JP4243413B2 - 磁石粉末の製造方法およびボンド磁石の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁石粉末の製造方法およびボンド磁石の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
モータ等の小型化を図るためには、そのモータに使用される際の(実質的なパーミアンスにおいての)磁石の磁束密度が高いことが望まれる。ボンド磁石における磁束密度を決定する要因は、磁石粉末の磁化の値と、ボンド磁石中における磁石粉末の含有量(含有率)とがある。従って、磁石粉末自体の磁化がそれほど高くない場合には、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を極端に多くしないと十分な磁束密度が得られない。
【0003】
ところで、現在、高性能な希土類ボンド磁石として使用されているものとしては、希土類磁石粉末として、MQI社製のMQP−B粉末を用いた等方性ボンド磁石が大半を占めている。等方性ボンド磁石は、異方性ボンド磁石に比べ次のような利点がある。すなわち、ボンド磁石の製造に際し、磁場配向が不要であるため、製造プロセスが簡単で、その結果製造コストが安価となることである。しかしこのMQP−B粉末に代表される従来の等方性ボンド磁石には、次のような問題点がある。
【0004】
1) 従来の等方性ボンド磁石では、磁束密度が不十分であった。すなわち用いられる磁石粉末の磁化が低いため、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)を高めなければならないが、磁石粉末の含有量を高くすると、ボンド磁石の成形性が悪くなるため、限界がある。また、成形条件の工夫等により磁石粉末の含有量を多くしたとしても、やはり、得られる磁束密度には限界があり、このためモータの小型化を図ることはできない。
【0005】
2) ナノコンポジット磁石で残留磁束密度の高い磁石も報告されているが、その場合は保磁力が小さすぎて、実用上モータとして得られる磁束密度(実際に使用される際のパーミアンスでの)は非常に低いものであった。また、保磁力が小さいため、熱的安定性も劣る。
【0006】
3) ボンド磁石の耐食性、耐熱性が低くなる。すなわち、磁石粉末の磁気特性の低さを補うために、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を多くしなければならず(すなわちボンド磁石の密度を極端に高密度化することとなり)、その結果、ボンド磁石は、耐食性、耐熱性が劣り信頼性が低いものとなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、磁気特性が優れ、信頼性に優れた磁石を提供することができる磁石粉末およびボンド磁石を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
【0009】
(1) 磁石材料の溶湯を回転する冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化することにより急冷薄帯を得、該急冷薄帯を粉砕して磁石粉末を得る磁石粉末の製造方法であって、
前記磁石粉末が、(Nd v Pr v−1 ) x Fe bal Co w B y M z (ただし、Mは、Ti、Cr、Nb、V、Mo、Hf、W、Mn、Zr、Dyのうち少なくとも1種の元素、x:8.2〜9.1原子%、y:5.5〜5.8原子%、z:1.3〜2.2原子%、w:5.0〜8.0原子%、v:0.4〜0.8)で表される合金組成からなり、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成されるものであり、
結晶粒径が5〜50nmであり、
前記磁石粉末の平均粒径が0.5〜150μmであり、
結合樹脂と混合し圧縮成形して密度ρ[Mg/m3]のボンド磁石としたとき、当該ボンド磁石の室温での最大磁気エネルギー積(BH)max[kJ/m3]が、2.40≦(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]≦2.94の関係を満足するとともに、当該ボンド磁石の室温での残留磁束密度Br[T]が、0.125≦Br/ρ[×10-6T・m3/g]≦0.142の関係を満足し、かつ当該ボンド磁石の室温での固有保磁力HcJが569〜605kA/mであり、
前記冷却ロールは、金属または合金で構成される基部と、周面を構成し、表面層とを有し、該表面層の熱伝導率が前記基部の熱伝導率より小さいものであり、
前記表面層は、その厚さが0.5〜50μmであり、かつ、WCで構成されていることを特微とする磁石粉末の製造方法。
【0011】
(2) 前記急冷薄帯の厚さは、10〜40μmである上記(1)に記載の磁石粉末の製造方法。
【0016】
(3) 前記急冷薄帯の粉砕前および/または粉砕後に、少なくとも1回熱処理を施す上記(1)または(2)に記載の磁石粉末の製造方法。
【0017】
(4) 磁石材料の溶湯を回転する冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化することにより急冷薄帯を得る工程と、
前記急冷薄帯を粉砕して磁石粉末を得る工程と、
前記磁石粉末を結合樹脂と混合し圧縮成形して密度ρ[Mg/m 3 ]のボンド磁石を得る工程とを有し、
前記磁石粉末が、(Nd v Pr v−1 ) x Fe bal Co w B y M z (ただし、Mは、Ti、Cr、Nb、V、Mo、Hf、W、Mn、Zr、Dyのうち少なくとも1種の元素、x:8.2〜9.1原子%、y:5.5〜5.8原子%、z:1.3〜2.2原子%、w:5.0〜8.0原子%、v:0.4〜0.8)で表される合金組成からなり、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成されるものであり、
結晶粒径が5〜50nmであり、
前記磁石粉末の平均粒径が0.5〜150μmであり、
