JP4194144B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は主として業務用および家庭用の冷凍空調機器に使用されるスクロール圧縮機に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
冷凍空調機器用の圧縮機としては、レシプロ式やロータリ式など多種多様のものがあり、コスト，性能面等でそれぞれの特長を活かして使い分けされて来ている。
【０００３】
その中で近年スクロール圧縮機が高効率，低騒音，低振動の特長を活かして大幅な成長を遂げつつある。
【０００４】
スクロール圧縮機に用いられる圧縮機構は、渦巻曲線の羽根を持った固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合わせて、双方間にいくつかの圧縮室を形成し、この圧縮室が旋回スクロールの旋回運動によって、吸い込み口に通じて冷媒を吸い込む外周部側から、吐出口に通じる内周に移動しながら容積が縮小して冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒を吐出口から吐出する。
【０００５】
前記旋回スクロールが前記冷媒の圧縮のために、自転せずに旋回運動するようにオルダムリングで支持し、このオルダムリングは前記支持のために移動できるようにフレームで支持されている。
【０００６】
したがって、オルダムリングはフレームおよび旋回スクロールの双方との間で摺動する。
【０００７】
ここで、一般的に旋回スクロール，固定スクロール，フレームは鋳鉄で形成され、オルダムリングは素材の省資源化から鉄系焼結合金で形成されている。
【０００８】
一方、冷媒には特定フロンＲ１２や指定フロンＲ２２を用いていた。特定フロンはそれ以前の冷媒である二硫化硫黄やメチルクロライドに比べて、化学的に安定で、可燃性，毒性がなく、理想的な冷媒として広く利用され、長年に亘って使用されてきた。
【０００９】
ところが近時では、特定フロンが分子中に塩素原子を含み、これがオゾン層の破壊を引き起こすことが確かめられ、代替フロンの開発および使用が図られている。
【００１０】
実用性の高い代替冷媒として、塩素を含まないＨＦＣ（Hydro Fluoro Carbon）といった冷媒が挙げられている「油空圧技術‘９４．６．」(日本工業出版発行)
。
【００１１】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、代替冷媒を用いると代替冷媒は塩素を含まないので従来の特定フロンのような潤滑性は望めない。このため、摺動条件が厳しくなり、前記のような鋳鉄製旋回スクロールおよびフレームと、素地のままの鉄系焼結合金製オルダムリングを組み合わせた支持構造では、摺動部に摩耗が生じやすく支持構造部の寿命が低下する。
【００１２】
これは、前記支持構造部のオルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方との摺動部が、代替冷媒による潤滑性が望めないために、一部油膜が切れた境界潤滑状態になりやすく、この境界潤滑になっている部分で双方が鋳鉄と鉄系焼結合金の、鉄系材料同士の供金構造であることによって凝着が生じることに原因している。
【００１３】
このような支持構造部の寿命低下は、密閉形圧縮機のようにメンテナンスフリーでしかも長寿命で運転されるものの場合、前記支持構造部の寿命が即圧縮機全体の寿命となるので特に問題であり、実用に耐えない。
【００１４】
そこで、このオルダムリングと旋回スクロールおよびフレームに設けた支持構造部の摩耗対策の一例として、特開平10−82382 号公報に示す公知技術がある。
【００１５】
即ち、図５にその方法を要約するとオルダムリング６の突起１７の摺動面を加工後、スチーム処理或いはガス軟窒化処理を行い、摺動面の金属以外の特性への変質と、硬度の上昇を図り境界潤滑状態での耐摩耗性の向上を目的とするものである。
【００１６】
しかし、特開平10−82382 号公報に示される従来技術は、いわゆる化学処理であり、処理皮膜の高精度な厚さの管理が不可能であり、組み合わせられる旋回スクロールおよびフレームの溝との嵌合において、往々にして組立上のトラブルとなっていた。
【００１７】
