JP4169427B2 - プラスチゾル組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粘度安定性、成形加工性、相溶性に優れたスプレッドコーティング、ディップ成形、スラッシュ成形、スプレー塗装等の成形加工法で、壁装材、床材、人形、玩具、自動車アンダーコーティング等の分野で広く利用されるアクリル樹脂系プラスチゾル組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
プラスチゾルは、一般に、高温に加熱するとゲル化するような可塑剤中への有機プラスチックの分散物であり、従来、プラスチゾル組成物としては、塩化ビニル樹脂系のものが知られており、壁装材、床材、人形、玩具、自動車アンダーコーティング、塩ビ塗装鋼板等の分野で広く使用されているが、近年、環境問題からの他の樹脂への転換が求められてきている。このため、アクリル系樹脂粉末に可塑剤を配合し、さらに必要に応じて、充填剤やその他の添加剤を配合してアクリル樹脂系プラスチゾルとして成形、加工する方法が提案されている(特公昭58−22043号公報、特公昭63−66861号公報、特公平4−24378号公報)。
【0003】
このプラスチゾルに配合する可塑剤としては、例えば、特公昭58−22043号公報、特公昭62−3868号公報、特公昭63−66861号公報、特公平4−24378号公報、特開昭51−71344号公報、特開昭52−42590号公報、特開平5−148401号公報、特開平5−311095号公報、特開平7−207100号公報、特開平10−231409号公報、特開平10−298391号公報等において、フタル酸エステル、リン酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、エポキシ化エステル、ポリエステル、ベンジルオクチルフタレート、フタル酸混基エステル、ポリアルキレングリコール安息香酸エステル等が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記提案のフタル酸エステルでは、結合アルキル基の炭素数が6以下のもの(例えば、フタル酸ジブチル(DBP))では、初期粘度が低く、アクリル樹脂との相溶性は良いが、粘度安定性が極めて悪く、プラスチゾル調整後1〜2日後には固化してしまい、プラスチゾルとして成形、加工ができなくなり、また、結合アルキル基の炭素数7以上のフタル酸ジエステルは、粘度安定性は、比較的良いがアクリル樹脂との相溶性が極めて悪く、必要性能を得るのに十分の量を配合できない。
【0005】
また、リン酸エステルでは、トリアルキルエステルは、結合アルキル基の炭素数が小さいトリアルキルエステルは初期粘度が低く、アクリル樹脂との相溶性は良いが、粘度安定性が極めて悪く、必要性能を得るのに十分の量を配合できないことが分かった。
【0006】
その他の有機、無機の多塩基酸エステルにおいても、結合アルキル基の炭素数の大きさとプラスチゾル粘度、粘度安定性、アクリル樹脂との相溶性等との関係は、前記フタル酸エステル、リン酸エステルの場合と同様であった。
【0007】
さらに、ポリアルキレングリコールジ安息香酸エステルは粘度安定性に優れ、アクリル樹脂との相溶性に優れたものである。しかし、その加熱溶融成形品は低温特性が著しく劣るものであり、冬季等に容易に破損することが問題とされてきており、この問題の解消が望まれていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、粘度安定性が優れ、成形加工が容易にでき、可塑剤とアクリル樹脂の相溶性が優れ、加熱溶融した後でも可塑剤のブリード等がなく、さらに低温特性に優れたアクリル樹脂系プラスチゾル組成物を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意検討を重ね、各種化合物のアクリル樹脂との相溶性及びゾルの安定性を詳細に研究した結果、アクリル樹脂と特定のエーテルエステル系可塑剤及び特定のグリコール安息香酸ジエステル系可塑剤とからなるプラスチゾル組成物が、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、粉粒状アクリル系樹脂と可塑剤とからなるアクリル樹脂系プラスチゾル組成物であって、上記可塑剤が、(イ)下記一般式(I)又は(II)で表わされる脂肪族エーテルエステル系可塑剤及び(ロ)下記一般式(III) で表わされるグリコール安息香酸ジエステル系可塑剤であることを特徴とするプラスチゾル組成物を提供するものである。
【0011】
【化2】