前記ボンド磁石の室温での最大磁気エネルギー積(BH) max [kJ/m 3 ]が、2.40≦(BH) max /ρ 2 [×10 -9 J・m 3 /g 2 ]≦2.94の関係を満足するとともに、前記ボンド磁石の室温での残留磁束密度Br[T]が、0.125≦Br/ρ[×10 -6 T・m 3 /g]≦0.142の関係を満足し、かつ前記ボンド磁石の室温での固有保磁力H cJ が569〜605kA/mであり、
前記冷却ロールは、金属または合金で構成される基部と、周面を構成し、表面層とを有し、該表面層の熱伝導率が前記基部の熱伝導率より小さいものであり、
前記表面層は、その厚さが0.5〜50μmであり、かつ、WCで構成されていることを特微とするボンド磁石の製造方法。
【0018】
(5) 前記圧縮成形は、前記結合樹脂が溶融または軟化する温度で行うものである上記(4)に記載のボンド磁石の製造方法。
【0019】
(6) 前記ボンド磁石の最大磁気エネルギー積(BH)maxが50kJ/m3以上である上記(4)または(5)に記載のボンド磁石の製造方法。
【0020】
(7) 前記ボンド磁石を100℃×1時間の環境に保持した後、室温に戻した際における不可逆減磁率(初期減磁率)の絶対値が5%以下である上記(4)ないし(6)のいずれかに記載のボンド磁石の製造方法。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁石粉末の製造方法およびボンド磁石の製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。
【0033】
[本発明の概要]
モータなどの小型化を図るために、磁束密度が高い磁石を得ることが課題となっている。ボンド磁石における磁束密度を決定する要因は、磁石粉末の磁化の値と、ボンド磁石中における磁石粉末の含有量(含有率)とがあるが、磁石粉末自体の磁化がそれほど高くない場合には、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を極端に多くしないと十分な磁束密度が得られない。
【0034】
現在普及している前述のMQI社製のMQP−B粉末は、前述したように、用途によっては磁束密度が不十分であり、よって、ボンド磁石の製造に際し、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を高めること、すなわち高密度化を余儀なくされ、耐食性、耐熱性や機械的強度等の面で信頼性に欠けるとともに、保磁力が高いため、着磁性が悪いという欠点を有している。
【0035】
これに対し、本発明の磁石粉末およびボンド磁石は、十分な磁束密度と適度な保磁力が得られ、これにより、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)をそれほど高める必要がなく、その結果、高強度で、成形性、耐食性、着磁性等に優れた信頼性の高いボンド磁石を提供することができ、また、ボンド磁石の小型化、高性能化により、モータ等の磁石搭載機器の小型化にも大きく貢献することができる。
【0036】
さらに、本発明の磁石粉末は、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織を構成するものとすることができる。
【0037】
前述のMQI社製のMQP−B粉末は、ハード磁性相の単相組織であるが、このような複合組織では磁化の高いソフト磁性相が存在するため、トータルの磁化が高くなるという利点があり、さらにリコイル透磁率が高くなるため、一旦逆磁場を加えてもその後の減磁率が小さいという利点を有する。
【0038】
[磁石粉末の合金組成]
本発明の磁石粉末は、Rx(Fe1-aCoa)100-x-y-zByMz(ただし、Rは、Dyを除く少なくとも1種の希土類元素、Mは、Ti、Cr、Nb、V、Mo、Hf、W、Mn、Zr、Dyのうち少なくとも1種の元素、x:7.1〜9.9原子%、y:4.6〜8.0原子%、z:0.1〜3.0原子%、a:0〜0.30)で表される合金組成からなるものである。
【0039】
R(Dyを除く希土類元素)としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。
【0040】
Rの含有量(含有率)は、7.1〜9.9原子%とされる。Rの含有量が7.1原子%未満では、十分な保磁力が得られず、Mを添加しても保磁力の向上が少ない。一方、Rの含有量が9.9原子%を超えると、磁化のポテンシャルが下がるため、十分な磁束密度が得られなくなる。
【0041】
ここで、RはNdおよび/またはPrを主とする希土類元素であるのが好ましい。その理由は、これらの希土類元素は、複合組織(特にナノコンポジット組織)を構成するハード磁性相の飽和磁化を高め、また磁石として良好な保磁力を実現するために有効だからである。
【0042】
また、Rは、Prを含み、その割合がR全体に対し5〜75%であるのが好ましく、20〜60%であるのがより好ましい。この範囲であると、残留磁束密度の低下をほとんど生じることなく、保磁力および角型性を向上させることができるためである。
【0043】
Coは、Feと同様の特性を有する遷移金属である。このCoを添加すること(Feの一部を置換すること)により、キュリー温度が高くなり、温度特性が向上するが、Feに対するCoの置換比率が0.30を超えると、保磁力、磁束密度は共に低下する傾向を示す。Feに対するCoの置換比率が0.05〜0.20の範囲では、温度特性の向上のみならず、磁束密度自体も向上するので、さらに好ましい。
【0044】
B(ボロン)は、高い磁気特性を得るのに有効な元素であり、その含有量は、4.6〜8.0原子%とされる。Bが4.6原子%未満であると、B−H(J−H)ループにおける角型性が悪くなる。一方、Bが8.0原子%を超えると、非磁性相が多くなり、磁束密度が急減する。
【0045】
Mは、保磁力向上にとって有利な元素であり、その含有量は、0.1〜3.0原子%とされる。特に、Mの含有量は、0.2〜2.5原子%であるのが好ましく、0.5〜2.0原子%であるのがより好ましい。このような範囲でMが含有されることにより、顕著な保磁力向上の効果が現れる。また、このような範囲では、保磁力向上に追随して、角型性および最大磁気エネルギー積も向上する。さらに、耐熱性および耐食性についても良好となる。ただし、上述したように、Rの含有量が7.1原子%未満では、Mの添加によるこのような効果は非常に小さい。また、Mの含有量が上限値を超えると、磁化の低下が生じる。