本発明の目的は、塩素を含まない代替冷媒を用いても旋回スクロールの支持構造部による寿命低下の問題のないスクロール圧縮機を提供するとともに、部品精度に起因する上記のような組立上の問題を解消し、生産効率の良いスクロール圧縮機を入手することにある。
【００１８】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、オルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方の潤滑不良による凝着を防止するために、まずオルダムリングにスチーム処理を施した後、旋回スクロールおよびフレームの溝との摺動面となる突起に加工を追加する。
【００１９】
【発明の実施の形態】
本発明は、冷媒として弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上を混合した混合冷媒を使用し、密閉容器の内部に、電動機と、この電動機により駆動される旋回スクロールと固定スクロールとの間で、前記冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構を配したスクロール圧縮機において、旋回スクロールを固定スクロールに対して自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリングの摺動面を、このオルダムリングを前記支持のために移動できるように支持するフレーム、および旋回スクロールの双方の摺動面と異種表面とされており、電動機の起動によりスクロール圧縮機構が働くと、冷媒の吸入圧縮を繰り返し冷凍サイクルを成立させる。
【００２０】
冷媒は弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上の冷媒を混合した混合冷媒であって塩素を含まず環境を破壊しない。冷媒は塩素を含まないので潤滑性は望めず、オルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方との間の摺動部に境界潤滑状態が生じてもオルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方とが異種表面の摺接になるので、相互が境界潤滑状態で凝着するようなことが回避でき、旋回スクロールのオルダムリングを利用した支持構造部の寿命が向上し、塩素を含まない代替冷媒を用いても支持構造部による寿命低下の問題はなくなる。
【００２１】
フレームと旋回スクロールの摺動面に対しオルダムリングの摺動面を異種表面とし、耐摩耗性を向上するためには、鉄系焼結合金製オルダムリングにスチーム処理を施し、更に表面を精密加工し、加工面に現れた焼結合金特有の空孔に生成した、硬度の高いスチーム層（酸化皮膜）と素地を混在させることにより、相手鋳鉄表面と凝着しにくくさせ耐摩耗性を向上させる。
【００２２】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図１に、冷凍空調用機器用の縦形スクロール圧縮機の構造の一例を示す。この圧縮機は、冷媒は弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上を混合した混合冷媒を使用するもので、密閉容器１の内部に、電動機２とこの電動機２により駆動される旋回スクロール３と固定スクロール４との間で前記冷媒を圧縮する圧縮機構５を配し、旋回スクロール３と固定スクロール４に対して自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリング６の摺動表面が、このオルダムリング６を前記支持のために移動できるように支持するフレーム７および旋回スクロール３の双方の摺動表面と、異種の表面で形成されている。
【００２３】
図１に示すスクロール圧縮機は縦形であることから、密閉容器１の上部には圧縮機構５が、密閉容器１の下部に圧縮機構５を駆動する電動機２が、密閉容器の最下部には潤滑油８が封入され、この潤滑油８を潤滑対象部へクランクシャフト１６の内部を貫通する油穴１０を介して供給する給油ピース９がそれぞれ設けられている。圧縮機構５は上側の固定スクロール４と下側の旋回スクロール３とを従来同様に噛み合わせて構成し、旋回スクロール３が電動機２の回転と共に、前記オルダムリング６を介し旋回駆動される。