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のプラスチゾル組成物について詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いられる粉粒状アクリル系樹脂は、メチルメタクリレートのホモポリマー又はコポリマーであり、即ちメタクリル酸メチルを主体としたポリマーであって、メタクリル酸メチル単量体単独、又は、メタクリル酸メチル単量体に酢酸ビニル等のビニルエステル、スチレン等の芳香酸ビニル、アクリルニトリル等のシアン化ビニル、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアクリル酸やメタクリル酸及びそのアルキルエステル等の不飽和化合物を混合したメタクリル酸メチルを主成分とする共重合体が挙げられる。
【0014】
粉粒状アクリル系樹脂は、乳化重合法でも懸濁重合法により製造されたものでも、又、ホモジナイザー等の強力な分散力を併用して合成されたものでも良い。また、粉粒状アクリル系樹脂の平均粒径は、好ましくは0.1〜100μであり、特に好ましくは0.5〜50μである。また、粉粒状アクリル系樹脂は、粒径の異なる2種以上のものの混合物であってもよい。該樹脂の粒径は、大きすぎると可塑剤に均一に分散しがたくなり、又、高温にしても可塑剤の融解速度が遅くなり生産性が低下する傾向となる。
【0015】
粉粒状アクリル系樹脂の分子量は、相溶性に影響を持つので、好ましくはその重量平均分子量が10万以上、特に好ましくは20〜200万のものである。重量平均分子量が10万未満の場合には、室温で配合時に有機分散媒に溶解して高粘度となり、混合や成形が困難になる。また、重量平均分子量が、200万を超えると高温にしても可塑剤との融解速度が遅くなり生産性が低下する傾向となる。
【0016】
本発明に用いられる(イ)成分の上記一般式(I)又は(II)で表わされる脂肪族エーテルエステル系可塑剤及び(ロ)上記一般式(III) で表わされるグリコール安息香酸ジエステル系可塑剤において、上記一般式(I)〜(III) 中、R1 〜R4 で表される炭素原子数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、第三アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、第三オクチル、ノニル、デシル、イソデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等の直鎖あるいは分岐の基が挙げられ、Aで表わされる炭素原子数1〜12のアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン等が挙げられ、Gで表わされる炭素原子数2〜10のアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン等の基が挙げられる。
また、lは2〜20、好ましくは2〜15であり、m及びnはそれぞれ独立して1〜10、好ましくは1〜5であり、pは1〜10、好ましくは1〜5である。これらの可塑剤はそれぞれ単独で使用することもできるし、重合度の異なるものの混合物であってもよい。
【0017】
上記一般式(I)で表わされる脂肪族エーテルエステル系可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジイソブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジ(2−エチルブチル酸)エステル、ポリエチレングリコールジ(2−エチルヘキシル酸)エステル、ポリエチレングリコールジデカン酸エステル等が好ましいものとして挙げられる。
【0018】
上記一般式(II)で表わされる脂肪族エーテルエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブトキシエタノール、アジピン酸ジ(ブチルジグリコール)、アジピン酸ジ(ブチルポリグリコール)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシロキシエタノール)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシルジグリコール)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシルポリグリコール)、アジピン酸ジオクトキシエタノール、アジピン酸ジ(オクチルジグリコール)、アジピン酸ジ(オクチルポリグリコール)等が好ましいものとして挙げられる。
【0019】
これら(イ)成分の脂肪族エーテルエステル系可塑剤の中でも、分子量が250以上、特に500〜1000のものを用いることによって、特に粘度安定性に優れたものが得られるため好ましい。