【0046】
なお、M自体は新規な物質ではないが、本発明では、実験、研究を重ねた結果、ソフト磁性相とハード磁性相を有する複合組織で構成される磁石粉末において、Mを前述の範囲内で含有せしめることにより、▲1▼優れた角型性、最大磁気エネルギー積を確保しつつ保磁力の向上が図れる、▲2▼不可逆減磁率の改善(絶対値の低減)が図れる、▲3▼良好な耐食性を保持できる、という3つの効果が得られること、特にこれらの効果が同時に得られることを見出したものであり、この点に本発明の意義がある。
【0047】
また、磁気特性をさらに向上させる等の目的で、磁石粉末を構成する合金中には、必要に応じ、Ta、Zn、P、Ge、Cu、Ga、Si、In、Ag、Alよりなる群(以下この群を「Q」で表す)から選択される少なくとも1種の元素を含有することもできる。Qに属する元素を含有する場合、その含有量は、2.0原子%以下であるのが好ましく、0.1〜1.5原子%であるのがより好ましく、0.2〜1.0原子%であるのがさらに好ましい。
【0048】
Qに属する元素の含有は、その種類に応じた固有の効果を発揮する。例えば、Ta、Cu、Ga、Si、Alは、耐食性を向上させる効果がある。
【0049】
[複合組織]
また、磁石材料は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織となっている。
【0050】
この複合組織(ナノコンポジット組織)は、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが、例えば図1、図2または図3に示すようなパターン(モデル)で存在しており、各相の厚さや粒径がナノメーターレベルで存在している。そして、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが相隣接し(粒界相を介して隣接する場合も含む)、磁気的な交換相互作用を生じる。
【0051】
平均結晶粒径は、5〜50nmであり、特に、10〜40nmであるのが好ましい。平均結晶粒径が下限値未満であると、結晶粒間の交換相互作用の影響が強くなり過ぎて、磁化反転が容易となり、保磁力が劣化する場合がある。
【0052】
一方、平均結晶粒径が上限値を超えると、結晶粒径の粗大化と、結晶粒間の交換相互作用の影響が弱くなることから、磁束密度、保磁力、角型性、最大エネルギー積が劣化する場合がある。
【0053】
なお、図1〜図3に示すパターンは、一例であって、これらに限られるものではなく、例えば図2に示すパターンにおいて、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが逆になっているものでもよい。
【0054】
ソフト磁性相の磁化は、外部磁界の作用により容易にその向きを変えるので、ハード磁性相に混在すると、系全体の磁化曲線は、B−H図の第二象現で段のある「へび型曲線」となる。しかし、ソフト磁性相のサイズが十分小さい場合には、ソフト磁性体の磁化が周囲のハード磁性体の磁化との結合によって十分強く拘束され、系全体がハード磁性体として振舞うようになる。
【0055】
このような複合組織(ナノコンポジット組織)を持つ磁石は、主に、以下に挙げる特徴1)〜5)を有している。
【0056】
1)B−H図(J−H図)の第二象現で、磁化が可逆的にスプリングバックする(この意味で「スプリング磁石」とも言う)。
2)着磁性が良く、比較的低い磁場で着磁できる。
3)磁気特性の温度依存性がハード磁性相単独の場合に比べて小さい。
4)磁気特性の経時変化が小さい。
5)微粉砕しても磁気特性が劣化しない。
【0057】
前述した合金組成において、ハード磁性相およびソフト磁性相は、例えば次のようなものとなる。
【0058】
ハード磁性相:R2TM14B系(ただし、TMは、FeまたはFeとCoを主とする遷移金属)
ソフト磁性相:TM(特にα−Fe,α−(Fe,Co))
【0059】
[磁石粉末の製造]
本発明の磁石粉末は、溶湯合金を急冷することにより製造されたものであるのが好ましく、特に、合金の溶湯を急冷、固化して得られた急冷薄帯(リボン)を粉砕して製造されたものであるのが好ましい。以下、その方法の一例について説明する。
【0060】
図4は、単ロールを用いた急冷法により磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)の構成例を示す斜視図、図5は、図4に示す装置における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【0061】
図4に示すように、急冷薄帯製造装置1は、磁石材料を収納し得る筒体2と、該筒体2に対し図中矢印9A方向に回転する冷却ロール5とを備えている。筒体2の下端には、磁石材料(合金)の溶湯を射出するノズル(オリフィス)3が形成されている。
【0062】
また、筒体2のノズル3近傍の外周には、加熱用のコイル4が配置され、このコイル4に例えば高周波を印加することにより、筒体2内を加熱(誘導加熱)し、筒体2内の磁石材料を溶融状態にする。
【0063】
冷却ロール5は、基部51と、冷却ロール5の周面53を形成する表面層52とで構成されている。
【0064】
表面層52は、基部51と同じ材質で一体構成されていてもよいが、基部51の構成材料より熱伝導率の小さい材料で構成されているのが好ましい。
【0065】
基部51の構成材料は、特に限定されないが、表面層52の熱をより速く放散できるように、例えば銅または銅系合金のような熱伝導率の高い金属材料で構成されているのが好ましい。
【0066】
また、表面層52の構成材料としては、例えば、Cr、Ni、Pd、W等、またはこれらを含む合金等の金属薄層や金属酸化物層、セラミックス等が挙げられる。その中でも、特に、急冷薄帯8のロール面(冷却ロール5と接触する側の面)81とフリー面(ロール面81の反対側の面)82との冷却速度の差をより小さくできるという点で、セラミックスであるのが好ましい。
【0067】