【００２４】
この旋回駆動によって、旋回，固定各スクロール３，４の双方間にいくつか形成する圧縮室１１が、吸入口１２に通じる外周側から吐出口１３に通じる内周側に移動されながら容積を縮小して圧縮を行う。冷媒は密閉容器１外に延びる吸入管１４から吸入口１２へと吸引する。圧縮した冷媒は吐出口１３から密閉容器１内に吐出し、密閉容器１外に延びる吐出管１５から空調用の冷凍サイクル（図示せず）に供給した後、前記吸入管１４に戻し循環させる。以上の一連の動作を連続して実行し冷凍サイクルが成立する。
【００２５】
フレーム７は、固定スクロール４との間に旋回スクロール３を互いに噛み合わせ状態に保持するように密閉容器１内に固定され、その中心部に軸受を有し、電動機２の回転子２ａを下部に固定し、上部の偏心部１６ａに旋回スクロール３の軸受３ａを係止したクランクシャフト１６を保持している。回転子２ａのまわりには固定子２ｂがあり電動機２を構成している。
【００２６】
オルダムリング６は図２に示すように、旋回スクロール３に対向する側の面の直径線上２カ所に突起１７が、またフレーム７と対向する側の面の直径線上２カ所に突起１８がそれぞれ設けられ、双方の配列が互いに直角な方向を向くようになっている。
【００２７】
オルダムリング６の突起１７は、旋回スクロール３の直径線上２カ所に設けられた半径方向溝１９と嵌合されて、突起１７が並ぶ方向に移動できるように支持し、突起１８はフレーム７の直径線上２カ所の半径方向の溝２０と嵌合されてオルダムリング６が突起１８の並ぶ方向に移動できるように支持する。これによって、旋回スクロール３は自転せずに旋回運動できるように支持される。これによってクランクシャフト１６が回転すると旋回スクロール３は軸受３ａ，オルダムリング６を介して自転せずに旋回駆動される。
【００２８】
前記スクロール圧縮機が搭載される冷凍サイクルに用いられる冷媒は、弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上を混合した混合冷媒であって、塩素を含まず環境を破壊しない。しかし、密閉容器１内に吐出される冷媒は各機械摺動部の細部までおよぶことができるが、塩素を含まないために潤滑性は望めず、オルダムリング６と旋回スクロール３およびフレーム７との双方の摺動部に境界潤滑状態が生じることがある。
【００２９】
しかし、オルダムリング６と旋回スクロール３およびフレーム７の双方の間に、オルダムリング６に施したスチーム処理と突起１７，１８の最表面を加工することによって、突起１７，１８の幅寸法の高精度化による溝１９，２０との適正な嵌合を可能とし、さらに突起１７，１８の表面に露出した燒結金属特有の空孔１７ｂ，１８ｂに生成した鉄系焼結材の素地１７ａ，１８ａより硬いスチーム処理層２２（酸化皮膜）の存在で耐摩耗性が向上し、境界潤滑状態での凝着を回避でき、旋回スクロール３のオルダムリング６を利用した支持構造部２１の寿命が向上し、塩素を含まない代替冷媒を用いても支持構造部２１による寿命低下の問題はなくなる。
【００３０】
本実施の形態は、オルダムリング６の旋回スクロール３およびフレーム７の双方の摺動を被る表面に異種特性を有するスチーム処理層２２を存在させるために、図３に示すようにオルダムリング６の素材全体にスチーム処理を施し、スチーム処理層２２を形成した後、図４に示すように、最表面にエンドミル２３などによる切削或いは研削（図示せず）などの加工を施し、突起の表面を素地１７ａ，１８ａと空孔１７ｂ，１８ｂにスチーム処理層２２を析出混在した組織としている。
【００３１】
オルダムリング６の表面の改質は、本発明では比較的に容易なスチーム処理で対処できるので、鋳鉄製の旋回スクロール３およびフレーム７と同種の鉄系焼結合金のオルダムリング６の既成部品を使用して対処できる利点がある。
【００３２】
オルダムリング６のスチーム処理は５００〜６００℃の温度のスチームで約１時間以上の時間で実施される。このようにしてできたスチーム処理層２２は酸化皮膜特有の性質で硬度が向上し、旋回スクロール３およびフレーム７との機械摺動部が潤滑不良によって凝着することを防止できる。
【００３３】
【発明の効果】
