金属化合物が下記一般式(I)で表されるものであることを特徴とする請求項13に記載の薄膜形成方法。
    一般式(I) R MR
    式中、Mは金属、R はアルキル基、R はアルコキシ基、R はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとすると、x+y+z=mであり、x=0〜mまたはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mである。
  15. 前記一般式(I)で表される有機金属化合物が、少なくとも一つのR のアルコキシ基を有するものであることを特徴とする請求項14に記載の薄膜形成方法。
  16. 前記一般式(I)で表される有機金属化合物が、少なくとも一つのR のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を有することを特徴とする請求項14または15に記載の薄膜形成方法。
  17. 前記一般式(I)で表される有機金属化合物のMの金属が、チタン(Ti)、珪素(Si)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びゲルマニウム(Ge)から選ばれる少なくとも一つのものであることを特徴とする請求項14乃至16の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  18. 前記対向電極間に印加する電界が、周波数100kHzを超える高周波電圧で、且つ1W/cm 以上の電力密度を供給して放電させることを特徴とする請求項1乃至17の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  19. 前記高周波電圧を印加する周波数を150kHz以上とすることを特徴とする請求項1乃至18の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  20. 前記高周波電圧をかける周波数を200kHz以上とすることを特徴とする請求項19に記載の薄膜形成方法。
  21. 前記高周波電圧をかける周波数を800kHz以上とすることを特徴とする請求項19または20に記載の薄膜形成方法。
  22. 前記高周波電圧をかける周波数を150MHz以下とすることを特徴とする請求項18乃至21の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  23. 前記電力密度を1.2W/cm 以上とすることを特徴とする請求項18に記載の薄膜形成方法。
  24. 前記電力密度を50W/cm 以下とすることを特徴とする請求項23に記載の薄膜形成方法。
  25. 前記電力密度を20W/cm 以下とすることを特徴とする請求項24に記載の薄膜形成方法。
  26. 前記高周波電圧が、連続したサイン波であることを特徴とする請求項1乃至25の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  27. 対向電極の少なくとも一方が誘電体で被覆されていることを特徴とする請求項1乃至26の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
  28. 前記誘導体の非誘電率が6〜45の無機物であることを特徴とする請求項27に記載の薄膜形成方法。
  29. 前記誘電体を被覆した電極の表面粗さRmaxが10μm以下であることを特徴とする請求項27または28に記載の薄膜形成方法。
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