セラミックスとしては、例えば、Al2O3、SiO2、TiO2、Ti2O3、ZrO2、Y2O3、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si3N4、TiN、BN等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al4C3、CaC2、WC等の炭化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組合せた複合セラミックスが挙げられる。
【0068】
また、表面層52は、図示のような単層のみならず、例えば組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。この場合、隣接する層同士は、密着性の高いものが好ましく、その例としては、隣接する層同士に同一の元素が含まれているものが挙げられる。
【0069】
また、表面層52が単層で構成されている場合でも、その組成は、厚さ方向に均一なものに限らず、例えば、含有成分が厚さ方向に順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0070】
表面層52の平均厚さ(前記積層体の場合はその合計厚さ)は、特に限定されないが、0.5〜50μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
【0071】
表面層52の平均厚さが下限値未満であると、次のような問題が生じる場合がある。すなわち、表面層52の材質によっては、冷却能が大きすぎて、厚さがかなり大きい急冷薄帯8でもロール面81では冷却速度が大きく、非晶質になり易くなる。一方、フリー面82では急冷薄帯8の熱伝導率が比較的小さいので急冷薄帯8の厚さが大きいほど冷却速度が小さくなり、その結果、結晶粒径の粗大化が起こり易くなる。すなわち、フリー面82では粗大粒、ロール面81では非晶質といった急冷薄帯となり易くなり、満足な磁気特性が得られない場合がある。また、フリー面82での結晶粒径を小さくするために、例えば、冷却ロール5の周速度を大きくして、急冷薄帯8の厚さを小さくしたとしても、ロール面81での非晶質がよりランダムなものとなり、急冷薄帯8の作成後に、熱処理を施したとしても、十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0072】
また、表面層52の平均厚さが上限値を超えると、急冷速度が遅く、結晶粒径の粗大化が起こり、結果として磁気特性が低下する場合がある。
【0073】
このような急冷薄帯製造装置1は、チャンバー(図示せず)内に設置され、該チャンバー内に、好ましくは不活性ガスやその他の雰囲気ガスが充填された状態で作動する。特に、急冷薄帯8の酸化を防止するために、雰囲気ガスは、例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスであるのが好ましい。
【0074】
急冷薄帯製造装置1では、筒体2内に磁石材料(合金)を入れ、コイル4により加熱して溶融し、その溶湯6をノズル3から吐出すると、図5に示すように、溶湯6は、冷却ロール5の周面53に衝突し、パドル(湯溜り)7を形成した後、回転する冷却ロール5の周面53に引きずられつつ急速に冷却されて凝固し、急冷薄帯8が連続的または断続的に形成される。このようにして形成された急冷薄帯8は、やがて、そのロール面81が周面53から離れ、図4中の矢印9B方向に進行する。なお、図5中、溶湯の凝固界面71を点線で示す。
【0075】
冷却ロール5の周速度は、合金溶湯の組成、表面層52の構成材料(組成)、周面53の表面性状(特に、周面53の溶湯6に対する濡れ性)等によりその好適な範囲が異なるが、磁気特性向上のために、5〜60m/秒であるのが好ましく、10〜40m/秒であるのがより好ましい。冷却ロール5の周速度が下限値未満であると、溶湯6(パドル7)の冷却速度が低下し、結晶粒径が増大する傾向を示し、磁気特性が低下する場合がある。一方、冷却ロール5の周速度が上限値を超えると、逆に冷却速度が大きくなり、非晶質組織が占める割合が大きくなり、その後に、後述する熱処理を施したとしても、磁気特性が十分に向上しない場合がある。
【0076】
以上のようにして得られた急冷薄帯8は、その幅wおよび厚さができるだけ均一であるものが好ましい。この場合、急冷薄帯8の平均厚さtは、10〜40μmであるのが好ましく、12〜30μmであるのがより好ましい。平均厚さtが下限値未満であると、非晶質組織が占める割合が大きくなり、その後に、後述する熱処理を施したとしても磁気特性が十分に向上しない場合がある。単位時間当たりの生産性も低下する。一方、平均厚さtが上限値を超えると、フリー面82側の結晶粒径が粗大化する傾向を示すため、磁気特性が低下する場合がある。
【0077】
なお、得られた急冷薄帯8に対しては、例えば、非晶質組織の再結晶化の促進、組織の均質化のために、少なくとも1回熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件としては、例えば、400〜900℃で、0.2〜300分程度とすることができる。
【0078】
また、この熱処理は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0079】
以上のような製造方法により得られた急冷薄帯(薄帯状の磁石材料)8は、微細結晶組織、もしくは微細結晶がアモルファス組織中に含まれるような組織となり、優れた磁気特性が得られる。そして、この急冷薄帯8を粉砕することにより、本発明の磁石粉末が得られる。
【0080】
粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。この場合、粉砕は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr )、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うこともできる。
【0081】
磁石粉末の平均粒径は、後述するボンド磁石を製造するためのものの場合、磁石粉末の酸化防止と、粉砕による磁気特性劣化の防止とを考慮して、0.5〜150μmであり、特に、0.5〜80μmであるのが好ましく、1〜50μmであるのがより好ましい。