本発明によれば、鉄系焼結合金のオルダムリングの素材にスチーム処理を施し、更にその最表面を加工し旋回スクロールおよびフレームの溝と嵌合する突起の幅寸法を高精度化するとともに、突起の表面に空孔に生成した素地より高硬度なスチーム処理層を露出させることにより、オルダムリングと鋳鉄製旋回スクロールおよびフレームの双方の摺動部間に境界潤滑状態が生じても凝着を生じることはない。その結果、メンテナンスフリーで冷凍空調機器に使用する密閉形圧縮機の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の実施の形態一例を示す縦形スクロール圧縮機の断面図。
【図２】図１の圧縮機の要部の分解斜視図。
【図３】図２のオルダムリングのスチーム処理の状態を示す断面図。
【図４】図３のオルダムリングの突起の加工状態と突起表面へのスチーム処理層生成状態の一例を模擬的に示す断面図。
【図５】従来公知オルダムリングの表面改質方法の一例を示す断面図。
【符号の説明】
１…密閉容器、２…電動機、２ａ…回転子、２ｂ…固定子、３…旋回スクロール、３ａ…軸受、４…固定スクロール、５…圧縮機構、６…オルダムリング、７…フレーム、８…潤滑油、９…給油ピース、１０…油穴、１１…圧縮室、１２…吸入口、１３…吐出口、１４…吸入管、５…吐出管、１６‥クランクシャフト、１７，１８…突起、１７ａ，１８ａ…素地、１７ｂ，１８ｂ…空孔、１９，２０…溝、２１…支持構造部、２２…スチーム処理層、２３…エンドミル。
【発明の属する技術分野】
本発明は主として業務用および家庭用の冷凍空調機器に使用されるスクロール圧縮機に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
冷凍空調機器用の圧縮機としては、レシプロ式やロータリ式など多種多様のものがあり、コスト，性能面等でそれぞれの特長を活かして使い分けされて来ている。
【０００３】
その中で近年スクロール圧縮機が高効率，低騒音，低振動の特長を活かして大幅な成長を遂げつつある。
【０００４】
スクロール圧縮機に用いられる圧縮機構は、渦巻曲線の羽根を持った固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合わせて、双方間にいくつかの圧縮室を形成し、この圧縮室が旋回スクロールの旋回運動によって、吸い込み口に通じて冷媒を吸い込む外周部側から、吐出口に通じる内周に移動しながら容積が縮小して冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒を吐出口から吐出する。
【０００５】
前記旋回スクロールが前記冷媒の圧縮のために、自転せずに旋回運動するようにオルダムリングで支持し、このオルダムリングは前記支持のために移動できるようにフレームで支持されている。
【０００６】
したがって、オルダムリングはフレームおよび旋回スクロールの双方との間で摺動する。
【０００７】
ここで、一般的に旋回スクロール，固定スクロール，フレームは鋳鉄で形成され、オルダムリングは素材の省資源化から鉄系焼結合金で形成されている。
【０００８】
一方、冷媒には特定フロンＲ１２や指定フロンＲ２２を用いていた。特定フロンはそれ以前の冷媒である二硫化硫黄やメチルクロライドに比べて、化学的に安定で、可燃性，毒性がなく、理想的な冷媒として広く利用され、長年に亘って使用されてきた。
【０００９】
ところが近時では、特定フロンが分子中に塩素原子を含み、これがオゾン層の破壊を引き起こすことが確かめられ、代替フロンの開発および使用が図られている。
【００１０】
実用性の高い代替冷媒として、塩素を含まないＨＦＣ（Hydro Fluoro Carbon）といった冷媒が挙げられている「油空圧技術‘９４．６．」(日本工業出版発行)
。
【００１１】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、代替冷媒を用いると代替冷媒は塩素を含まないので従来の特定フロンのような潤滑性は望めない。このため、摺動条件が厳しくなり、前記のような鋳鉄製旋回スクロールおよびフレームと、素地のままの鉄系焼結合金製オルダムリングを組み合わせた支持構造では、摺動部に摩耗が生じやすく支持構造部の寿命が低下する。
【００１２】