【0020】
上記一般式(III) で表わされるグリコール安息香酸エステル系可塑剤としては、例えば、エチレングリコールジ安息香酸エステル、ジエチレングリコールジ安息香酸エステル、トリエチレングリコールジ安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル、プロピレングリコールジ安息香酸エステル、ジプロピレングリコールジ安息香酸エステル、トリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、1,3−ブタンジオールジ安息香酸エステル、1,4−ブタンジオールジ安息香酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジ安息香酸エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ安息香酸エステル、1,8−オクタンジオールジ安息香酸エステル等が好ましいものとして挙げられる。
【0021】
これら可塑剤成分における(イ)成分の脂肪族エーテルエステル系可塑剤と(ロ)成分のグリコール安息香酸ジエステル系可塑剤との使用比率(前者/後者)は、重量比で好ましくは1/10〜10/1、更に好ましくは1/5〜5/1であり、(イ)成分が少ないと低温特性の優れた成形品が得られず、(ロ)成分が少ないと粘度安定性が低下するおそれがあり好ましくない。
また、これら可塑剤成分を合わせた使用量は、粉粒状アクリル系樹脂100重量部に対し、好ましくは10〜200重量部、更に好ましくは30〜150重量部であり、10重量部未満では実質的にゾルを得ることができず、200重量部より多く用いた場合には成形品の物性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0022】
本発明のプラスチゾル組成物には、本発明に係る前記可塑剤以外の可塑剤を併用してもよい。併用できる可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、リン酸エステル、セバシン酸エステル、エポキシ化エステル、ポリエステル等の可塑剤が挙げられる。また、本発明のプラスチゾル組成物には、必要に応じて、充填剤、顔料、接着剤、その他の添加剤及び成形、加工上必要あれば、粘度調整剤としてアクリル樹脂を溶解しない有機溶剤、界面活性剤等を配合することができる。
【0023】
本発明のプラスチゾル組成物の調製方法は、可塑剤成分を粉粒状アクリル系樹脂に配合した後、らいかい機等の混合機を用いて均一に混合すればよい。
【0024】
本発明のプラスチゾル組成物の用途に関して特に限定するものではないが、各種成形品、被覆剤等として用いることができる。
【0025】
該成形品としては、例えば、工業部品、電気絶縁部品、玩具・雑貨、自動車内装材等が挙げられる。また、その際の成形品の成形方法は、加熱可能な型(金型)にディップ成形、注型、回転成形、スラッシュ成形方法等により、成形・溶融して製造される。
【0026】
該被覆剤の基材としては、例えば、金属材料、紙・木質材料、繊維・プラスチック材料、FRP材料、ゴム材料、無機質材料等が挙げられる。また、その際の被覆方法は、例えば、スプレッドコーティング、スプレー塗布法、スクリーン法、ディッピング法等を用いて基材に付着させて加熱雰囲気下(好ましくは150〜200℃)で、溶融・乾燥される。
【0027】
本発明のプラスチゾル組成物は、粘度安定性が優れ、成形加工が容易にでき、可塑剤とアクリル樹脂の相溶性が優れ、加熱溶融した後でも可塑剤のブリード等のないアクリル樹脂系プラスチゾル組成物である。
【0028】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示して本発明のプラスチゾル組成物を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1−1〜1−10及び比較例1−1〜1−4
分子量が100万であって平均粒径が1μmである粉粒状ポリメチルメタクリレート樹脂100重量部に対して、表1及び表2に示す組成(配合量;重量部)の可塑剤成分を添加し、室温でらいかい機で15分間混練した後、500mlビーカーに移し替え、減圧下で混入している空気を脱泡除去してアクリル樹脂系プラスチゾル組成物を調製した。
【0030】
得られたアクリル樹脂系プラスチゾル組成物について、性能評価を行うために初期粘度測定、粘度安定性試験、低温性試験及び相溶性試験を行った。それらの結果を表1及び表2に示す。試験方法は以下の通りである。
【0031】