【0082】
また、ボンド磁石の成形時のより良好な成形性を得るために、磁石粉末の粒径分布は、ある程度分散されている(バラツキがある)のが好ましい。これにより、得られたボンド磁石の空孔率を低減することができ、その結果、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を同じとしたときに、ボンド磁石の密度や機械的強度をより高めることができ、磁気特性をさらに向上することができる。
【0083】
なお、得られた磁石粉末に対しては、例えば、粉砕により導入されたひずみの影響の除去、結晶粒径の制御を目的として、熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件としては、例えば、350〜850℃で、0.2〜300分程度とすることができる。
【0084】
また、この熱処理は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0085】
以上のような磁石粉末を用いてボンド磁石を製造した場合、そのような磁石粉末は、結合樹脂との結合性(結合樹脂の濡れ性)が良く、そのため、このボンド磁石は、機械的強度が高く、熱安定性(耐熱性)、耐食性が優れたものとなる。従って、当該磁石粉末は、ボンド磁石の製造に適している。
【0086】
なお、以上では、急冷法として、単ロール法を例に説明したが、双ロール法を採用してもよい。また、その他、例えばガスアトマイズのようなアトマイズ法、回転ディスク法、メルト・エクストラクション法、メカニカル・アロイング(MA)法等により製造してもよい。このような急冷法は、金属組織(結晶粒)を微細化することができるので、ボンド磁石の磁石特性、特に保磁力等を向上させるのに有効である。
【0087】
[ボンド磁石およびその製造]
次に、本発明のボンド磁石について説明する。
【0088】
本発明のボンド磁石は、磁石粉末と、結合樹脂とを混合し、圧縮成形してなるものである。
【0089】
結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0090】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0091】
これらのうちでも、成形性が特に優れており、機械的強度が高いことから、ポリアミド、耐熱性向上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイドを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0092】
このような熱可塑性樹脂は、その種類、共重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の選択が可能となるという利点がある。
【0093】
一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン系等の各種エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0094】
これらのうちでも、成形性が特に優れており、機械的強度が高く、耐熱性に優れるという点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。また、これらの熱硬化性樹脂は、磁石粉末との混練性、混練の均一性にも優れている。
【0095】
なお、使用される熱硬化性樹脂(未硬化)は、室温で液状のものでも、固形(粉末状)のものでもよい。
【0096】
このような本発明のボンド磁石は、例えば次のようにして製造される。磁石粉末と、結合樹脂と、必要に応じ添加剤(酸化防止剤、潤滑剤等)とを混合、混練(例えば、温間混練)してボンド磁石用組成物(コンパウンド)を製造し、このボンド磁石用組成物を圧縮成形機の成形金型内に充填し、磁場中または無磁場中で、コンパウンドを加圧することにより、所望の磁石形状に成形する。結合樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形後、加熱等によりそれを硬化する。
【0097】
この圧縮成形は、前記結合樹脂が溶融または軟化する温度で行われるのが好ましい(温間圧縮成形)。
【0098】
この温間圧縮成形は、例えば、成形金型を加熱すること等により、成形時のコンパウンドの温度を、用いられる結合樹脂が溶融または軟化する所定の温度とした状態で行われる。
【0099】
このときの金型温度は、用いられる結合樹脂の軟化点以上の温度であるのが好ましい。特に、金型温度は、結合樹脂の融点をt℃としたとき、t〜(t+80)℃程度であるのが好ましい。ただし、結合樹脂が熱硬化性樹脂であり、かつこの結合樹脂の硬化を開始する温度が(t+80)より低い場合、温間圧縮成形時における金型温度の上限は、結合樹脂の硬化を開始する温度未満の温度であるのが好ましい。
【0100】
このような温度で温間圧縮成形を行うことにより、成形時におけるコンパウンドの流動性が向上し、成形性が向上するとともに、空孔率の小さいボンド磁石を製造することができ、更なる磁気特性の向上が図れる。また、ボンド磁石の機械的強度も向上する。
【0101】
圧縮成形時における成形圧力は、成形時の温度等によって若干異なるが、1〜25ton/cm2であるのが好ましく、5〜20ton/cm2であるのがより好ましい。
【0102】
このようにして得られるボンド磁石の空孔率は、5vol%以下であるのが好ましく、3vol%以下であるのがより好ましい。
【0103】
このような圧縮成形は、射出成形や押出成形に比べて、コンパウンドの流動性が要求されないので、射出成形や押出成形に比べて、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を多くすることができる。しかも、本発明の磁石粉末は、前述したように、従来の磁石粉末に比べ、高い磁気特性を有している。したがって、本発明の磁石粉末を用いて圧縮成形(特に、温間圧縮成形)を行うことにより、それらの相乗効果で非常に優れた磁気特性を有するボンド磁石を得ることができる。
【0104】
ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)は、特に限定ないが、90〜99.5wt%程度であるのが好ましく、93〜98.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0105】
ボンド磁石の密度ρは、それに含まれる磁石粉末の比重、磁石粉末の含有量、空孔率等の要因により決定される。本発明のボンド磁石において、その密度ρは特に限定されないが、4.5〜6.6Mg/m3程度であるのが好ましく、5.5〜6.4Mg/m3程度であるのがより好ましい。
【0106】
なお、本発明では、成形性の向上等を優先すべく、磁石粉末の含有量を少なくした場合でも、前述したように、磁石粉末自体の磁気特性が高いので、十分な磁気特性を得ることができる。
【0107】
本発明のボンド磁石の形状、寸法等は特に限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱状、角柱状、円筒状(リング状)、円弧状、平板状、湾曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大きさも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさのものが可能である。特に、小型化、超小型化された磁石に有利であることは、本明細書中で度々述べている通りである。
【0108】
このようなことから、本発明のボンド磁石は、多極着磁に供される、または多極着磁されたものであるのが好ましい。
【0109】
このようなボンド磁石は、以下に述べる条件を満足するのが好ましい。
【0110】
[1]ボンド磁石の保磁力(室温での固有保磁力)HcJは、569〜605kA/mである。保磁力が前記下限値未満では、モータの用途によっては逆磁場がかかったときの減磁が顕著になり、また、高温における耐熱性が劣る。また、保磁力が前記上限値を超えると、着磁性が低下する。従って、保磁力HcJを上記範囲とすることにより、ボンド磁石(特に、円筒状磁石)に多極着磁等をするような場合に、十分な着磁磁場が得られないときでも、良好な着磁が可能となり、十分な磁束密度が得られ、高性能なボンド磁石、特にモータ用ボンド磁石を提供することができる。
【0111】
[2]ボンド磁石は、最大磁気エネルギー積(BH)max[kJ/m3]と密度ρ[Mg/m3]との間で、下記式(I)を満足する。
【0112】
2.40≦(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]・・・(I)
また、式(I)に代わり、式(II)を満足するのが好ましく、式(III)を満足するのがより好ましい。
【0113】
2.50≦(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]≦3.20・・(II)
2.60≦(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]≦3.10・・(III)
(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]の値が前記式中の下限値未満であると、磁石の密度を高くしないと、すなわち磁石粉末の含有量(含有率)を高くしないと、十分な磁気特性が得られない。そうした場合、高コスト化、結合樹脂の減少による成形性の低下という問題を招く。また、一定の磁気特性を得るためには、体積が増えることとなり、機器の小型化が困難となる。
【0114】
[3]ボンド磁石は、室温での残留磁束密度Br[T]と密度ρ[Mg/m3]との間で、下記式(IV)を満足する。
【0115】
0.125≦Br/ρ[×10-6T・m3/g]・・・(IV)
また、式(IV)に代わり、式(V)を満足するのが好ましく、式(VI)を満足するのがより好ましい。
【0116】
0.128≦Br/ρ[×10-6T・m3/g]≦0.160・・・(V)
0.130≦Br/ρ[×10-6T・m3/g]≦0.155・・・(VI)
Br/ρ[×10-6T・m3/g]の値が前記式中の下限値未満であると、磁石の密度を高くしないと、すなわち磁石粉末の含有量(含有率)を高くしないと、十分な磁束密度が得られない。そうした場合、高コスト化、結合樹脂の減少による成形性の低下という問題を招く。また、一定の磁束密度を得るためには、体積が増えることとなり、機器の小型化が困難となる。
【0117】
[4]ボンド磁石は、最大磁気エネルギー積(BH)maxが50kJ/m3以上であるのが好ましく、60kJ/m3以上であるのがより好ましく、70〜120kJ/m3であるのがさらに好ましい。最大磁気エネルギー積(BH)maxが50kJ/m3未満であると、モータ用に用いた場合、その種類、構造によっては、十分なトルクが得られない。
【0118】
[5]ボンド磁石は、不可逆減磁率(初期減磁率)の絶対値が6.2%以下であるのが好ましく、5%以下であるのがより好ましく、4%以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱的安定性(耐熱性)に優れたボンド磁石が得られる。
【0119】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0120】
(実施例1)
以下に述べるような方法で、表1に示す合金組成で表される7種の磁石粉末(サンプルNo.1〜No.7)を得た。
【0121】
まず、Nd、Pr、Fe、Co、BおよびMの各原料を秤量して母合金インゴットを鋳造した。
【0122】
図4および図5に示す構成の急冷薄帯製造装置1を用意し、底部にノズル(円孔オリフィス:オリフィス直径0.6mm)3を設けた石英管内に前記サンプルを入れた。急冷薄帯製造装置1が収納されているチャンバー内を脱気した後、不活性ガス(アルゴンガス)を導入し、所望の温度および圧力の雰囲気とした。
【0123】
冷却ロール5としては、銅製の基部51の外周に、WCよりなる厚さ約7μmの表面層52を設けたもの(直径200mm)を用いた。
【0124】