これは、前記支持構造部のオルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方との摺動部が、代替冷媒による潤滑性が望めないために、一部油膜が切れた境界潤滑状態になりやすく、この境界潤滑になっている部分で双方が鋳鉄と鉄系焼結合金の、鉄系材料同士の供金構造であることによって凝着が生じることに原因している。
【００１３】
このような支持構造部の寿命低下は、密閉形圧縮機のようにメンテナンスフリーでしかも長寿命で運転されるものの場合、前記支持構造部の寿命が即圧縮機全体の寿命となるので特に問題であり、実用に耐えない。
【００１４】
そこで、このオルダムリングと旋回スクロールおよびフレームに設けた支持構造部の摩耗対策の一例として、特開平10−82382 号公報に示す公知技術がある。
【００１５】
即ち、図５にその方法を要約するとオルダムリング６の突起１７の摺動面を加工後、スチーム処理或いはガス軟窒化処理を行い、摺動面の金属以外の特性への変質と、硬度の上昇を図り境界潤滑状態での耐摩耗性の向上を目的とするものである。
【００１６】
しかし、特開平10−82382 号公報に示される従来技術は、いわゆる化学処理であり、処理皮膜の高精度な厚さの管理が不可能であり、組み合わせられる旋回スクロールおよびフレームの溝との嵌合において、往々にして組立上のトラブルとなっていた。
【００１７】
本発明の目的は、塩素を含まない代替冷媒を用いても旋回スクロールの支持構造部による寿命低下の問題のないスクロール圧縮機を提供するとともに、部品精度に起因する上記のような組立上の問題を解消し、生産効率の良いスクロール圧縮機を入手することにある。
【００１８】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、オルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方の潤滑不良による凝着を防止するために、まずオルダムリングにスチーム処理を施した後、旋回スクロールおよびフレームの溝との摺動面となる突起に加工を追加する。
【００１９】
【発明の実施の形態】
本発明は、冷媒として弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上を混合した混合冷媒を使用し、密閉容器の内部に、電動機と、この電動機により駆動される旋回スクロールと固定スクロールとの間で、前記冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構を配したスクロール圧縮機において、旋回スクロールを固定スクロールに対して自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリングの摺動面を、このオルダムリングを前記支持のために移動できるように支持するフレーム、および旋回スクロールの双方の摺動面と異種表面とされており、電動機の起動によりスクロール圧縮機構が働くと、冷媒の吸入圧縮を繰り返し冷凍サイクルを成立させる。
【００２０】
冷媒は弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上の冷媒を混合した混合冷媒であって塩素を含まず環境を破壊しない。冷媒は塩素を含まないので潤滑性は望めず、オルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方との間の摺動部に境界潤滑状態が生じてもオルダムリングと旋回スクロールおよびフレームの双方とが異種表面の摺接になるので、相互が境界潤滑状態で凝着するようなことが回避でき、旋回スクロールのオルダムリングを利用した支持構造部の寿命が向上し、塩素を含まない代替冷媒を用いても支持構造部による寿命低下の問題はなくなる。
【００２１】
フレームと旋回スクロールの摺動面に対しオルダムリングの摺動面を異種表面とし、耐摩耗性を向上するためには、鉄系焼結合金製オルダムリングにスチーム処理を施し、更に表面を精密加工し、加工面に現れた焼結合金特有の空孔に生成した、硬度の高いスチーム層（酸化皮膜）と素地を混在させることにより、相手鋳鉄表面と凝着しにくくさせ耐摩耗性を向上させる。