粘度測定:(イ)初期粘度:プラスチゾル組成物調製後、2時間、26℃恒温室に放置後、BH型粘度計で、回転数6rpmにおける粘度(V6)を測定した。単位はポイズで表わした。
【0032】
(ロ)粘度安定性試験:初期粘度を測定したプラスチゾル組成物を26℃恒温室に放置し、3日及び7日放置後の粘度を上記(イ)と同様にして測定し、初期粘度に対する3日放置後及び7日放置後の粘度の粘度上昇率(経時後の粘度を初期粘度で除した数値で、それぞれAI−3及びAI−7と記す)を求めた。
【0033】
低温性試験:プラスチゾル組成物をガラス板上に1mmの厚さに流延し、180℃×10分の条件で溶融ゲル化してシートをガラス板よりとりはずし、JISK6745に従って柔軟温度(Tfと記す)を測定した。
【0034】
相溶性試験:前記と同様にシートを作成し、26℃、65%RHの恒温恒湿室に放置し、15日後に、シートの表面への可塑剤のブリードの程度を目視判定によって評価した。
【0035】
(相溶性の評価基準)
○:ブリードなし
△:わずかにブリードが見られる。
×:激しくブリードする。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
実施例より明らかなように、(イ)成分の脂肪酸エーテルエステル系可塑剤を単独で使用した場合(比較例1-3,1-4 )には粘度安定性が著しく劣るものであり、(ロ)成分のグリコール安息香酸ジエステル系可塑剤を単独で用いた場合(比較例1-1,1-2 )には粘度安定性に優れたプラスチゾルを提供することができるが、加熱溶融した後の成形品の低温特性が著しく劣るものしか得られない。
【0039】
これに対し、本発明に係る(イ)成分と(ロ)成分とを組み合せてなる可塑剤成分を使用することで、粘度安定性に優れたプラスチゾルを提供き、さらに加熱溶融した後の成形品の低温特性にも優れたものとなる(実施例1-1 〜1-10)。
【0040】
【発明の効果】
本発明のプラスチゾル組成物は、粘度安定性に優れ、加熱溶融後の相溶性、低温特性に優れたものである。
Claims (3)
- 上記(イ)成分の脂肪族エーテルエステル系可塑剤の平均分子量が500〜1000であることを特徴とする請求項1記載のプラスチゾル組成物。
- 上記一般式(I)で表される脂肪族エーテルエステル系可塑剤が、ポリエチレングリコールジブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジイソブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジ(2−エチルブチル酸)エステル、ポリエチレングリコールジ(2−エチルヘキシル酸)エステル、ポリエチレングリコールジデカン酸エステル、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチル酸)エステル、又はポリエチレングリコールジイソオクチル酸エステルであり、上記一般式( II )で表される脂肪族エーテルエステル系可塑剤が、アジピン酸ジブトキシエタノール、アジピン酸ジ(ブチルジグリコール)、アジピン酸ジ(ブチルポリグリコール)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシロキシエタノール)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシルジグリコール)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシルポリグリコール)、アジピン酸ジオクトキシエタノール、アジピン酸ジ(オクチルジグリコール)、アジピン酸ジ(オクチルポリグリコール)、又はアジピン酸ジ(ブチルトリグリコール)であり、上記一般式 (III) で表されるグリコール安息香酸ジエステル系可塑剤が、エチレングリコールジ安息香酸エステル、ジエチレングリコールジ安息香酸エステル、トリエチレングリコールジ安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル、プロピレングリコールジ安息香酸エステル、ジプロピレングリコールジ安息香酸エステル、トリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、1.3−ブタンジオールジ安息香酸エステル、1.4−ブタンジオールジ安息香酸エステル、1.6−ヘキサンジオールジ安息香酸エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ安息香酸エステル、又は1.8−オクタンジオールジ安息香酸エステルである請求項1又は2記載のプラスチゾル組成物。
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