その後、石英管内のインゴットサンプルを高周波誘導加熱により溶解し、さらに、溶湯の噴射圧(石英管の内圧と筒内2における液面の高さに比例してかかる圧力の和と、雰囲気圧との差圧)、冷却ロールの周速度を調整して、急冷薄帯を作製した。このとき得られた急冷薄帯の厚さは、いずれも約20μmであった。
【0125】
得られた急冷薄帯を粗粉砕した後、アルゴンガス雰囲気中で680℃×300秒の熱処理を施して、磁石粉末を得た。
【0126】
次に、粒度調整のために、この磁石粉末をさらに粉砕機(ライカイ機)を用いてアルゴンガス中で粉砕し、平均粒径60μmの磁石粉末(サンプルNo.1〜No.7)にした。
【0127】
得られた各磁石粉末について、その相構成を分析するため、Cu−Kαを用い回折角20°〜60°にてX線回折を行った。回折パターンからハード磁性相であるR2(Fe・Co)14B型相と、ソフト磁性相であるα−(Fe,Co)型相の回折ピークが確認でき、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果から、いずれも、複合組織(ナノコンポジット組織)を形成していることが確認された。また、各磁石粉末について、平均結晶粒径の測定を行った。これらの値を表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
この磁石粉末に、エポキシ樹脂(融点80℃)を混合し、これらを100℃×15分間、混練してボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製した。このとき、磁石粉末とエポキシ樹脂との配合比率(重量比)は、各ボンド磁石についてほぼ等しい値とした。すなわち、各ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)は、約98wt%であった。
【0130】
次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填し、金型温度95℃、圧力8ton/cm2で圧縮成形(無磁場中)した。このとき、結合樹脂は、軟化した状態(ただし、硬化には至らない状態)であった。冷却後、成形金型から離型し、150℃で結合樹脂を加熱硬化させて、直径10mm×高さ7mmの円柱状のボンド磁石を得た。
【0131】
これらのボンド磁石について、磁場強度3.2MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束計(東英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加磁場2.0MA/mで磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定した。測定時の温度は、23℃(室温)であった。
【0132】
次に耐熱性のテストを行った。この耐熱性は、ボンド磁石を100℃×1時間の環境下に保持した後、室温に戻した際の不可逆減磁率(初期減磁率)を測定し、評価した。不可逆減磁率(初期減磁率)の絶対値が小さいほど、耐熱性(熱安定性)に優れる。
【0133】
また、各ボンド磁石について、密度ρをアルキメデス法により測定した。
【0134】
これらの測定値および(BH)max/ρ2、Br/ρの値を表2に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2から明らかなように、サンプルNo.2〜No.6(本発明)によるボンド磁石は、いずれも、優れた磁気特性(残留磁束密度Br、最大磁気エネルギー積(BH)maxおよび保磁力HcJ)を有するとともに、不可逆減磁率が小さく、熱的安定性(耐熱性)にも優れている。
【0137】
これに対し、サンプルNo.1、No.7(いずれも比較例)のボンド磁石は、磁気特性が劣っているとともに、不可逆減磁率の絶対値が大きく、熱的安定性も低い。
【0138】
(実施例2)
実施例1で得られた磁石粉末に、ポリアミド樹脂(ナイロン12、融点178℃)を混合し、これらを225℃×15分間、混練してボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製した。このとき、磁石粉末とポリアミド樹脂との配合比率(重量比)は、各ボンド磁石についてほぼ等しい値とした。すなわち、各ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)は、約97wt%であった。
【0139】
次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填し、金型温度210℃、圧力6ton/cm2で圧縮成形(無磁場中)した。このとき、結合樹脂は、溶融した状態であった。冷却後、成形金型から離型し、直径10mm×高さ7mmの円柱状のボンド磁石を得た。
【0140】
これらのボンド磁石について、実施例1と同様にして、磁気特性、不可逆減磁率および密度を測定した。
【0141】
これらの測定値および(BH)max/ρ2、Br/ρの値を表3に示す。
【0142】
【表3】
【0143】
表3から明らかなように、サンプルNo.2〜No.6(本発明)によるボンド磁石は、いずれも、優れた磁気特性(残留磁束密度Br、最大磁気エネルギー積(BH)maxおよび保磁力HcJ)を有するとともに、不可逆減磁率が小さく、熱的安定性(耐熱性)にも優れている。
【0144】
これに対し、サンプルNo.1、No.7(いずれも比較例)のボンド磁石は、磁気特性が劣っているとともに、不可逆減磁率の絶対値が大きく、熱的安定性も低い。
【0145】
このように、所定量のMを含有する磁石粉末を用いて製造されたボンド磁石は、優れた磁気特性、熱的安定性(耐熱性)を有する。
【0146】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果が得られる。
【0147】
・磁石粉末がM(Ti、Cr、Nb、V、Mo、Hf、W、Mn、Zr、Dyのうち少なくとも1種の元素)を所定量含有し、また、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織を有することにより、磁化が高く、優れた磁気特性を発揮し、特に固有保磁力と角型性が改善される。
【0148】