【００２２】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図１に、冷凍空調用機器用の縦形スクロール圧縮機の構造の一例を示す。この圧縮機は、冷媒は弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上を混合した混合冷媒を使用するもので、密閉容器１の内部に、電動機２とこの電動機２により駆動される旋回スクロール３と固定スクロール４との間で前記冷媒を圧縮する圧縮機構５を配し、旋回スクロール３と固定スクロール４に対して自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリング６の摺動表面が、このオルダムリング６を前記支持のために移動できるように支持するフレーム７および旋回スクロール３の双方の摺動表面と、異種の表面で形成されている。
【００２３】
図１に示すスクロール圧縮機は縦形であることから、密閉容器１の上部には圧縮機構５が、密閉容器１の下部に圧縮機構５を駆動する電動機２が、密閉容器の最下部には潤滑油８が封入され、この潤滑油８を潤滑対象部へクランクシャフト１６の内部を貫通する油穴１０を介して供給する給油ピース９がそれぞれ設けられている。圧縮機構５は上側の固定スクロール４と下側の旋回スクロール３とを従来同様に噛み合わせて構成し、旋回スクロール３が電動機２の回転と共に、前記オルダムリング６を介し旋回駆動される。
【００２４】
この旋回駆動によって、旋回，固定各スクロール３，４の双方間にいくつか形成する圧縮室１１が、吸入口１２に通じる外周側から吐出口１３に通じる内周側に移動されながら容積を縮小して圧縮を行う。冷媒は密閉容器１外に延びる吸入管１４から吸入口１２へと吸引する。圧縮した冷媒は吐出口１３から密閉容器１内に吐出し、密閉容器１外に延びる吐出管１５から空調用の冷凍サイクル（図示せず）に供給した後、前記吸入管１４に戻し循環させる。以上の一連の動作を連続して実行し冷凍サイクルが成立する。
【００２５】
フレーム７は、固定スクロール４との間に旋回スクロール３を互いに噛み合わせ状態に保持するように密閉容器１内に固定され、その中心部に軸受を有し、電動機２の回転子２ａを下部に固定し、上部の偏心部１６ａに旋回スクロール３の軸受３ａを係止したクランクシャフト１６を保持している。回転子２ａのまわりには固定子２ｂがあり電動機２を構成している。
【００２６】
オルダムリング６は図２に示すように、旋回スクロール３に対向する側の面の直径線上２カ所に突起１７が、またフレーム７と対向する側の面の直径線上２カ所に突起１８がそれぞれ設けられ、双方の配列が互いに直角な方向を向くようになっている。
【００２７】
オルダムリング６の突起１７は、旋回スクロール３の直径線上２カ所に設けられた半径方向溝１９と嵌合されて、突起１７が並ぶ方向に移動できるように支持し、突起１８はフレーム７の直径線上２カ所の半径方向の溝２０と嵌合されてオルダムリング６が突起１８の並ぶ方向に移動できるように支持する。これによって、旋回スクロール３は自転せずに旋回運動できるように支持される。これによってクランクシャフト１６が回転すると旋回スクロール３は軸受３ａ，オルダムリング６を介して自転せずに旋回駆動される。
【００２８】
前記スクロール圧縮機が搭載される冷凍サイクルに用いられる冷媒は、弗化炭素水素系冷媒群のうち少なくとも１種または２種以上を混合した混合冷媒であって、塩素を含まず環境を破壊しない。しかし、密閉容器１内に吐出される冷媒は各機械摺動部の細部までおよぶことができるが、塩素を含まないために潤滑性は望めず、オルダムリング６と旋回スクロール３およびフレーム７との双方の摺動部に境界潤滑状態が生じることがある。
【００２９】
しかし、オルダムリング６と旋回スクロール３およびフレーム７の双方の間に、オルダムリング６に施したスチーム処理と突起１７，１８の最表面を加工することによって、突起１７，１８の幅寸法の高精度化による溝１９，２０との適正な嵌合を可能とし、さらに突起１７，１８の表面に露出した燒結金属特有の空孔１７ｂ，１８ｂに生成した鉄系焼結材の素地１７ａ，１８ａより硬いスチーム処理層２２（酸化皮膜）の存在で耐摩耗性が向上し、境界潤滑状態での凝着を回避でき、旋回スクロール３のオルダムリング６を利用した支持構造部２１の寿命が向上し、塩素を含まない代替冷媒を用いても支持構造部２１による寿命低下の問題はなくなる。
【００３０】