・含有されるM元素の組み合わせやそれらの含有率を適宜選択することにより、さらに優れた磁気特性、耐熱性が得られる。
【0149】
・不可逆減磁率の絶対値が小さく、優れた耐熱性(熱的安定性)が得られる。
【0150】
・高い磁束密度が得られるので、等方性であっても、高磁気特性を持つボンド磁石が得られる。特に、従来の等方性ボンド磁石に比べ、より小さい体積のボンド磁石で同等以上の磁気性能を発揮することができるので、より小型で高性能のモータを得ることが可能となる。
【0151】
・また、高い磁束密度が得られることから、圧縮成形によりボンド磁石とした場合に、非常に高い磁気特性を得ることができる。また、ボンド磁石用組成物中における磁石粉末の含有量を比較的少なくした場合であっても、優れた磁気特性のボンド磁石を得ることができるので、成形性の向上と共に、寸法精度、機械的強度、耐食性、耐熱性(熱的安定性)等のさらなる向上が図れ、信頼性の高いボンド磁石を容易に製造することが可能となる。
【0152】
・着磁性が良好なので、より低い着磁磁場で着磁することができ、特に多極着磁等を容易かつ確実に行うことができ、かつ高い磁束密度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図4】磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)の構成例を示す斜視図である。
【図5】図4に示す装置における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【符号の説明】
1 急冷薄帯製造装置
2 筒体
3 ノズル
4 コイル
5 冷却ロール
51 ロール基材
52 表面層
53 周面
6 溶湯
7 パドル
71 凝固界面
8 急冷薄帯
81 ロール面
9A 矢印
9B 矢印
10 ソフト磁性相
11 ハード磁性相
Claims (7)
- 磁石材料の溶湯を回転する冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化することにより急冷薄帯を得、該急冷薄帯を粉砕して磁石粉末を得る磁石粉末の製造方法であって、
前記磁石粉末が、(Nd v Pr v−1 ) x Fe bal Co w B y M z (ただし、Mは、Ti、Cr、Nb、V、Mo、Hf、W、Mn、Zr、Dyのうち少なくとも1種の元素、x:8.2〜9.1原子%、y:5.5〜5.8原子%、z:1.3〜2.2原子%、w:5.0〜8.0原子%、v:0.4〜0.8)で表される合金組成からなり、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成されるものであり、
結晶粒径が5〜50nmであり、
前記磁石粉末の平均粒径が0.5〜150μmであり、
結合樹脂と混合し圧縮成形して密度ρ[Mg/m3]のボンド磁石としたとき、当該ボンド磁石の室温での最大磁気エネルギー積(BH)max[kJ/m3]が、2.40≦(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]≦2.94の関係を満足するとともに、当該ボンド磁石の室温での残留磁束密度Br[T]が、0.125≦Br/ρ[×10-6T・m3/g]≦0.142の関係を満足し、かつ当該ボンド磁石の室温での固有保磁力HcJが569〜605kA/mであり、
前記冷却ロールは、金属または合金で構成される基部と、周面を構成し、表面層とを有し、該表面層の熱伝導率が前記基部の熱伝導率より小さいものであり、
前記表面層は、その厚さが0.5〜50μmであり、かつ、WCで構成されていることを特微とする磁石粉末の製造方法。 - 前記急冷薄帯の厚さは、10〜40μmである請求項1に記載の磁石粉末の製造方法。
- 前記急冷薄帯の粉砕前および/または粉砕後に、少なくとも1回熱処理を施す請求項1または2に記載の磁石粉末の製造方法。
- 磁石材料の溶湯を回転する冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化することにより急冷薄帯を得る工程と、
前記急冷薄帯を粉砕して磁石粉末を得る工程と、
前記磁石粉末を結合樹脂と混合し圧縮成形して密度ρ[Mg/m 3 ]のボンド磁石を得る工程とを有し、
前記磁石粉末が、(Nd v Pr v−1 ) x Fe bal Co w B y M z (ただし、Mは、Ti、Cr、Nb、V、Mo、Hf、W、Mn、Zr、Dyのうち少なくとも1種の元素、x:8.2〜9.1原子%、y:5.5〜5.8原子%、z:1.3〜2.2原子%、w:5.0〜8.0原子%、v:0.4〜0.8)で表される合金組成からなり、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成されるものであり、
結晶粒径が5〜50nmであり、
前記磁石粉末の平均粒径が0.5〜150μmであり、
前記ボンド磁石の室温での最大磁気エネルギー積(BH)max[kJ/m3]が、2.40≦(BH)max/ρ2[×10-9J・m3/g2]≦2.94の関係を満足するとともに、前記ボンド磁石の室温での残留磁束密度Br[T]が、0.125≦Br/ρ[×10-6T・m3/g]≦0.142の関係を満足し、かつ前記ボンド磁石の室温での固有保磁力HcJが569〜605kA/mであり、
前記冷却ロールは、金属または合金で構成される基部と、周面を構成し、表面層とを有し、該表面層の熱伝導率が前記基部の熱伝導率より小さいものであり、
前記表面層は、その厚さが0.5〜50μmであり、かつ、WCで構成されていることを特微とするボンド磁石の製造方法。 - 前記圧縮成形は、前記結合樹脂が溶融または軟化する温度で行うものである請求項4に記載のボンド磁石の製造方法。
- 前記ボンド磁石の最大磁気エネルギー積(BH)maxが50kJ/m3以上である請求項4または5に記載のボンド磁石の製造方法。
- 前記ボンド磁石を100℃×1時間の環境に保持した後、室温に戻した際における不可逆減磁率(初期減磁率)の絶対値が5%以下である請求項4ないし6のいずれかに記載のボンド磁石の製造方法。
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