本実施の形態は、オルダムリング６の旋回スクロール３およびフレーム７の双方の摺動を被る表面に異種特性を有するスチーム処理層２２を存在させるために、図３に示すようにオルダムリング６の素材全体にスチーム処理を施し、スチーム処理層２２を形成した後、図４に示すように、最表面にエンドミル２３などによる切削或いは研削（図示せず）などの加工を施し、突起の表面を素地１７ａ，１８ａと空孔１７ｂ，１８ｂにスチーム処理層２２を析出混在した組織としている。
【００３１】
オルダムリング６の表面の改質は、本発明では比較的に容易なスチーム処理で対処できるので、鋳鉄製の旋回スクロール３およびフレーム７と同種の鉄系焼結合金のオルダムリング６の既成部品を使用して対処できる利点がある。
【００３２】
オルダムリング６のスチーム処理は５００〜６００℃の温度のスチームで約１時間以上の時間で実施される。このようにしてできたスチーム処理層２２は酸化皮膜特有の性質で硬度が向上し、旋回スクロール３およびフレーム７との機械摺動部が潤滑不良によって凝着することを防止できる。
【００３３】
【発明の効果】
本発明によれば、鉄系焼結合金のオルダムリングの素材にスチーム処理を施し、更にその最表面を加工し旋回スクロールおよびフレームの溝と嵌合する突起の幅寸法を高精度化するとともに、突起の表面に空孔に生成した素地より高硬度なスチーム処理層を露出させることにより、オルダムリングと鋳鉄製旋回スクロールおよびフレームの双方の摺動部間に境界潤滑状態が生じても凝着を生じることはない。その結果、メンテナンスフリーで冷凍空調機器に使用する密閉形圧縮機の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の実施の形態一例を示す縦形スクロール圧縮機の断面図。
【図２】図１の圧縮機の要部の分解斜視図。
【図３】図２のオルダムリングのスチーム処理の状態を示す断面図。
【図４】図３のオルダムリングの突起の加工状態と突起表面へのスチーム処理層生成状態の一例を模擬的に示す断面図。
【図５】従来公知オルダムリングの表面改質方法の一例を示す断面図。
【符号の説明】
１…密閉容器、２…電動機、２ａ…回転子、２ｂ…固定子、３…旋回スクロール、３ａ…軸受、４…固定スクロール、５…圧縮機構、６…オルダムリング、７…フレーム、８…潤滑油、９…給油ピース、１０…油穴、１１…圧縮室、１２…吸入口、１３…吐出口、１４…吸入管、５…吐出管、１６‥クランクシャフト、１７，１８…突起、１７ａ，１８ａ…素地、１７ｂ，１８ｂ…空孔、１９，２０…溝、２１…支持構造部、２２…スチーム処理層、２３…エンドミル。
Claims (5)
- 密閉容器の内部に、電動機と、前記電動機により駆動される旋回スクロールと固定スクロールの間で冷媒を圧縮するスクロール圧縮機機構と、前記旋回スクロールを前記固定スクロールに対して、自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリングを移動できるように支持するフレームとを備えたスクロール圧縮機において、
前記オルダムリングの摺動面は鉄系焼結合金の素地とスチーム処理された酸化皮膜とを有するスクロール圧縮機。 - 請求項１において、
鉄系焼結合金の素地とスチーム処理された酸化皮膜が形成された前記摺動面は、前記オルダムリングの突起であるスクロール圧縮機。 - 請求項２において、
前記オルダムリングの突起は、前記旋回スクロールまたは前記フレームに形成された溝に嵌合されるスクロール圧縮機。 - 請求項１において、
前記オルダムリングの摺動面には空孔が形成されているスクロール圧縮機。 - 密閉容器の内部に、電動機と、前記電動機により駆動される旋回スクロールと固定スクロールの間で冷媒を圧縮するスクロール圧縮機機構と、前記旋回スクロールを前記固定スクロールに対して、自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリングを移動できるように支持するフレームとを備えたスクロール圧縮機において、
前記オルダムリングは鉄系焼結合金で構成されるともに該オルダムリングにスチーム処理を施して酸化皮膜を形成し、さらに該酸化皮膜に加工を施して前記オルダムリングの摺動面に鉄系焼結合金の素地と空孔が形成された酸化皮膜とを混在させたスクロール圧縮機。
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